説明

改良抗腫瘍治療剤

本発明は、カハラリドFまたはそのアナログに接合したコロイド状金属ナノ粒子、ならびに癌治療におけるそれらの使用に関する。本発明はまた、カハラリドFまたはそのアナログをコロイド状金属ナノ粒子に接合する工程を含む、カハラリドFまたはそのアナログの抗腫瘍活性を増大させる方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カハラリドF(Kahalalide F)またはそのアナログで官能化されたコロイド状金属ナノ粒子、および癌の治療におけるその使用に関する。本発明はまた、コロイド状金属ナノ粒子に接合させることによる、カハラリドFまたはそのアナログの細胞毒性効果を増大させる方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、身体の一部にある細胞が制御を外れて増殖し始める際に進行する。多種類の癌があるが、それらはすべて異常細胞の制御を外れた増殖のために始まる。癌細胞は、近傍のの組織に浸潤でき、かつ血流およびリンパ系を通じて身体の他の部分に拡散できる。いくつかの主な型の癌がある。癌腫は、皮内または内部の臓器を区切るもしくは覆う組織内に生じる癌である。臓器および血管の内層を含む身体の内部および外部の表面を覆う上皮細胞は、癌腫を生じる場合がある。肉腫は、骨、軟骨、脂肪、筋肉、血管または他の結合組織もしくは支持組織に生じる癌である。白血病は、骨髄などの血液形成組織において始まり、多数の異常血液細胞の産生および血流への流入を生じる癌である。リンパ腫および多種の骨髄腫は、免疫系の細胞において生じる癌である。
【0003】
さらに、癌は、浸潤的であり、新たな部位に転移する傾向がある。それは、周囲の組織に直接拡散し、かつリンパ系および循環系を通じても播種できる。
【0004】
局所的な疾病に対する手術および放射線、ならびに化学療法を含む多くの治療法が、癌に対して利用できる。しかし、多くの癌の型に対して利用できる治療法の有効性は、限定的であり、臨床的利益を示す新規の改善された形態の治療法が必要とされている。これは、進行したおよび/または転移性の疾病を呈している被験者、ならびに抵抗性の獲得のためまたは付随する毒性による治療投与における制限のために有効でなくなっているかまたは許容できなくなっている、確立された治療法で既に治療された後に、進行性の疾病を再発している被験者について特にあてはまる。
【0005】
1950年代から、著しい進歩が癌の化学療法管理においてなされている。不幸にも、全癌患者の50%より多くは、最初の治療法に反応しないかまたは治療への最初の反応の後に再発を経験し、最終的には進行性で転移性の疾病で死亡する。したがって、新たな抗癌剤の設計および発見の継続的遂行は、極めて重要である。
【0006】
伝統的な形態における化学療法は、DNA、RNAおよびタンパク質の生合成を含む一般的な細胞代謝過程を標的にすることによって急速に増殖している癌細胞を殺すことに主に焦点をおいている。化学療法薬は、それらがどの様に癌細胞内の特定の化学物質に影響するか、どの細胞活性または過程を薬剤が妨害するか、および細胞周期のどの具体的な時期に薬剤が影響するかに基づいていくつかの群に分けられる。最も一般的に使用される型の化学療法薬は:DNAアルキル化薬(シクロホスファミド、イホスファミド、シスプラチン、カルボプラチン、ダカルバジンなど)、代謝拮抗物質(5-フルオロウラシル、カペシタビン、6-メルカプトプリン、メトトレキセート、ゲムシタビン、シタラビン、フルダラビン)、分裂阻害剤(パクリタキセル、ドセタキセル、ビンブラスチン、ビンクリスチンなど)、アントラサイクリン類(ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロンなど)、トポイソメラーゼII阻害剤(トポテカン、イリノテカン、エトポシド、テニポシドなど)、ホルモン療法(タモキシフェン、フルタミドなど)を含む。
【0007】
理想的な抗腫瘍薬は、非癌細胞に対するその毒性と比較して広い指標を有し、癌細胞を選択的に殺すであろうし、かつそれは、長期間の薬への暴露の後であっても癌細胞に対するその有効性を維持するであろう。不幸にも、これらの薬剤での現在の化学療法は、理想的なプロファイルを有していない。
【0008】
必要な側面に沿った、かつ不必要な副作用を伴わない抗腫瘍応答を送達するであろう、魔法の弾丸を発見することが、長らく目的であった。腫瘍内のみに癌薬剤を封鎖することができる粒子送達系を設計することにより、の薬剤によってもまた、健康な器官内における薬剤を減少させるであろう。その結果、これらの送達系は、癌治療の相対的効率および/または安全性を向上させ、そして薬剤の治療指標を向上させるために貢献するであろう。ナノテクノロジーにより、医学的診断および治療のおびただしい可能性が提供される。この意味で、種々の型のナノ粒子が、生物医学的応用のために開発されており(Alivisatos P. Nat. Biotechnol. 2004, 22, 47-52; Kim J. et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 7754-7758)、生物学的システムにおいて広く使用されている。
【0009】
そのサイズ、安定性、および生物学的適合性が魅力的であるために、金ナノ粒子が、数々の生物医学応用において使用されている。有機分子で金の表面を官能化する能力によって、生理学的システムのいずれかと特異的に相互作用することができるナノ粒子を調製することができる。生物医学における金粒子の最も興味深い応用は、薬物送達のためのビヒクルとしての表面修飾金ナノ粒子の使用である。
【0010】
コロイド状金ナノ粒子は、粒子に基づく腫瘍標的薬物送達の分野において比較的新しい技術を示す。より毒性の高い抗癌タンパク質、腫瘍壊死因子(TNF)を、固形腫瘍を標的として送達するための官能化金ナノ粒子の使用が報告されている(Paciotti GF and Myer L. Drug Delivery, 2004, 11, 169-183)。in vivoで、このナノ薬物は、固形腫瘍において、組換えTNFを活発に標的とし、封入する。
【0011】
より最近、パクリタキセル(Paclitaxel) (Gibson J. et al. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129(37), 11653-61)およびメトトレキセート(Metotrexate) (Chen YH et al. Mol. Pharm. 2007, 4(5), 713-22)のような、他の抗腫瘍薬物で官能化された金ナノ粒子が記載されている。特に、パクリタキセルは、最初にヘキサエチレングリコールに接着され、その後結果生じる、粒径2 nmを有するフェノール終結金ナノ結晶の直鎖アナログに接合される。一方、メトトレキセート金ナノ粒子は、メトトレキセート分子に存在するカルボキシル基を介して、粒径13 nmを有する金ナノ粒子に直接薬物を結合することにより調製された。
【0012】
腫瘍標的薬物送達ベクターは、現在複数の生物学的標的に近接して到着させるような「真の」ナノメートルサイズに近づいている(Paciotti GF et al. Drug Development Research, 2006, 67, 47-54)。この文脈において、Tkachenkoらは、核局在ペプチドで修飾された金ナノ粒子による核標的を開示している。従って、金粒子を、仔ウシ血清アルブミン(BSA)のシェルで修飾し、種々の細胞標的ペプチドに接合した(Tkachenko AG et al. Bioconjugate Chem. 2004, 15, 482-490; Tkachenko AG et al. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 4700-4701)。
【0013】
一般的な薬物および生物分子の投与は、他の問題のうち、非効率および酵素分解の問題を有するために、種々の薬物および生物活性分子(例えば、ペプチド、タンパク質およびDNA)の、細胞膜を介する細胞質への輸送に関わる細胞送達に大きな注意が払われてきた。それゆえ、薬物を細胞へ送達する、安全で効率的な輸送ビヒクルを開発することが必要とされている。
【0014】
天然生成物およびその誘導体は、伝統的に一般的な薬物の供給源であった。細胞毒性ペプチドは、膨大な数の植物および動物により合成される。あるクラスの天然生成物は、軟体動物のハワイ草食性海洋種、エリザ・ルフェセンス(Elysia rufescens)、およびその食餌、緑藻ブリオプシス種(Briopsis sp)よりもともと単離された環状デプシペプチドであるカハラリド化合物である。カハラリドAからKは、Hamannらにより記載され(J. Am. Chem. Soc. 1993, 115, 5825-5826およびJ. Org. Chem. 1996, 61, 6594-6600)、その多くは癌およびAIDS関連日和見感染症に対する活性を示す。カハラリドHおよびJがScheuerらにより(J. Nat. Prod. 1997, 60, 562-567)、カハラリドOがScheuerらにより(J. Nat. Prod. 2000, 63(1), 152-154)、ならびにカハラリドKがKanrらにより(J. Nat. Prod. 1999, 62(8), 1169-1172)開示されているように、複数の他の天然カハラリド化合物もまた開示されている。
【0015】
カハラリド化合物のうち、カハラリドF(KF)およびそのアナログは、その抗腫瘍活性のために最も有望なものである。これらの化合物の構造は複雑であり、環状部分として6個のアミノ酸、および末端脂肪族/脂肪酸基を有する7個のアミノ酸の環外鎖を含む。詳細には、カハラリドFは以下の構造を含む。
【0016】
【化1】

【0017】
EP 610.078では、早期の前臨床in vivoスクリーニング実験により、マウス白血病(P388)、ならびに2種類のヒト固形腫瘍:非小細胞肺(non-small cell lung) (A549)および結腸(HT-29)に対するカハラリドFのマイクロモル活性が同定されたことが報告される。それに続く実験により、慣用的な抗癌剤に対する完全な交差耐性を有さないで、アンドロゲン依存性前立腺癌、ならびに、乳癌、結腸癌、非小細胞肺(NSCL)癌および卵巣癌のような他の固形腫瘍における選択的in vitroおよびin vivo細胞毒性プロフィールを、カハラリドFが示すことが同定された。対照的に、非腫瘍細胞系列は、カハラリドFに対して5倍から40倍感受性が低かった(Medina LA et al. Proc. Am. Ass. Cancer Res. 2001, 42, abstr. 1139; Faircloth G et al. Proc. Am. Ass. Cancer Res. 2001, 19, abstr. 1140; Garcia-Rocha M et al. Cancer Lett. 1996, 99(1), 43-50; Suarez Y et al. Mol. Cancer Ther. 2003, 2(9), 863-872; Sewell JM et al. Eur. J. Cancer, 2005, 41, 1637-1644)。
【0018】
さらに、カハラリドFにさらした直後に、特徴的な膨張、ならびに多くの細胞質オルガネラおよび細胞膜に影響する甚大な形態学的な一連の改変を含む死亡過程を細胞は開始する。これらの特徴は、腫瘍症(oncosis)と名づけられる工程に典型的であり、この後は、細胞壊死に至る細胞イベントの進行を記載する。細胞構造は、カハラリドF処理後1時間から3時間の早さで大きく影響され、ミトコンドリア、ER、またはリソソームのような重要なオルガネラの統合性が、重篤に傷つけられる。対照的に、核構造は保存され、クロマチンの劇的な改変またはDNA分解は検出されない(Suarez Y et al. Mol. Cancer Ther. 2003, 2, 863-872)。
【0019】
カハラリドFの一次作用機構は、未だ同定されていない。しかし、カハラリドFが、MDR, Her2, P53,およびblc-2に依存せず、サブG1細胞周期停止および細胞毒性を誘導するNCI-COMPARE陰性化合物であることが発見されている(Janmaat et al. Proceedings of the 2nd International Symposium on Signal Transduction Modulators in Cancer Therapy: 23-25 October, Amsterdam 2003: 60 (Abst. B02))。細胞増殖経路に対して遺伝学的および分子的に特徴づけられた、60のヒト癌細胞系統のパネルにおけるCOMPARE解析において、Erb/Her-neu経路と相互作用する新しい化合物のリストに、カハラリドFが含まれた(Wosikowsky et al. J. Natl. Cancer Inst. 1997, 89, 1505-1515)。カハラリドFに対する感受性は、異なる起源の確立された細胞系統のパネルにおいて、ErbB3 (HER3)のベースライン発現レベルに顕著に相関したが、他のErbBレセプターには相関しなかった。さらに、ErbBレセプターに接合した下流のP13K/Akt経路もまた、カハラリドF処理により影響を受ける。カハラリドFは、リン酸化Aktのレベルを低下させ、この低下は、カハラリドF感受性細胞系統における細胞毒性に関連する(Janmaat et al. Mol Pharmacol 2005, 68, 502-510)。
【0020】
カハラリドFアナログのうち、カハラリドFで観察される活性に関して、in vivoの癌モデルにおいて、効率が改善することが示されるために、4-メチルヘキサンアナログ、特にその(4S)-メチルヘキサンアナログ(PM02734)が興味深い。PM02734は、白血病、メラノーマ、乳、結腸、卵巣、すい臓、肺、および前立腺のような広範囲の腫瘍型に対してin vitroで抗腫瘍活性を示し、乳、前立腺およびメラノーマのようなヒト腫瘍細胞を使用する異種移植マウスモデルにおいて、顕著なin vivo活性を示した。この化合物は、WO 2004/035613の主題であり、以下の構造を有する。
【0021】
【化2】

【0022】
カハラリドFおよびそのアナログ、その使用、配合物および合成に関するより多くの情報は、特許出願EP 610.078, WO 2004/035613, WO 01/58934, WO 2005/023846, WO 2004/075910, WO 03/033012, WO 02/36145, WO 2005/103072およびUS 60/981,431に発見することができる特に参照することにより、出願人はこれらの出願それぞれの内容を取り入れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】EP 610.078
【特許文献2】WO 2004/035613
【特許文献3】WO 01/58934
【特許文献4】WO 2005/023846
【特許文献5】WO 2004/075910
【特許文献6】WO 03/033012
【特許文献7】WO 02/36145
【特許文献8】WO 2005/103072
【特許文献9】US 60/981,431
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】Alivisatos P. Nat. Biotechnol. 2004, 22, 47-52
【非特許文献2】Kim J. et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 7754-7758
【非特許文献3】Paciotti GF and Myer L. Drug Delivery, 2004, 11, 169-183
【非特許文献4】Gibson J. et al. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129(37), 11653-61
【非特許文献5】Chen YH et al. Mol. Pharm. 2007, 4(5), 713-22
【非特許文献6】Paciotti GF et al. Drug Development Research, 2006, 67, 47-54
【非特許文献7】Tkachenko AG et al. Bioconjugate Chem. 2004, 15, 482-490
【非特許文献8】Tkachenko AG et al. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 4700-4701
【非特許文献9】J. Am. Chem. Soc. 1993, 115, 5825-5826
【非特許文献10】J. Org. Chem. 1996, 61, 6594-6600
【非特許文献11】J. Nat. Prod. 1997, 60, 562-567
【非特許文献12】J. Nat. Prod. 2000, 63(1), 152-154
【非特許文献13】J. Nat. Prod. 1999, 62(8), 1169-1172
【非特許文献14】Medina LA et al. Proc. Am. Ass. Cancer Res. 2001, 42, abstr. 1139
【非特許文献15】Faircloth G et al. Proc. Am. Ass. Cancer Res. 2001, 19, abstr. 1140
【非特許文献16】Garcia-Rocha M et al. Cancer Lett. 1996, 99(1), 43-50
【非特許文献17】Suarez Y et al. Mol. Cancer Ther. 2003, 2(9), 863-872
【非特許文献18】Sewell JM et al. Eur. J. Cancer, 2005, 41, 1637-1644
【非特許文献19】Janmaat et al. Proceedings of the 2nd International Symposium on Signal Transduction Modulators in Cancer Therapy: 23-25 October, Amsterdam 2003: 60 (Abst. B02)
【非特許文献20】Wosikowsky et al. J. Natl. Cancer Inst. 1997, 89, 1505-1515
【非特許文献21】Janmaat et al. Mol Pharmacol 2005, 68, 502-510
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
癌は動物およびヒトにおける死の主要な原因であるため、癌に罹患した患者に投与する、活性があり安全な抗腫瘍治療薬を取得するために、複数の努力がなされてきたし、現在もなされている。本発明により解決される課題は、癌の治療において有用な抗腫瘍治療薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
出願人は、コロイド状金属ナノ粒子と、カハラリドFまたはそのアナログと接合することにより取得された、官能化ナノ粒子が、癌の治療に潜在的に有用であることを確立した。さらに、カハラリドFまたはそのアナログ接合コロイド状金属ナノ粒子が、単独ペプチドの活性に比較して、細胞毒性が改善することを示すことが確立された。
【0027】
本発明の一態様では、カハラリドFまたはそのアナログと接合したコロイド状金属ナノ粒子を出願人は提供する。
【0028】
別の態様では、本発明は、医薬として使用するための、特に癌の治療用医薬として使用するための、カハラリドFまたはそのアナログと接合したコロイド状金属ナノ粒子に関する。
【0029】
別の態様では、本発明はまた、癌の治療用医薬を製造するための、カハラリドFまたはそのアナログと接合したコロイド状金属ナノ粒子の使用にも関する。
【0030】
別の態様では、本発明は、カハラリドFまたはそのアナログと接合したコロイド状金属ナノ粒子、ならびに薬学的に許容可能なビヒクルを含む薬剤組成物に関する。
【0031】
関連する態様では、本発明は、癌の治療のための併用療法を提供する他の薬剤と組み合わせた、カハラリドFまたはそのアナログと接合したコロイド状金属ナノ粒子の使用に言及する。
【0032】
別の態様では、本発明は、コロイド状金属ナノ粒子とカハラリドFまたはそのアナログを接合させる工程を含む、カハラリドFまたはそのアナログの抗腫瘍活性を増大させる方法に関する。
【0033】
更なる態様では、本発明は、さらに添加剤に接合される、カハラリドFまたはそのアナログと接合したコロイド状金属ナノ粒子に関する。さらにそれは、前記添加剤の細胞内送達のための、前記接合コロイド状金属ナノ粒子の使用に関する。
【0034】
別の態様では、本発明は、治療の必要のある患者に対して、治療上有効量のカハラリドFまたはそのアナログと接合したコロイド状金属ナノ粒子を投与する工程を含む、癌の治療方法に関する。
【0035】
さらに別の態様では、本発明は、以下の工程を含む、カハラリドFまたはそのアナログと接合したコロイド状金属ナノ粒子の取得方法に関する。
(i) 金属塩の溶液を還元することによりコロイド状金属ナノ粒子を取得する工程;
(ii) 接合ナノ粒子を形成するために十分な時間の間、工程i)で取得したコロイド状金属ナノ粒子溶液を、カハラリドFまたはそのアナログと混合する工程であって、カハラリドFまたはそのアナログは、コロイド状金属ナノ粒子に対して過剰に存在する工程;
(iii) 任意に、工程ii)で取得された接合ナノ粒子を、添加剤と混合して反応混合物を形成し、前記添加剤に接合ナノ粒子が結合するために十分な時間の間、反応混合物をインキュベートする工程;ならびに
(iv) 接合コロイド状金属ナノ粒子を単離する工程。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】20 nmの金ナノ粒子溶液(図1A)、および40 nmの金ナノ粒子溶液(図1B)のTEM画像を示す。
【図2】20 nmおよび40 nmのサイズの金ナノ粒子溶液およびそれらのそれぞれの接合物のUV-可視光スペクトル;非接合金ナノ粒子に関する最大値のシフトが、接合の代表する。(a) P1およびP2に対する20 nm AuNPs非接合および接合、(b) P1およびP2に対する40 nm AuNPs非接合および接合。
【図3】非被覆金ナノ粒子(図3A)およびP1被覆金ナノ粒子(図3B)の、高解像度TEM(HRTEM)顕微鏡写真を示す。ペプチドの存在が、酢酸ウラニル染色で検出され、図3Bにおけるナノ粒子コアの周囲の層として示された。
【図4】(a) 20 nm非官能化金ナノ粒子の表面上に取得されるEELSスペクトル;(b) (a)のAu O2,3 ELNESスペクトルの詳細;(c) (a)のS L2,3エッジの詳細;(d) 20 nm P1-接合金ナノ粒子の表面上に取得されるEELSスペクトル;(e) (d)のAu O2,3 ELNESスペクトルの詳細;(f) (d)のS L2,3エッジの詳細。
【図5】(a) PMMA、(b) P1-官能化金表面、および(c) PMMA表面上のP1-接合金ナノ粒子上の金ナノ粒子の XPS S2p領域スペクトルを表す。スペクトルは、標準化されている。
【図6】(a) P1- およびP2-接合20 nm金ナノ粒子、ならびに(b) P1- およびP2-接合40 nm金ナノ粒子と、HeLa細胞を24時間インキュベートした後の、抗増殖結果。
【図7】金ナノ粒子およびその接合物の、HeLa細胞中の局在を示す、共焦点顕微鏡画像。膜を、蛍光マーカー(WGA)で、核を、DNAマーカー(Hoechst)で染色した。
【図8】(a) 20 nm非接合ナノ粒子、(b) 20 nm P1-接合ナノ粒子、および(c) 40 nm P1-接合ナノ粒子とインキュベートしたHeLa細胞のTEM映像。矢印は、リソソーム様構造の内側のAuNPsの存在を示す。略:NU(核)、RER(粗い小胞体)、GA(ゴルジ装置)。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の出願人は、カハラリドFまたはそのアナログと接合することにより、コロイド状金属ナノ粒子を官能化できることを、本発明の出願人は確立した。さらに、驚くべきことに、結果生じる官能化ナノ粒子は、単独で投与される化合物の活性に比較して、抗腫瘍活性が改善されることが驚くべきことに発見された。
【0038】
カハラリドFまたはそのアナログと接合したコロイド状金属ナノ粒子の実現可能性および生物学的特性を研究するために、カハラリドF(KF)の合成エピマーアナログを合成した。そしてペプチドを、2つの異なるサイズ(20 nmおよび40 nm)のコロイド状金ナノ粒子(AuNPs)に別々に接合し、ナノ粒子のサイズがどのように接合活性に関するか、実験した。結果得られる金ナノ粒子複合体は、UV-可視光光度計、アミノ酸解析、透過電子顕微鏡(TEM)、電子エネルギー損失吸光法(EELS)、およびX線分光計(XPS)のような異なる解析技術を使用することにより、徹底的に特徴づけられる。
【0039】
さらに、追加の実験を実行して、HeLa細胞およびその軌跡に入る接合ナノ粒子の能力を評価する。最後に増幅アッセイを実行して、前記腫瘍細胞系統に対する細胞毒性活性を決定する。
【0040】
一般的な結論として、出願人は、カハラリドFまたはそのアナログの抗腫瘍活性を、コロイド状金属ナノ粒子との化合物の接合により上昇させることを発見した。そして、第一の態様において、本発明はカハラリドFまたはそのアナログと接合したコロイド状金属ナノ粒子に関する。
【0041】
本発明の文脈において、「コロイド状金属ナノ粒子」の語により、1 μmより小さい平均サイズ、すなわち、1 nmから999 nmの間の平均サイズを有する、液体水中に分散した、あるいはヒドロゾル、または金属ゾルを形成する、水不溶性金属粒子または金属化合物のいずれかであると理解される。
【0042】
「平均サイズ」の語により、ナノ粒子集合体の平均半径が理解される。これらの系の平均サイズを、差異遠心沈殿(differential centrifugal sedimentation)、ダイナミックレーザー分散(dynamic laser scattering)、ゼータポテンシャル(zeta potential)または透過電子顕微鏡(TEM)のような、当業者に公知の標準手順を使用して、測定することができる。好ましくは、本発明で使用するコロイド状金属ナノ粒子は、好ましくは透過電子顕微鏡(TEM)により決定される、1 nmから500 nmの範囲の平均粒子サイズを有する。好ましい実施態様において、コロイド状金属ナノ粒子の平均粒子サイズは、5 nmから100 nm、より好ましくは約10 nmから約60 nm、約15 nmから約50 nm、および約20 nmから約40 nm、さらにより好ましくは20 nmから40 nmである。さらに好ましい実施態様において、平均粒子サイズは、20 nm、21 nm、22 nm、23 nm、24 nm、25 nm、26 nm、27 nm、28 nm、29 nm、30 nm、31 nm、32 nm、33 nm、34 nm、35 nm、36 nm、37 nm、38 nm、39 nmまたは40 nm、最も好ましくは40 nmである。
【0043】
金属は、周期律表のIA族、IB族、IIB族およびIIIB族の金属、ならびに遷移金属、特にVIII属のものより選択されてよい。好ましい金属は、金、銀、アルミニウム、ルテニウム、亜鉛、鉄、ニッケルおよびカルシウムを含む。他の適切な金属はまた、全てのその種々の酸化状態にある、以下のもの:リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、銅、ガリウム、ストロンチウム、ニオブ、モリブデン、パラジウム、インジウム、スズ、タングステン、レニウム、白金、およびガドリニウムも含む。金属は好ましくは、適当な金属化合物に由来するイオン形態、例えばAg1+、Al3+、Au3+、Ru3+、Zn2+、Fe3+、Ni2+およびCa2+イオンで提供される。そのような金属イオンは、単独または他の無機イオンとの錯体で存在してよい。
【0044】
好ましい金属は金であり、特に好ましくはAu3+の形態にある。コロイド状金の特に好ましい形態は、HAuCl4である。コロイド状金ナノ粒子は、粒子がお互いに反発する原因となる、固有の表面負電荷により懸濁物中に保持される。1857年、マイケル=ファラデーは、金塩化物を、クエン酸ナトリウムで還元することにより、最初のAuのナノサイズ粒子を製造した(Faraday M. Philos. Trans. R. Soc. London, 1857 147, 145-181)。Frens (Frens G. Nature Phys. Sci. 1973, 241, 20-22,) およびHorisberger (Horisberger M. Biol. Cellulaire, 1979, 36, 253-258)は、彼の発見に基づいて、金対クエン酸の比率によりナノ粒子のサイズを調節することを示した。粒子サイズは、金塩化物溶液に添加されるクエン酸の量に逆に関連する:固定した量の金塩化物に対してクエン酸ナトリウムの量を増大すると、より小さい粒子を形成し、一方金溶液に添加するクエン酸を減少させると、相対的により大きな粒子が形成する。本発明の特定の実施態様において、実施例2に参照される、クエン酸ナトリウム減少法を介して、コロイド状金ナノ粒子を取得する。
【0045】
また本発明の文脈において、「接合された(conjugated)」の語により、直接または間接結合により、コロイド状金属ナノ粒子と、カハラリドFまたはそのアナログとの間の結合(association)が理解される。これは、カハラリド化合物の、金属ナノ粒子との、および場合により、標的分子または治療薬のような他の添加剤の、長期的または短期的結合を可能とする、共有結合、およびイオン結合、ならびに他のより弱い、またはより強い結合を含む。
【0046】
カハラリドFまたはそのアナログへの結合を容易にする目的で、反応基を取り込むことによりコロイド状金属ナノ粒子を、修飾することができる。
【0047】
US 2005/0175584では、チオール化アルカン、ならびにポリLysおよびPEGのような他のチオール化分子が、チオールを介して、コロイド粒子と治療薬との間の、二機能性スペーサーまたはクロスリンカーとして作用することができることが記載されている。
【0048】
そして、官能化コロイド状金属ナノ粒子を作成するために記載される方法は、還元剤の使用を含み、ここで有利チオール基を官能化ポリマーが、粒子形成の間に添加される。例えば、それぞれポリエチレングリコール(PEG)-チオールまたはチオール化ポリ-1-リジンのような、誘導体化チオールまたは誘導体化ポリアミノ酸を還元剤として使用して、形成中のコロイド状金属粒子の表面上にチオール基を取り込む(例えば、US 2005/0175584を参照)。当業者に公知の他の還元剤は、本発明の範囲内にあると考えられる。
【0049】
官能化コロイド状金属ナノ粒子を作成するための上記の方法全てを、カハラリドFまたはそのアナログと接合したコロイド状金属ナノ粒子を調製するために本発明で使用することができる。
【0050】
本明細書において、「官能化/接合したコロイド状金属粒子」、「官能化ナノ粒子」、「接合したナノ粒子」、「ナノ粒子複合体」などの語は、相互変換可能に使用される。同様に、本発明において、「接合した(conjugated)」、「官能化(functionalized)」、「ケープした(caped)」、および「結合した(coupled)もまた、同義語として使用される。
【0051】
序論に述べたように、カハラリドFおよびそのアナログが広く記載されている。それらは、以下の一般式Iを有していてよい。
【0052】
【化3】

【0053】
前記式中、R1は、水素、置換または非置換C1-C25アルキル、置換または非置換C2-C25アルケニル、および置換または非置換C2-C25アルキニルであり;ならびに
R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14およびR15はそれぞれ独立に、水素、置換または非置換C1-C12アルキル、置換または非置換C1-C12アルケニル、置換または非置換C1-C12アルキニル、および置換または非置換C1-C12アルキリデンより選択され;
あるいは、R6およびR7が、それらが結合してよい、相当するN原子およびC原子と一緒に、置換または非置換ヘテロ環状基を形成する:
ならびに薬学的に許容可能なその塩。
【0054】
好ましいクラスのアルキル基の一つは、1個から約12個の炭素原子、さらにより好ましくは、1個から約6個の炭素原子を有する。さらにより好ましくは、アルキル基は、1、2、3、または4個の炭素原子を有するものである。メチル、エチル、プロピル、イソプロピルならびにtert-ブチル、sec-ブチル、およびイソブチルを含むブチルが、本発明の化合物において特に好ましいアルキル基である。別の好ましいクラスのアルキル基は、5個から約10個の炭素原子、さらにより好ましくは、6、7、または8個の炭素原子を有する。4-メチルペンチルおよび3-メチルペンチルを含むヘキシル、ヘプチルおよびオクチルが、このクラスの最も好ましいアルキル基である。さらに別の好ましいクラスのアルキル基は、11個から約20個の炭素原子、さらにより好ましくは、14、15、または16個の炭素原子を有する。典型的には、テトラデシル、ペンタデシル、およびヘキサデシルが、このクラスの最も好ましいアルキル基である。本発明の化合物における好ましいアルケニルおよびアルキニル基は、分枝または非分枝であり、1個以上の非置換結合を有し、2個から約25個の炭素原子を有していてよい。好ましいクラスのアルケニルおよびアルキニル基の一つは、2個から約12個の炭素原子、さらにより好ましくは、2個から約6個の炭素原子を有する。さらにより好ましくは、アルケニルおよびアルキニル基は、2、3、または4個の炭素原子を有するものである。別の好ましいクラスのアルケニルおよびアルキニル基は、5個から約10個の炭素原子、さらにより好ましくは、6、7、または8個の炭素原子を有する。さらに別の好ましいクラスのアルケニルおよびアルキニル基は、11個から約20個の炭素原子、さらにより好ましくは、14、15、または16個の炭素原子を有する。
【0055】
アルキリデン基は、分枝または非分枝であり、好ましくは1個から約12個の炭素原子を有していてよい。好ましいクラスのアルキル基の一つは、1個から約8個の炭素原子、さらにより好ましくは1個から約6個の炭素原子、最も好ましくは1、2、3、または4個の炭素原子を有する。メチリデン、エチリデンおよびイソプロピリデンを含むプロピリデンが、本発明の化合物において特に好ましいアルキリデン基である。
【0056】
本発明の化合物において適切なアリール基は、分離および/または融合アリール基を含む複数の環状化合物を含む、単独および複数の環状化合物を含む。典型的なアリール基は、1個から4個の分離または融合環、ならびに1個から約18個の炭素環原子を含む。好ましくは、アリール基は、6個から約10個の炭素環原子を含む。特に好ましいアリール基は、置換または非置換フェニル、置換または非置換ナフチル、置換または非置換ビフェニル、置換または非置換フェナンスリル、置換または非置換アンスリルを含む。
【0057】
適切なヘテロ環状基は、1個から4個の分離または融合環、ならびに5個から約18個の環原子を含むヘテロ芳香族およびヘテロ脂環式基を含む。好ましくは、ヘテロ芳香族およびヘテロ脂環式基は、5個から約10個の環原子を含む。本発明の化合物において適するヘテロ芳香族基は、N、OまたはS原子より選択される、1種、2種、又は3種のヘテロ原子を含み、例えば、8-クマリニルを含むクマリニル、8-キノリルを含むキノリル、イソキノリル、ピリジル、ピラジニル、ピラゾリル、ピリミジニル、フリル、ピロリル、チエニル、チアゾリル、イソチアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、イソオキサゾリル、オキサゾリル、イミダゾリル、インドリル、イソインドリル、インダゾリル、インドリジニル、フタラジニル、プテリジニル、プリニル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、フラザニル、ピリダジニル、トリアジニル、シンノリニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾフラニル、ベンゾフラザニル、ベンゾチオフェニル、ベンゾチアゾリル、ベンゾオキサゾリル、キナゾリニル、キノキサリニル、ナフチリジニルおよびフロピリジルを含む。本発明の化合物において適するヘテロ脂環式基は、N、OまたはS原子より選択される、1種、2種、又は3種のヘテロ原子を含み、例えば、ピロリジニル、テトラヒドロフラニル、ジヒドロフラニル、テトラヒドロチエニル、テトラヒドロチオピラニル、ピペリジル、モルホリニル、チオモルホリニル、チオキサニル、ピペラジニル、アゼチジニル、オキセタニル、チエタニル、ホモピペリジル、オキセパニル、チエパニル、オキサゼピニル、ジアゼピニル、チアゼピニル、1,2,3,6-テトラヒドロピリジル、2-ピロリニル、3-ピロリニル、インドリニル、2H-ピラニル、4H-ピラニル、ジオキサニル、1,3-ジオキソラニル、ピラゾリニル、ジチアニル、ジチオラニル、ジヒドロピラニル、ジヒドロチエニル、ジヒドロフラニル、ピラゾリジニル、イミダゾリニル、イミダゾリジニル、3-アザビシクロ[3.1.0]ヘキシル、3-アザビシクロ[4.1.0]ヘプチル、3H-インドリルおよびキノリジニルを含む。
【0058】
上述の基は、OR’、=O、SR’、SOR’、SO2R’、NO2、NHR’、N(R’)2、=N-R’、NHCOR’、N(COR’)2、NHSO2R’、NR’C(=NR’)NR’R’、CN、ハロゲン、COR’、COOR’、OCOR’、OCONHR’、OCON(R’)2、保護OH、置換または非置換アリール、ならびに置換または非置換 ヘテロ環状基のような、1個以上の適切な基により、1個以上の利用可能な部位で置換されてよい。そのような基がそれ自身置換されている場所では、置換基を前記のリストより選択してよい。
【0059】
本発明の化合物において適するハロゲン置換基は、F、Cl、BrおよびIを含む。
【0060】
「薬学的に許容可能な塩」の語は、患者への投与の際に、本願明細書に記載されているように、化合物を(直接または間接に)提供することができる、薬学的に許容可能な塩のいずれかを指す。しかし、薬学的に許容可能な塩を調製するために有用であるために、薬学的に許容可能ではない塩もまた、本発明の範囲にまた含まれることが理解されるであろう。塩の調製を、当業者に公知の方法により実行することができる。
【0061】
例えば、本明細書において提供される化合物の薬学的に許容可能な塩を、慣用的な化学的方法により、塩基性または酸性部分を含む、親化合物より合成する。一般的にそのような塩は、例えば、これらの化合物の遊離酸または塩基形態を、水または有機溶媒またはその2つの混合物中で、化学量論量の適切な塩基または酸と反応させて調製される。一般的に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノールまたはアセトニトリルのような非水性媒体が好ましい。酸付加塩の例は、例えば、塩化水素酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩のような金属酸付加塩、ならびに、例えば酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、オキサロ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、およびp-トルエンスルホン酸塩のような有機酸付加塩を含む。アルカリ付加塩の例は、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、およびアンモニウム塩のような無機塩、ならびに、例えば、エチレンジアミン、エタノールアミン、N,N-ジアルキレンエタノールアミン、トリエタノールアミン、および塩基性アミノ酸塩のような有機アルカリ塩を含む。好ましい塩は、トリフルオロ酢酸塩である。
【0062】
好ましいカハラリド化合物は、一般式Iのものであり、[前記式中、R1は、置換または非置換C1-C25アルキルであり;R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R13、R14およびR15はそれぞれ独立に、置換または非置換C1-C12アルキルであり;R6およびR7は、それらが結合してよい、相当するN原子およびC原子と一緒に、置換または非置換ヘテロ環状基を形成し;ならびにR12は置換または非置換C1-C12アルキリデンである]、または薬学的に許容可能なその塩である。
【0063】
より好ましい化合物は、一般式Iのものである。
[前記式中、以下の定義の1つ以上が適用される:
R1は4-メチルペンチルおよび3-メチルペンチルであり;
R2はイソプロピルであり;
R3は1-ヒドロキシエチルであり;
R4はイソプロピルであり;
R5はイソプロピルであり;
R6およびR7は、それらが結合してよい、相当するN原子およびC原子と一緒に、ピロリドン基を形成し;
R8はアミノプロピルであり;
R9はsec-ブチルであり;
R10はメチルであり;
R11はイソプロピルであり;
R12はエチリデンであり;
R13はベンジルであり;
R14はイソプロピルであり;
R15はsec-ブチルである]
【0064】
以下の式IIの化合物、および薬学的に許容可能なその塩が、特に好ましい。
【0065】
【化4】

【0066】
[前記式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8およびR9のそれぞれは、上記と同じ意味を有する]
【0067】
本発明の化合物の例は、カハラリドFのような天然化合物、ならびに、本明細書に参照して取り込まれるWO 01/58934、WO2005/023846、WO 2004/035613およびShilabin AG et al. J. Med. Chem. 2007, 50, 4330-4350に開示されるもののような合成化合物を含む。
【0068】
特に好ましい化合物は、コロイド状金属ナノ粒子の表面へのグラフト化(grafting)を容易にする反応器、例えばカルボキシおよび/またはスルフヒドリル基を取り込むために修飾されているものである。
【0069】
好ましい修飾は、カハラリドペプチドが、コロイド状金ナノ粒子と与格(dative)結合を形成することを可能にする、遊離スルフヒドリル/チオール基を取り込むことである。例えば、システイン(Cys)と、カハラリド構造の1個以上のアミノ酸残基を交換すること、特に、1個、2個、3個、4個または5個のバリン(Val)残基をシステイン(Cys)と置換することである。
【0070】
特定の実施態様において、金表面にグラフト化できるようにするために、カハラリドFを、システイン(Cys)と置換したその13番目のアミノ酸、バリン(D-Val)において、修飾している。実施例1において、以下のカハラリドFの合成エピマーアナログ(P1およびP2)を合成した。
【0071】
【化5】

【0072】
【化6】

【0073】
P1において、カハラリドFのD-Val13をD-Cys、P2において、L-Cysと置換し、システイン残基の化学量論が、金接合物の活性に関連するかどうかを決定した。P1およびP2を、以前に記載されたFmoc/tBu固相合成ステラテジー(Lopez-Macia A et al. J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 11398-11401)を使用して合成した。
【0074】
別の態様において、本発明は、カハラリドFまたはそのアナログ、1種以上の添加剤とも直接または間接に接合された官能化コロイド状金属ナノ粒子を指す。添加剤は、治療適用または検出方法において使用することができる生物学的薬剤、ナノ粒子複合体の生物分布を変更するために使用することができる薬剤、またはナノ粒子複合体の特定の標的を目的とする薬剤であってもよい。
【0075】
前記薬剤は、化合物、化学薬品、治療剤、医薬剤、薬物、生物学的因子、抗体、タンパク質、脂質、核酸または炭水化物のような生物学的分子の断片、核酸、抗体、タンパク質、脂質、栄養物、共因子、栄養補助食品、麻酔薬、検出薬、体に効果を有する薬剤、網内系(RES)による免疫検出および/またはクリアランスを防ぐ薬剤のいずれかである可能性がある。
【0076】
特に興味深いのは、治療薬であり、本明細書で「治療薬」とは、治療する力を有するまたは提示する化合物または物質のいずれかを指す。
【0077】
以下は、本発明において使用することができる薬剤の複数の非限定的な例である。本発明で使用することができるタイプの薬剤の一つは、サイトカイン、増殖因子、活性を有する巨大分子の断片、神経化合物、および細胞相互作用分子を含むがそれに限定されない、生物学的因子をふくむ。そのような薬剤の例は、インターロイキン-1 ("IL-1")、インターロイキン-2 ("IL-2")、インターロイキン-3 ("IL-3")、インターロイキン-4 ("IL-4")、インターロイキン-5 ("IL-5")、インターロイキン-6 ("IL-6")、インターロイキン-7 ("IL-7")、インターロイキン-8 ("IL-8")、インターロイキン-10 ("IL-10")、インターロイキン-11 ("IL-11")、インターロイキン-12 ("IL-12")、インターロイキン-13 ("IL-13")、インターロイキン-15 ("IL-15")、インターロイキン-16 ("IL-16")、インターロイキン-17 ("IL-17")、インターロイキン-18 ("IL-18")、I型インターフェロン、II型インターフェロン、腫瘍壊死因子("TNFa")、形質転換増殖因子-a ("TGF-a")、リンホトキシン、移動阻害因子、顆粒球コロニー刺激因子 ("CSF")、単球-マクロファージCSF、顆粒球CSF、血管上皮増殖因子("VEGF")、アンジオジェニン、形質転換増殖因子-("TGF-")、線維芽細胞増殖因子、アンジオスタチン、エンドスタチン、GABA、およびアセチルコリンを含むが、それに限定されない。
【0078】
他のタイプの薬剤は、ホルモンを含む。そのようなホルモンの例は、増殖ホルモン、インスリン、グルカゴン、副甲状腺ホルモン、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン放出ホルモン、エストロゲン、テストステロン、ジヒドロテストエロン、エストラジオール、プロステロール、プロゲステロン、プロゲスチン、エストロン、他の性ホルモン、ならびにホルモンの誘導体およびアナログを含むが、それに限定されない。
【0079】
さらに別のタイプの薬剤は、調合薬を含む。いずれかのタイプの調合薬を本発明で使用することができる。例えば、ステロイドのような抗炎症剤、非ステロイド系抗炎症剤、可溶性レセプター、抗体、抗生物質、鎮痛薬、血管由来および血管形成剤、およびCOX-2インヒビターを、本発明で使用することができる。
【0080】
化学治療剤は、本発明で特に興味深い。そのような薬剤の非限定的例は、シクロホスファミド、イフォスファミド、シスプラチン、カルボプラチン、およびダカルバジンのようなDNAアルキル化剤;5-フルオロウラシル、カペシタビン、6-メルカプトプリン、メトトレキセート、ゲムシタビン、シタラビン、およびフルダラビンのような抗代謝薬;パクリタキセル、ドセタキセル、ビンブラスチン、およびビンクリスチンのような有糸分裂インヒビター;ダウノラビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、およびミトキサントロンのようなアントラサイクリン;トポテカン、イリノテカン、エトポシド、およびテニポシドのようなトポイソメラーゼIおよびIIインヒビター;ならびにタモキシフェンおよびフルタミドのようなホルモン治療薬を含む。
【0081】
免疫治療剤もまた、本発明で特に興味深い。免疫治療剤の非限定的例は、炎症剤、生物学的因子、免疫性後タンパク質、ならびに、AZTのような免疫治療薬、および他の誘導体化または修飾ヌクレオチドを含む。
【0082】
他のタイプの薬剤は、核酸ベースの物質を含む。そのような物質の例は、核酸、ヌクレオチド、DNA、RNA、tRNA、mRNA、センス核酸、アンチセンス核酸、リボザイム、DNAザイム、タンパク質/核酸組成物、SNP、オリゴヌクレオチド、ベクター、プラスミド、トランスポゾン、および他の当業者に公知の核酸構築物を含むが、それに限定されない。
【0083】
本発明で使用することができる他の薬剤は、脂質A、ホスホリパーゼA2、エンドトキシン、ブドウ球菌エンテロトキシンB、および他のトキシン、熱ショックタンパク質、血液群の炭水化物部分、Rh因子、細胞表面レセプター、抗体、MART、MAGE、BAGEおよびHSPs (熱ショックタンパク質)のような癌細胞特異的抗原、放射性金属または分子、検出薬、酵素、および酵素共因子を含むが、それに限定されない。
【0084】
封入したコロイド状金属ベクターを可視化または検出するために使用することができる、色素または放射性物質のような検出薬が特に興味深い。蛍光、化学発光、熱感受性、不透明、ビーズ、磁気および振動物質もまた、本発明のコロイド状金属ナノ粒子に接合または結合する検出薬として使用することが考えられる。
【0085】
ナノ粒子混合物の細網内皮系による検出、ならびに肝臓および脾臓による取り込みを回避する際に有用であってよい、チオール誘導体化ポリエチレングリコール(PEG-チオール)のような親水性ブロッカーもまた特に興味深い。
【0086】
1種以上の標的分子を、コロイド状金属に直接または間接に結合または接合させてよい。これらの標的分子は、直接特定の細胞または細胞型に対するものであり、細胞は特定の胚組織、器官、または組織に由来する可能性がある。そのような標的分子は、選択的に特定の細胞または細胞型に結合することができる分子のいずれかを含む。一般的に、そのような標的分子は、結合ペアの一員であり、そのようにして、他のメンバーと選択的に結合する。そのような選択性を、細胞膜中、核膜中、またはDNAに接合して発見されるレセプターのように、細胞上に天然に発見される構造に結合することにより達成してよい。結合ペアメンバーはまた、細胞、細胞型、組織または器官に、人工的に導入してもよい。
【0087】
標的分子はまた、細胞膜中に発見される分子に結合してもよく、細胞膜から遊離してもよいレセプターまたはレセプターの一部、リガンド、抗体、抗体断片、酵素、共因子、基質、および他の当業者に公知の結合ペアメンバーも含む。標的分子はまた、複数のタイプの結合パートナーに結合することが可能であってよい。例えば、標的分子は、あるクラスまたはファミリーのレセプター、あるいは他の結合パートナーと結合してよい。標的分子はまた、複数の酵素または酵素のタイプに結合することができる、酵素基質または共因子であってもよい。
【0088】
他の態様において、本発明は、医薬として使用するための、カハラリドFまたはそのアナログに接合したコロイド状金属ナノ粒子に対するものである。好ましい態様において、本発明は、癌を治療するための医薬として使用するための、カハラリドFまたはそのアナログに接合したコロイド状金属ナノ粒子を指す。
【0089】
他の態様において、本発明は、癌を治療するための医薬を製造するための、カハラリドFまたはそのアナログに接合したコロイド状金属ナノ粒子を指す。
【0090】
さらに別の態様において、本発明は、カハラリドFまたはそのアナログに接合した治療上有効量のコロイド状金属ナノ粒子を、治療の必要にある患者に投与する工程を含む、癌の治療方法に関する。
【0091】
腫瘍のタイプおよび疾患の進行度に依存して、本発明の治療は、腫瘍退縮の促進、腫瘍増殖の停止および/または腫瘍転移の防止に有用である。特に、本発明の方法はヒトの患者、特に再発したり、または以前の化学療法で難治性である患者に適している。一次治療もまた、構想されている。
【0092】
好ましくは、本発明のコロイド状金属ナノ粒子は、白血病、メラノーマ、乳癌、結腸癌、結腸直腸癌、卵巣癌、腎臓癌、上皮性癌、すい臓癌、肺癌、頸癌、肝臓癌および前立腺癌の治療用に使用される。
【0093】
さらなる態様において、本発明は、カハラリドFまたはそのアナログを、コロイド状金属ナノ粒子に接合汁工程を含む、カハラリドFまたはそのアナログの抗腫瘍活性を増大させる方法に関する。
【0094】
本発明の特定の態様において、実施例4に示されるように、抗増殖アッセイを使用して、カハラリド接合ナノ粒子の細胞毒性活性を決定した。単一ペプチド(P1およびP2)、20nmおよび40nmの平均サイズ(AuNP-20およびAuNP-40)を有する単一金ナノ粒子(AuNp)溶液、ならびに各接合体の細胞毒性の程度を、HeLa腫瘍細胞においてWTS-1アッセイにより決定し、続いて24時間インキュベーションした。
【0095】
驚くべきことに、療法のサイズ(20nmおよび40nm)のカハラリド接合AuNPの抗腫瘍活性が、それぞれのペプチド単独で与えられる活性よりも高いことが発見された。そして、カハラリドFおよびそのアナログで官能化したコロイド状金ナノ粒子は、対応するカハラリドFおよびそのアナログに対して、改善した抗腫瘍活性を示した。いずれの理論にもとらわれることなく、カハラリドFおよびそのアナログの生物活性におけるこの上昇は、抗腫瘍剤の提供者として作用し、その表面に無数のペプチド分子を濃縮するナノ粒子の結果である可能性があることが理論付けられる。これは、図3Bによるものであり、実施例3において、金ナノ粒子のローディングを定量化した結果によるものである。
【0096】
さらに、ナノ粒子サイズもまた、in vitro細胞毒性に関連して観測される。この点において、AuNP-40接合体は、AuNP-20接合体よりもわずかに細胞毒性が高かった。この効果は、実施例4に開示されるように、AuNP-40接合体のより良好な細胞取り込みに関連するかもしれない。
【0097】
更なる態様では、カハラリドFまたはそのアナログと接合したコロイド状金属ナノ粒子、ならびに薬学的に許容可能なビヒクルを含む薬剤組成物に関する。
【0098】
「ビヒクル(vehicle)」の語は、希釈剤、アジュバント、賦形剤、または担体を指し、これらとともに、本発明の接合コロイド状金属ナノ粒子は投与される。所望であれば、本発明の薬剤組成物はまた、必要であれば、接合コロイド状金属ナノ粒子の意図される治療効果を上昇、制御、または他に方向付ける添加剤、ならびに/あるいはpH緩衝剤、張力活性剤(tensioactive)、共溶媒、バルク化剤、保存剤などのような、補助物質または薬学的に許容可能な物質も含むことができる。適切な薬学的ビヒクルの例は、E. W. Martinによる"Remington's Pharmaceutical Sciences"に記載されている。前記ビヒクルに関する付加的な情報を、製薬技術(Pharmaceutical Technology)のハンドブックのいずれか(例えば、galenic pharmacy)に発見することができる。
【0099】
本発明の薬学組成物は、選択される投与経路により配合されるであろう。本発明の薬学組成物を、経口、直腸、経皮、眼、鼻、局所、膣または非経口経路を含むがそれに限定されない、いずれかの適切な経路により投与することができる。特定の実施態様において、薬学組成物は、被験者、例えばヒトに、非経口投与、好ましくは静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下投与による非経口投与に適するように配合される。例示的であるが非限定的な、非経口投与用の適切な配合物の例は、溶液、懸濁物、エマルション、凍結乾燥組成物などである。投与の必要にある被験者に対する本発明の薬学組成物の投与を、慣用的な手段で実行することができる。
【0100】
本明細書にいて、「被験者(subject)」の語は、動物、好ましくは、非霊長類(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラットまたはマウス)、および霊長類(例えば、サルまたはヒト)を含む哺乳類を指す。好ましい実施態様において、被験者はヒトである。
【0101】
特定の実施態様において、本発明の薬剤組成物の投与は、静脈内投与経路によるものであり、標準的な装置、例えば、標準末梢静脈カテーテル、中心静脈カテーテル、または肺動脈カテーテルなどを通した静脈送達を含むであろう。いずれかの場合において、本発明の薬剤組成物は、当業者に公知の適切な装備、機器および装置を使用して投与されるであろう。
【0102】
本発明の薬剤組成物の投与の用量およびスケジュールは、特定の配合、投与の様式、および特定の部位、および治療される腫瘍によって変化するであろう。年齢、体重、性別、食事、分泌速度、被験者の状態、薬剤の組み合わせ、反応感受性および疾患の重篤度のような他の因子を考慮すべきであろう。最大耐性用量内で、連続的にまたは周期的に、投与を実行することができる。
【0103】
好ましい実施態様において、薬剤組成物を静脈内投与に適するように配合する。好ましい注入時間は、24時間までであり、より好ましくは1から12時間であり、最も好ましくは1から6時間である。病院内に一晩滞在しないで治療を実行できるようにする、短い注入時間が特に望ましい。しかし、注入は、12から24時間であってよく、必要であればより長くてよい。注入を、およそ1から4週間の適切な感覚で実行してよい。
【0104】
本発明のさらなる態様において、接合したコロイド状金属ナノ粒子および本発明の薬剤組成物を他の薬剤と使用して、癌治療のための併用療法を提供することができる。他の薬剤は、同一の組成物の部分を形成してよく、あるいは同時または異なるときに投与するための分離薬剤組成物として提供されてよい。他の薬物の同一性は、特に限定されず、DNAアルキル化薬(シクロホスファミド、イホスファミド、シスプラチン、カルボプラチン、ダカルバジンなど)、代謝拮抗物質(5-フルオロウラシル、カペシタビン、6-メルカプトプリン、メトトレキセート、ゲムシタビン、シタラビン、フルダラビン)、分裂阻害剤(パクリタキセル、ドセタキセル、ビンブラスチン、ビンクリスチンなど)、アントラサイクリン類(ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロンなど)、トポイソメラーゼII阻害剤(トポテカン、イリノテカン、エトポシド、テニポシドなど)、ホルモン療法(タモキシフェン、フルタミドなど)を含む。
【0105】
特定の実施態様において、前記添加剤を、一定の空間を空けて、いずれかの順序で本発明の接合コロイド状金属ナノ粒子に同時または順番に投与され、すなわち最初に本発明の接合コロイド状金属ナノ粒子、次に添加剤を投与することができ、あるいは最初に添加剤を、次に本発明の接合コロイド状金属ナノ粒子を投与することができる。別の異なる実施態様において、本発明の接合コロイド状金属ナノ粒子および添加剤を、同時に投与する。
【0106】
本発明の特定の実施態様において、実施例5に示されるように、両方のサイズ(20 nmおよび40 nm)の接合コロイド状金ナノ粒子を、接合していないものよりも非常に高い量でリソソーム様構造中に発見した。これは、カハラリドペプチドが、接合ナノ粒子を脚坊内でリソソーム画分にガイドする事実によるものであってよい。
【0107】
本発明のさらなる態様は、添加剤にさらに接合される、カハラリドFまたはそのアナログに接合したコロイド状金属ナノ粒子、ならびに前記添加剤をリソソーム様構造に細胞内に送達するためのその使用に関する。
【0108】
好ましい実施態様において、前記添加剤は治療薬である。「治療薬(therapeutic agent)」の語は、前に記載されている。
【0109】
従って、別の態様において、本発明は、細胞内標的、特にリソソーム様画分に治療薬を選択的に送達する方法を提供し、前記方法は、前記治療薬を本発明のカハラリド接合ナノ粒子と接合する工程を含む。
【0110】
他の態様において、本発明は、以下の工程を含む、カハラリドFまたはそのアナログと接合したコロイド状金属ナノ粒子を取得する方法に関する。
(i) 金属塩の溶液を還元することによりコロイド状金属ナノ粒子を取得する工程;
(ii) 接合ナノ粒子を形成するために十分な時間の間、工程i)で取得したコロイド状金属ナノ粒子溶液を、カハラリドFまたはそのアナログと混合する工程であって、カハラリドFまたはそのアナログは、コロイド状金属ナノ粒子に対して過剰に存在する工程;
(iii) 任意に、接合ナノ粒子を、添加剤と混合して反応混合物を形成し、前記添加剤に接合ナノ粒子が結合するために十分な時間の間、反応混合物をインキュベートする工程;ならびに
(iv) 接合コロイド状金属ナノ粒子を単離する工程。
【0111】
濾過、透析、遠心分離法、アフィニティカラム、磁気分離、メタノール、エタノールなどのような有機溶媒を使用する沈殿法のような、当業者に公知の技術により、接合したコロイド状金属ナノ粒子の単離を実行することができる。好ましくは、本発明の官能化コロイド状金属ナノ粒子の単離を、透析により実行する。
【0112】
コロイド状金属ナノ粒子の表面に結合した接合ペプチド、および任意にさらなる薬剤の量を、ELISAまたは分光光度法のような、タンパク質、治療剤または検出剤を測定するための定量方法により決定することができる。
【0113】
本発明はさらに、理解において助けとなるが、それ自身の制限とは考えられない、以下の実施例を参照して説明されるであろう。
【0114】
より正確な記載を提供するために、本明細書における定量的表現は、「約(about)」の語で正規化されない。「約」の語が、明白に使用されていようといまいと、本明細書におけるいずれの量も、実際に得られる値を指すことが意図され、そのような得られる値に対する実験的および/または測定上の条件に基づき、合理的に推定されるであろう、そのような得られる値に対する近似値も指すことも意図されることが理解される。
【実施例】
【0115】
実施例1.カハラリドFアナログの合成
両方のペプチド(P1およびP2)を、以前に記載されたFmoc/tBu固相合成ステラテジー(Lopez-Macia A et al. J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 11398-11401)を使用して合成した。
【0116】
物質および反応物
Cl-TrtCl-レジン (100 mg, 1.56 mmol/g) ならびに保護Fmoc-L-アミノ酸およびFmoc-D-アミノ酸誘導体を、Iris Biotech GmbH (Marktredwitz, Germany), Luxembourg Industries (Tel-Aviv, Israel), Neosystem (Strasbourg, France), Calbiochem-Novabiochem AG (Laufelfingen, Switzerland) および Bachem AG (Bubendorf, Switzerland)より購入した。ジイソプロピルカルボジイミドをFluka Chemika (Buchs, Switzerland)から、HOAtをGL Biochem (Shanghai, China)から、PyBOPをCalbiochem-Novabiochem AGから、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)をAlbatros Chem. Inc. (Montreal, Canada)から取得した。ペプチド合成およびRP-HPLC装置のための溶媒を、Scharlau (Barcelona, Spain)から取得した。トリフルオロ酢酸(TFA)を、KaliChemie (Bad Wimpfen, Germany)から取得した。使用した他の化合物を、Aldrich (Milwaukee, WI, USA)から取得し、それらは、商業上利用可能な最も高純度のものであった。
【0117】
PDA 995検出器、逆相Symmetry C18 (4.6 x 150 mm) 5-μmカラム、および0.036% TFAから0.045% TFAとH2Oへの線形勾配MeCNを有するWaters Alliance 2695 (Waters, MA, USA)クロマトグラフィーシステムを使用して、HPLCを実行した。システムを、1.0 mL/分の流速で走らせた。UV/Vis 検出器2487を有するWaters Alliance 2796、ならびに逆相Symmetry300 C18 (3.9 x 150 mm) 5-μm カラム、および0.1%蟻酸を有するH2Oと0.07%蟻酸を有するMeCNを移動相として、SI-MS Micromass ZQ (Waters)クロマトグラフィーシステムを使用して、HPLC-MSを実行した。MALDI Voyager DE RP time-of-flight (TOF) 分光光度計 (PE Biosystems, Foster City, CA, USA)に、マススペクトルを記録した。
【0118】
固相合成
前記2つのペプチドを、ポリエチレン多孔ディスクでフィットさせたポリプロピレンシリンジ中で、Fmoc固相ステラテジーを使用して合成した。Fmocアミノ酸の側鎖を、以下のように保護した。tert-ブチル基(tBu)でThrを保護し、トリチル基(Trt)でCysを保護した。溶媒および可溶試薬を、吸引により除去した。脱保護、カップリング、および順次脱保護工程の間に、各回に10 mL溶媒/1gレジンを使用して、DMFおよびDCMで線条を実行した。ピペリジン:DMF (1:4)で20分間処理することにより、Fmoc基を除去した。全ての合成を、Cl-TrtClレジン(100 mg各ペプチド)上で実行した。ジペプチドAlloc-Phe-(Z)Dhb-OHを除き、Fmoc-aa-OH (4 equiv)全てのカップリングを、室温で1.5時間、DMF中でDIC (4 equiv) および HOAt (4 equiv)と実行した。室温で1.5時間、PyBOP (4 equiv), HOAt (4 equiv) およびDIEA (12 equiv)とリカップリングした。ジペプチドAlloc-Phe-(Z)Dhb-OH (1 equiv)のカップリングを、DIEA (1 equiv)と5分間、DIEA (2 equiv)と1時間実行した。各カップリングの後、レジンをDMFおよびDCMで洗浄した。Kaiser (Kaiser, E.C., R. L. Bossinger, C. D. Cook, P. I., Anal. Biochem., 1969. 34, 595) またはde Clercq (Madder, A.F., N. Hosten, NGC. De Muynck, H. De Clercq, P.J. Barry, J. Davis, A.P., Eur. J. Org. Chem, 1999, 2787) 法を使用して、カップリングをモニタリングした。各カップリングの後、Ac2O:DIEA:DMF (4:2:94)とキャッピング(capping)工程を実行したが、ジペプチドAlloc-Phe-(Z)Dhb-OHに対してメタノール(300 μL)でキャッピング工程を実行した。PhSiH3 (10 equiv)の存在下で15分間、Pd(PPh3)4 (0.1 equiv)とAlloc基を除去し、それを3回繰り返した。固形支持体からペプチドを切断するために、レジンをDCM (3 x 1分)で洗浄し、乾燥し、その後TFA:DCM (1:99) (6 x 1分)混合物で再び洗浄し、DCMで洗浄し、100 μL H2Oおよび50 μL DIEAを含む丸底フラスコ中に濾過物を回収した。TFAを減圧下で蒸発させ、ペプチドを冷無水TBMEで沈殿させ、H2O: MeCN (1:1)中に溶解し、その後凍結乾燥した。2つのペプチドを、PyAOP (4 equiv) およびDIEA (8 equiv)溶液中で可溶化する際に、環状化した。それをその後24時間室温で撹拌したEllman G.L., Arch. Biochem. Biophys., 1959. 82,70)。環状化を、Ellman試験(Ellman’s test)およびRP-HPLCのいずれかにより容易にモニタリングした。その後溶液をN2で蒸発させ、 H2O: MeCN (1:1)中に溶解させ、その後凍結乾燥した。粗精製ペプチドを、半調製(semi-preparative)HPLCにより精製した。
【0119】
実施例2.金ナノ粒子の合成および特徴づけ
テトラクロロ金酸水素(HAuCl4 x H2O; Aldrich, Milwaukee, WI, USA)の還元により、金ナノ粒子を製造した。
【0120】
20 nmのサイズを有する金ナノ粒子を合成するために、Sagara T et al. J. Phys. Chem. B 2002, 106, 1205-1212に記載されたプロトコルに従って、HAuCl4 x H2O (8.7 mg)を水(1 mL)中に溶解させ、テトラクロロ金酸溶液を150°C還流でクエン酸ナトリウム溶液(100 mL, 水中2.2 mM)に添加し、反応物を、赤ワイン色が観察されるまで一様に激しく撹拌し続けた。
【0121】
一方、40 nmのサイズを有する金ナノ粒子を合成するために、少ない量の還元剤(水中クエン酸ナトリウム1.22 mM溶液 100 mL)を使用した点を除いて、上記と同じ手順を使用した。
【0122】
非接合金ナノ粒子を、透過電子顕微鏡(TEM)を使用して特徴づけた。従って、大量の金ナノ粒子の銅グリッド上の炭素被覆Formvarフィルム上に沈着させた。サンプルを、加速電圧80 kVで透過電子顕微鏡(JEOL JEM 1010 (Japan))で可視化した。図1Aおよび1Bに示す画像を、CCD Megaview III (SIS) カメラ (Munster, Germany)で取得した。
【0123】
金ナノ粒子には凝集はなく、20 nmナノ粒子に対して7%(図1A)、40 nmナノ粒子に対して10%(図1B)のサイズ変動を有するサイズの均一性が観察された。
【0124】
実施例3.接合金ナノ粒子の調製および特徴づけ
ナノ粒子サイズがどのように接合活性に関連するか実験するために、実施例1で取得された、ペプチド(P1およびP2)を、実施例2で取得された、2つのタイプの金ナノ粒子(20 nmおよび40 nm)に別々に接合した。
【0125】
過剰のペプチドを接合のために使用した(Kogan MJ et al. Nano Lett. 2006, 6(1), 110-115)。ペプチド溶液(1 mLの水中に1 mgのペプチドを溶解)を、室温で磁気撹拌しながら、10 mLの金ナノ粒子溶液(2.2 mMのクエン酸ナトリウムの水中の溶液)に一滴ずつ添加した。その後15分間かき混ぜることを維持した。その後、2.2 mMのクエン酸ナトリウムに対するSpectra/membrane (MWCO: 6-8000)内における3日間にわたる透析により、金複合体を精製した。過剰のペプチド(P1またはP2)を除去するために、溶液を6回変換した。
【0126】
金ナノ粒子接合物を、UV-可視光光度計、アミノ酸解析、透過電子顕微鏡(TEM)、電子エネルギー損失吸光法(EELS)、およびX線分光計(XPS)を使用することにより、徹底的に特徴づけた。
【0127】
UV-可視光光度計
各サイズの金ナノ粒子のUV-可視光吸収スペクトルを、2501PC UV-可視光記録分光光度計(Shimadzu Corporation, Kyoto, Japan)により室温で記録した。表面プラズモン共鳴バンドにおける特徴的なシフト(20 nmサイズナノ粒子に対して520 nm、40 nmサイズナノ粒子に対して530 nm)により、AuNP表面における変化が明らかにされた。全ての金コロイドは、510 nmと 550 nmの間の可視光範囲に単一の吸収ピークを示した。最大吸収波長は、20 nm-サイズの接合体よりも40 nm-サイズの接合体に対するほうが長かった(図2)。
【0128】
高解像度透過電子顕微鏡(HRTEM)
ウラニル酢酸染色下で、P1およびP2の両方に接合した金ナノ粒子の液滴を、銅グリッド上の炭素被覆Formvarフィルム上に沈着させた。高解像度透過電子顕微鏡(HRTEM)の結果を取得するために、電解放出電子銃顕微鏡(field emission gun microscope) JEOL 2010Fを、200 kV、0.19 nmの点間解像度で作働させて使用した。
【0129】
図3は、非被覆時(図3A)およびP1で被覆時(図3B)の20 nm金ナノ粒子の高解像度TEM顕微鏡像(HRTEM)を示す。ペプチドに相当するナノ粒子コアの周囲の層の存在(図3B)が、ウラニル酢酸染色で観察さされた。観察さされたように、ペプチドは、ナノ粒子の表面全体を覆い、ペプチドでキャップシタナノ粒子の水力学サイズを増大させた。さらに、EELS (電子エネルギー損失吸光法)およびXPS(X線光電子分光計)を使用して、表面上のS-Au結合の存在を確認した。
【0130】
電子エネルギー損失吸光法(EELS)
図4に示す電子エネルギー損失スペクトル(EELS)を、エネルギー解像度1.2 eVで、JEOL 2010F顕微鏡に連結したGatan Image Filter (GIF 2000)で取得した。
【0131】
Au O2,3エッジ(54 eV)における、電子エネルギー損失エッジ近縁スペクトル(electron energy loss near edge spectra)(EENLS)の正確な解析により、非接合Auナノ粒子のスペクトルを、P1-接合体に対して取得する場合(それぞれ図4Bおよび4E)エッジの形態がわずかに変化することが示された。Au O2,3エッジにおけるELNES形状の変化を、いくつかのAu表面原子上における結合の変化の原因である可能性がある。
【0132】
この結合変化の原因を決定するために、出願人は、およそ165 eVで設置したS L2,3エッジも解析した。この場合、Au接合ナノ粒子表面において取得されたエネルギーフィルタースペクトルは、およそ165 eVで明確なシグナルを示し(図4F)、Auナノ粒子表面におけるS原子の存在を示した。非接合ナノ粒子表面において解析された同じエネルギー領域は、図4Cに示されるように、ノイズシグナルのみを示した。非接合サンプルは、S原子を低量有していると推測されるので、S L2,3 エネルギー領域におけるシグナル-ノイズ比を評定するためにそれを使用した。Au O2,3ピークにおける最大値の間の平均比率は、非接合ナノ粒子に対して4・10-3であった。しかし、官能化ナノ粒子に対しては、8・10-3が観測され、シグナル-ノイズ比の増大は、結合したS原子によるものであろうことが示された。この最後の結果は、Au表面におけるS原子の存在を裏づけ、その結合によるAu O2,3 ELNESスペクトルのわずかな変化に影響するであろう。その結果、結合したS原子の存在は、P1ペプチドとのAuナノ粒子の官能化を示すであろう。
【0133】
X線分光計
金コロイドはさらに、X線光電子分光計(XPS)により特徴づけられる。XPS実験を、ポリ(メチルメタ)アクリレート表面(PMMA)に沈着したP1接合および非接合ナノ粒子に実行した。このポリマー表面を使用して、硫黄含有化合物をシリコン表面で解析する際の一般的に観察される問題である、基質に由来する干渉を最小化した。普通、シリコンオキシド表面で、XPS特徴づけを実行する。シリコン表面は、165 eVおよび167 eVで、それぞれSi2sおよび Si2pに相当する2つのシグナルを提示した。Si2sおよび Si2pシグナルは、重なっていた。干渉を回避するために、シリコン表面の替わりに、PMMAを使用した。硫黄不純物を捨て去るために、ポリマーのXPS特徴づけを行った。
【0134】
PMMA表面上で金ナノ粒子の液滴を沈着し(GoodFellow; Huntingdon, United Kingdom)、その後解析前に減圧下でサンプルを乾燥することにより、XPS実験を行った。金表面(Arrandee; Germany)およびP1 (0.1 mg)を、CHCl3 (1 mL)溶液に1時間浸潤させることにより、P1官能化金表面を取得した。
【0135】
XPSスペクトルは、163.2 eVが中心であった。硫黄原子の種々の化学的環境に基づいて、2つの異なる化学状態の基を分化することができる。1個の基は、反応していないペプチドに相当し、二番目の基は化学吸着した硫黄に相当する。種々の金属吸収部位により誘導される化学シフトにおける差異などにより、サブグループを区別することが可能である(Bensebaa F. Surface Science, 1998, 405, L472-L476)。
【0136】
図5に示されるS2pスペクトルにより、接着ペプチドあたり一個のみの硫黄原子の存在による弱いシグナルが与えられる。シグナルは、金上にグラフト化された硫黄に相当する、163.2 eVの最大値を有する広いバンドからなる。S2p3/2およびS2p1/2シグナルを通常別々に観測することができるにもかかわらず、おそらく巨大ペプチドによる電子放出の遮蔽による、単一の広いバンドが観測された。類似のS2pシグナルが、ペプチドが非官能化金表面上にある場合に取得された(Barr TL. Modern ESCA: the principles and practice of X-ray photoelectron Spectroscopy. CRC Press, Boca raton, FL, 1994)。
【0137】
金ナノ粒子ローディング(loading)の定量化
AuNPに対するペプチドの接合度を決定するために、透析していないアリコートの接合溶液(2.5 mL)を、30分間13,500 rpmで遠心分離した。上清を凍結乾燥し、その後HPLCで分析して、非接合ペプチドの量を決定した。そして、接合で使用されるペプチドのおよそ85%が、金ナノ粒子に複合体化していると決定された。粒子あたりのペプチドの数を、分光光度法で決定された、溶液中の金ナノ粒子の量でグラフト化ペプチドの濃度を割ることにより算出した。金コロイドのモル吸光係数を、20 nm粒子あたり73,500ペプチド、および40 nm粒子あたり58,800ペプチドの比率を示す文献(Jain, P. et al., J.Phys.Chem.B 110, 7238-7248)から取得した。しかし、20 nm AuNPの表面が1,250 nm2であり、拡張したコンフォメーションにおける分子の表面がで0.6 nm2あることを推測すると、20 nm AuNPを完全に覆うであろう分子の理論的な数は、2,090個だけである。それゆえ、出願人は、ナノ粒子が自己集積ペプチド分子により形成される多層でキャッピングされていると推測した。
【0138】
アミノ酸解析
金表面上のペプチドの完全性(integrity)を、アミノ酸解析により確認した。
【0139】
110°Cで24時間、HCl (6N)で酸加水分解した後、AccQ.タグ法によりアミノ酸解析を実行した。Waters Delta 600 RP-LCシステムにおける、254 nmのUV検出により解析を実行した。
【0140】
アミノ酸バリン、イソロイシンおよびプロリンの濃度の間の関係は、P1およびP2の両方において4:2:1であった。同じ関係が、金接合物においてアミノ酸解析により観察され(表1)、接合および透析の間、ペプチドが構造的完全性を維持していたことを示した。
【0141】
【表1】

【0142】
実施例4.抗増幅アッセイ
単一ペプチド(P1およびP2)、単一金ナノ粒子溶液(AuNP-20およびAuNP-40)、ならびにそれらそれぞれの接合物の細胞毒性活性の程度を、ヒト頸部上皮HeLa腫瘍細胞におけるWTS-1アッセイを使用した後、24時間インキュベーションする細胞生存試験により決定した。各アッセイを、6回繰り返し、全体の実験を3回繰り返した。
【0143】
HeLa細胞系統(ATTC n° CCL-2)を、10%ウシ胎仔血清(FCS)、2mMグルタミン、50 U/mLペニシリン、および0.05 g/mLストレプトマイシンを含むDulbecco Modified Eagle’s Minimal Essential Medium (DMEM)低グルコース培地(Biological Industries)において、調節5% CO2雰囲気下37°Cで維持した。
【0144】
細胞生存試験のために、対数増殖期のHeLa細胞を、トリプシン-0.25%エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)溶液を使用して培養フラスコから分離させ、細胞懸濁物をガラスカバースリップ(Nalge Nunc International, Rochester, NY)上に、3.5 x 103 cells/cm2の濃度で播種した。24時間後、合流物(confluence)がおよそ70%から80%であるときに、WST 1アッセイを実行した。非接着細胞を洗い流し、分離した細胞を、5% CO2下37°Cで既知の濃度の金ナノ粒子とインキュベートした。
【0145】
WST 1アッセイ
各アッセイに対して、3.5 x 103個細胞/cm2を96穴プレート(Nalge Nunc)上に播種し、24時間培養した。最初のペプチド量の85%は、金ナノ粒子溶液中で、金表面にグラフト化されているか、そのまわりに多層を形成するかのいずれかであると推測して、接合物を、1x10-5 Mのペプチド濃度で添加した。5% CO2雰囲気下37°Cで24時間、細胞をインキュベートした。20時間後、10 μLのWST 1を添加した。細胞を、接合物溶液とさらに4時間インキュベートした。
【0146】
結果により、両方の金非接合ナノ粒子溶液が、AuNP-20に対して20%の阻害、AuNP-40に対して30%の阻害と決定された、HeLa細胞に対する残余細胞毒性を提示することが示された(図6)。単一ぺプチドの細胞毒性に関して、P2は、P1よりも低い細胞毒性である結果(それぞれ、10%対50%阻害)であった。さらなる細胞毒性が、P1接合物(AuNP-20-P1およびAuNP-40-P1の両方)、ならびにAuNP-20-P2に対して見出された。しかし、AuNP-40-P2は、対応する単一成分に比較して、より高い付加細胞毒性(60%阻害)の結果であった。これは、前者のより良好な細胞取り込みの結果である可能性があり、Chithraniら (Nano Letters, 2007, 7, 1542-1550)の発見と整合する。著者は、異なるサイズのナノ粒子の中で、50 nmのものが最も高いHeLa細胞による取り込みレベルを示したことを報告した。これらの結果と同意して、Osakiら (J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 6520-6521)は、50 nmナノ粒子が、より小さい物よりもより効率的に、レセプター介在エンドサイトーシスを介して細胞内に入ることを定性的に示した。
【0147】
一方、20 nmおよび40 nm両方のP2金接合物は、P1接合物よりも低い細胞毒性を示した。これらの結果は、非接合ペプチドに対して観察された細胞毒性活性と一致する。
【0148】
そして出願人は、カハラリドFおよびそのアナログの抗腫瘍活性を、これらの化合物をコロイド状金属ナノ粒子と接合することにより増大させることができることを報告した。
【0149】
実施例5.細胞内ナノ粒子局在
共焦点レーザー走査顕微鏡 (CLSM)
細胞内における金ナノ粒子の浸透および分布における接合ペプチドの影響を試験するために、接合および非接合ナノ粒子の両方を、共焦点顕微鏡で、それらの反射を観察することにより試験した。細胞をパラホルムアルデヒドで固定し、その後膜と核を染色した。
【0150】
HeLa細胞を2.5x103個細胞/cm2の濃度でガラスカバースリップ上に設置し、合流物60%まで増殖させ、その後P1およびP2ナノ粒子複合体のいずれかと、5% CO2雰囲気下37°Cで培養した。接合物を、ペプチド濃度1x10-5 Mで添加した。24時間後、カバースリップを、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で強くリンスし、細胞を室温で20分、PBS中4%のパラホルムアミドで固定し、その後PBS中で再水和した。細胞を固定したら、細胞を有するカバースリップをMowiolマウント媒体(mounting media) (Calbiochem, CA)でガラススライド上にマウントし、その後顕微鏡解析の前に一晩乾燥させた。60X/1.4 NA対物(objective)を有するOlympus Fluoview 500共焦点顕微鏡を使用して、サンプルを試験した。
【0151】
図7は、非接合金ナノ粒子と接合金ナノ粒子との間では、実質的な差異が存在することを示す。さらに、20 nm接合体と40 nm接合体との間にも差異が存在する。接合ナノ粒子と非接合ナノ粒子の両方が細胞質に入る一方、それらの運命はHeLa細胞の中に入った後で異なる。非接合AuNPは、細胞質を通して異なるリソソーム様体中に見られたが、少量のみであった。対照的に、接合ナノ粒子は、核領域に非常に近いリソソーム様区画に主に発見された。
【0152】
透過電子顕微鏡(TEM)
金接合体の細胞局在もまた、TEMにより試験した。
【0153】
HeLa細胞を、接合金ナノ粒子または非接合金ナノ粒子のいずれかとインキュベートした。細胞を、リン酸バッファー中の2.5%グルタルアルデヒドで固定し、その後4°Cで24時間固定剤中に維持した。その後細胞を同じバッファーで洗浄し、4°Cで、フェリシアン化カリウムを含む同じバッファー中で、1%四酸化オスミウムで後固定した。その後サンプルを、アセトン中で脱水し、エプトンレジン(Epon resin)に2日間浸潤させ、レジン中に埋没させ、60°Cで48時間重合した。超薄切片(Ultrathin section)を、Ultracut UCT超ミクロトームを使用して取得し、その後Formvar被覆銅グリッド上にマウントした。切片を、水およびクエン酸鉛中、2%酢酸ウラニルで染色し、その後JEM-1010電子顕微鏡 (Jeol, Japan)で観察した。
【0154】
TEM画像により、金粒子がリソソーム様構造に局在することが示された(図8)。インキュベートしたHeLa細胞中の非接合AuNPまたは接合AuNPの場合のいずれも、20 nm粒子と40 nm粒子の間で、局在の差異はなかった。しかし、接合AuNPと遊離AuNPの間の実質的差異が観察された:両方のサイズの接合AuNPは、非接合AuNPよりもはるかに多くの量でリソソーム様構造に見出された。これは、それがAuNPをリソソーム様構造に向かわせるペプチドであるという事実によるものであってよい。非接合AuNPは、細胞質を通して異なるリソソーム様体中に見られたが、少量のみであった。対照的に、接合ナノ粒子は、核領域に非常に近いリソソーム様区画に主に発見された。
【0155】
結論として、むき出しのAuNPと接合AuNPとの間の局在における実質的な差異が見出された。しかし、20 nmの接合AuNPに比較して、40 nmの接合AuNPの抗腫瘍活性がより高いにもかかわらず、粒子サイズによる局在の差異は観察されなかった。
【図1a】

【図1b】

【図3a)】

【図3b)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カハラリドFまたはそのアナログに接合したコロイド状金属ナノ粒子。
【請求項2】
カハラリドFのアナログが、遊離チオール基によりコロイド状金属ナノ粒子に接合される、請求項1に記載の接合ナノ粒子。
【請求項3】
コロイド状金属が金である、請求項1または2に記載の接合ナノ粒子。
【請求項4】
1 nmから500 nmの範囲にある平均粒子サイズを有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の接合ナノ粒子。
【請求項5】
5 nmから100 nmの範囲にある平均粒子サイズを有する、請求項4に記載の接合ナノ粒子。
【請求項6】
20 nmから40 nmの範囲にある平均粒子サイズを有する、請求項4に記載の接合ナノ粒子。
【請求項7】
添加剤にさらに接合されている、請求項1から6のいずれか一項に記載の接合ナノ粒子。
【請求項8】
前記添加剤が治療剤である、請求項7に記載の接合ナノ粒子。
【請求項9】
医薬として使用するための、請求項1から8のいずれか一項に記載の接合ナノ粒子。
【請求項10】
癌治療用の医薬として使用するための、請求項9に記載の接合ナノ粒子。
【請求項11】
癌治療用の医薬を製造するための、請求項1から8のいずれか一項に記載の接合ナノ粒子の使用。
【請求項12】
請求項1から8のいずれか一項に記載の接合ナノ粒子、および薬学的に許容可能なビヒクルを含む薬剤組成物。
【請求項13】
癌治療のための併用療法を提供するために、他の薬剤と組み合わせた、請求項1から8のいずれか一項に記載の接合ナノ粒子の使用。
【請求項14】
コロイド状金属ナノ粒子とカハラリドFまたはそのアナログを接合させる工程を含む、カハラリドFまたはそのアナログの抗腫瘍活性を増大させる方法。
【請求項15】
カハラリドFのアナログが、遊離チオール基によりコロイド状金属ナノ粒子に接合される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
コロイド状金属が金である、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
ナノ粒子が、1 nmから500 nmの範囲にある平均粒子サイズを有する、請求項14から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
ナノ粒子が、5 nmから100 nmの範囲にある平均粒子サイズを有する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ナノ粒子が、20 nmから40 nmの範囲にある平均粒子サイズを有する、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記添加剤をリソソーム様構造に細胞内送達するための、請求項7に記載の添加剤にさらに接合された接合ナノ粒子の使用。
【請求項21】
前記添加剤が治療剤である、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
請求項1から8のいずれか一項に記載の接合ナノ粒子を取得するための方法であって、
(i) 金属塩の溶液を還元することによりコロイド状金属ナノ粒子を取得する工程;
(ii) 接合ナノ粒子を形成するために十分な時間の間、工程i)で取得したコロイド状金属ナノ粒子溶液を、カハラリドFまたはそのアナログと混合する工程であって、カハラリドFまたはそのアナログが、コロイド状金属ナノ粒子に対して過剰に存在する工程;
(iii) 任意に、工程ii)で取得された接合ナノ粒子を添加剤と混合して反応混合物を形成し、接合ナノ粒子が前記添加剤に結合するために十分な時間の間、反応混合物をインキュベートする工程;ならびに
(iv) 接合コロイド状金属ナノ粒子を単離する工程
を含む方法。
【請求項23】
カハラリドFのアナログが、遊離チオール基を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
コロイド状金属が金である、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
ナノ粒子が、1 nmから500 nmの範囲にある平均粒子サイズを有する、請求項22から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
ナノ粒子が、5 nmから100 nmの範囲にある平均粒子サイズを有する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
ナノ粒子が、20 nmから40 nmの範囲にある平均粒子サイズを有する、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
癌治療を必要とする患者に、請求項1から8のいずれか一項に記載の接合ナノ粒子を治療上有効量投与する工程を含む、癌治療の方法。

【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図2】
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【図6】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−515330(P2011−515330A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−544718(P2010−544718)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/051080
【国際公開番号】WO2009/095480
【国際公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(501440835)ファルマ・マール・ソシエダード・アノニマ (30)
【Fターム(参考)】