説明

改質天然ゴム、その製造方法、タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】低燃費性、耐熱老化性を両立できる改質天然ゴム及びその製造方法を提供する。また、該改質天然ゴムを用いたタイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ケン化天然ゴムラテックスから得られた凝集ゴムを塩基性化合物で処理し、更に酸性化合物で処理して得られる改質天然ゴムに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質天然ゴム、該改質天然ゴムの製造方法、該改質天然ゴムを用いたタイヤ用ゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タイヤの転がり抵抗を低減して発熱を抑えることにより、車両を低燃費化することが行われている。近年、タイヤによる車両の低燃費化の要請はますます大きくなり、燃費向上の更なる検討が不可欠である。タイヤに汎用されている天然ゴムはスチレンブタジエンゴムに比べて低燃費性能が高いとされてきたが、昨今スチレンブタジエンゴムの低燃費化が進んでいるため、タイヤ全体の低燃費化を達成するためには天然ゴムの低燃費化も進めることが必要である。
【0003】
天然ゴムの低燃費化にあたり、天然ゴムを改質することが考えられ、例えば、特許文献1には、天然ゴムラテックスに界面活性剤を加えて洗浄処理する方法が記載されている。しかしながら、かかる方法では、蛋白質やゲル分をある程度低減することができるが、まだまだ充分なレベルではなく、tanδの更なる低減が望まれている。また、タイヤには耐熱老化性などの性能も要求されているが、低燃費性と耐熱老化性を両立することについては検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3294901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記課題を解決し、低燃費性、耐熱老化性を両立できる改質天然ゴム及びその製造方法を提供すること、並びに、該改質天然ゴムを用いたタイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ケン化天然ゴムラテックスから得られた凝集ゴムを塩基性化合物で処理し、更に酸性化合物で処理して得られる改質天然ゴムに関する。
【0007】
ここで、上記塩基性化合物は、塩基性無機化合物であることが好ましい。上記塩基性無機化合物は、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属炭酸水素塩、金属リン酸塩及びアンモニアからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0008】
塩基性化合物による処理時間が1分〜48時間であることが好ましい。
【0009】
上記改質天然ゴムにおいて、アセトン中に室温下で48時間浸漬した後の窒素含有量が0.15質量%以下であることが好ましい。また、リン含有量が200ppm以下であることが好ましい。
【0010】
本発明はまた、天然ゴムラテックスをケン化処理する工程1と、上記工程1で得られたケン化天然ゴムラテックスを凝集させて得られた凝集ゴムを塩基性化合物で処理する工程2と、酸性化合物で処理する工程3とを含む上記改質天然ゴムの製造方法に関する。
【0011】
本発明はまた、ゴム成分とカーボンブラック及び/又は白色充填剤とを含み、上記ゴム成分100質量%中、上記改質天然ゴムの含有量が5質量%以上であるタイヤ用ゴム組成物に関する。
【0012】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ケン化天然ゴムラテックスから得られた凝集ゴムを、先ず塩基性化合物で処理し、次いで酸性化合物で処理することによって得られる改質天然ゴムであるので、ゴム中のタンパク質やリン脂質を充分に低減でき、低燃費性を改善できる。また、該改質天然ゴムは、保存中の分子量の低下が抑制されるため、通常の天然ゴム(非改質)と同等の耐熱老化性を有している。従って、低燃費性、耐熱老化性に優れたタイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔改質天然ゴム〕
本発明の改質天然ゴムは、ケン化天然ゴムラテックスから得られた凝集ゴムを塩基性化合物で処理し、更に酸性化合物で処理して得られるものである。
【0015】
天然ゴムの低燃費化において、天然ゴムラテックスをケン化する方法では、ケン化工程で分解したタンパク質やリン脂質がゴム凝固時にゴム内部に閉じこめられたり、ゴム表面に強固に吸着された状態で残存してしまうため、水などによる洗浄ではこれらの成分を充分に低減できない。これに対し、本発明では、先ずケン化天然ゴムラテックスによる凝集ゴムを塩基性化合物で処理することにより、残存しているタンパク質などを充分に除去できるので、本発明の改質天然ゴムの使用により、低燃費性を一層向上できる。また、ケン化によりタンパク質などの天然の老化防止剤成分が除去されること、塩基性化合物で処理されることで耐熱老化性の低下などの問題があるが、更に酸性化合物で処理することにより、その問題を解決でき、良好な耐熱老化性も得られる。
【0016】
更に、塩基性化合物で処理した場合、早期加硫(スコーチ)、ゴム焼けが懸念されるが、酸性化合物の処理によりその懸念を払拭でき、非改質の天然ゴムと同程度の加硫速度が得られる。また、酸性化合物による処理では架橋密度の低下も懸念されるが、本発明ではそのような低下も抑制できる。
【0017】
本発明の改質天然ゴムは、具体的には、天然ゴムラテックスをケン化処理する工程1と、前記工程1で得られたケン化天然ゴムラテックスを凝集させて得られた凝集ゴムを塩基性化合物で処理する工程2と、酸性化合物で処理する工程3とを含む製造方法などにより調製できる。
【0018】
(工程1)
工程1では、天然ゴムラテックスをケン化処理する。これにより、リン脂質やタンパク質が分解される。
【0019】
天然ゴムラテックスはヘベア樹などの天然ゴムの樹木の樹液として採取され、ゴム分のほか水、タンパク質、脂質、無機塩類などを含み、ゴム中のゲル分は種々の不純物の複合的な存在に基づくものと考えられている。本発明では、天然ゴムラテックスとして、ヘベア樹をタッピングして出てくる生ラテックス(フィールドラテックス)、あるいは遠心分離法やクリーミング法によって濃縮した濃縮ラテックス(精製ラテックス、常法によりアンモニアを添加したハイアンモニアラテックス、亜鉛華とTMTDとアンモニアによって安定化させたLATZラテックスなど)を使用できる。
【0020】
ケン化処理の方法としては、例えば、特開2010−138359号公報、特開2010−174169号公報に記載の方法により好適に行うことができ、具体的には下記方法などで実施できる。
【0021】
ケン化処理は、天然ゴムラテックスに、アルカリと、必要に応じて界面活性剤を添加して所定温度で一定時間、静置することで実施でき、必要に応じて撹拌などを行っても良い。
【0022】
ケン化処理に用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが好ましい。界面活性剤としては特に限定されず、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩などの公知のノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられるが、ゴムを凝固させず良好にケン化できるという点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩が好適である。ケン化処理において、アルカリ及び界面活性剤の添加量、ケン化処理の温度及び時間は、適宜設定すればよい。
【0023】
ケン化処理において、必要に応じて老化防止剤をケン化処理前、処理中又は処理後に添加してもよい。老化防止剤としては、老化防止剤の分散体を使用することが好ましく、例えば、老化防止剤、界面活性剤及び水を含む老化防止剤分散体(水中に老化防止剤を微細に分散させた分散体)を使用できる。このような分散体の使用により、老化防止剤をゴム粒子に吸収(吸着)させることができ、良好な低燃費性、耐熱老化性が得られる。
【0024】
なお、老化防止剤分散体をケン化処理前に添加する場合は天然ゴムラテックスと混合した後にケン化処理が施され、ケン化処理中に添加する場合は天然ゴムラテックス、アルカリなどとともに混合され、ケン化処理後に添加する場合は処理して得られたケン化天然ゴムラテックスと混合される。
【0025】
上記老化防止剤分散体において、老化防止剤としては特に限定されないが、容易に使用できるという理由から、フェノール系老化防止剤が好ましい。ここで、フェノール系老化防止剤としては、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(大内新興化学工業(株)製のノクラックNS−6)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(大内新興化学工業(株)製のノクラック200)、2,2’−メチレン−ビス−(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)((株)エーピーアイコーポレーション製のヨシノックス425)などが挙げられ、また、ρ−クレゾールとジシクロペンタジエンとの縮合物をブチル化した化合物(ELIOKEM社製のWingstay−L)、4−メチルフェノールとジシクロペンタジエンの反応物(Chemtura社製のLowinoxCPL)などのヒンダードフェノール系老化防止剤なども挙げられる。上記老化防止剤分散体に使用できる界面活性剤としては、公知のアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、マグネシウムアルミニウムシリケートの水和物などを適宜使用できる。
【0026】
上記老化防止剤分散体は、公知の方法で製造でき、例えば、ボールミル、高速せん断型の撹拌装置、ホモジナイザーなどを用いて調製できる。
【0027】
老化防止剤の添加量は適宜選択できるが、下限は天然ゴムラテックス中のゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、更に好ましくは0.3質量部以上であり、上限は好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2質量部以下である。また、界面活性剤の添加量は適宜選択できるが、添加する老化防止剤100質量部に対して、好ましくは1〜20質量部である。
【0028】
(工程2)
工程2では、前記工程1で得られたケン化天然ゴムラテックスを凝集させて得られた凝集ゴムを塩基性化合物で処理する。これにより、凝集ゴム中に強く付着したタンパク質などを充分に除去でき、良好な低燃費性が得られる。
【0029】
工程2の凝集方法としては、ギ酸、酢酸、硫酸などの酸を添加してpHを調整し、必要に応じて高分子凝集剤を添加する方法などが挙げられる。これにより、大きな凝集塊ではなく、直径数mm〜20mm程度の粒状ゴムが形成され、塩基性化合物処理によりタンパク質などが充分に除去される。上記pHは、好ましくは3.0〜5.0、より好ましくは3.5〜4.5の範囲に調整される。
【0030】
高分子凝集剤としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの塩化メチル4級塩の重合体などのカチオン性高分子凝集剤、アクリル酸塩の重合体などのアニオン系高分子凝集剤、アクリルアミド重合体などのノニオン性高分子凝集剤、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの塩化メチル4級塩−アクリル酸塩の共重合体などの両性高分子凝集剤などが挙げられる。高分子凝集剤の添加量は、適宜選択できる。
【0031】
次いで、得られた凝集ゴムに対して、塩基性化合物による処理が施される。ここで、塩基性化合物としては特に限定されないが、タンパク質などの除去性能の点から、塩基性無機化合物が好適である。
【0032】
塩基性無機化合物としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物などの金属水酸化物;アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩などの金属炭酸塩;アルカリ金属炭酸水素塩などの金属炭酸水素塩;アルカリ金属リン酸塩などの金属リン酸塩;アルカリ金属酢酸塩などの金属酢酸塩;アルカリ金属水素化物などの金属水素化物;アンモニアなどが挙げられる。
【0033】
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどが挙げられる。アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属炭酸塩としては、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどが挙げられる。アルカリ金属炭酸水素塩としては、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどが挙げられる。アルカリ金属リン酸塩としては、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウムなどが挙げられる。アルカリ金属酢酸塩としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどが挙げられる。アルカリ金属水素化物としては、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどが挙げられる。
【0034】
なかでも、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属炭酸水素塩、金属リン酸塩、アンモニアが好ましく、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アンモニアが好ましく、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムが更に好ましい。上記塩基性化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
凝集ゴムを塩基性化合物で処理する方法は、凝集ゴムを上記塩基性化合物に接触させる方法であれば特に限定されず、例えば、凝集ゴムを塩基性化合物の水溶液に浸漬する方法、凝集ゴムに塩基性化合物の水溶液を噴霧する方法などが挙げられる。塩基性化合物の水溶液は、各塩基性化合物を水で希釈、溶解することで調製できる。
【0036】
上記水溶液100質量%中の塩基性化合物の含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上である。0.1質量%未満では、タンパク質を充分に除去できないおそれがある。該含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。10質量%を超えると、多量の塩基性化合物が必要なわりにタンパク質分解量が増えるわけではなく、効率が悪い傾向がある。
【0037】
上記処理温度は適宜選択すればよいが、好ましくは10〜50℃、より好ましくは15〜35℃である。また、処理時間は、通常、1分以上であり、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上である。1分未満であると、本発明の効果が良好に得られないおそれがある。上限に制限はないが、生産性の点から、好ましくは48時間以下、より好ましくは24時間以下、更に好ましくは16時間以下である。
【0038】
塩基性化合物の処理に使用した該化合物を除去した後、必要に応じて洗浄処理が行われる。洗浄方法としては、例えば、ゴム分を水で希釈して洗浄後、遠心分離する方法、静置してゴムを浮かせ、水相のみを排出してゴム分を取り出す方法が挙げられる。
【0039】
なお、工程1のケン化時に水酸化ナトリウムなどの塩基性化合物を使用するとともに、工程2でも再度塩基性化合物が使用されるが、それぞれの作用は相違する。すなわち、ケン化時における塩基性化合物はpHを調整する作用を有し、その量を増加しても凝固ゴム中の窒素量は大きな変化はない。この理由は、ケン化で剥がれ落ちたタンパク質が分子量が小さくなった状態やアミノ酸の状態で存在し、ゴムに対して吸着したり、相互作用を保っているためであると推察される。一方、工程2における塩基性化合物は、ゴムに付着し、残存しているタンパク質やアミノ酸などを除去する作用を持っている。
【0040】
(工程3)
塩基性化合物で処理された後、凝集ゴムは酸性化合物で処理される。工程2の塩基性化合物の処理に起因して耐熱老化性が低下する傾向があるが、更に酸性化合物で処理することで、そのような問題を防止し、良好な耐熱老化性が得られる。
【0041】
酸性化合物としては特に限定されず、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ほう酸、ボロン酸、スルファニル酸、スルファミン酸などの無機酸;ギ酸、酢酸、グリコール酸、シュウ酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、グルタル酸、グルコン酸、乳酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、サリチル酸、メタンスルホン酸、イタコン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、スチレンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、バルビツール酸、アクリル酸、メタクリル酸、桂皮酸、4−ヒドロキシ安息香酸、アミノ安息香酸、ナフタレンジスルホン酸、ヒドロキシベンゼンスルホン酸、トルエンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸、α−レゾルシン酸、β−レゾルシン酸、γ−レゾルシン酸、没食子酸、フロログリシン、スルホサリチル酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、ビスフェノール酸などの有機酸などが挙げられる。なかでも、酢酸、硫酸、ギ酸などが好ましい。上記酸性化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
凝集ゴムを酸で処理する方法は、凝集ゴムを上記酸性化合物に接触させる方法であれば特に限定されず、例えば、凝集ゴムを酸性化合物の水溶液に浸漬する方法、凝集ゴムに酸性化合物の水溶液を噴霧する方法などが挙げられる。酸性化合物の水溶液は、各酸性化合物を水で希釈、溶解することで調製できる。
【0043】
上記水溶液100質量%中の酸性化合物の含有量は特に限定されないが、下限は好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、上限は好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。該含有量が上記範囲内であると、良好な耐熱老化性が得られる。
【0044】
上記処理温度は適宜選択すればよいが、好ましくは10〜50℃、より好ましくは15〜35℃である。また、処理時間は、通常、好ましくは3秒以上であり、より好ましくは10秒以上、更に好ましくは30秒以上である。3秒未満であると、充分に中和できず、本発明の効果が良好に得られないおそれがある。上限に制限はないが、生産性の点から、好ましくは24時間以下、より好ましくは10時間以下、更に好ましくは5時間以下である。
【0045】
酸性化合物の水溶液への浸漬などの処理では、pHを6以下に調整することが好ましい。このような中和により、優れた耐熱老化性が得られる。該pHの上限は、より好ましくは5以下、更に好ましくは4.5以下である。下限は特に限定されないが、酸が強すぎるとゴムが劣化したり、廃水処理が面倒になるため、好ましくは2以上、より好ましくは3以上である。
【0046】
酸性化合物の処理に使用した該化合物を除去した後、処理後の凝集ゴムに洗浄処理が行われる。洗浄処理としては、上記と同様の方法が挙げられ、所望のリン含有量、窒素含有量になるまで洗浄を繰り返せばよい。洗浄処理終了後、乾燥することにより、本発明の改質天然ゴムが得られる。
【0047】
上記製法などで得られた改質天然ゴム(HPNR)のリン含有量は、好ましくは200ppm以下、より好ましくは150ppm以下である。200ppmを超えると、tanδが上昇する傾向があり、低燃費性を改善できないおそれがある。
【0048】
改質天然ゴムは、アセトン中に室温(25℃)下で48時間浸漬した後の窒素含有量が0.15質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。0.15質量%を超えると、低燃費性の改善効果を充分に得られないおそれがある。上記窒素含有量は、アセトン抽出によりゴム中の老化防止剤を除去した後の測定値を意味する。
なお、リン含有量、窒素含有量は、後述の実施例に記載の方法により測定できる。
【0049】
改質天然ゴムは、通常、80℃で72時間老化させた後の重量平均分子量(Mw)保持率(Mw保持率=老化後の分子量/老化前の分子量×100)が40%以上である。該保持率は、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上である。
なお、重量平均分子量(Mw)保持率は、後述の実施例に記載の方法により測定できる。
【0050】
〔タイヤ用ゴム組成物〕
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分とカーボンブラック及び/又は白色充填剤とを含み、該ゴム成分中に上記改質天然ゴムを所定量含む。
【0051】
本発明のゴム組成物において、ゴム成分100質量%中の改質天然ゴムの含有量は、5質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%である。5質量%未満であると、優れた低燃費性が得られないおそれがある。
【0052】
改質天然ゴム以外に使用できるゴム成分としては、天然ゴム(非改質)(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などが挙げられる。
【0053】
本発明のゴム組成物は、カーボンブラック及び/又は白色充填剤を含有する。これにより、補強効果が得られる。
【0054】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は70m/g以上が好ましく、100m/g以上がより好ましい。70m/g未満であると、充分な補強効果が得られない傾向がある。カーボンブラックのNSAは200m/g以下が好ましく、180m/g以下がより好ましい。200m/gを超えると、低燃費性が低下する傾向がある。
なお、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は、JIS K6217のA法によって求められる。
【0055】
白色充填剤としては、ゴム工業で一般的に使用されているもの、たとえば、シリカ、炭酸カルシウム、セリサイトなどの雲母、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、クレー、タルク、アルミナ、酸化チタンなどを使用できる。
【0056】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上である。該含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。上記範囲内であると、良好な低燃費性が得られる。
【0057】
本発明のゴム組成物において、カーボンブラック及び白色充填剤の合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上である。該含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。上記範囲内であると、良好な低燃費性が得られる。
【0058】
本発明のゴム組成物には、上記の材料以外にも、酸化亜鉛、ステアリン酸、各種老化防止剤、硫黄、加硫促進剤などのタイヤ工業において一般的に用いられている各種材料が適宜配合されていてもよい。
【0059】
本発明のゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、上記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法などにより製造できる。該ゴム組成物は、タイヤの各部材に使用でき、なかでも、トレッド、サイドウォール、スチールベルト、カーカスなどに好適に使用できる。
【0060】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種材料を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッドなどの形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形することにより未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧して製造できる。
【実施例】
【0061】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
以下に、実施例で用いた各種薬品について説明する。
フィールドラテックス:Muhibba社から入手したフィールドラテックス
エマールE−27C(界面活性剤):花王(株)製のエマールE−27C(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム)
NaOH:和光純薬工業(株)製のNaOH
Wingstay L(老化防止剤):ELIOKEM社製のWingstay L(ρ−クレゾールとジシクロペンタジエンとの縮合物をブチル化した化合物)
エマルビンW(界面活性剤):LANXESS社製のエマルビンW(芳香族ポリグリコールエーテル)
タモールNN9104(界面活性剤):BASF社製のタモールNN9104(ナフタレンスルホン酸/ホルムアルデヒドのナトリウム塩)
Van gel B(界面活性剤):Vanderbilt社製のVan gel B(マグネシウムアルミニウムシリケートの水和物)
TSR:NR(TSR)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックI(ISAFクラス)(NSA:114m/g)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
老化防止剤6C:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン)(6PPD)
不溶性硫黄:日本乾溜工業(株)製のセイミ硫黄(オイル分:10%)
加硫促進剤TBBS(NS):大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS
【0062】
<実施例及び比較例>
(老化防止剤分散体の調製)
水 462.5gにエマルビンW 12.5g、タモールNN9104 12.5g、Van gel B 12.5g、Wingstay L 500g(合計1000g)をボールミルで16時間混合し、老化防止剤分散体を調製した。
【0063】
(実施例1)
フィールドラテックスの固形分濃度(DRC)を30%(w/v)に調整した後、該ラテックス1000gに、10%エマールE−27C水溶液25gと25%NaOH水溶液60gを加え、室温で24時間ケン化反応を行い、ケン化天然ゴムラテックスを得た。次いで、老化防止剤分散体6gを添加し、2時間撹拌した後、更に水を添加してゴム濃度15%(w/v)となるまで希釈した。その後、ゆっくり撹拌しながらギ酸を添加しpHを4.0に調整し、カチオン系高分子凝集剤を添加し、2分間撹拌し、凝集させた。これにより得られた凝集物(凝集ゴム)の直径は3〜15mm程度であった。得られた凝集物を取り出し、2質量%の炭酸ナトリウム水溶液1000mlに、常温で4時間浸漬した後、ゴムを取出した。これに、水1000mlを加え2分間撹拌し、極力水を取り除く作業を2回繰り返した。その後、水500mlを添加し、pH4になるまで2質量%ギ酸を添加し、15分間撹拌した。その後水を極力取り除き、再度水を添加して2分間撹拌する作業を3回繰返した後、90℃で4時間乾燥して固形ゴムを得た。
【0064】
(実施例2)
実施例1と同様の条件で得た凝集ゴムを、2質量%の炭酸ナトリウム水溶液1000mlに常温で4時間浸漬した後、ゴムを取出した。取り出したゴムにpH4になるまで2質量%ギ酸を添加し、5分間撹拌した。その後水を極力取り除き、再度水を添加して2分間撹拌する作業を5回繰返した後、ゴムを70℃で14時間乾燥して固形ゴムを得た。
【0065】
(実施例3)
実施例1と同様の条件で得た凝集ゴムを、2質量%のアンモニア水溶液1000mlに常温で2時間浸漬した後、ゴムを取出し、水1000mlで洗浄を2回繰り返した。その後水500mlを添加し、pH4になるまで2質量%ギ酸を添加し、15分間撹拌した。その後水を極力取り除き、再度水を添加して2分間撹拌する作業を3回繰返した後、90℃で4時間乾燥して固形ゴムを得た。
【0066】
(実施例4)
実施例1と同様の条件で得た凝集ゴムを、2質量%の炭酸ナトリウム水溶液1000mlに常温で2時間浸漬した後、ゴムを取出し、水1000mlで洗浄を2回繰り返した。その後水500mlを添加し、pH3.5になるまで10質量%酢酸を添加し、15分間撹拌した。その後水を極力取り除き、再度水を添加して2分間撹拌する作業を3回繰返した後、90℃で4時間乾燥して固形ゴムを得た。
【0067】
(実施例5)
実施例1と同様の条件で得た凝集ゴムを、2質量%の炭酸ナトリウム水溶液1000mlに常温で2時間浸漬した後、ゴムを取出し、水1000mlで洗浄を2回繰り返した。その後水500mlを添加し、pH4.5になるまで0.5質量%硫酸を添加し、15分間撹拌した。その後水を極力取り除き、水を添加して2分間撹拌する作業を3回繰返した後、90℃で4時間乾燥して固形ゴムを得た。
【0068】
(比較例1)
ギ酸を添加しなかった点以外は、実施例1と同様の条件で、固形ゴムを得た。
【0069】
(比較例2)
炭酸ナトリウム水溶液、ギ酸を添加しなかった点以外は、実施例1と同様の条件で、固形ゴムを得た。
【0070】
(比較例3)
フィールドラテックスの固形分濃度(DRC)を15%(w/v)に調整した後、ゆっくり撹拌しながらギ酸を添加しpHを4.0に調整し、凝集させた。得られた凝集ゴムを水洗しながらクレーピングで数回通過させ、薄いゴムシートを得、これをオーブン中で、90℃で4時間乾燥して固形ゴムを得た。
【0071】
(比較例4)
実施例1と同様の条件で得た凝集ゴムを、0.5質量%の塩化ナトリウム水溶液に8時間浸漬した後、ゴムを取り出し、水1000mlで洗浄を2回繰り返した。その後2%ギ酸を500ml、水を500ml添加し、15分間撹拌した。水1000mlで洗浄する作業をさらに3回繰り返した後、90℃で4時間乾燥して固形ゴムを得た。
【0072】
(比較例5)
比較例5の固形ゴムとして、TSRを用いた。
【0073】
実施例1〜5及び比較例1〜5で得られた固形ゴムについて、下記により評価し、結果を表1に示した。
【0074】
<窒素含有量の測定>
(アセトン抽出(試験片の作製))
各固形ゴムを1mm角に細断したサンプルを約0.5g用意した。サンプルをアセトン50g中に浸漬して、室温(25℃)で48時間後にゴムを取出し、乾燥させ、各試験片(老化防止剤抽出済み)を得た。
(測定)
得られた試験片の窒素含有量を以下の方法で測定した。
窒素含有量は、微量窒素炭素測定装置「SUMIGRAPH NC95A((株)住化分析センター製)」を用いて、上記で得られたアセトン抽出処理済みの各試験片を分解、ガス化し、そのガスをガスクロマトグラフ「GC−8A((株)島津製作所製)」で分析して窒素含有量を定量した。
【0075】
<リン含有量の測定>
ICP発光分析装置(P−4010、(株)日立製作所製)を使用してリン含有量を求めた。
【0076】
<耐熱老化性>
老化前後における各固形ゴムの重量平均分子量を測定し、耐熱老化性を求めた。老化処理は、各ゴムを2〜5mm角に細断し、80℃で72時間オーブン中に保管することにより行った。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフを用いて、イソプレンを標準物質として測定した。
なお、耐熱老化性は、分子量保持率(老化後の分子量/老化前の分子量×100)(%)で表した。値が大きいほど、耐熱老化性が優れていることを示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表1より、塩基性化合物及び酸性化合物による処理を共に施さなかった比較例2に対して塩基性化合物による処理のみを適用した比較例1では、窒素量を低下できるものの、耐熱老化性の低下がみられた。一方、更に酸性化合物による処理を適用した実施例では、比較例2と同様の耐熱老化性が維持されていた。
【0079】
老化後の分子量について、塩基性化合物の処理を施した比較例1ではMw20〜30万程度になっていたのに対し、更に酸性化合物の処理を施した実施例ではTSRとほぼ同等のMw60〜70万を示していた。また、外観も大きく異なり、比較例1では、比較的濃い茶色に変色し、裁断した形状を保持できずに飴状になりかけているのに対して、実施例では黄色味が強くなり、形状もそのまま保持され、劣化程度が明らかに低かった。
【0080】
<実施例6〜10及び比較例6〜10>
(ゴム試験片の作製)
表2に示す配合処方に従って、1.7Lバンバリーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の薬品を混練りした。次に、ロールを用いて、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加して練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を150℃で12分間プレス加硫して加硫物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物、加硫物を下記により評価し、結果を表2に示した。
【0081】
<T10:スコーチタイム>
(株)島津製作所製のムーニービスコメーターで、130℃における、トルク10ポイント上昇までの時間をT10(スコーチタイム(分))として求めた。なお測定前に試料(未加硫ゴム組成物)は1分間予熱されている。T10が大きいほど早期加硫が生じにくい。
<T95:最適加硫時間>
JSRトレーディング社のキュラストメーター7で、150℃で加硫曲線を測定した。常法に従い、最高トルクと最低トルクの差の95%(最低トルク+(最高トルク−最低トルク)×0.95)に達するまでの時間をT95(最適加硫時間(分))として求めた。T95が小さいほど加硫速度が早いことを示す。
【0082】
<転がり抵抗>
粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度70℃、初期歪み10%、動歪み1%、周波数10Hzの条件下で、各配合(加硫物)の損失正接(tanδ)を測定し、比較例8の転がり抵抗指数を100として、下記計算式により算出した。転がり抵抗指数が小さいほど、転がり抵抗が低減され、好ましいことを示す。
(転がり抵抗指数)=(各配合のtanδ)/(比較例8のtanδ)×100
【0083】
【表2】

表2より、実施例1〜5の固形ゴムを用いた実施例6〜10では、窒素量を低減した比較例1の固形ゴムを用いた比較例6と同等の低燃費性が得られた。また、耐熱老化性も優れており、これらの性能を両立できた。一方、窒素量が多い固形ゴムを用いた比較例7〜9では、酸処理したものに比べて低燃費性が劣っていた。
【0084】
T95について、実施例6〜10では、塩基性化合物による処理のみを施した固形ゴムを用いた比較例6に比べて長く、TSRの比較例10などと同程度であった。またT10について、実施例6〜10では比較例6に比べて長かった。よって、塩基性化合物及び酸性化合物による両処理を施すことで、ゴム焼けを防止できることも明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケン化天然ゴムラテックスから得られた凝集ゴムを塩基性化合物で処理し、更に酸性化合物で処理して得られる改質天然ゴム。
【請求項2】
前記塩基性化合物は、塩基性無機化合物である請求項1に記載の改質天然ゴム。
【請求項3】
前記塩基性無機化合物は、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属炭酸水素塩、金属リン酸塩及びアンモニアからなる群より選択される少なくとも1種である請求項2に記載の改質天然ゴム。
【請求項4】
塩基性化合物による処理時間が1分〜48時間である請求項1〜3のいずれかに記載の改質天然ゴム。
【請求項5】
アセトン中に室温下で48時間浸漬した後の窒素含有量が0.15質量%以下である請求項1〜4のいずれかに記載の改質天然ゴム。
【請求項6】
リン含有量が200ppm以下である請求項1〜5のいずれかに記載の改質天然ゴム。
【請求項7】
天然ゴムラテックスをケン化処理する工程1と、
前記工程1で得られたケン化天然ゴムラテックスを凝集させて得られた凝集ゴムを塩基性化合物で処理する工程2と、
酸性化合物で処理する工程3とを含む請求項1〜6のいずれかに記載の改質天然ゴムの製造方法。
【請求項8】
ゴム成分とカーボンブラック及び/又は白色充填剤とを含み、
前記ゴム成分100質量%中、請求項1〜6のいずれかに記載の改質天然ゴムの含有量が5質量%以上であるタイヤ用ゴム組成物。
【請求項9】
請求項8に記載のゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−149134(P2012−149134A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7357(P2011−7357)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】