説明

改良されたポリアミド糸紡糸方法および変性された糸

ポリアミドフィラメントを紡糸して糸を提供するための方法であって、ポリアミドポリマーを溶融押出機に供給する工程と、ポリアミドポリマーを分岐させることが可能なトリアミノ化合物を供給する工程と、前記トリアミノ化合物および前記ポリアミドポリマーのための十分な接触時間を与えるように選択される投入時点において前記トリアミノ化合物を前記溶融押出機に充填して溶融ポリマーを形成する工程と、前記ポリアミドポリマーを溶融する工程と、溶融ポリマーを押出して分枝状ポリアミドポリマーフィラメントを形成する工程とを含む方法が開示される。変性されたナイロン66ポリマーから形成されるポリアミド糸は、40〜55のギ酸相対粘度(RV)、60%〜100%の破断点伸びを有し、トリアミノ化合物含量が0.01〜0.10重量パーセントであり、約2.0未満の延伸比をさらに含む方法によって提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融押出による合成ポリアミドポリマー糸生成の改良、およびこの方法によって提供される変性された糸に関する。より詳細には、この改良された方法は、溶融押出機内でポリマーを変性する工程と、変性されたポリマー溶融物をフィラメント形成段階および関連した処理工程へと送ってから糸のパッケージとして巻き取る工程とを含む。本発明にしたがって生成される糸は、処理関連延伸段階において、任意選択的に延伸されて、部分延伸糸(POY)または延伸配向糸のいずれかが形成される。
【背景技術】
【0002】
米国特許公報(特許文献1)(ナニング(Nunning)ら)(ソルティア社(SOLUTIA INC.)に譲渡された)には、高速紡糸の際に糸の性質を改変するためのポリマー鎖分岐剤として、三官能性アミンであるトリアミノノナン(TAN)すなわち4−アミノメチル−1,8オクタンジアミンが開示されている。一般に、米国特許公報(特許文献1)に記載の利点を得るために、約0.01〜1重量パーセントのTANが、50〜80の相対粘度(ギ酸中で測定した際の)を有するN66(ポリヘキサメチレンアジパミド)ポリマーとともに用いられる。TAN変性N66ポリマーベースの糸の利点は、部分延伸糸(POY)について最も容易に得られる。したがって、米国特許公報(特許文献1)には、POYを作製するのに使用するための、および延伸仮撚加工のためにPOYに最も有利に適用されるTAN変性ポリマーが教示されている。摩擦仮撚加工(FFT)とも呼ばれる延伸仮撚加工において、TAN変性ポリマー糸は、米国特許公報(特許文献1)の教示にしたがって、より高速で延伸および仮撚加工することができた。POYは、FFT用の供給糸と呼ばれることが多い。少量のTANの添加により、糸のスピン配向が効果的に低減され、糸がより好適な供給糸にされたことが仮定された。スピン配向とは、紡糸速度が上がる際に糸にかかる空力抵抗力による見掛けの糸の伸びを指す。したがって、TANの効果は、紡糸速度を上昇させつつ、なお供給糸のFFTを行うのに十分な糸の伸びを保持することであった。
【0003】
従来の研究では、オートクレーブ内での重合の際にTANをポリマーに添加した。次の処理工程において、オートクレーブ内で生成したTAN変性ポリマーをポリマーフレークにした。次に、チップまたは粒状ポリマーとしても知られているフレークポリマーを、ポリマー再溶融操作に用いて、溶融押出機を介してフィラメント糸紡糸プロセスに送った。より一般的に実施される紡糸プロセスの紡糸速度(>4800メートル/分)では、糸の著しいスピン配向が起こる。しかし、TAN変性N66ポリマー糸は、靭性によって測定される際に強度の低下も示した。この強度の低下は、完全延伸糸においては、より高い延伸比を用いることによって克服可能であったが、仮撚加工プロセスの張力要求のために仮撚加工に用いられる部分延伸糸においては克服するのが困難であった。
【0004】
特にPOYの糸の強度の低下は、ポリマーの一部の好ましくない架橋のためであり、この架橋ポリマーはオートクレーブ添加プロセスに関連していることが仮定される。この先行技術のプロセスでは、TANを短期間にわたってオートクレーブに投入して、局所的に高濃度の分枝状ポリマーを作製し、その際、架橋前駆体を高分子量ポリマーまたは軟質ゲルに形成するまで反応を続けた。この影響を示すものとして、清浄化の間の短いオートクレーブ寿命(通常のポリマーの1/3〜1/2)、ポリマーで観察されるゲル粒子、およびオートクレーブ寿命の終わりにおける、生成されたポリマーで観察されるより劣った紡糸性能がある。
【0005】
【特許文献1】米国特許第4,721,650号明細書
【特許文献2】米国特許第5,750,215号明細書
【特許文献3】米国特許第3,772,872号明細書
【非特許文献1】F.フォーネ(F.Fourne)による研究論文、「合成繊維、機械および機器、製造および特性(Synthetic Fibers,Machines and Equipment,Manufacture and Properties)」、ハンサー・パブリッシャーズ(Hanser Publishers)、ミュンヘン(Munich)、1998年(特に第4章を参照)
【非特許文献2】P.F.ディスモア(P.F.Dismore)およびW.O.スタットン(W.O.Statton)、「ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス(J.Polym.Sci.)」、パートC、第13号、133〜148頁、1966年
【非特許文献3】バン(Bunn)およびガーナー(Garner)、「プロシーディング・オブ・ザ・ロイヤル・ソサエティー(Proc.Royal Soc.)」、ロンドン(London)、A189、39、1947年
【非特許文献4】ホーバル(Heuval)ら、「ジャーナル・オブ・アプライド・ポリマー・サイエンス(J.Appl.Poly.Sci.)」、22、2229〜2243頁(1978年)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、紡糸工程の前に変性された、ポリアミドポリマーから合成ポリアミドマルチフィラメント糸を紡糸するための改良された方法を提供し、本方法は、溶融押出機にポリアミドポリマーチップを供給する工程と、チップを溶融して、溶融されたポリマーを所定の期間にわたって押出ダイに送る工程と、少なくとも単一のフィラメントを形成する工程と、フィラメントを通風により急冷する工程と、急冷されたフィラメントを、供給ロールアセンブリを用いて延伸領域に送る工程(ここで、フィラメントを任意選択的に延伸することによってその長さを延伸比によって決まる量だけ延ばし、延伸比は独立して選択され、供給ロールアセンブリの表面速度に対する、延伸ロールアセンブリの表面速度によって生成される商に等しい)と、任意選択的に延伸されたフィラメントを巻取アセンブリに送り、フィラメントを管状の芯材(tube core)に巻き取る工程とを含む。本明細書において、この方法に対する改良は、押出機への入口において、ポリマーを溶融する前に、ポリマーと反応する(例えばポリマーを分岐させる)ことが可能なトリアミノ化合物を、このトリアミノ化合物およびポリマーが溶融状態にある期間が12分未満または約12分未満であるように接触させる工程を含み得る。
【0007】
本発明の一実施形態によれば、溶融押出機にポリアミドポリマーチップを供給する工程と、ポリマーチップを溶融して、溶融されたポリマーを所定の期間にわたって押出ダイに送る工程と、フィラメントを形成する工程と、フィラメントを急冷する工程と、延伸比に応じてフィラメントを任意選択的に延伸する工程と、フィラメントを巻き取る工程とを含むポリアミドマルチフィラメント糸を紡糸するための方法が提供され、押出機への入口において、ポリマーを溶融する前に、ポリマーを分岐させることが可能なトリアミノ化合物を、このトリアミノ化合物およびポリマーが溶融される期間が約12分未満であるように供給する工程を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の方法の一実施形態によれば、トリアミノ化合物は、TAN(トリアミノノナン、また、4−アミノメチル−1,8−オクタンジアミンとしても知られている)およびTREN(トリス−(2−アミノエチル)アミン)からなる群から選択される。
【0009】
本発明の方法の一実施形態によれば、延伸比は約1〜約2である。
【0010】
本発明の一実施形態によれば、約40〜約55のギ酸相対粘度(RV)および約60%〜約100%の破断点伸びを有し、約0.01〜0.10重量パーセントのTAN含量を有するナイロン66ポリマーを含む合成ポリアミド糸が提供され、この糸は、溶融押出機にポリアミドポリマーチップを供給する工程と、押出機への入口において、ポリマーを溶融する前に、TANおよびポリマーが溶融される期間が約12分未満であるようにTANを供給する工程と、溶融されたポリマーを所定の期間にわたって押出ダイに送る工程と、フィラメントを形成する工程と、フィラメントを急冷する工程と、フィラメントを収束させて糸にする工程と、延伸比が約1.0の処理工程に糸を送り、糸を巻き取る工程とを含む方法にしたがって提供される。
【0011】
本発明の一実施形態によれば、約40〜約55のギ酸相対粘度(RV)および約60%未満の破断点伸びを有し、約0.01〜0.10重量パーセントのTAN含量を有するナイロン66ポリマーを含む合成ポリアミド糸が提供され、この糸は、溶融押出機にポリアミドポリマーチップを供給する工程と、押出機への入口において、ポリマーを溶融する前に、TANおよびポリマーが溶融される期間が約12分未満であるようにTAN(トリアミノ化合物)を供給する工程と、溶融されたポリマーを所定の期間にわたって押出ダイに送る工程と、フィラメントを形成する工程と、フィラメントを急冷する工程と、フィラメントを収束させて糸にする工程と、延伸比が約1.1〜約2.0の処理工程に糸を送る工程とを含む方法にしたがって提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、改良された溶融押出方法によって生成される合成ポリアミドポリマー糸を提供する。この改良された方法は、ポリアミドポリマーをスクリュー式押出機で溶融するために供給する工程と、ポリマーを溶融しながらポリマーを押出機内でトリアミノ化合物を用いて変性する工程と、変性されたポリマー溶融物をフィラメント形成段階に送る工程と、フィラメントごとに毛管オリフィス(capillary orifice)を有する紡糸口金プレートに通過させることによって、ポリマー溶融物からフィラメントを形成する工程と、調整空気中でフィラメントを冷却および固化する工程と、フィラメントを収束させて糸にする工程と、一次糸仕上げ油(primary yarn finish oil)を糸に塗布する工程と、糸を関連延伸段階に送る工程と、供給ロールアセンブリの表面速度に対する、延伸ロールアセンブリの表面速度によって生成される商に等しい延伸比に応じて糸を任意選択的に延伸する工程と、マルチフィラメント糸のパッケージとして糸を管状の芯材に巻き取る工程とを含み得る。本発明にしたがって生成されるこのようなマルチフィラメント糸は、部分延伸糸(POY)または完全延伸糸(FDY)のいずれかであり、これらの糸はそのそれぞれの破断点伸びによって特徴付けられ、処理延伸比に応じて決定される。
【0013】
図1Aは、トリアミノ化合物を用いてポリアミドポリマーを変性し、このポリマーからポリアミド糸を溶融紡糸するための、先行技術の処理装置の概略図である。図1Aでは、容器10が、ナイロン66塩、ポリヘキサメチレンジアンモニウムアジペートおよび任意選択的にコポリアミド塩を、オートクレーブ20に供給し、オートクレーブ20で、この塩が加熱および加圧下で重合されてナイロンポリマーが形成される。容器30が、オートクレーブ20に、ナイロン66ポリマーを分岐させることが可能な三官能性アミンであるTAN、すなわちトリアミノノナンを供給する。先行技術の方法によれば、0.075〜0.125モルパーセントに等しい量のTANが添加される。TANによって変性されたポリマーは、図1Aの装置40に運ばれ、ペレット化またはチップ化によりポリマーチップ形態(フレークまたは顆粒とも呼ばれる)にされる。ポリマーチップは、溶融押出機70に供給するために容器50に保管され、溶融押出機70でこのポリマーは溶融され、溶融紡糸ヘッドに送られ、溶融紡糸ヘッドで、溶融物は、定量ポンプ80によって加圧され、90を通してろ過され、紡糸口金プレート95を通して押し出されて、フィラメント100が形成される。フィラメント100は、調整空気105の送風によって冷却され、110において収束されて糸にされると同時に仕上げ油を塗布される。収束された糸115は、供給ロールアセンブリ120によって装置130を通して送られ、糸が延伸ロールアセンブリ140を通過する前に装置130において高温流体(例えば蒸気)が適用され得る。供給ロールアセンブリ120および延伸ロールアセンブリ140は、供給ロールアセンブリと延伸ロールアセンブリとの間の周辺速度の差によって糸が延伸され得る延伸段階を含む。そのそれぞれの速度の比率(延伸ロール/供給ロール)が延伸比である。糸は、延伸ロールアセンブリから、加熱された流体、例えば蒸気を含有し得る処理領域150を通して送られ、次いで糸のパッケージ190として管状の芯材180の周りに巻き取られる。良好なパッケージ形成を実現するために、延伸ロール140と糸パッケージ巻取機との間の中間ロールを用いて、巻取の際の糸の張力を調整することができる。巻取の前の任意選択的な糸の交絡が、糸の良好な結合を保ち、糸に節構造を与えるために実施される。前述の説明に記載のポリマー生成および紡糸についての一般的な開示は、非特許文献1に示されている。
【0014】
図1Bは、トリアミノ化合物を用いてポリアミドポリマーを変性し、このポリマーからポリアミド糸を溶融紡糸するための、本発明の処理装置の概略図である。図1Bでは、ポリマーチップは、溶融押出機70に供給するために容器50に保管される。ポリマーチップは、TANが添加される前に約45のギ酸RVを有する。容器60が、溶融押出機70に供給するための、ナイロン66を架橋することが可能な三官能性アミンであるTAN、すなわちトリアミノノナンを供給する。ポリマーチップと混合する(ただしポリマーを溶融する前)ために押出機への入口においてTANが供給される。供給されるTANの量は、約0.05〜約0.1重量パーセントである。押出機溶融プロセスでは、トリアミノ化合物およびポリマーが溶融される期間は約10分未満である。その後、このポリマーは溶融され、溶融紡糸ヘッドに送られ、溶融紡糸ヘッドで、溶融物は、定量ポンプ80によって加圧され、90を通してろ過され、紡糸口金プレート95を通して押し出されて、フィラメント100が形成される。フィラメント100は、調整空気105の送風によって冷却され、110において収束されて糸にされると同時に仕上げ油を塗布される。収束された糸115は、供給ロールアセンブリ120によって装置130を通して送られ、糸が延伸ロールアセンブリ140を通過する前に装置130において高温流体(例えば蒸気)が適用され得る。供給ロールアセンブリは通常、約4300〜約5900メートル/分の周辺速度を有する。供給ロールアセンブリ120および延伸ロールアセンブリ140は、供給ロールアセンブリと延伸ロールアセンブリとの間の周辺速度の差によって糸が延伸され得る延伸段階を含む。そのそれぞれの速度の比率(延伸ロール/供給ロール)が延伸比である。POYを作製するために、延伸比は約1.0である。糸は、延伸ロールアセンブリから、加熱された流体、例えば蒸気を含有し得る処理領域150を通して送られ、次いで糸のパッケージ190として管状の芯材180の周りに巻き取られる。良好なパッケージ形成を実現するために、延伸ロール140と糸パッケージ巻取機との間の中間ロールを用いて、巻取の際の糸の張力を調整することができる。巻取の前の任意選択的な糸の交絡が、糸の良好な結合を保ち、糸に節構造を与えるために実施される。
【0015】
本発明による部分延伸糸(POY)は、約70パーセント〜約95パーセントの破断点伸びによって特徴付けられるものを含み得る。POYの破断点伸びはプロセスの供給ロール速度によって決定される。4400メートル/分の供給ロール速度においては、93%のPOYの伸びが得られる一方、5900メートル/分の供給ロール速度においては、70%のPOYの伸びが得られる。この関係は、ほぼ線形であり、所定の範囲の伸びを許容する。
【0016】
TANの使用によってPOYの生産性に良い影響が与えられることが観察される。例えば、TANを用いない所与の供給ロール速度におけるPOYの伸びは、有効量のTANを用いた処理供給ロール速度に関連付けられ得る。TANが0.09重量パーセントである場合、5000メートル/分の供給ロール速度において85%のPOYの伸びが得られる。TANを用いない場合には、3500メートル/分の供給ロール速度において、同等の85%のPOYの伸びが得られる。生産性を高めるために、TANを用いない処理供給ロール速度を上げると、POYの伸びを低下させ、糸を延伸仮撚加工に適さないものにすることになる。
【0017】
本発明の糸は、破断点伸びと靭性(グラム/デニール)との積の平方根として定義される「品質指数」の改善を示す。品質は、応力・ひずみ曲線の下の面積に近似する。TAN濃度へのこの依存度が、図2において2つの方法について描かれている。
【0018】
延伸糸(完全延伸糸またはFDYとも呼ばれる)を調製するための方法は、米国特許公報(特許文献2)(スティール(Steele)ら)に開示されており、その開示内容は参照により本明細書に援用される。スティールらの米国特許公報(特許文献2)には、長い破断点伸び、例えば22〜60パーセントの高度に配向されたN66糸を作製するための高い紡糸速度の方法が教示されている。しかし、スティールらの方法にしたがって調製される糸の破断点伸びの増大は、米国特許公報(特許文献2)の図5の糸の速度対供給ロール速度の比率に等しい「滑り率」を変更することによって行われ得る。このような変更は、糸の延伸比の変更と同じくらい有効である。結果として、60%未満〜約100%の伸びを有するより伸びの大きな部分延伸糸が対応して調製され得る。溶融押出機添加によってポリマーに供給されたTANを含む、本発明の全般的な教示による延伸糸またはFDYは、スティールらの米国特許公報(特許文献2)に開示された方法および装置を用いて調製され得る。
【0019】
当該技術分野で公知であるように、ナイロン66ベースのポリアミドは、ポリマー鎖末端アミノ基および末端カルボキシル基を有する。トリアミノ化合物、例えばTANおよびTRENは、ポリアミドポリマー鎖の末端カルボキシル基の1個または多くとも3個と化学的に反応することができる。このような反応の結果として、ポリマーは分枝状になる。本明細書において、分岐の意味は、トリアミノ化合物が分枝状ポリアミドポリマーを生成する能力である。しかし、分岐のこの定義は、決して限定的な定義であることを意図していない。さらに、分岐のこの定義は、分枝状ポリマーが生成されるための基礎となる化学機構の限定的または詳細な説明では決してない。
【0020】
(試験方法)
ポリアミドの相対粘度(RV)は、10重量%の水を含有するギ酸の溶媒中の8.4重量%のポリアミドポリマーの溶液における25℃で測定される溶液および溶媒の粘度の比率を示す。
【0021】
(試験方法)
糸の靭性および破断伸びが、ASTM D2256に準拠して、10インチ(25.4cm)のゲージ長のサンプルを用いて、相対湿度65%および70°Fで、1分当たり60%の伸び率で測定される。破断点伸びは、ASTM D955に準拠して測定される。
【0022】
(試験方法)
「品質指数」が、破断点伸び量(パーセント)に靭性を乗じた数の平方根であるものと定義される。
「品質指数」=[%伸び×靭性(グラム/デニール)]1/2
【0023】
(試験方法)
ボイルオフ収縮(BOS)が、米国特許公報(特許文献3)の第3欄49行〜第3欄66行の方法にしたがって測定される。
【0024】
(X線散乱)
(試験方法)
X線散乱測定を、ニューヨーク(New York)のブルックヘブン国立研究所(Brookhaven National Laboratory)における国立シンクロトロン光源施設(National Synchrotron Light Source)(NSLS)を通して得られたデータについて行った。
【0025】
(試験方法)
NSLSは、米国エネルギー省基礎エネルギー科学部(U.S.Department of Energy’s Office of Basic Energy Science)による資金援助を受けた国立のユーザ研究施設である。NSLSにおける2つの電子貯蔵リングが、ポリマーに重点を置いた化学/材料研究のための強力X線源を提供する。
【0026】
(試験方法)
本明細書においては、小角X線散乱(SAXS)および広角X線散乱(WAXS)を組み合わせた技術を用いて、糸のX線パターンを収集した。二次元解析技術により、非晶質領域のスペーシング(spacing)、長期スペーシング(long period spacing)、配向角、および結晶完全指数(crystalline perfection index)(CPI)が得られた。
【0027】
(試験方法)
SAXSおよびWAXSデータを得るための等価な方法は以下の通りである。これらの組成の繊維の回折パターンが、約20°〜21°および23°2θの散乱角で発生するピークを有する2つの顕著な赤道X線反射(equatorial X−ray reflection)によって特徴付けられる。X線パターンを、キセントロニクス領域検出器(Xentronics area detector)(モデル(Model)X200B、直径10cm、解像度512×512)で記録した。X線源は、銅放射線源(CU K−α、波長1.5418オングストローム)を有し、40kVおよび35mAで操作されるシーメンス/ニコレット(Siemens/Nicolet)(3.0kW)発生器であった。0.5mmのコリメータを、サンプルとともに、カメラから10cm離して使用した。解像度を最大にするために、20°(2θ)の角度で検出器を中央に設置した。最適な信号レベルを得るために、データ収集のための露光時間を10〜20分で変化させた。
【0028】
(試験方法)
領域検出器におけるデータ収集を、検出器上の個々の位置からの検出の相対的効率を補正するFe55放射線源を用いた初期キャリブレーションから開始する。次いで、最終X線パターンからX線ビームの空気散乱を決定し、取り除くためにブランクサンプルホルダを用いてバックグラウンド走査を得る。また、検出器の面に取り付けられた正方格子上に等間隔の孔を含む基準板(fiducial plate)を用いることによって、検出器の湾曲についてデータを補正する。サンプル繊維の取付けは、厚さ0.5〜1.0mmおよび長さ約10mmで垂直方向であり、散乱データは、赤道方向または繊維軸に対して垂直に収集される。コンピュータプログラムが、適切な方向の一次元のセクション構成を有効にすることにより、X線回折データを解析し、データを平滑化し、ピーク位置および半値全幅を測定する。
【0029】
66ナイロン、および66ナイロンと6ナイロンとのコポリマーにおける結晶化度のX線回折測定は、(非特許文献2によって教示されるような)結晶完全指数(CPI)である。21°および23°2θの2つのピークの位置は、ずれていることが観察され、結晶化度が上がるにしたがい、ピークはより一層ずれ、バン−ガーナー(Bunn−Garner)66ナイロン構造に基づく「理想」位置に対応する位置に近づく。このピーク位置のずれは、66ナイロンにおける結晶完全指数の測定の基準となる。
CPI=[d(外側)/d(内側)]−1×1/(0.189)×(100)
式中、d(外側)およびd(内側)は、23°および21°それぞれのピークにおけるブラッグ「d」間隔であり、分母の0.189は、非特許文献3によって報告されるような、十分に結晶化した66ナイロンのd(100)/d(010)の値である。2θの値に基づいた等価でより有用な式は以下の通りである。
CPI=[2θ(外側)/2θ(内側)−1]×546.7
【0030】
(X線配向角)
(上記CPIの項で記載したものと)同じ手順を用いて、X線回折パターンを得て、それを解析する。66ナイロンおよび66ナイロンと6ナイロンとのコポリマーの回折パターンは、2θが約20°〜21°および23°で2つの顕著な赤道反射を有する。6ナイロンについては、2θで約20°〜21°の1つの顕著な赤道反射が発生する。約21°の赤道反射は、配向角の測定に用いられる。赤道ピークを介した方位トレース(azimuthal trace)に等価のデータアレイは、イメージデータファイルから生成される。
【0031】
配向角は、赤道ピークの光学密度の半値全幅の角度(最大密度の50パーセントの点に対する角度)における円弧の長さとして取られ、バックグラウンドについて補正される。
【0032】
(長期スペーシング(LPスペース)、および長期強度(LP強度))
LPスペースおよびLP強度は、キセントロニクス領域検出器(モデル(Model)X200B、直径10cm、解像度512×512)で記録された小角X線散乱(SAXS)パターンから得られる。X線源は、銅放射線源(CU K−α、波長1.5418オングストローム)を有し、40kVおよび35mAで操作されるシーメンス/ニコレット(3.0kW)発生器であった。0.3mmのコリメータを、サンプルとともに、カメラから40cm離して使用した。大部分のナイロン繊維について、1°2θの付近で反射が観察される。解像度を最大にするために、0°(2θ)の角度で検出器を中央に設置した。最適な信号レベルを得るために、データ収集のための露光時間を30分〜4時間で変化させた。
【0033】
領域検出器におけるデータ収集を、検出器上の個々の位置からの検出の相対的効率を補正するFe55放射線源を用いた初期キャリブレーションから開始する。次いで、最終X線パターンからX線ビームの空気散乱を決定し、取り除くためにブランクサンプルホルダを用いてバックグラウンド走査を得る。また、検出器の面に取り付けられた正方格子上に等間隔の孔を含む基準板を用いることによって、検出器の湾曲についてデータを補正する。サンプル繊維の取付けは、厚さ0.5〜1.0mmおよび長さ約10mmで垂直方向であり、散乱データは、子午線方向および赤道方向に収集される。走査パターンを、2つの散乱ピークの最大強度を通して、子午線方向および赤道方向に平行に解析した。最大強度、位置および半値全幅を得るために、長期スペーシング分布による2つの対称的なSAXSスポットを、ピアソン(Pearson)VII関数[非特許文献4を参照]と一致させた。
【0034】
長期スペーシング(LPスペース)を、このようにして導かれたピーク位置を用いてブラッグの法則(Bragg Law)から計算する。小角について、これは、1.5418/(sin(2θ))に減少する。SAXS長期強度(LP強度)を、1時間の収集時間に標準化され、サンプルの厚さ(Mult.Factor)および露光時間について補正された4つの散乱ピークの平均強度で、算出した。長期強度(LP強度)は、フィラメントを構成するポリマーの非晶質領域と結晶領域との間の電子密度の差の尺度である。すなわち、以下の通りである。
LP強度=[平均強度×Mult.Factor×60]/[収集時間(分)]
【実施例】
【0035】
この実施例は、100デニールの68フィラメントナイロン66部分延伸糸(POY)を作製するための本発明の方法を示している。図1Bによって示されるような紡糸機を用いる方法を用いた。これらの実施例および比較例全体にわたって用いられる全てのナイロン66ポリマーフレークは、2.5重量%のコポリアミドであった。このコポリアミド含量を、2−メチルペンタメチレンアジパミド塩をヘキサメチレンアジパミド塩に添加することによって得た。このポリマーは、TANトリアミノ化合物を添加する前に48の糸RVを備えていた。TANを、ポリマーフレークとともに、0.09重量パーセントとなる量で押出機に添加した。288℃で押出機において溶融しながらのフレークおよびTANの滞留時間は、10分未満であった。供給ロールアセンブリと延伸ロールアセンブリとの間に速度差を付けずに68フィラメント糸を延伸段階に通して送った。糸は、5000メートル/分の供給ロールアセンブリ速度と同じ速度を得た。この糸の破断点伸びは85%であった。
【0036】
100デニールの68フィラメント番手糸を用いた別の試験では、供給ロール速度を5900メートル/分に上げた。生成された糸は、70%の伸びを有していた。
【0037】
この比較例は、100デニールの68フィラメントナイロン66部分延伸糸(POY)を作製するための従来の方法を示している。図1Aによって示されるような紡糸機を用いる方法を用いた。用いられるポリマーフレークは、TANトリアミノ化合物を添加する前に48の糸RVを備えていた。TANの添加は、全ての試験で約2〜3RV単位だけRVを抑えることが観察された。糸の最終RVは、TANを含む場合およびTANを含まない場合に、ポリマーフレークのRVより高いことが観察された。TANをオートクレーブに添加し、ポリマーフレークに0.09重量パーセントに等しい量のTANを与えた。供給ロールアセンブリと延伸ロールアセンブリとの間に速度差を付けずに68フィラメント糸を、延伸段階に通して送った。糸は、3500メートル/分の供給ロールアセンブリ速度と同じ速度を得た。この糸の破断点伸びは85%であった。
【0038】
100デニールの68フィラメント番手糸を用いた別の試験では、供給ロール速度を5000メートル/分に上げた。生成された糸は、70%の伸びを有していた。
【0039】
上記の結果は、2つの線CおよびDを示す図3を参照して示されている。線Cは、100デニールの68フィラメント糸についての線である。線Dは、100デニールの34フィラメント糸についての線である。各TAN含有糸を、本発明の押出機添加方法によってポリマー中で0.09重量%のTANを用いて調製した。各線CおよびDを構成する点は、所与の供給ロール速度および一定の糸の伸びを示す。縦軸は、糸を構成するポリマー中にTANを含まない場合に同じ伸びの糸が得られるであろう供給ロール速度である。線CおよびDは、ポリマー中にTANを用いることの紡糸生産性における利点を効果的に示している。すなわち、TANを含有する糸をより高い供給ロール速度で生成することにより、TANを含まない糸に対して同等の伸びを有する糸を提供することができる。TAN含有糸の紡糸におけるより高い生産性により、延伸仮撚加工の下流で使用するための糸、例えばPOYにおいて十分な伸びが残っている糸が提供される。
【0040】
表1は、2つのナイロン66糸について比較したX線広角散乱データを示している。コポリアミドポリマーを用いたオートクレーブ添加方法によって、第1の糸(40デニールの13フィラメント)を生成した。コポリアミドポリマーにTANを押出機で添加する本発明の方法によって、第2の糸(95デニールの68フィラメント)を生成した。また、TANを有さない40デニールの13フィラメント対照糸をオートクレーブ添加方法のために準備した。また、TANを有さない95デニールの68フィラメント糸の対照糸を押出機添加方法のために準備した。
【0041】
表2は、2つの同一の糸について比較したX線小角散乱データを示している。第1の糸を押出機添加方法によって生成し、第2の糸をポリマーへのTANのオートクレーブ添加方法によって生成する。
【0042】
表1および2のこれらのデータは、2つの異なるTAN添加方法によって生成される糸の結晶微細構造の相違が存在することを示している。要約すると、TANのオートクレーブ添加法は、結晶パラメータ、サイズおよび完全性の両方の大きな変化のある糸をもたらす。非晶質相分率の増加および非晶質体積分率の増加に伴う結晶間の間隙の増加がある。結晶体積分率のわずかな変化が観察されるが、これは主に中間相体積分率の減少に起因している。
【0043】
これに対し、直接押出機添加の本発明の方法は、糸の結晶パラメータをわずかに変化させるかまたは全く変化させない。結晶間の間隙のより広い、増加した非晶質レベルの体積分率が観察される。結晶特性の大幅な再編成が観察され、ここで、結晶体積分率の割合の増加が中間相体積分率の減少によって補正されている。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
図2として示されるようなデータは、トリアミノ化合物をポリマーに導入するための2つの経路についての、TAN濃度(重量パーセント)に応じた「品質指数」を示す。品質指数は、応力・ひずみ曲線の下の面積に近似し、ゆえに糸の強度保持率を示す。2つの曲線AおよびBはそれぞれ、TANのオートクレーブ添加および押出機添加に対応する。A/Bの勾配比は、(70.6/30)または2.4である。図2における曲線AおよびBのこの比率は、ポリマーにおけるTAN含量に応じた糸強度が、オートクレーブ添加方法についてより急速に低下する、すなわち、本発明の押出機添加方法よりも2倍超速く低下していることを示している。
【0047】
本明細書におけるおよび上述したような本発明の教示の利益を有する当業者は、本発明に対して変更を行うことができる。このような変更は、添付の特許請求の範囲によって規定されるように、本発明の範囲内にあるものと解釈されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1A】トリアミノ化合物を用いてポリアミドポリマーを変性し、このポリマーからポリアミド糸を溶融紡糸するための、先行技術の処理装置の概略図である。
【図1B】トリアミノ化合物を用いてポリアミドポリマーを変性し、このポリマーからポリアミド糸を溶融紡糸するための、本発明の処理装置の概略図である。
【図2】先行技術と比較した、本発明の方法によって達成される糸の品質の改良のグラフ図である。
【図3】100デニールの68フィラメント番手糸を用いた試験結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドフィラメントを紡糸するための方法であって、ポリアミドポリマーを溶融押出機に供給する工程と、前記ポリアミドポリマーを分岐させることが可能なトリアミノ化合物を供給する工程と、前記トリアミノ化合物および前記ポリアミドポリマーのための十分な接触時間を与えるように選択される投入時点において前記トリアミノ化合物を前記溶融押出機に充填して溶融ポリマーを形成する工程と、前記ポリアミドポリマーを溶融する工程と、前記溶融ポリマーを押出してフィラメントを形成する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記フィラメントを急冷する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フィラメントを延伸する工程をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記フィラメントを巻き取る工程をさらに含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記接触時間が約12分未満であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記トリアミノ化合物がTANおよびTRENを含む群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記延伸比が約1〜約2であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
約40〜約55のギ酸相対粘度(RV)および約60%〜約100%の破断点伸びを有し、約0.01〜0.10重量パーセントのトリアミノ化合物含量を有するナイロン66ポリマーを含む合成ポリアミド糸であって、前記糸は、約2.0未満の延伸比を含む請求項1に記載の方法によって提供されることを特徴とする合成ポリアミド糸。
【請求項9】
約60%未満の破断点伸びおよび約1.1〜約2.0の延伸比を含むことを特徴とする請求項8に記載の合成ポリアミド糸。
【請求項10】
溶融押出機にポリアミドポリマーチップを供給する工程と、前記チップを溶融して、前記溶融されたポリマーを所定の期間にわたって押出ダイに送る工程と、少なくとも1つのフィラメントを形成する工程と、前記フィラメントを急冷する工程と、延伸比に応じて前記フィラメントを任意選択的に延伸する工程と、前記フィラメントを巻き取る工程とを含む、ポリアミド糸を紡糸するための方法において、
トリアミノ化合物およびポリマーが溶融ポリマーになる期間によって特徴付けられる、前記押出機への入口において前記ポリマーを分岐させることが可能な前記トリアミノ化合物を供給する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
前記トリアミノ化合物およびポリマーが溶融ポリマーになる期間が約12分未満であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記トリアミノ化合物がTANおよびTRENを含む群から選択されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記延伸比が約1〜約2であることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
約40〜約55のギ酸相対粘度(RV)および約60%〜約100%の破断点伸びを有し、約0.01〜0.10重量パーセントのトリアミノ化合物含量を有するナイロン66ポリマーを含む合成ポリアミド糸であって、前記糸は、約1.0の延伸比を含む請求項1に記載の方法によって提供されることを特徴とする合成ポリアミド糸。
【請求項15】
約60%未満の破断点伸びおよび約1.1〜約2.0の延伸比を含むことを特徴とする請求項5に記載の合成ポリアミド糸。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−523195(P2009−523195A)
【公表日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541329(P2008−541329)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【国際出願番号】PCT/US2006/044426
【国際公開番号】WO2007/059254
【国際公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(505245302)インヴィスタ テクノロジー エスアエルエル (81)
【氏名又は名称原語表記】INVISTA Technologies S.a.r.l.
【Fターム(参考)】