説明

改質炭の製造方法およびコークスの製造方法

【課題】多量の酸素原子を含む低品位炭を、水を多量に発生させることなく改質する方法、およびこれを用いた製鉄用コークスの製造方法を提供すること。
【解決手段】低品位炭を重質油類で処理して改質炭を製造する方法において、多量の酸素原子を含む低品位炭を加熱処理し、酸素含有量を15質量%以下に低減する脱酸工程と、脱酸後の低品位炭を、重質油類と共に300〜500℃の温度で加熱し、該低品位炭表面に、重質油類の分解生成物を付着させる改質工程と、を経ること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、酸素原子を多量に含む低品位炭を改質し、製鉄用コークスの製造に好適な改質炭、即ち、人造粘結炭を製造する方法および、その改質炭を配合炭の原料として用いてコークスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所の高炉において使用される製鉄用コークスは、瀝青炭に属する粘結炭を含む十数銘柄を混合(配合)して配合炭とし、その配合炭をコークス炉内で1000〜1400℃の温度に20時間前後加熱し、高温乾留を行うことによって製造される。近年、製鉄用コークスを製造するのに必要な前記粘結炭は、不足しているのが実情であり、このことから、低品位炭の利用が検討されている。低品位炭とは、全炭素に対する芳香族炭素の比率が50〜60%の石炭であり、埋蔵量が多く、灰分、硫黄分の含有量が少ない炭種も多いが、水分が多く発熱量が低いことや、酸素含有量が多く、組織が緻密でないため、粉化しやすく、自然発火し易いという問題点がある。
【0003】
そのため、亜瀝青炭、褐炭、亜炭、泥炭のような低品位炭は、特許文献1や特許文献2に示すように、水素雰囲気下で、溶剤を使用して400〜450℃で改質して品位を向上させ、これをコークス製造に利用する技術が開示されている。また、特許文献3では、低品位炭と重質炭化水素との混合物を、300〜500℃で加熱処理し、それを塔底温度250〜320℃、圧力40mmHg以下の条件で蒸留し、改質炭およびタール油を得る技術が開示されている。さらに、特許文献4には、低品位炭を400〜450℃で液相分解させることにより、改質炭と軽質油状留分を得る技術が開示されている。
【特許文献1】特開昭53−104603号公報
【特許文献2】特開昭55−69691号公報
【特許文献3】特開昭58−217593号公報
【特許文献4】特許3198306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および特許文献2は、低品位炭を、水素雰囲気下で、加熱処理して改質する方法が用いられているため、水素と低品位炭に多量に含有される酸素原子(約27質量%)とが反応し、大量の水が生成する。このため、これらの技術は、改質炭の取得量が少なく、効率が悪いと共に、生成した多量の水を除去するための油水分離器等や、水分中に混入する油分を除去するための高度な廃水処理設備を設けなければならないことに加えて、多量の水素ガスを必要とするため、ガス圧縮・循環設備を大型化する必要があり、経済的な面でも問題点があった。
【0005】
さらに、特許文献3および特許文献4では、低品位炭の酸素原子と溶剤(重質油)中の水素原子とが反応したり、あるいは低品位炭に含有される酸素原子と水素原子とが反応して多量の水が生成するため、生成物が改質炭、溶剤(重質油)および水の混合状態で得られることになり、生成物の分離操作・処理が煩雑になるほか、設備が大きくなるという問題点があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みて開発されたものであり、多量の酸素原子を含む低品位炭を、水を多量に発生させることなく改質する方法、およびこれを用いた製鉄用コークスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的を実現するため鋭意検討を重ねた結果、本発明は、低品位炭を重質油類で処理して改質炭を製造する方法において、多量の酸素原子を含む低品位炭を加熱処理し、酸素含有量を15質量%以下に低減する脱酸工程と、脱酸後の低品位炭を、重質油類と共に300〜500℃の温度で加熱し、該低品位炭表面に、重質油類の分解生成物を付着させる改質工程と、を経ることを特徴とする改質炭の製造方法を提案する。
【0008】
なお、本発明においては、前記脱酸工程は、低品位炭を乾燥した後、不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気下で400℃超、800℃以下の温度範囲で加熱し、さらに酸化性ガス雰囲気下で800〜1200℃の温度範囲で加熱する工程を経ること、前記脱酸工程は、低品位炭を、凍結乾燥または超臨界乾燥した後、不活性雰囲気または還元性雰囲気下で、300〜1200℃の温度範囲で加熱する工程を経ること、脱酸後の前記低品位炭は、多孔質体であること、前記改質工程は、水素含有雰囲気下で行われること、および脱酸後の前記低品位炭に、金属および/または金属化合物を担持させることが、より好ましい解決手段を提供できる。
【0009】
また、本発明は、上記の製造方法で得られた改質炭含む配合炭をコークス炉に装入し、1000〜1200℃の温度で加熱乾留することを特徴とするコークスの製造方法を提案する。
【発明の効果】
【0010】
上記のような構成を有する本発明では、原料炭である低品位炭を、改質に先立ち、その酸素含有量が15質量%以下になるように脱酸処理することにより、低品位炭の改質処理過程で水を多量に発生させることがない。そのため、低品位炭を効率よく改質することができると共に、油水分離器や廃水処理設備などの機器を省くことができるため、高品位炭並みあるいはそれ以上の燃料特性と経済性を有する改質炭および製鉄用コークスを得ることができる。
また、脱酸後の低品位炭は、多孔質であるため、その孔中に重質分を多量に付着、保持させることができ、また、その付着力も大きいことから、コークス強度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、改質すべき原料炭としては、亜瀝青炭、褐炭、亜炭、泥炭のような酸素原子含有量の多い低品位炭が対象となる。褐炭としては、豪州産のヤルーン炭、モーエル炭およびロイヤン炭などが好適である。なお、本発明においては、上記の原料炭に加えて、またはこれに代えて、木材やヤシガラなどのバイオマス原料も用いることができる。
【0012】
本発明の改質炭の製造方法は、前記低品位炭原料を加熱し、酸素含有量を15質量%以下にする脱酸工程と、脱酸工程後の低品位炭を重質油類中で加熱して、重質油類の分解生成物、即ち重質分を付着させる改質工程を経ることが特徴である。
【0013】
まず、前記脱酸工程について説明する。脱酸工程としては、2つの方法がある。その1つは、低品位炭原料を、通常の熱風(100〜200℃程度)乾燥等によって乾燥した後、窒素ガスなどの不活性ガスまたは加熱した際、低品位炭自身が発生する自生ガスなどの還元性ガス雰囲気下で400℃超800℃以下、好ましくは500〜700℃程度の温度に加熱し、その後、酸化性ガス雰囲気下で800〜1200℃の温度で加熱して、該酸化性ガスと反応させることによる。この方法では、低品位炭中の酸素原子が、加熱によって一酸化炭素や二酸化炭素となって放出されることにより、低品位炭中の酸素含有量を15質量%以下にすることができる。
【0014】
ここで、低品位炭中の酸素含有量を15質量%以下にまで低減させる理由は、低品位炭の反応性の低下、とりわけ酸素原子を起点とする熱反応性の低下のためであり、これによって脱酸工程後の改質工程において、水の発生を減少させることができる。
【0015】
また、前記酸化性ガスとしては、水蒸気、二酸化炭素、酸素およびこれらの混合ガスを使用し、これを、低品位炭原料と、固定床炉やトンネル炉、回転炉、流動床炉などの反応炉内で反応させる。本発明において、酸化性ガスによる処理を行う理由は、低品位炭原料を構成する炭素原子と、酸化性ガスに含まれる酸素原子とを反応させ、主として一酸化炭素の形で放出させることにより、反応した炭素原子の部分を孔隙とする、即ち、多孔質化させるためである。
【0016】
さらに、低品位炭を、窒素ガスなどの不活性ガスまたは還元性ガス雰囲気下で400℃超800℃以下の温度で加熱するのは、400℃以下では、脱酸が不充分で、酸素含有量を15質量%以下にするのが難しいためであり、一方、800℃超では、低品位炭の収縮が始まり、即ち、低品位炭の配向・結晶化が始まり、後段の反応における反応性が低下するのためである。また、酸化性ガス雰囲気下で800〜1200℃で加熱するのは、多孔質化を促進させるためである。
【0017】
また、低品位炭として亜瀝青炭を用いる場合、その一部は、加熱の際に軟化溶融するので、加熱前に変性(酸化)しておくことが好ましい。この変性(酸化)は、通常、空気中で100〜300℃に昇温することによって生じるが、酸素、二酸化窒素などの酸化力を有するガスを作用させることによっても行うことができる。
【0018】
次に、本発明の前記脱酸工程は、上述した方法の他、低品位炭を凍結乾燥または超臨界乾燥した後、不活性雰囲気または還元性雰囲気下で300〜1200℃に加熱する方法であってもよい。
ここで、凍結乾燥とは、例えば、水分の乾燥の場合、−20℃〜−50℃に冷却して水分を固体(氷)としてから気体(水蒸気)に変える、即ち、昇華させる乾燥方法であり、真空にして水の沸点を低下させて行う方法であることから、真空凍結乾燥とも呼ばれる。また、超臨界乾燥とは、乾燥しようとする湿潤状態の物質を、圧力容器中で昇温・昇圧し、内部に含まれる液体(水、アルコールなど)を超臨界状態とした後、乾燥を行う方法である。
【0019】
これらの乾燥方法を用いる理由は、通常の熱風乾燥では、褐炭、亜炭、泥炭などの原料中に細孔を有する褐炭類を乾燥すると、細孔中に埋蔵する水の毛管力によって褐炭が収縮し、細孔構造が破壊されてしまうおそれがある。この点、超臨界乾燥は、乾燥時に気−液界面が出現しない乾燥方法であるため、細孔構造を残したまま水分が取り除かれることになり、さらに炭素化、すなわち焼成によって多孔質の炭素材料を得ることができるから有利である。
【0020】
凍結乾燥または超臨界乾燥後の低品位炭は、固定床炉やトンネル炉、回転炉、流動床炉などの焼成炉に装入され、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性雰囲気あるいは水素、自生ガスなどの還元性雰囲気のもとで300〜1200℃、好ましくは400〜800℃程度の温度に加熱する。
【0021】
脱酸工程後の低品位炭は、酸素原子が放出した部分などが空孔となるため多孔質となる。このようにして得られた脱酸済みの低品位炭は、窒素ガスを用いるBET法によって測定される比表面積が300〜1500m/g程度、好ましくは600〜1200m/g程度の多孔質炭であることが好ましい。これは、この比表面積が小さすぎると、低品位炭と重質油類の分解生成物との付着力が弱くなり、これを用いてコークスを製造したときの強度が不足ようになるためである。一方、低品位炭の比表面積が大きすぎると、分解生成物が入らないような細孔径の小さい細孔が多くなるため、コークス強度が低下するためである。
【0022】
次に、改質工程について説明する。
改質工程では、脱酸後の低品位炭(以下、「多孔質炭素材料」と言う)を、重質油類(石油系重質油あるいは石炭系重質油)中で加熱することにより、重質油類の熱分解によって生成するコーク、カーボンまたはそれらの前駆体など非常に重質な成分を、該多孔質炭素材料の細孔内に侵入、吸着させる。
【0023】
なお、この改質工程は、不活性雰囲気または還元性雰囲気で多孔質炭素材料と重質油類とを300〜500℃程度の温度に加熱し、とくに、水素ガスを主体とする還元性雰囲気のもとで380〜460℃の温度に加熱することが好ましい。これは、重質油の熱分解は、一種の不均化反応であるので、重質成分であるコークあるいはカーボンなどが生成する一方、軽質成分も生成するが、水素ガスが存在すると、この軽質成分の粘度が低くなってコーク、カーボンあるいはそれらの前駆体などの非常に重質な成分の移動が容易になり、細孔内への侵入、吸着が進みやすいためと想像される。
【0024】
この改質工程は、たとえば固定床、移動床、懸濁液(スラリー床)、沸騰床などの他、懸濁床や沸騰床のような完全混合槽タイプによって好適に行うことができる。
【0025】
分解生成物(重質分)の多孔質炭素材料への付着量は、多孔質炭素材料の5倍(質量比)以下とすることが好ましい。これは、分解生成物の付着量が多くなりすぎると、オイルコークスの物性と変わらなくなってしまい、原料炭として用いることができなくなるためである。
【0026】
ここで、石油系重質油とは、石油精製に関連する重質油および超重質油であり、重質油は、たとえば、原油、石油系の常圧蒸留残油、減圧蒸留残油、接触分解残油等の残油等あるいはオイルサンド油、オイルシェール油等であり、超重質油は、たとえば、メキシコに産するマヤ、カナダに産するアサバスカオイルサンドビチューメン、コールドレイクオイルサンドビチューメン、ベネゼエラに産するオリノコタール、セロネグロ、ズアタ、バッチャケロ、ボスカン、ブラジルに産するマリム等の油種である。また、石炭系重質油とは、コークス炉から発生するコールタールの蒸留で分留される重質留分のことであり、たとえばクレオソート油、アントラセン油、ピッチなどである。さらに、石炭の液化で得られる液化油の重質留分もある。
【0027】
そして、本発明では、上記のようにして多孔質炭素材料に分解生成物を付着させた後、通常の濾過、遠心分離、蒸留などの方法を用いて余分の油分を分離することにより、改質炭とする。
【0028】
このようにして得られた改質炭は、配合炭用原料炭として使用してもよいが、さらに若干の変性処理や熱処理を施すことにより、改質炭の性状を向上させたものを用いてもよい。とりわけ、多孔質炭素材料に、その5倍を超える分解生成物が付着・吸着している場合、この変性処理や熱処理が有効である。
【0029】
前記変性処理は、大気中で150〜300℃程度の温度に加熱する方法であり、熱処理は、不活性雰囲気あるいは還元性雰囲気中で300〜600℃程度に加熱する方法である。また、減圧の状態では、分解生成物の一部が揮散するため、200〜400℃程度で加熱すればよい。
【0030】
なお、改質工程に先立ち、前記多孔質炭素材料には、鉄や鉄化合物などの金属および/または金属化合物(以下、「金属類」と言う)を担持させることが好ましい。これは、担持された金属類の作用により、重質油類の分解が促進され、軽質留分に効率よく転換されていくことになり、重質類の一方の分解生成物であるコーク、カーボンまたはそれらの前駆体などの重質分が、多孔質炭素材料中の細孔に十分に付着・保持されることになり、品質の高い改質炭を得ることができるためである。
【0031】
なお、金属としては、鉄、コバルト、ニッケル等を用いることができ、とくに費用、取り扱いのし易さから鉄を用いることが好ましい。また、金属化合物としては、鉄、コバルト、ニッケル等の硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩等を用いることができる。
【0032】
また、多孔質炭素材料への金属類の担持は、多孔質炭素材料を未乾燥の状態で行っても、一旦乾燥させた後に行ってもよく、省エネルギーの点から、未乾燥の状態で行うことが好ましい。
【0033】
次に、以上のようにして得られた改質炭を用いてコークスを製造する方法を説明する。上記の処理を経た改質炭は、必要に応じて粉砕や造粒などの粒度調整を行い、他の原料炭と同様にコークス炉の配合槽に投入し、配合炭を調整する。その配合炭を、装炭車によってコークス炉の窯に装入し、自生ガス還元雰囲気のもとで1000〜1200℃で20時間前後乾留する。その後、押出し機によって窯から押出し、CDQ設備で常温まで冷却し、製鉄用コークスとする。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
a.脱酸処理工程
揮発分:40〜50質量%、灰分:0.5質量%を有する褐炭(成分組成:炭素67.1質量%、水素4.3質量%、窒素0.9質量%、硫黄0.2質量%、酸素27.0質量%)を105℃の窒素ガス雰囲気中で1時間乾燥した後、内径600mmのSUS製ロータリーキルン炉内に配置して、窒素ガス流通下で室温から5℃/分で600℃まで昇温し、650℃で30分保持して炭素化させた後、流通ガスを水蒸気に切り替えて3℃/分で900℃まで昇温した。900℃において10時間保持した後、室温まで冷却して焼成物(多孔質炭素材料)を得た。
得られた焼成物(多孔質炭素材料)の性状を、表2に示した。その後、1規定の硝酸鉄水溶液に3時間浸漬し、Feを5質量%担持して乾燥させた。
b.改質処理工程
ついで、焼成物(多孔質炭素材料)10kgと減圧残油15kgを、内容積50リットルの誘導攪拌式オートクレーブに投入し、水素雰囲気下(圧力:11.8MPa(120Kg/cmG)に430℃、60分保持した。その後、オートクレーブから反応生成物を取り出し、減圧蒸留によって沸点が538℃未満の油分を除去して改質炭を得た。
この改質炭10質量%に、表1に示す4銘柄(A〜D炭)の石炭(コークス用原料炭)を混合して調整した粘結炭のベース配合炭を加えて配合炭を作製した。そして、この配合炭を、1100℃のコークス炉内で18〜20時間、乾留してコークスを得た。なお、配合炭の充填密度は、0.76kg/リットルとした。作製したコークスのドラム強度(DI3015)を、JIS K2151に準拠して測定した。その結果を表2に示す。
【0035】
(実施例2)
a.脱酸処理工程
実施例1と同じ褐炭を、凍結乾燥した後、内径600mmのSUS製ロータリーキルン炉内に配置して、窒素ガス流通下で室温から5℃/分で600℃まで昇温し、600℃で60分保持して焼成し、多孔質化した。得られた焼成物(多孔質炭素材料)の性状を、表2に示した。
b.改質処理工程
ついで、焼成物(多孔質炭素材料)5kgとピッチ20kgを、内容積50リットルの誘導攪拌式オートクレーブに投入し、窒素雰囲気下(初期圧力:0.98MPa(10Kg/cmG))に380℃、60分保持した。その後、オートクレーブから反応生成物を取り出し、窒素ガス流通下で430℃、30分間熱処理し、軽質分を除去して改質炭を得た。
この改質炭10質量%に、表1に示す4銘柄(A〜D炭)の石炭(コークス用原料炭)を混合して調整した粘結炭のベース配合炭を加えて配合炭を作製し、実施例1と同様にしてコークスのドラム強度(DI3015)を測定した。その結果を表2に示す。
【0036】
(実施例3)
a.脱酸処理工程
実施例1と同じ褐炭を、圧搾して脱水した後、内径600mmのSUS製ロータリーキルン炉内に配置して、窒素ガス流通下で室温から5℃/分で450℃まで昇温し、450℃で30分保持して焼成した。得られた焼成物(多孔質炭素材料)の性状を、表1に示した。
b.改質処理工程
ついで、焼成物(多孔質炭素材料)10kgとピッチ15kgを、内容積50リットルの誘導攪拌式オートクレーブに投入し、窒素雰囲気下(初期圧力:0.98MPa(10Kg/cmG))に400℃、60分保持した。その後、オートクレーブから反応生成物を取り出し、減圧蒸留によって沸点が538℃未満の油分を除去し、改質炭を得た。
この改質炭10質量%に、表1に示す4銘柄(A〜D炭)の石炭(コークス用原料炭)を混合して調整した粘結炭のベース配合炭を加えて配合炭を作製し、実施例1と同様にしてコークスのドラム強度(DI3015)を測定した。その結果を表2に示す。
【0037】
(実施例4)
a.脱酸処理工程
実施例1と同じ褐炭を、圧搾して脱水した後、内径600mmのSUS製ロータリーキルン炉内に配置して、窒素ガス流通下で室温から5℃/分で350℃まで昇温し、350℃で30分保持して焼成した。その後、1規定の硝酸鉄水溶液に3時間浸漬し、Feを5重量%担持させた後、乾燥した。得られた焼成物(多孔質炭素材料)の性状を、表1に示した。
b.改質処理工程
ついで、焼成物(多孔質炭素材料)10kgとピッチ15kgを、内容積50リットルの誘導攪拌式オートクレーブに投入し、窒素雰囲気下(初期圧力:0.98MPa(10Kg/cmG))に400℃、60分保持した。その後、オートクレーブから反応生成物を取り出し、減圧蒸留によって沸点が538℃未満の油分を除去し、改質炭を得た。
この改質炭10質量%に、表1に示す4銘柄(A〜D炭)の石炭(コークス用原料炭)を混合して調整した粘結炭のベース配合炭を加えて配合炭を作製し、実施例1と同様にしてコークスのドラム強度(DI3015)を測定した。その結果を表2に示す。
【0038】
(比較例1)
実施例1と同じ褐炭(乾燥品)を、表1に示す配合からなるベース配合炭と混合し、1100℃のコークス炉内で18〜20時間、乾留してコークスを得た。得られたコークスのドラム強度(DI3015)を、JIS K2151に準拠して測定し、その結果を表2に示す。
【0039】
(比較例2)
表1に示す配合からなるベース配合炭を、充填密度が0.76kg/リットルとなるように充填し、1100℃のコークス炉内で18〜20時間、乾留してコークスを得た。得られたコークスのドラム強度(DI3015)を、JIS K2151に準拠して測定し、その結果を表2に示す。
【0040】
(比較例3)
実施例1と同じ褐炭を真空乾燥した後、褐炭10kgと減圧残油15kgを、内容積50リットルの誘導攪拌式オートクレーブに投入し、水素雰囲気下(圧力:11.8MPa(120Kg/cmG)に430℃、60分保持した。その後、オートクレーブから反応生成物を取り出し、減圧蒸留によって沸点が538℃未満の油分を除去して改質炭を得た。
この改質炭10質量%に、表1に示す配合からなる粘結炭のベース配合炭を加えて配合炭を作製した。そして、この配合炭を、1100℃のコークス炉内で18〜20時間、乾留してコークスを得た。作製したコークスのドラム強度(DI3015)を、JIS K2151に準拠して測定した。その結果を表2に示す。
【0041】
(比較例4)
実施例1と同じ褐炭を真空乾燥した後、280℃で加熱処理した。次に、加熱処理した褐炭10kgと減圧残油15kgを、内容積50リットルの誘導攪拌式オートクレーブに投入し、水素雰囲気下(圧力:11.8MPa(120Kg/cmG)に430℃、60分保持した。その後、オートクレーブから反応生成物を取り出し、減圧蒸留によって沸点が538℃未満の油分を除去して改質炭を得た。
この改質炭10質量%に、表1に示す配合からなる粘結炭のベース配合炭を加えて配合炭を作製した。そして、この配合炭を、1100℃のコークス炉内で18〜20時間、乾留してコークスを得た。作製したコークスのドラム強度(DI3015)を、JIS K2151に準拠して測定した。その結果を表2に示す。
【0042】
(比較例5)
実施例1と同じ褐炭を、真空乾燥した後、内径600mmのSUS製ロータリーキルン炉内に配置して、窒素ガス流通下で室温から5℃/分で1250℃まで昇温し、1250℃で60分保持して焼成した。得られた焼成物の性状を、表2に示した。
ついで、焼成物5kgとピッチ20kgを、内容積50リットルの誘導攪拌式オートクレーブに投入し、窒素雰囲気下(初期圧力:0.98MPa(10Kg/cmG))に380℃、60分保持した。その後、オートクレーブから反応生成物を取り出し、窒素ガス流通下で430℃、30分間熱処理し、軽質分を除去して改質炭を得た。
この改質炭10質量%に、表1に示す4銘柄(A〜D炭)の石炭(コークス用原料炭)を混合して調整した粘結炭のベース配合炭を加えて配合炭を作製した。そして、この配合炭を、1100℃のコークス炉内で18〜20時間、乾留してコークスを得た。作製したコークスのドラム強度(DI3015)を、JIS K2151に準拠して測定した。その結果を表2に示す。
【0043】
(比較例6)
実施例1と同じ褐炭を、凍結乾燥した後、内径600mmのSUS製ロータリーキルン炉内に配置して、窒素ガス流通下で室温から5℃/分で600℃まで昇温し、600℃で60分保持して焼成した。得られた焼成物の性状を、表2に示した。
ついで、焼成物5kgとピッチ20kgを、内容積50リットルの誘導攪拌式オートクレーブに投入し、窒素雰囲気下(初期圧力:0.98MPa(10Kg/cmG))に280℃、60分保持した。その後、オートクレーブから反応生成物を取り出し、窒素ガス流通下で430℃、30分間熱処理し、軽質分を除去して改質炭を得た。
この改質炭10質量%に、表1に示す4銘柄(A〜D炭)の石炭(コークス用原料炭)を混合して調整した粘結炭のベース配合炭を加えて配合炭を作製した。そして、この配合炭を、1100℃のコークス炉内で18〜20時間、乾留してコークスを得た。作製したコークスのドラム強度(DI3015)を、JIS K2151に準拠して測定した。その結果を表2に示す。
【0044】
(比較例7)
実施例1と同じ褐炭を、凍結乾燥した後、内径600mmのSUS製ロータリーキルン炉内に配置して、窒素ガス流通下で室温から5℃/分で600℃まで昇温し、600℃で60分保持して焼成した。得られた焼成物の性状を、表2に示した。
ついで、焼成物5kgとピッチ20kgを、内容積50リットルの誘導攪拌式オートクレーブに投入し、窒素雰囲気下(初期圧力:0.98MPa(10Kg/cmG))に600℃、60分保持した。その後、オートクレーブから反応生成物を取り出し、窒素ガス流通下で430℃、30分間熱処理し、軽質分を除去して改質炭を得た。
この改質炭10質量%に、表1に示す4銘柄(A〜D炭)の石炭(コークス用原料炭)を混合して調整した粘結炭のベース配合炭を加えて配合炭を作製した。そして、この配合炭を、1100℃のコークス炉内で18〜20時間、乾留してコークスを得た。作製したコークスのドラム強度(DI3015)を、JIS K2151に準拠して測定した。その結果を表2に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
表2の結果より、実施例1〜4はいずれも、加熱処理後の褐炭の酸素含有量が15質量%以下となり、改質処理時の水の発生を抑制することができた。また、加熱処理後の褐炭の比表面積は、310〜1020m2/gの範囲にあり、その大きな比表面積によって重質油類の分解生成物を付着し、強度の高いコークスを製造することができた。とくに、実施例1および4では、褐炭へのFeの担持によって、分解生成物の付着が促進され、高いコークス強度を得ることができた。
一方、比較例1および2では、加熱処理および改質処理を行わないため、褐炭中に多量の水分を保持したままであり、コークスと共に水が多量に発生してしまった。また、比較例3および4では、加熱処理後の褐炭の酸素含有量が高く(>15質量%、)、また比表面積が小さいため、重質油類の分解生成物を十分に付着することができず、コークスの強度が低くなってしまった。比較例5〜7では、高いコークス強度を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、鉄鋼用原料炭としての利用の他、火力発電や石油精製、化学工業などの分野で利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低品位炭を重質油類で処理して改質炭を製造する方法において、多量の酸素原子を含む低品位炭を加熱処理し、酸素含有量を15質量%以下に低減する脱酸工程と、
脱酸後の低品位炭を、重質油類と共に300〜500℃の温度で加熱し、該低品位炭表面に、重質油類の分解生成物を付着させる改質工程と、
を経ることを特徴とする改質炭の製造方法。
【請求項2】
前記脱酸工程は、低品位炭を乾燥した後、不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気下で400℃超、800℃以下の温度範囲で加熱し、さらに酸化性ガス雰囲気下で800〜1200℃の温度範囲で加熱する工程を経ることを特徴とする請求項1に記載の改質炭の製造方法。
【請求項3】
前記脱酸工程は、低品位炭を、凍結乾燥または超臨界乾燥した後、不活性雰囲気または還元性雰囲気下で、300〜1200℃の温度範囲で加熱する工程を経ることを特徴とする請求項1に記載の改質炭の製造方法。
【請求項4】
脱酸後の前記低品位炭は、多孔質体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の改質炭の製造方法。
【請求項5】
前記改質工程は、水素含有雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の改質炭の製造方法。
【請求項6】
脱酸後の前記低品位炭に、金属および/または金属化合物を担持させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の改質炭の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法によってで得られた改質炭を含む配合炭をコークス炉に装入し、1000〜1200℃の温度で加熱乾留することを特徴とするコークスの製造方法。

【公開番号】特開2009−13221(P2009−13221A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173965(P2007−173965)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(591006298)JFEテクノリサーチ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】