説明

改良されたボツリヌス毒素組成物

【課題】ボツリヌス毒素医薬組成物の力価の向上。
【解決手段】2つの賦形剤(例えばアルブミンと塩化ナトリウム)を約1〜約100の重量対重量比で含有する、力価の高いボツリヌス毒素医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は改良されたボツリヌス毒素医薬組成物に関する。特に本発明は、増加した力価を持つボツリヌス毒素医薬組成物に関する。
【0002】
医薬組成物は、少なくとも一つの活性成分(例えばボツリヌス神経毒などのクロストリジウム毒素)と、例えば一つ以上の賦形剤、緩衝剤、担体、安定剤、保存剤および/または充填剤とを含有する製剤であり、患者に投与して所望の効果または結果を達成するのに適している。本発明書に開示する医薬組成物は、さまざまな種、例えばヒト患者またはヒト対象などにおいて、診断上、治療上、美容上および/または研究上、有益であることができる。
【背景技術】
【0003】
貯蔵安定性および取扱いの利便性を考えて、医薬組成物は、患者への投与に先だって適切な液体、例えば食塩水または水で復元することができる凍結乾燥(すなわちフリーズドライ)粉末または真空乾燥粉末として、製剤化することができる。あるいは、医薬組成物を水性溶液または水性懸濁液として製剤化することもできる。医薬組成物はタンパク質性活性成分を含有することができる。残念なことに、タンパク質活性成分は安定化すること(すなわち、生物学的活性の損失が最小限に抑えられる状態に保つこと)が非常に困難であり、それゆえに、タンパク質含有医薬組成物の製造時、復元(必要な場合)時、および使用するまでの貯蔵期間中に、タンパク質の損失および/またはタンパク質活性の損失が起こる。タンパク質活性成分の安定性の問題は、タンパク質の変性、分解、二量体化、および/または重合が原因となって起こりうる。医薬組成物中に存在するタンパク質活性成分を安定化する目的で、例えばアルブミン、ゼラチン、多糖およびアミノ酸(天然物または組換え体)などといった種々の賦形剤が使用され、大小さまざまな成功を納めている。さらに、凍結乾燥の冷凍条件下で起こるタンパク質変性を減らすために、アルコール類などの凍害防止剤も使用されてきた。
【0004】
アルブミンは豊富に存在する小さな血漿タンパク質である。ヒト血清アルブミンは約69キロダルトン(kD)の分子量を持ち、医薬組成物に非活性成分として使用されてきた。その場合、ヒト血清アルブミンは、医薬組成物中に存在する一定のタンパク質活性成分のバルク担体および安定剤として役立つことができる。
【0005】
医薬組成物におけるアルブミンの安定化機能は、その医薬組成物の多段階製造中も、製造された医薬組成物を後に復元する際にも、存在することができる。したがってアルブミンは、医薬組成物中のタンパク質性活性成分に、例えば(1)表面、例えば実験用ガラス器具、容器の表面、医薬組成物を復元する際のバイアル、および医薬組成物を注射するために使用する注射器の内面へのタンパク質活性成分の付着(一般に「粘着性」と呼ばれる)を減少させること(表面へのタンパク質活性成分の付着は、活性成分の損失および失われなかった残りのタンパク質活性成分の変性につながる可能性があり、それらはどちらも医薬組成物中に存在する活性成分の総活性を減少させる)および(2)活性成分の低希釈度溶液を調製する際に起こりうる活性成分の変性を減少させることによって、安定性を付与することができる。
【0006】
医薬組成物中のタンパク質活性成分を安定化することができるだけでなく、ヒト血清アルブミンには、ヒト患者に注射した時に一般に無視できるほどの免疫原性しか持たないという利点もある。それとわかるほどの免疫原性を持つ化合物は、その化合物に対する抗体の産生を引き起こすことができ、それがアナフィラキシー反応および/または薬物耐性の発達(これにより、処置されるべき疾患または障害は、免疫原性構成要素を持つ医薬組成物に対して、潜在的に不応性になる)をもたらす場合がある。一部のタンパク質活性成分医薬組成物には、アルブミン代用物としてゼラチンが使用されている。
【0007】
ボツリヌス毒素
嫌気性グラム陽性細菌であるボツリヌス菌(Clostridium botulinum)は、ボツリヌス中毒として知られる神経麻痺性障害をヒトおよび動物において引き起こす強力なポリペプチド神経毒であるボツリヌス毒素を産生する。ボツリヌス菌およびその胞子は共に土壌中に見出され、該細菌は、滅菌と密閉が不適切な零細缶詰工場の食品容器内で増殖する可能性があり、これが多くのボツリヌス中毒症例の原因である。ボツリヌス中毒の影響は、通例、ボツリヌス菌の培養物または胞子で汚染された食品を飲食した18〜36時間後に現れる。ボツリヌス毒素は、消化管内を弱毒化されないで通過することができ、そして末梢運動ニューロンを攻撃することができるようである。ボツリヌス毒素中毒の症状は、歩行困難、嚥下困難および会話困難から、呼吸筋の麻痺および死にまで進行し得る。
【0008】
A型ボツリヌス毒素は、人類に知られている最も致死性の天然の生物学的物質である。ボツリヌス毒素(精製された神経毒複合体)A型の約50ピコグラムがマウスにおけるLD50である。興味深いことに、モル基準でA型ボツリヌス毒素の致死力はジフテリアの18億倍、シアン化ナトリウムの6億倍、コブロトキシンの3000万倍、コレラの1200万倍である。Natuaral Toxins II[B. R. Singhら編、Plenum Press、ニューヨーク(1976)]のSingh、Critical Aspects of Bacterial Protein Toxins、第63〜84頁(第4章)(ここで、記載されるA型ボツリヌス毒素LD50 0.3ng=1Uとは、BOTOX(登録商標)約0.05ng=1Uという事実に補正される)。1単位(U)のボツリヌス毒素は、それぞれが18〜20グラムの体重を有するメスのSwiss Websterマウスに腹腔内注射されたときのLD50として定義される。換言すれば、1単位のボツリヌス毒素は、メスSwiss Websterマウス群の50%を死亡させるボツリヌス毒素量である。
【0009】
7種類の血清学的に異なるボツリヌス神経毒が特徴付けられており、これらは、型特異的抗体による中和によってそのそれぞれが識別されるボツリヌス神経毒血清型A、B、C1、D、E、FおよびGである。ボツリヌス毒素のこれらの異なる血清型は、それらが冒す動物種、ならびにそれらが惹起する麻痺の重篤度および継続時間が異なる。例えば、A型ボツリヌス毒素は、ラットにおいて生じる麻痺率により評価された場合、B型ボツリヌス毒素よりも500倍強力であることが確認されている。また、B型ボツリヌス毒素は、霊長類では480U/kgの投与量で非毒性であることが確認されている。この投与量は、A型ボツリヌス毒素の霊長類LD50の約12倍である。ボツリヌス毒素は、コリン作動性の運動ニューロンに大きな親和性で結合して、ニューロンに移動し、アセチルコリンのシナプス前放出を阻止するようである。
【0010】
ボツリヌス毒素は、活動過多な骨格筋によって特徴付けられる神経筋障害を処置するために臨床的状況において使用されている。A型ボツリヌス毒素(BOTOX(登録商標))は、本態性眼瞼痙攣、斜視および片側顔面痙攣を12歳を越える患者において処置するために、米国食品医薬品局によって1989年に承認された。末梢注射(例えば筋肉内または皮下)A型ボツリヌス毒素の臨床的効果は、通常、注射後1週間以内およびしばしば数時間以内に認められる。A型ボツリヌス毒素の単回筋肉内注射による症候緩和(例えば弛緩性筋肉麻痺)の典型的な継続時間は約3ヶ月〜約6ヶ月であり得る。
【0011】
すべてのボツリヌス毒素血清型が神経筋接合部における神経伝達物質アセチルコリンの放出を阻害するようであるが、そのような阻害は、種々の神経分泌タンパク質に作用し、かつ/またはこれらのタンパク質を異なる部位で切断することによって行われる。A型ボツリヌス毒素は、細胞内小胞関連タンパク質SNAP-25のペプチド結合を特異的に加水分解しうる亜鉛エンドペプチダーゼである。E型ボツリヌス毒素も、25キロダルトン(kD)のシナプトソーム関連タンパク質(SNAP-25)を切断するが、A型ボツリヌス毒素とは異なるタンパク質内アミノ酸配列を標的とする。B型、D型、F型およびG型のボツリヌス毒素は小胞関連タンパク質(VAMP、これはまたシナプトブレビンとも呼ばれる)に作用し、それぞれの血清型によってこのタンパク質は異なる部位で切断される。最後に、C1型ボツリヌス毒素は、シンタキシンおよびSNAP-25の両者を切断することが明らかにされている。作用機序におけるこれらの相違が、様々なボツリヌス毒素血清型の相対的な効力および/または作用の継続時間に影響していると考えられる。
【0012】
血清型に関係なく、毒素中毒の分子メカニズムは類似し、少なくとも3つの過程または段階を含むようである。第1段階において、毒素は、重鎖(H鎖)と細胞表面受容体との特異的相互作用によって、標的ニューロンのシナプス前膜に結合する。受容体は、ボツリヌス毒素の各血清型および破傷風毒素で異なると考えられる。H鎖のカルボキシル末端セグメント(HC)は、毒素を細胞表面に指向させるのに重要であるようである。
【0013】
第2段階において、毒素は、冒した細胞の形質膜を横切る。毒素は、初めに、受容体媒介エンドサイトーシスにより細胞に包み込まれ、毒素を含有するエンドソームが形成される。次に、毒素は、エンドソームから該細胞の細胞質中に逃れ出る。この最後の段階は、約5.5またはそれ以下のpHに反応して毒素のコンフォメーション変化を誘発するH鎖のアミノ末端セグメント(HN)によって媒介されると考えられる。エンドソームは、エンドソーム内pHを低下させるプロトンポンプを有することが既知である。コンフォメーションのシフトは毒素中の疎水性残基を露出させ、これが、毒素をエンドソーム膜内に埋込むことを可能にする。次に、毒素が、エンドソーム膜を通って細胞質ゾルに移動する。
【0014】
ボツリヌス毒素活性のメカニズムの最終段階は、H鎖およびL鎖を結合するジスルフィド結合の減少を伴うようである。ボツリヌス毒素および破傷風毒素の全毒素活性は、ホロトキシンのL鎖に含まれる。L鎖は亜鉛(Zn++)エンドペプチダーゼであり、これは、神経伝達物質を含有する小胞の認識および形質膜の細胞質表面とのドッキングならびに小胞と形質膜との融合に必須であるタンパク質を選択的に開裂する。破傷風神経毒、ボツリヌス毒素B、D、FおよびG型は、シナプトソーム膜タンパク質であるシナプトブレビン[小胞関連膜タンパク質(VAMP)とも称される]の分解を引き起こす。シナプス小胞の細胞質表面に存在する大部分のVAMPは、これらの開裂現象のいずれかの結果として除去される。各毒素は異なる結合を特異的に開裂する。
【0015】
ボツリヌス毒素タンパク質分子の分子量は、既知のボツリヌス毒素血清型の7つのすべてについて約150kDである。興味深いことに、これらのボツリヌス毒素は、会合する非毒素タンパク質とともに150kDのボツリヌス毒素タンパク質分子を含む複合体としてクロストリジウム属細菌によって放出される。例えば、A型ボツリヌス毒素複合体は、900kD、500kDおよび300kDの形態としてクロストリジウム属細菌によって産生され得る。B型およびC1型のボツリヌス毒素は500kDの複合体としてのみ産生されるようである。D型ボツリヌス毒素は300kDおよび500kDの両方の複合体として産生される。最後に、E型およびF型のボツリヌス毒素は約300kDの複合体としてのみ産生される。これらの複合体(すなわち、約150kDよりも大きな分子量)は、非毒素のヘマグルチニンタンパク質と、非毒素かつ非毒性の非ヘマグルチニンタンパク質とを含むと考えられる。これらの2つの非毒素タンパク質(これらは、ボツリヌス毒素分子とともに、関連する神経毒複合体を構成し得る)は、変性に対する安定性をボツリヌス毒素分子に与え、そして毒素が摂取されたときに消化酸からの保護を与えるように作用すると考えられる。また、より大きい(分子量が約150kDよりも大きい)ボツリヌス毒素複合体は、ボツリヌス毒素複合体の筋肉内注射部位からのボツリヌス毒素の拡散速度を低下させ得ると考えられる。毒素複合体は、pH7.3において赤血球で処理することにより、毒素タンパク質とヘマグルチニンタンパク質に解離しうる。毒素タンパク質は、ヘマグルチニンタンパク質から解離すると非常に不安定である。
【0016】
すべてのボツリヌス毒素血清型は、神経活性となるためにはプロテアーゼによって切断またはニッキングされなければならない不活性な単鎖タンパク質として、ボツリヌス菌により合成される。A型およびG型のボツリヌス毒素血清型を産生する細菌株は内因性プロテアーゼを有するので、A型およびG型の血清型は細菌培養物から主にその活性型で回収することができる。これに対して、C1型、D型およびE型のボツリヌス毒素血清型は非タンパク質分解性菌株によって合成されるので、培養から回収されたときには、典型的には不活性型である。B型およびF型の血清型はタンパク質分解性菌株および非タンパク質分解性菌株の両方によって産生されるので、活性型または不活性型のいずれでも回収することができる。しかし、例えば、B型ボツリヌス毒素を産生するタンパク質分解性菌株でさえも、産生された毒素の一部を切断するだけである。
【0017】
切断型分子と非切断型分子との正確な比率は培養時間の長さおよび培養温度に依存する。したがって、例えばB型ボツリヌス毒素の製剤はいずれも一定割合が不活性であると考えられ、このことが、A型ボツリヌス毒素と比較したB型ボツリヌス毒素の知られている著しく低い効力の原因であると考えられる。臨床製剤中に存在する不活性なボツリヌス毒素分子は、その製剤の総タンパク質量の一部を占めることになるが、このことはその臨床的効力に寄与せず、抗原性の増大に関連づけられている。また、B型ボツリヌス毒素は、筋肉内注射された場合、同じ用量レベルのA型ボツリヌス毒素よりも、活性の継続期間が短く、そしてまた効力が低いことも知られている。
【0018】
インビトロでの研究により、ボツリヌス毒素が、脳幹組織の初代細胞培養物からのアセチルコリンおよびノルエピネフリンの両方の、カリウムカチオンにより誘導される放出を阻害することが示されている。また、ボツリヌス毒素は、脊髄ニューロンの初代培養物におけるグリシンおよびグルタメートの両方の誘発された放出を阻害すること、そして脳のシナプトソーム調製物において、ボツリヌス毒素が神経伝達物質のアセチルコリン、ドーパミン、ノルエピネフリン、CGRPおよびグルタメートのそれぞれの放出を阻害することが報告されている。
【0019】
ボツリヌス菌のHall A株から、≧3×107U/mg、A260/A2780.60未満、およびゲル電気泳動における明確なバンドパターンという特性を示す高品質結晶A型ボツリヌス毒素を生成し得る。Schantz, E. J.ら、Properties and use of Botulinum toxin and Other Microbial Neurotoxins in Medicine、Microbiol Rev.56:80-99(1992)に記載されているように既知のSchanz法を用いて結晶A型ボツリヌス毒素を得ることができる。通例、A型ボツリヌス毒素複合体を、適当な培地中でA型ボツリヌス菌を培養した嫌気培養物から分離および精製し得る。硫酸での沈殿によって粗毒素を採り、限外マイクロ濾過によって濃縮することができる。酸沈殿物を塩化カルシウムに溶解することによって精製を行いうる。次いで、毒素を冷エタノールで沈殿させうる。沈殿物をリン酸ナトリウムに溶解し、遠心しうる。次いで、乾燥して、比効力3×107LD50U/mgまたはそれ以上の900kD結晶A型ボツリヌス毒素複合体を得ることができる。この既知の方法を用い、非毒素タンパク質を分離除去して、例えば次のような純ボツリヌス毒素を得ることもできる:比効力1〜2×108LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約150kDの精製A型ボツリヌス毒素;比効力1〜2×108LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約156kDの精製B型ボツリヌス毒素;および比効力1〜2×107LD50U/mgまたはそれ以上の分子量約155kDの精製F型ボツリヌス毒素。
【0020】
純粋な(すなわち非毒素複合体タンパク質を含まない150kDaボツリヌス毒素)を得ることができるが、それには、ボツリヌス毒素複合体の溶液を、pH8緩衝液中で適当なイオン交換クロマトグラフにかけて、150kDaボツリヌス毒素分子から非毒素複合体タンパク質を解離させる。それによって、約150kDa分子量を持つボツリヌス毒素神経毒構成要素の溶液が得られる(カラムからの流出物中に)。
【0021】
純粋ボツリヌス毒素(すなわち、ボツリヌス毒素複合体の約150kDa分子量の神経毒構成要素)がヒトの処置に用いられている。例えば、Kohl A. ら、Comparison of the effect of botulinum toxin A (Botox(登録商標)) with the highly-purified neurotoxin (NT201) in the extensor digitorum brevis muscle test, Mov Disord 2000;15(補遺3):165参照。すなわち、ボツリヌス毒素複合体ではなく純粋(約150kDa)ボツリヌス毒素を使用して医薬組成物を調製することができる。純粋A型ボツリヌス毒素は、Merz PharmaceuticalsからXEOMINの商品名で入手可能である。
【0022】
医薬製剤の製造のために適当な調製済みおよび精製したボツリヌス毒素および毒素複合体(300kD〜900kD)は、List Biological Laboratories, Inc.(キャンベル、カリフォルニア);the Centre for Applied Microbiology and Research(ポートン・ダウン、イギリス);Wako(日本、大阪);およびSigma Chemicals(セントルイス、ミズーリ)から入手し得る。
【0023】
ボツリヌス毒素の臨床的使用例には下記のものが含まれる:
(1)頸部ジストニーを処置するための筋肉内注射(多数の筋肉)あたり約75単位〜125単位のBOTOX(登録商標)(Allergan, Inc. (アーバイン、カリフォルニア)から商品名BOTOX(登録商標)で入手可能);
(2)眉間のしわを処置するための筋肉内注射あたり約5単位〜10単位のBOTOX(登録商標)(5単位が鼻根筋に筋肉内注射され、10単位がそれぞれの皺眉筋に筋肉内注射される);
(3)恥骨直腸筋の括約筋内注射による便秘を処置するための約30単位〜80単位のBOTOX(登録商標);
(4)上瞼の外側瞼板前部眼輪筋および下瞼の外側瞼板前部眼輪筋に注射することによって眼瞼痙攣を処置するために筋肉あたり約1単位〜5単位の筋肉内注射されるBOTOX(登録商標);
【0024】
(5)斜視を処置するために、外眼筋に、約1単位〜5単位のBOTOX(登録商標)が筋肉内注射されている。この場合、注射量は、注射される筋肉のサイズと所望する筋肉麻痺の程度(すなわち、所望するジオプター矯正量)との両方に基づいて変化する。
(6)卒中後の上肢痙性を処置するために、下記のように5つの異なる上肢屈筋にBOTOX(登録商標)が筋肉内注射される:
(a)深指屈筋:7.5U〜30U
(b)浅指屈筋:7.5U〜30U
(c)尺側手根屈筋:10U〜40U
(d)橈側手根屈筋:15U〜60U
(e)上腕二頭筋:50U〜200U。5つの示された筋肉のそれぞれには同じ処置時に注射されるので、患者には、それぞれの処置毎に筋肉内注射によって90U〜360Uの上肢屈筋BOTOX(登録商標)が投与される。
(7)偏頭痛を治療するために、25UのBOTOX(登録商標)を頭蓋周囲に注射する(眉間、前頭および側頭筋に対称的に注射する):該注射は、偏頭痛頻度、最大重症度、付随嘔吐および急性薬剤使用の減少(25U注射後の3ヶ月間にわたる)によって評価した場合に、ビヒクルと比較して、偏頭痛の予防療法として有意な利益を与える。
【0025】
A型ボツリヌス毒素は、最大12ヶ月の有効性を有し(European J.Neurology 6(Supp 4), S111-S1150, 1999)、ある場合には27ヶ月間にもわたる有効性を有しうることが既知である(Laryngoscope 109, 1344-1346, 1999)。しかし、BOTOX (登録商標)筋肉注射効果の通常の持続期間は一般に約3〜4ヶ月間である。
【0026】
種々の臨床症状の治療におけるA型ボツリヌス毒素の成功は、他のボツリヌス毒素血清型への関心を高めている。欧州特許EP1112082(“Stable liquid formulations of botulinum toxin”)(2002年7月31日発行)には、緩衝剤(pH5〜6)およびボツリヌス毒素を含有する安定な液体ボツリヌス毒素医薬製剤が特許請求されており、該毒素製剤は液体として0〜10℃で少なくとも1年間または10〜30℃で少なくとも6ヶ月間安定である。そのような毒素医薬組成物(その態様はSolstice Neurosciences, Inc. (サンディエゴ、カリフォルニア)からMyoBloc(登録商標)またはNeuroBloc(登録商標)の商品名で市販されている)は、使用前に復元する必要のない液体溶液として調製される(凍結乾燥または真空乾燥は行われない)。
【0027】
中国特許出願CN1215084Aには、動物由来タンパク質であるゼラチンを用いて調製された、アルブミン不含有のA型ボツリヌス毒素が記載されている。米国特許第6,087,327号にも、ゼラチンを用いて調製されたA型およびB型ボツリヌス毒素組成物が開示されている。
【0028】
米国特許第5,512,547号(Johnsonら)“Pharmaceutical Composition of Botulinum Neurotoxin and Method of Preparation”(1996年4月30日発行)には、37℃で貯蔵安定性を示す、アルブミンおよびトレハロースを含有する純粋なA型ボツリヌス毒素の製剤が特許請求されている。
【0029】
米国特許第5,756,468号(Johnsonら)(1998年5月26日発行)(“Pharmaceutical Compositions of Botulinum Toxin or Botulinum Neurotoxin and Method of Preparation”)には、25〜42℃で貯蔵できる、チオアルキル、アルブミンおよびトレハロースを含有する凍結乾燥ボツリヌス毒素製剤が特許請求されている。
【0030】
米国特許第5,696,077号(Johnsonら)“Pharmaceutical Composition Containing Botulinum B Complex”(1997年12月9日発行)には、B型複合体およびタンパク質賦形剤を含有する凍結乾燥した塩化ナトリウム不含有のB型ボツリヌス毒素複合体製剤が特許請求されている。
【0031】
米国特許出願公開第2003 0118598号(Hunt)には、ボツリヌス毒素を安定化するために種々の賦形剤、例えば組換えアルブミン、コラーゲンまたはデンプンを使用することが開示されている。
【0032】
Goodnough M.C.ら、Stabilization of botulinum toxin type A during lyophilization, Appl Environ Microbiol 1992;58(10):3426-3428、およびGoodnough M.C.ら、Recovery of type-A botulinal toxin following lyophilization, Acs Symposium Series 1994;567(-):193-203には、アルブミンおよび塩化ナトリウムを約0.6:1の比で(すなわち復元ボツリヌス毒素溶液1ml当たりBSAまたはHSA 5mgおよびNaCl 9mg)含有するボツリヌス毒素製剤が開示されており、ボツリヌス毒素製剤から塩化ナトリウムを除去する(そしてその塩不含有製剤中でHSAを9mg/mlまで増量する)ことは活性ボツリヌス毒素の製剤を得ることに顕著に寄与すると記載されている。
【0033】
ボツリヌス毒素分子(約150kDa)、およびボツリヌス毒素複合体(約300〜900kDa)、例えばA型毒素複合体は、表面変性、熱およびアルカリ性条件による変性に対して非常に感受性である。不活性化毒素はトキソイドタンパク質を形成し、これは免疫原性であり得る。その結果生じる抗体の故に、患者が毒素注射に対して応答しなくなり得る。
【0034】
酵素一般について言えるように、ボツリヌス毒素(細胞内ペプチダーゼ)の生物学的活性は、少なくとも部分的にはその三次元形状に依存する。すなわち、A型ボツリヌス毒素は、熱、種々の化学薬品、表面の伸長および表面の乾燥によって無毒化される。しかも、既知の培養、発酵および精製によって得られた毒素複合体を、医薬組成物に使用する非常に低い毒素濃度まで希釈すると、適当な安定剤が存在しなければ毒素の無毒化が急速に起こることが知られている。毒素をmg量からng/ml溶液へ希釈するのは、そのような大幅な希釈によって比毒性が急速に低下する故に、非常に難しい。ボツリヌス毒素含有医薬組成物を製造後、何箇月も、または何年も経過してからボツリヌス毒素を使用することもあるので、ボツリヌス毒素を安定剤(例えばアルブミンまたはゼラチン)で安定化しなければならない。また、貯蔵安定性とするために、ボツリヌス毒素を既知の凍結乾燥法または真空乾燥法によって固体状態(すなわち粉末)に加工することができる。
【0035】
更に、ボツリヌス毒素含有医薬組成物を、毒素輸送および貯蔵形態(即用または医師による復元用)に凍結乾燥(フリーズドライ)または真空乾燥するために必要な、苛酷なpH、温度および濃度範囲条件はいずれも、毒素を無毒化し得る。すなわち、ゼラチンおよび血清アルブミンは、ボツリヌス毒素の安定化にいくらか有効に用いられたに過ぎない。
【0036】
市販のボツリヌス毒素含有医薬組成物は、BOTOX(登録商標)(カリフォルニア、アーヴィンのAllergan,Inc.から入手可能)の名称で市販されている。BOTOX(登録商標)は、精製A型ボツリヌス毒素複合体、ヒト血清アルブミンおよび塩化ナトリウムから成り、無菌の真空乾燥形態で包装されている。このA型ボツリヌス毒素は、N-Zアミンおよび酵母エキスを含有する培地中で増殖させたボツリヌス菌のHall株の培養物から調製する。そのA型ボツリヌス毒素複合体を培養液から一連の酸沈殿によって精製して、活性な高分子量毒素タンパク質および結合ヘマグルチニンタンパク質から成る結晶複合体を得る。結晶複合体を、塩およびアルブミンを含有する溶液に再溶解し、滅菌濾過(0.2μ)した後、真空乾燥する。BOTOX(登録商標)は、筋肉内注射前に、防腐していない無菌塩類液で復元し得る。BOTOX(登録商標)の各バイアルは、A型ボツリヌス毒素複合体約100単位(U)、ヒト血清アルブミン0.5mgおよび塩化ナトリウム0.9mgを、防腐剤不含有の無菌真空乾燥形態で含有する。
【0037】
真空乾燥BOTOX(登録商標)を復元するには、防腐剤不含有の無菌生理食塩水(0.9%Sodium Chloride Injection)を使用し、適量のその希釈剤を適当な大きさの注射器で吸い上げる。BOTOX(登録商標)は、泡立てまたは同様の激しい撹拌によって変性しうるので、そのバイアルに希釈剤を穏やかに注入する。滅菌性の理由から、BOTOX(登録商標)は、復元後72時間以内に投与すべきである。その間、復元BOTOX(登録商標)は冷蔵庫(2〜8℃)内で保管する。復元BOTOX(登録商標)は、無色透明で、粒状物を含まない。真空乾燥生成物は、冷凍庫または冷蔵庫内で保管する。
【0038】
他の市販のボツリヌス毒素含有医薬組成物には、次のものが包含される:Dysport(登録商標)(A型ボツリヌス毒素ヘマグルチニン複合体とヒト血清アルブミンおよびラクトースを製剤中に含む。使用前に0.9%塩化ナトリウムで復元する粉末として、イギリス、バークシャーのIpsen Limitedから入手可能。)、およびMyoBloc(登録商標)(B型ボツリヌス毒素、ヒト血清アルブミン、コハク酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムを含むpH約5.6の注射可能な溶液。アイルランド、ダブリンのElan Corporationから入手可能。)。
【0039】
ボツリヌス毒素安定剤としてヒト血清アルブミンの代わりに、他のタンパク質または低分子量(非タンパク質)化合物が適当であり得ると報告されている。Carpenderら、Interactions of Stabilizing Additives with Proteins During Freeze-Thawing and Freeze-Drying、International Symposium on Biological Product Freeze-Drying and Formulation、1990年10月24〜26日;Karger(1992)、225-239。
【0040】
ヒト血清アルブミンは医薬組成物中で、単なる充填剤として以外にも機能すると考えられる。すなわち、アルブミンはボツリヌス毒素と相互作用して該神経毒の力価を高め得るらしい。例えば、ウシ血清アルブミンは、単なるA型ボツリヌス毒素の安定化賦形剤として作用する以外にも、A型ボツリヌス毒素のSNAP-25ニューロン内基質に類似した合成ペプチド基質の触媒速度をも明らかに高めるらしいことが知られている。Schmidtら、Endoproteinase Activity of Type A Botulinum Neurotoxin Substrate Requirements and Activation by Serum Albumin、J. of Protein Chemistry、16(1)、19-26(1997)。すなわち、アルブミンは、ボツリヌス毒素の毒素基質に対する細胞内タンパク質分解作用を、(おそらく反応速度に影響を及ぼすことによって)増強し得る。この増強作用は、標的ニューロンへのボツリヌス毒素エンドサイトーシス時にボツリヌス毒素に付随したアルブミンによるものであり得、あるいは増強作用は、ボツリヌス毒素エンドサイトーシス前にニューロンタンパク質内に予め存在した細胞質アルブミンによるものであり得る。
【0041】
アセチルコリン
典型的には、単一タイプの小分子の神経伝達物質のみが、哺乳動物の神経系において各タイプのニューロンによって放出される。神経伝達物質アセチルコリンが脳の多くの領域においてニューロンによって分泌されているが、具体的には運動皮質の大錐体細胞によって、基底核におけるいくつかの異なるニューロンによって、骨格筋を神経支配する運動ニューロンによって、自律神経系(交感神経系および副交感神経系の両方)の節前ニューロンによって、副交感神経系の節後ニューロンによって、そして交感神経系の一部の節後ニューロンによって分泌されている。本質的には、汗腺、立毛筋および少数の血管に至る節後交感神経線維のみがコリン作動性であり、交感神経系の節後ニューロンの大部分は神経伝達物質のノルエピネフリンを分泌する。ほとんどの場合、アセチルコリンは興奮作用を有する。しかし、アセチルコリンは、迷走神経による心拍の抑制のように、抑制作用を一部の末梢副交感神経終末において有することが知られている。
【0042】
自律神経系の遠心性シグナルは交感神経系または副交感神経系のいずれかを介して身体に伝えられる。交感神経系の節前ニューロンは、脊髄の中間外側角に存在する節前交感神経ニューロン細胞体から伸びている。細胞体から伸びる節前交感神経線維は、脊椎傍交感神経節または脊椎前神経節のいずれかに存在する節後ニューロンとシナプスを形成する。交感神経系および副交感神経系の両方の節前ニューロンはコリン作動性であるので、神経節にアセチルコリンを適用することにより、交感神経および副交感神経の両方の節後ニューロンが興奮し得る。
【0043】
アセチルコリンは、ムスカリン性受容体およびニコチン性受容体の2種類の受容体を活性化する。ムスカリン性受容体は、副交感神経系の節後ニューロンによって刺激されるすべてのエフェクター細胞において、また、交感神経系の節後コリン作動性ニューロンに刺激されるエフェクター細胞において見られる。ニコチン性受容体は、副腎髄質、ならびに自律神経節内、すなわち交感神経系および副交感神経系の両方の節前ニューロンと節後ニューロンとの間のシナプスにおける節後ニューロンの細胞表面に見られる。ニコチン性受容体はまた、多くの非自律神経終末、例えば神経筋接合部における骨格筋繊維の膜にも存在する。
【0044】
アセチルコリンは、小さい透明な細胞内小胞がシナプス前のニューロン細胞膜と融合したときにコリン作動性ニューロンから放出される。非常に様々な非ニューロン分泌細胞、例えば副腎髄質(PC12細胞株と同様に)および膵臓の島細胞が、それぞれカテコールアミン類および上皮小体ホルモンを大きな高密度コア小胞から放出する。PC12細胞株は、交感神経副腎発達の研究のために組織培養モデルとして広範囲に使用されているラットのクロム親和性細胞腫細胞のクローンである。ボツリヌス毒素は、(エレクトロポレーションによるように)透過性にされた場合、または脱神経支配細胞に毒素を直接注射することによって、両タイプの細胞からの両タイプの化合物の放出をインビトロで阻害する。ボツリヌス毒素はまた、皮質シナプトソーム細胞培養物からの神経伝達物質グルタメートの放出を阻止することが知られている。
【0045】
神経筋接合部は、筋肉細胞への軸索の近接によって、骨格筋において形成される。神経系を介して伝達される信号は、イオンチャンネルを活性化して末端軸索における活動電位を生じ、例えば神経筋接合部の運動終板において、ニューロン内シナプス小胞からの神経伝達物質アセチルコリンの放出を生じる。アセチルコリンは、細胞外空間を通って、筋肉終板の表面のアセチルコリン受容体タンパク質と結合する。一旦、充分な結合が生じると、筋肉細胞の活動電位は、特異性膜イオンチャンネル変化を生じ、筋肉細胞収縮を生じる。次に、アセチルコリンが筋肉細胞から放出され、細胞外空間においてコリンエステラーゼによって代謝される。代謝産物は、さらなるアセチルコリンに再処理するために末端軸索に再循環される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0046】
したがって、必要とされているのは、ボツリヌス毒素医薬製剤を製造するための方法であって、調合工程中にボツリヌス毒素がほとんどまたは全く失われないような方法である。別の言い方をすると、必要とされているのは、ボツリヌス毒素医薬製剤を製造するための方法であって、復元後の高いボツリヌス毒素回収率を可能にするような方法である。調合中に起こるボツリヌス毒素の損失(これは回収率の低下につながる)は、最終復元品中に不活性な毒素(トキソイド)が存在する可能性をもたらし、その結果として、患者への投与時に、その製品の抗原能を上昇させる。理論的最善は、調合工程に投入されるボツリヌス毒素の100%が、最終復元品中に存在し、かつ生物学的に活性なボツリヌス毒素として存在することである。
【0047】
したがって、同様に必要とされているのは、既知のボツリヌス毒素医薬組成物の力価と比較して、より高い力価を持つボツリヌス毒素含有医薬組成物である。別の言い方をすると、必要とされているのは、ボツリヌス毒素医薬組成物中に存在するボツリヌス毒素1ナノグラムあたりのボツリヌス毒素の力価がより高いボツリヌス毒素医薬組成物である。
【課題を解決するための手段】
【0048】
概要
本発明は、ボツリヌス毒素医薬製剤を製造するための方法であって、調合工程中にボツリヌス毒素がほとんどまたは全く失われない方法を提供することによって、この必要を満たす。別の言い方をすると、本発明の範囲に包含される方法は、復元後のボツリヌス毒素回収率が高いボツリヌス毒素医薬製剤の製造を可能にする。有意義なことに、本発明の範囲に包含される方法は、調合工程に投入されるボツリヌス毒素の約100%を最終復元品中に生物学的に活性なボツリヌス毒素として存在させることにより、理論的最善に迫る。
【0049】
さらに本発明は、既知のボツリヌス毒素医薬組成物の力価と比較して、より高い(すなわち増加した)力価を持つボツリヌス毒素医薬組成物を提供することによって、前記の必要を満たす。特に本発明は、水性液体(例えば食塩水または水)で復元した時(すなわち復元した後)に、既知の粉末状ボツリヌス毒素医薬組成物(例えばBotox(登録商標)またはDysport(登録商標))を水性液体で復元した後の力価と比較して、(例えばマウスLD50アッセイによる決定で)増加した力価を持つような粉末状の(例えばフリーズドライ、凍結乾燥および/または真空乾燥による)ボツリヌス毒素医薬組成物を提供することによって、この必要を満たす。復元時の力価は「回収」後の力価ということもできる。したがって本発明は、回収時に増加した力価を持つボツリヌス毒素医薬組成物、または同義語として、増加した回収(recoveredまたはrecovery)力価を持つボツリヌス毒素医薬組成物を包含する。
【0050】
簡単に述べると、調合工程に投入されるボツリヌス毒素量の高い保存性(すなわち低いまたは少ない損失)(最終[調合]品中に存在する活性ボツリヌス毒素量との比較)および高いボツリヌス毒素医薬組成物回収力価という、これら二重の必要を満たすための本発明の重要な態様は、固形のボツリヌス毒素医薬組成物を、そのボツリヌス毒素医薬組成物中に存在する賦形剤のうちの二つが、少なくとも調合工程中は、特定の重量対重量比または特定の重量対重量比範囲で存在するように調合することによって達成される。
【0051】
定義
本明細書で使用する場合、以下に説明する単語または用語は、以下の定義を持つ。
「約」とは、そのように修飾された事項、パラメータまたは用語が、明記した事項、パラメータまたは用語の値の上下±10パーセントの範囲を包含することを意味する。
【0052】
「投与」または「投与する」とは、医薬組成物を対象に与える(すなわち投与する)ステップを意味する。本明細書に開示する医薬組成物は「局所投与」される。全身性の(すなわち静脈内または経口)投与経路は、全身性投与が、全身性投与された活性成分の全身性作用をもたらすであろう限りは、本発明の範囲から除外される。全身性作用をもたらさない標的指向型活性成分の全身性投与は、本発明の範囲から除外されない(例えば米国特許出願公開第20040086532号および同第20040086531号を参照されたい)。局所投与には、例えば筋肉内(i.m.)投与、皮内または真皮下投与、皮下投与、髄腔内投与、腹腔内(i.p.)投与、局所接触、およびポリマーインプラントまたはミニ浸透圧ポンプなどの徐放装置の植込みが含まれるが、これらに限るわけではない。
【0053】
「ボツリヌス毒素」は、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)によって産生される神経毒、および非クロストリジウム種によって組換え生産されたボツリヌス毒素(またはその軽鎖もしくは重鎖)を意味する。本明細書で使用する「ボツリヌス毒素」という表現は、ボツリヌス毒素血清型A、B、C、D、E、FおよびGを包含する。また、本明細書で使用するボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素複合体(すなわち300、600および900kDa複合体)も、精製ボツリヌス毒素(すなわち約150kDa)も包含する。「精製(または純粋な)ボツリヌス毒素」は、ボツリヌス毒素複合体を形成するタンパク質などの他のタンパク質から分離された、またはそれら他のタンパク質から実質的に分離された、ボツリヌス毒素と定義される。精製(または純粋な)ボツリヌス毒素は95%より高い純度を持ち得、好ましくは99%より高い純度を持つ。
【0054】
「クロストリジウム神経毒」は、ボツリヌス菌、クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)またはクロストリジウム・ベラッティ(Clostridium beratti)などのクロストリジウム細菌から産生される神経毒、またはそれらクロストリジウム細菌に固有の神経毒、および非クロストリジウム種によって組換え生産されたクロストリジウム神経毒を意味する。
【0055】
ボツリヌス毒素含有医薬組成物に関していう「強化された力価」とは、組成物が参照ボツリヌス毒素医薬組成物の力価よりも少なくとも5%で50%まで、またはそれ以上高い力価を持つことを意味する(力価は例えばマウスLD50アッセイにより決定される)。参照ボツリヌス毒素医薬組成物は、ボツリヌス毒素、塩化ナトリウムおよびHSAを含むことができ、そのアルブミンと塩化ナトリウムは約0.6:1の重量対重量比で存在する。
【0056】
「全く含まない」(または「からなる」という用語法)とは、使用する機器または方法の検出範囲内で、その物質を検出することができないこと、またはその存在を確認することができないことを意味する。
「本質的に含まない」(または「から本質的になる」)とは、その物質が痕跡量しか検出され得ないことを意味する。
【0057】
「賦形剤」は、医薬組成物中に存在する活性医薬成分以外に医薬組成物中に存在する物質を意味する。賦形剤は、緩衝剤、担体、安定剤、保存剤、希釈剤、充填剤および/または増量剤、例えばアルブミン、ゼラチン、コラーゲンおよび/または塩化ナトリウムであることができる。
【0058】
「固定」とは、対象が1つ以上の身体部分を動かすのを妨げるステップを意味する。十分な数の身体部分が固定されれば、その対象は相応に固定されることになる。したがって「固定」は、肢などの身体部分の固定および/または対象の完全な固定を包含する。
【0059】
「修飾ボツリヌス毒素」とは、天然ボツリヌス毒素と比較して、そのアミノ酸の少なくとも1つが欠失、修飾、または置換されたボツリヌス毒素である。さらに修飾ボツリヌス毒素は、組換え生産された神経毒、または組換え生産された神経毒の誘導体もしくは断片であることもできる。修飾ボツリヌス毒素は、例えばボツリヌス毒素受容体に結合する能力またはニューロンからの神経伝達物質放出を阻害する能力などといった天然ボツリヌス毒素の生物学的活性を、少なくとも1つは保持している。修飾ボツリヌス毒素の一例は、あるボツリヌス毒素血清型(例えば血清型A)由来の軽鎖および異なるボツリヌス毒素血清型(例えば血清型B)由来の重鎖を持つボツリヌス毒素である。修飾ボツリヌス毒素のもう1つの例は、サブスタンスPなどの神経伝達物質に結合されたボツリヌス毒素である。
【0060】
「患者」とは、医療または獣医療を受けるヒトまたは非ヒト対象を意味する。したがって、本明細書に開示する組成物は、哺乳動物などの任意の動物の処置に使用しうる。
【0061】
「医薬組成物」とは、製剤を意味し、その活性成分はクロストリジウム神経毒などの神経毒であることができる。「製剤」という単語は、その医薬組成物中に神経毒活性成分の他に少なくとも1つの追加成分が存在することを意味する。したがって医薬組成物は、ヒト患者などの対象への診断的、医療的または美容的使用(例えば筋肉内注射もしくは皮下注射による使用またはデポー剤もしくはインプラントの挿入による使用)に適した製剤である。医薬組成物は、凍結乾燥状態もしくは真空乾燥状態にあるか、凍結乾燥もしくは真空乾燥した医薬組成物を食塩水もしくは水を使用して復元した後に生成した溶液であるか、または復元を必要としない溶液として存在しうる。神経毒活性成分は、ボツリヌス毒素血清型A、B、C1、D、E、FもしくはGの1つまたは破傷風毒素(いずれもクロストリジウム細菌によって自然に産生されうるもの)でありうる。上述のように、医薬組成物は液体または固体、例えば真空乾燥物であることができる。医薬組成物の構成成分は、単一組成物(すなわち、医薬組成物の初期配合時に、必要な復元液を除く全ての構成成分が存在する)に含まれるか、または二構成要素系として、例えば食塩水などの希釈剤(この場合の希釈剤は医薬組成物の初期配合時に存在しない成分(例えば水)を含有する)で復元される真空乾燥した組成物などとして含まれうる。
【0062】
「多糖」とは、二分子より多い糖分子モノマーのポリマー(モノマーは同一であっても異なってもよい)を意味する。
【0063】
「タンパク質安定剤」(または「一次安定剤」)は、タンパク質(例えばボツリヌス毒素などのクロストリジウム神経毒)の生物学的構造(すなわち三次元コンフォメーション)および/または生物学的活性を保存または維持するのに役立つ化学薬剤である。安定剤はタンパク質または多糖であることができる。タンパク質安定剤の例として、ヒドロキシエチルデンプン(ヘタスターチ)、血清アルブミン、ゼラチン、コラーゲン、ならびに組換えアルブミン、組換えゼラチンまたは組換えコラーゲンが挙げられる。本明細書に開示するように、一次安定剤は、その一次安定剤を含有する組成物を受容した対象において免疫原性応答を生じない(または減弱した免疫応答を生じる)であろう合成薬剤であることができる。本発明の他の実施形態において、タンパク質安定剤は、そのタンパク質を投与されている動物と同じ種に由来するタンパク質でありうる。医薬組成物にはさらなる安定剤が含まれうる。これらのさらなる安定剤または二次安定剤は、単独で使用するか、タンパク質および多糖などの一次安定剤と組み合わせて使用することができる。代表的な二次安定剤として、非酸化アミノ酸誘導体(例えばN-アセチル-トリプトファン(「NAT」)などのトリプトファン誘導体)、カプリレート(例えばカプリル酸ナトリウム)、ポリソルベート(例えばP80)、アミノ酸、および亜鉛などの二価金属カチオンが挙げられるが、これらに限るわけではない。医薬組成物は、ベンジルアルコール、安息香酸、フェノール、パラベンおよびソルビン酸などの保存剤も、含むことができる。「組換え安定化剤」は、組換え手段によって作られた「一次安定剤」、例えば組換え生産されたアルブミン(例えば組換え生産されたヒト血清アルブミン)、コラーゲン、ゼラチン、またはM-クレゾールなどのクレゾールである。
【0064】
「安定化性」「安定化する」または「安定化」とは、ある医薬活性成分(「PAI」)が、そのPAIにとって安定化性であるか、そのPAIを安定化するか、またはそのPAIに安定化をもたらす化合物の存在下で、その生物学的活性(これは、インビボLD50またはED50測定により、力価としてまたは毒性として、評価することができる)の少なくとも20%、そして最高100%を保持することを意味する。例えば、(1)バルク溶液またはストック溶液から連続希釈液を調製した時に、または(2)約-2℃以下で6ヶ月〜4年間貯蔵してあった凍結乾燥または真空乾燥ボツリヌス毒素含有医薬組成物を食塩水または水で復元した時に、または(3)約2℃〜約8℃で6ヶ月〜4年間貯蔵してあった水性溶液ボツリヌス毒素含有医薬組成物に関して、その復元または水性溶液医薬組成物中に存在するボツリヌス毒素は(そのPAIにとって安定化性であるか、そのPAIを安定化するか、またはそのPAIに安定化をもたらす化合物の存在下で)、その生物学的に活性なボツリヌス毒素がその医薬組成物に組み込まれる前に持っていた力価または毒性の約20%より高い、そして最高約100%までの力価または毒性を持つ。
【0065】
「実質的に含まない」とは、その医薬組成物の1wt%未満のレベルで存在することを意味する。
「治療用製剤」とは、例えば末梢筋の活動亢進(すなわち痙縮)を特徴とする障害または疾患などといった障害または疾患を処置し、それによってその障害または疾患を軽減するために使用することができる製剤を意味する。
【0066】
本発明の範囲に包含される医薬組成物は、ボツリヌス毒素などのクロストリジウム毒素と、その毒素を安定化するように作用する賦形剤とを含むことができる。本発明の範囲に包含される医薬組成物は、本質的にボツリヌス毒素および安定剤からなることもできる。また、本発明の範囲に包含される医薬組成物は、ボツリヌス毒素および組換え安定剤からなることもできる。
【0067】
ボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素複合体として(すなわち、使用する特定ボツリヌス毒素血清型に依存して、約300キロダルトン〜約900キロダルトンの複合体として)存在するか、ボツリヌス毒素複合体タンパク質を含まないまたは実質的にもしくは本質的に含まない(すなわちHAタンパク質およびNTNHタンパク質と会合した状態から引き離された)純粋なまたは精製されたボツリヌス毒素(ボツリヌス毒素複合体の約150キロダルトン神経毒構成要素として存在することを意味する)として存在することができる。したがって、図1に示すように、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)によって天然に産生されるボツリヌス毒素は、典型的には、ボツリヌス毒素分子(約150キロダルトンの分子量を持つタンパク質)(神経毒構成要素ともいう)と、その神経毒構成要素に緊密に、ただし非共有結合的に、会合している一連の非毒性タンパク質(ヘマグルチニンおよび非ヘマグルチニン)とを含む複合体として産生される。したがって図1に示すように、(約150kDaの)神経毒構成要素と(非共有結合的に)会合した非神経毒分子が最高約7分子(総重量約750kDa)存在して、900kDaのA型ボツリヌス神経毒複合体を形成することができる。図1において、HA=NTHA=非毒性ヘマグルチニン;LC=軽鎖(約50kDa);HC=重鎖(約100kDa);-S-S-=LCとHCとをつなぐ単一のジスルフィド結合、および;Zn=亜鉛原子(ボツリヌス毒素は亜鉛エンドペプチダーゼ)である。したがって、LC+HCは約150kDaの分子量を持つ分子であり、これが(A型ボツリヌス毒素の場合は)900KDa複合体の神経毒構成要素である。
【0068】
本発明の範囲に包含される医薬組成物中に存在する任意の組換え安定剤は、組換えアルブミン、組換えコラーゲン、組換えゼラチンおよび/または他の組換え一次安定剤であることができる。本医薬組成物は、金属(すなわち亜鉛)またはNATなどの二次安定剤も含むことができる。
【0069】
有意義なことに、本発明の範囲に包含される医薬組成物は強化された力価または安定性を持つことができる。強化された力価とは、第1のボツリヌス毒素医薬組成物の力価が、第2のボツリヌス毒素医薬組成物の力価よりも高いことを意味する。例えば、第1のボツリヌス毒素医薬組成物は、その第1組成物中に存在する二つの賦形剤(例えばアルブミンおよび塩化ナトリウム)について、特定の比(例えば28:1)を持つことができる。第2のボツリヌス毒素医薬組成物は、その第2組成物中に存在する同じ二つの賦形剤(すなわちアルブミンおよび塩化ナトリウム)について、既知の比(例えば約0.6:1)を持つことができる。力価および相対力価は、ボツリヌス毒素の生物学的活性を決定するために用いられる方法、例えばマウスLD50アッセイなどによって決定することができる。一般に、より高い力価は、筋肉を麻痺させるのに、より少量(すなわち、より低単位)のボツリヌス毒素医薬組成物が要求されることを意味する。好ましくは、第1のボツリヌス毒素医薬組成物は、第2のボツリヌス毒素医薬組成物より少なくとも5%は高い力価(そして50%程度まで高い力価)を持つ。
【0070】
本発明の範囲に包含される医薬組成物は神経毒および多糖を含むこともできる。多糖は神経毒を安定化する。本明細書に開示する医薬組成物は、復元時または注射時に約5〜7.3のpHを持つことができる。
【0071】
本医薬組成物は、治療効果を得るためにヒト患者に投与するのに適し、神経毒はボツリヌス毒素血清型A、B、C1、D、E、FおよびGの一つであることができる。
【0072】
本発明のさらにもう一つの実施形態は、医薬組成物を使用する方法であって、治療効果または美容効果を得るために、その医薬組成物を患者に局所投与するステップを含む方法である。
【0073】
具体的医薬組成物
本発明は、(a)ボツリヌス毒素、(b)アルブミンである第1賦形剤、および(c)第2賦形剤を含む医薬組成物であって、(d)医薬組成物中に存在する第2賦形剤に対する第1賦形剤の重量対重量比が0.6より大きく約100未満である組成物を包含する。この医薬組成物中のボツリヌス毒素の力価は、比較医薬組成物中のボツリヌス毒素の力価よりも約5%高い力価〜約200%高い力価であることができる。比較医薬組成物は、上記医薬組成物と(a)同じ量および同じタイプのボツリヌス毒素、ならびに(b)同じ第1および第2賦形剤を含有することができ、(c)第1および第2賦形剤は、比較医薬組成物には、0.6以下の重量対重量比で存在することができる。また、医薬組成物中のボツリヌス毒素の力価は、比較医薬組成物中のボツリヌス毒素の力価より約10%高い力価〜約100%高い力価であることができる。この医薬組成物において、ボツリヌス毒素はボツリヌス毒素複合体として存在するか、ボツリヌス毒素は純粋なボツリヌス毒素として(すなわち、ボツリヌス毒素複合体タンパク質を実質的に含まない、約150キロダルトンの分子量を持つ神経毒構成要素として)として存在することができる。
【0074】
医薬組成物中の第1賦形剤は、血清アルブミンまたは組換えアルブミンであることができる。医薬組成物中の第2賦形剤は塩化ナトリウムであることができる。医薬組成物中に存在する第2賦形剤に対する第1賦形剤の重量対重量比は約1〜約50である。
【0075】
本発明の範囲に包含される医薬組成物の詳細な一実施形態は、(a)医薬組成物中に存在するボツリヌス毒素の各単位につき約2.0×10-11グラム〜約3.5×10-11グラムのA型ボツリヌス毒素(ボツリヌス毒素の単位はマウスLD50力価アッセイによって決定される);(b)アルブミン、および(c)塩化ナトリウムを含むことができ、(d)医薬組成物中に存在する塩化ナトリウムに対するアルブミンの重量対重量比は0.6より大きく約100未満である。医薬組成物中のボツリヌス毒素の力価は、比較医薬組成物中のボツリヌス毒素の力価より約5%高い力価〜約200%高い力価であることができ、その比較医薬組成物は、請求項10の医薬組成物と(a)同じ量および同じタイプのボツリヌス毒素、ならびに(b)同じアルブミンおよび塩化ナトリウムを含有し、(c)そのアルブミンおよび塩化ナトリウムは、比較医薬組成物には、0.6以下の重量対重量比で存在する。医薬組成物中のボツリヌス毒素の力価は、比較医薬組成物中のボツリヌス毒素の力価より約10%高い力価〜約100%高い力価であることができる。あるいは、医薬組成物中に存在する塩化ナトリウムに対するアルブミンの重量対重量比は約1〜約50であることができる。
【0076】
本発明は、(a)約2.5ngのA型ボツリヌス毒素複合体を、アルブミンおよび塩化ナトリウムと、医薬組成物中の塩化ナトリウムに対するアルブミンの重量対重量比が0.6より大きく約100未満になるような比で混和して混合物を形成させ、(b)その混合物を真空乾燥し、その結果として、復元後に約70単位〜約130単位の力価を持つ医薬組成物を得ることにより、医薬組成物を製造する方法も包含する。この方法は、真空乾燥ステップ前に混合物を凍結乾燥するステップを、さらに含むことができる。この方法によって有用な医薬組成物を製造することができる。
【0077】
本発明は、(a)ボツリヌス毒素;(b)塩化ナトリウム、および;(b)安定剤を含む、ヒトへの投与に適した医薬組成物であって、その医薬組成物中に存在するボツリヌス毒素の力価が約40単位/ngである組成物も包含する。この医薬組成物中に存在する塩化ナトリウムに対するアルブミンの重量対重量比は0.6より大きく約100未満であることができる。安定剤は組換え安定剤、例えば組換えアルブミン、組換えコラーゲンおよび/または組換えゼラチンであることができる。ボツリヌス毒素は、A、B、C、D、E、およびF型ボツリヌス毒素からなる群より選択することができる。
【0078】
本発明は、(a)ボツリヌス毒素;(b)塩化ナトリウム、および;(b)アルブミンを含む、ヒトへの投与に適した医薬組成物であって、その医薬組成物中に存在するボツリヌス毒素の力価が約24単位/ng〜60単位/ngである組成物も包含する。塩化ナトリウムに対するアルブミンの重量対重量比は、0.6より大きく約100未満であることができる。
【0079】
本発明は、(a)ボツリヌス毒素;(b)塩化ナトリウム、および;(b)アルブミンを含む、ヒトへの投与に適した医薬組成物であって、その医薬組成物中に存在する塩化ナトリウムに対するアルブミンの重量対重量比が約1〜約40であり、医薬組成物中に存在するボツリヌス毒素の力価が約24単位/ng〜約60単位/ngである組成物も包含する。
【0080】
本発明は、約30〜40単位/ngの力価を持つ、ヒトへの投与に適したボツリヌス毒素医薬組成物を製造するための方法であって、(a)約30〜40単位/ngの力価を持つA型ボツリヌス毒素複合体を、重量対重量比が約1〜約40であるアルブミンおよび塩化ナトリウムに加えて混合物を形成させるステップ、(b)その混合物を真空乾燥または凍結乾燥するステップ、および(c)その混合物を生理食塩水で復元し、その結果として、約30〜40単位/ngの力価を持つボツリヌス毒素医薬組成物を得るステップを含む方法も包含する。
【0081】
最後に、本発明は、治療的または美容的状態を処置するための方法であって、約40単位/ngの力価を持つボツリヌス毒素医薬組成物を哺乳動物に投与するステップを含む方法も包含する。
【0082】
A型ボツリヌス毒素を含む組成物を使用して、上述の方法を実施し、組成物を製造することができる。本発明の別の実施形態では、B型ボツリヌス毒素を含む組成物を使用して、上述の方法を実施することができる。本発明のさらなる実施形態では、複数のボツリヌス毒素血清型、例えばボツリヌス毒素血清型A、B、C1、D、E、FおよびGからなる群より選択されるボツリヌス毒素血清型を含む組成物を使用して、上記の方法を実施することができる。本発明の一定の実施形態では、精製ボツリヌス毒素を使用することができる。別の実施形態では、修飾ボツリヌス毒素を使用することができる。上述の方法で使用される組成物は、ボツリヌス毒素および多糖の他に、一つ以上のアミノ酸も含みうる。本明細書に記載する本発明の実施形態は、筋肉内投与(横紋筋、平滑筋または心筋の中または近傍への投与)、皮内投与、局所外用、皮下投与、腺の中または近傍への投与、身体の内腔(例えば膀胱内腔)への投与および/または髄腔内投与することができる。
下記の図面は本発明の諸態様を例示している。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】900キロダルトンボツリヌス毒素複合体の概略図である。
【図2】2.5ngのボツリヌス毒素、500μgのHSAおよび0〜10N(9000μg)のNaClを使用して調製した凍結乾燥、真空乾燥ボツリヌス毒素製剤の復元後のマウスLD50力価(Y軸上)を示すグラフ。
【図3】多くの実験用ボツリヌス毒素製剤について、回収力価データを3軸に表している。図3のX軸は、実験用または研究用バイアル調製物中に存在する塩化ナトリウム(NaCl)の量を、Botox(登録商標)の100単位バイアル中の900μgというNaCl含量に対して規格化した塩化ナトリウムの倍数(N)で表している。したがって図1のX軸上の整数1は900μgのNaClを表す。図3のY軸は、同じ実験用バイアル調製物中に存在するヒト血清アルブミン(HSA)の量を、Botox(登録商標)の100単位バイアル中の500μgというHSA含量に対して規格化したHSAの倍数として表している。したがって図3のY軸上の整数1は500μgのHSAを表す。図3のZ軸は、これらの真空乾燥実験用ボツリヌス毒素組成物の回収力価を表す。この場合、各バイアルは正確に同じ量のボツリヌス毒素(2.5ng)を含有し、各ボツリヌス毒素医薬組成物は、同じ量の生理食塩水を使用して復元され、復元後のその力価は、マウスLD50アッセイによって決定された。
【発明を実施するための形態】
【0084】
説明
本発明は、ボツリヌス毒素医薬組成物中の賦形剤を特定の比にすることで、強化された力価を持つ安定なボツリヌス毒素を製造することができるという発見に基づいている。
【0085】
ボツリヌス毒素医薬組成物中のボツリヌス毒素の力価は、そのボツリヌス毒素医薬組成物中の賦形剤を特定の比にしてボツリヌス毒素医薬組成物を製剤化することによって、著しく増加させうることを、本発明者は発見した。そのような特定の賦形剤比により、異なる賦形剤比を持つボツリヌス毒素医薬組成物よりも高い力価を持つボツリヌス毒素医薬組成物を得ることが可能になる。例えば本発明により、異なる賦形剤比を持つボツリヌス毒素医薬組成物よりも、ボツリヌス毒素医薬組成物中に存在するボツリヌス毒素1ナノグラムあたりの力価が高いボツリヌス毒素医薬組成物を製造することが可能になる。
【0086】
ボツリヌス毒素医薬組成物中に存在するボツリヌス毒素は、天然、組換え、ハイブリッド、キメラまたは修飾A、B、C、D、E、FまたはG型ボツリヌス毒素であることができる。また、ボツリヌス毒素は、複合体として、または純粋なボツリヌス毒素として、ボツリヌス毒素医薬組成物中に存在することができる。ボツリヌス毒素複合体は、ボツリヌス毒素分子(約150kDa)と一つ以上の非毒性ヘマグルチニンおよび/または非毒性非ヘマグルチニンタンパク質を含む。複合体は、例えば300、600または900kDaの分子量を持つことができ、150kDaを超える量は、その複合体の非毒性ヘマグルチニンおよび/または非毒性非ヘマグルチニンタンパク質構成要素によるものと考えられる。150kDaボツリヌス毒素分子を、神経毒構成要素とも、純粋なボツリヌス毒素ともいう。
【0087】
ボツリヌス毒素医薬組成物中に存在することができる賦形剤として、アルブミン(例えばヒト血清アルブミンまたは組換え生産されたアルブミン)などのタンパク質を挙げることができる。ボツリヌス毒素医薬組成物中に存在することができるもう一つの賦形剤として、塩化ナトリウムを挙げることができる。アルブミンおよび塩化ナトリウムはボツリヌス毒素医薬組成物に安定化賦形剤として使用することができる。塩化ナトリウムおよびアルブミンをボツリヌス毒素医薬組成物に充填剤として使用することは知られている。アルブミンは、乾燥中に毒素を安定化し、毒素が表面(例えば生産中および貯蔵中に毒素が接触しうるガラス表面)に付着するのを防ぐための賦形剤として使用される。例えば、Rader R.A.著「Botulinum toxin A」、Ronald Rader編「BIOPHARMA: Biopharmaceutical Products in the U.S. Market」(メリーランド州ロックビル:Biotechnology Information Institute; 2001)のpp. 271-274(332)、およびRader R.A.著「Botulinum toxin B」、Ronald Rader編「BIOPHARMA: Biopharmaceutical Products in the U.S. Market」(メリーランド州ロックビル: Biotechnology Information Institute; 2001)のpp. 274-276(333)を参照されたい。
【0088】
本発明のある実施形態は、ボツリヌス毒素医薬組成物中に存在する塩化ナトリウムに対してアルブミンが特定の比を持つようなボツリヌス毒素医薬組成物である。本発明者は、そのような比により、復元された凍結乾燥または真空乾燥ボツリヌス毒素医薬組成物の力価を著しく増加させることが可能になることを見出した。
【0089】
ボツリヌス毒素医薬組成物中に存在する賦形剤の比を変化させると、ボツリヌス毒素の力価が増加すると予想されなかったであろう理由、および正に反対のことが起こると予想されたであろう理由は、いくつかある。
【0090】
第1に、ボツリヌス毒素は医薬製剤中に組み入れるには比較的大きなタンパク質であり(A型ボツリヌス毒素複合体の分子量は900kDである)、それゆえ本質的に脆く、不安定である。毒素複合体のサイズが、それを、複雑度の低い小さなタンパク質よりも、はるかに脆弱で不安定なものにし、その結果、毒素の安定性を維持すべき場合には、製剤の調合および取扱いが困難になる。したがって、ボツリヌス毒素医薬組成物中に存在する賦形剤の比を変化させることは、毒素分子を変性させ、断片化し、もしくは他の形で解毒するか、または毒素複合体中に存在する非毒素タンパク質の解離を引き起こすことになると予想されるだろう。
【0091】
第2に、最も致死性の高い既知の生物学的製剤として、ボツリヌス毒素含有医薬組成物の製剤においては、全てのステップに並外れた安全性、精度および確度が要求される。したがって、ボツリヌス毒素医薬組成物中に存在する賦形剤の比を変化させることは、既に極めて厳格なボツリヌス毒素含有医薬組成物の製剤要件を悪化させるか、またはその要件に干渉することになると予想されるだろう。
【0092】
第3に、ボツリヌス毒素は、ヒト疾患の処置を目的とする注射が(FDAによって1989年に)承認された初めての微生物毒素だったため、ボツリヌス毒素の培養、大量生産、医薬への製剤化および使用について、具体的なプロトコールを開発して、承認を受ける必要があった。考慮すべき重要な事項は、毒素純度および注射用量である。したがって、ボツリヌス毒素医薬組成物中に存在する賦形剤の比を変化させることは、毒素純度および投薬要件に干渉すると予想されるだろう。
【0093】
第4に、A型は約750kDの重量を持つ非毒素タンパク質と非共有結合的に会合した約150kDの毒素分子からなるため、A型ボツリヌス毒素を安定化することには格別な困難がある。非毒素タンパク質は、二次構造および三次構造(毒性はこれらの構造に依存する)を保存し、またはその安定化を助けると考えられている。非タンパク質の安定化または比較的小さなタンパク質に応用することができる手法またはプロトコールは、ボツリヌス毒素複合体(例えば900kD A型ボツリヌス毒素複合体)の安定化に伴う固有の問題には応用することができない。例えば、pH3.5〜6.8では、A型毒素および非毒素タンパク質が非共有結合的に一つに結合しているが、弱アルカリ条件(pH>7.1)では、極めて不安定な毒素が毒素複合体から放出される。上述のように、純粋なボツリヌス毒素(すなわち150kD分子)が、医薬組成物中の活性成分として提案されている。したがって、ボツリヌス毒素医薬組成物中に存在する賦形剤の比を変化させることは、この脆弱な毒素安定性の平衡を乱すことになると予想されるだろう。
【0094】
本発明者は、一定の範囲内で、塩化ナトリウム濃度との比較でアルブミン濃度を増加させた場合に、復元されたボツリヌス毒素医薬組成物の力価が増加することを見出した。また本発明者は、一定の範囲内で、アルブミン濃度との比較で塩化ナトリウム濃度を増加させた場合に、復元されたボツリヌス毒素医薬組成物の力価が減少することも見出した。驚いたことに、高(絶対)濃度の塩化ナトリウムは、アルブミンに対して塩化ナトリウムが一定の比に保たれる限り、復元後の力価に対して有害でないことがわかった。このように、本発明者は、復元後のボツリヌス毒素医薬組成物力価を増加させることができる最適な塩化ナトリウム対アルブミン比が(存在する塩化ナトリウムまたはアルブミンの絶対量に関係なく)存在することを発見した。
【0095】
上述のように本発明者は、凍結乾燥またはフリーズドライ前にボツリヌス毒素医薬組成物中に特定の塩化ナトリウム対アルブミン比を確立することによって、復元されたボツリヌス毒素医薬組成物の力価を最適化できることを発見した。
【0096】
有意義なことに、本発明者は、典型的な復元液である生理食塩水(0.9%)によるボツリヌス毒素医薬組成物の復元が、その凍結乾燥またはフリーズドライ前にボツリヌス毒素医薬組成物中に確立された一定の塩化ナトリウム対アルブミン比によって得られるボツリヌス毒素医薬組成物力価の最適化に影響を及ぼさないことも発見した。したがって、この発見により、患者に投与される復元されたボツリヌス毒素医薬組成物の浸透圧の保存が可能になる。
【0097】
理論に束縛されることは望まないが、ボツリヌス毒素医薬組成物において、その凍結乾燥またはフリーズドライに先だって、一定の塩化ナトリウム対アルブミン比を確立することは、加工(調合もしくは製剤)ステップまたは作業中にボツリヌス毒素にとって快適な化学的および物理的環境を提供し、それと同時に接触表面(例えばガラスバイアル)へのボツリヌス毒素の吸着も減らすことにより、その復元後に、最適化されたボツリヌス毒素医薬組成物力価を得ることを可能にすると考えられる。おそらく、塩化ナトリウムとアルブミンの比が最適化されていないボツリヌス毒素医薬組成物の加工は、ボツリヌス毒素分子を損傷し、表面へのその吸着を増加させるのだろう。
【0098】
したがって、NaCl/HSA比を特定の比に変化させることで、毒素力価を増加させうる。なぜなら、その後、凍結中に、変性および表面への吸着によって失われる毒素が、少なくなるからである(これら二つの現象は関連を持ちうる。例:吸着が引き起こす変性)。HSAは凍害防止剤として作用し、NaClは分解剤として作用しうる。典型的には、何らかの量のボツリヌス毒素がガラス表面に吸着するだろう。本発明者は、ボツリヌス毒素医薬組成物中に存在するNaClが少ない場合には、真空乾燥毒素がガラス表面に付着しないことを確認することによって、NaClが加工および貯蔵表面への毒素の吸着を促進しうることまたは引き起こしうることを示した。したがって、特定のHSA:NaCl比が、最適になりうる。なぜなら、それらの比は、HSAが十分な凍害防止をもたらすことを可能にすると同時に、存在するNaClが引き起こす有害作用(表面吸着)に対抗するからである。
【0099】
したがって、本発明者の発見により、理論的に可能な力価の本質的に100%である力価を持つボツリヌス毒素医薬組成物を製造することが可能になる。さらにまた、最適化された力価は、食塩水による復元後も維持されるため、等張性ボツリヌス毒素医薬組成物の投与が可能になる。その結果、ボツリヌス毒素活性成分はより効率よく生産に使用され、最終ボツリヌス毒素医薬組成物中の分解ボツリヌス毒素に対する患者の曝露は減少することになる。
【0100】
本発明の有意義な利点は、本発明により、かなり少ないボツリヌス毒素を使用してボツリヌス毒素医薬組成物を生産(原料またはバルクボツリヌス毒素から調合)することが可能になることである。これは、少ないバルク毒素を使用して最終ボツリヌス毒素医薬組成物が製造される、より効率的な生産方法を可能にする。また、最終ボツリヌス毒素医薬組成物が含有するボツリヌス毒素が少ないため、単位数に基づいて比較すると、患者に投与されるボツリヌス毒素の量が少なくなり、結果として、免疫原性が低下するなど、副作用が少なくなるという利点が生じる。具体的に述べると、本発明により、同じ力価を持つがボツリヌス毒素医薬組成物中に存在する総ボツリヌス毒素量が約5%〜約50%少ないボツリヌス毒素医薬組成物を製造することが可能になる。例えば、以前なら存在するボツリヌス毒素1ngにつき約20単位のボツリヌス毒素を含んでいたボツリヌス毒素医薬組成物も、本発明によれば、ボツリヌス毒素医薬組成物中に存在するボツリヌス毒素1ngにつき40単位ものボツリヌス毒素を持つボツリヌス毒素医薬組成物を製造することができるようになった。
【0101】
ボツリヌス毒素医薬組成物の生産(調合)工程は、典型的には、50%もの過剰供給を必要とする。これは、1.5倍量(例えば150単位)のボツリヌス毒素を使用して開始される生産工程が、1倍量(例えば100単位)のボツリヌス毒素を含むボツリヌス毒素医薬組成物を与えることを意味する。生産工程または調合工程は、治療目的および/または美容目的でのヒトへの投与に適したボツリヌス毒素医薬組成物を製造するために、細菌発酵から得られたボツリヌス毒素(バルク毒素または原料毒素という)を、引き続いて希釈し、調合し、加工する工程である。
【0102】
このように、調合工程では、ボツリヌス毒素力価の50%までの不明な損失がある。50%の過剰供給は調合工程中に起こるボツリヌス毒素の変性および/または損失ゆえに必要になると推測されてきた。本発明は、ボツリヌス毒素の50%までの過剰供給が調合中に失われず、最終品における毒素の完全な回収を達成する上で、製剤の化学組成が決定的に重要なパラメータであることを示している。最適化された賦形剤比を使用すれば、真空乾燥工程中に適当な環境を提供することにより、過剰供給は必要なくなる。理論に束縛されることは望まないが、最適な比は乾燥工程中の表面への吸着および変性を減少させると思われる。
【0103】
したがって、本発明により、例えば約34%(100単位バイアル中のボツリヌス毒素量が3.8ngから2.5ngに減る場合)ないし約48%(100単位バイアル中の毒素量が4.8ngから2.5ngに減る場合)〜約50%(100単位バイアル中の毒素量が5.0ngから2.5ngに減る場合)少ない量で、ボツリヌス毒素医薬組成物を製造することが可能になる。
【0104】
ヒト血清アルブミン(血漿由来)はさまざまな供給源から市販されており、例えばBayer Corporationの医薬部門(イリノイ州エルクハート)からはPlasbumin(登録商標)という商標名で市販されている。Plasbumin(登録商標)は、プールヒト静脈血漿から得られたアルブミンならびにカプリル酸ナトリウム(オクタン酸塩とも呼ばれている脂肪酸)およびアセチルトリプトファン(「NAT」)を含有することが知られている。例えば、製品と共に供給され、http://actsysmedical.com/PDF/plasbumin20.pdfにも公開されている、Bayer Plasbumin(登録商標)-20の製品添付書類(使用説明書)を参照されたい。市販ヒト血清アルブミン中のカプリル酸塩およびアセチルトリプトファンは、市販に先だって行われる60℃で10時間の低温殺菌中にアルブミンを安定化するために、FDAの要求によって添加されるようである。例えばPeters, T., Jr.「All About Albumin Biochemistry, Genetics and Medical Applications」(Academic Press (1996))の295頁および298頁を参照されたい。組換えヒトアルブミンはさまざまな供給源から入手することができ、例えば北海道千歳市の株式会社バイファ、大阪市のウェルファイド株式会社、およびDelta Biotechnology(英国ノッティンガム)から、酵母発酵産物としてRecombumin(登録商標)という商標名で入手することができる。
【0105】
酵母種ピキアパストリス(Pichia pastoris)中で組換えヒト血清アルブミン(rHSA)を発現させることは知られている。例えばKobayashi K.ら「The development of recombinant human serum albumin」Ther Apher 1998 Nov;2(4):257-62、およびOhtani W.ら「Physicochemical and immunochemical properties of recombinant human serum albumin from Pichia pastoris」Anal Biochem 1998 Feb 1 ;256(1):56-62を参照されたい。また、米国特許第6,034,221号ならびに欧州特許第330 451号および同361 991号も参照されたい。rHSAの明確な利点は、それが血液由来の病原体を含まないことである。
【0106】
本明細書に記載する賦形剤比は、(1)表面、例えば実験用ガラス器具、容器、医薬組成物を復元する際のバイアルの表面、および医薬組成物を注射するために使用する注射器の内面へのボツリヌス毒素の付着(一般に「粘着性」と呼ばれる)を減少させることによって(表面へのボツリヌス毒素の付着は、ボツリヌス毒素の損失および失われなかったボツリヌス毒素の変性につながる可能性があり、それらはどちらも医薬組成物中に存在するボツリヌス毒素の毒性を減少させる);(2)ボツリヌス毒素の変性および/またはボツリヌス毒素複合体中に存在する他の非毒素タンパク質からのボツリヌス毒素の解離を減少させることによって(これらの変性および/または解離活動は、医薬組成物(すなわち凍結乾燥または真空乾燥前)中および復元された医薬組成物中に存在するボツリヌス毒素の低希釈度ゆえに起こりうる);(3)医薬組成物の製造、加工および復元時に起こるかなりのpH変化および濃度変化に際して、ボツリヌス毒素の損失(例えば変性または複合体中の非毒素タンパク質からの解離によるもの)を減少させることによって、医薬組成物中に存在するボツリヌス毒素などの神経毒活性成分に安定性を与えるのに役立ちうると考えられる。
【0107】
本明細書に記載する比によっておそらくもたらされるこれら3タイプのボツリヌス毒素安定化は、医薬組成物の注射前に、ボツリヌス毒素が持つ天然の毒性を保護、保存することができる。
【0108】
本発明の一定の実施形態において、本発明の医薬組成物は、複数のボツリヌス毒素血清型を含みうる。言い換えると、本組成物は、二つ以上の異なるボツリヌス毒素血清型を含みうる。例えば、ある組成物はボツリヌス毒素血清型AおよびBを含みうる。もう一つの実施形態では、組成物がボツリヌス毒素血清型AおよびEを含みうる。ボツリヌス毒素血清型の組合わせを用いることにより、処置を施す者は、処置する状態に基づいて、望ましい作用が得られるように組成物を個別に調整することができるだろう。本発明のさらなる実施形態において、本組成物は修飾ボツリヌス毒素を含みうる。修飾ボツリヌス毒素は、好ましくは、ニューロンからの神経伝達物質の放出を阻害するだろうが、天然ボツリヌス毒素よりも高いもしくは低い力価を持つか、または天然ボツリヌス毒素より高いもしくは低い生物学的作用を持ちうる。本発明の組成物は比較的長期間にわたる動物の処置に使用されうるため、組成物は比較的純粋な形態で提供されうる。ある実施形態では、組成物が医薬品等級である。一定の実施形態では、クロストリジウム神経毒が95%より高い純度を持つ。さらなる実施形態では、クロストリジウム神経毒が99%より高い純度を持つ。
【0109】
本発明は、長期間にわたる貯蔵を可能にするために、希釈剤または製剤そのものへの保存剤の添加も包含する。好ましい保存剤はベンジルアルコールを含有する保存食塩水である。
【0110】
液体製剤は有利でありうる。1段階提供(例えば充填済注射器)または使用者が1段階提供であると認識する製品構成(例えば二室式注射器)は、復元ステップを排除することによって便宜をもたらすだろう。フリーズドライは複雑で費用のかかる困難な工程である。液体製剤の方がしばしば製造が容易かつ安価である。一方、液体製剤は動的な系であり、それゆえに、フリーズドライ製剤よりも賦形剤相互作用、速い反応、細菌成長、および酸化を起こしやすい。適合する保存剤が必要かもしれない。メチオニンなどの酸化防止剤は、吸着を減少させるために界面活性剤を使用する場合は特に、スカベンジャーとしても有用であるかもしれない。というのも、これらの化合物の多くはペルオキシドを含有するか、ペルオキシドを生成するからである。フリーズドライ製剤に使用することができる安定化賦形剤(例えばヒドロキシエチルデンプンまたはリジンなどのアミノ酸)はいずれも、吸着の減少を助け、毒素を安定化するために、液体製剤における使用に適合させることができるだろう。インスリン用に開発された懸濁液に似た懸濁液も良い候補である。また、液体ビヒクル中のボツリヌス毒素を安定化するには、低pHビヒクルが必要かもしれない。というのも、この毒素は7より高いpHでは不安定であると報告されているからである。この酸性は注射時に灼熱感および刺痛をもたらしうる。二成分注射器を使用することができるだろう。pHを生理学的レベルまで上昇させるのに十分な同時ディスペンス緩衝剤を含めることによって、貯蔵中は毒素を低pHに維持しつつ、低pHの注射不快感が軽減されるだろう。もう一つの二室式注射器選択肢は、別々の部屋に分離されていて、使用時にのみ混合される、希釈液と凍結乾燥材料とを含むだろう。この選択肢では、追加の措置および時間を伴わずに、液体製剤の利点が得られる。
【0111】
本明細書で論じるように、本神経毒は、当技術分野で周知の技法を使用して製造および精製することができる。次に、精製された毒素を、安定化剤、例えば多糖(例えばヘタスターチ)、または組換え血清アルブミン、または該神経毒を受容する動物種の血清アルブミンに希釈することができる。安定剤は毒素の変性を防止または減少し、毒素を受容する予定の動物において免疫原性応答を全くまたはごくわずかしか生じないことが好ましい。次に、希釈された毒素のアリコートを、通常の手法を使用して凍結乾燥する。
【0112】
凍結乾燥された神経毒は、神経毒を対象に投与する前に、水、食塩水、または任意の緩衝剤溶液を凍結乾燥神経毒に加えることによって、復元することができる。一定の実施形態では、神経毒の変性を減少させる助けになるように、ナトリウム非含有緩衝剤が好ましいだろう。
【0113】
本発明の医薬組成物は、通常の投与様式を使用して投与することができる。本発明の好ましい実施形態では、組成物が対象に筋肉内投与または皮下投与される。別の実施形態では、本発明の組成物を髄腔内投与してもよい。また、本発明の組成物を、一つ以上の鎮痛剤または麻酔剤と一緒に投与してもよい。
【0114】
本発明の組成物にとって最も有効な投与様式および投薬レジメンは、処置される状態のタイプ、重症度、および経過、動物の健康状態および処置に対する応答、ならびに処置医の判断に依存する。したがって、本方法および本組成物の投薬は、個々の対象に合わせられるべきである。
【0115】
本発明の組成物は、結腸、膀胱、食道、または胃腸機能障害、例えばアカラシア、裂肛、オッディ括約筋機能亢進など(ただしこれらに限るわけではない)を処置するために、(横紋筋ではなく)平滑筋に注射することもできる。本組成物の投与は、関心臓器に特異的に作用するわけではない薬物による処置によって生じる好ましくない全身性の結果を軽減または予防しうる。
【0116】
ボツリヌス毒素を含有する組成物は、動物が感じる疼痛を緩和するために、筋肉内投与、髄腔内投与、または皮下投与することができる。これらの処置も注射部位に制限され、疼痛緩和薬を使用してこれらの疼痛症候群を処置する現行の全身性アプローチと比較して最小限の副作用しか持たない。
【0117】
本発明の方法を実施することによる疼痛からの緩和は、その動物が示している症状の数の減少を観察することによって決定することができる。一つ以上の症状が軽減されうる。
【0118】
上述のように、組成物中の神経毒、例えばボツリヌス毒素などの投薬量は変化しうる。ある実施形態では、組成物が、治療有効量の神経毒、例えば約1U〜約500UのA型ボツリヌス毒素を含有する。好ましくは、その量は約10U〜約300Uである。より好ましくは、その量は約20U〜250U、例えば約50U〜200U、または70Uである。
【0119】
あるいは、哺乳動物が感じる疼痛を軽減するために、A型ボツリヌス毒素などのボツリヌス毒素を、約10-3U/kg〜約60U/kgの量で投与することもできる。好ましくは、使用されるボツリヌス毒素を、約10-2U/kg〜約50U/kgの量で投与する。より好ましくは、ボツリヌス毒素を、約10-1U/kg〜約40U/kgの量で投与する。最も好ましくは、ボツリヌス毒素を、約1U/kg〜約30U/kgの量で投与する。本発明方法のとりわけ好ましい実施形態では、ボツリヌス毒素を約1U/kg〜約20U/kgの量で投与する。
【0120】
ボツリヌス毒素の他の血清型を含有する組成物は、異なる投薬量のボツリヌス毒素を含有しうる。例えばB型ボツリヌス毒素は、組成物中に、A型ボツリヌス毒素を含有する組成物よりも高い用量で用意されうる。本発明の一実施形態では、B型ボツリヌス毒素は、約1U/kg〜150U/kgの量で投与されうる。B型ボツリヌス毒素は20,000U(上述のマウス単位)までの量で投与することもできる。本発明のもう一つの実施形態では、E型またはF型ボツリヌス毒素を、約0.1U/kg〜150U/kgの濃度で投与することができる。また、2タイプ以上のボツリヌス毒素を含有する組成物では、各タイプのボツリヌス毒素を、単一のボツリヌス毒素血清型に典型的に使用される用量よりも比較的少ない用量で提供することができる。その場合、ボツリヌス毒素血清型の組合わせは、神経毒の拡散の増加を伴わずに、適切な程度および持続時間の麻痺をもたらしうる(例えば米国特許第6,087,327号参照)。
【0121】
Botox(登録商標)(真空乾燥粉末医薬組成物)の製造で使用される調合工程は、約150単位のバルクボツリヌス毒素を調合工程に投入することから始まる。最終製品(復元可能な状態にあるもの)は約100単位のボツリヌス毒素(ならびに調合工程中に添加された賦形剤として規定量のアルブミンおよび塩化ナトリウム)しか含まない。したがって約50単位のボツリヌス毒素(調合工程に投入したボツリヌス毒素量の約3分の1)は、調合中に、例えばボツリヌス毒素の変性、吸収および不活化(加工表面に対する)などによって失われる。したがって、調合工程を約50%の過剰供給から出発する必要(すなわち約100単位のボツリヌス毒素を含む製品を得るために約150単位のボツリヌス毒素から出発する必要)があった。
【0122】
100単位のボツリヌス毒素は、典型的には、約3.6ng〜約5ngのボツリヌス毒素を含む。本発明者は、調合工程で使用するアルブミン賦形剤および塩化ナトリウム賦形剤の比を変化させることにより、(1)50%という過剰供給率を排除することができ、(2)ナノグラム数に基づいて比較すると、より強力なボツリヌス毒素を得ることができるということを発見した。調合工程における50%という過剰供給率を排除することにより、約100単位のボツリヌス毒素を調合工程に投入して、なおかつ調合工程の完了時に約100単位のボツリヌス毒素を含む製品を得ることが可能である。また、100単位のボツリヌス毒素製品を得るために以前なら3.6〜5ngのボツリヌス毒素が必要だったのに対して、ボツリヌス毒素を約2.4ngしか含まない100ボツリヌス毒素単位製品を得ることもできる。したがって、以前なら1ngあたり約20単位(100単位を5ngで割った値)しかなかったボツリヌス毒素の力価を、現在は、1ngあたり約42単位(100単位を2.4ngで割った値)もの値にまで増加させることができ、これは約110%という力価の増加に相当する。
【0123】
一つ以上の適応症を処置するためにヒトに使用することが規制当局によって承認された市販のボツリヌス毒素医薬組成物としては、BOTOX(登録商標)(Allergan, Inc, カリフォルニア州アーバイン)、Dysport(登録商標)(Ipsen Pharmaceuticals, フランス・パリ)およびMyoBloc(商標)(Solstice Neurosciences、カリフォルニア州サンディエゴ)を挙げられる。
【0124】
実施例
以下の限定でない実施例は、好ましい製剤および方法の具体例を当業者に提示するものであって、本発明の範囲を限定しようとするものではない。
【0125】
以下の実施例では、製造したボツリヌス毒素製剤の回収力価を、周知のマウス致死量50アッセイ(「MLD50」)を使用して決定した。MLD50は、アッセイの開始時に体重各17〜22グラムの雌マウス(約4週齢)にボツリヌス毒素を腹腔内投与することによって、ボツリヌス毒素の力価を測定する方法である。各マウスを仰臥位に保持して、その頭部を下向きに傾け、25〜27ゲージ3/8"〜5/8"針を使用して、ボツリヌス毒素を食塩水に連続希釈したいくつかの液の一つを、右下腹部に約30度の角度で腹腔内注射する。それに続く72時間中の死亡率を、各希釈液について記録する。希釈液は、最も濃い希釈液が注射したマウスの少なくとも80%という死亡率をもたらし、かつ最低濃度の希釈液が注射したマウスの20%以下という死亡率をもたらすように調製される。死亡率の単調減少範囲に含まれる希釈液が最低四つはなければならない。単調減少範囲は80%以上の死亡率から開始する。単調に減少するそれら四つ以上の死亡率のうち、最も大きい二つの死亡率および最も小さい二つの死亡率は低くなっていなければならない(すなわち等価であってはならない)。注射後3日以内にマウスの50%が死亡する希釈を、1単位(1U)のボツリヌス毒素を含む希釈と定義する。
【0126】
以下の表において「規格化された」とは、Botox(登録商標)の100単位バイアルに使用される量に対して規格化されていることを意味する。
【実施例1】
【0127】
さまざま塩化ナトリウム対アルブミン比を持つ高力価ボツリヌス毒素製剤(研究方法)
各製剤中に同じ量のA型ボツリヌス毒素複合体を含むが、各製剤中に存在するHSAおよびNaClの量が異なっている数多くのボツリヌス毒素研究用バイアル製剤の回収力価を評価するために実験を行った。したがって、バイアル1本あたりに2.5ngのボツリヌス毒素を一貫して使用しつつ、各製剤バイアルは0N(0μg)〜10N(5000μg)のHSA、および0N(0μg)〜10N(9000μg)のNaClを含有した。
【0128】
表1のデータを研究用ロット製造手法を使用して得た。したがって、表1のデータを得るのに、実験用または研究用ボツリヌス毒素医薬組成物バイアルを製造するために、指定した七つの異なる塩化ナトリウム(NaCl)量(1バイアルあたり90μgの0.1N量〜1バイアルあたり9000μgの10N量)の一つを、指定した三つの異なるヒト血清アルブミン(HSA)(Bayer)量(1バイアルあたり250μgの0.5N量〜1バイアルあたり500μgの1N量)の一つ、ならびに滅菌水および同じ量(2.5ng/バイアル)のA型ボツリヌス毒素複合体とを混合した。次にこれらのバイアルを凍結乾燥機に入れ、真空乾燥し、封鎖した。次に、それらのバイアルを生理食塩水で復元し、改良型のマウス力価LD50アッセイを使用して、回収力価について試験した。
【0129】
有意義なことに、表1に示されるように、Botox(登録商標)相当の研究用製剤(すなわち500μgのHSA、900μgのNaClおよび2.5ngのA型ボツリヌス毒素複合体を含有し、57単位の回収力価を持っていた研究用バイアル製剤)と比較して、高い力価(1バイアルあたり61〜89単位のボツリヌス毒素活性、すなわちBotox(登録商標)相当の研究用製剤の力価より107%〜156%高い)が、0.6より高いHSA:NaCl比を持つ六つの製剤のそれぞれについて得られた(0.6より高い表1中のHSA:NaCl比は0.7〜5.6の比だった)。
【0130】
したがって表1のデータは、製剤のHSA:NaCl比を増加させることにより、高力価ボツリヌス毒素製剤を得ることができることを示している。
【表1】

【0131】
この実施例1で説明した手法に従って製造した復元された研究用製剤の力価を示すさらにもう一つの例を、以下の表2および図2に示す。表2は、一定1N(500μg)量のHSA、2.5ngのボツリヌス毒素、および0Nから10N(9000μg)まで変化する量のNaClを含有する製剤が、HSA:NaCl比を0.6未満に低下させた場合には、あまり変動のない力価を持っていたが、HSA:NaCl比を0.6から約5.6まで増加させると、製剤の力価が約57単位から約90単位まで増加したことを示している。
【0132】
【表2】

図2は表2のデータをグラフに表したものである。
【0133】
図3は、この実施例1によって得たデータを3軸に表した複合図である。図3は、HSA:NaCl比を((a)製剤中のHSA量を[0〜10Nの間のある量に]一定に保ち、かつ製剤中のNaCl量を[10Nから0まで]減少させることによって、または(b)NaClの量を一定に保ち、かつ製剤中のHSA量を増加させることによって)約0.6より高く増加させるにつれて、全般に、製剤の回収力価が増加することを示している。図3のデータを得るために使用した全製剤中のボツリヌス毒素量は、1バイアルあたり2.5ngで一定だった。
【実施例2】
【0134】
特定の塩化ナトリウム対アルブミン比を持つ高力価ボツリヌス毒素製剤(商業的方法)
A型ボツリヌス毒素複合体、塩化ナトリウムおよびヒト血清アルブミンを使用してボツリヌス医薬組成物を製造(調合)する実験をさらにもう一つ行った。HSAに対して塩化ナトリウムを異なる比で含有するボツリヌス毒素医薬組成物を商業生産ロット手法を使用して調合した。次に、組成物を凍結乾燥および真空乾燥することによって固形粉末状態にしてから、食塩水で復元し、マウスLD50回収力価評価を行った。
【0135】
得られた結果を表3に記載する。表3のデータは以下のようにして得た。BOTOX(登録商標)データ(表3の最後の行)の場合、Botox(登録商標)の100単位バイアルを生理食塩水で復元した後、マウスLD50アッセイを使用して力価を測定した。1N HSA、2N HSA、5N HSAおよび10N HSAは、以下の変更点以外は、Botox(登録商標)の製造に使用される方法と同じ方法で、同じ賦形剤を使用して調合され、同じ方法で復元され、同じマウスLD50アッセイを使用して力価が評価された製剤を表す。
【0136】
(1)これら四つのA型ボツリヌス毒素複合体を生産するための調合工程には、Botox(登録商標)の生産に使用されるHSA量と比較して、1倍(1N)、2倍(2N)、5倍(5N)または10倍(10N)量のHSAを使用した。したがって表3に示すように、1N(1Nは、Botox(登録商標)の100単位バイアル中に存在する賦形剤と同じ量を含有するように規格化されていることを意味する)製剤は、500μgのHSAを含有するように調合され、10N製剤は5000μgのHSAを含有するように調合された。
【0137】
(2)四つの1N HSA、2N HSA、5N HSAおよび10N HSA製剤のそれぞれに使用したA型ボツリヌス毒素複合体の量は2.4ngである。
(3)四つのA型ボツリヌス毒素複合体製剤のそれぞれを生産するための調合工程に使用する塩化ナトリウムの量は、製剤中のHSA対NaClが28という一定の重量対重量比になるように変化させた。したがって、これら四つの製剤のそれぞれにおいて、HSA:NaCl比は、Botox(登録商標)の場合の47倍(28対0.6)である。
【0138】
有意義なことに、表3は、28というHSA:NaCl比を持つ四つのボツリヌス毒素製剤のそれぞれについて、高い力価(1バイアルあたり95〜103単位のボツリヌス毒素活性)が得られたこと、およびこの高い力価が(Botox(登録商標)のバイアル1本につき約3.6ng〜約5ngのボツリヌス毒素が使用されることと比較して)約33%〜約52%少ないボツリヌス毒素を使用して得られたことを示している。
【0139】
さらにまた、表3が示すように、存在するHSAおよび塩化ナトリウムの絶対量が広範囲にわたっても、28というHSA対塩化ナトリウムの重量対重量比により、調合され復元されたボツリヌス毒素1ngあたり約40単位という力価を得ることが、一貫して可能になった。
【0140】
【表3】

【0141】
このように、製剤の組成比を変化させることにより、既存の製造工程および賦形剤を使用したまま、生産(調合)工程における50%過剰供給を排除できることが、この実験によって示された。
【0142】
本明細書に開示する本発明の医薬組成物は、現在入手することができる医薬組成物で達成されるものに匹敵するか、それよりも優れた、高い安定性および毒素力価の高い回収率を持つことができるなど、多くの利点を持っている。
【0143】
本明細書では、さまざまな刊行物および/または参考文献に言及したが、それらの内容は、そのまま参照により本明細書に組み入れられる。
【0144】
本発明を一定の好ましい方法に関して詳細に説明したが、本発明の範囲に含まれる他の実施形態、異形、および変形も考えられる。例えば、多種多様な安定化多糖、タンパク質およびアミノ酸が、本発明の範囲に包含される。
したがって、本願特許請求の範囲の精神および範囲は、上述の好ましい実施形態の説明に限定されるべきでない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ボツリヌス毒素、
(b)アルブミンである第1賦形剤、および
(c)第2賦形剤
を含み、
(d)医薬組成物中に存在する第2賦形剤に対する第1賦形剤の重量対重量比が0.6より大きく約100未満である、
医薬組成物。
【請求項2】
医薬組成物中のボツリヌス毒素の力価が、比較医薬組成物中のボツリヌス毒素の力価よりも約5%〜約200%高く、比較医薬組成物は、請求項1の医薬組成物に含有されるものと(a)同じ量および同じタイプのボツリヌス毒素、ならびに(b)同じ第1賦形剤および同じ第2賦形剤を含有し、かつ(c)比較医薬組成物には第1賦形剤および第2賦形剤が0.6以下の重量対重量比で存在する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
医薬組成物中のボツリヌス毒素の力価が、比較医薬組成物中のボツリヌス毒素の力価よりも約10%〜約100%高い、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
ボツリヌス毒素がボツリヌス毒素複合体として存在する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
ボツリヌス毒素が純粋なボツリヌス毒素として存在する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
第1賦形剤が血清アルブミンである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
第1賦形剤が組換えアルブミンである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
第2賦形剤が塩化ナトリウムである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
医薬組成物中に存在する第2賦形剤に対する第1賦形剤の重量対重量比が約1〜約50である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
(a)医薬組成物中に存在するボツリヌス毒素の各単位につき約2.0×10-11グラム〜約3.5×10-11グラムのA型ボツリヌス毒素(ボツリヌス毒素の単位はマウスLD50力価アッセイによって決定される);
(b)アルブミン、および
(c)塩化ナトリウム
を含み、
(d)医薬組成物中に存在する塩化ナトリウムに対するアルブミンの重量対重量比が0.6より大きく約100未満である、
医薬組成物。
【請求項11】
医薬組成物中のボツリヌス毒素の力価が、比較医薬組成物中のボツリヌス毒素の力価よりも約5%〜約200%高く、比較医薬組成物は、請求項10の医薬組成物と(a)同じ量および同じタイプのボツリヌス毒素、ならびに(b)同じアルブミンおよび塩化ナトリウムを含有し、かつ(c)比較医薬組成物には、そのアルブミンおよび塩化ナトリウムが、0.6以下の重量対重量比で存在する、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
医薬組成物中のボツリヌス毒素の力価が、比較医薬組成物中のボツリヌス毒素の力価よりも約10%〜約100%高い、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
ボツリヌス毒素がボツリヌス毒素複合体として存在する、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項14】
ボツリヌス毒素が純粋なボツリヌス毒素として存在する、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項15】
アルブミンが血清アルブミンである、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項16】
アルブミンが組換えアルブミンである、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項17】
医薬組成物中に存在する塩化ナトリウムに対するアルブミンの重量対重量比が約1〜約50である、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項18】
医薬組成物を製造するための方法であって、
(a)約2.5ngのA型ボツリヌス毒素複合体を、アルブミンおよび塩化ナトリウムと、医薬組成物中の塩化ナトリウムに対するアルブミンの重量対重量比が0.6より大きく約100未満になるように混和して混合物を形成させるステップ、および
(b)その混合物を真空乾燥し、その結果として、復元後に約70単位〜約130単位の力価を持つ医薬組成物を得るステップ
を含む方法。
【請求項19】
真空乾燥ステップの前に混合物を凍結乾燥するステップをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法によって製造される医薬組成物。
【請求項21】
(a)ボツリヌス毒素、
(b)塩化ナトリウム、および
(b)安定剤
を含み、医薬組成物中に存在するボツリヌス毒素の力価が、ボツリヌス毒素各1ナノグラムにつき約40単位である、ヒトへの投与に適した医薬組成物。
【請求項22】
医薬組成物中に存在する塩化ナトリウムに対するアルブミンの重量対重量比が0.6より大きく約100未満である、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
ボツリヌス毒素がボツリヌス毒素複合体として存在する、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項24】
ボツリヌス毒素が純粋なボツリヌス毒素として存在する、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項25】
安定剤がタンパク質である、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項26】
安定剤が組換え安定剤である、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項27】
組換え安定剤が、組換えアルブミン、組換えコラーゲンおよび組換えゼラチンからなる群より選択される、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項28】
安定剤がアルブミンである、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項29】
安定剤が組換えアルブミンである、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項30】
ボツリヌス毒素がA、B、C、D、E、およびF型ボツリヌス毒素からなる群より選択される、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項31】
(a)ボツリヌス毒素、
(b)塩化ナトリウム、および
(b)アルブミン
を含み、医薬組成物中に存在するボツリヌス毒素の力価が約24単位/ng〜約60単位/ngである、ヒトへの投与に適した医薬組成物。
【請求項32】
塩化ナトリウムに対するアルブミンの重量対重量比が0.6より大きく約100未満である、請求項31に記載の医薬組成物。
【請求項33】
アルブミンが血清アルブミンである、請求項31に記載の医薬組成物。
【請求項34】
アルブミンが組換えアルブミンである、請求項31に記載の医薬組成物。
【請求項35】
(a)ボツリヌス毒素、
(b)塩化ナトリウム、および
(b)アルブミン
を含み、医薬組成物中に存在する塩化ナトリウムに対するアルブミンの重量対重量比が約1〜約40であり、医薬組成物中に存在するボツリヌス毒素の力価が約24単位/ng〜約60単位/ngである、ヒトへの投与に適した医薬組成物。
【請求項36】
約30〜40単位/ngの力価を持つ、ヒトへの投与に適したボツリヌス毒素医薬組成物を製造するための方法であって、
(a)約30〜40単位/ngの力価を持つA型ボツリヌス毒素複合体を、重量対重量比が約1〜約40であるアルブミンおよび塩化ナトリウムに加えて混合物を形成させるステップ、
(b)その混合物を真空乾燥または凍結乾燥するステップ、および
(c)その混合物を生理食塩水で復元し、その結果として、約30〜40単位/ngの力価を持つボツリヌス毒素医薬組成物を得るステップ
を含む方法。
【請求項37】
約40単位/ngの力価を持つボツリヌス毒素医薬組成物を哺乳動物に投与するステップを含む、治療的または美容的状態を処置するための方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−6861(P2013−6861A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−195164(P2012−195164)
【出願日】平成24年9月5日(2012.9.5)
【分割の表示】特願2008−525009(P2008−525009)の分割
【原出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】