説明

改質処理した穀類糠或いは穀類粉砕物を配合した動物飼料

【課題】反芻動物のような動物飼料として穀類糠或いは穀類粉砕物を増大した量で有効に利用することを図る上で障害となる穀類糠或いは穀類粉砕物中の有機態リンを除去、減少させることによって穀類糠或いは穀類粉砕物を改質処理し、該飼料原料を増大した量で有効に利用することを可能とした動物飼料を提供すること。
【解決手段】穀類糠或いは穀類粉砕物を動物飼料用原料として用いるに際し、穀類糠或いは穀類粉砕物を水、又は、カルボン酸或いはカルボン酸塩からなるキレート化合物を含有する水溶液で洗浄処理することにより、穀類糠或いは穀類粉砕物中の有機体リンを除去し、減少させ、飼料への添加量増大を可能とした動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物を製造する。本発明の穀類糠或いは穀類粉砕物中の有機体リンの除去、減少のための洗浄処理に用いられるキレート化合物としては、クエン酸、コハク酸、フタル酸、或いはEDTA、又はそれらの塩を挙げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質処理した穀類糠或いは穀類粉砕物を配合することにより、動物の有用な飼料原料である穀類糠或いは穀類粉砕物を増大した量で有効に利用することを可能とした動物飼料を提供すること、特に、反芻動物のような動物の飼料として穀類糠或いは穀類粉砕物を増大した量で有効に利用するために障害となる穀類糠或いは穀類粉砕物中の有機態リンを除去、減少させることによって穀類糠或いは穀類粉砕物を改質処理し、該飼料原料を増大した量で有効に利用することを可能とした動物飼料を提供すること、及び、該穀類糠或いは穀類粉砕物の改質処理手段として、飼料製造に際して実用的に適用できる手段を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
穀類等の植物種子は、食品や飼料等として広く利用されている材料であり、これらの植物種子にはリンが豊富に含まれている。該植物種子に含有されているリンの大部分はフィチン態として存在している。リンは全ての生物の生育に必須の元素であるが、反芻動物のように胃内に共生する微生物によって食餌を分解して消化する動物と相違して、ヒトや、豚、鶏等の家畜のような単胃動物ではフィチンを分解できないため、植物種子由来の食品や飼料を摂取しても、含有されるフィチン態リンを全く利用できない。また、食品や飼料中のフィチン態リンは、栄養源として利用されていないだけでなく、フィチン酸は、タンパク質と結合し、消化酵素の働きを阻害したり、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、鉄等のミネラルをキレートし、栄養的に重要なミネラルの吸収を妨げる等の栄養学的な面からの問題も引き起こす。そこで、従来より、これらの問題を解決するために、植物種子由来の食品や飼料中のフィチン酸を除去する各種の方法が検討されている。
【0003】
穀類等の植物種子を、食品や飼料等として利用するに際して、フィチン酸を除去する方法としては、フィターゼのような酵素や、微生物を用いてフィチン酸を無機リン酸塩に分解する方法が知られている。例えば、特表2001−514869号公報、特表2002−523026号公報には、フィターゼを用いて、穀類等の植物種子中に含まれるフィチン態リンを無機リン酸塩に分解し、食品や飼料として利用する方法が開示されている。特開平6−319539号公報には、アスペルギルス(Aspergillus)属由来のフィターゼを用いて、及び、特開平11−164号公報には、ペニシリウム(Penicillum)属由来のフィターゼを用いて、飼料や食品中に含まれるフィチンを分解し、遊離したリン酸を有効に利用する方法が開示されている。
【0004】
また、特開平7−236439号公報、特開平8−214822号公報には、穀類に麹菌を接種して、製麹することにより、穀類中のフィチン酸を分解し、低減することが、及び、特開平5−49407号公報には、米糠やふすまを、バチルス・ナットーで好気的に発酵させて、飼料中に多量に含まれる有機態リンの弊害を解消することが開示されている。
【0005】
穀類等の植物種子を、食品や飼料等として利用するに際して、フィチン酸の除去に、フィターゼのような酵素や、微生物を用いる以外の方法としては、樹脂を用いるものや、飼料中に含まれるフィチン酸を高温、高圧下で加水分解する方法などが知られている。例えば、特開2001−163800号公報には、穀類や豆類等の植物タンパク質に結合しているフィチン酸又はその塩を、アニオン交換樹脂と接触させることにより、除去する方法が、特開2010−136683号公報には、飼料中のフィチン酸態リンを、水分を共存させた状態で、温度150〜260℃、圧力0.4〜30MPa、液固比1:1〜100:1の条件で、1〜180分間保持することにより加水分解する方法が、それぞれ開示されている。
【0006】
これらの方法は、穀類等のフィチン酸を含有する植物材料を食品や飼料に用いるに際して、ヒトや、豚、鶏等の家畜のような単胃動物では利用できないフィチン酸を分解して、除去したり、或いは無機リン酸塩として有効に利用することを目的としたものであるが、いずれの方法も、その処理の複雑さ等の問題があり、動物飼料として用いられる穀類糠や、穀類粉砕物等の大量の処理に実用的に用いることができる、有効で、簡便かつ安価な処理手段としては、適用の難しいものであった。
【0007】
ところで、穀類糠や、穀類粉砕物等のフィチン酸を含有する植物材料を反芻動物用の飼料に用いるに際しては、特殊な事情が発生する。すなわち、反芻動物は胃内に共生する微生物によって食餌を分解し、それを利用して体成分を再構築する。これによって、微生物が分解できる全ての有機物を利用することが可能である。反芻動物胃内微生物はフィチン酸を分解するフィターゼも有するため、反芻動物は他の哺乳類には利用できないフィチン酸態リンを有効に利用することができる。しかしながら、フィチン酸などの有機態リンを多く含む穀類又は穀類糠を反芻動物に多量に投与するとリンの摂取量が過多となり、尿石症や体内カルシウムの排出増大による骨格形成障害が起こる危険性が高くなるという問題がある。したがって、飼料としての投与量は制限せざるを得ないのが現状である。
【0008】
小麦、大麦、米、大豆、トウモロコシ等の穀類の加工処理では、胚芽やふすま、糠などの副産物が多量に生じるが、これらの副産物の主成分はデンプン及びセルロースであり、反芻動物の有効な飼料となる。したがって、穀類産業副産物の有効利用と反芻動物の飼養効率を増大するためには、これらの副産物の最大限の利用が望まれる。しかし、これらの副産物には、上記のようにフィチン酸態リンが多く含まれるために、現状では、これらの穀類の反芻動物飼料への添加配合量は、最大でも10%程度まであり、それ以上の有効利用はできないのが現状である。したがって、穀類産業副産物として大量に発生する、穀類糠や、穀類粉砕物等の有効利用と反芻動物の飼養効率の増大を図り、反芻動物飼料への増大した添加配合を可能とするためには、穀類糠や、穀類粉砕物等からのフィチン酸態リンの除去や低減化を図る必要があり、かつ、該穀類糠や、穀類粉砕物等の改質を飼料の製造現場で実用的に適用できる、有効で、簡便かつ安価な処理手段を開発する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−49407号公報。
【特許文献2】特開平6−319539号公報。
【特許文献3】特開平7−236439号公報。
【特許文献4】特開平8−214822号公報。
【特許文献5】特開平11−164号公報。
【特許文献6】特開2001−163800号公報。
【特許文献7】特開2010−136683号公報。
【特許文献8】特表2001−514869号公報。
【特許文献9】特表2002−523026号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、改質処理した穀類糠或いは穀類粉砕物を配合することにより、動物の有用な飼料原料である穀類糠或いは穀類粉砕物を増大した量で有効に利用することを可能とした動物飼料を提供すること、特に、反芻動物のような動物飼料として穀類糠或いは穀類粉砕物を増大した量で有効に利用することを図る上で障害となる穀類糠或いは穀類粉砕物中の有機態リンを除去、減少させることによって穀類糠或いは穀類粉砕物を改質処理し、該飼料原料を増大した量で有効に利用することを可能とした動物飼料を提供すること、及び、該穀類糠或いは穀類粉砕物の改質処理手段として、飼料製造に際して実用的に適用できる有効で、簡便かつ安価な処理手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく、動物飼料原料として用いる穀類糠或いは穀類粉砕物中の有機態リンを除去、減少させるための飼料製造現場で実用的に適用できる有効な処理手段について鋭意検討する中で、穀類糠或いは穀類粉砕物を飼料製造原料として利用するに際して、該穀類糠或いは穀類粉砕物を水洗浄することにより、穀類糠或いは穀類粉砕物中の有機態リンを除去、減少させることができることを見出し、更に、該洗浄をカルボン酸或いはカルボン酸塩からなるキレート化合物を含有する水溶液で行うことにより、効果的に有機態リンを除去、減少させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は穀類糠或いは穀類粉砕物を動物飼料用原料として用いるに際し、穀類糠或いは穀類粉砕物を水、又は、カルボン酸或いはカルボン酸塩からなるキレート化合物を含有する水溶液で洗浄処理することにより、穀類糠或いは穀類粉砕物中の有機体リンを除去し、減少させ、飼料への添加量増大を可能とした動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物を製造する方法からなる。この方法によって改質された動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物は、特に、反芻動物用の飼料用原料として有利に利用することができ、該飼料用原料の飼料への添加量を増大することを可能として、該飼料用原料の動物飼料への添加配合量を、動物飼料全量に対して、10重量%以上とすることを可能として、該飼料用原料の利用を大幅に増進することができる。
【0013】
本発明の動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物の製造方法において、穀類糠或いは穀類粉砕物中の有機体リンの除去、減少のための洗浄処理に用いられカルボン酸或いはカルボン酸塩からなるキレート化合物を含有する水溶液のキレート化合物としては、クエン酸、コハク酸、フタル酸、或いはEDTA、又はそれらの塩を挙げることができる。また、本発明の動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物の製造方法における動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物の具体例としては、小麦、大麦、米、大豆、或いはトウモロコシのふすま或いは糠、又は胚芽或いは該穀類の粉砕物等を挙げることができる。なお、前記米は、玄米や分搗き米等、表面に糠が残存している状態の方が好ましい。
【0014】
本発明は、本発明の動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物の製造方法によって製造された穀類糠或いは穀類粉砕物中の有機体リンを除去し、減少させた動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物自体の発明を包含する。該改質された動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物は、特に、反芻動物用の飼料用原料として有利に用いることができ、該飼料用原料の利用を大幅に増進することを可能とする。更に、本発明は、本発明の動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物の製造方法によって改質された動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物を配合し、製造した動物飼料自体の発明を包含する。該動物飼料は、特に反芻動物用の飼料として有利に調製することができ、動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物を、動物飼料全量に対して、10重量%以上配合した反芻動物用の飼料として、製品化することを可能とする。
【0015】
すなわち具体的には本発明は、[1]穀類糠或いは穀類粉砕物を動物飼料用原料として用いるに際し、穀類糠或いは穀類粉砕物を水、又は、カルボン酸或いはカルボン酸塩からなるキレート化合物を含有する水溶液で洗浄処理することにより、穀類糠或いは穀類粉砕物中の有機体リンを除去し、減少させたことを特徴とする飼料への添加量増大を可能とした動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物の製造方法や、[2]カルボン酸或いはカルボン酸塩からなるキレート化合物が、クエン酸、コハク酸、フタル酸、或いはEDTA、又はそれらの塩からなることを特徴とする前記[1]記載の動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物の製造方法や、[3]飼料への添加量の増大が、動物飼料全量に対して、10重量%以上であることを特徴とする前記[1]又は[2]記載の動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物の製造方法や、[4]穀類糠或いは穀類粉砕物が、小麦、大麦、米、大豆、或いはトウモロコシのふすま或いは糠、又は胚芽或いは該穀類の粉砕物であることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれか記載の動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物の製造方法からなる。
【0016】
また本発明は、[5]前記[1]〜[4]のいずれか記載の動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物の製造方法によって製造された穀類糠或いは穀類粉砕物中の有機体リンを除去し、減少させた動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物や、[6]動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物が、反芻動物用の飼料用原料であることを特徴とする前記[5]記載の動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物や、[7]前記[5]記載の動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物を配合したことを特徴とする動物飼料や、[8]動物飼料が、前記[5]記載の動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物を、動物飼料全量に対して、10重量%以上配合した反芻動物用の飼料であることを特徴とする動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物の配合量を増大した前記[7]記載の動物飼料からなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、穀類の加工処理で多量に発生する胚芽やふすま、糠などの副産物の動物飼料への有効利用と飼養効率を増大する方法を提供し、該飼料原料を増大した量で有効に利用する方法を提供する。本発明の改質された動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物の製造方法は、特に、反芻動物用飼料の製造に有利に適用することができ、穀類糠や、穀類粉砕物等の有効利用と反芻動物の飼養効率の増大を図り、反芻動物用飼料への増大した添加配合を可能とした動物飼料を提供することができる。本発明の動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物の製造方法は、飼料製造に際して実用的に適用できることができ、本発明は、穀類糠或いは穀類粉砕物の改質処理手段として有効で、簡便かつ安価な処理手段を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の実施例において、米糠を、水及び種々の濃度のEDTA水溶液、及びクエン酸ナトリウム水溶液を用いて2回洗浄処理した場合のリンの除去効果について示す図である。
【図2】図2は、本発明の実施例において、5mMクエン酸ナトリウム水溶液による洗浄回数が米糠中の残存全リン含量に及ぼす影響について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、穀類糠或いは穀類粉砕物を動物飼料用原料として用いるに際し、穀類糠或いは穀類粉砕物を水、又は、カルボン酸或いはカルボン酸塩からなるキレート化合物を含有する水溶液で洗浄処理することにより、穀類糠或いは穀類粉砕物中の有機体リンを除去、減少させ、飼料への添加量増大を可能とした改質された動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物を製造することからなる。本発明における穀類糠或いは穀類粉砕物としては、デンプンやセルロースを主成分とする穀類糠或いは穀類粉砕物を用いることができ、特に限定されないが、小麦、大麦、米、大豆、或いはトウモロコシのふすま或いは糠、又は胚芽或いは該穀類の粉砕物を挙げることができる。これらのものは、穀類の加工に際して、副産物として多量に発生するものであり、該副産物を動物飼料用原料として有効に利用することができる。
【0020】
本発明において、穀類糠或いは穀類粉砕物中の有機体リンを除去、減少させるための処理は、水、又は、カルボン酸或いはカルボン酸塩からなるキレート化合物を含有する水溶液で、穀類糠或いは穀類粉砕物を洗浄処理することよりなる。かかるキレート化合物としては、クエン酸、コハク酸、フタル酸、或いはEDTA、又はそれらの塩を用いることができる。該キレート化合物を含有する水溶液を洗浄液として用いる場合の水溶液中のキレート化合物の濃度としては、キレート化合物によって多少の相違はあるが、おおむね0.1〜20mMの濃度で用いることができる。穀類糠或いは穀類粉砕物中の有機体リンの除去は、水洗浄によってもかなりの部分を除去することができるが、水溶液中に該キレート化合物を含有させることにより、その洗浄除去効果を著しく高めることができる。その理由は、水溶液中のキレート化合物により、穀類糠或いは穀類粉砕物中のフィチン酸などの有機体リンが、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、鉄等のミネラルのイオンと結合して不溶性の沈殿を形成するのを阻止するためであると推測される。該キレート化合物としては、特に限定はないが、該化合物が飼料中に残存することを考慮すると、クエン酸、コハク酸のようなキレート化合物が特に好ましい。なお、本発明で使用する水又は水溶液の温度は高いほど好ましいが、穀類粉砕物に含まれる澱粉のα化を防ぐために60度を超えない温度の高温水又は高温の水溶液とするのがよい。
【0021】
本発明において、穀類糠或いは穀類粉砕物中の有機体リンの除去のための洗浄処理は、穀類糠或いは穀類粉砕物を、本発明における洗浄液と混合処理し、洗浄した後、洗浄液を分離・除去することにより行われる。該洗浄処理における洗浄液の混合量は、その洗浄処理の効果及び操作の容易性を考慮して、被洗浄対象ごとに適宜決定することができるが、通常、被洗浄対象の容量に対して、3〜10倍の洗浄液を混合して、30rpmで3分間以上撹拌して洗浄処理を行うことが好ましい。洗浄回数は、複数回行うことができるが、通常、1〜3回の洗浄で効果的なリンの除去を行うことができる。洗浄処理後の洗浄液の分離は、適宜の手段により行うことができる。例えば、ろ過や、遠心分離、或いはそれらを併用して実施することができる。
【0022】
本発明において、洗浄処理により穀類糠或いは穀類粉砕物中の有機体リンを除去し、減少させた動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物は、改質された動物飼料製造用の原料として調製することができる。該動物飼料製造用の原料として調製するに際して、該動物飼料製造用の原料は、洗浄処理後の洗浄液を分離した(半乾燥)状態で、或いは、更に、脱水、乾燥した状態の調整品として、調製することができる。洗浄液を分離した(半乾燥)状態のものは、該動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物を、直接、動物飼料製造のための発酵原料として供することができる。
【0023】
本発明の穀類糠或いは穀類粉砕物中の有機体リンを除去し、減少させ改質した動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物は、該飼料原料を用いて動物用の飼料として調製することができる。特に、穀類糠或いは穀類粉砕物中の有機体リンを除去し、減少させ改質した動物飼料用原料は、反芻動物用の飼料として有利に調製することができ、動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物を、動物飼料全量に対して、10重量%以上配合した反芻動物用の飼料として、製品化することができる。本発明において、本発明の方法により、穀類糠或いは穀類粉砕物中の有機体リンを除去し、減少させ改質した動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物を飼料原料として用いて、動物用飼料を調製するに際しては、該飼料原料を用いるほか、適宜、動物用飼料の調製に際して配合或いは添加されている公知の配合成分及び添加剤を配合或いは添加することができる。
【0024】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
[各種洗浄液を用いた飼料中の有機態リン化合物の除去効果]
【0026】
<試験方法>
米糠に、重量比で3倍量の下記の組成の溶液を添加し、30rpmで3分間攪拌して吸引ろ過を行い、再度同じ溶液を添加して攪拌及びろ過を行った。得られた残渣を110℃で5時間加熱し、完全に乾燥した。得られた乾燥物から100mgを採取し、濃硫酸−濃硝酸−過塩素酸存在下で湿式灰化を行った。完全に湿式灰化された試料についてFiske and Subbarow法に従って全リン含量を測定した。
水;
0.1mM EDTA 3K水溶液;
1mM EDTA 3K水溶液;
10mM EDTA 3K水溶液;
5mM クエン酸ナトリウム水溶液;
20mM クエン酸ナトリウム水溶液。
【0027】
<結果>
図1(米糠における水および種々の濃度のEDTA水溶液およびクエン酸ナトリウム水溶液によるリン除去効果)に示すように、3倍量の水で2回洗浄するだけで米糠中の全リン含量は半分以下に低下した。EDTA水溶液及びクエン酸ナトリウム水溶液ではその効果が著しく増大し、また各水溶液の濃度上昇に伴って効果が増大した。フィチン酸などの有機態リン化合物がカルシウムイオンや鉄イオンなどと不溶性の沈殿を形成するのを抑止したため、効果的にリンが除去されたと推測される。
【実施例2】
【0028】
[洗浄回数による飼料中の有機態リン化合物の除去効果への影響]
【0029】
<試験方法>
洗浄液の洗浄回数による飼料中の有機態リン化合物の除去効果への影響について検討した。5mMクエン酸ナトリウム水溶液で、1回から5回まで洗浄し、実施例1の方法により、残存全リン含量を測定した。
【0030】
<結果>
結果を、図2(5mMクエン酸ナトリウム水溶液による洗浄回数が米糠中の残存全リン含量に及ぼす影響)及び表1(多重比較検定)に示す。図2に示されるように、洗浄回数の増大によって米糠中の残存全リン含量は低下した。表1に示されるようにTukeyの多重比較検定によると、3回洗浄とそれ以上の4回及び5回洗浄との間で有意差が見られなくなることから、洗浄回数は3回で十分な効果が得られるものと考えられた。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、穀類の加工処理で多量に発生する胚芽やふすま、糠などの副産物の動物飼料への有効利用と飼養効率を増大する方法を提供し、該飼料原料を増大した量で有効に利用する方法を提供する。本発明の改質された動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物の製造方法は、特に、反芻動物用飼料の製造に有利に適用することができ、穀類糠や、穀類粉砕物等の有効利用と反芻動物の飼養効率の増大を図り、反芻動物用飼料への増大した添加配合を可能とした動物飼料を提供することができる。本発明の動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物の製造方法は、飼料製造に際して実用的に適用することができ、本発明は、穀類糠或いは穀類粉砕物の改質処理手段として有効で、簡便かつ安価な処理手段を提供する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀類糠或いは穀類粉砕物を動物飼料用原料として用いるに際し、穀類糠或いは穀類粉砕物を水、又は、カルボン酸或いはカルボン酸塩からなるキレート化合物を含有する水溶液で洗浄処理することにより、穀類糠或いは穀類粉砕物中の有機体リンを除去し、減少させたことを特徴とする飼料への添加量増大を可能とした動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物の製造方法。
【請求項2】
カルボン酸或いはカルボン酸塩からなるキレート化合物が、クエン酸、コハク酸、フタル酸、或いはEDTA、又はそれらの塩からなることを特徴とする請求項1記載の動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物の製造方法。
【請求項3】
飼料への添加量の増大が、動物飼料全量に対して、10重量%以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物の製造方法。
【請求項4】
穀類糠或いは穀類粉砕物が、小麦、大麦、米、大豆、或いはトウモロコシのふすま或いは糠、又は胚芽或いは該穀類の粉砕物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物の製造方法によって製造された穀類糠或いは穀類粉砕物中の有機体リンを除去し、減少させた動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物。
【請求項6】
動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物が、反芻動物用の飼料用原料であることを特徴とする請求項5記載の動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物。
【請求項7】
請求項5記載の動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物を配合したことを特徴とする動物飼料。
【請求項8】
動物飼料が、請求項5記載の動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物を、動物飼料全量に対して、10重量%以上配合した反芻動物用の飼料であることを特徴とする動物飼料用穀類糠或いは穀類粉砕物の配合量を増大した請求項7記載の動物飼料。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−5750(P2013−5750A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140036(P2011−140036)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000001812)株式会社サタケ (223)
【Fターム(参考)】