説明

改変間葉系幹細胞及びそれを使用した腫瘍の治療方法

本発明は、遺伝子修飾された間葉系幹細胞を使用して腫瘍に罹患した対象を治療する方法を提供し、各遺伝子修飾された間葉系幹細胞は、(i)(ii)に作動可能に連結された細胞傷害性タンパク質コード領域、(ii)プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせを含む外因性核酸を含み、それにより遺伝子修飾された間葉系幹細胞が腫瘍の間質組織に近接すると、細胞傷害性タンパク質が選択的に発現する。本発明はさらに、この方法において使用される遺伝子修飾された間葉系幹細胞を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願全体を通じて様々な刊行物が引用される。それらの刊行物の開示は、本発明が関わる分野の技術水準をより十全に説明するため、本明細書によって本願に参照により援用される。
【背景技術】
【0002】
新しいパラダイムが示唆するところによれば、悪性細胞は、悪性表現型の惹起及び維持に大きい影響を及ぼす複雑な細胞内及び細胞外微小環境に存在する12。固形腫瘍は、悪性細胞と、並びに線維芽細胞、内皮細胞、周皮細胞、リンパ性細胞、及び概して単核球浸潤を含む間質を含む支持細胞とから構成されるものと見ることができる26。こうした間質細胞は腫瘍の生存に不可欠であるため、化学療法的介入の重要な標的となっている。
【0003】
間葉系幹細胞(MSC)は多能性前駆細胞であり、様々な組織の維持及び再生に寄与する78。MSCは多くの組織に認められ、そこでMSCは、骨髄、血液などの局所的な幹細胞源又は種々の間葉組織源として働く。MSCは、外傷後又は慢性炎症の最中の組織リモデリングに寄与する。傷害された組織は特異的エンドクリンを放出すると考えられ、次にそのエンドクリンによって多能性MSCが可動化され、続いて外傷部位に動員される。MSCはまた、腫瘍間質に強く誘引される。実験動物で血液中に浸出したMSCは悪性腫瘍に局在化する。そこではMSCは、腫瘍脈管系及び間質線維芽細胞を含めた腫瘍間質を含む様々な細胞型に寄与し得る。
【0004】
乳癌においては、腫瘍部位にあるMSCが小タンパク質のケモカインCCL5を放出することが、最近になってKarnoubらにより示された。CCL5は様々な間質細胞の化学誘引物質として作用することができ910、その発現は腫瘍の新血管新生の増加と関連付けられている。加えて、CCL5は、多数の間質細胞型を原発腫瘍の増殖部位に動員することによって癌の増殖及び転移に寄与し得る91112
【0005】
最近になって、MSC前駆体のCD34-サブポピュレーションが増殖中の腫瘍に動員され、新しい血管内皮細胞(EC)又は周皮細胞へのその分化を介して腫瘍血管新生に寄与することが示されている1315。重要なことに、これらの及び関連する直接的な作用は、MSCを末梢循環に直接注入した後に観察することができる16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
血管新生を行う腫瘍組織との近接性に基づく細胞傷害性タンパク質発現ではなく、それ自体が細胞傷害性タンパク質を発現させる腫瘍間質組織との近接性に基づく細胞傷害性タンパク質発現を用いる幹細胞ベースの治療法が必要とされているが、いまだ対応されていない。これは特に、まだ血管新生を行っていない転移性腫瘍の治療に関して強く必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、腫瘍に罹患した対象の治療方法を提供し、これは、対象の血流中に治療上有効な数の遺伝子修飾された間葉系幹細胞を導入するステップを含み、各遺伝子修飾された間葉系幹細胞は、(i)(ii)に作動可能に連結された細胞傷害性タンパク質コード領域、(ii)プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせを含む外因性核酸を含み、それにより遺伝子修飾された間葉系幹細胞が腫瘍の間質組織に近接すると、細胞傷害性タンパク質が選択的に発現する。
【0008】
本発明の別の実施形態はまた、本特許出願に開示される腫瘍に罹患した対象の治療方法のいずれかにおいて使用される遺伝子修飾された間葉系幹細胞も提供する。
【0009】
本発明はまた、膵腫瘍に罹患したヒト対象の治療方法も提供し、これは、約1×105〜約1×109細胞/kg体重の遺伝子修飾されたCD34-幹細胞を対象の血流中に導入するステップを含み、ここで(a)各遺伝子修飾されたCD34-幹細胞は、(i)(ii)に作動可能に連結された単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼコード領域、(ii)RANTESプロモーターを含む外因性核酸を含み、(b)対象は、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼによってガンシクロビルが細胞傷害性になることが可能な方法でガンシクロビルにより治療され、及び(c)遺伝子修飾された間葉系幹細胞の導入は、その前、それと同時又はその後に骨髄破壊を伴わない。
【0010】
本発明はさらに、(i)(ii)に作動可能に連結された細胞傷害性タンパク質コード領域、(ii)プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせを含む外因性核酸を含む遺伝子修飾された間葉系幹細胞を提供し、それにより遺伝子修飾された間葉系幹細胞が腫瘍の間質組織に近接すると、細胞傷害性タンパク質が選択的に発現する。
【0011】
さらに本発明のさらなる実施形態は、
−(i)(ii)に作動可能に連結された細胞傷害性タンパク質コード領域、(ii)炎症性メディエーターにより誘導可能な、プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせを含むレトロウイルスベクターと、
−間葉系幹細胞又はCD34-幹細胞に対する向性を提供するウイルス表面タンパク質をコードする遺伝子と、
を含むレトロウイルスパッケージング細胞に関する。
【0012】
さらに、レトロウイルスパッケージング細胞はまた、パッケージング細胞からシュードタイプビリオンを産生するための構造タンパク質及び酵素をコードする遺伝子も含む。
【0013】
最後に、本発明は、(i)(ii)に作動可能に連結された単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼコード領域、(ii)RANTESプロモーターを含む外因性核酸を含む遺伝子修飾されたヒトCD34-幹細胞を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(A)左側腹部を1cm切開して膵臓を露出させた。1mlシリンジを使用して150,000個のPanc02膵癌細胞を膵臓に注入した。(B)手技の2週間後、全てのマウスで触知可能な腫瘍が成長し、マウスをそれぞれの実験群に無作為に割り付けた。
【図2】変法ボイデンチャンバーアッセイを用いて、Panc02細胞から得た馴化培地に対するC57Bl6 MSCの遊走応答を評価した。結果は、Panc02から得た増殖培地へのMSCの遊走が用量依存的に誘導されることを示す。
【図3】MSC(CMVプロモーターの制御下でeGFPを構成的に発現するよう改変したもの)の移植Panc02腫瘍への浸潤能力を調べた。1週間に3回、増殖中の膵腫瘍を有するマウスに500,000個の細胞を静脈内注入した。5週間後、マウスを屠殺し、腫瘍を摘出してGFPの発現について分析した。(A)結果は、腫瘍に関連する強力なGFP発現を示す。(B)MSCの養子移入により、実験を通して移植腫瘍の増殖の増加が認められた。
【図4】CCL5プロモーターは、Panc02腫瘍を標的とするMSCに対するレポーター遺伝子発現の選択性の増加を提供する。MSCを、CCL5プロモーターの制御下でRFP又はeGFPのいずれかを発現するよう改変した。週1回500,000個の細胞を3週間にわたり注入した後、動物を屠殺し、蛍光顕微鏡法によって腫瘍をレポーター遺伝子発現について調べた。CCL5プロモーターにより駆動したeGFP(A)及びRFP(B)の双方のレポーター遺伝子とも、腫瘍環境内で発現を示した。RFP特異的ポリクローナル抗体を使用した固定化組織切片に対する免疫組織化学により、さらに正確な腫瘍形態を観察した(C及びD)。(C)結果は、腫瘍の間質領域におけるRFPの限局的な発現を示す(100×)。(D+E)より高倍率の同様の腫瘍試料が(それぞれ200×、500×)、腫瘍環境におけるRFPレポーター遺伝子の発現を示してMSCの広範囲にわたる浸潤を示す。
【図5】膵癌に対する治療モダリティとしてのGVCを併用した、CCL5プロモーターの制御下でHSV−TKを発現するよう改変されたMSCの適用。(A)HSV−TK自殺遺伝子を発現させるためのMSCの改変に使用したコンストラクトの概要。(B)治療レジメンについて、500,000個のCCL5−TK改変MSCを静脈内注入した。細胞には3日間、増殖腫瘍への動員を行わせ、TK遺伝子の発現を活性化させた。マウスは1日1回の7.5mgGVCの静脈内注入を4日間にわたり受け、その後1日の休止をおいた。次にマウスに再び改変幹細胞を注入し、実験期間中このサイクルを繰り返した。3サイクル後(腫瘍誘導の36日後又は初回MSC注入の21日後)、動物を屠殺して腫瘍増殖を評価した。(C)媒体対照、改変MSC対照(RFP、eGFP)及びHSV−TK/GCV治療による処置動物から切除した腫瘍の例。(D)HSV−TK/GCV治療の結果、実験を通して腫瘍増殖が有意に減少した。
【図6】遺伝子エレメントのいくつかの例を含む導入遺伝子カセットの図式的概要である。誘導性プロモーター(pInd)が細胞傷害性タンパク質コード領域に連結される。第2の構成的細胞又はウイルスプロモーター(pConst)が選択マーカー遺伝子に連結される。2つのユニットはインシュレーター配列(+/−インシュレーター)によって分離されてもよい。
【図7】図6に図示されるMSCを遺伝子修飾するための導入遺伝子カセットを有するレトロウイルスベクターの概要。ベクター産生は、5’末端反復配列(LTR)におけるU3領域のプロモーター活性により駆動され得る。5’U3領域は他のウイルスプロモーターに置き換えられてもよい。パッケージングシグナルΨは、ベクターゲノムのベクター粒子へのキャプシド化を促進する。レンチウイルス粒子の産生には、rev応答配列(RRE)及びセントラルポリプリントラクト(cPPT)などのさらなるエレメントが必要である。ウッドチャック肝炎転写後制御エレメント(wPRE)を最適に付加すると、ベクター力価及び導入遺伝子発現の増加に役立ち得る。誘導性プロモーター(pInd)が細胞傷害性タンパク質コード領域に連結される。第2の構成的細胞又はウイルスプロモーター(pConst)が選択マーカー遺伝子に連結される。2つのユニットは、インシュレーター配列(+/−インシュレーター)によって分離されてもよい。
【図8】RANTESプロモーターの制御下でHSV tkを発現するレンチウイルスベクターのプラスミドマップ。
【図9】TNFα(10ng/ml)及びIFNγ(10ng/ml)によるMSCの誘導後のRANTES mRNA発現。相対的なRANTES mRNA量は、正規化値として0時間の非誘導試料を含むΔΔCT法を用いて計算した。2つの生物学的試料による平均値を示す。
【図10】hMSCをガンシクロビルで処置すると、TNFα及びIFNγによるRANTESプロモーターの誘導後、特異的な細胞死がもたらされる。hMSCの代表的な顕微鏡写真であり、処置なし(A)、TNFα及びIFNγにより誘導(B)、ガンシクロビルのみによる処置(C)、又は初めにTNFα及びIFNγで誘導し、次にガンシクロビルで処置(D)であった。100×倍率。
【発明を実施するための形態】
【0015】
用語
本願において使用する特定の用語は、以下に定める意味を有するものとする。
【0016】
本明細書で使用されるとき、細胞は、それが、又はその前駆体細胞のいずれかが同じ種の別の対象由来である場合、対象に対して「同種異系」である。
【0017】
本明細書で使用されるとき、細胞は、それが、又はその前駆体細胞が当該の同じ対象由来である場合、対象に対して「自家性」である。
【0018】
本明細書で使用されるとき、「CD34-幹細胞」は、その表面にCD34を欠く幹細胞を意味するものとする。CD34-幹細胞、及びその単離方法は、例えば、Lange C.ら、「Accelerated and safe expansion of human mesenchymal stromal cells in animal serum−free medium for transplantation and regenerative medicine」 J. Cell Physiol.2007年4月25日[印刷版に先立つ電子版]に記載される。
【0019】
本明細書で使用されるとき「細胞傷害性タンパク質」は、細胞内に、細胞上に、及び/又は細胞に近接して存在するとき、直接的及び/又は間接的に当該細胞の死滅を引き起こすタンパク質を意味するものとする。細胞傷害性タンパク質としては、例えば、自殺タンパク質(例えばHSV−tk)及びアポトーシス誘導因子が挙げられる。細胞傷害性遺伝子としては、ヌル遺伝子、遺伝子ノックダウン用のsiRNA又はmiRNA(例えばCCR5−/−)が挙げられる。単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子、シトシンデアミナーゼ遺伝子、水痘帯状疱疹ウイルスチミジンキナーゼ遺伝子、ニトロレダクターゼ遺伝子、大腸菌(Escherichia coli)gpt遺伝子、及び大腸菌(E.coli)Deo遺伝子を含め、多数の自殺遺伝子系が同定されている。シトシンデアミナーゼ;シトクロムP450;プリンヌクレオシドホスホリラーゼ;カルボキシペプチダーゼG2;ニトロレダクターゼ。Yazawa K、Fisher WE、Brunicardi FC:「Current progress in suicide gene therapy for cancer」 World J Surg.2002年7月;26(7):783〜9頁に詳述されるとおり。細胞傷害性因子としては、以下のものが挙げられる:(i)ケモカイン及びムチンケモカインGPI融合などのホーミング因子(ケモカイン由来の作用物質を使用して、改変幹細胞の特異的な動員を促進することができる。例えば、GPIアンカーが付加されるムチン融合に関してPCT国際出願第PCT/EP2006/011508号明細書を参照のこと;(ii)細胞傷害性タンパク質としてのウイルス抗原(麻疹、水痘);及び(iii)改変幹細胞の表面に提示され、その後her−2/neu抗体、及びCD52エピトープに特異的なCamPath(登録商標)(Alemtuzumab)の投与が続き得るHer2/neu抗原。
【0020】
本明細書で使用されるとき、核酸は、ある細胞又はある細胞の前駆体細胞のいずれかに人為的に導入された場合、当該の細胞に対して「外因性」である。
【0021】
本明細書で使用されるとき、幹細胞は、それが、又はその前駆細胞のいずれかが、そこに人為的に導入された核酸を有している場合、「遺伝子修飾」されている。遺伝子修飾された幹細胞を作成する方法としては、ウイルス性又は非ウイルス性遺伝子導入(例えば、プラスミド導入、ファージインテグラーゼ、トランスポゾン、AdV、AAV及びレンチウイルス)の使用が挙げられる。
【0022】
本明細書で使用されるとき、幹細胞を対象の血流中に「導入する」とは、限定なしに、かかる細胞を対象の静脈又は動脈の一方に注入によって導入することを含むものとする。かかる投与はまた、例えば、一回、複数回、及び/又は1つ又は複数の一定期間にわたり実施することができる。単回注入が好ましいものの、場合によっては経時的な反復注入(例えば、毎日、3日毎、毎週、隔週、毎月、四半期毎、半年毎又は毎年)が必要となることもある。かかる投与はまた、好ましくは幹細胞と薬学的に許容可能な担体との混合物を用いて実施される。薬学的に許容可能な担体は当業者に公知であり、限定はされないが、0.01〜0.1M及び好ましくは0.05Mのリン酸緩衝液又は0.8%の生理食塩水が挙げられる。加えて、かかる薬学的に許容可能な担体は水性又は非水性の溶液、懸濁液、及び乳濁液であってもよい。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、及びオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルである。水性担体としては、生理食塩水及び緩衝媒体を含め、水、アルコール溶液/水溶液、乳濁液、及び懸濁液が挙げられる。非経口媒体としては、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル及び固定油が挙げられる。静脈内媒体としては、流体及び栄養補液、リンゲルデキストロースなどの電解質補液、リンゲルデキストロースをベースとしたものなどが挙げられる。静脈内投与に一般的に使用される流体は、例えばRemington(34)に掲載されている。防腐剤及び他の添加剤、例えば、抗菌薬、抗酸化剤、キレート剤、不活性ガスなどもまた存在し得る。
【0023】
「間葉系幹細胞」(「MSC」とも称される)は、循環系及びリンパ系の結合組織、骨、軟骨、及び細胞を生じ得る。間葉系幹細胞は、ゆるく充填された紡錘状又は星状の未分化細胞からなる胚性中胚葉の一部である間葉に見られる。本明細書で使用されるとき、間葉系幹細胞は、限定なしにCD34-幹細胞を含む。
【0024】
本発明の一実施形態において、MSCは、Horwitzら49において多能性間葉系間質細胞として定義される線維芽細胞様のプラスチック付着細胞であり、またCD34-細胞も含む。誤解を避けるため、用語「多能性間葉系間質細胞」はまた、間葉系幹細胞及びその前駆体のサブポピュレーションも含み、このサブポピュレーションは、インビボで特定の複数の細胞型に分化可能な多分化能を有する自己複製細胞から構成される。
【0025】
本明細書で使用されるとき、「骨髄破壊」は、例えば、高用量の化学療法又は高線量の放射線療法の投与によって引き起こされる骨髄細胞の重度の又は完全な減少を意味するものとする。骨髄破壊は標準的手順であり、例えばDeeg(33)に記載されている。
【0026】
本明細書で使用されるとき、「核酸」は、限定なしに、DNA、RNA及びそのハイブリッドを含めた任意の核酸分子を意味するものとする。核酸分子を形成する核酸塩基は、塩基A、C、G、T及びU、並びにその誘導体であり得る。これらの塩基の誘導体は当該技術分野において公知であり、「PCR Systems,Reagents and Consumables」(Perkin Elmer Catalogue 1996−1997、Roche Molecular Systems,Inc.、Branchburg、N.J.、米国)に例示される。
【0027】
本明細書で使用されるとき、細胞傷害性タンパク質をコードする核酸領域は、プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせに対して、かかるプロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせが適切な状況下で細胞傷害性タンパク質の発現を生じさせる場合に、「作動可能に連結」されている。
【0028】
本明細書で使用されるとき、「ポリペプチド」は、アミノ酸残基のポリマーを意味する。「ペプチド」は、典型的にはより短鎖のポリペプチド(例えば、10アミノ酸残基)を指し、及び「タンパク質」は、典型的にはより長鎖のポリペプチド(例えば、200アミノ酸残基)を指す。アミノ酸残基は天然に存在するものであっても、又はその化学的類似体であってもよい。ポリペプチドはまた、グリコシル化、リピド結合、硫酸化、ヒドロキシル化、及びADPリボシル化などの修飾も含み得る。
【0029】
本明細書で使用されるとき、組織「に近接している」とは、例えば、組織の1mm以内、組織の0.5mm以内及び組織の0.25mm以内を含む。
【0030】
用語「RANTES」プロモーターは、本明細書では用語「CCL5」プロモーターと同義として使用される。
【0031】
本明細書で使用されるとき、細胞傷害性タンパク質は、それをコードする遺伝子修飾された間葉系幹細胞が腫瘍間質組織に近接したとき、細胞傷害性タンパク質が当該環境内において、対象体内の任意の他の環境における発現と比べてより多く発現する場合に、「選択的に発現」する。好ましくは、細胞傷害性タンパク質は当該環境において、対象体内の任意の他の環境における発現と比べて少なくとも10倍多く発現する。
【0032】
本明細書で使用されるとき、「対象」は、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、モルモット又はウサギなどの任意の動物を意味するものとする。
【0033】
本明細書で使用されるとき、疾病に罹患した対象を「治療する」とは、疾病の進行を遅延させ、抑止し、又は逆転させることを意味するものとする。好ましい実施形態において、疾病に罹患した対象を治療するとは、理想的には疾病それ自体が消失する点まで疾病の進行を逆転させることを意味する。本明細書で使用されるとき、疾病を寛解させることと疾病を治療することとは同義である。
【0034】
本明細書で使用されるとき、「腫瘍」は、限定なしに、前立腺腫瘍、膵腫瘍、扁平上皮癌、乳房腫瘍、メラノーマ、基底細胞癌、肝細胞癌、精巣癌、神経芽細胞腫、神経膠腫又は多形性膠芽腫(glioblastma multiforme)などの悪性星細胞系腫瘍、結腸直腸腫瘍、子宮内膜癌、肺癌、卵巣腫瘍、頚部腫瘍、骨肉腫、横紋筋肉腫/平滑筋肉腫、滑膜肉腫、血管肉腫、ユーイング肉腫/PNET及び悪性リンパ腫を含むものとする。これらには、原発腫瘍並びに転移性腫瘍(血管新生しているもの及び血管新生していないものの双方)が含まれる。
【0035】
本明細書で使用されるとき、細胞は、それが、又はその前駆細胞のいずれかが異なる種の別の対象由来である場合、対象に対して「異種」である。
【0036】
本明細書で使用されるとき、用語「腫瘍の間質組織」は、腫瘍の周囲及び近傍の結合性構造組織を含み、線維芽細胞/筋線維芽細胞、グリア細胞、上皮細胞、脂肪細胞、血管細胞、平滑筋細胞、及び免疫細胞などの様々な細胞を含む。腫瘍間質はまた、細胞外マトリックス及び細胞外分子も提供する53
【0037】
本明細書で使用されるとき、用語「炎症性メディエーター」は、組織傷害及び腫瘍増殖の部位で作用し、且つ組織傷害及び腫瘍増殖に対する炎症誘発反応及び抗炎症反応を仲介する免疫調節分子を含む。炎症性メディエーターの非限定的な例は、サイトカイン、及びエイコサノイドである。腫瘍細胞及び周囲の間質細胞は、炎症誘発性サイトカイン及び炎症反応と協調するプロテアーゼなどの数多くの炎症誘発性メディエーターを産生することが知られている。かかるメディエーターの例は、TNF−α及びIL−6である。加えて、腫瘍細胞及び間質細胞はまた、TGF−β、IL−l0及びM−CSFなどの、例えば樹状細胞の成熟を阻害する抗炎症性分子を分泌することにより免疫応答を抑制することも可能である54
【0038】
本発明の実施形態
本発明は、腫瘍に罹患した対象の治療方法を提供し、これは、対象の血流中に治療上有効な数の遺伝子修飾された間葉系幹細胞を導入するステップを含み、ここで各遺伝子修飾された間葉系幹細胞は、(i)(ii)に作動可能に連結された細胞傷害性タンパク質コード領域、(ii)プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせを含む外因性核酸を含み、それにより遺伝子修飾された間葉系幹細胞が腫瘍の間質組織に近接すると、細胞傷害性タンパク質が選択的に発現する。
【0039】
治療される対象は任意の動物であってよく、好ましくはヒトである。治療される腫瘍は原発性であっても、又は転移性であってもよく、及び血管新生していても、又は血管新生していなくともよい。好ましくは、腫瘍は転移性で、且つ血管新生していない。腫瘍は、例えば、前立腺腫瘍、乳房腫瘍、膵腫瘍、扁平上皮癌、乳房腫瘍、メラノーマ、基底細胞癌、肝細胞癌、精巣癌、神経芽細胞腫、神経膠腫又は多形性膠芽腫(glioblastma multiforme)などの悪性星細胞系腫瘍、結腸直腸腫瘍、子宮内膜癌、肺癌、卵巣腫瘍、頚部腫瘍、骨肉腫、横紋筋肉腫/平滑筋肉腫、滑膜肉腫、血管肉腫、ユーイング肉腫/PNET及び悪性リンパ腫であり得る。好ましくは、腫瘍は膵腫瘍である。別の好ましい実施形態において、治療される腫瘍の間質組織は線維芽細胞様細胞を含む。
【0040】
間葉系幹細胞は、様々な供給源:例えば、骨髄、臍帯血、(動員された)末梢血及び脂肪組織から単離することができる49。さらに好ましい実施形態において、遺伝子修飾された間葉系幹細胞はCD34-幹細胞である。加えて、遺伝子修飾された間葉系幹細胞は、対象に対して同種異系であっても、自家性であっても、又は異種性であってもよい。遺伝子修飾された幹細胞を用いる本方法では、幹細胞が(i)標的組織内の適切な細胞に近接し、(ii)分化し、及び/又は(iii)標的組織内の適切な細胞と融合すると、外因性遺伝子が発現し、すなわち「オン」に切り換えられる。
【0041】
本発明では、遺伝子修飾された間葉系幹細胞の導入は、好ましくはその前、それと同時又はその後に骨髄破壊を伴わない。
【0042】
本発明の別の実施形態は、腫瘍に罹患した対象の治療方法のいずれかにおいて使用される間葉系幹細胞又はCD34-幹細胞を提供する。特に間葉系幹細胞又はCD34-幹細胞は、炎症性メディエーターによって誘導可能な、且つ細胞傷害性タンパク質コード領域の転写を制御するプロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせを含むことができる。これらの炎症性メディエーターは腫瘍の間質組織により放出されることができ、従って幹細胞が腫瘍の間質組織に近接すると、間葉系幹細胞において細胞傷害性タンパク質の発現が誘導される。炎症性メディエーターは、例えばTNFα又はIFNγなどのサイトカインであってもよい。特にプロモーターは、とりわけTNFα又はIFNγによって誘導され得るRANTESプロモーターであってもよい35。RANTESプロモーターはまた、MSCの分化との関連における分化シグナルによって誘導されることもできる。炎症誘発性メディエーターによって誘導可能なプロモーターのさらなる例はNF−kB応答エレメント36、及び一般にIL1β又はTNFαによって誘導され得るプロモーター37である。
【0043】
加えて、抗炎症性メディエーター(例えばTGF−β)により活性化されるプロモーターを使用して、間葉系幹細胞における細胞傷害性タンパク質の標的発現を実現することができる。例は、Smad結合エレメントを含むプロモーターである55
【0044】
炎症メディエーターによって誘導可能なプロモーターの使用により、まだ血管形成を行っていない腫瘍を選択的に治療することが可能となる。
【0045】
本発明の治療法のいずれかにおいて使用される幹細胞は、さらに、(iii)(iv)に作動可能に連結された選択マーカー遺伝子、(iv)構成的プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせを含むことができる。選択マーカー遺伝子は、抗生物質耐性遺伝子、例えば、ピューロマイシン、ネオマイシン又はウアバインに対する耐性を付与する遺伝子を含むことができる38。抗生物質耐性遺伝子は、抗生物質の存在下で遺伝子修飾された間葉系幹細胞を選択するために、及び発癌を促進する可能性があることから腫瘍治療において使用すべきでない未修飾の間葉系幹細胞を抑制するために使用することができる。抗生物質耐性遺伝子に加えて又は代えて、表面マーカータンパク質をコードする遺伝子を使用することができ、これは遺伝子修飾された間葉系幹細胞の表面上でのみ発現する。表面マーカータンパク質の非限定的な例は、CD34及びCD24のスプライス変異体である3940。表面マーカータンパク質を認識する特異抗体を有する磁気ビーズを使用して、遺伝子修飾された間葉系幹細胞を選択してもよい41
【0046】
選択マーカー遺伝子の転写を制御する構成的プロモーターは、pCAG42、EF1α43、PGK42、CMV及びSFFV42などの様々な異なるプロモーターであり得る。
【0047】
加えて、本発明の様々な実施形態に係る幹細胞は、(v)細胞傷害性タンパク質コード領域と選択マーカー遺伝子との間に位置するインシュレーター配列、を含み得る。インシュレーター配列は、いかなる炎症性メディエーターも存在しない場合に、選択マーカー遺伝子の構成的プロモーターが細胞傷害性タンパク質コード領域の転写に影響を及ぼして、それを「オン」に切り換えることが起こらないよう確実にし得る44
【0048】
好ましくは、プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせに作動可能に連結された細胞傷害性タンパク質コード領域は、及び構成的プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせに作動可能に連結された選択マーカー遺伝子もまた、幹細胞ゲノムに組み込まれる。これにより、染色体外ベクターを有する遺伝子修飾された幹細胞と比べてより安定的な遺伝子修飾された間葉系幹細胞を産生することが可能となる。
【0049】
本発明のさらなる実施形態において、遺伝子修飾された幹細胞は、幹細胞ゲノムに組み込まれたプロウイルス配列をさらに含み、ここでプロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせに作動可能に連結された細胞傷害性タンパク質コード領域、及び構成的プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせに作動可能に連結された選択マーカー遺伝子は、プロウイルス配列の一部である。特にレトロウイルス科(Retroviridae)由来のウイルスを使用して間葉系幹細胞を安定的に遺伝子修飾することができる。レトロウイルスの例は、レンチウイルス、α−レトロウイルス又はγ−レトロウイルスである。
【0050】
以下に、2つの機能ユニットを有する導入遺伝子カセットを含むレトロウイルスベクターについて記載する(図6)。2つの機能ユニットは、
1.インビトロ選択:抗生物質耐性遺伝子(例えばピューロマイシン耐性遺伝子)などの選択マーカー遺伝子又は磁気ビーズ分離に好適な表面マーカー遺伝子(例えばCD34)に連結された細胞由来又はウイルス由来の構成的プロモーター(例えばCAGプロモーター)
2.バイスタンダー死:細胞傷害性タンパク質コード領域(例えば単純ヘルペスチミジンキナーゼをコードする)に連結された細胞由来又はウイルス由来の誘導性腫瘍特異的プロモーター(例えばRANTESプロモーター)
である。
【0051】
場合により、2個のプロモーター間のプロモーター干渉を防ぐため、機能ユニットをインシュレーター配列によって分離してもよい。
【0052】
上述の導入遺伝子カセットは、MSCに送達し、そこでの発現を安定させるため、レトロウイルスに由来するウイルスベクター系などの様々なウイルス及び非ウイルスベクター系に組み込まれ得る。
【0053】
MSCを遺伝子修飾するためのレトロウイルスベクターは、α−、γ−レトロウイルス又は(ヒト及び非ヒト)レンチウイルスに由来し得る。レトロウイルスベクター系は、目的とする導入遺伝子、すなわち細胞傷害性タンパク質コード領域を有する導入ベクター骨格と、ベクターDNAの逆転写及び組み込みに必要なあらゆる配列エレメントとを含むが、しかしgag、pol及びenv遺伝子などのほとんど又は全てのウイルス遺伝子は欠いている。最も新しい次世代レトロウイルスベクターは、特別な安全性の修飾を含み得る:これらのいわゆる自己不活性化(SIN)ベクターでは、3’U3領域が部分的又は完全に取り除かれ、それによりウイルスのプロモーター活性が停止し、宿主細胞ゲノムにおける隣接遺伝子の転写活性化が防がれる50
【0054】
ベクター粒子の産生には、トランスで構造タンパク質、酵素及びエンベロープタンパク質を提供する様々な数のヘルパープラスミドが必要となる50。外来エンベロープ糖タンパク質を有するウイルス粒子を産生することができる。このプロセスはシュードタイピングと呼ばれる。これにより、ベクター粒子の向性を変化させることが可能となり、場合によってはベクター力価が亢進する。
【0055】
上述の導入遺伝子カセットは、標準的な分子生物学的方法を用いてSIN−レトロウイルスベクター骨格に挿入され、標準方法に従いウイルス粒子を産生し得る50
【0056】
図7は、α−及びγ−レトロウイルス及びレンチウイルスベクターコンストラクトの例示的概要を示し、これらは図6に図示される上述の導入遺伝子を有し得る。
【0057】
リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV GP)、水疱性口内炎ウイルス(VSV−g)、RD114−TR又はテナガザル白血病ウイルス(GALV env)の糖タンパク質によるベクター粒子のシュードタイピングが企図される。
【0058】
間葉系幹細胞を遺伝子修飾するための別の代替的方法は、化学的(例えばLipofectamin)又は物理的(例えば電気穿孔)トランスフェクションによるものである。その後、トランスフェクト細胞を上記に記載したとおり選択することで、導入遺伝子カセットが偶然に間葉系幹細胞ゲノムに組み込まれた、安定的にトランスフェクトされたMSCを選択することができる。
【0059】
MSCを遺伝子修飾するためのさらに別の代替例は、トランスポゾンに由来する非ウイルスベクター系の使用によるものである。上述の発現カセットを末端逆方向反復配列に隣接して配置した後、コンストラクトをトランスフェクションによってMSCに導入することができる。トランスフェクションの間にスリーピング・ビューティー51又はピギーバック52などのトランスポザーゼがトランスで発現する場合、発現カセットはMSCのゲノムに安定的に組み込まれ得る。
【0060】
本発明のいくつかの実施形態に係る遺伝子修飾された間葉系幹細胞は、シュードタイプビリオンを天然間葉系幹細胞に形質導入することにより調製することができ、その表面上で外来糖タンパク質が発現し、それによって向性及び多くの場合にビリオンの力価が変化する。
【0061】
シュードタイプビリオンは、
− (i)(ii)に作動可能に連結された細胞傷害性タンパク質コード領域、(ii)炎症性メディエーターにより誘導可能な、プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせを含むレトロウイルスベクターと、
− 間葉系幹細胞又はCD34-幹細胞に対する向性を提供するウイルス表面タンパク質をコードする遺伝子と、
を含むレトロウイルスパッケージング細胞を用いて生成することができる。
【0062】
さらに、レトロウイルスパッケージング細胞はまた、gag、pol及びenv遺伝子などの、パッケージング細胞からシュードタイプビリオンを産生するための構造タンパク質及び酵素をコードする遺伝子も含み、それによりシュードタイプビリオンの構築が可能となる。
【0063】
好ましくは、構造タンパク質及び酵素をコードするこれらの遺伝子は、感染性であるが複製能を有しないビリオンを産生するため、間葉系幹細胞又はCD34-幹細胞に対する向性を提供するウイルス表面タンパク質のコード遺伝子とは異なるベクターに位置する。これらのシュードタイプビリオンは、(ii)に作動可能に連結された細胞傷害性タンパク質コード領域、(ii)プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせを有し、ウイルス表面タンパク質を発現する。通常、間葉系幹細胞の形質導入には、シュードタイプビリオンを含むレトロウイルスパッケージング細胞の上清が用いられ得る。
【0064】
間葉系幹細胞又はCD34-幹細胞に対する向性を提供するウイルス表面タンパク質をコードする遺伝子(シュードタイピング)は、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV GP)45、水疱性口内炎ウイルス(VSV−g)45、RD114−TR46又はテナガザル白血病ウイルス(GALV env)47などの広範な宿主向性を付与する多種多様な糖タンパク質であり得る。
【0065】
既に上述したとおり、プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせは、サイトカイン又は他の炎症性メディエーターにより誘導可能であり得る。好ましい実施形態において、プロモーターはRANTESプロモーターである。レトロウイルスパッケージング細胞はまた、さらなる遺伝子及びプロモーターも誘導することができる。
【0066】
本発明の別の特定の実施形態において、細胞傷害性タンパク質は理想的には単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼであり、対象は理想的には、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼによってガンシクロビルが細胞傷害性になることが可能な方法でガンシクロビルにより治療される。ガンシクロビル及びその使用方法は、当該技術分野において公知である。別の可能性は、細胞傷害性タンパク質としてシトシンデアミナーゼを使用することであり、これは5−フルオロシトシンを毒性化合物5−フルオロウラシルに変換する48
【0067】
本発明において、治療上有効な数の遺伝子修飾された間葉系幹細胞としては、限定なしに以下の量及び量の範囲が挙げられる:(i)約1×105〜約1×109細胞/kg体重;(ii)約1×106〜約1×108細胞/kg体重;(iii)約5×106〜約2×107細胞/kg体重;(iv)約5×106〜約1×107細胞/kg体重;(v)約1×107〜約2×107細胞/kg体重;(vi)約7×106〜約9×106細胞/kg体重;(vii)約1×105細胞/kg体重;(viii)約1×106細胞/kg体重;(ix)約5×106細胞/kg体重;(x)約1×107細胞/kg体重;(xi)約6×106細胞/kg体重;(xii)約7×106細胞/kg体重;(xiii)約8×106細胞/kg体重;及び(ix)約9×106細胞/kg体重。想定されるヒトの体重としては、限定なしに、約50kg、約60kg;約70kg;約80kg、約90kg;及び約100kgが挙げられる。これらの数値は、MSCの移植からの前臨床動物実験及び標準プロトコルに基づく。
【0068】
本発明はまた、膵腫瘍に罹患したヒト対象の治療方法も提供し、これは、約5×106〜約2×107細胞/kg体重の遺伝子修飾されたCD34-幹細胞を対象の血流中に導入するステップを含み、ここで(a)各遺伝子修飾されたCD34-幹細胞は、(i)(ii)に作動可能に連結された単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼコード領域、(ii)RANTESプロモーターを含む外因性核酸を含み、(b)対象は、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼによってガンシクロビルが細胞傷害性になることが可能な方法でガンシクロビルにより治療され、及び(c)遺伝子修飾された間葉系幹細胞の導入は、その前、それと同時又はその後に骨髄破壊を伴わない。この方法において、腫瘍は好ましくは転移性であり、血管新生していても、又はしていなくともよい。加えて、遺伝子修飾された間葉系幹細胞は、対象に対して同種異系であっても、自家性であっても、又は異種性であってもよい。
【0069】
本発明は、(i)(ii)に作動可能に連結された細胞傷害性タンパク質コード領域、(ii)プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせを含む外因性核酸を含む遺伝子修飾された間葉系幹細胞をさらに提供し、それにより遺伝子修飾された間葉系幹細胞が腫瘍の間質組織に近接すると、細胞傷害性タンパク質が選択的に発現する。好ましくは、間葉系幹細胞はヒトCD34-幹細胞である。また、RANTESプロモーターを含む外因性核酸も好ましく、ここで細胞傷害性タンパク質は単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼである。
【0070】
最後に、本発明は、(i)(ii)に作動可能に連結された単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼコード領域、(ii)RANTESプロモーターを含む外因性核酸を含む遺伝子修飾されたヒトCD34-幹細胞を提供する。
【0071】
本発明で用いられる様々なタンパク質及び調節配列は、当業者によって容易に入手され得る。例えば、RANTESプロモーターは(22)に開示され、通常の技能を用いて入手することができる。チミジンキナーゼ(ATP:チミジン5’ホスホトランスフェラーゼ、e.c. 2.7.1.21)(1型CL101株)についてはHSV TK−V00467ヘルペス遺伝子を使用することができる。
【0072】
本発明は、以下の実験の詳細を参照することによってさらに理解されようが、当業者は、詳述される特定の実験が、その後に続く特許請求の範囲にさらに十全に記載されるとおりの本発明の例示に過ぎないことを容易に理解するであろう。
【実施例】
【0073】
実験の詳細
概要
目的:膵腫瘍間質を対象とした改変間葉系幹細胞に基づく治療法の効力を分析すること。
【0074】
要約基礎データ:間葉系幹細胞(MSC)は腫瘍間質に能動的に動員され、そこで腫瘍の増殖及び転移を亢進させる。腫瘍間質内のMSCによる走化性サイトカインCCL5の上方制御が、この過程で中心的役割を果たすことが示されている。マウスMSCを改変してCCL5プロモーターの制御下にレポーター遺伝子又は治療遺伝子を発現させ、増殖中の膵腫瘍を有するマウスに養子導入した。次に腫瘍の増殖及び転移に対する効果を評価した。
【0075】
方法:C57/Bl6 p53(−/−)マウスの骨髄から単離したMSCに、RANTESプロモーターにより駆動される赤色蛍光タンパク質(RFP)、高感度緑色蛍光タンパク質(eGFP)又は単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼ(tk)遺伝子を安定的にトランスフェクトした。同所性同系膵Panc02腫瘍を有するマウスにMSCを1週間に1回、3週間にわたり静脈内適用した。
【0076】
結果:処置した膵腫瘍試料において、CCL5プロモーターにより駆動されるeGFP及びRFPシグナルを蛍光(florescence)により検出した。幹細胞適用後5〜7日目にプロドラッグのガンシクロビル(GCV)により腹腔内処置したHSV−tk治療群は、原発膵腫瘍の増殖が50%低下し(p<0,0003、スチューデントt検定)、肝転移が低下する(30%対100%)結果となる。
【0077】
結論:eGFP−及びRFP−レポーター遺伝子を使用して、MSCの原発膵腫瘍間質への能動的なホーミング及びRANTESプロモーターの活性化を確認した。ガンシクロビルの存在下では、HSV−tkをトランスフェクトしたMSCは原発膵腫瘍の増殖及び転移の発生の有意な低下をもたらした。
【0078】
材料及び方法
間葉系幹細胞
記載されるとおりのp53標的欠失ホモ接合体のC57BL/6マウスの骨髄から間葉系幹細胞を単離した15。細胞を細胞培養において付着性で且つ連続的に増殖させた。サブクローニング後、単細胞クローンを選択し、特性決定した15。細胞に、CCL5プロモーターと連結した赤色蛍光タンパク質(RFP)、緑色蛍光タンパク質(eGFP)又はHSVチミジンキナーゼをトランスフェクトした。プロモーターの配列は、上流領域の−972及び全5’非翻訳領域を使用した18。加えて、全てのベクターが、CMVにより制御されるBsr2ブラストサイジン耐性遺伝子を含んだ。ブラストサイジンは、5μg/mlの濃度でトランスフェクト細胞を選択するために使用した。マウスに注入する前に、細胞は培養フラスコから剥離し、PBSで2回洗浄し、PBS中に再懸濁した。
【0079】
変法ボイデンチャンバーアッセイ
変法ボイデンチャンバーアッセイを用いてインビトロでの特異的MSC遊走を実施した15。幹細胞は、Panc02同系膵癌細胞の上清濃度の減少に対して遊走させた。
【0080】
同所性膵癌モデル
Jackson研究所からC57BL6マウスを入手した。全ての動物実験は、バイエルン州の動物の権利に関する委員会から然るべき許可を得て行った。平均体重約20gの2ヶ月齢〜3ヶ月齢のC57BL/6マウスをPanc02(C57BL/6マウスと同系の)膵腫瘍の移植に使用した19。ケタミン(体重1kg当たり100mg)、キシラジン(体重1kg当たり5mg)及びアトロピンを使用してマウスを麻酔した。マウスの左側腹部における手術部位を無菌の方法で剃毛して準備した。左側腹部を1cm切開し、膵臓を露出させた。目盛り付き押しボタンデバイス(Hamilton Syringe Company、米国)及び30G針の1mlシリンジ(双方ともBD Biosciences、スペイン)を使用して、40μlのPBS溶液中の150,000個のPanc02膵癌細胞を膵臓に注入した。膵癌細胞が腹膜内に播種されないことを確実にするよう注意を払った。そのため、膵臓から針を抜いた後、Q−tipを注入部位に1分間軽く押し当てた。腫瘍細胞の注入後、4−0 prolene(Braun AG、独国)の結節縫合により腹膜及び皮膚を閉じた。この手技の2週間後、全てのマウスで触知可能な腫瘍が成長し、マウスをそれぞれの実験群に無作為に割り付けた。A群は幹細胞又はガンシクロビルの注入を受けず、B群は未修飾の幹細胞を投与され、C群はC57BL/6 p53−/− CCL5/HSV−tk+間葉系幹細胞及びGCV注入を受け、D群はC57BL/6 p53−/− CCL5/RFP+間葉系幹細胞を投与され、及びE群はC57BL/6 p53−/− CCL5/eGFP間葉系幹細胞を投与された。全ての幹細胞注入は0.5×106細胞/週の用量とし、尾静脈から投与した。C群のGCV(Cymeven(登録商標)、Roche、独国)の注入は、幹細胞注入後5〜7日目に1.5mgの用量で腹腔内に適用した。3サイクルの処置を経た後に全てのマウスを屠殺し、腫瘍を単離して計量した。統計的有意性の検定は、独立した試料に対する独立両側t検定により達成した。
【0081】
蛍光顕微鏡法
膵腫瘍の組織試料をTissue−Tek O.C.T.(Miles Inc.米国)に包埋し、液体窒素でスナップ凍結した。5μm厚の低温切片を得た。DAPI核染色溶液(Vectashield「Hard set Dapi封入剤」、米国)を切片に加え、GFP又はRFP蛍光シグナルについて直ちに評価した。AxioCam MR顕微鏡カメラを使用して写真を撮り、ソフトウェアPhotoshop(登録商標)(Adobe、米国)を使用して種々の蛍光チャネルの画像を重ね合わせた。
【0082】
MSC注入及びガンシクロビル処置
注入前、細胞を計数し、1×106細胞/mlPBSの最終濃度に希釈した。ガンシクロビル(GCV)(Cymeven;Roche)をH2O(注射用水(aqua ad iniectabilia))中に溶解し、10mg/mlの濃度とした。細胞懸濁液を26G針で尾静脈から投与し、薬物を腹腔内注入により投与した。処置は、1日目に0.5ml細胞(500,000個の細胞)を注入して開始した。5〜7日目、ガンシクロビルを60μg/g体重の1日用量で、例えば体重25gのマウスについて150μlを適用した。7日目より後は、解剖まで処置サイクルを反復した。処置中は腫瘍の進行及び挙動を記録した。
【0083】
組織及び腫瘍の調製
解剖後、全ての腫瘍を個別に調製した。各腫瘍の3分の1をホルムアルデヒド固定してパラフィンワックスに包埋し、一方、別の3分の1をフラッシュ凍結した。残りの3分の1は、後にRNA単離及び目的とするqRT−PCR分析を行うため、製造者の指示に従いRNAlater溶液(Ambion)中に保存した。
【0084】
免疫組織化学
5μm切片に対し、先述のとおり免疫組織化学を実施した20。一次抗体としては、ポリクローナルウサギ抗RFP抗体(株式会社医学生物学研究所、日本)をブロッキング溶液(乳+superblock)中に1:50希釈した。二次抗体としては、ポリクローナルビオチン化ヤギ抗ウサギ(Linaris、Wertheim−Bettingen、独国)抗体を乳中に1:300希釈した。
【0085】
結果
MSCの膵腫瘍への動員
C57Bl/6マウスのバックグラウンドにおいて同系同所性マウス膵腫瘍を予め確立した3132。膵被膜下に移植した腫瘍細胞は成長し、深在性腫瘍血管系(図1)を示した。P53(−/−)の骨髄から単離したCD34- MSCを使用して、改変MSCの腫瘍間質を標的化する効力を評価した15162l
【0086】
初めにMSCのPanc02腫瘍に対する一般的な向性を評価するため、変法ボイデンチャンバーアッセイを用いてC57Bl6 MSCの腫瘍由来因子に対する誘導遊走を試験した。結果は、馴化腫瘍増殖培地の濃度増加に応じたMSCの用量依存的な遊走を示す(図2)。
【0087】
次にCMVプロモーターの制御下で緑色蛍光タンパク質(GFP)を含むプラスミドにより細胞を改変した。1週間に1回、増殖中の膵腫瘍を有するマウスに500,000個の細胞を静脈内注入した。5週間後、マウスを屠殺し、腫瘍を摘出してGFPの発現について分析した。結果は、腫瘍に関連した強力なGFP発現を示す(図3A)。細胞はまた、二次的な脾臓、リンパ節、胸腺、皮膚及び腸にも遊走が認められた(データは図示せず、及び(15))。これは、全身注入された幹細胞の増殖腫瘍へのホーミングを実証する。増殖中の膵腫瘍を有するC57Bl6マウスへのMSCの静脈内注入もまた、腫瘍増殖の有意な増加をもたらした(図3B)。
【0088】
静脈内適用されたMSCの肝臓、脾臓、及び腹膜への転移の影響についても評価した。MSCの適用により、腹膜への転移が有意に増加することが認められた(表1)。
【0089】
CCL5プロモーターは腫瘍間質におけるレポーター遺伝子発現を駆動する
本発明者らは、次に、CCL5プロモーターを使用した腫瘍間質へのMSC動員との関連において、レポーター遺伝子のさらに制御された発現を駆動する可能性について調査した。これを目的として、P53(−/−)MSC C57/Bl6細胞系をCCL5プロモーターの制御下でRFP及びeGFPレポーター遺伝子により改変した1822。CCL5プロモーターは、概して組織ストレス又は傷害との関連における種々の組織型で活性である2327。翻訳開始点に対する直近の−972上流のヌクレオチド及び完全5’非翻訳領域を、ベクターにおけるeGFP又はRFPの上流にクローニングした。
【0090】
得られたCCL5−eGFP又はRFPにより安定的に改変されたMSCは、FACSにおいて弱いながらも検出可能なレベルのレポーター発現を示した(データは図示せず)。次に、増殖中の膵腫瘍を有するマウスの末梢循環中に細胞(500,000個)を8日毎に21日間にわたり注入した。
【0091】
3週間後、マウスを屠殺し、RFP及びeGFPレポーター遺伝子発現について腫瘍及び周囲組織を蛍光顕微鏡法(flourescence microscopy)及び免疫組織化学により分析した。結果は、増殖中の腫瘍におけるRFP及びGFP蛍光の発現を示した(図4A及び図4B)。より優れた形態学により組織試料中のRFPの発現を調べるため、RFPタンパク質発現についてホルムアルデヒド固定試料を免疫組織化学により試験した。腫瘍間質全体にわたりRFP発現MSCが検出された(図4C、図4D及び図4E)。
【0092】
改変MSCにおける治療モダリティとしてのHSV−tkの使用
次の実験フェーズにおいて、CCL5プロモーターを使用した治療遺伝子の送達を調べた。これを目的として、単純ヘルペスチミジンキナーゼの遺伝子(HSV−Tk)28をCCL5プロモーターの後ろにクローニングした(図5A)。
【0093】
0.5×106個のCCL5−tk改変MSCを注入した後、細胞に3日間の間、増殖中の腫瘍間質への動員を行わせ、分化及びそれに続くtk遺伝子の発現を行わせた。次にマウスが、3日間にわたる1.5mgGVCの1日1回の腹腔内注入からなる処置コースを受けた。マウスに再び改変幹細胞を注入し、実験期間中このサイクルを繰り返した(図5B)。36日後、動物を屠殺して腫瘍増殖を評価した(図5C及び図5D)。結果は、GCVと共に治療的CCL5/HSV−Tk幹細胞コンストラクトを投与されたマウス群において、処置を受けていない、又は対照MSC(CCL5−RFP MSC及びCCL5−eGFP MSC)を投与された腫瘍を有する対照動物と比較して、腫瘍容積が有意に減少したことを示した。図5Cは、実験の完了後に切除した代表的な腫瘍を示す。腫瘍の重量は、処置を受けていない動物又は処置を受けた対照動物と比較したときの腫瘍重量の統計的に有意な減少を示す。
【0094】
追加のパラメータとして、処置との関連における転移について肝臓、脾臓、及び腹膜を分析した。MSCの投与により腹膜における転移数が増加した一方、GCVによる処置の結果、脾臓及び肝臓における転移の有意な減少が生じた(両側のフィッシャー直接確率検定)(表2)。転移は、脾臓、肝臓、及び腹膜の原位置での観察及びそれぞれの臓器の触診により評価した。
【0095】
考察
間葉系幹細胞は腫瘍間質に能動的に動員され、そこで腫瘍増殖の種々の側面に寄与する。MSCは腫瘍血管の前駆細胞として機能し得るとともに、間質線維芽細胞様細胞の生成にも寄与するものと思われる。腫瘍関連間質細胞の腫瘍増殖に対する及び転移可能性に対する固有の影響は、最近の研究の課題である。乳癌モデルの前臨床試験では、腫瘍間質内の間葉系幹細胞(MSC)が高レベルのサイトカインCCL5を産生することが示された。CCL5の分泌は、肺転移の発生率上昇をもたらす。
【0096】
CCL5分泌はまた、膵腺房周囲筋線維芽細胞において異なる形で調節され、これらの細胞についての膵臓における炎症細胞の浸潤及び蓄積の媒介における役割が示唆される29。膵癌患者の間では、膵炎がCCL5プロモーターにおける多型と有意に関連付けられている30。本明細書の研究では、原発腫瘍の増殖並びに転移に対する腫瘍間質との関連において、自殺遺伝子を選択的に送達するための治療媒体としての改変MSCの使用を評価する。
【0097】
組織特異的に発現させるため、CCL5プロモーターの制御下に単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼ(TK)を発現するようMSCを改変した。さらに組織特異的に遺伝子発現させるため、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)を使用し、且つCCL5プロモーターの制御下にMSCをトランスフェクトした。tkはガンシクロビル(GCV)をリン酸化し、それにより生成される毒素がトランスフェクト細胞を死滅させ、及びバイスタンダー効果により近傍の腫瘍細胞を死滅させる。ガンシクロビルを伴うHSV−TK遺伝子治療は、自殺遺伝子治療に広く用いられる戦略の基礎をなす17
【0098】
固形腫瘍は循環する前駆体に対して強力なホーミング駆動力を発揮するため、この手法を用いることで腫瘍環境が効率的に標的化される。自殺遺伝子のCCL5プロモーターにより駆動される組織特異的遺伝子発現に加え、媒体幹細胞のこの標的化は、高い効力及び低い副作用プロファイルの双方をもたらす。さらに、骨髄由来MSCは癌患者自身から得ることが可能である。これにより、骨髄破壊及び骨髄移植を必要とすることなく、簡易な静脈内投与によって自殺遺伝子を特異的に送達することが可能となり得る。
【0099】
前臨床研究に基づく膵癌治療戦略は、患者生存期間を有意に延長させることには奏功していない。診断時、膵癌に罹患している患者のうち、手術可能な限局性の疾患を呈する者はわずか20%に過ぎない。患者の40%は局所進行性の(従って切除不能な)疾患を呈し、別の40%は既に遠隔転移をきたしている。膵腫瘍モデルから、膵癌においてMSCが重要な役割を果たすことが実証された。遊走アッセイ並びにCCL5/RFP MSCの全身注入により示されるとおり、細胞は腫瘍を能動的に探す。全身注入された幹細胞は、腫瘍内にのみ認められた。続く腫瘍サイズの低下及び腹膜癌腫症の軽減は、個別の患者に適合させた幹細胞/自殺遺伝子の組み合わせによる治療の臨床応用に有望である。
【0100】
他の組織ニッチに動員される改変幹細胞は同じ分化プログラムを受けず、従って治療遺伝子を発現しない。この手法により、決められた微小環境内での治療遺伝子の選択的発現を高度に制御することが可能となる。
【0101】
幹細胞治療を選択的遺伝子治療と連係させることにより、病変細胞又は欠損細胞の再生又は置換に対する、並びに腫瘍破壊に対する治療オプションが増強される。ここでは、遺伝子修飾された幹細胞が組織特異的遺伝子治療を腫瘍に届けるための媒体として機能し得るとともに、CCL5プロモーターにより改変されたMSCがtk発現を駆動し得ることが示される。
【0102】
【表1】

【0103】
転移の発生に対するMSC治療の効果。媒体対照と未改変MSCで処置した動物との比較(MSCは週1回500,000細胞で3週間にわたり投与した)。試験は腫瘍増殖の36日後に観察及び触診により行った。数値は転移を有した動物を表す。両側のフィッシャー直接確率検定により有意性を検定した。
【0104】
【表2】

【0105】
表2.腫瘍転移の分布。媒体対照動物並びにGFP及びRFPレポーター遺伝子をトランスフェクトした対照MSCを、自殺遺伝子治療で処置した動物と比較した。試験は腫瘍増殖の36日後に観察及び触診により行った。数値は転移を有した動物を表す。両側のフィッシャー直接確率検定により有意性を検定した。全てのMSCが、週1回500,000細胞で3週間にわたり投与された。
【0106】
ヒトMSCの安定形質導入についてのインビトロ実験及びHSV tk発現の誘導についてのインビトロアッセイ
遺伝子修飾されたヒトMSCの生成
ヒトMSCを、RANTESプロモーターの制御下にあるHSV tk遺伝子及びSV40プロモーターの制御下にあるブラストサイジン耐性遺伝子を含むベクターpLenti6 TK RANTESを有する複製欠損レンチウイルスと共に一晩インキュベートした(感染多重度(MOI):10)(図8を参照のこと)。
【0107】
一晩インキュベートした後、ウイルス含有培地を取り除き、新鮮培地に交換した。翌日、細胞にブラストサイジン(6μg/ml)を添加して遺伝子修飾されたMSCを選択した。ブラストサイジンを含む培養培地は、最小限6日間にわたり3〜4日毎に交換した。
【0108】
RANTESプロモーターのインビトロ誘導
サイトカインTNFα(10ng/ml)とIFNγ(10ng/ml)との組み合わせがヒト臍帯血管内皮細胞(HUVECS)においてRANTESプロモーターの誘導をもたらすことが実証された35
【0109】
本発明者らの実験では、同じ組み合わせのサイトカインがMSCにおいて内因性RANTESプロモーターの誘導ももたらすことを実証しようとした。本発明者らは、インビトロでの外因性HSV tkの発現を誘導可能とするためにこのアッセイの使用を試みた。遺伝子修飾されたMSCを最大48時間にわたりTNFα及びIFNγと共に、又はサイトカインなしで培養し、0時間後、24時間後及び48時間後に全RNAを単離した。RNA(600ng)をcDNAに逆転写し、次にそれをqRT−PCR反応で用いて、LighCyclerシステム(Roche、プライマー:フォワード:CCT CAT TGC TAC TGC CCT CT;リバース:GGT GTG GTG TCC GAG GAA TA;ユニバーサルプローブ16)で内因性RANTESの発現を定量化した。異なる試料から同量のRNAを使用したことを確かめるため、ハウスキーピング遺伝子(アクチン)を参照遺伝子として使用し(ユニバーサルプローブライブラリ ヒトACTB遺伝子アッセイ(Universal ProbeLibrary Human ACTB Gene Assay)、Roche)、ΔΔCT法を用いて相対量を計算した。
【0110】
図9に示すとおり、本発明者らは、TNFα(10ng/ml)及びIFNγ(10ng/ml)によるMSCの誘導後24時間及び48時間において、内因性RANTES mRNAの顕著な増加を検出することができた。これらの結果は、RANTESの発現が、HUVECにおいてのみならず、ヒトMSCにおいてもTNFα及びIFNγにより誘導されることを実証する。
【0111】
ガンシクロビル処置後の誘導された遺伝子修飾MSCの特異的細胞死
本発明者らは、内因性RANTESプロモーターの誘導能を実証することができた後、続いて外因性RANTESプロモーターの制御下にあるHSV tkの発現を誘導することが可能かどうか、及び結果として、誘導された細胞をガンシクロビルで処置した後に細胞死を促進することが可能かどうかを調査した。上記のとおり生成した遺伝子修飾細胞(6ウェル当たり50000個の細胞)を、3日毎に新鮮なサイトカインを添加しながら9日間にわたりTNFα(10ng/ml)及びIFNγ(10ng/ml)で処置した。続いて細胞を100μMガンシクロビルと共に3日間インキュベートした。
【0112】
結果から、TNFα及びIFNγにより誘導し、続いてガンシクロビルで処置した遺伝子修飾MSCが生存しなかったことが明らかに実証された(図10D)。TNFα及びIFNγによる誘導のみ(図10B)又はガンシクロビルによる処置のみ(図10C)の細胞とは対照的であった。
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍に罹患した対象を治療するための遺伝子修飾された間葉系幹細胞であって、各遺伝子修飾された間葉系幹細胞が、(i)(ii)に作動可能に連結された細胞傷害性タンパク質コード領域、(ii)プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせを含む外因性核酸を含み、それにより治療上有効な数の前記遺伝子修飾された間葉系幹細胞が前記対象の血流中に導入されたときに該幹細胞が前記腫瘍の間質組織に近接すると、前記細胞傷害性タンパク質が選択的に発現する、間葉系幹細胞。
【請求項2】
前記対象がヒトである、請求項1に記載の遺伝子修飾された間葉系幹細胞。
【請求項3】
前記腫瘍が転移性である、請求項1又は2に記載の遺伝子修飾された間葉系幹細胞。
【請求項4】
前記腫瘍が血管新生している、請求項1〜3のいずれか一項に記載の遺伝子修飾された間葉系幹細胞。
【請求項5】
前記腫瘍が血管新生していない、請求項1〜3のいずれか一項に記載の遺伝子修飾された間葉系幹細胞。
【請求項6】
CD34-幹細胞である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の遺伝子修飾された間葉系幹細胞。
【請求項7】
前記対象に対して同種異系である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の遺伝子修飾された間葉系幹細胞。
【請求項8】
前記対象に対して自家性である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の遺伝子修飾された間葉系幹細胞。
【請求項9】
前記腫瘍の間質組織が線維芽細胞様細胞を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の遺伝子修飾された間葉系幹細胞。
【請求項10】
前記遺伝子修飾された間葉系幹細胞の前記導入が、その前、それと同時又はその後に骨髄破壊を伴わない、請求項1〜9のいずれか一項に記載の遺伝子修飾された間葉系幹細胞。
【請求項11】
前記腫瘍が、前立腺腫瘍、乳房腫瘍、膵腫瘍、扁平上皮癌、乳房腫瘍、メラノーマ、基底細胞癌、肝細胞癌、精巣癌、神経芽細胞腫、神経膠腫又は多形性膠芽腫(glioblastma multiforme)などの悪性星細胞系腫瘍、結腸直腸腫瘍、子宮内膜癌、肺癌、卵巣腫瘍、頚部腫瘍、骨肉腫、横紋筋肉腫/平滑筋肉腫、滑膜肉腫、血管肉腫、ユーイング肉腫/PNET及び悪性リンパ腫からなる群から選択される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の遺伝子修飾された間葉系幹細胞。
【請求項12】
前記腫瘍が膵腫瘍である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の遺伝子修飾された間葉系幹細胞。
【請求項13】
前記プロモーターがRANTESプロモーターである、請求項1〜12のいずれか一項に記載の遺伝子修飾された間葉系幹細胞。
【請求項14】
前記細胞傷害性タンパク質が単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼであり、及び前記対象が、前記単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼによってガンシクロビルが細胞傷害性になることが可能な方法で前記ガンシクロビルにより治療される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の遺伝子修飾された間葉系幹細胞。
【請求項15】
前記遺伝子修飾された間葉系幹細胞の治療上有効な数が約1×105〜約1×109細胞/kg体重である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の遺伝子修飾された間葉系幹細胞。
【請求項16】
前記遺伝子修飾された間葉系幹細胞の治療上有効な数が約1×106〜約1×108細胞/kg体重である、請求項1〜15のいずれか一項に記載の修飾された間葉系幹細胞。
【請求項17】
前記遺伝子修飾された間葉系幹細胞の治療上有効な数が約5×106〜約2×107細胞/kg体重である、請求項16に記載の修飾された間葉系幹細胞。
【請求項18】
膵腫瘍に罹患したヒト対象を、前記対象の血流中に約5×106〜約2×107細胞/kg体重の遺伝子修飾されたCD34-幹細胞を導入することにより治療するための遺伝子修飾されたCD34-幹細胞であって、(a)各遺伝子修飾されたCD34-幹細胞が、(i)(ii)に作動可能に連結された単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼコード領域、(ii)RANTESプロモーターを含む外因性核酸を含み、(b)前記対象が、前記単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼによってガンシクロビルが細胞傷害性になることが可能な方法で前記ガンシクロビルにより治療され、及び(c)前記遺伝子修飾された間葉系幹細胞の前記導入が、その前、それと同時又はその後に骨髄破壊を伴わない、遺伝子修飾されたCD34-幹細胞。
【請求項19】
前記腫瘍が転移性である、請求項18に記載の遺伝子修飾されたCD34-幹細胞。
【請求項20】
前記腫瘍が血管新生している、請求項18又は19に記載の遺伝子修飾されたCD34-幹細胞。
【請求項21】
前記腫瘍が血管新生していない、請求項19に記載の遺伝子修飾されたCD34-幹細胞。
【請求項22】
前記遺伝子修飾された間葉系幹細胞が前記対象に対して同種異系である、請求項18〜21のいずれか一項に記載の遺伝子修飾されたCD34-幹細胞。
【請求項23】
前記遺伝子修飾された間葉系幹細胞が前記対象に対して自家性である、請求項18〜21のいずれか一項に記載の遺伝子修飾されたCD34-幹細胞。
【請求項24】
(i)(ii)に作動可能に連結された細胞傷害性タンパク質コード領域、(ii)プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせを含む外因性核酸を含む遺伝子修飾された間葉系幹細胞であって、それにより前記遺伝子修飾された間葉系幹細胞が腫瘍の間質組織に近接すると、前記細胞傷害性タンパク質が選択的に発現する、幹細胞。
【請求項25】
ヒト幹細胞である、請求項24に記載の幹細胞。
【請求項26】
CD34-幹細胞である、請求項24又は25に記載の幹細胞。
【請求項27】
前記プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせが、炎症性メディエーターにより誘導可能である、請求項24〜26のいずれか一項に記載の幹細胞。
【請求項28】
前記プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせが、サイトカインにより誘導可能である、請求項27に記載の幹細胞。
【請求項29】
前記プロモーターがRANTESプロモーターである、請求項24〜28のいずれか一項に記載の幹細胞。
【請求項30】
(iii)(iv)に作動可能に連結された選択マーカー遺伝子、(iv)構成的プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせをさらに含む、請求項24〜29のいずれか一項に記載の幹細胞。
【請求項31】
前記選択マーカー遺伝子が、抗生物質耐性遺伝子又は表面マーカータンパク質をコードする遺伝子を含む、請求項30に記載の幹細胞。
【請求項32】
(v)前記細胞傷害性タンパク質コード領域と前記表面マーカー遺伝子との間に位置するインシュレーター配列をさらに含む、請求項30又は31に記載の幹細胞。
【請求項33】
前記プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせに作動可能に連結された前記細胞傷害性タンパク質コード領域が、前記幹細胞ゲノムに組み込まれる、請求項24〜32のいずれか一項に記載の幹細胞。
【請求項34】
前記構成的プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせに作動可能に連結された前記選択マーカー遺伝子が、前記幹細胞ゲノムに組み込まれる、請求項30〜32のいずれか一項に記載の幹細胞。
【請求項35】
前記幹細胞ゲノムに組み込まれたプロウイルス配列をさらに含む、請求項33又は34に記載の幹細胞であって、前記プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせに作動可能に連結された前記細胞傷害性タンパク質コード領域、及び前記構成的プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせに作動可能に連結された前記選択マーカー遺伝子が、前記プロウイルス配列の一部である、幹細胞。
【請求項36】
前記プロウイルス配列が、レンチウイルス配列、α−レトロウイルス配列又はγ−レトロウイルス配列である、請求項35に記載の幹細胞。
【請求項37】
前記細胞傷害性タンパク質が、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ又はシトシンデアミナーゼである、請求項24〜36のいずれか一項に記載の幹細胞。
【請求項38】
− (i)(ii)に作動可能に連結された細胞傷害性タンパク質コード領域、(ii)炎症性メディエーターにより誘導可能な、プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせを含むレトロウイルスベクターと、
− 間葉系幹細胞又はCD34-幹細胞に対する向性を提供するウイルス表面タンパク質をコードする遺伝子と、
を含むレトロウイルスパッケージング細胞。
【請求項39】
前記プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせが、サイトカインにより誘導可能である、請求項38に記載のレトロウイルスパッケージング細胞。
【請求項40】
前記プロモーターがRANTESプロモーターである、請求項38又は39に記載のレトロウイルスパッケージング細胞。
【請求項41】
(i)(ii)に作動可能に連結された単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼコード領域、(ii)RANTESプロモーターを含む外因性核酸を含む遺伝子修飾されたヒトCD34-幹細胞。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公表番号】特表2012−523243(P2012−523243A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505149(P2012−505149)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054844
【国際公開番号】WO2010/119039
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(511246131)アプセト ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト (1)
【氏名又は名称原語表記】APCETH GMBH & CO. KG
【住所又は居所原語表記】Max−Lebsche−Platz 30, 81377 Muenchen, GERMANY
【Fターム(参考)】