説明

改良された流動性を有する熱可塑性ポリエステルをベースとする成形用組成物

【課題】改良された流動性を有する熱可塑性ポリエステルをベースとする成形用組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、熱可塑性ポリエステル、および、少なくとも1種のオレフィンと、炭素原子1〜4個を有する少なくとも1種の脂肪族アルコールのメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルとからなる少なくとも1種のコポリマー、をベースとする、改良された流動性を有する熱可塑性成形用組成物であって、そのコポリマーのMFIが50g/10分以上である成形用組成物、これらの成形用組成物の調製方法、ならびに、電気産業、電子産業、電気通信産業、自動車産業またはコンピュータ産業、スポーツ分野、家庭用品分野、医薬品分野、またはエンターテイメント産業における成形品を製造するためのこれら成形用組成物の使用、に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリエステル、および、少なくとも1種のα−オレフィンと、炭素原子1〜4個を有する少なくとも1種の脂肪族アルコールのメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルとからなる少なくとも1種のコポリマー、をベースとする成形用組成物であって、そのコポリマーのMFI(メルトフローインデックス)が50g/10分以上である成形用組成物、これらの成形用組成物の調製方法、ならびに、電気産業、電子産業、電気通信産業、自動車産業またはコンピュータ産業、スポーツ分野、家庭用品分野、医薬品分野、またはエンターテイメント産業のための成形品を製造するためのこれら成形用組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
高度に流動性である熱可塑性組成物は、多種多様な射出成形用途において関心が持たれている。たとえば、電気産業、電子産業および自動車産業における薄肉の部品では、適切な射出成形機において、最低限の射出圧力および個々に最低限の型締め力を用いて材料を型に充填するために、熱可塑性プラスチック組成物の粘度を低くすることが必要である。このことは、多数個取り金型システムとして知られる、シェアードランナーシステムにより、二つ以上の射出成形部品に同時に材料を充填する場合にもあてはまる。さらに、より低粘度の熱可塑性組成物を使用して、サイクル時間の短縮が達成可能となることも多い。さらに、良好な流動性は、たとえば40重量%を超えるガラス繊維および/または鉱物質含量を有する高充填熱可塑性組成物の場合にとりわけ重要である。
【0003】
しかしながら、熱可塑性組成物が高い流動性を有していたとしても、それから製造される実際の部品は厳しい機械的要求条件にさらされるため、粘度を低下させたことによって、機械的性質になんらかの顕著な悪化を引き起こすことは許容できない。事実、製造する部品の構造のために、耐衝撃性または最外縁歪み(outer fibre strain)などのその機械的性質に求められる要求が、標準的な熱可塑性プラスチックに対する要求に比較して、はるかに厳しくなってくることが多い。
【0004】
高度に流動性である、低粘度の熱可塑性成形用組成物を得るにはいくつかの方法が存在する。
【0005】
一つの方法では、熱可塑性成形用組成物のためのベースポリマーとして極めて低分子量の低粘度ポリマー樹脂を使用する。しかしながら、低分子量のポリマー樹脂を使用すると、機械的性質、特に靱性が犠牲になることが多い。さらに、既存の重合プラントにおいて低粘度のポリマー樹脂を調製しようとすると、設備投資を伴う複雑な処置が必要となることも多い。
【0006】
別な方法では、流動助剤(flow aid)として知られ、流動性向上剤(flow agent)または流動補助剤(flow assistant)または内部潤滑剤としても知られているものを使用する。これらは、ポリマー樹脂への添加剤として加えることができる。
【0007】
それらの流動助剤は、たとえば、(非特許文献1)のような文献からも公知であって、たとえば、ポリオールの脂肪酸エステル、または脂肪酸からおよびアミンから誘導されるアミドなどであってよい。しかしながら、それらの脂肪酸エステル、たとえばペンタエリスリトールテトラステアレートまたはエチレングリコールジモンタノエートなどは、極性の熱可塑性プラスチック(たとえばポリアミド、ポリアルキレンテレフタレートまたはポリカーボネート等)との混和性が、極めて低い。それらの濃度は成形物の表面に近いほど高くなり、そのためそれらは離型助剤として使用されることもある。特に比較的高濃度のでは、加熱老化させるとそれらの成形品から表面へ移行することがあり、その表面に濃縮されるようになる。たとえば、コーティングした成形品の場合には、このことが、塗料または金属に対する接着性の面で問題となる可能性がある。
【0008】
表面活性な流動助剤の代案として、そのポリマー樹脂と相溶性のある内部流動助剤を使用することも可能である。この目的に適したものの例としては、低分子量化合物、または、その極性がポリマー樹脂の極性と類似している分岐状、高度に分岐状、または樹枝状(dendritic)のポリマーが挙げられる。それら高度に分岐状または樹枝状の系は、文献からも公知であり、それらのベースとしては、たとえば、(非特許文献2)、または(非特許文献3)に記載されているような、分岐状のポリエステル、ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリエーテルもしくはポリアミンが挙げられる。
【0009】
(特許文献1)には、窒素含有第一世代4カスケードデンドリマー:1,4−ジアミノブタン[4]プロピルアミン(N,N’−テトラビス(3−アミノプロピル)−1,4−ブタンジアミン)DAB(PA)を使用して、ナイロン−6、ナイロン−6,6およびポリブチレンテレフタレートの粘度を低下させることが記載されている。ポリアミドにおいて粘度を低下させる目的でDAB(PA)を使用しても、得られる成形組成物の耐衝撃性には実質上まったく影響を与えないが(差は5%未満)、PBTの場合には耐衝撃性が15%を超えて低下する。
【0010】
(特許文献2)には、エテンおよびアクリル酸エステルからなる2種のコポリマーであって、その一方のコポリマーが反応性のエポキシ官能基またはオキシラン官能基を担持しているものを使用することにより、ガラス繊維強化ポリエステルまたはガラス繊維強化ポリカーボネートの靱性を改良することが記載されている。成形用組成物における流動性の改良がその発明の目的であるが、記載されている比較系は、ポリエステルと、エテンおよびアクリル酸メチルからなるコポリマーとを含む純粋なポリエステル系より高い溶融粘度を有している。
【0011】
(特許文献3)には、ポリエステルと、エテンおよび非反応性アクリル酸アルキルからなりその(2.16kg、190℃において)MFIが5.8g/10分であるコポリマーとの組合せ、ならびに、ポリエステルと、エテンおよび追加の反応性基を有するアクリル酸エステルからなるコポリマーとの組合せの、低温靱性を有する混合物が記載されている。その出願の主題は、成形用組成物における流動性の改良ではない。
【0012】
(特許文献4)には、エテンと非反応性アクリル酸アルキルとからなるコポリマーを含む混合物、そしてさらにはエテンと追加の反応性基を有するアクリル酸エステルとからなるコポリマーを含む混合物により、熱可塑性プラスチック、とりわけポリアミドおよびポリブチレンテレフタレートの耐衝撃性を改質することが記載されている。そこでは、成形用組成物の流動性に関する説明はなされていない。
【0013】
(特許文献5)には、強化材ならびにポリエステルと、エテンおよび非反応性のアクリル酸アルキルからなるコポリマーとの組合せ、そしてさらには強化材ならびにポリエステルと、エテンおよび追加の反応性基を有するアクリル酸エステルからなるコポリマーとの組合せの、低温靱性を有する混合物が記載されている。その出願における最良の実施態様は、エテンおよびアクリル酸メチルからなるコポリマーを用いることにより達成される。その出願の主題は、成形用組成物における流動性の改良ではない。
【0014】
(特許文献6)には、ポリエステルとコア−シェルゴムとの組合せ、ならびにポリエステルとエテンおよびアクリル酸エステル(追加の反応性基のある場合と無い場合の両方)からなる2種の異なるコポリマーとの組合せを含む混合物が記載されている。表4および表9によれば、その成形用組成物の靱性が改良でき、さらに、ポリエステルと上述のその他の成分の一方とからなる二元系混合物でさえもその流動性が改良できるが、使用した混合物では、純ポリエステルの場合より改良されているとは言えない。使用されたコポリマーは、エテンおよびアクリル酸2−エチルヘキシルからなり、(190℃、2.16kgにおいて)2g/10分のMFI値(MFI=Melt Flow Index(メルトフローインデックス))を有している。
【特許文献1】欧州特許出願公開第0 682 057A1号明細書
【特許文献2】国際公開第98 27159号パンフレット
【特許文献3】特開平1−247454号公報
【特許文献4】EP−A 1 191 067号明細書 (対応は米国特許第6 759 480号明細書)
【特許文献5】EP−A 0 838 501号明細書 (対応は米国特許第6 020 414号明細書)
【特許文献6】国際公開第2001 038 437号パンフレット (対応はAU4 610 801A号明細書)
【非特許文献1】クンシュトシュトッフェ(Kunststoffe)、2000年、第90巻(第9号)、116〜118頁
【非特許文献2】クンシュトシュトッフェ(Kunststoffe)、2001年、第91巻(第10号)179〜190頁
【非特許文献3】アドバンシズ・イン・ポリマー・サイエンス(Advances in Polymer Science)1999年、第143巻(分岐状ポリマーII)、1〜34頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで本発明の目的は、低粘度の直鎖ポリマー樹脂を使用した場合、または文献に開示されている添加剤を使用した場合に起きるような、たとえば耐衝撃性、破断時引張歪みおよび加水分解抵抗性などの物性における低下を結果として受ける恐れなしに、ポリマー溶融物を添加剤とともに処理することにより熱可塑性ポリエステルをベースとする重縮合組成物の粘度を低下させることにある。「剛性」および「極限引張強さ」の面においては、この熱可塑性ポリエステルをベースとする組成物は、可能な限り、重縮合熱可塑性ポリエステルをベースとするが添加剤とともに処理されていない組成物と異なっていてはならない。これは、熱可塑性ポリエステルをベースとするプラスチック構造材料を問題なく置き換えることを可能とするためである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、本発明により提供される以下の成分を含む熱可塑性成形用組成物によって達成することができる:
A)10〜99重量部、好ましくは30〜98重量部、特に好ましくは60〜97重量部の、少なくとも1種の熱可塑性ポリエステル、好ましくはポリアルキレンテレフタレート、および
B)1〜20重量部、好ましくは2〜15重量部、特に好ましくは3〜9重量部の、少なくとも1種のオレフィン好ましくは1種のα−オレフィンと、炭素原子1〜4個を有する少なくとも1種の脂肪族アルコールのメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルと、からなる少なくとも1種のコポリマーであって、そのコポリマーB)のMFI(メルトフローインデックス)が50g/10分以上、好ましくは80〜900g/10分であるコポリマー。
【0017】
本発明の目的においては、MFI(メルトフローインデックス)の測定または定量は常に190℃、試験荷重2.16kgで実施した。
【0018】
驚くべきことには、熱可塑性ポリエステル、および、そのMFIが50g/10分以上である、α−オレフィンと炭素原子1〜4個を有する脂肪族アルコールのメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルとのコポリマー、の混合物が、これから製造される本発明の成形用組成物の溶融粘度を望む通りに低下させることが見いだされ、さらに、これら本発明の成形用組成物が、コポリマーを含まない成形用組成物と比較した場合、何の犠牲を示すこともなく、むしろ、耐衝撃性、最外縁歪み、加水分解抵抗性、密度、表面品質および収縮などの物性において、実に顕著な改良を示すことが見いだされた。これらの成形用組成物は、薄肉技術における使用に極めて適している。
【0019】
本発明においては、熱可塑性成形用組成物には、成分A)として、少なくとも1種の熱可塑性ポリエステル、好ましくは半芳香族(semiaromatic)ポリエステルが含まれる。
【0020】
本発明において成分A)として使用される、熱可塑性で、好ましくは半芳香族の、ポリエステルは、ポリアルキレンテレフタレートの群から選択され、好ましくはポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、およびポリブチレンテレフタレート、特に好ましくはポリブチレンテレフタレートおよびポリエチレンテレフタレート、極めて特に好ましくはポリブチレンテレフタレートの群から選択されてきた。
【0021】
半芳香族ポリエステルとは、その分子に芳香族部分のみではなく、脂肪族部分も含む物質である。
【0022】
本発明の目的においては、ポリアルキレンテレフタレートは、芳香族ジカルボン酸またはこれらの反応性誘導体(たとえば、ジメチルエステルまたは酸無水物)と、脂肪族ジオール、脂環式ジオールまたは芳香脂肪族ジオールと、から誘導される反応生成物、またはこれらの反応生成物の混合物である。
【0023】
好適なポリアルキレンテレフタレートは、テレフタル酸(またはその反応性誘導体)と、炭素原子2〜10個を有する脂肪族ジオールまたは脂環式ジオールとから、公知の方法により製造することができる(クンシュトシュトッフ−ハントブッフ(Kunststoff−Handbuch)[プラスチック・ハンドブック(Plastic Handbook)]、第VIII巻、695頁以下、カルル・ハンザー・フェルラーク(Karl−Hanser−Verlag)、ミュンヘン(Munich)、1973年、参照)。
【0024】
好適なポリアルキレンテレフタレートは、ジカルボン酸を基準にして、少なくとも80モル%、好ましくは90モル%のテレフタル酸基、ならびに、ジオール成分を基準にして、少なくとも80モル%、好ましくは少なくとも90モル%のエチレングリコール基、および/または1,3−プロパンジオール基、および/または1,4−ブタンジオール基を含む。
【0025】
好適なポリアルキレンテレフタレートは、テレフタル酸基に加えて、最高で20モル%までの、炭素原子8〜14個を有する他の芳香族ジカルボン酸の基、または炭素原子4〜12個を有する脂肪族ジカルボン酸の基、(たとえば、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シクロヘキサン二酢酸、シクロヘキサンジカルボン酸の基)、を含んでいてもよい。
【0026】
好適なポリアルキレンテレフタレートは、エチレン基に加えて、また個々に1,3−プロパンジオール基に加えて、また個々に1,4−ブタンジオール基に加えて、最高で20モル%までの、炭素原子3〜12個を有する他の脂肪族ジオールもしくは炭素原子6〜21個を有する脂環式ジオール、(たとえば、1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、3−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールおよび2,2,4−トリメチル−1,6−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,4−ジ(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、2,4−ジヒドロキシ−1,1,3,3−テトラメチルシクロブタン、2,2−ビス(3−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンおよび2,2−ビス(4−ヒドロキシプロポキシフェニル)プロパンの基)、を含んでいてもよい(DE−A 24 07 674号明細書(対応は米国特許第4 035 958号明細書)、DE−A 24 07 776号明細書、DE−A 27 15 932号明細書(対応は米国特許第4 176 224号明細書))。
【0027】
ポリアルキレンテレフタレートは、たとえば、DE−A 19 00 270号明細書(対応は米国特許第3 692 744号明細書)に記載されているように、比較的少量の3価もしくは4価のアルコール、または3塩基もしくは4塩基のカルボン酸を組み入れることにより、分岐状とすることも可能である。好適な分岐剤の例としては、トリメシン酸、トリメリット酸、トリメチロールエタンおよびトリメチロールプロパン、ならびにペンタエリスリトールなどが挙げられる。
【0028】
酸成分を基準にして、1モル%を超える分岐剤を使用するのは、好ましくない。
【0029】
特に好ましいのは、テレフタル酸およびその反応性誘導体(たとえば、そのジアルキルエステル)と、エチレングリコールおよび/または1,3−プロパンジオールおよび/または1,4−ブタンジオールとだけから製造したポリアルキレンテレフタレート(ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレート)、ならびにこれらのポリアルキレンテレフタレートの混合物である。
【0030】
その他の好適なポリアルキレンテレフタレートとしては、少なくとも2種の上述の酸成分および/または少なくとも2種の上述のアルコール成分から製造したコポリエステルがあり、特に好適なコポリエステルは、ポリ(エチレングリコール/1,4−ブタンジオール)テレフタレートである。
【0031】
ポリアルキレンテレフタレートの固有粘度は一般に、約0.3cm/g〜1.5cm/g、好ましくは0.4cm/g〜1.3cm/g、特に好ましくは0.5cm/g〜1.0cm/gである。それぞれの数値は、フェノール/o−ジクロロベンゼン(1:1重量部)中25℃で測定したものである。
【0032】
本発明において使用される熱可塑性ポリエステルは、他のポリエステルと共に、および/または他のポリマーと共に混合物として使用することもできる。
【0033】
従来の添加剤(たとえば、離型剤、安定剤、および/または流動助剤)は、本発明において使用されるポリエステルと共に溶融物中で混合することができ、あるいは、これらの表面に塗布することができる。
【0034】
本発明の組成物は、成分B)として、少なくとも1種のオレフィン、好ましくはα−オレフィンと、炭素原子1〜4個を有する少なくとも1種の脂肪族アルコールのメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルとからなるコポリマー、好ましくはランダムコポリマーとを含み、そのコポリマーB)のMFIは、50g/10分以上、好ましくは80〜900g/10分である。一つの好ましい実施態様においては、4重量%未満、特に好ましくは1.5重量%未満、極めて特に好ましくは0重量%のコポリマーB)が、さらなる反応性官能基(エポキシド、オキセタン、酸無水物、イミド、アジリジン、フラン、酸、アミン、オキサゾリンからなる群から選択される)を含むモノマー単位からなる。
【0035】
コポリマーB)の構成成分として好適なオレフィン、好ましくはα−オレフィンは、炭素原子2〜10個を有しているのが好ましく、これらは非置換であっても、あるいは1個または複数の脂肪族基、脂環式基または芳香族基によって置換されていてもよい。
【0036】
好適なオレフィンは、エテン、プロペン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、3−メチル−1−ペンテンからなる群から選択される。特に好適なオレフィンはエテンおよびプロペンであり、エテンが極めて特に好ましい。
【0037】
上述のオレフィンの混合物もまた好適である。
【0038】
また別な好ましい実施態様においては、コポリマーB)のさらなる反応性官能基(エポキシド、オキセタン、酸無水物、イミド、アジリジン、フラン、酸、アミン、オキサゾリンからなる群から選択される)が、もっぱらオレフィンを用いることにより、コポリマーB)の中に導入される。
【0039】
コポリマーB)の中のオレフィンの含量は、50〜95重量%、好ましくは61〜93重量%である。
【0040】
コポリマーB)は、オレフィンに加えて、第二の構成成分によりさらに定義される。好適な第二の構成成分は、そのアルキル基が炭素原子1〜4個で形成されているアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステルである。
【0041】
たとえば、メタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルのアルキル基は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチルからなる群から選択することができる。メタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルのアルキル基は、4個の炭素原子を有していて、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチルまたはtert−ブチルを含むことが極めて特に好ましい。特に好ましいのは、アクリル酸n−ブチルである。
【0042】
メタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルのアルキル基は、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチルからなる群から選択するのが好ましい。
【0043】
本発明において特に好ましいコポリマーB)は、オレフィンをアクリル酸ブチル、特にアクリル酸n−ブチルと共重合させたコポリマーB)である。
【0044】
上述のアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの混合物も、同様に好適である。本明細書においては、コポリマーB)中のアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの全量を基準にして、50重量%を超える、特に好ましくは90重量%を超える、極めて特に好ましくは100重量%のアクリル酸ブチルを使用するのが好ましい。
【0045】
また別な好ましい実施態様においては、コポリマーB)のさらなる反応性官能基(エポキシド、オキセタン、酸無水物、イミド、アジリジン、フラン、酸、アミン、オキサゾリンからなる群から選択される)が、もっぱらアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを用いることにより、コポリマーB)の中に導入される。
【0046】
コポリマーB)の中のアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの含量は、好ましくは5〜50重量%、特に好ましくは7〜39重量%である。
【0047】
好適なコポリマーB)は、その組成だけではなく、それらが低分子量であることも特徴とする。したがって、本発明の成形用組成物に適したコポリマーB)は、温度190℃荷重2.16kgで測定したそのMFI値が、少なくとも50g/10分、好ましくは80〜900g/10分であるものに限られる。
【0048】
成分B)の好適なコポリマーの例は、アトフィナ(Atofina)(2004年10月以降はアルケマ(Arkema))によって、ロトリル(Lotryl)(登録商標)の商標で供給されている物質の群から選択することができるもので、これらは通常ホットメルト接着剤として使用されているものである。
【0049】
一つの好ましい実施態様においては、本発明の熱可塑性成形用組成物には、成分A)およびB)に加えて、一連のC)、D)、E)、F)またはG)から選択される1種または複数の成分が含まれていてよい。
【0050】
このタイプの一つの好ましい実施態様では、本熱可塑性成形用組成物に、成分A)およびB)に加えて、
C)0.001〜70重量部、好ましくは5〜50重量部、特に好ましくは9〜47重量部の、充填剤および/または強化材、を含むこともできる。
【0051】
しかしながら、この材料は、2種以上の異なる、充填剤および/もしくは強化材(たとえば、タルク、雲母、シリケート、石英、二酸化チタン、ウォラストナイト、カオリン、非晶質シリカ、炭酸マグネシウム、チョーク、長石、硫酸バリウム、ガラスビーズをベースとするもの)、ならびに/または、繊維質充填剤および/もしくは強化材(炭素繊維および/もしくはガラス繊維をベースとするもの)からなる混合物を含んでいてもよい。タルク、マイカ、シリケート、石英、二酸化チタン、ウォラストナイト、カオリン、非晶質シリカ、炭酸マグネシウム、チョーク、長石、硫酸バリウムおよび/またはガラス繊維をベースとする鉱物微粒子充填剤を使用するのが好ましい。本発明においては、タルク、ウォラストナイト、カオリンおよび/またはガラス繊維をベースとする鉱物微粒子充填剤を使用するのが特に好ましい。
【0052】
たとえば自動車における外装車体部品のための用途のように、寸法安定性における等方性や、高温寸法安定性が要求されるような用途においては特に、鉱物充填剤、特にタルク、ウォラストナイトまたはカオリンを使用するのが好ましい。
【0053】
成分C)として、針状の鉱物充填剤を使用することも、さらに特に好ましい。本発明においては、「針状の鉱物充填剤」とは、突出した針状の形状を有する鉱物充填剤である。一例を挙げれば、針状のウォラストナイトである。その材料の長さ対直径の比は、好ましくは2:1〜35:1、特に好ましくは3:1〜19:1、最も好ましくは4:1〜12:1である。本発明の針状鉱物質の平均粒径は、サイラス・グラニュロメータ(CILAS GRANULOMETER)を用いた測定で、好ましくは20μm未満、特に好ましくは15μm未満、特別に好ましくは10μm未満である。
【0054】
先に述べたように、充填剤および/または強化材は、適当であるならば、たとえばシランをベースとする、例えば単一カップリング剤またはカップリング剤系を使用して、表面改質をしておいてもよい。しかしながら、このような前処理が必須という訳ではない。特にガラス繊維を使用する場合には、シランに加えて、ポリマー分散体、被膜形成剤、分岐剤および/またはガラス繊維加工助剤などを用いることもできる。
【0055】
本発明において特に好適に使用される、その繊維の直径が一般に7〜18μm、好ましくは9〜15μmであるガラス繊維は、連続フィラメント繊維の形態で加えるか、あるいは細断または粉砕されたガラス繊維の形態で加える。この繊維は、適切なサイズ系を備えることができ、単一カップリング剤またはカップリング剤系(たとえばシランをベースとするもの)を付与しておくことができる。
【0056】
前処理のためのシランベースのカップリング剤としてよく用いられるものは、たとえば一般式(I):
(I) (X−(CH−Si−(O−C2r+14−k
を有するシラン化合物であり、式中、これらの置換基は以下のものである:
X:NH−、HO−、
【0057】
【化1】

q:2〜10、好ましくは3〜4の整数、
r:1〜5、好ましくは1〜2の整数、
k:1〜3、好ましくは1の整数。
【0058】
好適なカップリング剤は、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノブチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン、ならびに、置換基Xとしてグリシジル基を含むこれらに対応するシラン、の群からのシラン化合物である。
【0059】
充填剤に表面コーティングをするためのシラン化合物の一般的な使用量は、鉱物充填剤を基準にして、0.05〜2重量%、好ましくは0.25〜1.5重量%、特には0.5〜1重量%である。
【0060】
加工により成形用組成物または成形品に付与される結果は、成形用組成物中または成形品中の粒子状充填剤のd97値またはd50値が、最初に使用される充填剤のそれよりも小さくなる可能性があるということである。加工により成形用組成物または成形品に付与される結果は、成形用組成物中または成形品中のガラス繊維の長さ分布が、最初に使用される材料のそれよりも短くなる可能性があるということである。
【0061】
また別な好ましい実施態様においては、本熱可塑性成形用組成物に、成分A)およびB)および/またはC)に加えて、
D)0.001〜50重量部、好ましくは9〜35重量部の、少なくとも1種の難燃剤、がさらに含まれていてもよい。
【0062】
成分D)に使用することが可能な難燃剤は、市販されている共力剤を有する有機ハロゲン化合物、市販されている有機窒素化合物、あるいは有機/無機リン化合物であり、これらを個別に使用しても、混合物で使用してもよい。鉱物質の難燃化添加剤、たとえば、水酸化マグネシウムまたは炭酸CaMg水和物(たとえば、DE−A 4 236 122号明細書(対応はCA2 109 024A1号明細書))を使用することも可能である。脂肪族または芳香族スルホン酸の塩を使用することも可能である。ハロゲン含有、特に臭素化化合物および塩素化化合物の例としては以下が挙げられる:エチレン−1,2−ビステトラブロモフタルイミド、エポキシ化テトラブロモビスフェノールA樹脂、テトラブロモビスフェノールAオリゴカーボネート、テトラクロロビスフェノールAオリゴカーボネート、ペンタブロモポリアクリレート、臭素化ポリスチレンおよびデカブロモジフェニルエーテル。好適な有機リン化合物の例としては、国際公開第98/17720号パンフレット(対応は米国特許第6 538 024号明細書)に記載のリン化合物〔たとえば、リン酸トリフェニル(TPP)、レソルシノールビス(ジフェニルホスフェート)(RDP)およびこれらから誘導されるオリゴマー、ならびにビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)(BDP)およびこれらから誘導されるオリゴマー、ならびに有機および無機ホスホン酸誘導体およびこれらの塩〕、有機および無機ホスフィン酸誘導体およびこれらの塩、特に金属ジアルキルホスフィネート〔たとえば、アルミニウムトリス[ジアルキルホスフィネート]または亜鉛ビス[ジアルキルホスフィネート]〕、さらには赤リン、ホスファイト、ハイポホスファイト、ホスフィンオキシド、ホスファゼン、メラミンピロホスフェート、およびこれらの混合物が挙げられる。使用可能な窒素化合物としては、アラントイン誘導体、シアヌル酸誘導体、ジシアンジアミド誘導体、グリコルリル誘導体、グアニジン誘導体、アンモニウム誘導体およびメラミン誘導体、好ましくはアラントイン、ベンゾグアナミン、グリコルリル、メラミン、メラミンの縮合物(たとえばメレム、メラムまたはメロム)、および、個々に、このタイプのメラミンおよびメラミン付加体と酸との高縮合レベルの化合物〔たとえば、シアヌル酸との付加体(メラミンシアヌレート)、リン酸との付加体(メラミンホスフェート)または縮合リン酸との付加体(たとえば、メラミンポリホスフェート)〕の群からのものが挙げられる。好適な共力剤の例としては、アンチモン化合物(特に三酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウムおよび五酸化アンチモン)、亜鉛化合物(たとえば、ホウ酸亜鉛、酸化亜鉛、リン酸亜鉛および硫化亜鉛)、スズ化合物(たとえば、スズ酸スズおよびホウ酸スズ)、ならびにマグネシウム化合物(たとえば、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムおよびホウ酸マグネシウム)が挙げられる。炭化剤(carbonizer)として知られている物質を難燃剤に添加することも可能であり、その例としては、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ポリカーボネート、ポリフェニルエーテル、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、およびポリエーテルケトン、たれ防止剤、(たとえばテトラフルオロエチレンポリマーなど)が挙げられる。
【0063】
また別な好ましい実施態様においては、本熱可塑性成形用組成物に、成分A)およびB)および/またはC)および/またはD)に加えて、
E)0.001〜80重量部、好ましくは2〜40重量部、特に好ましくは4〜19重量部の、少なくとも1種のエラストマー変性剤(elastomer modifier)が含まれていてもよい。
【0064】
成分E)として使用されるエラストマー変性剤には、以下のグラフトポリマーの1種または複数が含まれる:
E.1: 5〜95重量%、好ましくは30〜90重量%の、少なくとも1種のビニルモノマー、
E.2: 5〜95重量%、好ましくは10〜70重量%の、10℃未満、好ましくは0℃未満、特に好ましくは−20℃未満のガラス転移温度を有する1種または複数のグラフトベース。
【0065】
グラフトベースE.2の中央値粒度(d50値)は一般に0.05〜10μm、好ましくは0.1〜5μm、特に好ましくは0.2〜1μmである。
【0066】
モノマーE.1は、以下の成分を含む混合物であることが好ましい:
E.1.1: 50〜99重量%の、ビニル芳香族化合物および/または環置換ビニル芳香族化合物(たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン)および/またはメタクリル酸(C〜C)−アルキル(たとえば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル)、および
E.1.2: 1〜50重量%の、シアン化ビニル(不飽和ニトリル、たとえばアクリロニトリルおよびメタクリロニトリルなど)および/または(メタ)アクリル酸(C〜C)−アルキル(たとえば、メタクリル酸メチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸tert−ブチル)および/または不飽和カルボン酸の誘導体(たとえば無水物およびイミド)、(たとえば、無水マレイン酸およびN−フェニルマレイミド)。
【0067】
好適なモノマーE.1.1は、スチレン、α−メチルスチレンおよびメタクリル酸メチルのモノマーの少なくとも1種から選択され、好適なモノマーE.1.2は、アクリロニトリル、無水マレイン酸およびメタクリル酸メチルの少なくとも1種のモノマーから選択される。
【0068】
E.1.1としてスチレン、E.1.2としてアクリロニトリルが特に好適なモノマーである。
【0069】
エラストマー変性剤E)において使用されるグラフトポリマーのために好適なグラフトベースE.2の例としては、ジエンゴム、EP(D)Mゴム(すなわちエチレン/プロピレンをベースとするゴム)、ならびに、適切な場合、ジエン、アクリレートゴム、ポリウレタンゴム、シリコーンゴム、クロロプレンゴムおよびエチレン−酢酸ビニルゴムなどが挙げられる。
【0070】
好適なグラフトベースE.2は、ジエンゴム(たとえば、ブタジエン、イソプレンなどをベースとするもの)またはジエンゴムの混合物、または(たとえば、E.1.1およびE.1.2に記載の)共重合可能なモノマーをさらに加えたジエンゴムのコポリマーまたはこれらの混合物である。ただし、成分E.2のガラス転移温度は、10℃未満、好ましくは0℃未満、特に好ましくは−10℃未満である。
【0071】
グラフトベースE.2としては、純ポリブタジエンゴムが特に好ましい。
【0072】
特に好適なポリマーE)の例として、ABSポリマー(エマルション、バルク、およびサスペンションABS)があり、たとえば、DE−A 2 035 390号明細書(対応は米国特許第3 644 574号明細書)、DE−A 2 248 242号明細書(対応は英国特許出願公開第A1 409 275号明細書)、またはウルマン(Ullmann)のエンチクロペディー・デア・テクニッシェン・ヘミー(Enzyklopaedie der Technischen Chemie)[エンサイクロペディア・オブ・インダストリアル・ケミストリー(Encyclopaedia of Industrial Chemistry)]、第19巻(1980年)、頁280以下に記載がある。グラフトベースE.2のゲル含量は、少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも40重量%である(トルエン中で測定)。
【0073】
エラストマー変性剤、すなわちグラフトコポリマーE)は、フリーラジカル重合、たとえば、エマルション重合、懸濁重合、溶液重合またはバルク重合により製造され、エマルション重合またはバルク重合によるのが好ましい。
【0074】
その他の特に好適なグラフトゴムは、ABSポリマーであり、これは、米国特許第4 937 285号明細書に従って、有機過酸化物とアスコルビン酸を含む重合開始剤系を用いた酸化還元開始により製造される。
【0075】
グラフト化反応の際に、グラフトベースにグラフトモノマーが必ずしも完全にグラフトされる必要はないということが知られているので、グラフトベースの存在下にグラフトモノマーを(共)重合させることによって得られ、その処理と同時に製造される製品もまた、本発明におけるグラフトポリマーEである。
【0076】
好適なアクリレートゴムは、好ましくは、他の重合可能なエチレン性不飽和モノマーのアクリル酸アルキルを(適切な場合、E.2を基準にして最高で40重量%まで)含むポリマーであるグラフトベースE.2をベースにしている。好適な重合可能なアクリル酸エステルとして、C〜C−アルキルエステル(たとえばメチル、エチル、ブチル、n−オクチルおよび2−エチルヘキシルエステルなど);ハロアルキルエステル、好ましくはハロC〜C−アルキルエステル(たとえばアクリル酸クロロエチルなど)、ならびにこれらのモノマーの混合物が挙げられる。
【0077】
架橋させるために、2個以上の重合可能な二重結合を有するモノマーを共重合させることができる。架橋性モノマーの好適な例としては、炭素原子3〜8個を有する不飽和モノカルボン酸のエステル、炭素原子3〜12個を有する不飽和一価アルコールのエステル、またはOH基2〜4個と炭素原子2〜20個を有する飽和ポリオールのエステル(たとえば、エチレングリコールジメタクリレート、メタクリル酸アリル);ポリ不飽和複素環式化合物(たとえば、トリビニルおよびトリアリルシアヌレート);多官能ビニル化合物(たとえばジ−またはトリ−ビニルベンゼン);ならびにリン酸トリアリルおよびフタル酸ジアリルが挙げられる。
【0078】
好適な架橋性モノマーは、メタクリル酸アリル、エチレングリコールジメタクリレート、フタル酸ジアリル、および少なくとも3個のエチレン性不飽和基を有する複素環式化合物である。
【0079】
特に好適な架橋性モノマーは、環状モノマーのトリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアクリロイルヘキサヒドロ−s−トリアジン、トリアリルベンゼンである。架橋性モノマーの量は、グラフトベースE.2を基準にして、好ましくは0.02〜5重量%、特に0.05〜2重量%である。
【0080】
少なくとも3個のエチレン性不飽和基を有する環状架橋性モノマーの場合には、その量をグラフトベースE.2の1重量%未満に制限するのが有利である。
【0081】
適切な場合に、アクリル酸エステルに加えてグラフトベースE.2の製造に使用することができる、好適な「他の」重合可能なエチレン性不飽和モノマーの例としては、アクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン、アクリルアミド、ビニルC〜C−アルキルエーテル、メタクリル酸メチル、ブタジエンが挙げられる。グラフトベースE.2として好適なアクリレートゴムは、そのゲル含量が少なくとも60重量%であるエマルションポリマーである。
【0082】
E.2においてさらに好適なグラフトベースは、グラフトをさせるのに活性な部位を有するシリコーンゴムであり、たとえば、DE−A 3 704 657号明細書(対応 米国特許第4 859 740号明細書)、DE−A 3 704 655号明細書(対応は米国特許第4 861 831号明細書)、DE−A 3 631 540号明細書(対応は米国特許第4 806 593号明細書)およびDE−A 3 631 539号明細書(対応は米国特許第4 812 515号明細書)に記載されている。
【0083】
グラフトポリマーをベースとするエラストマー変性剤に加えて、成分E)として、グラフトポリマーをベースとしないが、10℃未満、好ましくは0℃未満、特に好ましくは−20℃未満のガラス転移温度を有するエラストマー変性剤を使用することも可能である。これらの例として、たとえば、ブロックコポリマー構造を有するエラストマーが挙げられる。これらの例として、たとえば、熱可塑的な溶融変化をし得るエラストマーが挙げられる。ここで例に挙げた好適な材料として、たとえば、EPMゴム、EPDMゴム、および/またはSEBSゴムがある。
【0084】
また別な好ましい実施態様においては、本熱可塑性成形用組成物に、成分A)およびB)、および/またはC)および/またはD)および/またはE)に加えて、
F)0.001〜80重量部、好ましくは10〜70重量部、特に好ましくは20〜60重量部の、ポリカーボネートが含まれていてもよい。
【0085】
好適なポリカーボネートは、一般式(II)のビスフェノールをベースとするホモポリカーボネートおよびコポリカーボネートである。
HO−Z−OH (II)
(式中、Zは、炭素原子6〜30個を有し、1個または複数の芳香族基を含む、2価の有機基である)
【0086】
式(III)のビスフェノールが好ましい。
【0087】
【化2】

式中、
Aは、単結合、C〜C−アルキレン、C〜C−アルキリデン、C〜C−シクロアルキリデン、−O−、−SO−、−CO−、−S−、−SO−、またはC〜C12−アリーレン(その上には場合によりヘテロ原子を含むさらなる芳香環が縮合していてもよい)であるか、
または、Aは式(IV)または(V)の基であり、
【0088】
【化3】

式中、
Xは、それぞれの場合で、C〜C12−アルキル、好ましくはメチルまたはハロゲン、好ましくは塩素および/または臭素であり、
nは、それぞれの場合で、他から独立して0、1または2であり、
pは、1または0であり、
およびRは、Yに対して個々に選択可能であり、互いに独立して、水素またはC〜C−アルキル、好ましくは、水素、メチルまたはエチルであり、
Yは炭素であり、かつ、
mは、4〜7、好ましくは4または5の整数である(ただし、少なくとも1個のY原子の上では、RおよびRは同時にアルキルである)。
【0089】
一般式(II)のビスフェノールの例は、以下の群に属するビスフェノールである:ジヒドロキシビフェニル、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン、ビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、インダンビスフェノール、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド、およびα,α’−ビス(ヒドロキシフェニル)ジイソプロピルベンゼン。
【0090】
一般式(II)のビスフェノールの他の例として、上述のビスフェノールの誘導体が挙げられ、たとえば、上述のビスフェノールの芳香環をアルキル化またはハロゲン化することによって得ることができる。
【0091】
一般式(II)のビスフェノールの例として特に、以下の化合物が挙げられる:ヒドロキノン、レソルシノール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−p/m−ジイソプロピルベンゼン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(すなわち、ビスフェノールA)、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、2,4−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−o−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン(すなわち、ビスフェノールM)、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼンおよびインダンビスフェノール。
【0092】
本発明において成分F)として使用するのに特に好ましいポリカーボネートは、ビスフェノールAをベースとするホモポリカーボネート、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンをベースとするホモポリカーボネート、および2種のモノマー、ビスフェノールAと1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンとをベースとするコポリカーボネートである。
【0093】
記載した一般式(II)のビスフェノールは、たとえば対応するフェノールとケトンとから、公知のプロセスにより製造することができる。
【0094】
上述のビスフェノールおよびそれらの製造方法は、たとえば次の単行書に記載されている:H.シュネル(H.Schnell)『ケミストリー・アンド・フィジックス・オブ・ポリカーボネーツ(Chemistry and Physics of Polycarbonates)』(ポリマー・レビューズ(Polymer Reviews)第9巻)、77〜98頁(インターサイエンス・パブリッシャーズ(Interscience Publishers)、ニューヨーク(New York)、ロンドン(London)、シドニー(Sydney)、1964年)。
【0095】
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンおよびその製造法は、たとえば米国特許第4 982 014号明細書に記載されている。
【0096】
インダンビスフェノールは、たとえば、イソプロペニルフェノールもしくはその誘導体、またはイソプロペニルフェノールのダイマーもしくはその誘導体から、有機溶媒中フリーデルクラフツ触媒の存在下で製造することができる。
【0097】
ポリカーボネートは公知のプロセスにより製造することができる。好適なポリカーボネートの製造プロセスの例として、ホスゲンを使用した界面プロセスによるビスフェノールからの製造、またはホスゲンを使用した均一相プロセス(ピリジンプロセスとして知られている)によるビスフェノールからの製造、または炭酸エステルを使用した溶融エステル交換プロセスによるビスフェノールからの製造が挙げられる。これらの製造プロセスは、たとえば以下の文献に記載されている:H.シュネル(H.Schnell)『ケミストリー・アンド・フィジックス・オブ・ポリカーボネーツ(Chemistry and Physics of Polycarbonates)』(ポリマー・レビューズ(Polymer Reviews)第9巻)、31〜76頁(インターサイエンス・パブリッシャーズ(Interscience Publishers)、ニューヨーク(New York)、ロンドン(London)、シドニー(Sydney)、1964年)。
【0098】
ポリカーボネートの製造においては、不純物濃度が極めて低い原料および補助原料を使用するのが好ましい。特に、溶融エステル交換プロセスによる製造においては、使用するビスフェノールおよび使用する炭酸誘導体に含まれるアルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンが最低限であるということが重要である。そのような純粋な原料は、炭酸誘導体(たとえば炭酸エステル)およびビスフェノールを、再結晶、洗浄または蒸留することによって得ることができる。
【0099】
たとえば超遠心法または散乱光測定により測定可能な重量平均モル質量(Mw)が、本発明において有用なポリカーボネートでは、10 000〜200 000g/モルであるのが好ましい。これらの重量平均モル質量は、特に好ましくは12 000〜80 000g/モル、特に好ましくは20 000〜35 000g/モルである。
【0100】
たとえば、適切な量の連鎖停止剤を用いる公知の方法により、本発明のポリカーボネートの平均モル質量を調節することが可能である。この連鎖停止剤は個別に使用することも可能であるし、あるいは各種の連鎖停止剤の混合物の形態で使用することも可能である。
【0101】
好適な連鎖停止剤は、モノフェノールか、そうでなければモノカルボン酸かのいずれかである。好適なモノフェノールの例としては、フェノール、p−クロロフェノール、p−tert−ブチルフェノール、クミルフェノールまたは2,4,6−トリブロモフェノール、およびさらには、長鎖アルキルフェノール〔たとえば、4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール〕、または、個々に、全部でアルキル置換基中の炭素原子を8〜20個有するモノアルキルフェノールおよびジアルキルフェノール〔たとえば、3,5−ジ−tert−ブチルフェノール、p−tert−オクチルフェノール、p−ドデシルフェノール、2−(3,5−ジメチルヘプチル)フェノールまたは4−(3,5−ジメチルヘプチル)フェノール〕などがある。好適なモノカルボン酸は、安息香酸、アルキル安息香酸、およびハロ安息香酸が挙げられる。
【0102】
好適な連鎖停止剤は、フェノール、p−tert−ブチルフェノール、4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノールおよびクミルフェノールである。
【0103】
連鎖停止剤の量は、各場合において使用したビスフェノールの全量を基準にして、0.25〜10モル%であるのが好ましい。
【0104】
本発明において使用するポリカーボネートは、公知の態様の分岐を有していてもよく、特に好ましくは官能基を3個以上有する分岐剤を組み入れることによる分岐を有していてもよい。好適な分岐剤の例としては、3個または4個以上のフェノール性基を有する分岐剤、または3個または4個以上のカルボン酸基を有する分岐剤が挙げられる。
【0105】
好適な分岐剤の例としては、フロログルシノール、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプト−2−エン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、トリ(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス[4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル]プロパン、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノール、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5’−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)プロパン、ヘキサ(4−(4−ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェニル)テレフタル酸エステル、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、テトラ(4−(4−ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノキシ)メタン、および1,4−ビス(4’,4”−ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン、およびさらに2,4−ジヒドロキシ安息香酸、トリメシン酸、塩化シアヌル、3,3−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−2−オキソ−2,3−ジヒドロインドール、三塩化トリメシル、およびα,α’,α”−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼンが挙げられる。
【0106】
好適な分岐剤は、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、および3,3−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−2−オキソ−2,3−ジヒドロインドールである。
【0107】
使用する分岐剤の量はいずれも、使用するビスフェノールのモル量を基準にして、好ましくは0.05モル%〜2モル%である。
【0108】
たとえば、ポリカーボネートを界面プロセスにより製造する場合には、分岐剤は、ビスフェノールおよび連鎖停止剤と共に、アルカリ水性相の中への最初の仕込みとして使用することができ、あるいは、炭酸誘導体と共に有機溶媒中に溶解させて加えることができる。エステル交換プロセスの場合には、分岐剤は、ジヒドロキシ芳香族化合物またはビスフェノールと共に、計量仕込みするのが好ましい。
【0109】
溶融エステル交換プロセスによってポリカーボネートを製造する際に使用するのに適した触媒は、文献により公知の、ホスホニウム塩およびアンモニウム塩である。
【0110】
コポリカーボネートも使用することができる。本発明の目的においては、コポリカーボネートは、特に、その重量平均モル質量(Mw)(光散乱測定または超遠心法により予めキャリブレーションを行った後のゲルクロマトグラフィーで測定したもの)が、好ましくは10 000〜200 000g/モル、特に好ましくは20 000〜80 000g/モルである、ポリジオルガノシロキサン−ポリカーボネートブロックコポリマーである。ポリジオルガノシロキサン−ポリカーボネートブロックコポリマー中の芳香族カーボネート構造単位の含量は、好ましくは75〜97.5重量部、特に好ましくは85〜97重量部である。ポリジオルガノシロキサン−ポリカーボネートブロックコポリマー中のポリジオルガノシロキサン構造単位の含量は、好ましくは25〜2.5重量部、特に好ましくは15〜3重量部である。このポリジオルガノシロキサン−ポリカーボネートブロックコポリマーは、たとえば、α,ω−ビスヒドロキシアリールオキシ末端基を含み、その平均重合度が好ましくはPn=5〜100、特に好ましくはPn=20〜80であるポリジオルガノシロキサンから出発して製造することができる。
【0111】
このポリジオルガノシロキサン−ポリカーボネートブロックコポリマーは、ポリジオルガノシロキサン−ポリカーボネートブロックコポリマーを、従来のポリシロキサンを有さない熱可塑性ポリカーボネートと共に含む含む混合物であって、その混合物中のポリジオルガノシロキサン構造単位の全含量が好ましくは2.5〜25重量部であるものであってもよい。
【0112】
これらのポリジオルガノシロキサン−ポリカーボネートブロックコポリマーは、そのポリマー鎖に、一方では芳香族カーボネート構造単位(VI)を有し、他方ではアリールオキシ末端基を含むポリジオルガノシロキサン(VII)を含むことを特徴とする。
【0113】
【化4】

(式中、
Arは、同一または異なった2官能性芳香族基であり、かつ、
およびR10は、同一であっても異なっていてもよく、直鎖状アルキル、分岐状アルキル、アルケニル、ハロゲン化直鎖状アルキル、ハロゲン化分岐状アルキル、アリールまたはハロゲン化アリール、好ましくはメチルであり、かつ、
lは、平均重合度であって、好ましくは5〜100、特に好ましくは20〜80である。)
【0114】
上記の式(VII)におけるアルキルは、好ましくはC〜C20−アルキルであり、上記の式(VII)におけるアルケニルは、好ましくはC〜C−アルケニルであり;上記の式(VI)または(VII)におけるアリールは、好ましくはC〜C14−アリールである。上述の式における「ハロゲン化」は、部分的または全面的な塩素化、臭素化またはフッ素化を意味する。
【0115】
アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アルキル基およびハロゲン化アリール基の例としては、メチル、エチル、プロピル、n−ブチル、tert−ブチル、ビニル、フェニル、ナフチル、クロロメチル、ペルフルオロブチル、ペルフルオロオクチル、およびクロロフェニルが挙げられる。
【0116】
これらのポリジオルガノシロキサン−ポリカーボネートブロックコポリマーおよびそれらの製造は従来技術であって、たとえば米国特許第3 189 662号明細書に記載されている。
【0117】
たとえば、好適なポリジオルガノシロキサン−ポリカーボネートブロックコポリマーは、α,ω−ビスヒドロキシアリールオキシ末端基を含むポリジオルガノシロキサンを、他のビスフェノールと共に、適切な場合分岐剤を従来の量で併用して、たとえば界面プロセスにより反応させることにより製造することができる(たとえば、H.シュネル(H.Schnell)『ケミストリー・アンド・フィジックス・オブ・ポリカーボネーツ(Chemistry and Physics of Polycarbonates)』(ポリマー・レビューズ(Polymer Reviews)第9巻)、31〜76頁(インターサイエンス・パブリッシャーズ(Interscience Publishers)、ニューヨーク(New York)、ロンドン(London)、シドニー(Sydney)、1964年)参照)。α,ω−ビスヒドロキシアリールオキシ末端基を含み、この製造の出発物質として使用されるポリジオルガノシロキサンならびにその製造法は従来技術であり、たとえば米国特許第3 419 634号明細書に記載されている。
【0118】
従来の添加剤、たとえば、離型剤、安定剤および/または流動性向上剤を、ポリカーボネートと共に溶融状態で混合したり、それらの表面に適用したりすることができる。この段階までに、本発明の成形用組成物の他の成分とのコンパウンドに先立って、使用することとなるポリカーボネートが離型剤を含んでいることが好ましい。
【0119】
別の好ましい実施態様においては、本熱可塑性成形用組成物に、成分A)およびB)、および/またはC)および/またはD)および/またはE)および/またはF)に加えて、
G)0.001〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部、特に好ましくは0.1〜3.5重量部の、その他の従来の添加剤が含まれていてもよい。
【0120】
成分G)の従来の添加剤の例としては、安定剤(たとえば、UV安定剤、熱安定剤、ガンマ線安定剤)、帯電防止剤、流動助剤、離型剤、さらなる難燃化添加剤、乳化剤、造核剤、可塑剤、潤滑剤、染料、顔料、および導電性を向上させるための添加剤が挙げられる上述の添加剤およびさらなる適切な添加剤は、たとえばゲヒター(Gaechter)、ミューラー(Mueller)『クンシュトシュトッフ−アディティブ(Kunststoff−Additive)』[プラスチックス・アディティブズ(Plastics Additives)]第3版(ハンザー・フェルラーク(Hanser−Verlag)、ミュンヘン(Munich)、ウィーン(Vienna)、1989年)、および『プラスチックス・アディティブズ・ハンドブック(Plastics Additives Handbook)』第5版(ハンザー・フェルラーク(Hanser−Verlag)、ミュンヘン(Munich)、2001年)に記載されている。これらの添加剤は単独で使用してもよく、混合物として、またはマスターバッチの形態で使用してもよい。
【0121】
使用可能な安定剤の例としては、有機リン化合物、ホスファイト、立体障害フェノール、ヒドロキノン、芳香族二級アミン(たとえばジフェニルアミン)、置換レソルシノール、サリチレート、ベンゾトリアゾールおよびベンゾフェノン、ならびに、各種置換されたこれらの群の代表的化合物、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0122】
使用可能な顔料の例としては、二酸化チタン、硫化亜鉛、群青、酸化鉄、カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、ペリレン、ニグロシン、およびアントラキノンが挙げられる。
【0123】
使用可能な造核剤の例としては、フェニルホスフィン酸ナトリウムまたはフェニルホスフィン酸カルシウム、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素が挙げられ、タルクも好ましい。
【0124】
使用可能な潤滑剤および離型剤としては、エステルワックス、ペンタエリスリトールテトラステアレート(PETS)、長鎖脂肪酸(たとえば、ステアリン酸またはベヘン酸)、これらの塩(たとえば、ステアリン酸Caまたはステアリン酸Zn)、およびさらにはアミド誘導体(たとえば、エチレンビスステアリルアミド)またはモンタンワックス(炭素原子28〜32個の鎖長を有する直鎖飽和カルボン酸を含む混合物)が挙げられる。使用可能な可塑剤の例としては、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジベンジル、フタル酸ブチルベンジル、炭化水素油、N−(n−ブチル)ベンゼンスルホンアミドが挙げられる。
【0125】
使用する成分G)は、ポリオレフィン、好ましくはポリエチレンおよび/またはポリプロピレンであってもよい。低分子量ポリエチレンワックスおよび低分子量ポリプロピレンワックスが特に好ましい。
【0126】
導電性を向上させるために添加可能な添加剤としては、カーボンブラック、導電性ブラック、炭素フィブリル、ナノスケールグラファイト繊維およびナノスケール炭素繊維、グラファイト、導電性ポリマー、金属繊維、およびさらには導電性向上のための従来のその他の添加剤が挙げられる。好適に使用可能なナノスケール繊維は、「単層(single-wall)カーボンナノチューブ」または「多層(multiwall)カーボンナノチューブ」として知られているものである(たとえば、ハイペリオン・キャタリシス(Hyperion Catalysis)製)。
【0127】
本発明においては、以下の成分の組合せが好ましい:
A、B;A、B、C;A、B、D;A、B、E;A、B、F;A、B、G;A、B、C、D;A、B、C、E;A、B、C、F;A、B、C、G;A、B、D、E;A、B、D、F;A、B、D、G;A、B、E、F;A、B、E、G;A、B、F、G;A、B、C、D、E;A、B、C、D、F;A、B、C、D、G;A、B、C、E、F;A、B、C、E、G;A、B、C、F、G;A、B、E、F、G;A、B、D、E、F;A、B、D、E、G;A、B、D、F、G;A、B、C、D、E、F;A、B、C、D、E、G;A、B、D、E、F、G;A、B、C、E、F、G;A、B、C、D、F、G;A、B、C、D、E、F、G。
【0128】
しかしながら、本発明は、本発明の熱可塑性成形用組成物を調製するための方法も提供する。これは、成分を混合することにより、公知の方法で実施される。成分の混合は、適切な重量割合の成分を混合することにより実施する。成分の混合は、温度220〜330℃で、成分を共に、組合せ、混合、混練、押出、またはロール練りすることにより実施することが好ましい。個々の成分を予備混合しておくことも好都合である。室温(好ましくは0〜40℃)で調製した、予備混合した成分および/または個々の成分を含む物理的混合物(ドライブレンド)から、成形品または半製品を直接製造すれことがさらに好都合である。
【0129】
本発明はさらに、以下の成分を含む本発明の成形用組成物から生産される成形品を提供する:
A)10〜99重量部、好ましくは30〜98重量部、特に好ましくは60〜97重量部の、少なくとも1種の熱可塑性ポリエステル、好ましくはポリアルキレンテレフタレート、および
B)1〜20重量部、好ましくは2〜15重量部、特に好ましくは3〜9重量部の、少なくとも1種のオレフィン、好ましくはα−オレフィンと、炭素原子1〜4個を有する少なくとも1種の脂肪族アルコールのメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルと、からなる少なくとも1種のコポリマーであって、そのコポリマーB)のMFI(190℃、2.16kgで測定;DIN EN ISO 1133)が50g/10分以上、好ましくは80〜900g/10分であるコポリマー。
【0130】
従来技術に係る成形用組成物に比較すると、本発明の成形用組成物には以下のような驚くべき利点が認められる:
− 顕著に改良された流動性(特に熱可塑性プラスチック加工に関係する剪断速度における流動性);
− 改良された靱性;
− 改良された最外縁歪み(特に加水分解後);
− 低密度;
− 低収縮;
− 改良された加水分解抵抗性;
− 改良された成形品表面品質。
【0131】
本発明の成形用組成物は、従来の方法、たとえば射出成形または押出し成形により加工して、成形品または半製品を得ることができる。半製品の例としては、フォイルやシートがある。射出成形による加工が特に好ましい。
【0132】
熱可塑性成形用組成物から本発明により製造される成形品または半製品は、小型部品であっても大型部品であってもよく、たとえば自動車産業、電気産業、電子産業、電気通信産業、情報産業またはコンピュータ産業、家庭用品分野、スポーツ分野、医薬品分野、またはエンターテイメント産業において使用が可能である。特に、本発明の成形用組成物は、高い溶融流動性が必要とされる用途において使用することができる。そのような用途の例を挙げれば、薄肉技術として知られているものがあり、そこでは、成形用組成物から製造する成形品の肉厚が2.5mm未満、好ましくは2.0mm未満、特に好ましくは1.5mm未満、最も好ましくは1.0mm未満である。別の用途の例として、たとえば加工温度を下げることによる、サイクル時間の短縮がある。別の用途の例として、多数個取りシステム(multitooling system)として知られる方法による成形用組成物の加工がある。この場合、射出成形工程において、ランナーシステムを用いて材料を、少なくとも4個の型、好ましくは少なくとも8個の型、特に好ましくは少なくとも12個の型、最も好ましくは少なくとも16個の型に充填する。
【実施例】
【0133】
成分A: 直鎖状のポリブチレンテレフタレート〔ポカン(Pocan)(登録商標)B1300、独国レーフェルクーゼン(Leverkusen,Germany)のランクセス・ドイチュラント・GmbH(Lanxess Deutschland GmbH)から市販〕、固有粘度、約0.93cm/g(25℃、フェノール:1,2−ジクロロベンゼン(1:1)中で測定)
成分B: エテンおよびアクリル酸n−ブチルからなるコポリマーであって、エテン含量が70〜74重量%、MFIが175のもの(ロトリル(Lotryl)(登録商標)28BA175、デュッセルドルフ(Dusseldorf)のアトフィナ・ドイチェラント(Atofina Deutschland)(2004年10月以降はアルケマ・GmbH(Arkema GmbH))製)[CAS番号25750−84−9]
成分C: シラン含有化合物を用いてサイジングした直径が10μmのガラス繊維(CS7967、ベルギー国アントワープ(Antwerp,Belgium)のランクセス・N.V.(Lanxess N.V.)からの市販品)
成分G:
熱可塑性ポリエステルにおいてよく使用される以下の成分をさらなる添加剤として使用した:
造核剤: 0.01〜0.59重量%の量の、タルク[CAS番号14807−96−6]。
熱安定剤: 0.01〜0.59重量%の量の、フェニルホスファイトをベースとする従来の安定剤。
離型剤: 0.1〜0.68重量%の量の、市販されている脂肪酸エステル。
【0134】
使用したさらなる添加剤(成分G)のそれぞれの性質と量は、比較例と本発明の実施例とでは同じで、具体的にはG=0.7%で使用した。
【0135】
PBTベースの組成物を、ZSK32(ワーナー・アンド・フライダー(Werner and Pfleiderer))2軸スクリュー押出機中、270〜275℃の溶融温度でコンパウンドして成形用組成物を得、その溶融物を水浴中に押出し、その後ペレット化した。
【0136】
表に列挙した試験のための試験片を、アルブルク(Arburg)320−210−500型射出成形機中、約260℃の溶融温度、約80℃の金型温度で射出成形した:
− 80×10×4mm試験片(ISO 178による)
− 60×60×2mm収縮測定のためのプラック(ISO 294−4による)
【0137】
射出圧力は、金型キャビティに充填するために、ゲート近傍に加えられる金型内部圧力である。時間の関数としてとった圧力曲線において、この圧力は、金型充填段階と圧縮段階との間の特徴的な変曲点であり、プロセスデータを採取することにより求めることができる。平板状の試験片(80×10×4mm)の射出成形中に比較例および本発明の実施例について測定した。
【0138】
粘度測定を除き、すべての試験を上述の試験片について実施した。
【0139】
曲げ弾性率、曲げ強度および最外縁歪みを求める曲げ試験は、DIN/EN/ISO 178に従った。
【0140】
耐衝撃性:アイゾッド法は、室温および−30℃において、ISO 180 1Uに従った。
【0141】
収縮: 収縮性を測定するために、60mm×60mm×2mmの寸法の標準化したシート(ISO 294−4)を射出成形する。縦方向および横方向の収縮を、成形収縮および後収縮の双方について、それぞれの時点で測定した。成形収縮と後収縮とを合わせて、全収縮とする。
【0142】
密度は、試験片について浮遊法により求めた(DIN EN ISO 1183−1による)。
【0143】
溶融粘度は、ペレットを真空乾燥機中120℃で4時間乾燥させた後、DIN 54811/ISO 11443により所定の剪断速度と温度で、ゲットフェルト(Goettfert)製のビスコロボ(Viscorobo)94.00装置を使用して測定した。
【0144】
加水分解:
加水分解抵抗性を測定するために、本発明の成形用組成物から製造した試験片を、蒸気滅菌器中、100℃、湿度100%で保存した。加水分解5日後および加水分解10日後に、耐衝撃性を測定し、曲げ試験を実施した。
【0145】
表面: 60mm×60mm×2mmの寸法の試験片を用いて、表面評価(surface appraisal)および視覚的な表面評価(visual surface assessment)を行った。判定の評価基準は、光沢、平坦性、色、および表面構造の均一性であった。
【0146】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)少なくとも1種の熱可塑性ポリエステル10〜99重量部、および
B)少なくとも1種のオレフィンと、炭素原子1〜4個を有する少なくとも1種の脂肪族アルコールのメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルとからなる少なくとも1種のコポリマー1〜20重量部、
を含む、熱可塑性成形用組成物であって、
前記コポリマーB)のMFIが50g/10分以上である、熱可塑性成形用組成物。
【請求項2】
前記脂肪族アルコールが炭素原子4個を含むことを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性成形用組成物。
【請求項3】
前記コポリマーB)の4重量%未満が、エポキシド、オキセタン、酸無水物、イミド、アジリジン、フラン、酸、アミン、オキサゾリンからなる群から選択されるさらなる反応性官能基を含むモノマー単位からなることを特徴とする、請求項1または2に記載の熱可塑性成形用組成物。
【請求項4】
前記コポリマーB)のMFIが80〜900g/10分であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱可塑性成形用組成物。
【請求項5】
A)およびB)に加えて、下記の一連の成分:
C)0.001〜70重量部の、少なくとも1種の充填剤または強化材、
D)0.001〜50重量部の、少なくとも1種の難燃化添加剤、
E)0.001〜80重量部の、少なくとも1種のエラストマー変性剤、
F)0.001〜80重量部の、ポリカーボネート、
G)0.001〜10重量部の、その他の従来の添加剤、
を1種または複数種含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱可塑性成形用組成物。
【請求項6】
前記成分を適切な重量割合で混合することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱可塑性成形用組成物を調製するための方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の成形用組成物を射出成形または押出し成形することにより得られる成形品または半製品。
【請求項8】
薄肉技術における、請求項1〜5のいずれか一項に記載の成形用組成物の使用。
【請求項9】
ランナーシステムにより、射出成形加工において、請求項1〜5のいずれか一項に記載の成形用組成物を少なくとも4個の型に充填することにより得られる、多数個取りシステム。
【請求項10】
電気産業、電子産業、電気通信産業、自動車産業、またはコンピュータ産業、スポーツ分野、医薬品分野、家庭用品分野、またはエンターテイメント産業における、請求項6に記載の成形品もしくは半製品、または請求項9に記載の多数個取りシステムの使用。

【公開番号】特開2007−119781(P2007−119781A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290393(P2006−290393)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(505422707)ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー (220)
【Fターム(参考)】