説明

改質炭の製造方法およびコークスの製造方法

【課題】多量の酸素原子を含む低品位炭を、水を多量に発生させることなく改質する方法、およびこれを用いた製鉄用コークスの製造方法を提供すること。
【解決手段】 低品位炭を重質油類で処理して改質炭を製造する方法において、多量の酸素原子を含む低品位炭に、金属および/または金属化合物を担持する触媒担持工程と、触媒担持後の前記低品位炭を乾燥した後、不活性雰囲気または微酸化性雰囲気下で300〜1200℃の温度に加熱することにより多孔質化する多孔質化工程と、多孔質化工程後の前記多孔質低品位炭を、重質油類と共に不活性雰囲気または還元性雰囲気下で300〜500℃の温度に加熱し、該多孔質低品位炭表面に重質油類の分解生成物を付着させる改質工程と、を経ること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、酸素原子を多量に含む低品位炭を改質し、製鉄用コークスの製造に好適な改質炭、即ち、人造粘結炭を製造する方法および、その改質炭を配合炭の原料として用いてコークスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所の高炉において使用される製鉄用コークスは、瀝青炭に属する粘結炭を含む十数銘柄を混合(配合)して配合炭とし、その配合炭をコークス炉内で1000〜1400℃の温度に20時間前後加熱し、高温乾留を行うことによって製造される。近年、製鉄用コークスを製造するのに必要な前記粘結炭は、不足しているのが実情であり、このことから、低品位炭の利用が検討されている。低品位炭とは、全炭素に対する芳香族炭素の比率が50〜60%の石炭であり、埋蔵量が多く、灰分、硫黄分の含有量が少ない炭種も多いが、水分が多く発熱量が低いことや、酸素含有量が多く、組織が緻密でないため、粉化しやすく、自然発火し易いという問題点がある。
【0003】
そのため、亜瀝青炭、褐炭、亜炭、泥炭のような低品位炭は、特許文献1や特許文献2に示すように、水素雰囲気下で、溶剤を使用して400〜450℃で改質して品位を向上させ、これをコークス製造に利用する技術が開示されている。また、特許文献3では、低品位炭と重質炭化水素との混合物を、300〜500℃で加熱処理し、それを塔底温度250〜320℃、圧力40mmHg以下の条件で蒸留し、改質炭およびタール油を得る技術が開示されている。さらに、特許文献4には、低品位炭を400〜450℃で液相分解させることにより、改質炭と軽質油状留分を得る技術が開示されている。
【特許文献1】特開昭53−104603号公報
【特許文献2】特開昭55−69691号公報
【特許文献3】特開昭58−217593号公報
【特許文献4】特許3198306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および特許文献2は、低品位炭を、水素雰囲気下で、加熱処理して改質する方法が用いられているため、水素と低品位炭に多量に含有される酸素原子(約27質量%)とが反応し、大量の水が生成する。このため、これらの技術は、改質炭の取得量が少なく、効率が悪いと共に、生成した多量の水を除去するための油水分離器等や、水分中に混入する油分を除去するための高度な廃水処理設備を設けなければならないことに加えて、多量の水素ガスを必要とするため、ガス圧縮・循環設備を大型化する必要があり、経済的な面でも問題点があった。
【0005】
さらに、特許文献3および特許文献4では、低品位炭の酸素原子と溶剤(重質油)中の水素原子とが反応したり、あるいは低品位炭に含有される酸素原子と水素原子とが反応して多量の水が生成するため、生成物が改質炭、溶剤(重質油)および水の混合状態で得られることになり、生成物の分離操作・処理が煩雑になるほか、設備が大きくなるという問題点があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みて開発されたものであり、多量の酸素原子を含む低品位炭を、水を多量に発生させることなく改質する方法、およびこれを用いた製鉄用コークスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的を実現するため鋭意検討を重ねた結果、本発明は、低品位炭を重質油類で処理して改質炭を製造する方法において、多量の酸素原子を含む低品位炭に、金属および/または金属化合物を担持する触媒担持工程と、触媒担持後の前記低品位炭を乾燥した後、不活性雰囲気あるいは微酸化性雰囲気下で300〜1200℃の温度に加熱することにより多孔質化する多孔質化工程と、多孔質化工程後の前記多孔質低品位炭を、重質油類と共に不活性雰囲気または還元性雰囲気下で300〜500℃の温度に加熱し、該低品位炭表面に重質油類の分解生成物を付着させる改質工程と、を経ることを特徴とする改質炭の製造方法を提案する。
【0008】
なお、本発明においては、前記改質工程は、水素含有雰囲気下で行われること、前記低品位炭が褐炭であること、前記金属が、鉄であること、多孔質化工程後の前記多孔質低品位炭の比表面積が300〜1500m/gであること、および前記分解生成物の前記多孔質低品位炭表面への付着量が、質量比で、該低品位炭の3〜5倍であることが、より好ましい解決手段を提供できる。
【0009】
また、本発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法によって得られた改質炭を含む配合炭を、コークス炉に装入し、1000〜1200℃で加熱乾留することを特徴とするコークスの製造方法を提案する。
【発明の効果】
【0010】
上記のような構成を有する本発明では、原料炭である低品位炭を、改質に先立ち、その酸素含有量が15質量%以下になるように脱酸処理することにより、低品位炭の改質処理過程で水を多量に発生させることがない。そのため、低品位炭を効率よく改質することができると共に、油水分離器や廃水処理設備などの機器を省くことができるため、高品位炭並みあるいはそれ以上の燃料特性と経済性を有する改質炭および製鉄用コークスを得ることができる。
また、脱酸後の低品位炭は、多孔質であるため、その孔中に重質分を多量に付着、保持させることができ、また、その付着力も大きいことから、コークス強度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の改質炭の製造方法は、主に低品位炭に金属および/または金属化合物などの触媒を担持する触媒担持工程と、触媒を担持した前記低品位炭を加熱し、多孔質化する多孔質化工程と、多孔質化工程後の前記多孔質低品位炭を重質油類と共に加熱し、該低品位炭表面に重質油類の分解生成物を付着させる改質工程を経ることを特徴とする。
【0012】
本発明において、改質すべき原料炭としては、亜瀝青炭、褐炭、亜炭、泥炭のような酸素原子含有量の多い低品位炭が対象となる。褐炭としては、豪州産のヤルーン炭、モーエル炭およびロイヤン炭などが好適である。なお、本発明においては、上記の原料炭に加えて、またはこれに代えて、木材やヤシガラなどのバイオマス原料も用いることができる。
【0013】
本発明では、まず、前記低品位炭に金属および/または金属化合物などの触媒を担持させる。これは、担持された触媒の作用により、重質油類の分解が促進され、軽質留分に効率よく転換されるようになる他、重質類の分解生成物であるコーク、カーボンまたはそれらの前駆体などの重質分が、多孔質炭素材料中の細孔に十分に付着・保持され、品質の高い改質炭を得ることができるようになるためである。
【0014】
即ち、後述する改質工程において、重質油類は、加熱によって、それを構成する比較的分子量の大きな炭化水素の結合が切断され、それに伴って炭化水素ラジカルが発生する。この反応性の高い炭化水素ラジカルは、連鎖的な反応を引き起こして、お互いに結合し、最終的には重縮合反応を引き起こしてコーク、カーボンまたはそれらの前駆体となる。とりわけ、アスファルテンを多く含む超重質油の分解においては、重縮合反応の進行傾向が強くなってしまう。
【0015】
これに対し、触媒は、炭化水素ラジカルへの水素の添加を促進し、炭化水素ラジカルを安定化させる働きを有する。また、多孔質炭は、炭化水素ラジカルを緩やかに吸着する性質がある。そのため、吸着された炭化水素ラジカルは、担持された触媒によって水素を添加されて安定し、多孔質炭から脱離していき、重質油類が、軽質留分に効率よく転換されることになるのである。
【0016】
なお、低品位炭表面への触媒の担持は、低品位炭が、最初から細孔を有し、その細孔の中に水が保有された状態にある場合が多いため、水溶性の化合物を添加することにより容易に行うことが可能であり、金属化合物の水溶液を用いて、一般的に知られる含浸法を用いて行うことができる。
【0017】
また、前記触媒となる金属としては、鉄、コバルト、ニッケル等を用いることができ、とくに費用、取り扱いのし易さの点から鉄を用いることが好ましい。また、金属化合物としては、鉄、コバルト、ニッケル等の硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩等を用いることができる。
【0018】
なお、低品位炭表面への触媒の担持は、低品位炭を未乾燥の状態で行っても、一旦乾燥させた後に行ってもよく、省エネルギーの点から、未乾燥の状態で行うことが好ましい。
【0019】
次に、触媒を担持させた低品位炭を、乾燥した後、加熱して多孔質化する多孔質化工程について説明する。まず、乾燥の方法としては、上述したように低品位炭は、細孔の中に水が保有された状態にある場合が多いため、その細孔を潰さないように行うことが好ましく、これには、超臨界乾燥や凍結乾燥などが好適である。通常の熱風乾燥では、褐炭、亜炭、泥炭などの原料中に細孔を有する褐炭類を乾燥させると、細孔中に埋蔵する水の毛管力によって褐炭が収縮し、細孔構造が破壊されてしまうおそれがある。この点、超臨界乾燥の場合には、乾燥時に気−液界面が出現しない乾燥方法であるため、細孔構造を残したまま水分が取り除かれることになる。
【0020】
続いて、上記のようにして乾燥させた低品位炭を加熱処理する。低品位炭中の酸素原子は、加熱処理によって主に一酸化炭素あるいは二酸化炭素等となって放出するため、低品位炭の酸素含有量は、15質量%以下となり、その後の改質工程における水の発生を減少させることができる。なお、低品位炭中の酸素原子の抜けた部分も、空孔となり、多孔質化に寄与する。また、低品位炭に担持させた触媒を活性化させるため、低品位炭を加熱して炭素化した後に、水素雰囲気等の下で加熱して還元し、さらに硫化処理を行う工程を追加してもよい。
【0021】
なお、上記低品位炭の加熱処理は、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気またはCOを含むような微酸化性雰囲気のもとで、300〜1200℃、好ましくは400〜800℃程度の温度で、固定床炉やトンネル炉、回転炉、流動床炉などを用いて行うことができる。
【0022】
多孔質化工程において、不活性雰囲気または微酸化性雰囲気下で加熱処理を行う理由は、乾燥および加熱処理における一酸化炭素・二酸化炭素の放出によって、多孔質構造が形成されるので、強烈な酸化性雰囲気下で加熱処理を行うと、孔を形造っている壁に相当する部分の炭素までが酸化(燃焼)してしまうためである。
【0023】
また、加熱温度を、300〜1200℃範囲とするのは、加熱温度が300℃以下では、充分に多孔質化が進まず、比表面積が小さく、一方、温度が1200℃超では、収縮によって孔の大きさが減少する他、エネルギー的にも無駄となるからである。
【0024】
なお、多孔質化工程後の前記多孔質低品位炭は、窒素ガスを用いるBET法によって測定される比表面積が300〜1500m/g程度、好ましくは600〜1200m/g程度の多孔質炭であることが好ましい。これは、この比表面積が小さすぎると、低品位炭と重質油類の分解生成物との付着力が弱くなり、これを用いてコークスを製造したときの強度が不足するためである。一方、低品位炭の比表面積が大きすぎると、分解生成物が入らないような細孔径の小さい細孔が多くなるため、コークス強度が低下するためである。
【0025】
次に、改質工程について説明する。
改質工程では、多孔質化した多孔質低品位炭(以下、「多孔質炭」と言う)を、重質油類(石油系重質油あるいは石炭系重質油)中で加熱することにより、重質油類の熱分解によって生成するコーク、カーボンまたはそれらの前駆体などの非常に重質な成分を、該多孔質炭の細孔内に侵入、吸着させる。
【0026】
なお、この改質工程は、不活性雰囲気または還元性雰囲気で多孔質炭と重質油類とを300〜500℃程度に加熱し、とくに、水素ガスを主体とする還元性雰囲気のもとで380〜460℃に加熱することが好ましい。これは、重質油類の熱分解は、一種の不均化反応であるので、重質成分であるコークまたはカーボン等が生成する一方、軽質成分も生成するが、水素ガスが存在すると、この軽質成分の粘度が低くなり、コーク、カーボンまたはそれらの前駆体などの非常に重質な成分の移動が容易になり、細孔内への侵入や吸着が進みやすくなるためと想像される。
【0027】
この改質工程は、たとえば固定床、移動床、懸濁液(スラリー床)、沸騰床などの他、懸濁床や沸騰床のような完全混合槽タイプによって好適に行うことができる。
【0028】
分解生成物(重質分)の多孔質炭への付着量は、多孔質炭の5倍(質量比)以下とすることが好ましい。これは、分解生成物の付着量が多くなりすぎると、オイルコークスの物性と変わらなくなってしまい、原料炭として用いることができなくなるためである。
【0029】
ここで、石油系重質油とは、石油精製に関連する重質油および超重質油であり、重質油は、たとえば、原油、石油系の常圧蒸留残油、減圧蒸留残油、接触分解残油等の残油等あるいはオイルサンド油、オイルシェール油等であり、超重質油は、たとえば、メキシコに産するマヤ、カナダに産するアサバスカオイルサンドビチューメン、コールドレイクオイルサンドビチューメン、ベネゼエラに産するオリノコタール、セロネグロ、ズアタ、バッチャケロ、ボスカン、ブラジルに産するマリム等の油種である。また、石炭系重質油とは、コークス炉から発生するコールタールの蒸留で分留される重質留分のことであり、たとえば、クレオソート油、アントラセン油、ピッチなどである。さらに、石炭の液化で得られる液化油の重質留分もある。
【0030】
そして、本発明では、上記のようにして多孔質炭に分解生成物を付着させた後、通常の濾過、遠心分離、蒸留などの方法を用いて余分の油分を分離することにより、改質炭とする。
【0031】
このようにして得られた改質炭は、配合炭用原料炭としてそのまま使用してもよいが、さらに若干の変性処理や熱処理を施すことにより、改質炭の性状を向上させたものを用いてもよい。とりわけ、多孔質炭に、その5倍を超える分解生成物が付着・吸着している場合、この変性処理や熱処理が有効となる。
【0032】
前記変性処理は、大気中の場合、150〜300℃程度に加熱する方法であり、不活性雰囲気あるいは還元性雰囲気中の場合、300〜600℃程度の温度に加熱する方法である。また、減圧下で行う場合には、分解生成物の一部が揮散するため、200〜400℃程度で加熱すればよい。
【0033】
次に、以上のようにして得られた改質炭を用いてコークスを製造する方法を説明する。上記の処理を経た改質炭は、必要に応じて粉砕や造粒などの粒度調整を行い、他の原料炭と同様にコークス炉の配合槽に投入し、配合炭を調整する。その配合炭を、装炭車によってコークス炉の窯に装入し、自生ガス還元雰囲気のもとで1000〜1200℃で20時間前後乾留する。その後、押出し機によって窯から押出し、CDQ設備で常温まで冷却し、製鉄用コークスとする。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
a.触媒担持工程
揮発分:40〜50質量%、灰分:0.5質量%を有する褐炭(成分組成:炭素67.1質量%、水素4.3質量%、窒素0.9質量%、硫黄0.2質量%、酸素27.0質量%)を、水分が付着したまま(約60質量%、乾燥炭に対して)、硝酸鉄水溶液に3時間浸漬し、Feを5質量%担持した後、凍結乾燥した。
b.多孔質化工程
続いて、内径600mmのSUS製ロータリーキルン炉内に配置して、窒素ガス流通下で室温から5℃/分で600℃まで昇温し、600℃で60分保持して多孔質炭を得た。得られた多孔質炭の性状を表2に示した。
c.改質工程
ついで、多孔質炭5kgとピッチ20kgを、内容積50リットルの誘導攪拌式オートクレーブに投入し、窒素雰囲気下(圧力:0.98MPa(10Kg/cmG)に380℃、60分保持した。その後、オートクレーブから反応生成物を取り出し、窒素ガス流通下で、430℃、30分間熱処理して軽油分を除去して改質炭を得た。
この改質炭10質量%に、表1に示す4銘柄(A〜D炭)の石炭(コークス用原料炭)を混合して調整した粘結炭のベース配合炭を加えて配合炭を作製した。そして、この配合炭を、1100℃のコークス炉内で18〜20時間、乾留してコークスを得た。なお、配合炭の充填密度は、0.76kg/リットルとした。作製したコークスのドラム強度(DI3015)を、JIS K2151に準拠して測定した。その結果を表2に示す。
【0035】
(実施例2)
a.触媒担持工程
実施例1と同じ褐炭を、水分が付着したまま(約60質量%、乾燥炭に対して)、硝酸鉄水溶液に3時間浸漬し、Feを5質量%担持した後、凍結乾燥した。
b.多孔質化工程
これを、内径600mmのSUS製ロータリーキルン炉内に配置して、窒素ガス流通下で400℃まで昇温し、その温度で60分加熱し、さらに水素雰囲気下で450℃、60分還元した後、水素と硫化水素の混合ガス(1:0.25)中で450℃、30分加熱して、硫化処理を行い、多孔質炭を得た。得られた多孔質炭の性状を表2に示した。
c.改質工程
ついで、この多孔質炭0.05kgと減圧残油0.95kgとを、小型の連続式高圧反応装置に投入し、水素ガス雰囲気下(圧力:9.8MPa(100Kg/cmG))で、380℃、45分間反応させた。反応生成物を、常圧蒸留および減圧蒸留し、沸点が538℃未満の油分を除去して改質炭を得た。
この改質炭10質量%に、表1に示す4銘柄(A〜D炭)の石炭(コークス用原料炭)を混合して調整した粘結炭のベース配合炭を加えて配合炭を作製し、実施例1と同様にしてコークスのドラム強度(DI3015)を測定した。その結果を表2に示す。
【0036】
(実施例3)
a.触媒担持工程
実施例1と同じ褐炭を、真空乾燥した後、硝酸鉄水溶液に3時間浸漬し、Feを5質量%担持させた。
b.多孔質化工程
続いて、内径600mmのSUS製ロータリーキルン炉内に配置して、窒素ガス流通下で室温から5℃/分で600℃まで昇温し、600℃で60分保持した。その後、二酸化炭素30vol%と窒素70vol%の微酸化性雰囲気に切り換えて、5℃/分で1000℃まで昇温し、1000℃で5時間保持して多孔質炭を得た。得られた多孔質炭の性状を表2に示した。
c.改質工程
ついで、多孔質炭5kgとピッチ20kgを、内容積50リットルの誘導攪拌式オートクレーブに投入し、窒素雰囲気下(圧力:0.98MPa(10Kg/cmG)に380℃、60分保持した。その後、オートクレーブから反応生成物を取り出し、窒素ガス流通下で、430℃、30分間熱処理して軽油分を除去して改質炭を得た。
この改質炭10質量%に、表1に示す4銘柄(A〜D炭)の石炭(コークス用原料炭)を混合して調整した粘結炭のベース配合炭を加えて配合炭を作製した。そして、この配合炭を、1100℃のコークス炉内で18〜20時間、乾留してコークスを得た。なお、配合炭の充填密度は、0.76kg/リットルとした。作製したコークスのドラム強度(DI3015)を、JIS K2151に準拠して測定した。その結果を表2に示す。
【0037】
(比較例1)
褐炭(乾燥品)を、表1に示す配合からなるベース配合炭と混合し、1100℃のコークス炉内で18〜20時間、乾留してコークスを得た。得られたコークスのドラム強度(DI3015)を、JIS K2151に準拠して測定し、その結果を表2に示す。
【0038】
(比較例2)
表1に示す配合からなるベース配合炭を、充填密度が0.76kg/リットルとなるように充填し、1100℃のコークス炉内で18〜20時間、乾留してコークスを得た。得られたコークスのドラム強度(DI3015)を、JIS K2151に準拠して測定し、その結果を表2に示す。
【0039】
(比較例3)
実施例1と同じ褐炭を真空乾燥した後、この褐炭5kgとピッチ20kgを、内容積50リットルの誘導攪拌式オートクレーブに投入し、窒素雰囲気下(圧力:0.98MPa(10Kg/cmG)に380℃、60分保持した。その後、オートクレーブから反応生成物を取り出し、窒素ガス流通下で、430℃、30分間熱処理して軽油分を除去して改質炭を得た。
この改質炭10質量%に、表1に示す4銘柄(A〜D炭)の石炭(コークス用原料炭)を混合して調整した粘結炭のベース配合炭を加えて配合炭を作製した。そして、この配合炭を、1100℃のコークス炉内で18〜20時間、乾留してコークスを得た。なお、配合炭の充填密度は、0.76kg/リットルとした。作製したコークスのドラム強度(DI3015)を、JIS K2151に準拠して測定した。その結果を表2に示す。
【0040】
(比較例4)
実施例1と同じ褐炭を真空乾燥した後、これを、内径600mmのSUS製ロータリーキルン炉内に配置して、窒素ガス流通下で400℃まで昇温し、その温度で60分加熱し、さらに水素雰囲気下で450℃、60分還元した後、水素と硫化水素の混合ガス(1:0.25)中で450℃、30分加熱して、硫化処理を行った。続いて、硫化処理後の褐炭を、内径600mmのSUS製ロータリーキルン炉内に配置して、窒素ガス流通下で室温から5℃/分で600℃まで昇温し、600℃で60分保持して多孔質炭を得た。
ついで、多孔質炭5kgとピッチ20kgを、内容積50リットルの誘導攪拌式オートクレーブに投入し、窒素雰囲気下(圧力:0.98MPa(10Kg/cmG)に380℃、60分保持した。その後、オートクレーブから反応生成物を取り出し、窒素ガス流通下で、430℃、30分間熱処理して軽油分を除去して改質炭を得た。
この改質炭10質量%に、表1に示す4銘柄(A〜D炭)の石炭(コークス用原料炭)を混合して調整した粘結炭のベース配合炭を加えて配合炭を作製した。そして、この配合炭を、1100℃のコークス炉内で18〜20時間、乾留してコークスを得た。なお、配合炭の充填密度は、0.76kg/リットルとした。作製したコークスのドラム強度(DI3015)を、JIS K2151に準拠して測定した。その結果を表2に示す。
【0041】
(比較例5)
実施例1と同じ褐炭を、水分が付着したまま(約60質量%、乾燥炭に対して)、硝酸鉄水溶液に3時間浸漬し、Feを5質量%担持した後、真空乾燥した。
ついで、この褐炭5kgとピッチ20kgを、内容積50リットルの誘導攪拌式オートクレーブに投入し、窒素雰囲気下(圧力:0.98MPa(10Kg/cmG)に380℃、60分保持した。その後、オートクレーブから反応生成物を取り出し、窒素ガス流通下で、430℃、30分間熱処理して軽油分を除去して改質炭を得た。
この改質炭10質量%に、表1に示す4銘柄(A〜D炭)の石炭(コークス用原料炭)を混合して調整した粘結炭のベース配合炭を加えて配合炭を作製した。そして、この配合炭を、1100℃のコークス炉内で18〜20時間、乾留してコークスを得た。なお、配合炭の充填密度は、0.76kg/リットルとした。作製したコークスのドラム強度(DI3015)を、JIS K2151に準拠してを測定した。その結果を表2に示す。
【0042】
(比較例6)
実施例1と同じ褐炭を、水分が付着したまま(約60質量%、乾燥炭に対して)、硝酸鉄水溶液に3時間浸漬し、Feを5質量%担持した後、凍結乾燥した。
続いて、内径600mmのSUS製ロータリーキルン炉内に配置して、窒素ガス流通下で室温から5℃/分で250℃まで昇温し、250℃で60分保持して焼成した。得られた焼成物の性状を表2に示した。
ついで、焼成物5kgとピッチ20kgを、内容積50リットルの誘導攪拌式オートクレーブに投入し、窒素雰囲気下(圧力:0.98MPa(10Kg/cmG)に380℃、60分保持した。その後、オートクレーブから反応生成物を取り出し、窒素ガス流通下で、430℃、30分間熱処理して軽油分を除去して改質炭を得た。
この改質炭10質量%に、表1に示す4銘柄(A〜D炭)の石炭(コークス用原料炭)を混合して調整した粘結炭のベース配合炭を加えて配合炭を作製した。そして、この配合炭を、1100℃のコークス炉内で18〜20時間、乾留してコークスを得た。なお、配合炭の充填密度は、0.76kg/リットルとした。作製したコークスのドラム強度(DI3015)を、JIS K2151に準拠して測定した。その結果を表2に示す。
【0043】
(比較例7)
実施例1と同じ褐炭を、水分が付着したまま(約60質量%、乾燥炭に対して)、硝酸鉄水溶液に3時間浸漬し、Feを5質量%担持した後、凍結乾燥した。
続いて、内径600mmのSUS製ロータリーキルン炉内に配置して、窒素ガス流通下で室温から5℃/分で1250℃まで昇温し、1250℃で60分保持して焼成した。得られた焼成物の性状を表2に示した。
ついで、焼成物5kgとピッチ20kgを、内容積50リットルの誘導攪拌式オートクレーブに投入し、窒素雰囲気下(圧力:0.98MPa(10Kg/cmG)に380℃、60分保持した。その後、オートクレーブから反応生成物を取り出し、窒素ガス流通下で、430℃、30分間熱処理して軽油分を除去して改質炭を得た。
この改質炭10質量%に、表1に示す4銘柄(A〜D炭)の石炭(コークス用原料炭)を混合して調整した粘結炭のベース配合炭を加えて配合炭を作製した。そして、この配合炭を、1100℃のコークス炉内で18〜20時間、乾留してコークスを得た。なお、配合炭の充填密度は、0.76kg/リットルとした。作製したコークスのドラム強度(DI3015)を、JIS K2151に準拠して測定した。その結果を表2に示す。
【0044】
(比較例8)
実施例1と同じ褐炭を、水分が付着したまま(約60質量%、乾燥炭に対して)、硝酸鉄水溶液に3時間浸漬し、Feを5質量%担持した後、凍結乾燥した。
続いて、内径600mmのSUS製ロータリーキルン炉内に配置して、窒素ガス流通下で室温から5℃/分で600℃まで昇温し、600℃で60分保持して焼成した。得られた焼成物の性状を表2に示した。
ついで、焼成物5kgとピッチ20kgを、内容積50リットルの誘導攪拌式オートクレーブに投入し、窒素雰囲気下(圧力:0.98MPa(10Kg/cmG)に280℃、60分保持した。その後、オートクレーブから反応生成物を取り出し、窒素ガス流通下で、430℃、30分間熱処理して軽油分を除去して改質炭を得た。
この改質炭10質量%に、表1に示す4銘柄(A〜D炭)の石炭(コークス用原料炭)を混合して調整した粘結炭のベース配合炭を加えて配合炭を作製した。そして、この配合炭を、1100℃のコークス炉内で18〜20時間、乾留してコークスを得た。なお、配合炭の充填密度は、0.76kg/リットルとした。作製したコークスのドラム強度(DI3015)を、JIS K2151に準拠して測定した。その結果を表2に示す。
【0045】
(比較例9)
実施例1と同じ褐炭を、水分が付着したまま(約60質量%、乾燥炭に対して)、硝酸鉄水溶液に3時間浸漬し、Feを5質量%担持した後、凍結乾燥した。
続いて、内径600mmのSUS製ロータリーキルン炉内に配置して、窒素ガス流通下で室温から5℃/分で600℃まで昇温し、600℃で60分保持して焼成した。得られた焼成物の性状を表2に示した。
ついで、焼成物5kgとピッチ20kgを、内容積50リットルの誘導攪拌式オートクレーブに投入し、窒素雰囲気下(圧力:0.98MPa(10Kg/cmG)に550℃、60分保持した。その後、オートクレーブから反応生成物を取り出し、窒素ガス流通下で、430℃、30分間熱処理して軽油分を除去して改質炭を得た。
この改質炭10質量%に、表1に示す4銘柄(A〜D炭)の石炭(コークス用原料炭)を混合して調整した粘結炭のベース配合炭を加えて配合炭を作製した。そして、この配合炭を、1100℃のコークス炉内で18〜20時間、乾留してコークスを得た。なお、配合炭の充填密度は、0.76kg/リットルとした。作製したコークスのドラム強度(DI3015)を、JIS K2151に準拠して測定した。その結果を表2に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
表2の結果より、実施例1〜3はいずれも、多孔質炭中の酸素含有量が5質量%であり、改質工程時の水の発生量はわずかであった。また、加熱処理後の褐炭の比表面積は、300〜520m2/gの範囲にあり、十分な比表面積によって重質油類の分解生成物を付着し、いずれも93.6以上の強度の高いコークスを製造することができた。
一方、比較例1および2では、金属類の担持および多孔質化工程を行わないため、褐炭中に多量の酸素が含有されたままであるため、コークスと共に多量に発生してしまった。また、比較例3、5および6では、多孔質炭中の酸素含有量が高い(27質量%)ため、改質工程時に水が発生し、さらに比表面積も小さいため、重質油類の分解生成物を十分に付着することができず、コークスの強度が低くなってしまった。比較例4、7では、比表面積が小さいため、改質工程において、重質油類の分解生成物(重質分)を十分に付着させることができず、コークスの強度が低くなってしまった。比較例8および9では、高いドラム強度を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、鉄鋼用原料炭としての利用の他、火力発電や石油精製、化学工業などの分野で利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低品位炭を重質油類で処理して改質炭を製造する方法において、多量の酸素原子を含む低品位炭に、金属および/または金属化合物を担持する触媒担持工程と、
触媒担持後の前記低品位炭を乾燥した後、不活性雰囲気または微酸化性雰囲気下で300〜1200℃の温度に加熱することにより多孔質化する多孔質化工程と、
多孔質化工程後の前記多孔質低品位炭を、重質油類と共に不活性雰囲気または還元性雰囲気下で300〜500℃の温度に加熱し、該多孔質低品位炭表面に重質油類の分解生成物を付着させる改質工程と、
を経ることを特徴とする改質炭の製造方法。
【請求項2】
前記改質工程は、水素含有雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1に記載の改質炭の製造方法。
【請求項3】
前記低品位炭が褐炭であることを特徴とする請求項1または2に記載の改質炭の製造方法。
【請求項4】
前記金属が、鉄であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の改質炭の製造方法。
【請求項5】
多孔質化工程後の前記多孔質低品位炭の比表面積が300〜1500m/gであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の改質炭の製造方法。
【請求項6】
前記分解生成物の前記多孔質低品位炭表面への付着量が、質量比で、該低品位炭の3〜5倍であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の改質炭の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法によって得られた改質炭を含む配合炭を、コークス炉に装入し、1000〜1200℃で加熱乾留することを特徴とするコークスの製造方法。

【公開番号】特開2009−13222(P2009−13222A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173968(P2007−173968)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(591006298)JFEテクノリサーチ株式会社 (52)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】