説明

改良された放射性医薬組成物

本発明は、テトロフォスミン及び放射線防護剤を特定のモル比範囲で含んでなる99mTc−テトロフォスミン放射性医薬組成物を提供する。本発明の放射性医薬組成物を調製するためのキット及び多用量キット、並びに放射性医薬組成物の複数回分の単位患者用量の調製方法及び放射性医薬組成物の単位用量も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は改良された放射性医薬組成物に関する。詳しくは、本発明は99mTc−テトロフォスミンを含んでなる放射性医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性同位体テクネチウム−99m(99mTc)を基剤とするインビボイメージング用放射性医薬品は、(例えば腎臓の)機能検査並びに(特に心臓及び脳の)灌流検査をはじめとする各種の臨床用途のために知られている。放射性同位体99mTcは6時間の半減期を有するので、99mTc放射性医薬品はいわゆる「キット」から使用直前に調製されるのが普通である。
【0003】
99mTc放射性医薬品を調製するためのかかるキットは、ユーザーが必要な反応体を収容した非放射性凍結乾燥バイアルのストックを維持することを可能にする。かかるバイアルは、99mTc供給源からの99mTc−過テクネチウム酸塩(TcO)を用いて再構成することで所望の無菌99mTc放射性医薬品が容易に得られるように設計されている。等張食塩水中の99mTc−過テクネチウム酸塩の無菌溶液は、当技術分野で公知の通り、テクネチウムジェネレーターを無菌食塩水で溶出することで得られる。
【0004】
99mTc放射性医薬品調製用のキットは、通例、下記の成分を含んでいる。
(i)99mTcと金属錯体を形成するリガンド、及び
(ii)過テクネチウム酸塩(即ち、Tc(VII))を所望の99mTc金属錯体生成物のそれより低い酸化状態に還元できる生体適合性還元剤。
【0005】
99mTc−過テクネチウム酸塩用の生体適合性還元剤は、通例は第一スズイオン(即ち、Sn(II))である。キットは、キット成分の取扱い及び凍結乾燥を容易にするため、弱キレート化剤(例えば、グルコン酸塩、グルコヘプトン酸塩、酒石酸塩、ホスホン酸塩又はEDTA)、安定剤、pH調整剤、緩衝剤、可溶化剤或いは増量剤(例えば、マンニトール、イノシトール、炭酸水素ナトリウム又は塩化ナトリウム)のような追加の添加剤を含むことができる。貯蔵及び分配を容易にするため、非放射性キットはクロージャーを備えた無菌バイアルに入れて凍結乾燥状態で供給されるのが普通である。凍結乾燥製剤はまた、最終ユーザーが食塩水中の無菌99mTc−過テクネチウム酸塩を用いて容易に再構成することでヒトに使用するための所望の無菌で注射可能な99mTc放射性医薬品を得ることも可能にする。非放射性テクネチウムキットの貯蔵寿命は数ヶ月であり得る。
【0006】
放射性医薬品は、通例はプラスチックで作られた使い捨ての臨床グレード注射器によって日常的に投与されている。注射の準備中に放射性医薬品が接触する表面(注射器の表面を含む)への放射性医薬品の吸着のため、放射性医薬品の不完全な送達が起こり得ることが知られている。望まれない結果は、注射される放射能の減少である。これは注射用量中の放射能を不十分にするので、さらに高放射能の試料を調製することが必要となり、調製中における放射能被曝を増加させるという望ましくない結果をもたらすことがある。したがって、放射性医薬品の吸着を最小限に抑えるべきことは明らかである。使い捨ての臨床グレード注射器に吸着することが知られている特定の放射性医薬品は99mTc−テトロフォスミンであり、いくつかの研究がこの現象を評価している。
【0007】
Bartosch et al(1998,Eur.J.Nuc.Med.,25(9),pp1333−5)は、Henke Sass Wolf GmbHから入手した2mlの使い捨てプラスチック注射器に対する再構成Myoview(商標)中の99mTc−テトロフォスミンの保持を調査した。これらの注射器では、99mTc−テトロフォスミンの保持に関する最大測定値は注射器中での30分間の貯蔵後に約5%であることが判明した。
【0008】
別の研究では、若干の常用放射性医薬品の残留放射能に関して各種銘柄の使い捨てプラスチック注射器が比較された(Gunaskera et al,1996,J.Nuc.Med.,23,p1250 & 2001,Nuc.Med.Comm.,22,pp493−497)。この研究は、再構成Myoview(商標)中の99mTc−テトロフォスミンの結合量が注射器の銘柄に応じてかなり変動することを実証した。例えば、注射器中に30分間置いた後、Braun(約6%)使い捨て注射器に対する99mTc−テトロフォスミンの結合は、Becton−Dickinson(約30%)及びSherwood(約16%)使い捨て注射器に比べて少ないことが認められた。このようなばらつきの確認は、2mlの使い捨てプラスチック注射器上への再構成Myoview(商標)中の99mTc−テトロフォスミンの吸着をさらに分析することで実証された(Jansson et al,1998,J.Nuc.Med.Technol.,26,pp196−9)。この研究では、使い捨て注射器に対する99mTc−テトロフォスミンの結合が、Braun Injekt(約3%)、Becton−Dickinson Discardit(約8%)、Cordan Once(約15%)、Becton−Dickinson Plastipak(約22%)の順序で少ないことが見出された。
【0009】
ある種の使い捨て注射器タイプに対する99mTc−テトロフォスミンの高い吸着量の問題を解消するための解決策は、99mTc−テトロフォスミンの投与のために特定の注射器タイプを使用するように指示することであろう。しかし、特定の注射器タイプに関してもバッチ間に一定量のばらつきが存在すると仮定すれば、同一の注射器タイプに関してもバッチ間で吸着量が変動すると推測するのが妥当であろう。したがって、病院や放射線薬局がその好ましい調製方法を変更しなくても済むように、いかなる注射器タイプのいかなるバッチにも利用できる解決策を得ることが好ましいであろう。すべての注射器タイプに関して保持放射能を減少させることは有利であろう。
【0010】
Myoview(商標)キットは、下記の凍結乾燥製剤を収容した10mlバイアルである。
テトロフォスミン 0.23mg
塩化第一スズ二水和物 30μg
スルホサリチル酸二ナトリウム 0.32mg
D−グルコン酸ナトリウム 1.0mg
炭酸水素ナトリウム 1.8mg
再構成後のpH 8.3〜9.1
この製剤は窒素ガスUSP/NF下で10mlガラスバイアル内に封入されていて、これを無菌(99mTc)過テクネチウム酸ナトリウム注射液USP/Ph.Eur.で再構成すれば、心臓イメージング用の放射性医薬品99mTc−テトロフォスミンを含む溶液が得られる。テトロフォスミンのモル濃度は、再構成体積に応じて変化する。製造業者の説明書(パッケージリーフレット)通りに再構成した場合、凍結乾燥Myoview(商標)製剤を再構成するために使用される体積は4〜8mlの範囲内にある。これは0.15mMテトロフォスミン(1Mテトロフォスミン=382.45g/L)の最大モル濃度を与える。
【0011】
日本では、Myoview(商標)の別の市販形態として、注射剤型又は「コンジュゲート」型のものが1997年から販売されている。この「コンジュゲート」型は、水溶液中に予め形成した99mTc−テトロフォスミンテクネチウム錯体をシリンジ−バイアル(即ち、独立したプランジャー及び針を備えたバイアル)内に収容したもので、容易に組み立てて放射性医薬品を含む注射器を与えるように設計されている。Myoview(商標)「コンジュゲート」溶液は、0.14mg/ml(0.37mM)の濃度でテトロフォスミンを含むと共に、1.36mg/ml(7.7mM)の濃度でアスコルビン酸を含んでいる。したがって、この製剤中におけるテトロフォスミン:アスコルビン酸のモル比は0.05:1.0である。
【0012】
国際公開第2002/053192号には、99mTc金属錯体を含む安定化99mTc放射性医薬製剤が記載されている。このキットは、抗菌保存剤と共に放射線防護剤も含む点で標準のMyoview(商標)キットと異なっている。放射線防護剤は、アスコルビン酸、p−アミノ安息香酸及びゲンチシン酸から選択される。抗菌保存剤は次式のパラベンである。
【0013】
【化1】

【0014】
式中、RはC1−4アルキルであり、MはH又は生体適合性陽イオンである。国際公開第2002/053192号は、99mTc放射性医薬品がMyoview(商標)でありかつ放射性防護剤がアスコルビン酸である場合、アスコルビン酸は0.4〜1.5mg/cm(2.5〜10mM)の範囲内で存在することを教示している。国際公開第2002/053192号の実験例は、99mTc−テトロフォスミンを含む放射性医薬組成物であって、テトロフォスミンとアスコルビン酸とのモル比が約0.045:1.0であるものが教示されている。
【0015】
国際公開第2006/064175号には、アスコルビン酸及びそれの生体適合性陽イオンとの塩から選択される放射線防護剤を含むMyoview(商標)キットが提供されている。アスコルビン酸に関しては、好適な濃度範囲は0.05〜100mg/cm(又は0.28〜568mM)、好ましい範囲は0.2〜10mg/cm(1.14〜57mM)、最も好ましい範囲は0.4〜1.5mg/cm(2.5〜10mM)と開示されている。国際公開第2006/064175号の実験例では、テトロフォスミンとアスコルビン酸とのモル比が約0.06:1.0であることが教示されているが、これは国際公開第2002/053192号に教示された比と同様な大きさである。
【0016】
このたび本発明者らは、国際公開第2006/064175号に例示された製剤に関し、ある種の使い捨てプラスチック注射器上への99mTc−テトロフォスミンの保持放射能が許容し得ないほどに高い(20〜25%)ことを見出した。本発明によって解決される課題は、各種の臨床グレードプラスチック注射器上における再構成放射性医薬組成物中の99mTc−テトロフォスミンの保持放射能が許容し得る程度であるアスコルビン酸安定化テトロフォスミン製剤を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
国際公開第2007/148088号パンフレット
【発明の概要】
【0018】
本発明は、テトロフォスミン及び放射線防護剤を特定のモル比範囲で含んでなる99mTc−テトロフォスミン放射性医薬組成物を提供する。本発明の放射性医薬組成物を調製するためのキット及び多用量キット、並びに放射性医薬組成物の複数回分の単位患者用量の調製方法及び放射性医薬組成物の単位用量も提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
放射性医薬組成物
一態様では、本発明は、
(i)生体適合性キャリヤー中にあるテトロフォスミンの99mTc錯体、
(ii)テトロフォスミン、並びに
(iii)アスコルビン酸及びそれの生体適合性陽イオンとの塩から選択される放射線防護剤
を含んでなる放射性医薬組成物であって、テトロフォスミンと放射線防護剤とのモル比が0.10:1.0〜1.0:1.0の範囲内にある放射性医薬組成物を提供する。
【0020】
本明細書中で使用する「テトロフォスミンと放射線防護剤とのモル比」という用語は、放射性医薬組成物中の総テトロフォスミンのモル濃度の比をいう。「総テトロフォスミン」という用語は、99mTcと錯体化されたテトロフォスミン及び錯体化されていないテトロフォスミンの和、即ち上記(i)及び(ii)の和を意味する。
【0021】
「放射線防護剤」という用語は、核医学分野の当業者にとって公知の用語である。大多数の放射性医薬品はインビボイメージングのために使用されており、これらは通例は単光子放出コンピューター断層撮影法(SPECT)又はポジトロン放出断層撮影法(PET)による検出に適した放出物を有する放射性核種を含んでいる。かかる放射性核種を哺乳動物への投与に適した形態で生体適合性キャリヤーと共に含んでなるのが「放射性医薬組成物」である。放射性医薬品の概観に関しては、“Handbook of Radiopharmaceuticals”(Welch & Redvanly,Eds.,Wiley,2003)、特に99mTc−テトロフォスミンを詳細に論じている329頁及び530頁を参照されたい。
【0022】
「テトロフォスミン」という用語は、下記に示すようなエーテル置換ジホスフィンキレート化剤である1,2−ビス[ビス(エトキシエチル)ホスフィノ]エタンを意味し、これは99mTc−テトロフォスミン(即ち、99mTc(O)(テトロフォスミン))を調製するための、Myoview(商標)と呼ばれる市販99mTcキット(GE Healthcare社)中に用いられている。
【0023】
【化2】

【0024】
テトロフォスミンは、Chen et al(Zhong.Heyix.Zazhi,1997,17(1):13−15)又はReid et al(Synth.Appl.Isotop.Lab.Comp.,2000,Vol 7:252−255)に記載されているようにして製造できる。通常の合成では、まず1,2−ビス(ホスフィノ)エタン又はHPCHCHPHを製造した後、実施例1に記載されるような遊離基開始剤を用いて過剰のエチルビニルエーテルの遊離基付加を行う。
【0025】
「生体適合性キャリヤー」とは、組成物が生理学的に認容できるようにして(即ち、毒性又は耐え難い不快感なしに投与できるようにして)放射性医薬品を懸濁又は溶解するための流体(特に液体)である。生体適合性キャリヤー媒質は、好適には、無菌のパイロジェンフリー注射用水、或いは1種以上の張度調整物質(例えば、血漿陽イオンと生体適合性対イオンとの塩)、糖(例えば、グルコース又はスクロース)、糖アルコール(例えば、ソルビトール又はマンニトール)、グリコール(例えば、グリセロール)又は他の非イオン性ポリオール物質(例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなど)の水溶液のような注射可能なキャリヤー液体である。生体適合性キャリヤーはまた、エタノールのような生体適合性有機溶媒を含んでいてもよい。かかる有機溶媒は、親油性化合物又は製剤を可溶化するために有用である。好ましくは、生体適合性キャリヤーはパイロジェンフリー注射用水、等張食塩水又はエタノール水溶液である。生体適合性キャリヤーは、好ましくは水性溶媒からなり、最も好ましくは等張生理食塩水からなる。
【0026】
「放射線防護剤」という用語は、水の放射線分解から生じる含酸素遊離基のような高反応性遊離基を捕捉することにより、レドックス過程のような分解反応を阻止する化合物を意味する。本発明の放射線防護剤は、好適には、アスコルビン酸及びそれの生体適合性陽イオンとの塩から選択される。
【0027】
「生体適合性陽イオン」という用語は、イオン化して負に帯電した陰イオン基と塩を形成する正に帯電した対イオンであって、前記正に帯電した対イオンも所要の用量において無毒であり、したがって哺乳動物体(特に人体)への投与に適したものを意味する。好適な生体適合性陽イオンの例には、アルカリ金属であるナトリウム及びカリウム、アルカリ土類金属であるカルシウム及びマグネシウム、並びにアンモニウムイオンがある。好ましい生体適合性陽イオンはナトリウム及びカリウムであり、最も好ましくはナトリウムである。
【0028】
好ましい放射線防護剤はアスコルビン酸である。好ましくは、テトロフォスミンとアスコルビン酸とのモル比は、0.2:1.0〜1.0:1.0、最も好ましくは0.2:1.0〜0.5:1.0、最も特に好ましくは0.3:1.0〜0.5:1.0、とりわけ0.4:1.0〜1.0:1.0の範囲内にある。テトロフォスミンとアスコルビン酸との好ましいモル比の若干の非限定的な例は、0.14:1.0、0.21:1.0、0.32:1.0及び0.47:1.0である。
【0029】
放射性医薬組成物はさらに、生体適合性還元剤、pH調整剤、トランスキレーター又は充填剤のような追加成分を任意に含むことができる。
【0030】
「生体適合性還元剤」という用語は、Tc(VII)過テクネチウム酸塩をそれより低いテクネチウムの酸化状態に還元するのに適する還元剤であって、所要の用量において無毒であり、したがって哺乳動物体(特に人体)への投与に適したものを意味する。好適なかかる還元剤には、亜ジチオン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、ホルムアミジンスルフィン酸、第一スズイオン、Fe(II)又はCu(I)がある。生体適合性還元剤は、好ましくは塩化第一スズ又は酒石酸第一スズのような第一スズ塩である。
【0031】
「pH調整剤」という用語は、放射性医薬組成物のpHがヒト又は哺乳動物への投与のための許容範囲(およそpH4.0〜10.5)内にあることを保証するために有用な化合物又は化合物の混合物を意味する。好適なかかるpH調整剤には、トリシン、リン酸塩又はTRIS[即ち、トリス(ヒドロキシルメチル)アミノメタン]のような薬学的に許容される緩衝剤、及び炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム又はこれらの混合物のような薬学的に許容される塩基がある。本発明の放射性医薬組成物にとって好ましいpH調整剤は重炭酸ナトリウムである。
【0032】
「トランスキレーター」とは、テクネチウムと迅速に反応して弱い錯体を形成し、次いでリガンドで置換される化合物である。これは、テクネチウムの錯体形成と競合する過テクネチウム酸塩の迅速な還元によって還元型加水分解テクネチウム(RHT)が生成するリスクを最小限に抑える。好適なかかるトランスキレーターは、有機酸(特に3〜7の範囲内のpKaを有する弱有機酸)と生体適合性陽イオンとの塩である。好適なかかる弱有機酸は、酢酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、グルコヘプトン酸、安息香酸、フェノール類又はホスホン酸である。したがって、好適な塩は酢酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、グルコン酸塩、グルコヘプトン酸塩、安息香酸塩、フェノレート又はホスホン酸塩である。好ましいかかる塩は酒石酸塩、グルコン酸塩、グルコヘプトン酸塩、安息香酸塩又はホスホン酸塩であり、最も好ましくはホスホン酸塩、特にジホスホン酸塩である。好ましいかかるトランスキレーターは、グルコン酸と生体適合性陽イオンとの塩、特にグルコン酸ナトリウムである。その他の好ましいトランスキレーターは、5−スルホサリチル酸又はそれの生体適合性陽イオンとの塩である。2種以上のトランスキレーターを併用してもよく、本発明の放射性医薬組成物は最も好ましくは5−スルホサリチル酸ナトリウム(SSA)とグルコン酸ナトリウムの組合せを含む。SSAの利点は、それが放射線防護剤としても作用することで、満足すべき放射性標識、放射化学純度及び調製後の安定性を維持しながら放射性医薬組成物中のアスコルビン酸の量の減少を容易にすることである。SSAはアスコルビン酸と同様にしてヒドロキシ基を捕捉するので、SSAの増加はスカベンジャー効果の増大をもたらすと考えられる。さらに、SSAはテトロフォスミン−SSAを出発原料として使用することで容易に混入できる。SSAは、好ましくはアスコルビン酸に対して0.15:1.0〜0.4:1.0のモル比で本発明の放射性医薬組成物中に存在する。好ましくは、SSAとアスコルビン酸との比は0.16:1.0〜0.37:1.0、最も好ましくは0.24:1.0〜0.37:1.0の範囲内にある。
【0033】
「充填剤」という用語は、本発明の放射性医薬組成物を調製するための凍結乾燥キットの製造時における材料の取扱いを容易にし得る薬学的に許容される増量剤を意味する。好適な充填剤には、塩化ナトリウムのような無機塩、及びスクロース、マルトース、マンニトール又はトレハロースのような水溶性糖類又は糖アルコールがある。ある種のpH調整剤は増量剤としても機能し得る。好ましいかかる二重機能充填剤は重炭酸ナトリウムである。本発明の放射性医薬組成物を調製するための好ましいキットは、凍結乾燥を容易にするための充填剤を含んでいる。好ましいかかる充填剤は、二重機能充填剤の重炭酸ナトリウムである。
【0034】
本発明の放射性医薬組成物によれば、下記の利点が得られる。
(i)一定範囲の臨床グレードプラスチック注射器に対する保持放射能が減少すること、
(ii)公知の放射線防護剤含有99mTc−テトロフォスミン組成物に比べて放射化学安定性が向上すること、及び
(iii)公知の99mTc−テトロフォスミン組成物に比べて放射化学純度が向上すること。
【0035】
実施例2では、テトロフォスミンとアスコルビン酸とのモル比が本発明の範囲内にある凍結乾燥製剤を用いて調製された組成物に関し、プラスチック注射器(Becton Dickinson Luer−Lok(商標)3ml)に対する放射能の吸着が分析される。分析したすべての組成物に関し、プラスチック注射器に対して許容し得る量の保持放射能が認められた。
【0036】
実施例3では、本発明に包含される組成物に関するプラスチック注射器への許容し得る吸着と共に、優れた関連放射化学純度(RCP)値が実証される。
【0037】
実施例4では、実験室内で見出された特性を放射線薬局で再現できることが実証される。本発明の製剤は、公知のMyoview(商標)製剤に比べて一層良好な付着性及び向上したRCPを有することが示された。
【0038】
ミリモル濃度(mM)は、1.0mMが0.001Mに等しいというものである。本発明の放射性医薬組成物中のテトロフォスミンの濃度は、好ましくは0.08〜0.40mM、最も好ましくは0.10〜0.20mM、最も特に好ましくは0.12〜0.18mMの範囲内にある。放射線防護剤がアスコルビン酸である場合、放射線防護剤のミリモル濃度は好ましくは0.30〜0.60mM、最も好ましくは0.38〜0.57mMの範囲内にある。
【0039】
本発明の放射性医薬組成物中におけるアスコルビン酸の濃度は、先行技術のアスコルビン酸含有99mTc−テトロフォスミン組成物に比べて、テトロフォスミンの濃度より格段に低い。本発明者らは、アスコルビン酸が酸なので、(i)テトロフォスミンの99mTc放射性標識、(ii)再構成後の安定性及び(iii)患者への投与適性のためにキットの最適pHを確実に維持するため、pH調整剤の量を調整する必要があることを見出した。放射性医薬組成物は、好ましくは水又は食塩水中の溶液のpHが8.0〜9.2、最も好ましくは8.0〜8.6であるように処方される。組成物中のアスコルビン酸が少なければ、pH調整は少なくて済むことになる。
【0040】
本発明の放射性医薬組成物をヒトに投与する場合、使用する放射能の好適な量は1用量当たり150〜1500MBq(4〜40mCi)である。心臓イメージングに関しては、休息時及び負荷時の注射を同日に行う場合、第1の線量は185〜444MBq(5〜12mCi)、その約1〜4時間後に投与する第2の線量は555〜1221MBq(15〜33mCi)とすべきである。したがって、本発明の99mTc−テトロフォスミン組成物中の初期99mTc放射能は0.2〜100GBqの範囲内にあり、そのため99mTcの放射性崩壊を考慮した後でも同じ製剤から複数回の投与が可能である。
【0041】
非放射性キット
本発明の別の態様は本発明の放射性医薬組成物を調製するための非放射性キットであって、前記キットは
(i)テトロフォスミン、
(ii)アスコルビン酸及びそれの生体適合性陽イオンとの塩から選択される放射線防護剤、並びに
(iii)生体適合性還元剤
を含む製剤を内部に収容した適当な容器を含んでなり、テトロフォスミンと放射線防護剤とのモル比は本発明の放射性医薬組成物に関して上記に定義した通りである。
【0042】
本発明のキットに関しては、「テトロフォスミン」、「放射線防護剤」、「生体適合性陽イオン」及び「生体適合性還元剤」という用語並びにこれらの好ましい実施形態は、放射性医薬組成物に関して上記に定義した通りである。
【0043】
本発明のキットで使用するための「適当な容器」とは、本発明の放射性医薬組成物のいずれの成分とも反応せず、無菌健全性の維持を可能にし、注射器による溶液の添加及び抜取りを許しながら不活性ヘッドスペースガス(例えば、窒素又はアルゴン)の維持を可能にするものである。かかる容器は好ましい液密のアンプル及びバイアルであり、蓋、栓又は隔膜のような液密又は気密のクロージャーによってシールが施される。最も好ましいかかる容器は、気密クロージャーを(通例はアルミニウムからなる)オーバーシールと共にクリンプ加工した隔膜封止バイアルである。かかる容器は、例えばヘッドスペースガスの変更又は溶液のガス抜きのために所望される場合にはクロージャーが真空に耐え得ると共に、例えば容器からの溶液の取出しを助けるための過圧にも耐え得るという追加の利点を有している。気密シールは、皮下注射針による複数回の穿刺に適している。好ましいかかる容器は医薬品グレードのバイアルである。バイアルは、好適には医薬品グレードの材料、通例はガラス又はプラスチック、好ましくはガラスで作られている。容器のガラスは、当技術分野で公知の通り、ガラスからの浸出物を抑制するため任意に被覆できる。好ましいかかるコーティングはシリカ(SiO)である。高純度シリカで被覆された医薬品グレードのガラスバイアルは、Schott Glaswerke AG及び他の供給業者から商業的に入手できる。
【0044】
好ましい実施形態では、キットの容器には、シール健全性を維持しながら皮下注射針による穿刺に適したクロージャを備えている。前記クロージャーは、容器内容物に接触するその表面がエチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)又はその改質バージョンを含むコーティングで被覆されている。「改質バージョン」とは、大協精工社からFlurotec(商標)として市販されているものである。コーティングは、好ましくはクロージャー上に貼り合わされたフィルムであり、好ましくは0.01〜0.2mmの厚さを有している。かかるクロージャーは国際公開第2007/148088号に記載されている。
【0045】
クロージャー本体は、その上のコーティングとは異なり、好ましくは合成エラストマーポリマーで作られる。クロージャー本体は塩素化又は臭素化ブチルゴム或いはネオプレンで作られることが好ましいが、これはかかるポリマーが低い酸素透過性を有するからである。最も好ましくは、クロージャー本体は塩素化ブチルゴムで作られる。
【0046】
本発明のキットで使用するための好適なクロージャーは、West Pharmaceutical Services Inc.(www.westpharma.com,101 Gordon Drive,PO Box 645 Lionville,19341,米国ペンシルヴェニア州)又は大協精工社(東京都墨田区墨田3丁目38−2、131−0031、日本)から商業的に入手でき、これらは改質ETFEコーティングFlurotec(商標)を有している。好ましいクロージャーは、大協精工社からのD21シリーズである。そのシリーズからの好ましいバイアルクロージャーは、構造V10F451Wを有すると共に、D21−7Sと表されるクロロブチルゴム配合物を有している。本発明者らは、好ましいバイアルクロージャーに関しては、クロージャーの4〜30回の貫通後に放射能の漏れがないことを見出した。さらに、好ましいバイアルクロージャー中に残留する放射能の量は、55GBq/30ml及び5.5BBq/5mlで再構成されたバイアルに関しては0.1%未満であった。
【0047】
通常の薬学的慣行ではオートクレーブ処理が使用されるが、本発明のキットのクロージャーは好ましくはγ線照射によって滅菌される。それは、オートクレーブ処理がクロージャーの内部に微量の残留水分を残すが、99mTc−テトロフォスミンに関してはクロージャーの含水量を抑制することが極めて好ましいからである。
【0048】
非放射性キットはさらに、上記に定義されたようなpH調整剤、トランスキレーター又は充填剤のような追加成分を任意に含むことができる。
【0049】
好ましくは、製剤はキット中に凍結乾燥形態で存在している。「凍結乾燥」という用語は通常の意味を有し、即ち凍結乾燥組成物、好ましくは無菌状態で調製されたものをいう。本発明者らは、アスコルビン酸の量を減少させたことにより、凍結乾燥ケーキの外観が先行技術のアスコルビン酸含有99mTc−テトロフォスミンに比べて向上したことを認めた。これは、アスコルビン酸の低いガラス転移温度(−54℃)が恐らくは製剤のガラス転移温度を低下させることに原因すると考えられる。
【0050】
好ましい実施形態では、テトロフォスミンはテトロフォスミン−SSAとしてキット製剤中に導入される。
【0051】
多用量キット
好ましい実施形態では、本発明のキットは多用量キットである。この「多用量キット」は、溶液の添加及び抜取りが可能なクロージャを備えた密封無菌容器内に本発明の製剤を含んでいて、1つの多用量キットから99mTc−テトロフォスミン放射性医薬品の4〜30回分の単位患者用量を得ることができるようなものである。多用量キットの容器及びクロージャーの好ましい態様は、本発明のキットに関して上記に記載した通りである。
【0052】
多用量キットは、通常のMyoview(商標)キットより格段に高いレベルの放射能に耐え、またより大きな体積の溶液に耐えるほど十分に頑強でなければならない。多用量バイアル用の容器は、好適には20〜50cm、好ましくは20〜40cm、最も好ましくは30cmの容積を有する。
【0053】
多用量キットは複数の患者用量のために十分な物質(例えば、最大で1バイアル当たり100GBqの99mTc)を含み、したがって臨床状況に合わせて単位患者用量を安定化製剤の有効寿命中に様々な時間間隔で臨床グレード注射器中に抜き取ることができる。別法として、99mTc−テトロフォスミン放射性医薬品の単位用量を、上記に記載したように密封容器に入れて提供することもできる。「単位患者用量」又は「単位用量」という用語は、1人の患者に投与した後のインビボイメージングに適した99mTc放射能含有量を有する99mTc−テトロフォスミン放射性医薬組成物を意味する。かかる「単位用量」は、本発明の追加の態様(下記)でさらに詳しく説明する。本発明の多用量キットは、一定範囲の99mTcジェネレーター溶出液に関し、99mTc−テトロフォスミン放射性医薬品の4〜30回分、好ましくは6〜24回分のかかる単位用量を再現可能に得るために適するように処方される。しかし、多用量キットを使用することで、1〜40回分、また恐らくは40回分を超える単位用量を得ることも可能であろう。
【0054】
国際公開第2006/064175号に記載されている通り、多用量キットに付随する利点が存在している。多用量キットは再構成プロトコル中に空気導入段階を必要とせず、これは重要な利点である。多用量キットではまた、複数の99mTc−テトロフォスミン放射性医薬品の調製に関して格段に迅速な調製時間も可能となり、オペレーターの被曝線量が実質的に減る。通常のMyoview(商標)キットの貯蔵寿命安定性が37週である一方、多用量キットは78週以上に延長した貯蔵寿命安定性も示す。多用量キットの追加の利点は、下記の多用量調製方法で説明する。
【0055】
特に好ましい実施形態では、本発明の多用量キットは下記の製剤を含んでおり、これは99mTcジェネレーターからの最大30mlの溶出液で再構成するように設計されている。
【0056】
【表1】

【0057】
1種の特に好ましい多用量キット製剤では、テトロフォスミン、スルホサリチル酸二ナトリウム及びアスコルビン酸は、各3.0mgのテトロフォスミン−SSA及びアスコルビン酸を出発原料として用いて導入される。別法として、4.5mgのテトロフォスミン−SSA及び2.0mg又は3.0mgのアスコルビン酸を出発原料として用いることもできる。
【0058】
複数回分の単位患者用量の調製方法
本発明の別の態様は、99mTc−テトロフォスミン放射性医薬品の複数回分の単位患者用量の調製方法であって、
(i)本発明の多用量キットを99mTc−過テクネチウム酸塩の無菌溶液で再構成するか、或いは最初に生体適合性キャリヤーで、次いで99mTc−過テクネチウム酸塩の無菌溶液で再構成する段階、
(ii)任意には、段階(i)を抗菌保存剤の存在下で実施する段階、
(iii)99mTc−テトロフォスミン錯体を形成させて、所望の99mTc−テトロフォスミン放射性医薬品のバルク供給材料を含む溶液を得る段階、
(iv)任意には、99mTc−テトロフォスミン錯体のバルク供給材料の放射化学純度を確認する段階、
(v)段階(iii)のバルク供給材料から単位用量を適当な注射器又は容器内に抜き取る段階、及び
(vi)後の時点で追加の注射器又は容器を用いて段階(v)を繰り返すことで追加の単位用量を得る段階
を含んでなる方法である。
【0059】
本発明のこの態様に関する単位用量は、本明細書中で前記に定義した通りであり、本発明の追加の態様において下記に一層詳しく説明される。本発明のこの態様に関する生体適合性キャリヤー及びその好ましい実施形態は、本明細書中で既に定義した通りである。本方法用の好ましい生体適合性キャリヤーは無菌食塩水である。
【0060】
本方法は、好ましくは抗菌保存剤の不存在下で実施される。
【0061】
99mTc−過テクネチウム酸塩の無菌溶液は、好ましくはテクネチウムジェネレータから得られる。段階(i)で使用する99mTc−過テクネチウム酸塩の放射能含有量は、好適には0.2〜100GBq、好ましくは5〜75GBqの範囲内にある。99mTcの放射能濃度は、好ましくは10GBq/cm以下、最も好ましくは2.5GBq/cm以下である。調製した後、所望の99mTc−テトロフォスミン放射性医薬品のバルク供給材料は、最大12時間の使用可能な貯蔵寿命を有している。
【0062】
99mTc−テトロフォスミン錯体形成、即ち段階(iii)は、通常は室温で15分以内に完了する。
【0063】
本発明の方法は、複数の個別Myoview(商標)10mlバイアルを再構成する代替法をに比べて下記の利点を有している。
(a)調製された99mTc−テトロフォスミンは、使い捨てプラスチック注射器に対して付着性の減少を示す。
(b)放射能(99mTc−過テクネチウム酸塩)が関与する操作の数が格段に減少する。
(c)空気導入段階を必要としない。
(d)投与量ごとのQC決定と異なり、単位用量のバッチごとにただ1回のQC決定しか必要とされない。
(e)製剤が一定範囲の99mTcジェネレータ溶出液条件に耐え得るようにしてバルクバイアルが処方される。
(f)必要とされる段階が減少するので、自動化が容易となる。
(g)必要とされる非放射性キットバイアルが減少するので、冷蔵庫の貯蔵空間が節約される。
【0064】
重要な結果として、放射能の吸着が減少し、オペレーターの処理時間が減少し(即ち、効率が高まり)、オペレーターの被曝線量が減り、その程度は調製すべき単位用量の数が多くなるほど大きくなる。
【0065】
単位用量
本発明はまた、1人の患者のイメージングに適した99mTc放射能含有量を有する本発明の放射性医薬組成物を含んでなる99mTc−テトロフォスミン放射性医薬品の単位用量を提供する。
【0066】
単位患者用量は本発明の多用量キットに関連して上記に定義した通りであり、適当な容器又は注射器に入れてヒトへの投与に適した無菌形態で提供される。かかる注射器は臨床での使用に適したものであり、好ましくは注射器が常に個々の患者にしか使用されないような使い捨てのものである。注射器には、施術者を放射線量から保護するためのシリンジシールドを任意に設けることができる。好適なかかる放射性医薬品用シリンジシールドは商業的に入手でき、好ましくはLogan(1993,J.Nucl.Med.Technol.,21(3),pp167−170)によって記載されているように鉛又はタングステンを含んでいる。
【0067】
別法として、99mTc−テトロフォスミン放射性医薬品の単位用量は、皮下注射針で複数回穿刺するのに適したシール(例えば、クリンプ加工した隔膜封止クロージャー)を有する容器に入れて供給することもできる。本発明の単位用量は、好ましくは臨床グレード注射器に入れて供給され、最も好ましくはシリンジシールドが設けられる。
【0068】
単位用量の99mTc放射能含有量は、好適には150〜1500MBq(4〜40mCi)、好ましくは185〜1250MBq(5〜34mCi)である。休息時及び負荷時の注射を同日に行う場合、第1の線量は185〜444MBq(5〜12mCi)、その1〜4時間後に投与する第2の線量は555〜1221MBq(15〜33mCi)とすべきである。単位用量中に使用する好ましい組成物は、本発明の放射性医薬組成物に関して上記に記載した通りである。
【実施例】
【0069】
下記の非限定的な実施例によって本発明を例示する。
【0070】
実施例の簡単な説明
実施例1では、テトロフォスミンの合成を記載する。
【0071】
実施例2では、様々な濃度のテトロフォスミン、アスコルビン酸及び炭酸水素ナトリウムを含む製剤に関し、プラスチック注射器に対する99mTc−テトロフォスミンの吸着を比較する。製剤中のテトロフォスミンの量を増加させることにより、注射器上への保持放射能の顕著な減少が得られた。
【0072】
実施例3では、様々な濃度のテトロフォスミン及びアスコルビン酸を含む製剤に関し、プラスチック注射器に対する99mTc−テトロフォスミンの吸着を比較する。テトロフォスミンの量を増加させれば、注射器上への保持放射能の量は2〜5百分率ポイントだけ減少する(保持放射能の約20〜35%の減少)。24時間後のRCPは30mlバイアル当たり3mgのテトロフォスミンを含む試料に関してわずかに良好であり、これはテトロフォスミン−スルホサリチル酸の量の増加がRCPを損なわずにアスコルビン酸の量を減少させ得ることを表している。
【0073】
実施例4では、Myoview(商標)及び本発明の多用量製剤に関し、放射線薬局環境においてプラスチック注射器に対する99mTc−テトロフォスミンの吸着を比較する。結果は2つの放射線薬局間で一致した。本発明の製剤に関しては、注射器中に1.0mlを抜き取った場合、再構成から6〜12時間後の保持放射能は6〜12%であった。Myoview(商標)に関しては、同様な実験条件下で試験した場合の残留放射能は12〜15%であった。したがって、本発明の再構成製剤はMyoview(商標)に比べて良好な保持放射能特性を有している。
【0074】
【表2】

【0075】
実施例1:テトロフォスミンの合成
すべての反応及び操作は、真空中又は酸素を含まない窒素雰囲気下で行った。溶媒は乾燥し、使用前に窒素パージによって脱気した。α−アゾイソブチロニトリル(AIBN)及びエチルビニルエーテルは、それぞれBDH社及びAldrich社から入手した。ビス(ジホスフィノ)エタンは、文献(Inorganic Synthesis,Vol 14,10)に従って製造した。
【0076】
Teflon(商標)撹拌棒を備えたFischer耐圧瓶に、エチルビニルエーテル(5cm、52.3mmol)、ビス(ジホスフィノ)エタン(1cm、10mmol)及びα−アゾイソブチロニトリル(0.1g、0.61mmol)を仕込んだ。次いで、反応混合物を撹拌し、75℃で16時間加熱した。冷却して室温に戻した後、粘稠な液体を50cm丸底フラスコに移した。真空下で加熱して揮発性物質の除去を行った。得られた不揮発性物質は、NMRによれば純粋であった。収量:3.0g、80%。
【0077】
H NMR(CDCl):δ1.12(12H,dt J=1.16Hz,7.15Hz;OCH)、1.51(4H,br m;PCP)、1.7(8H;br t,J=7.4Hz;PCCHOEt)、3.4(8H,dt J=1.16Hz,7.15Hz,OCCH)、3.49(8H;br m;PCHOEt)ppm。
【0078】
31P NMR:δ−33.17ppm。
【0079】
エタノール中で2.3〜2.5モル当量の5−スルホサリチル酸と室温で反応させ、次いでエタノール/エーテルから再結晶することにより、テトロフォスミンをテトロフォスミン−スルホサリチル酸に転化させた。
【0080】
実施例2:様々な濃度のテトロフォスミン、アスコルビン酸及び炭酸水素ナトリウムを含む製剤の比較
下記の凍結乾燥製剤を調製した。
【0081】
【表3】

【0082】
これらの製剤の各々を、55GBqの放射能を有するDrytec(商標)ジェネレーター(GE Healthcare社)からの99mTc−過テクネチウム酸塩(TcO)30mlで再構成することで、50mCi/mlを有する放射性医薬組成物を調製した。放射性医薬組成物の1ml試料を3mlのPrecisionGlide(Becton Dickinson社)注射器中に抜き取った。注射器を直立状態で暗所に室温で6時間貯蔵した。貯蔵後、各注射器をプラスチック管内に配置し、針を取り付けた注射器全体の放射能をイオンチャンバー(Canberra CRC 15R)内で測定した。空の注射器の放射能をイオンチャンバー内で測定した。針を取り除き、針なしの注射器の放射能を記録した。崩壊に関して放射能を調整し、保持放射能を計算した。下記の結果が得られた。
【0083】
【表4】

【0084】
実施例3:様々な濃度のテトロフォスミン及びアスコルビン酸を含む製剤の比較
下記の凍結乾燥製剤を調製した。
【0085】
【表5】

【0086】
これらの製剤を上記実施例2に記載したようにして再構成し、貯蔵し、放射能を測定した。再構成時及び再構成から24時間後に、RCPをITLC及びPCによって測定した。下記の結果が得られた。
【0087】
【表6】

【0088】
実施例4:放射線薬局におけるMyoview(商標)と本発明の多用量キットとの比較
下記の凍結乾燥製剤を調製した。
【0089】
【表7】

【0090】
各製剤のバイアル200を2つの別々の放射線薬局で試験した。製剤の再構成は、BMSジェネレーターからの99mTc−過テクネチウム酸塩(TcO)を用いて行った。Myoview(商標)製剤は10ml[18.5GBq(500mCi)]で再構成し、本発明の多用量キットは30ml[55.5GBq(1500mCi)]で再構成した。3mlのPrecisionGlide(Becton Dickinson社)注射器に、気泡を避けながら1.0mlの再構成製剤を装填した。
【0091】
各装填注射器を直立状態で6時間又は12時間貯蔵した。貯蔵後、注射器をプラスチック管内に配置し、排出の前後に針を取り付けた注射器の放射能を測定し、また排出後に針を取り除いて測定した。放射能値は崩壊に関して調整した。
【0092】
薬局1に関しては下記の値が得られた。
【0093】
【表8】

【0094】
薬局2に関しては下記の値が得られた。
【0095】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)生体適合性キャリヤー中にあるテトロフォスミンの99mTc錯体、
(ii)テトロフォスミン、並びに
(iii)アスコルビン酸及びそれの生体適合性陽イオンとの塩から選択される放射線防護剤
を含んでなる放射性医薬組成物であって、テトロフォスミン(i)+(ii)と放射線防護剤(iii)とのモル比が0.10:1.0〜1.0:1.0の範囲内にある放射性医薬組成物。
【請求項2】
テトロフォスミンと放射線防護剤とのモル比が0.2:1.0〜1.0:1.0の範囲内にある、請求項1記載の放射性医薬組成物。
【請求項3】
テトロフォスミンと放射線防護剤とのモル比が0.2:1.0〜0.5:1.0の範囲内にある、請求項1又は請求項2記載の放射性医薬組成物。
【請求項4】
さらに生体適合性還元剤を含む、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の放射性医薬組成物。
【請求項5】
生体適合性還元剤が第一スズイオンを含む、請求項4記載の放射性医薬組成物。
【請求項6】
さらにpH調整剤を含む、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の放射性医薬組成物。
【請求項7】
前記pH調整剤が重炭酸ナトリウムを含む、請求項6記載の放射性医薬組成物。
【請求項8】
さらに、5−スルホサリチル酸及びグルコン酸並びにこれらの生体適合性陽イオンとの塩から選択される1種以上のトランスキレーターを含む、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の放射性医薬組成物。
【請求項9】
テトロフォスミンの濃度が0.08〜0.40mMの範囲内にある、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の放射性医薬組成物。
【請求項10】
テトロフォスミンの濃度が0.10〜0.20mMの範囲内にある、請求項9記載の放射性医薬組成物。
【請求項11】
放射線防護剤の濃度が0.30〜0.60mMの範囲内にある、請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載の放射性医薬組成物。
【請求項12】
放射線防護剤の濃度が0.38〜0.57mMの範囲内にある、請求項11記載の放射性医薬組成物。
【請求項13】
放射線防護剤がアスコルビン酸である、請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載の放射性医薬組成物。
【請求項14】
生体適合性キャリヤーが食塩水を含む、請求項1乃至請求項13のいずれか1項記載の放射性医薬組成物。
【請求項15】
請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の放射性医薬組成物を臨床グレードの容器又は注射器内に収容してなる99mTc−テトロフォスミン放射性医薬品の単位患者用量であって、放射性医薬品の99mTc放射能含有量が1人の患者のイメージングに適している、単位患者用量。
【請求項16】
施術者を放射線量から保護するためのシリンジシールドを有する注射器に入れて供給される、請求項15記載の単位患者用量。
【請求項17】
請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の放射性医薬組成物を調製するための非放射性キットであって、当該キットが、
(i)テトロフォスミン、
(ii)アスコルビン酸及びそれの生体適合性陽イオンとの塩から選択される放射線防護剤、並びに
(iii)生体適合性還元剤
を含む製剤を内部に収容した適当な容器を含んでなり、テトロフォスミンと放射線防護剤とのモル比は請求項1乃至請求項3のいずれか1項に定義した通りである、非放射性キット。
【請求項18】
前記製剤が凍結乾燥されている、請求項17記載の非放射性キット。
【請求項19】
前記容器が、無菌健全性を維持しながら溶液の添加及び抜取りを許すクロージャーを備えた密封無菌容器である、請求項17又は請求項18記載の非放射性キット。
【請求項20】
前記クロージャーは、容器内容物に接触するその表面がエチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)又はその改質バージョンを含むコーティングで被覆されている、請求項19記載の非放射性キット。
【請求項21】
単一の多用量キットから4〜30回分の単位患者用量の99mTc−テトロフォスミン放射性医薬品を得ることができるように処方された多用量キットであり、前記単位用量が請求項15又は請求項16で定義した通りである、請求項19又は請求項20記載のキット。
【請求項22】
容器が容積20〜40cmの隔膜封止バイアルである、請求項21記載のキット。
【請求項23】
99mTc−テトロフォスミン放射性医薬品の複数回分の単位患者用量の調製方法であって、
(i)請求項21又は請求項22のいずれかに記載の多用量キットを99mTc−過テクネチウム酸塩の無菌溶液で再構成するか、或いは最初に生体適合性キャリヤーで、次いで99mTc−過テクネチウム酸塩の無菌溶液で再構成する段階、
(ii)任意には、段階(i)を抗菌保存剤の存在下で実施する段階、
(iii)99mTc−テトロフォスミン錯体を形成させて、所望の99mTc−テトロフォスミン放射性医薬品のバルク供給材料を含む溶液を得る段階、
(iv)任意には、99mTc−テトロフォスミン錯体のバルク供給材料の放射化学純度を確認する段階、
(v)段階(iii)のバルク供給材料から単位用量を適当な注射器又は容器内に抜き取る段階、及び
(vi)後の時点で追加の注射器又は容器を用いて段階(v)を繰り返すことで追加の単位用量を得る段階
を含んでなる方法。
【請求項24】
段階(i)で使用する99mTc−過テクネチウム酸塩が0.2〜100GBqの範囲内の放射能含有量を有する、請求項23記載の方法。

【公表番号】特表2010−539222(P2010−539222A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−525359(P2010−525359)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【国際出願番号】PCT/EP2008/062528
【国際公開番号】WO2009/037336
【国際公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(305040710)ジーイー・ヘルスケア・リミテッド (99)
【Fターム(参考)】