説明

改良されたビタミンD測定

本発明は、試料中のビタミンD代謝産物の測定方法に関し、該方法は、(a) ビタミンD結合タンパク質からのビタミンD代謝産物の放出に適するが、タンパク質沈殿は生じない条件下で、前記試料をビタミンD代謝産物放出試薬により処理する工程、(b) 工程(a)で得られた処理済試料をクロマトグラフィー分離にかける工程、ならびに(c) 前記クロマトグラフィー分離中またはその後にビタミンD代謝産物を測定する工程を含む。本発明はまた、疾患の診断における使用のための被験体のビタミンD状態を測定する方法、ならびに本発明の方法の実施における使用のための薬剤およびキットにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は試料中のビタミンD代謝産物の測定方法に関し、該方法は(a) ビタミンD結合タンパク質からのビタミンD代謝産物の放出に適するが、タンパク質沈殿は生じない条件下で、ビタミンD代謝産物放出試薬により前記試料を処理する工程、(b) 工程(a)で得られた処理済試料をクロマトグラフィー分離にかける工程、ならびに(c) 前記クロマトグラフィー分離中またはその後のビタミンD代謝産物を測定する工程を含む。本発明はまた、疾患の診断における使用のための被験体のビタミンD状態を測定する方法、ならびに本発明の方法の実施における使用のための薬剤およびキットにも関する。
【背景技術】
【0002】
用語ビタミンが示すように、ビタミンDの充分な摂取は極めて重要である。被験体内の循環ビタミンDまたはビタミンD代謝産物のレベルを、ビタミンD状態と呼ぶ。ビタミンDに関する栄養失調は、子供のくる病および骨軟化症を含む多くの疾患の発生において重要な要因であり、成人では骨粗鬆症にもなり得る。臨床試料におけるビタミンDおよびその代謝産物の測定によるビタミンD状態の知識は、患者の評価に極めて有用であり、臨床医による診断の確立を補助し得る。驚くべきことではないが、体液中のビタミンDおよびその代謝産物の測定方法の向上に対する努力は一定の上昇を続けている。
【0003】
我々の栄養摂取において、ビタミンDは2種類の形態、即ち、ビタミンD2 またはビタミンD3のいずれかで摂取可能である。ビタミンD2は酵母およびキノコのエルゴステロールの照射により体外で産生され、栄養強化された食物または医薬製剤の形態でヒトに取り込まれることが分かっている。一方、ビタミンD3は、動物内で7-デヒドロコレステロールが紫外線照射される際に形成される。この反応は皮膚で起こる。ビタミンD3はまた、食事において、例えば魚類の肝油からも入手可能である。
【0004】
栄養源ビタミンDは、ビタミンD2またはビタミンD3の形態でヒトの体内に取り込まれた後、細胞外で循環ビタミンD結合タンパク質に密接に結合することが見出されている循環代謝産物25-ヒドロキシビタミンDに迅速に転換される。
【0005】
ビタミンDの第1の代謝産物、25-ヒドロキシビタミンDへの迅速な転換のために、ビタミンDの測定は被験体のビタミンD状態の有用な指標とはならない。ビタミンDの他の代謝産物、1α,25-ジヒドロキシビタミンDなどは、非1α-ヒドロキシル化代謝産物、25-ヒドロキシビタミンDなどよりも1000倍低い濃度で循環しており、そのため総循環ビタミンD代謝産物の評価に対して有意に貢献しない。このために、1α-ヒドロキシル化代謝産物は、ビタミンD状態の直接的または有用な指標を提供しない。25-ヒドロキシビタミンDは最も高い血清濃度を有する代謝産物であり、測定が容易である。そのため、これは被験体における最も一般的なビタミンD状態のマーカーとなっている。
【0006】
ビタミンD代謝産物はまた、他の血清タンパク質、例えばアルブミンと結合するが、結合タンパク質に対してよりも密接度はかなり低い。一般的に、ビタミンD-ビタミンD結合タンパク質複合体からのビタミンDの放出を促進する方法も、他の強力でない複合体からビタミンDを遊離させることに適切であることが受け入れられている。このため、種々のビタミンD代謝産物のビタミンD結合タンパク質への迅速で強力な結合は、ビタミンD代謝産物の検出における主要な関心であり、測定を非常に大きく阻害する。これまでに知られている全ての方法は、ビタミンD代謝産物がビタミンD結合タンパク質から放出されなければならないことを必要とする。このような手法において、ビタミンD結合タンパク質は、通常変性される。このことは、典型的に、他の変性タンパク質を伴ったビタミンD結合タンパク質と目的のビタミンD代謝産物を分離し、試料から変性タンパク質画分を取り除く抽出工程を必要とする。この方法で目的のビタミンD代謝産物は別々の画分で入手可能となり、扱いおよび検出がより容易になる。
【0007】
抽出は、試料にクロロホルム、ヘキサンまたは酢酸エチルおよびヘキサンなどの有機溶媒を添加することによる溶媒系抽出を含むいくつかの方法により達成される。有機層および水層を分離し、溶媒を蒸発させる。その後、残渣をエタノールなどの水混和性溶媒中で再構成させる。逆相カートリッジ抽出法も使用されている。他の古典的な方法には、個々のビタミンD代謝産物の分離および結合タンパク質などの試料阻害因子の除去を達成するためのHPLCおよび質量分析の使用が含まれる。
【0008】
Armbruster, F.P.ら(WO 99/67211)は、ビタミンD結合タンパク質との複合体からビタミンD代謝産物を放出させるために血清または血漿試料をエタノールで処理し得ることを教示する。沈殿したタンパク質をスピンダウンして上清中にビタミンD代謝産物を得る。このような上清中に含まれるビタミンD代謝産物は、例えば任意の液体クロマトグラフィーベース法により容易に検出することができる。
【0009】
代替的な解決策はEP 0 753 743に提唱される。ビタミンD結合タンパク質からのビタミンD代謝産物の放出を達成するために、過ヨウ素酸の塩が推奨される。ビタミンD結合タンパク質を含む通常の沈殿は遠心分離により除去され、上清は目的のビタミンD代謝産物の検出に使用される。
【0010】
「液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析による循環25-ヒドロキシビタミンD3の定量のための候補参照方法」が、最近Vogeser, M. et al., Clin. Chem. 50 (2004) 1415-1417により紹介された。正確な定量のために安定なアイソトープ標識25-ヒドロキシビタミンD3の使用が提唱される。このアイソトープ標識内部標準は、天然の25-ヒドロキシビタミンD3と共に精製され、この内部標準を測定することで、抽出および/または検出プロセスの変動を補正することが可能である。ビタミンD代謝産物の測定に使用される最も常套的な方法のように、Vogeserらにより記載される方法はアセトニトリル抽出工程に基づく。
【0011】
Bouillon R. et al., Clin Chem 30 (1984) 1731-1736には、25-ヒドロキシビタミンDについて2種類の「直接」アッセイが記載されている。記載されるアッセイには多くの従来の方法に必要とされるクロマトグラフィー工程は必要ないが、依然として溶媒沈殿の使用によるビタミンD結合タンパク質からのビタミンDの抽出を必要とする。
【0012】
Holick, M.F.およびRay, R.(米国特許第5,981,779号)には、ビタミンDおよびその代謝産物をアッセイする方法が記載されている。これらの手法は、特異的結合因子として、精製ビタミンD結合タンパク質を使用した競合結合アッセイをもとにしている。このアッセイに前もって必要なことは、目的のビタミンD代謝産物をまず試料から単離し、その結合タンパク質から分離しなければならないということであり、その後のみにおいて、測定がなされ得る。
【0013】
血清、血漿またはその他の生物液からの特定のステロイドホルモンの測定において、その結合タンパク質からのこれらのホルモンの置換にステロイドアナログが使用される。これらのステロイドアナログは関連のあるステロイド結合タンパク質に結合しなければならず、同時にイムノアッセイに使用する抗体と交差反応してはならない。ステロイドアナログは、ステロイド結合タンパク質を飽和させ、ステロイドを置換してステロイドをイムノアッセイの抗体に結合させる。
【0014】
理論的には、アッセイ抗体とは交差反応しないビタミンDアナログなどの(特異的な)競合置換基の使用は、(直接ステロイド測定法に対する類似により)「直接アッセイ」を提供することができるはずである。しかしながら、DBPの濃度は血清試料中で非常に高いため、非常に高濃度のかかるビタミンDアナログが必要とされることを予想しなければならない。
【0015】
最近、Laurieら(US 2004/0096900)は、8-アニリノ-1-ナフタレンスルホン酸を、ビタミンD結合タンパク質からのビタミンD代謝産物の置換に使用してもよいことを示した。その後ビタミン代謝産物は競合的酵素イムノアッセイにより測定される。
【0016】
特定のビタミンD代謝産物の検出のための他の免疫学的アッセイ法(例えばWO 02/57797およびUS 2004/0132104参照)は、微妙なバランスを満たす必要を有する:一方ではビタミンD代謝産物は可能な限り効率的にその結合タンパク質から放出される必要があり、もう一方ではかかる放出に使用される試薬はイムノアッセイ法を阻害してはならない。これらの手法は何らかの方法でこれら2つの要件の折り合いをつけているようである。利用可能な免疫学的ビタミンDアッセイは、これまでは、例えばZerwekh, J.E., Ann. Clin. Biochem. 41 (2004) 272-281に記載されるような多くの不利益を被っていたことが見出され、示されている。
【0017】
イムノアッセイはかなり複雑で、多くの特異的な試薬を必要とし、ほとんどの場合において臨床的に関連のある結果を生じるための機械も必要とする。これに対して、クロマトグラフィー分離法には、必要とされる試薬に関しての要求がかなり少ない。現在、ビタミンD代謝産物の測定に必要な常套的な手法は、少なくとも1つの抽出工程およびその後の少なくとも1つのクロマトグラフィー分離工程に依存する。通常、かかるクロマトグラフィー分離には、その後直接的に、適切な検出工程が続く。目的のビタミンD代謝産物をその結合タンパク質から効果的に放出することが可能な場合、臨床的な常套手段において大きな改善が見られ、それにより同様の方法が、他の試料構成、例えばタンパク質の非沈殿物などに負の影響を与えることはなく、その後、例えば抽出工程を必要としないおよび/または遠心分離工程を必要としないなどの任意の手動操作を要することなく測定され得る。
【0018】
本発明は、試料中に存在するビタミンD代謝産物の測定方法を提供することにより、従来技術の手法に関連のあるいくつかの課題を、克服あるいは少なくとも改善することを補助し、それにより、改善された方法は容易に組み合わされ、標準的な液体クロマトグラフィー法に基づき、任意の手動操作を必要としない。
【0019】
(発明の説明)
本発明は試料中のビタミンD代謝産物の測定方法に関し、該方法は(a) ビタミンD結合タンパク質からのビタミンD代謝産物の放出に適しているがタンパク質沈殿を生じない条件下で前記試料をビタミンD放出試薬で処理する工程、(b) 工程(a)で得られた処理済試料をクロマトグラフィー分離にかける工程、ならびに(c) 前記クロマトグラフィー分離中またはその後にビタミンD代謝産物を測定する工程を含む。
【0020】
従って、本発明は、血清または血漿の試料中の目的のビタミンD代謝産物を測定するための単純で非常に効果的な方法のための差し迫った必要性を充足する。これは、ビタミンD結合タンパク質からのビタミンD代謝産物の放出およびダイレクトオンラインクロマトグラフィー分離を可能にする適切なビタミンD放出試薬の驚くべき発見に基づいている。この方法では、試料からビタミンD代謝産物を抽出する必要なくビタミンD代謝産物の量を検出または測定することができる。本質において、本発明は、適切なビタミンD放出試薬がビタミンDのオンライン検出における抽出工程の必要性を排除できることを初めて開示する。また、新規で適切なビタミンD放出試薬の使用に基づいた方法は、臨床的な生化学的実験室における常套的な使用に適している。
【0021】
本発明は、好ましくは個体由来の血漿または血清の、任意の試料において実施してもよい。血漿または血清が分析される個体は、ビタミンD状態が決定されることが望ましい個体であり得る。血漿または血清の試料中に存在する目的のビタミンD代謝産物の測定は、定性的かつ定量的な測定の両方、即ち試料中の目的のビタミンD代謝産物の存在の検出、または存在するビタミンD代謝産物の量の測定のそれぞれを含んでもよい。好ましくは、目的のビタミンD代謝産物の量は、測定された量が前記ビタミンD代謝産物の欠乏または過剰を示すかどうかということを詳述する重要なものと比較される。
【0022】
本発明の方法において、ビタミンDのいずれか1つ以上の代謝産物が測定されてもよい。いくつかの応用について、試料中の2つ以上の型のビタミンD代謝産物を測定することが好ましいと認識されているが、好ましい態様において、目的の特定のビタミンD代謝産物は試料中で測定される。好ましくは、目的のビタミンD代謝産物は25-ヒドロキシビタミンD2、25-ヒドロキシビタミンD3、24,25-ジヒドロキシビタミンD3、25,26-ジヒドロキシビタミンD、および1,25ジヒドロキシビタミンD2およびD3からなる群より選択される。25-ヒドロキシビタミンD2またはD3は、本発明の方法において測定される好ましいビタミンD代謝産物である。好ましい態様において、ビタミンD代謝産物は25OHビタミンD3である。
【0023】
ビタミンDの放出により、ビタミンD結合タンパク質からのビタミンD代謝産物の一部または全体の完全または部分的な分離が意図される。ビタミンD結合タンパク質から試料中に存在する実質的に全部のビタミンD代謝産物を放出することが好ましい。
【0024】
ここで、目的のビタミンD代謝産物を、一方でビタミンD代謝産物の放出を可能にし、もう一方ではタンパク質沈殿を生じない条件下でビタミンD結合タンパク質との複合体から放出することが可能であることを示し、説明することが可能である。ビタミンD代謝産物の放出を可能にするために、適当な最小濃度の放出試薬が必要である。可能な限り最大の濃度は試料構成物、例えばタンパク質などの沈殿を生じないまでの濃度である。
【0025】
ビタミンD放出試薬の効果はBiacore(登録商標)システムの使用により容易に測定可能であることが見出され、確立されている。この評価のために、ストレプトアビジンコートBiacoreチップが使用される。このストレプトアビジンチップは、次いでビオチン化25ヒドロキシビタミンD3、その後ビタミンD結合タンパク質で飽和される。その後、候補ビタミンD放出試薬をストレプトアビジン/ビオチン-25ヒドロキシビタミンD3/ビタミンD結合タンパク質チップに適用させてビタミンD結合タンパク質を放出させる。ビタミンD放出試薬の適当な最小濃度は、少なくとも99%の結合したビタミンD結合タンパク質の放出を生じる最小濃度として決定される。これらの条件は、血清または血漿試料中のビタミンDがその結合タンパク質から放出される際に見られる条件を正確に模倣する。Biacoreシステムで測定される候補ビタミンD放出試薬の最小濃度は、候補ビタミンD放出試薬を使用して試料中のビタミンD結合タンパク質からの25OHビタミンD3の効果的な放出に必要な最小濃度と同じである。
【0026】
記載されるように、Biacore分析におけるビタミンD結合タンパク質は、候補ビタミンD放出試薬中で希釈される。観察下での試料との混合物中のビタミンD放出試薬の最小の終濃度は、Biacore分析により測定される濃度と少なくとも同じである必要があることが当業者には明白である。例えば、試料およびビタミンD放出試薬が1:1で混合される場合、放出試薬は、Biacore設定と比較して試料と混合される以前の2倍の濃度である必要がある。この方法では、上述のように決定された最小濃度が試料および放出試薬の混合物中に存在する。
【0027】
ビタミンD結合タンパク質からビタミンD代謝産物25-ヒドロキシビタミンD3の置換または分離を達成することが可能であるが、タンパク質沈殿を生じない任意のビタミンD放出試薬は、本発明の方法の工程(a)で使用されてもよい。
【0028】
本発明の使用に好ましい薬剤は、ビタミンD代謝産物およびビタミンD結合の間の結合を分裂または破壊することにより作用し得る化学試薬である。
【0029】
好ましい態様において、ビタミンD放出試薬は、4価の窒素ベースイオンを有するカチオンを有する塩に基づいている。また、好ましい放出試薬は、カチオンとして4価のN-複素環を有する塩に基づいている。好ましいカチオンは、ピラゾリウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、トリアゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピリダジニウムカチオン、ピリミジニウムカチオン、ピラジニウムカチオンおよびトリアジニウムカチオンからなる群より選択される。好ましいカチオンは、イミダゾリウム複素環核に基づくものである。好ましくは、アニオンはハロゲン化無機アニオン、硝酸、硫酸、炭酸、スルホネートおよびカルボキシレートから選択される。好ましくは、アニオンは、塩素、ヘキサフルオロリン酸、テトラフルオロホウ酸、トリフルオロ酢酸、安息香酸、サリチル酸、およびローダニドから選択され得る。ほとんどの場合で上述のカチオンおよびアニオンの組合せは極めて良好に水と混和性である。さらに、多くのものは水無しで可溶性である。
【0030】
ビタミンDを放出させるために適切な試薬は、好ましくは、1-ブチル-4-メチルピリジニウムテトラフルオロホウ酸;1-ブチル-3-メチル-イミダゾリウムテトラフルオロホウ酸;1-ブチル-3-メチル-イミダゾリウムオクチル硫酸;1-ブチル-3-メチルピリジニウムクロライド;1-ヘキシルピリジニウムクロライド;1-メチル-1-オクチルピロリジニウムクロライド;N-オクチルピリジニウムクロライド;3-カルバモイル-1-オクチルオキシメチルピリジニウムクロライド;KBr;KJ;およびKSCN、ならびにそれらの組合せからなる群より選択される。好ましくは、かかる組合せは5種類以下のこれらの化合物を含む。好ましくは、これらの化合物の4、3または2種類の混合物を使用することができる。また、単一の化合物の使用も好ましい。
【0031】
特異的な溶血のための試薬はまた、1-ブチル-4-メチルピリジニウムテトラフルオロホウ酸;1-ブチル-3-メチル-イミダゾリウムテトラフルオロホウ酸;1-ブチル-3-メチル-イミダゾリウムオクチル硫酸:1-ブチル-3-メチルピリジニウムクロライド;1-ヘキシルピリジニウムクロライド;1-メチル-1-オクチルピロリジニウムクロライド;N-オクチルピリジニウムクロライド;および3-カルバモイル-1-オクチルオキシメチルピリジニウムクロライドからなる群より選択され得る。少なくとも1つのこれらの試薬およびKSCNの混合物を使用することがさらに好ましい。
【0032】
上述のように、ビタミンD代謝産物の血清または血漿試料からのオンラインクロマトグラフィー測定のための方法が非常に望ましい。驚くべきことに、ここで、かかる方法が実行可能であり、ビタミンD代謝産物の常套的な測定に明白な利点を有することを確立することができる。これらの要件を満たすために、ビタミンD代謝産物は効果的に放出される必要があるが、同時に適切なビタミンD放出試薬はタンパク質沈殿を生じてはならない。
【0033】
本発明の意味において、タンパク質沈殿は、標準化された様式で、候補ビタミンD放出試薬で処理された血漿または血清試料を標準的なフリット、例えばHPLCカラムの一部であるフリットに適用することで評価される。
【0034】
候補ビタミンD放出試薬が沈殿を生じないかどうか、即ちその後のオンラインLCに適切であるかどうかを評価するために、前記試薬を、血漿または血清の試料と1:1で混合し、20℃で少なくとも15分間および最大で60分間インキュベートする。このように処理された試料の10μLのうち50アリコートを、直径2mmおよび0.5μm孔径のフリットに適用する。背圧をモニターする。注入50の背圧および第1の注入の背圧を互いに比較する場合に20バール以上の背圧の増加を生じるビタミンD放出のための候補試薬は適切ではないと思われる。従って、適切なビタミンD放出試薬の最大濃度は、背圧の増加を全く生じないか、または前述の分析で20バール未満の背圧の増加を生じるために、容易に同定することができる。
【0035】
好ましくは、前述の分析で使用されるフィルターはHPLCフリットである。好ましくは、かかるフリットはステンレス鋼性であり、1/32インチの厚さである。また、好ましいフリットは長さ20mmのHPLCカラムの一部であり2mmの内部カラム直径を有し、床物質として孔径100Åを有する3.5μm Symmetry(登録商標)C18粒子を充填される。
【0036】
かかる評価に使用される血清または血漿試料は、健常個体、即ち公知の疾患を有さず正常範囲の生化学値を有する個体から得られることを当業者は容易に理解しよう。
【0037】
好ましくは、適切なビタミンD放出試薬は、ビタミンD結合タンパク質からのビタミンDの放出に必要な(最小)濃度、および許容されるが沈殿を生じない(最大)濃度が少なくとも2倍離れていることをさらに特徴とする。最小濃度と最大濃度の幅がより広いほど、かかる試薬を臨床診断作業に容易に使用することができる。ビタミンD放出試薬は最小濃度および最大濃度の平均値±25%に相当する終濃度で使用されることがさらに好ましい。さらに好ましい終濃度は、最小濃度および最大濃度の平均値の±20%の範囲内に調整される。
【0038】
エタノールまたはアセトニトリルなどの従来技術の試薬は全て、高濃度で使用された場合に沈殿を生じるが、本発明で調べられた数種類の試薬は、タンパク質沈殿を全く生じることなく非常に高濃度で使用することができる。好ましくは、本発明のビタミンD放出試薬は75%(重量/容積)以下の濃度で使用され、50%(重量/容積)以下も好ましい。
【0039】
本発明の適切なビタミンD放出試薬で処理された血漿または血清試料は、液体クロマトグラフィーに直接適用することができる。
【0040】
液体クロマトグラフィー(LC)は、目的の分析物、例えばビタミンD代謝産物の分離、同定および定量に使用される非常に重要な解析技術である。LCの間に混合物中の化合物は、液体移動相の流動により固定相を通過して運搬される。液体クロマトグラフィーにおける分離は、分析物と移動相および固定相との相互作用の差により達成される。当業者が理解するように、調査中の分析物に適切な固定相および移動相の両方が選択される必要がある。また、ユーザーは、試料が固定相カラムを通過して検出器へと移動する際の分析物のバンドまたはピークの鋭さの維持に適切なクロマトグラフィー条件を同定する。
【0041】
高圧液体クロマトグラフィーとしても公知であり、HPLCと略される高速液体クロマトグラフィーは、液体クロマトグラフィーの特別な形態であり、生化学および分析化学において今日頻繁に使用されている。分析物を、高圧で液(移動相)中の固定相のカラムに通し、分離された成分が固定相に残る時間を短縮するのでカラム中で分析物がカラム中に分散するのに必要な時間が短縮される。このことは得られるクロマトグラム中でより狭いピークを生じるので、LCと比較してより良好な分解能および感度を生じる。
【0042】
試料溶質の溶解を確実にするように移動相を選択する。固定相について、微粒子シリカの大きな表面積が溶質-固定相の相互作用の差を強調するので、好ましくは微粒子シリカ(もとのままもしくは化学的に修飾された)を使用する。溶質移動相相互作用に対して溶質と強力に相互作用する固定相の使用は、非常に長い保留時間、分析に有用ではない状態を生じる。そのために、固定相は、移動相の相互作用に対して弱い〜中程度の溶質相互作用に弱さを提供するように選択されなければならない。結果的に、溶質の性質により選択されるLCの種類が決定する。試料の溶解および容易な溶出を確実にするために、より強力な相互作用が移動相で生じるはずであるが、固定相は溶質間の微妙な差に対して感受性であるはずである。例えば、極性の中性化合物は、通常、極性移動相を溶質の分散的な特性の微妙な差を識別する非極性固定相と共に使用して、より良好に分析される。HPLCの強力な側面の1つは、移動相が変化して保留の機構を改変することができるということである。保留を調整するために、移動相に改質剤を加えることができる。例えば、水性移動層においてpHは重要な変数である。
【0043】
一般的な5種類のLCを区別することができる:
1. 正常相クロマトグラフィーは、非極性(分散性)移動相と共に極性固定相の使用を要する。
2. 逆相クロマトグラフィー、反対の可能性は、非極性固定相および極性移動相(1つ以上の極性溶媒、例えば水、メタノール、アセトニトリルおよびテトラヒドロフランなどからなる)の使用を要する。
3. イオン交換クロマトグラフィーはイオン性の相互作用を必要とする。この場合、移動相は、イオン性溶質の溶解を確実にするためにイオン化を支持する必要がある。固定相も、ある程度の保留を促進するために部分的にイオン性である必要がある。結果的に、固定相との相互作用は強力であり、これは通常、長い分析時間および広いピークに反映される。
4. サイズ排除クロマトグラフィーは分子の大きさのみに基づいた分離を必要とし、理想的には溶質と固定相のエネルギー相互作用が存在しないことを必要とする。
5. アフィニティークロマトグラフィーは特異的な相互作用、例えば抗原と対応抗体、またはレセプターと対応リガンドのような特異的な結合ペアの間の相互作用に基づく。例えば、結合ペアの第1のパートナーは適当な固定相に結合し、結合ペアの第2のパートナーを捕捉するために使用される。第2のパートナーは適切な手段により放出および単離することができる。
【0044】
上述の分離の原理の一般的な分類は完全なものである必要はないため非限定的であり、液体試料の分離に使用可能な他の分離の原理、例えば、疎水性相互作用クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー、イオン対クロマトグラフィー、分子インプリント物質ベース分離がある。
【0045】
常套的な応用において、固定相、いわゆる床物質、例えばRP-HPLC応用におけるシリカ粒子は適切なカラムに充填され、フリットによって保護される。フリット物質は、通常、例えば床物質の粒子孔径と比較してより小さい孔径を有するように選択される。
【0046】
HPLC法において、固定相粒子の直径は、通常1〜10μmの範囲である。これらの小粒子はHPLC中で使用される高圧を要する。床物質は通常フリットによって保護される。典型的なフリットは1μm、0.45μmまたは0.2μmの孔径を有する。粒子が小さくなるにつれて、通常、フリットの孔径も小さくなる。試料がHPLCフリットを塞ぎ得る成分を含む場合、これは任意の常套的な分析には不利なものとなる。当業者が理解するように、HPLCカラムに使用されるフリットの妨害は、フリットの孔径がより小さくなるにつれて、ならびにカラムおよび対応するフリットの直径が小さくなるにつれて、より迅速に生じる。フリットが適切に選択されない場合、即ち孔径が大きすぎる場合、カラム物質の粒径が問題となり、カラム自身が、粒子が小さくなるにつれてより迅速になることを妨害する。しかしながら、当業者はカラム床物質の保護についての要件を満たすようにフリットの孔径を選択するであろう。
【0047】
血漿または血清試料を、例えばアセトニトリルで処理して、ビタミンD結合タンパク質の複合体からビタミンDが放出される場合、多くのタンパク質が変性し沈殿する。カラムを妨害しシステムのシャットダウンを引き起こすため、このような試料は、任意の常套的設定においてはHPLCカラムに使用することはできない。
【0048】
ここで、本発明に従って、ビタミンD放出試薬で血清または血漿の試料を処理することにより、このように処理された試料を、カラムの妨害のリスクにさらすことなくHPLCカラムに直接適用することが可能である。好ましくは、このHPLC工程は、ビタミンD放出試薬を用いた処理により得られた試料と共にオンラインで実行される。好ましくは、このようなHPLC工程に使用される固定相粒子は、直径1〜10μmの範囲、また好適には2〜7μmの範囲である。好ましくは、このようなHPLC工程に使用されるフリットは、0.5μm、または好適には0.2μmの孔径を有する。
【0049】
上述のように、ビタミンD放出試薬がタンパク質を沈殿しないように注意しなければならない。
【0050】
任意の適切な手段により目的の分析物を検出することができる。適切で好ましい検出装置は通過する化合物の存在を感知し、記録装置またはコンピューターデータステーションに電気シグナルを提供する。出力は通常クロマトグラムの形態であり、目的の物質は通常特定のピーク中に見出される。ピーク面積またはピークの高さを使用して、調査された試料中に存在する分析物の量を定量することができる。
【0051】
HPLCシステムについての検出装置は、試料化合物が溶出により応答を発し、続いてクロマトグラム上のピークを表示するコンポーネントである。カラムから溶出される際に化合物を検出するために、検出装置は固定相のすぐ後ろに設置される。検出および感受性のパラメーターは当業者により調整されてもよい。HPLCと共に使用することができる多くの種類の検出装置が存在する。いくつかのより一般的な検出装置は、屈折率(RI)、紫外線(UV)、蛍光、放射性化学、電気化学、近赤外線(Near-IR)、質量分析(MS)、核磁気共鳴(NMR)および光散乱(LS)を含む。
【0052】
屈折率(RI)検出装置は、試料分子が光を曲げるかまたは屈折させる能力を測定する。各分子または化合物についてのこの特性はその屈折率と呼ばれる。最大のRI検出装置について、光はバイモジュラーフローセルを通過して光検出器へと進む。フローセルの1つのチャンネルはカラムを通過している移動相に連結されており、もう1つは移動相のみに連結されている。カラムからの試料の溶出により光が屈折する場合に検出が生じ、これは2つのチャンネル間の不均等として読み込まれる。
【0053】
蛍光検出装置は、化合物が所定の波長の光を吸収し、その後再放出する際のそれぞれの能力を測定する。蛍光を放出することができるそれぞれの化合物は特徴的な励起波長および放射波長を有する。励起光はフローセルを通過し、直交した位置にある光検出器は特定の波長で放射された光を測定する。
【0054】
放射性化学検出は、放射性標識物質、通常トリチウム(3H)または炭素-14(14C)の使用を伴う。該検出はβ粒子イオン化に関連する蛍光の検出によって作動し、代謝産物の研究において最も一般的である。
【0055】
電気化学検出装置は、酸化または還元反応を受ける化合物を測定する。これは、通常、試料が一定差の電位で電極間を通過する際の移動している試料由来の電子の獲得または消失を測定することによって達成される。
【0056】
質量分析は、イオンの質量対電荷比(m/z(またはm/q))を測定するために使用される分析技術である。これは、試料成分の質量を表す質量スペクトルを生成することで物質試料の組成を分析するために最も一般的に使用される。該技術は、化合物および/またはそのフラグメントの質量による未知の化合物の同定;化合物中の1つ以上の元素のアイソトープ組成の決定;化合物の分解の観察による化合物の構造の決定;注意深く設計された方法を使用した試料中の化合物の量の定量(質量分析は本来定量的ではない);気体相イオン化学(真空下でのイオンおよび中性子の化学的性質)の原理の検証;種々の他のアプローチによるその他の物理的、化学的または生物学的でさえある化合物の特性の決定を含むいくつかの応用を有する。
【0057】
質量分析器は質量分析に使用されるデバイスであり、試料の組成を解析するために試料の質量スペクトルを生成する。これは通常、試料をイオン化することおよび異なる質量のイオンを分離すること、ならびにイオン流の強度を測定してイオンの相対的な存在度を記録することにより達成される。典型的な質量分析器は3つの部分、イオン供給源、質量分析器および検出装置を備える。
【0058】
イオン供給源の種類は、どんな種類の試料が質量分析によって分析され得るかに強く影響を及ぼす要因である。電子イオン化および化学イオン化が気体および蒸気に使用される。化学イオン化供給源において、分析物は供給源の衝突中の化学イオン-分子反応によってイオン化される。液体および固体生物学的試料によく使用される2つの技術としては、電気スプレーイオン化(ESI)およびマトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)が挙げられる。他の技術としては、高速原子衝突イオン化(FAB)、熱スプレー、大気圧化学イオン化(APCI)、二次イオン質量分析(SIMS)および熱イオン化が挙げられる。
【0059】
核磁気共鳴(NMR)検出は、Hおよび13Cを含む奇数質量を有する特定核がランダムな様式で軸を回転するという事実に基づいている。しかし、強磁場に置かれる場合、スピンが磁場に平行してまたは逆平行してのいずれかで整列され、エネルギーにおいて少し低いので平行配置が好ましい。この磁気核は、特定強度の磁場に置かれる場合にRFエネルギーを吸収することができる。この吸収が起こる場合、核は共鳴していると言われる。分析科学者にとって驚くべきことに、分子内の種々の原子が所定の場強度の種々の振動数で共鳴する。分子の共鳴振動数の観察によって、ユーザーは分子についての構造情報を発見することができる。
【0060】
供給源が溶液中の粒子に当たる光の平行ビームを放出する場合、ある光は反射、吸収、透過、または散乱される。これらの現象は、光散乱(LS)検出器によって測定され得る。LS検出の最も卓越した形態は、比濁分析および濁度測定と呼ばれる。比濁分析は、照射された懸濁液の容量から現れた散乱光の強度測定として定義される。照射強度に対する散乱強度の比は標準の公知特性と比較される。濁度測定は、溶液中の粒子による透過光の減少の測定として定義される。これは、粒子溶液によって透過される光の減少として光散乱を測定する。従って、これは、透過された残光を定量する。
【0061】
近赤外検出器は、700〜1100nmのスペクトルにおいて化合物をスキャニングすることを操作する。各分子の特定化学結合の伸縮振動および屈折振動が特定波長で検出される。
【0062】
ビタミンD代謝産物は、好ましくは質量分析によって検出される。
【0063】
さらなる側面において、本発明による方法は、被験体のビタミンD状態を測定するために使用される。
【0064】
本発明のさらなる態様において、本発明によるビタミンD放出試薬を含むキットが提供される。また、キットは好ましくは、試料中に存在するビタミンD代謝産物の量とアッセイ結果の間の相関を示す重要なものを含む。また、キットは好ましくは、使用のための説明書を含む。
【0065】
本発明による方法の大きな利点は、1つより多くのビタミンD代謝産物を評価するための診断の必要性が存在する場合に、これが容易に達成され得るということである。好ましくは、試料は、25 ヒドロキシビタミンD2、1,25-ジヒドロキシビタミンD3、25-ヒドロキシビタミンD3、24,25-ジヒドロキシビタミンD3、25,26-ジヒドロキシビタミンD3からなる群より選択される目的の少なくとも2つのビタミンD代謝産物について分析される。
【0066】
好ましくは、本発明による方法を用いて、25 OHビタミンD3、1,25-ジヒドロキシビタミンD3、および24,25ジヒドロキシビタミンD3を1つの運転で評価する。本発明による方法は、アイソトープ標識内部標準を用いる利点と合わされ得る。
【0067】
好ましい態様において、本発明は、試料中のビタミンD代謝産物を測定する方法であって、
a)該試料にアイソトープ標識ビタミンD代謝産物を添加する工程、
b)ビタミンD結合タンパク質からビタミンD代謝産物を放出する適切な条件下で該試料を放出試薬で処理する工程、
c)工程(b)で得られた処理試料を液体クロマトグラフィーにかける工程、および
d)液体クロマトグラフィー中または後にビタミンD代謝産物を、好ましくは質量分析によって測定する工程
を含む、方法に関する。
【0068】
さらに好ましい態様において、本発明は、ビタミンD結合タンパク質から25 OH-ビタミンDを放出し、かつタンパク質沈殿を生じない適切なビタミンD放出試薬であって、アイソトープ標識ビタミンD代謝産物をさらに含むビタミンD放出試薬に関する。該アイソトープ標識ビタミンD代謝産物は好ましくはアイソトープ標識25 OH-ビタミンD3である。アイソトープ標識ビタミンD代謝産物の濃度は公知であり、好ましくは目的のビタミンD代謝産物の生理学的関連濃度に適合するように調節される。
【0069】
なおさらなる態様において、本発明は、ビタミンD放出試薬およびさらにアイソトープ標識ビタミンD代謝産物を含むキットであって、該アイソトープ標識ビタミンD代謝産物は別の成分として存在し得るか、またはビタミンD放出試薬に既に含まれ得、該放出試薬はカチオンとして4価のN-複素環を有する塩に基づいている、キットに関する。
【0070】
以下の実施例および図面は本発明の理解を補助するために提供され、その真の範囲は添付の特許請求の範囲に示される。本発明の精神を逸脱することなく以下の手順において変更が行われ得ることが理解されよう。
【実施例】
【0071】
実施例1
ビオチン化25ヒドロキシビタミンD3コンジュゲートの合成
ビオチン-25ヒドロキシビタミンD3コンジュゲートの合成に使用される工程を図1に概略して示す。
【0072】
この合成において、25ヒドロキシビタミンD3は、式Iに示されるビタミンD図の位置3で化学活性される。25ヒドロキシビタミンD3において、式Iの位置25はOH基を保有している。

【0073】
1.1 25ヒドロキシビタミンD3-3-2'-シアノエチルエーテルの合成
3口を有し、内部サーモメーターを備えた丸底フラスコに、20mg(50μmol)の25ヒドロキシビタミンD3(Sigma-Aldrich, no.H-4014)を、アルゴン雰囲気下の10ml乾燥アセトニトリルに溶解する。溶液を1.5mlのtert-ブタノール/アセトニトリル(9:1)と混合し、次に氷浴中で6℃まで冷却する。次に820μlのアクリルニトリル溶液(1.0mlアセトニトリル(acetonnitrile)中の86μlアクリルニトリル溶液由来)を添加し、混合物を攪拌し、6℃で15分間インキュベートする。その後、205μlの有機水素化カリウム溶液(0.5ml tert-ブタノール/アセトニトリル9:1中の25mg KH)を添加する。反応混合物を、6℃で45分間攪拌下でインキュベートし、その後さらに4℃で、60分間攪拌下でインキュベートする。短時間で中間体沈殿物を形成させ、その後透明な溶液を得る。その後、反応混合物を10ml メチル-tert-ブチルエーテルで希釈し、次に10ml H2Oで2度洗浄する。有機相を1gの水を含まない硫酸ナトリウムの添加で乾燥させ、G3フリットで濾過し、最終的に有機溶媒を減圧の適用によって除去する。残存粘性固体を強い減圧の適用によってさらに乾燥させる。約55mg無色乾燥粘性物質をこの工程で得る。
【0074】
1.2 25ヒドロキシビタミンD3-3-3'-アミノプロピルエーテル
工程1.1で得られたニトリルを15mlのジエチルエーテルに溶解する。攪拌しながら、7.5mlジエチルエーテル中の7.5mgの水素化リチウムからなる懸濁液を添加する。混合物を室温(RT)で1時間攪拌する。その後、6.6mlジエチルエーテル中の38.4mg水素化リチウムアルミニウムの懸濁液を添加する。反応混合物は不透明になり、RTでさらに1時間攪拌する。その後、反応混合物を氷浴中で0〜5℃に冷却し、全部で35mlの水を添加してゆっくりと希釈する。6.6mlの10M KOHの添加によって、pH値は高いアルカリ性になる。
【0075】
有機物質を各65mlメチル-tert-ブチルエーテルで3度抽出する。プールされた有機相を5gの水を含まない硫酸ナトリウムの添加によって乾燥し、G3フリットで濾過し、最終的に有機溶媒を減圧の適用で除去する。残存粘性固体を強い減圧を適用することによってさらに乾燥させる。この工程で得られた原材料を5ml DMSOと3.0mL アセトニトリルの混合物に溶解し、分取HPLCによって精製する。使用される溶出液は、溶出液A=0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を含むH2O;および溶出液B=95% アセトニトリル+0.1% TFAを含む5% H2Oである。適用される勾配は50%溶出液Bから100%溶出液Bまでを100分間で進める。カラム物質はVydac C18/300Å/15〜20μmであり、カラムは5cmの直径と25cmの長さを有する。クロマトグラフィーを30ml/分の流速で、RTで行う。溶出を226nmでモニターする。分析用HPLC(Vydac C18/300Å/5μm/;4.6×250mm)によって決定される少なくとも85%純度の所望の生成物を含む画分をプールし、凍結乾燥する。所望の無色生成物の収率は約70%である。
【0076】
1.3 25ヒドロキシビタミンD3-3-3'-N-(ヘミスベリル)アミノ-プロピルエーテル-ビオチン-(β-Ala)-Glu-Glu-Lys(ε)-コンジュゲートの合成
15.9mg(35μmol)の25ヒドロキシビタミンD3-3-3'-アミノプロピルエーテル(工程1.2に記載されるように得られる)を、3.5ml DMSOに溶解させる。34.4mg(42μmol) ビオチン-(β-Ala)-Glu-Glu-Lys(ε)-ヘミスベレート-N-ヒドロキシスクシニミドエステル(Roche Applied Science, Nr. 11866656)と15μl トリエチルアミンを添加し、混合物を一晩RTで攪拌する。反応混合物を4.5ml DMSOで希釈し、0.45μmマイクロフィルターで濾過し、最終的に分取用HPLCに供した。この分取HPLCで、実施例1.2に記載される条件を適用する。分析用HPLC(Vydac C18/300Å/5μm/;4.6×250mm)によって決定される少なくとも85%純度の所望の生成物を含む画分をプールし、凍結乾燥する。所望の25ヒドロキシビタミンD3-3-3'-N-(ヘミスベリル)アミノプロピルエーテル-ビオチン-(β-Ala)-Glu-Glu-Lys(ε)-コンジュゲート、すなわち単純に「25ヒドロキシビタミンD3-ビオチン」の収率は約36%である。
【0077】
実施例2
ビタミンD結合タンパク質からのビタミンDの放出評価
Biacore(登録商標)システムを用いて、ビタミンD結合タンパク質からビタミンDを放出する潜在的候補とみなされる試薬がビタミンD結合タンパク質からのビタミンD代謝産物の放出に有効であるかどうかを評価する。
【0078】
ストレプトアビジンをコートしたセンサーチップ(Sensor Chip SA, Biacore AB, BR-1000-32)を、目的のビオチン化ビタミンD代謝産物の固定に用いる。評価を、ビタミンD代謝産物25OHビタミンD3の使用によって最良に行う。
【0079】
最初に、センサーチップを飽和濃度のビオチン化25ヒドロキシビタミンD3とインキュベートする。次に、該チップに飽和量のビタミンD結合タンパク質を負荷する。次に、ビタミンD結合タンパク質を飽和にしたチップを一方で塩化ナトリウム溶液、他方で種々の濃度の候補ビタミンD放出試薬とインキュベートする。ビタミンD結合タンパク質の放出を3分間モニターする。血清試料または血漿試料中の25ヒドロキシビタミンD3のビタミンD代謝産物の検出に使用されるビタミンD放出試薬の最小要件を満たすには、上記システムで少なくとも99%のビタミンD結合タンパク質の放出を生じる候補ビタミンD放出試薬が適切である。
【0080】
各運転の間に、25ヒドロキシビタミンD3コートSAチップを、10mM Gly/HCl pH1.7で1分間洗浄することによって再生する。非特異的対照として、同じチップにビオチンをコートした参照フローセルを用いた。参照フローセルのデータを生物特異的フローセルのものから引く。このようにして、非特異的影響を含まない特異的データを得る。
【0081】


上記の表1から分かるように、25OH-ビタミンD3とビタミンD結合タンパク質の効率的分離が、示される試薬のいずれかで可能である。この分離の濃度依存性を図2にさらに示す。
【0082】
実施例3
液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析を用いた循環25-ヒドロキシビタミンD3の定量法
25-ヒドロキシビタミンD3の検出のための直接アイソトープ希釈の液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法を開発した。該方法はVogeser et al.上掲と同様であり、要するにこの方法は以下のように行う。
【0083】
安定なアイソトープ標識25-ヒドロキシビタミンD3を内部標準に使用する。ビタミンD結合タンパク質から分析物を放出するためにアセトニトリルを試料に添加する。手動のタンパク質沈殿を行い、続いてオンライン自動化固相抽出からタンデム質量分析システムに直接移送させる。ポジティブモードで大気圧化学イオン化(APCI)を使用する。ネイティブ25-ヒドロキシビタミンD3について、遷移401〜257m/zを記録する。6つの重水素原子で標識した内部標準について、遷移407〜263を記録する。
【0084】
分析手順
標準
25-ヒドロキシビタミンD3(25-ヒドロキシコレカルシフェロール)をSigma(Deisenhofen, Germany)(純度98%;分子量400.7)から入手する。3250nmol/Lの濃度を有するストック溶液をメタノール中に調製する。
【0085】
内部標準として使用するために、安定なアイソトープ標識25-ヒドロキシビタミンD3、26,27-六重水素-25-ヒドロキシビタミンD3(化学純度95%、同位体純度99.9%)を、Synthetica(Sweden)から購入する。570nmol/Lの濃度を有するワーキング内部標準溶液をメタノール中に調製する。
【0086】
二重勾配システム、脱ガス器、および自動サンプラーを有するAgilent HPLC
1100を使用する。使用される質量分析計はAPCIイオン供給源を有するThermo Electronのトリプル四重極 Quantum Ultra EMRである。
【0087】
100μlの血清を2ml ポリプロピレンカップにピペッティングし、次に25μLの内部標準ワーキング溶液を添加する。ボルテックス混合後に、試料を室温で5分間ボルテックス器に置く。平衡化のために、次に試料を37℃で2時間保持する。300μLアセトニトリルを添加して、分析物と安定なアイソトープ標識内部標準をタンパク質結合体から放出し、タンパク質を沈殿させる。試料を10分間ボルテックス混合器に置き、次に4〜8℃で1時間保持する。標準ベンチトップ遠心分離器において16,000gで20分間遠心分離した後に、透明上清と安定なタンパク質ペレットを得る。上清をHPLCバイアルに移し、自動サンプラーに置く。
【0088】
オンライン固相抽出のために、LiChrospher RP-18 ADS, 25μm, 25 X 4 mm抽出カラム(Merck)を、Rheodyne 6口−高圧切り換え弁と組み合わせて使用する。
【0089】
自動化固相抽出手順は、5つの工程:
1.溶出液A(水中5%メタノール、流速3mL/分)を用いるADS抽出カラムに脱タンパク質化試料のインジェクション(図3)。親水性試料成分を除去し、廃棄に移す。同時に分析カラムを溶出液C(90%メタノール、10% 0.5mM酢酸アンモニウム、段階フロー勾配を有する流速:0〜9分0.85mL/分および9〜17分1,2mL/分)で平衡化する
2.抽出カラムからの豊富な分析物を、溶出液Cを用いるバックフラッシュモードの分析用カラムに移す(図4)
3.分析用カラムからの分析物の定組成溶出および溶出液Cを用いるマトリックス成分の分離ならびに抽出カラムを溶出液B (メタノール/アセトニトリル50/50、フロー3mL/分)で再生する(図5)
4.流速が増大した溶出液Cを用いる系の平衡化(図3)
5.最終溶出マトリックス成分の廃棄までの移送(図6)
からなった。
【0090】
典型的なクロマトグラムを図7に示す。

【0091】
MS/MSパラメーターの設定
HVD検出のための最大感度を得るために製造業者の指示に従って大気圧イオン供給源(APCI)のパラメーターおよび質量分析器の調整パラメーターを設定し、最適化する。MS分析器の分解能を0.7amuのピーク幅に設定する。アルゴンを衝突ガスとして使用し、ガス圧力を1.5mTorrに設定し、MS/MS断片化のための衝突エネルギーを、イオン遷移401〜257(25OH-D3について)および407〜263(内部標準について)の最大シグナルを得るために最適化する。
【0092】
校正
分析シリーズにおいて、6点校正を、10ng/mLから300ng/mLまでの濃度範囲をカバーするメタノール/水(1/1)中の25-ヒドロキシビタミンD3の純粋溶液を用いて行う。典型的な校正曲線を図8に示す。
【0093】
実施例4
タンパク質沈殿なしのビタミンD結合タンパク質からのビタミンDの放出を含む循環25-ヒドロキシビタミンD3の定量法
手順の詳細は実施例3と同様であるが、試料調製において有意な変化を有する。
【0094】
100μlの血清を2ml ポリプロピレンカップにピペッティングし、次に25μLの内部標準ワーキング溶液を添加する。ボルテックス混合後に、試料を室温で5分間ボルテックス器に置く。平衡化のために、試料を次に37℃で2時間保持する。
【0095】
この平衡化血清試料に、アリコートの100μLビタミンD放出試薬を添加する。この実施例のビタミンD放出試薬は、水中1-ブチル-4-メチルピリジニウムテトラフルオロボレートの50%(重量/体積)溶液からなる。混合物を室温で20分間インキュベートし、HPLCシステムの自動サンプラーに移す。25-ヒドロキシビタミンD3の検出のための以下の手順は、実施例3に示されるものと同一である。
【0096】
実施例5
方法の比較結果
4つの患者血清試料をそれぞれ実施例3と4の手順に従って処理する。新規手順(参照実施例4)による測定は、1度繰り返され、また、平均値を表2に示す。
【0097】



表2から分かるように、新規な方法で集められたデータは提案された参照方法で集められたデータと比較可能である。新規方法は、オンラインHPLC MS/MSシステムにおいて沈殿または遠心分離なしでデータが得られるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】図1はビオチン化25ヒドロキシビタミンD3の合成である。ビオチン-25ヒドロキシビタミンD3コンジュゲートの合成に使用される工程を概略して示す。
【図2】図2は25ヒドロキシビタミンD3からのビタミンD結合タンパク質の分離である。試験された放出試薬のそれぞれについて、濃度の依存性を示す。
【図3】図3は試料インジェクションである。試料インジェクション様式および洗浄様式のための自動化HPLCシステムのバルブ設定を示す。
【図4】図4は分析物移送である。抽出カラムから分析カラムへの分析物含有画分の移送のための自動化HPLCシステムのバルブ設定を示す。
【図5】図5は分析物溶出である。分析カラムからの定組成分析物溶出のための自動化HPLCシステムのバルブ設定を示す。
【図6】図6は廃棄工程である。最終溶出試料成分の廃棄までの移送のための自動化HPLCシステムのバルブ設定を示す。
【図7】図7は典型的なクロマトグラムである。左側には401〜257のm/z遷移の典型的なクロマトグラムを示す。右側にはアイソトープ標識25ヒドロキシビタミンD3の407〜263のm/z遷移の典型的クロマトグラムを示す。
【図8】図8は校正曲線である。純粋25ヒドロキシビタミンD3に基づいた典型的な校正曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のビタミンD代謝産物を測定する方法であって、
a)ビタミンD結合タンパク質からビタミンD代謝産物の放出に適するが、タンパク質沈殿を生じない条件下で、該試料を放出試薬で処理する工程、
b)工程(a)で得られた処理試料を液体クロマトグラフィーにかける工程、および
c)液体クロマトグラフィー中または後にビタミンD代謝産物を測定する工程
を含み、該放出試薬がカチオンとして4価のN-複素環を有する塩に基づいている、方法。
【請求項2】
前記液体クロマトグラフィーがフリットおよび床物質を含むカラムの使用によって行われるカラムクロマトグラフィーである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記フリットが0.2または0.5μmの孔径を有する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記床物質が粒子であり、該粒子が1〜10μmの直径を有する、請求項1〜3いずれか記載の方法。
【請求項5】
前記液体クロマトグラフィーが高速液体クロマトグラフィー(HPLC)である、請求項1〜4いずれか記載の方法。
【請求項6】
前記放出試薬がビタミンD結合タンパク質から少なくとも99%の25 OHビタミンD3を放出することができる試薬である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
ビタミンD代謝産物が25 OH-ビタミンD3である、前記請求項いずれか記載の方法。
【請求項8】
前記試料が血清または血漿である、前記請求項いずれか記載の方法。
【請求項9】
個体のビタミンD状態の評価における前記請求項いずれか記載の方法の使用。
【請求項10】
ビタミンD放出試薬およびさらにアイソトープ標識ビタミンD代謝産物を含むキットであって、該アイソトープ標識ビタミンD代謝産物は別の成分として存在し得るか、またはビタミンD放出試薬に既に含まれ、該放出試薬はカチオンとして4価のN-複素環を有する塩に基づいている、キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−540275(P2009−540275A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−513585(P2009−513585)
【出願日】平成19年6月4日(2007.6.4)
【国際出願番号】PCT/EP2007/004924
【国際公開番号】WO2007/140962
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】