説明

改良ケラチンの製造方法

【課題】化粧品、医療品などへの応用を好適に行うことができる改良ケラチンを製造する方法を得ることを目的とする。
【解決手段】ミネラルを添加した原料としてのケラチンを醗酵させ、ついでこの醗酵ケラチンに有機酸を混合して熟成することを基本とするが、具体的には、原料ケラチンにミネラルを添加して所定量の浄化水で蒸煮し、つぎに麹菌などを加えて醗酵させ、この醗酵ケラチンにクエン酸などのカルボキシル基を有する有機酸混合物を混合して所定の温度に保持して熟成したのち濾過抽出することを特徴とする。この製造方法によれば、原料ケラチンの分散液は麹菌などの発酵作用によって酸素結合が切られ、さらに切られたケラチンのモノマーユニット末端に2価ミネラルが適宜結合してその状態を保持するので、従来に比べると低分子量で化粧品、医療品などへの応用が可能なケラチンを効率よく製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、化粧品、医療品などへの応用を好適に行うことができる改良ケラチンを効率よく製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ケラチンは、毛髪や爪、獣毛、羽毛、皮膚の角質層などを形成している硫黄を含むたんぱく質である。このケラチンタンパクは弾力性に富み、水分をよく含む繊維状の細長い形状で紫外線や衝撃などの外部刺激から体を守るクッション効果を有しており、毛髪や爪は硬質ケラチン、皮膚は軟質ケラチンといわている。
【0003】
また、ケラチンはシスチンを14%〜18%含む18種のアミノ酸からできており、例えば、毛髪はケラチンが80%−〜90%含まれ、残りはメラニン色素、脂質、水分、微量元素(ミネラル)からできている。そして、この毛髪の成分も遺伝、生活環境、美容処理のほか、例えば、食事を低たん白質食にするとシスチンの含量が低下し、中高たんぱく質食にするとシスチン量が増加するなどの影響があり、さらににはこの中高たんぱく質食の状態でスクワランを供給するさらシスチンが増加するという報告もある。
皮膚のケラチンも同様に、例えば、やせるためやアトピーなどにより食事制限を行ってたんぱく質や脂質、ミネラルが不足気味になると、皮膚や髪が痛みやすくなるなど食事の栄養バランスによって左右されることが知られている。
【0004】
組織中におけろケラチンは、分子中のシスチン残基が別のケラチン分子のシスチン残基との間でジスルフィド結合しており、繊維状として存在し不溶化している。この繊維状ケラチンを可溶化するためには、例えば、還元剤の存在下でケラチンのジスルフィド結合を開裂させる方法が採用されているが、この還元剤を除去すると開裂したジスルフィド結合が再び結合し不溶化してしまうため、還元剤の除去後も可溶化したケラチンを得ることは困難であった。
【0005】
一般に、化粧品の素材は水溶性であることが必要であり、このケラチンを還元剤の非存在下でも水に可溶にする方法としては、例えば、ケラチンを酵素等を用いて低分子化する方法あるいはケラチンタンパク中のジスルフィド結合を還元剤を用いて開裂させたのち、シスチン残基をモノヨード酢酸などを用いて化学修飾を施し、還元剤を除去したのちも可溶性であるケラチン誘導体を製造する方法などがある。
【0006】
しかし、酵素等を用いて低分子化したケラチンは、単に分子量が小さいだけであるため毛髪にハリやコシを与えるコンディショニング効果や、セット効果が低いという問点が指摘されている。
一方、シスチン残基を化学修飾したケラチン誘導体は、分子量は高いもののケラチンに特徴的なジスルフィド結合が不可逆的に変性されているために、毛髪内のチオール基/ジスルフィド結合との交換反応や、毛髪上でのケラチン分子同志の架橋形成が期待できず、毛髪から容易にはずれてしまうという問題点があった。
【0007】
そこでこれらの問題点を解決するために、ケラチン含有物質から還元剤を含む尿素溶液を用いて還元型ケラチンタンパクを抽出し、さらにこの抽出液にアニオン界面活性剤を加えることにより、還元剤を除去したのちも安定な可溶性ケラチンを得る方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
しかしながら、この可溶性ケラチンは安定であり不溶化しないため、毛髪内部に浸透しても再び毛髪の外に洗い流されてしまい、毛髪の感触を変えるうえで持続性に問題があった。
【0008】
なお、基本的にはタンパク質である可溶性ケラチンを不溶化する方法としては、生化学的な手法である硫酸アンモニウムや硫酸ナトリウムを用いた塩析、あるいはエタノールやイソプロパノールのような有機溶媒を用いて変性させる方法なども知られているが、これらの方法ではいずれも高濃度の硫酸アンモニウムやエタノールを用いなければならないため簡単に採用することはできないという問題もあった。
【0009】
【特許文献1】 特公平7−37480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような事情から、この発明では化粧品、医療品などへの応用を好適に行うことができる改良ケラチンを効率よく製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題を解決するため、本発明では、わが国で古くから行われており、安全性についても折り紙つきの、例えば、味噌、醤油の類の発酵技術に着目し、あらかじめミネラルを添加した原料としてのケラチン(ケラチンタンパク)を麹菌などを使用して醗酵させ、ついでこの醗酵ケラチンに有機酸を混合して熟成することによりケラチンの分解を行って好適な改良を図るものである。
【0012】
具体的には、例えば、原料ケラチンにミネラルを添加して所定量の浄化水で蒸煮することにより殺菌し、つぎに麹菌、クエン酸菌、乳酸菌、酢酸菌、繊維分解酵素(セルラーゼ)を含む酵母を単独でまたはこれらの2種以上の混合物を加えて醗酵させ、次いでこの醗酵ケラチンにクエン酸、乳酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸から選ばれるカルボキシル基を有する有機酸を単独でまたはこれらの2種以上の混合物を混合して35℃〜45℃の温度に保持して熟成し、さらにこれを濾過抽出する手順を採用する。
【0013】
この場合、原料ケラチンに添加するミネラルとしては、あらかじめ解離(イオン化)したミネラルを使用するのが好ましく、具体的には、澱粉および/もしくは穀類と種子と卵殻とを所定の割合で混合した原料を粉砕し、次いで浄化水と麹菌を加えて醗酵熟成することにより原料中に含まれているカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、鉄、銅、亜鉛、マンガンなどのミネラルを解離させたのち濾過することにより得られた醗酵熟成液が好適に使用される。
【0014】
そして、この手順(プロセス)を採用することにより、分子量がおおよそ50〜110程度の改良ケラチンを得ることができるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る改良ケラチンの製造方法によれば、原料ケラチンの分散液は麹菌などの細菌、酵母またはこれらの混合物による発酵作用によってケラチンの酸素結合が切られ、さらに切られたケラチンのモノマーユニット末端に2価ミネラルが適宜結合してその状態を保持するので、従来に比べると低分子量のケラチンを効率よくしかも安価に製造することができる。
また、本発明方法によって得られる改良ケラチンは、分子量がおおよそ50〜110程度でありしかも2価ミネラルで適宜結合されているので水溶性で化粧品分野などにおいては毛髪にハリやコシを与えるコンディショニング効果や、セット効果の大幅な向上を図ることができ、また毛髪等のラチン組織に低分子ケラチンをカルシウムなどの二価のイオンで架橋させるため、シャンプーリンスしても溶脱することがなく髪質を向上でき、さらには少量で目的とする所望の効果を充分期待することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明に係る改良されたケラチンの製造方法における最良の実施の形態を例示し、以下詳細に説明する。
図1において、本発明に係る改良されたケラチンの製造方法で使用する原料ケラチン10としては、ケラチン含有物質を使用する。この場合、ケラチン含有物質は真性ケラチンを含有する物質であればよく、例えば、山羊、羊、馬、豚、牛、ウサギなどの毛や各種鳥類の羽毛、さらには人毛などが用いられ、これらをある程度精製したものが好ましい。
【0017】
次に、容器12を用意して、この容器12に原料ケラチン10と、ミネラル14と浄化水16(例えば、水道水などのTapwaterから予め塩素などを除去することにより得られた浄化水)を投入し、適度に攪拌しながら公知の加熱手段を使用して例えば、65℃なら30分間、85℃以上であるなら10分程度加熱して殺菌することによりケラチンの分散液18を調製する。
この場合、原料ケラチン10と浄化水16との混合比は、原料ケラチン1〜2に対して8〜9程度にするのが好ましく、またミネラル14の添加量は原料ケラチン10と浄化水16の総量に対して10重量%〜20重量%の範囲に設定するのが好適である。
【0018】
一方、原料ケラチン10に添加するネラル14としては、あらかじめ解離(イオン化)したミネラルを使用するが、このイオン化ミネラルとしては、例えば、澱粉および/もしくは穀類と種子と卵殼とを所定の割合で混合した原料を粉砕し、次いで浄化水と麹菌を加えて醗酵熟成することにより粉砕原料中に含まれているカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、鉄、銅、亜鉛、マンガンなどのミネラルを解離させたのち濾過して得られた醗酵熟成液を使用するのが好ましい。
【0019】
このようにして加熱殺菌した容器12内のケラチン分散液18の温度が40℃程度まで低下したら、このケラチン分散液18に対して、酒麹菌、醤油麹菌、味噌麹菌、クエン酸菌、乳酸菌、酢酸菌、セルラーゼ(繊維分解酵素)を含む酵母を単独でまたはこれらの2種以上の混合物20、砂糖などの糖質22を加えてよく混合し、その温度を35℃〜45℃に保持して前記ケラチン分散液18を、例えば、2週間程度醗酵させる。
この場合、麹菌などの細菌、酵母またはこれらの混合物20の分量は、ケラチン分散液18の10重量%〜30重量%の範囲に設定するのが好ましい。
麹菌などの細菌、酵母またはこれらの混合物20の分量が10重量%未満になると醗酵に長時間を要するだけでなく充分な発酵を行えなくなり、また30重量%を超えると量が多すぎて経済性が低下することになる。
また、糖質22の分量は麹菌などの細菌、酵母またはこれらの混合物20よりも若干多めの分量を目安とする。
【0020】
なお、ケラチン分散液18の発酵に際しては、スターラなど公知の手段による攪拌を適宜繰り返して麹菌などの細菌、酵母またはこれらの混合物20の発酵を促進させるのが好ましく、この発酵作用によってケラチンはその酸素結合が切られ、最終的には、粘稠性のある醗酵液となる。
【0021】
次に、このようにして得られた醗酵ケラチン液26に、例えば、クエン酸、乳酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸から選ばれるカルボキシル基を有する有機酸を単独でまたはこれらの2種以上を混合してなる有機酸溶液28を加え、ヒータなどにより35℃〜45℃に保持した状態で静電磁場および電位差を有する雰囲気、さらに必要に応じて、例えば、25KHz〜40KHz程度の超音波の照射下においてゆっくりと攪拌しながら流動させて熟成(有機酸発酵)する。
この場合、醗酵ケラチン液26に加える有機酸溶液28の分量としては醗酵ケラチン液26の10重量%〜30重量%に設定するのが好ましく、有機酸溶液28が醗酵ケラチン液の10重量%以下だと熟成醗酵に長時間を必要とし低分子化が遅くなり、また30重量%を超えるとケラチン自体の量が少なくなるため熟成がうまくできず経済性も低下する。
【0022】
この熟成により、ケラチンは麹菌などの細菌、酵母またはこれらの混合物20の発酵作用によってその酸素結合を切られ、さらに有機酸の作用で分断されていくが、この際、ケラチンのモノマーユニット(一つの断片)末端にはカルシウムなどの二価のミネラルが適宜結合していくため、分子量50〜110程度のケラチンを含む発酵ケラチン液30として好適に保持されることになる。
なお、この醗酵ケラチン液30の熟成に際しては、適宜の攪拌手段を使用して醗酵ケラチン液を攪拌するとともにポンプ装置などでゆっくり流動させながら行うのが好ましい。
【0023】
そして、このようにして得られた醗酵熟成ケラチン液30を加熱あるいは紫外線照射などの手段で再び殺菌したのち濾過抽出することにより透明ないしは黄味かがった色を呈する改良ケラチン32を得た。
【0024】
次に、前述の手順で得られた本発明方法に係る改良ケラチン32と、原料ケラチン10の質量分析を行ったところ、図2および図3(改良ケラチン32)、図4および図5(原料ケラチン10)に示すような分子量分布の結果を得た。
なお、質量分析の条件および要領は以下の通りである。
使用装置 ;レーザーイオン化飛行時間型質量分析装置(MALDI−TO FMS)
AXIMA−CFR(株式会社島津製作所製)
引き出し電圧 ;20kv
飛行モード ;Linear
検出イオン ;正イオン
マトリックス ;Sinapinic acid(SA)
10mg/ml in 0.1%TFA,50%MeCNsa turated solution
サンプル前処理;サンプルとなる各ケラチン1μlを直接MALDIプレートに アプライし、風乾後マトリックス溶液を重層し、さらに風乾後 、質量分析装置にプレートを搭載して質量分析を行った。
【0025】
この質量測定によると、200〜400、700前後などに多数のピークが混在している原料ケラチン(図4および図5)に対し、本発明方法により得られた改良ケラチン(図2および図3)は、いくつかのピークが見られるものの、おおよそ40前と110をピークトップとする分布が得られたことから、約40〜110程度の分子量はあることが確認された。
このように分子量が約40〜110程度の改良された低分子ケラチンを得られるのは、麹菌などの細菌、酵母またはこれらの混合物による発酵作用によってケラチンの酸素結合が分断され、この際、ケラチンのモノマーユニット末端に、例えば、カルシウムなど二価のミネラルが適宜結合してこの状態がバランスよく保持されるからである。
【0026】
そして、このようにして得られた改良ケラチンを化粧品、たとえば、毛髪用化粧品に配合すると、分子量がおおよそ40〜110程度でありしかもミネラルで適宜結合されているので、低分子量であるにも拘わらず毛髪にハリやコシを与えるコンディショニング効果や、セット効果の大幅な向上を図ることができるものである。
また、毛髪等のケラチン組織に低分子ケラチンをカルシウムなどの二価のイオンで架橋させるので、シャンプーリンスしても溶脱することがなく髪質の向上を図ることができ、さらにはカラーリング、パーマなどによる損毛へのケラチンの補填および修復を好適に行うことができるなど少量で所望の効果を充分期待することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る改良ケラチンの製造方法の最良の実施の形態を示す手順説明図である。
【図2】図1に示す手順で得られた本発明に係る改良ケラチンの質量分析結果を示すイオンピーク20〜500近辺の特性(分子量分布)図である。
【図3】図1に示す手順で得られた本発明に係る改良ケラチンの質量分析結果を示すイオンピーク100〜500近辺の特性(分子量分布)図である。
【図4】図1に示す手順で使用された原料ケラチンの質量分析結果を示すイオンピーク200〜800近辺の特性(分子量分布)図である。
【図5】図1に示す手順で使用された原料ケラチン硫酸の質量分析結果を示すイオンピーク500〜1500近辺の特性(分子量分布)図である。
【符号の説明】
【0028】
10・・原料ケラチン
12・・容器、
14・・ミネラル、
16・・浄化水、
18・・ケラチン分散液、
20・・麹菌などの細菌、酵母またはこれらの混合物
22・・砂糖などの糖質、
26・・醗酵ケラチン液、
28・・カルボキシル基を有する有機酸溶液
30・・醗酵熟成ケラチン液
32・・改良ケラチン、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミネラルを添加した原料としてのケラチンを醗酵させ、ついでこの醗酵ケラチンに有機酸を混合して熟成することを特徴とする改良ケラチンの製造方法。
【請求項2】
原料ケラチンにミネラルを添加して所定量の浄化水で蒸煮することにより殺菌し、つぎに麹菌、クエン酸菌、乳酸菌、酢酸菌、繊維分解酵素を含む酵母を単独でまたはこれらの2種以上の混合物を加えて醗酵させ、次いでこの醗酵ケラチンにクエン酸、乳酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸から選ばれるカルボキシル基を有する有機酸を単独でまたはこれらの2種以上の混合物を混合して35℃〜45℃の温度に保持して熟成し、さらにこれを濾過抽出することを特徴とする請求項1に記載の改良ケラチンの製造方法。
【請求項3】
ミネラルとして、あらかじめイオン化(解離)したミネラルを使用することからなる請求項1または請求項2に記載の改良ケラチンの製造方法。
【請求項4】
あらかじめイオン化(解離)したミネラルは、澱粉および/もしくは穀類と種子と卵殻とを所定の割合で混合した原料を粉砕し、次いで浄化水と麹菌を加えて醗酵熟成することにより原料中に含まれているカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、鉄、銅、亜鉛、マンガンなどのミネラルを解離させたのち濾過することにより得られた醗酵熟成液である請求項3に記載の改良ケラチンの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法により得られた改良ケラチン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−90096(P2010−90096A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283694(P2008−283694)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(591135200)
【出願人】(508328165)
【Fターム(参考)】