説明

改良された重合性組成物

【課題】ヒドロキシアルキル(メタ)アクリラートとポリリン酸(PPA)との反応により合成されるホスホアルキル(メタ)アクリラートモノマーを含む低VOC重合性組成物を製造する方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも1種の重合性溶媒の存在下で、少なくとも1種のヒドロキシアルキル(メタ)アクリラートと少なくとも1種のポリリン酸とを反応させることを含む、改良された低VOC重合性組成物を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリラートとポリリン酸(PPA)との反応によって合成されるホスホアルキル(メタ)アクリラートモノマーを含む改良された低VOC重合性組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人々はかなりの量の時間を屋内で費やし、このことは建築物内にいる間、人々が呼吸する空気の質についてより多くの関心をもたらしている。家およびオフィスビル内の製品および材料は汚染物質および化学物質を放出し、その多くが健康に懸念を生じさせうる。特別注視されている汚染物質の種類の1つは揮発性有機化合物(VOC)である。これらの化合物は至る所にあり、VOCのソースを特定しその放出を低減させるためにより多くの注意が払われている。
【0003】
VOCは毎日の生活において使用される驚くべき数の物品から、特に事実上全ての樹脂ベースの人工物質から放出される。ビニル壁被覆、床用製品、家具および印刷物品のような表面上の保護仕上げを提供するために、ワニスおよびコーティングが従来使用されてきた。このような製品の例は米国特許第4,603,074号に記載されている。これらの上塗りは汚染および損傷に対する保護を提供するが、環境へのVOCの放出を低減することは意図されておらず、かつその放出を低減しない。
【0004】
他のビニルモノマーとの共重合にかけられる場合、ホスホアルキル(メタ)アクリラートはポリマーに有用な特性を付与し、すなわち、これらのポリマーはコーティングおよびバインダーに使用され、かつ広範囲の用途を有する。これらのモノマーの用途の1つは、金属基体へのポリマーコーティング接着の促進である。他の用途としては、繊維および不織布用バインダーへの難燃性および帯電防止性の付与が挙げられる。
【0005】
これらのポリマー混合物の問題となる点は高い粘度に関連する。PPA原料、反応混合物および反応生成物は高い粘性を有し、これが物質移動を遅くし、かつ一般的な物質取り扱い問題をもたらす。生成物の粘度を低くする解決策の1つは、溶媒の存在下で反応を行うことまたは溶媒で最終反応生成物を希釈することである。参考文献である特開2006−001863A号は不活性な非プロトン性溶媒、例えば、芳香族および飽和脂肪族がリン酸化反応のための溶媒であることを示す。しかし、このような溶媒の使用は揮発性有機化合物(VOC)の放出のために望ましくなく、VOCは人々に対して広く害があるため、このような溶媒が除去されることが必要とされている。この溶媒を除去するのにコストのかかる処理時間が生じ、そして溶媒が除去されるときに、組成物の問題のある粘度が元に戻る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−001863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、反応溶媒、特に重合性溶媒の存在下で行われるリン酸化反応を含む方法を提供することによって、当該技術分野のこれらの問題を解決する。この反応を行うための方法はバッチまたは連続的であることができる。有意な向上が低い溶媒量、例えば約15重量%でなされることができ、これは、良好な反応器生産性が維持されうるバッチプロセスのために特に有益である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
よって、本発明は、少なくとも1種の重合可能な溶媒の存在下で、少なくとも1種のヒドロキシアルキル(メタ)アクリラートを少なくとも1種のポリリン酸と反応させることを含む、改良された重合性組成物を提供する方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
重合性溶媒の適切な選択によって、その溶媒はポリマーマトリックスに組み込まれ、最終ポリマー生成物の部分になることができ、よってリン酸化反応の後に溶媒を除去する必要がない。溶媒および反応温度の選択にしたがって、反応圧力が選択され、反応混合物の沸騰が抑制されるのを確実にする。よって、反応圧力は反応混合物の蒸気圧を超えるべきである。
【0010】
本明細書において使用される場合、重合性溶媒は、重合性組成物の適用においてホスホアルキルメタクリラートと重合することができ、耐溶媒性を有するあらゆるオレフィン性重合性化合物を意味し、ただし、反応において使用されるヒドロキシアルキル(メタ)アクリラートモノマーおよびホスホアルキルメタクリラート生成物自体は重合性反応性溶媒のこの定義から除かれる。好ましくは、溶媒および温度は大気反応圧力を可能にするように選択される。
【0011】
重合性溶媒、すなわち「希釈モノマー」は最終用途における使用の前に反応混合物から除かれる必要がない。これらの溶媒は最終反応混合物の10〜90重量%で使用される。重合性溶媒の好適な例には、これに限定されないが、アクリル酸もしくはメタクリル酸のC−C20線状、分岐または環式アルキルエステル、例えば、これに限定されないが、複素環式(メタ)アクリラート(例えば、3−オキサゾリジニルエチルメタクリラート、5−[2−オキサゾリニル]−ペンチルメタクリラート);アミノアルキル(メタ)アクリラート(例えば、N,N−ジメチルアミノ−エチルアクリラート、N,N−ジエチルアミノ−プロピルメタクリラート);(メタ)アクリルアミド(例えば、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド);エポキシド含有(メタ)アクリラート(例えば、グリシジル(メタ)アクリラート);不飽和アルキルおよびシクロアルキル(メタ)アクリラート(例えば、ビニルアクリラート、アリルメタクリラート、2,4−ヘキサジエニルメタクリラートおよびジシクロペンテニルオキシエチルメタクリラート);ケイ素含有(メタ)アクリラート(例えば、トリメトキシシリルプロピルアクリラート、ジエトキシメチルシリルプロピルメタクリラート、イソプロポキシジメチルシリルプロピルアクリラート);芳香族(メタ)アクリラート(例えば、ベンジルアクリラート、フェニルアクリラート、4−クロロフェニルエチルメタクリラート);直鎖または分岐ハロアルキル(メタ)アクリラート(例えば、2,2,2−トリフルオロエチルアクリラート、ヘキサフルオロイソプロピルメタクリラート);末端アルケン(例えば、1−ブテン、1−ヘキセン、ビニル−シクロヘキセン);アルアルケン(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−メトキシスチレン);複素環式アルケン(例えば、2−、3−もしくは4−ビニルピリジン、およびN−ビニルイミダゾール);ジエン(例えば、ブタジエン、イソプレン、塩化ビニリデン);ハロゲン化ビニル(例えば、塩化ビニル、テトラフルオロエチレン);ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、安息香酸ビニル);ビニルケトン(例えばメチルビニルケトン);ビニルアミド(例えば、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド);ビニルイソシアナート;ビニル官能基含有アルデヒド(例えば、アクロレイン、メタクロレイン、およびそのアセタール誘導体);エポキシアルケン(例えば、3,4−エポキシブテ−1−エン);ビニル官能基含有シアノ(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、およびフマロニトリル);ビニルシランおよびアルコキシビニルシラン(例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリメチルシラン、ビニルジエトキシメチルシラン);不飽和ジエステル(例えば、ジメチルマレアート、ジブチルフマラート、ジエチルイタコナート);並びに官能性(メタ)アクリラート(例えば、イソシアナトエチルメタクリラート、アクリロイルクロライド、アセトアセトキシエチルメタクリラート、アクリロイルプロピオン酸(AOPA));またはこれらの混合物が挙げられる。
【0012】
特に、これら重合性溶媒が、オレフィン二重結合を介してヒドロキシ含有化合物、すなわち、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリラート反応基質とのマイケル型付加を受ける傾向のために、これら重合性溶媒が、この反応のための溶媒として使用されうることは驚くべきことである。本重合性組成物を製造することについての主たる懸念は、そのマイケル反応を介した後者の消費による、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリラート基質におけるモノエステル収率の減少である。重合性溶媒を使用する本反応系においてはモノエステル収率は維持され、多くの場合において、例えば、メチルメタクリラートの使用についての場合などでは、増加することが実際に見いだされた。
【実施例】
【0013】
比較例1
500mLのジャケット付きガラス「樹脂ケトル」反応フラスコ;2段攪拌機;および還流凝縮器;を含む反応装置が組み立てられた。加熱および冷却はサーモサイエンティフィック(Thermo Scientific)NESLAB RTE740循環浴の手段によって行われ、これはダイナレン(Dynalene)HF−LO熱伝達流体を反応器ジャケットに供給した。浴温度が調節され、所望の反応温度を達成した。2段攪拌機は下部翼セット(直径3−インチ、4枚翼、ピッチ45°)およびミドル翼セット(直径2.5−インチ、3枚翼、スゥエプトピッチ)を有しており、これは反応器の底から2/3の直線側方高さに配置された。熱電対、スパージガスチューブおよび供給チューブが下部攪拌翼セットの頂部付近に配置された。凝縮器は乾燥チューブを介して大気にベントされた。
別の供給容器において、0.15重量%未満の水を有する2−ヒドロキシエチルメタクリラートのリザーバーが1950ppm(重量基準)のメトキシフェノールを含むように調節された。ポリリン酸(115%グレード、400g)がからの反応フラスコに入れられた。次いで、流速10sccmの8%O/92%N混合ガスがスパージチューブを介して反応器に導入された。攪拌機は180rpmにセットされ、ポリリン酸が65℃に加熱された。酸を加熱した後、437gの2−ヒドロキシエチルメタクリラートがペリスタルティックポンプおよび供給チューブを介して、65℃で操作された反応器に7時間にわたって供給された。得られた混合物は65℃でさらに6時間保持され、次いで室温に冷却された。
反応生成物は、スペルコ(Supelco)インコーポレーテッド、ディスカバリーバイオワイドポア(Discovery Bio Wide Pore)C18カラム(25cm×4.6mm、5μm媒体)および紫外光検出器を備えたアジレント(Agilent)1100シリーズLCシステム液体クロマトグラフを用いて、高性能液体クロマトグラフィーによって分析された。
反応生成物は44.7重量%のモノエステルおよび10.5重量%のジエステルを(対応するモノエステル:ジエステルモル比6.53)含んでいた。
【0014】
実施例1
2−ヒドロキシエチルメタクリラートの添加前に、169gのメチルメタクリラートがポリリン酸と混合されたことを除いて、比較例1に示されるのと同じ手順によって、反応生成物が製造された。反応生成物は、メチルメタクリラートを除いた基準で、47.0重量%のモノエステルおよび9.43重量%のジエステルを(対応するモノエステル:ジエステルモル比7.64)含んでいた。
【0015】
実施例2
2−ヒドロキシエチルメタクリラートの添加前に、302gのメチルメタクリラートがポリリン酸と混合されたことを除いて、比較例1に示されるのと同じ手順によって、反応生成物が製造された。反応生成物は、メチルメタクリラートを除いた基準で、47.9重量%のモノエステルおよび7.58重量%のジエステルを(対応するモノエステル:ジエステルモル比9.69)含んでいた。
【0016】
実施例3
218gの2−ヒドロキシエチルメタクリラートの添加前に、418gのメチルメタクリラートが200gのポリリン酸と混合されたことを除いて、比較例1に示されるのと同じ手順によって、反応生成物が製造された。反応生成物は、メチルメタクリラートを除いた基準で、51.0重量%のモノエステルおよび7.24重量%のジエステルを(対応するモノエステル:ジエステルモル比10.8)含んでいた。
【0017】
比較例2
2−ヒドロキシエチルメタクリラートの添加中および保持期間中の双方で反応温度が45℃であったことを除いて、比較例1に示されるのと同じ手順によって、反応生成物が製造された。反応生成物は、38.3重量%のモノエステルおよび5.37重量%のジエステルを(対応するモノエステル:ジエステルモル比10.9)含んでいた。
【0018】
実施例4
2−ヒドロキシエチルメタクリラートの添加前に、169gのメチルメタクリラートがポリリン酸と混合されたことを除いて、比較例2に示されるのと同じ手順によって、反応生成物が製造された。反応生成物は、メチルメタクリラートを除いた基準で、41.4重量%のモノエステルおよび4.75重量%のジエステルを(対応するモノエステル:ジエステルモル比13.4)含んでいた。
【0019】
実施例5
218gの2−ヒドロキシエチルメタクリラートの添加前に、418gのメチルメタクリラートが200gのポリリン酸と混合されたことを除いて、比較例2に示されるのと同じ手順によって、反応生成物が製造された。反応生成物は、メチルメタクリラートを除いた基準で、45.9重量%のモノエステルおよび4.31重量%のジエステルを(対応するモノエステル:ジエステルモル比16.3)含んでいた。
【0020】
実施例6
2−ヒドロキシエチルメタクリラートの添加前に、181gのブチルアクリラートがポリリン酸と混合されたことを除いて、比較例2に示されるのと同じ手順によって、反応生成物が製造された。反応生成物は、ブチルアクリラートを除いた基準で、38.1重量%のモノエステルおよび3.89重量%のジエステルを(対応するモノエステル:ジエステルモル比15.0)含んでいた。
【0021】
実施例7
2−ヒドロキシエチルメタクリラートの添加前に、175gのメタクリル酸がポリリン酸と混合されたことを除いて、比較例2に示されるのと同じ手順によって、反応生成物が製造された。反応生成物は、メタクリル酸を除いた基準で、30.1重量%のモノエステルおよび2.20重量%のジエステルを(対応するモノエステル:ジエステルモル比21.0)含んでいた。
【0022】
実施例8
2−ヒドロキシエチルメタクリラートの添加中および保持期間中の双方で反応温度が35℃であった比較例1に示される手順によって、反応生成物が製造された。反応を行うために、218gの2−ヒドロキシエチルメタクリラートの添加前に、418gのメチルメタクリラートが200gのポリリン酸と混合された。反応生成物は、40.0重量%のモノエステルおよび3.33重量%のジエステルを(対応するモノエステル:ジエステルモル比18.4)含んでいた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の重合性溶媒の存在下で、少なくとも1種のヒドロキシアルキル(メタ)アクリラートと少なくとも1種のポリリン酸とを反応させることを含む、改良された低VOC重合性組成物を製造する方法。
【請求項2】
重合性溶媒が、アクリル酸もしくはメタクリル酸のC−C20線状、分岐もしくは環式アルキルエステルの少なくとも1種、またはこれらの混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
重合性溶媒が、アクリル酸もしくはメタクリル酸のC−C20線状、分岐もしくは環式アルキルエステル、アミノアルキル(メタ)アクリラート、(メタ)アクリルアミド、エポキシド含有(メタ)アクリラート、不飽和アルキル(メタ)アクリラート、シクロアルキル(メタ)アクリラート、ケイ素含有(メタ)アクリラート、芳香族(メタ)アクリラート、直鎖もしくは分岐ハロアルキル(メタ)アクリラート、末端アルケン、アルアルケン、複素環式アルケン、ジエン、ハロゲン化ビニル、ビニルエステル、ビニルケトン、ビニルアミド、ビニルイソシアナート、ビニル官能基含有アルデヒド、エポキシアルケン、ビニル官能基含有シアノ、ビニルシラン、アルコキシビニルシラン、不飽和ジエステル並びに官能性(メタ)アクリラート、またはこれらの混合物;からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
反応がバッチ反応である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
反応が連続的である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
反応が40℃未満の温度で起こる、請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2010−235920(P2010−235920A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−31318(P2010−31318)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】