説明

改質ポリアミド系繊維材料の製造方法

【課題】
ナイロンの保湿性改善加工は、風合いに問題を生じ易いこと、加工効果の耐久性が不十分であること、加工薬剤が多種類・高価で経済性に問題があること、加工製品の品質に再現性が得がたい等の問題点に着目して、経済性に優れ、機能性付与効果も大きく、耐久性にも優れた実用的価値の高い加工薬剤のスクリーニングと加工方法を提供する。
【解決手段】
動植物蛋白質の結合剤として多官能型カチオン化剤を用い、ポリアミド系繊維材料に該動植物蛋白質を水溶媒中で反応させることを特徴とする改質ポリアミド系繊維材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド系繊維材料に保湿性、着用快適性、風合などの機能性を付与するように改質加工された改質ポリアミド系繊維材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活の質の向上と環境・安全・健康問題への関心の高まりに伴って、形状記憶繊維、難燃・防炎繊維、紫外線遮蔽繊維、防虫・防ダニ繊維、抗菌繊維、消臭繊維、高質感・高風合繊維、皮膚障害予防繊維等の機能性繊維が次々と開発されており、繊維業界の注目を集めている。
【0003】
一方、中国に席捲されつつある日本の繊維産業が生き残り、中国と共生する為には、繊維に付加価値をつけた機能性繊維の開発が不可欠と考えられ、そのような観点からも機能性繊維の開発と実用化は日本の繊維業界にとって極めて重要な課題である。
【0004】
その様な中で、吸湿性が劣る事が原因で着用快適性の悪い合成繊維に動植物蛋白質、例えば、セリシン、絹フィブロイン、コラーゲン、ケラチン、大豆蛋白等の蛋白質を繊維材料に付与して、肌に優しい加工、即ち、風合いの良い肌ざわり感、吸・放湿性、消臭性、静電気防止性、抗酸化性、紫外線遮蔽性、抗菌性、皮膚障害予防性等の機能を付与する加工が研究されており、一部は実用化されている。
【0005】
ナイロンに関する機能性加工の公知文献としては、特許文献1或いは非特許文献1に記載があるように、繊維表面に横縞状の溝を入れたり、トライポット型断面にするなど、繊維の断面バリエーションに変化をもたせた吸放湿ナイロン素材の開発について記載がある。
【0006】
特許文献2には、ポリアミド系合成繊維の親水化加工法として、酸水溶液処理し、次いでグリシジルエーテル基又はカルボキシル基を複数有する架橋化試薬水溶液で処理し、更に多糖水溶液で処理する加工法が記載されている。
【0007】
更に、特許文献3には茶抽出物、カテキン、サポニン及びタンニンを100℃以上の高温で処理する染着法でナイロン繊維に担持させる機能性加工法の記載がある。
【0008】
これらの例に見るようにナイロン繊維の改質加工法の実用化研究は数多くなされているが、それぞれ一長一短があり、経済性に優れ、耐久性も良く効果的な保湿性を付与する加工法はまだまだ研究の余地が残っている。
【0009】
例えば繊維の断面バリエーションを変化させる方法は、保湿性や風合の改善と言う点では限界があり不充分である。前記架橋剤を用いる加工法は工程が煩雑で、多くの高価な薬剤を使用して加工する関係で加工コストが高くなる。コーティングに樹脂を用いる場合にはその有害性も懸念されている。
【0010】
更にまた、特許文献4には、セリシン水溶液と固着剤よりなる溶液を処理液として合成繊維を処理することを特徴とする改質加工法が開示されている。この場合は、水溶性のセリシンと不溶化剤とを化学反応させる事によってセリシンを不溶化させると言う内容であり、不溶化されたセリシンを疎水性の合成繊維に物理的に付与すると言う考え方である。
【0011】
従ってこの場合も洗濯によって徐々にセリシンが脱落していくと言う問題がある。またこの特許文献4には糸を加工するという概念は含まれていないが、仮にこの特許で糸を加工すると糸が黄変するという問題がある。不溶化薬剤を使用するとの記載があるが、例えばアルデヒド類はホルマリン発生の問題があるし、樹脂化する薬剤を使用すると繊維の風合を損なうと言う問題がある。
【0012】
また、有機溶剤中で塩化シアヌルをポリアミド繊維と反応させるという考え方もあるが、その場合は激しい刺激臭を除外処理するための工程や設備が複雑となり、溶剤の回収工程も必要になり、特別な設備投資が必要となるので、大幅なコストアップが避けられないため経済的に成り立たない。
【特許文献1】特許第3281477号公報
【非特許文献1】「繊維と工業」Vol.61、No.3、P-63(2005年)
【特許文献2】特開平9−296369号公報
【特許文献3】特開2000−328469号公報
【特許文献4】特許第2588445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記した通りナイロンの保湿性改善加工法は、風合いに問題を生じ易いこと、加工効果の耐久性が不十分であること、加工薬剤が多種類・高価で経済性に問題があること、加工製品の品質に再現性が得がたい等の問題点に着目して、我々は経済性に優れ、機能性付与効果も大きく、耐久性にも優れた実用的価値の高い加工薬剤のスクリーニングと加工方法の実用化研究を行った。
【0014】
通称ナイロンと呼ばれるポリアミド系繊維材料はその特性上、パンティストッキング、インナー、スポーツ用品等、肌に直接触れる衣類に用いられる事が多く、着用快適性で代表される機能性の付与は極めて重要な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、動植物蛋白質の結合剤として多官能型カチオン化剤を用い、ポリアミド系繊維材料に該動植物蛋白質を水溶媒中で反応させることを特徴とする改質ポリアミド系繊維材料の製造方法である(請求項1)。
【0016】
また、本発明は、多官能型カチオン化剤が、第4級アンモニューム基をカチオン基として含有し、反応基としてエポキシ基又はクロルヒドリン基を1分子中に2個以上有する多官能型カチオン化剤であることを特徴とする請求項1に記載の改質ポリアミド系繊維材料の製造方法である(請求項2)。
【0017】
更に本発明は、動植物蛋白質として、セリシン、絹フィブロイン、コラーゲン、ケラチン、キトサン、キチン、ゼラチン、大豆蛋白及びそれらの加水分解生成物の単独或いは混合物から選ばれることを特徴とする請求項1乃至請求項2の何れかに記載の改質ポリアミド系繊維材料の製造方法である(請求項3)。
【0018】
次に、本発明は、ポリアミド系繊維材料が、6,6−ナイロン、6−ナイロン、6,10−ナイロン、11−ナイロン、9−ナイロン及び4−ナイロンの単独或いは混合物であるか、或いは合成繊維及び/又は天然繊維との混紡・交織繊維材料から選ばれることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の改質ポリアミド系繊維材料の製造方法である(請求項4)。
【0019】
次にまた、本発明は、請求項1乃至請求項4の何れかに記載の方法によって製造された改質ポリアミド系繊維材料である(請求項5)。
【発明の効果】
【0020】
本発明者は、経済性、環境・安全性、加工製品の風合・耐久性・加工効果等、品質に優れた肌に優しい機能性繊維の加工法に関する開発研究を推進した結果、本発明の方法によって、ポリアミド系繊維材料に保湿性、着用快適性、風合などの機能性を付与することが出来ることを見出した。
【0021】
即ち、本発明方法によって加工・改質されたポリアミド系繊維材料は、保湿性と着用快適性に優れた機能性繊維となり、皮膚に優しい暖かみのある風合いが付与され、繰り返し洗濯耐久性及び経済性にも優れた機能性繊維が得られる。更に、本発明方法は安価な薬剤を使用して簡単な操作法で加工ができるので経済性も優れており実用的価値が高い加工法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、動植物蛋白質の結合剤として多官能型カチオン化剤を用い、ポリアミド系繊維材料に該動植物蛋白質を水溶媒中で反応させることを特徴とする。換言すれば、本発明は、官能型カチオン化剤と動植物蛋白質を、水溶媒中でポリアミド系繊維材料と架橋反応させると同時にカチオン化する事によってポリアミド系繊維材料に動植物蛋白質を結合させ、同時にカチオン化して保湿性や風合を初めとする着用快適性を、優れた経済性の元に改質加工する事を特徴とするポリアミド系繊維材料の改質加工法である。
【0023】
その目的を達成する為には、糸を加工する場合を例に説明すると、前記の多官能型カチオン化剤、泡斑を解消する為の脱気剤、具体的には、例えば、タスポンSN-1(ランクセス社製)、チーズの内側と外側の加工斑を無くすための内外差防止剤、具体的には、例えば、MIRALAN QJ(CIBA社製)等を染浴(水溶媒中)に加え、少量の触媒、具体的には、例えば、過硫酸アンモン、硼弗化亜鉛、タングステン錯体などのエポキシ化触媒とポリアミド繊維材料とともに、加熱反応したあと、水洗ソーピングして乾燥すればポリアミド系繊維材料を改質加工する事ができる。
【0024】
本発明で用いる事が出来る動植物蛋白質としては、セリシン、絹フィブロイン、コラーゲン、ケラチン、キトサン、キチン、ゼラチン、大豆蛋白及びそれらの加水分解生成物の単独或いは混合物から選ばれるものが用いられる。
【0025】
本発明で用いる事が出来るカチオン化剤としては、業界誌「加工技術」Vol.26,No.12(1991)「カチオン化剤とその応用」802頁第1表に記載がある低分子化合物の内、反応基が2個以上あるものが使用できる。即ちクロルヒドリン基或いはエポキシ基を1分子中に2個以上有する多官能型カチオン化剤、具体的には、例えば、カチオノンUK(一方社油脂工業社製)をあげる事ができる。この場合、カチオン化剤としては、多官能型カチオン化剤の他に、単官能型カチオン化剤、例えば3-クロル-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニュームクロライド等と併用することは、一向に差支えない。
【0026】
本発明の実施形態を、糸を加工する場合についてより詳しく具体的に説明する。
浴比1:10〜1:30の水溶媒の中に、脱気・消泡剤を0.1〜5%owf、内外差防止剤を1〜10%owf、多官能型カチオン化剤を5〜20%owf、動植物蛋白質を1〜10%owf及び0.1〜1.0%の触媒を常温で加えて攪拌、分散或いは溶解させる。この中にナイロン繊維(糸)を加えて液を循環しながら昇温して、100〜150℃で0.5〜3時間保温循環する。次いで冷却して排水、水洗、温水によりソーピングして乾燥すればよい。
【0027】
本発明の加工対象繊維材料としては、通常ナイロンと総称されているポリアミド系合成繊維類で、具体的には6,6−ナイロン、6−ナイロン、6,10−ナイロン、11−ナイロン、9−ナイロン及び4−ナイロンの単独或いは混合物であるが、他の合成繊維或いは半合成繊維、例えばポリウレタン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、アセテート、ポリ乳酸、ビスコースレーヨン及び天然繊維、例えば絹、羊毛、綿などとの混紡・交織繊維であっても良い。また、糸、織物、編物或いは不織布などあらゆる形態の繊維材料に適用できる。
【実施例】
【0028】
以下実施例によって本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に制約されるものではない。なお、例中%は重量%を意味する。
【0029】
実施例1
1kg用のチーズ染色機に水12Lを仕込み、6,6ナイロンのチーズ巻きの糸(70d)1kgをセットする。次いで液を循環しながら、脱気剤としてタスポンSN-1(ランクセス社製)を10g(1%owf)、内外差防止剤としてMIRALAN QJ(CIBA社製)を30g、多官能カチオン化剤としてカチオノン-UK(一方社油脂工業社製)を100g、動植物蛋白質としてコラーゲン(平均分子量約1万の水溶性コラーゲンパウダー)を30g、触媒として過硫酸アンモンを2g加えて溶解する。密閉状態で1.5℃/min.で昇温して、120℃で2時間保温循環する。 次いで70℃まで降温して排液し、水洗を2回繰り返し、60℃で5分間湯洗してから更に水洗して乾燥する。
【0030】
比較例1
前記実施例1におけるカチオン化剤(カチオノン-UK)の代わりに、カチオン基を有しない多官能エポキシ化剤、エポライト40E(共栄社化学社製、エチレングリコールジグリシジルエーテル)を等量用いて同条件で加工した。
【0031】
効果の比較:
(1)保湿性:
このようにして改質加工したナイロン糸をパンティストッキングに編みたてて、20℃×65%RHで保湿性試験を行ったところ、
比較例1は、4.5%であったが、実施例1は、5.0%であった。
上記試験結果から明らかなように、本発明加工品は保湿性が優れている事が確認された。
【0032】
(2)着用快適性試験:
モニターによって上記加工品と未加工品の製品について1)肌触り感、2)なめらかさ、3)しなやかさ、4)さらっとした感じ、5)蒸れ感、について着用官能試験を行った結果、実施例1が比較例1より明らかに優れていた。また、洗濯を20回繰返したあとの評価も全く同等に優れていた。
【0033】
(3)黄変:
本実施例1では糸の黄変は認められなかったが、比較例1の場合は、糸の黄変が大であり、白もの或いは淡色で用いる分野では比較例1の加工糸は使用が困難であった。
【0034】
(4)染色性:
酸性染料(Aminyl Red E-2BL(田岡化学社製))を用いて常法により同条件で染色した結果、実施例1は比較例1に比べて染色濃度が約20%優れていた。
【0035】
実施例2
実施例1における加工温度を130℃で2時間行った場合、保湿性、着用快適性、染色性とも実施例1とほぼ同様に優れていた。
【0036】
実施例3
1kg用のチーズ染色機に水12Lを仕込み、6,6ナイロンのチーズ巻きの糸(70d)1kgをセットする。次いで液を循環しながら、脱気剤としてタスポンSN-1(ランクセス社製)を10g(1%owf)、内外層差防止剤としてMIRALAN QJ(CIBA社製)を30g、多官能カチオン化剤としてカチオノン-UK(一方社油脂工業社製)を100g、動植物蛋白質としてセリシン(平均分子量約1万の水溶性セリシンパウダー)を30g、触媒として過硫酸アンモンを2g加えて溶解する。密閉状態で1.5℃/min.で昇温して、130℃で2時間保温循環する。次いで70℃まで降温して排液し、水洗を2回繰り返し、60℃で5分間湯洗してから更に水洗して乾燥する。
【0037】
(1)保湿性:
このようにして改質加工したナイロン糸をパンティストッキングに編みたてて、20℃×65%RHで保湿性試験を行ったところ、未加工品は、4.1%であったが、上記改質加工品は、5.4%であった。上記試験結果から明らかなように、本発明加工品は保湿性が優れている事が確認された。
【0038】
(2)着用快適性試験:
モニターによって上記加工品と未加工品の製品について1)肌触り感、2)なめらかさ、3)しなやかさ、4)さらっとした感じ、5)蒸れ感、について着用官能試験を行った結果、本実施例品が未加工品に比べて明らかに優れていた。また、洗濯を20回繰返したあとの評価も全く同等に優れていた。
【0039】
実施例4
実施例3における加工温度を120℃で2時間行った場合、保湿性、着用快適性とも実施例3とほぼ同様に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば多官能型カチオン化剤を用いて動植物蛋白質をポリアミド系繊維材料に強固に結合させることが可能となり、保湿性、着用快適性、風合い、耐久性、染色性の優れた繊維素材を得る事ができる。更に、本発明方法は安価な薬剤を使用して簡単な操作法で加工ができるので経済性も優れており実用的価値が高い加工法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動植物蛋白質の結合剤として多官能型カチオン化剤を用い、ポリアミド系繊維材料に該動植物蛋白質を水溶媒中で反応させることを特徴とする改質ポリアミド系繊維材料の製造方法。
【請求項2】
多官能型カチオン化剤が、第4級アンモニューム基をカチオン基として含有し、反応基としてエポキシ基又はクロルヒドリン基を1分子中に2個以上有する多官能型カチオン化剤であることを特徴とする請求項1に記載の改質ポリアミド系繊維材料の製造方法。
【請求項3】
動植物蛋白質として、セリシン、絹フィブロイン、コラーゲン、ケラチン、キトサン、キチン、ゼラチン、大豆蛋白及びそれらの加水分解生成物の単独或いは混合物から選ばれることを特徴とする請求項1乃至請求項2の何れかに記載の改質ポリアミド系繊維材料の製造方法。
【請求項4】
ポリアミド系繊維材料が、6,6−ナイロン、6−ナイロン、6,10−ナイロン、11−ナイロン、9−ナイロン及び4−ナイロンの単独或いは混合物であるか、或いは合成繊維及び/又は天然繊維との混紡・交織繊維材料から選ばれることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の改質ポリアミド系繊維材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の方法によって製造された改質ポリアミド系繊維材料。

【公開番号】特開2009−74201(P2009−74201A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244651(P2007−244651)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(595067419)
【Fターム(参考)】