説明

改良型イオン選択ユニットを有する質量分析器

改良型質量分析器について示した。本質量分析器は、分析用の複数のイオン(90)を提供する用に構成されたイオン注射器(30)と、イオン注射器(30)からの複数のイオンを受容するように適合されたイオン選択ユニットであって、検出/解析のため、選択された質量対電荷比を有するイオンのみを提供するイオン選択ユニットとを有する。イオン選択ユニットは、一つの外部電極(95)および複数の内部電極(100、105、110、115)を有する。イオン注射器によって提供された複数のイオン(90)は、外部電極(95)と複数の内部電極(100、105、110、115)の間の侵入領域に受容される。イオン選択室の電極には、電源システムが接続される。電源システムは、前記複数の内部電極の少なくとも一つに振動電圧を印加するように適合され、未選択の質量対電荷比のイオンから、選択された質量対電荷比のイオンを分離することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般に質量分析器に関する。特に本発明は、改良されたイオン選択ユニットおよび/または検出配置を有する質量分析器に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析法は、その特徴により、各種分析方法の中でも際だった地位にある。質量分析法は、優れた感度および検出限界を示し、例えば原子物理学、反応物理学、反応速度論、地球年代学、生体臨床医学、イオン−分子反応論、および熱力学的パラメータ(ΔGof、Ka等)の算定等、幅広い各種用途に使用することができる。従って質量分析技術は、急速な勢いで発展し始めており、その用途は、広く認知されてきている。この動きは、全く新しい機器および装置の開発につながる。
【0003】
質量分析法の一つのタイプは、図1に示すようなイオントラップ型質量分析器として知られている。イオントラップ型質量分析器は、四重極質量分析器と同様に、RF電圧を印加して、イオン軌道に振動を生じさせるものである。「イオントラップ」という用語は、フィールド場が印加されると、全ての質量対電荷比のイオンが、最初にトラップされ、質量分析器内で振動することにちなんでいる。次に質量分析器は、一連の質量対電荷比依存形整合RF電圧を印加することにより、振動の振幅を増大させ、質量対電荷比の増大したイオンを、トラップから検出器に向かって放出させる。このタイプの操作法は、選択された質量対電荷比のイオンを除く全てのイオンが質量分析器のフィールド場に保持されるため、「質量選択不安定法」と呼ばれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのような質量分析器の開発傾向は、複雑性の高い設計を行う方向に進んでおり、極めて特殊な部品および厳しい製造許容差が要求されるようになってきている。この複雑性の増大は、度々、機器の寸法、信頼線および生産性との間で好ましくない二律背反を生じさせる。特に、創薬および医薬分析のような競争の激しい分野では、そのような二律背反は、限界を超えるようになってきている。従って質量分析器の精度、信頼性を高めるとともに、小型設計を可能にする必要がある。
【0005】
本発明は、既存の質量分析機器には改良が必要であるとの認識の下、なされたものである。そのような既存の質量分析機器は、複雑な設計がなされることが多く、操作が難しい。質量分析機器を単純化し、および/またはイオン選択の際に使用される方法を単純化することにより、複雑性を抑制することが可能となる。本発明では、製造工程、質量分解能および/または質量感度を維持したまま、あるいはこれらを向上させて、そのような改良を行うことができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、改良された質量分析器が開示される。本質量分析器は、分析用の複数のイオンを提供するように構成されたイオン注射器と、該イオン注射器からの複数のイオンを受容するように適合され、検出/分析の際に、選択された質量対電荷比を有するイオンのみを選択するイオン選択ユニットとを有する。イオン選択ユニットは、一つの外部電極および複数の内部電極を有する。イオン注射器から提供される複数のイオンは、外部電極と複数の内部電極の間の侵入領域に受容される。イオン選択室の電極には、電源システムが接続される。電源システムは、複数の内部電極のうちの少なくとも一つに、振動電圧を印加するように適合されており、選択された質量対電荷比のイオンの軌道周期に基づいて、未選択の質量対電荷比のイオンから、選択された質量対電荷比のイオンを分離することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の一実施例により構成される質量分析システムの基本部品は、図2のブロック図に示されている。図において、質量分析システム20は、サンプル源ユニット25と、イオナイザ/イオン注射器30と、イオン選択ユニット35と、イオン検出回路40とを有する。質量分析器20の部品は、1または2以上のプログラム化制御システム45によって自動操作される。この目的のため、制御システム45を用いて、1または2以上の以下の自動化タスクを実行しても良い:
a)イオナイザ/イオン注射器30の1または2以上の成分のイオン化およびイオン注入パラーメータの制御(すなわちイオンビーム焦点化、イオン選択ユニット35へのイオンビーム入射角、イオン注射タイミング、イオン化エネルギー、イオン速度等);
b)イオン選択ユニット35内の電場パラメータの制御;
c)イオン検出回路40の制御;
d)ユーザーへの提示のため、ならびに/またはその後のデータ処理および/もしくはデータ解析のための、質量分析器20から受信したデータの解析。
【0008】
1または2以上の自動化タスクを実行するために使用されるパラメータは、例えば操作者によって、ユーザーインターフェース50を介して制御システム45に入力されても良い。さらに、ユーザーインターフェース50は、システムの監視目的等のため、操作者に対する情報表示に使用されても良い。そのような場合、ユーザーインターフェース50は、キーボード、ディスプレイ、スイッチ、ランプ、タッチ式ディスプレイ、プリンタまたはこれらの部品のいかなる組合わせを含んでも良い。
【0009】
図2を参照すると、サンプル源ユニット25によって、システム20には被分析試料が提供される。サンプル源ユニット25は、単一のサンプル出口を有しても、複数のサンプル出口を有していても良い(図の実施例では、単一のサンプル出口が示されている)。また、サンプル源ユニット25は、単一の試料タイプ、または複数の一連の試料タイプを提供するように構成されても良い。
【0010】
サンプル源ユニット25からのサンプル試料は、イオナイザ/イオン注射器30の入力側に提供される。サンプル源ユニット25は、いくつかの方法で、サンプル試料(検体を含む)をイオナイザ/イオン注射器30に導入するが、最も普遍的なものは、直接挿入用プローブを使用する方法、またはキャピラリ状コラムを通じて投入する方法である。このように、イオナイザ/イオン注射器30は、サンプル源ユニット25の出力から提供されるどんな形態のサンプルでも、直接接続できるように適合される。例えば、イオナイザ/イオン注射器30は、ガスクロマトグラフィー装置、液体クロマトグラフィー装置および/またはキャピラリ式電気泳動装置の出力側と、直接接続できるように適合される。サンプル源ユニット25からイオナイザ/イオン注射器30に提供される前の、サンプル試料の処理は、特定の分析仕様によって左右されることを認識する必要がある。
【0011】
サンプル源ユニット25からのサンプルの受容の際に、イオナイザ/イオン注射器30は、受容サンプルに含まれる検体分子をイオン化して、イオン化された検体分子を、直接的または間接的にイオン選択ユニット35に注入するように作動する。イオン化および注射には、短く正確に定められたイオン化時間、および小さなイオン化領域を提供するパルスイオン化技術を用いることが好ましいが、多くの技術のうちのいかなる技術を利用しても良い。例えば、凝縮相からのサンプル試料を気相にイオン化して輸送する方法は、マトリクス支援レーザー脱離/イオン化法(MALDI)として知られている。別の技術は、高速原子/イオン衝撃法として知られるものであり、この方法では、Xe原子、Cs+イオン、または巨大グリセロールNH4クラスターの高エネルギービームを使用して、サンプル源ユニット25から受容されたサンプルとマトリクスをスパッタする。通常の場合、マトリクスは、サンプルが溶解した不揮発性溶媒である。図2の概略図では、イオナイザ/イオン注射器30は、単一のブロックで示されているが、これらの過程は、単一の一体化ユニットで、または2もしくは3以上の別個のユニットで実行しても良いことに留意する必要がある。
【0012】
イオナイザ/イオン注射器ユニット30によって実行される、イオン選択ユニット35に検体を導入するさらに別の方法は、電気スプレーによるイオン化である。基本的な電気スプレー式イオナイザ/イオン注射ユニット30の一実施例は、図3に示されている。図に示すように、イオナイザ/イオン注射器ユニット30は、導電性キャピラリ先端55を有するキャピラリ状チューブで構成され、導電性キャピラリ先端55を介して、イオン化されイオン選択ユニット35に注入されるサンプル液60が提供される。通常サンプル液60は、サンプル検体を含む溶媒を含んでいる。キャピラリ先端55の反対の側には、対極65が設置され、これらの間には、電源70によって電場が構成される。
【0013】
作動時には、導電性キャピラリ先端55が溶媒およびサンプル検体を酸化し、この結果、対極65の方に引き寄せられた液体メニスカスが生じる。メニスカスの先端に出現した小さな液滴は、対極65の方に向かって泳動する。電場の影響の下、液滴が対極65に向かう途中で溶媒が揮発し、これにより、イオン化検体からなる帯電された気体イオン75のみが残留する。これらの多数の帯電気体イオン75は、対極65のオリリフィス80を通って加速され、これらは、集束レンズ85によって、狭小幅のイオンビーム90に集束される。集束レンズ85は、イオン選択ユニット35に、不連続な状態で狭小幅のイオンビーム90を提供するように制御されることが好ましく、イオンは、このイオン選択ユニット35で、質量対電荷比に基づいて相互に分離される。
【0014】
イオン選択ユニット35は、電場内での帯電粒子の動きに基づいて、所定の質量対電荷比のイオンを選択する。本例の場合、帯電粒子は、イオナイザ/イオン注射器ユニット30から受容された、1または2以上の正味の電荷を有するイオン化分子である。イオン電荷は、正であっても負であっても良い。装置に導入されたイオンは、これらのイオンの質量対電荷値によって、フィルタ化される。イオン選択過程中に、選択された質量対電荷比を有するイオンの軌道が安定になり、選択された質量対電荷比を有さないイオンの軌道が不安定となるように、イオン選択ユニット35の調整パラーメータが設置されている場合、特定の質量対電荷比のイオンが検出される。
【0015】
本発明の一実施例により構成されたイオン選択ユニット35は、図4乃至7に示されている。通常の状態では、イオン選択ユニット35は、一つの外部電極95と、複数の内部電極100、105、110および115とで構成される。図の実施例では、外部電極95にイオン導入口120が設けられており、イオナイザ/イオン注射器30からのイオンビームバースト90がここに入射される。以降に詳細を示すように、イオナイザ/イオン注射器30およびイオン導入口120は、相互に対して、外部電極95と内部電極110乃至115の間の侵入領域130に定形された、安定なイオン軌道経路125の接線に沿って、イオンビームバースト90が誘導されるような方向を向いている。イオンは、長手方向の軸135に沿った速度成分が無視できる状態で、侵入領域130に導入されることが好ましい。これにより、装置操作の間、イオンが、長手方向の軸135に沿った所定の境界内に留まるようになり、イオンの軌道周波数に基づいて選択操作を行うことが可能となる。また、侵入領域130内に電場が生じるように、1または2以上の集束電極(図示されていない)が使用されても良く、これにより浮遊イオンの動きがそのような所定の境界に限定される。
【0016】
図5乃至7に一例を示すように、外部電極95は、電極内表面140を有しても良く、この内表面は略円筒状である。内部電極100、105、110および115は、それぞれ、電極外表面145、150、155および160を有し、これらの表面は、電極内表面140と同軸上にある。電極内表面140と、電極外表面145、150、155および160とは、金属露出表面であることが好ましいが、誘電体等でコーティングされた金属表面の形態であっても良い。
【0017】
ある意味では、内部電極100および105と、これに対応する電極外表面145および150とは、長手方向に沿った、1または2以上の弓形の開口を有する、単一の円筒状電極と見なすことができる。電極110および115と、これに対応する電極表面155および160は、これらの弓形の開口内に設置され、実質的にこれらの開口と同一の広がりを持つ。本実施例では、そのような2つの弓形の開口を用いることが示されているが、以下に示す記載から、要求される設計仕様に応じて、単一の弓形開口またはより多くの弓形開口と、対応電極表面とが使用されても良いことに留意する必要がある。電極表面155および160は、相互に軸135の周囲の反対側に設置され、弓形の全長は、電極表面145および150よりも短い。電極表面145および150は、必要であれば、共通の電気的交点を形成するように構成しても良く(この場合も、設計仕様に依存する)、残りの電極表面は、それらが相互に電気的に絶縁されるように構成することが好ましい。
【0018】
イオン選択ユニット35の動作は、図8乃至12に示されているユニットの断面図を参照することにより、理解することができる。図に示すように、イオナイザ/イオン注射器30からイオン導入口120を介して提供されたイオンは、最初に、同軸上の電極配置によって形成された侵入領域130内の、安定な環状軌道経路125の方に誘導される。この初期の安定な環状軌道は、軸135の周囲であって、電極内表面140と電極外表面145、150、155および160の間の領域に、実質的に均一な静電場を発生させることによって、得ることができる。イオンの速度エネルギーと、この静電場の強度によって、各イオンの正確な軌道が定まる。イオンの速度エネルギーと静電場の強度の均衡が保たれている場合、イオンは、一例として125で示されているような安定な環状軌道内で加速され、何時までも軸135の周囲の軌道に残る。通常の場合、静電場に誘導され、イオン選択ユニット35に導入された全てのイオンは、個々のイオンの質量または質量対電荷比に関わらず、実質的に同一の軌道を示すようになる。質量対電荷比の小さなイオンは、質量対電荷比の大きなイオンよりも速く軌道を周回するが、その軌道はほぼ等しくなる。ただし、異なる質量対電荷比を有するイオンは、異なる角速度で軸135の周囲を移動し、独自の識別し得る軌道周期を有する。同等の質量対電荷比を有するイオンは、同じ速度で移動し、同じ軌道周期を有する。イオン選択ユニット35内でのイオン選択は、このような現象を利用することにより行われる。
【0019】
イオン選択ユニット35を操作する一つの方法では、電極95、100、105、110および115が電源に接続され、各電極それぞれに、電位が選択的に印加され、侵入領域130に所望の電場状態が構築される。電極内表面140をアース電位とし、電極外表面145、150および160には、相互に同時に、同等の電位であって、電極内表面140の値とは異なる電位を設置することにより、実質的に均一な電場を生じさせることが好ましい。イオン注入過程の間、電極表面155は、まずアース電位に維持される。イオン導入口120を介してイオン選択ユニット35に導入されたイオンは、均一電場領域に侵入する前に、侵入領域130の残留部分に存在する、短い無電場領域170を通って移動することになる。この方法では、侵入イオンは、いかなる電場の影響力も受けずに、電場の生じる電極表面140と145の間の領域に到達する。この構成では、電場内の所望の位置に、イオンを導入することが可能となると同時に、イオンが電極表面に衝突することを回避することが可能となる。一旦イオンが、電極表面140と145の間の通常の均一な電場に侵入すると、各イオンが描く軌道は、電場の接線方向となる。この最初の状態では、図8に示すように、全ての質量対電荷比のイオンが、軸135の周囲の安定な循環軌道に誘導される。
【0020】
イオンが電極表面140と155の間を通り、軸135の周囲の軌道を1周する前に、電極表面155は、電極表面145、150および160と同じ電位にされ、イオンは、その軌道内で、摂動を受けることはなく、侵入領域130内で周回し続けることになる。従って、進入時間間隔は、選択されたイオンの軌道周期によって定められる。この目的のため、電極表面155の電位は、選択された質量対電荷比のイオンが、電極表面140と155の間の領域に進入して、その1周期を完全に終える前の初期の状態に対して、変化させる必要がある。進入時間を、選択された質量対電荷比のイオンの最大進入時間間隔に設定した場合、電極表面155の電位が電場の連続化に必要な電位に到達する前に、高速で移動するイオン(すなわち、選択された質量対電荷比のイオンよりも低い質量対電荷比を有するイオン)は、電極表面140と155の間の領域に到達する。この結果、通常これらの未選択イオンは、いずれかの電極に衝突する。一旦全ての4つの電極外表面145、150、155および160が同等の電位になると、内部電極100、105、110および115は、連続電極として働くようになり、軸135の周囲の電場が侵入領域130全体にわたって略均一となる。
【0021】
質量対電荷比によるイオンの選択は、電極外表面155および160の電位を制御することによって行われる。通常の状態では、電極110および115は、不安定電極として機能し、未選択の質量対電荷比を有するイオンの周回軌道を不安定にする。より具体的には、電極表面155および160は、軸135の周囲の領域130の電場を連続化するために必要な電圧(以降、Vcontと言い、これは、設計要求仕様に応じて、正または負の電位を表す)と、アース電位(すなわち、外部電極95と同等の電位)の間で循環される一方、電極外表面145および150は、Vcontに維持される。電極外表面155および160に印加される循環電位は、相互に位相がずれていても良い。例えば、電極外表面155がVcontのとき、電極外表面160は、アース電位に設定され、逆も同様である。電圧は、電極表面155および160に、切り替え式直流電圧波形を印加することによって循環させることが好ましい。循環速度は、選択された質量対電荷比を有するイオンの軌道周期と一致するように調節される。イオン選択は、イオンが電極外表面155および160と近接する侵入領域130の部分を通過する際に生じる。電圧循環のタイミングは、対応する電極表面がVcontのとき、選択された質量対電荷比を有するイオンが、常時上記の侵入領域を通過するように設定される。選択されたイオンは、その軌道内で摂動を受けることはなく、軸135の周囲の循環軌道を連続的に周回する。他の質量対電荷比を有する全てのイオンは、電極110および115への電圧波形の周波数に対して、位相がずれた状態で周回する。その結果、未選択の質量対電荷比を有するイオンは、電極110および115がアース電位になっている状態で、電極110および115のいずれかまたは両方を通過する。このようなことが生じた場合、未選択イオンは、その軌道内で摂動を受ける。従って、侵入領域130を通るこれらの軌道は、不安定となり、イオンは、いずれかの電極表面に衝突する。
【0022】
図の実施例では、2つの電極110および115には、位相のずれた電圧波形が印加され、未選択の質量対電荷比を有するイオンの軌道が不安定になるように示されているが、単一の不安定化電極または複数の不安定化電極のいずれを使用しても良いことに留意する必要がある。ただし、位相のずれた2つの電極110および115を使用する場合、ユニット35の選択性が向上する。選択されたイオンの軌道周期の1/2乗に対応する軌道周期を有する、未選択のイオンの軌道を不安定にさせるには、位相のずれた少なくとも2つの電極が必要となる。
そのような未選択イオンは、選択されたイオンの軌道周期の1/2、1/4、1/8等の周期を有する。これらの関係は、以下の式で表される:
va=(2QVa/m)1/2
ここで、vaは加速後のイオンの速度、Qはイオンの電荷、Vaは加速電圧、mはイオン質量である。例えば、選択された値の4倍の質量対電荷比を有するイオンは、選択された質量対電荷比を有するイオンの半分の角速度で移動するため、選択されたイオンの周期の1/2で周回する。16倍の質量対電荷比を有するイオンは、選択された質量対電荷比を有するイオンの1/4倍の軌道周期を有する、等である。単一の不安定化電極を使用した場合、これらの関係にあるイオンは、安定な軌道に沿って移動する。これらのイオンは、常時、電極110および115がVcontになっているときに、これらの電極を通過するためである。図の実施例では、第1の不安定化電極からちょうど180度の位置に、位相のずれた第2の不安定化電極が設置されているため、選択されたイオンの軌道周期と前述の比で周回するイオンは、不安定化電極のいずれかがアース電位となっているときに、その不安定化電極のいずれかを通過する。第1の不安定化電極から180度の位置に設置された、位相がずれた第2の不安定化電極によって、各選択された質量対電荷比に独自の条件が成立するようになり、両電極がVcontのとき、選択されたイオンのみが両方の不安定化電極を通過することが可能となり、これにより軸135の周囲に安定な軌道が残る。未選択の質量対電荷比を有するイオンの軌道の不安定化は、図9および10に示されている。そのような不安定化イオンは、これらの図の符号175で示すように、外部電極95の電極内表面140に衝突する。
【0023】
図11に符号180で示すように、選択された質量対電荷比を有するイオンのみが、最終的に、軸135の周囲の安定な軌道に残留する。これらのイオンが検出に利用される。このため、接続されたイオン検出回路40によって、未選択の質量対電荷比のイオンが軌道から除去されてから、イオン選択ユニット35に残留するイオンがカウント/検出される。この検出は、多数の異なる方法で行うことができる。例えば、選択された質量対電荷比のイオンのみが領域130内の軌道に残存した状態で、内部電極100、105、110および115の全ての電圧をアース電位にし、残留イオンの軌道を不安定化させて、これらのイオンを外部電極95の電極内表面140に衝突させる方法が利用される。選択された質量対電荷比を有するイオンの不安定化は、図12に示されている。
【0024】
図12に示すように、選択された質量対電荷比を有し、不安定となったイオンが、イオン検出回路40によって検出される。必要であれば、外部電極95を、イオン検出回路40の一部として機能させても良い。選択された質量対電荷比を有するイオンが電極95に衝突した際、これらのイオンによって、電極上には一時的な電流および/または電荷が誘起される。イオン検出回路40の残りの部分によって、この一時的な電流および/もしくは電荷が検出され、ならびに/またはカウントされる。
【0025】
侵入領域130にイオン群を収容し、選択された質量対電荷比を有するイオンの固有の軌道周期に対応するように、不安定化電極110および115に印加される電圧波形の周波数を選定し、未選択の質量対電荷比を有する不安定イオンが軌道から除去されることを待って、さらに残留イオンを検出/カウントすることにより、サンプルの完全な質量スペクトルが得られる。この手順は、関心領域内の各質量対電荷比に対して、繰り返される。このようなタイプの分析の速度は、イオン速度によって決まり、大きな角速度を有するイオンの場合、迅速な分析が可能となる。このタイプのシステムの処理能力を向上させるため、複数のイオン選択ユニット35を並列に配置し、関心のある質量対電荷比の異なる範囲で、同時に処理を行っても良い。あるいは極めて迅速な処理が必要な場合、別の方法として、3つ以上の不安定化電極を有するイオン選択ユニットを使用して、イオン選択を高速化しても良い。そのような構成に使用される電圧波形の振動は、侵入領域130内の選択されたイオンが、それらの周回速度でそれらのイオンの軌道を通るように、タイミングが調整される。未選択の質量対電荷比を有する他の全てのイオンは、選択された質量対電荷比を有するイオンとは異なる速度で移動し、位相のずれた軌道周期を有するため、軌道からほぼ瞬間的に除去される。イオン選択ユニット35は、電極がアース電位にあるとき、未選択の質量対電荷比を有するイオンが、常時この電極を通過するように構成される。そのような例では、各内部電極のアーク長さは、より短くなる。結果的に、イオン導入口の近傍の2以上の内部電極が、イオン導入時にオフにされ、電場の所望の位置にイオンを導入する間、電場のない領域を形成することが可能となる。
【0026】
イオン選択ユニット35は、直流電源および切り替え式直流電源のみの使用により、イオン選択が行われるように構成されても良い。従って必要な場合、イオン選択は、別の電場におけるイオンの加速度ではなく、イオン速度に基づいて行われる。これにより、イオン選択ユニットの複雑さが低減し、簡単に操作することが可能となり、他の多くのマスフィルターの構成に比べて、製造コストが抑制される。さらに、一連のイオントラップの後、イオン選定が行われるため、イオン選定ユニットの感度が向上すると考えられる。
【0027】
前述のシステムに対して、基本的な思想から逸脱せずに、多くの変更を行うことが可能である。1または2以上の特定の実施例を参照して、本発明についてある程度詳細に示したが、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の範囲および思想から逸脱しないで、変更を行うことができることは、当業者には明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】従来のイオントラップ質量分析器の概略図を示した図である。
【図2】本発明の思想に一致するように構成された、質量分析システムの一実施例の概略ブロック図である。
【図3】図2の質量分析システムに使用される、電気スプレー機器の一実施例を示す図である。
【図4】図2の質量分析システムに使用される、イオン選択ユニットの一実施例を示す図である。
【図5】図2の質量分析システムに使用される、イオン選択ユニットの一実施例を示す図である。
【図6】図2の質量分析システムに使用される、イオン選択ユニットの一実施例を示す図である。
【図7】図2の質量分析システムに使用される、イオン選択ユニットの一実施例を示す図である。
【図8】イオン選択の過程を示すための、図4乃至7に示すイオン選択ユニットの断面図である。
【図9】イオン選択の過程を示すための、図4乃至7に示すイオン選択ユニットの断面図である。
【図10】イオン選択の過程を示すための、図4乃至7に示すイオン選択ユニットの断面図である。
【図11】イオン選択の過程を示すための、図4乃至7に示すイオン選択ユニットの断面図である。
【図12】イオン選択の過程を示すための、図4乃至7に示すイオン選択ユニットの断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析用の複数のイオンを提供するように適合されたイオン注射器と、
該イオン注射器からの複数のイオンを受容するように適合されたイオン選択室と、
を有する質量分析システムであって、
前記イオン選択室は、
一つの外部電極、および
複数の内部電極
を有し、複数のイオンは、前記イオン注射器から、外部電極と複数の内部電極の間の侵入領域に受容され、
当該質量分析システムは、さらに、
イオン選択室の前記電極に接続され、前記複数の内部電極の少なくとも一つに、振動電圧を印加するように適合された電源システムを有し、
前記侵入領域を通る前記複数のイオンの軌道周期に基づいて、未選択の質量対電荷比のイオンから、選択された質量対電荷比のイオンを分離することが可能な質量分析システム。
【請求項2】
前記電源システムは、最初に前記複数のイオンを、前記侵入領域内の安定な軌道に誘導するように作動することを特徴とする請求項1に記載の質量分析システム。
【請求項3】
前記電源システムによって印加される前記振動電圧は、未選択の質量対電荷比のイオンの周回軌道を不安定にするとともに、前記選択された質量対電荷比のイオンを安定な周回軌道に維持することを特徴とする請求項2に記載の質量分析システム。
【請求項4】
前記電源システムによって印加される前記振動電圧は、未選択の質量対電荷比のイオンの軌道を不安定にした後、選択された質量対電荷比のイオンの軌道を不安定にするように変化することを特徴とする請求項3に記載の質量分析システム。
【請求項5】
さらに、選択された質量対電荷比のイオンを検出するように設置されたイオン検出器を有することを特徴とする請求項4に記載の質量分析システム。
【請求項6】
前記イオン検出器は、前記外部電極を有することを特徴とする請求項5に記載の質量分析システム。
【請求項7】
前記振動電圧は、直流切り替え式電圧であることを特徴とする請求項1に記載の質量分析システム。
【請求項8】
前記振動電圧は、直流切り替え式電圧であることを特徴とする請求項4に記載の質量分析システム。
【請求項9】
前記複数の内部電極は、
全長に沿って設置された、少なくとも一つの弓形隙間を有する略円筒状の第1の内部電極と、
該第1の内部電極の前記弓形隙間と略同一の広がりで延伸する第2の内部電極と、
を有し、
第1および第2の内部電極は、前記外部電極と協働して、前記外部電極と前記内部電極の間の侵入領域に、実質的に環状のイオン軌道経路を形成することを特徴とする請求項1に記載の質量分析システム。
【請求項10】
前記振動電圧は、直流切り替え式電圧であることを特徴とする請求項9に記載の質量分析システム。
【請求項11】
前記複数の内部電極は、
長手方向に沿って、相互に対向して設置された第1および第2の弓形隙間を有する、略円筒状の第1の内部電極と、
該第1の弓形隙間と略同一の広がりで延伸する第2の内部電極と、
前記第2の弓形隙間と略同一の広がりで延伸する第3の内部電極と、
を有し、
第1、第2および第3の内部電極は、前記外部電極と協働して、前記外部電極と前記内部電極の間の侵入領域に、実質的に環状のイオン軌道経路を形成することを特徴とする請求項1に記載の質量分析システム。
【請求項12】
質量分析システムに使用されるイオン選択機器であって、
円筒状の電極内表面を有する第1の電極と、
該第1の電極の前記電極内表面と対向するように、前記第1の電極の前記電極内表面と同軸上に設置された電極外表面を有する第2の電極であって、該第2の電極の電極外表面は、長手方向に沿って、少なくとも一つの弓形隙間を有する略円筒状である、第2の電極と、
前記第1の電極の前記電極内表面と対向するように、前記第1の電極の前記電極内表面と同軸上に設置された電極外表面を有する第3の電極であって、該第3の電極の電極外表面は、前記第2の電極の前記弓形隙間と略同一の広がりを有する、第3の電極と、
前記第1、第2および第3の電極に接続された電源システムであって、前記第1の電極の前記電極内表面と、前記第2の電極の前記電極外表面の間に、直流電圧を印加し、前記第1の電極の前記電極内表面と、前記第3の電極の前記電極外表面の間に、切り替え式直流電圧を印加する電源システムと、
を有するイオン選択機器。
【請求項13】
質量分析システム内で、所定の質量対電荷比のイオンを検出する方法であって、
分析用の複数のイオンを発生させるステップと、
実質的に均一な電場内の安定なイオン軌道に、複数のイオンを誘導するステップと、
前記実質的に均一な電場に摂動を生じさせ、前記所定の質量対電荷比のイオンのみを、前記電場内の安定な軌道に残留させるステップと、
を有するイオンを検出する方法。
【請求項14】
さらに、前記実質的に均一な電場を変化させるステップを有し、前記所定の質量対電荷比の前記イオンが、前記安定な軌道に残留することを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
さらに、前記安定な軌道に残留した前記イオンを用いて、前記所定の質量対電荷比の前記イオンを検出するステップを有することを特徴とする請求項14に記載のイオンを検出する方法。
【請求項16】
前記摂動は、周期的であることを特徴とする請求項13に記載のイオンを検出する方法。
【請求項17】
前記摂動は、前記略均一な電場の発生に使用される1または2以上の電極に印加された、切り替え式直流電圧信号によって生じることを特徴とする請求項13に記載のイオンを検出する方法。
【請求項18】
前記安定な軌道は、実質的に環状であることを特徴とする請求項13に記載のイオンを検出する方法。
【請求項19】
質量分析システム内で、所定の質量対電荷比のイオンを検出する方法であって、
分析用の複数のイオンを発生させるステップと、
同軸上の電極配置内に形成された侵入領域に、複数のイオンを誘導するステップであって、前記同軸上の電極配置は、略円筒状の内部領域を有する外部電極、および該外部電極の内部領域に、略円筒状に配置された複数の内部電極を有する、ステップと、
前記同軸上の電極配置に電力を供給して、前記内部領域に略均一な電場を発生させ、これにより、前記複数のイオンを、前記侵入領域内の実質的に安定な軌道に誘導するステップと、
前記同軸上の電極配置に対する前記電力を変化させて、前記実質的に均一な電場に摂動を発生させ、これにより、前記所定の質量対電荷比のイオンのみを、前記電場内の安定な軌道に残留させるステップと、
を有するイオンを検出する方法。
【請求項20】
さらに、
前記同軸上の電極配置に対する前記電力をさらに変化させることにより、前記実質的に均一な電場を変化させ、前記所定の質量対電荷比のイオンを、前記安定な軌道に残留させるステップと、
前記所定の質量対電荷比の前記イオンを検出するステップと、
を有することを特徴とする請求項19に記載のイオンを検出する方法。
【請求項21】
前記イオンを検出するステップは、前記安定な軌道に残留させるステップの後に、前記所定の質量対電荷比の前記イオンを、前記外部電極の内部領域に接触させて、前記所定の質量対電荷比の前記イオンを検出するステップを有することを特徴とする請求項20に記載のイオンを検出する方法。
【請求項22】
前記安定な軌道は、実質的に環状であることを特徴とする請求項19に記載のイオンを検出する方法。
【請求項23】
前記安定な軌道は、実質的に環状であることを特徴とする請求項21に記載のイオンを検出する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2007−528577(P2007−528577A)
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539884(P2006−539884)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/037749
【国際公開番号】WO2005/048292
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(506159404)ベックマン クールター インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】