説明

改質炭素繊維及び電池用負極

【課題】電池用負極において負極活物質として用いるために好ましい性質を有する改質炭素繊維及びその製造方法であり、優れた充放電特性を有する電池用負極を提供する。
【解決手段】改質炭素繊維は、溶融紡糸した繊維を黒鉛化することによって得られた炭素繊維に酸化処理を行って得ることができる。ここで、この酸化処理は例えば、炭素繊維を10mol%超の酸素を含有する酸素含有雰囲気において200℃以上の温度に加熱することによって行うことができる。また、電池用負極100は、集電体及びこの集電体上の負極活物質層を有し、かつ負極活物質層20が本発明の改質炭素繊維を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質炭素繊維及び電池用負極、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、高強度、高弾性率、高導電性、軽量等の優れた特性を有していることから、高性能複合材料のフィラーとして使用されている。また、炭素繊維は、二次電池用の導電助剤又は負極活物質としても期待されている(特許文献1及び2)。
【0003】
炭素繊維の製造法としては、(1)気相法、(2)樹脂組成物、ピッチ等を溶融紡糸した繊維を黒鉛化する方法の2つが報告されている。
【0004】
気相法としては、ベンゼン等の有機化合物を原料とし、触媒としてフェロセン等の有機遷移金属化合物をキャリアーガスとともに高温の反応炉に導入し、それによって基盤上に炭素繊維を生成させる方法(特許文献3)、浮遊状態で炭素繊維を生成させる方法(特許文献4)、及び反応炉壁に炭素繊維を成長させる方法(特許文献5)等が開示されている。
【0005】
一方、樹脂組成物等を溶融紡糸した繊維を黒鉛化する方法としては、フェノール樹脂とポリエチレンとの複合繊維から極細炭素繊維を製造する方法(特許文献6)が開示されている。また、このような炭素繊維の製造方法に関しては、分岐構造の無い高強度・高弾性率の極細炭素繊維を、生産性良く製造する方法も開示されている(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−224239号公報
【特許文献2】特開2010−21036号公報
【特許文献3】特開昭60−27700号公報(公報第2−3頁)
【特許文献4】特開昭60−54998号公報(公報第1−2頁)
【特許文献5】特許第2778434号公報(公報第1−2頁)
【特許文献6】特開2001−73226号公報(公報第3−4頁)
【特許文献7】国際公開WO2009/125857A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、電池用負極において負極活物質として用いるために好ましい性質を有する改質炭素繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の構成を要旨とするものである。
【0009】
〈1〉溶融紡糸した繊維を黒鉛化することによって得られた炭素繊維に酸化処理を行う工程を含む、改質炭素繊維の生成方法。
〈2〉前記炭素繊維を10mol%超の酸素を含有する酸素含有雰囲気において200℃以上の温度に加熱することによって、前記酸化処理を行う、上記〈1〉項に記載の方法。
〈3〉前記酸素含有雰囲気が空気である、上記〈2〉項に記載の方法。
〈4〉前記加熱を300℃〜800℃の温度で行う、上記〈2〉又は〈3〉項に記載の方法。
〈5〉前記炭素繊維を硫酸に接触させることによって、前記酸化処理を行う、上記〈1〉項に記載の方法。
〈6〉前記炭素繊維が、以下(1)〜(4)の工程を含む方法によって得られた炭素繊維である、上記〈1〉〜〈5〉項のいずれか一項に記載の方法:
(1)熱可塑性樹脂100質量部、並びにピッチ、ポリアクリロニトリル、ポリカルボジイミド、ポリイミド、ポリベンゾアゾール、リグニン及びアラミドよりなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性炭素前駆体1〜150質量部からなる混合物から、前駆体繊維を形成する工程、
(2)前駆体繊維を安定化処理に付して、前駆体繊維中の熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化樹脂組成物を形成する工程、
(3)安定化樹脂組成物から熱可塑性樹脂を除去して、繊維状炭素前駆体を形成する工程、及び
(4)繊維状炭素前駆体を黒鉛化する工程。
〈7〉前記熱可塑性樹脂が下記式(I)を有する、上記〈6〉項に記載の方法:
【化1】

(式(I)中、R、R、R、及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、及び炭素数7〜12のアラルキル基からなる群より選ばれ、かつnは20以上の整数)。
〈8〉前記熱可塑性炭素前駆体が、メソフェーズピッチ及びポリアクリロニトリルからなる群より選ばれる少なくとも一種である、上記〈6〉又は〈7〉項に記載の方法。
〈9〉上記〈1〉〜〈8〉項のいずれか一項に記載の方法によって製造される改質炭素繊維。
〈10〉集電体及び前記集電体上の負極活物質層を有する電池用負極であって、前記負極活物質層が、上記〈9〉項に記載の改質炭素繊維を含む、電池用負極。
〈11〉リチウムイオン二次電池用である、上記〈10〉項に記載の負極。
〈12〉前記負極活物質層が、前記改質炭素繊維及びバインダーを含む、上記〈10〉又は〈11〉項に記載の負極。
〈13〉集電体及び前記集電体上の正極活物質層を有する正極、電解質を含む電解質層、及び上記〈10〉〜〈12〉項のいずれか一項に記載の負極が、前記正極の正極活物質層と前記負極の負極活物質層とが向き合い、かつ前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に前記電解質層が挿入されるようにして積層されてなる、二次電池。
〈14〉上記〈9〉項に記載の改質炭素繊維、バインダー、及び分散媒を含む、負極形成用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の改質炭素繊維によれば、電池用負極において負極活物質として用いたときに、優れた充放電特性を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のリチウムイオン二次電池の1つの態様を示す断面図である。
【図2】実施例1のリチウムイオン二次電池の充放電特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〈改質炭素繊維の製造方法〉
改質炭素繊維を生成する本発明の方法は、溶融紡糸した繊維を黒鉛化することによって得られた炭素繊維に酸化処理を行う工程を含む。
【0013】
このような本発明の方法によれば、負極活物質として優れた充放電特性を有する改質炭素繊維を得ることができる。
【0014】
理論に限定されるものではないが、これは以下のような理由によると考えられる。
【0015】
すなわち、溶融紡糸した繊維を黒鉛化することによって得られた炭素繊維は、グラファイト層が繊維軸方向に配向している。また、このような炭素繊維の断面形状は、グラファイト結晶のC軸方向を短軸とした楕円形状をしている。また、この断面形状の長軸側の端面は、複数のグラファイト層がループ状に閉じた構造を有しており、かつタングリングボンドを有している。したがって、このような炭素繊維に酸化処理を行うと、水酸基、カルボニル基等の基がこの端面に導入されてループ状グラファイト層が開き、かつ/又はこの端面のタングリングボンドが除去される。
【0016】
このように断面形状の長軸側の端面が処理されると、グラファイト層へのリチウムイオン等の出入りが容易になり、それによって電池の負極活物質として優れた充放電特性を提供すると考えられる。
【0017】
〈改質炭素繊維の製造方法−酸化処理〉
優れた充放電特性を有する改質炭素繊維を提供できれば、炭素繊維の酸化処理方法は特に限定されない。酸化処理方法としては例えば、炭素繊維を酸素含有雰囲気において加熱する方法、炭素繊維を酸化剤と接触させる方法などが挙げられる。また、溶融紡糸した繊維を黒鉛化する際の条件を調節して黒鉛化処理と酸化処理を同時に行うことによっても、本発明の改質炭素繊維が得られうる。
【0018】
酸素含有雰囲気における加熱によって酸化処理を行う場合、酸素含有雰囲気は、10mol%以上、20mol%以上の酸素を含有する酸素含有雰囲気、特に空気であってよい。また、この場合の加熱温度は、200℃以上、300℃以上、又は400℃以上であってよい。また、この加熱温度は、1000℃以下、900℃以下、800℃以下、又は700℃以下であってよい。加熱温度が低すぎると、酸化反応が充分に進行しないので好ましくなく、また加熱温度が高すぎると、激しく酸化反応が進行してしまい、改質炭素繊維の収率が低くなるので好ましくない。
【0019】
酸化剤と接触させることによって酸化処理を行う場合、酸化剤としては、硫酸、硝酸、過酸化水素、オゾン水、過マンガン酸カリウム、硝酸塩、ヨウ素酸塩、過ヨウ素酸塩、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、過硫酸塩、重クロム酸塩、過マンガン酸塩、特に硫酸を考慮することができる。
【0020】
〈改質炭素繊維の製造方法−炭素繊維〉
改質炭素繊維を生成する本発明の方法では、溶融紡糸した繊維を黒鉛化することによって得られた炭素繊維を原料として用いる。原料として使用される炭素繊維は特に限定されるものではなく、いわゆるピッチ系炭素繊維、及び樹脂系炭素繊維、例えばPAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維を用いることができる。
【0021】
特に、本発明においては、特許文献7に記載の方法又はそれと同様な方法によって得られる炭素繊維を原料として用いることができる。したがって例えば、本発明においては、以下(1)〜(4)の工程を含む方法によって得られた炭素繊維を原料として用いることができる:
(1)熱可塑性樹脂100質量部、並びにピッチ、ポリアクリロニトリル、ポリカルボジイミド、ポリイミド、ポリベンゾアゾール、リグニン及びアラミドよりなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性炭素前駆体1〜150質量部からなる混合物から、前駆体繊維を形成する工程、
(2)前駆体繊維を安定化処理に付して、前駆体繊維中の熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化樹脂組成物を形成する工程、
(3)安定化樹脂組成物から熱可塑性樹脂を除去して、繊維状炭素前駆体を形成する工程、及び
(4)繊維状炭素前駆体を黒鉛化する工程。
【0022】
以下に、上記の炭素繊維製造方法で使用する熱可塑性樹脂、熱可塑性炭素前駆体熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体から混合物を製造する方法、及び混合物から炭素繊維を製造する方法について詳細に説明する。
【0023】
(a)熱可塑性樹脂
上記の炭素繊維製造方法で使用する熱可塑性樹脂は、安定化前駆体繊維を製造後、容易に除去される必要がある。このため、酸素又は不活性ガス雰囲気下、350℃以上600℃未満の温度で5時間保持することで、初期質量の15wt%以下、より好ましくは10wt%以下、更には5wt%以下にまで減量する熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
【0024】
このような熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート等のポリアクリレート系ポリマー、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ポリサルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等が好ましく使用される。これらの中でもガス透過性が高く、容易に熱分解しうる熱可塑性樹脂として、例えば下記式(I)で表されるポリオレフィン系の熱可塑性樹脂やポリエチレンなどが好ましく使用される。
【0025】
【化2】

(式(I)中、R、R、R、及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、及び炭素数7〜12のアラルキル基からなる群より選ばれ、かつnは20以上の整数)。
【0026】
上記式(I)で表される化合物の具体的な例としては、ポリ−4−メチルペンテン−1又はポリ−4−メチルペンテン−1の共重合体、例えばポリ−4−メチルペンテン−1にビニル系モノマーが共重合したポリマー、及びポリエチレンを例示することができる。ポリエチレンとしては、高圧法低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどの、エチレンの単独重合体又はエチレンとα−オレフィンとの共重合体;エチレン・酢酸ビニル共重合体などのエチレンと他のビニル系単量体との共重合体等が挙げられる。
【0027】
エチレンと共重合されるα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。他のビニル系単量体としては、例えば、酢酸ビニル等のビニルエステル、アクリル酸及びメタクリル酸、並びにこれら不飽和カルボン酸と炭素数1〜4の脂肪族アルコール類とのエステル化物が挙げられる。
【0028】
また、この熱可塑性樹脂は熱可塑性炭素前駆体と容易に溶融混練できるという点から、非晶性の場合、ガラス転移温度が250℃以下、結晶性の場合、結晶融点が300℃以下であることが好ましい。
【0029】
(b)熱可塑性炭素前駆体
上記の炭素繊維製造方法に用いられる熱可塑性炭素前駆体は、酸素ガス雰囲気下又はハロゲンガス雰囲気下、200℃以上350℃未満で2〜30時間保持した後、次いで不活性ガス雰囲気下で350℃以上500℃未満の温度で5時間保持することで、初期質量の80wt%以上が残存する熱可塑性炭素前駆体を用いるのが好ましい。上記条件で、残存量が初期質量の80%未満であると、熱可塑性炭素前駆体から充分な炭化率で炭素繊維を得ることができず、好ましくない。
【0030】
より好ましくは、上記条件において初期質量の85%以上が残存することである。上記条件を満たす熱可塑性炭素前駆体としては、具体的にはレーヨン、ピッチ、ポリアクリロニトリル、ポリα−クロロアクリロニトリル、ポリカルボジイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリベンゾアゾール、リグニン及びアラミド類等が挙げられ、これらの中でピッチ、ポリアクリロニトリル、ポリカルボジイミド、リグニンが好ましく、ピッチが更に好ましい。
【0031】
またピッチの中でも一般的に高強度、高弾性率の期待されるメソフェーズピッチが好ましい。なお、メソフェーズピッチとは溶融状態において光学的異方性相(液晶相)を形成しうる化合物を指す。メソフェーズピッチの原料としては石炭や石油の蒸留残渣を使用してもよく、有機化合物を使用しても良いが、安定化や炭素化もしくは黒鉛化のしやすさから、ナフタレン等の芳香族炭化水素を原料としたメソフェーズピッチを用いるのが好ましい。上記熱可塑性炭素前駆体は熱可塑性樹脂100質量部に対し1〜150質量部、好ましくは5〜100質量部を使用しうる。
【0032】
(c)熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体とからなる混合物の製造
上記の炭素繊維製造方法で使用する混合物は、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体から製造される。この炭素繊維製造方法で使用する混合物から、繊維径が2μm未満である炭素繊維を製造するためには、熱可塑性炭素前駆体の熱可塑性樹脂中への分散径が0.01〜50μmとなるのが好ましい。
【0033】
熱可塑性炭素前駆体の熱可塑性樹脂中への分散径が0.01〜50μmの範囲を逸脱すると、高性能複合材料用としての炭素繊維を製造することが困難となることがある。熱可塑性炭素前駆体の分散径のより好ましい範囲は0.01〜30μmである。また、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体からなる混合物を、300℃で3分間保持した後、熱可塑性炭素前駆体の熱可塑性樹脂中への分散径が0.01〜50μmであることが好ましい。
【0034】
一般に、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体との溶融混練で得た混合物を、溶融状態で保持しておくと時間と共に熱可塑性炭素前駆体が凝集するが、熱可塑性炭素前駆体の凝集により、分散径が50μmを超えると、高性能複合材料用としての炭素繊維を製造することが困難となることがある。
【0035】
熱可塑性炭素前駆体の凝集速度の程度は、使用する熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体との種類により変動するが、より好ましくは300℃で5分以上、更に好ましくは300℃で10分以上、0.01〜50μmの分散径を維持していることが好ましい。なお、混合物中で熱可塑性炭素前駆体は島相を形成し、球状あるいは楕円状となるが、ここで言う分散径とは混合物中で熱可塑性炭素前駆体の球形の直径又は楕円体の長軸径を意味する。
【0036】
熱可塑性炭素前駆体の使用量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して1〜150質量部、好ましくは5〜100質量部である。熱可塑性炭素前駆体の使用量が150質量部を超えると所望の分散径を有する熱可塑性炭素前駆体が得られず、1質量部未満であると目的とする炭素繊維を安価に製造する事ができない等の問題が生じるため好ましくない。
【0037】
熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体とから混合物を製造する方法は、溶融状態における混練が好ましい。熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体の溶融混練は公知の方法を必要に応じて用いる事ができ、例えば一軸式溶融混練押出機、二軸式溶融混練押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー等が挙げられる。これらの中で上記熱可塑性炭素前駆体を熱可塑性樹脂に良好にミクロ分散させるという目的から、同方向回転型二軸式溶融混練押出機が好ましく使用される。
【0038】
溶融混練温度としては100℃〜400℃で行うのが好ましい。溶融混練温度が100℃未満であると、熱可塑性炭素前駆体が溶融状態にならず、熱可塑性樹脂とのミクロ分散が困難であるため好ましくない。一方、400℃を超える場合、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体の分解が進行するためいずれも好ましくない。溶融混練温度のより好ましい範囲は150℃〜350℃である。また、溶融混練の時間としては0.5〜20分間、好ましくは1〜15分間である。溶融混練の時間が0.5分間未満の場合、熱可塑性炭素前駆体のミクロ分散が困難であるため好ましくない。一方、20分間を超える場合、炭素繊維の生産性が著しく低下し好ましくない。
【0039】
上記の炭素繊維製造方法では、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体から溶融混練により混合物を製造する際に、酸素ガス含有量10体積%未満のガス雰囲気下で溶融混練することが好ましい。この方法で使用する熱可塑性炭素前駆体は酸素と反応することで溶融混練時に変性不融化してしまい、熱可塑性樹脂中へのミクロ分散を阻害することがある。このため、不活性ガスを流通させながら溶融混練を行い、できるだけ酸素ガス含有量を低下させることが好ましい。
【0040】
より好ましい溶融混練時の酸素ガス含有量は5体積%未満、更には1%体積未満である。上記の方法を実施することで、炭素繊維を製造するための、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体との混合物を製造することができる。
【0041】
(d)炭素繊維を製造する方法
炭素繊維は、上述の熱可塑性樹脂及び熱可塑性炭素前駆体からなる混合物から製造することができる。すなわち、この炭素繊維は、(d−1)熱可塑性樹脂100質量部及び熱可塑性炭素前駆体1〜150質量部からなる混合物から、前駆体繊維を形成する工程、(d−2)前駆体繊維を安定化処理に付して、前駆体繊維中の熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化樹脂組成物を形成する工程(以下、安定化工程と称することがある)、(d−3)安定化樹脂組成物から熱可塑性樹脂を除去して、繊維状炭素前駆体を形成する工程、(d−3’)繊維状炭素前駆体を分散させる随意の工程、そして、(d−5)繊維状炭素前駆体を炭素化又は黒鉛化する工程を経ることで製造される。各工程について、以下に詳細に説明する。
【0042】
(d−1)熱可塑性樹脂100質量部及び熱可塑性炭素前駆体1〜150質量部からなる混合物から前駆体繊維を形成する工程
上記の炭素繊維製造方法では、熱可塑性樹脂及び熱可塑性炭素前駆体の溶融混練で得た混合物から前駆体繊維を形成する。前駆体繊維を製造する方法としては、熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体とからなる混合物を紡糸口金より溶融紡糸することにより得る方法などを例示することができる。溶融紡糸する際の紡糸温度としては150℃〜400℃、好ましくは180℃〜350℃である。紡糸引取り速度としては1m/分〜2000m/分である事が好ましい。
【0043】
また、別法として熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体の溶融混練で得た混合物から、メルトブロー法により前駆体繊維を形成する方法も例示することができる。メルトブローの条件としては、吐出ダイ温度が150〜400℃、ガス温度が150〜400℃の範囲が好適に用いられる。メルトブローの気体噴出速度は、前駆体繊維の繊維径に影響するが、通常2000〜100m/sであり、より好ましくは1000〜200m/sである。メルトブロー法により前駆体繊維を形成する場合、不織布とすることもできる。
【0044】
熱可塑性樹脂と熱可塑性炭素前駆体との混合物を溶融混練し、その後ダイより吐出する際、溶融混練した後溶融状態のままで配管内を送液し吐出ダイまで連続的に送液するのが好ましく、溶融混練から紡糸口金吐出までの移送時間は10分間以内である事が好ましい。
【0045】
なお、本工程の後、前駆体繊維を目付け100g/m以下の不織布にして、600℃以上の耐熱性を有する支持基材により保持してから安定化工程での処理を行ってもよい。これにより、次の安定化工程において、加熱処理による前駆体繊維の凝集を抑制することができ、前駆体繊維間の通気性が良好になる。前駆体繊維の不織布の目付けが100g/mよりも多い場合には、安定化工程での加熱処理により、支持基材との接触部にて凝集する前駆体繊維が多くなることから、前駆体繊維間の通気性を保つことが困難な部分が生じてしまい好ましくない。一方、目付けを少なくした場合には、支持基材との接触部における前駆体繊維の凝集の程度を抑えることができるが、一度に処理することのできる前駆体繊維の量が少なくなり好ましくない。好ましい前駆体繊維の目付けとしては、10から50g/mである。
【0046】
前駆体繊維を不織布とする場合、公知の不織布製造方法、例えば湿式法、乾式法、メルトブロー法、スパンボンド法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、ニードルパンチ法、水流交絡法(スパンレース法)、ステッチボンド法などから適宜選択することができ、特に、短繊維を水などの溶媒中に分散させ、これを抄紙して不織布を製造する湿式法が、目付け(単位面積あたりの質量)の調整が容易であり、また後工程で悪影響を与える恐れのある物質を使用せずにすむ等の点で好ましい。
【0047】
本工程の後、前駆体繊維を目付け100g/m以下の不織布にして、600℃以上の耐熱性を有する支持基材により保持する場合、使用する支持基材としては、空気中での加熱によって変形・腐食を受けないものが好ましい。該支持基材は、「安定化樹脂組成物から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体を形成する工程」の処理温度により、変形しない、つまり600℃以上の耐熱性を有するものが好ましい。このような材質としては、鉄、銅、アルミニウムなどの金属やアルミナ、シリカなどのセラミックスを挙げることができるが、強度などの点で金属材料が好ましい。なお、耐熱性は高ければ高いほど良いが、工業装置・機械に一般的に用いられる金属材料では、最も高いもので耐熱性1200℃である。
【0048】
また、支持基材で前駆体繊維の不織布を保持する形態としては、隅をピンチコックのようなもので掴んでカーテン状に吊るす、洗濯物を干すように横に渡した棒又はひもに掛ける、両辺を固定して担架状に保持する、あるいは、板状のものの上に置くなど種々の方法を用いることができるが、安定化工程での前駆体繊維間の通気性が良好なことから、面垂直方向の通気性のある形状を有する支持基材を用いて、その上に前駆体繊維の不織布を置くことが好ましい。
【0049】
この様な支持基材の形状としては、好ましくは網目構造が挙げられる。網目構造を有する支持基材、例えば金網など、を使用する場合、網目の目開きとしては、0.1mmから5mmであることが好ましい。なお、上記の網目構造を有する支持基材上に前駆体繊維の不織布を置く場合、それを何段か積み上げ、支持基材で前駆体繊維の不織布を挟み込んで保持する形態も好ましい。その場合、支持基材間の間隔としては、前駆体繊維間の通気性を保つことができれば限定されないが、1mm以上の間隔をとることがより好ましい。
【0050】
(d−2)前駆体繊維を安定化処理に付して前駆体繊維中の熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化樹脂組成物を形成する工程(安定化工程)
上記の炭素繊維製造方法では、上記で作成した前駆体繊維を安定化処理に付して前駆体繊維中の熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化樹脂組成物を形成する。熱可塑性炭素前駆体の安定化は炭素化もしくは黒鉛化された炭素繊維を得るために必要な工程であり、これを実施せず次工程である熱可塑性樹脂の除去を行った場合、熱可塑性炭素前駆体が熱分解したり融着したりするなどの問題が生じる。
【0051】
次に、前駆体繊維の安定化の処理温度としては、100〜400℃であることが好ましい。100℃よりも低い場合には、熱可塑性炭素前駆体の安定化に多大の時間を必要とし好ましくない。また350℃よりも高い場合には、熱可塑性炭素前駆体の安定化は速いものの、最終的に得られる炭素繊維はその繊維構造が著しく乱れ崩壊していることがあり好ましくない。より好ましい処理温度としては、200℃〜350℃である。また、上記の温度において処理を施す時間は10〜1200分、更に好ましくは10〜600分である。
【0052】
また、上記の炭素繊維製造方法では前駆体繊維から安定化樹脂組成物を形成する際に、酸素ガス雰囲気下で実施するのが好ましい。使用する酸素ガス濃度としては特に制限は無いものの、全ガス組成の10〜100体積%の範囲にあることが好ましい。酸素ガス濃度が全ガス組成の10体積%未満であると、熱可塑性炭素前駆体の安定化に多大の時間を要し好ましくない。酸素ガスとしては、コストの関係から空気を用いるのが特に好ましい。
【0053】
上記の安定化において、酸化性の雰囲気下で熱処理を行うことによって熱可塑性炭素前駆体の架橋反応が進行することにより、前駆体繊維中に含まれる熱可塑性炭素前駆体の軟化点は著しく上昇するが、所望の極細炭素繊維を得るという目的から軟化点が400℃以上となる事が好ましく、500℃以上である事が更に好ましい。上記の方法を実施することで、前駆体繊維中の熱可塑性炭素前駆体は、その形状を保持しつつ安定化され、一方、熱可塑性樹脂は軟化・溶融して、安定化処理前の繊維形状を保持しない安定化樹脂組成物を得ることができる。なお、上記の安定化を不融化と呼ぶこともある。
【0054】
(d−3)安定化樹脂組成物から熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体を形成する工程
上記の炭素繊維製造方法では、安定化樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂を熱分解で除去する。具体的には安定化樹脂組成物中に含まれる熱可塑性樹脂を除去し、安定化された繊維状炭素前駆体のみを分離し、繊維状炭素前駆体を形成する。この工程では、繊維状炭素前駆体の熱分解をできるだけ抑え、かつ熱可塑性樹脂を分解除去し、繊維状炭素前駆体のみを分離する必要がある。
【0055】
熱可塑性樹脂の除去は、減圧下で行うことが好ましい。減圧下で行うことにより、熱可塑性樹脂の除去を効率的に行うことができ、続く繊維状炭素前駆体を炭素化もしくは黒鉛化する工程において、繊維間の融着の少ない炭素繊維を作製することができる。熱可塑性樹脂を除去する際の雰囲気圧力は低いほど好ましいが、完全な真空は達成が困難であり、0.01〜50kPaであることが好ましく、0.01〜30kPaであるとより好ましく、0.01〜10kPaであると更に好ましく、0.01〜5kPaであると特に好ましい。熱可塑性樹脂を除去する際、上記の雰囲気圧力が保たれれば、微量の酸素や不活性ガスが存在しても良く、特に微量の不活性ガスが存在すると、熱可塑性樹脂の熱劣化による融着が抑制される利観点があり好ましい。なお、ここで言う微量の酸素とは、酸素濃度30体積ppm以下の酸素、不活性ガス雰囲気下とは20体積ppm以下の二酸化炭素、窒素、アルゴン等のガスをさす。熱可塑性樹脂の除去には、減圧下で熱処理を行う必要があるが、熱処理の温度としては、350℃以上600℃未満の温度で除去することが好ましい。熱処理時間としては、0.5〜10時間処理するのが好ましい。
【0056】
また、熱可塑性樹脂の除去は、不活性ガス雰囲気下で行うこともできる。不活性ガス雰囲気下で熱可塑性樹脂を除去する場合には、350℃以上600℃未満の温度で除去することが必要である。なお、ここで言う不活性ガス雰囲気下とは、酸素濃度30ppm以下、より好ましくは20ppm以下の二酸化炭素、窒素、アルゴン等のガスを指す。本工程で使用する不活性ガスとしては、コストの関係から二酸化炭素と窒素が好ましく用いることができ、窒素が特に好ましい。安定化樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂を除去する温度が350℃未満のとき、繊維状炭素前駆体の熱分解は抑えられるものの、熱可塑性樹脂の熱分解を充分行うことができず好ましくない。一方、600℃以上であると、熱可塑性樹脂の熱分解は充分行うことができるものの、繊維状炭素前駆体の熱分解も起こってしまい、結果として熱可塑性炭素前駆体から得られる炭素繊維の炭化収率を低下させてしまうことから好ましくない。安定化樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂を分解する温度としては、不活性ガス雰囲気下380〜550℃とすることが好ましく、0.5〜10時間処理するのが好ましい。
【0057】
(d−3’)繊維状炭素前駆体を湿式ジェットミルによって分散させる随意の工程
分散性に優れた炭素繊維を製造することが好ましい場合、繊維状炭素前駆体同士を湿式ジェットミルによって分散させる工程を経ることができる。本工程を経ることにより、繊維同士の接着の少ない分散性の優れた炭素繊維を製造することが可能になる。ここで用いられる湿式ジェットミルとは、任意の方法で高速流を発生させ、高速流によって生じる乱流・剪断及びキャビテーション効果などを有効に活用し、被処理物の分散を促進する機能を備えた装置を総称するものである。具体的には、プランジャーポンプやロータリーポンプ等によって被処理液をノズルから噴射させ、被処理液が流路内を高速で通過する際に乱流・剪断を受けると共に、ノズル通過後の急激な圧力変動によって生じるキャビテーションによって被処理物質内部からの破砕が起こり、被処理物の分散は促進される。
【0058】
また、湿式ジェットミルの機構の中には、高速流を発生させるノズルを対向配置させ、被処理物同士を衝突させたり、高速流をセラミックボールなどに衝突させたりすることによって、分散を促進させる機構のものもある。しかし、繊維状炭素前駆体を分散させる方法として用いた場合は、繊維状炭素前駆体同士の接着の程度が小さくなるよりも、繊維状炭素前駆体の繊維長が短くなる方向への分散がより進行することから、好ましくない。
【0059】
(d−4)繊維状炭素前駆体を炭素化もしくは黒鉛化する工程
上記の炭素繊維製造方法における第四の工程は、熱可塑性樹脂を除いた繊維状炭素前駆体を不活性ガス雰囲気中で炭素化もしくは黒鉛化し炭素繊維を製造するものである。この製造方法において繊維状炭素前駆体は不活性ガス雰囲気下での高温処理により炭素化もしくは黒鉛化し、所望の炭素繊維となる。得られる炭素繊維の繊維径としては0.001μm〜2μmであることが好ましい。
【0060】
繊維状炭素前駆体の炭素化もしくは黒鉛化は公知の方法で行うことができる。使用される不活性ガスとしては窒素、アルゴン等があげられ、温度は500℃〜3500℃、好ましくは800℃〜3000℃である。なお、炭素化もしくは黒鉛化する際の、酸素濃度は20体積ppm以下、更には10体積ppm以下であることが好ましい。上記の方法を実施することで、黒鉛化した炭素繊維を製造することができる。
【0061】
〈改質炭素繊維〉
本発明の改質炭素繊維は、改質炭素繊維を製造する本発明の方法によって製造される。このような本発明の改質炭素繊維によれば、電池用負極において負極活物質として用いたときに、優れた充放電特性を提供できる。
【0062】
〈電池用負極〉
本発明の電池用負極、特にリチウムイオン二次電池用負極又はナトリウムイオン二次電池用負極は、集電体及び集電体上の負極活物質層を有し、かつ負極活物質層が、本発明の改質炭素繊維を含む。また、本発明の電池用負極では、負極活物質層が、改質炭素繊維と併せて、バインダー及び導電助剤を含むことができる。ただし、本発明の改質炭素繊維を、負極活物質及び導電助剤の両方として利用することもでき、この場合には、別個の導電助剤を利用しないこともできる。
【0063】
本発明の改質炭素繊維は、酸化処理によって改質されている炭素繊維と改質が行われていない炭素繊維との混合物として得られることもあるので、本発明の改質炭素繊維を、負極活物質及び導電助剤の両方として利用する場合には、改質されている炭素繊維が負極活物質として作用し、かつ改質が行われていない炭素繊維が導電助剤として作用し、それによって良好な電池特性が得られる可能性がある。
【0064】
なお、本発明の改質炭素繊維と併せて、他の負極活物質を用いることもできる。
【0065】
〈電池用負極−バインダー〉
負極活物質層に随意に含有されるバインダーは、集電体に対して負極活物質を結着させることができる限り、特に限定されない。したがって例えば、バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ、ポリイミド、セルロース等を用いることができる。
【0066】
〈電池用負極−導電助剤〉
負極活物質層に随意に含有される導電助剤は、負極活物質層の導電性を向上させることができる限り、特に限定されない。したがって例えば、導電助剤としては、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、炭素繊維、又はこれらの組み合わせからなる群より選択される炭素材料が挙げられる。導電助剤としては、炭素繊維、特に分岐構造を持たない平均繊維径10〜900nmの超極細繊維状炭素を用いることが、サイクル特性の向上に関して好ましいと考えられる。このような超極細繊維状炭素に関しては例えば、特開2010−245423の記載を参照することができる。
【0067】
〈電池用負極−製造方法〉
本発明の電池用負極は任意の方法で製造することができる。本発明の電池用負極は例えば、負極活物質としての本発明の改質炭素繊維、随意のバインダー、及び随意の導電助剤等を分散媒中に含む負極組成物を提供し、この負極組成物を集電体に適用し、乾燥し、随意に焼成して得ることができる。
【0068】
この場合の分散媒は、本発明の目的及び効果を損なわない限り制限されるものではなく、したがって例えば本発明の改質炭素繊維と反応しない有機溶媒を用いることができる。具体的にはこの分散媒は、非水系溶媒、例えばアルコール、アルカン、アルケン、アルキン、ケトン、エーテル、エステル、芳香族化合物、又は含窒素環化合物であってよく、特にイソプロピルアルコール(IPA)、又はN−メチル−2−ピロリドン(NMP)であってよい。なお、分散媒は一般に、脱水溶媒であることが好ましい。
【0069】
また、乾燥温度は、負極活物質層に含有される成分を劣化させないように選択することができ、例えば50℃以上、70℃以上、90℃以上であって、100℃以下、150℃以下、200℃以下、又は250℃以下であるように選択できる。
【0070】
〈二次電池〉
本発明の二次電池、特にリチウムイオン二次電池又はナトリウムイオン二次電池は、集電体及び上記集電体上の正極活物質層を有する正極、電解質を含む電解質層、及び本発明の負極を有し、正極の正極活物質層と上記負極の負極活物質層とが向き合い、かつ上記正極活物質層と上記負極活物質層との間に、電解質層が挿入されるようにして積層されている。
【0071】
本発明の二次電池は例えば、図1で示すような構成を有することができる。すなわち、本発明の二次電池500では、正極200、電解質層30、及び本発明の負極100が、正極200の正極活物質層40と負極100の負極活物質層20とが向き合い、かつこれら正極活物質層と負極活物質層との間に電解質層30が挿入されるようにして積層されていてよい。ここで、正極200では、正極活物質を含む正極活物質層40が集電体50の表面に形成されている。
【0072】
〈二次電池−正極〉
本発明の二次電池の正極のための集電体は、任意の導電性材料から形成することができる。具体的には正極のための集電体は、本発明の電池用負極のための集電体に関して説明した材料から形成することができる。
【0073】
正極活物質層は、正極活物質を含み、随意にバインダー、導電助剤等を更に含むことができる。
【0074】
正極活物質層に含有される正極活物質は特に限定されない。したがって例えば、リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、LiMn、LiCoO、LiNiO、Li(NiCoMn)O等のリチウム−遷移金属複合酸化物、LiPFe又はLiPFeM(Mは、Mn、Co、Al、Ni、V、又はそれらの組合せ)等のリチウム−遷移金属リン酸化合物、リチウム−遷移金属硫酸化合物等を用いることができる。
【0075】
正極活物質層に随意に含有されるバインダー及び導電助剤は特に限定されない。具体的なバインダー及び導電助剤としては、本発明の負極に関して説明したバインダー及び導電助剤を用いることができる。
【0076】
〈二次電池−電解質層〉
電解質層は、正極活物質層と負極活物質層との間の空間的な隔壁(スペーサ)として機能すると共に、リチウムイオン等の移動媒体である電解質を保持する機能を有する。
【0077】
本発明の二次電池のための電解質層は、本発明の目的及び効果を損なわない限り制限されるものではない。したがって例えば、電解質層としては、液体電解質、すなわち例えば有機溶媒にリチウム塩が溶解した溶液を用いることができる。ただし、このような液体電解質を用いる場合、正極活物質層と負極活物質層との間の直接の接触を防ぐために、多孔質層からなるセパレーターを用いることが一般に好ましい。
【0078】
液体電解質のための有機溶媒としては例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)等を使用することができる。これらの有機溶媒は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、液体電解質のためのリチウム塩としては例えば、LiPF、LiClO、LiN(CFSO、LiBF等を使用することができる。これらのリチウム塩は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
なお、電解質層としては、固体電解質を用いることもでき、この場合には、別個のスペーサーを省略することができる。
【0080】
〈負極形成用組成物〉
本発明の負極形成用組成物は、本発明の改質炭素繊維、バインダー、分散媒、及び随意の導電助剤を含む。
【0081】
このような組成物に含有される改質炭素繊維、バインダー、導電助剤、及び分散媒、並びにこのような組成物の使用方法については、本発明の電池用負極に関する上記の記載を参照することができる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれによりなんら限定を受けるものではない。
【0083】
本実施例において、熱可塑性樹脂中の熱可塑性炭素前駆体の分散粒子径及び炭素繊維の繊維径、及び炭素繊維の融着程度は、走査型電子顕微鏡S−2400(株式会社日立製作所製)にて測定した。熱可塑性樹脂の軟化点は熱示差質量分析装置(TG−DTA)を用い評価した。また、熱可塑性炭素前駆体の軟化点はホットプレートを用いた目視による溶融状態を観察することで評価した。
【0084】
[実施例1]
1.炭素繊維の製造
この実施例では、特許文献7の実施例1と同様な方法で炭素繊維を製造した。具体的には、下記のようにして炭素繊維を製造した。
【0085】
熱可塑性樹脂として高密度ポリエチレン(株式会社プライムポリマー社製、ハイゼックス5000SR)90質量部と熱可塑性炭素前駆体としてメソフェーズピッチAR−MPH(三菱ガス化学株式会社製)10質量部を同方向二軸押出機(東芝機械株式会社製TEM−26SS、バレル温度310℃、窒素気流下)で溶融混練して混合物を作製した。この条件で得られた混合物の、熱可塑性炭素前駆体の熱可塑性樹脂中への分散径は0.05〜2μmであった。また、この混合物を300℃で10分間保持したが、熱可塑性炭素前駆体の凝集は認められず、分散径は0.05〜2μmであった。
【0086】
次いで、上記混合物をシリンダー式単孔紡糸機により、紡糸温度390℃の条件により、繊維径100μmの長繊維を作製した。
【0087】
次に、この前駆体繊維からなる30g/mの目付けの不織布を湿式法により調製し、これをステンレス製の金網に挟み込み、215℃の熱風乾燥機の中で3時間保持させることにより、安定化樹脂組成物を作製した。なお、この際使用の金網は、目開きが1.46mm、直径が0.35mmの綾織りのステンレス製金網を使用し、金網の間隔は、10mmであった。
【0088】
次に、真空ガス置換炉中で、窒素ガス雰囲気下で加熱することにより、繊維状炭素前駆体からなる不織布を作製した。加熱条件は、昇温速度5℃/分にて500℃まで昇温後、同温度で60分間保持を行った。
【0089】
この繊維状炭素前駆体からなる不織布をイオン交換水中に加え、ミキサーで2分間粉砕することにより、濃度0.1重量%の繊維状炭素前駆体を分散させた予備分散液を作製した。この予備分散液を、湿式ジェットミル(株式会社スギノマシン社製、スターバーストラボHJP−17007、使用チャンバー:シングルノズルチャンバー)を用いて、ノズル径0.17mm、処理圧力100MPaにより、処理を10回繰り返すことによって、繊維状炭素前駆体の分散させた液を作製した。
【0090】
次いで、得られた溶媒液を濾過することによって、繊維状炭素前駆体を分散させた不織布を作製した。
【0091】
この繊維状炭素前駆体を分散させた不織布をアルゴンガス雰囲気下、室温から3時間で3000℃まで昇温することで黒鉛化した炭素繊維を作製した。得られた炭素繊維の繊維径は300〜600nmであり、繊維が融着した繊維集合体がほとんどなく、非常に分散性に優れた炭素繊維であった。
【0092】
2.改質炭素繊維の製造
得られた炭素繊維を、空気中において、500℃で15分間にわたって加熱することによって、改質炭素繊維を得た。
【0093】
3.負極(作用電極)の作製
負極活物質としての改質炭素繊維80重量%、導電助剤としてのアセチレンブラック(電気化学工業製のデンカブラック)10重量%、及びバインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)(株式会社クレハ製のKF−L No.9130)10重量%を、分散媒としてのN−メチルー2−ピロリドンに分散させてスラリーを得、このスラリーを撹拌装置(「あわとり練太郎」(シンキー製))で撹拌して、負極組成物を作製した。
【0094】
次いて、厚み20μmの銅箔からなる集電体上に、アプリケーターを用いて上記負極組成物を100μmの厚さで塗布し、熱風乾燥機において、80℃で1時間にわたって、そして更に150℃で5時間にわたって乾燥し、そしてロールプレス機によりプレスして、負極用電極を作製した。作製した負極用電極を、直径14mmの円形に打ち抜いて、負極(作用電極)とした。
【0095】
4.参照電極の作製
金属リチウム箔を、直径14mmの円形に打ち抜いて、参照電極とした。
【0096】
5.負極半電池の作製
得られた負極(作用電極)と参照電極との間に、セパレーターとしての多孔質ポリエチレンフィルム(東燃化学(株)社製のE−20MMS)を挟み込んで負極半電池積層体を得、この電池積層体を電池ケースに収納し、そして電解液を含浸させて、実施例1の負極半電池を得た。なお、作業は、アルゴンドライボックス中でおこなった。また、電解液は、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの70:30(体積比)混合溶媒に、1mol/LのLiPFを溶解した溶液であった。
【0097】
6.評価
充放電試験は、充放電装置(北斗電工社製)を用い、充電及び放電時の電流密度を0.1mA/cmとして行った。なお、充電は、初期電圧から、リチウム金属電位までCC−CV法(定電流定電圧法)による充電を行い、放電は、リチウム金属電位−0Vからリチウム金属電位−1Vまで、CC法(定電流法)によって行った。
【0098】
評価結果を図2に示す。初期充電容量は190.79mAh/g、初期放電容量は118.97mAh/g、及び初期充放電効率は62.36%であった。なお、初期充放電効率は、下記式によって算出した:
初期充放電効率=(初期放電容量)/(初期充電容量)×100(%)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融紡糸した繊維を黒鉛化することによって得られた炭素繊維に酸化処理を行う工程を含む、改質炭素繊維の生成方法。
【請求項2】
前記炭素繊維を10mol%超の酸素を含有する酸素含有雰囲気において200℃以上の温度に加熱することによって、前記酸化処理を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸素含有雰囲気が空気である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記加熱を300℃〜800℃の温度で行う、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記炭素繊維を硫酸に接触させることによって、前記酸化処理を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記炭素繊維が、以下(1)〜(4)の工程を含む方法によって得られた炭素繊維である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法:
(1)熱可塑性樹脂100質量部、並びにピッチ、ポリアクリロニトリル、ポリカルボジイミド、ポリイミド、ポリベンゾアゾール、リグニン及びアラミドよりなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性炭素前駆体1〜150質量部からなる混合物から、前駆体繊維を形成する工程、
(2)前駆体繊維を安定化処理に付して、前駆体繊維中の熱可塑性炭素前駆体を安定化して安定化樹脂組成物を形成する工程、
(3)安定化樹脂組成物から熱可塑性樹脂を除去して、繊維状炭素前駆体を形成する工程、及び
(4)繊維状炭素前駆体を黒鉛化する工程。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が下記式(I)を有する、請求項6に記載の方法:
【化1】

(式(I)中、R、R、R、及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、及び炭素数7〜12のアラルキル基からなる群より選ばれ、かつnは20以上の整数)。
【請求項8】
前記熱可塑性炭素前駆体が、メソフェーズピッチ及びポリアクリロニトリルからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法によって製造される改質炭素繊維。
【請求項10】
集電体及び前記集電体上の負極活物質層を有する電池用負極であって、前記負極活物質層が、請求項9に記載の改質炭素繊維を含む、電池用負極。
【請求項11】
リチウムイオン二次電池用である、請求項10に記載の負極。
【請求項12】
前記負極活物質層が、前記改質炭素繊維及びバインダーを含む、請求項10又は11に記載の負極。
【請求項13】
集電体及び前記集電体上の正極活物質層を有する正極、電解質を含む電解質層、及び請求項10〜12のいずれか一項に記載の負極が、前記正極の正極活物質層と前記負極の負極活物質層とが向き合い、かつ前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に前記電解質層が挿入されるようにして積層されてなる、二次電池。
【請求項14】
請求項9に記載の改質炭素繊維、バインダー、及び分散媒を含む、負極形成用組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−108186(P2013−108186A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251979(P2011−251979)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】