説明

改質硫黄、及びバインダーとして改質硫黄を含有する生成物

【課題】建材としての硫黄結合生成物の特に耐アルカリ性向上による機械特性の向上。
【解決手段】溶融元素状硫黄を1種以上のオレフィン系硫黄改質剤と混合して製造した改質硫黄であって、オレフィン系硫黄改質剤の50重量%以上は5−エチリデン−2−ノルボルネン及び/又は5−ビニル−2−ノルボルネンであり、かつオレフィン系硫黄改質剤の合計量は、硫黄の重量に対し0.1〜20重量%の範囲である該改質硫黄;及び改質硫黄と、充填剤及び/又は骨材と、任意に元素状硫黄とを、硫黄の融点より高い温度で混合し、次いで該混合物を硫黄の融点より低い温度で冷却して得られた混合物を、固化することにより製造される、バインダーとして改質硫黄を含有する生成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、改質硫黄、及びこのような改質硫黄と、充填剤及び/又は骨材と、任意に元素状硫黄とを、硫黄の融点より高い温度で混合し、次いで該混合物を硫黄の融点より低い温度で冷却して得られた混合物を、固化することにより製造される、バインダーとして改質硫黄を含有する生成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ポルトランドセメントをベースとするモルタル又はコンクリートのような従来の建材は、アルカリ条件下で良好な耐久性を有する。しかし、耐酸性は悪い。バインダーとして硫黄を含む建材は、酸性条件下で非常に良好な安定性を示すので、これらは酸性条件下で使用できる。しかし、硫黄結合生成物の耐アルカリ性は、特にポルトランドセメント生成物に比べると悪い。
【0003】
硫黄セメント又は硫黄セメント−骨材複合体のような硫黄結合材料では、バインダーとして元素状硫黄が使用される。これらの生成物に使用される硫黄は、固体硫黄の同素体転位を防止するため、通常、改質又は可塑化される。通常、改質硫黄は、硫黄の一部を、硫黄可塑剤とも言われる硫黄改質剤と反応させて製造される。硫黄改質剤の周知の部類は、硫黄と共重合するオレフィン系化合物である。このようなオレフィン系硫黄改質剤の公知例は、ジシクロペンタジエン、リモネン、スチレン又はナフタレンである。B.R.Currell等,“Plastization of Sulfur”In:J.R.West(編),シンポジウム“New Uses of Sulfur”の議事録,ロスアンジェルス,1974年4月,Advances in Chemistry Series No.140,Am.Chem.Soc.,ワシントン,1975,1〜17頁参照。
【0004】
可塑化又は改質硫黄は、いわゆる濃厚物、即ち、比較的多量の改質剤と反応させた硫黄の形態で使用できる。硫黄結合生成物、例えばコンクリートの製造では、次にこの濃厚物は、硫黄の融点よりも高い温度で更に硫黄、充填剤及び骨材と混合後、固化される。
【非特許文献1】B.R.Currell等,“Plastization of Sulfur”In:J.R.West(編),シンポジウム“New Uses of Sulfur”の議事録,ロスアンジェルス,1974年4月,Advances in Chemistry Series No.140,Am.Chem.Soc.,ワシントン,1975,1〜17頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明の概要
特定量の5−エチリデン−2−ノルボルネン又は5−ビニル−2−ノルボルネンで改質した硫黄をバインダーとして用いると、酸性及びアルカリの両条件下で良好な耐久性を示す、セメント又はセメントベースの建材が得られることが、今回、見出された。
【0006】
エチリデンノルボルネン又は5−ビニル−2−ノルボルネンを硫黄改質剤として使用することは知られている。Research Disclosure No.22924,1983には、エチリデンノルボルネン又は5−ビニル−2−ノルボルネンは硫黄可塑剤として使用できると述べている。実施例では、元素状硫黄と硫黄の重量に対し40〜43重量%のオレフィン系可塑剤(エチリデン−2−ノルボルネンと5−ビニル−2−ノルボルネンとを含むブレンドとして)とを反応させて可塑化硫黄を製造している。得られた可塑化硫黄は、黒色ガラス状固体で、したがって、更にセメント、モルタル又はコンクリートのような硫黄結合生成物に加工するには適さない。
【0007】
使用されるオレフィン系改質剤が5−エチリデン−2−ノルボルネン又は5−ビニル−2−ノルボルネンを50重量%以上含有すると共に、オレフィン系硫黄改質剤の合計濃度が、改質硫黄のいずれの製造段階においても、硫黄の重量に対し20重量%を超えない限り、硫黄結合生成物に使用すると、耐酸及び耐アルカリの両性能を有する硫黄結合生成物が得られることが、今回、見出された。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明は、溶融元素状硫黄を1種以上のオレフィン系硫黄改質剤と混合して製造した改質硫黄であって、オレフィン系硫黄改質剤の50重量%以上は5−エチリデン−2−ノルボルネン及び/又は5−ビニル−2−ノルボルネンであり、かつオレフィン系硫黄改質剤の合計量は、硫黄の重量に対し0.1〜20重量%の範囲である該改質硫黄に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明改質硫黄の利点は高度の耐アルカリ性である。改質硫黄自体もこれで製造した硫黄結合生成物も驚くほど高度の耐アルカリ性を有する。
【0010】
本発明改質硫黄の他の利点は、最も普通の硫黄改質剤、即ち、ジシクロペンタジエンに比べて、5−エチリデン−2−ノルボルネン及び5−ビニル−2−ノルボルネンの毒性が低い上、安定性が高いことである。その結果、5−エチリデン−2−ノルボルネン及び/又は5−ビニル−2−ノルボルネンの改質硫黄への加工は、ジシクロペンタジエンの加工よりも容易になる。
【0011】
本発明改質硫黄の別の利点は淡色なことである。その結果、本発明の改質硫黄を使用した硫黄結合生成物は淡色で、所望の色に着色できる。
【0012】
別の局面では本発明は、改質硫黄と、充填剤及び/又は骨材と、任意に元素状硫黄とを、硫黄の融点より高い温度で混合し、次いで該混合物を硫黄の融点より低い温度で冷却して得られた混合物を、固化することにより製造される、バインダーとして改質硫黄を含有する生成物に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本発明の改質硫黄は、溶融元素状硫黄を1種以上のオレフィン系硫黄改質剤と混合して製造される。元素状硫黄と混合されるオレフィン系硫黄改質剤の50重量%以上は5−エチリデン−2−ノルボルネン及び/又は5−ビニル−2−ノルボルネンである。
【0014】
改質硫黄の製造法は当該技術分野で知られている。溶融元素状硫黄と1種以上の改質剤とは硫黄の融点よりも高い温度、即ち、120℃を超え、かつ改質剤の沸点よりも低い温度で混合し、硫黄の一部と改質剤とを反応させる。通常、この温度は120〜150℃の範囲である。本発明の改質硫黄は、硫黄と改質剤とをいかなる好適な温度、好ましくは120〜150℃、更に好ましくは130〜140℃の範囲の温度で混合して製造してもよい。
【0015】
本発明改質硫黄の製造の際、改質剤と混合される元素状硫黄は、いかなる供給源から得られるものでもよい。通常、元素状硫黄は、原油、天然ガス又は鉱石の脱硫により、副生物として得られる。このような元素状硫黄は、通常、汚染物、例えばメルカプタンを、1kg当たり数mgから数gまでの範囲の濃度で含有してよい。
【0016】
改質硫黄の製造法で硫黄と混合されるオレフィン系硫黄改質剤の合計量は、硫黄の重量に対し0.1〜20重量%の範囲である。これより少量、即ち、0.1重量%未満では所望の改質効果、即ち、固体硫黄の同素体転位防止効果が得られない。オレフィン系硫黄改質剤がこれより多量、即ち、20重量%を超えると、機械特性が劣った不快な暗色の改質硫黄が生成する。しかも、こうして得られた改質硫黄は、別の溶融元素状硫黄にもはや溶解せず、したがって、改質硫黄濃厚物として使用できない。
【0017】
最も普通のオレフィン系改質剤、即ち、ジシクロペンタジエンの代りに、改質剤として5−エチリデン−2−ノルボルネン及び/又は5−ビニル−2−ノルボルネンを使用する利点は、加工が容易になることである。ジシクロペンタジエン二量体は、加工中、揮発性のモノマーに戻り、このため還流条件下で硫黄と反応させる必要がある。5−エチリデン−2−ノルボルネン又は5−ビニル−2−ノルボルネンと硫黄との反応は、その沸点温度未満の温度で行なうことができ、したがって、改質硫黄の製造は,改質剤の還流なしで行なうことができる。他の利点は、5−エチリデン−2−ノルボルネン及び5−ビニル−2−ノルボルネンの毒性がジシクロペンタジエンよりも低いことである。
【0018】
溶融硫黄と混合されるオレフィン系改質剤の80重量%以上は、5−エチリデン−2−ノルボルネン及び/又は5−ビニル−2−ノルボルネンであることが好ましく、更に好ましくは5−エチリデン−2−ノルボルネン及び/又は5−ビニル−2−ノルボルネン以外の他のオレフィン系改質剤は本発明改質硫黄の製造に使用しない。なお更に好ましくは、5−エチリデン−2−ノルボルネンが単独の改質剤として使用される。
【0019】
本発明の改質硫黄は、バインダーとして改質硫黄を含有する生成物に特に好適に使用される。このような硫黄結合生成物の例は、硫黄セメント−骨材複合体は、硫黄セメント、及び硫黄モルタル、硫黄コンクリート又は硫黄増量(extended)アスファルトのような硫黄セメント−骨材複合体である。
【0020】
硫黄セメントは、当該技術分野で公知で、一般に改質硫黄を、通常、50重量%以上と、充填剤とを含有する。通常の硫黄セメント充填剤は、平均粒度が0.1μm〜0.1mmの範囲の粒状無機材料である。このような硫黄セメント充填剤の例は、フライアッシュ、石灰、石英、酸化鉄、アルミナ、チタニア、グラファイト、石膏、タルク、マイカ又はそれらの組合わせである。硫黄セメント中の充填剤含有量は広範に変化できるが、セメントの全重量に対し、通常、5〜50重量%の範囲である。
【0021】
ここで硫黄セメント−骨材複合体とは、硫黄セメント及び骨材の両方を含む複合体を言う。硫黄セメント−骨材複合体の例は、硫黄モルタル、硫黄コンクリート及び硫黄増量アスファルトである。モルタルは、通常、平均粒径が0.1〜5mmの微細骨材、例えば砂を含有する。コンクリートは、通常、平均粒径が5〜40mmの粒子を有する粗骨材、例えば砂利又は岩石を含有する。硫黄増量アスファルトは、アスファルト、即ち、バインダーの一部を硫黄、通常、改質硫黄で置換した、充填剤及び残留炭化水素フラクションを含む、通常、バインダーを含有する骨材である。
【0022】
本発明の硫黄結合生成物は、本発明の改質硫黄を充填剤及び/又は骨材及び任意に更に元素状硫黄と混合して製造される。どのような成分をどのような量で混合するかは所望の生成物、及び改質硫黄中の改質剤−硫黄反応生成物の量に依存することは理解されよう。
【0023】
改質硫黄を製造する際のオレフィン系改質剤の使用量は、最終生成物、即ち、硫黄結合生成物中の硫黄重量に対し、5重量%を超えないことが好ましい。ここで硫黄結合生成物中の硫黄の重量とは、使用した硫黄の合計量、即ち、改質硫黄の製造において改質剤と混合された硫黄の量と、硫黄結合生成物の製造において任意に改質硫黄及び充填剤/骨材と混合された硫黄の量との合計を言う。
【0024】
オレフィン系改質剤を最終生成物中の硫黄量に対し5重量%未満で使用すると、アルカリ又は酸性条件に曝しても耐久性のある良好な機械特性を有する安定な生成物が得られることが見出された。オレフィン系改質剤を比較的少量で使用する利点は、固化に要する時間が短くなることである。オレフィン系改質剤の使用量は、硫黄結合生成物中の硫黄の全量に対し、好ましくは0.1〜4.0重量%、更に好ましくは0.1〜3.0重量%の範囲である。
【0025】
本発明の硫黄結合生成物を製造する際は、いわゆる改質硫黄濃厚物が使用される。即ち、この濃厚物は、硫黄結合生成物で所望される量よりも多量の改質剤で製造した改質硫黄である。この場合、硫黄結合生成物を製造する際、改質硫黄及び元素状硫黄は充填剤及び/又は骨材と混合される。改質硫黄濃厚物を原料とする利点は、改質硫黄を硫黄結合生成物の製造場所とは異なる所で製造した場合、輸送コストが限定されることである。
【0026】
硫黄と、硫黄の重量に対し、好ましくは5〜15重量%、更に好ましくは7〜12重量%のオレフィン系改質剤とを混合して製造した改質硫黄濃厚物が使用される。
或いは、得られる硫黄結合生成物中に存在する硫黄を全て既に含有する改質硫黄を使用してもよい。この場合、硫黄と、好ましくは0.1〜5.0重量%、更に好ましくは0.1〜4.0重量%、なお好ましくは0.1〜3.0重量%のオレフィン系改質剤とを混合して製造した改質硫黄が使用される。
【0027】
硫黄結合生成物の製造に使用される改質硫黄は、5−エチリデン−2−ノルボルネン及び/又は5−ビニル−2−ノルボルネン以外の他のオレフィン系改質剤で改質されていないことが好ましい。しかし、改質硫黄が5−エチリデン−2−ノルボルネン又は5−ビニル−2−ノルボルネンと他の改質剤との混合物で改質されている場合、他の改質剤の量は、硫黄結合生成物中の硫黄の全重量に対し1重量%以下が好ましい。
【0028】
本発明改質硫黄の製造に5−エチリデン−2−ノルボルネン又は5−ビニル−2−ノルボルネン以外の1種以上のオレフィン系改質剤を使用する場合、当該技術分野で公知のいずれのオレフィン系改質剤、例えばジシクロペンタジエン、シクロペンタジエン、スチレン、ジペンテン、ジシクロペンタジエンのオリゴマー、又はこれら2種以上の組合わせであってよい。
【実施例】
【0029】
本発明を以下の非限定的実施例により更に説明する。
【0030】
実施例1
非改質硫黄及び改質硫黄の耐アルカリ性を測定した。
改質硫黄の製造:
第一改質硫黄(サンプル1:本発明)を次のようにして製造した。ガラス管中で或る量の元素状硫黄を秤量した。ガラス管を135℃の油浴上に置いて硫黄を溶融した。或る量の5−エチリデン−2−ノルボルネン(硫黄の重量に対し5重量%)を添加し、この液体を3時間撹拌した。次いで管を油浴から取出し、液体を円筒モールドに注入し、室温で固化させた。
【0031】
第二改質硫黄(サンプル2:本発明)を次のようにして製造した。ガラス管中で或る量の元素状硫黄を秤量した。ガラス管を150℃の油浴上に置いて硫黄を溶融した。或る量の5−エチリデン−2−ノルボルネン(硫黄の重量に対し10重量%)を添加し、この液体を1時間撹拌した。次いで管を油浴から取出し、液体を円筒モールドに注入し、室温で固化させた。
【0032】
サンプル2を更に元素状硫黄と130℃で混合して、更に5−エチリデン−2−ノルボルネンをそれぞれ1.0重量%、2.5重量%、5.0重量%、7.5重量%含む改質硫黄(サンプル3〜5:いずれも本発明)を製造した。各混合物はこの温度で5分間撹拌した後、円筒モールドに注入し、室温で固化させた。
【0033】
元素状硫黄及び市販の硫黄改質剤STX(商標)(STARcrete Technologies Inc.から得られる)10重量%を、150℃に加熱した油浴上の管中で秤量して、更に改質硫黄(サンプル7:比較用)を製造した。混合物を10分間撹拌した。次いで管を油浴から取出し、液体を円筒モールドに注入し、室温で固化させた。
【0034】
元素状硫黄を入れた管を150℃に加熱した油浴上で撹拌しながら10分間置いて、元素状硫黄を溶融し、非改質硫黄(サンプル8:比較用)を製造した。次いで溶融硫黄を円筒モールドに注入し、この硫黄を室温で固化させた。
【0035】
耐アルカリ性:
以上のようにして製造した改質硫黄円筒体を5M NaOH水溶液中に入れ、改質硫黄の耐アルカリ性を測定した。これら円筒体について、5M NaOH水溶液中、15日後及び20日後の重量損失(サンプルの初期重量に対し重量%)を測定した。その結果を第1表に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例2
非改質硫黄及び改質硫黄で製造したモルタルの耐アルカリ性を測定した。
硫黄モルタルの製造:
乾燥砂(Normsand)50重量%、乾燥充填剤(石英)30重量%及び改質又は非改質硫黄20重量%を、均質混合物が得られるまで150℃で混合して、これら成分を含むモルタルを製造した。次いで混合物を、150℃に予備加熱した鋼モールドに注入した。硫黄の液滴がモールドの底部に見えるようになるまで、圧力(0.25〜0.5トン)を加えた。こうして成形したモルタル円筒体をモールドから外した。
【0038】
各々異なる硫黄を含む3種の異なるモルタルを製造した。
モルタル1:
非改質元素状硫黄(比較用)を使用。乾燥砂(50重量%)、乾燥石英(30重量%)及び元素状硫黄(20重量%)を混合した。
モルタル2:
STX(商標)改質剤11重量%で改質した硫黄(比較用)を使用。乾燥砂(50重量%)、乾燥石英(30重量%)、元素状硫黄(18重量%)及びSTX改質剤(2重量%)を混合した。
モルタル3:
5−エチリデン−2−ノルボルネン2.5重量%で改質した硫黄(本発明)を使用。乾燥砂(50重量%)、乾燥石英(30重量%)、元素状硫黄(15重量%)、及び5−エチリデン−2−ノルボルネン10重量%で製造した改質硫黄(5重量%)を混合した。5−エチリデン−2−ノルボルネン10重量%で製造した改質硫黄は、実施例1のサンプル2のようにして製造した。
【0039】
耐アルカリ性:
これらのモルタルを5M NaOH溶液中に30日間浸漬した。30日後、モルタル1はモルタル2より更に著しく崩壊し、モルタル2はモルタル3より更に著しく崩壊した。
歪制御型Zwick Z2100引張り試験機を用い、100kNの荷重セルでモルタル円筒体の圧縮強度を測定した。これら3種の異なるモルタルの圧縮強度を5M NaOHへの浸漬前及び浸漬後について第2表に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
実施例3
3種の異なる改質硫黄の同素体転位に対する安定性を広角X線分光分析法(WAXS)で比較した。改質硫黄は、元素状硫黄、及び硫黄の重量に対し5重量%の改質剤を140℃で1時間加熱して製造した。次いで混合物をアルミニウムモールドに注入し、室温で固化させた。混合物をモールドに注入してから30分後、得られたサンプルの結晶構造(1.5×1×1cm)を650時間に亘ってWAXSで分析した。改質剤は以下の量で硫黄に添加した。
【0042】
硫黄サンプル10: 5−エチリデン−2−ノルボルネン 5.0重量%(本発明)
硫黄サンプル11: STX 5.0重量%(比較用)
硫黄サンプル12: Chempruf改質剤 5.0重量%(比較用)
サンプル12は、硫黄、及び改質剤の濃度が全硫黄重量に対し5重量%となるような量の市販の改質剤コンクリート(Chempruf CONCENTRATE;GRC Inc.,Clarksville,TNから得られる)を加熱して製造した。Chempruf CONCENTRATEは、改質剤を25重量%、及び硫黄を75重量%含有する。
【0043】
X線回折の測定結果から、サンプル10中の硫黄は安定な一体式結晶を有することが判った。650時間後でもこの一体式結晶(β結晶度)は、斜方晶形(α結晶度)に転位しなかった。サンプル11及び12では一体式結晶から斜方晶形結晶への転位が観察された。
【0044】
モルタル1、2、3(実施例2参照)のバインダー骨材接着力を、Philips XL30 PEG−ESEMを高真空モードで用いて環境走査電子顕微鏡(ESEM)で測定した。ESEMでは、これらのモルタルは約1×1×1cmの小片になるまで手で破壊した。試験すべき小片の表面は、カーボン層で被覆した。
【0045】
ESEMの結果から、モルタル1(バインダーとして非改質硫黄を使用)では砂と硫黄との接着性は、バインダーとして改質硫黄を用いた2つのモルタルよりも劣ることが判った。またESEMの結果から、モルタル1中の非改質硫黄はモルタル2、3中の改質硫黄よりも更に脆いことも判った。モルタル1では硫黄相自体に明かなひび割れがあった。5−エチリデン−2−ノルボルネン 2.5重量%で改質した硫黄(モルタル3中)(硫黄相自体に実質的にひび割れ見られず)は、モルタル2中のSTX改質硫黄(硫黄相に若干のひび割れあり)より脆くなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融元素状硫黄を1種以上のオレフィン系硫黄改質剤と混合して製造した改質硫黄であって、オレフィン系硫黄改質剤の50重量%以上は5−エチリデン−2−ノルボルネン及び/又は5−ビニル−2−ノルボルネンであり、かつオレフィン系硫黄改質剤の合計量は、硫黄の重量に対し0.1〜20重量%の範囲である該改質硫黄。
【請求項2】
オレフィン系硫黄改質剤の80重量%以上が5−エチリデン−2−ノルボルネン及び/又は5−ビニル−2−ノルボルネンである請求項1に記載の改質硫黄。
【請求項3】
5−エチリデン−2−ノルボルネン又は5−ビニル−2−ノルボルネン以外のオレフィン系硫黄改質剤は、元素状硫黄と混合されない請求項1又は2に記載の改質硫黄。
【請求項4】
5−エチリデン−2−ノルボルネン以外のオレフィン系硫黄改質剤は、元素状硫黄と混合されない請求項3に記載の改質硫黄。
【請求項5】
オレフィン系硫黄改質剤の合計量が、硫黄の重量に対し5〜15重量%、好ましくは7〜12重量%の範囲である請求項1〜4のいずれか1項に記載の改質硫黄。
【請求項6】
オレフィン系硫黄改質剤の合計量が、硫黄の重量に対し0.1〜5重量%の範囲である請求項1〜4のいずれか1項に記載の改質硫黄。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の改質硫黄と、充填剤及び/又は骨材と、任意に元素状硫黄とを、硫黄の融点より高い温度で混合し、次いで該混合物を硫黄の融点より低い温度で冷却して得られた混合物を、固化することにより製造される、バインダーとして改質硫黄を含有する生成物。
【請求項8】
改質硫黄の製造時に混合されるオレフィン系硫黄改質剤の量が、生成物中の硫黄の合計重量に対し5重量%以下である請求項7に記載の生成物。
【請求項9】
生成物が硫黄セメント又は硫黄セメント−骨材複合体である請求項7又は8に記載の生成物。
【請求項10】
請求項5に記載の改質硫黄と、元素状硫黄と、充填剤及び/又は骨材とを混合して製造される請求項7〜9のいずれか1項に記載の生成物。
【請求項11】
請求項6に記載の改質硫黄と、充填剤及び/又は骨材とを混合して製造される請求項7〜9のいずれか1項に記載の生成物。
【請求項12】
改質硫黄の製造時に混合されるオレフィン系硫黄改質剤の量が、生成物中の硫黄の合計重量に対し0.1〜4重量%、好ましくは0.1〜3重量%の範囲である請求項7に記載の生成物。
【請求項13】
5−エチリデン−2−ノルボルネン又は5−ビニル−2−ノルボルネン以外のオレフィン系硫黄改質剤の量が、生成物中の硫黄の合計重量に対し1重量%以下である請求項7〜12のいずれか1項に記載の生成物。



【公表番号】特表2008−543709(P2008−543709A)
【公表日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−516311(P2008−516311)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【国際出願番号】PCT/EP2006/063220
【国際公開番号】WO2006/134130
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】