説明

改変型の小さい干渉RNA分子および使用方法

【課題】患者において肝炎を引き起こすウイルスを不活化するための方法の提供。
【解決手段】(a)当該ウイルスを不活化するのに有効な量の改変型二本鎖RNA・(dsRNA)または改変型短鎖干渉RNA・(siRNA)を当該患者に投与する工程;および(b)コレステロール低下薬を当該患者に投与する工程;を包含する方法。該コレステロール低下薬としては、スタチン、レジン、ニコチン酸、ゲムフィブロジル、またはクロフィブレートであることが好ましい。該dsRNAまたはsiRNAは、コレステロールに連結されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、核酸検出分野およびRNAサイレンシング現象(すなわち、RNA干渉(RNAi))分野に関する。RNAサイレンシングは、非コードRNA分子が生物内の特定の遺伝子抑制を媒介する現象から構成される。事実上、この現象は、トランスポゾン、導入遺伝子、およびウイルス遺伝子などの外来の侵入核酸から生物のゲノムを保護する。
【背景技術】
【0002】
二本鎖RNA(dsRNA)の細胞への移入により、RNAサイレンシングが誘発され、次いで、dsRNAに対応する内因性mRNAが分解される。RNAサイレンシング経路は、相同mRNA標的にリボヌクレアーゼを指向するdsRNAの短鎖干渉RNA(siRNA)への変換を含む(Baulcombe et al,2001)。ダイサー(dicer)と呼ばれる酵素は、dsRNAを20〜25ヌクレオチド長のsiRNAにプロセシングする。次いで、siRNAは、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)としても公知のエンドリボヌクレアーゼ含有複合体にアセンブリする。その後、siRNAは、RISCを相補RNA分子に誘導し、そこでRISCは標的mRNAを切断および破壊する。RNAサイレンシングの増幅成分により、少量のdsRNAで大量の標的mRNAをサイレンシングし得る(Fire et al,Nature,391:806−811(1998))。
【0003】
dsRNAがRNAiによって遺伝子を有効にサイレンシングするという最初の証拠は、線虫(エレガント線虫)に関する研究に由来する(Fire et al,Nature,391:806−811(1998)および米国特許第6,506,559号)。ショウジョウバエ(キイロショウジョウバエ)におけるその後の研究により、RNAiが多段階機構であることが証明された(Elbashir et al,Genes Dev.,15(2):188−200(2001))。
【0004】
dsRNAが哺乳動物細胞において遺伝子特異的干渉を媒介し得るにもかかわらず(Wianny,F.and Zernicka−Goetz,M.,Nature Cell Biol.2:70−75(2000);Svoboda,P.et al,Development 17:4147−4156(2000))、哺乳動物体細胞におけるRNAiの使用は、しばしば、dsRNA依存性プロテインキナーゼ(PKR)の誘発を制限し、それにより、翻訳因子eIF2aが不活化され、タンパク質合成全体が抑制され、しばしばアポトーシスを引き起こす(Gil,J.and Esteban,M.,Apoptosis 5:107−114(2000))。
【0005】
最近、ターゲティングされたRNA配列またはDNA配列に対応する約21または22塩基対長のsiRNAは、哺乳動物細胞中のターゲティングされた配列の発現を破壊することが示された(Elbashir,S.M.,et al,Nature 411:494−498(2001))。しかし、哺乳動物細胞ゲノムのすべてのRNA配列またはDNA配列がsiRNAに感受性を示すかは明らかではない。あらゆる哺乳動物細胞型がsiRNAを使用した遺伝子特異的抑制に必要な機構を有するかどかも不明である。さらに、siRNAは、以下の少なくとも2つの理由によってその使用が制限される:(a)siRNAが投与された細胞で認められる抑制効果が一過性であること、および(b)その使用前にsiRNAを化学合成する必要があること(Tuschl,T.,Nature Biotech.,20:446−448(2002))。また、siRNAはインビボで不安定であるので、その長期有効性が制限される。
【0006】
これらの難問に取り組む発明により、核酸活性レベルでのヒト疾患の治療のためのRNAiの有用性が改善される。特に、このような発明により、RNAiがHCV感染などのウイルス感染のためのより実用的な治療法になる。このようなウイルス感染のための現在の治療法は非常に制限されており、反応率(response rates)が低い傾向がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
第1の実施形態では、本発明は、dsRNA中の1つ以上のピリミジンが2’フッ素を含むように改変された標的細胞中でRNA干渉を媒介する二本鎖(dsRNA)分子を提供する。
【0008】
第2の実施形態では、本発明は、siRNA中の1つ以上のピリミジンが2’フッ素を含むように改変された標的細胞中でRNA干渉を媒介する短鎖干渉RNA(siRNA)を提供する。
【0009】
第3の実施形態では、第1および第2の実施形態のdsRNA分子またはsiRNA分子中のピリミジンすべては、2’フッ素を含むように改変されている。
【0010】
第4の実施形態では、第3の実施形態の2’フッ素dsRNAまたはsiRNAは、dsRNAまたはsiRNAの3’末端に2塩基デオキシヌクレオチド「TT」配列を含むようにさらに改変されている。
【0011】
第5の実施形態では、第3の実施形態の2’フッ素dsRNAまたはsiRNAは、感染細胞中のウイルス複製を阻害する。
【0012】
第6の実施形態では、第5の実施形態の2’フッ素dsRNAまたはsiRNAは、C型肝炎ウイルス(HCV)核酸に対応し、肝細胞中のHCV複製を阻害する。
【0013】
第7の実施形態では、ウイルスを不活化するのに有効な量の2’フッ素dsRNAまたはsiRNAを患者に投与する工程を含む、患者のウイルスを不活化する方法を提供する。
【0014】
第8の実施形態では、患者のウイルスを不活化する方法であって、ウイルスを不活化するのに有効な量の2’フッ素dsRNAまたはsiRNAを患者に投与する工程と、dsRNAまたはsiRNA中のピリミジンすべてが2’フッ素を含むように改変されていることとを含む、方法を提供する。
【0015】
第9の実施形態では、患者のウイルスを不活化する方法であって、ウイルスを不活化するのに有効な量の2’フッ素dsRNAまたはsiRNAを患者に投与する工程と、2’フッ素dsRNAまたはsiRNAがdsRNAまたはsiRNAの3’末端に2塩基デオキシヌクレオチド「TT」配列を含むように改変されていることとを含む、方法を提供する。
【0016】
第10の実施形態では、患者のウイルスを不活化する方法であって、ウイルスを不活化するのに有効な量の2’フッ素dsRNAまたはsiRNAを患者に投与する工程と、ウイルスが、C型肝炎ウイルス(HCV)、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、D型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、エボラウイルス、インフルエンザウイルス、ロタウイルス、レオウイルス、レトロウイルス、ポリオウイルス、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)、メタニューモウイルス、およびコロナウイルスからなる群より選択される、方法を提供する。
【0017】
第11の実施形態では、患者のウイルスを不活化する方法であって、ウイルスを不活化するのに有効な量の2’フッ素dsRNAまたはsiRNAを患者に投与する工程と、ウイルスが、HCVである、方法を提供する。
【0018】
第12の実施形態では、siRNAを調製する方法であって、
(a)siRNAを設計するためにHCVゲノム中の標的ヌクレオチド配列を同定する工程、および
(b)2’フッ素を含むように改変されたsiRNA中に少なくとも1つのピリミジンを含むsiRNAを生成する工程、
を包含する、方法を提供する。
【0019】
第13の実施形態では、siRNAを調製する方法であって、
(a)siRNAを設計するためにHCVゲノム中の標的ヌクレオチド配列を同定する工程、および
(b)siRNA中のピリミジンすべてが2’フッ素を含むように改変されているsiRNAを生成する工程、
を包含する、方法を提供する。
【0020】
第14の実施形態では、siRNAを調製する方法であって、
(a)siRNAを設計するためにHCVゲノム中の標的ヌクレオチド配列を同定する工程、および
(b)siRNA中のピリミジンすべてが2’フッ素を含むように改変され、かつ2’フッ素siRNAが、dsRNAまたはsiRNAの3’末端に2塩基デオキシヌクレオチド「TT」配列を含むようにさらに改変されているsiRNAを生成する工程、
を包含する、方法を提供する。
【0021】
第15の実施形態では、第14の実施形態中の標的ヌクレオチド配列が、5’非翻訳領域(5’−UTR)、3’非翻訳領域(3’−UTR)、コア、およびNS3ヘリカーゼからなる群より選択される。
【0022】
第16の実施形態では、HCVの複製を阻害する約10個〜約30個のヌクレオチドのdsRNA分子であって、dsRNAが2’フッ素を含むように改変されたsiRNA中に少なくとも1つのピリミジンを含む、dsRNA分子を提供する。
【0023】
第17の実施形態では、HCVの複製を阻害する約10個〜約30個のヌクレオチドのdsRNA分子であって、dsRNA中のピリミジンすべてが2’フッ素を含むように改変されている、dsRNA分子を提供する。
【0024】
第18の実施形態では、HCVの複製を阻害する約10個〜約30個のヌクレオチドのdsRNA分子であって、dsRNA中のピリミジンすべてが2’フッ素を含むように改変され、かつ2’フッ素dsRNAが、dsRNAの3’末端に2塩基デオキシヌクレオチド「TT」配列を含むようにさらに改変されている、dsRNA分子を提供する。
【0025】
第19の実施形態では、肝細胞中のHCVに対してターゲティングされたRNA干渉を誘導する方法であって、第16の実施形態のdsRNA分子を肝細胞に投与する工程と、dsRNA分子のヌクレオチド配列がHCVヌクレオチド配列に対応することとを含む、方法を提供する。
【0026】
第20の実施形態では、第16の実施形態のdsRNA分子をコードするDNAセグメントを含むベクターを提供する。
【0027】
第21の実施形態では、第16の実施形態のdsRNA分子をコードするDNAセグメントを含むベクターであって、二本鎖RNA分子のセンス鎖が第1のプロモーターと作動可能に連結しており、二本鎖RNA分子のアンチセンス鎖が第2のプロモーターと作動可能に連結されている、ベクターを提供する。
【0028】
第22の実施形態では、第20の実施形態のベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0029】
第23の実施形態では、治療目的(動物内でのウイルスの不活化が含まれる)で動物の肝臓細胞にsiRNAを送達させる方法を提供する。この方法は、レセプター結合リガンドとしてコレステロールをさらに含むように改変されたdsRNAまたはsiRNA(コレステロール−siRNA)の投与と組み合わせて動物にコレステロール低下薬を投与する工程を含む。コレステロール低下薬を、コレステロール標識siRNAの投与前、同時、または投与後に投与し得る。1つの好ましい実施形態では、コレステロール低下薬はスタチンである。
・本発明はさらに、以下を提供し得る:
・(項目1)
患者において肝炎を引き起こすウイルスを不活化するための方法であって、
(a)当該ウイルスを不活化するのに有効な量の改変型二本鎖RNA・(dsRNA)または改変型短鎖干渉RNA・(siRNA)を当該患者に投与する工程;および
(b)コレステロール低下薬を当該患者に投与する工程;
を包含する、方法。
・(項目2)
上記ウイルスが、C型肝炎ウイルス・(HCV)、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、D型肝炎ウイルス、またはE型肝炎ウイルスである、項目1に記載の方法。
・(項目3)
上記ウイルスがHCVである、項目1に記載の方法。
・(項目4)
上記コレステロール低下薬が、スタチン、レジン、ニコチン酸、ゲムフィブロジル、またはクロフィブレートである、項目1に記載の方法。
・(項目5)
上記コレステロール低下薬がスタチンである、項目1に記載の方法。
・(項目6)
上記改変型dsRNAまたは改変型siRNAが2’改変されている、項目1に記載の方法。
・(項目7)
上記改変が、フルオロ改変、メチル改変、メトキシエチル改変、およびプロピル改変からなる群より選択される、項目1に記載の方法。
・(項目8)
上記フルオロ改変が2’−フルオロ改変または2’,2’−フルオロ改変である、項目7に記載の方法。
・(項目9)
上記dsRNAまたはsiRNAの少なくとも1つのピリミジンが改変されており、当該ピリミジンは、シトシン、シトシンの誘導体、ウラシル、またはウラシルの誘導体である、項目8に記載の方法。
・(項目10)
上記dsRNAまたはsiRNA中のピリミジンすべてが改変されている、項目9に記載の方法。
・(項目11)
上記dsRNAまたはsiRNAが、その3’末端に2塩基デオキシヌクレオチド「TT」配列を含む、項目1に記載の方法。
・(項目12)
上記dsRNAまたはsiRNAがコレステロールに連結されている、項目1に記載の方法。
・(項目13)
上記siRNAが、
(a)短鎖干渉RNA・(siRNA)を設計するためにウイルスゲノム中の標的ヌクレオチド配列を同定する工程、および
(b)少なくとも1つの改変型ヌクレオチドを含むように改変されたsiRNAを生成する工程、
によって調製される、項目1に記載の方法。
・(項目14)
上記siRNAが、
(a)短鎖干渉RNA・(siRNA)を設計するためにHCVゲノム中の標的ヌクレオチド配列を同定する工程、および
(b)少なくとも1つの改変型ヌクレオチドを含むように改変されたsiRNAを生成する工程、
によって調製される、項目3に記載の方法。
・(項目15)
上記標的ヌクレオチド配列が、5’非翻訳領域・(5’−UTR)、3’非翻訳領域・(3’−UTR)、コア、およびNS3ヘリカーゼからなる群より選択される、項目14に記載の方法。
・(項目16)
上記siRNAが、siRNA5、siRNAC1、siRNAC2、siRNA5B1、siRNA5B2、またはsiRNA5B4である、項目15に記載の方法。
・(項目17)
上記siRNAが、約10個〜約30個のリボヌクレオチドからなる、項目1に記載の方法。
・(項目18)
上記siRNAが、約19個〜約23個のリボヌクレオチドからなる、項目17に記載の方法。
・(項目19)
上記改変型siRNAが2’改変型siRNAである、項目18に記載の方法。
・(項目20)
上記改変が、フルオロ改変、メチル改変、メトキシエチル改変、およびプロピル改変からなる群より選択される、項目19に記載の方法。
・(項目21)
上記フルオロ改変が、2’−フルオロ改変または2’,2’−フルオロ改変である、項目20に記載の方法。
・(項目22)
上記siRNAの少なくとも1つのピリミジンが改変されており、当該ピリミジンは、シトシン、シトシンの誘導体、ウラシル、またはウラシルの誘導体である、項目21に記載の方法。
・(項目23)
上記siRNA中のピリミジンすべてが改変されている、項目22に記載の方法。
・(項目24)
上記siRNAが、その3’末端に2塩基デオキシヌクレオチド「TT」配列を含む、項目18に記載の方法。
・(項目25)
上記siRNAの両方の鎖が、少なくとも1つの改変型ヌクレオチドを含む、項目18に記載の方法。
・(項目26)
改変型リボヌクレオチドを含むsiRNA分子であって、当該siRNAは、
(a)その3’末端に2塩基デオキシヌクレオチド「TT」配列を含み、
(b)RNアーゼに対して耐性であり、
(c)ウイルス複製を阻害し得る、
siRNA分子。
・(項目27)
上記siRNA分子が2’改変されている、項目26に記載のsiRNA分子。
・(項目28)
上記2’改変が、フルオロ改変、メチル改変、メトキシエチル改変、およびプロピル改変からなる群より選択される、項目27に記載のsiRNA分子。
・(項目29)
上記フルオロ改変が、2’−フルオロ改変または2’,2’−フルオロ改変である、項目28に記載のsiRNA分子。
・(項目30)
上記siRNAの少なくとも1つのピリミジンが改変されており、当該ピリミジンは、シトシン、シトシンの誘導体、ウラシル、またはウラシルの誘導体である、項目29に記載のsiRNA分子。
・(項目31)
上記siRNA中のピリミジンすべてが改変されている、項目30に記載のsiRNA分子。
・(項目32)
上記siRNAの両方の鎖が、少なくとも1つの改変型ヌクレオチドを含む、項目26に記載のsiRNA分子。
・(項目33)
上記siRNAが、約10個〜約30個のリボヌクレオチドからなる、項目26に記載のsiRNA分子。
・(項目34)
上記siRNAが、約19個〜約23個のリボヌクレオチドからなる、項目33に記載のsiRNA分子。
・(項目35)
HCVの複製を阻害する、項目26に記載のsiRNA分子。
・(項目36)
siRNA5、siRNAC1、siRNAC2、siRNA5B1、siRNA5B2、またはsiRNA5B4のヌクレオチド配列と少なくとも80%同一であるヌクレオチド配列を含む、項目35に記載のsiRNA分子。
・(項目37)
少なくとも1つのレセプター結合リガンドに連結されている、項目35に記載のsiRNA分子。
・(項目38)
上記レセプター結合リガンドが、上記siRNA分子の5’末端または3’末端に結合されている、項目37に記載のsiRNA分子。
・(項目39)
上記レセプター結合リガンドが上記siRNA分子の複数の末端に結合されている、項目38に記載のsiRNA分子。
・(項目40)
上記レセプター結合リガンドが、コレステロール、HBV表面抗原、および低密度リポタンパク質からなる群より選択される、項目37に記載のsiRNA分子。
・(項目41)
上記レセプター結合リガンドがコレステロールである、項目40に記載のsiRNA分子。
・(項目42)
少なくとも1つのリボヌクレオチドの2’位改変をさらに含み、当該少なくとも1つのリボヌクレオチドの2’位改変によって上記siRNAが分解に対して耐性になる、項目37に記載のsiRNA分子。
・(項目43)
上記少なくとも1つのリボヌクレオチドの2’位改変が、2’−フルオロ改変または2’,2’−フルオロ改変である、項目42に記載のsiRNA分子。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、HCVゲノム由来の5’UTRの配列および二次構造を示す。肝細胞中のHCVに対してRNAiを誘導するためのsiRNAの特異的配列も提供する。
【図2】図2は、肝細胞中のHCVに対するRNAiの誘導に有用ないくつかのHCV特異的siRNAの配列を提供する。各HCV特異的siRNAを、第1のカラム中に示す記号表示によって特定する。
【図3A】図3Aは、SARSコロナウイルスのヌクレオチド配列を示す。
【図3B】図3Bは、SARSコロナウイルスのヌクレオチド配列を示す。
【図3C】図3Cは、SARSコロナウイルスのヌクレオチド配列を示す。
【図3D】図3Dは、SARSコロナウイルスのヌクレオチド配列を示す。
【図3E】図3Eは、SARSコロナウイルスのヌクレオチド配列を示す。
【図3F】図3Fは、SARSコロナウイルスのヌクレオチド配列を示す。
【図3G】図3Gは、SARSコロナウイルスのヌクレオチド配列を示す。
【図3H】図3Hは、SARSコロナウイルスのヌクレオチド配列を示す。
【図3I】図3Iは、SARSコロナウイルスのヌクレオチド配列を示す。
【図4】図4は、SARSコロナウイルスのオープンリーディングフレームの略図である。
【図5】図5は、ヒト肝臓細胞中でのsiRNAの有効性を試験するために使用した肝細胞癌細胞株Huh7中に含まれるサブゲノムHCVレプリコンを示す。
【図6】種々の濃度のsiRNA5を投与したサブゲノムHCVレプリコンを含むHuh−7細胞(5−2株)中での正規化ルシフェラーゼ活性の用量応答を示す。トランスフェクションから1、2、および3日後に測定したルシフェラーゼ活性は、siRNA用量の増加に伴って減少した。Promega Corp.(Madison,WI)から市販されているルシフェラーゼアッセイシステムを製造者の説明書にしたがって使用してルシフェラーゼアッセイを行った。
【図7】図7は、Huh−7肝臓細胞中でHCV指向性(directed)RNAを誘導するためのsiRNA5の配列特異性示す。
【図8】図8は、siRNA5がHuh−7細胞に毒性を示さないことを証明する。Promega Corp.(Madison,WI)から市販されているATPアーゼアッセイキットを製造者の説明書にしたがって使用してATPアーゼレベルをアッセイした。
【図9】図9は、RNAアッセイによって測定した、21−5細胞(全長HCVを含むHuh−7細胞)中でのHCV複製に対するsiRNA5の効果を示す。TaqMan(商標)RNAキット(F.Hoffman La−Roche,Switzerland)を製造者の説明書にしたがって使用してRNAレベルをアッセイした。値を正規化する。
【図10】図10は、siRNA5がHuh5−2細胞の生存度に影響を与えないことを証明する。詳細には、siRNA5またはGAPDH特異的siRNAでトランスフェクトしたHuh5−2細胞中のGAPDH(解糖に不可欠な酵素)をコードするmRNAを測定した。グラフは、siRNAがGAPDHのRNAレベルに影響を与えなかったことを証明する。TaqMan(商標)RNAキット(F.Hoffman La−Roche,Switzerland)を製造者の説明書にしたがって使用してGAPDHを測定した。値を正規化する。
【図11】図11は、ショウジョウバエルシフェラーゼ遺伝子をターゲティングする異なる濃度の2’−フルオロ−siRNA(2’−F−GL2)を投与したサブゲノムHCVレプリコンを含むHuh7細胞(5−2株)中での正規化ルシフェラーゼ活性の用量応答を示す。トランスフェクションから2日後に測定したルシフェラーゼ活性は、siRNA用量の増加に伴って減少した。ホタルルシフェラーゼキット(Promega Corp.,Madison,WI)を製造者の説明書にしたがって使用してルシフェラーゼアッセイを行った。
【図12】図12は、リポソームの非存在下でsiRNA Chol−GL2を使用した5−2細胞中でのルシフェラーゼ活性の阻害を証明する。
【図13】図13は、PAGEによって分離した5’標識siRNA二重鎖のオートラジオグラフを示し、10日目までのヒト血清中でインキュベートした2’−フルオロ改変型siRNA(2’−F−GL2)の安定性を示す。siRNA二重鎖を、ヒト血清とのインキュベーションおよび20%PAGEによる分析に供した。レーンの組成は以下である:レーン1、11、および21:32P末端標識siRNAのみ;レーン2〜10、12〜20、および22〜25:ヒト血清とインキュベートしたsiRNA。レーン2および12、1分;レーン3および13、5分;レーン4および14、15分;レーン5および15、30分;レーン6および16、1時間;レーン7および17、2時間;レーン8および18、4時間;レーン9および19、8時間;レーン10および20、24時間;レーン22、24時間;レーン23、48時間;レーン24、120時間;レーン25、240時間のインキュベーション。
【図14】図14は、フッ素化dsRNAを2’F−siRNAに変換するための組換えヒトダイサーの使用を証明する。レーンの組成は以下である:レーン1:サイズマーカー、λ\HindIII+φX174\HaeIII;レーン2:ribo/riboホモ二重鎖RNA;レーン3:ribo/2’−Fヘテロ二重鎖RNA;レーン4:2’−F/riboヘテロ二重鎖RNA;レーン6:サイズマーカー、10bp DNAラダー;レーン7:ribo/riboホモ二重鎖siRNA;レーン8:ribo/2’−Fヘテロ二重鎖siRNA;レーン9:2’−F/riboヘテロ二重鎖siRNA;レーン10:2’−F/2’−Fホモ二重鎖siRNA。
【図15】図15は、HCV特異的siRNAに対するサブゲノムHCVレプリコンを含むHuh−7細胞(5−2株)中での正規化ルシフェラーゼ活性の用量応答を示す。ルシフェラーゼ活性は、各siRNA用量の増加に伴って減少した。
【図16】図16は、コレステロールがコレステロール改変型GL2siRNAに対するサブゲノムHCVレプリコンを含むHuh−7細胞(5−2株)中での正規化ルシフェラーゼ活性の用量応答を示すことを示す。
【図17】図17は、全ピリミジンの2−フルオロピリミジン置換(2−F−siRNA)および全ピリミジンの2−フルオロピリミジン置換を含み、2−F−siRNA中に存在するリボヌクレオチド「UU」突出部に代わる分子の3’末端に添加した2塩基デオキシリボヌクレオチド「TT」配列も含むように改変されたsiRNAで認められた安定性の増加を証明する。
【図18】図18は、2’−糖内のフッ素化によってsiRNA安定性を劇的に増加させることができることを示す。
【図19】図19は、インビボでのsiRNAの評価を示す。
【図20】図20は、低圧IV注射によって結合体化2’−F−siRNAがキメラマウスで有効であることを示す。
【図21】図21は、皮下投与した結合体化2’−F−siRNAがキメラマウスで部分的に有効であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(発明の詳細な説明)
本発明は、約10〜約30ヌクレオチド長であり、かつ標的細胞中でのRNA干渉を媒介するdsRNA分子を提供する。好ましくは、本発明の分子は、ヌクレアーゼ分解に対する安定性が増加するが、標的核酸への結合能力が保持されるように化学改変されている。
本明細書中で使用される、「RNA干渉」(RNAi)は、タンパク質合成全体を抑制することなくsiRNAによって媒介される遺伝子発現(タンパク質合成)の配列特異的抑制または遺伝子特異的抑制をいう。本発明は特定の理論または作用様式に制限されないが、RNAiはRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)による伝令RNA(mRNA)の分解、それによる転写mRNAの翻訳の防止に関与し得る。あるいは、遺伝子転写を切り替えるゲノムDNAのメチル化に関与し得る。RNAiによる遺伝子発現の抑制は、一過性であり得るか、より安定であり得るか、不変であり得る。
【0032】
「遺伝子抑制」、「ターゲティングされた抑制」、「配列特異的抑制」、「ターゲティングされたRNAi」、および「配列特異的RNAi」を、本明細書中で交換可能に使用する。さらに、本明細書中で使用される、「配列特異的抑制」を、siRNAを含む細胞(実験細胞)および同一のsiRNAを含まない細胞(コントロール細胞)の抑制についてターゲティングしたタンパク質レベルを個別にアッセイし、その後に2つの値を比較することによって決定する。実験細胞およびコントロール細胞は、同一起源および同一動物に由来すべきである。また、遺伝子抑制のレベルまたは量の決定で使用されるコントロール細胞および実験細胞を、同一でない場合、類似の条件下でアッセイすべきである。
【0033】
RNAは、それぞれがリン酸基および窒素塩基(典型的には、アデニン、グアニン、シトシン、またはウラシル)と組み合わせた糖リボースを含むリポヌクレオチドのポリマーである。その同類(cousin)のように、DNA、RNAは相補水素結合を形成し得る。したがって、RNAは、二本鎖(dsRNA)、一般鎖(ssRNA)、または一本鎖突出部を有する二本鎖であり得る。一般的なRNA型には、伝令RNA(mRNA)、転移RNA(tRNA)、リボゾームRNA(rRNA)、短い干渉RNA(siRNA)、ミクロRNA(miRNA)、および小さなヘアピンRNA(shRNA)(それぞれが生体細胞中で特定の役割を果たす)が含まれる。本明細書中で使用される、用語「RNA」には、これらすべてが含まれる。
【0034】
「短鎖干渉RNA」(siRNA)は、タンパク質発現を特異的干渉するその能力にちなんで名付けられた約10ヌクレオチド長〜約30ヌクレオチド長の二本鎖RNA分子をいう。好ましくは、siRNA分子は、12ヌクレオチド長〜28ヌクレオチド長、より好ましくは15ヌクレオチド長〜25ヌクレオチド長、さらにより好ましくは19ヌクレオチド長〜23ヌクレオチド長、最も好ましくは21ヌクレオチド長〜23ヌクレオチド長である。したがって、好ましいsiRNA分子は、12ヌクレオチド長、13ヌクレオチド長、14ヌクレオチド長、15ヌクレオチド長、16ヌクレオチド長、17ヌクレオチド長、18ヌクレオチド長、19ヌクレオチド長、20ヌクレオチド長、21ヌクレオチド長、22ヌクレオチド長、23ヌクレオチド長、24ヌクレオチド長、25ヌクレオチド長、26ヌクレオチド長、27ヌクレオチド長、28ヌクレオチド長、または29ヌクレオチド長である。
【0035】
1つの鎖の長さは、siRNA分子の長さを指定する。例えば、21リボヌクレオチド長(21量体)と記載されたsiRNAは、RNAの2つの逆鎖を含むことができ、これらは互いにアニーリングして19の連続する塩基対を形成する。各鎖上の2つの保持されたリボヌクレオチドが「突出部」を形成するであろう。siRNAが異なる長さの2つの鎖を含む場合、長い方の鎖がsiRNAの長さと指定する。例えば、21ヌクレオチド長の第1の鎖および20ヌクレオチド長の第2の鎖を含むdsRNAは、21量体から構成される。
【0036】
1つの突出部を含むsiRNAが望ましい。突出部は、鎖の5’末端または3’末端であり得る。好ましくは、RNA鎖の3’末端である。突出部の長さは変化し得るが、好ましくは、約1〜約5塩基、より好ましくは、約2ヌクレオチド長である。好ましくは、本発明のsiRNAは、約2〜4塩基の3’突出部を含む。より好ましくは、3’突出部は、2リボヌクレオチド長である。さらにより好ましくは、3’突出部を含む2つのヌクレオチドはウリジン(U)である。
【0037】
本発明のsiRNAは、標的リボヌクレオチドと相互作用するように設計されており、このことは、これらが標的配列に結合するのに十分に標的配列と相補的であることを意味する。好ましくは、標的リボヌクレオチド配列は、病原因子または病原体に由来する。より好ましくは、標的リボヌクレオチド配列は、RNAウイルスまたはDNAウイルスのウイルスゲノムである。さらにより好ましくは、ウイルスは、C型肝炎ウイルス(HCV)、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、D型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、エボラウイルス、インフルエンザウイルス、ロタウイルス、レオウイルス、レトロウイルス、ポリオウイルス、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)、メタニューモウイルス、およびコロナウイルスからなる群より選択される。
【0038】
C型肝炎ウイルス(HCV)は、非常に好ましいウイルス標的である。図1および図2は、いくつかのHCV特異的siRNA分子の核酸配列を開示する。示したこれらのうち、siRNA5、siRNAC1、siRNAC2、siRNA5B1、siRNA5B2、およびsiRNA5B4は、特に良好な活性を示したので、非常に好ましい。これらの非常に好ましいsiRNAと少なくとも80%、90%、または95%同一のsiRNAも本発明の一部を構成する。
【0039】
別の好ましいウイルス標的はコロナウイルスであり、これは、ヒトにおける上気道感染に関連し、最近では、SARS(重症急性呼吸器症候群)に関与している。コロナウイルスは、既知のRNAウイルスで最大のゲノム(32kb長)を有し、そのゲノムは、+鎖RNAから構成される(図5を参照のこと)。各コロナウイルスmRNAは、60〜80ヌクレオチドの5’リーダー配列を有し、これは、約200ヌクレオチド長のゲノムRNAの5’UTRと同一である(図6を参照のこと)。これらの配列は、高度に保存されているので、siRNAの標的配列の優れた供給源を提供する。Fundamental Virology.3rd Ed.,Chapter 18,p.541−560(Eds.Fields,Knipe and Howley),Lippincott−Raven(1995)を参照のこと。1つの実施形態では、全リーダー配列(ヌクレオチド1〜72)をターゲティングする。別の実施形態では、リーダー配列の1つ以上の切片をターゲティングする。好ましい実施形態では、リーダー配列のヌクレオチド64〜72(TAAACGAAC)をターゲティングする。コロナウイルスをターゲティングするsiRNAは、改変されていても未改変でもよい。
【0040】
1つの実施形態では、本発明は、標的因子またはウイルス由来のリボヌクレオチド配列と少なくとも80%同一のリボヌクレオチド配列を含むsiRNA分子を提供する。好ましくは、siRNA分子は、標的因子またはウイルスのリボヌクレオチド配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である。標的は、全ウイルスゲノム、一次転写物、オープンリーディングフレーム、またはこれらの任意の部分であり得る。最も好ましくは、siRNAは、標的因子またはウイルスのヌクレオチド配列と100%同一である。しかし、標的と比較して、挿入、欠失、または1つの点変異を含むsiRNA分子も有効であり得る。siRNA設計を補助するツールは、公的に容易に利用可能である。例えば、コンピュータベースのsiRNA設計ツールを、インターネットのwww.dharmacon.comから利用可能である。
【0041】
例として、基準ヌクレオチド配列と少なくとも95%「同一な」ヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチド配列が100ヌクレオチドの基準ヌクレオチド配列あたり5つまでの点変異(すなわち、20ヌクレオチドあたり1つの点変異)を含み得ることを意味する。言い換えれば、基準ヌクレオチド配列と少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを得るために、基準配列の5%までのヌクレオチドを欠失するか別のヌクレオチドと置換し得るか、基準配列の全ヌクレオチドの5%までのヌクレオチドを、基準配列に挿入し得る。これらの基準配列の変異は、基準ヌクレオチド配列の5’末端もしくは3’末端の位置またはこれらの末端の位置の間のどこかで起こり得るか、基準配列中のヌクレオチドの間または基準配列内の1つ以上の連続した群のいずれかに個別に散在し得る。
【0042】
実際に、任意の特定の核酸分子が標的因子またはウイルスのリボヌクレオチド配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一であるかどうかを、従来のように、Bestfitプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package,Version 8 for Unix(登録商標),Genetics Computer Group,Madison,WI)などの公知のコンピュータプログラムを使用して決定し得る。Bestfitは、2配列間の最良の相同性セグメントを見出すためにSmith and Watermanの局所相同性アルゴリズム(Advances in Applied Mathematics 2:482−489(1981))を使用する。特定の配列が、例えば、本発明の基準配列と95%同一であるかどうかを決定するためにBestfitまたは任意の他の配列アラインメントプログラムを使用する場合、パラメータを、勿論、基準リボヌクレオチド配列の全長にわたって同一率が計算され、基準配列中の総リボヌクレオチド数の5%までの相同性のギャップが許容されるように設定する。
【0043】
本発明はまた、ヌクレアーゼ分解に対する安定性が増加するが、細胞中に存在し得る標的核酸への結合能力が保持されるように化学改変されたsiRNA分子を含む。標的RNAがウイルス特異的である場合、改変型siRNAはウイルス特異的RNAまたはDNAに結合し、それにより、ウイルスを不活化し得る。
【0044】
本発明の改変型siRNAは、改変型リボヌクレオチドを含み、かつRNアーゼ分解などの酵素分解に耐性を示し、さらに、特定のウイルス標的RNA配列またはDNA配列を含む細胞中でのウイルス複製を阻害する能力を保持する。改変型siRNAが標的配列に結合し、かつ酵素分解に耐性を示す限り、siRNAを分子の任意の位置で改変し得る。siRNAのヌクレオチド塩基(すなわち、プリンまたはピリミジン)、リボース、またはリン酸塩を改変し得る。好ましくは、siRNA中の少なくとも1つのリボースの2’位を改変する。
【0045】
より詳細には、siRNAの少なくとも1つのピリミジン、少なくとも1つのプリン、またはこれらの組み合わせを改変する。しかし、一般に、siRNAのピリミジンすべて(シトシンまたはウラシル)、すべてのプリン(アデノシンまたはグアニン)、またはピリミジンすべてとすべてのプリンとの組み合わせを改変する。ピリミジンを改変することがより好ましく、これらのピリミジンは、シトシン、シトシンの誘導体、ウラシル、ウラシルの誘導体、またはこれらの組み合わせである。siRNAのいずれかまたは両方の鎖のリボヌクレオチドを改変し得る。
【0046】
RNA中で見出されるピリミジン(シチジンおよびウリジン)を含むリボヌクレオチドを、RNA分解または塩基、リボース、もしくはリン酸塩の破壊を阻害する任意の分子の付加によって化学改変し得る。前に示すように、リボースの2’位が改変に好ましい部位である。2’改変型siRNAは、未改変のsiRNAまたは一本鎖RNA(アンチセンスまたはリボザイムなど)より長い血清半減期を有し、分解耐性を示す。2’改変型ピリミジンリボヌクレオチドを、当該分野で公知の多数の異なる方法によって形成し得る。
【0047】
好ましい化学改変は、siRNAのリボヌクレオチドへのハライド化学基由来の分子の付加である。ハライドのうち、フッ素が好ましい分子である。フルオロ−に加えて、メチル−、メトキシエチル−、およびプロピル−などの他の化学部分を改変基として付加し得る。それにもかかわらず、最も好ましい改変は、フルオロ改変(2’−フルオロ改変または2’,2’−フルオロ改変など)である。
【0048】
したがって、本発明の好ましい実施形態では、ピリミジンリボヌクレオチドの2’炭素へのフッ素分子の付加によってsiRNAを改変する。siRNAを、完全または部分的にフッ素化し得る。例えば、シトシンリボヌクレオチドのみをフッ素化し得る。あるいは、ウラシルリボヌクレオチドのみをフッ素化し得る。好ましい実施形態では、ウラシルおよびシトシンの両方をフッ素化する。siRNAのたった1つの鎖(センスまたはアンチセンスのいずれか)をフッ素化し得る。siRNAの部分的2’フッ素化でさえ、核酸分解を防御する。重要には、2’フッ素化siRNAは細胞に有毒ではなく、このフッ素の化学的性質から得た予期せぬ結果は、通常、生きた生物に有毒である。
【0049】
さらに、本発明の改変型siRNAは、ウイルスRNAポリメラーゼを阻害する化学改変を含み得る。例えば、siRNAは、ウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼを阻害する1つ以上のヌクレオシドを含み得る。このようなヌクレオシドおよび他の化学改変の例は、WO02/057425、WO02/057287、WO02/18404、WO02/100415、WO02/32920、WO01/90121、米国特許第6,063,628号、および米国特許出願番号2002/0019363中に存在する。
【0050】
siRNAを、多数の方法(化学合成、T7ポリメラーゼ転写、または2つの以前の方法のうちの1つによって調製された長い二本鎖RNA(dsRNA)のダイサー酵素での処理など)で調製し得る。ダイサー酵素により、約500塩基対〜約1000塩基対のサイズのdsRNAから約21〜約23塩基対のdsRNAの混合集団が得られる。予想外に、ダイサーは、2’−フルオロ改変型dsRNAなどのdsRNAの改変型鎖を有効に切断し得る。この方法の開発前は、ダイサーは改変型siRNAを切断することができないであろうと考えられていた。ダイサーによるsiRNAの調製方法を、Gene Therapy Systems(San Diego,CA)から市販されているDicer siRNA Generation Kitを使用して行うことができる。
【0051】
本発明は、特に、(a)少なくとも1つの鎖中に少なくとも1つの改変型リボヌクレオチドを含む改変型二本鎖RNA(dsRNA)を調製する工程と、(b)組換えヒトダイサーを使用して改変型dsRNAフラグメントを切断し、それにより、1つを超える改変型siRNAを得る工程とを含む、ウイルス中の核酸配列をターゲティングする改変型siRNAを作製する方法を含む。本方法は、さらに、(c)改変型siRNAを単離する工程を含み得る。
【0052】
siRNAの作製方法では、dsRNAフラグメントを、化学合成またはインビボ翻訳によって調製し得る。1つの実施形態では、改変型siRNAは、siRNAの少なくとも1つのリボヌクレオチドの2’位が改変された2’改変型siRNAである。改変は、フルオロ改変、メチル改変、メトキシエチル改変、およびプロピル改変からなる群より選択される。好ましくは、フルオロ改変は、2’−フルオロ改変または2’,2’−フルオロ改変である。siRNAのピリミジン、プリン、またはこれらの組み合わせを改変する。より好ましくは、シトシン、シトシンの誘導体、ウラシル、ウラシルの誘導体、またはこれらの組み合わせなどのピリミジンを改変する。siRNAの一方または両方の鎖は、1つ以上の改変型リボヌクレオチドを含み得る。
【0053】
本発明は、さらに、ターゲティングされた因子またはウイルスを不活化するのに有効な量のdsRNAの患者への投与による、患者の標的因子またはウイルスを不活化する方法を提供する。好ましくは、dsRNAを、上記のように改変する。細胞中のターゲティングされたDNAセグメントに対するRNA干渉を、細胞への二本鎖RNA分子の投与によって行うことができ、二本鎖RNA分子のリボヌクレオチド配列は、ターゲティングされたDNAセグメントのリボヌクレオチド配列に対応する。好ましくは、ターゲティングされたRNAiを誘導するために使用されるdsRNAはsiRNAである。
【0054】
本明細書中で使用される、用語「ターゲティングされたDNAセグメント」を、抑制を望む場合にターゲティングされたタンパク質のmRNAの全部または一部をコードするDNA配列(イントロンまたはエクソンが含まれる)を意味するために使用する。DNAセグメントはまた、ターゲティングされたタンパク質の発現を正常に調節するDNA配列(ターゲティングされたタンパク質のプロモーターが含まれるが、これに限定されない)を意味し得る。さらに、DNAセグメントは、細胞ゲノムの一部であっても一部でなくてもよいか、染色体外(プラスミドDNAなど)であってよい。
【0055】
本発明は、特に、ウイルスの不活化に有効な量のsiRNA(好ましくは、改変型siRNA)の患者への投与による、患者のウイルスを不活化する方法に関する。siRNAは、約10〜約30リボヌクレオチド長、より好ましくは12〜28リボヌクレオチド長、より好ましくは15〜25リボヌクレオチド長、さらにより好ましくは19〜23リボヌクレオチド長、最も好ましくは21〜23リボヌクレオチド長である。
【0056】
また、ウイルスを不活化する方法は、好ましくは、siRNAの少なくとも1つのリボヌクレオチドの2’位を改変したsiRNAを使用する。siRNAを、フルオロ、メチル、メトキシエチル、およびプロピルからなる群より選択される化学基を使用して改変し得る。フルオロ改変が最も好ましく、2’−フルオロ改変または2’,2’−フルオロ改変のいずれかが本方法で有用である。siRNAのピリミジン、プリン、またはこれらの組み合わせを改変し得る。より好ましくは、シトシン、シトシンの誘導体、ウラシル、ウラシルの誘導体、またはこれあの組み合わせなどのピリミジンを改変する。1つの実施形態では、siRNAの一方の鎖は、少なくとも1つの改変型リボヌクレオチドを含む一方で、別の実施形態では、siRNAの両方の鎖が少なくとも1つの改変型リボヌクレオチドを含む。
【0057】
治療方法で有用なsiRNAを、少なくとも1つ、好ましくは1つを超えるレセプター結合リガンドのsiRNAへの結合によって改変することもできる。このようなリガンドは、患者の生体システム、器官、組織、または細胞(肝臓、胃腸管、気道、頸部、または皮膚など)における標的ウイルスへのsiRNAの直接送達に有用である。
【0058】
好ましい実施形態では、レセプター結合リガンドを、siRNAの5’末端または3’末端のいずれかに結合する。レセプター結合リガンドを、1つ以上のsiRNA末端(5’末端と3’末端との任意の組み合わせが含まれる)に結合し得る。したがって、レセプター結合リガンドがsiRNA分子の末端のみに結合する場合、1つと4つとの間のリガンドをどこにでも結合し得る。
【0059】
特定の生体システム、器官、組織、または細胞中のウイルスにsiRNAをターゲティングするための適切なリガンドの選択は、当業者の範囲内と見なされる。例えば、肝臓細胞にsiRNAをターゲティングするために、siRNA分子の1つ以上の末端(5’末端と3’末端との任意の組み合わせが含まれる)にコレステロールを結合し得る。得られたコレステロール−siRNAを、肝臓内の肝臓細胞に送達させ、それにより、このターゲティングされた位置へのsiRNAの送達手段が得られる。肝臓へのsiRNAのターゲティングに有用な他のリガンドには、HBV表面抗原および低密度リポタンパク質(LDL)が含まれる。
【0060】
別の例として、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV−I)をターゲティングするsiRNA分子を、標的核酸が存在するTリンパ球に送達し得る(Song,E.et al,J.of Virology,77(13):7174−7181(2003))。siRNA分子の3’末端または5’末端でのT細胞上に存在するCD4表面タンパク質に結合し得るHIV−1表面抗原の結合によってこの送達を行うことができる(Kilby,M.et al,New England J.of Medicine,348(22):2228−38(2003))。
【0061】
同様に、インフルエンザA型ウイルスをターゲティングするsiRNA分子を、標的核酸が存在する気道上皮細胞に送達させることができる(Ge,Q.et al,Proc.Natl.Acad,of Sciences,100(5):2718−2723(2002))。siRNA分子の3’末端または5’末端での上皮細胞表面上に存在するシアル酸残基に結合し得るインフルエンザウイルス表面抗原の結合によってこの送達を行うことができる(Ohuchi,M.,et al,J.of Virology,76(24):12405−12413(2002);Glick,G.et al,J.of Biol.Chem.,266(35):23660−23669(1991))。
【0062】
また、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)をターゲティングするsiRNA分子を、標的核酸が存在する気道上皮細胞に送達させることができる(Bitko,V.et al,BMC Microbiology,1:34(2001))。siRNA分子の3’末端または5’末端でのRSV表面抗原の結合によってこの送達を行うことができる(Malhotra,R.et al,Microbes and Infection,5:123−133(2003))。
【0063】
さらに別の例として、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)をターゲティングするsiRNA分子を、標的核酸が存在する上皮基底細胞に送達させることができる(Hall,A.et al.,J.of Virology,77(10):6066−6069(2003))。siRNA分子の3’末端または5’末端での上皮基底細胞の表面上に存在するヘパリン表面プロテオグリカンに結合し得るHPV表面抗原の結合によってこの送達を行うことができる(Bousarghin L.et al,J.of Virology,77(6):3846−3850(2002))。
【0064】
さらに、ポリオウイルス(PV)をターゲティングするsiRNA分子を、標的核酸が存在する神経系細胞に送達させることができる(Gitlin,L.et al,Nature,418:430−434(2002))。siRNA分子の3’末端または5’末端でのニューロン表面上に存在するCD155レセプターに結合し得るPV表面抗原の結合によってこの送達を行うことができる(He,Y.et al,Proc.Natl.Acad,of Sciences,97(1):79−84(2000))。
【0065】
述べたように、治療方法は、病原因子または病原体、より詳細にはRNAウイルスまたはDNAウイルスのいずれかであり得るウイルスをターゲティングすることを意図する。好ましいウイルスは、C型肝炎ウイルス(HCV)、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、D型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、エボラウイルス、インフルエンザウイルス、ロタウイルス、レオウイルス、レトロウイルス、ポリオウイルス、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)、メタニューモウイルス、およびコロナウイルスからなる群より選択される。より好ましくは、標的ウイルスは、C型肝炎ウイルスまたはコロナウイルスである。
【0066】
1つの態様では、本方法は、(a)短鎖干渉RNA(siRNA)を設計するためにウイルスゲノム中の標的リボヌクレオチド配列を同定すること、および(b)少なくとも1つの改変型リボヌクレオチドを含むように改変されたsiRNAを生成することによって調製されるsiRNAを使用する。好ましくは、siRNAは、ウイルス中の標的リボヌクレオチド配列に対応するリボヌクレオチド配列に相当する第1の鎖のリボヌクレオチド配列および標的リボヌクレオチド配列に相補的なリボヌクレオチド配列を含む第2の鎖を有する二本鎖RNA分子を含む。第1および第2の鎖は、相互にハイブリッド形成して二本鎖RNA分子を形成する個別の相補鎖であるべきである。さらに、鎖の一方または両方は、少なくとも1つの改変型リボヌクレオチドを含むべきである。
【0067】
本発明の好ましい実施形態では、siRNAは、C型肝炎ウイルスゲノム中のリボヌクレオチド配列をターゲティングする。標的リボヌクレオチド配列は、HCV複製に必要な保存リボヌクレオチド配列を含み、保存リボヌクレオチド配列は、5’非翻訳領域(5’−UTR)、3’非翻訳領域(3’−UTR)、コア、およびNS3ヘリカーゼからなる群より選択される。非常に好ましいsiRNA分子は、siRNA5、siRNAC1、siRNAC2、siRNA5B1、siRNA5B2、またはsiRNA5B4の配列と少なくとも80%同一の配列を含む。siRNAは、未改変であっても、上記のように改変されていてもよい。
【0068】
HCVに陽性の細胞中でHCVの複製を阻害する方法は、細胞に有毒であるべきではないか、処置した細胞でアポトーシスを引き起こすべきではない。好ましくは、HCV複製の阻害は、正常な成長、分裂、または代謝が影響を受けないように、細胞中のHCV複製のみに影響を与えるように特異的に適合させる。HCVが複製することが示された細胞には、肝細胞、B細胞リンパ球、およびT細胞リンパ球が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、HCVの複製を阻害する方法を、肝細胞で行う。
【0069】
本発明によれば、「肝細胞」は、任意の動物供給源に由来し得る。さらに、肝細胞は、細胞培養物中に存在するか、組織の一部であるか、器官の一部または全体であり得る。句「肝細胞」は、正常、異常、または罹患した肝臓細胞を構成する任意の細胞を含むことを意味する。肝臓細胞の例には、クッパー細胞、肝細胞、および肝細胞癌を含む細胞が含まれるが、これらに限定されない。「肝臓細胞」は、肝臓内に個別の構造を作り上げる細胞(血管を裏打ちする上皮細胞など)を含むことを意味する。肝臓細胞を含む組織または器官は、被験体内に存在し得るか、生検し得るか、動物から取り出すことができる。さらに、組織は、切除と本発明の方法との間にいかなる保存工程も行わずに新たに被験体から取り出されるという点で「新鮮」であり得る。本発明の方法の適用前に、組織を、標準的な組織調製技術(凍結、瞬間凍結、パラフィン包埋、および組織固定が含まれるが、これらに限定されない)によって保存することもできる。さらに、組織はまた、別の宿主動物上または別の宿主動物内で異種移植片または同系移植片であり得る。本明細書中で使用される、用語「動物」および「被験体」を、交換可能に使用する。
【0070】
本発明によれば、「C型肝炎ウイルス」または「HCV」は、出願の時点での一般的な意味を取る。C型肝炎ウイルスは、フラビウイルス科のRNAウイルスである。HCVには、遺伝子型1〜11(最も一般的な遺伝子型同定システムを使用)が含まれるが、これらに限定されない。これらの遺伝子型は、サブタイプに分類され、これらのいくつかには、1a、1b、1c、2a、2b、2c、3a、3b、4a、4b、4c、4d、4e、5a、6a、7a、7b、8a、8b、9a、10a、および11aが含まれるか、これらに限定されない。さらに、個体からの単離物は、ウイルスゲノムの密接に関連した依然として異種の集団(時折、疑似種と呼ばれる)からなる。
【0071】
ペスチウイルスは、本発明のさらに別の標的である。本明細書中で使用される、「ペスチウイルス」は、出願の時点での一般的な意味を取る。ペスチウイルスは、フラビウイルス科に属する。ペスチウイルスは、オーストラリアのウシ集団に広まっている。家畜の約70%がペスチウイルスに能動的に感染していると考えられる。感受性動物の感染により、種々の疾患を引き起こし得るが、ウイルスの家畜への最初の伝播からしばらくは明らかとなるならない場合がある。ペスチウイルスは、ブタコレラウイルス、ウシウイルス性下痢ウイルス(BVDV)、およびボーダー病ウイルス(BDV)、またはヘアリーシェーカー病ウイルスが含まれるウイルス属である。
【0072】
静脈注射、皮下注射、経口送達、リポソーム送達、または鼻腔内送達によってsiRNAを患者に投与し得る。次いで、siRNAは、患者の標的生体システム、器官、組織、または細胞型中に蓄積し得る。
【0073】
本発明はまた、ウイルス特異的siRNAの発現を指示するベクターでウイルスを保有する細胞をトランスフェクトする工程を含む、哺乳動物細胞中のウイルスの複製を阻害する方法を提供する。1つの実施形態では、本発明は、HCV特異的siRNAの発現を指示するベクターでHCV陽性細胞をトランスフェクトする工程を含む、HCV陽性細胞中のC型肝炎ウイルス(HCV)の複製を阻害する方法を提供する。細胞中のマーカーがsiRNAによって阻害されたかどうかを決定するために、細胞を評価し得る。
【0074】
したがって、本発明はまた、記載のsiRNAをコードする核酸セグメントを含むベクターおよび宿主細胞を提供する。
【0075】
本発明のベクターを、組換え技術によるsiRNA生成のために使用し得る。したがって、例えば、siRNAをコードするDNAセグメントを、任意のDNA配列の発現のための種々の発現ベクターのいずれか1つに含めることができる。このようなベクターには、染色体配列、非染色体配列、および合成DNA配列(例えば、SV40の誘導体);細菌プラスミド;ファージDNA;バキュロウイルス;酵母プラスミド;プラスミドとファージDNA、ウイルスDNA(ワクシニア、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、および仮性狂犬病など)との組み合わせに由来するベクターが含まれる。しかし、所望の宿主中で複製可能であり、かつ生存可能である限り、任意の他のベクターを使用し得る。
【0076】
種々の手順によって適切なDNAセグメントをベクターに挿入し得る。一般に、当該分野で公知の手順によって、DNA配列を適切な制限エンドヌクレアーゼ部位に挿入する。このような手順および他の手順は、当業者の範囲内であると見なされる。
【0077】
発現ベクター中のDNAセグメントは、siRNA合成を指示するのに適切な発現調節配列(プロモーター)に作動可能に連結される。適切な真核生物プロモーターには、CMV最初期プロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーター、初期および後期SV40プロモーター、レトロウイルスLTRのプロモーター(ラウス肉腫ウイルス(RSV)のプロモーターなど)、メタロチオネインプロモーター(マウスメタロチオネイン−Iプロモーターなど)が含まれる。好ましくは、本発明のプロモーターは、RNAポリメラーゼIIIプロモーターのIII型クラスに由来する。より好ましくは、プロモーターは、U6およびH1プロモーターからなる群より選択される。U6およびH1プロモーターは、RNAポリメラーゼIIIプロモーターのIII型クラスの両メンバーである。本発明のプロモーターはまた、発現を、「オン」または「オフ」し得るという点で誘導性であり得る。例えば、U6プロモーターのテトラサイクリン調節系を使用して、siRNAの生成を調節し得る。発現ベクターは、翻訳開始および転写終結のためのリボゾーム結合部位を含んでも含まなくてもよい。ベクターはまた、発現増幅に適切な配列を含み得る。
【0078】
さらに、発現ベクターは、好ましくは、形質転換された宿主細胞の選択のための表現型形質(ジヒドロ葉酸レダクターゼなど)または真核細胞培養物のためのネオマイシン耐性またはテトラサイクリンもしくはアンピシリン耐性を得るための1つ以上の選択可能なマーカー遺伝子を含む。
【0079】
一般に、組換え発現ベクターは、宿主細胞を形質転換させる複製起点および選択マーカー(例えば、大腸菌および出芽酵母のTRP1遺伝子のアンピシリン耐性遺伝子)、構造配列下流の転写を指示するための高度に発現する遺伝子由来のプロモーターを含む。このようなプロモーターは、特に、3−ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)、a因子、酸ホスファターゼ、または熱ショックタンパク質などの解糖酵素をコードするオペロンに由来し得る。異種構造配列を、適切な段階で、翻訳開始および終結配列、好ましくは、細胞膜周辺腔または細胞外媒質(medium)への翻訳タンパク質の分泌を指示し得るリーダー配列とアセンブリする。任意選択的に、異種配列は、所望の特徴(例えば、発現組換え産物の安定化または簡素な精製など)を付与するN末端同定ペプチドを含む融合タンパク質をコードし得る。
【0080】
1つの実施形態では、本発明は、ベクターであって、RNAポリヌクレオチドのセンス鎖をコードするDNAセグメントが第1のプロモーターと作動可能に連結しており、RNAポリヌクレオチド分子のアンチセンス(逆)鎖をコードするDNAセグメントが第2のプロモーターと作動可能に連結されている、ベクターを提供する。言い換えれば、RNAポリヌクレオチドの各鎖が独立して発現する。さらに、各鎖のプロモーター駆動発現が同一であり得るか、一方のプロモーターが他方のプロモーターと異なり得る。
【0081】
別の実施形態では、本発明のベクターは、逆方向プロモーターを含み得る。例えば、ベクターは、RNAポリヌクレオチドのセンス鎖をコードするいずれかのDNAセグメント側に、逆方向で存在する2つのU6プロモーターを含むことができ、転写終結因子は、2つの逆方向プロモーターの間に存在するか存在しない。U6逆方向プロモーター構築物は、Wang,Z.et al,J.Biol.Chem.275:40174−40179(2000)に記載のT7逆方向プロモーター構築物と類似している。Miyagishi,M.and Taira,K.,Nature Biotech.20:497−500(2002)を参照のこと。
【0082】
別の実施形態では、RNAポリヌクレオチドの両方の鎖をコードするDNA配列は、1つのプロモーターの調節下にある。1つの実施形態では、各鎖をコードするDNAセグメントを、2つのDNAセグメントの間に散在する「ループ」領域とベクター上に整列させ、DNAセグメントおよびループ領域の転写によって1つのRNA転写物が作製される。1つの転写物自体がその後にアニーリングして、RNAiを誘導し得る「ヘアピン」RNA構造が作製される。ヘアピン構造の「ループ」は、好ましくは、約4〜約6ヌクレオチド長である。より好ましくは、ループは、4ヌクレオチド長である。
【0083】
本明細書中に記載の適切なDNA配列および適切なプロモーター配列または調節配列を含むベクターを使用して、宿主にsiRNAを発現させるように適切な宿主を形質転換し得る。原核宿主および真核宿主との使用に適切なクローニングベクターおよび発現ベクターは、Sambrook,et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)(その開示が本明細書中で参考として援用される)に記載されている。
【0084】
宿主細胞を、本発明のベクター(例えば、クローニングベクターまたは発現ベクターであり得る)を用いて遺伝子操作する(形質導入、形質転換、またはトランスフェクトする)。ベクターは、例えば、プラスミド、ウイルス粒子、ファージなどの形態であり得る。操作された宿主細胞を、プロモーターの活性化、形質転換対の選択に適切なように改変された従来の栄養培地中で培養し得る。温度およびpHなどの培養条件は、発現のために選択された宿主細胞と共に以前に使用されている条件であり、当業者に明らかである。
【0085】
さらなる実施形態では、本発明は、上記構築物を含む宿主細胞に関する。宿主細胞は、哺乳動物細胞などの高等真核細胞または酵母細胞などの下等真核細胞であり得るか、宿主細胞は、細菌細胞などの原核細胞であり得る。好ましくは、宿主細胞は、哺乳動物細胞である。より好ましくは、宿主細胞は肝臓細胞である。宿主細胞への構築物の移入を、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−Dextran媒介トランスフェクション、エレクトロポレーションによって行うことができる(Davis,L.,et al.,Basic Methods in Molecular Biology(1986))。
【0086】
本明細書中で使用される、用語「患者」は、動物、好ましくは、哺乳動物をいう。より好ましくは、患者は、霊長類(非ヒトおよびヒトが含まれる)であり得る。用語「被験体」および「患者」を、交換可能に使用する。
【0087】
本発明によって想定される治療を、既存のウイルス感染症を罹患した被験体または感染症にかかりやすい被験体に使用し得る。さらに、本発明の方法を使用して、患者のウイルス感染に対する感受性の付与に関与する細胞の異常または生理学的異常を修正または代償し、そして/または患者のウイルス感染症の症状を緩和し得るか、患者の予防対策とし得る。
【0088】
ウイルス感染症を罹患した患者の治療方法は、被験体への組成物の投与を含む。本明細書中で使用される、「組成物」は、純粋な化合物、薬剤、もしくは物質、または2つまたはそれ以上の化合物、薬剤、または物質の混合物を意味し得る。本明細書中で使用される、用語「薬剤」、「物質」、または「化合物」は、タンパク質、核酸、炭水化物、脂質、ポリマー、または小分子(薬物など)を意味することが意図される。
【0089】
本発明の1つの実施形態では、被験体に投与する組成物は、薬学的組成物である。さらに、薬学的組成物を、経口、鼻腔内、非経口、全身、腹腔内、局所(点滴薬または経皮パッチなどによる)、舌下、または口腔噴霧、鼻内噴霧で投与し得る。上気道疾患を引き起こすウイルス(コロナウイルスまたはメタニューモウイルスなど)の鼻腔内送達は、特に有益な送達様式であろう。本明細書中で使用される、用語「非経口」は、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内、皮下、および動脈内への注射および注入が含まれる投与様式をいう。本発明によって意図される薬学的組成物はまた、薬学的に受容可能なキャリアを含み得る。
【0090】
「薬学的に受容可能なキャリア」には、非毒性の固体、半固体、または液体充填剤、希釈剤、カプセル化材料、または任意の処方賦形剤型(リポソームなど)が含まれるが、これらに限定されない。
【0091】
非経口注射のための本発明の薬学的組成物は、薬学的に受容可能な滅菌された水溶液または非水性溶液、分散液、懸濁液、または乳濁液および使用直前に滅菌注射溶液または分散液に再構成するための滅菌粉末を含み得る。適切な水性および非水性キャリア、希釈剤、溶媒、または賦形剤の例には、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、およびポリエチレングリコールなど)、カルボキシメチルセルロースおよびその適切な混合物、植物油(オリーブ油など)、ならびにオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルが含まれる。例えば、レシチンなどのコーティング材料の使用、分散液の場合に必要な粒子サイズの維持、および界面活性剤の使用によって適切な流動性を保持し得る。
【0092】
本発明の組成物はまた、アジュバント(防腐剤、湿潤剤、乳化剤、および分散剤などであるが、これらに限定されない)を含み得る。種々の抗菌薬および抗真菌薬(例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、およびソルビン酸(sorb acid)など)の封入によって微生物作用の防止を確実にし得る。等張剤(糖および塩化ナトリウムなど)を含めることも望ましいことがある。モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収を遅延させる薬剤の封入によって注射可能な薬学的形態の吸収を延長し得る。
【0093】
いくつかの場合、薬物の効果を延長するために、皮下注射または筋肉内注射からの吸収を示すことが望ましい。水溶性の低い結晶または無定形物質の液体懸濁液の使用によってこれを行うことができる。次いで、薬物の吸収率は、その溶解速度に依存し、言い換えると、結晶サイズおよび結晶形態に依存し得る。あるいは、油性賦形剤への薬物の溶解または懸濁によって非経口投与された薬物形態の吸収を遅延させる。
【0094】
ポリラクチド−ポリグリコリドなどの生分解性ポリマー中での薬物のマイクロカプセルマトリックスの形成によって注射デポー形態を作製する。薬物のポリマーに対する比および使用した特定のポリマーの性質に依存して、薬物放出率を調節し得る。他の生分解性ポリマーの例には、ポリ(オルソエステル)およびポリ(アンヒドリド)が含まれる。身体組織と適合するリポソームまたはマイクロエマルジョンへの薬物の捕捉によってもデポー注射処方物を調製する。
【0095】
例えば、細菌保持フィルターでの濾過または使用直前に滅菌水または他の滅菌注射媒質中に溶解または分散し得る滅菌固体組成物の形態での滅菌薬の組み込みによって注射処方物を滅菌し得る。
【0096】
経口投与のための固体投薬形態には、カプセル、錠剤、丸薬、粉末、および顆粒が含まれるが、これらに限定されない。このような固体投薬形態では、活性化合物を、少なくとも1つの薬学的に受容可能な賦形剤またはキャリア(クエン酸ナトリウムまたは第二リン酸カルシウムなど)、ならびに/またはa)充填剤または増量剤(デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、およびケイ酸など)、b)結合剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、およびアカシアなど)、c)保湿剤(グリセロールなど)、d)崩壊剤(寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモまたはタピオカのデンプン、アルギン酸、一定のケイ酸塩、および炭酸ナトリウムなど)、e)溶液遅延剤(solution retarding agent)(パラフィンなど)、f)吸収促進剤(第四級アンモニウム化合物など)、g)湿潤剤(例えば、アセチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセロールなど)、h)吸収剤(カオリンおよびベントナイトクレイなど)、およびi)潤滑剤(タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウムなど)、ならびにこれらの混合物と混合する。カプセル、錠剤、および丸薬の場合、投薬形態はまた、緩衝剤と含み得る。
【0097】
類似の型の固体組成物を、ラクトースまたは乳糖などの賦形剤ならびに高分子量ポリエチレングリコールなどを使用した軟および硬充填カプセル中の充填剤として使用することもできる。
【0098】
錠剤、糖衣錠、カプセル、丸薬、および顆粒の固体投薬形態を、コーティング、腸溶コーティングなどのシェル、および薬学的処方分野で周知の他のコーティングを使用して調製し得る。これらは、任意選択的に、混濁剤を含むことができ、これらが腸管の一定の一部のみまたは優先して有効成分を放出する組成でもあり得る。使用し得る包埋組成物の例には、高分子物質およびワックスが含まれる。
【0099】
活性化合物はまた、適切な場合、1つ以上の上記賦形剤を含むマイクロカプセル化形態であり得る。
【0100】
経口投与のための液体投薬形態には、薬学的に受容可能な乳濁液、溶液、懸濁液、シロップ、およびエリキシルが含まれるが、これらに限定されない。活性化合物に加えて、液体投薬形態は、当該分野で一般的に使用されている不活性希釈剤(例えば、水または他の溶媒など)、可溶化剤、および乳化剤(エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレンアルコール、ジメチルホルムアミド、油類(特に、綿実油、ラッカセイ油、トウモロコシ油、麦芽油、オリーブ油、ヒマシ油、およびゴマ油)など)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、およびソルビタンの脂肪酸エステル、ならびにこれらの混合物を含み得る。
【0101】
不活性希釈剤に加えて、経口組成物は、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、甘味料、香味物質、および香料も含み得る。
【0102】
懸濁液は、活性化合物に加えて、懸濁剤(例えば、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびソルビタンエステル、微結晶性セルロース、メタ水酸化アルミニウム(aluminum metahydroxide)、ベントナイト、寒天、およびトラガカント、ならびにこれらの組み合わせなど)を含み得る。
【0103】
あるいは、組成物を加圧し、圧縮ガス(窒素または液化ガス噴射剤など)を含めることができる。液化噴射剤の媒質および実際の全組成物は、有効成分が任意の実質的範囲まで溶解しないことが好ましい。圧縮組成物はまた、界面活性剤を含み得る。界面活性剤は液体または固体の非イオン性界面活性剤であるか、固体陰イオン性界面活性剤であり得る。ナトリウム塩の形態の固体陰イオン性界面活性剤を使用することが好ましい。
【0104】
本発明の組成物を、リポソームの形態で投与することもできる。当該分野で公知のように、リポソームは、一般に、リン脂質または他の脂質物質に由来する。水性媒質中に分散する単一膜または多重膜水和液晶によってリポソームを形成する。リポソームを形成し得る任意の非毒性の生理学的に受容可能かつ代謝可能な液体を使用し得る。リポソーム形態の本発明の組成物は、本発明の化合物に加えて、安定剤、防腐剤、および賦形剤などを含み得る。好ましい脂質は、天然および合成のリン脂質およびホスファチジルコリン(レシチン)である。リポソームの形成方法は、当該分野で公知である(例えば、Prescott,Ed.,Meth.Cell Biol.14:33 et seq(1976)を参照のこと)。
【0105】
当業者は、本発明の薬剤の有効量を、経験的に決定するか、純粋な形態で使用することができ、このような形態は、薬学的に受容可能な塩、エステル、またはプロドラッグ形態で存在することを認識する。本発明の組成物の「治療有効」量を、治療される疾患、損傷、または障害の有害な容態または症状の防止または改善によって決定し得る。薬剤を、1つ以上の薬学的に受容可能な賦形剤と組み合わせた薬学的組成物としてウイルス感染治療が必要な被験体に投与し得る。ヒト患者に投与する場合、本発明の薬剤または組成物の1日の総使用量は、健全な医学的判断の範囲内で主治医によって決定されると理解される。任意の特定の患者のための特定の治療有効用量レベルは、以下の種々の要因に依存する:達成すべき細胞応答または生理学的応答の型および程度;使用される特定の薬剤または組成物の活性;使用される特定の薬剤または組成物;患者の年齢、体重、一般的健康状態、性別、および食事;投与時間;投与経路および薬剤の排泄速度;治療の継続期間;特定の薬剤と組み合わせるか同時に使用される薬物;および医学分野で周知の要因など。例えば、所望の治療効果を達成するために必要なレベルよりも低いレベルで薬剤を投与し始め、所望の効果が達成されるまで投薬量を段階的に増加させることは十分に当業者の範囲内である。
【0106】
当該分野で受け入れられ、日常化している技術によって決定した薬剤の所定の血中濃度を得るために、患者に特異的な様式で投与を準備し得る。したがって、HPLCによって測定した一定の持続的血中レベルを達成するために、患者への投与を、50〜1000ng/mlの範囲に調整し得る。
【0107】
種々の医薬品(medication)により、血中コレステロールレベルを低下させることができる。これらの医薬品または薬物には、例えば、スタチン、レジン、およびニコチン酸(ナイアシン)、ゲムフィブロジル、およびクロフィブレートが含まれる。クロフィブレート(Atromid−S)は、HDLコレステロールレベルを上昇させ、トリグリセリドレベルを低下させる。ゲムフィブロジル(Lopid)は、血中脂肪を低下させ、HDLコレステロールレベルを上昇させる。
【0108】
ニコチン酸は肝臓内で作用し、トリグリセリドおよびLDLコレステロールを低下させ、HDL(「善玉」)コレステロールを上昇させるために使用される。レジンは、コレステロール処理の増加を促進する。このクラスの医薬品には以下が含まれる:コレスチラミン(Cholestryamine)(Questran,Prevalite,Lo−Cholest);コレスチポール(Colestid);およびコレセベイアム(Coleseveiam)(WelChol)。
【0109】
スタチン製剤は、LDL(「悪玉」)コレステロールレベルの低下に非常に有効であり、副作用は非常に短期間であり、本発明の方法で用いる好ましいコレステロール低下薬である。スタチンには、以下が含まれる:アトルバスタチン(Lipitor);フルバスタチン(Lescol);ロバスタチン(Mevacor);プラバスタチン(Pravachol);ロスバスタチンカルシウム(Crestor);およびシムバスタチン(Zocor)(「Cholesterol lowering with statin drags,risk of stroke,and total mortality.An overview of randomized trials」;Hebert PR,Gaziano JM,Chan KS,Hennekens CH.JAMA(1997)Nov.26;278(20):1660−1も参照のこと)。
【0110】
HMG−CoA(3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル−コエンザイムA)レダクターゼ(HMGR)は、コレステロール生合成の関連工程を触媒する。スタチンは、血清コレステロールレベルを有効に低下させ、高コレステロール血症の治療で広く処方されている阻害定数がナノモル範囲のHMGRインヒビターである。スタチン製剤は、肝臓細胞表面上のLDLレセプター発現を増加させる。LDLレセプター発現の増加の結果として、血漿コレステロールレベルが低下する。したがって、スタチン製剤の投与により、血漿中の競合コレステロールレベルが減少し、肝臓内の結合コレステロール−siRNAのためのLDLレセプターレベルが増加する。したがって、本発明は、コレステロール標識siRNAの取り込みを増加させる方法であって、siRNAをスタチンと組み合わせて投与し、それにより、血清中の競合コレステロールレベルが減少し、肝臓細胞によってコレステロール標識siRNAがより有効に取り込まれる、方法を提供する。スタチンを、コレステロール−siRNAの投与前、同時、または投与後に投与し得る。
【0111】
本発明またはその任意の実施例の範囲を逸脱することなく、本明細書中に記載の方法および適用の他の適切な修正形態および適合が可能であることが関連分野の当業者に容易に明らかである。
【実施例】
【0112】
本実施例は、siRNA(改変型siRNAが含まれる)が哺乳動物細胞中のウイルス複製を有効に阻害し得ることを証明する。さらに、本実施例は、本発明のsiRNAがヒト肝臓細胞中のHCV RNA分解を促進することを示し、改変型siRNA誘導サイレンシングの必要な機能成分を保有することを確立する。本実施例はまた、宿主細胞中のHCV複製を阻害する治療法としてsiRNAテクノロジーを使用し得ることを証明する。本発明は、以下の実施例の提示により、特許請求の範囲に記載の本発明の範囲を制限することを意図しない。
【0113】
(実施例1)
HCVゲノムに対するsiRNAがこのヒト病原体に対する細胞内免疫を付与するかどうかを試験するために、ヒト肝細胞癌細胞株Huh−7において最近開発されたHCV細胞培養系を使用した。細胞株の1つ(5−2)は、自律複製サブゲノムHCV RNAを保有する(Bartenschlager,J.Virol,2001)。サブゲノムレプリコンは、HCV RNA複製の基準としてレポーター機能アッセイが可能なホタルルシフェラーゼ遺伝子を保有する(図5)。ゲノムに移入した細胞培養適応変異(Bart)のために、これらの5−2細胞は、5×104ウイルス粒子/細胞までのレベルでHCV RNAを複製する。
【0114】
T7転写を使用して、HCVゲノムの異なる5’−UTR領域に対するいくつかの21bp siRNA二重鎖を作製した(図5)。簡潔に述べれば、センス方向またはアンチセンス方向のいずれかに配向するHCVのT7プロモーターおよび5’−UTRを含む2オリゴ二本鎖DNA分子を生成した。次いで、各オリゴDNAを、インビトロで転写して(+)および(−)RNAを生成し、DNAアーゼIで処理してDNAテンプレートを除去した。2つのRNA鎖を37℃で一晩アニーリングしてdsRNAを生成した。RNAアーゼT1でdsRNAを処理して未反応のssRNA種を除去した後、トランスフェクションのためにdsRNAを精製した。
【0115】
ショウジョウバエおよびウミシイタケのルシフェラーゼ遺伝子にそれぞれ指向するいくつかの他のsiRNA二重鎖(GL2およびGL3が含まれる)を設計した。標準的なトランスフェクション技術を使用して、siRNAを5−2細胞にトランスフェクトし、ルシフェラーゼ活性を測定してHCV複製に対するsiRNAの効果を決定した。トランスフェクションから48時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。siRNAをトランスフェクトした細胞では、ルシフェラーゼ活性が用量応答様式で85%まで減少した(図6)。無関係のsiRNA(SIN)でトランスフェクトした細胞ではルシフェラーゼ活性の阻害は認められなかった。SINの配列は、シンドビスウイルス転写プロモーターから選択した(図1)。
【0116】
(実施例2)
siRNA応答の配列特異性を、さらなるsiRNA二重鎖(GL2およびGL3)を使用してさらに試験した。図1は、GL2およびGL3の3−ヌクレオチドが相互に異なることを示す。ルシフェラーゼ活性は、siRNA5またはGL2でトランスフェクトした細胞で90%減少したが、GL3でトランスフェクトした細胞では有意な減少は認められなかった(図7)。Promega Corp.(Madison,WI)から市販されているルシフェラーゼアッセイシステムを製造者の説明書にしたがって使用してルシフェラーゼアッセイを行った。
【0117】
(実施例3)
siRNA5がトランスフェクトした細胞で有毒であるかどうかも試験した。ATPアーゼ活性アッセイを使用して毒性を測定した。図8は、図6で認められるHCV複製のsiRNA5誘導減少が非配列特異的RNAiの細胞毒性によらないことを示す。Promega(Madison,WI)のATPアーゼアッセイキットを製造者の説明書にしたがって使用してATPアーゼレベルをアッセイした。
【0118】
(実施例4)
Li,H,Science 296:1319−1321(2002)で報告されているように、全長HCVレプリコンは、siRNAの存在にもかかわらずRNAiに適応して抑制し、それにより複製する能力を有し得る。選択可能な全長HCVレプリコンを保有する21−5細胞株由来のHuh−7細胞における全長HCV RNAの複製に対するsiRNA5の効果を決定するために、siRNA5で処置した。HCV RNAのレベルを、TaqMan(商標)(F.Hoffman La−Roche,Switzerland)を使用した定量的PCRによって測定した。図9で認められる結果は、siRNA誘導サイレンシングが、RNA複製が非常に高い適応HCV変異形においてでさえも定常状態のウイルスRNA生成を減少させることを示す。両サブゲノムおよび全長のHCVレプリコンを用いた結果により、HCVタンパク質はRNA干渉を抑制することができないことが示唆される。
【0119】
(実施例5)
siRNAがトランスフェクトした細胞に有毒であるかどうかも試験した。詳細には、siRNA5(すなわち、GAPDH配列に特異的なsiRNA)でトランスフェクトしたHuh5−2細胞中のGAPDH(解糖に不可欠な酵素)をコードするmRNAを測定した。図10は、siRNA5がGAPDHのRNAレベルに影響を与えなかったことを証明する。TaqMan(商標)RNAキット(F.Hoffman La−Roche,Switzerland)を製造者の説明書にしたがって使用してGAPDHを測定した。
【0120】
(実施例6)
感染した肝臓内でHCVが複製する能力の阻害に対するsiRNA5の有効性を試験するために、当業者に周知の方法にしたがって、HCV感染ヒト肝臓の一部を、トランスジェニック重症複合型免疫不全症(SCID)マウスに異種移植する。
【0121】
簡潔に述べれば、一旦HCV感染肝臓がマウス肝臓に置換されれば、リポソームカプセル化siRNA5またはコントロールリポソームを、尾静脈または別のアクセス可能な静脈を介したマウスへの静脈内注射によって投与する。マウスに、1日に1回、3〜10日間投与する。
【0122】
投与計画の終了後、マウスを屠殺し、採血し、肝臓を取り出す。肝臓を分割し、一部を液体窒素を使用して凍結し、一部をパラフィン包埋のために固定し、一部をスライド上で切片にするために固定する。
【0123】
適切な分配を用いて、本明細書中で前に使用したTaqMan(商標)RNAアッセイキットを使用してHCV RNAを定量して肝臓細胞中のHCV RNAレベルを決定する。さらに、血清ALTレベルと共に、採血サンプル中の抗HCV抗体力価を測定し得る。
【0124】
(実施例7)
HCVが健康な肝臓に感染する能力の阻害に対するsiRNA5の有効性を試験するために、当業者に周知の方法にしたがって、正常なヒト肝臓の一部を、トランスジェニック重症複合型免疫不全症(SCID)マウスに異種移植する。
【0125】
簡潔に述べれば、一旦健康な肝臓がマウス肝臓に置換されれば、リポソームカプセル化siRNA5またはコントロールリポソームを、尾静脈または別のアクセス可能な静脈を介したマウスへの静脈内注射によって投与する。マウスに、1日に1回、3〜10日間投与する。投与前措置後、HCVを静脈内注射または肝臓注射によってマウスに注射する。
【0126】
約6、12、18、24時間後、およびマウスへのHCV感染から約5日後まで定期的に、マウスを屠殺し、採血し、肝臓を取り出す。肝臓を分割し、一部を液体窒素を使用して凍結し、一部をパラフィン包埋のために固定し、一部をスライド上で切片にするために固定する。
【0127】
適切な分配を用いて、本明細書中で前に使用したTaqMan(商標)RNAアッセイキットを使用してHCV RNAを定量して肝臓細胞中のHCV RNAレベルを決定する。さらに、血清ALTレベルと共に、採血サンプル中の抗HCV抗体力価を測定し得る。
【0128】
(実施例8)
化学合成によって改変型siRNAを調製し得る。1つの実施形態では、siRNA二重鎖(例えば、GL2)内の各CおよびUを、2’−F−Uおよび2’F−Cと置換し得る。2’−F−Uおよび2’F−Cを含む3’末端突出部を有するsiRNAを生成するために、一般的な支持体を使用し得る。支持体からのオリゴの選択的切断により、実施者は、突出部残基が改変型ヌクレオチドを確実に含ませることができる。あるいは、3’末端突出部を含むヌクレオチドは、未改変dTdTであり得る。
【0129】
2’−F RNAオリゴヌクレオチドを、標準的な1μmolβ−シアノエチルホスホラミダイトRNA化学プロコールを使用して、Applied Biosystems 8909または8905 DNA/RNA合成機にて合成し得る。RNAホスホラミダイト単量体およびPac−A、2’−F−Ac−C、iPr−Pac−G、2’−F−U、およびU−RNA CPGのカラムを、Glen Research(Sterling,VA)から得ることができる(カタログ番号10−3000−05、10−3415−02、10−3021−05、10−3430−02、および20−3430−41Eをそれぞれ参照のこと)。酸化剤としてGlen Research硫化試薬(カタログ番号40−4036−10)を使用して、3’CPGとその後の塩基との間に1つのホスホロチオエート骨格を得ることができる。カップリングさせるために、1μmolの標準的なRNAの酸化工程を、1μmolの標準的なチオエートを使用するプロトコールと置換し得る。コレステリル−TEGホスホラミダイト(Glen Research,カタログ番号10−1975−90)およびコレステリル−TEG CPG(Glen Research,カタログ番号20−2975−4 IE)を、1つ以上のオリゴヌクレオチドの5’末端または3’末端に組み込むことができる。合成後、2’−F RNAを切断し、1:1水酸化アンモニウム/メチルアミンで脱保護し、標準的なプロトコールを使用して、トリエチルアミントリヒドロフルオリドにてシリル基を除去する。例えば、http://www.glenres.com/productfiles/technical/tb_rnadeprotection.pdfを参照のこと。次いで、オリゴリボヌクレオチドを、滅菌水を使用したSephadex G25カラム(Pharmacia NAP 25,カタログ番号17−08252−02)によって脱塩し、標準的なゲル電気泳動プロトコールを使用して精製する。Dharmacon(Lafayette,CO)などの改変型siRNAを、業者から得ることができる。
【0130】
あるいは、改変型siRNAを、Epicentre Technologies(Madison,WI)から購入したDurascribe(商標)T7転写キットを使用した転写によって調製し得る。
【0131】
これらの方法によって作製された改変型siRNA(dsRNA)は、ホスホジエステル結合オリゴヌクレオチドを含む。改変型一本鎖RNAを互いにアニーリングして二本鎖RNAを形成させることができるので、アンチセンス分子などの改変型一本鎖RNAの標準的な作製方法は、改変型siRNAの作製に有用である。このような標準的な方法には、Chiang et al,J.Biol.Chem.266,18162−18171(1991);Baker et al,J.Biol.Chem.272,11994−12000(1997);Kawasaki et al,J.Med.Chem.36,831−841(1993);Monia et al,J.Biol.Chem.268,14514−14522(1993)に記載の方法が含まれるが、これらに限定されない。
【0132】
(実施例9)
HCVゲノムに対するsiRNAがこのヒト病原体に対する細胞内免疫を付与するかどうかを試験するために、最近開発されたヒト肝細胞癌細胞株Huh−7におけるHCV細胞培養系を使用した。細胞株の1つ(5−2)は、自律複製サブゲノムHCV RNAを保有する(Bartenschlager,J.Virol,2001)。サブゲノムレプリコンは、HCV RNA複製の基準としてレポーター機能アッセイが可能なホタルルシフェラーゼ遺伝子を保有する。ゲノムに移入した細胞培養適応変異のために、5−2細胞は、5×104ウイルス粒子/細胞までのレベルでHCV RNAを複製する。
【0133】
T7転写を使用して、HCVゲノムの異なる5’−UTR領域に対するいくつかの21bp siRNA二重鎖を作製した。簡潔に述べれば、センス方向またはアンチセンス方向のいずれかに配向するHCVのT7プロモーターおよび5’−UTRを含む2オリゴ二本鎖DNA分子を生成した。次いで、各オリゴDNAを、インビトロで転写して(+)および(−)RNAを生成し、DNAアーゼIで処理してDNAテンプレートを除去した。2つのRNA鎖を37℃で一晩アニーリングしてdsRNAを生成した。RNAアーゼT1でdsRNAを処理して未反応のssRNA種を除去した後、トランスフェクションのためにdsRNAを精製した。
【0134】
2つの例示的な改変型siRNAを以下に示す:
【0135】
【化1】


ショウジョウバエルシフェラーゼ遺伝子に対するsiRNA GL2内の各CおよびUを、2’−F−Uおよび2’F−Cに置換した。標準的なリポソームトランスフェクション技術を使用して、改変型siRNAを5−2にトランスフェクトした。詳細には、改変型siRNAを、0.5μlのオリゴフェクタミン(Invitrogen,Carlsbad,CA)を含む250μlの細胞懸濁液中にて37℃で4時間、培養培地を含む375μl血清中で20時間、リポソーム−siRNA複合体を含まない新鮮な培地中にて37℃で24時間インキュベートした。トランスフェクションから48時間後にルシフェラーゼ活性を測定して、HCV複製に対する改変型siRNAの効果を決定した。
【0136】
図11は、漸増濃度のGL2によってルシフェラーゼ活性が減少したことを示す。ルシフェラーゼ活性は、2’−F−GL2でトランスフェクトした細胞で90%減少したが、モックトランスフェクション細胞またはコントロール(2’−F−FGP=緑色蛍光タンパク質)では有意な減少は認められなかった。Promega Corp.(Madison,WI)から市販されているルシフェラーゼアッセイシステムを製造者の説明書にしたがって使用してルシフェラーゼアッセイを行った。
【0137】
siRNA Chol−GL2は、5’末端の1つにコレステロール基を含む。5−2細胞を、リポソームの非存在下で、種々の濃度のChol−GL2とインキュベートした。インキュベーションから48時間後に細胞を採取し、ルシフェラーゼ活性のためにアッセイした。図12は、Chol−GL2が用量依存様式でルシフェラーゼ遺伝子活性を阻害したことを示す。InvAは、逆の配列のchol−GL2を示す。
【0138】
(実施例10)
未改変型siRNA(siRNA)と比較した2’化学改変型siRNAの安定性を試験するために、以下の実験を行う。4ngのsiRNAを、20μLの健康なドナー由来の80%ヒト血清に添加する。この混合物を、37℃にて1分から10日間までの種々の期間インキュベートする。結果を、図13のレーン2〜10に示す。2’フッ素改変型siRNA(2’−FsiRNA)のために同一プロセスを行い、結果を、図3のレーン12〜20および22〜25に示す。インキュベーションプロセスの終了時に、混合物を氷上に置き、その直後に32P−siRNAコントロールと共にPAGEによって分離する(図13のレーン1、11、および21を参照のこと)。データは、2’改変型siRNAが未改変型siRNAと比較して10日間にわたって安定であることを示す。
【0139】
(実施例11)
長いdsRNAからの改変型siRNAの生成を証明するために、5μgの1000bp長フッ素化dsRNA(図14、パネル(A))を、15単位のヒトダイサーと共に37度で一晩インキュベートした。得られたダイサーで切断されたsiRNAを、SephadexG−25カラムを使用して精製し、20%PAGEで電気泳動を行った(図14、パネル(B))。図4は、組換えヒトダイサーがフッ素化dsRNAを2’F−siRNAに有効に変換することを示す。
【0140】
(実施例12)
HCVゲノムに対するsiRNAがこのヒト病原体に対する細胞内免疫を付与するかどうかをさらに試験するために、実施例1に記載のアッセイを使用して、siRNAC1、siRNAC2、siRNA5B1、siRNA5B2、およびsiRNA5B4を試験し、図2にそれぞれ示す。各siRNAを、1nM、10nM、および100nMの濃度で試験した。図15に示すように、各siRNAは、用量依存性様式でルシフェラーゼ活性を有意に阻害した。siRNAC2は特に有効であった。
【0141】
(実施例13)
実施例9で報告した実験の追跡としてアッセイを行い、コレステロール改変によってsiRNA分子がHuh−7肝臓細胞に指向したが、フルオロ改変ではそうではなかったことが証明された。Huh−7細胞を、以下の種々の濃度の2種のChol−GL2siRNAとインキュベートした:一方は2’−フルオロ改変を行い、他方はこのような改変を欠いた。図16に示した結果は、肝臓細胞へのコレステロール改変型siRNA分子の送達がコレステロールに起因し、他の改変に起因しないことを証明している。
【0142】
(実施例14)
siRNAを、全ピリミジンの代わりに2−フルオロピリミジンを含むように改変した(2’−F−siRNA)。この2’−F−siRNAを、2−F−siRNA中に存在するリボヌクレオチド「UU」突出部の代わりに分子の3’末端に2塩基デオキシヌクレオチド「TT」配列を含むようにさらに改変した(2’−F−siRNA3’−X)。図17は、3’’’dTdT’’末端を含めるような2’フッ素化siRNAのさらなる改変によってヒト血清中のsiRNAの安定性が有意に増加したことを証明している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載された発明。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図3G】
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【図3H】
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【図3I】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−255024(P2012−255024A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−193264(P2012−193264)
【出願日】平成24年9月3日(2012.9.3)
【分割の表示】特願2012−54494(P2012−54494)の分割
【原出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(506361100)ノバルティス ヴァクシンズ アンド ダイアグノスティクス, インコーポレイテッド (44)
【Fターム(参考)】