説明

改良されたカルシウム製剤

本発明は、a)少なくとも3つの異なるカルシウム塩、及びb)糖の形態のエネルギー源を含む注入可能な動物用組成物であって、前記塩のうちの1つが糖酸カルシウムであることを特徴とする組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良されたカルシウム製剤に関する。より詳細には、本発明は、改良されたカルシウム製剤及び動物における乳熱の治療のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
乳熱(低カルシウム血症、産褥麻痺、周産期麻痺又は周産期卒中としても知られている)は、成熟した乳牛及び乳用羊の無熱性の疾患である。乳熱は、分娩時又は分娩直後に最もよく起こり、豊富な泌乳が突然開始することと通常関連しており、血清カルシウムレベルの減少を伴う。
【0003】
この血清カルシウムレベルの減少は、麻痺、よろめき及び耳が冷たくなることを含めて、様々に現れる可能性があり、重篤な症例では、昏睡の後、死亡する。乳熱の発生の大部分は、分娩後の最初の24時間以内に起こる。
【0004】
乳熱は、最も一般的には、静脈内又は皮下のいずれかでボログルコン酸カルシウムを用いて治療される。ボログルコン酸カルシウムは、特に可溶性及び安定であり、動物への大きなリスクを伴わずに高レベルのカルシウム投薬を許容する。これは、毒性のリスクを伴わずに安全に動物に高レベルのカルシウムを送達する効果的な方法であることが立証されている。
【0005】
環境影響を低減すること並びに動物及び環境の両方への潜在的毒性要素の不必要な導入を回避することについて関心が高まるととともに、ホウ素の使用を含まない乳熱治療のための新しい方法に関心が持たれている。土壌中の高濃度のホウ素は、植物の全体的な成長能力の低下をもたらす可能性があり、したがって、動物から排出されるホウ素レベルの減少は、動物衛生の分野においてますます要求が高まっている。
【0006】
多数の様々な製剤が、ホウ素を含有しない、それを必要とする動物へカルシウムを送達するための使用のために提案されている。
【0007】
US5,393,535は、分散した水相及び連続的な油相を有するカルシウムイオン含有組成物を含む、畜牛のための経口投与可能なカルシウムサプリメントを開示している。US5,393,535において例示されている経口ゲル剤は、それぞれの製剤においてカルシウム供給源として塩化カルシウムを使用する。この発明のゲル製剤は、動物による誤嚥の際に不利益を及ぼし得るほど粘性ではなく、ウシが進んで摂取する味の良いカルシウムサプリメントを生成するために開発された。懸濁液又はエマルジョン中のカルシウム塩の懸濁剤は、畜牛への経口投与に適しているが、ホウ素を含まないカルシウムサプリメントの非経口投与は、カルシウム投与のより高度な管理及び、したがって乳熱の発生の治療のより大きな成功を可能にするため、好ましい。
【0008】
塩化カルシウムなどの単一の塩の形態で高レベルのカルシウムを送達することは、濃縮され過ぎた溶液で投与されれば、動物に毒性作用を有し得ることもまた見出された。
【0009】
US4,185,093は、塩化カルシウム、乳酸カルシウム及びレブリン酸カルシウムを含有する溶解したカルシウムの水溶液を開示している。この特許において概略を述べられている組成物は、乳熱のための潜在的な代替のホウ素を含まない治療であるが、この組成物の安定性は、特定の添加剤と合わせた場合、決して有利なものではないことが示されている。商業上の観点から、安定であり、製剤の安定性を危うくすることなく好ましい添加剤と組み合わせることができる、非経口投与のためのホウ素を含まないカルシウム組成物を生成することが重要である。
【0010】
カルシウムサプリメントの投与は、ウシにおいて食欲の低下をもたらすこともまた当技術分野において知られている。分娩の直後、なお健康なままでありながら動物が子牛に十分に栄養を与えるために、エネルギー摂取を維持することは必須である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】US5,393,535
【特許文献2】US4,185,093
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、前述の問題に対処すること、又は少なくとも公衆に有用な選択肢を提供することである。
【0013】
本明細書において引用されているあらゆる特許又は特許明細書を含むすべての参考文献が、参照により本明細書に組み込まれる。いかなる参考文献も先行技術を構成することを承認するものではない。参考文献の論考は、その著者らが主張することを記述しており、本出願人らは、引用文書の正確性及び適切性に意義を申し立てる権利を留保している。多数の先行技術の公開が本明細書において参照されているが、この参照は、ニュージーランド又は任意の別の国において、これらの文書のいずれかが当技術分野における共通の一般的な知識の部分を形成するという承認を与えないということが明らかに理解されるはずである。
【0014】
本明細書全体にわたって、「含む(comprise)」という語、又は「含む(comprises)」若しくは「含んでいる(comprising)」などのそれらの変形は、記述されている要素、整数若しくはステップ、又は要素、整数若しくはステップの群を包含することを意味するが、任意の別の要素、整数若しくはステップ、又は要素、整数若しくはステップの群を除外することは意味しないことが理解されるであろう。
【0015】
本発明のさらなる態様及び利点は、後に続く、例としてのみ示される説明から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様によると、
a)少なくとも3つの異なるカルシウム塩、及び
b)糖の形態のエネルギー源
を含む注入可能な動物用組成物であって、
前記塩のうちの1つが糖酸カルシウムである
ことを特徴とする組成物が提供される。
【0017】
本発明の別の態様によれば、
a)少なくとも3つの異なるカルシウム塩、及び
b)糖の形態のエネルギー源
を含む注入可能な組成物を動物に投与するステップを含む、動物において乳熱を治療する方法であって、
前記塩のうちの1つが糖酸カルシウムである
ことを特徴とする方法が提供される。
【0018】
好ましくは、さらなるカルシウム塩が、ハロゲン化カルシウム、レブリン酸カルシウム、乳酸カルシウム、塩素酸カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、マンノン酸カルシウム、糖酸カルシウム及びグルコン酸カルシウムを含む群から選択される。
【0019】
最も好ましくは、塩は、糖酸カルシウムに加えて、塩化カルシウム及びグルコン酸カルシウムである。
【0020】
本発明の好ましい一態様において、組成物中の合計溶解カルシウムは、10〜25g/Lの間である。
【0021】
さらに好ましい実施形態において、組成物は、0.5%w/vの糖酸カルシウムを含む。
【0022】
長期間にわたって溶液のままである製剤を開発するために、糖酸カルシウムが組成物中に含まれなければならないことが安定性試験の後に見出されている。本発明者らが開発した、塩化カルシウム及びグルコン酸カルシウムを含有する初めの試験製剤は、わずか48時間後に溶液中に沈殿することが見出された。プロピレングリコールの添加は、製剤に対する安定性を増加させ、製剤は、沈殿が発生するまで約3週間の期間、溶液のままであった。
【0023】
驚くべきことに、組成物への糖酸カルシウムの添加が、長期間にわたって沈殿しない透明な淡黄色の溶液をもたらすことが、その後本発明者らによって見出された。組成物への糖酸カルシウムの添加は、より高いレベルのカルシウムを組成物中にロードすることができるという点においてさらなる利点を提供し、したがって、毒性を増加させずに動物にさらなる救済をもたらす(下記の試験データにおいて示されている通り)。
【0024】
エネルギー源は多数の糖であり得るが、好ましくは、製剤は、エネルギー源としてデキストロースを含む。製剤へのデキストロースの添加は、カルシウム補充に加えて、動物にエネルギーの増大をもたらす。このさらなるエネルギー源は、カルシウムサプリメントの投与後に発生することが見出されている食欲の低下に対抗するために特に有用である。下記の試験結果において示されている通り、製剤へのデキストロースの添加は、動物へのカルシウムの取り込みを全く妨げないことが示されている。このことは、US4,185,093の開示と正反対であり、そこでは、治療がグルコース又はデキストロースなどの糖を含まないままであれば、反芻動物において乳熱を治療する場合に優れた結果が達成されることが記述されている。
【0025】
好ましくは、製剤は、マグネシウム及びリンの供給源をさらに含む。研究は、マグネシウム及び/又はリンの欠乏症を有するウシは、より乳熱にかかりやすいと考えられることを示している。カルシウムサプリメント中に多量のこれらの無機物を含めることによって、確実に、以前に見過ごされていた可能性のある任意の欠乏症を同時に治療することができ、カルシウム治療に応答するより大きな可能性をウシにもたらす。
【0026】
より好ましくは、製剤は、マグネシウム及びリンの合わせた供給源として次亜リン酸マグネシウムを含む。
【0027】
好ましくは、治療される動物は反芻動物である。ほとんどの反芻動物は大部分が植物ベースの飼料を有するため、反芻動物の毎日のカルシウム摂取は肉食動物より少ないことが多く、より乳熱にかかりやすくなる。
【0028】
組成物中にホウ素が存在しないことにより、一般的に使用される治療よりも治療の毒性は少なくなる。組成物中のホウ素の量を減少させること又はゼロにすることは、動物の健康及び福祉また並びに経済的理由の両方のために魅力的である。消費者は、消費者の動物に対して使用している治療をますます認識しており、低毒性の環境に優しい治療溶液に対する要求が増加している。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、畜牛における乳熱の治療のための3つの異なるカルシウム塩を含む注入可能な製剤を提供する。組成物は、一般に、デキストロースの形態のエネルギー源、及びマグネシウム及びリン酸の供給源とともに、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム及び糖酸カルシウムを含む。
【0030】
特に、驚くべきことに、糖酸カルシウムの存在は、別のカルシウム塩よりも安定性を顕著に改善することが見出されている。
【0031】
本発明の好ましい製剤及びこの製剤を製造する方法を、下記に記載する。
【0032】
【表1】

【0033】
上記で示した製剤は、以下の方法を使用して製造することができる:
ステップ1
・注射用水を清潔な製造容器中にロードし、85〜95℃まで加熱する。
ステップ2
・注射用水を第2の容器中にロードし、80〜90℃まで加熱する。
・メチルパラベンを第2の容器に加え、混合物を80〜90℃で維持する。
ステップ3
・次いで、ステップ2の注射用水及びメチルパラベン混合物を、ステップ1の注射用水を含有する第1の容器に加え、よく混合する。
・グルコン酸カルシウムをバルクに加え、混合物を85〜95℃で維持しながら、撹拌により溶解させる。次いで、糖酸カルシウムをバルクに加え、撹拌により溶解させる。混合物の温度を80〜85℃まで低下させ、維持する。
・次いで、デキストロース一水和物をバルクに加え、撹拌により溶解させ、続いて次亜リン酸マグネシウム及び塩化カルシウムを加える。バルクを、すべての構成成分が溶解するまで撹拌する。
・次いで、バルクを注射用水でバッチサイズの90%とし、次いで25〜30℃まで冷却する。冷却したら、注射用水でその体積とし、よく撹拌する。組成物のpHは、4.6〜5.1の間とするべきである。
【0034】
上記の製剤の開発において、依然として安定な製剤のままでありながら、ともにホウ素を含まず、乳熱の症状を低減又は停止させるために十分強力な用量のカルシウムを動物に送達すること、また並びにマグネシウム及びリンの必須ミネラルを組み合わせることができる、様々な別の製剤を試みた。
【0035】
異なるカルシウム塩を用いて試験された製剤は、次亜リン酸マグネシウムと大部分が非相溶性であり、暗褐色に変化する又は溶液から沈殿することが見出された。塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム及び糖酸カルシウムを含有する最終的な製剤は、驚くべきことにうまくいった。
【0036】
試験された製剤の選択を下記に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
PF-01結果:試料の色は、透明な無色の溶液から暗褐色に変化した。次亜リン酸マグネシウムは、この製剤において相溶性ではなかった。
【0039】
【表3】

【0040】
PF-02結果:試料の色は、透明な無色の溶液から暗褐色に変化した。次亜リン酸マグネシウムは、この製剤において相溶性ではない。
【0041】
【表4】

【0042】
PF-03結果:試料の色は、透明な無色の溶液から暗褐色に変化した。次亜リン酸マグネシウムは、この製剤において相溶性ではない。
【0043】
【表5】

【0044】
PF-04結果:試料の色は、透明な無色の溶液から暗褐色に変化した。次亜リン酸マグネシウムは、この製剤において相溶性ではない。
【0045】
【表6】

【0046】
PF-05結果:次亜リン酸マグネシウムが、塩化マグネシウム及びホスホリルコラミンで置き換えられている。
試料の色は、透明な無色の溶液から暗褐色に変化した:
【0047】
【表7】

【0048】
PF-06結果:製剤はホスホリルコラミンを含有しない。
色の変化なし。このことは、相溶性が、試験されたホスホリルコラミンとカルシウム塩との間のものであったことを示している可能性がある。
【0049】
【表8】

【0050】
PF-07結果:ホスホリルコラミンが、α-オキシベンジルホスフィン酸ナトリウムで置き換えられている。
試料の色は、透明な無色の溶液から暗褐色に変化した。
【0051】
【表9】

【0052】
PF-08結果:試料は沈殿した。
【0053】
【表10】

【0054】
PF-09結果:試料は沈殿した。
【0055】
【表11】

【0056】
PF-010結果:試料の色は、透明な無色の溶液から暗褐色に変化した。
【0057】
【表12】

【0058】
PF-011結果:試料の色は、透明な無色の溶液から暗褐色に変化した。
【0059】
【表13】

【0060】
PF-012結果:試料の色は、透明な無色の溶液から暗褐色に変化した。
【0061】
【表14】

【0062】
PF-013結果:試料の色は、透明な無色の溶液から暗褐色に変化した。
【0063】
【表15】

【0064】
PF-014結果:試料の色は、透明な無色の溶液から暗褐色に変化した。
【0065】
【表16】

【0066】
PF-015結果:ホスホリルコラミンがブタホスファンで置き換えられている。
試料の色は、透明な無色の溶液から暗褐色に変化した。
【0067】
【表17】

【0068】
PF-016結果:試料の色は、透明な無色の溶液から暗褐色に変化した。
【0069】
【表18】

【0070】
PF-017結果:試料は沈殿した。
【0071】
【表19】

【0072】
PF-018結果:試料の色は、透明な無色の溶液から暗褐色に変化した。
【0073】
【表20】

【0074】
PF-019結果:ブタホスファンがリン酸水素二ナトリウムで置き換えられている。
試料は沈殿した。
【0075】
【表21】

【0076】
PF-020結果:試料の色は、透明な無色の溶液から暗褐色に変化した。
【0077】
【表22】

【0078】
PF-021結果:試料は沈殿した。
【0079】
【表23】

【0080】
PF-022結果:試料は48時間後に沈殿した。
【0081】
【表24】

【0082】
PF-023結果:試料は3週間後に沈殿した。
安定剤としてプロピレングリコール
【0083】
【表25】

【0084】
PF-024結果:透明〜淡黄色の溶液
安定剤として糖酸カルシウム四水和物
【0085】
上記に見られるように、ホウ素を含まず、非毒性形態で十分なカルシウムを提供する安定な溶液のために、別のカルシウム塩とともに糖酸カルシウムが必要とされることは、広範囲にわたる研究によって初めて明らかとなる。
【0086】
本発明の態様を例としてのみ記載してきたが、添付の特許請求の範囲において定義されているその範囲から逸脱することなく、それに修正及び付加を行ってもよいことが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも3つの異なるカルシウム塩、及び
b)糖の形態のエネルギー源
を含む注入可能な動物用組成物であって、
前記塩のうちの1つが糖酸カルシウムである
ことを特徴とする組成物。
【請求項2】
さらなるカルシウム塩が、ハロゲン化カルシウム、レブリン酸カルシウム、乳酸カルシウム、塩素酸カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、マンノン酸カルシウム及びグルコン酸カルシウムを含む群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記塩が、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム及び糖酸カルシウムである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
組成物中の合計溶解カルシウムが、10〜25g/Lの間である、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
0.5%w/vの糖酸カルシウムを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記エネルギー源が、デキストロースを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
マグネシウム及び/又はリンをさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
次亜リン酸マグネシウムを含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
非ヒト動物において乳熱を治療する方法であって、前記非ヒト動物に、請求項1から8のいずれか一項に記載の注入可能な組成物を投与するステップを含む方法。
【請求項10】
非ヒト動物が反芻動物である、請求項9に記載の方法。

【公表番号】特表2013−520494(P2013−520494A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554958(P2012−554958)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【国際出願番号】PCT/NZ2010/000208
【国際公開番号】WO2011/105912
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(500146370)ボーマック リサーチ リミテッド (3)
【Fターム(参考)】