説明

改質天然ゴムおよびその製造方法

【課題】優れた改質効果を有する改質天然ゴム、および、改質効率の高い改質天然ゴムの製造方法を提供する。
【解決手段】リン含有量が200ppm以下の天然ゴムに、不飽和結合を有する有機化合物のグラフト共重合処理を施して改質したことを特徴とする改質天然ゴムに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質天然ゴムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴムの改質は、コスト、取扱いの容易さなどから、一般に界面活性剤で安定化したラテックス状態で行われるが、場合により固形ゴムの状態や、ゴム溶液中においても行われる。しかしながら、通常の天然ゴムラテックス中には、蛋白質などの非ゴム成分が5%程度存在する。また、市販の濃縮ラテックスにも約3%の非ゴム成分が存在する。そのため、これらの非ゴム成分、とくに蛋白質が天然ゴムの改質を阻害する原因となり、例えば、グラフト共重合の場合には、グラフト率およびグラフト効率が低下し、高い改質効果および改質効率が得られないという問題があった。
【0003】
そのため、脱蛋白を行い、高い改質効率を得ることが検討されている。たとえば特許文献1、2では、ラテックスに蛋白質分解酵素を添加して蛋白質を分解する方法、または界面活性剤で繰り返し洗浄する方法により脱蛋白天然ゴムを製造し、該脱蛋白天然ゴムをエポキシ化することにより改質天然ゴムを製造する方法が開示されている。しかしながら、これらの方法では、蛋白質をある程度低減することが可能であるものの、天然ゴムの改質を阻害する原因の1つであるリン脂質については、充分に除去できておらず、改善の余地がある。
【特許文献1】特開2004−359773号公報
【特許文献2】特開2005−41960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記課題を解決し、優れた改質効果を有する改質天然ゴム、および、改質効率の高い改質天然ゴムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、リン含有量が200ppm以下の天然ゴムに、不飽和結合を有する有機化合物のグラフト共重合処理を施して改質したことを特徴とする改質天然ゴムに関する。
【0006】
本発明はまた、リン含有量が200ppm以下の天然ゴムに、有機化合物との付加反応を施して改質したことを特徴とする改質天然ゴムに関する。
【0007】
本発明はまた、リン含有量が200ppm以下の天然ゴムに、エポキシ化処理を施して改質したことを特徴とする改質天然ゴムに関する。
【0008】
上記リン含有量が200ppm以下の天然ゴムは、天然ゴムラテックスをケン化処理して得られたものであることが好ましい。
【0009】
上記改質天然ゴムは、クロロホルム抽出物の31P NMR測定において、−3ppm〜1ppmにリン脂質によるピークが存在せず、実質的にリン脂質が存在しないことが好ましい。
【0010】
本発明はまた、天然ゴムラテックス中のリン含有量が200ppm以下となるまでリン化合物を除去した後、得られた天然ゴムに不飽和結合を有する有機化合物をグラフト共重合させることを特徴とする上記改質天然ゴムの製造方法に関する。
【0011】
本発明はまた、天然ゴムラテックス中のリン含有量が200ppm以下となるまでリン化合物を除去した後、得られた天然ゴムに有機化合物を付加反応させることを特徴とする上記改質天然ゴムの製造方法に関する。
【0012】
本発明はまた、天然ゴムラテックス中のリン含有量が200ppm以下となるまでリン化合物を除去した後、得られた天然ゴムをエポキシ化することを特徴とする上記改質天然ゴムの製造方法に関する。
【0013】
上記改質天然ゴムの製造方法において、上記リン化合物の除去が天然ゴムラテックスをケン化処理して行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、天然ゴムラテックスをケン化処理し、ケン化処理後に洗浄処理を行うこと等の手法により、天然ゴムが元来含有するリン化合物(例えば、リン脂質)を極力除去した天然ゴムに対して、改質(不飽和結合を有する有機化合物のグラフト共重合処理、有機化合物との付加反応、エポキシ化処理)を行うため、優れた改質効果を有する改質天然ゴム(例えば、グラフト共重合の場合には、グラフト率が高い改質天然ゴム)を得ることができるとともに、高い改質効率(例えば、グラフト共重合の場合には、高グラフト効率)で天然ゴムの改質を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の改質天然ゴムは、リン含有量が200ppm以下の天然ゴムに、改質を施したものである。上記天然ゴム中のリン含有量は、200ppm以下であるが、100ppm以下が好ましい。200ppmを超えると、天然ゴムから改質天然ゴムを製造する際の改質効果および改質効率(例えば、グラフト共重合の場合には、グラフト効率)が低下する傾向がある。ここで、リン含有量は、たとえばICP発光分析等、従来の方法で測定することができる。リンは、リン脂質(リン化合物)に由来するものである。
【0016】
上記天然ゴムは、実質的にリン脂質が存在しないことが好ましい。「実質的にリン脂質が存在しない」とは、天然ゴム試料をクロロホルムで抽出し、抽出物の31P NMR測定において、−3ppm〜1ppmにリン脂質によるピークが存在しない状態を表す。−3ppm〜1ppmに存在するリンのピークとは、リン脂質におけるリンのリン酸エステル構造に由来するピークである。
【0017】
リン含有量が200ppm以下の天然ゴムは、例えば、天然ゴムラテックスをアルカリによりケン化処理し、凝集させたゴムを洗浄することにより製造できる。採取した天然ゴムラテックスを新鮮な状態でケン化処理し、ケン化処理後に水での洗浄を十分に行い、天然ゴムラテックス粒子表面の非ゴム成分であるリン脂質が除去されることにより、高効率での改質が可能となると推察される。
【0018】
ケン化処理は、天然ゴムラテックスに、アルカリと、必要に応じて界面活性剤を添加して所定温度で一定時間、静置することにより行う。なお、必要に応じて攪拌等を行っても良い。本発明の方法によれば、ケン化により分離したリン化合物が洗浄除去されるので、天然ゴムのリン含有量を抑えることができる。また、ケン化処理により、天然ゴム中の蛋白質が分解されるので、天然ゴムの窒素含有量を抑えることができる。本発明では、天然ゴムラテックスにアルカリを添加してケン化できるが、天然ゴムラテックスに添加することにより、効率的にケン化処理を行うことができるという効果がある。
【0019】
天然ゴムラテックスはヘビア樹の樹液として採取され、ゴム分のほか水、蛋白質、脂質、無機塩類などを含み、ゴム中のゲル分は種々の不純物の複合的な存在に基づくものと考えられている。本発明では、ヘビア樹をタッピングして出てくる生ラテックス、あるいは遠心分離法によって濃縮した精製ラテックスを使用できる。さらに、生ゴムラテックス中に存在するバクテリアによる腐敗の進行を防止し、ラテックスの凝固を避けるために、常法によりアンモニアを添加したハイアンモニアラテックスであってもよい。生ゴムの製造に供するゴムラテックスは、採取してから10日以内であることが好ましい。10日を超えてゴムラテックスを放置しておくとゲル分が増大していくためである。
【0020】
ケン化処理に用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アミン化合物等が挙げられ、ケン化効果やラテックスの安定性への影響の観点から、特に水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを用いることが好ましい。
【0021】
アルカリの添加量は特に限定されないが、天然ゴムラテックスの固形分100質量部に対して、下限は0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、上限は12質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。アルカリの添加量が0.1質量部未満では、ケン化処理に時間がかかってしまうおそれがある。また逆にアルカリの添加量が12質量部を超えると天然ゴムラテックスが不安定化するおそれがある。
【0022】
界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤および両性界面活性剤のうちの少なくとも1種が使用可能である。このうち陰イオン性界面活性剤としては、例えば、カルボン酸系、スルホン酸系、硫酸エステル系、リン酸エステル系等の陰イオン性界面活性剤が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンエーテル系、ポリオキシアルキレンエステル系、多価アルコール脂肪酸エステル系、糖脂肪酸エステル系、アルキルポリグリコシド系等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。両性界面活性剤としては、例えば、アミノ酸型、ベタイン型、アミンオキサイド型等の両性界面活性剤が挙げられる。
【0023】
界面活性剤の添加量は、天然ゴムラテックスの固形分100質量部に対して、下限は0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、上限は6質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。界面活性剤の添加量が0.01質量部未満では、ケン化処理時に天然ゴムラテックスが不安定化するおそれがある。また逆に界面活性剤の添加量が6質量部を超えると天然ゴムラテックスが安定化しすぎて凝固が困難になるおそれがある。
【0024】
ケン化処理の温度は、アルカリによるケン化反応が十分な反応速度で進行しうる範囲、および天然ゴムラテックスが凝固等の変質を起こさない範囲で適宜、設定できるが、通常は20〜70℃であるのが好ましい。また処理の時間は、天然ゴムラテックスを静置して処理を行う場合、処理の温度にもよるが、十分な処理を行うことと、生産性を向上することとを併せ考慮すると3〜48時間であるのが好ましい。
【0025】
ケン化反応終了後、凝集させたゴムを破砕し、洗浄処理を行う。洗浄処理としては、例えば、ゴム分を水で希釈して洗浄後、遠心分離処理を行い、ゴム分を取り出す方法が挙げられる。遠心分離する際は、まず天然ゴムラテックスのゴム分が5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%となるように水で希釈する。次いで、5000〜10000rpmで1〜60分間遠心分離すればよい。洗浄処理終了後、ケン化処理天然ゴムラテックスが得られる。
【0026】
リン含有量が200ppm以下の天然ゴムに対する改質は、例えば、ケン化処理天然ゴムラテックスに対して、天然ゴムラテックスの公知の改質方法と同様の方法を適用することにより行うことができる。
【0027】
本発明の改質天然ゴムのうち、不飽和結合を有する有機化合物をグラフト共重合させた改質天然ゴムは、不飽和結合を有する有機化合物をケン化処理天然ゴムラテックスに加え、適当な重合開始剤を加えて反応させることにより得られる。不飽和結合を有する有機化合物としては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等のメタクリル酸やアクリル酸またはその誘導体、アクリロニトロル、酢酸ビニル、スチレン、アクリルアミド、ビニルピロリドン等のグラフト共重合可能なモノマーが挙げられる。不飽和結合を有する有機化合物のラテックスへの添加に際しては、あらかじめラテックス中に乳化剤を加えておくか、あるいは不飽和結合を有する有機化合物を乳化した後、ラテックスに加える。乳化剤としては、特に限定されないが、ノニオン系の界面活性剤が好適に使用される。
【0028】
不飽和結合を有する有機化合物の添加量は、通常、天然ゴム100質量部に対して、下限は5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、上限は100質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましい。不飽和結合を有する有機化合物の添加量が5質量部未満では、不飽和結合を有する有機化合物のグラフト量が少なくなり改質効果が小さくなるおそれがある。また逆に不飽和結合を有する有機化合物の添加量が100質量部を超えると、ホモポリマーの生成が増加してしまいグラフト効率が低下するおそれがある。
【0029】
重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化水素、クメンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,2−アゾビスイソブチロチトリル、過硫酸カリウム等の過酸化物が挙げられ、とくにレドックス系の重合開始剤を使用するのが重合温度を低減させる上で好ましい。かかるレドックス系の重合開始剤において、過酸化物と組み合わされる還元剤としては、例えば、テトラエチレンペンタミン、メルカプタン類、酸性亜硫酸ナトリウム、還元性金属イオン、アスコルビン酸等が挙げられる。レドックス系の重合開始剤における好ましい組み合わせ例としては、tert−ブチルハイドロパーオキサイドとテトラエチレンペンタミン、過酸化水素とFe2+塩、KSOとNaHSO等がある。なお、これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
重合開始剤の添加量は、不飽和結合を有する有機化合物100モルに対して、下限は0.3モル%以上が好ましく、0.5モル%以上がより好ましく、上限は10モル%以下が好ましく、1モル%以下がより好ましい。これらの成分を反応容器に仕込み、30〜80℃で2〜10時間反応を行わせることにより、グラフト共重合体が得られる。使用するリン含有量が200ppm以下の天然ゴムはラテックス状態のものでもよく、ゴム溶液や固形ゴムであってもよい。
【0031】
上記により得られるグラフト共重合体(改質天然ゴム)は、高いグラフト率(主鎖ポリマーの重量に対するグラフト重合したモノマーの重量の割合)と高いグラフト効率(モノマーの全重合重量に対するグラフト重合したモノマーの重量の割合)を有するため、強度を維持したまま接着性などの特性に優れており、接着材などの用途に好適に使用できる。
【0032】
本発明におけるリン含有量が200ppm以下の天然ゴムに対する有機化合物の付加反応は、例えば、ケン化処理天然ゴムラテックスにチオール化合物等の有機化合物を添加し、該有機化合物を天然ゴムに付加して行われる。チオール化合物としては、例えば、エチルメルカプタン、1−プロパンチオール、n−ブチルメルカプタン、1−ヘキサンチオール、1−ドデンカンチオール、1−オクタンチオール、ベンゼンチオール、1,2−エタンジチオール、1,3−プロパンジチオール、1,4−ブタンチオール、1,2−ベンゼンチオール、1,4−ベンゼンチオール、2−アミノエタンチオール、2−アミノベンゼンチオール、4−アミノベンゼンチオール、メルカプト酢酸、o−メルカプト安息香酸等が挙げられる。
【0033】
チオール化合物のラテックスへの添加に際しては、予めラテックス中に乳化剤を加えてもよいし、チオール化合物を乳化剤で乳化した後にラテックスに加えてもよい。また、必要に応じて、更に有機過酸化物を添加することもできる。乳化剤としては、特に限定されないが、ノニオン系の界面活性剤が好適に使用される。
【0034】
チオール化合物の添加量は、通常、天然ゴム100質量部に対して、下限は0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、上限は20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。チオール化合物の添加量が0.1質量部未満であると、チオール化合物付加による効果が小さい傾向がある。また逆にチオール化合物の添加量が20質量部を超えると、ゴムの加工性が悪化するおそれがある。
【0035】
付加反応は、攪拌しながら行うことが好ましく、例えば、ラテックスおよびチオール化合物等の上記成分を反応容器に仕込み、500〜1000Wのマイクロ波を10分〜1時間照射することにより、ケン化処理天然ゴム分子にチオール化合物が付加した改質天然ゴムが得られる。
また、例えば、ラテックスおよびチオール化合物等の上記成分を反応容器に仕込み、30〜80℃で10分〜24時間反応を行わせることにより、ケン化処理天然ゴム分子にチオール化合物が付加した改質天然ゴムが得られる。
【0036】
使用するリン含有量が200ppm以下の天然ゴムは、上述したグラフト化と同様に、ラテックス状態のものでもよく、ゴム溶液や固形ゴムで行うこともできる。かくして得られるケン化処理天然ゴムの有機化合物付加体は、高い付加反応率(付加した有機化合物重量/主鎖ポリマー重量)を有するため、高補強性を示し、タイヤのトレッド等の用途に好適に使用できる。
【0037】
本発明におけるリン含有量が200ppm以下の天然ゴムに対するエポキシ化処理は、例えば、ケン化処理天然ゴムラテックスに有機過酸を添加し、天然ゴムをエポキシ化して行われる。有機過酸としては、例えば、過安息香酸、過酢酸、過蟻酸、過フタル酸、過プロピオン酸、トリフルオロ過酢酸、過酪酸等が挙げられる。これらの有機過酸はラテックスに直接添加してもよいが、有機過酸を形成する2成分をラテックスに加え、生成した有機過酸がラテックス中の天然ゴムと反応させるようにするのが好ましい。例えば、過蟻酸を生成させる場合は蟻酸および過酸化水素を順次加えればよい。また、過酢酸の場合には、氷酢酸および過酸化水素を順次加えて反応させればよい。
【0038】
有機過酸の添加量は、通常、天然ゴム100質量部に対して、下限は5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、上限は70質量部以下が好ましく、60質量部以下がより好ましい。有機過酸を生成する2成分を加える場合も、生成する有機過酸がこの範囲内にあるように添加量を調整する。有機過酸の添加量が5質量部未満では、改質効果が小さくなるおそれがある。また逆に有機過酸の添加量が60質量部を超えると副反応などにより物性の低下が大きくなるおそれがある。
【0039】
ラテックスにこれらの有機過酸またはその反応成分を加えるに先立って、ラテックスには、ノニオン系などの乳化剤を加え、かつラテックスのpHを中性付近である約5〜7に保って安定化しておくのが好ましい。エポキシ化反応は、通常、温度20〜60℃で3〜10時間反応させることによって行われる。
【0040】
使用するリン含有量が200ppm以下の天然ゴムは、上述したグラフト化と同様に、ラテックス状態のものでもよく、ゴム溶液や固形ゴムで行うこともできる。上記により得られる天然ゴムのエポキシ化物は、高いエポキシ化率(不飽和結合のエポキシ基への変化率)を有するため、強度を維持したまま耐油性、耐ガス透過性などの特性にすぐれ、ホース、タイヤのインナーライナーなどの用途に好適に使用できる。
【0041】
本発明により得られた改質天然ゴムに、更に必要に応じて他のジエン系ゴム等のゴム成分、カーボンブラック、シリカ等の充填剤、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫剤、加硫助剤、加硫促進剤、老化防止剤などの添加剤を配合することにより、タイヤ等のゴム工業に適用できるゴム組成物を製造することができる。
【実施例】
【0042】
実施例にもとづいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0043】
まず、製造例、実施例および比較例で使用した各種薬品について説明する。
界面活性剤:花王(株)製のEmal−E
NaOH:和光純薬製のNaOH
ノニオン系乳化剤:花王(株)製のエマルゲン106、エマルゲン430
【0044】
製造例1
(ケン化工程)
農園より入手したフィールドラテックスを固形分濃度(DRC)30%(w/v)に調整した後、天然ゴムラテックス1000gに対し、Emal−E 10gとNaOH10gを加え、70℃にて24時間ケン化反応を行った。得られたラテックスに水を添加してDRC15%(w/v)となるまで希釈した後、ゆっくり撹拌しながらギ酸を添加してpHを4.0〜4.5に調整し、凝集させた。凝集したゴムを粉砕し、水1000mlで洗浄を繰り返し、ケン化処理天然ゴムラテックスを得た。
【0045】
製造例2
(ケン化工程)
農園より入手したフィールドラテックスを固形分濃度(DRC)30%(w/v)に調整した後、天然ゴムラテックス1000gに対し、Emal−E 10gとNaOH20gを加え、70℃にて48時間ケン化反応を行った。得られたラテックスに水を添加してDRC15%(w/v)となるまで希釈した後、ゆっくり撹拌しながらギ酸を添加してpHを4.0〜4.5に調整し、凝集させた。凝集したゴムを粉砕し、水1000mlで洗浄を繰り返し、ケン化処理天然ゴムラテックスを得た。
【0046】
製造例3
(ケン化工程)
農園より入手したフィールドラテックスを固形分濃度(DRC)30%(w/v)に調整した後、天然ゴムラテックス1000gに対し、Emal−E 10gとNaOH10gを加え、室温にて24時間ケン化反応を行った。得られたラテックスに水を添加してDRC15%(w/v)となるまで希釈した後、ゆっくり撹拌しながらギ酸を添加してpHを4.0〜4.5に調整し、凝集させた。凝集したゴムを粉砕し、水1000mlで洗浄を繰り返し、ケン化処理天然ゴムラテックスを得た。
【0047】
製造例1〜3の各天然ゴムについて以下に示す方法により、リン含有量などを測定した。
・リン含有量の測定
ICP発光分析装置(ICPS−8100、島津製作所社製)を使用して生ゴムのリン含有量を求めた。
・リンの31P−NMR測定
NMR分析装置(400MHz、AV400M、日本ブルカー社製)を使用し、80%リン酸水溶液のP原子の測定ピークを基準点(0ppm)として、クロロホルムにより生ゴムより抽出した成分を精製し、CDClに溶解して測定した。
【0048】
実施例1
(グラフト共重合した天然ゴムの製造)
攪拌棒、滴下漏斗、窒素導入管およびコンデンサーを備えた4つ口フラスコに製造例1で得たケン化処理天然ゴムラテックス(固形分25%)600gを投入し、窒素雰囲気下でゆっくりと撹拌しながら、蒸留水250mlに溶解したノニオン系乳化剤(花王株式会社製の「エマルゲン430」)0.92gを一度に加えた。次に、メタクリル酸メチル91.6gを加え、数秒間激しく攪拌してそれぞれの薬品をよく混合させた。ついで、蒸留水50mlに溶かした重合開始剤tert−ブチルハイドロパーオキサイド1.43gとテトラエチレンペンタミン15.0gとを加え、30℃で3時間反応させた。反応後のラテックスは凝固していたので、石油エーテルで抽出を行った後、アセトンとメタノールの2:1混合溶媒で抽出することにより、未反応天然ゴム、ホモポリマーおよびグラフト共重合体を分離した。これらはFT−IR、NMR分析装置でそれぞれ単独であることを確認した。
【0049】
実施例2〜3
(グラフト共重合した天然ゴムの製造)
製造例2で得たケン化処理天然ゴムラテックス(固形分25%)および製造例3で得たケン化処理天然ゴムラテックス(固形分25%)をそれぞれ使用したほかは、実施例1と同様にしてグラフト共重合体を得た。
【0050】
比較例1
(グラフト共重合した天然ゴムの製造)
ガスリー社(マレイシア)から入手したHAタイプのラテックスを固形分25%になるように希釈した後に使用したほかは、実施例1と同様にしてグラフト共重合体を得た。
【0051】
比較例2
(グラフト共重合した天然ゴムの製造)
ガスリー社(マレイシア)から入手した天然ゴムのラテックス(固形分61%)を固形分30%になるように希釈した後、固形分60%まで濃縮し、固形分25%に再度希釈して使用したほかは、実施例1と同様にしてグラフト共重合体を得た。
【0052】
各実施例および比較例で得たグラフト共重合体について、重合度を評価するグラフト率およびグラフト効率を次式で求めた。
グラフト率=(グラフト重合したモノマーの重量(g))/(主鎖ポリマーの重量(g))×100
グラフト効率=(グラフト重合したモノマーの重量(g))/(モノマーの全重合重量(g))×100
【0053】
得られたグラフト率およびグラフト効率を、使用した各天然ゴムの含有リン量と共に表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すように、製造例1〜3において得られたケン化処理天然ゴムラテックスのリン含有量は、200ppm以下であった。ケン化処理天然ゴムラテックスを用いた実施例1〜3では、ケン化処理天然ゴムラテックスを用いなかった比較例1、2に比べて、高いグラフト率およびグラフト効率を示した。
また、製造例1〜3において得られたケン化処理天然ゴムラテックスから抽出した抽出物の31P NMR測定において、−3ppm〜1ppmにリン脂質によるピークを検出しなかった。
【0056】
実施例4
(有機化合物を付加した天然ゴムの製造)
攪拌棒、滴下漏斗およびコンデンサーを備えた3つ口フラスコに製造例1で得たケン化処理天然ゴムラテックス(固形分25%)600gを投入した。ついで、蒸留水300mlに溶解したノニオン系乳化剤(花王株式会社製の「エマルゲン106」)5.4gをゆっくりと攪拌しながら加えた。次に、アミノエタンチオールを20g加えて攪拌後、500Wでマイクロ波を1時間照射し、付加反応を行った。
【0057】
実施例5〜6
(有機化合物を付加した天然ゴムの製造)
製造例2で得たケン化処理天然ゴムラテックス(固形分25%)および製造例3で得たケン化処理天然ゴムラテックス(固形分25%)をそれぞれ使用したほかは、実施例4と同様にしてアミノエタンチオールの付加を行った。
【0058】
比較例3
(有機化合物を付加した天然ゴムの製造)
ガスリー社(マレイシア)から入手したHAタイプのラテックスを固形分25%になるように希釈した後に使用したほかは、実施例4と同様にしてアミノエタンチオールの付加を行った。
【0059】
比較例4
(有機化合物を付加した天然ゴムの製造)
ガスリー社(マレイシア)から入手した天然ゴムのラテックス(固形分61%)を固形分30%になるように希釈した後、固形分60%まで濃縮し、固形分25%に再度希釈して使用したほかは、実施例4と同様にしてアミノエタンチオールの付加を行った。
【0060】
付加反応率(付加した有機化合物重量[g]/主鎖ポリマー重量[g])を測定した。
測定した付加反応率を、使用した各天然ゴムの含有リン量と共に表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2に示すように、ケン化処理天然ゴムラテックスを用いた実施例4〜6では、ケン化処理天然ゴムラテックスを用いなかった比較例3、4に比べて、高い付加反応率を示した。
【0063】
実施例7
(エポキシ化された天然ゴムの製造)
攪拌棒、滴下漏斗およびコンデンサーを備えた3つ口フラスコに製造例1で得たケン化処理天然ゴムラテックス(固形分25%)600gを投入した。ついで、蒸留水300mlに溶解したノニオン系乳化剤(花王株式会社製の「エマルゲン106」)5.4gをゆっくりと攪拌しながら加えた。次に、酢酸を加えて、pHを中性に調整し、40℃に加熱し、攪拌しながら30.6gの蟻酸を加えた。さらに、50℃に加熱し、20分で166.8gの過酸化水素(39%水溶液)を加え、その後室温で5時間反応させてエポキシ化ゴムを得た。
【0064】
実施例8〜9
(エポキシ化された天然ゴムの製造)
製造例2で得たケン化処理天然ゴムラテックス(固形分25%)および製造例3で得たケン化処理天然ゴムラテックス(固形分25%)をそれぞれ使用したほかは、実施例7と同様にしてエポシキ化ゴムを得た。
【0065】
比較例5
(エポキシ化された天然ゴムの製造)
ガスリー社(マレイシア)から入手したHAタイプのラテックスを固形分25%になるように希釈した後に使用したほかは、実施例7と同様にしてエポシキ化ゴムを得た。
【0066】
比較例6
(エポキシ化された天然ゴムの製造)
ガスリー社(マレイシア)から入手した天然ゴムのラテックス(固形分61%)を固形分30%になるように希釈した後、固形分を60%まで濃縮し、固形分25%に再度希釈して使用したほかは、実施例7と同様にしてエポシキ化ゴムを得た。
【0067】
各実施例および比較例で得られたエポキシ化ゴムのエポキシ化率は、FT−IR、13C−NMRを用いて測定した。測定はChemical Demonstration of the Randomness of Epoxidized Natural Rubber, Br.Polym.J.1984,16,134(Davey et al.)に従って行い、かつ反応速度を比較するために、3時間後の二重結合のエポキシ化率を測定した。
各実施例および比較例で得られたエポキシ化ゴムのエポキシ化率の測定結果を、使用した各天然ゴムの含有リン量と共に表3に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
表3に示すように、ケン化処理天然ゴムラテックスを用いた実施例7〜9では、ケン化処理天然ゴムラテックスを用いなかった比較例5、6に比べて、高いエポキシ化率を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有量が200ppm以下の天然ゴムに、不飽和結合を有する有機化合物のグラフト共重合処理を施して改質したことを特徴とする改質天然ゴム。
【請求項2】
リン含有量が200ppm以下の天然ゴムに、有機化合物との付加反応を施して改質したことを特徴とする改質天然ゴム。
【請求項3】
リン含有量が200ppm以下の天然ゴムに、エポキシ化処理を施して改質したことを特徴とする改質天然ゴム。
【請求項4】
前記リン含有量が200ppm以下の天然ゴムは、天然ゴムラテックスをケン化処理して得られたものである請求項1〜3のいずれかに記載の改質天然ゴム。
【請求項5】
クロロホルム抽出物の31P NMR測定において、−3ppm〜1ppmにリン脂質によるピークが存在せず、実質的にリン脂質が存在しない請求項1〜4のいずれかに記載の改質天然ゴム。
【請求項6】
天然ゴムラテックス中のリン含有量が200ppm以下となるまでリン化合物を除去した後、得られた天然ゴムに不飽和結合を有する有機化合物をグラフト共重合させることを特徴とする請求項1記載の改質天然ゴムの製造方法。
【請求項7】
天然ゴムラテックス中のリン含有量が200ppm以下となるまでリン化合物を除去した後、得られた天然ゴムに有機化合物を付加反応させることを特徴とする請求項2記載の改質天然ゴムの製造方法。
【請求項8】
天然ゴムラテックス中のリン含有量が200ppm以下となるまでリン化合物を除去した後、得られた天然ゴムをエポキシ化することを特徴とする請求項3記載の改質天然ゴムの製造方法。
【請求項9】
前記リン化合物の除去が天然ゴムラテックスをケン化処理して行われる請求項6〜8のいずれかに記載の改質天然ゴムの製造方法。

【公開番号】特開2010−138360(P2010−138360A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318711(P2008−318711)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】