説明

改質硫黄およびその製造方法

【課題】硫黄の物性を改良し、強度、可塑性を自由に制御することができ、接着性、耐衝撃性、耐腐食性の優れた改質硫黄材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】硫黄に硫黄改質剤としてのポリスルファイドポリマーを添加し、120〜160℃で完全に相溶させることにより改質硫黄が得られる。また、硫黄に添加する硫黄改質剤の種類又は配合比率により得た改質硫黄に所要の強度、可塑性、耐衝撃性を制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄元素を改質して、強度、耐腐食性、耐磨耗性を維持したまま、柔軟性、可塑性を持たせ、プラスチック、アスファルト又はセメントの代用品として舗装材料、建築材料、コーティング材料、廃棄物封鎖材料などに使用し得る特性を有する改質硫黄およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫黄は、113℃を超えると溶融し、常温では硬い固体状を呈し、水や多くの有機溶媒に不溶で、反応性が乏しく、耐腐食性が高い性質を利用して、土木用、建設用等の資材の一つとしての利用が古くから試みられている。例えば、舗装材料(特許文献1)、建築材料用結合材(特許文献2)あるいは廃棄物封鎖用結合材(特許文献3)として使用が検討されている。このような硫黄の利用方法は、通常、溶融した硫黄を結合材として、充填材、凝集材その他の物質を固め、成型する形とする。例えば、舗装材料又は建築材料として利用する場合には砂や砕石の無機系資材の骨材に結合材としての硫黄の溶融物とを混練してから、所望形状の型枠に注ぎ込み、室温になるまで放置した後に脱型して製造されている。廃棄物封鎖用結合材として利用する場合には、溶融した硫黄液に廃棄物を投入し、型に注ぎ込み、冷却固化した後脱型することにより、廃棄物を硫黄に完全に包囲封鎖させる形とする。
【0003】
しかし、硫黄を建築材料、舗装材料または結合材として用いるのは物性上の多くの課題があり、特に表面と内部に空洞や亀裂の発生率が高く、外部から圧力を受けた場合に空洞や亀裂に沿って割れやすい。これは硫黄具有の物性に由来した現象である。純粋な硫黄は溶融の液体状態から冷却固化する場合、斜方晶系、単斜晶系、不定形硫黄の3種が混在し、冷却条件によりそれらの比率が変わると共に、経過時間により結晶系が変化し収縮していくため、空洞や亀裂が生じ易い。硫黄は固体状態が常温において最終的に最も安定な斜方晶系硫黄に転移していくが、通常の場合、結晶転移の過程で形成される斜方晶系結晶のサイズが大きく、収縮率が10%を超えるため、収縮時に生じた強い応力により結晶間に沿って亀裂を生じ、機械的強度を低下させたり、極端な場合は割れを生じる。また亀裂の存在が硫黄の遮水性を損ない、特に廃棄物封鎖用結合材として利用する場合には、表面の亀裂から水が染み込み、内部の廃棄物を溶解してしまうため、廃棄物の封鎖性が低下してしまった等の問題が生じる。
【0004】
従来、この硫黄の物性上の欠陥を改善する手法として、硫黄を不飽和炭化水素、主にシクロペンタジエンおよびその2量体であるジシクロペンタジエン又はその多量体の1種又は混合物である硫黄変性剤を溶融反応して変性硫黄を形成させることで、硫黄の結晶を抑え、柔軟性、可塑性をもたせる。特にジシクロペンタジエンは、安価で経済性に優れると共に、機械的強度等において良好な作用を有することが知られている。(特許文献4、特許文献5、特許文献6)
また、テトラハイドロインデン、ビニルトルエン、ジペンテン、その他オレフィンオリゴマーを変性剤として添加し硫黄の性状を改良して、舗装材、接着剤、シール材等に用いる例(特許文献7、特許文献8)も知られている。
【背景技術】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4290816号明細書
【特許文献2】特公昭55−49024号公報
【特許文献3】特公昭62−15274号公報
【特許文献4】特開昭53−112922号公報
【特許文献5】特公平2−28529号公報
【特許文献6】特開2003−277108公報
【特許文献7】特公平2−25929号公報
【特許文献8】特開2002−60491公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のジシクロペンタジエン又はテトラハイドロインデン、ビニルトルエン、ジペンテン等の硫黄変性剤と硫黄との反応は、一種の重合反応といわれている。この重合反応は、最初硫黄変性剤と硫黄とが反応し、その後、硫黄がラジカル連鎖反応により高分子化するような形で行う。従って、硫黄変性剤と硫黄との反応は、大きな発熱を伴って急激な温度上昇が生じ、且つ粘度の急上昇が生じるために反応が制御できず、急激に固化して成形できない状態になるという恐れがある。また、重合反応して得た変性硫黄は加熱重合変性反応時間が長くなるほど重合度が高くなり、それに伴って粘度が上昇する特性を有し、結合材として溶融状態で一定の粘度を維持しながら成型するのは困難である。他方、上記の硫黄変性剤はすべて石油系低分子の可燃性物質で、熱的に結合したり解離したりする性質を有し、揮発しやすく、引火性があり、保管設備、製造設備や製造工程に安全性の確保上の問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記の事情に鑑み鋭意研究した結果、硫黄にポリスルファイドポリマーを添加して相溶させることにより、変性硫黄と全く違うタイプの改質硫黄を作り出すことに成功した。本発明に使用される硫黄改質剤は高分子ポリマー物質で、常温安定性があり、揮発性と引火性がなく、製造工程には大きな発熱を伴って急激な温度上昇が生じる現象もなく、加熱反応時間の変動による改質硫黄粘度の変化もない。すなわち、従来の変性硫黄に比べ、この改質硫黄は強度、緻密度、耐衝撃性、柔軟性、可塑性等の物性が一層優れたうえ、変性硫黄に存した製造上の問題点をも解決することができる。
【0008】
本発明に使用する硫黄改質剤は主鎖にジスルファイド結合を持ち、末端がチオール基であるポリスルファイドポリマーである。
【0009】
本発明の改質硫黄は加熱で溶融した硫黄に上記の硫黄改質剤を添加し、硫黄改質剤を完全に溶解させるまで加熱しながら撹拌し続けることにより製造することができる。また、硫黄改質剤と硫黄とを加熱相溶させる際にその相溶を促進するために二酸化鉛、二酸化マンガン、過酸化カルシウム、過酸化亜鉛、過ホウ酸ナトリウム等の相溶促進剤を添加することにより、加熱相溶時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、硫黄にポリスルファイドポリマーとなる硫黄改質剤を添加し、加熱相溶させることにより形成された改質硫黄は溶融状態から冷却固化する際に硫黄中に溶解分散しているポリスルファイドポリマーが硫黄結晶の成長を妨害し、一部の硫黄がアモルファス化され、結晶の間に充満していることにより、硫黄の固化収縮率が減少し、緻密な結晶体を形成することができる。また、固化後結晶系が変化して収縮が起きる過程に形成した亀裂はポリスルファイドポリマーの存在によりその伸びが抑えられ、微小のままに止まることにより、改質硫黄はその強度、可塑性の向上がはかられるものである。固化成型した改質硫黄は外部衝撃を受ける際に既存の亀裂の拡大又は新しい亀裂の形成が硫黄中に分散しているポリスルファイドポリマーにより阻まれることにより、大きな亀裂ができにくい。また、ポリスルファイドポリマーの存在により、改質硫黄は内部のせん断力が高くなっただけではなく、接着性も高くなり、充填骨材や廃棄物と結合が強固となり、固化収縮、結晶転移の過程において、又は衝撃を受けて亀裂が発生しても、骨材や内容物から硫黄が剥離される現象がほとんど起きない。従って、本発明の改質硫黄は硬度が高く、一定の可塑性があり、耐衝撃性に優れ、機械的強度、遮水性が良好で、土木.建設資材としての要求性能を十分満たすことができる。また、硫黄改質材としてのポリスルファイドポリマーは高分子物質で、沸点が高く、揮発性と引火性がなく、常温では非常に安定な物質で、製造工程には大きな発熱を伴って急激な温度上昇が生じる現象もないため、改質硫黄の製造設備や製造工程に安全性の確保もしやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明は、硫黄と主鎖にジスルファイド結合を持ち、末端がチオール基(−SH基)であるポリスルファイドポリマーからなる硫黄改質剤とを特定条件で溶融混合し、完全に相溶してから冷却することにより得ることができる。
【0012】
本発明に用いる硫黄は、通常の硫黄単体であり、例えば、天然硫黄、石油又は天然ガスの脱硫によって生成した硫黄が挙げられる。硫黄を120℃以上、好ましくは140〜160℃において加熱溶融した溶融硫黄を使用する。
【0013】
本発明に用いる硫黄改質剤は、下記の構造式に示されている主鎖にジスルファイド結合を持ち、末端がチオール基であるポリスルファイドポリマーである。
HS−(R−S−S)−R−SH
〔RはCからC1224までの直鎖又は分岐鎖アルキル基又は次の構造式
2x−O−C2x
又は
2x−O−C2y−O−C2x
で示すエーテル基、x及びyは1から3、nは1から70である。〕
なお、上記のポリスルファイドポリマーの分子量は大体500〜20000である。
【0014】
本発明の硫黄改質剤としてのポリスルファイドポリマーのチオール基は硫黄と結合反応に関与し、硫黄との均一な相溶性を付与し、また、ポリスルファイド構造は硫黄の物性、特に結晶性、強度、可塑性、接着力等を向上させることにより、本発明の改質硫黄の優れた物性の発現に寄与していると考えられる。
なお、上記の硫黄改質剤は、作業の便利性及び安全性の観点から分子量が500から1万まで、融点が100℃以下で、分解温度が250℃以上を有するポリスルファイドポリマーであることが好ましい。
【0015】
本発明の硫黄改質剤としてのポリスルファイドポリマーは適当なジメルカプト化合物を重合反応により合成することにより得られる。例えば、1,2−ジメルカプトエタンを適当な触媒の存在下で重合させることにより、ポリエチレンスルファイドポリマーを合成することができる。
nHS−C−SH ―→ HS−(C−S−S)n−1−C−SH
〔nは10〜70である。〕
なお、この合成方法は有機化学上の公知手法である。
【0016】
また、本発明の硫黄改質剤としてのポリスルファイドポリマーは商業上入手することも可能である。例えば、日本国内では東レファインケミカル株式会社は「チオコールLP」の商品名で下記の構造式を有するポリスルファイドポリマーを販売している。
HS−(C−O−CH−O−C−S−S)−C−O−CH−O−C−SH
〔nは5〜50である。〕
本発明は主に東レファインケミカル株式会社の「チオコールLP」を硫黄改質剤として使用する。
【0017】
改質硫黄が溶融状態から冷却固化する際に起きる結晶系の変化は、主に硫黄と硫黄改質剤の種類および配合割合に関係する。硫黄改質剤の種類が改質硫黄に及ぼす影響としては、概してポリスルファイドポリマーの主鎖にS−Sと結合しているRが直鎖又は分岐鎖アルキル基で構成した場合にできた改質硫黄はその硬度、せん断力が高いが、柔軟性や接着力がやや劣る。Rがエーテル基で構成した場合にできた改質硫黄は、逆に柔軟性や接着力が高く、硬度やせん断力がやや劣る。また、硫黄改質剤の分子量が小さい場合に硫黄と相溶しやすいため、製造時間の短縮ができるが、できた改質硫黄のせん断力が低い。硫黄改質剤の分子量が高い場合にその逆である。
【0018】
また、硫黄改質剤の配合割合については、通常は硫黄改質剤の配合割合が増えるにつれ、得られた改質硫黄の結晶のサイズが小さくなり、また、アモルファス態硫黄も増える。硫黄100重量部に対して硫黄改質剤が0.5重量部以下では、強度、可塑性等の硫黄物性の改善効果がほとんどみられず、硫黄改質剤が30重量部を超えた場合には、得られた改質硫黄が冷却固化する際に硫黄結晶の形成が完全に抑えられ、すべてアモルファス態となり、ゴムのような柔軟性を呈する。なお、硫黄改質剤の配合割合が増えると、形成した改質硫黄の溶融粘度が高くなり,接着力も強くなるが,固化後の硬度,機械的強度が落ちる。通常の場合、硫黄100部に対する硫黄改質剤の配合割合は、0.5〜30部が好ましく、1〜15部がさらに好ましく、1〜10部が特に好ましい。
従って、硫黄に添加される硫黄改質剤の種類及び配合割合を適切に選択することにより、土木用、建設用等の資材として所要の硬度,機械的強度,可塑性、耐衝撃性、接着力、遮水性を満たす改質硫黄を得ることができる。
【0019】
また、硫黄と硫黄改質剤との相溶は加熱温度と時間に強く依存する。自然界によく存在している斜方晶系硫黄は112.8℃で溶融するが、加熱温度が120℃以下の場合には、硫黄と硫黄改質剤を完全に相溶させるまでに数十時間かかる。加熱温度が160℃を超えた場合には、溶融硫黄の粘度が急速に高くなり、硫黄改質剤との相溶速度が増えないのに撹拌が大変になり、作業効率が落ちる。また、加熱温度が硫黄改質剤の分解温度を超えた場合には、硫黄改質剤が分解され、硫黄の改質効果が得られない。したがって、改質硫黄の製造工程において、硫黄と硫黄改質剤を加熱相溶させる際の温度は、120〜160℃が好ましく、140〜160℃が特に好ましい。
【0020】
改質硫黄の製造工程において、分子量の高い硫黄改質剤を使う場合又は硫黄改質剤の配合割合が多い場合には、硫黄と硫黄改質剤両者を完全に相溶させるには時間がかかる。この場合には、硫黄と硫黄改質剤との相溶を促進するために相溶促進剤を添加して加熱相溶時間を短縮することができる。
二酸化鉛、二酸化マンガン、過酸化カルシウム、過酸化亜鉛、過ホウ酸ナトリウム等を相溶促進剤として使うことができる。これらの相溶促進剤は一種の酸化剤で、ポリスルファイドポリマーのチオール基(−SH基)を酸化させ、硫黄分子とSS結合を形成することにより、硫黄と硫黄改質剤両者の相溶化を促進する。また、ポリスルファイドポリマーの一部が相溶促進剤により、SS結合を通じて、より高分子化され、改質硫黄の物性を向上させることも考えられる。なお、相溶促進剤の添加量は硫黄改質剤100部に当たり2〜10部である。
【実施例】
【0021】
つぎに本発明を実施例に基づき更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、部とあるのは重量部を意味する。
【実施例1】
【0022】
150℃に溶融している硫黄99部に「チオコールLP33」(東レファインケミカル株式会社)1部を添加し、150℃に維持しながら5時間攪拌し、改質硫黄を形成させる。この改質硫黄は150℃での粘度が20ミリパスカル・秒である。なお、「チオコールLP33」の平均分子量は1000である。
【実施例2】
【0023】
150℃に溶融している硫黄95部に「チオコールLP33」(東レファインケミカル株式会社)5部を添加し、150℃に維持しながら8時間攪拌し、改質硫黄を形成させる。この改質硫黄は150℃での粘度が85ミリパスカル・秒である。
【実施例3】
【0024】
150℃に溶融している硫黄90部に「チオコールLP32」(東レファインケミカル株式会社)10部を添加し、150℃に維持しながら10時間攪拌し続け、改質硫黄を形成させる。この改質硫黄は150℃での粘度が540ミリパスカル・秒である。なお、「チオコールLP32」の平均分子量は4000である。
【実施例4】
【0025】
150℃に溶融している硫黄90部に「チオコールLP32」(東レファインケミカル株式会社)10部及び二酸化鉛1部を添加し、150℃に維持しながら6時間攪拌し、改質硫黄を形成させる。この改質硫黄は150℃での粘度が560ミリパスカル・秒である。
【比較例】
【0026】
硫黄を150℃に溶融し、その際の粘度が9ミリパスカル・秒である。
【0027】
上記実施例1〜4の改質硫黄および比較例の硫黄について、硫黄改質前後の物性変化の指標として圧縮硬度、耐衝撃強度、可撓性を測定した。
圧縮硬度試験とは実施例1〜4の改質硫黄および比較例の硫黄を150℃溶融状態でノズルから水の入った水槽(水温25℃)に滴下させ直径2mm〜3mmの球状硫黄粒子を作製し、固化後硫黄粒子を取り出して25℃室温に7日置き、硫黄の結晶系が完全に安定してから任意で20粒を選び出し、木屋式硬度計を使用して、球状硫黄粒子が割れるまで加えた圧力(kg)を測定したものである。
【0028】
耐衝撃強度試験とは実施例1〜4の改質硫黄および比較例の硫黄を溶融状態で金型に流し込み、直径35mm、厚さ3mmの硫黄円板試料をそれぞれ10枚作製し、固化後25℃室温に7日置き、硫黄の結晶系が完全に安定してから円板試料を水平のステンレス製の台に置き、20g重の鋼球を高さ1m又は2mから垂直に自由落下させ、円板試料が鋼球を当てられた後に割れるか否かを観察するものである。
【0029】
可撓性試験とは実施例1〜4の改質硫黄および比較例の硫黄を溶融状態で金型に流し込み、長さ200mm、幅20mm、厚さ3mmの板状試料をそれぞれ10枚作製し、固化後25℃室温に7日置き、硫黄の結晶系が完全に安定してからその板試料を水平状態で置き、片端を固定させ、もう一方の端にゆっくり重量を加え、板試料が折れるまで水平から端の曲がった距離を変位量として計測するものである。
【0030】
上記の圧縮硬度試験、耐衝撃強度試験、可撓性試験の結果を表1に示す。なお、表に示されている圧縮硬度、可撓性の変位量は測定結果の平均値である。
【表1】

【0031】
改質硫黄粒子の圧縮による崩壊に必要な圧力については、比較例が0.5kgに対して、実施例1が2.5kg、実施例2,3,4が3kgを超え、比較例より5〜7倍も高くなる。これは改質硫黄が亀裂の少ない緻密な結晶体を形成したことにより、圧縮硬度が顕著に向上したことを示す。
【0032】
また、耐衝撃強度については、鋼球の落下距離が1mの場合、比較例ではすべての試料が割れたのに対して、実施例1、2,3,4では試料が全く割れなかった。鋼球の落下距離が2mになっても、実施例1ではすべての試料が割れたが、実施例2,3,4では全く割れなかった。これは改質硫黄に溶解分散しているポリスルファイドポリマーが衝撃を受けた際に亀裂の形成と拡大を防いだことにより、その強度が高くなったことを示す。
【0033】
可撓性については、比較例では硫黄板試料が折れるまでの変位量がただの2mmしかないのに対して、改質硫黄は実施例1では5mmで、実施例2,3,4では優に10mmを超えた。なお、変位量は添加された硫黄改質剤の量が多いほど大きくなり、表1には示していないが、硫黄70部に硫黄改質剤30部を添加した改質硫黄はゴムのような柔軟性を有し、簡単に折れない。これは改質硫黄に溶解分散しているポリスルファイドポリマーが硫黄に可塑性、柔軟性を大きく付与していることを示唆した。
【0034】
本発明の改質硫黄は優れた強度、緻密度、耐衝撃性、柔軟性、可塑性、接着性、耐腐食性等の物性を有し、プラスチック、アスファルト又はセメントの代用品として道路舗装材、建築材料用結合材、接着剤、結合シール材、耐水シール材、コーティング材等広範な用途に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄とポリスルファイドポリマーからなる硫黄改質剤とを完全に相溶させることにより得られた改質硫黄。
【請求項2】
請求項1に記載されている硫黄改質剤は下記の構造式に示されている主鎖にジスルファイド結合を持ち、末端がチオール基であるポリスルファイドポリマーである。
HS−(R−S−S)−R−SH
〔RはCからC1224までの直鎖又は分岐鎖アルキル基又は次の構造式
2x−O−C2x
又は
2x−O−C2y−O−C2x
で示すエーテル基、x及びyは1から3、nは1から50である。〕
【請求項3】
0.5〜30重量部の請求項2に記載されている硫黄改質剤を、99.5〜70重量部の硫黄と加熱相溶させたことにより得られた請求項1に記載されている改質硫黄およびその製造方法。
【請求項4】
硫黄改質剤と硫黄の加熱相溶温度は120℃〜160℃の範囲である請求項3に記載されている改質硫黄の製造方法。
【請求項5】
硫黄改質剤と硫黄とを加熱相溶させる際にその相溶を促進するために相溶促進剤を添加することができる請求項3に記載されている改質硫黄の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載されている相溶促進剤は二酸化鉛、二酸化マンガン、過酸化カルシウム、過酸化亜鉛、過ホウ酸ナトリウムである。

【公開番号】特開2008−144122(P2008−144122A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−357111(P2006−357111)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(502201790)サンアグロ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】