説明

改良型子宮頸部細胞スクリーニング方法

HPV(ヒト乳頭腫ウイルス)の組み込みを検出するための分子ベースのプロセスを提供する、改良型子宮頸癌スクリーニング方法である。当該開示された方法は、パパニコロー検査と免疫組織化学検査とを同じスライド上で行う、能率化された手法を可能にする。当該開示された方法は、安価で、感度が高く、特異的で詳細な、かつ、評価と追跡が簡単な検査を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は概して、身体、たとえば子宮頸部の、異常な組織の検出に使用するための、細胞のサンプリング、処理、およびスクリーニングに関する。当該開示は特に、(1)採取された細胞または細胞クラスターが、それらの生物学的特性が検査できるように調製され、(2)ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)が宿主DNAに組み込まれているこれら細胞が、HPV組み込みマーカーで検出されるようにする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)は侵襲性子宮頸癌および子宮頸部上皮内腫瘍の前駆体として広く研究されている。子宮頸癌は世界全体で見れば二番目に多い癌であり、発展途上国においては最も多い悪性腫瘍である。
【0003】
子宮頸癌スクリーニングは、通常、細胞診と膣鏡診の分析に基づいて行われる。一般的に使用されている、子宮頸部の塗抹標本の細胞診(パパニコロー検査、パップ塗抹標本検査)によって、子宮頸癌の発生率と、子宮頸癌が原因の死亡率とが減少した。しかし、パップ塗抹標本検査を使用することには問題もある。従来のパップ塗抹標本検査の限界の一つに、細胞を移してもそれが細胞を正しく代表しない、ということがある。また、異物によって異常な細胞がわかりにくくなり、かかる従来の方法では、偽陰性結果または曖昧な結果が出たりすることが増加しかねない。
【0004】
パパニコロー検査の形態はどれも、高度な前駆病変をスクリーニングすることに焦点を置き、これら前駆体が侵襲性の癌へ進行する前に治療が開始できるようにしている。前癌性病変および癌性病変について細胞学的ならびに生物学的に区別可能な等級の様子を効果的に区別し、伝えるために、子宮頸部細胞診報告のためのベセズダシステム(Bethesda System for Reporting Cervical Cytology)では、扁平上皮細胞異常を特徴付ける6つの分類を推奨した。前記6分類とは、(1)意義不明異型扁平上皮(ASCUS)、(2)高度扁平上皮病変を除外できない異型扁平上皮(ASC-H)、(3)軽度扁平上皮内病変(LSIL)、(4)高度扁平上皮内病変(HSIL)、(5)扁平上皮癌(SCC)、および(6)正常、である。このシステム下で、HSILはさらに、「HSIL(中程度異形成、CIN II)」または「HSIL(重度異形成、CIN III)」に分類されてもよい。ASC-H、LSIL、HSIL、およびSCCの追跡検査として、膣鏡検査、および可能であれば生検が推奨され、ASCUSにはHPV検査が推奨される。
【0005】
<HPV病原>
HPVのタイプは数多くある(>100)が、そのうちのいくつかだけが性器親和性である。子宮頸癌で選択的に検出されるHPVのタイプは、ハイリスクタイプと分類され、それに対し、非悪性病変に主に検出されるものは、ローリスクタイプと指定されてきた。ハイリスクHPV−DNAの宿主ゲノムへの組み込みは、HPV病原において重要な役割を果たす。HPVによって発現する遺伝子は、初期(E)および後期(L)発現遺伝子に分かれる。この組み込みは、E2ウィルス遺伝子の特異的破壊、および、E1、E4、およびE5遺伝子で開始されるその他のE遺伝子の転写と翻訳という結果になる。前記E2タンパク質はE6およびE7ウィルス癌遺伝子の転写を通常、負に制御し、E2が発現しないと、子宮頸癌細胞における前記E6およびE7遺伝子の無秩序な発現が起こる。
【0006】
これら腫瘍性タンパク質は、主にタンパク質―タンパク質間の相互作用を介して機能して、細胞周期の進行と増殖とを調整する経路を破壊する。E6は、タンパク質分解酵素による分解のためのp53を標的とし、結果的にp53の転写経路を破壊し、通常p53によって抑制される数々の遺伝子のアップレギュレーションが起こる。前記E7遺伝子生成物は、網膜芽細胞腫(Rb)遺伝子に対して同様の効果を有する。
【0007】
<HPV検査>
HPV感染のほとんどの場合、治療とは無関係に退行するというのが、HPVの自然な経過である。HPVの組み込みの進行には、ハイリスクHPVタイプの持続が必要である。患者のうちで、かかる進行が起こる割合は小さい。したがって、HPV組み込みについて高い感度を持つスクリーニングテストが、早期診断および治療には望ましい。
【0008】
HPV検査で難しいのは、パパニコロー検査でASCUSと判断された女性である。ASCUSの場合に現在推奨されているのは、その患者がもし30歳以上であれば、HPV−DNAの有無についての検査を受けさせることである。HPVは数種の検査で検出できる。臨床用の設定の、もっともよく使用されている検査は、ダイジーン(Digene)Hc2検査であり、これはスタンダードキットとして入手可能である。この検査は、乳頭腫ウイルスの特定のタイプの判定を含み、従来の細胞学的スクリーニング手順の代りに使用するか、または、それに加えて使用することが推奨されている。
【0009】
Digene Hc2検査の欠点の一つは、ハイブリダイゼーション法によってウイルスのDNAの存在を同定するのみであることである。ほとんどの患者ではHPV感染が女性のゲノムに組み込まれることなく維持されているので、Digene Hc2検査が陽性であることは、ウィルスが存在するかどうかを臨床医に知らせるのみである。すなわち、前記検査は、ウィルスが実際に女性のゲノムに組み込まれているかどうかを示すわけではない。当然、臨床医がDigene Hc2検査から陽性の結果を得たとしても、癌細胞が本当に有るかどうかについての断定的な答えを出すことはできない。さらに、Digene Hc2検査は、複雑で時間がかかり、手間がかかり、高価である。
【0010】
今までのところ、HPV感染用の治療はない。そのため、HPV感染の診断を受けた患者は、パパニコロー検査で癌の有無をモニターする回数を増やすだけであった。HPV組み込みについての検査が求められているのは明らかである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
改良型子宮頸癌スクリーニング方法は、最も早い段階で治療できる病変について、細胞試料をスクリーニングすることを含む。一実施形態において、これは、PAP染色および免疫組織化学検査の両方に単一の受付構造体を使用しうる、能率的な検査プロセスで達成され、感度と特異性を改善し、かつ、高価なHPV検査方法に代る低価格な代替手段を提供する。前記開示された方法は、HPVが女性のゲノムに組み込まれたかどうかを検出する、分子ベースのプロセスを提供する。
【0012】
一実施形態において、細胞クラスターまたは細胞集塊(clumps)を採取するために好適に設計された細胞収集器によって、試料が採取される。一例においては、前記細胞クラスターまたは細胞集塊は、子宮頸部の腔(cervical cavity)の360度全方向から採取される。別の例においては、細胞クラスターや細胞集塊が採取されるときに、細胞収集器が前記細胞クラスターや細胞集塊の空間的位置関係を維持し、前記細胞の子宮頸部組織との空間的位置関係、すなわち子宮頸管内膜、子宮膣部、および形質転換領域との関係、ならびに四分円関係を表す、円状の「子宮頸部マップ」を作るようにする。
【0013】
前記細胞が臨床医によって採取されると、例えばスライドなどの受付構造体へ移される。一実施形態においては、前記スライドはPAP染色される。一例において、もし前記結果が陽性であれば、同じスライドが今度は一つ以上のバイオマーカーを使用して免疫染色される。
【0014】
前記使用されるバイオマーカーは、HPV遺伝子タンパク質に対する抗体である。一例において、これらタンパク質は、HPVが患者のゲノムに組み込まれた場合にのみ検出される。例えば、免疫染色によって、HPVが患者のゲノムに組み込まれたかどうかを判定することができる。スライドが染色された後、前記スライドはスキャンされ、HPV初期(E)遺伝子生成物(HPV early (E) gene products)を識別する抗体の程度が判定される。
【0015】
さらに別の実施形態において、細胞が採取されて、たとえばスライドなどの受付構造体へ移された後、前記スライドはバイオマーカーを使用してまず免疫染色され、スキャンされる。その後、還流検査(reflux test)としてどの試料をPAP染色するかが決定される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1A〜1Cは、主要なハイリスクタイプのHPVのE1タンパク質の部分アミノ酸配列を示す。下線部配列は、開示された方法の一実施形態において診断抗体を生成するために用いられるポリペプチドの共通領域を示す。
【図2】図2は、主要なハイリスクタイプのHPVのE4タンパク質のアミノ酸配列を示す。下線部配列は、開示された方法の一実施形態において診断抗体を生成するために用いられるポリペプチドの共通領域を示す。
【図3】図3は、主要なハイリスクタイプのHPVのE5タンパク質のアミノ酸配列を示す。下線部配列は、開示された方法の一実施形態において診断抗体を生成するために用いられるポリペプチドの共通領域を示す。
【図4】図4Aおよび4Bは、主要なハイリスクタイプのHPVのE6タンパク質のアミノ酸配列を示す。下線部配列は、開示された方法の一実施形態において診断抗体を生成するために用いられるポリペプチドの共通領域を示す。
【図5】図5は、主要なハイリスクタイプのHPVのE7タンパク質のアミノ酸配列を示す。下線部配列は、開示された方法の一実施形態において診断抗体を生成するために用いられるポリペプチドの共通領域を示す。
【図6】図6は、HPVタイプ16のE6およびE7抗体で染色された子宮頸部細胞を示す。この染色は、子宮頸部細胞がHPV組み込みについて陰性であることを示す。
【図7】図7は、HPVタイプ16のE6およびE7抗体で染色された子宮頸部細胞を示す。この染色は、子宮頸部細胞がHPV組み込みについて陽性であることを示す。
【図8】図8は、HPVタイプ16のE6およびE7抗体で染色された子宮頸部細胞を示す。この染色は、子宮頸部細胞がHPV組み込みについて陰性であることを示す。
【図9】図9は、HPVタイプ16のE6およびE7抗体で染色された子宮頸部細胞を示す。この染色は、子宮頸部細胞がHPV組み込みについて陽性であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(概要)
改良型子宮頸癌スクリーニング方法は、HPV組み込みを検出するための、分子ベースのプロセスを提供する。前記開示された方法は、同じスライド上でパパニコロー検査と免疫組織化学検査とを行う、能率的な手法を可能にする。前記開示された方法は、安価な、感度の高い、特異的で詳細な、かつ、評価と追従が簡単な、検査を提供する。
【0018】
一般的に、前記方法は、細胞クラスターを採取する収集器の能力を改善し、スライドなどの受付構造体に採取された細胞クラスターを移すことを簡便にするように設計された収集器を使用して、細胞クラスターを採取する工程を含む。一例において、採集前の細胞クラスター中の細胞間に存在している空間的位置関係を維持するような手段で、細胞クラスターが収集器からスライドへ移動機構を使用して移される。
【0019】
一実施形態において、検査室は、スライドにPAP染色を行う。使用されるPAP染色方法の種類は特に限定されず、従来から使用されているPAP染色方法であってもよい。
【0020】
一例において前記方法は、前記検査が陰性であれば標準臨床ガイドラインに従うことを含む。前記検査が陽性であれば、前記スライドは、蛍光タグまたは比色タグ(colorimetric tag)と結合させた(conjugated)HPV組み込みマーカー用の抗体を使用して染色される。一例において、使用される前記HPV組み込みマーカーは、HPV遺伝子生成物(タンパク質)である。使用されるHPV遺伝子生成物の種類は特に限定されず、その例としてはE1、E4、E5、E6、およびE7タンパク質がある。使用される染色法およびマーカーは、HPV組み込みマーカーの免疫組織化学局在測定が可能である限り、特に限定されない。
【0021】
前記スライドはその後スキャンされる。使用されるスキャナーは特に限定されず、自動または手動スキャナー、または自動または手動顕微鏡であってもよい。前記スキャナーは、蛍光シグナルまたは色シグナルをスキャンして、HPV遺伝子生成物が子宮頸部細胞に存在するかどうかを識別するために使用される。
【0022】
(採取)
収集器は、細胞および細胞クラスターを採取するために使用される。前記収集器は、細胞および細胞クラスターを採取することが可能な収集器のいずれの形態でもよい。適切な収集器の例としては、公開米国特許出願US 2006/0189893号およびUS 2006/0161076号に記載され、この参照をもって前記出願の全てがここに包含される。使用されうる収集器のその他の詳細のうち、収集器の材料の組み合わせ、収集器の採取面の表面組織、採取中に収集器の伸長と回転の利用が、細胞クラスターの採取を簡便にする、と前記2つの公報は述べている。収集器は、子宮頸部の子宮頚管内膜領域および子宮膣部領域から細胞クラスターを採取する。
【0023】
(受付構造体)
受付構造体が使用される場合、使用される前記受付構造体は特に限定されない。適切な受付構造体の例としては、スライド、シャーレ、膜(membrane)や、そのほか、その後の分析のために細胞または細胞クラスターを移すことが可能なその他の構造体などである。一例においては、前記受付構造体は、細胞および細胞クラスターが含まれている収集器の表面よりも大きい接着力を有し、前記収集器から前記受付構造体への細胞クラスターの移転を向上させている。前記受付構造体がスライドの場合、前記スライドは接着力が大きくなるコーティングで前処理されてもよい。適切なスライドの一例は、細胞のスライドへの接着を助けるポリ−L−リシン系コーティングを有する。
【0024】
別の実施形態において、受付構造体は使用されない。この例では、子宮頸部細胞は固定液に懸濁状態で採取され、受付構造体を介在しないで、懸濁された細胞に直接、免疫学的検査が行われる。
【0025】
(パパニコロー検査)
細胞クラスターがスライドなど適切な受付構造体に移されたら、従来のパパニコロー検査が行われる。この試験は、パパニコロー法に従ってスライドを染色し、ベセズダシステムにしたがって評価することを含む。前記細胞が正常と思われるなら、または萎縮、異形成、または炎症性変化を示していれば、細胞診は陰性と判断される。パップ塗抹が陽性なら、ASCUSか、それよりも悪いと判断される。
【0026】
別の実施形態では、前記開示された方法は、免疫染色によってHPV組み込み検査を行った後に、還流検査としてパパニコロー検査を行うことを含む。
【0027】
(免疫染色)
一例において、パパニコロー検査が陽性と確認されると、一種以上のHPV組み込みマーカーを使用して免疫染色が行われる。使用される前記免疫染色法は特に限定されない。例えば、直接または間接免疫染色が行われる。直接免疫染色が行われる場合、一次抗体に直接、検出系が共有結合するか、または結合する(conjugate)。使用される検出系は、蛍光体標識であっても、酵素基質標識であってもよい。
【0028】
蛍光体マーカーが使用される場合、プロトコルの一例は、スライドを洗浄し、ブロッキング溶液でブロッキングし、蛍光体標識が結合したHPV−組み込みマーカー特異的抗体で染色し、その後前記スライドを洗浄することを含む。前記スライドは、それから、蛍光顕微鏡で手動で読み取られるか、または自動蛍光スキャナーで読み取られる。前記スキャナーは、DNA中にHPVを組み込んだ細胞中のHPV組み込みマーカーを検出し位置を特定する。HPV組み込みマーカーの発現度数もまた、シグナルの定量的評価によって判定される。
【0029】
酵素基質標識が使用される場合、可視化でき生成位置からの拡散が最小限である生成物を生成する基質系を、酵素が有していなければならない。使用される前記組織化学的酵素は特に限定されず、たとえば、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、またはベータガラクトシダーゼのいずれであってもよい。このタイプの系のプロトコルの一例は、ブロッキング溶液でブロッキングし、組織化学酵素と結合したHPV組み込みマーカー特異的抗体とともにインキュベートし、スライドを洗浄し、基質で処理することを含む。前記基質は、クロモゲン基質であればよく、ジアミノベンジジン(DAB)、アミノエチルカルバゾール(AEC)、アルファナフトールピロニン、4−クロロ−1−ナフトール、パラフェニレンジアミンピロカテコール、fast red TR、fast blue BB、BCIPINBT、テトラゾリウムブルー、またはBCIのいずれかひとつであればよい。前記スライドはそれから、自動比色定量スキャナーで読み取られ、シグナルの輝度が定量的に評価される。または、標準的な顕微鏡を使用して、スライドを観察して分子マーカーの有無と細胞に何らかの形態変化があるかとの両方を確認する。
【0030】
間接的染色が使用された場合、プロトコルの一例は、HPV組み込みマーカーに特異的な標識されていない一次抗体とともにインキュベートし、洗浄し、組織化学的酵素標識と結合した二次抗体とともにインキュベートし、その後洗浄し検出することを含む。
【0031】
(免疫組織化学染色の定量評価)
マーカーの発現度数を定量的に評価する方法は、特に限定されない。免疫蛍光染色の場合、スキャンされる組織構造の画像は、例えばAnalyzeなどの画像分析ソフトウエアを使用して評価できる。前記ソフトウエアで、シグナルの密度を判定し、輝度と面積の積(brightness-area-product, BAP)を算出できる。前記BAPは、同じ染色条件下にあった同じ解剖学的領域における染色の強度を客観的に比較する手段を提供できる。BAPは、下記の式を使用して算出できる。
(範囲の画素輝度平均値 ― 範囲の最小輝度)((範囲の画素数)
比色タグが使用される場合、ワンチップCCD赤緑青(RGB)カラービデオカメラと標準的診断用顕微鏡とを使用して、スキャンされた画像がコンピュータのS−VHSポートへインポートされる。前記色シグナルを評価するために使用されるソフトウエアは、たとえばPhotoshopでもいいが、特に限定されない。もしPhotoshopが使用されるなら、前記シグナルは、たとえばHistogramコマンドを使用して、自動化された画像操作のためのベースとして色調分布を測定することで定量される。この特徴は、たとえばクロモゲンなど、使用される特定の基質について空間的情報が得られるようにし、全画像に対する百分率、または(m2であらわすことができる。
【0032】
さらに別の実施形態においては、前記比色タグは陽性の細胞のパーセントを数えることによって定量化してもよい。
【0033】
(HPV組み込みマーカー)
一実施形態において、開示された方法に使用される抗体は、HPV組み込みマーカーに特異的である。ここで「HPV組み込みマーカーに対して特異的な抗体」とは、HPV組み込みによる遺伝子生成物のエピトープなど、HPV遺伝子のタンパク質生成物のエピトープに対する特異的な抗体を意味し、その例としては、たとえば、E1、E4、E5、E6、および/またはE7があるが、これらには限定されない。ここで「エピトープ」という用語は、Bおよび/またはT細胞が応答する抗原上の部位のことを言う。前記抗原は、ポリペプチドまたはタンパク質生成物であってもよい。前記部位はポリペプチドであってもよい。一例において、エピトープは、抗原であってもよく、HPV組み込みマーカーのポリペプチドを指してもよい。
【0034】
一つのタンパク質またはポリペプチドのみに特異的である抗体が求められることが最も多いが、本発明の発明者らは、タンパク質ファミリーがハイリスクHPVタイプのいずれから来たものであれ、それを識別する抗体を使用することを目的としている。そのためには、本発明の発明者たちは、該当の各タンパク質においてハイリスクタイプのHPVが相互に共通する領域を選択した。図1A〜1Cは、E1タンパク質の高度に保全された領域を示す。図2は、E4タンパク質の高度に保全された領域を示す。図3は、E5タンパク質の高度に保全された領域を示す。図4Aおよび4Bは、E6タンパク質の高度に保全された領域を示す。図5は、E7タンパク質の高度に保全された領域を示す。
【0035】
(抗体の調製)
抗体は、先行技術文献に記載された、抗原混合物の接種と追加免疫用接種とによる標準的な免疫技術を使用して、たとえばマウスやウサギなどの適切な動物で産生できる。モノクローナルパネルの調製には、免疫された動物を殺して脾臓細胞を不朽化のために摘出し、所望の抗体を生成することが可能な細胞を得る。これら細胞からの上清液は、該当の抗体の存在についての最初の検査として、注入されたポリペプチドでスクリーニングされる。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
一例では、HPV−E1遺伝子を使用して、ポリペプチドに対する抗体が産生された。抗体を産生するために使用されるポリペプチドの特定の例を下記に示す。
HPVタイプ16の第202位:SNAKAMLAKFKELYGC(配列番号1)、
HPVタイプ18の第208位:NNKQGAMLAVFKDTYGC(配列番号2)、
HPVタイプ16の第293位:LSKLLCVSPMC(ACM)MMIEPPKLR(配列番号3)、
HPVタイプ18の第301位:LSTLLHVPETAMLIEPPKLR(配列番号4)、
HPVタイプ33、52、および58の第286位:LSSLLNIPQSQMLIQPPKLR(配列番号5)、
HPVタイプ16の第606位:DKNWKSFFSRTWC(配列番号6)、
HPVタイプ18の第613位:DKNWKCFFERTWC(配列番号7)、
HPVタイプ26、51、66、および73の第587位:NENWKAFFTKTWC(配列番号8)、
HPVタイプ16の第640位:CVSGQNTNTL(配列番号9)、
HPVタイプ18の第648位:CLRAGQNHRPL(配列番号10)、および
HPVタイプ26、31、33、39、45、51、52、58、および59の第620位:CSTGENIRSI(配列番号11)。
【0037】
別の例では、HPV−E4遺伝子を使用して、ポリペプチドに対する抗体が産生された。抗体を産生するために使用されるポリペプチドの特定の例を下記に示す。
HPVタイプ16の第44位:RRLSSDQD(配列番号12)、
HPVタイプ16の第79位:LTAHQTK(配列番号13)、
HPVタイプ16の第85位:DGLTVIVTL(配列番号14)。
【0038】
別の例では、HPV−E5遺伝子を使用して、ポリペプチドに対する抗体が産生された。抗体を産生するために使用されるポリペプチドの特定の例を下記に示す。
HPVタイプ52、58、および33の第5位:VFC(ACM)FILFLC(ACM)LC(配列番号15)、
HPVタイプ35の第15位:LC(ACM)FC(ACM)VLLC(ACM)LCL (配列番号16)、
HPVタイプ18の第30位:AYAWVLVFVYIVV(配列番号17)、
HPVタイプ51および69の第31位:PLLLSQYVFAAHLLLII(配列番号18)、
HPVタイプ16の第37位:STYTSLIOLV(配列番号19)、および
HPVタイプ73の第51位:FFLYVLVFYIF(配列番号20)。.
別の例では、HPV−E6遺伝子を使用して、ポリペプチドに対する抗体が産生された。抗体を産生するために使用されるポリペプチドの特定の例を下記に示す。
HPVタイプ16の第126位: LDKKRRFHNI(配列番号21)、LNEKKRFHNI (配列番号22)、LDKKQRFHNI(配列番号23)、
HPVタイプ16の第129位:KQRFHNIRGRWTGRC(配列番号24)、KRRFHNIAGRYTGQC(配列番号25)、およびNKRFHNIRGRWTGRC(配列番号26)。
【0039】
別の例では、HPV−E7遺伝子を使用して、ポリペプチドに対する抗体が産生された。抗体を産生するために使用されるポリペプチドの特定の例を下記に示す。
HPVタイプ16の第29位:DSSEENDEID(配列番号27)、
HPVタイプ16の第41位:PAGGA(配列番号28)、および
HPVタイプ16の第89位:VCPIC(配列番号29)。
【0040】
上記ポリペプチドは、一つの分析混合物中でハイリスクタイプのHPV全てを識別するために、それらに対する抗体が組み合わせられて使用できるように構成された。
【0041】
(実施例2)
開示された方法の一例は、子宮頸部細胞を固定し、室温、1000RPM、2分間の細胞遠心分離によって前記細胞をスライドに付着させ、pH6.0の0.01Mクエン酸緩衝液中で30分間前記スライドをインキュベートし、前記スライドをTBST(Tween20を含むトリス緩衝生理食塩水)中で5分間洗浄し、前記スライドを、正常コウシ胎児血清ブロッキング緩衝液(TBST中10%FCS)で10分間インキュベートし、1:50、1:75、または1:100の希釈倍率(最適な希釈倍率は各抗体ごとに異なる)で、希釈剤緩衝液(TBST中1FCS)で希釈した一次モノクローナルマウス抗体とともに一時間インキュベートし、TBST中で前記スライドを5分間洗浄し、HRP(セイヨウワサビペルオキシダーゼ)と結合させた二次ウサギ抗マウス抗体とともにインキュベートし、その後、HRP酵素用のDAB(ジアミノベンジジン色原体)基質とともに10分間インキュベートし、蒸留水の中で1分間前記スライドをすすぎ洗いし、乾かしたあと、DAPI核染色液1滴を加えることを含む。これにより、一次抗体と反応した抗原を含む細胞が、茶色に発色する。明視野顕微鏡で250個の細胞を数えることができ、染色された細胞のパーセンテージを判定する。
【0042】
膣鏡検査を受けた結果HPV組み込みと子宮頸部病変が起こっていそうな患者から、一連の臨床試料を採取し、それに対して前記方法を使用して、本発明の発明者は下記表および図6〜9に示される結果を見出した。
【0043】
【表1】

【0044】
上記および図6〜9に示されるような結果は、各患者について、だれが組み込みHPVを有し、だれが有していないかが明瞭であることを示唆している。また、E6およびE7抗体について、それらを単独で使用したことからの情報は、それらを組み合わせて使用した時のものと同じであることを示している。最後に、これら患者の5/20(25%)がHPVタイプ16の組み込みについて陽性であったが、その患者らが既にパパニコロー検査で異常とわかっていた患者の一部であったことは注目に値する。
【0045】
(実施モデル)
前記改良型子宮頸癌スクリーニング方法は、いかなる規模または構造の検査室でも使用できる。好適には、すでにパパニコロー検査を実施している検査室や処置担当者によって当該方法が使用される。
【0046】
前記改良型子宮頸癌スクリーニング方法は、患者の管理改善のための子宮頸癌スクリーニングに付加価値のあるサービスを提供する、他に例を見ない採取プロセスをもたらす。前記方法は、能率的なアプローチでパパニコロー検査と免疫組織化学染色の両方を行うことによる細胞学的試料の分析を含み、それにより陽性の真偽のみならず、陰性の真偽をも、効率的に確定できるようにする。当該方法は、細胞採取プロセスが一度のみで、内科医または外科医に、従来の方法と比べてより明瞭で詳細な結果を提供する。この利点には以下のものが含まれる:女性のゲノムへのウィルスの組み込みが起こったことをマーカーが示すので、陽性と陰性との予測的な値が改善されている;細胞採取中の患者の快適さを改善することができる独自開発の採取プロセスである;低価格の解決策である;一度の試料採取から複数回分のスクリーニング検査を可能にする細胞量が得られるので、高度な均一性、質、および保全性を呈する十分な細胞を採取する;および、PAP染色と免疫細胞化学検査との両方に一つのスライドが使用できる、能率的な検査プロセスである。
【0047】
本発明の方法は、高価なタイプの特異的HR−HPV検査方法へ移行する前の低価格な選択肢を提供し、感度と特異性の高くなった検査方法を提供することによってASCUS試料の偽陽性を無くしてASCUS試料の適切な分類を助け、子宮頸癌分子診断市場に参入して現在および未来の顧客に対する一連の複合的な診断サービスをさらに拡大するので、検査室にメリットを提供する。
【0048】
上記方法が、子宮頸癌についての一次的スクリーニング検査としてパパニコロー検査を行うことなく使用できることも、明らかである。
【0049】
前記発明は例示的な実施形態とともに説明されたが、本発明のその他の改良も、下記クレームの範疇にある本発明の範囲内で本発明に対しておこなわれてもよいことは、当業者に自明であるだろう。開示された詳細は、本発明を限定するものとはみなされない。
【0050】
本願は、2007年9月25日出願の米国仮出願第60/975,069号、2007年12月6日出願の米国仮出願第60/992,892号、および2008年9月16日出願の米国出願第12/211,547号の恩恵を主張し、この参照により前記出願の全てを本願に包含するものとする。
【配列表フリーテキスト】
【0051】
ヒトヒト乳頭腫ウイルスのアミノ酸配列
【図1A】

【図1B】

【図1C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)の組み込みをスクリーニングする方法であって、
(a)子宮頸部から採取された細胞および細胞クラスターの試料の一部である細胞および細胞クラスターに、HPV組み込み検出マーカーを適用し、
(b)前記細胞および細胞クラスターを分析することから得られる情報を手動で、または自動化された手段で読み取ることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記HPV組み込み検出マーカーは抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗体は、HPV組み込みマーカーに対する特異的な抗体である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記HPV組み込みマーカーは、E1、E4、E5、E6、およびE7タンパク質からなる群から選ばれる少なくとも一つである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記抗体は、共通アミノ酸配列を有するポリペプチドと反応し、前記共通アミノ酸配列は、前記抗体が一つ以上のハイリスクHPVタイプのポリペプチドと反応するようにする、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記抗体は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、および配列番号11からなる群から選ばれる少なくとも一つのアミノ酸配列を有するポリペプチドに対して産生される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記抗体は、配列番号12、配列番号13、および配列番号14からなる群から選ばれる少なくとも一つのアミノ酸配列を有するポリペプチドに対して産生される、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記抗体は、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、および配列番号20からなる群から選ばれる少なくとも一つのアミノ酸配列を有するポリペプチドに対して産生される、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記抗体は、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、および配列番号26からなる群から選ばれる少なくとも一つのアミノ酸配列を有するポリペプチドに対して産生される、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記抗体は、配列番号27、配列番号28、および配列番号29からなる群から選ばれる少なくとも一つのアミノ酸配列を有するポリペプチドに対して産生される、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
子宮頸部の異常組織を検出する方法であって、
収集器を使用して前記子宮頸部から細胞および細胞クラスターを採取し、
前記収集器によって採取された細胞および細胞クラスターの少なくとも一部を、受付構造体へ移すか、または前記受付構造体へ移すことが可能な液体ベースの試料中で懸濁状態にし、
前記受付構造体へ移された前記細胞および細胞クラスターに、細胞学的ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)組み込み検出マーカーを適用し、
HPV組み込みについて前記細胞および細胞クラスターを、手動で、または自動化された手段で分析することを特徴とする方法。
【請求項12】
前記細胞および細胞クラスターが前記受付構造体へ移された後、前記細胞および細胞クラスターを採取した後の前記収集器上の残った細胞を、バイアル中の懸濁液に入れる工程をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記バイアル中の前記採取された細胞の一定部分が、HPV組み込みについての免疫的検査に使用される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記採取された細胞の全ては、バイアルやその他の容器の懸濁液に入れられる、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記バイアル中の懸濁液中の細胞は、HPV組み込みについての免疫学的検査に使用される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記受付構造体は、スライド、シャーレ、または膜である、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
パパニコロー法に従って、前記受付構造体に移された前記細胞および細胞クラスターを染色し、ベセズダシステムに従って前記染色された細胞を評価することをさらに含む、請求項11に記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−540932(P2010−540932A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527038(P2010−527038)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際出願番号】PCT/US2008/076813
【国際公開番号】WO2009/042488
【国際公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(510082787)キャンヴァー,インク. (1)
【Fターム(参考)】