説明

改良された細胞培地

本発明は、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、αケトグルタル酸、フマル酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、オキサロコハク酸、酒石酸、乳酸、アジピン酸及びこれらの混合物並びにこれらの酸の塩、誘導体又は複合体からなる群から選ばれた少なくとも1つの物質を含む栄養培地、特に細胞培地に関する。さらに本発明は、このような細胞培地の使用及び作製方法、本発明に基づく細胞培地での細胞培養物の培養方法、及びこのような方法で得られる細胞に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1個の細胞を培養するための、及び/又は生物、特に細胞又は細胞培養物からポリペプチド、タンパク質及び/又は接種物を得るための栄養培地、特に細胞培地に関する。その場合には、生物を本発明に基づく栄養培地で培養し、所望のポリペプチド、タンパク質又は接種物を生物及び/又は培養上清から取得する。
【0002】
意外なことに、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、αケトグルタル酸、フマル酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、オキサロコハク酸、酒石酸、アジピン酸、乳酸の群から選ばれた有機酸もしくは有機酸の塩、誘導体又は複合体の栄養培地への添加は、細胞の増殖及び/又は生産性を高め、有毒な代謝産物の生成を減少させることが判明した。本発明に基づく物質を単独で又は互いに組み合わせて、又は他の炭水化物と組み合わせて栄養培地、特に細胞培地に加えるならば、特にこの物質を低グルタミンの又はグルタミンを含まない培地に加え、もしくはグルタミン代替物を含む培地とともに利用するならば、本発明のこの態様に従って生産性の向上及び/又は副産物生産の減少が達成される。
【0003】
本発明に基づく物質は細胞代謝のモジュレーターとして使用される。この物質は補助的なエネルギー及び/又は炭水化物源として作用する。この点に関連して、上記の物質は炭水化物及び/又はグルタミンを含む適当に高い濃度の栄養培地、特に細胞培地で使用することができる。本発明に基づく物質は炭水化物及び/又はグルタミンを含まない栄養培地、特に細胞培地でも使用することができる。
【背景技術】
【0004】
接種物(例えばウイルス又はポリペプチド)の製造において動物細胞、特に哺乳動物細胞を宿主細胞として使用することが多くなってきている。この場合たいてい連続的に増殖する細胞、即ち細胞系が使用される。それは不死化細胞又は腫瘍細胞のいずれかである。幾つかの用途には、例えばヒト又は動物から直接採取される、初代細胞が使用される。in vitroで培養する場合、初代細胞と細胞系の間には大きな相違がある。初代細胞は少数の回数しか分裂することができないが、細胞系は事実上無限の回数分裂することができる。初代細胞と連続継代細胞系の間には細胞代謝の相違、例えばグルコース消費率、乳酸産生率及びグルタミン消費率の相違も存在しうる。
【0005】
細胞、特に哺乳動物細胞を使用する場合のプロセス最適化の1つの目的は、培養系の生細胞濃度の積分、即ち生細胞濃度曲線及び時間曲線からの積分の増加をはかることである。生細胞濃度の積分は産物濃度、例えばポリペプチド濃度と正の相関があるからである(J.M.Renardら、Biotechnology Letters, 1988, 10(2): 91-96)。生細胞濃度の積分は、生細胞濃度を高めるか又はプロセス時間を延長することによって増加することができる。
【0006】
細胞がバイオリアクターで長く生き続けるならば、即ち細胞の生存率が長期間高いままであるか又は定常期が延長されるならば、プロセス時間を延長することができる。生存率が低ければ、培養物中に多くの死細胞があり、それが発酵のときに溶解して、細胞固有のタンパク質を放出する。一方、培養物中の全固有タンパク質含量が高ければ、所望のポリペプチドの精製を妨げることになる。生存率の低下と、それゆえの短いプロセス時間について、幾つかの解説がある。即ち、栄養培地、特に細胞培地では基質が制限的に作用したり、細胞が物理的発酵条件のためにアポトーシスを生じたり、代謝副産物が培地に蓄積して細胞に有毒な働きをしたりする。
【0007】
細胞の生存率が長期間にわたり高いままである、即ち定常期が延長される栄養培地又は方法が望ましい。というのは、定常期で最高の生細胞濃度にすでに到達しているからである。定常期の延長により、生細胞濃度の積分が増加し、産物の生成が高まる。生細胞濃度の積分を増加する別のパラメーターは、ピーク細胞濃度の増加である。優れた栄養培地及び優れた培養法を用いることによってピーク細胞濃度を一層高めることができる。
【0008】
ピーク細胞濃度又は細胞生存率は細胞代謝の関数である。細胞の代謝が非効率的であれば、細胞はエネルギーに富む中間代謝産物(例えば乳酸)を培地に放出する。細胞が例えばアンモニウムのような有毒の中間代謝産物を培地に放出することもある。こうしたアンモニウムは細胞増殖、生産性及び産物の品質(例えばグリコシル化)にマイナスの影響を及ぼす。例えば細胞が高い解糖活性によりグルコースを代謝するならば、解糖中間産物の細胞内濃度のシフトが生じる。これはストレス安定性、生産性及び増殖のために必要な様々な遺伝子の発現プロファイルに影響する(K.J.Verstrpenら、Trends Biotechnol., 2004, 22(10): 531-537)。このような条件では生細胞濃度の積分が低く、それはまた低い産物の産生を意味する。
【0009】
連続継代細胞系では、初代細胞と比較して、細胞代謝が退化していることが知られている。この点に関連して、細胞系と初代細胞の間で一次代謝の一連の酵素が比較された。調べた細胞系では、解糖とクエン酸回路を結びつける酵素の活性を検出することができなかったが、初代細胞にはそれらが存在した(J.Neermann及び R.J.Wagner, J. Cel. Physiol., 1996, 166(1): 152-169)。多くの連続的哺乳動物細胞でグルコースから乳酸へのフラックス(flux)は高いが、ピルビン酸からクエン酸回路へのフラックスは低い。グルコースの大部分は細胞によって乳酸に変換され、続いてエネルギーに富む乳酸が栄養培地、特に細胞培地に排出される。細胞系は、グルコースとは別に、グルタミンをエネルギー源として高率で代謝する。こうして2つの基質、グルコース及びグルタミンは連続的哺乳動物細胞用の栄養培地中で最も重要な基質に入る。
【0010】
連続継代細胞系の細胞代謝を改善するための幾つかの試みがあった。解糖フラックスを抑制する手段として、このプロセスのグルコースとグルタミンを制限することが試みられた。基質の制限は、細胞のオーバーフロー代謝を抑制し、結果的に細胞がより少ない乳酸及びアンモニウムを生成すると推定された(US 2004/0048368 A1;A.F.Europaら、Biotechnol. Bioeng., 2000, 67(1): 25-34)。グルタミン制限がCHO細胞の増殖とアポトーシスに及ぼす効果が詳しく研究された。グルタミンを制限すると、細胞増殖率は減少するものの、アポトーシスに至る細胞の割合はより少ないことが示された(A.Sanfelieu及びG.Stephanopoulus, Biotechnol. and Bioeng., 1999, 64(1): 46-53)。国際特許公開WO 98/41611で、グルコース及びグルタミン濃度を低い値に調節することが提案された。これはグルコース又はグルタミン濃度を酸素消費率と結びつけることによって行われるという。この手法は基質の複雑な調節と補給を前提とするから、特に大規模条件のもとではプロセスをコントロールすることが難しい。発酵槽の故障の危険とそれに伴う財政的危険が大きくなる。他方では欧州特許EP 0435911 B1は、改善された細胞増殖と産物生成の増加を得るために、標準細胞培地でとりわけグルタミンを増加しなければならないとの説を示す。同様に、生物学的薬剤の生産のために、流加法又は灌流で動物細胞にグルタミンを補給することが必要であるという(S.Duvarら、Transkript. 2004, 5(1): 34-36)。したがって、細胞代謝に関するグルタミンの役割について、文献では矛盾した記述がある。
【0011】
K. Chenら(Biotechnol. Bioeng., 2001, 72: 55-62)は相同的組換えによって乳酸の生成を抑えようとした。乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のコピーを不活性化し、それによって細胞特異的乳酸生成率を50%だけ減少させた。N. Iraniら(J. Biotechnol., 1999, 66:238-246)はピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子を細胞系にクローニングした。それによって細胞がより多くのピルビン酸をクエン酸回路に供給し、こうしてより少ない乳酸を産生することが期待された。欧州特許公開EP 0338841 A1によれば、グルタミンシンターゼ遺伝子を選択マーカーとして細胞にクローニングした。これは外部グルタミンを栄養培地に加えないでよいという利点がある。細胞は自らグルタミンを産生し、アンモニウムをあまり排出しなかった。
【0012】
C. Altamiranoら(Biotechnol. Progress, 2000, 16(1): 69-75)は、グルコースとグルタミンを、バッチ条件下において低タンパク質培地では代謝しにくい代替物、この場合はガラクトースとグルタミン酸に置き換えた。その結果、細胞は実際に代謝副産物をそれほど産生しなかったものの、細胞増殖と産物生成のいずれも対照より低かった。さらに2段階プロセスを開発することが提案された。即ち、細胞をまずグルコース中で増殖させ、次に生産段階でガラクトースを炭水化物源として使用するのである(C. Altamiranoら、Biotechnol. Bioeng., 2001, 76(4): 351-60; C. Altamiranoら、J. Biotechnology, 2004, 110(2): 171-9)。
【0013】
米国特許US 4,049,494は、無血清で、化学的に規定された、オートクレーブ滅菌可能な栄養培地を記述する。この培地は、グルタミンを含まず、同時にグルコース及びピルビン酸を含むという性質がある。この培地は小児ハムスター腎細胞によるウイルス生産のために特に開発されたものである。同様に、国際出願公開WO 03/106661 A2は哺乳動物細胞の培養のための基質の組合せを記述する。この組合せは、グルタミンを含まず、同時にピルビン酸を含む栄養培地を構成する。この基質組合せは乳酸及び/又はアンモニウムの生産を減少させるという。栄養培地での1mMピルビン酸と5.5mMグルコースの組合せは、卵丘細胞に囲まれたマウス卵母細胞の成熟を促進することが示された。興味深いことに、細胞の成熟に対するグルタミンの影響はあるにしても少ないことが実証された(S.M.Downs及びE.D.Hudson, Zygote, 2000, 8(4): 339-51)。T.Hassel及びM.Butler(J. Cell Science, 1990, 96(Pt3): 501-8 )は、栄養培地のグルタミンをグルタミン酸又は2−オキソグルタル酸に置き換えて、細胞をこの培地に適応させた。使用したMcCoy細胞は、適応段階の後に、乳酸及びアンモニウムをほとんど産生しなかった。この場合には、細胞がミクロキャリアー上で増殖し、後期指数増殖期か又は定常期にあったことを強調されねばならない。これらの増殖期には細胞は変化した代謝プロファイルを有する。さらに、グルタミンを含まない培地に細胞を事前に適応させることが必要であった。
【0014】
特殊な栄養培地では、グルタミンが栄養培地から除去された。細胞の適応なしに、被検クローンをこの特殊な栄養培地で単純に増殖させた。それによってアンモニウム生産が減少し、産物の生成が増加した(F.Deer及びM.Cunningham, Genetic Eng. News, 2000, 20(7): 42)。N.Kuranoら(Journal of Biotechnology, 1990, 15(1-2): 113-28)はグルタミンをアスパラギンに置き換えた。流加条件及びグルタミンなしの条件でCHO培養物にアスパラギンを補充したところ、アンモニア生産が減少した。
【0015】
さらに、栄養培地のグルタミンをジペプチド、アラニル-グルタミン(Ala-Gln)又はグリシル-グルタミン(Gly-Gln)に置き換えた。この戦略によって細胞はあまりアンモニウムを生産しないことがわかった(E.Rothら、In vitro cellular & developmental biology, 1988, 24(7): 696-698;A.Christie及びM.Butier, J. Biotechnology, 1994, 37(3): 277-90)。安定なグルタミン代替物L-アラニル-グルタミン(Glutamax)によるグルタミン制限の影響を調べるために、グルタミンをこの物質で置き換えた(A.Sanfeliu及びG.Stephanopoulus, Biotechnol. and Bioeng,. 1999, 64(1): 46-53)。
【0016】
グルコース消費と乳酸生産を減少するとされた別の物質の組合せが欧州特許公開EP 1342780 A1に開示された。それによれば、遊離の未結合クエン酸と、錯化剤に結合されたクエン酸鉄との組合せを栄養培地に加えるとのことである。
【0017】
栄養培地(灌流物)中に、乳酸とピルビン酸を10:1の比で基質としてラット心臓細胞に供給した。乳酸は心臓細胞の好ましい基質であるから、乳酸が使用された。乳酸の添加によって解糖フラックスが阻害されていたことが示された(C.Depreら、Acta Cardiologica, 1993, 48(1): 147-64;I.V.Ovchinnikov及びN.P.Kim, Ukrainski Biokhimicheskii Zhurnal, 1985, 57(4): 72-5)。
【0018】
化学的に規定された無タンパク質培地でハムスター胚に対するコハク酸、マレイン酸、乳酸及びピルビン酸の作用が検討された。栄養培地中のコハク酸とマレイン酸は胚芽細胞の発生を支持することを示すことができた(R.Ain及びP.B.Seshagiri, Molecular Reproduction & Development, 1997, 47(4): 440-7)。この研究では、発生生物学、特に胚芽細胞(初代細胞)の発生に焦点が向けられた。
【0019】
CHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞はリボース、ラクトース、スクロース、グリセロール、乳酸、ピルビン酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸又はマレイン酸をエネルギー源として利用できないことが報告された(P.Faik及びM.J.Morgan, Cell boil. Int. Reports, 1977, 1(6): 555-62)。驚いたことに、これらの物質は、本発明によれば、正しい濃度を選択し、さらに正しいアミノ酸(グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン)濃度及び炭水化物源を選択すれば、細胞、特にCHO細胞によって基質として利用され得ることが判明した。
【0020】
細胞の生産性能を酪酸に匹敵するくらいに高めるとの理由で、酢酸が栄養培地に加えられた(国際出願公開WO 03/064630)。遺伝的に改変された酵母株を選択できるように、グルコースが他のC2-炭素源と組み合わされた(国際出願公開WO 2004/099425)。しかしこの研究では、焦点が新しい酵母株の選択方法にあり、生物の培養方法ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の根底にある技術的課題は、生産性が向上した栄養培地(特に細胞培地)、細胞培養物、並びに細胞又は細胞培養物を培養するための、特に細胞又は細胞培養物から生物学的産物を生産するための方法を提供することである。この場合には、細胞培養物の生細胞濃度の積分が増加し、従って全プロセス期間にわたってより多量の所望の生物学的産物を得ることができる。また、この栄養培地(特に細胞培地)は、グリコシル化経路又はエネルギー代謝経路(特にクエン酸回路又は解糖)に、おそらく正確には局限されない、1以上の代謝遮断を有する細胞、又は培地から細胞への及び/又は細胞内小器官の間の、代謝産物の輸送に遮断を有する細胞のために使用することが望ましい。
【0022】
したがって、本発明は、細胞又は細胞培養物を培養するための、さらにはグリコシル化経路又はエネルギー代謝経路(例えばクエン酸回路又は解糖)に代謝遮断を有する細胞、又は培地から細胞への及び/又は細胞内小器官の間の代謝産物の輸送に遮断を有する細胞を培養するための栄養培地を提供するという技術的課題にも基づく。この栄養培地においては、細胞増殖が改善され、又は代謝副産物の生産が減少し、従って全プロセス期間にわたってより多量の所望の生物学的産物を得ることができる。
【0023】
また本発明は、特殊な細胞、特に遺伝的に改変された及び/又は代謝的に改変された、特に最適化された細胞を選択する方法を提供するという技術的課題にも基づく。
【0024】
驚いたことに、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、αケトグルタル酸、フマル酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、オキサロコハク酸、酒石酸、アジピン酸、乳酸から選ばれた有機酸又は有機酸の塩、誘導体又は複合体を栄養培地(特に細胞培地)に添加すると、細胞の増殖及び/又は生産性が高まり、及び/又は有毒の代謝産物の生産が少なくなることが判明した。その場合、本発明によれば、コハク酸、リンゴ酸、αケトグルタル酸、フマル酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、オキサロコハク酸、酒石酸、アジピン酸、および乳酸の群から選ばれた有機酸もしくは有機酸の塩又は複合体が好ましい。
【0025】
本発明に基づく物質を単独で栄養培地(特に細胞培地)に加える、もしくは互いに組み合わせるか又は炭水化物と組み合わせる、もしくは炭水化物なしで該培地に加えるならば、特にグルタミンを含む又はグルタミンを含まない培地にこれらの物質を加えるならば、あるいはグルタミン代替物を含む又はグルタミン代替物を含まない培地、もしくは高いアスパラギン濃度を有する又はアスパラギン代替物を含む、もしくは高いグルタミン酸濃度を有する又はグルタミン酸代替物を含む培地でこれらの物質を使用するならば、本発明のこの態様から生じる生産性の向上及び/又は副産物生産の減少が得られる。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、特許請求の範囲に記載の栄養培地、特に細胞培地、細胞培養物及び方法を提供することによって、その根底にある技術的課題を解決するものである。
【0027】
特に本発明は、少なくとも1個の細胞を含む細胞培養物の培養のための栄養培地、特に細胞培地を提供することによって、その根底にある技術的課題を解決し、ここで該栄養培地、特に細胞培地はクエン酸、コハク酸、リンゴ酸、αケトグルタル酸、フマル酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、オキサロコハク酸、酒石酸、アジピン酸、乳酸及びこれらの混合物、並びにこれらの酸の塩、誘導体又は複合体からなる群から選ばれた少なくとも1つの物質を含む。本発明によれば、上記栄養培地、特に細胞培地はコハク酸、リンゴ酸、αケトグルタル酸、フマル酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、オキサロコハク酸、酒石酸、アジピン酸、乳酸及びこれらの混合物、並びにこれらの酸の塩又は複合体からなる群から選ばれた少なくとも1つの物質を含むことが好ましい。
【0028】
本発明に基づき使用される酸の塩とは、特にコハク酸塩、リンゴ酸塩、α−ケトグルタル酸塩、フマル酸塩、オキサロ酢酸塩、イソクエン酸塩、オキサロコハク酸塩、酒石酸塩、アジピン酸塩又は乳酸塩を意味する。クエン酸の塩とはクエン酸塩を意味する。
【0029】
本発明に基づく栄養培地、特に細胞培地はコハク酸、リンゴ酸、αケトグルタル酸、フマル酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、オキサロコハク酸、酒石酸、アジピン酸、乳酸及びこれらの混合物、並びにこれらの酸の塩又は複合体からなる群から選ばれた少なくとも2つの物質を含むことが好ましい。その場合上記の酸の1つ又は幾つかは塩又は複合体の形態であってもよい。特に上記の群を、クエン酸を含めるよう拡張することが好ましい。
【0030】
栄養培地は乳酸を含むことが好ましい。栄養培地は乳酸塩を含むことが好ましい。栄養培地は少なくとも1つの乳酸複合体を含むことが好ましい。栄養培地は乳酸誘導体を含むことが好ましい。
【0031】
栄養培地は乳酸誘導体としてアラニン及び/又は少なくとも1つのアラニン含有ペプチドを含むことが好ましい。栄養培地はアラニン及び/又は少なくとも1つのアラニン含有ペプチドを0.1g/l以上、特に好ましくは1g/l以上、さらに好ましくは5g/l以上、最も好ましくは25g/l以上の濃度で含むことが好ましい。栄養培地は乳酸誘導体としてピルビン酸塩及び/又は少なくとも1つのピルビン酸誘導体を含むことが好ましい。栄養培地は0.1g/l以上、特に好ましくは1g/l以上、さらに好ましくは5g/l以上、最も好ましくは25g/l以上の濃度のピルビン酸塩又は少なくとも1つのピルビン酸誘導体を含むことが好ましい。
【0032】
好ましい実施形態では、本明細書に挙げた濃度は最終濃度である。好ましい実施形態では、本明細書に挙げた濃度は各物質の総濃度である。
【0033】
栄養培地は0.1g/l以上、とりわけ1g/l以上、特に好ましくは5g/l以上、特に好ましくは25g/l以上の濃度の乳酸、乳酸塩、少なくとも1つの乳酸複合体及び/又は少なくとも1つの乳酸誘導体を含むことが好ましい。
【0034】
栄養培地はコハク酸を含むことが好ましい。栄養培地はコハク酸塩を含むことが好ましい。栄養培地はコハク酸誘導体を含むことが好ましい。栄養培地はコハク酸塩誘導体を含むことが好ましい。
【0035】
本発明の好ましい実施形態では、本発明に基づく栄養培地、特に細胞培地は上記の酸又は物質のすべてを含有し、そして酸の代わりに、対応する塩又は複合体を使用することもできる。特にそのような組成物中では、代謝的に遮断された細胞、特に例えばグリコシル化経路又はエネルギー代謝経路(例えばクエン酸回路又は解糖)の遮断部位が正確に局限されない細胞、又は培地から細胞への、及び/又は細胞内小器官の間の代謝産物の輸送に遮断を有する細胞を培養することが可能である。こうして栄養培地、特に細胞培地はコハク酸、リンゴ酸、αケトグルタル酸、フマル酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、オキサロコハク酸、酒石酸、アジピン酸、および乳酸を含むことが好ましい。その場合上記の酸の1つ又は幾つかは塩又は複合体の形態であってもよい。特に上記の群は、クエン酸を含めるよう拡張することが好ましい。本発明に基づく物質は生物の持続的培養、特に動物細胞の培養、とりわけ哺乳動物細胞の培養に適している。
【0036】
本発明に基づく栄養培地、特に本発明に基づく細胞培地は少なくとも15mg/l、特に好ましくは30mg/l、特に好ましくは少なくとも100mg/l、特に少なくとも300mg/l、最も好ましくは少なくとも1000mg/lの濃度の少なくとも1つの本発明物質を含むことが好ましい。本発明に基づく栄養培地、特に本発明に基づく細胞培地は0.03g/l以上、好ましくは0.1g/l以上、特に好ましくは1g/l以上、特に5g/l以上、最も好ましくは25g/l以上の濃度の少なくとも1つの本発明物質を含むことが好ましい。別の好ましい実施形態では、本発明に基づく栄養培地は流加培地である。本発明に基づく栄養培地、特に流加培地は0.2g/l以上、好ましくは1g/l以上、特に好ましくは5g/l以上、非常に好ましくは25g/l以上、最も好ましくは少なくとも100g/lの濃度の少なくとも1つの本発明物質を含むことが好ましい。
【0037】
好ましい実施形態では、本発明に基づく栄養培地、特に本発明に基づく細胞培地は少なくとも1つの炭水化物、特に好ましくは単糖又は二糖を含む。栄養培地は1つの炭水化物を含むことが好ましい。炭水化物はグルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、リボース、グルコサミン、スクロース、ラクトース及びこれらの混合物からなる群から選ばれることが好ましい。
【0038】
栄養培地は0.1g/l以上、好ましくは1g/l以上、特に好ましくは5g/l以上、特に好ましくは25g/l以上、最も好ましくは少なくとも100g/lの濃度の少なくとも1つの炭水化物を含むことが好ましい。
【0039】
栄養培地はガラクトースを含むことが好ましい。栄養培地はガラクトース及び第2の炭水化物を含むことが好ましい。栄養培地は0.1g/l以上、好ましくは1g/l以上、特に好ましくは5g/l以上、特に好ましくは25g/l以上、最も好ましくは100g/l以上の濃度のガラクトースを含むことが好ましい。
栄養培地は100g/l以下、好ましくは25g/l以下、さらに好ましくは5g/l以下、特に好ましくは1g/l以下、特に好ましくは0.1g/l以下のグルコースを含むことが好ましい。栄養培地はグルコースを含まないことが好ましい。
【0040】
別の好ましい実施形態では、本発明に基づく栄養培地、特に本発明に基づく細胞培地は炭水化物を含まない。
【0041】
本発明に基づく栄養培地、特に本発明に基づく細胞培地は8mmol/l以下、好ましくは5mmol/l以下、特に好ましくは3mmol/l以下、最も好ましくは2mmol/l以下のグルタミンを含むことが好ましい。また栄養培地、特に細胞培地はグルタミンを含まないことが好ましい。
【0042】
別の好ましい代案では、本発明に基づく栄養培地、特に本発明に基づく細胞培地は少なくとも1つのグルタミン誘導体、即ち少なくとも1つのグルタミン含有グルタミン代替物、とりわけグルタミン含有ジペプチドを含む。少なくとも1つのグルタミン誘導体はグルタミン含有ペプチドであることが好ましい。
【0043】
本発明に基づく栄養培地、特に本発明に基づく細胞培地は30mg/l以上、とりわけ150mg/l以上、特に好ましくは750mg/l以上、最も好ましくは2000mg/l以上の濃度のグルタミン誘導体を含むことが好ましい。本発明に基づく栄養培地、特に本発明に基づく細胞培地は0.05g/l以上、とりわけ0.2g/l以上、特に好ましくは0.8g/l以上、最も好ましくは3.2g/l以上の濃度のグルタミン誘導体を含むことが好ましい。栄養培地、特に細胞培地の好ましい代案では、グルタミン誘導体を含まないことも可能である。
【0044】
栄養培地はアスパラギンを含むことが好ましい。栄養培地は少なくとも1つのアスパラギン代替物、特に少なくとも1つのアスパラギン誘導体を含むことが好ましい。本発明に基づく栄養培地、特に本発明に基づく細胞培地は高濃度、即ち0.05g/l以上、とりわけ0.15g/l以上、さらに好ましくは0.3g/l以上、特に0.6g/l以上の濃度(特に総濃度)のアスパラギン又は少なくとも1つのアスパラギン代替物、とりわけ少なくとも1つのアスパラギン誘導体を含むことが好ましい。
【0045】
本発明に基づく栄養培地、特に本発明に基づく細胞培地は高濃度、即ち0.05g/l以上、とりわけ0.15g/l以上、さらに好ましくは0.3g/l以上、特に0.6g/l以上の濃度のグルタミン酸塩又は少なくとも1つのグルタミン酸代替物、とりわけ少なくとも1つのグルタミン酸誘導体を含むことが好ましい。
【0046】
特に好ましい実施形態では、本発明は、乳酸及びガラクトース並びに上記の高いアスパラギン濃度を含むが、同時にグルタミンを含まない細胞培地に関する。
【0047】
別の好ましい実施形態では、本発明は、乳酸、ガラクトース及び上記の高濃度のアスパラギンを含み、同時にグルタミンを含まないが、少なくとも1つのグルタミン含有ペプチドを有する細胞培地に関する。
【0048】
別の好ましい実施形態では、本発明は、乳酸及びガラクトースを有し、さらに上記の濃度の高いグルタミン酸塩濃度を有するが、同時にグルタミンを含まない細胞培地に関する。
【0049】
別の好ましい実施形態では、本発明は、コハク酸及び上記の濃度の高いアスパラギン又はアスパラギン代替物濃度を有し、同時にグルタミンを含まない細胞培地に関する。
【0050】
本発明によれば、栄養培地はグルコースを含まず、グルタミンを含まず、0.05g/l以上、とりわけ0.15g/l以上、特に好ましくは0.3g/l以上、最も好ましくは0.6g/l以上の濃度のアスパラギン、並びに乳酸及びガラクトースを含むことが好ましい。本発明に基づく栄養培地はグルコース及びグルタミンを含まず、0.05g/l以上、とりわけ0.15g/l以上、特に好ましくは0.3g/l以上、さらに好ましくは0.6g/l以上の濃度のグルタミン酸塩、並びに乳酸及びガラクトースを含むことが好ましい。本発明に基づく栄養培地はグルコースを含まず、グルタミン含有ペプチド、乳酸及びガラクトースを含むことが好ましい。
【0051】
別の好ましい実施形態では、本発明に基づく栄養培地、特に本発明に基づく細胞培地は流加培地である。
【0052】
流加培地は乳酸、乳酸塩、少なくとも1つの乳酸複合体及び/又は少なくとも1つの乳酸誘導体を1g/l以上、とりわけ5g/l以上、特に好ましくは25g/l以上、特に好ましくは100g/l以上の濃度で含むことが好ましい。
【0053】
流加培地は1g/l以上、特に好ましくは5g/l以上、特に好ましくは25g/l以上、特に好ましくは100g/l以上の濃度のガラクトースを含むことが好ましい。
【0054】
本発明に基づく栄養培地、とりわけ流加培地は0.2g/l以上、とりわけ1g/l以上、特に好ましくは5g/l以上、最も好ましくは10g/l以上の濃度のグルタミン誘導体を含むことが好ましい。
【0055】
本発明に基づく栄養培地、特に流加培地は0.2g/l以上、とりわけ1g/l以上、特に好ましくは2g/l以上、特に5g/l以上、最も好ましくは10g/l以上の濃度のアスパラギン又は少なくとも1つのアスパラギン代替物、とりわけ少なくとも1つのアスパラギン誘導体を含むことが好ましい。
【0056】
本発明に基づく流加培地は0.2g/l以上、とりわけ1g/l以上、特に好ましくは2g/l以上、特に5g/l以上、最も好ましくは10g/l以上の濃度のグルタミン酸塩又は少なくとも1つのグルタミン酸塩代替物、とりわけ少なくとも1つのグルタミン酸塩誘導体を含むことが好ましい。
【0057】
好ましい代案では、本発明に基づく栄養培地、特に本発明に基づく細胞培地は基礎培地、とりわけ240〜360mOsmol/kg H2Oの重量オスモル濃度を有する基礎培地である。好ましい代案では本発明に基づく栄養培地、特に本発明に基づく細胞培地は基礎培地、とりわけ280〜350mOsmol/kg H2Oの重量オスモル濃度を有する基礎培地、最も好ましくは280〜320mOsmol/kg H2Oの重量オスモル濃度を有する基礎培地である。
【0058】
別の好ましい代案では、本発明に基づく栄養培地、特に本発明に基づく細胞培地は流加培地、とりわけ150〜1500mOsmol/kg H2Oの重量オスモル濃度を有する流加培地である。
【0059】
本発明に基づく栄養培地は無血清であることが好ましい。本発明に基づく栄養培地は血清を含むことが好ましい。
【0060】
栄養培地は特に細胞培地である。本発明に基づく栄養培地は液体栄養培地、特に液体細胞培地であることが好ましい。
【0061】
栄養培地の上記含有物の濃度についての上記の好ましい最小データから、当業者は含有物の選択すべき濃度範囲、さらには含有物の選択すべき最高濃度を容易に決定することができる。本発明によれば、本発明に基づき使用される有機酸の濃度は最高で200g/l、特に好ましくは100g/l、さらに好ましくは50g/l、最も好ましくは25g/lであることが好ましい。本発明によれば、本発明に基づき使用される乳酸及び/又は乳酸誘導体、特にアラニン及び/又はピルビン酸の濃度は最高で200g/l、特に好ましくは100g/l、特に50g/l、最も好ましくは25g/lであることが好ましい。本発明によれば、本発明に基づき使用されるグルタミン誘導体の濃度は最高で60g/l、特に好ましくは30g/l、さらに好ましくは10g/l、とりわけ好ましくは5g/l、特に1.2g/l、最も好ましくは1.1g/lであることが好ましい。本発明によれば、本発明に基づき使用されるアスパラギン又はアスパラギン誘導体の濃度は最高で60g/l、特に好ましくは30g/l、さらに好ましくは5g/l、特に1.2g/l、最も好ましくは1.1g/lであることが好ましい。本発明によれば、本発明に基づき使用されるグルタミン酸又はグルタミン酸誘導体の濃度は最高で60g/l、特に好ましくは30g/l、さらに好ましくは5g/l、特に1.2g/l、最も好ましくは1.1g/lであることが好ましい。本発明によれば、本発明に基づき使用されるガラクトースの濃度は最高で200g/l、特に好ましくは100g/l、特に50g/l、最も好ましくは25g/lであることが好ましい。
【0062】
また本発明は少なくとも1個の細胞を含む細胞培養物を培養するための本発明に基づく栄養培地、特に本発明に基づく細胞培地の使用に関する。
【0063】
また本発明は、細胞又は細胞培養物を提供することによって、その根底にある技術的課題を解決する。細胞又は細胞培養物は本発明に基づく培地及び方法で培養できるように、本発明に基づき代謝が最適化されていることが好ましい。
【0064】
本発明によれば、細胞又は細胞培養物は、細胞培養物が本発明に基づく物質を含む培地で生存又は分裂することができ、又はピーク細胞濃度がより高く、又は定常期がより長く、又は死滅期がより遅く、又は細胞代謝副産物(例えばアンモニウム又は乳酸)の生産が減少していることを特徴とする。
【0065】
本発明によれば、乳酸及び塩(乳酸塩)又は乳酸の複合体、又は乳酸代替物の塩を代謝することができる細胞又は細胞培養物が好ましい。本発明によると、グルコースを含まず、グルタミンを含まない培地で生存することができ、好ましくは分裂することができ、特に好ましくはより高い生細胞積分(IVC)に到達することができ、最も好ましくは代謝副産物(特に乳酸又はアンモニウム)の産生が少ない細胞又は細胞培養物が好ましい。本発明によると、グルコースを含まない培地で生存することができ、好ましくは分裂することができ、特に好ましくはより高い生細胞積分(IVC)に到達することができ、最も好ましくは代謝副産物(特に乳酸又はアンモニウム)の産生が少ない細胞又は細胞培養物が好ましい。本発明によると、グルコースを含まず、グルタミンを含まない培地で生存することができ、乳酸を代謝することができ、好ましくは分裂することができ、特に好ましくはより高い生細胞積分(IVC)に到達することができ、最も好ましくは代謝副産物(特に乳酸又はアンモニウム)の産生が少ない細胞又は細胞培養物が好ましい。本発明によると、グルコースを含まず、グルタミンを含まない培地で生存することができ、乳酸を代謝することができ、アスパラギン消費が高く、好ましくはこのような培地で分裂することができ、特に好ましくはより高い生細胞積分(IVC)に到達することができ、最も好ましくは代謝副産物(特に乳酸又はアンモニウム)の産生が少ない細胞又は細胞培養物が好ましい。本発明によると、グルコースを含まず、グルタミンを含まない培地で生存することができ、乳酸を代謝することができ、グルタミン酸消費が高く、好ましくはこのような培地で分裂することができ、特に好ましくはより高い生細胞積分(IVC)に到達することができ、最も好ましくは代謝副産物(特に乳酸又はアンモニウム)の産生が少ない細胞又は細胞培養物が好ましい。本発明によると、グルコースを含まず、グルタミンを含まない培地で生存することができ、乳酸を代謝することができ、ガラクトースを代謝することができ、好ましくはこのような培地で分裂することができ、特に好ましくはより高い生細胞積分(IVC)に到達することができ、最も好ましくは代謝副産物(特に乳酸又はアンモニウム)の産生が少ない細胞又は細胞培養物が好ましい。本発明によると、グルコースを含まず、グルタミンを含まない培地で生存することができ、乳酸を代謝することができ、ガラクトースを代謝することができ、アスパラギン消費が高く、グルタミン酸消費が高く、好ましくはこのような培地で分裂することができ、特に好ましくはより高い生細胞積分(IVC)に到達することができ、最も好ましくは代謝副産物(特に乳酸又はアンモニウム)の産生が少ない細胞又は細胞培養物が好ましい。
【0066】
本発明はまた、細胞培養物を栄養培地に入れて培養し、培養時間の少なくとも5分の1の間、栄養培地のpH値をpH7.2以上に塩基性とすることを特徴とする、少なくとも1個の細胞を含む細胞培養物の培養方法を提供することによって、その根底にある技術的課題を解決する。
【0067】
本発明はまた、細胞培養物を本発明に基づく栄養培地、特に本発明に基づく細胞培地に入れて培養することを特徴とする、少なくとも1個の細胞を含む細胞培養物の培養方法を提供することによって、その根底にある技術的課題を解決する。
【0068】
本発明に基づく栄養培地、特に本発明に基づく細胞培地に導入される、少なくとも1個の細胞を含む細胞培養物を生物学的産物の製造のために使用することが好ましい。
【0069】
生物学的産物は少なくとも1つのポリペプチド、少なくとも1つのタンパク質、少なくとも1つのウイルス成分、少なくとも1つのウイルス又はこれらの混合物から選ばれることが好ましい。特に生物学的産物は少なくとも1つの接種物であることが好ましい。
【0070】
生物学的産物を細胞培養物及び/又は栄養培地から、特に本発明に基づく細胞培地から取得することが好ましい。
【0071】
少なくとも1個の細胞は生物学的産物をコードする少なくとも1つの遺伝子を含むことが好ましい。
【0072】
本発明によれば、細胞培養物とは、培地、好ましくは栄養培地、特に細胞培地で生存し続け、好ましくは培地で分裂し、又は細胞分裂を行うように誘導される、少なくとも1個の細胞を意味する。本発明によると、少なくとも1個の細胞は真核細胞、好ましくは真菌細胞、特に酵母細胞、植物細胞又は動物細胞、例えば昆虫又は哺乳動物細胞、特にヒト又はげっ歯類細胞、ハムスター細胞又は骨髄腫細胞、例えばCHO、NSO、PERC6、HEK293又はBHK21細胞であることが好ましい。また本発明によると、少なくとも1個の細胞は原核細胞であることが好ましい。また本発明によると、少なくとも1個の細胞は上記の細胞のいずれか1つの子孫であることが好ましい。
【0073】
本発明によれば、少なくとも1個の細胞は細胞系、特に不死化細胞系及び/又は腫瘍細胞系に由来することが好ましい。また本発明によれば、少なくとも1個の細胞は初代細胞であることが好ましい。本発明に基づく細胞の例を以下で提示する。
【0074】
細胞培養物は、本発明によれば、1つの細胞集団であることが好ましい。あるいはまた、細胞培養物は細胞クローンであることが好ましい。細胞培養物は、本発明によれば、数種の細胞型又は細胞種を含み、好ましくは細胞培養物は数種の細胞型又は細胞種からなるか、又はこれらを含むことができる。細胞培養物は、本発明によれば、細胞の集合体からなるか、又は細胞の集合体を含むことが好ましい。
【0075】
本発明によれば、本発明に基づく方法は好ましくはバッチ法、分割バッチ法、流加法、連続法又は灌流法である。
【0076】
本発明によれば、培養終了時の培地のpH値は7.2以上に塩基性、好ましくは7.3以上に塩基性、特に好ましくは7.4以上に塩基性、特に好ましくは7.5以上に塩基性、特に好ましくは7.6以上に塩基性、最も好ましくは7.7以上に塩基性である。
【0077】
本発明によれば、栄養培地のpH値は、培養時間の少なくとも5分の1、好ましくは少なくとも5分の2、特に好ましくは少なくとも5分の3、特に少なくとも5分の4の間、pH7.2以上に塩基性、好ましくは7.3以上に塩基性、特に7.4以上に塩基性、特に7.5以上に塩基性、特に好ましくは7.6以上に塩基性、最も好ましくは7.7以上に塩基性である。
【0078】
本発明によれば、培養過程の間の栄養培地のpH値はpH7.2以上に塩基性、好ましくは7.3以上に塩基性、特に好ましくは7.4以上に塩基性、特に好ましくは7.5以上に塩基性、特に好ましくは7.6以上に塩基性、最も好ましくは7.7以上に塩基性であることが好ましい。
【0079】
本発明によれば、培養過程の間の栄養培地のpH値はpH6.6以上でpH7.9以下、好ましくはpH6.7以上でpH7.9以下、最も好ましくはpH6.8以上でpH7.9以下であることが好ましい。本発明によれば、培養過程の間の栄養培地のpH値はpH6.6以上でpH7.5以下、好ましくはpH6.7以上でpH7.5以下、最も好ましくはpH6.8以上でpH7.5以下であることが好ましい。本発明によれば、培養過程の間の栄養培地のpH値はpH6.6以上でpH7.2以下、好ましくはpH6.7以上でpH7.2以下、最も好ましくはpH6.8以上でpH7.2以下であることが好ましい。
【0080】
本発明によれば、培養過程の間の栄養培地のpH値はpH9.0以下、好ましくはpH8.5以下、さらに好ましくはpH8.0以下、特に好ましくはpH7.8以下、最も好ましくはpH7.7以下であることが好ましい。
【0081】
本発明によれば、本発明方法の培養過程の間の栄養培地のpH値はpH7.2以上に塩基性、好ましくはpH7.3以上に塩基性、さらに好ましくはpH7.4以上に塩基性、とりわけpH7.5以上に塩基性、特に好ましくはpH7.6以上に塩基性、最も好ましくはpH7.7以上に塩基性である。本発明によると、本発明方法の培養過程の間のpH値は、本発明方法の全培養時間の少なくとも5分の4(4/5)でpH7.2以上に塩基性、好ましくはpH7.3以上に塩基性、さらに好ましくはpH7.4以上に塩基性、とりわけpH7.5以上に塩基性、特に好ましくはpH7.6以上に塩基性、最も好ましくはpH7.7以上に塩基性であることが好ましい。なお本発明方法の全培養時間は、生産段階で培養容器に細胞を接種するときにスタートする。従って、生産段階のために細胞を増やす細胞培養の中間段階は全培養時間に数えない。
【0082】
本発明によれば、本発明方法の培養過程の終了時のpH値はpH7.2以上に塩基性、好ましくはpH7.3以上に塩基性、さらに好ましくはpH7.4以上に塩基性、とりわけpH7.5以上に塩基性、特に好ましくはpH7.6以上に塩基性、最も好ましくはpH7.7以上に塩基性であることが好ましい。本発明によると、本発明方法のpH値は最高で7.8、好ましくは最高で8.0であることが好ましい。
【0083】
また本発明はクエン酸、コハク酸、リンゴ酸、αケトグルタル酸、フマル酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、オキサロコハク酸、酒石酸、アジピン酸、乳酸及びこれらの混合物、並びにこれらの酸の塩、誘導体又は複合体からなる群から選ばれた少なくとも1つの物質を水又は細胞培養溶剤又は栄養培地溶剤、特に細胞培地溶剤、又は従来の栄養培地、特に細胞培地に溶解することを特徴とする、本発明に基づく栄養培地、特に本発明に基づく細胞培地の製造方法に関する。
【0084】
また本発明はクエン酸、コハク酸、リンゴ酸、αケトグルタル酸、フマル酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、オキサロコハク酸、酒石酸、アジピン酸、乳酸及びこれらの混合物、並びにこれらの酸の塩又は複合体からなる群から選ばれた少なくとも1つの物質を水又は細胞培養溶剤又は栄養培地溶剤、特に細胞培地溶剤、又は従来の栄養培地、特に細胞培地に溶解することを特徴とする、本発明に基づく栄養培地、特に本発明に基づく細胞培地の製造方法に関する。
【0085】
また本発明は、a)細胞集団としての細胞培養物を本発明に基づく栄養培地で少なくとも1週間、好ましくは少なくとも4週間培養し、続いてb)細胞を単離することを含んでなる、細胞集団から遺伝子改変細胞、特に代謝最適化細胞を選択するための方法、特に本発明に基づく細胞培養物の培養方法に関する。単離された細胞は生きた細胞である。本発明によると、培養は本発明に基づく培養法で行うことが好ましい。
【0086】
意外なことに、本発明に基づく栄養培地で培養すると、遺伝的に改変された新規な細胞が選択され、単離されることが示された。遺伝的改変は例えば細胞代謝の変化、特に改善によって示される。特にこのように細胞代謝が変化した上記の細胞は、本発明に基づく培地で、在来の細胞と比較して特によく又は概してよく増殖する。変化した細胞代謝は遺伝的改変によって生じる。こうして本発明に基づく栄養培地で細胞集団を培養することによって、遺伝的に改変された細胞が単離される。
【0087】
本発明によれば、段階b)で単離された少なくとも1個の細胞が別の段階c)で新しい栄養培地に移される。特に好ましくは、本発明に従うと、新しい栄養培地は新鮮な栄養培地である。本発明によれば、新しい栄養培地は本発明に基づく栄養培地であることが好ましい。本発明よれば、新しい栄養培地は本発明によらない栄養培地、即ち先行技術による栄養培地であることが好ましい。本発明によれば、段階b)で単離された少なくとも1個の細胞を段階c)で増やすことが好ましい。
【0088】
本発明によれば、栄養培地は本発明方法を実施するときにpH7.2以上に塩基性、好ましくはpH7.3以上に塩基性、さらに好ましくはpH7.4以上に塩基性、とりわけpH7.5以上に塩基性、特に好ましくはpH7.6以上に塩基性、最も好ましくはpH7.7以上に塩基性のpH値を有することが好ましい。
【0089】
本発明方法を実施するときに、本発明によれば、栄養培地は全培養時間の少なくとも5分の4(4/5)でpH7.2以上に塩基性、好ましくはpH7.3以上に塩基性、さらに好ましくはpH7.4以上に塩基性、とりわけpH7.5以上に塩基性、特に好ましくはpH7.6以上に塩基性、最も好ましくはpH7.7以上に塩基性のpH値を有することが好ましい。本発明方法の全培養時間は、生産段階で培養容器に細胞を接種するときにスタートする。即ち生産段階のために細胞を増やす細胞培養の中間段階は全培養時間に数えない。
【0090】
本発明によれば、栄養培地は培養過程の終了時に7.2以上に塩基性、好ましくはpH7.3以上に塩基性、さらに好ましくはpH7.4以上に塩基性、とりわけpH7.5以上に塩基性、特に好ましくはpH7.6以上に塩基性、最も好ましくはpH7.7以上に塩基性のpH値を有することが好ましい。本発明によると、pH値は最高7.8、好ましくは最高8.0であることが好ましい。
【0091】
本発明によれば、少なくとも1個の細胞を少なくとも1継代、特に好ましくは少なくとも2継代、最も好ましくは少なくとも5継代にわたって継代培養することが好ましい。本発明によれば、少なくとも1個の細胞を1:4以上の分割比に達するまで継代培養することが好ましい。
【0092】
また本発明は、本発明方法から得られる選択された細胞に関する。本発明によれば、前記細胞は炭素源としての乳酸を代謝できることが好ましい。本発明によれば、細胞は唯一の炭素源としてのガラクトースにより少なくとも1:4の分割比を有することが好ましい。本発明によれば、細胞はグルコース及びグルタミンを含まない培地で少なくとも1:4の分割比を有することが好ましい。本発明によれば、細胞の増殖率(μ)は24時間以下、特に好ましくは20時間以下、特に好ましくは18時間以下であることが好ましい。また本発明は少なくとも1個の本発明に基づく細胞を含む細胞培養物に関する。
【0093】
本発明によれば、細胞培養物は炭素源としての乳酸を代謝できることが好ましい。本発明に基づく細胞培養物は唯一の炭素源としてのガラクトースにより少なくとも1:4の分割比を有することが好ましい。本発明に基づく細胞培養物はグルコース及びグルタミンを含まない培地で少なくとも1:4の分割比を有することが好ましい。本発明によれば、こうして単離された細胞の増殖率(μ)は24時間以下、特に好ましくは20時間以下、特に好ましくは18時間以下であることが好ましい。
【0094】
また、本発明によれば、少なくとも1個の細胞から生物学的産物を得る方法も提供され、この方法は、少なくとも1個の細胞を本発明方法で培養し、そこから生物学的産物を取得することを含んでなる。
【0095】
本発明のこの態様に従って見いだされる物質は特にコハク酸、リンゴ酸、αケトグルタル酸、フマル酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、オキサロコハク酸、酒石酸、アジピン酸及び乳酸である。本発明によると、これらの物質にクエン酸をも含めることが好ましい。
【0096】
本発明のこの態様に従って必要とされる物質は特に単独で栄養培地、特に細胞培地に添加することができ、好ましくはこれらを組み合わせる、即ち1つにまたはすべて一緒に組み合わせることができる。他の炭水化物との組合せも好ましい。適当な炭水化物は好ましくは単糖及び二糖、例えばグルコース、ガラクトース、グルコサミン、フルクトース、リボース、マンノース、スクロース、ラクトースから選ばれる。炭水化物源としてこれらの炭水化物の1つ以上を選択することができる。
【0097】
本発明のこの態様に従って必要とされる物質は、グルタミンを含む、又はグルタミンを含まない、又は低グルタミン濃度(例えば8mM未満)を含む栄養培地、特に細胞培地で使用することができ、あるいは栄養培地、特に細胞培地はグルタミン代替物、例えばアラニル-グルタミン又はグリシル-グルタミンを含むことができ、あるいは栄養培地、特に細胞培地は数種のグルタミン含有ペプチドを含むことができる。
【0098】
本発明のこの態様に従って必要とされる物質は、好ましくはアスパラギン又はアスパラギン代替物を含む栄養培地、特に細胞培地で使用することができる。アスパラギン又はアスパラギン代替物の濃度は例えば0.05g/l以上、好ましくは0.15g/l以上、特に好ましくは0.3g/l以上、最も好ましくは0.6g/l以上であることが好ましい。アスパラギン代替物は例えば、アスパラギン含有ペプチド、例えば(但し限定されない)Leu-Asn(Sigma、カタログ番号:L0641)又はIle-Asn(Sigma、カタログ番号:13635)又はGlu-Asn-Gly(Sigma、カタログ番号:P5148)であることが好ましい。ペプチドは基本的に2個のアミノ酸、又は2個より多いアミノ酸、特に3個又は4個のアミノ酸を含むことが好ましい。
【0099】
本発明のこの態様に従って必要とされる物質は、グルタミン酸又はグルタミン酸代替物を含む栄養培地、特に細胞培地で使用することが好ましい。グルタミン酸又はグルタミン酸代替物の濃度は、例えば0.05g/l以上、好ましくは0.15g/l以上、特に好ましくは0.3g/l以上、最も好ましくは0.6g/l以上であることが好ましい。グルタミン酸代替物は例えばグルタミン酸含有ペプチドであり、例えば(但し限定されない)Asp-Glu(Sigma、カタログ番号:A1916-250MG)、Glu-Glu(Sigma、カタログ番号:G3640-25MG)、Glu-His(Sigma、カタログ番号:G6882-100MG)、Glu-Leu(Sigma、カタログ番号:G7007-10GM)、Glu-Lys(Sigma、カタログ番号:G5136-25MG)であることが好ましい。ペプチドは基本的に2個のアミノ酸、又は2個より多いアミノ酸、特に3個又は4個のアミノ酸を含むことが好ましい。
【0100】
また本発明は、水性系、本発明によれば好ましくは栄養培地、特に細胞培地での少なくとも1個の細胞を含む細胞培養物の細胞増殖を改善し、プロセス期間を延長するための栄養培地、細胞培養物又は方法を提供することによって、その根底にある課題を解決するものであり、その際、細胞増殖は上記の物質を、好ましくは栄養培地、特に細胞培地に加えることで改善される。特に本発明は、水性系、本発明によれば好ましくは栄養培地、特に細胞培地での少なくとも1個の細胞を含む細胞培養物の高い細胞増殖を達成し、又は細胞の生存力を長期化し、又はその代謝副産物の生成を減少させる栄養培地、細胞培養物及び方法を提供し、その際、細胞増殖は栄養培地、特に細胞培地に有機酸を加えることにより改善される。
【0101】
本発明によれば、栄養培地は有機酸又はその塩を含むことを特徴とする。本発明に基づく物質を加えることによって、細胞増殖及び/又は産物の生成が高められ、又は培養期間が延長され、及び/又は代謝副産物の生成が減少する。
【0102】
本発明によれば、細胞培養物は、本発明に基づく物質を含む培地で生存又は分裂することができ、又はピーク細胞濃度が高められ、又は定常期が長期化し、又は死滅期が遅くなり、又は細胞代謝副産物(例えばアンモニウム又は乳酸)の生成が減少することを特徴とし、その際、培地は好ましくは低グルタミン濃度を含むか又はグルタミンを含まず、高アスパラギン濃度を含み、グルコース又はその他の炭水化物を含み、特にグルコースを含まないか又はガラクトースを含むことができる。高アスパラギン濃度の代わりに、高グルタミン酸濃度を含むこともできる。
【0103】
本発明によれば、細胞増殖は主に(しかし排他的ではない)少なくとも1個の細胞の少なくとも1回の細胞分裂によって引き起こされる細胞培養物の増殖である。細胞増殖が高められるとすれば、これは主として細胞分裂の回数(細胞増殖率、μともいう)の増加によって引き起こされる。
【0104】
細胞培養物の定常期は細胞培養物の増殖曲線の典型的な増殖期であり、このことは当業者には周知である。この増殖曲線は誘導期、指数増殖期(対数期)、定常期及び死滅期を含む。これらの期の経過は変化することがある。また例えば本発明に基づく物質を栄養培地、特に細胞培地に加えることによって、これらの期の経過及び持続時間を調節することができる。
【0105】
「生細胞濃度の積分」とは、所定の期間にわたる生細胞濃度のことである(J.M.Renardら、Biotechnology Letters, 1988, 10(2): 91-96)。従って、生細胞濃度の積分は、プロセス期間、特に細胞培養期間の間の生きた細胞の総数である。生細胞濃度の積分は、細胞の数又はプロセスの持続時間によって変化しうる。好ましくは、本発明によれば、本発明に基づく栄養培地又は方法によって生細胞濃度の積分が増加される。
【0106】
本発明によれば、とりわけ細胞増殖が改善され、又はピーク細胞濃度が増加し、又は定常期が長期化し、又は死滅期が遅くなり、又は細胞代謝副産物(例えばアンモニウム又は乳酸)の生成が減少する。
【0107】
本発明によれば、本発明方法はバッチ法、分割バッチ法(反復バッチ操作)、流加法、連続法又は灌流法であることが好ましい。
【0108】
本発明によれば、生物学的産物の製造のために、少なくとも1個の細胞を含む細胞培養物が本発明方法で使用される。本発明によれば、生物学的産物は好ましくは少なくとも1つのポリペプチド、少なくとも1つのタンパク質、少なくとも1つのウイルス成分、少なくとも1つのウイルス又はこれらの混合物から選ばれたものである。本発明によれば、生物学的産物は少なくとも1つの接種物であることが好ましい。
【0109】
所望の生物学的産物、特にポリペプチド、タンパク質又は接種物の製造のために、産物に応じて原核細胞(例えば細菌)又は真核細胞(例えば酵母細胞)又は植物細胞、特に動物細胞、とりわけ哺乳動物細胞が使用される。産生される産物の遺伝子は、自然の状態で宿主細胞に存在しても、組換え手段によって存在してもよい。産物の種類は数個のアミノ酸を含むペプチドから全ウイルスに至るまで様々である。特に翻訳の後に翻訳後プロセスで改変される(特にグリコシル化される)複雑なタンパク質の場合には、動物細胞を使用することが好ましい。別の実施形態では、他の真核細胞、例えば酵母の使用が考えられる。
【0110】
本発明によれば、生物学的産物は、好ましくは細胞培養物及び/又は細胞培養上清又は細胞自体(細胞内)から取得される。
【0111】
また本発明によれば、生物学的産物は細胞自体であってもよく、例えば初代細胞、幹細胞、初代細胞の集合体、組織構成成分、又は完全な組織でありうる。
【0112】
本発明によれば、少なくとも1個の細胞は生物学的産物をコードする少なくとも1つの遺伝子を含むことが好ましい。その遺伝子は外来遺伝子、即ち産生細胞にはもともと存在しない遺伝子であるか、又は産生細胞にもともと存在する細胞特異的遺伝子でありうる。細胞特異的遺伝子は、例えば産生細胞中に活性状態又は不活性状態で存在していてよい。細胞特異的遺伝子が不活性であったならば、その遺伝子を外的介入によって活性化することができる。
【0113】
本発明によれば、少なくとも1個の細胞を細胞培養物として培養するための方法も提供され、この方法では少なくとも1個の細胞を本発明に基づく栄養培地、特に細胞培地で培養し、その際、細胞の増殖を本発明方法により刺激することが好ましい。
【0114】
本発明によれば、少なくとも1個の細胞から生物学的産物を得る方法も提供され、この方法では少なくとも1個の細胞を本発明方法により培養し、そこから生物学的産物を得る。
【0115】
意外なことに、これら特定の有機酸(クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、αケトグルタル酸、フマル酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、オキサロコハク酸、酒石酸、アジピン酸、乳酸)は、特により高い濃度を使用するとき、細胞増殖及び/又はポリペプチドの産生を促進し、及び/又は代謝副産物の産生を抑制することが判明した。特にこれらの成分を無グルタミン又は低グルタミン栄養培地で使用するか、高いアスパラギン濃度又はアスパラギン代替物濃度の培地で使用するか、高いグルタミン酸濃度又は高いグルタミン代替物濃度の培地で使用するか、グルコースを含む又は含まない培地で使用するか、もしくはガラクトースを含む培地で使用する場合がそうである。この点に関して、本発明は欧州特許EP 0435911 B1の教示内容と異なる。上記の特許公報では培地に高いグルタミン濃度(8mM以上)を使用することを提案するが、本発明は好ましくは低下したグルタミン濃度、特にグルタミンなしの栄養培地を特徴とする。
【0116】
欧州特許EP 0435911 B1(8頁14行及び14頁)ではコハク酸、マレイン酸、αケトグルタル酸、フマル酸及びクエン酸の諸成分を金属イオンに対するキレート化剤として栄養培地、特に細胞培地でテストした。行った実験に基づき、クエン酸は金属イオンに対する良好なキレート化剤であることが明らかになった(22頁、請求項5)。クエン酸以外に他の試験した有機酸は十分な結果をもたらさなかったようである。欧州特許EP 0435911 B1の目的は優れた金属キレート化剤を見出すことであったから、ごく低濃度の被検有機酸が使用された(マレイン酸=10.7mg/l、αケトグルタル酸=5.9mg/l、コハク酸=0.96mg/l、フマル酸=0.88mg/l)。また欧州特許EP 0435911 B1では、これらの物質が8mM以上のグルタミン濃度の培地で使用されることは明白である。これがこの出願の発明だからである。欧州特許EP 0435911 B1の教示内容と本発明とのもう一つの相違は、本発明に基づく物質が代謝のモジュレーターとして使用されることである。この点に関連して、これらの物質は好ましくは炭水化物及び/又はグルタミンを含む栄養培地、特に細胞培地で使用される。しかし、有機酸は炭水化物及び/又はグルタミンを含まない栄養培地、特に細胞培地でも使用することができる。欧州特許EP 0435911 B1では、細胞の主なエネルギー源及び炭素源はグルコース及びグルタミンであるから、低濃度のこれらの物質は代謝モジュレーターとして無意味である。
【0117】
驚いたことに、最もよく知られた細胞の代謝副産物の1つである乳酸は、細胞増殖を促進し、生細胞濃度の積分を高めることが判明した。多くの研究は、乳酸が代謝副産物であり、細胞にとって有毒ですらあることを記述している。栄養培地、特に細胞培地がグルタミンを含まないか、又は低い濃度のグルタミンを含み、例えば8mMより低いグルタミン濃度を含むか、もしくはグルタミンがグルタミン含有グルタミン代替物と置き換えられているか、もしくは培地がアスパラギンを含み、特にアスパラギンが高い濃度であり、例えば0.3g/l以上のアスパラギン濃度であるか、もしくはアスパラギンがアスパラギン含有代替物と置き換えられているか、もしくは培地がグルタミン酸を含み、特にグルタミン酸濃度が0.3g/l以上であるか、もしくはグルタミン酸がグルタミン酸含有代替物と置き換えられているか、もしくはグルコースを含む又は含まない培地が処方されているか、特に培地がグルコースなしであるか、特に培地がガラクトースを含むならば、乳酸は意外にも細胞増殖に対してプラスの効果があることが判明した。特に培地がグルタミンを含まず、炭素源としてグルコース以外の炭水化物を含むならば、特に培地がガラクトースを含むならば、乳酸のプラスの効果が明瞭である。
【0118】
そこで本発明の好ましい態様は、細胞を培養するための、又は生物、特に細胞又は細胞培養物、好ましくは真核細胞又は細胞培養物からポリペプチド、タンパク質又は接種物(例えばウイルス)を得る(この場合、生物を適当な培地で培養して、生物及び/又は培養上清から所望のポリペプチド又はタンパク質又は接種物を得る)ための栄養培地、特に細胞培地に関し、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、αケトグルタル酸、フマル酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、オキサロコハク酸、酒石酸、アジピン酸、乳酸及びこれらの混合物、並びにこれらの酸の塩又は複合体を栄養培地、特に細胞培地に加えることによって細胞増殖を刺激することを特徴とする。
【0119】
本発明の第2の好ましい態様は、細胞を培養するための、又は生物、特に細胞又は細胞培養物、好ましくは真核細胞又は細胞培養物からポリペプチド、タンパク質又は接種物(例えばウイルス)を得る(この場合、生物を適当な培地で培養して、生物及び/又は培養上清から所望のポリペプチド又はタンパク質又は接種物を得る)ための方法に関し、この方法は、次の物質、即ちクエン酸、コハク酸、リンゴ酸、αケトグルタル酸、フマル酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、オキサロコハク酸、酒石酸、アジピン酸、乳酸及びこれらの混合物、並びにこれらの酸の塩又は複合体の少なくとも1つを含む栄養培地に生物を接触させることを特徴とする。
【0120】
上記の物質を栄養培地に加えることによる、本発明のこの態様に従う特に好ましい増殖刺激は、栄養培地が低グルタミン含量であり、例えば8mM未満、好ましくは5mM未満、特に好ましくは3mM未満、最も好ましくは2mM未満のグルタミン濃度を有することによって達成される。
【0121】
上記の物質を栄養培地、特に細胞培地に加えることによる、本発明のこの態様に従う特に好ましい増殖刺激は、栄養培地及び/又は流加培地がグルタミンを含まないことによって達成される。
【0122】
上記の物質を栄養培地に加えることによる、本発明のこの態様に従う特に好ましい増殖刺激は、栄養培地がグルタミン含有グルタミン代替物を含むことによって得られる。その場合、栄養培地中のグルタミン含有グルタミン代替物の濃度は少なくとも50mg/l、好ましくは少なくとも250mg/l、特に好ましくは少なくとも500mg/l、最も好ましくは少なくとも1000mg/lである。また栄養培地中のグルタミン含有グルタミン代替物の濃度は少なくとも0.05g/l、好ましくは少なくとも0.2g/l、特に好ましくは少なくとも0.8g/l、最も好ましくは少なくとも3.2g/lである。
【0123】
上記の物質を栄養培地に加えることによる、本発明のこの態様に従う特に好ましい増殖刺激は、栄養培地がアスパラギン又はアスパラギン代替物を含むことによって得られる。栄養培地中のアスパラギン又はアスパラギン代替物の濃度は少なくとも0.05g/l、好ましくは少なくとも0.15g/l、特に好ましくは少なくとも0.3g/l、最も好ましくは少なくとも0.6g/lであることが有利である。上記の物質を栄養培地に加えることによる、本発明のこの態様に従う特に好ましい増殖刺激は、栄養培地がグルタミン酸又はグルタミン酸代替物を含むことによって得られる。栄養培地中のグルタミン酸又はグルタミン酸代替物の濃度は少なくとも0.05g/l、好ましくは少なくとも0.15g/l、特に好ましくは少なくとも0.3g/l、最も好ましくは少なくとも0.6g/lである。
【0124】
上記の物質を栄養培地に加えることによる、本発明のこの態様に従う特に好ましい増殖刺激は、栄養培地がグルコースを含まないことによって得られる。
【0125】
上記の物質を栄養培地に加えることによる、本発明のこの態様に従う特に好ましい増殖刺激は、栄養培地がガラクトースを含むことによって得られる。ガラクトース濃度は少なくとも0.1g/l、好ましくは少なくとも1g/l、特に好ましくは少なくとも5g/l、最も好ましくは少なくとも25g/lであることが有利である。上記の物質を栄養培地に加えることによる、本発明のこの態様に従う特に好ましい増殖刺激は、栄養培地が乳酸を含むことによって得られる。乳酸濃度は少なくとも0.1g/l、好ましくは少なくとも1g/l、特に好ましくは少なくとも5g/l、最も好ましくは少なくとも25g/lである。
【0126】
上記の物質を栄養培地に加えることによる、本発明のこの態様に従う特に好ましい増殖刺激は、栄養培地及び/又は流加培地がグルタミン又はグルタミン含有代替物を含まないことによって得られる。
【0127】
上記の物質を栄養培地、特に細胞培地に加えることによる、本発明のこの態様に従う特に好ましい増殖刺激は、流加培地がグルタミン含有グルタミン代替物を含むことによって得られる。流加培地中のグルタミン含有グルタミン代替物の濃度は少なくとも0.2g/l、好ましくは少なくとも1g/l、特に好ましくは少なくとも5g/l、最も好ましくは少なくとも10g/lである。
【0128】
上記の物質を栄養培地、特に細胞培地に加えることによる、本発明のこの態様に従う特に好ましい増殖刺激は、流加培地がアスパラギン又はアスパラギン代替物を含むことによって得られる。流加培地中のアスパラギン又はアスパラギン代替物の濃度は少なくとも0.2g/l、好ましくは少なくとも1g/l、特に好ましくは少なくとも5g/l、最も好ましくは少なくとも10g/lである。
【0129】
上記の物質を栄養培地、特に細胞培地に加えることによる、本発明のこの態様に従う特に好ましい増殖刺激は、流加培地がグルタミン酸又はグルタミン酸代替物を含むことによって得られる。流加培地中のグルタミン酸又はグルタミン酸代替物の濃度は少なくとも0.2g/l、好ましくは少なくとも1g/l、特に好ましくは少なくとも5g/l、最も好ましくは少なくとも10g/lである。
【0130】
上記の物質を栄養培地、特に細胞培地に加えることによる、本発明のこの態様に従う特に好ましい増殖刺激は、流加培地が乳酸又は乳酸誘導体を含むことによって得られる。流加培地中の乳酸又は乳酸誘導体の濃度は少なくとも1g/l、好ましくは少なくとも5g/l、特に好ましくは少なくとも25g/l、最も好ましくは少なくとも100g/lである。
【0131】
上記の物質を栄養培地、特に細胞培地に加えることによる、本発明のこの態様に従う特に好ましい増殖刺激は、流加培地がグルコースを含まないことによって得られる。流加培地のグルコース濃度は最大100g/l、好ましくは最大25g/l、特に好ましくは最大5g/l、最も好ましくは最大1g/lである。
【0132】
上記の物質を栄養培地、特に細胞培地に加えることによる、本発明のこの態様に従う特に好ましい増殖刺激は、流加培地がガラクトースを含むことによって得られる。流加培地のガラクトース濃度は少なくとも1g/l、好ましくは少なくとも5g/l、特に好ましくは少なくとも25g/l、最も好ましくは少なくとも100g/lである。
【0133】
本発明の第3の態様は、細胞培養物が本発明に基づく物質を含む培地で生存又は分裂することができ、又はそのピーク生細胞濃度が増加し、又はその定常期が長期化し、又は死滅期が遅くなり、又は細胞代謝副産物(例えばアンモニウム又は乳酸)の生成が減少することを特徴とする、細胞又は細胞培養物に関する。
【0134】
本発明によれば、本発明に基づく物質を栄養培地、特に細胞培地に加えることによる増殖の刺激のため、好ましくは高細胞密度発酵(大規模条件(作業容積>1L、例えば30〜20000L)での発酵時に得られる最高総細胞濃度が例えば特に>1×105細胞/ml、好ましくは>1×106細胞/ml)において、ピーク細胞密度が増加し、又は定常期が長期化する一方で、細胞生存率が長い間高いままであり、即ち生細胞濃度の積分が増加し、それによって産物の収率が増加する。
【0135】
本発明に基づく方法は基本的に任意のポリペプチド、タンパク質又は接種物の製造、例えばウイルス産生に適している。但しグリコシル化される又はグリコシル化されないポリペプチドが好ましい。ポリペプチドは天然のヒト・ポリペプチド又はヒト・ポリペプチドの組換え変異型でありうる。
【0136】
本発明に基づく栄養培地は、とりわけ翻訳後修飾されるポリペプチドの製造、特に糖タンパク質の製造に適している。本発明に基づく物質の栄養培地、特に細胞培地への添加は、特定のグリコシル化経路を促進又は阻害することができ、こうして所望のポリペプチド又は接種物の所望の糖構造の形成に有利である。本発明に基づく物質は単独で又は互いに組み合わせて、細胞の特定の翻訳後修飾を促進又は阻害し、その結果、産生時に所望のポリペプチド変異型又は接種物変異型が発現される。例えば本発明に基づく物質はタンパク質シアリル化又はタンパク質ガラクトシル化を高めることができる。
【0137】
本発明に基づく物質及び栄養培地を使用することによって、細胞培養プロセスのpH値が目標値の上限ですこぶる非定型的に推移する。細胞培養プロセスでは、プロセスのpH値がpH7.0〜pH7.1でスタートし、細胞はその代謝活性の結果として酸、特に乳酸を排出するのが普通である。このため培地のpH値が通常、酸性領域の方向にシフトする。意外なことに、本発明に基づく細胞培養プロセスを適用すれば、細胞の代謝の変化によりpH値が塩基性pH値の方向にシフトすることが確認された。理論に拘束されないが、このことは細胞が良好な代謝を有し、酸をもはや培地に排出しないことに関連しているようである。逆に細胞は酸を代謝する。このことは、本発明に基づく物質及び方法のために細胞が異なる代謝を有することの別の証拠である。その結果、培地のpH値は7.2を超える(pH7.2より高い、別の言い方をすればpH7.2より塩基性の)pH値である。これはタンパク質グリコシル化(例えばタンパク質ガラクトシル化)又はタンパク質シアリル化にとって好都合である。幾つかの細胞内グリコシル化酵素は7.2より塩基性のpH値で活性が高いから、産生されるタンパク質のより高いグリコシル化をもたらす。それは、本発明物質の代謝によって引き起こされる重要なプロセス特性である。
【0138】
そこで本発明の第4の態様は、細胞培養プロセスのpH値が好ましくはpH7.2より塩基性、特にpH7.3以上に塩基性、とりわけpH7.4以上に塩基性、さらに好ましくはpH7.5以上に塩基性、一層好ましくはpH7.6以上に塩基性、最も好ましくはpH7.7以上に塩基性の上記の培地を利用した培養方法である。
【0139】
本発明に基づく方法は原則として原核細胞(例えば細菌)又は真核細胞(例えば酵母又は動物細胞)の培養に適している。「動物細胞」の概念は非哺乳動物細胞及び哺乳動物細胞を包含する。非哺乳動物の例はSpodoptera frugiperda、Aedes aegypti、Aedes albopictusである。但し本発明にとって好ましい生物は哺乳動物細胞である。哺乳動物細胞は初代細胞であってもよいが、連続継代細胞系であることが好ましい。適当な連続継代細胞系は例えばヒト起源であり、例えばPER-C6、ヒト肝細胞(Hep G2、HB 8056)、ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75)、ヒト子宮頸癌細胞(HeLa、ATCC CCL 2)である。また連続継代細胞系は動物起源であって、例えばマウス又はハムスターから誘導され、例えばSV-40不死化サル腎細胞(COS-7、ATCC CRL 1651)、イヌ腎細胞(MDCK)、サル腎細胞(CV1、ATCC CCL 70)、アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587)、小児ハムスター腎細胞(BHK、ATCC CCL 10)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO-DG44、Urlaub及びChasin, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1980, 77: 4216、又はCHO-DUKX、又はCHO-K1、ATCC番号ATCC CCL 61)、リンパ球細胞(Jurkat T細胞系)、バッファローラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442)、マウス乳癌細胞(MMT 060562、ATCC CCL 51)、SP2/0細胞、骨髄腫細胞(例えばNS0)、ハイブリドーマ細胞及びトリオーマ細胞である。ハイブリッド細胞系はヒト及びマウスを含む任意の種に由来することが可能である。上記の細胞の子孫も本発明に基づく栄養培地で本発明に基づく方法による培養に適している。
【0140】
但し本発明によれば、好ましい細胞は哺乳動物細胞系のものであり、ハイブリドーマ細胞ではない。本発明によれば、特に好ましい細胞系はCHO、NS0、PERC-6及びBHK-21細胞系のすべての変異型であり、その場合細胞系は外因性核酸で形質転換されており、外因性核酸は対象のポリペプチドをコードする。「外因性核酸」は、宿主細胞に存在しない核酸配列を意味する。外因性核酸は宿主細胞の核酸と相同であってもよいが、宿主細胞のこの位置には通常見られない。
【0141】
本発明によれば、好ましい細胞は、本発明に基づく物質を含む培地で生存又は分裂することができ、又はそのピーク細胞濃度が増加し、又はその定常期が長期化し、又はその死滅期が遅くなり、又は細胞代謝副産物、例えばアンモニウム又は乳酸の生産が減少する。本発明に基づく物質を含む培地又は本発明に基づく方法に細胞の代謝を順応させることができる。この順応は細胞の標的化した分子生物学的改変又は本発明の培地及び方法への細胞の適応によって行うことができる。
【0142】
「クローン」とは、親細胞の子孫、例えば上に挙げた細胞系の1つを意味する。ある細胞が他の細胞特性を有し、元の親細胞とそれが相違するならば、クローンが成立することになる。通常、クローンは親細胞の遺伝子導入、例えばトランスフェクションによって生じる。
【0143】
「代謝最適化」とは、所望の条件への細胞代謝の順応又は変化を意味する。細胞代謝の順応又は変化は、宿主細胞における標的化した遺伝的介入により、特定の遺伝子を細胞にクローニングするか、又は特定の遺伝子をスイッチオフすることによって達成される。あるいは、細胞を所望のプロセス条件及び/又は栄養培地で培養し、その結果として細胞自体が変化した条件に順応するならば、細胞代謝の順応又は変化が得られる。新しい条件で培養することによって、遺伝的に改変された新規な細胞が発生し、これを選択及び単離することができる。遺伝的改変は例えば細胞代謝の変化(特に改善)として現れる。特にこのような変化した細胞代謝を有する細胞は、その代謝が最適化されているから、従来の細胞と比較して所望の条件のもとで特によく増殖する。
【0144】
本発明に基づく産物は、細胞で発現し、培養系(即ち細胞及び/又は細胞培地)から回収されるポリペプチド、タンパク質又はウイルスである。関心のあるすべてのタンパク質がそうである。例えば診断用又は治療用タンパク質、例えばインターロイキン、酵素、多量体タンパク質又は多量体タンパク質のサブユニット、及び抗体又は抗体フラグメントである。関心のあるタンパク質の組換え遺伝子は、宿主細胞からの当該タンパク質の分泌に関与するシグナル配列を含むことができる。タンパク質はトランスジェニックプロモーター又はその天然で活動性の遺伝子座、及びハイブリドーマ細胞の免疫グロブリン遺伝子座から発現させることができる。宿主特異的プロモーターからタンパク質を発現することもでき、例えばCHO細胞をタンパク質生産のために利用するならば、外来遺伝子をCHOプロモーターから発現させることができる。また産物は接種物であってもよく、例えば宿主細胞の助けをかりて複製することができるウイルス又はウイルス様粒子である。
【0145】
培養される細胞は付着性であるか、又はミクロキャリアーの上で増殖するものであってもよいが、好ましくは懸濁液中で増殖する細胞である。さらに、細胞は血清含有培地(例えばウシ胎児血清:FBS、FCSとも呼ばれる)で増殖することができるが、血清を含まず、「無血清」とも呼ばれる培地が好ましい。無血清培地中の細胞は最適な増殖のためにインスリン及びトランスフェリンを必要としうる。トランスフェリンは少なくとも一部を代替物、例えばクエン酸鉄で代用することができる。たいていの細胞系は増殖因子としての組換えポリペプチド又はタンパク質を含む、1以上の増殖因子を必要とする。培地はポリペプチドを含むことができるが、低ポリペプチド又は無ポリペプチド又は無タンパク質培地が好ましい。培地がポリペプチドを含むとすれば、組換えにより作られたポリペプチドが好ましい。培地は動物起原に由来するペプトンを含むことができるが、酵母を起原とするペプトンが好ましく、植物に由来するペプトンが特に好ましい。無ペプトンであって、完全に化学的に規定された培地を使用することが好ましい。
【0146】
当業者に「培養基」又は「細胞培地」としても知られている「栄養培地」とは、細胞培養物又は少なくとも1個の細胞の保存及び/又は培養のために使用される培地を意味する。本発明によれば、栄養培地は培養液とも呼ばれる液体栄養培地であることが好ましい。すべての培地の総称用語として、本明細書では「栄養培地」という用語を使用する。栄養培地は例えば(但し限定するものではない)「基礎培地」(培養基)、「流加培地」及び「灌流培地」を包含する。こうにして栄養培地は細胞のための栄養物を含む液体である。本発明に基づく物質は栄養培地で他の細胞栄養物と共存することができる。しかし、本発明に基づく物質が栄養培地に存在せず、その代わりに別の溶液(例えばストック溶液)から細胞を含む又は含まない栄養培地に外部から加えることができる。このように本発明に基づく物質は栄養培地、特に細胞培地を介して直接的に細胞と接触するのではなく、間接的に接触する。その点で細胞と本発明に基づく物質とを接触させるための方法も本発明の一部である。「栄養培地」、「培養基」又は「基礎培地」とは、細胞増殖及び/又は細胞生存率及び/又は産物の生成を促進する培地、特に培養液を意味する。
【0147】
本発明によれば、所定の培養期間に少なくとも1×105/ml、とりわけ少なくとも1×106/mlの生細胞密度に到達するように動物細胞集団に必要な栄養物を供給するための、高細胞密度培地を使用することが好ましい。このような高い細胞密度に栄養物を供給する培地は、例えば下記の物質が補充される。即ち、少なくとも1つのアミノ酸、通常は数種のアミノ酸、およびシスチンを含むすべてのアミノ酸;少なくとも1つのエネルギー源、通常は1つの炭水化物源、例えばグルコース、無機塩、ビタミン、例えばビタミンC及び/又はビタミンE;マイクロモル濃度で存在する無機成分として定義される微量元素;緩衝剤、4種までのヌクレオシド又はヌクレオチド、抗酸化剤及びグルタチオン;脂質、例えばコレステロール、ホスファチジルコリン又は脂質前駆体、例えばコリン又はイノシトール。高細胞密度培地は上記の成分の少なくとも1つと混合することが好ましく、上記の成分を高い濃度で含むことができる。
【0148】
栄養培地、特に細胞培地に下記の部類の1つ又は幾つか又はすべての成分を任意に補充することができる:
a)ホルモン及びその他の増殖因子、例えばIGF-1、インスリン、トランスフェリン、表皮増殖因子
b)塩類及び緩衝剤、例えばカルシウム、マグネシウム及びリン酸塩
c)ヌクレオシド及び塩基、例えばアデノシン、チミジン、ヒポキサンチン
d)タンパク質及び組織加水分解物。
【0149】
本発明に基づく物質を添加することができる培地処方物は、好ましくは、すでに発表された処方物の1つに相当する。培地の処方物は公表されたように使用することが好ましいが、しばしば変更され、用いる細胞の要求に適応させることができる。適当な既発表の培地処方物の例は、ロズウエル・パーク記念研究所(Roswell Park Memorial Institute:RPMI)1640培地、L-15培地、ダルベッコの改良イーグル培地(DMEM)、イーグル最小必須培地(MEM)、ハムのF12培地、又はイスコーブの改良DMEMである。これらの既発表の培地処方物は単独で又は任意の割合で混合して基礎培地粉末として使用することができる。本発明に基づく物質を添加することができる培地処方物は、とりわけ市販の栄養培地(その配合表は発表されていない)、例えば(限定しないが)GIBCOからのCD-CHO培地、SigmaからのEX-Cell 325 PF CHO培地(カタログ番号:14340C)である。
【0150】
「流加培地」は細胞培養時に培養系に添加される培地である。即ち流加培地は細胞が他の培地、例えば培養基(基礎培地)と接触した後に、培養系に加えられる。流加培地は細胞増殖及び/又は細胞生存率及び/又は産物の生成を促進する物質を含む。流加培地を加えることによって、細胞生存率が長期間にわたって高いままであるから、プロセス時間を延長することができる。流加培地は1以上のエネルギー源、例えば炭水化物、例えばグルコースを含むことができる。グルコースは流加培地に加えておいてもよいし、別個に他のストック溶液から培養系に補給してもよい。流加培地は1種以上のアミノ酸を含むことができる。流加培地は必須アミノ酸のみ、又は非必須アミノ酸のみ、又はこれら2つのグループのアミノ酸の混合物を含むことができる。流加培地はグルタミンを含んでも含まなくてもよく、又はグルタミン代替物又はグルタミン含有グルタミン代替物を含んでもよく、又はグルタミンとグルタミン含有グルタミン代替物の混合物を含むこともできる。こうしてグルタミンは他の物質と流加培地中で組み合わせることができ、又は別個にストック溶液から個別物質として培養系に補給することができる。流加培地は基礎培地の1倍濃縮物であってもよいが、1倍より高く濃縮した流加培地、例えば基礎培地の2倍以上の高濃縮物が好ましい。流加培地の配合表は基礎培地の配合表と同様である。即ち、一般的に流加培地は基礎培地に存在する物質と同じもの又はその一部を含む。流加培地はそれらの無機成分に関して基礎培地と異なっていてもよい。それらは例えば無塩又は低塩の基礎培地でありうる。また流加培地は基礎培地の配合表に存在しない物質を含むこともできる。
【0151】
「グルタミン含有物質」、「グルタミン誘導体」又は「グルタミン含有グルタミン代替物」は、分子中にD-又はL-グルタミン、特にL-グルタミンを含む物質を意味する。この分子はD-又はL-グルタミンを様々な仕方で含むことができ、例えばグルタミンが他の物質と共有結合していてもよい。特に「グルタミン含有物質」、「グルタミン誘導体」又は「グルタミン含有グルタミン代替物」として、D-又はL-グルタミンのペプチド又はオリゴペプチドが考えられる(E.Rothら、In Vitro cellular & developmental biology, 1988, 24(7): 696-698)。例えばグルタミンをグルタミンに基づくジペプチド、例えばアラニル-グルタミン(Ala-Gln)又はグリシル-グルタミン(Gly-Gln)に置き換えることができる(A.Christie 及びM.Butler, Journal of Biotechnology, 1994, 37(3): 277-90;A.Sanfeliu及びG.Stephanopoulus, Biotechnol. und Bioeng., 1999, 64(1), 46-53;N.Kuranoら、J. Biotechnology, 1990, 15: 113-128)。「グルタミン含有物質」という用語は国際出願公開WO 03/106661(7頁1行)にも記載されている。
【0152】
「アスパラギン代替物」、「アスパラギン誘導体」又は「アスパラギン含有アスパラギン代替物」は、分子中にD-又はL-アスパラギン、特にL-アスパラギンを含む物質を意味する。この分子はD-又はL-アスパラギンを様々な仕方で含むことができ、例えばアスパラギンが他の物質と共有結合していてもよい。特に「アスパラギン代替物」、「アスパラギン誘導体」又は「アスパラギン含有アスパラギン代替物」として、D-又はL-アスパラギンのペプチド又はオリゴペプチド、例えばLeu-Asn(Sigma、カタログ番号:L0641)又はLie-Asn(Sigma、カタログ番号:I3635)又はGlu-Asn-Gly(Sigma、カタログ番号:P5148)が挙げられる。ペプチドは基本的に2個又は2個以上のアミノ酸を含む。
【0153】
「グルタミン酸代替物」、「グルタミン酸誘導体」又は「グルタミン酸含有グルタミン酸代替物」は、分子中にD-又はL-グルタミン酸、特にL-グルタミン酸を含む物質を意味する。この分子はD-又はL-グルタミン酸を様々な仕方で含むことができ、例えばグルタミン酸が他の物質と共有結合していてもよい。特に「グルタミン酸代替物」、「グルタミン酸誘導体」又は「グルタミン酸含有グルタミン酸代替物」として、D-又はL-グルタミン酸のペプチド又はオリゴペプチドが考えられる。例えばAsp-Glu(Sigma、カタログ番号:A1916-250MG)、Glu-Glu(Sigma、カタログ番号:G3640-25MG)、Glu-His(Sigma、カタログ番号:G6882-100MG)、Glu-Leu(Sigma、カタログ番号:G7007-10MG)、Glu-Lys(Sig-ma、カタログ番号:G5136-25MG)。ペプチドは基本的に2個又は2個以上のアミノ酸を含む。
【0154】
「乳酸代替物」、「乳酸含有乳酸代替物」又は「乳酸誘導体」は、分子中にD-又はL-乳酸、特にL-乳酸を含む物質を意味し、例えば乳酸鉄(II)水和物(Sigma、カタログ番号:44935)又は乳酸マンガン(II)三水和物(Sigma、カタログ番号:13227)又は乳糖が考えられる。この分子はD-又はL-乳酸を様々な仕方で含むことができ、例えば乳酸は他の物質に結合していてもよく、例えば(+)D-乳酸エチル(Sigma、カタログ番号:69796)である。また乳酸誘導体は細胞内でたやすく乳酸に変換される分子であってよく、例えばピルビン酸又はアラニンである。この場合ピルビン酸を栄養培地に加えることができる。細胞外ピルビン酸は細胞内にたやすく輸送され、ピルビン酸デヒドロゲナーゼによって乳酸に変換される。アラニンの場合は、細胞外アラニンが細胞内に輸送され、アラニントランスアミナーゼによってピルビン酸中間段階を経て乳酸に変換される。このことはアラニン含有ペプチドにも当てはまり、従ってアラニン含有ペプチドも「乳酸誘導体」と定義される。
【0155】
「分割比」(「希釈率」ともいう)とは、2つの液体の分割比を表すための尺度である。目標濃度を得るために、2つの液体を混ぜ合わせようとするときは、分割比による相互の比率で溶液を混合する。分割比を下記の例に基づいて説明する。即ち、培養容器に細胞培養物を2×105/mlの細胞濃度で接種し、3日間増殖させた。3日目に20×105/mlの細胞濃度が測定された。この培養物を新鮮な培地で希釈して、2×105/mlの目標接種濃度が再び得られるようにする。この場合、成熟した培養物(接種材料)を新鮮な培地で1:10に希釈しなければならない。新しい培養で1リットルの処理容積を必要とするならば、100mlの接種材料と900mlの新鮮培地を用いなければならない。この場合分割比は1:10となるだろう。
【0156】
所望のポリペプチド、タンパク質又は所望の接種物を産生するために細胞を培養するすべてのプロセス変法は、基本的に本発明の適用に適している。しかし本発明によれば、好ましい方法は高細胞密度法である。高細胞密度細胞培養法は、所定の培養期間に少なくとも1×105/ml、好ましくは少なくとも1×106/mlの生細胞濃度が得られる方法と定義され、その際、その培養物は単一の細胞又は別の細胞培養物又は接種材料により増やすことができる。本発明によれば、好ましい作業様式は連続培養法、流加法、バッチ法、灌流法又は分割バッチ法である。
【0157】
培養は好ましくはバッチ法で行われ、その場合細胞培養のための全ての成分がプロセスの開始時に培養容器に仕込まれる。バッチ法では、細胞を適当な培地に接種して、ある培養時間の後に回収する。続いて所望の産物、例えばポリペプチドを培養物から単離する。
【0158】
本発明によれば、特に好ましい方法は流加法である。この方法では、接種とプロセス終了との間に細胞を別の栄養培地、例えば流加培地と接触させる。流加法は例えば基礎培地でスタートするが、これに限定されない。基礎培地に細胞を接種する。ある期間後、例えば接種から1〜4日後、培養物を別の栄養培地と接触させる。この栄養培地は例えば流加培地である。流加培地は所定の用量をバッチ式で、間欠的又は連続的に細胞培養物に加えることができる。こうして培養物の容積は培養中に増加する。
【0159】
本発明によれば、適当な別の培養法は灌流である。この場合には、培地中の増殖期後の細胞に別の新鮮培地、例えば灌流培地を供給し、一方、細胞を含む又は含まない使用済み培地をプロセスから抜き取る。灌流培地は基礎培地と異なっていてもよいし、同じ基礎培地を灌流培地として使用してもよい。灌流法では細胞をまず基礎培地に接種する。細胞培養を行う過程で細胞(バイオマス)を細胞培養物(細胞懸濁液)から分離し、一方では使用済み培地をプロセスから抜き取り、他方では新鮮培地からの新しい栄養物が細胞に利用されるようにする。プロセスの間中、細胞が培養系に保持されるならば、これを「灌流」と呼ぶ。プロセス中に細胞が系から使用済み培地と共に除去されるならば、これを「連続法」と呼ぶ。灌流法では、最大細胞濃度を維持できるように、所定の時間間隔で培養系から細胞を除去してもよい。この操作は「ブリーディング」(bleeding)として当業者に周知のことである。細胞分離は様々な技術を用いて行われ、細胞分離を間接的に促進する技術もある。幾つかの可能な細胞分離法の例は、ろ過、細胞カプセル化、マイクロキャリアーへの細胞付着、細胞沈降又は遠心分離である。
【0160】
本発明によれば、適当なもう一つの方法は、細胞への栄養補給を行う又は行わない分割バッチ法(反復バッチ式操作)である。この方法では、増殖期の後に細胞懸濁液の一部を回収し、細胞懸濁液の残部は次のバッチ操作の接種材料として発酵槽に残しておく。続いてこの接種材料入りの発酵槽に再び新鮮培地を所望の処理容積まで満たし、こうして2回目のバッチ式操作を開始する。
【0161】
上記のプロセス中にオフライン測定のための試料を培養系から取り出すことは、上記の培養法と無関係である。それはただプロセスをよりよく理解し、又はコントロールするためのものである。
【0162】
「回収」又は「細胞回収」とは、上流プロセスの生産バッチの終了を示唆するものである。バッチ法及び流加法では上流プロセスは1回の回収だけで終わるが、分割バッチ法、灌流法及び連続法では複数回の回収があり得る。選んだ方法に応じて、細胞培養プロセス(上流プロセス)は遅滞期、対数期、定常期及び死滅期を含む。発酵プロセスはこれらの増殖期の1つで終わらせることができる。発酵プロセスを定常期又は死滅期で終わらせることが好ましい。上流プロセスの終りに細胞を懸濁液から分離する。この細胞分離プロセスを本明細書では「回収」又は「細胞回収」と呼ぶ。細胞回収の後に、産物を単離するために、別の精製段階が行われる。
【0163】
「接種」とは、新しい培養系(例えばバイオリアクター及び適当な栄養培地、特に細胞培地)に細胞を接種することを意味する。この目的のために接種材料、即ち細胞又は細胞懸濁液をあらかじめ用意する。新しい培養系に所望の細胞濃度で接種するのに十分な細胞を得るために、実際の生産プロセスの前に、接種すべき細胞を増やすのが普通である。
【0164】
「細胞増殖」とは、少なくとも1つの培養期に生細胞濃度が増加することを意味する。「細胞生存率」は生細胞濃度と全細胞濃度(死細胞も含む)との比を表す。この比は任意の仕方又は手段で計算することができる。1つの方法は、細胞を色素でマークして生細胞と死細胞を区別することである。死細胞と生細胞の区別の一例は、トリパンブルー色素の使用である。続いてマークされた細胞を計数し、死細胞と生細胞の数を決定する。生細胞数と全細胞数の比を求めることによって、細胞生存率が算定される。
【0165】
「重量オスモル濃度」とは、水溶液に溶解した粒子の浸透圧の尺度である。溶解粒子にはイオンも非イオン化分子も含まれる。重量オスモル濃度は、水1kgに溶解した浸透活性粒子の濃度で表される(38℃での1mOsmol/kg H2Oは19mmHgの浸透圧に相当する)。「容量オスモル濃度」とは、1リットルの溶液に溶解した粒子の数を意味する。従って、培地にあって溶液の重量オスモル濃度を高める物質は、例えばタンパク質、ペプチド、アミノ酸、代謝不能なポリマー、ビタミン、イオン、塩、糖類、代謝産物、有機酸、脂質等である。
【0166】
「pH値」は、モル水素イオン活量aH+の数値の負の常用対数である(pH=-log aH+)。pH7.0未満の溶液は酸性反応を有し、pH値7.0の溶液は中性である。7.0を超えるpH値の溶液は塩基性反応を有する。2つの溶液のpH値を互いに比較したとき、より高いpH値の溶液はより低いpH値の溶液と比較して「以上に塩基性である」と定義される。例えば溶液1が6.8のpH値を有し、溶液2が7.0のpH値であるとする。この場合溶液2は溶液1と比較して以上に塩基性である。生産プロセスのpH値は様々なやり方で測定することができる。例えば、限定するものではないが、バイオリアクターのpH値をpH電極によりオンラインで測定することができる。培養物のpH値を測定する別の方法は、オフライン試料採取と、外部pH電極によるpH値の検出である。
【0167】
その他の有利な実施形態は従属請求項に示される。
【0168】
下記の実施例に基づき本発明を詳述することにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0169】
材料及び方法
細胞培養条件
細胞を液体窒素の気相中に保存した。1〜2個のアンプルを37℃に温めた栄養培地で解凍し、スピナーフラスコ、振とうフラスコ又はT形ボトルに移した。最初の2,3日の培養中に、クローンに応じて培地の取替えを行った。
【0170】
細胞を、クローンに応じて、1日おき又は2日おきに、あるいは交互に2日及び3日後に新しい培地へと分割し、即ち細胞懸濁液の一部を培養物から取り出し、細胞培養液の小部分を次の培養の接種材料として再使用した。この接種材料を温めた新鮮な栄養培地に接種した。細胞をCO2雰囲気で37℃の保温器にてインキュベートした。細胞をインキュベートするための別法は、37℃の保温室で培養することであり、この方法では細胞を数継代にわたり培養し続けた。1継代は2〜3日の培養期間をさす。様々な時点で株保存培養から細胞懸濁液を取り出し、実験用の接種材料として使用した。実験は種々の培養系、例えばスピナーフラスコ、T形ボトル、振とうフラスコ、培養チューブ又は制御バイオリアクターで行った。
【0171】
実験のために、抗体を発現するCHO細胞系を利用した。細胞上清の産物濃度(抗体濃度)をELISAで測定した。
【0172】
Sigma社のCHO培地(CR 1020、ロット番号: 64K2403)を実験用の栄養培地(基礎培地)として使用した。それは無血清、無タンパク質の栄養培地であり、既製の滅菌ろ過済み培地である。
【0173】
実験はバッチ法又は流加法のいずれかで実施した。このプロセスを流加法で行ったときは、最初に上記の基礎培地を用いてバッチ法でスタートし、細胞をこの方法で1〜4日間培養した。1〜4日後に細胞に流加培地を補給し、即ちプロセスを流加式に切り替えた。供給は一定の間隔で行った。流加式実験ではHyQ社の無タンパク質、無血清の流加培地(R05.2サプリメント、カタログ番号:SH30584.04、ロット番号:APF21457G)を使用した。
【0174】
本発明に従って使用したすべての物質(化学薬品)はSigma社から入手し、それからストック溶液を調製した。ストック溶液から上記物質を培養チューブに入れ、所望の最終濃度とした。こうして準備した様々な培養チューブに最後に、抗体産生性CHOクローンを目標接種細胞濃度(1〜3×105/ml)で接種した。そのために、対応する量の接種材料細胞を算定して、必要量の接種材料細胞懸濁液を遠心した。最後に細胞ペレットを、本発明に基づく物質を含まない対応容積の新鮮栄養培地(Sigma, CR1020, Lot: 64K2403)に加えた。このようにして被検細胞懸濁液の所望の接種細胞濃度を調整した。こうして準備した細胞懸濁液を、あらかじめ本発明に基づく物質を仕込んだ培養チューブに分注した。培養チューブを8%CO2雰囲気で37℃にて振とうしつつインキュベートした。培養チューブをバッチ法又は流加法で8〜11日間培養した。変量のオフライン測定のために、培養容器から定期的に、例えば毎日又は2日おきに試料を取り出した。試料の代謝変量及び細胞濃度を測定した。細胞濃度と細胞生存率はCeDex装置で測定した。代謝変量(グルコース、乳酸、グルタミン及びアンモニウム)は分析装置(BioProfile100)で測定した。
【実施例】
【0175】
実施例1: 本発明に基づく物質によるバッチ式実験
接種後の栄養培地で、本発明に基づく物質の下記の最終濃度を得た。
コハク酸ナトリウム、栄養培地中の最終濃度1g/l
リンゴ酸、栄養培地中の最終濃度1g/l
αケトグルタル酸塩、栄養培地中の最終濃度1g/l
フマル酸ナトリウム、栄養培地中の最終濃度1g/l
酒石酸、栄養培地中の最終濃度0.5g/l
アジピン酸、栄養培地中の最終濃度0.5g/l
乳酸ナトリウム、栄養培地中の最終濃度1g/l
オルニチン、栄養培地中の最終濃度1g/l
シトルリン、栄養培地中の最終濃度1g/l
ピルビン酸ナトリウム、栄養培地中の最終濃度0.5g/l
【0176】
本発明に基づく物質をバッチ法でテストした。栄養培地又は基礎培地(Sigma社の無血清、無タンパク質CHO培地 CR1020、ロット番号:64K2403)のグルコース濃度は4.7g/l、グルタミン濃度は1.5mMであった(表1)。
【表1】

【0177】
実施例2: 本発明に基づく物質による流加式実験
接種後の栄養培地で、本発明に基づく物質の下記の最終濃度を得た。
コハク酸ナトリウム、栄養培地中の最終濃度1g/l
リンゴ酸、栄養培地中の最終濃度1g/l
αケトグルタル酸塩、栄養培地中の最終濃度1g/l
フマル酸ナトリウム、栄養培地中の最終濃度1g/l
酒石酸、栄養培地中の最終濃度0.5g/l
アジピン酸、栄養培地中の最終濃度0.5g/l
乳酸ナトリウム、栄養培地中の最終濃度1g/l
オルニチン、栄養培地中の最終濃度1g/l
ピルビン酸ナトリウム、栄養培地中の最終濃度0.5g/l
【0178】
実施例1と違って、本発明に基づく物質を流加法でテストし、各被検物質ごとに2個の独立の培養チューブに接種した(n=2)。
栄養培地(Sigma社の無血清、無タンパク質CHO培地 CR1020、ロット番号:64K2403)はグルコース濃度が4.7g/l、グルタミン濃度が0.7mMであった。使用した流加培地はHyQ社のものであった(R05.2サプリメント、カタログ番号:SH30584.04、ロット番号:APF21457G)。流加培地はグルタミンを含まなかった(表2)。
【表2】

【0179】
選択した試料から、上清中の産物濃度(抗体濃度)をELISAで測定した(表3)。
【表3】

【0180】
実施例3: 本発明に基づく物質による流加式実験(使用した全ての培地中にグルタミンなし)
接種後の培地で、本発明に基づく物質の下記の最終濃度を得た。
対照、添加物なし
コハク酸ナトリウム、栄養培地中の最終濃度1g/l
αケトグルタル酸塩、栄養培地中の最終濃度1g/l
乳酸ナトリウム、栄養培地中の最終濃度0.5g/l
【0181】
本発明に基づく物質を流加条件でテストした。栄養培地(Sigma社の無血清、無タンパク質CHO培地、CR1020、ロット番号:64K2403)はグルコース濃度が4.7g/lで、グルタミンを含まなかった。使用した流加培地はHyQ社のものであった(R05.2サプリメント、カタログ番号:SH30584.04、ロット番号:APF21457G)。流加培地はグルタミンを含まなかった(表4)。
【表4】

【0182】
実施例4: 本発明に基づく物質及びグルタミン含有グルタミン代替物による流加式実験
接種後の栄養培地で、本発明に基づく物質の下記の最終濃度を得た。
対照、添加物なし
コハク酸ナトリウム、栄養培地中の最終濃度1g/l
αケトグルタル酸塩、栄養培地中の最終濃度1g/l
乳酸ナトリウム、栄養培地中の最終濃度0.5g/l
【0183】
本発明に基づく物質を流加条件でテストした。栄養培地(Sigma社の無血清、無タンパク質CHO培地、CR1020、ロット番号:64K2403)はグルコース濃度が4.7g/l、グルタミン濃度が4mMであった。使用した流加培地はHyQ社のものであった(R05.2サプリメント、カタログ番号:SH30584.04、ロット番号:APF21457G)。流加培地に3g/lのアラニル-グルタミン(Ala-Gln)及び3g/lのグリシル-グルタミン(Gly-Gln)を添加した。流加培地はグルタミンを含まなかった(表5)。
【表5】

【0184】
実施例5: 無グルコース、無グルタミン栄養培地(基礎培地)中での本発明に基づく物質による株保存のための代謝最適化細胞のルーチン培養
市販の無グルコース、無グルタミン栄養培地を入手した。この培地に表6のように本発明に基づく物質を補充し、こうして最終的な栄養培地を用意した。表6に示す濃度は培地の各物質の最終濃度である。この栄養培地は本発明に基づく物質を含む無血清、無タンパク質、無ペプトン培地に相当する。従って細胞培養のための最終的な栄養培地は無グルコース、無グルタミンであり、ガラクトースと乳酸を含む。
【表6】

【0185】
代謝最適化CHO細胞をバッチ条件下に振とうフラスコで株保存のために培養した。mlにつき1〜2×105生細胞の接種細胞濃度で上記の栄養培地に細胞を接種した。この培養物を37℃、7.5%pCO2雰囲気で2日間インキュベートし、2日目に培養物を継代培養した。そのために2日目に細胞濃度を計数し、培養容器の同じ新鮮培地に同じ接種細胞濃度で接種した。2日の培養期間を1継代と定めた。こうして培養物を数継代にわたって培養し、各継代において、継代培養の直前に生細胞濃度を測定した。測定した数値をダイアグラムにプロットした(図1)。図1で明らかなように、細胞は本発明に基づく培地でよく増殖することができる。本発明に基づく培地で培養した細胞の倍加時間は17.9時間である。2日の培養モードで、細胞は1:6.3の高い分割比を有する。株保存で細胞が2日おきに分割されるならば、1:10を上回る分割比となる。この高い分割比、つまり低い倍加時間は無血清、無タンパク質、無ペプトン、無グルコース、無グルタミン培地で得られた。
【0186】
次に、第2グループの流加式実験を実施した。以下のすべての実験(実施例6〜9)で下記の共通の材料及び方法を使用した。
【0187】
使用した第1の栄養培地は市販の栄養培地(基礎培地)である。この基礎培地は無グルコース、無グルタミンの基礎培地であるが、その配合表は不明である。各実施例でこの基礎培地に本発明に基づく物質を補充した。実施例に挙げた物質の濃度は基礎培地中の各物質の最終濃度である。従って、必要に応じて、上記の最終濃度に到達するまで、栄養培地に本発明に基づく物質を補充した。補充の後に基礎培地のpH値を7.1±0.1に調整した。基礎培地の重量オスモル濃度を310±20mOsmol/kg H2Oに調整した。こうして最終的な基礎培地を調製し、滅菌ろ過した。このようにして準備した基礎培地は無血清、無タンパク質、無ペプトン基礎培地に相当する。
【0188】
使用した第2の栄養培地は流加培地である。それは無血清、無タンパク質の流加培地である。流加培地はとりわけアミノ酸類、塩類及びビタミン類からなる独自の処方物である。この流加培地に各実施例で本発明に基づく物質を補充した。実施例で挙げた物質の濃度は流加培地中の各物質の最終濃度である。最終的な流加培地はpH値6.0〜7.8、重量オスモル濃度460〜750mOsmol/kg H2Oであった。
【0189】
全ての実験を流加条件のもとで行った。基礎培地にCHO細胞を接種することによって、実験をスタートした。接種細胞濃度は1〜3×105/mlであった。培養物を最大7日まで培養し続け、培養中に流加培地を規則的な間隔で補給した。
【0190】
実験で使用した用語を下記の例に基づき説明する。例えば、実験の名称はS4:MEL-St-MELである。
【0191】
S4:実験の番号。これはS1からS6まで変化する。
第1の略語(MEL):使用した細胞の明細。これはMEL(metabolically engineered[代謝的に遺伝子操作された])又はSt(標準、野生型)のいずれかでありうる。
第2の略語(St):使用した基礎培地の明細。これはMEL(本発明に基づく基礎培地)又はSt(標準基礎培地)のいずれかでありうる。
第3の略語(MEL):使用した流加培地の明細。これはMEL(本発明に基づく流加培地)又はSt(標準流加培地)のいずれかでありうる。
【0192】
本発明に基づく方法では、細胞が炭水化物源として乳酸を必要とするので、細胞に乳酸塩を供給することが必要であった。これらの流加培地、又は特別に乳酸塩を供給した培養物を、培地の表に“Extra feed”の注記で表示した。これは、乳酸塩が表示した流加培地に属することを表す。しかし、溶解度の問題を回避するために、乳酸塩を流加培地に追加しなかった。その代わりに乳酸塩濃度を毎日測定し、必要ならば別個のストック溶液から(乳酸の限界の手前で)培養物に追加した。
【0193】
実施例6: 本発明に基づく物質を含む無グルコース、無グルタミン栄養培地による流加式実験
この流加式実験のために次の培地組合せを使用した。
【表7】

S1:St-St-St=標準細胞(野生型細胞)、標準基礎培地、標準流加培地
S1:MEL-MEL-MEL=代謝最適化細胞、本発明に基づく基礎培地、本発明に基づく流加培地
【0194】
結果が示すところでは、代謝最適化細胞は本発明に基づく栄養培地で対照と同等の細胞増殖を示す(図2)。対照と違って、代謝最適化細胞はアンモニウムの産生が少なく(図4)、乳酸を代謝するが、対照は乳酸を産生する(図3)。本発明に基づく物質を含む培養物のpH値は塩基性pH値(高いpH値)へシフトするか、又は一定である。対照(従来の方法)のpH値は酸性pH値(低いpH値)の方へシフトする(図5)。
【0195】
実施例7
標準細胞(遺伝的に改変されていない野生型細胞)を次の培地組合せにより流加条件のもとでテストした。
【表8】

S6:St-St-MEL=標準細胞(野生型細胞)、標準基礎培地、本発明に基づく流加培地
S6:St-MEL-MEL=標準細胞(野生型細胞)、本発明に基づく基礎培地、本発明に基づく流加培地
S6:St-MEL-St=標準細胞(野生型細胞)、本発明に基づく基礎培地、標準流加培地
【0196】
先行技術では、これまで基礎培地と流加培地の炭水化物の幾つかの組合せがテストされた。すべての組合せは、グルコースを含む基礎培地への細胞の接種を想定したものであった。続いて流加法をスタートさせたが、流加培地は例えばガラクトースを含む。このような手順の理由は、ガラクトース含有基礎培地では細胞の増殖率が低いか又はまったく増殖しなので、グルコース含有基礎培地でスタートする必要があったことである(C.Altamiranoら、Biotecnol. Bioeng., 2001, 76(4):351-60;C.Altamiranoら、J. Biotechnology, 2004, 110(2): 171-9; C.Altamiranoら、Biotechnol. Progress, 2000, 16(1): 69-75)。しかし、本発明によれば、細胞はガラクトース含有培地においてグルコース含有培地と同等の増殖率を有するから、本発明に基づく物質を含む基礎培地は細胞培養に対してまったく新しい可能性を開くものである。そこで、この場合本発明に基づく基礎培地を種々の流加培地と組み合わせた。
【0197】
本発明に基づく流加培地は、本発明に基づく基礎培地との組合せが良好であることが、データから明らかである(図6、S6:St-St-MELとS6:St-MEL-MELを比較)。しかし、本発明に基づく基礎培地は、標準流加培地ともよく組み合わせることができる。この流加培地がガラクトース以外の炭水化物、例えばグルコースを含むからである。特に基礎培地が本発明に基づく物質を含み、流加培地がグルコースを含むならば、細胞は一層高い細胞濃度へと増殖する(図6、S6:St-MEL-MELとS6:St-MEL-Stを比較)。
【0198】
同様の実験を代謝最適化細胞でも行った(図7)。代謝最適化細胞による流加式実験の栄養培地は次のとおりである。
【表9】

S1:MEL-MEL-MEL=代謝最適化細胞、本発明に基づく基礎培地、本発明に基づく流加培地
S2:MEL-MEL-St=代謝最適化細胞、本発明に基づく基礎培地、標準流加培地
【0199】
実施例9: 栄養培地中の本発明に基づく2つの物質による流加式実験
この実験では、本発明に基づく2つの物質(乳酸塩及びコハク酸塩)を流加式実験で組み合わせた。この流加式実験のために次の栄養培地の組合せを使用した。
【表10】

S5:MEL-MEL-MEL=代謝最適化細胞、乳酸塩を含む本発明基礎培地、乳酸塩を含む本発明流加培地
S5:MEL-MEL-MEL-S=代謝最適化細胞、乳酸塩及びコハク酸塩を含む本発明基礎培地、乳酸塩及びコハク酸塩を含む本発明流加培地
【0200】
図8は、コハク酸ナトリウムを含む及び含まない本発明栄養培地での代謝最適化細胞の増殖挙動を示す。図9は、コハク酸ナトリウムを含む及び含まない本発明栄養培地での乳酸濃度の経過を示す。
【図面の簡単な説明】
【0201】
【図1】株保存のルーチン培養のもとでの無グルコース、無グルタミンの本発明栄養培地での代謝最適化CHO細胞の増殖データを示す。
【図2】流加法による本発明に基づく栄養培地での細胞の増殖曲線と対照との比較を示す。
【図3】流加培養での乳酸濃度の経過を示す。
【図4】流加培養でのアンモニウム生産を示す。
【図5】培養過程のpH値の経過を示す。pH値はオフラインで測定し、培養中にプロセスのpH値を調整しなかった。
【図6】本発明に基づく基礎培地と流加培地の種々の組合せによる流加培養での野生型細胞(代謝最適化されていない細胞)の増殖挙動を示す。
【図7】本発明に基づく基礎培地と2つの異なる流加培地による流加培養での代謝最適化細胞の増殖挙動を示す。
【図8】コハク酸ナトリウムを含む及び含まない本発明栄養培地による流加培養での代謝最適化細胞の増殖挙動を示す。
【図9】流加培養でのコハク酸ナトリウムを含む及び含まない本発明栄養培地中の乳酸濃度の経過を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
栄養培地がクエン酸、コハク酸、リンゴ酸、αケトグルタル酸、フマル酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、オキサロコハク酸、酒石酸、アジピン酸、乳酸及びこれらの混合物、並びにこれらの酸の塩、誘導体又は複合体からなる群から選ばれた少なくとも1つの物質を含むことを特徴とする、細胞培養のための栄養培地。
【請求項2】
栄養培地がコハク酸、リンゴ酸、αケトグルタル酸、フマル酸、オキサロ酢酸、イソクエン酸、オキサロコハク酸、酒石酸、アジピン酸、乳酸及びこれらの混合物、並びにこれらの酸の塩又は複合体からなる群から選ばれた少なくとも1つの物質を含むことを特徴とする、細胞培養のための栄養培地。
【請求項3】
栄養培地が少なくとも1つの物質を0.03g/l以上の濃度で含む、請求項1又は2に記載の栄養培地。
【請求項4】
栄養培地が乳酸及び/又は乳酸誘導体を含む、請求項1〜3のいずれか1つに記載の栄養培地。
【請求項5】
栄養培地が乳酸誘導体としてアラニン及び/又はアラニン含有ペプチドを含む、請求項1〜4のいずれか1つに記載の栄養培地。
【請求項6】
栄養培地が乳酸誘導体としてピルビン酸及び/又はピルビン酸誘導体を含む、請求項1〜5のいずれか1つに記載の栄養培地。
【請求項7】
栄養培地が少なくとも1つの炭水化物を含む、請求項1〜6のいずれか1つに記載の栄養培地。
【請求項8】
少なくとも1つの炭水化物がグルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、リボース、グルコサミン、スクロース、ラクトース及びこれらの混合物からなる群から選ばれた、請求項7に記載の栄養培地。
【請求項9】
栄養培地がガラクトースを含む、請求項1〜8のいずれか1つに記載の栄養培地。
【請求項10】
栄養培地が0.1g/l以上の濃度の炭水化物を含む、請求項1〜9のいずれか1つに記載の栄養培地。
【請求項11】
栄養培地が25g/l以下の濃度のグルコースを含む、請求項1〜10のいずれか1つに記載の栄養培地。
【請求項12】
栄養培地がグルコースを含まない、請求項1〜10のいずれか1つに記載の栄養培地。
【請求項13】
栄養培地がグルコースを含まず、栄養培地がグルタミン含有ペプチド、乳酸及びガラクトースを含む、請求項1〜12のいずれか1つに記載の栄養培地。
【請求項14】
栄養培地が8mmol/l未満の濃度のグルタミンを含む、請求項1〜13のいずれか1つに記載の栄養培地。
【請求項15】
栄養培地がグルタミンを含まない、請求項1〜13のいずれか1つに記載の栄養培地。
【請求項16】
栄養培地が少なくとも1つのグルタミン誘導体を含む、請求項1〜15のいずれか1つに記載の栄養培地。
【請求項17】
栄養培地がグルタミン誘導体を全濃度0.05g/l以上で含む、請求項16に記載の栄養培地。
【請求項18】
栄養培地がグルタミン誘導体を含まない、請求項1〜15のいずれか1つに記載の栄養培地。
【請求項19】
栄養培地がアスパラギンを含む、請求項1〜18のいずれか1つに記載の栄養培地。
【請求項20】
栄養培地が少なくとも1つのアスパラギン誘導体を含む、請求項1〜19のいずれか1つに記載の栄養培地。
【請求項21】
栄養培地がグルタミン酸を含む、請求項1〜20のいずれか1つに記載の栄養培地。
【請求項22】
栄養培地が少なくとも1つのグルタミン酸誘導体を含む、請求項1〜21のいずれか1つに記載の栄養培地。
【請求項23】
栄養培地がグルコース及びグルタミンを含まず、栄養培地が少なくとも0.05g/lの濃度のアスパラギンと、乳酸及びガラクトースとを含む、請求項1〜13のいずれか1つに記載の栄養培地。
【請求項24】
栄養培地がグルコース及びグルタミンを含まず、栄養培地が少なくとも0.05g/lの濃度のグルタミン酸と、乳酸及びガラクトースとを含む、請求項1〜13のいずれか1つに記載の栄養培地。
【請求項25】
栄養培地が液体栄養培地である、請求項1〜24のいずれか1つに記載の栄養培地。
【請求項26】
栄養培地が240〜360mOsmol/kg H2Oの重量オスモル濃度を有する基礎培地である、請求項1〜25のいずれか1つに記載の栄養培地。
【請求項27】
栄養培地が150〜1500mOsmol/kg H2Oの重量オスモル濃度を有する流加培地である、請求項1〜25のいずれか1つに記載の培地。
【請求項28】
少なくとも1個の細胞を含む細胞培養物を培養するための請求項1〜27のいずれか1つに記載の栄養培地の使用。
【請求項29】
細胞培養物を栄養培地に入れて培養し、栄養培地のpH値が、培養時間の少なくとも5分の1の間、pH7.2以上に塩基性であることを特徴とする、少なくとも1個の細胞を含む細胞培養物の培養方法。
【請求項30】
細胞培養物を請求項1〜27のいずれか1つに記載の栄養培地に入れて培養することを特徴とする、少なくとも1個の細胞を含む細胞培養物の培養方法。
【請求項31】
細胞が真核細胞である、請求項29又は30に記載の方法。
【請求項32】
細胞が哺乳動物細胞である、請求項29〜31のいずれか1つに記載の方法。
【請求項33】
細胞が原核細胞である、請求項29又は30に記載の方法。
【請求項34】
培養の終了時の栄養培地のpH値が7.2以上に塩基性である、請求項29〜33のいずれか1つに記載の方法。
【請求項35】
培養時間の少なくとも5分の1の間、培地のpH値がpH7.2以上に塩基性である、請求項30〜34のいずれか1つに記載の方法。
【請求項36】
培養過程の間、栄養培地のpH値がpH7.2以上に塩基性である、請求項29〜35のいずれか1つに記載の方法。
【請求項37】
少なくとも1個の細胞を含む細胞培養物で、請求項29〜36のいずれか1つに基づき細胞を培養して、細胞培養物及び/又は栄養培地から生物学的産物を得ることを特徴とする、生物学的産物の製造方法。
【請求項38】
生物学的産物が少なくとも1つのポリペプチド、少なくとも1つのタンパク質、少なくとも1つのウイルス成分、少なくとも1つのウイルス又はこれらの混合物から選ばれたものである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
細胞集団から遺伝子改変細胞、特に代謝最適化細胞を選択するための方法であって、
a)細胞集団としての細胞培養物を、請求項1〜26のいずれか1つに記載の栄養培地中で、請求項29〜36のいずれか1つに基づき少なくとも1週間培養し、続いて
b)細胞をそこから単離する、
ことを特徴とする上記方法。
【請求項40】
段階b)で単離した細胞を別の段階c)で新しい栄養培地に移す、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
段階c)で単離した細胞を増やす、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
単離した細胞を1継代以上にわたり継代培養する、請求項39〜41のいずれか1つに記載の方法。
【請求項43】
単離した細胞を1:4より大きい分割比に達するまで継代培養する、請求項39〜41のいずれか1つに記載の方法。
【請求項44】
請求項39〜43のいずれか1つに記載の方法で得られる、選択された細胞。
【請求項45】
細胞の増殖率(μ)が24時間未満である、請求項44に記載の細胞。
【請求項46】
請求項44又は45のいずれか1つに記載の細胞を含む細胞培養物又は細胞集団。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−509514(P2009−509514A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532622(P2008−532622)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【国際出願番号】PCT/EP2006/008761
【国際公開番号】WO2007/036291
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(508092602)セルカ ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】