説明

改質ポリエステル繊維の製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、機能性付与剤が添加配合された改質ポリエステル繊維の製造方法に関する。さらに詳しくは、機能性付与剤に加えて芳香族モノカルボジイミドを液状ポリエステル分散媒体に配合した液状改質剤を用いる、繊維物性に優れ且つ品質斑の小さい改質ポリエステル繊維が極めて安定に製造できる方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルは、その優れた耐熱性、耐光性、力学的特性等から、繊維、フイルム、ボトル等、各種成形品として汎用されている。従来かかる成形品に種々の特性を付与するため、各種機能性付与剤を添加配合することが行われ、種々の添加方法が提案されている。例えば、機能性付与剤として着色剤を配合する場合を例にすると、着色剤をポリエステルに直接添加配合する方法、ポリエステル中に高濃度に配合してマスターチップを作製し、成形時にこれをポリエステル中に添加する方法、さらにはあらかじめ液状分散媒に分散させ、液状状態としてポリエステル中に添加する方法(例えば特開昭63―117071号公報、特開昭60―45690号公報)等提案されている。液状分散媒中にあらかじめ着色剤を分散させた物(液状着色剤)を使用する方法は、取り扱いが容易、プレミックス時(着色剤を液状分散媒中に分散時)の汚染も少なく、且つ着色成形品製造時の液状着色剤切替に要する時間も短いといった特徴に加えて、繊維、フイルム、その他の成形物の成形時に容易に配合できることから、近年広く用いられてきている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来提案されている分散媒は、耐熱性が不充分でポリエステルの溶融成形温度では熱分解して得られる成形物の色調や力学的特性を悪化させる、ポリエステルとの反応性が高くポリエステル中に混合して成形するまでの間に該分散媒とポリエステルとが反応して得られる成形物の力学的特性を悪化させる、あるいはポリエステルとの混練性が不充分で均一に混合されず品質斑が大きくなる等の問題点があり、未だ実用上満足し得る改質ポリエステル繊維は得られていないのが実情である。
【0004】本発明は、かかる現状を鑑みなされたもので、その目的は、液状改質剤を用いながら力学的特性が良好で且つ品質斑のない改質ポリエステル繊維を極めて安定に製造することのできる方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記目的を達成するため鋭意検討した結果、ポリエステル系液状分散媒にあらかじめ特定量のカルボジイミドを添加しておくことにより、得られる繊維の力学的特性が向上し、また機能性付与剤のポリエステル中への分散性が向上して品質斑も少なくなることを見出し本発明に到達した。
【0006】すなわち、本発明によれば、ポリエステル溶融液中に、常温で液状を呈する液状ポリエステル分散媒100重量部に対して、顔料、染料、抗菌剤、紫外線吸収剤等の機能性付与剤が0.1〜100重量部、及び芳香族モノカルボジイミドが1〜20重量部配合された液状改質剤を添加混合した後、溶融紡糸することを特徴とする改質ポリエステル繊維の製造方法が提供される。
【0007】以下、本発明について詳細に説明する。本発明において機能性付与剤を分散させる媒体としては、常温で液状を呈するポリエステルであれば特に限定されず、例えばアジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸を酸成分として、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等をグリコール成分とするポリエステルをあげることができる。また、これらのポリエステルにトリメリット酸、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の多官能成分を共重合したもの、末端をn―オクチルアルコール、2―エチルヘキシルアルコール、n―デシルアルコール等の1価アルコール又はオレイン酸、ラウリン酸等の1価カルボン酸で封鎖したもの、さらにはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコールを共重合したものを用いることもできる。なかでも、ポリプロピレンセバケートの如き脂肪族ポリエステルは、本発明の効果が大きいので好ましい。
【0008】かかる液状ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートを代表とする繊維形成性のポリエステルの溶融紡糸温度においても比較的安定で、また低粘度であるため各種機能性付与剤を配合した状態においても常温で流動性を示し、加えてポリエステルとの相溶性も良好であるため機能性付与剤のポリエステル樹脂への分散性が良好であるといった特徴を有する。
【0009】上記分散媒に配合する機能性付与剤としては、従来ポリエステル繊維の改質に使用されている任意の機能性付与剤が用いられ、例えば制電性付与剤、螢光増白剤、紫外線吸収剤、光安定剤、艶消剤、着色顔料、染料等を挙げることができる。なかでも着色顔料もしくは染料を配合する場合には、一般に極めてわずかな分散斑でも着色斑として検知され易いが、本発明の方法によれば極めて容易に液状改質剤をポリエステル中に均一に分散できるので特に好ましい。
【0010】好ましく用いられる顔料又は染料の例としては、アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、ジオキサジン系、ペリレン・ペリノン系等の有機顔料、酸化鉄、酸化チタン、群青、カーボンブラック等の無機顔料およびアゾ系、アンスラキノン系、ペリレン系、フタロシアニン系、複素環系等の染料を挙げることができ、これらは単独で用いても併用してもよく、また顔料と染料とを併用してもよい。
【0011】機能性付与剤を前記液状分散媒に配合する割合は、用いる剤の種類及びポリエステルの改質をどの程度行うかによっても変化するが、通常は分散媒100重量部に対して0.1〜100重量部が好ましい。配合量が0.1重量部未満では、ポリエステル改質のために必要な液状改質剤の添加量が増え、得られる繊維の力学的特性等が低下するため好ましくない。一方100重量部を越える場合には、液状改質剤のポリエステル中への分散が困難となって、品質の均一な繊維が得られなくなるので好ましくない。
【0012】本発明においては、上記機能性付与剤を液状分散媒に配合するに際して、さらに芳香族モノカルボジイミドを分散媒(液状ポリエステル)100重量部に対して1〜20重量部好ましくは1〜10重量部配合することが肝要である。配合量が1重量部未満では、得られる繊維の力学的特性低下や混練性低下による製糸工程調子の低下が発生する。一方20重量部を越える場合には、得られる繊維の着色を促進したり、耐熱性が悪化したりするため好ましくない。
【0013】ここで用いられる芳香族モノカルボジイミドとしては、例えば2,2′―ジメチルジフェニルカルボジイミド、2,2′―ジイソプロピルカルボジイミド、2,2′―ジエトキシジフェニルカルボジイミド、2,6,2′,6′―テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、2,4,6,2′,4′,6′―ヘキサイソプロピルジフェニルカルボジイミド等をあげることができ、特に2,6,2′,6′―テトライソプロピルジフェニルカルボジイミドは、耐熱性が良好で製糸時に分解ガスが発生し難く、またその詳細な理由は不明であるが、液状分散媒に配合した時に得られる液状改質剤の粘度を大きく低下させるため、液状改質剤中の機能性付与剤量を多くしてもポリエステル溶融液中への分散が容易となり、力学的特性が良好でかつ品質斑の少ない改質ポリエステル繊維が安定して得られるといった特徴を有するので好ましくない。
【0014】なお、機能性付与剤及び芳香族モノカルボジイミドを配合した液状改質剤の粘度は、溶融ポリエステル中に添加混合する際の取り扱い性及び計量精度より、常温で2000ポイズ以下、好ましくは1500ポイズ以下であることが望ましい。2000ポイズを越える場合には、流動性が低下して取り扱い性が悪化するだけでなく、計量精度が低下して品質斑が生じやすい。
【0015】前記機能性付与剤及び芳香族モノカルボジイミドを液状分散媒に配合する方法は特に限定されず、通常の方法で配合することができる。例えば、ニーダー、ボールミル、サンドミル、3本ロール等の分散・混練機を使用することができ、これらは併用することもできる。また配合する順序も特に限定されず、機能性付与剤とカルボジイミドを同時に配合しても別々に配合してもよい。なかでもカルボジイミドを先に混合しておくと、該混合物の粘度が低下して機能性付与剤の混練が容易になる場合が多いので好ましい。
【0016】本発明において、上記液状改質剤が添加配合されるポリエステルは、繰り返し単位が主としてエチレンテレフタレートからなるポリエステルを主たる対象とするが、テレフタル酸成分及び/又はエチレングリコール成分以外の第3成分を少量(通常テレフタル酸成分に対して20モル%以下)共重合したものであっても良い。ポリエステルの固有粘度は、得られる繊維の力学的性能の点より0.6以上、特に0.8以上が好ましい。
【0017】液状改質剤を溶融ポリエステル中に添加配合するには特別な方法を採用する必要はなく、例えば紡糸前の溶融ポリエステル中にギアポンプ等で計量しながら液状改質剤を注入添加した後、スタティックミキサー等を用いて混合し、次いで紡糸口金より吐出する方法が挙げられる。ここで液状改質剤の添加量は、該液状改質剤中に配合されている機能性付与剤の量、及び要求される改質の程度によっても変化するが、通常は溶融ポリエステル100重量部に対して1〜11重量部とすることが望ましい。
【0018】添加する液状改質剤の量が溶融ポリエステル100重量部に対して1重量部未満の場合には、目的とする改質度合いが得られなかったり、分散が困難となって品質斑が発生し易くなる傾向がある。一方11重量部を越える場合には、得られる繊維の力学特性の低下や製糸工程不調を引き起こす場合が多い。
【0019】紡糸口金から吐出されたポリマーは、常法に従って、例えば引取速度1000m/分で引き取った後、所望の伸度が得られる倍率で延伸すれば良い。
【0020】
【作用】以上に説明した本発明の製造方法により、力学的特性が良好で且つ品質斑のない改質ポリエステル繊維が安定して得られる理由については、詳細に解明されているわけでないが、以下の如く推定される。すなわち、本発明で用いられる芳香族モノカルボジイミドは、液状ポリエステル分散媒及びポリエステルの分子鎖末端官能基を封鎖するため、分散媒の熱分解及び分散媒とポリエステルとの反応が抑制される。また、ポリエステルの分子鎖末端同士を一部結合して重合度を増加させるため、重合度の劣化も抑制される。さらには、分散媒の粘度を低下させるため、機能性付与剤の配合量を多くしても溶融ポリエステル中への分散性が良好となる。その結果、分散媒の熱分解・熱反応に起因する繊維の力学的特性低下あるいは製糸時の断糸といったトラブルが減少し、また機能性付与剤の分散斑に起因する品質斑、製糸安定性低下といったトラブルも減少するのである。
【0021】
【実施例】以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例における各特性値は下記方法により測定した。
【0022】(強伸度)インストロン型引っ張り試験機を用い、試料長25cm、引っ張り速度30cm/minで測定した。
【0023】(品質斑)延伸糸を靴下編み地に編立て、基準となる色の延伸糸を同様に編み立てたものと目視比較し、明らかに色の違いが認められるものを品質斑糸として、目視比較総数に対する品質斑糸の割合で表した。
【0024】(耐光堅牢度)着色ポリエステル繊維を筒編み地にし、スガ試験機(株)製カーボンアークフェード・オ・メーターFAL―3H型を使用し、ブラックパネル温度83±3℃で、400時間紫外線照射を行い、変褪色の度合いをグレースケール(級)で判定した。
【0025】(紡糸断糸率)巻取り速度1100m/分で紡糸し、巻取り長106 m当たりの断糸回数で表した。
【0026】(延伸断糸率)延伸速度1000m/分で延伸し、延伸糸長3×105 m当たりの断糸回数で表した。
【0027】
【実施例1】表1記載の液状ポリエステル100重量部に対して、カルボジイミド5重量部添加後、フタロシアニンブルー8重量部、キナクリドン系レッド2重量部、カーボンブラック0.2重量部を、3本ロールミルにて混練し、粘度400ポイズの液状改質剤を得た。
【0028】290℃に加熱溶融させた固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレート中に、該溶融ポリエステル100重量部に対して上記液状改質剤を5重量部の割合でギアポンプにて定量供給し、次いでケニックス社製のスタティックミキサーを有した配管中で混合した後、24の吐出孔を有する紡糸口金から30g/分の吐出量で押し出し1100m/分の速度で巻き取った。得られた未延伸糸を常法にしたがって3.6倍に延伸し、青色着色ポリエステル繊維を得た。
【0029】得られた着色ポリエステル繊維は、表1に示すように改質斑の少ない均一な糸であり、また製糸時の工程調子も良好であった。
【0030】
【実施例2〜9、比較例1〜4】実施例1において、液状ポリエステルおよび機能性付与剤を表1記載の物に替え、実施例1と同様にして液状改質剤を得た。
【0031】得られた液状改質剤を実施例1と同様に溶融ポリエチレンテレフタレート中に添加混合した後、紡糸延伸して改質ポリエステル繊維を得た。結果は表1にまとめて示す。
【0032】
【表1】


【0033】表中分散剤Aは平均分子量8000、酸価2mgKOH/g、水酸基価15mgKOH/gのポリプロピレンセバケート、分散剤Bは平均分子量4000、酸価1.5mgKOH/g、水酸基価12mgKOH/gのポリプロピレンセバケート、分散剤Cは2,2―ビス(4―(β―パルミトキシエトキシ)フェニル)プロパンを表わし、モノカルボジイミド(イ)は2,6,2′,6′―テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、モノカルボジイミド(ロ)は2,2′―ジメチルジフェニルカルボジイミドを表わし、また機能性付与剤aはフタロシアニンブルー8重量部、キナクリドン系レッド2重量部、カーボンブラック0.2重量部の混合青色顔料、機能性付与剤bは上記青色顔料に紫外線吸収剤としてチバガイギー社製 チヌビン 320 2重量部、光安定剤としてチバガイギー社製Chimassorb 994 2重量部を混合したものである。
【0034】
【発明の効果】以上から明らかなように、本発明の製造方法によれば、各種機能性付与剤がポリエステル中に均一に分散され、力学的特性に優れ且つ品質斑の少ない均質な改質ポリエステル繊維を極めて安定して製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリエステル溶融液中に、常温で液状を呈する液状ポリエステル分散媒100重量部に対して、顔料、染料、抗菌剤、紫外線吸収剤等の機能性付与剤が0.1〜100重量部、及び芳香族モノカルボジイミドが1〜20重量部配合された液状改質剤を添加混合した後、溶融紡糸することを特徴とする改質ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項2】 液状改質剤の配合量が、ポリエステル溶融液100重量部に対して1〜11重量部である請求項1記載の改質ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項3】 芳香族モノカルボジイミドが2,6,2′,6′―テトライソロピルジフェニルカルボジイミドである請求項1記載の改質ポリエステル繊維の製造方法。

【特許番号】特許第3231483号(P3231483)
【登録日】平成13年9月14日(2001.9.14)
【発行日】平成13年11月19日(2001.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−141985
【出願日】平成5年6月14日(1993.6.14)
【公開番号】特開平7−3527
【公開日】平成7年1月6日(1995.1.6)
【審査請求日】平成11年9月9日(1999.9.9)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【参考文献】
【文献】特開 平6−341017(JP,A)
【文献】特開 平3−104919(JP,A)
【文献】特開 昭58−132115(JP,A)
【文献】特開 平2−264069(JP,A)