説明

改変型ビタミンK依存性ポリペプチド

【課題】改変型ビタミンK依存性ポリペプチド、哺乳動物における血塊形成の調節方法を提供する。
【解決手段】膜結合親和力が増強されたビタミンK依存性ポリペプチド。ビタミンK依存性ポリペプチドのγ−カルボキシグルタミン酸(GLA)ドメイン内の改変は該ポリペプチドの膜結合親和力を増強する。改変されたビタミンK依存性ポリペプチドは増強された活性を有し、抗凝血剤、前凝血剤(pro-coagulant)としてまたはビタミンK依存性タンパク質を利用するその他の機能のために使用することができる。例えば、改良された第VII因子分子は必要とされるVIIaの投与量、相対的投与回数を低減させることにより、かつ/または欠損状態のより有効な治療を可能にする質的変化をもたらす。これらのポリペプチドは哺乳動物における血塊形成の調節に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改変型ビタミンK依存性ポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンK依存性タンパク質は、アミノ末端の45残基中に9〜13個のγ−カルボキシグルタミン酸残基(Gla)を含む。Gla残基は、肝臓内の酵素によって、ビタミンKを用いて、タンパク質前駆体のグルタミン酸残基の側鎖をカルボキシル化することにより産生される。ビタミンK依存性タンパク質は、いくらかの生物学的プロセスに関与している。それらの中でも血液凝固が最もよく記述されている(非特許文献1)。ビタミンK依存性タンパク質は、プロテインZ、プロテインS、プロトロンビン、第X因子、第IX因子、プロテインC、第VII因子、Gas6などがある。後の方のタンパク質は、細胞成長の調節において機能する(非特許文献2)。Gla残基は、これらのタンパク質による適当なカルシウム結合と膜相互作用に必要である。第X因子の膜接触部位は、アミノ酸残基1〜37に存在すると考えられている(非特許文献3)。血漿タンパク質のGlaを含む領域は、高い配列相同性を示すが,膜親和力においては、少なくとも1000倍の分布幅を持つ(非特許文献4)。
【0003】
第VII因子は、血液凝固の初期反応において機能し、血塊を形成する際のきっかけとなる要素である。不活性型前駆体、つまりチモーゲンは、酵素活性が低いが、タンパク質分解のR152I153での切断によって、活性は大幅に増し、第VIIa因子を形成する。この活性化は、第VIIa組織因子だけでなく、第Xa因子(これらは、いくらかの細胞型に見られる内在性膜タンパク質である)によっても触媒され得る(非特許文献5)。第VIIa組織因子による活性化は、自己賦活であると言われる。それは、該活性化(第VII因子からの第VIIa因子の形成)と、第VIIa因子のその後の活性の、両方に関係する。in vivoでの、活性化のための最も重要な経路は知られていない。第VIIa因子は、血液凝固第IX因子と第X因子を活性化し得る。
【0004】
組織因子は、いくらかの腫瘍細胞の表面上に、高レベルで発現される。組織因子と第VIIa因子は、腫瘍の発達と組織の浸潤における役割が考えられる(非特許文献6)。組織因子の細胞発現作用は、内毒素性ショックに対する中毒反応の主要な要因でもある(非特許文献7)。
【0005】
プロテインCは、内皮細胞の内在性膜タンパク質であるトロンボモジュリンの存在下で、トロンビンによって活性化される(非特許文献8)。 活性型プロテインC(APC)は、その補因子であるプロテインSと協同して、第Va因子と第VIIIa因子を分解する。APCに対する抵抗性は、先天的な血栓症の最も一般的な形態である(非特許文献9)。 ビタミンK阻害剤は、一般的には、血栓症の予防のために投与される。
【0006】
ビタミンK依存性タンパク質は、ある型の血友病を治療するのに用いられる。血友病Aは、活性型第VIII因子、第VIIIa因子の欠損、また第VIII因子の阻害剤の存在により特徴づけられる。血友病Bは、活性型第IX因子、第IXa因子の欠損により特徴づけられる。第VII因子の欠損は、まれにしか見られないが、第VII因子の投与に対してよく応答する(非特許文献10)。 一部の患者においては、第VIII因子置換療法は、高力価の阻害性第VIII因子抗体が生ずることにより制限される。その代わりに、第VIIa因子を血友病AとBの治療に使うことができる。第IXa因子と第VIIIa因子は、第X因子を活性化する。第VIIa因子は、第X因子を直接活性化することにより第IX因子と第VIII因子の必要性を排除し、ほとんど免疫学的な結果をもたらすことなく第IX因子と第VIII因子の欠損の問題を克服することができる(非特許文献11及び12)。第VIIa因子の有効な投与量はしばしば高く(体重1kgに対して45〜90μg)、数時間ごとに繰り返し投与する必要があるかもしれない(非特許文献13)。
【0007】
膜接触領域を含まない組織因子の可溶性形態(可溶性組織因子、sTFと略す)は、第VIIa因子と共に投与されると、血友病の治療において有効であることが見出されている。例えば特許文献1を参照されたい。イヌの場合、sTFは、血友病の治療に必要とされる第VIIa因子の量を、減じることが示された。sTF-VIIaによる膜会合は、第VII因子の膜接触部位に完全に依存する。これは、組織因子とVII(a)の両方を介して膜に結合する正常の組織因子と第VIIa因子との複合体と対照的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第 5,504,064号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Frie,B. et al., Furie,B.C., 1988,Cell, 53: 505-518
【非特許文献2】Matsubara et al.,1996,Dev. Biol., 180:499-510
【非特許文献3】Evans and Nelsestuen, 1996,Protein Science 5 : suppl. 1 ,163 Abs
【非特許文献4】McDonald,J.F. et al., 1997, Biochemistry, 36 :5120-5137
【非特許文献5】Fiore,M.M. et al., 1994, J. Biol. Chem.,269 : 143-149
【非特許文献6】Vrana, J. A. et al., Cancer Res., 56: 5063-5070
【非特許文献7】Dackiw, A. A . et al., 1996 , Arch. Surg., 131 : 1273-1278
【非特許文献8】Esmon,N.L. et al., 1982, J. Biol. Chem.,257:859-864
【非特許文献9】Dahlback, B., 1995,Blood,85 : 607-614
【非特許文献10】Baur, K. A., 1996,Haemostasis , 26 : 155-158, suppl. 1
【非特許文献11】Hedner et al., 1993, Transfus. Medi. Rev.,7 : 78-83
【非特許文献12】Nicolaisen, E. M. et al., 1996, Thromb. Haemost., 76 : 200-204.
【非特許文献13】Shulmav, S. et al., 1996, Thromb. Haemost., 75 : 432-436
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
ビタミンK依存性ポリペプチドのγ−カルボキシグルタミン酸(GLA)ドメイン内の改変は該ポリペプチドの膜結合親和力を増強することが見出された。このような方法で改変されたビタミンK依存性ポリペプチドは増強された活性を有し、抗凝血剤、前凝血剤(pro-coagulant)としてまたはビタミンK依存性タンパク質を利用するその他の機能のために使用することができる。例えば、改良された第VII因子分子は必要とされるVIIaの投与量、相対的投与回数を低減させることにより、かつ/または欠損状態のより有効な治療を可能にする質的変化をもたらすことにより、いくつかの利点を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】野生型VIIa(白丸)、VIIQ11E33(黒丸)およびウシ第X因子(黒三角)の膜への結合を、標準偏差と共に、示す。
【図2】VIIQ11E33の自己活性化を示す。破線はリン脂質の非存在下での活性を示す。
【図3】第VIIa因子による第X因子の活性化を示す。濃度0.06nMの場合の野生型第VIIa因子(白丸)およびVIIaQ11E33(黒丸)の結果を示す。
【図4】可溶性の組織因子を含むVIIaおよびVIIaQ11E33によるヒト血漿の凝固を示す。
【図5】第VII因子チモーゲンおよび通常の組織因子による血漿の凝固を示す。
【図6】活性部位改変型第VIIaQ11E33因子(DEGR-VIIaQ11E33)による血塊形成の阻止を示す。
【図7】ラットにおける第VIIQ11E33因子の循環時間を示す。
【図8】通常のタンパク質および改変型のタンパク質による膜相互作用を示す。パネルAは野生型ウシプロテインC(白丸)およびウシプロテインC-H11(黒丸)と小胞との相互作用を示す。パネルBは野生型ヒトプロテインC(白丸)およびヒトプロテインC-P11(黒丸)と膜との相互作用を示す。両ケースにおいて、破線は、添加したタンパク質の全部が膜に結合したときの結果を示す。
【図9】凝固時間に及ぼす活性型プロテインCの影響を示す。パネルAには、ウシ血漿の凝固時間の3回の測定値の平均および標準偏差を、野生型ウシAPC(白丸)およびbAPC-H11(黒丸)について示してある。パネルBには、ヒト血漿の凝固時間の3回の測定値の平均および標準偏差を、野生型ヒト(白丸)およびヒトAPC-P11(黒丸)について示してある。
【図10】ウシおよびヒトAPCによる第Va因子の不活性化を示す。パネルAは、野生型ウシAPC(白丸)およびウシAPC-H11(黒丸)による第Va因子の不活性化を示す。パネルBは、野生型ヒトAPC(白丸)およびヒトAPC-H11(黒丸)によるプロテインS欠損血漿中のヒト第Va因子の不活性化を示す。
【図11】プロテインZの静電的分布を示す。垂直線は電気陽性領域を表し、水平線は電気陰性領域を表す。
【図12】種々のプロテインCの膜結合および活性を示す。パネルAは、野生型プロテインC(白丸)、P11H変異型のプロテインC(黒四角)、Q33E,N34D変異型(黒丸)およびウシプロトロンビン(白四角)による膜結合を示す。パネルBは、これらの変異型による血液凝固の阻止を示す。パネルCは、第Va因子の不活性化を示す。
【図13】ヒトプロテインC変異型の膜結合および活性を比較したものである。パネルAは、野生型(白丸)、E33(白三角)およびE33D34(黒丸)の膜結合を比較したものである。パネルBは、野生型(白三角)、E33(白丸)およびE33D34(黒丸)を用いて凝固時間を比較したものである。
【図14】ウシプロテインCの野生型(白四角)、H11(黒丸)、E33D34(白三角)および三重H11E33D34変異型(白丸)を用いて膜結合(パネルA)ならびに凝固阻止(パネルB)を比較したものである。
【図15】種々のビタミンK依存性タンパク質の膜相互作用特性を示す。パネルAは、ヒト(黒丸)およびウシ(白丸)の第X因子の膜相互作用を比較したものである。パネルBは、正常なウシプロトロンビン断片1(白丸)、カルシウムの非存在下でTNBSにより改変した断片1(黒丸)および25mMのカルシウムの存在下でTNBSにより改変した断片1(黒四角)による膜相互作用を示す。パネルCは、pH9(黒丸)およびpH7.5(白丸)におけるプロテインZの小胞への結合率を示す。
【図16】図16A〜16Cは、普通の血液(A)、30nMの野生型APCを含む血液、および6nMのQ11G12E33D34 APCを含む血液(C)についての、コラーゲン誘導性血栓形成(CITF)の血塊所見分析器のレポートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、対応する天然型ビタミンK依存性ポリペプチドと比べて、該ポリペプチドの膜結合親和力を増強する改変型のGLAドメインを含んでなるビタミンK依存性ポリペプチドを特徴とする。実施形態のあるものでは、ビタミンK依存性ポリペプチドの活性もまた増強される。改変型GLAドメインはアミノ酸1付近からアミノ酸45付近までであり、少なくとも1個のアミノ酸置換を含む。例えば、アミノ酸置換はアミノ酸2、5、9、11、12、29、33、34、35または36およびそれらの組合せに存在し得る。特に、該アミノ酸置換は、アミノ酸11、12、29、33または34、アミノ酸11、12、29、34または35、アミノ酸2、5または9、アミノ酸5、9、35または36、アミノ酸11または12、アミノ酸29または33、あるいはアミノ酸34、35または36、およびそれらの組合せであってもよい。改変型GLAドメインは、カルシウム飽和状態で、電気陰性電荷のかさ(halo)と共に陽イオン性のコアを有する三次構造を形成するアミノ酸配列を含むことができる。該ビタミンK依存性ポリペプチドは血塊障害の治療に利用でき、また血塊形成を増加または阻害(減少)させ得る。
【0013】
ビタミンK依存性ポリペプチドは、例えば、プロテインC、活性型プロテインC、第IX因子、第IXa因子もしくは活性部位改変型第IXa因子、第VII因子、第VIIa因子もしくは活性部位改変型第VIIa因子、プロテインS、プロテインZまたは第Xa因子もしくは活性部位改変型第Xa因子である。活性部位改変型第VIIa因子であり得る。プロテインCまたは活性型プロテインCの改変型GLAドメインは、アミノ酸11のグリシン残基、またはアミノ酸33のグルタミン酸残基の置換を含む。さらに、プロテインCまたは活性型プロテインCのGLAドメイン内の置換には、アミノ酸12のグルタミンまたはグルタミン酸残基、アミノ酸29のフェニルアラニン残基、アミノ酸33のグルタミン酸残基、アミノ酸34のフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシンまたはアスパラギン酸残基、アミノ酸35のアスパラギン酸またはグルタミン酸残基、あるいはアミノ酸36のグルタミン酸残基の1つ以上が含まれてもよい。
【0014】
第VII因子、第VIIa因子、および活性部位改変型第VIIa因子の改変型のGLAドメインは、アミノ酸11、29、33、34、もしくは35に置換を含んでいてもよく、またそれらを組み合わせて含んでいてもよい。例えば、アミノ酸11にグルタミン残基、グルタミン酸残基、アスパラギン酸残基、もしくはアスパラギン残基を置換することができ、アミノ酸29にグルタミン酸残基もしくはフェニルアラニン残基を置換することができ、アミノ酸33にグルタミン酸残基を置換することができ、また残基11と29、残基11と29と33、および残基11と33に置換する場合のようにそれらを組み合わせることができる。アミノ酸11にグルタミン残基を置換することが特に好ましい。1実施形態では、アミノ酸11にグルタミン残基を置換し、アミノ酸33にグルタミン酸残基を置換する。改変型のGLAドメインはさらに、アミノ酸34もしくは35に少なくとも1個の疎水性残基を含有することができる。アミノ酸34にフェニルアラニン残基、ロイシン残基、もしくはイソロイシン残基を、および/またはアミノ酸35にアスパラギン酸残基もしくはグルタミン酸残基を置換してもよい。
【0015】
プロテインSの改変型のGLAドメインは、アミノ酸9にイソロイシン残基、ロイシン残基、バリン残基、またはフェニルアラニン残基の置換を含むことができる。さらなる置換として、アミノ酸34にフェニルアラニン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、アスパラギン酸残基、もしくはグルタミン酸残基を、またはアミノ酸35にアスパラギン酸残基もしくはグルタミン酸残基を含有することができる。プロテインSの改変型のGLAドメインは、アミノ酸5にフェニルアラニン残基を含有することができ、さらにトロンビン感受性ループ中に、例えば、アミノ酸49、60、または70に置換を含むことができる。活性部位改変型第IXa因子の改変型のGLAドメインは、アミノ酸29にフェニルアラニン残基を、またはアミノ酸5にフェニルアラニン残基、ロイシン残基、もしくはイソロイシン残基を含有することができ、またそれらを組み合わせることができる。改変型のGLAドメインはさらに、アミノ酸34にフェニルアラニン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、アスパラギン酸残基、もしくはグルタミン酸残基を、またはアミノ酸35にアスパラギン酸残基もしくはグルタミン酸残基を、あるいはアミノ酸34と35の両方に置換を含むことができる。
【0016】
活性部位改変型第Xa因子の改変型のGLAドメインは、アミノ酸11にグルタミン残基を、またはアミノ酸35にアスパラギン酸残基もしくはグルタミン酸残基を含有することができる。プロテインZの改変型のGLAドメインは、アミノ酸2にアスパラギン残基もしくはグルタミン残基を、アミノ酸34にフェニルアラニン残基、ロイシン残基、もしくはイソロイシン残基を、またはアミノ酸35にアスパラギン酸残基もしくはグルタミン酸残基を含有することができる。
【0017】
ビタミンK依存性ポリペプチドの改変型のGLAドメインはさらに、不活性化された開裂部位を有することができる。例えば、第VII因子は、アミノ酸152にアラニン残基を置換する場合のように不活性化された開裂部位を有し得る。
【0018】
他の態様において、本発明は、ポリペプチドの膜結合親和力および活性を増強する改変型のGLAドメインを含んでなるビタミンK依存性ポリペプチドを特徴とする。そのようなポリペプチドの改変型のGLAドメインは、アミノ酸4に少なくとも1個のアミノ酸挿入を含む。ポリペプチドは、第VII因子もしくは第VIIa因子、プロテインCもしくは活性型プロテインC、第X因子もしくは第Xa因子、またはプロテインSであってよい。例えば、ポリペプチドは、第VII因子もしくは第VIIa因子、またはプロテインCもしくは活性型プロテインCであってよく、そしてチロシン残基もしくはグリシン残基の挿入を含むことができる。
【0019】
本発明はさらに、ビタミンK依存性ポリペプチドを含有する哺乳動物宿主細胞を特徴とする。このポリペプチドは、対応する天然型のビタミンK依存性ポリペプチドと比べて、該ポリペプチドの膜結合親和力を増強する改変型のGLAドメインを含む。改変型のGLAドメインは、上記の少なくとも1個のアミノ酸置換を有するものである。ビタミンK依存性ポリペプチドは例えば第VII因子または第VIIa因子である。
【0020】
本発明はまた、製薬上許容される担体および哺乳動物において血塊の形成を阻止するのに有効な量のビタミンK依存性ポリペプチドを含有する医薬組成物に関する。このビタミンK依存性ポリペプチドは、対応する天然型のビタミンK依存性ポリペプチドと比べて、該ポリペプチドの膜結合親和力を増強する改変型のGLAドメインを含む。実施例のあるものにおいては、ポリペプチドの活性もまた増強される。ビタミンK依存性ポリペプチドの改変型のGLAドメインは、上記の通り少なくとも1個のアミノ酸置換を有するものである。ビタミンK依存性ポリペプチドは例えばプロテインC、活性型プロテインCまたは活性部位改変型第VIIa因子、プロテインSまたは活性部位改変型第IXa因子であり得る。該組成物は抗凝固剤(アスピリンなど)をさらに含んでもよい。
【0021】
本発明はまた、製薬上許容される担体および哺乳動物において血塊の形成を増加させるのに有効な量のビタミンK依存性ポリペプチドを含有する医薬組成物を特徴とする。このビタミンK依存性ポリペプチドは、対応する天然型のビタミンK依存性ポリペプチドと比べて、該ポリペプチドの膜結合親和力を増強する改変型のGLAドメインを含む。ビタミンK依存性ポリペプチドの改変型のGLAドメインは、上記の通り少なくとも1個のアミノ酸置換を有するものである。ビタミンK依存性ポリペプチドは例えば第VII因子、第VIIa因子、第IX因子または第IXa因子であり得る。この医薬組成物は可溶性の組織因子を含んでいてもよい。
【0022】
哺乳動物において血塊の形成を低減させる方法も開示される。この方法は哺乳動物において血塊の形成を低減させるのに有効な量のビタミンK依存性ポリペプチドを投与することを含む。ビタミンK依存性ポリペプチドは、対応する天然型のビタミンK依存性ポリペプチドと比べて、該ポリペプチドの膜結合親和力を増強する改変型のGLAドメインを含む。実施例のあるものいおいては、ポリペプチドの活性もまた増大される。改変型のGLAドメインは少なくとも1個のアミノ酸置換を有するものである。ビタミンK依存性ポリペプチドは例えばプロテインC、活性型プロテインCまたは活性部位改変型第VIIa因子または第IXa因子またはプロテインSであり得る。
【0023】
本発明はまた、哺乳動物において血塊の形成を増加させる方法を特徴とする。この方法は哺乳動物に血塊の形成を増加させるのに有効な量のビタミンK依存性ポリペプチドを投与することを含む。ビタミンK依存性ポリペプチドは、対応する天然型のビタミンK依存性ポリペプチドと比べて、該ポリペプチドの膜結合親和力を増強する改変型のGLAドメインを含む。改変型のGLAドメインは上記の通り、少なくとも1個のアミノ酸置換を有するものである。ビタミンK依存性ポリペプチドは例えば第VII因子、第VIIa因子、第IX因子または第IXa因子であり得る。
【0024】
別の態様においては、本発明は、膜結合親和力および活性が増大したビタミンK依存性ポリペプチドの同定のための方法である。該方法は、ポリペプチドのGLAドメイン中の少なくとも1個のアミノ酸の置換するようにポリペプチドのGLAドメインを改変すること、改変型のGLAドメインを有するポリペプチドの膜結合親和力と活性をモニターすること、および、改変型ビタミンK依存性ポリペプチドのポリペプチドの膜結合親和力と活性が対応する天然型ビタミンK依存性ポリペプチドと比べて増大した場合にはその改変型を増大した膜結合親和性と活性を有するものとして同定することを含む。好適な置換は上記の通りである。該ポリペプチドは、血塊形成を増加または阻害する。
【0025】
このビタミンK依存性ポリペプチドを、血塊形成障害の治療のための医薬の製造に使用できる。
【0026】
特にほかで定義しない限り、本明細書中で用いる技術用語および科学用語はすべて、本発明の属する技術分野の当業者が通常理解している意味を有する。本発明の実施にあたって、ここに記載するものと類似したまたは等価の方法および材料を使用することができるが、適切な方法および材料を以下に記載する。本明細書中で挙げた刊行物、特許出願明細書、特許明細書、その他の文献はすべて、その全体を参照によりここに含めるものとする。対立する場合には、定義を含む本明細書が優先するだろう。加えて、材料、方法および実施例は単なる例示であって、限定するものではない。
【0027】
本発明の他の特徴および利点は以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかとなろう。
【0028】
詳細な説明
一つの態様において本発明は、対応する天然型のビタミンK依存性ポリペプチドと比較して膜結合親和力を増強する改変型GLAドメインを含むビタミンK依存性ポリペプチドを特徴とする。ビタミンK依存性ポリペプチドの活性もまた増大され得る。ビタミンK依存性ポリペプチドは、それらの生合成過程において、ビタミンKを利用してタンパク質前躯体のグルタミン酸残基の側鎖をカルボキシル化するタンパク質群である。GLAドメインはポリペプチドのN末端領域において、典型的にはアミノ酸1からアミノ酸45付近に9〜13のγ−カルボキシグルタミン酸残基を含む。ビタミンK依存性ポリペプチドの例としては、プロテインZ、プロテインS、第X因子、第II因子(プロトロンビン)、第IX因子、プロテインC、第VII因子およびGas6がある。本明細書に記載のポリペプチドのアミノ酸位置は、第IX因子に従って番号を付けた。プロテインS、プロテインC、第X因子、第VII因子およびヒトプロトロンビンのいずれもアミノ酸が1つ少ない(第4位)ので、それらの番号付けを調整しなければならない。例として、ウシプロテインCの事実上の第10位はプロリンであるが、容易に比較するために本明細書においては全体にわたってアミノ酸11と番号を付ける。本明細書中で用いられる「ポリペプチド」なる語は、アミノ酸長または翻訳後修飾に拘わらず、任意のアミノ酸鎖のことである。本明細書においてアミノ酸は標準の3文字または1文字略号により表記している。
【0029】
GLAドメインにおける改変は少なくとも1個のアミノ酸置換を含む。その置換は保存的または非保存的である(すなわち1〜10の置換)。保存的アミノ酸置換では1アミノ酸が同種の1アミノ酸と置き換わるが、非保存的アミノ酸置換では1アミノ酸が異種の1アミノ酸と置き換わる。非保存的置換の結果、ポリペプチドの疎水性またはアミノ酸残基側鎖の嵩だかさの実質的な変化が生じることもある。さらに、非保存的置換は、ポリペプチドの電荷において電気的陽性電荷を減少または電気的陰性電荷を導入するような実質的な変化を生じさせることもある。非保存的置換の例として、非極性アミノ酸に対して塩基性アミノ酸または酸性アミノ酸に対して極性アミノ酸が含まれる。そのアミノ酸置換はアミノ酸2、5、9、11、12、29、33、34、35または36、およびそれらの組合せにおいて生じ得る。好ましくは、アミノ酸11、33または34においてアミノ酸置換が生じる。改変型GLAドメインは、カルシウム飽和状態において電気的陰性電荷のかさ(halo)と共に陽イオン性のコア(core)を有する三次構造の形成に寄与するアミノ酸配列を含み得る。最も親和性の高いタンパク質はアミノ酸35および36にわたり広がる負の電荷を有する。特定の理論に拘束されずに、電気的陰性の表面に完全に取り囲まれた電気的陽性のコアからなる特定の静電気パターンにより、増強された膜親和力が生じることもある。
【0030】
さらに、該GLAドメインの改変は、ビタミンK依存性ポリペプチドの位置4における挿入が含み得る。好適なポリペプチドは、ビタミンK依存性ポリペプチドの配列アラインメントに基づくこの位置でアミノ酸を欠失している(プロテインS、プロテインC、第X因子、第VII因子およびヒトプロトロンビン)。
【0031】
多数のビタミンK依存性ポリペプチドは膜結合酵素の基質である。ビタミンK依存性ポリペプチドは最大ポテンシャル(potential)のGLAドメイン膜結合親和力を全く示さないので、ビタミンK依存性ポリペプチドの全ては結合親和力を減少させるためのアミノ酸を含む必要がある。結果的に、多数のビタミンK依存性ポリペプチドは最大膜結合親和力の見地からすれば最適でないアミノ酸を含んでいる。これらのアミノ酸残基は結合部位を効果的に壊し、酵素反応のためのより迅速な代謝回転を提供する。
【0032】
低下した膜親和力はいくつかの目的に役立つ効果がある。高い親和力には反応速度を制限しうるゆっくりとした交換(slow exchange)が伴う。例えば、プロトロンビナーゼ酵素が基質に対して高い親和力をもって膜上に集合した際に、酵素触媒作用よりむしろ膜からのタンパク質の交換が律速段階である。Lu, Y.および Nelsestuen, G.L. (1996) Biochemistry, 35:8201-8209を参照されたい。あるいは、非最適アミノ酸による置換によって膜親和力を調節すると、前血液凝固(procoagulation)(第X、第IX、第VII因子およびプロトロンビン)と抗血液凝固(anticoagulation)(プロテインC、S)との競合過程のバランスを保つことができる。天然タンパク質の膜親和力は通常状態においては最適であるが、膜親和力の増強により、in vivoにおける病理学的症状において血液凝固を制御するための治療の改善とならびにin vitro研究において有用なタンパク質を産生可能とする。
【0033】
GLAドメインのが改変されたビタミンK依存性ポリペプチドの種々の例を以下に記載する。
【0034】
ビタミンK依存性ポリペプチドはプロテインCまたは活性化プロテインC(APC)でありうるだろう。表1に野生型ヒトプロテインC(hC、配列番号1)およびウシプロテインC(bC、配列番号2)GLAドメインのアミノ酸配列を示した。XはGlaまたはGlu残基である。一般的に、第11、33、34、35および36位において中性残基(例えばQである)または塩基性残基(例えばD、Eである)を含むタンパク質は、膜親和力が高い。
【表1】

【0035】
プロテインCまたはAPCのGLAドメインは、アミノ酸11、12、29、33、34、35または36、およびそれらの組合せを含んでもよい。例えば、改変型GLAドメインはアミノ酸33においてグルタミン酸またはアスパラギン酸残基を含みうる。改変型GLAドメインはアミノ酸12のグリシン残基のセリンへの置換を含んでもよく、またさらにアミノ酸33のグルタミン酸残基、およびアミノ酸34のアスパラギン酸残基またはグルタミン酸残基を含んでもよい。第33位のグルタミン酸はin vivoにおいて更にγ−カルボキシグルタミン酸に修飾されうる。最適活性のために、改変型GLAドメインはアミノ酸11において更なる置換を含んでもよい。例えば、グルタミン残基はアミノ酸11において置換されてもよく、または代わりに、グルタミン酸またはアスパラギン酸残基が置換されてもよい。ヒスチジン残基はウシプロテインCにおけるアミノ酸12において置換されてもよい。プロトロンビンに見られるアミノ酸であるフェニルアラニンによるアミノ酸29の置換(配列番号25)は、もう一つの有用な改変である。位置34においてフェニルアラニン、ロイシンまたはイソロイシンが置換されていてもよい。またアミノ酸35で、グルタミン酸またはアスパラギン酸残基が、またはアミノ酸36でグルタミン酸が置換されていてもよい。このように、改変型プロテインCは、例えば、1個以上の置換を、11、12、29、33、34、35または36で、例えば、残基12と33、残基12と34、残基33と34、残基12と35、残基33と35、残基12と36、残基33と36、残基11、12、33と34、残基12、33と34、残基12、33、と35、残基12、33、34と35、または残基12、33、34、35と36で含み得る。増強された膜結合親和力をもつ改変型プロテインCは、へパリンのような他の注射可能な抗血液凝固剤(anticoagulant)の代用として、または組み合わせて利用できるだろう。へパリンは典型的に大部分のタイプの外科手術において用いられるが、低い効力/毒性(efficacy/toxicity)比を有している。位置11のグルタミン、12のグリシン、33のグルタミン酸および34のアスパラギン酸を含むAPCは、血塊形成の阻害に関して、野生型APCよりも少なくとも10倍高い効果を有する。更に、増強された膜親和力をもつ改変型プロテインCはクマリン(coumarin)ファミリーにおけるワルファリン(warfarin)のような経口抗血液凝固剤(アスピリンおよび抗血液凝固剤を含む)の代用として、または組み合わせて利用できるだろう。
【0036】
活性部位改変型APCでは、上記の改変もなし得る。化学的には、例えば、N−ダンシル−グルタミルグリシルアルギニルクロロメチルケトン(DEGR)、フェニルアラニル-フェニルアラニル-アルギニルクロロメチルケトン(FFR)により、または活性部位の部位特異的突然変異誘発により、APCの活性部位を不活性にすることができる。Sorensen, B.B.ら, (1997) J. Biol. Chem., 272:11863-11868を参照されたい。活性部位改変型APCはプロトロンビナーゼ複合体のインヒビターとして機能する。活性部位改変型APCの増強された膜親和力は、治療においてより効果的なポリペプチドとなしうる。
【0037】
ビタミンK依存性ポリペプチドは第VII因子または活性型の第VII因子、第VIIa因子であるだろう。本来のすなわち天然の第VII因子ポリペプチドは膜に対し、低い親和力をもつ。表2に野生型ヒト第VII因子(hVII、配列番号3)およびウシ第VII因子(bVII、配列番号4)GLAドメインのアミノ酸配列を示した。
【表2】

【0038】
第VII因子または第VIIa因子のGLAドメインは、例えばアミノ酸11、29、33、34、35または36、およびそれらの組合せにおける置換を含んでもよい。第VII因子または第VIIa因子の改変型GLAドメインは、例として、アミノ酸11においてグルタミン酸、グルタミン、アスパラギンまたはアスパラギン酸残基を含むか、アミノ酸29においてフェニルアラニンまたはグルタミン酸残基を含むか、またはアミノ酸33または35においてアスパラギン酸またはグルタミン酸残基を含むことができる。他の中性の残基もまた、これらの位置で置換され得る。この改変GLAドメインは、位置34、35および36の1以上で疎水性残基を含んでもよい。改変GLAドメインは、アミノ酸残基11と29、残基11と33、残基11と35、残基11、33と35、残基11、29と33、残基11、29、33と35、残基29と33、残基29と35、または残基29、33と35においてそのような置換の組合せを含み得る。例えば、第VII因子または第VIIa因子のGLAドメインは、アミノ酸11のグルタミン残基とアミノ酸33のグルタミン酸残基、またはアミノ酸11のグルタミン残基とアミノ酸29のフェニルアラニン残基を有する。また改変GLAドメインは、上記のアミノ酸11、29、33および35での1以上の置換と組み合わせて、アミノ酸34での置換を含んでもよい。例えば、フェニルアラニン、またはロイシンやイソロイシンなどの他の疎水性残基が、アミノ酸34、35および/または36で置換されていてもよい。さらに、改変GLAドメインは、位置4への挿入(チロシンまたはグリシン残基など)を単独で、または上記の置換とともに含んでもよい。位置4へ挿入されたチロシン残基を、位置11のグルタミン残基、位置33のグルタミン酸残基、および位置34のフェニルアラニン残基とともに有する第VII因子は、野生型第VIIa因子の160倍高い活性となった。
【0039】
これらの様式で改変された第VII因子および第VIIa因子は、天然または野生型のポリペプチドよりも膜に対してはるかに高い親和力がある。第VII因子および第VIIa因子はまた、自己活性化、第Xa因子生成、および複数の血液凝固アッセイにおいてはるかに高い活性を示す。活性は組織因子および/またはリン脂質の低レベルのような限界の血液凝固状態において、特に増強される。例として、改変型第VII因子は最適トロンボプラスチンレベルにおいて天然の第VIIa因子より約4倍効果的であるが、トロンボプラスチンの最適レベルの1%においては約20倍効果的である。限界に近い前血液凝固シグナルがおそらくin vivoにおいてもっとも支配的であろう。トロンボプラスチンの最適レベルを用いた現在使用可能な血液凝固アッセイでは、正常な血漿と血友病患者の血漿の凝固時間の差を検出することができない。そのようなサンプル間における凝固の差は、血液凝固アッセイにおいてトロンボプラスチンの非最適レベルまたは希釈トロンボプラスチンを用いたときにのみ検出できる。
【0040】
ビタミンK依存性ポリペプチドのもう一つの例として、活性部位改変型第VIIa因子がある。第VIIa因子の活性部位は、例えばDEGR、FFRにより、または活性部位の部位特異的突然変異誘発により化学的に改変され得る。DEGR改変型第VII因子はいくつかの投与経路による血液凝固の効果的なインヒビターである。Arnljots, B.ら (1997) J. Vasc. Surg., 25:341-346を参照されたい。GLAドメインの改変は活性部位改変型第VIIa因子をより有効にさせうる。好適な置換または挿入は上記の通りである。
【0041】
ビタミンK依存性ポリペプチドはまた第IX因子または活性型の第IX因子、第IXa因子でありうる。活性部位改変型第VIIa因子と同様に活性部位改変型IXaおよびXaは血液凝固のインヒビターとなりうる。活性部位改変型第IXa因子はその補因子である第VIII因子に結合できるが、血塊を形成しないであろう。活性部位改変型第IXa因子(野生型)は、卒中の動物モデルにおいて出血を増やすことなく血液凝固を防ぐ。例えば、Choudhriら、J. Exp. Med., 1999, 190:91-99を参照されたい。
【0042】
野生型のヒト第IX因子GLAドメインのアミノ酸配列(hIX、配列番号5)およびウシ第IX因子GLAドメインのアミノ酸配列(bIX、配列番号6)を表3に示す。例えば、アミノ酸5にバリン残基、ロイシン残基、フェニルアラニン残基、もしくはイソロイシン残基を置換してもよいし、アミノ酸11にアスパラギン酸残基もしくはグルタミン酸残基を、アミノ酸29にフェニルアラニン残基を、またはアミノ酸34もしくは35にアスパラギン酸残基もしくはグルタミン酸残基を置換してもよいし、またそれらを組み合わせてもよい。
【表3】

【0043】
ビタミンK依存性ポリペプチドのさらなる例は、プロテインSである。ヒトプロテインSのアミノ酸配列(hPS、配列番号19)を表4に示す。プロテインSの改変型GLAドメインは、例えば、アミノ酸5、9、34もしくは35に置換を有していてもよく、またそれらを組み合わせて有していてもよい。例えば、アミノ酸5にフェニルアラニン残基を、アミノ酸9にイソロイシン残基、ロイシン残基、バリン残基もしくはフェニルアラニン残基を、またはアミノ酸34もしくは35にアスパラギン酸残基もしくはグルタミン酸残基を置換してもよい。GLAドメイン中の少なくとも1個の置換に加えて、プロテインSはさらに、トロンビン感受性ループ中に置換を有していてもよい。特に、いずれもアルギニン残基であるトロンビン感受性ループ中の残基49、60もしくは70を、例えば、アラニン残基で置換してもよい。
【表4】

【0044】
本発明のビタミンK依存性ポリペプチドはまた、ポリペプチドが活性型に変換されないように不活化された開裂部位を有していてもよい。例えば、不活性化された開裂部位を有する第VII因子は第VIIa因子に変換されないであろうが、依然として組織因子に結合することができるであろう。一般的には、アルギニン残基がビタミンK依存性ポリペプチドの開裂部位に見いだされる。開裂部位を不活化するためにこの位置のアルギニンを任意の残基で置換することができる。特に、第VII因子のアミノ酸152にアラニン残基を置換することが可能である。不活性化された開裂部位をさらに有する本発明のビタミンK依存性ポリペプチドは、阻害剤として機能する。
【0045】
他の態様において、本発明は、対応する天然型ビタミンK依存性ポリペプチドと比べて、ポリペプチドの膜結合親和力を増強する改変型GLAドメインを有するビタミンK依存性ポリペプチドを含む哺乳動物宿主細胞を特徴とする。いくつかの実施形態でビタミンK依存性ポリペプチドの活性を増強することができる。好適なビタミンK依存性ポリペプチドおよびGLAドメインの改変については、上述されている。哺乳動物宿主細胞は、例えば、改変型第VII因子もしくは改変型第VIIa因子を含んでいてもよい。改変型第VII因子もしくは改変型第VIIa因子のGLAドメインは、アミノ酸11およびアミノ酸33にアミノ酸置換を含んでいてもよい。好ましくは、アミノ酸置換は、第VII因子もしくは第VIIa因子のアミノ酸11にグルタミン残基を、アミノ酸33にグルタミン酸残基を含んでいてもよい。好適な哺乳動物宿主細胞は、ビタミンK依存性ポリペプチドのグルタミン酸残基をγ-カルボキシグルタミン酸残基に改変することができる。腎臓および肝臓に由来する哺乳動物細胞は、宿主細胞として特に有用である。
【0046】
改変型ビタミンK依存性ポリペプチドをコードする核酸
本発明の改変型ビタミンK依存性ポリペプチドをコードする単離された核酸分子は、標準的な方法で調製することができる。本明細書中で使用する場合、「単離された」とは、改変型ビタミンK依存性ポリペプチドをコードする遺伝子の一部分もしくは全部に相当する配列を指すが、この配列は、哺乳動物ゲノム中の野生型遺伝子の片側もしくは両側に通常フランキングしている配列が含まれていないものである。単離されたポリヌクレオチドは、例えば、組換えDNA分子であってもよいが、ただし、天然に存在するゲノム中で組換えDNA分子のすぐ隣にフランキングして通常見いだされる核酸配列の一方は除去されるかもしくは存在しないことが前提となる。従って、単離されたポリヌクレオチドとしては、限定されるものではないが、他の配列から独立して個別の分子として存在するDNA(例えば、PCRもしくは制限エンドヌクレアーゼ処理により産生されたcDNA断片もしくはゲノムDNA断片)、ならびにベクター、自己複製プラスミド、ウイルス(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、もしくはヘルペスウイルス)、または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNAに組み込まれた組換えDNAが挙げられる。このほかに、単離されたポリヌクレオチドとして、ハイブリッドポリヌクレオチドもしくは融合ポリヌクレオチドの一部分である組換えDNA分子を挙げることができる。
【0047】
cDNAもしくはゲノムライブラリー内またはゲノムDNA制限消化物を含有するゲルスライス内の100〜100万の他のポリヌクレオチド中に存在するポリヌクレオチドは単離されたポリヌクレオチドとはみなされないことは当業者には自明であろう。
【0048】
単離された核酸分子は長さが少なくとも約14ヌクレオチドである。例えば、核酸分子は長さが約14〜20、20〜50、50〜100ヌクレオチドであってもよいし、または150ヌクレオチドを超えてもよい。いくつかの実施形態では、単離された核酸分子は、全長の改変型ビタミンK依存性ポリペプチドをコードしている。核酸分子は、線状もしくは環状およびセンス配向もしくはアンチセンス配向のDNAであってもRNAであってもよい。
【0049】
例えばオリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発などによって、野生型ビタミンK依存性ポリペプチドをコードする核酸配列中に特定の点変化を導入することができる。この方法では、所望の変化をオリゴヌクレオチド中に組み込み、次いでこれを野生型の核酸にハイブリダイズさせる。DNAポリメラーゼを用いてオリゴヌクレオチドを伸長させることによって、導入された点変化の位置にミスマッチを含みかつDNAリガーゼによりシールされる一本鎖ニックを5’末端に含むヘテロ二本鎖を生成させる。ミスマッチは、大腸菌もしくは他の適切な生物の形質転換の際に修復され、そして改変型ビタミンK依存性ポリペプチドをコードする遺伝子は、大腸菌もしくは他の適切な生物から再び単離することができる。部位特異的突然変異誘発用のキットは、市販品として購入することができる。例えば、Bio-Rad Laboratories, Inc. (Hercules, CA)からMuta-Gene7 in vitro突然変異誘発キットを購入することができる。
【0050】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を用いて突然変異を導入することもできる。例えば、Vallette et al., Nucleic Acids Res., 1989, 17(2):723-733を参照されたい。PCRとは、標的の核酸を増幅する手順もしくは技法を意味する。対象となる領域の端部もしくは典型的には端部を超えた部分から得られる配列情報を利用して、増幅しようとする鋳型の対向する鎖と配列が同等であるオリゴヌクレオチドプライマーを設計するが、突然変異を導入するために、所望の変化を取り込むオリゴヌクレオチドを用いて対象となる核酸配列を増幅する。全ゲノムDNAもしくは全細胞RNAに由来する配列を含めて、DNAおよびRNAに由来する特定の配列を増幅するためにPCRを使用することができる。プライマーは、典型的には、14〜40ヌクレオチド長であるが、10ヌクレオチド〜数百ヌクレオチド長の範囲の長さであってもよい。一般的なPCR法については、例えば、PCR Primer: A Laboratory Manual, Dieffenbach, C.およびDveksler, G.編, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1995に記載されている。
【0051】
改変型ビタミンK依存性ポリペプチドをコードする核酸はまた、化学合成により単一の核酸分子としてまたは一連のオリゴヌクレオチドとしても生成させることができる。例えば、オリゴヌクレオチド対をアニーリングしたときに二本鎖が形成されるようにそれぞれの対が相補性の短いセグメント(例えば、約15ヌクレオチド)を含む形で所望の配列を含有する1対以上の長いオリゴヌクレオチド(例えば、>100ヌクレオチド)を合成することができる。DNAポリメラーゼを用いてオリゴヌクレオチドを伸長させると、オリゴヌクレオチド対ごとに二本鎖の核酸分子が得られ、次にこれをベクター中にライゲートすることができる。
【0052】
改変型ビタミンK依存性ポリペプチドの産生
本発明の改変型ビタミンK依存性ポリペプチドは、該ポリペプチドをコードする核酸配列を発現ベクターのような核酸構築物中にライゲートして、この発現ベクターで細菌宿主細胞もしくは真核宿主細胞を形質転換することにより産生することができる。一般的には、核酸構築物は、ビタミンK依存性ポリペプチドをコードする核酸配列に機能しうる形で連結された調節配列を含んでいる。調節配列は、典型的には遺伝子産物をコードしていないが、その代わりに核酸配列の発現に影響を及ぼす。本明細書中で使用する場合、「機能しうる形で連結された」とは、核酸配列の発現を可能にするように調節配列が核酸配列に結合されていることを意味する。調節エレメントとしては、例えば、プロモーター配列、エンハンサー配列、応答エレメント、もしくは誘導性エレメントを挙げることができる。
【0053】
細菌系では、BL-21のような大腸菌株を使用することができる。好適な大腸菌ベクターとしては、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質を産生するpGEX系のベクターが挙げられるが、これに限定されるものではない。典型的には、形質転換された大腸菌を指数関数的に増殖させ、次いでイソプロピルチオガラクトピラノシド(IPTG)で刺激した後で回収する。一般に、そのような融合タンパク質は可溶性であり、グルタチオン-アガロースビーズに吸着させてから遊離グルタチオンの存在下で溶出させることによって溶解細胞から容易に精製することができる。pGEXベクターは、クローン化標的遺伝子産物がGST部分から放出されるようにトロンビンプロテアーゼ開裂部位または第Xa因子プロテアーゼ開裂部位を含むように設計される。
【0054】
真核生物宿主細胞では、ウイルスをベースとしたいくつかの発現系を利用して改変型ビタミンK依存性ポリペプチドを発現させることができる。ビタミンK依存性ポリペプチドをコードする核酸を、例えば、pBlueBac (Invitrogen, San Diego, CA)のようなバキュロウイルスベクター中にクローン化し、次いで、これを用いて、オートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)多重エンベロープ(multiply enveloped)核多角体病ウイルス(AcMNPV)に由来する野生型DNAと一緒にスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)(Sf9)のような昆虫細胞を共トランスフェクトすることができる。改変型ビタミンK依存性ポリペプチドを産生する組換えウイルスは、標準的な方法で同定することができる。このほか、ビタミンK依存性ポリペプチドをコードする核酸をSV-40ベクター、レトロウイルスベクター、もしくはワクシニアベースのウイルスベクターに導入し、これを用いて好適な宿主細胞に感染させることもできる。
【0055】
改変型ビタミンK依存性ポリペプチドを安定に発現する哺乳動物細胞系は、適切な制御エレメントおよび選択可能なマーカーを含む発現ベクターを用いて産生することができる。例えば、真核生物発現ベクターpCDNA.3.1+(Invitrogen, San Diego, CA)は、例えば、COS細胞、HEK293細胞、またはベビーハムスター腎細胞において改変型ビタミンK依存性ポリペプチドを発現するのに好適である。エレクトロポレーション、DEAEデキストラン媒介トランスフェクション、リン酸カルシウム媒介トランスフェクション、リポソーム媒介トランスフェクション、もしくは他の好適な方法により発現ベクターを導入した後、安定な細胞系を選択することができる。このほか、改変型ビタミンK依存性ポリペプチドを産生するために、一過性にトランスフェクトされた細胞系が使用される。また、小麦胚芽抽出物もしくはウサギ網状赤血球溶解物を用いて改変型ビタミンK依存性ポリペプチドをin vitroにて転写および翻訳してもよい。
【0056】
改変型ビタミンK依存性ポリペプチドは、培地をイムノアフィニティーカラムにアプライすることにより調整細胞培地から精製することができる。例えば、第VII因子に対する特異的結合親和力を有する抗体を用いて改変型第VII因子を精製することができる。このほか、アフィニティクロマトグラフィーと組み合わせてコンカナバリンA (Con A)クロマトグラフィーおよび陰イオン交換クロマトグラフィー(例えばDEAE)を使用することにより第VII因子を精製することもできる。第VII因子に対する特異的結合親和力を有するカルシウム依存性もしくは非依存性モノクロナール抗体を第VII因子の精製に使用することもできる。
【0057】
改変型プロテインCのような改変型ビタミンK依存性ポリペプチドは、陰イオン交換クロマトグラフィー、それに続いて、プロテインCに対する特異的結合親和力を有する抗体を用いたイムノアフィニティクロマトグラフィーにより、精製することができる。
【0058】
改変型ビタミンK依存性ポリペプチドは、標準的な方法を用いて化学的に合成することもできる。タンパク質合成法のレビューについては、Muir, T. W. and Kent, S. B., Curr. Opin. Biotechnol., 1993, 4(4):420-427を参照されたい。
【0059】
医薬組成物
本発明はまた、製薬上許容される担体および哺乳動物において血塊形成を阻止するのに有効な量のビタミンK依存性ポリペプチドを含有する医薬組成物を特徴とする。このビタミンK依存性ポリペプチドは、対応する天然型ビタミンK依存性ポリペプチドと比べて、ポリペプチドの膜結合親和力を増強する少なくとも1個のアミノ酸置換もしくはアミノ酸挿入を有する改変型GLAドメインを含むものである。いくつかの実施形態では、ビタミンK依存性ポリペプチドの活性も増強される。医薬組成物に含まれる有用な改変型ビタミンK依存性ポリペプチドとしては、限定されるものではないが、先に記載したように、プロテインCもしくはAPC、活性部位改変型APC、活性部位改変型第VIIa因子、活性部位改変型第IXa因子、活性部位改変型第Xa因子、またはプロテインSを挙げることができる。医薬組成物はまた、アスピリン、ワルファリン、またはヘパリンのような抗凝血剤を含有してもよい。
【0060】
哺乳動物において血塊形成を阻止するのに有効なビタミンK依存性ポリペプチドの濃度は、投与する化合物の好ましい用量、利用する化合物の化学的特性、配合賦形剤の処方および投与の経路を含めていくつかの要因に依存して変化する可能性がある。また、投与する医薬組成物の最適用量は、特定の患者の全体的健康状態および選択された化合物の相対的生物学的効力のような変数に依存する可能性がある。これらの医薬組成物はin vivoで凝血を調節するために使用することが可能である。例えば、この組成物は、一般に、血栓症を治療するために使用することが可能である。先に述べたようにポリペプチド中のアミノ酸残基を少しだけ変更しても、一般には、変異型ポリペプチドの抗原性は有意な影響を受けない。
【0061】
改変型GLAドメインを含むビタミンK依存性ポリペプチドは、製薬上許容される非毒性の賦形剤もしくは担体と混合することにより製剤化して医薬組成物にすることが可能である。そのような化合物および組成物は、非経口投与を行うために、特に、生理学的緩衝水溶液中の液剤もしくは懸濁剤の形態で、経口投与を行うために、特に、錠剤もしくはカプセル剤の形態で、または鼻腔内投与を行うために、特に、散剤、点鼻剤もしくはエアゾール剤の形態で調製することが可能である。所望により、他の投与経路に用いるための組成物を標準的な方法により調製することが可能である。
【0062】
非経口投与を行うための製剤には、一般的な賦形剤として、滅菌水もしくは生理食塩水、ポリエチレングリコールのようなポリアルキレングリコール、植物起源の油、硬化ナフタレンなどが含まれていてもよい。特に、生体適合性生分解性のラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマー、もしくはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマーは、in vivoで本発明の化合物の放出を制御するための賦形剤の例である。他の好適な非経口送達系としては、エチレン-ビニルアセテートコポリマー粒子、浸透ポンプ、埋植可能な注入系、およびリポソームが挙げられる。吸入投与を行うための製剤には、所望により、ラクトースのような賦形剤が含まれていてもよい。吸入製剤は、例えば、ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル、グリココレートおよびデオキシコレートを含有する水性溶液であってもよいし、または点鼻剤の形態で投与するための油性溶液であってもよい。所望により、鼻腔内に適用するためのゲル剤として化合物を製剤化してもよい。非経口投与を行うための製剤にはまた、バッカル投与を行うためにグリココレートが含まれていてもよい。
【0063】
このほかの実施形態において、本発明はまた、製薬上許容される担体および哺乳動物において血塊形成を増加させるのに有効な量のビタミンK依存性ポリペプチドを含有する医薬組成物を特徴とする。このビタミンK依存性ポリペプチドは、対応する天然型ビタミンK依存性ポリペプチドと比べて、ポリペプチドの膜結合親和力を増強する少なくとも1個のアミノ酸置換を有する改変型GLAドメインを含むものである。これらの医薬組成物は、血友病A、血友病Bおよび肝臓病のような凝血障害を治療するのに有用であると考えられる。
【0064】
この実施形態では、医薬組成物に含まれる有用なビタミンK依存性ポリペプチドは、限定されるものではないが、第VII因子もしくは第VII因子の活性型である第VIIa因子を含有することができる。第VII因子もしくは第VIIa因子の改変型GLAドメインは、アミノ酸11およびアミノ酸33に置換を含んでいてもよい。例えば、アミノ酸11にグルタミン残基を、アミノ酸33にグルタミン酸残基を含んでいてもよい。医薬組成物にはさらに、可溶性組織因子が含まれていてもよい。第VII因子は、凝血カスケードの開始点に位置しかつ第IX因子と第X因子の2種のタンパク質を活性化する能力があるため、血液を凝固させるのに特に重要である。第VIIa因子による第X因子の直接的活性化は、血友病の主要な形態であるA型およびB型の可能性のある治療を行うのに重要である。なぜなら、第IX因子および第VIII因子の関与する過程が完全にバイパスされるからである。第VII因子を患者に投与したところ、血友病のいくつかの形態を治療するのに有効であることが判明した。GLAドメインの改変により第VII因子もしくは第VIIa因子の膜親和力を改良すると、ポリペプチドが多くの凝血状態に対しより応答するようになったり、必要なVII/VIIaの用量が低減したり、第VII因子/第VIIa因子を投与しなければならない間隔が長くなったり、より有効な治療が行われるさらなる質的変化を生じたりする可能性が得られる。全体として、第VII因子の膜接触部位を改良すると、その活性化速度が増加するだけでなく、第X因子もしくは第IX因子に対する第VIIa因子の活性も改良される可能性がある。これらの過程は、in vivoにおいて全体的血液凝固速度に対して相乗的効果を有する可能性があり、結果として、いくつかの血液凝固障害の優れた治療を行うための非常に効力の強い第VIIa因子が得られる。
【0065】
血塊形成を増加させるための他の有用なビタミンK依存性ポリペプチドとしては、第IX因子と第IXa因子、および第X因子と第Xa因子が挙げられる。他の態様において、哺乳動物における血塊形成の低減方法について説明する。この方法には、哺乳動物において血塊形成を低減させるのに有効な量のビタミンK依存性ポリペプチドを投与することが含まれる。このビタミンK依存性ポリペプチドは、対応する天然型ビタミンK依存性ポリペプチドと比べて、ポリペプチドの膜結合親和力を増強する改変型GLAドメインを含むものである。いくつかの実施形態では、活性も増大される。改変型GLAドメインは、少なくとも1個のアミノ酸置換を有している。GLAドメインに置換を有している改変型プロテインCもしくはAPC、プロテインS、または活性部位改変型第VIIa因子、第IXa因子および第Xa因子は、この方法に使用することが可能である。この方法にはさらに、抗凝血剤を投与することが含まれていてもよい。別の態様において、本発明は哺乳動物において血塊の形成を増加させるのに有効な量のビタミンK依存性ポリペプチドを投与することを含む哺乳動物において血塊の形成を増加させる方法を特徴とする。ビタミンK依存性ポリペプチドは、対応する天然型ビタミンK依存性ポリペプチドと比べてポリペプチドの膜結合親和力を増強する改変型GLAドメインを含む。改変型GLAドメインは少なくとも1個のアミノ酸置換を含む。改変型第VII因子または第VIIa因子および改変型第IX因子または第IXa因子を本方法に使用できる。
【0066】
本発明を下記の実施例において更に説明するが、特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を制限するものではない。
【0067】
(実施例)
実施例1 膜親和力と活性の増強された第VII因子
ヒト血液凝固第VII因子の膜結合親和力は、部位直接的な突然変異誘発によって増強され得ることが見出された。P11Q,K33E変異体〔本明細書中では、第VIIQ11E33因子または、変異型第VII因子という(配列番号30)〕の性質が特徴づけられた。膜親和力は、野生型タンパク質に対して約20倍増強された。変異体による自己活性化は、野生型第VII因子に比べて、少なくとも100倍増強された。活性型のVIIQ11E33( VIIaQ11E33とする )は、第X因子に対して約10倍高い活性を示した。正常血漿中の可溶性組織因子存在下でのVIIaQ11E33の凝血活性は、野生型VIIaの活性より約10倍高かった。正常な組織因子(トロンボプラスチン‐HSの1:100希釈物として供給)存在下における、チモーゲン、VIIQ11E33の凝血活性は、野生型第VII因子に比べて20倍高かった。活性が増強される程度は諸条件に左右され、凝血刺激が低い条件下でVIIQ11E33は特に活性であった。
【0068】
一般的に、タンパク質濃度は、標準品としてウシ血清アルブミンを使用するブラドフォードアッセイによって測定した( Bradford, M. M., 1976, Analyt. Biochem. 248-254)。 モル濃度は、分子量を第VII因子については50,000、第X因子については55,000として得られた。指示されない限り、全ての活性測定は、標準バッファー(0.05 M Tris, pH 7.5, 100mM NaCl)中で実施した。
【0069】
変異型第VII因子の産生
変異型第VII因子を、野生型第VII因子cDNA(GenBank受け入れ番号M13232, NID g182799)から作製した(Petersenら、1990,Biochemistry 29 : 3451-3457)。 P11Q変異(アミノ酸11のプロリン残基のグルタミン残基への変換)とK33E変異(アミノ酸33のリシン残基のグルタミン酸残基への変換)を、PCR法で、野生型第VII因子cDNAに誘導した。(Valletteら、1989, Nucreic Acid Res. 17:723-733)。この工程において、変異診断用XmaIII制限酵素部位が排除された。4つのPCRプライマーを、M13232の2つの変異フラグメント(一方は位置221〜301のMluIからBglIIまで、他方は位置302〜787のBglIIをからSstIIまで)の合成を開始するために設計した。これらのプライマーを用いて、標準のPCRサイクル条件(GENEAMP, Perkin Elmer)において、フラグメントの合成を開始した。その際鋳型として1 ngの野生型第VII因子cDNAを用いた。得られたフラグメントをゲル精製し、MluIとBglII、またはBglIIとSstIIで消化した。そして、2つの精製したフラグメントを発現ベクター Zem219b(対応する野生型配列を、MluI-SstIIフラグメンとして取り除いてある)中の第VIII因子cDNAに結合した(Petersenら、1990, 前掲)。変異したフラグメントの全体の配列決定を行って、P11QとK33Eの置換を確認し、PCRに誘導されるその他の配列変化の可能性を排除した。
【0070】
トランスフェクション、選択、精製
ベビーハムスター腎(BHK)細胞を、10%のウシ胎児血清とペニシリンストレプトマイシンを補ったダルベッコ改良イーグル培地に増殖させた。サブコンフルエントな細胞を、製造業者の薦めにより、リポフェクトアミン(lipofectAMINE; Gibco BRL )を用いて第VII因子発現プラスミドでトランスフェクトした。2日間、あらかじめトランスフェクトした後、細胞をトリプシンで処理し、1μMのメトトレキセート(MTX)を含む選択培地に希釈した。安定にトランスフェクトされたBHK細胞を、続いて、ペニシリンストレプトマイシン、5μg/mLのビタミンK1、そして1μMのMTXを補った血清を含まないダルベッコ改良イーグル培地で培養し、ならし培地を回収した。ならし培地は、Affi-Gel 10に結合したカルシウム依存性モノクロナール抗体(CaFVII22)を含む免疫アフィニティーカラムに2度アプライした(Nagasakiら、1991, Biochemistry, 30 : 10819-10824)。 最終的に精製された第VIIQ11E33因子は、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動において、単一のバンドとして泳動し、調製物中には、第VIIa因子の形跡はなかった。純粋なVII(P11Q,K33E)変異体は1400〜2800 第VII因子units/mgを示した。
【0071】
第VII因子の活性化
活性型第VIIaQ11E33因子は、VIIQ11E33を第Xa因子で開裂することによって生成した( 重量比1:100、37℃で1時間インキュベーション)。または、第VIIaQ11E33因子は、7μMのVIIQ11E33と0.7μMのsTFとリン脂質〔ホスファチジルセリン/ホスファチジルコリン(PS/PC), 25/75, タンパク質1gあたり0.1 g〕の混合物中で、自己活性化により得られた(37℃,20 分)。
【0072】
野生型第VIIa因子は、均一な組換えタンパク質である(NOVO Nordisk)。2つの調製物は、市販の凍結乾燥製品と非凍結乾燥製品からなるものである。後者のタンパク質を、FPLC mono-Qでさらに精製したところ、80,000 units/mg の特異的な活性(Geroge King NPP 標準でキャリブレーション)を示した。
【0073】
第VIIQ11E33因子によって増強された膜相互作用
リン脂質の調製、タンパク質−膜結合のアッセイと測定はNelsestuenとLimによって開示された方法で実施した(1977, Biochemistry, 30 : 10819-10824)。大きな単ラメラ小胞(LUV)と小さな単ラメラ小胞(SUV)は、以前に開示された方法で調製した(Hope, M.J.ら、Bilchem. Biophys. Acta., 812 : 55-65 ; Huang, C., 1969, Biochemistry, 8 : 344-352)。 高純度のホスファチジルセリン(ウシ脳)と卵ホスファチジルコリン(Sigma Chemical Co.)をクロロホルム中で混合した。溶媒は、窒素ガス流で取り除いた。乾燥させたリン脂質をバッファー中で懸濁させた。SUVは、超音波処理とゲル濾過によって作製し、一方、LUVは凍結−融解と押出しによって作製した。リン脂質の濃度は、リン:リン脂質重量比を25と仮定して、有機リン酸アッセイにより決定した。
【0074】
PS/PC (25/75)またはPS/PC (10/90)のいずれかのSUVを調製した。タンパク質を図1に示す重量比でリン脂質に加えた。タンパク質-膜結合は、Nelsestuen とLimの方法(1977,前掲)で90℃において光散乱によってアッセイした。簡単に言うと、リン脂質小胞単独(I1)とタンパク質を加えたもの(I2)の光散乱強度を測定し、バッファーと未結合のタンパク質によるバックグラウンドについて、補正した。タンパク質-小胞複合体(M2)の小胞単独のもの(M1)に対する分子量比を、式1の関係から見積もることができる。この式において、δn/δcは個々の種の屈折率である。
【0075】

I2 / I1 = (M2/M1)2 (δn/δc2/δn/δc1)2 (式 1)

リン脂質とタンパク質の濃度がわかっていれば、結合したタンパク質 [P*PL] と遊離のタンパク質 [P] の濃度を見積もることができる。これらの値を、小胞のタンパク質結合能の最大値 [P*PLmax](すべてのタンパク質に関して1.0 g/gであると仮定する)とともに用いることにより、式 2の関係から、タンパク質と膜の相互作用の平衡定数が得られる。式 2において、全ての濃度は、モルタンパク質またはタンパク質結合部位として表されている。
【0076】

KD = [P] [P*PLmax-P*PL] / [P*PL] (式 2)

結合を、5 mMのカルシウムで評価し、M2/M1の比で表した。
【0077】
図1は、野生型第VIIa因子(白丸)と第VIIQ11E33因子(黒丸)のPS/PC=25/75, 25μg/ml(図1A)または、PS/PC = 10/90 , 25μg/ml(図1B)の膜への結合を示している。VIIQ11E33は、野生型タンパク質よりも、かなり高い親和力を有していた。PS/PC (25/75)への結合は、定量的なレベルだったので、実質的に[Proteinfree]はゼロであった。解離定数(Kd)をこのデータから見積もることはできなかった。ウシ第X因子(黒三角)の膜結合は、図1に対照標準として示す。ウシ第X因子はこのファミリーのなかで、最も親和力のあるタンパク質のうちのひとつであり、カルシウム2 mMのとき、PS/PC (20/80)の解離定数(Kd) 40 nMを与える(McDonald ら、1997, Biochemistry, 36 : 5120-5127) 。タンパク質/リン脂質の比が0.55であるときの結果(図1)から得られたウシ第X因子の解離定数(Kd)は、0.025μMだった。
【0078】
また、野生型および変種型第VII因子のPS/PC (10/90)の膜への結合も測定された(図1B)。VIIQ11E33は、定量的なレベルよりも低いレベルで結合するので結合定数を式 3の関係より見積もることができた。
【0079】

Kd = [Proteinfree] [Binding sitesfree] / [Proteinbound] (式 3)

[Binding sitesfree]は、 M2/M1の最大値を1.0と仮定し、式4の関係から見積もった(すなわち、[Binding sitestotal] = [Phospholipidweight conc./ProteinMW])。これは、このファミリーに属する種々のタンパク質にみられる共通の値である(McDonaldら、1997, 前掲)。
【0080】

[Binding sitesfree] = [Binding sitestotal] - [Proteinbound] (式 4)

これらの仮定およびタンパク質:リン脂質比0.37であるときのデータを用いると、解離定数(Kd)の値はウシ第X因子については0.7μM、野生型第VII因子については5.5μM、VIIQ11E33については0.23μMであった。これより、第VIIQ11E33因子の膜結合力は野生型第VII因子に比べ大幅に増強されたことが明らかとなり、ビタミンK依存性タンパク質の中で最も高い膜結合力を持つもののひとつであるといえる。
【0081】
また野生型第VIIa因子と第VIIa因子-Q11E33との間の差異は、リン脂質ベシクルの組成に関して若干変動することが観察されている。例えば、PS/PE/PC(20/40/40)を含む膜は、第VIIa因子-Q11E33について33倍高い活性をもたらし、一方特定のPS/PC調製物(20/80〜25/75)では、第VIIa因子-Q11E33について10〜19倍高い活性を示した。
【0082】
第VIIQ11E33因子の増強された活性
凝血の最初のステップは、第VII因子の活性化を必要とする。VIIの自己活性化を、100 nMのsTF〔 Walter Kisiel博士から入手した高純度の組換え産物(Fiore ら、1994, J.Biol.Chem., 269: 143-149)〕、36 nMのVIIQ11E33および PS/PC (25/75, 22μg/mL)を含む溶液中で行った。0.15 mmの基質 S-2288(Kabi社)を加えて、p-ニトロフェニルホスフェート生成物の放出速度を405 nMにおける吸光度変化によって評価することにより、VIIaQ11E33の活性を様々な時間的間隔において評価した。VIIQ11E33調製物におけるの初期の活性は、十分に活性のあるVIIaQ11E33の活性の4%にも満たなかった。
【0083】
VIIQ11E33は野生型VII因子よりも活性化のための一層優れた基質であることが見出された。図2 は、VIIQ11E33の自己活性化を示す。このデータを、式 5の関係により解析した(Fioreら、1994, 前掲 における式 7)。
【0084】

ln[VIIa]t = ln[VIIa]0 + kcat*y*t (式 5)

ln[VIIa]tは時間tにおける第VIIa因子の濃度、kcatは第VIIa因子がVIIに作用するときの触媒速度定数、そしてyはVIIa部位の飽和率である。野生型第VIIa因子について、この関係および1 μMのsTFから、0.0045/sのkcatおよび7*103M-1s-1のkcat/Km 比が得られた(Fioreら、1994, 前掲)。 VIIQ11E33酵素については、自己活性化が速く(図2)、kcatの下限を見積もることしかできなかった。これは、第VIIa因子の約25秒の倍化時間から得られた〔kcat = (ln2)/t1/2〕。得られた値(kcatmin=0.03/s)と、この反応における基質濃度(3.6*10-8 M)およびy=1.0とする仮定から、kcat / [S] = 8 * 105 M-1 s-1の値が得られた。この値は、実際のVIIaQ11E33のkcat/Kmの値よりもかなり低いものであるといえる。しかし、Fioreら(1994、前掲)によって見積もれらた野生型VIIa/sTF因子のkcat/Kmの値よりは、約100倍大きいものであった。従って、凝血の活性化ステップにおいては、VIIaQ11E33酵素と基質第VIIQ11E33因子の組合せは、野生型タンパク質よりも優れていた。これは、最低限の凝血条件において、VIIQ11E33が野生型タンパク質よりも優れていることを示唆していた。
【0085】
VIIaQ11E33の増強された活性
ひとたび生成されると、第VIIa因子は、第X因子か第IX因子のいずれかを活性化する。ウシ第X因子(0.1μM)の第VIIa因子による活性化を、pH 7.5の50 mM Tris HClバッファー〔100 mMのNaCl、5 mMのカルシウム、様々な量のリン脂質 (PS/PC, 25/75)、1 mg/mLのウシ血清アルブミンを含む〕中22.5℃で行った。第VIIa因子( 0.06 nMのVIIaQ11E33または0.6 nMの野生型VIIa )をゼロ時間に加え、1分、3分および5分時点におけるXaの活性を測定した。反応混合物のうちの一定量(0.2mL)を10 mMのEDTAおよび第Xa因子に対する色原体基質である0.4 mMのS-2222(Kabi社)を含むバッファー(0.2 mL)と混合した。とした。405 nmにおける吸光度の変化をBeckman DU8 分光光度計で測定した。生成した第Xa因子の量は、p-ニトロフェニルホスフェートの反応生成物の吸光係数(1 * 104 M-1 cm-1)およびこのアッセイ条件下での精製ウシXaによる基質加水分解の速度(33/sec)より算出した。
図3は、野生型第VIIa因子(白丸)とVIIaQ11E33(黒丸)が精製系において第X因子を活性化する能力を比較したものである。この反応においても、再び、VIIaQ11E33の方が野生型第VIIa因子よりもずっと優れていた。この差は、リン脂質の濃度が低いときに最大になり、リン脂質が1 mlあたり200 μgのときは2倍にまで低減した。高い膜濃度では高い割合で野生型VIIaの膜への結合が引き起こされるという事実からも、このような結果は予想された。さらにまた、VIIaQ11E33の増強された機能は、リン脂質が少ない条件下で最も顕著であった。
【0086】
また、活性化された血小板表面上の第X因子を活性化する第VIIa因子の能力を測定した。ウシ血清アルブミンクッション上への遠心分離、およびゲル濾過による単分子性血小板の取得からなる標準的な方法により血小板を単離した。カルシウムイオノホア(A23187)で血小板を活性化し、2×108/mLの濃度に希釈した。緩衝液は、0.05 M Tris、pH 7.5-0.1 M NaClであり、5 mM CaCl2を含有していた。200 nM第X因子と一緒に第VIIa因子もしくはQ11E33-VIIa (50 nM)を添加した。種々の時間間隔で、過剰のEDTAを添加することにより反応を停止させた。生成した第Xa因子の量は、特異的な第Xa因子基質であるS-2222に対するその活性により測定した。既知の第Xa因子の濃度と比較することにより、第Xa因子の量を計算した。20分の時点において、野生型第VIIa因子を含む反応では0.34 nM 第Xa因子が生成し、一方、Q11E33-VIIaを含む反応では7.7 nM 第Xa因子が生成した。このアッセイは、組織因子には左右されず、また生物学的膜を利用している。
【0087】
生物学的膜を用いる他のアッセイを、J82細胞を用いて行った。この細胞系は、その表面上に高レベルの組織因子を発現し、多くの場合、組織因子に結合する第VII因子を調べるために使用される(例えば、Sakai, T. et al., 1989, J. Biol. Chem. 264, 9980-9988)。標準的な方法により細胞を単細胞層として増殖させ、マイルドなトリプシン処理により表面から遊離させた。懸濁液中の細胞による第Xa因子生成の速度を、2 nM活性部位改変型第VIIa因子(DEGR-VIIa)の存在下で測定した。DEGR-VIIaは阻害剤であり、反応に加えられた活性第VIIa因子により組織因子から追い出されるはずである。これは競合反応である。組織因子から活性部位改変型第VIIa因子を第VIIa因子で追い出す尺度として、第Xa因子生成速度を使用した。Q11E33-VIIaは、野生型の第VIIa因子で必要となる濃度の1/28の濃度でDEGR-VIIaを追い出した。この優れた性質は、多くの他の競合アッセイにおいて観測された性質と類似したものであった。
【0088】
VIIaQ11E33の優れた凝血性
凝血アッセイを、血塊の形成を検出するため、ハンドチルト法(hand tilt method)を用いて37℃において行った。ヒト血漿(0.1 mL)は、37℃で1分間、平衡化させた。様々な試薬を0.1 mL容の標準バッファー中に加えた。可溶性組織因子(50 nM)とリン脂質(PS/PC, 10/90, 75 μg/mL)を第VIIa因子と共に血漿に加えた。なお、第VIIa因子の濃度は、図4に示すとおりである(0.1〜32 nM)。最後に0.1 mLの25 mM CaCl2を加え反応を開始させた。血塊が形成される時間を測定した。ほとんどの場合複数回数測定した試料の平均値と標準偏差を記録した。
【0089】
図4は、正常なヒト血漿中のVIIaQ11E33に対する野生型VIIa因子の凝血時間を示したものである。凝血はsTFと添加したリン脂質小胞によって促進された。内因性野生型第VIIa因子の濃度はおよそ10 nMで、実質的には、凝血時間になんら影響を及ぼさなかった。sTF存在下、非存在下におけるバックグラウンド凝血は、120秒であった。第VIIaQ11E33因子は、これらのアッセイ条件において野生型VIIaよりもおよそ8倍高い活性を示した。同様の結果が第VIII因子欠損血漿においても得られ、この系のおもな凝血経路には、第VIIa因子による第X因子の直接の活性化が必要であることが示唆された。全体的に見て、第VIIaQ11E33因子は膜小胞と可溶性組織因子が促進する前凝血活性において野生型VIIaより優れていた。野生型チモーゲンは、同様の2分であるバックグラウンド凝血時間が示すように、sTFを加えたかどうかにかかわらず、これらの条件下で、事実上全く活性を示さなかった。
【0090】
正常な組織因子存在下における前凝血活性
正常な組織因子によって促進される凝血はカルシウムを含む標準ウサギ脳トロンボプラスチン-HS(HSは高感度を意味する)(Sigma Chemical Co.)でアッセイした。この混合物は、リン脂質と膜結合型組織因子の両方を含む。ウサギ脳トロンボプラスチン-HSをバッファーで1:100に希釈し、VII(10 nMの第VII因子を含む正常ヒト血漿の形で添加)およびVIIQ11E33(純粋なタンパク質として添加)のアッセイに用いた。トロンボプラスチン(0.2 mL)を血漿(0.1 mL)に加えて反応を開始させ、血塊を形成するのに要する時間を測定した。また、製造元が示したように十分な濃度のトロンボプラスチンを用いてアッセイを行った。
【0091】
ヒトトロンボプラスチンの最適なレベルでは、野生型VIIは正常なレベルの活性(約1500 unit/mg)を示した。これは、野生型第VIIa因子の活性(80,000 unit/mg)のおよそ25分の1である。VIIQ11E33は標準のアッセイ条件においては1 mgあたりおよそ1500〜3000ユニットで、野生型VIIの2倍にすぎなかった。
【0092】
野生型VIIとVIIQ11E33の差は、凝血条件が最適状態に及ばないときはさらに大きいものであった。図5は正常なトロンボプラスチンの量の0.01倍を含むアッセイにおける凝血時間とチモーゲンの濃度を示す。これらの条件下で、VIIQ11E33は野生型第VII因子に比べおよそ20倍の活性があった。このように、VIIQ11E33変異体のより大きな効力は、in vivoでの多くの状況に関連する制限された凝血条件下において特にはっきりあらわれた。
【0093】
DEGR-VIIaQ11E33の抗凝血活性
標準的な凝血アッセイは正常なヒト血清とバッファーに1:10で希釈したヒトトロンボプラスチンを用いて行った。第VIIaQ11E33因子の活性部位をSorenson, B.B.ら、(1997,前掲)が記載するように、DEGRで改変した。前掲)。図6はカルシウムバッファー中、血漿を加える前に15秒間トロンボプラスチンと共にでインキュベートしたDEGR-VIIaQ11E33(0〜4 nm)の凝血時間を示す。血塊を形成する時間は、ハンドチルト法(hand tilt method)で評価した。凝血時間は、約1 nMのDEGR-VIIaQ11E33でおよそ45秒だった。活性部位改変型第VIIa因子Q11E33は抗血液凝固活性が増大していた。
【0094】
実施例2 - 第VII因子の精製 : コンカナバリンA(Con A)、DEAE、およびアフィニティクロマトグラフィーにより第VII因子(野生型または突然変異型)を精製した。トランスフェクトされた293細胞の粗製培地をCon A樹脂(Pharmacia)と共に4℃で4時間インキュベートした。次に、50 mM Tris、pH 7.5、10 mMベンズアミジン、1 mM CaCl2、および1 mM MgCl2を含有する溶液で樹脂を洗浄し、0.2 M D-メチルマンノシド、0.5 M NaClを含有する50 mM Tris緩衝液、pH 7.5で溶出させた。50 mM Tris、pH 8.0、50 mM NaCl、10 mMベンズアミジン、および25 mM D-メチルマンノシドを用いて第VII因子を一晩透析した。
【0095】
次に、透析した第VII因子をDEAE樹脂(Pharmacia)と共に1時間インキュベートし、混合物をカラムに充填した。50 mM Tris、pH 8.0、10 mMベンズアミジン、および50 mM NaClでDEAEカラムを洗浄し、2 mL/分の流量において、50 mM〜500 mM NaClのグラジエントを有する50 mM Tris緩衝液、pH 8.0で第VII因子を溶出させた。第VII因子活性を有する画分をプールし、50 mM Tris、pH 8.0、50 mM NaCl、および5 mM CaCl2を用いて一晩透析した。Con AおよびDEAEを用いて部分的に精製した第VII因子を、37ECで1時間かけてウシ第Xa因子(重量比1:10、Enzyme Research Laboratory)により活性化させた。
【0096】
活性化された第VII因子をアフィニティクロマトグラフィーによりさらに精製した。Broze et al., J. Clin. Invest., 1985, 76:937-946に記載されているように、第VII因子に対するカルシウム非依存性モノクロナール抗体(Sigma)をaffigel-10 (Bio-Rad Laboratory)に結合させ、そしてアフィニティーカラムを用いて4ECで一晩インキュベートした。50 mM Tris、pH 7.5、0.1 M NaClでカラムを洗浄し、0.2 mL/分の流量において、50 mM Tris、pH 7.5、3 M NaSCNで第VIIa因子を溶出させた。溶出させた画分を、直ちに、50 mM Tris、pH 7.5、0.1 M NaCl中に5倍希釈した。第VIIa因子活性を有する画分をプールし、濃縮し、そして50 mM Tris、pH 7.5、0.1 M NaClを用いて一晩透析した。
【0097】
標準としてBSAを使用してBio-Radタンパク質アッセイキットにより第VIIa因子のタンパク質濃度を測定した。還元および変性条件下でのクマシーゲルおよびウェスタンブロットにより、第VIIa因子の純度をアッセイした。トロンボプラスチン(Sigma)の存在下で合成ペプチド基質spectrozyme-FVIIa (American Diagnostica)を用いて第VIIa因子のタンパク質分解活性を測定した。精製した第VIIa因子は、0.1 mg/ml BSA、0.1 M NaCl、50 mM Tris、pH 7.5中に-80ECで保存した。
【0098】
標準的なin vitro凝血アッセイ(およびそれらの変形実施例)を用いて、特に、プロトロンビン時間(PT)アッセイおよび活性化部分トロンボプラスチン(aPTT)アッセイを用いて、第VIIa因子突然変異体の凝血促進効果を評価した。プールした正常ヒトドナー血漿中および凝血因子欠損(第VIII因子、第IX因子、第VII因子)ヒト血漿(Sigma)中において、種々の濃度の第VIIa因子突然変異体を評価した。0.3 mLプローブを用いるFibroSystem fibrometer (BBL)およびSysmex CA-6000 Automated Coagulation Analyzer (Dade Behring)の両方を用いて37ECで凝血時間を測定した。
【0099】
プールした正常ヒトドナー血液から血小板欠乏血漿(PPP)を調製した。各健常ドナーからクエン酸塩添加(3.2%クエン酸ナトリウム緩衝液0.5mL)Vacutainer管に血液(4.5mL)を採取した。2,000gで10分間遠心分離した後、血漿を取得し、使用するまで氷上で保存した。製造業者の取扱説明書に従って、購入した因子欠損血漿を再構成した。第VIIa因子突然変異体の各ストックを血漿に全て加えて段階的な希釈液を調製した。使用するまで、すべての血漿(第VIIa因子突然変異体を含むものと含まないもの)を氷上で保存した。全ての場合において、血塊形成時間を測定した。反復サンプルの平均および標準偏差を記録した。
【0100】
次のPT試薬: トロンボプラスチンC-Plus (Dade)、Innovin (Dade)、カルシウム添加トロンボプラスチン(Sigma)、もしくはカルシウム添加トロンボプラスチンHS (Sigma)のいずれかを用いて血漿(第VIIa因子突然変異体の添加された段階的な希釈液を含むものと含まないもの)中でプロトロンビン時間(PT)アッセイを行った。アッセイは、製造業者の取扱説明書に従って行った。製造された最大濃度でPT試薬を使用した以外に、PT試薬の種々の希釈液を用いてPTアッセイを行った。全ての場合において、血塊形成時間を測定した。反復サンプルの平均および標準偏差を記録した。
【0101】
アクチンFS (Dade)もしくはAPTT試薬(Sigma)のいずれかを用いて血漿(第VIIa因子突然変異体の添加された段階的な希釈液を含むものと含まないもの)中で活性化部分トロンボプラスチン(aPTT)アッセイを行った。アクチンFS (Dade)に対しては0.025M CaCl2 (Dade)を、APTT試薬(Sigma)に対しては0.02M CaCl2 (Dade)を用いて凝血を開始させた。アッセイは、製造業者の取扱説明書に従って行った。製造された最大濃度でaPTT試薬を使用した以外に、aPTT試薬の種々の希釈液を用いてaPTTアッセイを行った。いずれの場合においても、血塊形成時間を測定した。反復サンプルの平均および標準偏差を報告した。
【0102】
様々な濃度のリン脂質ベシクル[PS/PCもしくはPS/PC/PEの比を変化させた(PE=ホスファチジルエタノールアミン)]を血漿(第VIIa因子突然変異体の添加された段階的な希釈液を含むものと含まないもの)に添加して、37℃において凝血アッセイを行った。20 mM CaCl2の添加により凝血を開始させた。標準的な緩衝液に様々な試薬を添加した。全ての場合において、血塊形成時間を測定した。反復サンプルの平均および標準偏差を記録した。
【0103】
製造業者の取扱説明書に従ってSTACLOT VIIa-rTFキット(Diagnostica Stago)を用いて、特異的第VIIa因子凝血活性を血漿(第VIIa因子突然変異体を含むものと含まないもの)中で評価した。このキットは、活性型FVIIに対する定量的凝血アッセイに基づくものである(Morrissey et al., 1993, Blood, 81(3):734-744)。0.3 mLプローブを用いるFibroSystem fibrometer (BBL)およびSysmex CA-6000 Automated Coagulation Analyzer (Dade Behring)の両方を用いて凝血時間を測定した。
【0104】
実施例3 ラットにおける第VIIQ11E33因子の循環時間
0時間において、ナトリウムネンブタールで麻酔したSprague Dawleyラット(325〜350g)2匹に、36μgの第VIIQ11E33因子を注射した。注射はカニューレがはめ込まれた頸静脈に行った。図7に示す時間毎に、手術によってカニューレを挿入した頸動脈から血液を採取した。ヒト第VII因子欠損血漿にラット血漿の1:10希釈物を1 μL加え、その凝血時間によって循環中の第VIIQ11E33因子の量を見積もった。ウサギ脳トロンボプラスチン-HS(Sigma Chemical Co.)の1:100希釈物を用いた。凝血は、実施例1に記載の手動チューブチルト法によって評価した。第VIIQ11E33因子を注入する前の血漿中の第VII因子活性の量を測定し、ブランクとみなして差し引いた。循環中の第VIIQ11E33因子の濃度は、log nMで与えられる。3番目の動物に手術を施し、カニューレは挿入しても第VIIQ11E33因子を注入しない模擬実験を実施した。その動物内の第VII因子活性の量は、実験時間(100分)を通して変化しなかった。実験の最後に動物は、過剰のナトリウムネンブタールによって安楽死させた。
【0105】
ラットは、実験を通じて、凝血の形跡もなく正常のように見えた。つまり、第VIIQ11E33因子は手術後のラットにおいてさえ、やたらに凝血を引き起こさなかった。第VIIQ11E33因子の循環寿命は正常で(図7)、おおよそ40%のタンパク質が約60分で消失し、残ったタンパク質はさらにゆっくりと消失した。これは、ラットからウシのプロトロンビンが消失する速度に近い。( NelsestuenとSuttie, 1971, Biochem, Biophys. Res. Commun.,45: 198-203 )これは、機能アッセイの循環半減期が20分〜45分である野生型組換え第VIIa因子よりも優れている。(Thomsen,M.K.ら、1993, Thromb. Haemost., 70 : 458-464 )これは、第VIIQ11E33因子が異常なタンパク質として認識されず、そのため、凝固活性によって急速に破壊されなかったことを示した。第VIIQ11E33因子は正常なタンパク質として出し、動物のなかで標準の循環寿命を有するといえる。
【0106】
実施例4 膜部位の亢進とプロテインCの活性
ウシおよびヒトのプロテインCは、ヒトタンパク質の膜親和力が約10倍高いにも関わらず、それらのGLAドメイン(アミノ末端44残基)のアミノ酸は高度の相同性を示す。ウシプロテインCは位置11にプロリンを含有するのに対し、ヒトプロテインCは位置11にヒスチジンを含有する。ウシプロテインCのプロリン-11をヒスチジンに置き換えることおよびヒトプロテインCにおけるその逆の変化の影響を試験した。両事例ともに、プロリン-11を含有するタンパク質はより低い膜親和力を示し、ウシプロテインCについては約10倍、そしてヒトプロテインCについては5倍であった。位置11にプロリンを含有する活性型ヒトプロテインC(hAPC)は野生型hAPCより、使用したアッセイによるが、2.4〜3.5倍低い活性を示した。ヒスチジン-11を含有するウシAPCは、野生型bAPCより15倍までの高い活性を提示した。これは、変異により膜接触および活性の両方を改善する能力を実証した。
プロテインCの突然変異誘発
全長ヒトプロテインC cDNAクローンは、ヨハン・ステンフロ博士(Dr. Johan Stenflo, Dept. of Clinical Chemistry, University Hospital, Malmo, Sweden)より提供を受けた。ウシプロテインC cDNAクローンは、ドナルド・フォスター博士(Dr. Donald Foster, ZymoGenetics, Inc., USA)より提供を受けた。GenBank受託番号は、ウシプロテインCのヌクレオチド配列についてはKO2435, NID g163486、そしてヒトプロテインCのヌクレオチド配列についてはKO2059, NID g190322である。
【0107】
部位特異的突然変異誘発をPCR法により実施した。ヒトプロテインCのヒスチジン-11のプロリンへの変異誘発のために、次のオリゴヌクレオチドを合成した:A、5'-AAA TTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG AGA CCC AAG CTT-3'(ベクターpRc/CMV中のヌクレオチド860-895に対応、配列番号7)pRc/CMVとプロテインCの間にHind III部位を作るためである。B、5'-GCA CTC CCG CTC CAG GCT GCT GGG ACG GAG CTC CTC CAG GAA-3'(ヒトプロテインCのアミノ酸残基4-17に対応し、この配列の第8残基は下線で示したようにヒトプロテインCの残基からウシプロテインCの残基に変異を受けている、配列番号8)。
【0108】
ウシプロテインCのプロリン-11のヒスチジンへの突然変異誘発のために、次のオリゴヌクレオチドを合成した:A、(上記のとおり);C、5'-ACG CTC CAC GTT GCC GTG CCG CAG CTC CTC TAG GAA-3'(ウシプロテインCのアミノ酸残基4-15に対応し、第6残基は下線でマークしたようにウシプロテインCの残基からヒトプロテインCの残基に変異を受けている、配列番号9);D、5'-TTC CTA GAG GAG CTG CGG CAC GGC AAC GTG GAG CGT-3'(ウシプロテインCのアミノ酸残基4-15に対応し、第7残基はウシプロテインCの残基からヒトプロテインCの残基に変異を受けている;変異を受けたヌクレオチドは下線が引かれている、配列番号10);E、5'-GCA TTT AGG TGA CAC TAT AGA ATA GGG CCC TCT AGA-3'(ベクターpRc/CMV中のヌクレオチド984-1019に対応し、pRc/CMVとプロテインCの間にXba I部位を作る、配列番号11)。
【0109】
ヒトおよびウシプロテインC cDNAの両方を、発現ベクターpRc/CMVのHind IIIおよびXba I部位中にクローニングした。5'末端からアミノ酸-17までを含有するヒトプロテインC cDNAを、無傷のヒトプロテインC cDNAならびにプライマーAおよびBを用いてPCR増幅した。PCR反応液の容積は100μlで、Tris-HClバッファー(10mM Tris、25mM KCl、5mM (NH4)2SO4、および2mM MgSO4、pH 8.85)中に、鋳型DNAの0.25μg、4種のデオキシリボヌクレオシド三リン酸エステルそれぞれの200μM、各プライマーの0.5mMおよびPwo-DNAポリメラーゼ(Boehringer Mannheim)の2.5Uを含有した。サンプルを、94℃で変性2分間、55℃でアニーリング2分間、および72℃で伸長2分間からなるPCRの30サイクルにかけた。増幅後、該DNAを、1mM EDTAを含有する40mM Tris-酢酸バッファー中で0.8%アガロースゲルに電気泳動した。PCR産物をJETプラスミド・ミニプレップキット(JET Plasmid Miniprep-Kit, Saveen Biotech AB, Sweden)を用いて精製した。それぞれの変異を含有するヒトプロテインC cDNAをHind IIIおよびBsr BIによって切断し、これを、その後、Hind III/Xba Iにより切断されかつBsr BIから3'末端までのヒトプロテインC断片を含有するpRc/CMVベクター中にクローニングして、変異をもつヒトプロテインC全長cDNAを作製した。
【0110】
5'末端からアミノ酸-11までを含有するウシプロテインC cDNAを、無傷のヒトプロテインC cDNAならびにプライマーAおよびCを用いてPCR増幅した。アミノ酸11から3'末端までのウシプロテインC cDNAを、無傷のヒトプロテインC cDNAならびにプライマーDおよびEを用いてPCR増幅した。これら2つのcDNA断片を鋳型として使って、変異アミノ酸を含有する全長ウシプロテインC cDNAをプライマーAおよびEを用いて増幅した。PCR反応条件は、hAPCに使ったものと同一であった。各変異を含有するウシプロテインC cDNAを、Hind IIIおよびBsu 36Iで切断し、得たHind III/Bsu36I断片を、Bsu 36Iから3'末端までの無傷のウシプロテインC断片を含有するpRc/CMVベクター中にクローニングして、変異を含有する全長ウシプロテインC cDNAを作製した。トランスフェクションの前に全ての変異をDNA配列決定により確認した。
【0111】
細胞培養と発現
アデノウイルスでトランスフェクトしたヒト腎細胞系293を、10%ウシ胎児血清、2mM L-グルタミン、100 U/mlペニシリン、100 U/mlストレプトマイシンおよび10 μg/mlビタミンK1を補給したDMEM培地中で増殖した。トランスフェクションをリポフェクチン法を使って実施した(Felgner, P.L.ら, 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84:7413-7417)。DNAの2μgを、2 mM L-グルタミン培養液を含有するDMEM培地を用いて0.1mLに希釈した。リポフェクチン(1 mg/ml)の10μLを、2 mM L-グルタミン培養液を含有するDMEM培地の100 μLに加えた。DNAとリポフェクチンを混合し、室温で10〜15分間放置した。細胞単層(5cmペトリディッシュ中で25〜50%コンフルエンス)を2 mM L-グルタミン培養液を含むDMEM培地で2回洗浄した。DNA/脂質混合物を、2 mM L-グルタミン培養液を含有するDMEM培地で1.8 mLに希釈し、細胞に加え、16時間インキュベートした。細胞に10%子ウシ血清を含有する完全培地の2mLを補給し、さらに48〜72時間放置して回復させ、その後、トリプシン処理し、選択培地(10%血清およびGeneticinの400 μg/mLを含有するDMEM)を容れた10cmディッシュ中に1:5でまいた(Yan, S.C.B.ら, 1990, Bio/Technology 655-661)。Geneticin耐性コロニーが3〜5週間の選択の後に得られた。それぞれのDNAトランスフェクションから24コロニーを拾い、コンフルエンスまで増殖し、そして該培地を、モノクローナル抗体HPC4(ヒトプロテインCに対して)およびモノクローナル抗体BPC5(ウシプロテインCに対して)を使うドット-ブロットアッセイにより、プロテインC発現についてスクリーニングした。大量のタンパク質を産生するクローンを単離し、ビタミンK1の10 μg/mLの存在下でコンフルエンスまで増殖した。
【0112】
ウシ組換プロテインCおよびその変異体の精製は先に開示された方法に基づき、若干の修正を施した(Rezair, A.R.,およびEsmon, C.T., 1992, J. Biol. Chem., 267:26104-26109)。安定してトランスフェクトした細胞の無血清ならし培地(conditioned serum-free medium)を5000rpmで、4℃、10分間遠心分離した。上清を0.45μmの硝酸セルロース膜(Micro Filtration Systems,日本)を通して濾過した。EDTA(最終濃度、5mM)とPPACK(最終濃度、0.2μM)を239の細胞からのならし培地に加え、その後、Millipore Con Sep LC100(Millipore, USA)を使い、室温でPharmacia FFQ陰イオン交換カラムに通過させた。該タンパク質をCaCl2勾配(出発溶液、20 mM Tris-HCl/150 mM NaCl, pH 7.4; 限定溶液、20 mM Tris-HCl/150 mM NaCl/30 mM CaCl2, pH 7.4)を用いて溶離した。透析およびChelex 100処理によりCaCl2を除去した後、該タンパク質を第2FFQカラムに再吸収させ、その後、NaCl勾配(出発溶液、20 mM Tris-HCl/150 mM NaCl, pH 7.4; 限定溶液、20 mM Tris-HCl/500 mM NaCl, pH 7.4)を用いて溶離した。精製のこの時点で、野生型および変異型組換ウシプロテインCは、SDS-PAGEにより確認したところ均一であった。
【0113】
野生型および変異型組換ヒトプロテインCの精製に使った第1カラムは、ウシプロテインCについて記載したものと同じであった。レゼールおよびエスモン(Rezair and Esmon)が記載したクロマトグラフィー法に、ウシプロテインS精製の方法として記載された若干の改良を施して使用した(Rezair, A.R.,およびEsmon, C.T., 1992,前掲;He, Z.ら, , 1995, Eur. J. Biochem., 227:443-440)。陰イオン交換クロマトグラフィーからのプロテインCを含有する画分をドット-プロットにより確認した。ポジティブの画分をプールし、Ca2+依存性抗体HPC-4を含有するアフィニティカラムにアプライした。該カラムは、5 mMベンズアミジン-HClおよび2 mM CaCl2を含有する20 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, pH 7.4で平衡化した。アプライ後、カラムを1M NaClを含有する同じバッファーで洗浄した。その後、プロテインCを、5 mMベンズアミジン-HClを含有する20 mM Tris-HCl, 150 mM NaClおよび5 mM EDTA, pH 7.4を用いて溶離した。精製後、全てのヒトおよびウシ組換プロテインC調製物の純度をSDS-PAGEと続いて銀染色により評価した。タンパク質をYM 10フィルター(Amicon)を使って濃縮し、その後、バッファー(50 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, pH 7.4)に対して12時間透析し、-70℃で貯蔵した。タンパク質濃度は280nmにおける吸収により測定した。
【0114】
正常および変異型プロテインC分子と膜との結合
LUVおよびSUVを実施例1に記載した方法により調製した。VII因子について記載したように、入射光に対し90°の光散乱を使ってタンパク質-膜結合を定量した(5mM カルシウムで、PS/PC、(25/75)の25 μg/mL、(0.05 M Trisバッファー-0.1 M NaCl, pH 7.5))。
【0115】
位置11にヒスチジンを含有するウシプロテインCは、野生型タンパク質より約10倍高い親和力で膜と相互作用した。式2に合わせると、該データは、プロテインC‐H11に対して93080 nM、そして野生型プロテインCに対して9200950 nMのKD値を得た(図8A)。親和力の差は、25℃で約1.4 kcal/molに相当した。実際、ウシプロテインC-H11の膜親和力は天然のヒトプロテインCのそれとほとんど同一であった(660 nM、図8B)。これは、プロリン11がヒトとウシタンパク質の間の膜結合部位の違いの主たる根拠であることを示唆した。
【0116】
逆置換、すなわちヒトプロテインCのHis-11のプロリンによる置き換えは、膜親和力を低下させる(図8B)。式2に合わせると、これらのデータは野生型ヒトプロテインCに対して66090 nM、そしてヒトプロテインC-P11に対して3350110 nMのKD値を得た。プロリン導入の影響は、ウシタンパク質におけるプロリンの影響よりごくわずか小さかった。
【0117】
活性型プロテインCの活性に対するプロリン-11の影響
活性型プロテインCは、トロンビン切断により、野生型および変異タンパク質の両方に同一の条件を使って作製することができる。各種のプロテインC調製物(1 mg/mL)の約150μgを、ウシトロンビン(3 μg)と混合し、37℃で5時間インキュベートした。反応産物を0.025 M Trisバッファー0.05 M NaClに希釈し、SP-Sephadex C-50の1 mLカラムにアプライした。カラムを同じバッファー 1 mLで洗浄し、通過物を活性型プロテインCとしてプールした。カラムにアプライしたタンパク質の約65〜80%が回収された。APC活性を、25℃でS2366(0.1 mM)のタンパク質分解(proteolysis)により決定した。調製物を、もっと大規模で得た標準調製物と比較した。標準ヒトAPCはウォルター・キジェル博士(Dr. Walter Kisiel)から提供を受けた。ウシタンパク質については、標準物はトロンビン活性型APCの大規模調製物であった。ウシAPCの活性は、正常および変異タンパク質の全ての調製物と一致した(±5%)。ウシAPCの2つの調製物を比較に使った。トロンビンから作製したヒトAPCは、標準に対して55〜60%の活性があった。この研究で提示された濃度は、S2366に対する活性に基いており、標準の活性と関連させた。
【0118】
標準APTT試験は、ウシまたはヒト血漿および標準APTT試薬(Sigma Chemical Co.)を、製造者の指示書に従って使用した。あるいは、リン脂質は高度に精製されたリン脂質から形成された小胞の形で提供された。このアッセイにおいて、ウシ血漿(0.1 mL)を、カオリン(0.05 M Trisバッファー、0.1 M NaCl、pH 7.5中に5 mg/mLの0.1 mL)またはエラギン酸(ellagic acid)(バッファー中に0.1 mM)のいずれかで5分間、35℃でインキュベートした。凝固は、リン脂質を含有するバッファーの0.1 mLおよび示されたAPCの量を加えることにより開始し、その後、25 mM塩化カルシウムの0.1 mLを加えた。全ての試薬は、0.05 M Trisバッファー、0.1 M NaCl、pH 7.5を含有する標準バッファー中で使った。該H11変異体の影響を再現するには、平均で14倍高い濃度の野生型bAPCを要した。10 nM bAPC-H11での凝固時間は120分より長かった。この血漿について、標準APTT試薬(Sigma Chemical Co.)は、35℃で約61秒の凝血時間をあたえた。血塊形成に要する時間をマニュアルで記録した。リン脂質の量がアッセイの制限要素となり、示された血塊形成時間を与えるように設計した。使ったリン脂質は、SUV(最終アッセイで45 μg/0.4 mL、PS/PC、10/90)またはLUV(最終アッセイで120 μg/0.4 mL、PS/PC、25/75)であった。
【0119】
活性型プロテインCの抗凝固活性を複数の方法で試験した。図9は、リン脂質を限定して実施した、APTTアッセイに与える影響を示す。このアッセイ条件のもとで、凝固時間は、リン脂質濃度とともにほぼ反比例関係で低下した。ウシAPC-H11と効果を等しくするために、約14倍量の野生型ウシAPCを必要とした。
【0120】
図9の研究の一部を、PS/PC(27/75, LUV)の膜に対して繰返した。再び、活性をリン脂質により制限し、かつその濃度を360秒の制御血塊形成時間をあたえる様に調節した(0.4 mLアッセイで25% PSの120 μg)。H11変異体と影響を等しくするために、約15倍量を超える野生型酵素を必要とした。最後に、標準APTT試薬(Sigma Chemical Co.、標準血塊形成時間502秒)を使った。凝固時間を2倍の1025秒にするために、約10.00.7 nMの野生型酵素を必要とした。同じ影響は、2.20.1 nMのウシAPC-H11により与えられた。標準アッセイでは、リン脂質は律速でなかったので、膜親和力に与える影響は小さいと考えてよい。
【0121】
ヒトタンパク質の結果を図8Bに示す。凝固を野生型APCの程度にまで延長するために、プロリン-11を含有するヒトAPCを約2.5倍必要とした。プロリン-11導入の影響が低いのは、ヒトタンパク質の膜親和力の差が小さいことを反映するのであろう(図9B)。
【0122】
第Va因子の不活性化
第Va因子不活性化をニコラスら(Nicolaesら, 1996, Thrombosis and Haemostasis, 76:404-410)の方法によりアッセイした。簡単に説明すると、ウシタンパク質については、ウシ血漿を、0.05 M Tris、0.1 M NaCl、1 mg/mLウシ血清アルブミンおよび5 mMカルシウム、pH 7.5により1000倍に希釈した。第V因子を活性化するために、リン脂質小胞(5 μg/0.24 mLアッセイ)および190 nMトロンビンの5 μLを加えた。37℃で10分間インキュベーションの後、APCを加え、インキュベーションを6分間続けた。ウシプロトロンビン(最終濃度10 μMに)および第Xa因子(最終濃度0.3 nM)を加えて、該反応物を37℃で1分間インキュベートした。この活性化反応物の20μLサンプルを、S2288基質(60μM)を含有するバッファー(0.05 M Tris, 0.1 M NaCl, 5 mM EDTA, pH 7.5)の0.38mLに加えた。トロンビンの量を405 nMの吸収の変化により定量した(ε=1.0*104 M-1s-1、トロンビン=100/sに対するkcat)。ヒトタンパク質については、ヒトプロテインS-欠損血漿(Biopool Canada, Inc.)を100倍希釈し、第Va因子をヒトトロンビンにより活性化し、そして産生した第Va因子をウシタンパク質に対して使用した試薬を用いてアッセイした。
【0123】
ウシAPC-H11は、第Va因子の不活性化において、野生型(図10A)より9.2倍活性が高かった。膜結合(上記)に関して、ヒトタンパク質についてはプロリン-11の影響はそれより小さく、野生型とP11変異体に対して引いた曲線間には平均2.4倍の差があった(図10B)。同様な結果を正常なヒト血漿で得た。
【0124】
実施例5 ビタミンK依存性タンパク質の膜接触部位に対する原型膜親和力の同定
様々なヒトおよびウシプロテインC変異体ならびに他のビタミンK依存性ポリペプチドを比較して、膜接触部位原型(membrane contact site archetype)を提案するに至った。静電気原型は、結合カルシウムイオンにより作られたタンパク質表面上の電気陽性コアからなり、タンパク質のアミノ酸からくる電気陰性電荷のかさ(halo)により囲まれている。このタンパク質ファミリーのメンバーがこの静電気パターンに接近しているほど、膜に対する親和力は高い。
【0125】
リン脂質小胞、野生型ウシプロテインC、タンパク質-膜相互作用研究、プロテインCの活性化および定量、ならびに活性分析は、実施例4に記載の通りであった。
【0126】
組換え、変異型プロテインCを次の方法によって作製した。部位特異的突然変異誘発は、PCR法で実施した。次のオリゴヌクレオチドを合成した;A、実施例4に記載のとおり。F、5'-GCA TTT AGG TGA CAC TAT AGA ATA GGG CCC TCT AGA-3'(ベクターpRc/CMV中のヌクレオチド984-1019に相当する、配列番号11)、pRc/CMVとプロテインCの間のXbaI部位を作る;G、5'-GAA GGC CAT TGT GTC TTC CGT GTC TTC GAA AAT CTC CCG AGC-3'(ウシプロテインCのアミノ酸残基40-27に対応し、第8および第9アミノ酸は下線でマークしたようにQNからEDに変異されている、配列番号12);H、5'-CAG TGT GTC ATC CAC ATC TTC GAA AAT TTC CTT GGC-3'(ヒトプロテインCのアミノ酸残基38-27に対応し、第6および第7アミノ酸は下線で示したようにQNからEDに変異されている、配列番号13)、I、5'-GCC AAG GAA ATT TTC GAA GAT GTG GAT GAC ACA CTG-3'(ヒトプロテインCのアミノ酸残基27-38に対応し、この配列の第6および第7アミノ酸は下線で示したようにQNからEDに変異されている、配列番号14);J、5'-CAG TGT GTC ATC CAC ATT TTC GAA AAT TTC CTT GGC-3'(ヒトプロテインCのアミノ酸残基38-27に対応し、この配列の第7アミノ酸は下線で示したようにQからEに変異されている、配列番号15);K、5'-GCC AAG GAA ATT TTC GAA AAT GTG GAT GAC ACA CTG-3'(ヒトプロテインCのアミノ酸残基27-38に対応し、この配列の第6アミノ酸は下線で示したようにQからEに変異されている、配列番号16)。
【0127】
ウシおよびヒトプロテインC両方の全長cDNAを、ベクターpRc/CMVのHind IIIおよびXba I部位中にクローニングした。ウシプロテインC変異体E33D34を取得するために、標的DNAのPCR増幅を次のように実施した。5'末端から位置40のアミノ酸までを含有するウシプロテインC cDNAを、無傷のウシプロテインC cDNAならびにプライマーAおよびCを用いて増幅した。PCR反応条件は、実施例3に記載のとおりであった。サンプルを、94℃で変性2分間、55℃でアニーリング2分間、および72℃で伸長2分間からなるPCRの30サイクルにかけた。増幅後、DNAを、1mM EDTAを含有する40mM Tris-酢酸バッファー中で0.8%アガロースゲルを通して電気泳動した。PCR産物をThe Geneclean IIIキット(BIO 101, Inc. USA)を用いて精製し、それぞれの変異を含有するウシプロテインC cDNAのPCR断片をHind IIIおよびBbs Iで切断した。Hind III/Bbs I断片およびヒトプロテインC断片(Bbs I-3'末端)を、pRc/CMVベクターのHindIIおよびXba I部位中にクローニングして、変異をもつ全長ウシプロテインC cDNAを作った。ウシプロテインC変異体H11 E33 D34を同じ方法で作製したが、ウシプロテインC変異体H11をPCR反応の鋳型として使った。
【0128】
5'末端からアミノ酸38までを含有するヒトプロテインC cDNAを、無傷のヒトプロテインC cDNAならびにプライマーAおよびDを用いてPCR増幅した。アミノ酸27から3'末端までのヒトプロテインC cDNAを、無傷のヒトプロテインC cDNAならびにプライマーBおよびEを用いて増幅した。これらの2つのcDNA断片を鋳型として使って、プライマーAおよびBを用いて、変異アミノ酸(E33 D34)を含有する全長ウシプロテインC cDNAを増幅した。ヒトプロテインC変異体E33は次のステップにより得た;5'末端からアミノ酸38までを含有するヒトプロテインC cDNAを、無傷のヒトプロテインC cDNAならびにプライマーAおよびFを用いて増幅した。アミノ酸27から3'末端までのヒトプロテインC cDNAを、無傷のヒトプロテインC cDNAならびにプライマーBおよびGを用いて増幅した。これらの2つのcDNA断片を鋳型として使って、プライマーAおよびBを用いて、変異アミノ酸(E33)を含有する全長ウシプロテインC cDNAを増幅した。PCR混合物とプログラムは上に記載した通りであった。それぞれの変異体を含有するヒトプロテインCのPCR産物をHind IIIおよびSal Iで切断し、その後、該断片(Hind III - Sal I)を無傷のヒトプロテインC断片(Sal I - 3'末端)と一緒に、pRc/CMVベクターのHind IIIおよびXba I部位中にクローニングして、それぞれの変異をもつ全長ヒトプロテインC cDNAを作製した。位置12にグリシン残基を、E33D34変異とともに含むヒトプロテインCもまた作製した。トランスフェクションの前に、全ての変異体をDNA配列決定によって確認した。
【0129】
アデノウイルスでトランスフェクトしたヒト腎細胞系293を、実施例4に記載したように、培養し、トランスフェクトした。ウシおよびヒト組換えプロテインCおよび変異体を、実施例4に記載のように、精製した。
【0130】
ビタミンK依存性タンパク質を、標準膜に対する親和力を基準として4グループに分類した(表5)。ヒトプロテインC(hC、配列番号1)、ウシプロテインC(bC、配列番号2)、ウシプロトロンビン(bPT、配列番号17)、ウシ第X因子(bX、配列番号18)、およびヒト第VII因子(hVII、配列番号3)、ヒトプロテインZ(hZ、配列番号20)、およびウシプロテインZ(bZ、配列番号21)を含む複数の関連タンパク質のアミノ末端残基の配列を、参照のために掲げたが、ここで、XはGla(γカルボキシグルタミン酸)またはGluである。
【0131】

【表5】

【0132】
表5で、ビタミンK依存性ポリペプチド変異体は太字である。全電荷(残基1〜34)は7個のカルシウムイオン(+14)およびアミノ末端(+1)を含む。プロテインZは、解離速度定数が他のタンパク質のものより100〜1000倍遅いことに基づいてクラス1に割り当てた。もしプロテインZが通常の会合速度定数(約107 M-1s-1)を示せば、KDは約10-10Mとなる(M. Wei, G. J.ら, 1982, Biochemistry, 21:1949-1959)。後者の親和力はビタミンKタンパク質にとって可能な最大値であろう。プロテインZは、抗血液凝固治療のための、プロテインZ依存性プロテアーゼ阻害剤(ZPI)による第Xa因子の阻害に関する補因子としての候補物質である。プロテインZとZPIを第Xa因子とともにインキュベートすると、第Xa因子の血液凝固促進(procoagulant)活性が減少する。例えば、Hanら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1998, 95:9250-9255を参照されたい。結合動力学(association kinetics)の増強により、阻害速度が加速され、平衡に達したときの結合親和力が増加する。プロテインZはGly-2を含有するが、これにより、他のタンパク質中に結合されたカルシウムとAsn-2との相互作用が消滅すると考えられている。位置2におけるグリシン残基の存在は、タンパク質のフォールディングを不安定化させて結合動力学を低下させる。さらに、ウシプロテインZと比べて低いプロテインZの親和力により、位置34〜36において負電荷がより少なくなり得る(表5)。
【0133】
クラスIVタンパク質はクラスIIIと、非静電的手段により親和力を変化しうるプロリン-11の存在する点で異なった。
【0134】
膜親和力と残基1〜34の実効負電荷の間に相対的に弱い相関であるが、残基5、11、29、33および34だけを考えると優れた相関が見られる(表5)。後者のアミノ酸はタンパク質の表面に位置している。複数のタンパク質をプロトロンビン構造中へのアミノ酸置換によってモデル化し、その静電気ポテンシャルをデルフィプログラム(program DelPhi)によって計算した。ウシプロテインZの静電気ポテンシャルに従いパターン化したスケッチを図11に示す。7、8、26、30、33、34および11の電気陰性部位は電気陰性電荷のかさを作り、カルシウムライニングされた細孔により作られる陽イオン性コアを囲んでいる(図11)。タンパク質構造がこの構造に近づくほど、膜に対する親和力が高くなる。親和力が最も高いタンパク質には、アミノ酸35〜36にかけて広がる負電荷が見られる。この相関は、野生型タンパク質、変異体および化学的に改変されたタンパク質から明らかである。
【0135】
他の構造のパターンは、他のタンパク質には存在しない電荷群を検証して外挿することができる。例えば、ウシプロトロンビンのLys-11およびArg-10はその近傍に高い電気的陽性領域を作り;プロテインCおよび第VII因子のGla-33の欠如はこれらのタンパク質領域により低い電気的陰性電場を作る。全ての場合で、最高の親和力は、プロテインZについて示されるように電気的陰性タンパク質表面により完全に囲まれた電気的陽性コアをもつ構造に対応する。このパターンの例外は、構造的影響により親和力を低下させうるPro-11およびユニークな無荷電残基であるser-12を備えたタンパク質(ヒトプロテインC)である。
【0136】
さらに静電気分布についての原型の仮説を試験するために、部位特異的突然変異誘発を使ってウシおよびヒトプロテインCのGln33Asn34を、Glu33Asp34で置き換えた。Glu33はタンパク質プロセシング中にさらにGlaへ改変されるであろう。これらの変化は、ウシプロテインCの静電気ポテンシャルを、ウシ第X因子のそれに変えた。変異タンパク質の膜親和力は、プロリン-11の存在によって第X因子のそれより低下することが予測された。実際、ウシプロテインC変異体は、ウシプロトロンビンのそれと同様な膜親和力を与え(図12A)、ウシ第X因子のそれよりわずかに低かった(表5)。
【0137】
さらに重要なのは、変異体に対するAPCによる凝血阻止は、野生型酵素に対するより大きかった(図12B、C)。実施例3からのウシプロテインCのP11H変異体に対する結果を考慮すると、位置11,33および34のアミノ酸置換を変えることにより、それぞれ異なる膜親和力と活性をもつタンパク質のファミリーを作ることができるであろう。
【0138】
E33およびE33D34を含有するヒトプロテインC変異体は、膜結合親和力の小さな増加をもたらした(図13a)。これらの変異体の活性は野生型酵素よりわずかに低かった(図13b)。ウシプロテインCの変異体の結果は、ヒトタンパク質のE33D34変異の不全(failure)が該タンパク質中のH11および/または他のユニークなアミノ酸から起こりうることを示唆する。図14Aは、ウシプロテインCのH11変異体は野生型タンパク質より約10倍高い親和力で、またE33D34変異体は約70倍の親和力で膜に結合したこと、しかし三重変異体であるH11E33D34はH11変異体よりわずかに良好であったことを示す。この関係はこれらの変異体から形成されるAPCの活性に反映された(図14B)。この結果は、H11の存在が膜結合親和力に対するE33D34の影響を低下させることを示した。
【0139】
これらの結果は、E33D34のみの導入は全てのタンパク質にとって最適とは限らないことを示した。従って、E33D34を使いかつ最も増加した膜親和力を有するヒトプロテインCを作製するための他の変異が望ましいであろう。ウシタンパク質についての結果は、ヒスチジン11がこの現象の主要原因であることを示唆した。従って、E33D34変異とともに、ヒトプロテインC中のH11をグルタミンまたは他のアミノ酸に変えることができる。親和力に影響を与えうる他のアミノ酸は、ヒトプロテインCにとって全くユニークなアミノ酸である位置12のセリンである。これらの更なる改変は増強した膜親和力をもつタンパク質を作るであろう。これらの付加的な変化は膜親和力が増大したタンパク質を生成するはずである。ヒト活性化プロテインCの、E33D34と組み合わせた、位置12におけるグリシン残基のセリンへの置換により、野生型活性化ヒトプロテインCヒトプロテインCよりも9倍高い活性がもたらされる。G12E33D34変異体の活性を、30秒の対照血塊形成時間と普通のヒト血漿を使用する希釈トロンボプラスチンアッセイにより測定した。
【0140】
静電気原型を、ヒトおよびウシ第X因子の比較によっても試験した。ヒト第X因子中にリシン-11が存在すると、ウシ第X因子より低い親和力を有するであろうことが示唆された。この予測は、図15に示した結果により支持された。
【0141】
今までの研究は、ウシおよびヒトプロトロンビン断片1のトリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)改変は、膜親和力に相対的に小さい影響(0から5倍)を与えることを示してきた(Weber, D.J.ら, 1992, J. Biol. Chem., 267:4564-4569; Welsch, D.J.ら, 1988, Biochemistry, 27:4933-4938)。該反応に使われた条件はアミノ末端の誘導体化、すなわち膜親和力低下と結びつく変化をもたらした(Welsch, D.J.およびNelsestuen, G.L., 1988, Biochemistry, 27:4939-4945)。アミノ末端を保護するカルシウムの存在下でのタンパク質改変は天然の断片1より遥かに高い膜との親和力をもつTNBS改変タンパク質をもたらした。
【0142】
プロテインZが原型を構成するという示唆は、解離速度定数に基づきかつ正常な会合速度はKD=10-10Mであろうということに基づいた。この値に到達しうるかは定かではない。不適当なタンパク質折りたたみ(folding)によりプロテインZの会合速度が遅くなり、低い膜結合コンフォメーション濃度を生じることは可能である。もし条件を変更してタンパク質折りたたみを改善することができれば、プロテインZの会合速度は改善されるであろう。実際、プロテインZの会合速度定数は、pHの変更により改善された。この観察の根拠は、アミノ末端(pH 7.5で+1)がカルシウムイオン2および3に近接して位置するプロトロンビン構造の異常な特徴と関係しているのであろう。アミノ末端の+1電荷は、図11のCa-1の丁度上のわずかな電気的陽性領域に原因がある。Caとアミノ末端の間の電荷反撥がタンパク質折りたたみを不安定化し、低い折りたたみ安定性をもつタンパク質にとって深刻な問題となりうるであろう。
【0143】
表6は、さらに原型モデルを支持する。ストロンチウムイオン1および8(プロトロンビンのSr X線結晶構造で見出されるカルシウム1および余分の二価金属イオンに対応する)からのイオン性基の距離の間の関係を示す。該パターンは、イオン性基がこれらの金属イオンに近いほど、その膜親和力に対する影響は高くなることを示唆する。例外は、電気的陽性コアの電荷に寄与するArg-16である。他の全ての部位では、高い親和力は電気的陰性電荷と相関がある。この相関はまた、GLA残基にも適用される。
【表6】

【0144】
図15Cの結果は、プロテインZに対する会合速度が、アミノ末端が無電荷となるpH9で実質的に改善されたことを示す。これらのデータから得たpH9における速度定数は、pH7.5におけるより約12倍高かった(図15C)。
【0145】
実施例6 - 改変型第VII因子の親和力を評価するための競合アッセイ : 再構築した組織因子(Innovin, Dade)および膜を用いて、野生型およびVIIaQ11E33の凝血活性を評価した。飽和量の第VIIa因子を使用した(約0.7μl Innovin/0.15 mlアッセイ液)。第VIIa因子およびInnovinは、血漿の含まれていない緩衝液(6.7mM CaCl2、50 mM Tris、pH 7.5、100 mM NaCl)中に112.5μlの量で添加した。15分後、37.5μlの第VII因子欠損血漿を添加し、凝血時間を記録した。VIIaQ11E33の組織因子依存性活性は、この方法でアッセイした場合、野生型のタンパク質の活性と類似したものであった。第VII因子欠損血漿の使用はin vivoの条件を満たしていないので、膜結合組織因子に対する改変型の第VII因子の相対的親和力は、競合タンパク質の存在下で評価した。特に、競合タンパク質として活性部位改変型第VIIa因子を使用し、多量に存在させた(2 nM)。評価する改変型の第VII因子は、組織因子の濃度を超える濃度で使用した。そのような条件下では、すべてのタンパク質の遊離タンパク質濃度は、添加した全タンパク質にほぼ等しいものであった。全タンパク質から結合タンパク質を差し引いて遊離タンパク質濃度を得る場合、補正は少ない。競合アッセイによれば、因子VIIaQ11E33は、野生型第VIIa因子よりも41倍有効であった。
【0146】
実施例7 - 第VII因子、プロテインS、および他のビタミンK依存性ポリペプチドの増強された膜結合親和力および活性 : プロテインS(GenBank受託番号M57853 J02917)は、高親和性膜結合タンパク質であるとともにAPCの作用に対する補因子である。プロテインSの欠損は、血栓症の強力な指標であり、このタンパク質のレベルが低いかまたは血栓症の危険性が増大した患者に用いることが可能である。例えば、Dahlback, Blood, 1995, 85:607-614および米国特許第5,258,288号を参照されたい。
【0147】
アミノ酸5もしくは9の置換により、プロテインSの膜結合親和力および活性を増強することができる。プロテインSの残基9はトレオニン残基であるが、ほとんどのビタミンK依存性タンパク質はこの位置に疎水性残基を含む。例えば、McDonald et al., Biochemistry, 1997, 36: 5120-5127を参照されたい。ヒトプロテインC中の類似の残基(ロイシン残基)をグルタミンで置換したところ、すなわち、疎水性から親水性への置換を行ったところ、活性が著しく低下した。例えば、Christiansen et al., 1995, Biochemistry, 34: 10376-10382を参照されたい。従って、ビタミンK依存性タンパク質による膜会合における位置8の重要性について混乱があった。
【0148】
先に記載のQ11E33突然変異体と組み合わせてアミノ酸9にトレオニン置換を含むヒト第VII因子がATG Laboratories, Inc.により調製され、先の実施例4に記載したように、ヒト腎細胞系293中にトランスフェクトするための適切なベクターの形態で提供された。
【0149】
市販のキットを用いて、突然変異第VII因子をコードする核酸配列を含むベクターをヒト腎細胞系293中にトランスフェクトした。細胞を増殖させ、そしてプロテインCのところで説明したように、市販品のモノクロナール抗体を用いて、高レベルの第VII因子抗原を提供するコロニーをドットブロットアッセイによって選択した。また、実施例6に記載の競合アッセイを用いて、凝血アッセイにより調製培地中の第VII因子の量を測定した。一般的には、凝血が開始される前に、組織因子とのインキュベーションにより第VII因子を第VIIa因子に変換した。同量のVIIa-Q11E33およびVIIa-T9Q11E33をアッセイに使用した。第VII因子ポリペプチドを適切な量の膜会合組織因子(Innovine, Dade)と混合した。活性部位改変型第VIIa因子(FFR-VIIa)を添加し(0〜3.5 nM)、6.7mM CaCl2、50 mM Tris、pH 7.5、および100 mM NaClを含有する緩衝液112.5μL中で60分間にわたり反応を平衡化させた。最後に、第VII因子欠損血漿を添加し、血塊の形成に必要な時間を測定した。添加した阻害剤の関数として凝血時間を調べることにより、有効性を決定した。ヒト第VIIa因子-T9Q11E33は、競合結合親和力の著しい低下を示した。従って、この位置においてトレオニン残基は最適ではなかった。プロテインSのタンパク質9にロイシン残基を導入すれば、多くの条件下でプロテインSの膜親和力および活性が増強されるはずである。 実質的に最適でない残基が存在しているにもかかわらず、プロテインSの膜親和力が大きい原因は、その構造の他の部分にあると思われる。すなわち、プロテインSには、「第2のジスルフィドループ」もしくはトロンビン感受性領域(成熟ポリペプチドの残基46〜75)として知られる配列領域が含まれている。プロトロンビンにも、より短い形態で第2のジスルフィドループが含まれている。プロトロンビンもしくはプロテインS中のループがタンパク質分解開裂すると、膜親和力は低下する。Schwalbe et al., J. Biol. Chem., 1989, 264: 20288-20296を参照されたい。開裂には、プロテインSの作用に負の制御を提供することによるプロテインS活性の調節が関与している可能性がある。第2のジスルフィドループは、残基46〜75が残基1〜45上に折り畳まれて最適結合部位を形成するように、最適膜結合部位を生成する働きをする可能性がある。プロテインSの単離された残基1〜45は、カルシウム依存的に膜に会合しない。これは、カルシウム依存的に膜に結合するプロトロンビンの残基1〜41もしくは1〜38、第X因子の残基1〜44、プロテインCの残基1〜41、またはプロテインZの残基1〜45とは異なる。この場合、無傷のプロテインSが大きな親和力を有するにもかかわらず、プロテインSの単離された残基1〜45 GLAドメインに関する結果から、この無傷のタンパク質はGLAドメインでの親和力が実質的に低下していることが示唆される。
【0150】
タンパク質分解は、この役割に関して第2のジスルフィドループの適切な機能を阻害し、生成するプロテインSは、その膜親和力が残基1〜45のアミノ酸から予測される膜親和力に近づくので、活性の低下を示す。従って、Leu9および他の変化(以下を参照されたい)を導入することにより膜親和力を増強すれば、もはやタンパク質分解によりダウンレギュレートされることもなくしかもより有効な抗凝血剤になるプロテインSが得られるであろう。
【0151】
ほとんどのビタミンK依存性タンパク質の保存残基は、位置5にある。プロテインSおよびプロテインZの双方においてロイシンがこの位置に見いだされる。プロテインC、第X因子および第VII因子、ならびにプロトロンビンは、対応する位置に別の疎水性残基であるフェニルアラニンを含んでいる。第IX因子は、他のタンパク質とは大きく異なり、残基5にリシンを含んでいる。この保存されない残基と第IX因子の膜親和力との間には明らかな関連は見られず、位置5の役割は不明瞭である。
【0152】
ヒトプロテインCの位置5にグルタミン残基を置換したところ、膜に対する類似した親和力および類似したカルシウム力価を示す凝血活性の低下したタンパク質が得られた。第VII因子(Q11E33突然変異体が含む)の位置5のフェニルアラニン残基へのロイシン残基の置換を上述した方法で行った。生成物L5Q11E33の活性は、上記の活性部位改変型第VIIa因子(0〜3.2nM)を用いる競合法によりアッセイした場合、Q11E33突然変異体の活性のわずか33%にすぎなかった。従って、プロテインSの活性は、例えば、位置5にフェニルアラニン残基を置換することにより改良することができる。第VII因子でF5K置換を行った場合にも、実施例6に記載の競合アッセイにより測定した場合、活性が野生型の第VII因子の活性の33%であるタンパク質が得られた。第IX因子の膜結合親和力は、K5E突然変異により増強することができる。第VII因子でP11Q置換を行ったところ正の影響が現れたが、Q11Eのさらなる変化(この位置をプロテインZの場合と同じようにする)を導入してもさらなる影響は現れなかった。すなわち、P11QおよびP11Eはいずれも、野生型よりも良好であったが、相互の間には差異は見られなかった。従って、それぞれの残基の置換の影響はタンパク質ごとに異なる。しかしながら、適切な置換を組み合わせることにより、これらの残基の普遍的な重要性が解明される。
【0153】
以上に概説した手順により、第VIIa因子分子を産生した。この突然変異体には、Q11E33突然変異が含まれるとともに、R29FおよびD34F突然変異(Q11F29E33F34)も含まれていた。この突然変異体は、実施例6に記載の競合アッセイにより測定した場合、Q11E33突然変異体単独の場合の2.5倍の活性を有していた。従って、タンパク質中の重要なカルボキシル基の機能を最大化するためには、記載の重要な部位でアミノ酸残基を正しく組み合わせることが必要である。これらの部位における最適な組み合わせには、陰イオン性残基だけでなく、中性残基および疎水性残基が含まれていてもよい。
【0154】
位置35の重要性は、A35Iをさらに含むように第VII因子突然変異体Q11E33F34を改変することにより示される。こうして得られた突然変異体Q11E33F34I35の活性は、実施例6に記載の競合アッセイにより評価した場合、Q11E33F34突然変異体の活性の60%であった。他の突然変異体Q11E33I34F35を産生したところ、Q11E33F34I35突然変異体と類似の活性を呈した。これらの結果から示唆されるように、位置35により大きな疎水性基を存在させることは望ましくない。
【0155】
Q11E33F34突然変異体の安定性は、Q11E33突然変異体の安定性よりも75%減少した。安定性が減少した結果、培地から得られる収量が低下した。安定性の低下は、タンパク質分解に起因するものと思われる。Gla残基はタンパク質分解を防止するので、最大の活性を有するタンパク質の安定性を増大させるためには、位置35をGlaに改変することが必要であると考えられる。A35E突然変異の導入により、Q11E33F34突然変異体の安定性を増大させることが可能である。
【0156】
位置36の重要性は、Q11E33第VII因子突然変異体にE36D突然変異を追加することにより示された。こうして得られた突然変異体Q11E33D36の活性は、実施例6に記載の競合アッセイでQ11E33突然変異体の活性の70%であった。
【0157】
位置34〜36の改変は、野生型のタンパク質がN34V35D36を含むヒトプロテインCに最大の影響を及ぼすと思われる。F34X35E36(式中、Xは、タンパク質分解消化に耐性を示すアミノ酸である。)を導入することにより、ヒトプロテインCの膜結合親和力を増強することが可能である。
【0158】
実施例8 - アミノ酸4への残基の挿入 : チロシン残基を含む第VII因子がATG Laboratries, Inc.により調製され、実施例6に記載の競合アッセイにより調べられた。5mMカルシウム中のInnovin (20ml)と共にインキュベートすることにより第VII因子を活性化した。最小凝血時間28秒を得るのに十分な量(約0.7μl)のInnovinを含有するサンプルを緩衝液に移した。第VII因子欠損血漿を添加し、凝血時間を記録した。最大の活性に達するまで(通常、30分)、種々の時間でサンプルをアッセイした。凝血時間を30秒にするのに必要な調製培地中での第VII因子の量を求めた。この培地/Innovin比は、ほぼ第VIIa因子/組織因子の比1:1に相当する。活性化の後、凝血時間19秒を得るのに十分な培地/Innovinのサンプル(約4μlのInnovin)を、カルシウムおよびBSA (1g/L)を含有する緩衝液で112.5μlに希釈した。種々の量の活性部位改変型第VIIa因子(DEGR-VIIa)を添加し、平衡に達するまで、典型的には37℃で60分間、インキュベートした。ヒト第VII因子欠損血漿を添加し(37.5μl)、凝血時間を測定した。野生型の第VIIa因子を含有する培地で行った類似の実験と結果を比較した。競合置換アッセイから得られた結果によれば、位置4にチロシン残基の挿入を含むヒト第VII因子の活性は、この残基の欠失した類似の第VII因子分子の活性の2倍であった。
【0159】
有益な突然変異を組み合わせて、位置4に挿入されたチロシン残基を含む第VII因子突然変異体Q11E33F34を産生した。この突然変異体の活性は、上述した競合アッセイで第VII因子Q11E33突然変異体の活性の5倍を示した。全体として、この突然変異体の活性は、実施例6に記載の競合アッセイで野生型の第VIIa因子の活性の160倍である。この結果から分かるように、それぞれの残基の利点は、残基を組み合わせて存在させると加成性を示す。
【0160】
実施例9 - 活性型プロテインC(APC)によるヒト血液の抗凝血 : Clot Signature Analyzer (CSA)装置(Xylum Company, Scarsdale, NY)を用いてQ11G12E33D34突然変異体に対する野生型APCの相対的効力を試験した。アッセイの1つでは、この装置は、新たに採取した(<2分)非抗凝血性血液を、コラーゲン表面を有する繊維の入った管に通す。血流の圧力(mmHg)は、循環系の圧力と同程度である。血液中の血小板はコラーゲンに結合して活性化され、凝血を助長する。この装置は、図16に示されているように、管の出口の圧力を検出する。血塊が形成されると管の出口の圧力が低下し、半反応点が「コラーゲン誘導血栓形成」(CITF)時間として記述される。添加剤のない場合、ヒト被験者に対するCITF時間は、5.0分であった(図16A)。図16の値からバックグラウンド時間を差し引いてCITF時間を求める。30 nM野生型APCを血液に添加した場合、平均CITF時間は、同じ被験者に対して6.5分(5回の測定)であった(図16B)。6 nM突然変異体APC(Q11G12E33D34)を用いた場合、平均CITF時間は、5回の測定(図16C)に基づいて15.5分であり、3 nMの同じ突然変異型APCを用いた場合、5回の測定に基づいて9.5分であった。従って、リン脂質源として活性化ヒト血小板膜を用いて、流動圧力下で全ヒト血液中における血塊形成の阻止を行う場合、突然変異型APCは、野生型APCの少なくとも10倍有効であった。さらにもう一つの実験において、アスピリン2錠を摂取した被験者でCITFを評価したところ、突然変異型APCと野生型APCとのさらに大きな差異が観測された。より低い膜活性は、突然変異体のより大きな影響と関連付けることが可能である。
【0161】
この結果は、先に本明細書中で説明したハンドチルト(hand tilt)アッセイ手順を用いるin vitro凝血試験の結果と異なっていた。APTT試験に対する標準的な条件および全試薬を用いた場合(製造業者Sigma Chemical Co., St. Louis, MO, 1998から入手した物質および該製造業者により記述された手順)、突然変異型タンパク質は、野生型タンパク質のわずか1.5倍の活性を示したにすぎなかった。しかしながら、APTTアッセイには、高レベルのリン脂質が含まれているとともに、突然変異型タンパク質と野生型タンパク質との差異を最小にする条件が含まれている。繰り返すことになるが、これらの結果から、本発明により産生された突然変異型タンパク質の利点を特徴付けるうえでアッセイ条件が重要であり、また低いリン脂質濃度は血小板により提供される生物学的膜に特有のものであることが示唆される。
【0162】
2名の血友病患者由来の血液に及ぼす凝血促進タンパク質の影響を、CSAで試験した。第1の血友病患者に対するCITFは、13.2分であり、図16で抗凝血性血液に対して示したのと同様に、断続的な折点を呈し(圧力の増加を伴う)、血塊は不安定であった。第2のサンプルでは、分析前に、60 nM野生型第VIIa因子を血液に添加した。この用量は治療レベルに相関する。CITF時間(9.7分)は短くなり、血塊はより安定であった。第3のサンプルでは、60 nM第VIIa因子Q11E33を使用した。CITF時間(3.7分)は正常者の範囲を下回り、血塊は安定であった。第2の血友病患者も同様な応答を示した。
【0163】
CSAは、血液凝固を助長する生物学的膜を利用するので、重要なアッセイを提供する。生物学的膜を利用する他のアッセイについても調べた。Hemochron Jr. Signature Whole Blood Microcoaguation Systemにより提供されるアッセイは、臨床状況下で凝血を試験するための一般的なツールである。カセットに全血を採取し、凝血に達する時間を測定する。このシステムを用いた場合、活性型プロテインCのQ11G12E33D34突然変異体は、野生型ヒト活性型プロテインCの5〜10倍活性であった。この活性は、多くの他のアッセイにおける突然変異体の利点を反映するものである。
【0164】
実施例10 - 改変型ポリペプチドのカルボキシル化状態 : マイルドなキモトリプシン消化(1:500、プロテアーゼ:基質タンパク質、pH 7.5、37℃、3時間)により無傷のタンパク質からGLAドメインを放出させた後、ビタミンK依存性ポリペプチドのGLAドメインのカルボキシル化をMALDI-TOF質量分析により評価した。キモトリプシンは、ビタミンK依存性タンパク質の残基40〜45付近を優先的に開裂させて、GLAドメインを放出する。このドメインは単離して調べることができる。C18逆相ゲル上に吸着させることによりペプチドを脱塩し、そして0.1%トリフルオロ酢酸中の75%アセトニトリルを用いて溶出させた。この分析の結果、野生型の組換え第VIIa因子(NOVO Nordisk)が予想したよりも1個少ないGla残基を有することが分かった。キモトリプシン消化から生じた主要な産物は、1〜40ペプチドであり、完全にカルボキシル化された1〜40ペプチドに対する理論値(理論値=5190.4質量単位)よりもカルボキシル基が約1個(44質量単位)少ない5145.6質量単位のM+1イオンを与えた。血漿由来の第VIIa因子をEnzyme Research Laboratoriesから購入した。1〜40ペプチドに対するM+1イオンは5189.8質量単位であり、これは完全にカルボキシル化されたGlaドメインに等しかった。残基1〜32に相当するNOVO組換えVIIa産物に対する第2イオンが観測された。このペプチドに対するM+1イオンは、4184.6質量単位であり、これは完全にカルボキシル化された1〜32ペプチドに対する理論値(理論値=4185.3質量単位)に等しかった。従って、組換え野生型第VIIa因子は、厳格に低カルボキシル化が起こり、このほとんどすべてが位置36で発現される。この結果とは対照的に、第VII因子のQ11E33突然変異体は、ほぼ等しい存在量で5312.8および5269.0のM+1イオンを与えた。この完全にカルボキシル化されたペプチドに対するM+1は5311.4である。第2ピークは、カルボキシル基が1個少ない(-44質量単位)ペプチドに対応する。この結果から分かるように、Q11E33突然変異を導入することにより、組織培養生産の後、完全にカルボキシル化されたGlaドメインが生成された。Q11E33突然変異体の利点は、位置36のより完全なカルボキシル化によって生じるものと思われる。全体として、最適Glaドメインを有するタンパク質を産生するには、組織培養において完全カルボキシル化を促進する残基の選択が必要である。これに関して、位置33〜36の残基を適切に選択することが重要であると思われる。
【0165】
他の実施態様
本発明はその詳細な説明と関連づけて記載されているが、以上の記載は説明することを意図したものであり、添付した請求の範囲により規定される本発明の範囲を限定するものではない。他の態様、利点、および改変は、以下の請求の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対応する天然型の第VIIa因子ポリペプチドと比較して、該ポリペプチドの膜結合親和力を増強する改変型のGLAドメインを含んでなる第VIIa因子ポリペプチドであって、
該改変型のGLAドメインが
a)位置11におけるアミノ酸置換、
b)位置29におけるアミノ酸置換、
c)位置33におけるアミノ酸置換、および
d)位置34におけるアミノ酸置換
を含み、かつ
第VIIa因子ポリペプチドのアミノ酸位置は、第IX因子に従って番号付けられる
上記ポリペプチド。
【請求項2】
前記改変型のGLAドメインが位置4に挿入されたチロシン残基をさらに含む、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記改変型のGLAドメインが位置35に置換された疎水性アミノ酸残基またはグルタミン酸残基をさらに含む、請求項1または2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記疎水性アミノ酸残基がフェニルアラニン、ロイシンまたはイソロイシン残基である、請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項5】
グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸またはアスパラギン残基が位置11で置換されている、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項6】
グルタミン酸残基が位置33で置換されている、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項7】
疎水性アミノ酸残基が位置34で置換されている、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項8】
疎水性アミノ酸残基がフェニルアラニン、ロイシンまたはイソロイシン残基である、請求項7に記載のポリペプチド。
【請求項9】
フェニルアラニンまたはグルタミン酸残基が位置29で置換されている、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のポリペプチドをコードする塩基配列を含む単離された核酸。
【請求項11】
請求項10に記載の塩基配列を含む発現ベクター。
【請求項12】
請求項11に記載の発現ベクターを含む哺乳動物宿主細胞。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のポリペプチドおよび製薬上許容可能な担体を含む医薬組成物。
【請求項14】
薬剤として使用するための請求項1〜9のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項15】
凝血障害治療用凝固促進剤の製造のための請求項1〜9のいずれか一項に記載のポリペプチドの使用。
【請求項16】
前記凝血障害が、血友病A、血友病Bまたは肝臓病である、請求項15に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−135881(P2011−135881A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20351(P2011−20351)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【分割の表示】特願2000−615775(P2000−615775)の分割
【原出願日】平成12年4月28日(2000.4.28)
【出願人】(305023366)リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ (39)
【Fターム(参考)】