説明

改良された熱伝達性質および耐磨耗性を有するフルオロポリマー剥離コーティング

本発明は、基材と前記基材上の焼成剥離コーティングとを含む構造体に関し、このコーティングがアンダーコートとフルオロポリマーオーバーコートとを含み、前記アンダーコートが磁化可能なフレークと複数の炭化ケイ素粒子とを含有する。本発明のコートされた基材は、改良された熱伝達性質、改良された耐磨耗性および良好な剥離を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化されたフルオロポリマー剥離コーティングをその上に有する基材の技術分野である。特に、本発明は、剥離コーティングをその上に有する調理用具の技術分野であり、前記コーティングは、改良された耐磨耗性を示しながら、調理温度に達するために低減された時間が必要とされるように改良された熱伝達性質を有する。
【背景技術】
【0002】
良好な耐磨耗性を示したまま良好な剥離性質を有する内部調理表面を有するコートされた調理用具を製造することがこれまで望ましかった。また、調理用容器の外側の下面に過度の熱を加えることを必要とせずにこのような調理表面に熱を急速に伝達することができるのが望ましい。調理表面への熱伝達を強化し調理表面の周囲に熱を均一に分布する熱伝導性パターンを有する剥離コーティングを備えた調理用具は、ムーチン(Muchin)らに対する米国特許公報(特許文献1)に開示されている。ムーチンにおいての熱伝導性パターンは、調理用容器の内面の中心領域から外に向かって外側の外周領域の方向に広がるように配置される。これは、中心領域から外側の領域への熱伝達を容易にし、特に調理用容器が容器の底部の直径より小さい直径を有する加熱要素上に置かれる場合、全調理表面を均一な温度に維持するのを助ける。
【0003】
しかしながら、レック(Leck)に対する米国特許公報(特許文献2)に記載されているように、調理用具の全平面にわたって調理用具を熱に暴露することは一般的である。従って、レックは、フルオロポリマーとステンレス鋼などの磁気フレークとの混合物で調理用具の内部をコーティングし、フレークを磁気配向してコーティングの厚さ方向に走らせることによって調理用具上に改良された熱伝達剥離仕上を提供する。
【0004】
しかしながら、上述の特許の両方とも、フレークを磁気配向して、開示された剥離コーティングの強化された熱的性質を達成することに依拠する。フレークの配向を磁気誘導する要求条件は、調理用具の効率的な商業的製造を妨げることがある特殊な装置を必要とする。
【0005】
近年の発明は、無機充填剤フィルム硬化剤成分を多層非粘着コーティングのアンダーコートに添加する利点を認識する。レック(Leck)の米国特許公報(特許文献2)には、この成分がケイ酸アルミニウムなどの1つまたは複数の金属ケイ酸塩化合物および二酸化チタンおよび酸化アルミニウムなどの金属酸化物であってもよいことが開示されている。トーマス(Thomas)の米国特許公報(特許文献3)、およびタネンバウム(Tannenbaum)の米国特許公報(特許文献4)には、すぐれた耐磨耗性のためにアンダーコートを炭化ケイ素の粒子で強化する利点が開示されている。調理用具をさらにより速く加熱でき、良好な剥離特性を維持したまま良好なまたは改良された耐磨耗性を示す、先行技術によって示された調理用具よりもさらに良い熱伝達性質を有する調理用具を提供することが望ましい。
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,114,028号明細書
【特許文献2】米国特許第6,248,435号明細書
【特許文献3】米国特許第6,291,054号明細書
【特許文献4】米国特許第6,761,964A1号明細書
【特許文献5】米国特許第4,014,834号明細書
【特許文献6】米国特許第5,079,073号明細書
【特許文献7】米国特許第5,250,356号明細書
【特許文献8】米国特許第4,380,618号明細書
【非特許文献1】シャッケルフォード(Shackelford)およびアレクサンダー(Alexander)著、CRC Materials Science and Engineering Handbook,CRC Press、フロリダ州、ボカラトン(Boca Raton FL)、1991年
【非特許文献2】Handbook of Chemistry、第77版、12−186、187
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
ステンレス鋼は増加した熱伝導性を提供することが知られているが剥離コーティング中のステンレス鋼フレークなどの磁化可能なフレークは、強化材料として作用すると共に効率的な熱伝達をもたらすことが見出されている。無機充填剤フィルム硬化剤として炭化ケイ素粒子と併用したフレークは相乗効果を達成し、すぐれた熱伝達性質およびすぐれた耐磨耗性の両方を提供する。このように、本発明の構造体は、すぐれた剥離特性を保持したまま先行技術の公知の剥離コーティングを用いる調理用具よりも速く加熱することができる。「より速く加熱する」とは、本発明の剥離コーティングが磁化可能なフレークと炭化ケイ素粒子との組合せを含有しない同様な系よりも短い時間で400°F(204℃)の調理温度に達することができることを意味する。
【0008】
このように、本発明によって、基材と前記基材上の焼成剥離コーティングとを含む構造体が提供され、前記コーティングがアンダーコートとフルオロポリマーオーバーコートとを含み、前記アンダーコートが磁化可能なフレークと複数の炭化ケイ素粒子とを含有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、基材と前記基材上の焼成剥離コーティングとを含む構造体を含む。前記剥離コーティングは、アンダーコートとフルオロポリマーオーバーコートとを含み、前記アンダーコートが、磁化可能なフレークと複数の炭化ケイ素粒子とを含有する。前記アンダーコートは、プライマー層と前記プライマーと前記オーバーコートとの間に配置された中間層とを含む。前記アンダーコートは、前記オーバーコートの下でいかなるコーティングであってもよく、プライマー層および/または前記プライマー層と前記オーバーコートとの間に配置された1つまたは複数の中間層を含む。「オーバーコート」は、1つまたは複数の付加的なコーティングを同様に含んでもよい上部または表面コーティングである。オーバーコートは、アンダーコートと一緒に焼成される時に非粘着剥離表面を提供するフルオロポリマーを含む。中間層を含めて、アンダーコートは、好ましくはフルオロポリマーを含む。
【0010】
(フルオロポリマー)
プライマー層、中間層およびオーバーコートに存在してもよい剥離コーティングのフルオロポリマー成分は好ましくは、組成物を調合する時に簡単にするためにおよびPTFEがフルオロポリマーの中で最も高い熱安定性を有するという事実のために、380℃において少なくとも1×108Pa・sの溶融粘度を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。また、このようなPTFEは、ペルフルオロオレフィン、特にヘキサフルオロプロピレン(HFP)またはペルフルオロ(アルキルビニル)エーテルなど、焼成(溶融)の間にフィルム形成能力を改良する少量のコモノマー改質剤を含有することができ、特にそこで、アルキル基は1〜5個の炭素原子を含有し、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)が好ましい。このような改質剤の量は、PTFEに溶融加工適性(melt−fabricability)を与えるのに不十分であり、概して0.5モル%以下である。PTFEは、同じく簡単にするために、単一溶融粘度、通常少なくともl×109Pa・sを有することができるが、異なった溶融粘度を有するPTFEの混合物を用いてフルオロポリマー成分を形成することができる。組成物中での単一フルオロポリマーの使用は、好ましい条件であり、フルオロポリマーが単一の化学的本性および溶融粘度を有することを意味する。
【0011】
PTFEが好ましいが、フルオロポリマー成分はまた、PTFEを配合(ブレンド)されるか、またはその代わりに、溶融加工可能なフルオロポリマーであってもよい。このような溶融加工可能なフルオロポリマーの例には、TFEと、コポリマーの融点をTFEホモポリマー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の融点より実質的に低く、例えば、315℃以下の融解温度に低減するために十分な量においてポリマー中に存在する少なくとも1つのフッ素化共重合性モノマー(コモノマー)とのコポリマーがある。TFEとの好ましいコモノマーには、3〜6個の炭素原子を有するペルフルオロオレフィンおよびペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)(そこでアルキル基が1〜5個の炭素原子、特に1〜3個の炭素原子を含有する)などの過フッ素化モノマーがある。特に好ましいコモノマーには、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペルフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)およびペルフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)などがある。好ましいTFEコポリマーには、FEP(TFE/HFPコポリマー)、PFA(TFE/PAVEコポリマー)、TFE/HFP/PAVE(そこでPAVEがPEVEおよび/またはPPVEである)、およびMFA(TFE/PMVE/PAVE、そこでPAVEのアルキル基が少なくとも2個の炭素原子を有する)などがある。溶融加工可能なテトラフルオロエチレンコポリマーの分子量は重要でないが、ただし、それはフィルム形成性でありかつプライマーの適用において結合性を有するように成形された形状を持続できるのに十分である。典型的に、溶融粘度は、ASTMD−1238によって372℃において測定された時に少なくともl×102Pa・sであり、約60〜100×103Pa・sまでの範囲であってもよい。
【0012】
フルオロポリマー成分は概して、水中のポリマーの分散体として市販されており、適用の容易さおよび環境受入性のために本発明の組成物のために好ましい形である。「分散体」とは、フルオロポリマー粒子が水性媒体中に安定に分散され、その結果、粒子の沈降が、分散体が使用される時間内に起こらないことを意味し、これは、典型的に0.2マイクロメートルのオーダーのフルオロポリマー粒子の小さなサイズによって、および分散体の製造元によって水性分散体中の界面活性剤の使用によって達成される。このような分散体は、分散重合として公知の方法によって直接に、場合により、その後に、界面活性剤を濃縮および/またはさらに添加することによって得られる。
【0013】
あるいは、フルオロポリマー成分は、PTFE極小粉末などのフルオロポリマー粉末であってもよい。この場合、典型的に有機液体がフルオロポリマーとポリマーバインダーとの完全な混合物を達成するために使用される。バインダーがその特定の液体に溶解するので、有機液体が選択されてもよい。バインダーが前記液体中に溶解されない場合、バインダーを微細にすることができ、液体中にフルオロポリマーと共に分散させることができる。得られたコーティング組成物は、有機液体中に分散されたフルオロポリマーと、所望の完全な混合物を達成するために前記液体中に分散されるかまたは溶解されるかどちらかの、ポリマーバインダーとを含むことができる。有機液体の特性は、ポリマーバインダーの本性およびその溶液または分散体が望ましいかどうかに依存する。このような液体の例には、とりわけ、N−メチルピロリドン、ブチロラクトン、高沸点芳香族溶剤、アルコール、それらの混合物などがある。有機液体の量は、特定のコーティング作業のために望ましい流動特性に依存する。
【0014】
(ポリマーバインダー)
プライマー層の組成物は好ましくは、耐熱性ポリマーバインダーを含有する。バインダー成分は、溶融状態に加熱した時にフィルム形成性であり同じく熱安定性であるポリマーからなる。この成分は、フルオロポリマー含有プライマー層を基材に付着するためにおよびプライマー層内およびその一部としてフィルム形成するために、非粘着仕上のためのプライマー適用において公知である。フルオロポリマーそれ自体には、平滑な基材への接着力がほとんどない〜全くない。バインダーは概してフッ素を含有しておらず、そしてなおかつフルオロポリマーに付着する。好ましいバインダーは、水または水とバインダーのための有機溶剤との混合物中に可溶性であるかまたは可溶化されるバインダーであり、その溶剤は水と混和性である。この溶解性は、水性分散体の形でバインダーとフルオロカーボン成分とをブレンドするのを助ける。
【0015】
バインダー成分の例は、組成物を焼成した時にポリアミドイミド(PAI)に変換してプライマー層を形成するポリアミック酸塩である。ポリアミック酸塩を焼成することによって得られた完全にイミド化された形において、このバインダーは250℃を超える連続使用温度を有するので、このバインダーは好ましい。ポリアミック酸塩は概して、30℃においてN,N−ジメチルアセトアミド中の0.5重量%溶液として測定された時に少なくとも0.1のインヘレント粘度を有するポリアミック酸として入手可能である。米国特許公報(特許文献5)(コンキャノン(Concannon))により詳細に記載されているように、それはN−メチルピロリドンなどの融合助剤、およびフルフリルアルコールなどの粘度降下剤中に溶解され、第三アミン、好ましくはトリエチルアミンと反応させられて、水に可溶性である塩を形成する。次に、ポリアミック酸塩を含有する得られた反応媒体をフルオロポリマー水性分散体とブレンドすることができ、そして融合助剤および粘度降下剤が水に混和性であるので、ブレンディングは均一なコーティング組成物を生じさせる。ブレンディングは、フルオロポリマー水性分散体の凝固を避けるために過剰な撹拌を使用せずに液体を一緒に簡単に混合することによって行われてもよい。使用可能な他のバインダーには、ポリエーテルスルホン(PES)およびポリフェニレンスルフィド(PPS)などがある。
【0016】
プライマー組成物が液体媒体(液体は水および/または有機溶剤である)として適用されようとされまいと、上に記載された接着力の性質は、プライマー層を、次いで適用されたフルオロポリマー層の焼成と一緒に乾燥および焼成して基材の非粘着コーティングを形成する時に明らかにされる。
【0017】
簡単にするために、1つだけのバインダーを用いて本発明の組成物のバインダー成分を形成してもよい。しかしながら、多数のバインダーもまた、特に、可撓性、硬度、または防蝕などの特定の最終用途性質が望ましいとき、本発明においての使用が予想される。一般的な組合せには、PAI/PES、PAI/PPSおよびPES/PPSなどがある。
【0018】
フルオロポリマーとバインダーとの比率は、特に組成物が平滑な基材上のプライマー層として使用される場合、好ましくは、0.5〜2.0:1の重量比である。本明細書に開示された、フルオロポリマーのバインダーに対する重量比は、その基材に適用した後に組成物を焼成することによって形成された適用された層中のこれらの成分の重量に基づいている。焼成は、焼成する間にイミド結合が形成されるのでポリアミック酸塩の塩部分など、コーティング組成物中に存在する揮発性材料を追い出す。便宜上、バインダーの重量は、それが焼成工程によってポリアミドイミドに変換されるポリアミック酸塩であるとき、出発組成物中のポリアミック酸の重量とされてもよく、それによってフルオロポリマーのバインダーに対する重量比を出発組成物中のフルオロポリマーおよびバインダーの量から定量することができる。本発明の組成物が好ましい水性分散体の形であるとき、これらの成分は、全分散体の約5〜50重量%を占める。
【0019】
(炭化ケイ素粒子)
本発明のアンダーコートは、無機充填剤フィルム硬化剤成分である、炭化ケイ素粒子を含有する。好ましくは、プライマー層は、炭化ケイ素粒子を含む。この材料は、組成物の他の成分に対して不活性であり、フルオロポリマーとバインダーとを溶融するその最終焼成温度において熱安定性である。フィルム硬化剤は水不溶性であり、その結果、それは典型的に均一に分散性であるが本発明の組成物の水性分散体の形に溶解されない。好ましくは炭化ケイ素粒子は、約3〜約100マイクロメートルの範囲、より好ましくは約5〜約45マイクロメートルの範囲の平均粒度を有する。
【0020】
無機フィルム硬化剤の炭化ケイ素粒子は好ましくは、2500のヌープ硬度を有する。ヌープ硬度は、窪みまたは引掻きに対する材料の耐性を記述するための尺度である。鉱物およびセラミックスの硬度の値は、(非特許文献1)からの基準材料に基づいて(非特許文献2)に記載されている。フィルム硬化剤成分は、コーティング表面に加えられた研磨力をそらすことによっておよびフルオロポリマーオーバーコートを貫通した鋭い物体の貫通を抑えることによって基材上にコーティングとして適用された非粘着フルオロポリマー組成物に耐久性を与える。
【0021】
無機フィルム硬化剤の炭化ケイ素粒子は好ましくは、2.5以下、より好ましくは1.5以下の(上に定義されたような)アスペクト比を有する。本発明の好ましい粒子は、前記粒子を含有するコーティングに加えられた研磨力をそらすことができ、2.5以下のアスペクト比を有し、粒子の最大直径はコーティング厚さの少なくとも50%であり、コーティングフィルム厚さの125%を超えないサイズを有する。
【0022】
プライマーがアンダーコートでありSiC粒子を含有する好ましい実施態様において、乾燥プライマーは、SiC粒子を少なくとも2重量%、好ましくは2〜45重量%含む。
【0023】
(他の充填剤)
炭化ケイ素粒子の大きな粒子および小さな粒子のほかに、本発明のプライマー層および中間層の非粘着コーティング組成物は、1200を超える高いヌープ硬度ならびに1200より小さい低い値を有する他の充填剤材料を含有してもよい。無機充填剤フィルム硬化剤の例には、少なくとも1200のヌープ硬度を有する無機酸化物、炭化物、ホウ化物および窒化物などがある。好ましいのは、ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、ホウ素、アルミニウムおよびベリリウムの無機酸化物、窒化物、ホウ化物および炭化物である。好ましくは、中間層および/またはプライマー層は、酸化アルミニウムを含む。好ましい無機組成物の典型的なヌープ硬度値は、ジルコニア(1200)、窒化アルミニウム(1225)、酸化ベリリウム(1300)、窒化ジルコニウム(1510)、ホウ化ジルコニウム(1560)、窒化チタン(1770)、炭化タンタル(1800)、炭化タングステン(1880)、アルミナ(2025)、炭化ジルコニウム(2150)、炭化チタン(2470)、炭化ケイ素(2500)、ホウ化アルミニウム(2500)、ホウ化チタン(2850)である。
【0024】
より低いヌープ硬度値の適したさらに別の充填剤には、ガラスフレーク、ガラスビード、ガラスファイバー、ケイ酸アルミニウムまたはケイ酸ジルコニウム、マイカ、金属フレーク、金属ファイバー、微細セラミック粉末、二酸化ケイ素、硫酸バリウム、タルクなどがある。
【0025】
(磁化可能なフレーク)
アンダーコートは磁化可能なフレークを含有する。好ましくは、アンダーコートの中間層はフレークを含む。さらに好ましくは、前記フレークの少なくとも一部が誘起配向を有さない。ムーチン(Muchin)およびレック(Leck)において、磁化可能なフレークの配向が開示され、プライマーからコーティングの上面までフライパンなどの平らな底の下側に加えられた熱の伝導を促進するとされている。磁力に暴露されるフレークは、コーティングの厚さの略方向に配向される。
【0026】
磁力をコーティングに印加せずに、磁化可能なフレークは平面に平行に配向する。このように、SiC粒子が存在するとき、磁力をフレークに印加する必要がないことが見出された。驚くべきことに、炭化ケイ素粒子と共に磁化可能なフレークを含有するアンダーコートを基材に適用することによって、通常の剥離コーティング系よりも、さらに、配向された磁化可能なフレークを含有するそれらの系よりも改良された熱伝達性質をもたらす。剥離コーティング中のフレークは、磁化可能であるままこのような加熱によって影響されない材料から作製されるのがよい。フレークを作製することができる材料の例には、鉄およびニッケルなどの金属およびこれらの金属を含有する合金などがあり、ステンレス鋼が好ましい材料である。金属は、剥離コーティング中のポリマーよりもずっと熱伝導性である。簡単にするために、フルオロポリマー/フレークコーティング組成物は、焼成工程の前および後の両方で剥離コーティングと称されるが、実際は、焼成工程は、剥離(非粘着)特性が実現される前に必要である。
【0027】
磁化可能なフレークは、フレークを含有するコーティング組成物から形成された層の厚さより大きいおよびまたはより小さい最長寸法を有するフレークを含有する。層(コーティング)の厚さは概して、5〜40マイクロメートルである。次に、フレークサイズは、所望の層厚さに依存する。特に有用であるのは、20〜60マイクロメートルの平均最長寸法を有する316Lステンレス鋼フレークであり、通常、フレークは、かなりの比率、好ましくは少なくとも40重量%が少なくとも44マイクロメートルの最長寸法を有するサイズの混合物である。
【0028】
好ましい磁化可能なフレーク含有乾燥アンダーコート組成物には、70〜90重量%のフルオロポリマー、2〜10重量%の磁化可能なフレーク、より好ましくは2〜7重量%、および2〜20重量%のSiC粒子を2〜15重量%のポリマーバインダーと共に含有する組成物がある。フルオロポリマー成分は好ましくは、これら2つのフルオロポリマーの総合重量に基づいて50〜95重量%のPTFEと5〜50重量%の溶融加工可能なテトラフルオロエチレンコポリマー、例えば上述のPTFE/PAVEとのブレンドである。液体の形で、液体媒体は概して、液体媒体と上述の3つの成分との総合重量の75〜95重量%を占める。
【0029】
(適用)
本発明の組成物を通常の手段によって基材に適用することができる。吹き付けおよびローラー適用は、コートされる基材に応じて、最も便利な適用方法である。浸漬およびコイルコーティングなどの他の公知のコーティング方法が適している。非粘着コーティング組成物は、アンダーコートとオーバーコートとを含む単一コートまたは多コート系であってもよい。1つまたは複数のフルオロポリマー含有層のオーバーコートを、その乾燥の前にアンダーコート層に従来の方法によって適用することができる。アンダーコートおよびオーバーコート層組成物が水性分散体であるとき、オーバーコート組成物を、好ましくは触れてみて乾燥した後にアンダーコート層に適用することができる。アンダーコート層が、組成物を有機溶剤から適用することによって製造され、次の層(中間層またはトップコート)が水性媒体から適用されるとき、アンダーコート層は、このような次の層を適用する前に全ての水不相溶な溶剤が除去されるように乾燥されるのがよい。
【0030】
適用されたコーティング系を焼成して全てのコーティングを同時に溶融し、基材上に非粘着剥離コーティングを形成することができる。フルオロポリマーがPTFEであるとき、例えば、5分間、800°F(427℃)から開始して825°F(440℃)まで上昇する、急速な高い焼成温度が好ましい。プライマーまたはオーバーコート中のフルオロポリマーがPTFEとFEP、例えば、50〜70重量%PTFEと50〜30重量%FEPとのブレンドであるとき、焼成温度は780°F(415℃)まで低減されてもよく、3分(全焼成時間)で800°F(427℃)まで上昇する。焼成されたアンダーコート層の厚さは、渦流原理(ASTMB244)または磁気誘導原理(ASTMB499)に基づいてフィルム厚さ計測器で測定される。
【0031】
好ましい実施態様において、本発明の剥離コーティングは、32〜40マイクロメートルの全乾燥フィルム厚さを有し、アンダーコートは22〜30マイクロメートルの好ましいDFTを有し、オーバーコートは8〜10マイクロメートルの好ましいDFTを有する。より好ましい実施態様において、アンダーコートは、7.5〜10のDFTおよび15〜22の中間層を有するプライマーを含む。
【0032】
得られた構造体において、基材は、金属およびセラミックスなど、焼成温度に耐えうるいかなる材料であってもよく、その例には、アルミニウム、陽極処理アルミニウム、冷間圧延鋼、ステンレス鋼、エナメル、ガラス、およびパイロセラムなどがある。基材は、剥離コーティングが固定しうるキャビティを形成するためにグリットブラスチングまたは化学エッチングするなどによって、粗面化された表面を有することができる。しかしながら、好ましくは、基材は、調理用具製造元が基材表面を粗くする必要をなくす平滑な表面を有する。この実施態様において、フレークを含有する層は、プライマー層によって基材に付着される。
【0033】
基材は、平滑であってもよく、すなわち、プロファイルメーター、例えばドイツ、ゴッティンゲンのマール社(Mahr GmbH,Gottingen,Germany)によって製造されたポケットサーフ(PocketSurf)(登録商標)モデル表面試験機によって測定された時に50マイクロインチ(1.25マイクロメートル)未満の表面状態を有し、清浄である必要がある。パイロセラムおよび特定のガラスについて、肉眼に見えない、わずかな化学エッチなどの基材表面の活性化によって改良された結果が得られ、すなわち、表面がなおかつ平滑である。また、基材は、タネンバウムに対する米国特許公報(特許文献6)に開示されているような、ポリアミック酸塩のミストコートなどの接着剤で化学処理されてもよい。アンダーコート層がプライマーであるとき、それを基材上の第1のフルオロポリマー含有層として考えることができ、好ましくはプライマー層は基材に直接に結合される。
【0034】
(性能の特性)
本発明の構造体の改良された熱伝達は、例えば、400°F(204℃)までの加熱を行う実施例において示されるように、調理温度を達成するために構造体の下側に熱が加えられる時に必要とされた低減された立ち上げ時間(ramp up time)によって表される。
【0035】
本発明の強化された熱的性能は、赤外線モニタリングを有する制御された熱源を用いて示すことができる。アルミニウム基材(フライパン)は、本発明に記載されたアンダーコートおよび標準オーバーコートでコートされる。この構造体は、同じアルミニウムベース基材上に標準オーバーコートを有する、同じコーティング厚さを有する典型的な先行技術のフルオロポリマー非粘着アンダーコートと比較される。前記構造体は、並んで比較される。使用された温度モニタリング装置は、加熱されているパンのビデオを記録する時間および温度能力を有するインフラメトリクス(Inframetrics)によって製造されたサーマカム(Thermacam)PM280IRサーモグラフビデオカメラであった。パンは、セラミック表面にわたって400°F(204℃)に較正されたワーゲ(Waage)電気ストーブDDSF15(550−1100ワット−2要素)上に置かれた。周囲室温において両方のパンはビデオにおいて黒くみえる。供給源からの熱がパンを通して伝達されるとき、見られる表面の外観は、発光金色の外観に達するまで明るくなり始める。本発明のアンダーコートでコートされたアルミニウムパンは、標準フルオロポリマー非粘着コーティングよりも速い速度において設定値温度および明るい金の外観に達した。
【0036】
同じ並べての比較は、アルミニウムクラッドステンレス鋼基材(フライパン)上で繰り返される。記録されたビデオは、本発明より速い速度においてパンの部分を加熱させ始める標準フルオロポリマー非粘着コーティングを示す。しかしながら、試験が進むとき、本発明のアンダーコートを有するパンは、標準フルオロポリマー非粘着コーティングと比較したときパンの全表面にわたって、より均一に加熱し、より速い速度で調理温度に達することが示される。標準フルオロポリマー非粘着コーティングは、典型的にいわゆる「ホットスポット」を示し、均一に加熱しない。本発明の、より良い熱分布のこの効果は、基材およびコーティングのタイプにわたり一定している。これは、標準フルオロポリマーコーテッドパンとは対照的に本発明視覚表面にわたって変色の等しい勾配によって示される。均一な熱分布の利点は、コーテッドパンがパンの全表面にわたって食品をより均一に調理することを可能にする。
【0037】
本発明のコートされた基材は、フライパン、ポット、キャセロール、中華鍋、鉄板、炊飯器およびそのための差込みなどの調理用具、ならびに鉄ソールプレートなどの速い加熱時間から利点を得る非調理用具品目の多数の物品の形であってもよい。
【0038】
試験方法
(SBAR試験)
コートされた基材を、SBAR試験を用いて非粘着コーティングの耐磨耗性について評価した。この試験は、調理用具の英国標準規格仕様BS7069:1988に基づいており、そこでコーティング系は相互水平運動を有する垂直アーム上に取り付けられた研磨パッドにかけられる。装置は、±10m/分の平均速度においてシリンダ中心から100mm±5mm(4インチ+/−0.25インチ)のアーム相互水平運動を行う。研磨パッド(3Mスコッチ・ブライト(Scotch−Brite)07447)は、フェノール樹脂を含浸されたランダムナイロンウェブであり、酸化アルミニウムをシリンダに固定し、負荷してコーティング上に±15N(アームの質量+死荷重=.5kgまたは10ポンド)の全力を加える。試験試料は、実施例において説明されたように基材をコートし、指示通り乾燥および焼成することによって作製される。コートされた基材をきれいな水で洗浄し、試験する前にゆるやかに乾燥させた。以下に説明されたように試験は乾燥および湿潤基材上で行われる。
【0039】
コートされた基材を固定支持体上に固定し、装填された研磨パッドを非粘着表面上に適用する。湿潤手順を行うために、表面は、1リットル(33オンス)の溶液中に5gの中位の洗剤を含有する皿洗い溶液50mlを添加することによって潤滑される。乾燥手順は洗剤溶液を添加せずに行われるが、全ての他の手順は同じままである。試料を固定された状態に維持し、研磨パッドアームをシリンダ中心点の両側で50mm±2.5mm(2インチ+/−0.1インチ)の距離について前後に移動させる。
【0040】
研磨パッドを250サイクル後にひっくり返し、さらに250サイクル後に取り替えた。この手順を金属が目に見えるまで続け、次いでコーティングの突破のサイクル数を記録する。コーティングの突破は試験の最終点である。突破のパターンは、添付の写真に似ていなければならない。
【0041】
(接触方法−調理温度までの立ち上げ時間)
接触方法による温度勾配および熱分布の効果を測定するための試験は以下のように説明される。
【0042】
エネルギー源は、イリノイ州、シカゴのウェネスコ(Wenesco,Chicago,IL)製の特製セラミック表面ホットプレートである。このホットプレートは高均一性制御装置を有し、任意のポイント間のプレート温度変化を設定値のほぼ2%に減少させる。データ獲得をデータパク(Datapaq)、ケンブリッジ、UK(マサチューセッツ州、ウィルミントン(Wilmington,MA))製の温度プロファイラを用いてコンパイルした。モデルは、6つの温度入力を有するデータパク9000トラッカー・システム(Tracker system)であった。ホットプレートを410°F(210℃)の範囲の温度に較正した。6つの「K」−タイプ熱電対ワイヤをパンの内部に十字の形状で接続し、一方の中心線にわたって4つの接点があり、他方の中心線の対向した外側のポイントに2つの接点がある。
【0043】
熱電対コネクターをトランスデューサインタフェースに挿入し、前記インタフェースをデータロガー(メモリパク(memory paq))に挿入した。パンを10分間、較正されたホットプレートの中心に置いた。次に、パンを取り出し、データロガーをデータパク(Datapaq)統計ソフトウェアプログラムにダウンロードした。プログラムの基本分析機能には、データパク値、最高/分温度、温度においての時間、傾きの計算、増減の計算、およびピークの差などがある。400°F(204℃)の調理温度に達するための結果を秒単位で記録する。各試験からのデータをデータ獲得の他の実験と直接に比較することができる。
【0044】
(機械タイガー・ポー(Tiger Paw)磨耗試験(MTP磨耗試験))
タネンバウムに対する米国特許公報(特許文献4)に記載されているように、コートされた基材は、基材を加熱してシェーカーテーブル上で前後に振動させる間、コートされた基材の表面上で3つの加重ボールペン先端を連続的に回転させることによって耐磨耗性について評価される。試験のために使用される装置は、ドライブモータが上に取り付けられるフレームを含む。フライホイール(ドライブディスク)が上に配置される中心フライホイールドライブシャフトがモータから延在している。ドライブディスクは、直径7インチ(18cm)および厚さ0.25インチ(0.64cm)を有するアルミニウムシート材料である。ホットプレートが上に取り付けられるシェーカーテーブルはフレーム内に収容される。ホットプレートの上部は、フライパンなどの試験基材を置くための表面を提供する。表面とドライブディスクの下部との間の垂直距離は、約6インチ(15cm)である。出発位置において、フライホイールドライブシャフトは垂直であり、ホットプレートの中央にある。シェーカーテーブルは、その往復運動の中心がフライホイールドライブシャフトの中心と完全一致するようにフレームに取り付けられる。往復運動の方向は前から後ろへである。
【0045】
タイガー・ポーヘッドは、支持シャフト管内に配置された浮動シャフトによってドライブディスクに取り付けられる。支持管は、ディスクの両側のOリング、ワッシャおよびナットの助けによってドライブディスクを通して柔軟に接続される。接続のほかに、付加的なワッシャをシャフトに加えて付加的な重量を提供する。支持管は、フライホイールドライブシャフトから約2インチ(5cm)中心から離れて取り付けられる。調整スクリューはシャフト管を支持し、支持シャフト管内で関連づけられた浮動シャフトの位置合わせを可能にする。また、釣合重りがディスク上に支持管から180度に配置された。
【0046】
タイガー・ポーヘッドは、中心からの等距離角度(すなわち、約0、120、240度)においてディスクの外周の近くに配置された3つのチャネルを有する回転ディスクである。チャネルは、ボールペン替え芯をそれぞれ収容するようにサイズを定められる。セットスクリューを各チャネルの位置においてディスクの側壁に配置して、作業する間、ペンの替え芯を所定の位置に固定する。示されたような回転ディスクは、直径2.5インチ(6.4cm)および厚さ0.4インチ(1cm)を有するステンレス鋼である。ディスクの中心はボールベアリングを収納し、ディスクをカップリングによって浮動シャフトに取り付けることを可能にする。タイガー・ポーヘッドは、浮動シャフトの周りを回転する。
【0047】
作業時に、コートされたアルミニウム基材を有するフライパンを中位の洗剤中で洗浄して一切の夾雑物または油を除去した。試験パンを、中心ドライブシャフトに仮設置された取り外し可能なセンタリングロッドの助けによってホットプレート上に配置する。センタリングロッドは、ホットプレートの表面上のパンの配置のための下げ振り糸の機能をし、その後、センタリングロッドは取り外される。各試験のために、各替え芯がディスクの下部から下方に3/4インチ(1.9cm)延在するように3つの新しいペンの替え芯がタイガー・ポーヘッドのチャネル内に据付けられる。タイガー・ポーヘッドは、ドライブシャフトに取り付けられたドライブディスクから下に延在する浮動シャフトに取り付けられる。タイガー・ポーヘッドと浮動シャフトとの重量を調節する。例示された装置において、重量は約400gである。浮動シャフトおよびワッシャ(すべて約115g)、タイガー・ポーヘッド(約279g)、およびボールペン先端部(約10g)の総合重量は合計404gになる。また、釣合重りは合計約400gになる。
【0048】
ホットプレートをオンにし、試験基材(パン)を400°F+/−10°F(204℃+/−6℃)の温度に加熱する。基材表面の赤外線温度測定によって測定された時にパンが試験温度に達するとき、ペンの替え芯がパン上に下げされ、装置を作動してシェーカーテーブルの振動およびタイガー・ポーヘッドの回転を始める。このようにして、試験装置はペンをコートされた基材の表面に当てておよびその周りに回転させる。タイガー・ポーヘッド回転速度は、30回転/分において制御される。シェーカーテーブルの速度は30回の前後の振動/分に制御される。カウンタは、終えられたサイクル数を記録する。タイマーは、特定の方向の15分ごとのタイガー・ポーの回転を数える。データは、15分間隔で記録される。タイガー・ポーヘッドの回転は、15分経つ毎に逆にされる。定期的にペンの替え芯先端はコーティングの堆積のために検査される。堆積コーティングは、必要なとき除去される。
【0049】
基材上のコーティングの破損は、ペンの替え芯の先端がコーティングを貫通して無被覆金属基材に達する時に生じる楕円形の経路を観察することによってモニタされる。基材を加熱することによって、破損までの時間が加速される。破損までの時間が長くなればなるほど、非粘着コーティングの耐久性がそれだけ良くなる。
【0050】
それぞれの15分のサイクルの終わりに、パンは、以下のMTP数的格付けに従って測定される。
10 − 新しいパン
9 − コーティングの溝
8 − (平滑な基材上の)金属への最初の切れ目
(グリットブラストされた基材の)表面の粗化
7 − 金属へのライン(外側および/または内側)
6 − 外側に生じる楕円形
5 − 完全な楕円形
【0051】
(促進タイガー・ポー調理(ATP))
促進タイガー・ポー調理試験は、上に説明されたタイガー・ポー調理試験の、促進されたより低い温度での変型である。試験は、コーティング系を酸、塩および脂肪および洗剤のサイクルにかけることによって調理性能および耐磨耗性についてフライパンなどの基材を評価する。基材は、調理する間、熱およびタイガー・ポーヘッドの手作業による回転を受ける。フードサイクル、温度条件およびタイガー・ポーヘッドの回転数は、以下に説明されたように変えられる。
【0052】
各試験のために、コーテッドパンと対照用パンとが、全てのパンを同時に調理するために十分なバーナーを有する商用ガスストーブトップ上で試験される。対照用パンは、判断される標準的性質が何度も予め決められている公知の商用調理用具コーティング系でコートされた標準パンである。試験のための温度は、基材表面上で接触高温計によって測定された時に280°F(138℃)〜300°F(149℃)に維持される。パンは、全てのバーナーの間で整然と回転される。
【0053】
作業において、試験パン位置をバーナー上に置き、特定の温度内に加熱する。パンに以下の調理プロセスを実施する。
【0054】
卵を、調味していないパンで焼く。卵を3分間、調理する。卵をへらで持ち上げ、パンを傾けて卵を滑らせる。卵が滑る容易さが評価される。パンをバーナーに戻しておよび卵をひっくり返す。卵黄をへらで壊し、卵をさらに2分間、調理する。卵を再びへらで持ち上げ、卵が滑る容易さが、上に記載された「剥離」と呼ばれる尺度に基づいて定量される。また、パンを引掻きについて評価する。パンを熱水で洗浄し、紙タオルで拭き取った。
【0055】
調理1:大さじ1杯のコーン油をパンの中心に置く。片側に小さじ1/4の塩を振った予め作られたハンバーガーパッティーを油上に塩側を下にして置く。パッティーを3分間、調理する。次いで蓋をフライパン上に置き、蓋をつけてパッティーをさらに4分間、調理する。スプーンの端縁でパッティーを最初に1/4に切り、各1/4を1/3に切る。肉を除去し、パンを紙タオルで拭き取る。
【0056】
2カップ(16オンス)の準備されたトマトソース混合物(30オンスのトマトソース、1/2カップの塩、3クォートの水)を各パンに添加し、20分間、煮る。この20分煮る間、引掻き酷使試験をタイガー・ポーヘッドを用いて行う。混合物を各パン内で、タイガー・ポーヘッドで円形パターンに時計回りの方向に50回転および反時計回りの方向にさらに50回転攪拌する。20分煮たとき、パンをバーナーから取り出し、中味を空にし、各パンを洗剤溶液で十分に洗浄する。パンをきれいな水中で洗浄し、乾燥状態に拭き取る。
【0057】
パンをバーナーに戻し、パンの中心に大さじ1杯の油を置くことからはじめる調理手順を繰り返す。
【0058】
4回の調理を終えるごとに、上述のように卵を焼き、パンを剥離および引掻きについて評価する。7回の調理を終えるごとに(または7回の調理を終えることができない場合、毎日の終わりに)各パンに2カップの水、小さじ1杯の液体洗剤および小さじ3杯の塩の洗剤溶液を入れる。洗剤を沸騰させ、蓋をパンの上に置く。パンをバーナーから取り出し、一晩静置する。次の日に卵を焼くことからサイクルを開始し、パンを評価する。パンが5の引掻き等級を有することが確認されるまで試験は続き、その時に試験が終わる。引掻きはTP試験において使用された尺度と同じ尺度を使用する。剥離の尺度を以下に記載する。
【0059】
剥離(0−5):剥離等級は、卵がどれほど容易に滑るか、どれだけの卵がパンにくっつくか評価することによって決定される。
【0060】
5 − すぐれた
4 − 非常に良い
3 − 良い
2 − 可
1 − 良くない
0 − 非常に良くない
【0061】
(AIHAT)
フライパンなどのコートされた基材を一般的な家庭金属調理用具(フォーク、へら、泡立て器、ナイフ)を用いて一連の高温調理サイクルにかける。試験の説明は、米国特許公報(特許文献7)(バザー(Batzar))第3欄、11〜64行目に記載されている。試験は、一般的な調理酷使からの擦傷および引掻きの尺度である。
【0062】
(乾燥フィルム厚さ(DFT))
焼成されたコーティングの厚さは、渦流原理(ASTMB244)に基づいてフィルム厚さ計測器、例えば、フィッシャースコープ(Fisherscope)で測定される。
【実施例】
【0063】
(フルオロポリマー)
PTFE分散体:デラウェア州、ウィルミントンの本願特許出願人から入手可能なDuPont TFEフルオロポリマー樹脂分散体グレード30
【0064】
FEP分散体:54.5〜56.5重量%の固形分および150〜210ナノメートルのRDPSを有するTFE/HFPフルオロポリマー樹脂分散体であり、前記樹脂はHFP含有量が9.3〜12.4重量%であり、米国特許公報(特許文献8)に記載されているように改良されたASTMD−1238の方法によって372℃において測定された溶融流量が11.8〜21.3である。
【0065】
PFA分散体:デラウェア州、ウィルミントンの本願特許出願人から入手可能なDuPont PFAフルオロポリマー樹脂分散体グレード335
【0066】
(ポリマーバインダー)
PAIは、トルロン(Torlon)(登録商標)AI−10ポリ(アミド−イミド)(アモコ・ケミカル・コーポレーション(Amoco Chemicals Corp.))であり、残余のNMPを6〜8%含有する固体樹脂(ポリアミック塩に戻すことができる)である。
【0067】
ポリアミック酸塩は概して、30℃においてN,N−ジメチルアセトアミド中の0.5重量%溶液として測定された時に少なくとも0.1のインへレント粘度を有するポリアミック酸として入手可能である。米国特許公報(特許文献5)(コンキャノン)により詳細に記載されているように、それをN−メチルピロリドンなどの融合助剤、およびフルフリルアルコールなどの粘度降下剤中に溶解し、第三アミン、好ましくはトリエチルアミンと反応させて、水に可溶性である塩を形成する。
【0068】
(炭化ケイ素粒子)
ドイツ、ミュンヘンのエレクトロシュメルツヴェルク・ケムプテン社(Elektroschmelzwerk Kempten GmbH)(ESK)によって供給される炭化ケイ素を様々なサイズおよび混合物において使用する。
【0069】
P1200=3.0±0.5マイクロメートルの平均粒度
P1000=4.5±0.5マイクロメートルの平均粒度
P800=6.5±1.0マイクロメートルの平均粒度
P600=9.3±1.0マイクロメートルの平均粒度
P400=17.3±1.5マイクロメートルの平均粒度
P320=29.2±1.5マイクロメートルの平均粒度
P280=36.5±1.5マイクロメートルの平均粒度
P240=44.5±2.0マイクロメートルの平均粒度
【0070】
平均粒度(ds50)は、供給元によって提供された情報によってFEPA−Standard−43−GB 1984R 1993 resp.ISO 8486を用いて沈降によって測定される。
【0071】
(他の無機フィルム硬化剤)
酸化アルミニウム(小さな粒子)は、アルミニウム・コーポレーション・オブ・アメリカ(Aluminum Corporation of America)によって供給される0.35〜0.50マイクロメートルの平均粒度を有するグレードSGA−16。
【0072】
本発明の代表的な3コート非粘着系を、洗浄だけによって処理されてグリースを除去するが機械的に粗くされていない平滑なアルミニウムの試験パン上に吹き付ける。プライマー、中間コートおよびオーバーコートの水性分散体組成物。プライマー/中間層/オーバーコートの乾燥されたコーティング厚さ(DFT)を渦流分析により定量すると0.4ミル(10.2マイクロメートル)/0.7ミル(17.8マイクロメートル)/0.3ミル(7.6マイクロメートル)である。
【0073】
プライマー層および中間層を各実施例の表に記載する。実施例の全てについてのフルオロポリマーオーバーコートを表1に記載する。
【0074】
プライマーをアルミニウム基材上に吹き付け、5分間、150°F(66℃)において乾燥させた。次に中間コートを、乾燥されたプライマーの上に吹き付けた。トップコートを中間コートにウエット・オン・ウエットで適用した(吹き付けた)。コーティングは、5分間、800°F(427℃)の温度で焼成することによって硬化される。
【0075】
パンに試験を実施し、1)耐磨耗性、2)調理温度までの立ち上げ時間、および3)剥離を測定する。全ての系についての試験結果を表16に記載する。
【0076】
【表1】

【0077】
(比較例1−炭化ケイ素粒子、磁化可能なフレーク共になし)
【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
(比較例2−炭化ケイ素粒子なし)
【0081】
【表4】

【0082】
【表5】

【0083】
(比較例3−磁化可能なフレークなし)
【0084】
【表6】

【0085】
【表7】

【0086】
以下に示される実施例は、中間層中のSSフレークと共にプライマー層中のSiC粒子の様々な量およびサイズを有する。
【0087】
(実施例1−中間層中のSS)
【0088】
【表8】

【0089】
【表9】

【0090】
(実施例2−中間層中のSSおよびAL23
【0091】
【表10】

【0092】
【表11】

【0093】
(実施例3−中間層中のSS)
【0094】
【表12】

【0095】
【表13】

【0096】
(実施例4−中間層中のSSフレーク)
【0097】
【表14】

【0098】
【表15】

【0099】
(性能試験−磨耗、擦傷、調理温度までの立ち上げ時間、および剥離)
比較例1〜3および実施例1〜4に記載されたようにコートされた試験パンにAIHAT引掻き試験、MTP磨耗試験、SBAR、および促進調理試験を実施する。結果を表16に示す。本発明の実施例1〜4のすぐれた耐磨耗性が、SBAR試験(湿潤および乾燥の両方)およびMTP試験によって示される。良い耐擦傷性および耐引掻き性がAIHAT試験によって明白に示される。これらの実施例の本発明の剥離は通常の先行技術の調理用具と同じくらい良好である。接触試験の結果は、本発明の実施例のパンが、はるかに低減された時間で400°F(204℃)の調理温度まで加熱することを示す。調理用具において使用されたコーティング系のアンダーコート中のSiC粒子およびステンレス鋼フレークとの相乗効果は、はるかに改良された耐磨耗性、より速い調理温度までの加熱をもたらし、なおかつ良好な剥離をもたらす。
【0100】
【表16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と前記基材上の焼成剥離コーティングとを含む構造体であって、前記コーティングがアンダーコートとフルオロポリマーオーバーコートとを含み、前記アンダーコートが磁化可能なフレークと複数の炭化ケイ素粒子とを含有することを特徴とする、構造体。
【請求項2】
前記磁化可能なフレークの少なくとも一部が誘起配向を有さないことを特徴とする、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記磁化可能なフレークがステンレス鋼であることを特徴とする、請求項1に記載の構造体。
【請求項4】
前記アンダーコートが、プライマー層と前記プライマーと前記オーバーコートとの間に配置された中間層とを含み、前記中間層が前記フレークを含有することを特徴とする、請求項1に記載の構造体。
【請求項5】
前記炭化ケイ素粒子が、前記プライマー層によって前記剥離コーティングに供給されることを特徴とする、請求項4に記載の構造体。
【請求項6】
前記中間層がフルオロポリマーをさらに含むことを特徴とする、請求項4に記載の構造体。
【請求項7】
前記プライマー層がフルオロポリマーをさらに含むことを特徴とする、請求項4または5に記載の構造体。
【請求項8】
前記磁化可能なフレークが前記中間層によって供給されることを特徴とする、請求項4に記載の構造体。
【請求項9】
前記中間層がフルオロポリマーをさらに含むことを特徴とする、請求項4に記載の構造体。
【請求項10】
前記プライマー層が酸化アルミニウムをさらに含有することを特徴とする、請求項4に記載の構造体。
【請求項11】
前記中間層が酸化アルミニウムをさらに含有することを特徴とする、請求項4に記載の構造体。
【請求項12】
前記基材がアルミニウムであることを特徴とする、請求項1に記載の構造体。
【請求項13】
前記基材がステンレス鋼であることを特徴とする、請求項1に記載の構造体。
【請求項14】
前記炭化ケイ素粒子が約3〜約100マイクロメートルの範囲の平均粒度を有することを特徴とする、請求項1または5に記載の構造体。
【請求項15】
前記炭化ケイ素粒子が約5〜約45マイクロメートルの範囲の平均粒度を有することを特徴とする、請求項1または5に記載の構造体。

【公表番号】特表2008−524028(P2008−524028A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−546906(P2007−546906)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【国際出願番号】PCT/US2005/045476
【国際公開番号】WO2006/066027
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】