説明

改質基材および改質基材の製造方法

【課題】親水性高分子が基材表面に固定化された、血液適合性の高い改質基材およびその製造方法の提供。
【解決手段】親水性高分子を含み、可溶性親水性高分子量が15重量%以下であり、かつ、ヒト血小板付着量が10個/4.3×10μm以下である改質基材。また基材を親水性高分子および抗酸化剤を含む水溶液と接触下、放射線照射する該改質基材の製造方法。さらに親水性高分子が基材表面に固定化された、血液適合性の高い該改質基材およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が親水化処理された改質基材に関する。本発明の改質基材は、医療用具に好適に用いることができる。また、水処理用分離膜、生体成分分離膜、バイオ実験関連器具、バイオリアクター、分子モーター、DDS(ドラッグ・デリバリー・システム)、タンパクチップ、DNAチップ、バイオセンサー、あるいは、分析機器部品などにも好適に用いることができる。なかでも生体成分と接触させて用いられる用途、例えば人工腎臓などの血液浄化用モジュールに好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
人工血管、カテーテル、血液バッグ、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工腎臓など、体液と接触する医療用具においては、生体適合性、特に血液適合性が大きな問題である。例えば、血液浄化に使用される分離膜では、タンパク質の付着や血小板の付着/活性化は血液凝固を引き起こす要因となる。このような血液適合性の問題に対して、基材表面の親水化処理が有効であることが知られている。血液浄化用分離膜の素材としては、例えば、ポリスルホン系ポリマーが用いられているが、血液適合性を付与するために、製膜原液の段階でポリビニルピロリドンなどの親水性高分子が混合されている。このような方法で、ある程度の血液適合性は得られているが、十分ではなかった。
【0003】
基材表面の血液適合性を上げるために、ポリスルホン系の分離膜をポリビニルピロリドンなどの親水性高分子溶液と接触させ、分離膜に親水性高分子を物理吸着させる方法が、特許文献1に開示されている。しかし、この方法では、親水性高分子は表面に吸着しているだけなので、血液と接触した際に、親水性高分子が血中に溶出してくる可能性が考えられる。また、ポリスルホン系の分離膜をポリビニルピロリドンなどの親水性高分子溶液と接触させ、放射線架橋により不溶化した親水性高分子被膜層を膜表面に形成する方法が、特許文献2に開示されている。この方法によれば、親水性高分子の溶出は抑制されるものの、不溶化された親水性高分子は、血液が接触した際に、血小板を活性化するため、血液適合性は、かえって悪化してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−118472号公報
【特許文献2】特開平6−238139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、親水性高分子が基材表面に固定化された、血液適合性の高い改質基材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を進めた結果、親水性高分子を必要以上に架橋もしくは崩壊させることなく、基材に固定化できる方法を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は、カチオン性親水性高分子またはアニオン性親水性高分子、および非イオン性親水性高分子を含み、可溶性親水性高分子量が15重量%以下であり、かつ、ヒト血小板付着量が10個/4.3×10μm以下である改質基材である。
【0008】
また、本発明は、基材をカチオン性親水性高分子またはアニオン性親水性高分子、および非イオン性親水性高分子および抗酸化剤を含む水溶液と接触させて放射線照射することによって得られうる改質基材である。
【0009】
また、本発明は、上記の改質基材を用いた分離膜を含む。
【0010】
また、本発明は、上記の改質基材を複数含むシステムを含む。
【0011】
また、本発明は、基材をカチオン性親水性高分子またはアニオン性親水性高分子、および非イオン性親水性高分子および抗酸化剤を含む水溶液と接触下、放射線照射する改質基材の製造方法である。
【0012】
また、本発明は、複数の基材を含むシステムをカチオン性親水性高分子またはアニオン性親水性高分子、および非イオン性親水性高分子および抗酸化剤を含む水溶液と接触させて、該複数の基材に同時に放射線照射するシステムの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の改質基材は、表面に親水性高分子が固定化されており、かつ、親水性高分子の必要以上の架橋、崩壊などが防止されているので、タンパク質などの有機物や生体成分の付着を抑制することができる。特に、高い血液適合性を有する。また、サイトカインの吸着を維持しつつ、高い血液適合性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】人工腎臓システムの基本構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明では、基材を親水性高分子水溶液と接触させた状態で放射線照射することにより、親水性高分子が基材表面に固定化された改質基材を得る。基材の血液適合性は、血液と接触する部分の表面状態に依存し、一般的には、表面の親水性が高いほど、また、表面に固定化された親水性高分子の運動性が高いほど、高くなる。運動性の高い親水性高分子は、その分子運動によって、タンパク質や血小板を排除していると考えられている。
【0016】
なお、ここで言う固定化とは、親水性高分子が基材に結合している状態のことである。本発明においては、可溶性親水性高分子量が15重量%以下であることが必要であり、好ましくは10重量%以下である。ここで、可溶性親水性高分子とは、架橋や基材への固定化による不溶化をされていない親水性高分子のことである。また、可溶性親水性高分子量とは、改質基材に含まれる全親水性高分子中の可溶性親水性高分子の割合である。詳細な測定方法は後述する。可溶性親水性高分子量が15重量%を越えると、親水性高分子の基材に対する結合が十分ではなく、改質基材が血液と接触した際に、親水性高分子が血中に溶出してくる可能性が考えられる。
【0017】
また、親水性高分子の溶出量は、0.5mg/m以下であることが好ましく、0.3mg/m以下であればさらに好ましい。ここで、親水性高分子の溶出量とは、基材を37℃に加温した純水に4時間接触させた場合に、純水中に溶け出した親水性高分子の量を、測定した基材の単位面積あたりの量に換算した値である。詳細な測定方法は後述する。親水性高分子の溶出量が上記の範囲を超えると、血液と接触する医療用具の場合は、患者の体内への蓄積が懸念される。親水性高分子の分子量が5万を越える場合は、腎臓でろ過されないため、体外に排出されず、特に蓄積が懸念される。また、人工腎臓に用いる場合は、腎機能が低下もしくは損失している患者に使用するために、親水性高分子の分子量が5万以下の場合でも、患者の体内への蓄積が懸念される。また、タンパクチップやバイオセンサーといった分析機器に用いる場合においては、溶出した親水性高分子が分析の阻害因子となりうることが懸念される。
【0018】
放射線照射の条件は、基材と接触した親水性高分子水溶液において、放射線照射による、波長260nmから300nmの範囲における紫外吸収値の最大増加値が1以下であることが好ましく、0.5以下がより好ましい。ここでいう紫外吸収値の最大増加値とは、放射線照射後の親水性高分子水溶液の260nmから300nmの範囲における紫外吸収値から、放射線照射前の親水性高分子水溶液の同じ波長範囲における紫外吸収値を差し引いて得られた値のうち、該波長範囲において最大の値のことを指す。放射線照射の条件によっては、親水性高分子が崩壊し、260nmから300nmの波長領域に吸収を有する比較的反応性の高い物質を生成することがある。特に医療用具の場合においては、このような物質は、安全性の面から少ないほうが好ましい。
【0019】
また、本発明の改質基材は、表面親水性高分子量が20重量%以上であることが好ましい。ここで、表面親水性高分子量とは、改質基材の表面における親水性高分子のモノマーユニットの重量(モノマーユニットのモル数×モノマーユニットの分子量)を(A)、改質基材の表面における基材を構成する高分子のモノマーユニットの重量(モノマーユニットのモル数×モノマーユニットの分子量)を(B)としたときに、A/(A+B)で表される比率と定義する。表面親水性高分子量は、改質基材の表面の親水性の度合いを表すパラメータとなる。
【0020】
表面親水高分子量は、改質基材の表面のみ、すなわち表面から深さ10nm程度までをX線光電子分光法(ESCA)により測定することで求められる。表面親水性高分子量は、20重量%以上であることが好ましく、32重量%以上であることがより好ましい。表面親水性高分子量が20重量%未満になると、タンパク質などの有機物や生体成分の付着を抑制する効果が低下する。これは、親水性高分子が基材表面を覆うことができず、基材が改質基材の表面に露出する割合が多くなるためと考えられる。
【0021】
本発明の改質基材は、表面に親水性高分子が固定化されているとともに、親水性高分子の必要以上の架橋、崩壊などが防止されているので、タンパク質などの有機物や生体成分の付着を抑制することができる。特に、高い血液適合性を有する。具体的には、本発明の改質基材は、ヒト血小板付着量が10個/4.3×10μm以下である。血小板付着量は、改質基材と血液を1時間接触させた場合に、改質基材の表面に付着した血小板の数を、改質基材の表面積4.3×10μmあたりの数として求めた値である。詳細な測定方法は後述する。ヒト血小板付着量が10個/4.3×10μmを越えると、血液適合性が不十分になるとともに、タンパク質などの有機物や生体成分の付着を抑制する効果も不十分になる。
【0022】
本発明の改質基材は、高い血液適合性を有するので、医療用基材として好適に用いることができる。本発明で用いられる医療用基材は、人工血管、カテーテル、血液バッグ、コンタクトレンズ、眼内レンズ、手術用補助器具、血液浄化用モジュールなどにおいて用いられるものを含む。なかでも生体成分と接触させて用いられる用途、例えば人工腎臓などの血液浄化用モジュールに適する。ここで、血液浄化用モジュールとは、血液を体外に循環させて、血中の老廃物や有害物質を取り除く機能を有したモジュールのことをいい、人工腎臓や外毒素吸着カラムなどがある。また、人工腎臓用モジュールとしては、コイル型、平板型、中空糸膜型があるが、処理効率などの点から、中空糸膜型が好ましい。
【0023】
ところで、インターロイキン−6(以下、IL−6と略す)をはじめとするサイトカインなど生体に悪影響を与えうる物質を吸着除去する医療用基材がある。このような医療用基材も、血液適合性が高いことが望ましい。しかし、基材表面に親水化処理を行うと、血小板や凝固関連蛋白質の基材への付着が抑制されると同時に、IL−6などの除去対象物質の基材に対する吸着も抑制されてしまうことが懸念される。本発明の改質基材は、IL−6などのサイトカインの吸着を維持しつつ、高い血液適合性を得ることができる。具体的には、改質基材のサイトカイン吸着量を、改質前の基材のサイトカイン吸着量の90%以上に保ったまま、高い血液適合性を有する改質基材を得ることができる。本発明の改質基材は、IL−6吸着量が0.1ng/cm以上であることが好ましい。この範囲にあることにより、改質基材は、IL−6吸着カラムに好適に適用できる。
【0024】
また、本発明の改質基材は、生体成分の付着を抑制するという特長を生かして、水処理用分離膜、生体成分分離膜、バイオ実験関連器具、バイオリアクター、分子モーター、DDS、タンパクチップ、DNAチップ、バイオセンサー、あるいは、分析機器部品などにも好適に用いることができる。また、本発明の改質基材は、3次元架橋度の低い、親水性高分子が表面に存在するので、易滑性が必要な材料に対しての適用も期待できる。
【0025】
本発明において、基材とは親水性を付与させたい材料のことを指す。基材は、高分子材料からなることが好ましい。高分子材料の例としては、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ沸化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリアミドなどが挙げられる。また、これらの共重合体でも良い。さらに炭素繊維やガラス状炭素板、カーボンシートなどの炭素板、カーボンナノチューブ、フラーレン等の炭素材料およびこれらと樹脂を混合したコンポジット材料も用いることができる。また、これらの素材の一部が官能基によって置換された材料も基材として適用できる。これらの、炭素材料における親水性付与の反応機構は定かではなく、直接反応するのか、炭素材料に物理的に拘束されている微量の不純物と反応するのかは不明であるが、高分子材料と同様に親水性化させることが可能である。基材の形状としては、繊維、フィルム、樹脂、分離膜などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
医療用基材として用いる場合は、基材として、例えば、ポリ塩化ビニル、セルロース系ポリマー、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンやポリエーテルスルホンなどのポリスルホン系ポリマー、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリ沸化ビニリデンなどが好ましい。この中でも特にポリスルホン系ポリマーは成形が容易で、分離膜にしたときの物質透過性能に優れているため、好適に用いられる。
【0027】
ポリスルホン系ポリマーは、主鎖に芳香環、スルフォニル基およびエーテル基を持つもので、例えば、次式(1)および/または(2)の化学式で示されるポリスルホンが好適に使用される。式中のnは、50〜80が好ましい。
【0028】
【化1】

【0029】
ポリスルホンの具体例としては、ユーデル(登録商標)ポリスルホンP−1700、P−3500(テイジンアモコ社製)、ウルトラソン(登録商標)S3010、S6010(BASF社製)、ビクトレックス(登録商標)(住友化学)、レーデル(登録商標)A(テイジンアモコ社製)、ウルトラソン(登録商標)E(BASF社製)等のポリスルホンが挙げられる。また、本発明で用いられるポリスルホンは上記式(1)および/または(2)で表される繰り返し単位のみからなるポリマーが好適ではあるが、本発明の効果を妨げない範囲で他のモノマーと共重合していても良い。他の共重合モノマーは10重量%以下であることが好ましい。
【0030】
また、IL−6などのサイトカインを吸着除去する医療用基材に用いる場合は、基材は、疎水性高分子からなることが、吸着性能が高いため好ましい。特に、ポリメタクリル酸メチルは、吸着性能が高いため好ましい。
【0031】
また、本発明において、親水性高分子とは高分子の主鎖もしくは側鎖に親水性の官能基を含む高分子のことを指す。25℃の水に対する溶解度が好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上の親水性高分子が本技術に適用しやすい。具体例としては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミドなどやこれらと他のモノマーとの共重合体や、グラフト重合体などが挙げられる。ポリアルキレングリコール、ポリビニルピロリドン等の非イオン性親水性高分子は、非特異的吸着抑制効果を発揮する。ポリエチレンイミンなどのカチオン性親水性高分子は、酸化LDL等の酸性物質の吸着抑制に高い効果を発揮する。デキストラン硫酸、ポリビニル硫酸などのアニオン性高分子は、リゾチウムなどの塩基性物質の吸着抑制に高い効果を発揮する。中でも、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコールまたはポリビニルピロリドンが、吸着抑制効果が高いことから好ましい。ポリビニルピロリドンは、特に吸着抑制効果が高い。また、ポリアルキレングリコールは、後述の抗酸化剤を添加しなくても、高い吸着抑制効果を発揮するというメリットを有する。
【0032】
親水性高分子がポリアルキレングリコールの場合、ポリアルキレングリコール固定化密度は、150mg/m以上であることが好ましく、200mg/m以上であることがさらに好ましい。また、ポリアルキレングリコール固定化密度は、3000mg/m以下であることが好ましい。ここで、ポリアルキレングリコール固定化密度とは、基材表面に固定化されたポリアルキレングリコールの量である。ポリアルキレングリコール固定化密度が少なすぎると、基材の抗血栓性が低下する。逆にポリアルキレングリコール固定化密度が多すぎると、サイトカインの吸着除去に用いた場合に、サイトカインの吸着能が低下する。基材表面に固定化された親水性高分子の量の測定は、基材および親水性高分子の種類によって異なり、適宜選ばれる。改質基材に結合している親水性高分子の量を直接測定することが好ましいが、より簡便な方法を用いても良い。たとえば、放射線照射前の水溶液中の親水性高分子濃度と、放射線照射後の水溶液中の親水性高分子濃度の比較により、水溶液中の親水性高分子が減少した量を計算し、その量を固定化された親水性高分子の量としてもよい。また、表面の接触角が測定することにより、固定化された親水性高分子の量を推定することも簡便な方法である。
【0033】
親水性高分子として、タンパク質などの生体由来の高分子を用いることも好ましい。基材に生体由来高分子が固定化されることにより、生体由来高分子の機能を基材に付与することができる。生体由来高分子の例としては、デキストランやデキストラン硫酸等の糖鎖構造を有する高分子、ペプチド、蛋白質、脂質、あるいはリポポリサッカライド等の複合物などが挙げられる。
【0034】
また、複数の親水性高分子を用いることも好ましい。たとえば、非イオン性親水性高分子およびカチオン性親水性高分子を用いた場合、非イオン性親水性高分子が非特異的吸着抑制効果を発揮するのに加え、カチオン性親水性高分子が、酸化低密度リポ蛋白質(以下、酸化LDLと呼ぶ)等の酸性物質の吸着抑制に高い効果を発揮するので、両者の効果を併せ持たせることができる。また、非イオン性親水性高分子およびアニオン性高分子を用いた場合、非イオン性親水性高分子の非特異的吸着抑制効果に加えて、アニオン性高分子が、リゾチウムなどの塩基性物質の効率的吸着抑制効果を発揮する。また、合成親水性高分子と親水性の生体由来高分子を同時に用いた場合は、血液適合性が高く、かつ生体高分子のもつ機能が付与された改質基材を提供することができる。複数の親水性高分子を固定化する場合は、逐次固定化させることもできるが、一度に複数の親水性高分子の混合物を固定化することが簡便であり、より好ましい方法である。
【0035】
親水性高分子の分子量は、100以上が好ましく、500以上がより好ましく、1000以上がさらに好ましい。また、親水性高分子の分子量は、5万以下が好ましい。
【0036】
放射線はα線、β線、γ線、X線、紫外線、電子線などが用いられる。また、人工腎臓などの医療用具は滅菌することが必要であり、近年は残留毒性の少なさや簡便さの点から、γ線や電子線を用いた放射線滅菌法が多用されている。すなわち、本発明の方法を医療用基材に用いると、基材の滅菌と改質が同時に達成できるので、好ましい。特に人工腎臓は、分離膜が水を抱液した状態である、いわゆるウェットタイプが主流となっているため、この水を親水性高分子溶液を含む水溶液に変えるだけで、本発明の方法が簡便に使用できるため、好ましい。
【0037】
基材の滅菌と改質を同時に行う場合は、20kGy以上の吸収線量で放射線の照射を行うことが好ましい。血液浄化用モジュール等をγ線で滅菌するには20kGy以上の吸収線量が効果的なためである。しかしながら、吸収線量が20kGy以上であると、親水性高分子の3次元架橋や崩壊などが起きるため、血液適合性が低下する。そのため、本発明においては、抗酸化剤を添加することが好ましい。具体的には、基材を親水性高分子および抗酸化剤を含む水溶液と接触下、放射線照射する。抗酸化剤の添加により、親水性高分子を固定化しつつ、親水性高分子の必要以上の架橋や崩壊を防止し、滅菌も同時に行うことができる。ただし、滅菌が不要な用途に用いる場合は、この吸収線量に限定される必要はない。その場合、15kGy以下の吸収線量で放射線の照射を行うことで、抗酸化剤無しで基材の改質を行うことも可能である。
【0038】
また、本発明でいうところの抗酸化剤とは、他の分子に電子を与えやすい性質を持つ分子のことを言う。抗酸化剤は、ポリビニルピロリドンなどの親水性高分子が放射線によりラジカル反応を起こす際、その反応を抑制する性質を持つ。抗酸化剤としては、例えば、ビタミンCなどの水溶性ビタミン類、ポリフェノール類、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、グリセリンなどのアルコール類、グルコース、ガラクトース、マンノース、トレハロースなどの糖類、ソジウムハイドロサルファイト、ピロ亜硫酸ナトリウム、二チオン酸ナトリウムなどの無機塩類、尿酸、システイン、グルタチオン、酸素などが挙げられる。これらの抗酸化剤は単独で用いてもよいし、2種類以上混合して用いてもよい。本発明の方法を医療用具に用いる際は、その安全性を考慮する必要があるため、抗酸化剤は毒性の低いものが好適に用いられる。特に、アルコール類、糖類および無機塩類が好ましい。
【0039】
水溶液中の抗酸化剤の濃度については、抗酸化剤の種類、放射線の照射線量などにより異なる。抗酸化剤の濃度が低すぎると、親水性高分子の3次元架橋や崩壊などが起きるため、血液適合性が低下するおそれがある。また、抗酸化剤を多量に入れると、基材への固定化効率が落ちるため、十分な血液適合性が得られないおそれがある。
【0040】
以下に、本発明の改質基材の製造方法を、抗酸化剤を用いた場合の例について詳述する。
【0041】
基材の改質方法としては、基材を、親水性高分子および抗酸化剤を含む水溶液に接触させた状態で、放射線を照射する。例えば、基材がフィルムの場合、基材を親水性高分子および抗酸化剤を含む水溶液に浸漬させた状態で、放射線照射することが好ましい。また、基材が中空糸膜等の中空基材で、かつ、親水性を付与させたい部分が中空部内表面の場合、中空部内部に前記の水溶液を充填し、放射線照射することが好ましい。さらに、基材がモジュールに内蔵されている場合は、モジュール内を前記の水溶液で充填して、モジュールごと放射線照射することも好ましい。例えば、人工腎臓ならば、モジュールケース内に分離膜が内蔵されているため、親水性高分子および抗酸化剤を含む水溶液をモジュール内に充填し、モジュールごと放射線照射してもよいし、分離膜のみを親水性高分子および抗酸化剤を含む水溶液に浸漬させた状態で放射線照射してから、モジュールに組み込んでも良い。しかし、改質と滅菌を同時に行えることから、親水性高分子および抗酸化剤を含む水溶液をモジュール内に充填し、モジュールごと放射線照射することが、より好ましい。
【0042】
また、基材を、親水性高分子および抗酸化剤を含む水溶液で湿潤させた状態で、放射線を照射することも好ましい。ここでいう湿潤状態とは、基材を浸漬していた水溶液を除去するが、乾燥させない状態のことを言う。特に限定されるものではないが、基材の乾燥状態に対して1重量%以上の水分を含んでいることが好ましい。すなわち、基材を前記水溶液に浸漬し、該水溶液から引き上げた後、放射線を照射してもよい。また、基材を含むモジュール内に、前記水溶液を充填した後、窒素ブローなどにより、水溶液の大部分をモジュール内から排出した後、放射線を照射してもよい。
【0043】
これら以外の方法としては、基材をあらかじめ親水性高分子水溶液に浸漬するなどして、基材表面に親水性高分子をコーティングした後、抗酸化剤を含む溶液に浸漬してγ線照射を行っても良い。この場合も基材表面が効率よく親水化される。
【0044】
親水性高分子を付与する場所は、基材の種類および改質の方法によって様々にコントロールすることが可能である。例えば、基材が中空糸膜の場合であって、中空糸膜の内側に親水性高分子を含む水溶液を通した後に放射線を照射する場合は、中空糸膜の内表面に親水性高分子を固定することができる。人工腎臓のように内表面のみ血液を流す目的で用いられる場合は好ましい方法である。また、中空糸膜の外側にも親水化を行いたい場合は、中空糸膜の外側にも親水性高分子を含む水溶液を接触させればよい。例えば、中空糸膜がモジュールケースに内蔵されている場合は、中空糸膜とモジュールケースの間の空間に、親水性高分子を含む水溶液を充填すればよい。
【0045】
また、基材が分離膜である場合に、親水性高分子を含む水溶液を、膜を通して濾過しながら充填した場合、膜の表面に親水性高分子が濃縮されるため、表面をより親水化させたい場合は効果的な手法である。この時、親水性高分子として、膜を透過しにくい高分子、例えば高分子量の親水性高分子を用いると、膜の表面に親水性高分子がより濃縮されるため、より高い効果が得られる。
【0046】
一方、低分子量の親水性高分子を用いた場合は、膜内部まで親水化処理を行うことが可能である。例えば濾過もしくは透析により生体物質を分離し一部を回収する膜、いわゆる生体成分分離膜、においては、膜の表面だけを親水化しただけでは、膜内部での生体成分の吸着を抑制することができない。そのため、生体成分分離膜においては、膜内部まで親水化処理を行うことが好ましい形態である。
【0047】
本発明においては、複数の基材を含むシステムを親水性高分子および抗酸化剤を含む水溶液と接触させて、該複数の基材に同時に放射線照射することにより、複数の基材を一度に改質することもできる。特に、該複数の基材が、それぞれ異なる素材からなる場合は、効果が大きい。通常の改質方法では、基材に対する依存性が大きいので、異なる素材からなる複数の基材を同時に改質することは困難である。
【0048】
ここで、複数の基材から構成されているシステムとは、ポート部、分離膜および回路を含む分離膜システムなどである。例えば、人工腎臓、外毒素吸着カラムなどの血液浄化用モジュールは、カテーテル、血液回路、チャンバー、モジュールの入口および出口のポート部、分離膜など異なる素材からなる複数の基材から構成されている。本発明ではこれらの全てもしくは一部を同時に改質することが可能である。ポート部、分離膜および回路のうち、少なくとも一部が改質されていることが好ましい。一例としては、人工腎臓システムの場合は、中空糸膜モジュールに、モジュールの入口および出口のポート部および血液回路を接続し、血液回路から親水性高分子水溶液を通液して、システム全体に充填した状態で放射線照射を行えばよい。
【0049】
血液浄化用モジュールの製造方法としては、その用途により、種々の方法があるが、大まかな工程としては、血液浄化用の分離膜の製造工程と、その分離膜をモジュールに組み込むという工程にわけることができる。
【0050】
人工腎臓に用いられる中空糸膜モジュールの製造方法についての一例を示す。人工腎臓に内蔵される中空糸膜の製造方法としては、つぎのような方法がある。すなわち、ポリスルホンおよびポリビニルピロリドンを良溶媒または良溶媒を含む混合溶媒に溶解させたものを原液とする。ポリマー濃度は、10〜30重量%が好ましく、15〜25重量%がより好ましい。ポリスルホンおよびポリビニルピロリドンの重量比率は、20:1〜1:5が好ましく、5:1〜1:1がより好ましい。良溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジオキサンなどが好ましい。該原液を二重環状口金の外側の管から吐出し、乾式部を走行させた後凝固浴へ導く。二重環状口金の内側の管からは、中空部を形成するための注入液もしくは気体を吐出する。この際、乾式部の湿度が影響を与えるために、乾式部走行中に膜外表面からの水分補給によって、外表面近傍での相分離挙動を速め、孔径拡大し、結果として透析の際の透過/拡散抵抗を減らすことも可能である。ただし、相対湿度が高すぎると外表面での原液凝固が支配的になり、かえって孔径が小さくなり、結果として透析の際の透過/拡散抵抗を増大する傾向がある。そのため、相対湿度としては60〜90%が好適である。また、注入液組成としては、プロセス適性から、原液に用いた溶媒を基本とする組成からなるものを用いることが好ましい。注入液濃度としては、例えばジメチルアセトアミドを用いたときは、45〜80重量%、さらには60〜75重量%の水溶液が好適に用いられる。
【0051】
中空糸膜をモジュールに内蔵する方法としては、特に限定されないが、一例を示すと次の通りである。まず、中空糸膜を必要な長さに切断し、必要本数を束ねた後、筒状ケースに入れる。その後両端に仮のキャップをし、中空糸膜両端部にポッティング剤を入れる。このとき遠心機でモジュールを回転させながらポッティング剤を入れる方法は、ポッティング剤が均一に充填されるために好ましい方法である。ポッティング剤が固化した後、中空糸膜の両端が開口するように両端部を切断し、中空糸膜モジュールを得る。
【0052】
このようにして得られた中空糸膜モジュールを用いた人工腎臓システムの基本構造の一例を第1図に示す。円筒状のプラスチックケース7に中空糸膜5の束が挿入されており、中空糸の両端部を樹脂10で封止されている。ケース7には透析液の導入口8および導出口9が設けられており、中空糸膜5の外部には透析液、生食、濾過水等が流れるようになっている。ケース7の端部にはそれぞれ入口側ポート部1および出口側ポート部2が設けられている。血液6は入口側ポート部1に設けた血液導入口3より導入され、漏斗状のポート部1によって、中空糸膜5の内部に導かれる。中空糸膜5によってろ過された血液6は、出口側ポート部2によって集合させられ、血液導出口4より排出される。血液導入口3および血液導出口4には、血液回路11が接続される。
【0053】
以下実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
1.基材の作成方法
(ポリスルホンフィルム1の作製)
ポリスルホン(テイジンアモコ社製ユーデル(登録商標)P−3500)10重量部をN,N‘−ジメチルアセトアミド80重量部に加え、室温にて溶解し、製膜原液を得た。ホットプレートを用いて、表面温度が100度になるように加熱したガラス板上に、前記製膜原液を厚さ203μmになるようにキャストした。表面の温度は、接触式温度計により測定した。キャスト後、5分間ホットプレート上で放置し、溶媒を蒸発させた後、ガラス板ごと、水浴へ浸漬しポリスルホンフィルム1を得た。ここで、水浴に浸漬させるのは、ポリスルホンフィルムをガラス板からはがしやすくさせるためである。
(中空糸膜モジュール1の作製)
ポリスルホン(テイジンアモコ社製ユーデル(登録商標)P−3500)18重量部およびポリビニルピロリドン(BASF社製K30)9重量部をN,N‘−ジメチルアセトアミド72重量部および水1重量部の混合溶媒に加え、90℃で14時間加熱して溶解し、製膜原液を得た。この製膜原液を外径0.3mm、内径0.2mmのオリフィス型二重円筒型口金の外側の管より吐出した。芯液としてN,N‘−ジメチルアセトアミド58重量部および水42重量部からなる溶液を内側の管より吐出した。吐出された製膜原液は、乾式長350mmを通過した後、水100%の凝固浴に導かれ、中空糸が得られた。
【0055】
得られた中空糸を10000本、第1図に示すような、透析液入口および透析液出口を有する円筒状のプラスチックケースに挿入し、両端部を樹脂で封止して、有効膜面積1.6mの人工腎臓用中空糸膜モジュール1を作成した。
(中空糸膜モジュール2の作成) iso(アイソタクティック)-ポリメチルメタクリレート5重量部およびsyn(シンジオタクティック)-ポリメチルメタクリレート20重量部をジメチルスルホキシド75重量部に加え、加熱溶解し、製膜原液を得た。この製膜原液をオリフィス型二重円筒型口金の外側の管より吐出し、空気中を200mm通過した後、水100%の凝固浴中に導き中空糸を得た。この際、内部注入気体として乾燥窒素を内側の管より吐出した。得られた中空糸の内径は0.2mm、膜厚は0.03mmであった。中空糸膜モジュール1と同様にして、得られた中空糸を10000本用いて、有効膜面積1.6mの中空糸膜モジュール2を作成した。
2.測定方法
(1)可溶性親水性高分子量の測定
測定サンプルを乾燥して乾燥重量を測定した後、基材と親水性高分子の両方を溶解できる溶媒に溶解する。この溶液に、親水性高分子は溶解するが、基材は溶解しない溶媒を添加する。この操作により、基材および基材に固定化された親水性高分子は沈殿する。一方、可溶性親水性高分子は、溶解したままである。この上澄み液に含まれる親水性高分子の量を、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)によって定量することにより、測定サンプルの単位重量あたりに含まれる可溶性親水性高分子の重量が求められる。一方、測定サンプルを元素分析することにより、測定サンプルの単位重量あたりに含まれる全親水性高分子の重量が求められる。測定サンプルの単位重量あたりの可溶性親水性高分子の重量を測定サンプルの単位重量あたりの全親水性高分子の重量で割った値が、可溶性親水性高分子量である。
【0056】
親水性高分子が、ポリビニルピロリドン、基材がユーデル(登録商標)P−3500の場合には、以下の通りにして測定した。乾燥した測定サンプルを、N−メチル−2−ピロリドンに2.5重量%の濃度になるように溶解した。その溶液を撹拌しながら、水を数滴ずつ1.7倍量添加して、基材のポリマーを析出させた。このときに水を一気に加えると、ポリスルホンが可溶性のポリビニルピロリドンを巻き込んだ状態で析出してしまい、正確な測定ができない可能性があるため注意を要する。可溶性のポリビニルピロリドンは、分散したポリスルホン微粒子とともに溶液中に含まれる。溶液をHPLC用の非水系フィルター(東ソー製、2.5μ径)でろ過して、溶液中のポリスルホン微粒子を除去した後、ろ液中に含まれるポリビニルピロリドンを、以下の条件でHPLCにて定量した。
装置:Waters、GPC−244
カラム:TSKgelGMPWXL2本
溶媒:水系、0.1M塩化アンモニウム、0.1Nアンモニア、pH9.5
流速:1.0ml/min
温度:23℃
ろ液中に含まれるポリビニルピロリドンの量から測定サンプルの単位重量当たりに含まれる可溶性ポリビニルピロリドンの重量が求められた。それを元素分析から求めた測定サンプルの単位重量当たりに含まれる全ポリビニルピロリドンの重量で割った値が可溶性ポリビニルピロリドン量である。
(2)親水性高分子の溶出性試験
測定サンプルを浸漬している親水性高分子水溶液を取り除いた後、改質基材の表面部分の面積に対して、0.25ml/cm量の水に、測定サンプルを37℃、4時間浸漬することによって、溶出した親水性高分子を定量する。
【0057】
測定サンプルが、前記の中空糸膜モジュール1の場合には、以下のようにして測定した。中空糸膜モジュール1の血液側を室温の超純水700mlで洗浄し、透析液側を室温の超純水2500mlで洗浄した後、再び血液側を室温の超純水300mlで洗浄し、充填液中に元からある親水性高分子を洗い流した。その後、血液側を37℃に加温した4000mlの超純水で流速200ml/minで4時間灌流した。その後、灌流液を200倍に濃縮し、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)にて測定した。その値から、灌流液中に溶出した親水性高分子の総量を算出した。親水性高分子がポリビニルピロリドンの場合、GPCの測定条件としては、カラムはGMPWXLを使用し、流速0.5ml/min、溶媒は0.1Nの硝酸リチウムを添加したメタノール:水=1:1(容積比)の混合溶媒、カラム温度40℃で行った。ポリビニルピロリドン濃度の検量線には、BASF社製K90を用いた。
(3)紫外吸収値の最大増加値の測定
測定サンプルと接触している親水性高分子水溶液の放射線照射前後の、波長260nmから300nmの範囲の紫外吸収値を測定した。測定に供する水溶液約3mlを光路長1cmの石英セルに入れて、日立社製U−2000形分光光度計を用いて、室温にて測定した。放射線照射後の紫外吸収値から放射線照射前の紫外吸収値を引いて、紫外吸収値の増加値を求めた。波長260nmから300nmの範囲で最大の増加値を、紫外吸収値の最大増加値とした。
【0058】
測定サンプルが中空糸膜モジュールで、親水性高分子水溶液を血液側に充填した場合は、放射線照射後の水溶液は、自然落下で滴下してくる分だけをサンプリングした。なお、親水性高分子水溶液を血液側に充填した後、ブローなどにより排液し、湿潤状態で放射線照射した場合には、水溶液が自然落下で滴下しない場合もある。その時には、水をモジュール内に再度充填した後、室温で1時間以上放置後、自然落下で滴下した血液側の水をサンプリングすればよい。
【0059】
中空糸膜モジュール以外の基材を、湿潤状態で放射線照射した場合には、基材を0.1ml/cm量の水に室温で1時間、浸漬した後、その水を測定し、その測定値を20倍にした値を採用する。これは前記の中空糸膜モジュールの内表面積に対する、血液側の充填液の量、すなわち、浴比が0.005ml/cmであるので、それと浴比を一致するように換算することを意味する。0.1ml/cm量の水で、基材が浸漬しない場合は、適宜、水量を増加して測定し、浴比が0.005ml/cmに相当するように換算すればよい。
(4)表面親水性高分子量の測定
表面の親水性高分子量は、X線光電子分光法(ESCA)によって測定した。測定装置としてESCALAB220iXLを用い、サンプルを装置にセットして、X線の入射角に対する検出器の角度は90度にて測定を行った。サンプルがフィルムの場合は、キャスト時のガラス面を測定した。また、サンプルが中空糸膜の場合は、中空糸膜を片刃で半円筒状にそぎ切り、中空糸膜の内表面を測定した。測定サンプルは、超純水でリンスした後、室温、0.5Torrにて10時間乾燥させた後、測定に供した。
【0060】
親水性高分子がポリビニルピロリドン、基材がユーデル(登録商標)P−3500の場合には、ESCAの測定により得られた、C1s、N1s、S2pスペクトルの面積強度より、装置付属の相対感度係数を用いて窒素の表面量(a)と硫黄の表面量(b)を求め、下式より表面ポリビニルピロリドン量を算出した。
表面ポリビニルピロリドン量(重量%)=a×100/(a×111+b×442)
(5)ポリエチレングリコールの固定化密度の測定
放射線照射後の中空糸を、基材表面積1mあたり1lの37℃の蒸留水に1時間浸漬し、蒸留水中に溶出するポリエチレングリコール量が1mg以下になるまで蒸留水を交換しながら洗浄し、基材に固定化されていないポリエチレングリコールを取り除いた。洗浄した基材を50℃、0.5Torrにて10時間乾燥した。乾燥した基材10〜100mgを試験管に取り、無水酢酸とパラトルエンスルホン酸の混合溶液2mlを添加し、120度で約1時間アセチル化した。冷却後2mlの純水で器壁を洗い落とした後、20%炭酸水素ナトリウムで中和した。中和した溶液をトリクロロメタン5mlで抽出し、抽出物をガスクロマトグラフィー(以下GCと略す)で分析した。GC分析条件を以下に示す。予め作成した検量線を用いて、基材に固定化しているポリエチレングリコール量を求めた。
(GC分析条件)
装置:Shimazu GC-9A
カラム:Supelcowax-10 60m×0.75mmI.D.
キャリアーガス:ヘリウム
検出器:FID (H2 inlet:0.7kg/cm2, Air inlet:0.6kg/cm2, Temp.:200℃)
カラム温度:80℃ 5min hold-(20min)-200℃ 5min hold
インジェクター温度:200℃
(6)接触角の測定
協和界面化学社製の接触角計CA−Dを用いて測定した。測定は室温が25度に温調された部屋で行った。
(7)フィルムのウサギ血小板付着試験方法
測定するフィルムを18mmφのポリスチレン製の円筒管の底に平板状に設置し、該円筒管を生理食塩水で満たした。フィルム表面に汚れや傷、折り目などがあると、その部分に血小板が付着し、正しい評価ができないことがあるので注意を要する。3.2%クエン酸三ナトリウム2水和物水溶液と家兎新鮮血を1:9(容積比)で混合した血液を1000rpmで10分間遠心分離し、上清を取り出した(血漿1とする)。その後、上清を取り出したあとの血液を3000rpmで10分間再度遠心分離し、上清を取り出した(血漿2とする)。血漿1に血漿2を添加することで希釈(血漿2は血漿1に比べて血小板の濃度が低い)し、血小板数20×10個/mlの富血小板血漿(PRPと称する)を調製した。準備した円筒管の生理食塩水を捨てた後、PRPを1.0ml入れて37℃にて1時間振盪した。その後、測定フィルムを生理食塩水で3回洗浄し、3%グルタルアルデヒド水溶液で血液成分の固定を行い、蒸留水にて洗浄した後、減圧乾燥を5時間以上行った。
【0061】
このフィルムを走査型電子顕微鏡の試料台に両面テープで貼り付けた後、スパッタリングにより、Pt−Pdの薄膜を表面に形成させて、試料とした。走査型電子顕微鏡(日立社製S800)にて試料表面を観察した。フィルムと円筒管の接着部は血液が溜まりやすいので、主としてフィルム中央部を倍率3000倍で観察し、1視野中(1.12×10μm)の付着血小板数を数えた。フィルム中央付近で異なる10視野での付着血小板数の平均値を1.12で割った値を血小板付着数(個/1.0×10μm)とした。
(8)フィルムのヒト血小板付着試験方法
18mmφのポリスチレン製の円形板に両面テープで貼り付け、測定するフィルムを固定した。フィルム表面に汚れや傷、折り目などがあると、その部分に血小板が付着し、正しい評価ができないことがあるので注意を要する。筒状に切ったFalcon(登録商標)チューブ(18mmφ、No.2051)に該円形板を、フィルムを貼り付けた面が、円筒内部にくるように取り付け、パラフィルムで隙間を埋めた。この円筒管内を生理食塩水で洗浄後、生理食塩水で満たした。人間の静脈血を採血後、直ちにヘパリンを50U/mlになるように添加した。前記円筒管内の生理食塩水を廃棄後、前記血液を、採血後10分以内に、円筒管内に1.0ml入れて、37℃にて1時間振盪させた。その後、測定フィルムを10mlの生理食塩水で洗浄し、2.5%グルタルアルデヒド生理食塩水で血液成分の固定を行い、20mlの蒸留水にて洗浄した。洗浄したフィルムを、常温0.5Torrにて10時間減圧乾燥した。その後、スパッタリングにより、Pt−Pdの薄膜をフィルム表面に形成させて、試料とした。フィールドエミッション型走査型電子顕微鏡(日立社製S800)にて、倍率1500倍で試料表面を観察し、1視野中(4.3×10μm)の付着血小板数を数えた。フィルム中央付近で異なる10視野での付着血小板数の平均値を血小板付着数(個/4.3×10μm)とした。
(9)中空糸膜のウサギ血小板付着試験方法
中空糸分離膜を30本束ね、中空糸中空部を閉塞しないようにエポキシ系ポッティング剤で両末端をガラス管モジュールケースに固定し、ミニモジュールを作成した。該ミニモジュールの直径は約7mm、長さは約10cmであった。該ミニモジュールの血液入口と透析液出口をシリコーンチューブで繋ぎ、血液出口から蒸留水100mlを10ml/minの流速で流し、中空糸およびモジュール内部を洗浄した。その後、生理食塩水を充填し、透析液入口、出口をキャップした。次に、血液入口から、0.59ml/minの流速で、2時間生理食塩水プライミングした後、3.2%クエン酸三ナトリウム2水和物水溶液と家兎新鮮血を1:9(容積比)で混合した血液7mlを0.59ml/minの流速で1時間灌流した。その後、生理食塩水で10mlシリンジにて洗浄し、3%グルタルアルデヒド水溶液を中空糸内部および透析液側の両方に充填し、一晩以上置き、グルタルアルデヒド固定を行った。その後、蒸留水にて、グルタルアルデヒドを洗浄し、ミニモジュールから中空糸膜を切り出して減圧乾燥を5時間以上行った。中空糸膜を走査型電子顕微鏡の試料台に両面テープで貼り付けた後、長手方向にスライスし、内表面を露出させた。その後、スパッタリングにより、Pt−Pdの薄膜を試料に形成させた。走査型電子顕微鏡(日立社製S800)にて、倍率3000倍で試料の内表面を観察し、1視野中(1.12×10μm)の付着血小板数を数えた。異なる10視野での付着血小板数の平均値を1.12で割った値を血小板付着数(個/1.0×10μm)とした。
(10)中空糸膜のヒト血小板付着試験方法
18mmφのポリスチレン製の円形板に両面テープを貼り付け、そこに中空糸膜を固定した。貼り付けた中空糸膜を片刃で半円筒状にそぎ切り、中空糸膜の内表面を露出させた。中空糸内表面に汚れや傷、折り目などがあると、その部分に血小板が付着し、正しい評価ができないことがあるので注意を要する。筒状に切ったFalcon(登録商標)チューブ(18mmφ、No.2051)に該円形板を、中空糸膜を貼り付けた面が、円筒内部にくるように取り付け、パラフィルムで隙間を埋めた。この円筒管内を生理食塩水で洗浄後、生理食塩水で満たした。人間の静脈血を採血後、直ちにヘパリンを50U/mlになるように添加した。前記円筒管内の生理食塩水を廃棄後、前記血液を、採血後10分以内に、円筒管内に1.0ml入れて37℃にて1時間振盪させた。その後、中空糸膜を10mlの生理食塩水で洗浄し、2.5%グルタルアルデヒド生理食塩水で血液成分の固定を行い、20mlの蒸留水にて洗浄した。洗浄した中空糸膜を常温0.5Torrにて10時間減圧乾燥した。このフィルムを走査型電子顕微鏡の試料台に両面テープで貼り付けた。その後、スパッタリングにより、Pt−Pdの薄膜を中空糸膜表面に形成させて、試料とした。この中空糸膜の内表面をフィールドエミッション型走査型電子顕微鏡(日立社製S800)にて、倍率1500倍で試料の内表面を観察し、1視野中(4.3×10μm)の付着血小板数を数えた。中空糸長手方向における中央付近で、異なる10視野での付着血小板数の平均値を血小板付着数(個/4.3×10μm)とした。中空糸の長手方向における端の部分は、血液溜まりができやすいためである。
(11)人工腎臓用血液回路のヒト血小板付着試験方法
人工腎臓用血液回路を0.1g(メッシュ部分の場合は0.01g)程度の小片に細断した。細断した小片について、上記の(9)項と同様にして、ヒト血小板付着試験を行った。
【0062】
なお、上記(7)〜(11)項の血小板付着試験においては、試験が適切に行われているかどうかを確認するために、ポジティブコントロールとネガティブコントロールを実験毎に水準に入れる。ポジティブコントロールとは、血小板付着が多いことがわかっている既知のサンプルである。また、ネガティブコントロールとは、血小板付着が少ないことがわかっている既知のサンプルである。ヒト血小板付着試験においては、上記の実験条件で血小板付着数が、40(個/4.3×10μm)以上のサンプルを、ポジティブコントロールとする。また同様に、血小板付着数が5(個/4.3×10μm)以下のサンプルを、ネガティブコントロールとする。ウサギ血小板付着実験においては、血小板付着数が、30(個/1.0×10μm)以上のサンプルをポジティブコントロール、5(個/1.0×10μm)以下のサンプルをネガティブコントロールとする。以下の実施例では、ポジティブコントロールとして、東レ社製人工腎臓“フィルトライザー”BG−1.6Uの中空糸膜を、ネガティブコントロールとしては川澄化学社製人工腎臓PS−1.6UWの中空糸膜を用いた。試験を行った後、ポジティブコントロールの血小板付着数が、上記の値以上であり、かつ、ネガティブコントロールの血小板付着数が、上記の値以下であったときに、測定値を採用する。コントロールの血小板付着数が上記範囲からはずれた場合は、血液の鮮度が欠けていたり、血液の過度な活性化が生じていることなどが考えられるので、試験をやり直す。
(12)IL−6吸着試験
中空糸膜モジュール2に用いたのと同じ中空糸分離膜を30本束ね、中空糸中空部を閉塞しないようにエポキシ系ポッティング剤で両末端をガラス管モジュールケースに固定し、ミニモジュールを作成した。該ミニモジュールの直径は約7mm、長さは約10cmであった。該ミニモジュールの血液入口と透析液出口をシリコーンチューブで繋ぎ、血液出口から蒸留水100mlを10ml/minの流速で流し、中空糸およびモジュール内部を洗浄した。その後、PBS(日水製薬社製ダルベッコPBS(−))水溶液を充填し、透析液入口、出口をキャップした。
【0063】
ヒト血漿10mlに、IL−6を添加し、1ng/ml濃度に調整した(液1とする)。透析液入口と透析液出口をキャップし、血液側入口と血液側出口をシリコーンチューブでつなぎ、液1を1ml/minの流速で37℃、4時間灌流させた。灌流前後のIL−6を定量し、IL−6の減少量から基材への吸着量を算出した。
(13)酸化LDL吸着除去試験方法
(a)抗酸化LDL抗体の作製
板部らが作製したものを用いた(H.Itabe et al.,J.Biol.Chem.269:15274、1994)。すなわち、ヒト粥状硬化病巣ホモジェネートをマウスに注射して免疫し、そのマウスの脾臓からハイブリドーマを作製し、硫酸銅処理LDLと反応するものを選別して、抗酸化LDL抗体を得た。得られた抗酸化LDL抗体の抗体クラスは、マウスIgMで、未処理LDL、アセチルLDL、マロンジアルデヒドLDLとは反応しない。一方、該抗酸化LDL抗体は、フォスファチジルコリンのアルデヒド誘導体やヒドロペルオキシドを含めていくつかのフォスファチジルコリン過酸化反応生成物と反応する。該抗酸化LDL抗体を150mMのNaClを含む10mMほう酸緩衝液(pH8.5)に溶解したものを用いた(蛋白質濃度0.60mg/ml)。
(b)酸化LDLの調製
市販のLDL(フナコシ製)を脱塩した後、0.2mg/mlとなるようにリン酸緩衝液(以下、PBSと略記)で希釈した。その後、0.5mM硫酸銅水溶液を2wt%添加し、37℃で5時間反応させた。得られた溶液に、25mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を1wt%、10wt%アジ化ナトリウムを0.02wt%となるように添加したものを酸化LDL標品とした。
(c)酸化LDL濃度の測定
前記抗酸化LDL抗体をPBSで5μg/mlに希釈し、96穴のプレートに100μl/ウェルずつ分注した。室温で2時間震盪した後、4℃にて一晩以上放置し、抗体を壁に吸着させた。
【0064】
ウェル中の抗体溶液を捨て、1%Bovine Serum Albmin(BSA、フラクションV、生化学工業)を含むトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)を200μl/ウェルずつ分注した。室温で2時間震盪して壁をブロッキングした後、ウェル中のBSA溶液を捨て、酸化LDLを含んだ血漿および検量線作成用のスタンダードを100μl/ウェルずつ分注した。その後、室温で30分震盪した後、4℃で一晩放置した。
【0065】
室温に戻し、ウェル中の溶液を捨て、0.05%トゥイーン(登録商標)−20を含むトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)でウェルを3回洗浄した。洗浄したウェルにPBSで2000倍に希釈したヒツジ抗アポB抗体100μl/ウェルずつ分注した。室温で2時間震盪した後、ウェル中の抗アポB抗体を捨て、0.05%トゥイーン−20を含むトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)でウェルを3回洗浄した。洗浄したウェルに2%ブロックエース(大日本製薬)を含むトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で2000倍に希釈したアルカリ性フォスファターゼ標識ロバ抗ヒツジIgG抗体を100μl/ウェルずつ分注し、室温で2時間震盪した。その後、ウェル中の標識抗体を捨て、0.05%トゥイーン−20を含むトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)でウェルを3回洗浄し、さらにトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で2回洗浄した。続いて、p−ニトロフェニルリン酸の1mg/ml溶液(0.0005M MgCl、1Mジエタノールアミン緩衝液、pH9.8)を100μl/ウェルずつ分注した。適当な時間室温で反応させた後、波長415nmにおける吸光度をプレートリーダーで測定した。スタンダードの結果から検量線を引き、酸化LDL濃度を決定した。
(d)酸化LDL吸着除去率の測定
健常者血漿(日本人、30歳、LDL(βリポ蛋白)濃度275mg/dl,HDL−コレステロール濃度70mg/dl)に、上記酸化LDLを濃度2μg/mlとなるように添加した。
【0066】
中空糸膜を70本束ね、直径約7mm、長さは12cmのガラス管モジュールケースに挿入した。中空糸膜の両末端を、中空糸膜中空部を閉塞しないようにエポキシ系ポッティング剤で固定し、ミニモジュール(内表面積53cm)を作成した。ミニモジュールを超純水で37℃で30分間洗浄した。その後、ミニモジュールの両端に内径7mm(外径10mm)、長さ2cmのシリコーンチューブ(製品名ARAM(登録商標))と異形コネクターを介して、内径0.8mm、外径1mm、長さ37cmのシリコーンチューブ(製品名ARAM(登録商標))をつなぎ、上記血漿1.5mlを窒素雰囲気下で0.5ml/分の流量で25℃、4時間中空糸膜内に灌流した。中空糸膜表面積1mあたりの血漿量は2.8×10ml/mであった。さらにミニモジュールをつけずにシリコーンチューブのみで灌流操作も行った。灌流前後の血漿中の酸化LDL濃度を定量することにより、それぞれの吸着除去率を下記式により算出した。
【0067】
酸化LDL吸着除去率(%)=ミニモジュールでの酸化LDL吸着除去率(%)−シリコーンチューブのみでの酸化LDL吸着除去率(%)
酸化LDL吸着除去率(%)=100×(灌流前の濃度−灌流後の濃度)/灌流前の濃度
(実施例1)
基材として、前記のポリスルホンフィルム1を用いた。親水性高分子としてポリビニルピロリドン(BASF社製K90)0.1重量%および抗酸化剤としてエタノール0.5重量%含む水溶液に基材を浸漬し、γ線照射した。γ線吸収線量は27kGyであった。該フィルムを純水でリンスした後、80℃の純水中で60分間撹拌し、純水を入れ替え再び80℃で60分間撹拌した後、さらに純水を入れ替え80℃で60分間撹拌し、吸着しているポリビニルピロリドンを取り除いた。該フィルムの表面ポリビニルピロリドン量の測定、表面の接触角の測定、血小板付着試験および可溶性親水性高分子量の測定をそれぞれ行った。その結果、表1に示された通り、可溶性親水性高分子量が少なく、親水性が高く、血小板数が少ない、血液適合性の高いポリスルホンフィルムが得られたことがわかった。
(比較例1)
前記のポリスルホンフィルム1を、純水中でγ線照射した。γ線吸収線量は28kGyであった。該フィルムを純水でリンスし、80℃の純水中で60分間撹拌し、純水を入れ替え再び80℃で60分間撹拌した後、さらに純水を入れ替え80℃で60分間撹拌した。該フィルムの表面ポリビニルピロリドン量の測定、表面の接触角の測定、血小板付着試験および可溶性親水性高分子量の測定をそれぞれ行った。その結果、表1に示された通り、実施例1と比較して血小板付着数が多く血液適合性の低いポリスルホンフィルムが得られたことがわかった。
(比較例2)
前記のポリスルホンフィルム1を、親水性高分子としてポリビニルピロリドン(BASF社製K90)0.1重量%、抗酸化剤としてエタノール0.5重量%を含む水溶液中で3日間室温にて放置した。その後、該フィルムを純水でリンスし、80℃の純水中で60分間撹拌し、純水を入れ替え再び80℃で60分間撹拌した後、さらに純水を入れ替え80℃で60分間撹拌した。該フィルムの表面ポリビニルピロリドン量の測定、表面の接触角の測定、血小板付着試験および可溶性親水性高分子量の測定をそれぞれ行った。その結果、表1に示された通り、実施例1と比較して接触角が大きく親水性が低く、血小板付着数が多い血液適合性の低いポリスルホンフィルムが得られたことがわかった。
(比較例3)
前記のポリスルホンフィルム1にγ線を照射しないで、該フィルムを純水でリンスし、80℃の純水中で60分間撹拌し、純水を入れ替え再び80℃で60分間撹拌した後、さらに純水を入れ替え80℃で60分間撹拌した。該フィルムの表面ポリビニルピロリドン量の測定、表面の接触角の測定、血小板付着試験および可溶性親水性高分子量の測定をそれぞれ行った。その結果、表1に示された通り、実施例1と比較して接触角が大きく親水性が低く、血小板付着数が多い血液適合性の低いポリスルホンフィルムが得られたことがわかった。
【0068】
【表1】

【0069】
(実施例2)
親水性高分子としてポリビニルピロリドン(BASF社製K90)0.1重量%、抗酸化剤としてエタノール0.5重量%を含む水溶液を、前記の中空糸膜モジュール1の血液側および透析液側に、それぞれ1000ml通液し、モジュール内を該水溶液で充填した。この後、該モジュールにγ線照射した。γ線吸収線量は29kGyであった。該モジュールについて、ポリビニルピロリドンの溶出性試験を行った結果、ポリビニルピロリドンの溶出量は0.15mg/mであった。また、該モジュールの中空糸を切り出し、表面ポリビニルピロリドン量、可溶性親水性高分子量および血小板付着数を評価した。その結果、表2に示された通りであった。
(実施例3)
親水性高分子としてポリビニルピロリドン(BASF社製K90)0.1重量%、抗酸化剤としてピロ亜硫酸ナトリウム500ppmを含む水溶液を、前記の中空糸膜モジュール1の血液側および透析液側に、それぞれ1000ml通液し、モジュール内を該水溶液で充填した。この後、該モジュールにγ線照射した。γ線吸収線量は29kGyであった。該モジュールの中空糸を切り出し、表面ポリビニルピロリドン量、可溶性親水性高分子量および血小板付着数を評価した。その結果、表2に示された通りであった。
(比較例4)
純水を、前記の中空糸膜モジュール1の血液側および透析液側にそれぞれ1000ml通液し、モジュール内を純水で充填した。この後、該モジュールにγ線照射した。γ線吸収線量は28kGyであった。該モジュールの中空糸を切り出し、表面ポリビニルピロリドン量、可溶性親水性高分子量および血小板付着数を評価した。その結果、表2に示された通り、実施例2,3と比較して血小板付着数が多かった。また、該モジュールの血液側充填液の、γ線照射による波長260nmから300nmの範囲における紫外吸収値の最大増加値を測定した。さらに、中空糸膜モジュール1と同じ中空糸膜を用いてミニモジュールを作成し、酸化LDL吸着実験に供した。結果は表3に示したように、カチオン性親水性高分子を固定化した中空糸膜に比べて、酸化LDL吸着除去率は低かった。
(比較例5)
親水性高分子としてポリビニルピロリドン(BASF社製K90)0.1重量%を含む水溶液を、前記の中空糸膜モジュール1の血液側および透析液側に、それぞれ1000ml通液し、モジュール内を該水溶液で充填した。この後、該モジュールにγ線照射した。γ線吸収線量は29kGyであった。該モジュールの中空糸を切り出し、表面ポリビニルピロリドン量、可溶性親水性高分子量および血小板付着数を評価した。その結果、表2に示された通り、実施例2,3と比較して血小板付着数が多かった。
(比較例6)
抗酸化剤としてエタノール0.5重量%を含む水溶液を、前記の中空糸膜モジュール1の血液側および透析液側に、それぞれ1000ml通液し、モジュール内を該水溶液で充填した。この後、該モジュールにγ線照射した。γ線吸収線量は29kGyであった。該モジュールの中空糸を切り出し、表面ポリビニルピロリドン量、可溶性親水性高分子量および血小板付着数を評価した。その結果、表2に示された通り、実施例2,3と比較して血小板付着数が多かった。
(比較例7)
抗酸化剤として500ppmのピロ亜硫酸ナトリウムを含む水溶液を、前記の中空糸膜モジュール1の血液側および透析液側に、それぞれ1000ml通液し、モジュール内を該水溶液で充填した。この後、該モジュールにγ線照射した。γ線吸収線量は29kGyであった。該モジュールの中空糸を切り出し、表面ポリビニルピロリドン量、可溶性親水性高分子量および血小板付着数を評価した。その結果、表2に示された通り、実施例2,3と比較して血小板付着数が多かった。
(比較例8)
親水性高分子としてポリビニルピロリドン(BASF社製K90)0.1重量%、抗酸化剤としてエタノール0.5重量%を含む水溶液を、前記の中空糸膜モジュール1の血液側および透析液側に、それぞれ1000ml通液し、モジュール内を該水溶液で充填した。充填後3日間室温で放置した後、該モジュールについて、ポリビニルピロリドンの溶出性試験を行った。その結果、ポリビニルピロリドンの溶出量が0.68mg/mであり、実施例2と比較してポリビニルピロリドンの溶出量が多かった。該モジュールの中空糸を切り出し、表面ポリビニルピロリドン量、可溶性親水性高分子量および血小板付着数を評価した。その結果、表2に示された通りであった。すなわち、γ線照射を行っていないので、血小板付着数は低かったが、ポリビニルピロリドンのグラフト化や、架橋が起きていないため、ポリビニルピロリドンの溶出量が多かったと考えられる。
【0070】
【表2】

【0071】
(実施例4)
ノニオン性親水性高分子としてポリビニルピロリドン(BASF社製K90)0.1重量%、カチオン性親水性高分子としてポリエチレンイミン(BASF社製、重量平均分子量100万)0.1重量%を含む水溶液を、前記中空糸膜モジュール1の血液側および透析液側に、それぞれ1000ml通液し、モジュール内を該水溶液で充填した。この後、該モジュールにγ線照射した。γ線吸収線量は27kGyであった。該モジュールの血液側充填液の、γ線照射による波長260nmから300nmの範囲における紫外吸収値の最大増加値を測定した。該モジュールの中空糸を切り出し、血小板付着数を評価した。さらに、中空糸膜モジュール1と同じ中空糸膜を用いてミニモジュールを作成し、酸化LDL吸着実験に供した。その結果、表3に示された通りであった。その結果を表3に示した。
(実施例5)
カチオン性親水性高分子としてポリエチレンイミン(BASF社製、重量平均分子量100万)0.1重量%、抗酸化剤としてエタノールを含む水溶液を、前記中空糸膜モジュール1の血液側および透析液側に、それぞれ1000ml通液し、モジュール内を該水溶液で充填した。この後、該モジュールにγ線照射した。γ線吸収線量は29kGyであった。該モジュールの血液側充填液の、γ線照射による波長260nmから300nmの範囲における紫外吸収値の最大増加値を測定した。その結果、表3に示したように、比較例9に比べて紫外吸収値の最大増加値が低く抑えられていることがわかった。該モジュールの中空糸を切り出し、血小板付着数を評価した。さらに、中空糸膜モジュール1と同じ中空糸膜を用いてミニモジュールを作成し、酸化LDL吸着実験に供した。結果を表3に示した。
(比較例9)
カチオン性親水性高分子としてポリエチレンイミン(BASF社製、重量平均分子量100万)0.1重量%を含む水溶液を、前記中空糸膜モジュール1の血液側および透析液側に、それぞれ1000ml通液し、モジュール内を該水溶液で充填した。この後、該モジュールにγ線照射した。γ線吸収線量は28kGyであった。該モジュールの血液側充填液の、γ線照射による波長260nmから300nmの範囲における紫外吸収値の最大増加値を測定した。該モジュールの中空糸を切り出し、血小板付着数を評価した。さらに、中空糸膜モジュール1と同じ中空糸膜を用いてミニモジュールを作成し、酸化LDL吸着実験に供した。その結果、表3に示された通り、実施例4と比較して血小板付着数が多かった。
【0072】
【表3】

【0073】
(実施例6)
前記の中空糸膜モジュール2の血液側および透析液側に、それぞれ40℃の超純水5000mlを通液して洗浄した。その後、親水性高分子としてポリエチレングリコール(日本油脂社製マクロゴール(登録商標)6000)0.075重量%を含む水溶液を、血液側および透析液側にそれぞれ1000ml通液し、モジュール内を該水溶液で充填した。この後、該モジュールをγ線照射した。γ線吸収線量は28kGyであった。該モジュールについて、ポリエチレングリコール固定化密度測定、血小板付着試験およびIL−6吸着試験を行った。その結果、表4に示された通りであった。
(実施例7)
前記の中空糸膜モジュール2の血液側および透析液側に、それぞれ40℃の超純水5000mlを通液して洗浄した。その後、親水性高分子としてポリエチレングリコール(日本油脂製マクロゴール(登録商標)6000)0.100重量%を含む水溶液を、該モジュールの血液側および透析液側にそれぞれ1000ml通液し、モジュール内を該水溶液で充填した。この後、該モジュールをγ線照射した。γ線吸収線量は28kGyであった。該モジュールについて、ポリエチレングリコール固定化密度測定、血小板付着試験およびIL−6吸着試験を行った。その結果、表4に示された通りであった。
(実施例8)
前記の中空糸膜モジュール2の血液側および透析液側に、それぞれ40℃の超純水5000mlを通液して洗浄した。その後、親水性高分子としてポリビニルピロリドン(ISP社製K90)0.100重量%を含む水溶液を、該モジュールの血液側および透析液側にそれぞれ1000ml通液し、モジュール内を該水溶液で充填した。この後、該モジュールをγ線照射した。γ線吸収線量は28kGyであった。該モジュールについて、血小板付着試験およびIL−6吸着試験を行った。その結果、表4に示された通り、であった。
(比較例10)
前記の中空糸膜モジュール2の血液側および透析液側に、それぞれ40℃の超純水5000mlを通液して洗浄した。その後、親水性高分子としてポリエチレングリコール(日本油脂製マクロゴール(登録商標)6000)0.010重量%を含む水溶液を、該モジュールの血液側および透析液側にそれぞれ1000ml通液し、モジュール内を該水溶液で充填した。この後、該モジュールをγ線照射した。γ線吸収線量は28kGyであった。該モジュールについて、ポリエチレングリコール固定化密度測定、血小板付着試験およびIL−6吸着試験を行った。その結果、表4に示された通りであった。
(比較例11)
前記の中空糸膜モジュール2の血液側および透析液側に、それぞれ40℃の超純水5000mlを通液して洗浄した。その後、親水性高分子としてポリエチレングリコール(ナカライテスク製ポリエチレングリコール#200)0.100重量%を含む水溶液を、該モジュールの血液側および透析液側にそれぞれ1000ml通液し、モジュール内を該水溶液で充填した。この後、該モジュールをγ線照射した。γ線吸収線量は28kGyであった。該モジュールについて、ポリエチレングリコール固定化密度測定、血小板付着試験およびIL−6吸着試験を行った。その結果、表4に示された通りであった。
(比較例12)
前記の中空糸膜モジュール2の血液側および透析液側に、それぞれ40℃の超純水5000mlを通液して洗浄した。その後、親水性高分子としてポリエチレングリコール(SCIENTIFIC POLYMERS PRODUCTS, INC.製、 Mw900,000)0.100重量%を含む水溶液を、該モジュールの血液側および透析液側にそれぞれ1000ml通液し、モジュール内を該水溶液で充填した。この後、該モジュールをγ線照射した。γ線吸収線量は28kGyであった。該モジュールについて、ポリエチレングリコール固定化密度測定、血小板付着試験およびIL−6吸着試験を行った。その結果、表4に示された通りであった。
(比較例13)
前記の中空糸膜モジュール2の血液側および透析液側に、それぞれ40℃の超純水5000mlを通液して洗浄した。その後、モジュール内を超純水で充填し、該モジュールをγ線照射した。γ線吸収線量は28kGyであった。該モジュールについて、血小板付着試験およびIL−6吸着試験を行った。その結果、表4に示された通りであった。
【0074】
【表4】

【0075】
(実施例9)
市販の人工腎臓用血液回路(東レメディカル株式会社:「人工腎臓血液回路H−102−KTS」)の人工腎臓モジュール血液側コネクター部分を細断して、小片1gを測定サンプルとした。親水性高分子としてポリビニルピロリドン(ISP社製K90)0.100重量%、抗酸化剤としてエタノール0.100重量%を含む水溶液60mlに測定サンプルを浸漬し、γ線照射した。血小板付着試験を行った結果、表5に示すとおりであった。
(実施例10)
市販の人工腎臓用血液回路(東レメディカル株式会社:「人工腎臓血液回路H−102−KTS」)の血液チューブ部分を細断して、小片1gを測定サンプルとした。親水性高分子としてポリビニルピロリドン(ISP社製K90)0.100重量%、抗酸化剤としてエタノール0.100重量%を含む水溶液60mlに測定サンプルを浸漬し、γ線照射した。血小板付着試験を行った結果、表5に示すとおりであった。
(実施例11)
市販の人工腎臓用血液回路(東レメディカル株式会社発売「人工腎臓血液回路H−102−KTS」)の血液チャンバー部分を細断して、小片1gを測定サンプルとした。親水性高分子としてポリビニルピロリドン(ISP社製K90)0.100重量%、抗酸化剤としてエタノール0.100重量%を含む水溶液60mlに測定サンプルを浸漬し、γ線照射した。血小板付着試験を行った結果、表5に示すとおりであった。
(実施例12)
市販の人工腎臓用血液回路(東レメディカル株式会社:「人工腎臓血液回路H−102−KTS」)のメッシュ部分を細断して、小片1gを測定サンプルとした。親水性高分子としてポリビニルピロリドン(ISP社製K90)0.100重量%、抗酸化剤としてエタノール0.100重量%を含む水溶液60mlに測定サンプルを浸漬し、γ線照射した。血小板付着試験を行った結果、表5に示すとおりであった。
(比較例14)
市販の人工腎臓用血液回路(東レメディカル株式会社:「人工腎臓血液回路H−102−KTS」)の人工腎臓モジュール血液側コネクター部分を細断して、血小板付着試験を行った結果、表5に示すとおりであった。
(比較例15)
市販の人工腎臓用血液回路(東レメディカル株式会社:「人工腎臓血液回路H−102−KTS」)の血液チューブ部分を細断して、血小板付着試験を行った結果、表5に示すとおりであった。
(比較例16)
市販の人工腎臓用血液回路(東レメディカル株式会社:「人工腎臓血液回路H−102−KTS」)の血液チャンバー部分を細断して、血小板付着試験を行った結果、表5に示すとおり血小板付着数は7.0(個/4.3×10μm)であった。
(比較例17)
市販の人工腎臓用血液回路(東レメディカル株式会社:「人工腎臓血液回路H−102−KTS」)のメッシュ部分を細断して、血小板付着試験を行った結果、表5に示すとおりであった。
【0076】
【表5】

【0077】
(実施例13)
市販のガラス状炭素板(東洋炭素株式会社製)を基材として用いた。親水性高分子としてポリビニルピロリドン(BASF社製K90)0.01重量%および抗酸化剤としてエタノール0.1重量%を含む水溶液に基材を浸漬し、γ線照射した。γ線吸収線量は27kGyであった。該フィルムを純水でリンスした後、80℃の純水中で60分間撹拌し、純水を入れ替え再び80℃で60分間撹拌した。その後、さらに純水を入れ替え80℃で60分間撹拌し、吸着しているポリビニルピロリドンを取り除いた。該フィルムの表面の接触角を測定した。その結果、接触角は39度であり、未処理の場合の98度に対して大幅に親水性化されていることがわかった。
(実施例14)
市販のガラス状炭素板(東洋炭素株式会社製)を基材として用いた。親水性高分子としてポリビニルピロリドン(BASF社製K90)0.01重量%を含む水溶液に基材を浸漬し、γ線照射した。γ線吸収線量は27kGyであった。該フィルムを純水でリンスした後、80℃の純水中で60分間撹拌し、純水を入れ替え再び80℃で60分間撹拌した。その後、さらに純水を入れ替え80℃で60分間撹拌し、吸着しているポリビニルピロリドンを取り除いた。該フィルムの表面の接触角を測定した。その結果、接触角は52度であり、未処理の場合の98度に対して大幅に親水性化されていることがわかった。
(比較例18)
実施例13のガラス状炭素板を、純水中でγ線照射した。γ線吸収線量は28kGyであった。該フィルムを純水でリンスし、80℃の純水中で60分間撹拌し、純水を入れ替え再び80℃で60分間撹拌した。その後、さらに純水を入れ替え80℃で60分間撹拌した。該フィルムの表面の接触角は98度であり未処理の場合の98度と同じであることがわかった。
(実施例15)
市販のカーボンシート(東レ株式会社製)を基材として用いた。親水性高分子としてポリビニルピロリドン(BASF社製K90)0.1重量%および抗酸化剤としてエタノール0.1重量%含む水溶液に基材を浸漬し、γ線照射した。γ線吸収線量は27kGyであった。該フィルムを純水でリンスした後、80℃の純水中で60分間撹拌し、純水を入れ替え再び80℃で60分間撹拌した。その後、さらに純水を入れ替え80℃で60分間撹拌し、吸着しているポリビニルピロリドンを取り除いた。該フィルムの表面の接触角を測定した。その結果、接触角は30度であり、未処理の場合の131度に対して大幅に親水性化されていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の改質基材は、表面に親水性が要求される用途に幅広く用いることができる。例えば、人工血管、カテーテル、血液バッグ、血液フィルター、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工腎臓、人工肺、手術用補助器具などの医療用具に好適に用いることができる。アミノ酸、ペプチド、糖、タンパク質あるいはこれらの複合体等の生体成分を分離する生体成分分離膜にも好適に用いることができる。ピペットチップ、チューブ、シャーレ、スピッツなどのバイオ実験関連器具、バイオリアクター、分子モーター、DDS、タンパクチップ、DNAチップ、バイオセンサー、あるいは、AFM(原子間力顕微鏡)、SNOM(近接場光学顕微鏡)、SPR(表面プラズモン共鳴)センサーなどの分析機器部品などにも好適に用いることができる。また、浄水器用膜、上水浄化膜、下水浄化膜、RO膜などの水処理用分離膜にも好適に用いることができる。なかでも生体成分と接触させて用いられる用途、例えば人工腎臓などの血液浄化用モジュールに好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性親水性高分子またはアニオン性親水性高分子、および非イオン性親水性高分子を含み、可溶性親水性高分子量が15重量%以下であり、かつ、ヒト血小板付着量が10個/4.3×10μm以下である改質基材。
【請求項2】
基材が疎水性高分子からなり、該疎水性高分子がポリスルホン系ポリマーまたはポリメタクリル酸メチルである請求の範囲第項記載の改質基材。
【請求項3】
請求の範囲1項記載の改質基材を用いた中空糸膜。
【請求項4】
請求の範囲項記載の分離膜を用いた生体成分分離膜。
【請求項5】
請求の範囲第1項記載の改質基材を複数含むシステム。
【請求項6】
基材をカチオン性親水性高分子またはアニオン性親水性高分子、並びに抗酸化剤を含む水溶液と接触下、放射線照射する改質基材の製造方法。
【請求項7】
基材をカチオン性親水性高分子またはアニオン性親水性高分子、および非イオン性親水性高分子を含む水溶液と接触下、放射線照射する改質基材の製造方法。
【請求項8】
基材をカチオン性親水性高分子またはアニオン性親水性高分子、および非イオン性親水性高分子、並びに抗酸化剤を含む水溶液と接触下、放射線照射する改質基材の製造方法。
【請求項9】
複数の基材を含むシステムをカチオン性親水性高分子またはアニオン性親水性高分子、並びに抗酸化剤を含む水溶液と接触させて、該複数の基材に同時に放射線照射するシステムの製造方法。
【請求項10】
複数の基材を含むシステムをカチオン性親水性高分子またはアニオン性親水性高分子、および非イオン性親水性高分子と接触させて、該複数の基材に同時に放射線照射するシステムの製造方法。
【請求項11】
複数の基材を含むシステムをカチオン性親水性高分子またはアニオン性親水性高分子、および非イオン性親水性高分子、並びに抗酸化剤を含む水溶液と接触させて、該複数の基材に同時に放射線照射するシステムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−207583(P2010−207583A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50346(P2010−50346)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【分割の表示】特願2004−530572(P2004−530572)の分割
【原出願日】平成15年8月20日(2003.8.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】