説明

改変型可溶性T細胞レセプター

本発明は、(i)膜貫通ドメインを除くTCRα鎖の全て又は一部及び(ii)膜貫通ドメインを除くTCRβ鎖の全て又は一部を含む可溶性T細胞レセプター(sTCR)を提供する。(i)及び(ii)は各々、TCR鎖の機能的可変ドメイン及び少なくとも一部の定常ドメインを含み、天然型TCRには存在しない定常ドメイン残基間のジスルフィド結合により連結され、sTCRがCD1−抗原複合体、細菌性スーパー抗原又はペプチド−MHC/スーパー抗原複合体を認識することにより特徴付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD1−抗原複合体、細菌性スーパー抗原及びペプチド−MHC/スーパー抗原複合体を認識する可溶性T細胞レセプター(TCR)に関する。
【背景技術】
【0002】
天然型TCR
例えばWO99/60120に記載されているように、TCRは、T細胞による特異的な主要組織適合性複合体(MHC)−ペプチド複合体の認識を媒介し、そしてそれ自体、免疫系の細胞兵器の働きに必須である。
【0003】
抗体及びTCRは、特異的な様式で抗原を認識する唯2つの分子型であり、したがってTCRは、MHCにおいて提示される特定ペプチド抗原(この外来ペプチドは、細胞内異常の唯一の徴候であることが多い)の唯一のレセプターである。T細胞認識は、T細胞及び抗原提示細胞(APC)が直接物理的接触をしているときに起こり、抗原特異的TCRとpMHC複合体との結びつきにより開始される。
【0004】
天然型TCR(native TCR)は、シグナル伝達の媒介に関与するCD3複合体の不変形タンパク質と結合する、免疫グロブリンスーパーファミリーのヘテロ二量体細胞表面タンパク質である。TCRはαβ及びγδ形態で存在し、これらの形態は、構造的に類似するが、全く異なる解剖学的所在及びおそらくは機能を有する。MHCクラスI及びクラスIIリガンドもまた、免疫グロブリンスーパーファミリータンパク質であるが、APC細胞表面で多様な編成(array)の短いペプチドフラグメントを提示することを可能にする高度に多形性のペプチド結合部位を有して抗原提示に特化している。
【0005】
2つの更なるクラスのタンパク質が、TCRリガンドとして機能し得ることが知られている。(1)CD1抗原は、その遺伝子が古典的なMHCクラスI及びクラスII抗原とは異なる染色体に位置するMHCクラスI関連分子である。CD1分子は、従来のクラスI及びクラスII-MHC−pep複合体と類似の様式で、ペプチド部分及び非ペプチド部分(例えば、脂質、糖脂質)をT細胞に提示することができる(例えば、Barclayら(1997) The Leucocyte Antigen Factsbook 第2版,Academic Press、及びBauer(1997) Eur J Immunol 27(6) 1366-1373を参照)。(2)細菌性スーパー抗原は、クラスII MHC分子とTCRのサブセットとの両方に結合できる可溶性毒素である(Fraser(1989) Nature 339 221-223)。多くのスーパー抗原が1又は2のVβセグメントに対して特異性を示す一方、その他のものはより無差別な結合を示す。ともかく、スーパー抗原は、多クローン性様式でT細胞のサブセットを刺激する能力により、増強した免疫応答を誘発することができる。
【0006】
天然型ヘテロ二量体αβTCRの細胞外ポーションは2つのポリペプチドからなり、その各々が、膜近位定常ドメイン及び膜遠位可変ドメインを有する(図1を参照)。定常及び可変ドメインの各々が鎖内ジスルフィド結合を含む。可変ドメインは、抗体の相補性決定領域(CDR)に類似する高度多形性ループを含む。TCRのCDR3はMHCにより提示されたペプチドと相互作用し、CDR1及びCDR2はペプチド及びMHCと相互作用する。TCR配列の多様性は、連結される可変(V)、多様性(D)、連結(J)及び定常遺伝子の体細胞再編成(somatic rearrangement)を介して生じる。機能的なα鎖ポリペプチドは、再編成されたV−J−C領域により形成される一方、β鎖はV−D−J−C領域からなる。細胞外定常ドメインは、膜近位領域及び免疫グロブリン領域を有する。単一のα鎖定常ドメイン(TRACとして知られる)及び2つの異なるβ定常ドメイン(TRBC1及びTRBC2として知られる)が存在する(IMGT命名法)。これらβ定常ドメイン間には4つのアミノ酸変化が存在し、そのうちの3つは、本発明の単鎖TCRを作成するために使用するドメイン内にある。これらの変化は全て、TRBC1及びTRBC2のエキソン1内にあり(N4K5→K4N5及びF37→Y(IMGT番号付法、差異TRBC1→TRBC2))、2つのTCRβ鎖定常領域間の最後のアミノ酸変化は、TRBC1及びTRBC2のエキソン3にある(V1→E)。TCR細胞外ドメインの各々の範囲はいくらか変化し得る。しかし、当業者は、The T Cell Receptor Facts Book,Lefranc & Lefranc,Academic Press発行,2001のような参考文献を使用して、ドメイン境界の位置を容易に決定できる。
【0007】
可溶性TCR
可溶性TCRは、特異的TCR−pMHC相互作用の研究目的に有用であるのみならず、感染を検出するか又は自己免疫疾患マーカーを検出するための診断ツールとしてもまた潜在的に有用である。可溶性TCRはまた、染色における応用、例えばMHCに関して提示される特定ペプチド抗原の存在について細胞を染色するための応用を有する。同様に、可溶性TCRは、治療薬剤(例えば、細胞毒性化合物又は免疫刺激性化合物)を、特定抗原を提示している細胞に送達するために使用することができる。可溶性TCRはまた、T細胞、例えば自己免疫ペプチド抗原に対して反応するものを阻害するために使用し得る。
【0008】
1より多いポリペプチドサブユニットから作られ、膜貫通ドメインを有するタンパク質は、可溶性形態での作成が困難であることがある。なぜなら、多くの場合、そのタンパク質は、膜貫通領域によって安定化しているからである。TCRがこの場合であり、このことは、細胞外ドメインのみ又は細胞外ドメインと細胞質ドメインのいずれかを含む短縮形態のTCRを記載する科学文献に示されている。この短縮形態のTCRは、TCR特異的抗体により認識可能である(抗体によって認識される組換えTCRの一部が正確にフォールディングしていることを示す)が、良好な収率で作成することができず、低濃度では安定でなく、且つ/又はMHC−ペプチド複合体を認識することができない。この文献はWO 99/60120で論評されている。
【0009】
多くの論文が、それぞれのサブユニットを接続する天然型ジスルフィドブリッジを含むTCRへテロ二量体の作成を記載している(Garbocziら(1996)Nature 384(6605):134-41;Garbocziら(1996)J Immunol 157(12):5403-10;Changら(1994)PNAS USA 91:11408-11412;Davodeauら(1993)J.Biol.Chem.268(21):15455-15460;Goldenら(1997)J.Imm.Meth.206:163-169;米国特許第6080840号)。しかし、このようなTCRはTCR特異的抗体により認識され得るが、いずれも、相対的に高い濃度以外では天然型リガンドを認識することを示されておらず、且つ/又は安定でなかった。
【0010】
WO99/60120には、天然型リガンドを認識し得るように正確にフォールディングし、経時的に安定であり、合理的な量で作成することが可能な可溶性TCRが記載されている。このTCRは、一対のC末端二量体化ペプチド(例えばロイシンジッパー)により、それぞれTCRβ又はδ鎖細胞外ドメインと二量体化したTCRα又はγ鎖細胞外ドメインを含む。TCRを作成するためのこのストラテジーは、一般に、全てのTCRに適用可能である。
【0011】
Reiterら(Immunity,1995,2:281-287)は、一方がPseudomonasエクソトキシン(PE38)の短縮型形態に連結しているジスルフィド安定化TCRα及びβ可変ドメインを含む可溶性分子の構築を詳述している。述べられているこの分子を作成するための理由の1つは、単鎖TCRの本来的な不安定性を克服することであった。TCR可変ドメイン中の新規ジスルフィド結合の位置は、これらが予め導入されている抗体の可変ドメインとの相同性により同定された(例えば、Brinkmannら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:7538-7542及びReiterら(1994)Biochemistry 33:5451-5459を参照)。しかし、抗体とTCR定常ドメインとの間にそのような相同性はないので、この技法は、TCR定常ドメイン同士間の新たな鎖間ジスルフィド結合の適切な部位を同定するために用いることができなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
可溶性TCRの重要性を考えると、このような分子を作成する代替の方法を提供することは望ましいであろう。具体的には、CD1−抗原複合体、細菌性スーパー抗原及びペプチド−MHC/スーパー抗原複合体を認識する代替の可溶性TCRを提供することは望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のTCRは、広範囲の種々の原核生物及び真核生物の発現系で作成することができる安定な可溶性ポリペプチドを提供する。細菌性発現が経済的理由から特に好ましい。
【0014】
第1の観点によれば、本発明は、(i)TCRα鎖の全て又は一部(その膜貫通ドメインを除く)及び(ii)TCRβ鎖の全て又は一部(その膜貫通ドメインを除く)を含み、CD1−抗原複合体、細菌性スーパー抗原又はペプチド−MHC/スーパー抗原複合体を認識することを特徴とする可溶性T細胞レセプター(sTCR)を提供する。ここで、(i)及び(ii)は各々、TCR鎖の機能的な可変ドメイン、及び定常ドメインの少なくとも一部を含み、天然型TCR中には存在しない定常ドメイン残基同士間のジスルフィド結合により連結されている。
別の観点では、本発明は、CD1−抗原複合体、細菌性スーパー抗原又はペプチド−MHC/スーパー抗原複合体を認識する可溶性αβ形態T細胞レセプター(sTCR)を提供する。ここで、共有ジスルフィド結合が、α鎖定常ドメインの免疫グロブリン領域の残基とβ鎖定常ドメインの免疫グロブリン領域の残基とを連結する。
【0015】
本発明のsTCRは、免疫原性であり得るか又はそのsTCRが身体から迅速に除去されるという結果を生じ得る異形(heterologous)ポリペプチドを含まないという利点を有する。更に、本発明のTCRは、それが由来した天然型TCRに高度に類似する三次元構造を有し、この構造的類似性のために、免疫原性でない可能性が高い。
【0016】
本発明のTCRは可溶性である。本出願に関しては、可溶性とは、TCRが、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(KCl 2.7mM、KH2PO4 1.5mM、NaCl 137mM及びNa2PO4 8mM、pH7.1〜7.5、Life Technologies, Gibco BRL)において1mg/mlの濃度で単分散へテロ二量体として精製され、かつそのTCRの90%より多くが、25℃にて1時間のインキュベーションの後に単分散へテロ二量体として残存できる能力と定義される。TCRの可溶性を評価するため、TCRはまず実施例2に記載のように精製される。この精製後、例えばPBS中で平衡化したPharmacia Superdex 75 HRカラムを使用して、分析サイズ排除クロマトグラフィーにより100μgのTCRを分析する。更なる100μgのTCRを25℃にて1時間インキュベートし、次いで以前と同様にサイズ排除クロマトグラフィーにより分析する。次いで、積分によりサイズ排除トレースを分析し、単分散へテロ二量体に対応するピーク下の面積を比較する。該当するピークは、分子量既知のタンパク質標準の溶出位置と比較することにより同定してもよい。単分散へテロ二量体可溶性TCRは、約50kDaの分子量を有する。上記のように、本発明のTCRは可溶性である。しかし、下記でより詳細に説明するように、TCRは、得られる複合体が不溶性であるように部分(moiety)とカップリングすることができ、或いは不溶性固体支持体の表面に提示されてもよい。
【0017】
本明細書中で使用するTCRアミノ酸の番号付けは、The T Cell Receptor Factsbook, 2001, LeFranc & LeFranc, Academic Pressに記載のIMGTシステムに従う。このシステムでは、α鎖定常ドメインは以下の表記TRAC*01を有する。ここで、「TR」はT細胞レセプター遺伝子を示し、「A」はα鎖遺伝子を示し、Cは定常領域を示し、「*01」は対立遺伝子1を示す。β鎖定常ドメインは以下の表記TRBC1*01を有する。この場合、2つの可能な定常領域遺伝子「C1」及び「C2」が存在する。各対立遺伝子によりコードされる翻訳ドメインは、いくつかのエキソンの遺伝コードからなり得る。したがってこれらもまた特定される。アミノ酸は、それらが存在する特定ドメインのエキソンに従って番号付けされる。
【0018】
天然型TCRの細胞外ポーションは2つのポリペプチド(αβ又はγδ)からなり、その各々が、膜近位定常ドメイン及び膜遠位可変ドメインを有する(図1を参照)。定常ドメイン及び可変ドメインの各々が、鎖内ジスルフィド結合を含む。可変ドメインは、抗体の相補性決定領域(CDR)に類似する高度多形性ループを含む。TCRのCDR3はMHCにより提示されたペプチドと相互作用し、CDR1及びCDR2はペプチド及びMHCと相互作用する。TCR配列の多様性は、連結される可変(V)、多様性(D)、連結(J)及び定常遺伝子の体細胞再編成を介して生じる。機能的なα鎖ポリペプチドは、再編成されたV−J−C領域により形成される一方、β鎖はV−D−J−C領域からなる。細胞外定常ドメインは、膜近位領域及び免疫グロブリン領域を有する。膜近位領域は、膜貫通ドメインと膜近位システイン残基との間のアミノ酸からなる。定常免疫グロブリンドメインは、膜近位システインから連結領域の始まりまで伸びる残りの定常ドメインアミノ酸残基からなり、免疫グロブリン型のフォールディングの存在によって特徴付けられる。単一のα鎖定常ドメイン(Cα1又はTRAC*01として知られる)及び2つの異なるβ定常ドメイン(Cβ1又はTRBC1*01及びCβ2又はTRBC2*01として知られる)が存在する。これら異なるβ定常ドメイン間の差異は、エキソン1のアミノ酸残基4、5及び37に関する。したがって、TRBC1*01は、そのエキソン1内に4N、5K及び37を有し、TRBC2*01は、そのエキソン1内に4K、5N及び37Yを有する。TCR細胞外ドメインの各々の範囲はいくらか変化し得る。
【0019】
本発明において、ジスルフィド結合が、それぞれの鎖の定常ドメイン(又はその一部)に位置する残基同士間に導入される。TCRのそれぞれの鎖は、結合する場合にTCRリガンド対応物(CD1−抗原複合体、スーパー抗原又はスーパー抗原/pMHC複合体)と相互作用することができるに十分なその可変ドメインを含む。このような相互作用は、BIAcore 3000(商標)又はBIAcore 2000(商標)装置を使用して測定することができる。WO 99/6120は、MHC−ペプチド複合体とのTCR結合を分析するために必要となる方法の詳細な説明を提供する。これらの方法は、TCR/CD1及びTCR/スーパー抗原の相互作用の研究に等しく適用可能である。これらの方法をTCR/CD1相互作用の研究に適用するためには、可溶形態のCD1が必要であり、その作成は、Bauer(1997)Eur J Immunol 27(6) 1366-1373に記載されている。
【0020】
1つの実施形態では、本発明のsTCRのそれぞれの鎖はまた、それらの鎖内ジスルフィド結合を含む。本発明のTCRは、それぞれのTCR鎖の細胞外定常Ig領域の全てを含んでもよく、好ましくはそれぞれの鎖の細胞外ドメイン(すなわち膜近位領域を含む)の全てを含んでもよい。天然型TCRには、それぞれの鎖の保存された膜近位領域同士を連結するジスルフィド結合が存在する。本発明の1つの実施形態では、このジスルフィド結合は存在しない。このことは、適切なシステイン残基(それぞれ、TRAC*01遺伝子のエキソン2、アミノ酸4並びにTRBC1*01及びTRBC2*01遺伝子の両方のアミノ酸2)を別のアミノ酸に変異させるか、又はそれらシステイン残基が含まれないようにそれぞれの鎖を短縮化することによって達成され得る。本発明に従う好ましい可溶性TCRは、天然型鎖間ジスルフィド結合を形成するシステイン残基を排除するようにC末端で短縮化した、すなわち、当該システイン残基に対してN末端側の残基1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10残基を短縮化した天然型のα及びβTCR鎖を含む。しかし、天然型鎖間ジスルフィド結合は本発明のTCR中に存在してもよいこと、及びある実施形態では、TCR鎖の一方のみが天然型鎖間ジスルフィド結合を形成する天然型システイン残基を有することに留意すべきである。このシステインは、部分をTCRに付着させるために使用することができる。
【0021】
しかし、それぞれのTCR鎖は、より短くてもよい。定常ドメインはペプチド−MHCリガンドとの接触に直接関与しないので、C末端短縮化点は、機能性を実質的に喪失することなく変更し得る。
【0022】
或いは、定常ドメインの、本明細書中で好ましいとされるものより長いフラグメントが存在し得る。すなわち、定常ドメインは、鎖間ジスルフィド結合を形成するシステイン残基の直前で短縮化する必要はない。例えば、膜貫通ドメインを除く定常ドメイン全体(すなわち、細胞外ドメイン及び細胞質ドメイン)が含まれ得る。この場合、細胞性TCR中の鎖間ジスルフィド結合を形成する1又はそれより多いシステイン残基を、ジスルフィド結合形成に関与しない別のアミノ酸残基に変異させるか、又はこれら残基の1又はそれより多くを欠失させることが有利であり得る。
【0023】
シグナルペプチドは、リガンド結合能力に対して成熟TCR中で何の目的にも役立たず、状況によっては機能的な可溶性TCRの生成を妨げ得るので、可溶性TCRが原核細胞(例えばE.coli)中で発現される場合には、省略されてもよい。ほとんどの場合、シグナルペプチドが成熟TCR鎖から除去される切断部位は、実験的には決定されないが、予測される。発現TCR鎖を、N末端で少数(すなわち、例えば約10まで)のアミノ酸ほどより長く又はより短く操作することは、可溶性TCRの機能性(すなわち、CD1を認識する能力)に関して有意性がないかもしれない。元のタンパク質配列に存在しない特定の付加物を付加し得る。TCRの抗原結合部位の正確な構造及びフォールディングに干渉しないことを前提に、例えば、TCR鎖の精製で助けとなり得る短いタグ配列を付加し得る。
【0024】
E.coliにおける発現のため、翻訳の開始を可能にするように、予測される成熟タンパク質配列のN末端開始点にメチオニン残基を遺伝子操作してもよい。
【0025】
決してTCR鎖の可変ドメイン中の全ての残基が、抗原特異性及び機能性に必須というわけではない。したがって、相当数の変異を、このドメイン中に、抗原特異性及び機能性に影響することなく導入することができる。決してTCR鎖の定常ドメイン中の全ての残基が、抗原特異性及び機能性に必須というわけではない。したがって、相当数の変異を、この領域中に、抗原特異性に影響することなく導入することができる。
【0026】
TCRβ鎖は、細胞性又は天然型のTCR中で対合していないシステイン残基を含む。このシステイン残基は除去されるか又は別の残基に変異されて、不正確な鎖内又は鎖間の対合を回避することが好ましい。このシステイン残基の別の残基(例えばセリン又はアラニン)での置換は、インビトロでリフォールディング効率に対して有意なプラス効果を有し得る。
【0027】
ジスルフィド結合は、それぞれの鎖上の非システイン残基をシステインに変異させ、その変異した残基間にジスルフィド結合を形成させることにより形成してもよい。天然型残基の代わりに導入されたシステイン残基間にジスルフィド結合を形成することができるように、天然型TCR中でそれぞれのβ炭素が約6Å(0.6nm)又はそれ未満、好ましくは3.5Å(0.35nm)〜5.9Å(0.59nm)の範囲で離れている残基が好ましい。ジスルフィド結合は定常免疫グロブリン領域中の残基間であることが好ましいが、膜近位領域の残基間であることができる。システインを導入してジスルフィド結合を形成することができる好ましい部位は、TCRα鎖についてはTRAC*01の、TCRβ鎖についてはTRBC1*01又はTRBC2*01のエキソン1中の以下の残基である:
【表1】

【0028】
本発明の1つのsTCRは、A6 Tax TCR (Garbocziら, Nature, 1996, 384(6605):134-141)に由来する。1つの実施形態では、sTCRは、TRAC*01のエキソン2、残基4のN末端側であるTCRα鎖の全体(Garbocziらで使用される番号付けに従ってα鎖のアミノ酸残基1〜182)並びにTRBC1*01及びTRCB2*01の両方のエキソン2、残基2のN末端側であるTCRβ鎖の全体(Garbocziらで使用される番号付けに従ってβ鎖のアミノ酸残基1〜210)を含む。ジスルフィド結合を形成するために、TRAC*01中のエキソン1のスレオニン48(Garbocziらで使用される番号付けに従ってα鎖のスレオニン158)並びにTRBC1*01及びTRBC2*01の両方のエキソン1のセリン57(Garbocziらで使用される番号付けに従ってβ鎖のセリン172)が、各々、システインに変異され得る。これらアミノ酸は、それぞれα及びβTCR鎖の定常ドメインのβストランドDに位置する。
【0029】
図3a及び3bにおいて、残基1(Garbocziらで使用される番号付けに従って)はそれぞれK及びNであることに留意すべきである。N末端メチオニン残基は、天然型A6 Tax TCR中には存在せず、上記のように、それぞれの鎖が細菌性発現系で生成される場合には存在することもある。
【0030】
今や、システイン残基に変異させて新たな鎖間ジスルフィド結合を形成させることができるヒトTCR中の残基が同定されたので、当業者は任意のTCRを同じ方法で変異させて、新たな鎖間ジスルフィド結合を有する当該TCRの可溶形態を作成することができる。ヒトにおいては、当業者は、単に、それぞれのTCR鎖中の以下のモチーフを探索して変異させるべき残基(下線を付した残基がシステインへの変異のための残基である)を同定することのみが必要である。
α鎖Thr48:DSDVYITDKTVLDMRSMDFK(TRAC*01遺伝子のエキソン1のアミノ酸39〜58)(配列番号1)
α鎖Thr45:QSKDSDVYITDKTVLDMRSM(TRAC*01遺伝子のエキソン1のアミノ酸36〜55)(配列番号2)
α鎖Tyr10:DIQNPDPAVYQLRDSKSSDK(TRAC*01遺伝子のエキソン1のアミノ酸1〜20)(配列番号3)
α鎖Ser15:DPAVYQLRDSKSSDKSVCLF(TRAC*01遺伝子のエキソン1のアミノ酸6〜25)(配列番号4)
β鎖Ser57:NGKEVHSGVSTDPQPLKEQP(TRBC1*01及びTRBC2*01遺伝子のエキソン1のアミノ酸48〜67)(配列番号5)
β鎖Ser77:ALNDSRYALSSRLRVSATFW(TRBC1*01及びTRBC2*01遺伝子のエキソン1のアミノ酸68〜87)(配列番号6)
β鎖Ser17:PPEVAVFEPSEAEISHTQKA(TRBC1*01及びTRBC2*01遺伝子のエキソン1のアミノ酸8〜27)(配列番号7)
β鎖Asp59:KEVHSGVSTDPQPLKEQPAL(TRBC1*01及びTRBC2*01遺伝子のエキソン1のアミノ酸50〜69)(配列番号8)
β鎖Glu15:VFPPEVAVFEPSEAEISHTQ(TRBC1*01及びTRBC2*01遺伝子のエキソン1のアミノ酸6〜25)(配列番号9)
【0031】
他の種においては、TCR鎖は、上記モチーフに対して100%同一性を有する領域を有さなくてもよい。しかし、当業者は、上記モチーフを使用してTCRα又はβ鎖の等価部、したがってシステインに変異させるべき残基を同定することができる。整列技法(alignment technique)をこの点に関して使用してもよい。例えば、変異のためのTCR配列の該当部を位置決めするために、European Bioinformatics Instituteのウェブサイト(http://www.ebi.ac.uk/index.html)で入手可能であるClustalWを使用して上記モチーフと特定のTCR鎖配列を比較することができる。
【0032】
本発明は、その範囲に、ヒトのジスルフィド連結αβTCR及び他の哺乳動物(マウス、ラット、ブタ、ヤギ及びヒツジを含むがこれらに限定されない)のジスルフィド連結αβTCRを含む。上記のように、当業者は、システイン残基を導入して鎖間ジスルフィド結合を形成させることが可能である上記のヒト部位と等価な部位を決定することができる。例えば、以下は、マウスCα及びCβ可溶性ドメインのアミノ酸配列を、システインに変異させてTCR鎖間ジスルフィド結合を形成させることができる上記のヒト残基に等価なマウス残基を示すモチーフと共に示す(ここで、該当残基には下線が付されている)。
マウスCα可溶性ドメイン:
PYIQNPEPAVYQLKDPRSQDSTLCLFTDFDSQINVPKTMESGTFITDKTVLDMKAMDSKSNGAIAWSNQTSFTCQDIFKETNATYPSSDVP(配列番号10)
マウスCβ可溶性ドメイン:
EDLRNVTPPKVSLFEPSKAEIANKQKATLVCLARGFFPDHVELSWWVNGREVHSGVSTDPQAYKESNYSYCLSSRLRVSATFWHNPRNHFRCQVQFHGLSEEDKWPEGSPKPVTQNISAEAWGRAD(配列番号11)
ヒトα鎖Thr48のマウス等価物:ESGTFITDKTVLDMKAMDSK(配列番号12)
ヒトα鎖Thr45のマウス等価物:KTMESGTFITDKTVLDMKAM(配列番号13)
ヒトα鎖Tyr10のマウス等価物:YIQNPEPAVYQLKDPRSQDS(配列番号14)
ヒトα鎖Ser15のマウス等価物:AVYQLKDPRSQDSTLCLFTD(配列番号15)
ヒトβ鎖Ser57のマウス等価物:NGREVHSGVSTDPQAYKESN(配列番号16)
ヒトβ鎖Ser77のマウス等価物:KESNYSYCLSSRLRVSATFW(配列番号17)
ヒトβ鎖Ser17のマウス等価物:PPKVSLFEPSKAEIANKQKA(配列番号18)
ヒトβ鎖Asp59のマウス等価物:REVHSGVSTDPQAYKESNYS(配列番号19)
ヒトβ鎖Glu15のマウス等価物:VTPPKVSLFEPSKAEIANKQ(配列番号20)
【0033】
本発明の好ましい実施形態では、TCRの(i)及び(ii)は各々、第2のTCRの定常ドメインの全て又は一部に融合した第1のTCRの機能的な可変ドメインを含み、第1及び第2のTCRは同じ種に由来し、鎖間ジスルフィド結合は、定常ドメインの当該それぞれの全て又は一部における、天然型TCR中に存在しない残基同士間に存在する。1つの実施形態では、第1及び第2のTCRはヒトである。換言すれば、ジスルフィド結合で連結した定常ドメインは、可変ドメインが融合することのできるフレームワークとして作用する。得られるTCRは、第1のTCRが得られた天然型TCRと実質的に同一である。このような系により、安定な定常ドメインフレームワーク上の任意の機能的可変ドメインの容易な発現が可能になる。
【0034】
上記のA6 Tax sTCRの定常ドメイン、又は上記の新たな鎖間ジスルフィド結合を有する任意の変異体αβTCRの定常ドメインも確かに、異形可変ドメインが融合することのできるフレームワークとして使用することが可能である。融合タンパク質は、異形可変ドメインのコンホメーションをできるだけ同程度に保持することが好ましい。したがって、異形可変ドメインは、導入システイン残基と定常ドメインのN末端との間の任意の点で、定常ドメインに連結されるのが好ましい。A6 Tax TCRについては、α及びβ鎖上の導入システイン残基は、好ましくは、それぞれ、TRAC*01中のエキソン1のスレオニン48(Garbocziらで使用される番号付けに従ってα鎖のスレオニン158)並びにTRBC1*01及びTRBC2*01の両方のエキソン1のセリン57(Garbocziらで使用される番号付けに従ってβ鎖のセリン172)に位置する。したがって、異形α及びβ鎖可変ドメイン付着点は、それぞれ、残基48(Garbocziらで使用される番号付けに従ってα鎖の159)又は残基58(Garbocziらで使用される番号付けに従ってβ鎖の173)とα又はβ定常ドメインのN末端との間である。
【0035】
A6 Tax TCR中の付着点に対応する異形α及びβ鎖の定常ドメイン中の残基は、配列相同性により同定することができる。融合タンパク質は、好ましくは、付着点に対してN末端側の異形配列の全てを含むように構築される。
【0036】
下記でより詳細に議論するように、本発明のsTCRは、C又はN末端にて部分で誘導体化されてもよいし、これと融合されてもよい。結合ドメインから遠位であるので、C末端が好ましい。1つの実施形態では、TCR鎖の一方又は両方が、C及び/又はN末端にそのような部分が融合することのできるシステイン残基を有する。
【0037】
本発明の可溶性TCR(好ましくはヒト)は、実質的に純粋な形態で、又は精製若しくは単離された調製物として提供され得る。例えば、これは、他のタンパク質を実質的に含まない形態で提供されてもよい。
【0038】
本発明の複数の可溶性TCRは多価複合体で提供され得る。したがって、本発明は、1つの観点では、多価T細胞レセプター(TCR)複合体を提供し、これは複数の本明細書中に記載のような可溶性T細胞レセプターを含む。複数の可溶性TCRの各々は、好ましくは、同一である。
【0039】
別の観点では、本発明は、CD1−抗原複合体、細菌性スーパー抗原及びMHC−ペプチド/スーパー抗原複合体から選択されるTCRリガンドを検出するための方法を提供し、この方法は、
(i) 本明細書に記載のような可溶性T細胞レセプター又は多価T細胞レセプター複合体を提供すること
(ii) 可溶性T細胞レセプター又は多価TCR複合体をTCRリガンドと接触させること;及び
(iii) 可溶性T細胞レセプター又は多価TCR複合体とTCRリガンドとの結合を検出すること
を含む。
【0040】
本発明の多価複合体において、TCRは、多量体の形態であってもよいし、及び/又は脂質二重層(例えばリポソーム)上に存在するか若しくはこれと結合していてもよい。
【0041】
最も単純な形態では、本発明に従う多価TCR複合体は、好ましくはリンカー分子を介して、互いに結合(例えば、共有結合又はその他の結合)した2又は3又は4又はそれより多くのT細胞レセプター分子の多量体を含む。適切なリンカー分子としては、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン(neutravidin)及びエキストラアビジン(extravidin)(これらの各々は、ビオチンに対する4つの結合部位を有する)のような多価付着分子が挙げられるが、これらに限定されない。したがって、ビオチン化TCR分子は、複数のTCR結合部位を有するT細胞レセプター多量体に形成することができる。多量体中のTCR分子の数は、その多量体を作成するために使用したリンカー分子の量に対するTCRの量に依存し、また他のビオチン化分子の存否にも依存する。好ましい多量体は、二量体、三量体又は四量体のTCR複合体である。
【0042】
TCR四量体より相当大きい構造は、CD1−抗原複合体を発現する細胞を追跡又は標的することに使用してもよい。好ましくは、構造は、直径が10nm〜10μmの範囲である。各構造は、その構造上の2又はそれより多くのTCR分子が細胞上の2又はそれより多くのCD1−抗原複合体に同時に結合することを可能にし、したがってその細胞に関する多量体結合部分のアビディティを増大させるように十分に離れた距離で複数のTCR分子をディスプレイしてもよい。
【0043】
本発明での使用に適切な構造は、膜構造(例えばリポソーム)及び固体構造(好ましくはビーズのような粒子、例えばラテックスビーズである)を含む。T細胞レセプター分子で外部を被覆され得る他の構造もまた適切である。好ましくは、構造は、個々のT細胞レセプター分子でよりむしろ、T細胞レセプター多量体で被覆される。
【0044】
リポソームの場合、T細胞レセプター分子又はその多量体は、膜に付着していてもよいし、膜とその他の結合をしていてもよい。このための技法は当業者に周知である。
【0045】
標識又は別の部分(例えば、毒性部分又は治療的部分)が、本発明の多価TCR複合体に含まれてもよい。例えば、標識又は他の部分は、混合分子多量体に含まれてもよい。このような多量体分子の例は、3つのTCR分子と1つのペルオキシダーゼ分子とを含む四量体である。これは、TCR及び当該酵素を3:1のモル比で混合して四量体複合体を生成し、正確な比の分子を含まない複合体から所望の複合体を分離することにより達成され得る。これらの混合分子は、立体障害がその分子の所望の機能を損なわないか又は有意には損なわないという条件で、分子の任意の組合せを含み得る。ストレプトアビジン分子上の結合部位の位置は、立体障害を起こす可能性がないので、混合四量体に適切である。
【0046】
TCRをビオチン化する代替の手段が可能であり得る。例えば、化学ビオチン化を使用してもよい。代替のビオチン化タグを使用し得るが、ビオチンタグ配列中の特定アミノ酸は必須である(Schatz(1993), Biotechnology N Y 11(10): 1138-43)。ビオチン化に使用する混合物もまた変化し得る。この酵素は、Mg-ATP及び低イオン強度を必要とするが、これら条件の両方とも変化してよい。例えば、より高いイオン強度及びより長い反応時間を使用することが可能であり得る。アビジン又はストレプトアビジン以外の分子を使用してTCRの多量体を生成することが可能であり得る。多価様式でビオチンを結合する任意の分子が適切であり得る。或いは、全く異なる結合(例えば、キレート化ニッケルイオンに対するポリ−ヒスチジンタグ)(Quiagen Product Guide 1999, 第3章「Protein Expression, Purification, Detection and Assay」 p.35-37)を考案し得る。好ましくは、タグは、対応物であるTCRリガンドとの相互作用における立体障害の量を最小化するために、タンパク質のC末端の方に位置する。
【0047】
TCR鎖の一方又は両方を、検出可能な標識、例えば、診断目的に適切な標識で標識してもよい。したがって、本発明は、CD1−抗原複合体、細菌性スーパー抗原及びMHC−ペプチド/スーパー抗原複合体から選択されるTCRリガンドを検出するための方法を提供し、この方法は、そのTCRリガンドに特異的な本発明に従うTCR又は多量体TCR複合体を、TCRリガンドと接触させること;及びTCR又は多量体TCR複合体とTCRリガンドとの結合を検出することを含む。ビオチン化へテロ二量体を使用して生成された四量体TCRでは、蛍光ストレプトアビジン(市販品として入手可能)を、検出可能な標識を提供するために使用することができる。蛍光標識した四量体は、例えばペプチド(該TCRはこのペプチドに対して特異的である)を保持する抗原提示細胞を検出するために、FACS分析における使用に適切である。
【0048】
本発明の可溶性TCRが検出され得る別の様式は、TCR特異的抗体、特にモノクローナル抗体の使用による。多くの市販の抗TCR抗体、例えばαF1及びβF1(それぞれα及びβ鎖の定常領域を認識する)が存在する。
【0049】
本発明のTCR(又はその多価複合体)は、択一的又は追加的に、例えば細胞殺傷に使用するための毒性部分又は免疫刺激物質(immunostimulating agent)(例えばインターロイキン又はサイトカイン)であり得る治療物質(therapeutic agent)と結合(例えば、共有結合又はその他の結合)していてもよい。本発明の多価TCR複合体は、非多量体のT細胞レセプターへテロ二量体と比べて、TCRリガンドに関して増強した結合能力を有し得る。したがって、本発明に従う多価TCR複合体は、特定の抗原を提示する細胞をインビトロ又はインビボで追跡又は標的するために特に有用であり、またそのような用途を有する更に多価のTCR複合体の製造のための中間体としても有用である。したがって、TCR又は多価TCR複合体は、インビボでの使用のために薬学的に受容可能な製剤で提供され得る。
【0050】
本発明はまた、標的細胞に治療物質を送達するための方法を提供し、この方法は、潜在的な標的細胞を本発明に従うTCR又は多価TCR複合体と、標的細胞へのTCR又は多価TCR複合体の付着を可能にする条件下で接触させることを含み、当該TCR又は多価TCR複合体は、TCRリガンドに特異的であり、これに治療物質を結合させる。
【0051】
特に、可溶性TCR又は多価TCR複合体を使用して、特定の抗原を提示する細胞の位置に治療物質を送達することができる。このことは、多くの状況で、特に腫瘍に対して有用である。治療物質は、その効果を局所的にではあるが、治療物質が結合する細胞上に限らずに発揮するように送達され得る。したがって、1つの特定の戦略は、腫瘍抗原に特異的なT細胞レセプター又は多価TCR複合体に連結した抗腫瘍分子を考案する。
【0052】
多くの治療物質、例えば放射活性化合物、酵素(例えばパーフォリン)又は化学療法剤(例えばシスプラチン)がこの用途に用いられ得る。確実に所望の位置で毒性効果が発揮されるために、毒素は、それがゆっくりと放出されるように、ストレプトアビジンに連結したリポソーム内にあり得る。このことが、体内での輸送の間の損傷効果を防止し、該当する抗原提示細胞とのTCRの結合後に毒素が最大効果を有することを確実にする。
【0053】
他の適切な治療物質には、
・小分子細胞毒性物質、すなわち、哺乳動物細胞を殺傷する能力を有する、分子量700ダルトン未満の化合物。このような化合物はまた、細胞毒性効果を有することができる毒性金属を含み得る。更に、これら小分子細胞毒性物質はまた、プロドラッグ、すなわち、生理学的条件下で崩壊又は変換して細胞毒性物質を放出する化合物を含むと理解されるべきである。このような物質の例には、シスプラチン、メイタンシン(maytansine)誘導体、ラケルマイシン(rachelmycin)、カリケアマイシン(calicheamicin)、ドセタキセル、エトポシド、ゲムシタビン、イホスファミド、イリノテカン、メルファラン、ミトキサントロン、ソルフィマーソディウムホトフィリンII(sorfimer sodiumphotofrin II)、テモゾロマイド(temozolmide)、トポテカン、トリメトレキサート(trimetreate)、グルクロナート、オーリスタチンE(auristatin E)、ビンクリスチン及びドキソルビシンが含まれる;
・ペプチド細胞毒素、すなわち、哺乳動物細胞を殺傷する能力を有するタンパク質又はそのフラグメント。例には、リシン、ジフテリア毒素、シュードモナス細菌外毒素A、DNAアーゼ及びRNAアーゼが含まれる;
・放射性核種、すなわち、1又はそれより多いα若しくはβ粒子又はγ線の同時放射を伴って崩壊する元素の不安定同位体。例には、ヨウ素131、レニウム186、インジウム111、イットリウム90、ビスマス210及び213、アクチニウム225及びアスタチン213が含まれる;
・プロドラッグ、例えば抗体を指向する酵素プロドラッグ;
・免疫増強剤(immuno-stimulant)、すなわち、免疫応答を刺激する部分。例には、サイトカイン(例えばIL-2)、ケモカイン(例えばIL-8)、血小板第4因子、メラノーマ増殖刺激タンパク質など、抗体又はそのフラグメント(例えば抗CD3抗体又はそのフラグメント)、補体活性化剤、異種タンパク質ドメイン、同種タンパク質ドメイン、ウイルス性/細菌性タンパク質ドメイン及びウイルス性/細菌性ペプチドが含まれる。
【0054】
本発明の可溶性TCR又は多価TCR複合体は、プロドラッグを薬物に変換し得る酵素に連結されてもよい。これは、プロドラッグが薬物を必要とする(すなわち、sTCRにより標的にされる)部位でのみ薬物に変換することを可能にする。
【0055】
多くの疾患処置が、可溶性TCRの特異性を通じて薬物を局所化することによって増強させることができる可能性がある。
【0056】
そのための薬物が存在するウイルス性疾患、例えばHIV、SIV、EBV、CMVは、その薬物が感染細胞の近位で放出又は活性化されればその恩恵を受ける。ガンについては、腫瘍又は転移の近位に限局することにより、毒素又は免疫増強剤の効果が増強される。自己免疫疾患では、より長い期間にわたってより局所的な効果を有する一方で、被験者の免疫能力全体には最小限にしか影響しない免疫抑制薬物が徐々に放出され得る。移植拒絶の予防では、免疫抑制薬物の効果は、同じ方法で最適化され得る。ワクチン送達のためには、ワクチン抗原は抗原提示細胞の近くに限局され、したがって抗原の効力を増強し得る。この方法はまた、画像化目的にも適用することができる。
【0057】
本発明の可溶性TCRは、特異的TCRリガンドへの結合によりT細胞活性化を調整し、それによりT細胞活性化を阻害するために使用し得る。T細胞媒介性の炎症及び/又は組織損傷を含む自己免疫疾患(例えばI型糖尿病)は、このアプローチに適する。該当するpMHCにより提示される特異的ペプチドエピトープの知識が、この用途に必要である。
【0058】
ガン又は自己免疫疾患の処置のための組成物の製造における本発明の可溶性TCR及び/又は多価TCR複合体の使用もまた認識される。
処置を必要とする患者に、有効量の本発明の可溶性TCR及び/又は多価TCR複合体を投与することを含む、ガン又は自己免疫疾患の処置方法もまた提供される。
抗ガン治療及び自己免疫治療に共通であるように、本発明のsTCRは、ガン及び自己免疫疾患の処置のための他の作用因子並びに同様な患者群に見出される他の関連する条件と組み合わせて使用してもよい。
【0059】
本発明に従う医薬は、通常、一般には薬学的に受容可能なキャリアを含む、滅菌の医薬組成物の一部として供給される。この医薬組成物は、(これを患者に投与する望ましい方法に依存して)任意の適切な形態であり得る。これは、単位投薬剤形で提供されてもよく、一般には密封容器で提供され、キットの一部として提供されてもよい。このようなキットは、(必ずしもではないが)通常、使用のための指示書を含む。これは、複数の単位投薬剤形を含み得る。
【0060】
医薬組成物は、任意の適切な経路、例えば、経口(口腔粘膜又は舌下を含む)、直腸、鼻、局所(口腔粘膜、舌下又は経皮を含む)、膣又は非経口(皮下、筋肉内、静脈内又は皮内)経路による投与に適合し得る。このような組成物は、薬学の分野において公知の任意の方法により、例えば滅菌条件下で活性成分をキャリア又は賦形剤と混合することにより製造し得る。
【0061】
経口投与に適合する医薬組成物は、カプセル又は錠剤のような個別単位(discrete unit)として;散剤又は顆粒剤として;溶液、シロップ又は懸濁液として(水性若しくは非水性液中;又は食用フォーム(foam)若しくはホイップ(whip)として;又は乳濁液として)提供され得る。錠剤又は硬カプセル(hard gelatine capsule)に適切な賦形剤には、ラクトース、トウモロコシデンプン又はその誘導体、ステアリン酸又はその塩が含まれる。軟カプセル(soft gelatine capsule)での使用に適切な賦形剤には、例えば、植物油、蜜蝋、脂肪、半固体若しくは液体ポリオールなどが含まれる。溶液及びシロップの製造のためには、使用し得る賦形剤は、例えば、水、ポリオール及び砂糖が含まれる。懸濁液の製造のためには、油(例えば、植物油)が、水中油又は油中水の懸濁液を提供するために使用され得る。経皮投与に適合する医薬組成物は、長期間レシピエントの表皮と密接に接触して維持されることを意図される個別パッチとして提供され得る。例えば、活性成分は、Pharmaceutical Research, 3(6):318 (1986)に一般的に記載されるようなイオン導入によってパッチから送達され得る。局所投与に適合する医薬組成物は、軟膏、クリーム、懸濁液、ローション、散剤、溶液、ペースト剤、ゲル、噴霧剤、エアロゾル又はオイルとして製剤化され得る。眼又は他の外部組織(例えば、口及び皮膚)の感染のためには、医薬組成物は、好ましくは、局所軟膏又はクリームとして塗布される。軟膏で製剤化される場合、活性成分は、パラフィン混和性又は水混和性の軟膏基剤のいずれかを用いてもよい。或いは、活性成分は、水中油クリーム基剤又は油中水基剤でクリーム中に製剤化されてもよい。眼への局所投与に適合する医薬組成物は、活性成分が適切なキャリア(特に水性溶媒)に溶解又は懸濁された点眼剤を含む。口への局所投与に適合する医薬組成物は、ロゼンジ(lozenge)、トローチ剤(pastille)及び口内洗浄剤を含む。
【0062】
直腸投与に適合する医薬組成物は、坐剤又は浣腸剤として提供し得る。キャリアが固体である鼻投与に適合する医薬組成物は、例えば20〜500ミクロンの範囲の粒子サイズを有する粗末を含む。この粗末は、嗅剤を用いる様式で(すなわち、鼻に近接して保持された粗末容器から鼻道を通じて迅速に吸入することによって)投与される。キャリアが液体である、鼻スプレー剤又は点鼻剤としての投与に適切な組成物は、活性成分の水性又は油性の溶液を含む。吸入による投与に適合する医薬組成物は、種々のタイプの定量(metered dose)加圧エアロゾル、ネブライザー又は吸入器により発生させ得る微粒子ダスト又はミストを含む。膣投与に適合する医薬組成物は、膣坐剤、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト剤、フォーム又はスプレー製剤として提供され得る。非経口投与に適合する医薬組成物は、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤及び当該製剤を意図するレシピエントの血液と実質的に等張にする溶質を含有し得る水性又は非水性の滅菌注射溶液、並びに、懸濁剤及び濃稠化剤(thickening agent)を含み得る水性及び非水性の滅菌懸濁液を含む。注射溶液に使用し得る賦形剤には、例えば、水、アルコール、ポリオール、グリセリン及び植物油が含まれる。医薬組成物は、単位用量又は複数用量の容器(例えば、密封されたアンプル及びバイアル)で提供されてもよく、使用の直前に備え付けの滅菌液体(例えば、注射剤用の水)を添加することのみを必要とする凍結乾燥状態で貯蔵されてもよい。即席注射溶液又は懸濁液は、滅菌散剤、顆粒剤及び錠剤から製造され得る。
【0063】
医薬組成物は、防腐剤、可溶化剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、甘味剤、着色剤、着臭剤、塩(本発明の物質は、それ自体が薬学的に受容可能な塩の形態で提供されてもよい)、緩衝剤、コーティング剤又は抗酸化剤を含有し得る。これらはまた、本発明の物質に加えて、治療的に活性な薬剤を含有し得る。
【0064】
本発明の物質の投薬量は、処置すべき疾患又は障害、処置すべき個体の年齢及び状態などに依存して、幅広い制限範囲内で変化し得、究極的には、医師が、使用すべき適切な投薬量を決定する。投薬は適切な回数繰り返し得る。副作用を発症する場合、投薬の量及び/又は頻度を、通常の臨床実務に従って減少させることができる。
【0065】
遺伝子クローニング技法は、好ましくは実質的に純粋な形態の、本発明のTCRを提供するために使用され得る。これらの技法は、例えば、J. Sambrookら、Molecular Cloning,第2版,Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に開示されている。したがって、更なる観点では、本発明は、本発明の可溶性TCRの鎖をコードする配列又はこれに相補的な配列を含む核酸分子を提供する。このような核酸配列は、TCRコード核酸をT細胞クローンから単離し、(挿入、欠失又は置換により)適切な変異を作成することによって取得し得る。
【0066】
核酸分子は、単離された形態又は組換え形態であり得る。これはベクター中に組み込まれてもよく、このベクターは宿主細胞中に組み込まれてもよい。このようなベクター及び適切な宿主は、本発明のなお更なる観点を構成する。
【0067】
本発明はまたTCR鎖を得るための方法を提供し、この方法は、そのような宿主細胞を、TCR鎖の発現を引き起こす条件下でインキュベートし、次いでポリペプチドを精製することを含む。
【0068】
本発明の可溶性TCRは、細菌(例えばE.coli)中で封入体として発現させ、その後インビトロでリフォールディングさせることにより取得し得る。
【0069】
TCR鎖のリフォールディングは、適切なリフォールディング条件下でインビトロで起こり得る。特定の実施形態では、正確なコンホメーションを有するTCRは、可溶化剤(例えば尿素)を含むリフォールディング緩衝液中で、可溶化したTCR鎖をリフォールディングさせることによって達成される。有利には、尿素は、少なくとも0.1M又は少なくとも1M又は少なくとも2.5M又は約5Mの濃度で存在し得る。使用し得る代わりの可溶化剤は、0.1M〜8M、好ましくは少なくとも1M又は少なくとも2.5Mの濃度のグアニジンである。リフォールディングの前に、還元剤を用いて、確実にシステイン残基の還元を完了するのが好ましい。必要であれば、更なる変性化剤(例えばDTT及びグアニジン)を使用してもよい。リフォールディング工程の前に異なる変性剤及び還元剤(例えば尿素、β−メルカプトエタノール)を使用してもよい。リフォールディングの間に、代わりのレドックス対(例えば、シスタミン/システアミンレドックス対、DTT又はβ−メルカプトエタノール/大気中の酸素、並びに還元形態及び酸化形態のシステイン)を使用してもよい。
【0070】
フォールディングの効率はまた、リフォールディング混合物に、ある他のタンパク質成分(例えば、シャペロンタンパク質)を添加することにより増大させ得る。改善されたリフォールディングは、ミニ−シャペロンが固定されたカラムにタンパク質を通過させることによって達成されている(Altamiranoら(1999) Nature Biotechnology 17:187-191;Altamiranoら(1997) Proc Natl Acad Sci USA 94(8):3576-8)。
【0071】
或いは、本発明の可溶性TCRは、真核細胞系(例えば昆虫細胞)での発現により取得し得る。例えば同時係属中の出願(WO 03/020763)は、酵母及び昆虫細胞で発現される本発明のものと同じ基本設計のペプチド−MHC結合性可溶性TCRの発現、並びに、広範囲の他の原核生物系又は真核生物系での発現が期待されることを開示している。このように、膜結合TCRの生成に使用されている多くの哺乳動物発現系が存在する。例えば、ある研究(Rubinstein (2003) J. Immunol 170 (3) 1209-1217)は、非天然型膜結合TCRをコードするDNAでの成熟T細胞のインビトロレトロウイルス媒介性形質導入の成功を証明している。このことは、導入TCRにより認識されるpMHC複合体を発現するAPCを特異的に殺傷し得るT細胞の作成に導く。更なる研究(Pogulis (1998) Hum Gene Ther 9 (15) 2285-2297)は、レトロウイルス系を使用して、TCR遺伝子でマウス骨髄細胞を形質導入した。次いで、形質導入骨髄細胞はマウスに導入され、導入TCRの発現が証明された。
【0072】
本発明のTCRは、抗体産生について以前に証明されたものと同様の方法を用いた、トランスジェニック動物(マウス、ラット、ウシ、ヒツジ及びヤギを含むがこれに限定されない)の乳中への発現に馴染むとも予想される。例えば、(Sola (1998) J Virol 72 (5) 3762-3772)は、キメラ抗体(IgA)をコードするDNAのマウスへの導入を記載し、導入IgAを乳中へ分泌し得るマウスが作成され得ることを証明している。
【0073】
発現したTCRの精製は、TCRが発現した特定の環境に誂えることができる多くの異なる手段により達成され得る。代わりの態様のイオン交換を使用してもよいし、他の態様のタンパク質精製(例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー又はアフィニティークロマトグラフィー)を使用してもよい。
【0074】
本発明の可溶性TCR及び多価TCR複合体はまた、TCRリガンドへのTCRの結合を阻害する能力を有する物質(例えば低分子化学化合物)についてのスクリーニングにおける使用が見出される。したがって、更なる観点では、本発明は、CD1−抗原複合体、細菌性スーパー抗原及びMHC−ペプチド/スーパー抗原複合体から選択されるTCRリガンドへのT細胞レセプターの結合を阻害する物質のスクリーニング方法を提供する。この方法は、ある物質の存在下での本発明の可溶性T細胞レセプターとTCRリガンドとの結合をモニターし、その結合を阻害する物質を選択することを含む。
【0075】
このようなスクリーニング法に適切な技法には、WO 01/22084に記載の表面プラズモン共鳴をベースとする方法が含まれる。このスクリーニング法の基本を構成し得る他の周知技法は、シンチレーション近接アッセイ(Scintillation Proximity Analysis)(SPA)及び増幅ルミネッセンス近接アッセイ(Amplified Luminescent Proximity Assay)である。
【0076】
本発明のスクリーニング法により選択される物質は、薬物として又は薬物開発プログラムの基礎として使用して、医薬としての投与に更に適切にする特性を有するように改変されるか、さもなければ改善され得る。このような医薬は、望ましくないT細胞応答成分を含む状態の処置に使用することができる。このような状態には、ガン(例えば、腎臓、卵巣、腸、頭頸部、精巣、肺、胃、子宮頸、膀胱、前立腺又はメラノーマ)、自己免疫疾患、移植片拒絶及び移植片対宿主疾患が含まれる。
【0077】
本発明の各観点の好ましい性状は、必要な変更を加えて、その他の観点の各々についての性状と同様である。明細書中に言及した先行技術文献は、法が許す最大範囲で明細書中に援用する。
【実施例】
【0078】
本発明は以下の実施例において更に記述するが、実施例は、いかなる意味においても、本発明の範囲を限定するものではない。
【0079】
以下に添付図面について言及する。
図1は、本発明に従う導入鎖間ジスルフィド結合を有する可溶性TCRの概略図である。
図2a及び2bは、それぞれ、システインコドンを導入するように変異された、可溶性CD1結合性TCRのα及びβ鎖の核酸配列を示す。影は導入したシステインコドンを示す。
図3aは、新規なジスルフィド鎖間結合を形成させるために使用したT48→C変異(下線)を含む、CD1結合性TCRα鎖細胞外アミノ酸配列を示す。図3bは、新規なジスルフィド鎖間結合を形成させるために使用したS57→C変異(下線)を含む、CD1結合性TCRβ鎖細胞外アミノ酸配列を示す。
図4は、可溶性CD1dへのジスルフィド連結CD1d結合性可溶性TCRの特異的結合のBIAcore応答曲線である。
【0080】
実施例1−プライマーの設計並びにCD1結合性TCRα鎖及びβ鎖の変異誘発
TRAC*01中のエキソン1のCD1結合性TCRスレオニン48をシステインに変異させるために、以下のプライマーを設計した(変異を小文字で示す):
5'-C ACA GAC AAA tgT GTG CTA GAC AT (配列番号21)
5'-AT GTC TAG CAC Aca TTT GTC TGT G (配列番号22)
TRBC1*01及びTRBC2*01の両方でエキソン1のCD1結合性TCRセリン57をシステインに変異させるために、以下のプライマーを設計した(変異を小文字で示す):
5'-C AGT GGG GTC tGC ACA GAC CC (配列番号23)
5'-GG GTC TGT GCa GAC CCC ACT G (配列番号24)
【0081】
PCR変異誘発:
CD1結合性TCRの遺伝子を含有する発現プラスミドを、CD1特異的CD1 T細胞クローンより単離したcDNAから取得した。TCRα又はβ鎖を、それぞれα鎖プライマー又はβ鎖プライマーを使用して、以下のように変異させた。100ngのプラスミドを5μlの10mM dNTP、25μlの10×Pfu緩衝液(Stratagene)、10単位のPfuポリメラーゼ(Stratagene)と混合し、最終容量をH2Oで240μlに調整した。48μlのこの混合物に、50μlの最終反応溶液中で0.2μMの最終濃度が得られるように希釈したプライマーを補充した。95℃にて30秒間の最初の変性工程の後、反応混合物を、Hybaid PCR express PCR装置において、15回の変性(95℃、30秒)、アニーリング(55℃、60秒)及び伸長(73℃、8分)に付した。次いで、産物を10単位のDpnI制限酵素(New England Biolabs)で37℃にて5時間消化した。10μlの消化反応物を、コンピテントXL1-Blue細菌に形質転換し、37℃にて18時間増殖させた。一つのコロニーを採取し、5mlのTYP+アンピシリン(16g/l細菌トリプトン、16g/l酵母抽出物、5g/l NaCl、2.5g/l K2HPO4、100mg/lアンピシリン)中で一晩増殖させた。プラスミドDNAを、製造業者の指示に従ってQiagenミニプレップカラムで精製し、配列を、オックスフォード大学生化学部の配列決定設備で自動配列決定により検証した。それぞれの変異した核酸及びアミノ酸配列を、α鎖については図2a及び3aに、β鎖については図2b及び3bに示す。
【0082】
実施例2−可溶性TCRの発現、リフォールディング及び精製
変異α鎖及びβ鎖を含有する発現プラスミドを、E.coliのBL21pLysS株に別々に形質転換し、1つのアンピシリン耐性コロニーを37℃にてTYP(アンピシリン100μg/ml)培地中でOD600が0.4になるまで増殖させた後、0.5mM IPTGでタンパク質発現を誘導した。誘導の3時間後に、Beckman J-6B中での4000rpmにて30分間の遠心分離によって細胞を採集した。細胞ペレットを、50mM Tris-HCI、25%(w/v)スクロース、1mM NaEDTA、0.1%(w/v)アジ化Na、10mM DTT(pH8.0)を含有する緩衝液に再懸濁した。一晩の凍結−解凍工程の後、再懸濁した細胞を、Milsonix XL2020超音波処理器中で標準の12mm径プローブを使用して1分間のバーストで合計約10分間超音波処理した。封入体ペレットを、Beckman J2-21遠心分離器で13000rpmにて30分間の遠心分離により回収した。次いで、3回の界面活性剤洗浄を行なって細胞残渣及び膜成分を除去した。各回で、封入体ペレットをTriton緩衝液(50mM Tris-HCI、0.5%Triton-X100、200mM NaCI、10mM NaEDTA、0.1%(w/v)アジ化Na、2mM DTT(pH8.0))中でホモジナイズした後、Beckman J2-21中で13000rpmにて15分間の遠心分離によりペレット化した。次いで、界面活性剤及び塩を、以下の緩衝液中での同様な洗浄により除去した:50mM Tris-HCl、1mM NaEDTA、0.1%(w/v)アジ化Na、2mM DTT(pH8.0)。最後に、封入体を30mgのアリコートに分け、−70℃で凍結させた。封入体タンパク質の収率を、6Mグアニジン−HClでの可溶化及びBradford顔料結合アッセイ(PerBio)での測定により定量化した。
【0083】
約120mg(すなわち4マイクロモル)の可溶化α鎖封入体及び30mg(すなわち1マイクロモル)の可溶化α鎖封入体を凍結ストックから解凍し、次いでサンプルを混合し、完全な鎖変性を確実にするために混合物を15mlのグアニジン溶液(6Mグアニジン−ハイドロクロライド、10mM酢酸ナトリウム、10mM EDTA)中に希釈した。次いで、十分に還元及び変性したTCR鎖を含有するグアニジン溶液を、1リットルのリフォールディング緩衝液(100mM Tris(pH8.5)、400mM L-アルギニン、2mM EDTA、5mM還元グルタチオン、0.5mM酸化グルタチオン、5M尿素、0.2mM PMSF)中に注入した。この溶液を24時間放置した。次いで、リフォールディング体(refold)を、2回、最初は10リットルの100mM尿素に対して、第2回目は10リットルの100mM尿素、10mM Tris(pH8.0)に対して透析した。リフォールディング工程及び透析工程は共に6〜8℃で行なった。
【0084】
Akta精製器(Pharmacia)を使用して、透析したリフォールディング体をPOROS 50HQアニオン交換カラムに充填し、50カラム容量にわたる0〜500mM NaCIの勾配で結合タンパク質を溶出させることにより、 sTCRを分解産物及び不純物から分離した。ピーク画分を4℃で保存し、クーマシー染色SDS-PAGEにより分析した後、プールして濃縮した。最後に、HBS-EP緩衝液(10mM HEPES(pH7.4)、150mM NaCl、3.5mM EDTA、0.05% nonidet p40)中で予め平衡化したSuperdex 200HRゲル濾過カラムを使用して、sTCRを精製し、特徴付けた。約50kDaの相対分子量で溶出するピークをプールして濃縮した後、BIAcore表面プラズモン共鳴分析により特徴付けた。
【0085】
実施例3−CD1へのsTCRの結合のBIAcore表面プラズモン共鳴特徴付け
表面プラズモン共鳴バイオセンサ(BIAcore 3000(商標))を使用して、sTCRとそのCD1リガンドとの結合を分析した。これは、半配向様式でストレプトアビジン被覆結合表面に固定した、Bauer (1997) Eur Immunol 27(6) 1366-1373に記載のような可溶性CD1複合体を作成し、同時に4つまでの異なるTCRリガンド(別々のフローセルに固定された)に対する可溶性T細胞レセプターの結合の効率的な試験を可能にすることによって促進させた。HLA複合体の手動での注入により、固定したTCRリガンドを正確なレベルで容易に操作することが可能になった。
【0086】
このような固定化複合体は、T細胞レセプター及びコレセプターCD8ααの両方(共に可溶相に注入され得る)と結合できる。TCRの特異的結合は、低濃度(少なくとも40μg/ml)でさえ得られる。このことはTCRが比較的安定であることを示す。sTCRのCD1結合の結合特性は、sTCRが可溶相又は固定化相のいずれかで使用される場合、量的及び質的に同様であるように観察される。このことは、可溶種の部分的な活性についての重要なコントロールであり、また、ビオチン化CD1複合体が非ビオチン化複合体と同程度に生物学的に活性であることを示唆する。
【0087】
新規な鎖間結合を含有するCD1結合性sTCRと可溶性CD1との間の相互作用を、BIAcore 3000(商標)表面プラズモン共鳴(SPR)バイオセンサで分析した。 SPRは、レセプターリガンド相互作用を検出しその親和性及び動力学的パラメータを分析するために使用することができる原理である、小さなフローセル内のセンサ表面近くで、応答単位(RU)で表される屈折率の変化を測定する。CD1複合体を別々のフローセルに固定化することにより、プローブフローセルを準備した。次いで、異なるフローセルの表面上にsTCRを一定流速で通過させ、そうしている間のSPR応答を測定することにより、アッセイを実施した。可溶性CD1複合体上に一定流速で異なる濃度で可溶性sTCRを注入してバックグランドの共鳴を規定した。
CD1結合性TCRと可溶性CD1との間の相互作用について得られたKd値は、6.0±0.3μMであった。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明に従う導入鎖間ジスルフィド結合を有する可溶性TCRの概略図である。
【図2】システインコドンを導入するように変異された、可溶性CD1結合性TCRのα及びβ鎖の核酸配列を示す(それぞれ、(a)及び(b))。影は導入したシステインコドンを示す。
【図3】(a)は、新規なジスルフィド鎖間結合を形成させるために使用したT48→C変異(下線)を含む、CD1結合性TCRα鎖細胞外アミノ酸配列を示す。(b)は、新規なジスルフィド鎖間結合を形成させるために使用したS57→C変異(下線)を含む、CD1結合性TCRβ鎖細胞外アミノ酸配列を示す。
【図4】可溶性CD1dへのジスルフィド連結CD1d結合性可溶性TCRの特異的結合のBIAcore応答曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)膜貫通ドメインを除くTCRα鎖の全て又は一部及び(ii)膜貫通ドメインを除くTCRβ鎖の全て又は一部を含み、ここで(i)及び(ii)は、各々TCR鎖の機能的可変ドメイン及び少なくとも一部の定常ドメインを含み、かつ天然型TCRには存在しない定常ドメイン残基間のジスルフィド結合により連結されている、sTCRがCD1−抗原複合体、細菌性スーパー抗原又はペプチド−MHC/スーパー抗原複合体を認識することを特徴とする可溶性T細胞レセプター(sTCR)。
【請求項2】
(i)及び(ii)の一方又は両方がTCR鎖の細胞外定常Igドメインの全てを含む請求項1に記載のsTCR。
【請求項3】
(i)及び(ii)の一方又は両方がTCR鎖の細胞外ドメインの全てを含む請求項1又は2に記載のsTCR。
【請求項4】
共有ジスルフィド結合が、α鎖定常ドメインの免疫グロブリン領域の残基をβ鎖定常ドメインの免疫グロブリン領域の残基に連結している可溶性αβ型T細胞レセプター(sTCR)。
【請求項5】
天然型TCR中の鎖間ジスルフィド結合が存在しない請求項1〜4のいずれか1項に記載のsTCR。
【請求項6】
天然型鎖間ジスルフィド結合を形成するシステイン残基が排除されるように天然型のα及びβのTCR鎖がC末端で短縮化されている請求項5に記載のsTCR。
【請求項7】
天然型鎖間ジスルフィド結合を形成するシステイン残基が別の残基に置換されている請求項5に記載のsTCR。
【請求項8】
天然型鎖間ジスルフィド結合を形成するシステイン残基がセリン又はアラニンに置換されている請求項7に記載のsTCR。
【請求項9】
天然型TCRβ鎖に存在する未対合のシステイン残基が存在しない請求項1〜8のいずれか1項に記載のsTCR。
【請求項10】
天然型TCRに存在しないジスルフィド結合が、天然型TCR構造中でβ炭素原子が0.6nm未満離れている残基から置換されたシステイン残基間に存在する請求項1〜9のいずれか1項に記載のsTCR。
【請求項11】
天然型TCRに存在しないジスルフィド結合が、TRAC*01のエキソン1のThr48及びTRBC1*01又はTRBC2*01のエキソン1のSer57から置換されたシステイン残基間に存在する請求項1〜10のいずれか1項に記載のsTCR。
【請求項12】
天然型TCRに存在しないジスルフィド結合が、TRAC*01のエキソン1のThr45及びTRBC1*01又はTRBC2*01のエキソン1のSer77から置換されたシステイン残基間に存在する請求項1〜10のいずれか1項に記載のsTCR。
【請求項13】
天然型TCRに存在しないジスルフィド結合が、TRAC*01のエキソン1のTyr10及びTRBC1*01又はTRBC2*01のエキソン1のSer17から置換されたシステイン残基間に存在する請求項1〜10のいずれか1項に記載のsTCR。
【請求項14】
天然型TCRに存在しないジスルフィド結合が、TRAC*01のエキソン1のThr45及びTRBC1*01又はTRBC2*01のエキソン1のAsp59から置換されたシステイン残基間に存在する請求項1〜10のいずれか1項に記載のsTCR。
【請求項15】
天然型TCRに存在しないジスルフィド結合が、TRAC*01のエキソン1のSer15及びTRBC1*01又はTRBC2*01のエキソン1のGlu15から置換されたシステイン残基間に存在する請求項1〜10のいずれか1項に記載のsTCR。
【請求項16】
(i)及び(ii)が、各々第1のTCRの機能的可変ドメインとこれに融合した第2のTCRの定常ドメインの全て又は一部を含み、第1及び第2のTCRが同じ種に由来する請求項1、2及び5〜15のいずれか1項に記載のsTCR。
【請求項17】
第2のTCRの定常ドメインが、非天然型鎖間ジスルフィド結合を形成する残基のN末端側で短縮化されている請求項16に記載のsTCR。
【請求項18】
一方又は両方の鎖がC又はN末端で部分で誘導体化されているか又は部分と融合されている請求項1〜17のいずれか1項に記載のsTCR。
【請求項19】
一方又は両方の鎖が、C及び/又はN末端に、部分を融合することができるシステイン残基を有する請求項1〜18のいずれか1項に記載のsTCR。
【請求項20】
検出可能な標識を更に含む請求項1〜19のいずれか1項に記載のsTCR。
【請求項21】
治療薬剤と結合している請求項1〜20のいずれか1項に記載のsTCR。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれか1項に記載のsTCRを複数含む多価T細胞レセプター(TCR)複合体。
【請求項23】
sTCR多量体を含む請求項22に記載の複合体。
【請求項24】
好ましくはリンカー分子を介して、互いに結合した2又は3又は4又はそれより多くのT細胞レセプター分子を含む請求項23に記載の複合体。
【請求項25】
sTCR又はsTCR多量体が脂質二重層中に存在するか又は粒子に付着している請求項22、23又は24に記載の複合体。
【請求項26】
(i)請求項1〜21のいずれか1項に記載の可溶性TCR又は請求項22〜25のいずれか1項に記載の多価T細胞レセプター複合体を提供する工程;
(ii)可溶性TCR又は多価TCR複合体をTCRリガンドと接触させる工程;及び
(iii)可溶性TCR又は多価TCR複合体とTCRリガンドとの結合を検出する工程
を含む、CD1−抗原複合体、細菌性スーパー抗原又はペプチド−MHC/スーパー抗原複合体から選択されるTCRリガンドを検出する方法。
【請求項27】
請求項1〜21のいずれか1項に記載のsTCR及び/又は請求項22〜25のいずれか1項に記載の多価TCR複合体を、薬学的に受容可能なキャリアと共に含む医薬製剤。
【請求項28】
請求項1〜21のいずれか1項に記載のsTCRの(i)又は(ii)をコードする配列又はこれに相補的な配列を含む核酸分子。
【請求項29】
請求項28に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項30】
請求項29に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項31】
請求項30に記載の宿主細胞を、ペプチドの発現を引き起こす条件下でインキュベートし、次いでポリペプチドを精製することを含む、請求項1〜21のいずれか1項に規定の(i)又は(ii)を取得するための方法。
【請求項32】
適切なリフォールディング条件下で(i)及び(ii)を混合することを更に含む請求項31に記載の方法。
【請求項33】
ガン又は自己免疫疾患の処置のための組成物の製造における、請求項1〜21のいずれか1項に記載のsTCR及び/又は請求項22〜25のいずれか1項に記載の多価TCR複合体の使用。
【請求項34】
請求項1〜21のいずれか1項に記載のsTCR及び/又は請求項22〜25のいずれか1項に記載の多価TCR複合体の有効量を、処置を必要としている患者に投与することを含むガン又は自己免疫疾患の処置方法。

【図1】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−527191(P2007−527191A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−568435(P2004−568435)
【出願日】平成15年7月9日(2003.7.9)
【国際出願番号】PCT/GB2003/002986
【国際公開番号】WO2004/074322
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(505168388)アヴィデックス リミテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】AVIDEX LIMITED
【住所又は居所原語表記】57C Milton Park,Abingdon,Oxfordshire OX14 4RX,United Kingdom
【Fターム(参考)】