説明

改質ポリエステル繊維および改質ポリエステル繊維の製造方法

【課題】衣料に適した柔軟な風合いと良好な染色堅牢度を有し、かつ変色が少なく、殺菌性、抗ウィルス性および洗濯耐久性に優れた改質ポリエステル繊維を提供する。
【解決手段】本発明の改質ポリエステル繊維は、ウンデシレン酸および/またはウンデシレン酸の誘導体と重合性不飽和基を有する化合物とをエステル化反応させたエステル化物が、ポリエステル繊維表面で重合していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質ポリエステル繊維に関し、特に医療用途に好適に用いられる改質ポリエステル繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、強度、染色堅牢度等に優れ、加工の汎用性が高いため、衣料や産業資材などの幅広い分野で利用されている。近年、繊維業界において、衛生への配慮が非常に重要になって来ており、特に、新型インフルエンザの危機管理が叫ばれている。このような状況のなかで、食品業界における作業着、医療業界における白衣、精密機器製造業界における作業着等のユニフォーム衣料分野で、細菌やウィルス等に対する殺菌性を有するポリエステル繊維への要望が強くなってきており、種々の検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、銀、銅、鉛などの抗菌性能を有する金属イオンを含有したポリエステル繊維を含む布帛が提案されている。特許文献2には、第4級アンモニウム塩などの抗菌性有機物カチオンを、バインダー樹脂とともに繊維表面に塗布した多機能繊維構造物が提案されている。特許文献3には、光を照射することにより活性酸素を発生することで殺菌力を発現しうる酸化物光触媒型抗菌剤と親水性樹脂とを、バインダー樹脂で繊維表面に塗布した防汚性繊維構造物が提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1の布帛は、様々な菌種に対する制菌性能を安定して発揮させることが難しいという問題や、金属イオンが溶出して繊維が変色するという問題があった。特許文献2の多機能繊維構造物は、効率的に抗菌作用を発揮することができるものの、洗濯により抗菌作用が低下する(すなわち、洗濯耐久性に劣る)という問題があった。特許文献3の防汚性繊維構造物は、硬度の高い無機物層が多層となるために、非常に硬い風合いとなり衣料に不適であるという問題があった。
【0005】
一方、人の皮膚や汗にも含まれている成分であるウンデシレン酸は、皮膚の微生物やウィルスなどの静菌、殺菌等を制御する性能を有しているものであり、特に、人の口唇ヘルペスの症状緩和や白癬菌の殺菌効果が、サリチル酸の約20倍であることが知られている。
【0006】
例えば、特許文献4、特許文献5には、ウンデシレン酸誘導体を含有する抗菌繊維仕上げ組成物が提案されている。また、特許文献6には、ウンデシレン酸と天然熱硬化樹脂であるセラックを含有する繊維処理組成物が提案されている。特許文献7には、繊維製品に付与しうる抗菌剤として、ウンデシレン酸を有する化合物が提案されている。
【0007】
しかしながら、特許文献4、5の場合は、ポリエステル繊維に洗濯耐久性を付与するために別途バインダー樹脂を必要とするため、風合いが硬くなるという問題がある。特許文献6においては、天然の熱硬化樹脂であるセラックを併用しているため、特許文献4および5と同様に、風合いが硬くなるという問題がある。特許文献7は、繊維上にウンデシレン酸を有する化合物を固着させるために、ラジカル重合開始剤を用い、さらにスチーム処理でラジカル重合を行うものであるため、染色堅牢度が低下したり、変色したりするという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−111221号公報
【特許文献2】特開平09−188970号公報
【特許文献3】特開2000−119956号公報
【特許文献4】特開平07−197376号公報
【特許文献5】特開2001−214368号公報
【特許文献6】特開2000−226770号公報
【特許文献7】特開2004−210665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記現状に鑑み、安全性の高いウンデシレン酸を用いることにより、衣料に適した柔軟な風合いと良好な染色堅牢度を有し、かつ変色が少なく、殺菌性、抗ウィルス性および洗濯耐久性に優れた改質ポリエステル繊維を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討の結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)ウンデシレン酸および/またはウンデシレン酸の誘導体と重合性不飽和基を有する化合物とをエステル化反応させたエステル化物が、ポリエステル繊維表面で重合していることを特徴とする改質ポリエステル繊維。
(2)ポリエステル繊維に、ウンデシレン酸および/またはウンデシレン酸の誘導体と重合性不飽和基を有する化合物とをエステル化反応させたエステル化物を付与し、酸素、窒素、水素、ヘリウム、アルゴン、炭酸ガスから選ばれる少なくとも1種の非重合性ガス中で、真空度40〜1330Pa、高周波電力0.1〜15kWの条件下で、1〜60分間低温プラズマ処理することを特徴とする改質ポリエステル繊維の製造方法。
(3)ウンデシレン酸および/またはウンデシレン酸の誘導体と重合性不飽和基を有する化合物とをエステル化反応させたエステル化物が水溶性であることを特徴とする(2)の改質ポリエステル繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の改質ポリエステル繊維は、重合開始剤やバインダー樹脂を用いないものであるため、変色や染色堅牢度低下の問題がなく、衣料に適した柔軟な風合いを有するものである。加えて、ウンデシレン酸はひまし油から製造されるため安全性に優れるものであり、さらに良好な殺菌性、抗ウィルス性および洗濯耐久性を有している。さらに、本発明の改質ポリエステル繊維は、衛生管理の厳しい食品製造現場、医薬品製造現場、医療機関などにおいて着用される衣服に好ましく用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の改質ポリエステル繊維は、ウンデシレン酸および/またはウンデシレン酸の誘導体と重合性不飽和基を有する化合物とをエステル化反応させたエステル化物(以下、単に「エステル化物」と称する場合がある)が、ポリエステル繊維表面で重合しているものである。エステル化物が重合しているため、ポリエステル繊維表面にはグラフト鎖が形成され、繊維表面に被膜が形成されている。その結果として、本発明の改質ポリエステル繊維は、飛躍的に洗濯耐久性が向上するという効果が奏される。
【0013】
本発明において、ポリエステル繊維とは、ポリエステル系繊維を主体とする。ポリエステル系繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ乳酸などから得られる繊維が挙げられる。
【0014】
なお、本発明において、「ポリエステル系繊維を主体とする」とは、繊維中にポリエステル系繊維を60質量%以上含有するものであり、好ましくは80質量%以上含有するものである。本発明においてポリエステル繊維には、ポリエステル系繊維の他に、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系繊維;アクリル系繊維;ポリウレタン系繊維;綿、獣毛繊維、絹、麻、竹などの天然繊維;ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、溶剤紡糸セルロース繊維などの再生繊維;アセテートなどの半合成繊維などが用いられていてもよい。複数の繊維を用いる場合には、交撚、混紡、混繊、交織、交編するなどの方法を用いることができる。
【0015】
本発明においては、上記のようなポリエステル繊維以外の繊維を用いた場合は、目的とする洗濯耐久性、風合いは得られない。その理由は定かではないが、他の繊維を用いた場合は、エステル化物と繊維表面の密着性が、ポリエステル繊維を用いた場合に比べて劣るためであると推測される。
【0016】
ポリエステル繊維の形態としては、長繊維、短繊維の何れであってもよい。さらにポリエステル繊維の断面形状も特に限定されるものでない。また、ポリエステル繊維中には、二酸化チタン、二酸化ケイ素、顔料などが含まれていてもよい。さらに、本発明のポリエステル繊維は、織物、編物、不織布などの布帛の形態であっても良い。
【0017】
本発明の改質ポリエステル繊維は、上述のようにウンデシレン酸および/またはウンデシレン酸の誘導体と重合性不飽和基を有する化合物とをエステル化反応させたエステル化物が、ポリエステル繊維表面で重合しているものである。
【0018】
ウンデシレン酸は炭素数が11の不飽和脂肪酸である。ウンデシレン酸は、ひまし油を熱分解することにより得られるものであるため、安全性に優れる。ウンデシレン酸の誘導体としては、ウンデシレン酸を還元して得られるウンデシレノール等が挙げられる。ウンデシレン酸および/またはウンデシレン酸の誘導体を用いることにより、優れた殺菌性、抗ウィルス性を付与することができる。
【0019】
重合性不飽和基を有する化合物としては、特に限定されないが、たとえば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類や、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸ポリアルキレンオキサイド変性物、アリルアルコール、ポリアルキレンオキサイドモノアリルエーテル、ビニルアルコールなどが挙げられる。なかでも、ポリエステル繊維表面での重合性の観点から、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートの(メタ)アクリル酸ポリアルキレンオキサイド変性物が好ましい。
【0020】
本発明において、重合したエステル化物のポリエステル繊維への付着量は、ポリエステル繊維全量に対して、0.5〜30質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましい。付着量が0.5質量%未満であると、殺菌性、抗ウィルス性に劣る場合がある。一方、付着量が30質量%を超えると、風合いが硬くなる場合がある。
【0021】
本発明においては、水溶性である観点から、エステル化物としては、ウンデセノールエチレンオキサイドが8〜12モル付加されたメタクリル酸エステルである、ウンデシレノキシポリエチレングリコールメタクリレートであることが好ましく、ウンデセノールエチレンオキサイドエチレンオキサイドが12モル付加されたものであることが特に好ましい。エステル化物が水溶性であることにより、ポリエステル繊維表面に容易にエステル化物を付与させることができる。
【0022】
本発明の改質ポリエステル繊維において、エステル化物を重合させるためには、重合開始剤を用いない観点から、低温プラズマ処理による重合方法を用いることが好ましい。重合開始剤を用いると、変色や染色堅牢度の低下という問題が発生したり、風合いが硬くなったりする場合がある。なお、低温プラズマ処理については、後述する。
【0023】
次に、改質ポリエステル繊維の製造方法について、以下に説明する。本発明の改質ポリエステル繊維は、ウンデシレン酸および/またはウンデシレン酸誘導体と重合性不飽和基を有する化合物とをエステル化反応させて得られたエステル化物を付与した後、非重合性ガス中で低温プラズマ処理してからソーピングして製造されるものである。このような方法で製造することで、柔軟な風合いと良好な染色堅牢度を有し、かつ変色が少なく、殺菌性、抗ウィルス性および洗濯耐久性に優れた改質ポリエステル繊維を得ることができる。
【0024】
本発明の製造方法においては、まず、ウンデシレン酸又はその誘導体と重合性不飽和基を有する化合物とをエステル化反応させたエステル化物を水に添加して水溶液とし、得られた水溶液をポリエステル繊維に付与する。
【0025】
なお、エステル化は公知の方法で行うことができる。例えば、エステル化物を得る反応に使用する触媒は、エステル化反応に用いられる公知のものを使用することができ、具体的には、無機酸、塩基類、四級アンモニウム塩などが挙げられる。エステル化反応は、温度65〜150℃で行うことができる。
【0026】
ポリエステル繊維に水溶液を付与する方法としては、特に限定されるものではなく、パディング法、スプレー法、キスロールコータ法、スリットコータ法など公知の方法を適宜用いることができる。そして、水溶液が付与されたポリエステル繊維は、風乾又は加熱などにより、予備乾燥に付される。
【0027】
次に、予備乾燥に付されたポリエステル繊維を、非重合性ガス中で低温プラズマ処理する。プラズマとは、気体に電気エネルギーを与えることによって得られる放電状態であり、負電荷を持つ電子と正電荷を持つイオン、さらに電気的に中性なラジカルが含まれた状態を言う。低温プラズマは、減圧下で行うグロー放電、大気圧グロー放電、コロナ放電などによる常温域のプラズマ状態のことであり、電子温度のみが高いプラズマ状態である。低温プラズマ処理を行うことにより、重合開始剤を用いることなくエステル化物を重合に付することができる。また、バインダー樹脂を用いることなく、重合したエステル化物をポリエステル繊維表面に付与することができる。その結果として、柔軟な風合いと良好な染色堅牢度を有し、かつ変色が少ない改質ポリエステル繊維を得ることができる。
【0028】
本発明において、低温プラズマ処理は以下のようにして行われる。すなわち、減圧状態にある非重合性ガスに高周波エネルギーを与えることによってガス分子を励起させて、低温プラズマを発生させ、この低温プラズマ雰囲気内に、ポリエステル繊維を一定時間静置して、プラズマ処理が行われる。
【0029】
本発明における非重合性ガスは、酸素、窒素、水素、ヘリウム、アルゴン、炭酸ガスから選ばれる少なくとも1種であることが必要である。なかでも、ポリエステル繊維表面での重合性の観点から、酸素が好ましく用いられる。
【0030】
上記の高周波エネルギーの周波数は、低温プラズマを発生しうる周波数であれば特に限定されるものでなく、1〜3000MHzの範囲で使用可能である。実用上は、電波法などの規制により、13.56MHz、27.12MHz、40.68MHz、915MHz、2450MHzのいずれかを使用するのが好ましい。
【0031】
高周波エネルギーの電力(高周波電力)は、発生するプラズマの運動エネルギーを効率よく発現させる観点から、0.1〜15.0kWであることが必要であり、0.4〜10kWであることが好ましい。
【0032】
プラズマ処理時の真空度は、安定したプラズマ状態とする観点から、13〜2670Paであることが必要であり、40〜1330Paが好ましい。
プラズマ処理される時間は、ポリエステル繊維表面での重合性の観点から、1〜60分の範囲であることが必要であり、1〜10分であることが好ましい。
【0033】
本発明の製造方法においては、上記の条件で低温プラズマ処理を行うことが必須である。上記条件を満たさない場合は、ポリエステル繊維表面においてエステル化物が重合しないからである。
【0034】
低温プラズマ処理にて、ウンデシレン酸又はその誘導体と重合性不飽和基を有する化合物とをエステル化反応させたエステル化物をポリエステル繊維表面上で重合させた後、未反応物をポリエステル繊維表面から除去するためにソーピングする。ここでソーピングを実施しなければ残留する未反応物の溶出によって変色が発現したり、染色堅牢度の低下の問題が発生したりするため、本発明においては、ソーピングは必須の工程である。
【0035】
ソーピングは、公知のオープンソーパー等の連続式装置あるいはウィンス、液流染色機等のバッチ式装置で行うことができる。ソーピングを行う温度は、未反応のエステル化物の除去の観点から、60〜100℃が好ましい。また、ソーピングを行う時間は、更なる未反応のエステル化物の除去の観点から、1〜60分間が好ましい。ソーピングの際には、洗浄効率を高める観点から、界面活性剤を併用することが好ましい。
【0036】
上述のようにして得られた改質ポリエステル繊維は、安全性に優れるものであり、さらに良好な殺菌性、抗ウィルス性と洗濯耐久性を有している。さらに、風合いにも優れ、変色や染色堅牢度の低下といった問題が発生しない。本発明の改質ポリエステル繊維は食品製造現場、医薬品製造現場、医療機関などにおいて好ましく用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例によって、本発明を具体的に説明する。なお、実施例、比較例における洗濯条件、制菌性(殺菌性)、抗ウィルス性、染色堅牢度、風合いの評価方法は下記の通りである。
【0038】
1.洗濯条件
社団法人繊維評価技術協議会の制菌加工繊維製品認証基準(JEC S301)にて指定されているJIS L 0217の103法に従って、「JAFET標準洗剤」(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)を使用して50回洗濯した。
【0039】
2.制菌性の評価方法
試験対象菌として肺炎桿菌(ATCC4352)を用い、JIS L 1902(繊維製品の抗菌性試験方法・抗菌効果)の菌液吸収法に従って、培養前後の生菌数を測定し、下記式により算出した。
殺菌活性値L=M−M
なお、MおよびMは、以下のものを示す。
:無加工布(または標準布)の試験菌接種直後の3検体の生菌数の常用対数値の平均値である。
:制菌加工布の18時間培養後の3検体の生菌数の常用対数値の平均値であって、M≠0である。
なお、本発明においては、無加工布(または標準布)の18時間培養後の3検体の生菌数の常用対数値の平均値をMとして、M−M>1.5であるものが、試験成立可能であるとした。
【0040】
3.抗ウィルス性の評価方法
以下の条件で、日本食品分析センター法によるウィルス不活性試験に従って評価した。
(1)試験ウィルス
インフルエンザウィルスA型(H1N1)
(2)使用細胞
MDCK(NBL−2)細胞ATCC CCL−34株(大日本製薬社製)
(3)使用培地
・細胞増殖培地
イーグルMEM培地(日水製薬社製、商品名「ニッスイ1」)に、牛胎仔血清を10質量%加えたものを使用した。
・細胞維持培地
以下の組成の培地を使用した。
イーグルMEM培地(日水製薬社製、商品名「ニッスイ1」):1000ml
10%NaHCO:14ml
L−グルタミン(30g/l):9.8ml
100×MEM用ビタミン液:30ml
10%アルブミン:20ml
0.25%トリプトシン:20ml
(4)ウィルス浮遊液の調製
上述の(3)の細胞増殖培地と使用細胞を用いた。細胞増殖培地にて、使用細胞を組織培養用フラスコ内に単層培養した。その後、単層培養後にフラスコ内から細胞増殖培地を除き、試験ウィルスを接種した。次に、上述の(3)の細胞維持培地を加えて37℃±1℃の炭酸ガスインキュベーター(CO濃度:5%)内で1〜5日間培養した。細胞を培養した後、倒立位相差顕微鏡(ニコン社製、商品名「エクリプスTS100F」)を用いて細胞の形態を観察し、細胞に形態変化(細胞変性効果)が起こっていることを確認した。次に、培養液を(装置:小型遠心機「CFM−2000」LMS HARMONY社製)を用いて遠心分離し、得られた上澄み液をウィルス浮遊液とした。次いで、約3cm×3cmの大きさに切断し、高圧蒸気滅菌した検体(無加工布または標準布)を試料とした。該試料に得られたウィルス浮遊液0.2mlを滴下し室温にて1時間保存した。1時間保存後、試料のウィルス浮遊液を細胞維持培2mlで洗い出した。その後、細胞維持培地を用い、使用細胞を細胞培養用マイクロプレート(96穴)内で単層培養した後、細胞増殖培地を除き細胞維持培地を0.1mlずつ加えた。次に、試料洗い出し液、及び該試料洗い出し液を10倍希釈法による希釈系列で希釈液を作成し、得られた各希釈液0.1mlを4穴ずつに接種し、37℃±1℃の炭酸ガスインキュベーター(CO濃度:5%)内で4〜7日間培養した。培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態変化(細胞変性効果)の有無を観察し、Reed−Muench法より50%組織培養感染量(TCID50)を算出して、洗い出し液1ml当たりのウィルス感染価を換算した。
【0041】
4.染色堅牢度の測定
(1)日光堅牢度
JIS L−0842に従って、カーボンフェードメーター(スガ試験機社製、商品名「紫外線フェードメーター」)を用いて測定した。
(2)摩擦堅牢度
JIS L−0849に従って学振形摩擦堅牢度を測定した。
(3)洗濯堅牢度
JIS L−0844 A−2法に従って測定した。
(4)汗堅牢度
JIS L−0848 A法に従って測定した。
【0042】
5.風合い
官能評価にて、下記の基準で評価した。
○:加工前の織物の風合いとほぼ同等の柔軟な風合いである。
△:加工前の織物の風合いよりやや硬い風合いである。
×:加工前の織物の風合いより硬い風合いである。
【0043】
6.変色
加工前後における織物の変色について目視にて下記基準で判定した。
○:加工前の織物の色とほぼ同等の色相、濃度の色である。
△:加工前の織物の色よりやや濃色に変色している。
×:加工前の織物の色より濃色に変色している。
【0044】
(実施例1)
経糸としてポリエステルマルチフィラメント加工糸167dtex/48fを用い、緯糸としてポリエステルマルチフィラメント加工糸334dtex/96fを用いて、経糸密度128本/2.54cm、緯糸密度58本/2.54cmの綾織物を製織した。該綾織物を通常の方法で精練し、テンターにて190℃で30秒間プレセットを行い、液流染色機(日阪製作所社製、商品名「サーキュラー」)にて135℃で30分間の条件で染色処方1にて染色した。その後、通常の方法で還元洗浄を行って紺色の染色布とした。次に、この綾織物を下記処方1に示す水溶液に含浸した後、マングルで80質量%の絞り率で絞り、その後、130℃で60秒間予備乾燥した。
〈染色処方1〉
Kayalon Polyester Navy Blue EX−SF200(日本化薬社製の分散染料):4%o.w.f
ニッカサンソルトSN250(日華化学社製の分散剤):0.5g/l
酢酸(48%):0.1cc/l
〈処方1〉
CH=CH(CHO(CHCHO)nOCC(CH)=CH(新中村化学工業社製、ウンデシレノキシポリエチレングリコールメタクリレート、式中のn=12):60g/l
【0045】
次に、下記条件1に示す低温プラズマ処理を行った。
〈条件1〉
ガス種:酸素
真空度:133Pa
周波数:13.56MHz
高周波電力:0.4kW
処理時間:1分
その後、オープンソーパーにて温度80℃の温水で5分間ソーピングを行い、テンターにて130℃、2分間の乾燥を行い、本発明の改質ポリエステル繊維織物を得た。
【0046】
(実施例2)
処方1に示す水溶液に代えて、下記処方2に示す水溶液を用いる以外は、実施例1と同様にして本発明の改質ポリエステル繊維織物を得た。
【0047】
〈処方2〉
CH=CH(CHO(CHCHO)nOCC(CH)=CH(新中村化学工業社製、ウンデシレノキシポリエチレングリコールメタクリレート、式中のn=8):100g/l
【0048】
(比較例1)
実施例1で用いた織物を実施例1と同様に精錬、プレセット、染色を行った。次に、この綾織物を処方3に示す水溶液に含浸した後、マングルで80質量%の絞り率で絞り、その後、130℃で60秒間予備乾燥した。そして、この綾織物に120℃で5分間の高圧スチーム法による飽和蒸気加熱処理を施し、ポリエステル繊維織物を得た。
〈処方3〉
CH=CH(CHO(CHCHO)nOCC(CH)=CH(新中村化学工業社製、ウンデシレノキシポリエチレングリコールメタクリレート、式中のn=12):60g/l
過硫酸カリウム(三菱瓦斯化学社製の重合開始剤):10g/l
【0049】
(比較例2)
実施例1で用いた織物を実施例1と同様に精練、プレセット、染色を行った。次いで、下記処方4に示す水溶液に含浸した後、マングルで80質量%の絞り率で絞り、その後、130℃で60秒間予備乾燥した。そして、この平織物に170℃で1分間の乾熱処理を施し、ポリエステル繊維織物を得た。
〈処方4〉
ニッカノンRB(日華化学社製の第四級アンモニウム塩系抗菌剤):50g/L
ライトエポックAX-30(北広ケミカル社製のアクリルポリマー系バインダー):40g/L
【0050】
(比較例3)
経糸としてナイロン6マルチフィラメント加工糸167dtex/48fを用い、緯糸としてナイロン6マルチフィラメント加工糸334dtex/96fを用い、経糸密度128本/2.54cm、緯糸密度58本/2.54cmの綾織物を製織した。該綾織物を通常の方法で精練し、テンターにて180℃で30秒間プレセットを行った。その後、液流染色機(日阪製作所社製、商品名「サーキュラー」)にて100℃で30分間の条件で、染色処方2にて染色した後、処方5にてフィックス処理を80℃、30分間の条件にて行ない、紺色の染色布とした。上記織物を使用する以外は全く実施例1と同一方法で加工し比較用のナイロン繊維織物を得た。
〈染色処方2〉
Kayanol Navy Blue R(日本化薬社製の酸性染料):4%o.w.f
ニューボンTS−400(日華化学社製の均染剤):0.5g/l
酢酸(48%):0.1cc/l
〈処方5〉
サンライフE−48(日華化学社製のフィックス剤):2%o.w.f
【0051】
実施例1〜2、比較例1〜3で得られたポリエステル繊維織物の洗濯前と洗濯50回後の制菌性、抗ウィルス性、染色堅牢度、風合いを評価した。評価結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1から明らかなように、実施例1〜2においては、洗濯50回後でも、制菌性、抗ウィルス性、染色堅牢度、風合い、変色に優れており、洗濯耐久性が良好であった。すなわち、本発明の改質ポリエステル繊維は、衣料に最適な素材であった。
【0054】
比較例1〜2は、重合開始剤やバインダー樹脂を用いたため、洗濯50回後の制菌性、抗ウィルス性が低下しており、すなわち、洗濯耐久性が不十分であった。加えて染色堅牢度が悪く、変色があった。
【0055】
比較例3は、ポリエステル繊維ではなくナイロン繊維を用いたため、染色堅牢度、風合い、変色には問題がないものの、洗濯50回後の制菌性、抗ウィルス性が低下しており、すなわち、洗濯耐久性に劣っているものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウンデシレン酸および/またはウンデシレン酸の誘導体と重合性不飽和基を有する化合物とをエステル化反応させたエステル化物が、ポリエステル繊維表面で重合していることを特徴とする改質ポリエステル繊維。
【請求項2】
ポリエステル繊維に、ウンデシレン酸および/またはウンデシレン酸の誘導体と重合性不飽和基を有する化合物とをエステル化反応させたエステル化物を付与し、酸素、窒素、水素、ヘリウム、アルゴン、炭酸ガスから選ばれる少なくとも1種の非重合性ガス中で、真空度40〜1330Pa、高周波電力0.1〜15kWの条件下で、1〜60分間低温プラズマ処理することを特徴とする改質ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項3】
ウンデシレン酸および/またはウンデシレン酸の誘導体と重合性不飽和基を有する化合物とをエステル化反応させたエステル化物が水溶性であることを特徴とする請求項2に記載の改質ポリエステル繊維の製造方法。

【公開番号】特開2011−208335(P2011−208335A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79955(P2010−79955)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(592197315)ユニチカトレーディング株式会社 (84)
【Fターム(参考)】