説明

改質粉体の製造方法

【課題】ブリーディング発生が少なく、且つ耐久性の高い改質粉体及びその製造方法を提供する
【解決手段】下記(A)〜(B)工程を含むことを特徴とする改質粉体の製造方法。
(A)基材となる粉体をアルカリ溶液に接触させ、基材表面のpHを7〜10に調整する工程、
(B)(A)工程後、前記基材の水分含量を1〜7質量%とする工程、
(C)(B)工程後、前記基材表面をシリコーン化合物で被覆する工程。
前記製造方法において、(C)工程におけるシリコーン化合物の添加量が基材1重量部に対して1〜10重量部であることが好適である。
前記製造方法において、(C)工程が気相処理であることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は改質粉体の製造方法、特にその耐久性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粉体を扱う化粧品、医薬品、食品、塗料、充填剤等の分野において、粉体粒子上に化学的処理を施し、粉体へ所望する特性を付与する粉体表面の改質技術が広く利用されている。
特に、液体クロマトグラフィーをはじめとする物質の分離・分析に広く適用されるカラム充填剤として、基材であるシリカゲル粒子表面をシリル化剤で処理したオクタデシルシリル化シリカゲル、オクチルシリル化シリカゲル等の分離能の高い改質粉体が知られている。さらに、基材となるシリカゲルの性質上、耐アルカリ性が低いという前記改質粉体の問題点を克服するため、シリカゲル基材上にシリコーン化合物の薄膜を被覆させ、シリル化処理を行ったカラム充填剤が開発されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開昭63−113081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の製法をはじめとする従来の改質粉体には、使用に伴い粒子に被覆したシリコーンポリマーがブリーディング(溶出)を起こすという問題が残されていた。これは、基材上へのシリコーン化合物の被覆工程において、ポリマーの架橋が十分に進まなかったために、シリコーン化合物の薄膜が粒子上から剥離し易くなることによると考えられる。
本発明は上記問題点を鑑みて為されたものであり、ブリーディング発生が少なく、且つ耐久性の高い改質粉体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記目的を達成するために本発明者が鋭意検討した結果、粉体粒子表面へシリコーン化合物被覆処理を施す前に粉体粒子をアルカリ処理すれば、ポリマーが十分に架橋し、粒子上から剥離することのない改質粉体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の改質粉体の製造方法は、下記(A)〜(B)工程を含むことを特徴とする。
(A)基材となる粉体をアルカリ溶液に接触させ、粉体表面のpHを7〜10に調整する工程、
(B)(A)工程後、前記粉体の水分含量を1〜7質量%とする工程、
(C)(B)工程後、前記粉体表面をシリコーン化合物で被覆する工程。
【発明の効果】
【0005】
本発明の製造方法によれば、基材粒子上に被覆されたシリコーン化合物が十分に架橋構造を形成することができるため、使用によってポリマー薄膜が基材上から剥離することなく耐久性の高い改質粉体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明にかかる改質粉体の製造方法は、
(A)基材となる粉体をアルカリ溶液に接触させ、粉体表面のpHを8〜10に調整する工程、
(B)(A)工程後、前記粉体の水分含量を1〜7質量%とする工程、
(C)(B)工程後、前記粉体表面をシリコーン化合物で被覆する工程を含む。すなわち、改質される基材となる粉体の表面をアルカリ処理し、水分含量を調節した後、該処理粉体へシリコーン化合物を被覆することにより、粉体上のシリコーン化合物の架橋重合強度を向上せしめる。
以下、前記各工程について説明する。
【0007】
(A)工程
まず、基材となる粉体をアルカリ溶液に接触させる工程を行う。
本発明に用いる粉体としては、特に制限されるものではないが、例えば、金属酸化物、金属水酸化物、粘度鉱物粒子、ケイ酸塩鉱物、多孔質材料、有機顔料、無機顔料、雲母、パール光沢材料、金属、カーボン等が挙げられる。具体的には、例えば、酸化チタン、黒酸化チタン、コンジョウ、群青、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化クロム、水酸化クロム、カーボンブラック、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、マイカ、合成マイカ、合成セリサイト、セリサイト、タルク、カオリン、シリカゲル、炭化珪素、硫酸バリウム、ベントナイト、スメクタイト、窒化硼素、オキシ塩化ビスマス、雲母チタン、酸化鉄コーティング雲母、酸化鉄雲母チタン、有機顔料処理雲母チタン、アルミニウムパウダー、ナイロンパウダー、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル−メタクリル酸共重合体パウダー、塩化ビニリデン−メタクリル酸共重合体パウダー、ポリエチレンパウダー、ポリスチレンパウダー、オルガノポリシロキサンエラストマーパウダー、ポリメチルシルセスキオキサンパウダー、ウールパウダー、シルクパウダー、結晶セルロース、N−アシルリジン等の有機粉体類、有機タール系顔料、有機色素のレーキ顔料等の色素粉体類、微粒子酸化チタン被覆雲母チタン、微粒子酸化亜鉛被覆雲母チタン、硫酸バリウム被覆雲母チタン、酸化チタン含有二酸化珪素、酸化亜鉛含有二酸化珪素等の複合粉体等が挙げられ、これら粉体は1種類でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明にかかる改質粉体においては、特にシリカゲルを好適に使用することができる。また、粉体の形状については、例えば、板状、塊状、鱗片状、球状、多孔性球状等、どのような形状のものでも用いることができ、粒径についても特に制限されない。
【0008】
上記粉体を接触させるアルカリ溶液とは、溶媒中にアルカリ性物質を溶解した溶液を示す。ここで使用されるアルカリ性物質に制限はないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア等が挙げられ、本発明においては特に水酸化ナトリウムを好適に使用することができる。また、溶媒は水が好適であるが、アルコール等の水溶性有機溶媒を単独ないし水と混合して用いることも可能であり、溶媒中のアルカリ性物質の濃度は1〜10%に調整することが好ましい。
【0009】
粉体を前記アルカリ溶液と接触させる方法としては、粉体の表面pHをアルカリ性に調整できるものであれば特に制限はない。本発明においては特に、粉体1重量部に対して10〜20重量部の水へ粉体を分散させ、該分散液へアルカリ溶液を15分〜1時間かけて徐々に滴下することにより、分散液のpHを特定の値に調整することが好ましい。分散液のpHを所望の値に調整すれば、液中に分散された粉体の表面pHも分散液と同様の値で安定する。粉体表面のpH値は、上記アルカリ処理により最終的に7〜10とすることが好適である。pHが7より低いと、粉体に被覆するシリコーン化合物の架橋が十分に進まず、ポリマーにブリーディングが起こりやすくなるため好ましくない。また、pHが10を超えると、粉体によっては溶解や変質等を起こす場合があるため好ましくない。
【0010】
(B)工程
上記(A)工程により粉体表面のpH値を調整した後、粉体の分散液を適宜濾過及び乾燥することでアルカリ処理粉体を得ることができる。なお、分散液を濾過した後に処理粉体を水等で洗浄し、表面に附着した余分な塩を除去しても構わないが、ここでの洗浄の有無によってその後のシリコーン化合物の重合度には影響がないため、特に洗浄を行う必要はない。
分散液の濾過及び処理粉体の乾燥は、従来行われている方法で行うことができるが、粉体は完全に乾燥させず、1〜7質量%の水分を残した状態を保持することが好ましい。ここで粉体に少量の水分を含有させておくことにより、続く粉体へのシリコーン化合物被覆工程において、シリコーン化合物の架橋重合時に消費され、反応がより促進される。
【0011】
(C)工程
続いて、上記で得たアルカリ処理粉体の表面をシリコーン化合物で被覆する。
本発明で使用し得るシリコーン化合物としては、Si−H基を有するものが好ましい。これはシリコーン化合物上のSi−H基同士を架橋させ、粉体表面に網目構造を形成させた方が脱離し難いからである。このようなシリコーン化合物としては、特に下記一般式(I)、
(RHSiO)(RSiO)(RSiO1/2 (I)
(式中、R、R及びRは互いに独立に水素原子であるかまたは少なくとも1個のハロゲン原子で置換可能な炭素数1〜10の炭化水素基であり(但し、R、R及びRが同時に水素原子であることはない);R、R及びRは互いに独立に水素原子であるかまたは少なくとも1個のハロゲン原子で置換可能な炭素数1〜10の炭化水素基であり;aは1以上の整数であり、bは0または1以上の整数であり、cは0または2であり(但し、3≦a+b+c≦10000である);そしてこの化合物はSi−H基部分を少なくとも1個含むものとする)で表されるシリコーン化合物が好適に用いられる。
ここでc=0の場合は、下記の一般式(II)、
(RHSiO)(RSiO) (II)
(式中、R、R、R、a、bは上記に定義した通り。但し、好ましくはR、RおよびRが互いに独立に少なくとも1個のハロゲン原子(特にフッ素原子)で置換可能な炭素数1〜4の低級アルキル基またはアリール基(例えばフェニル基)であり;a+bが3以上であり、好ましくは10〜1000、特には20〜500である)で表される環状シリコーン化合物である。好ましくは1分子中に水素原子が2個以上存在するものが望ましい。
また、c=2の場合は、下記の一般式(III)、
(RHSiO)(RSiO)(RSiO1/2 (III)
(式中、R〜R、a、bは上記に定義した通り。但し、好ましくはR〜Rが互いに独立に少なくとも1個のハロゲン原子(特にフッ素原子)で置換可能な炭素数1〜4の低級アルキル基またはアリール基(例えばフェニル基)であり;a+bが10〜1000、特には20〜50である)で表される鎖状シリコーン化合物である。
一般式(III)の具体例としては、メチルハイドロジェンポリシロキサン等を挙げることができる。
【0012】
前記シリコーン化合物は、従来行われている被覆方法、すなわち気相処理または液相処理等により、アルカリ処理粉体へ被覆させることができる。
気相状態での接触(気相処理)とは、例えば密閉容器を用い、120℃以下好ましくは100℃以下の温度下で、200mmHg以下好ましくは100mmHg以下の圧力下において、前記シリコーン化合物の蒸気を分子状態で粉体表面上に接触させる方法、120℃以下好ましくは100℃以下の温度下で前記シリコーン化合物とキャリヤーガスとの混同ガスを粉体と接触させる方法等により行うことができる。
一方、液相状態での接触(液相処理)は、例えば前記シリコーン化合物をベンゼン、ジクロロメタン、またはクロロホルム等の揮発性有機溶媒に溶解し、ここへアルカリ処理粉体を分散させる。この分散液を加熱し、溶媒を揮発させればシリコーン化合物被覆粉体を得ることができる。
本発明においては、特に気相処理によってシリコーン化合物を粉体へ被覆することが好適である。
粉体に接触させるシリコーン化合物の量は、粉体1重量部に対して0.1〜10重量部が好適である。シリコーン化合物の添加量が粉体に対して0.1重量部に満たないと、シリコーンポリマーが粉体へ均一に被覆されないことがあり好ましくない。また、10重量部を超えてシリコーン化合物を添加しても、シリコーン化合物が粉体の活性点を完全に被覆してしまうためシリコーンの架橋重合は一定以上進まなくなる。
【0013】
粉体表面上において、シリコーン化合物の架橋重合は、シリコーン化合物が有する反応性の高いSi−H基による。すなわち、シリコーン化合物のSi−H基は、粉体表面上の活性点と反応を起こして互いに架橋重合し、シリコーン化合物の炭化水素基が粉体表面に配向するとともに、網状構造のシリコーンポリマー薄膜を形成する。ここで、「活性点」とは、シロキサン結合(−Si−O−Si−)または−Si−H(ヒドロシリル)基をもつシリコーン化合物の重合を触媒することのできる部位であり、例えば酸点、塩基点、酸化点、又は還元点を意味する。表面重合は、粉体表面の活性点がシリコーンポリマー薄膜で覆われてしまうまで行われる。
【0014】
シリコーン化合物のSi−H基は粉体上で次のように架橋重合する。
まず、シリコーン化合物のSi−H基はアルカリの触媒作用により加水分解されて、水素とSi−OH基となる。このようにして生じたシリコーン化合物のSi−OH基同士は、さらにアルカリに触媒されてランダムに脱水縮合を為し、粉体表面に網状構造のシリコーンポリマー薄膜を形成する。すなわち、(A)工程において施したアルカリ処理により前記重合及び架橋反応は触媒され、(B)工程において粉体に残存させた水分によって該反応が進行する。
また、例えばシリカゲルのようなSi−OH基を有する粉体を適用すれば、前記シリコーンポリマー末端のSi−OH基と縮合反応によりシロキサン結合を形成し、ポリマー薄膜と粉体がアンカーされる。これにより、シリコーンポリマー薄膜が粉体から剥離しにくい、より強固な改質粉体を得ることができる。
シリコーン化合物と接触させた粉体は、50〜200℃下に2時間以上放置あるいは攪拌して乾燥させることが好ましい。この処理により、粉体表面上においてSi−OH基同士の脱水縮合が促進され、架橋の多い強固なシリコーンポリマー被覆粉体を得ることができる。
【0015】
また、この工程により得られたシリコーンポリマー被覆粉体表面には、そこに形成された網状の立体構造上、上記反応後もシリコーンポリマーに未反応のSi−H基が残存する。この未反応基にSi−H反応性化合物を反応させ、該反応性化合物から誘導されるペンダント基をシリコーンポリマー薄膜上に導入することができる。ペンダント基とは、前記反応性化合物の残基であって、その化合物の付加反応によってシリコーンポリマー薄膜上に導入される基を意味する。すなわち、適当なSi−H反応性化合物を選択し、そのペンダント基で粉体を修飾することにより、粉体そのものに様々な機能を付与することができる。
【0016】
例えば、シリコーン化合物中のSi−H基にビニル化合物を反応させ、ペンダント基としてアルキル基を導入すれば、粉体に優れた疎水性を付与することができる。また、導入するアルキル基の長さを変えることで、疎水性の高さを調節することも可能である。他にも前記ペンダント基として、シアノ基、アミノ基、スルホン基等を導入し、機能性の高い改質粉体を得ることが可能である。また、例えばオクタデシル基導入後に、さらに残存したSi−H基へヘキサメチルジシラザン(HMDS)を反応させ、トリメチルシリル基を結合することもできる。
【0017】
なお、前記ペンダント基を導入するためのSi−H基の量は、前処理によってアルカリ性とした本発明の系を、酸の添加によって中和することで調節可能である。上記の通り、Si−H基の架橋重合はアルカリにより触媒されるが、これを酸性方向へ傾けると逆に反応が抑制される。したがって、シリコーンポリマーに導入するペンダント基の付加密度を上げ、粉体に付与する機能性を高めたい場合は、本発明の効果を損なわない程度であれば、系にリン酸等の酸を添加して酸性側に傾け、Si−H基を架橋重合させずにそのまま残存させることができる。あまりに多量のSi−H基を架橋重合させずに残すことは、シリコーンポリマーの強度を下げることになり、本発明の効果を損ねるため好ましくない。
【0018】
上記により様々な特性が付与された本発明の改質粉体は、化粧品、充填剤、塗料、医薬品等の粉体を用いる分野において適宜製造し使用することができる。特に本発明の製造方法による改質粉体は、使用に伴うブリーディングが少ないという点から、カラム充填剤への適用が好適である。また、本発明による改質粉体は、シリコーン化合物被覆過程でのSi−H基の架橋重合度が高いため、残存するSi−H基の量が少ない。そのため、従来よりも保持力の小さな充填剤を得ることができる。
以下、本発明を実施例についてさらに詳しく説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
アルカリ処理を行ったシリカゲルにシリコーンポリマーを被覆した試料についてSi−H基量及び炭素量の分析を行った。結果は表1の通りであった。
<試料の作成>
シリカゲル3.0gを30mlの水へ分散させ、攪拌しながら10%水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、シリカゲルの表面pHを7〜10に調整した。
pHを調整したシリカゲルは15分の攪拌後濾過し、105℃で3時間乾燥して水分含量を5%とした。乾燥したシリカゲル2.7gをろ紙に取り、メチルハイドロジェンポリシロキサン0.324gが入ったビーカーと共にデシケーターへ入れた。続いて、前記デシケーター内を窒素ガスで十分置換し、100℃で18時間放置した。その後、デシケーター内から粉体をろ紙ごと取り出し、120℃下で4時間乾燥させ、改質粉体を得た。
なお、比較例については、10%水酸化ナトリウム水溶液の滴下を行わず、シリカゲルの表面pHを6.5とした以外は他の試料と同様の処理を施した。
【0020】
<Si−H基量の測定>
作成した改質粉体のSi−H基量の測定は図1に示すガスビュレット法による。すなわち、三口フラスコ中に試料0.1gを分散させたエタノールを密封し、撹拌下にて水酸化ナトリウム水溶液を前記分散液へ滴下した。試料中のシリコーンポリマーに残存したSi−H基は水酸化ナトリウムと反応して水素を生ずる。発生したし水素ガスは、フラスコと接続しているビュレットに捕集され、水素ガスによりビュレットから圧出された水の量から水素量を測定し、水素ガス量よりSi−H基量を算出した。結果を表1に示す。
<炭素量の測定>
元素分析装置(パーキンエルマー社元素分析装置2400シリーズII CHNS/O)を用いて、作成した改質粉体の炭素含有量(C%)を測定した。結果を表1に示す。ここで測定される炭素はシリカゲルに被覆したメチルハイドロジェンポリシロキサンのメチル基に由来し、炭素含有量が高いほどシリコーンの被覆が厚いことを示す。表中の重量モル濃度は、炭素含有量より求めたシリカゲル1gあたりのメチルハイドロジェンポリシロキサンのモル数を示す。
【0021】
(表1)
試験例1 試験例2 試験例3 試験例4 比較例
シリカゲル表面pH 7 8 9 10 6.5
Si−H基量(mmol/g) 1.34 1.31 1.08 0.68 1.16
炭素含有量(C%) 1.75 2.03 2.29 2.70 1.39
重量モル濃度(mmol/g) 1.46 1.69 1.91 2.25 1.16
Si−H基含有率(%) 91.8 77.5 56.5 30.2 100.0
【0022】
表1に示すとおり、アルカリ処理を施さなかった比較例においては、Si−H基はほとんど消費されず、シリコーン化合物の重合や架橋反応はあまり進まなかった。すなわち、比較例の試料においては、粉体上に被覆したシリコーン化合物が互いに重合及び架橋して網状構造の薄膜を形成していないと考えられる。
一方、アルカリ処理を行った試験例1〜4においては、シリカゲル表面pHの増加に伴い、Si−H基の含有率は減少することが認められた。対して、炭素含有量はシリカゲル表面がアルカリ性になるにしたがい増加した。このことから、シリコーンポリマーの被覆前にシリカゲルをアルカリ処理することによって、シリコーンポリマー被覆時のSi−H基の架橋が著しく促進され、シリカゲルを覆うシリコーンポリマーの被覆量(膜厚)が増大していると推測された。
【0023】
続いて、上記の方法で作成した試料について、29Si−固体高分解能核磁気共鳴(固体NMR)を用いて、各試料の構造解析を行った。すなわち、ケイ素に結合した酸素原子の数による検出ピークの違いから、その構造を識別した。結果を図2に示す。
なお、図中T1〜T3はシリコーンポリマーに由来するピークであり、Q3及びQ4はシリカゲル由来ピークを示す。
【0024】
図2によれば、アルカリ処理を行わなかった比較例に比べ、アルカリ処理によりシリカゲル表面pHが上昇するにしたがって、シリコーン化合物のSi−H基を示すピークは小さくなり、シリコーン化合物同士の架橋を示すピーク(T2及びT3)が増大した。
また、シリカゲルのシラノール基(Q3)のピークとシリコーンポリマーの末端Si−H基を示すピークもシリカゲル表面のアルカリ性が強くなるほど減少し、シリカゲル表面pHが8になるとピークはほぼ消滅した。これはシリコーン化合物の末端にあるシラノール基がシリコーン化合物と架橋し、強固な皮膜を形成することを示している。
以上のことから、シリコーンポリマーの被覆前にシリカゲルの表面へアルカリ処理を施すことにより、シリコーンポリマーの有するSi−H基の架橋が促進されることが認められた。また、シリコーンポリマー同士の架橋だけではなく、シリコーンポリマーのSi−H基とシリカゲルのシラノール基との重合も促進され、シリコーンポリマーの被覆がより安定することが確認された。上記より、本発明にかかる改質粉体の製造方法においては、シリコーンポリマーの被覆前に、基材表面をpH7〜10に調整することが好適であることが認められた。
【実施例2】
【0025】
基材へアルカリ処理を施した後に被覆するシリコーンポリマーの好適な添加量を検討した。
試料の作成は実施例1の方法に準じて行った。但し、シリカゲル表面pHは全ての試験例で10とし、メチルハイドロジェンポリシロキサンの添加量は試験例ごとにそれぞれ0.5倍、1倍、5倍とした。作成した試料は、実施例1と同様に29Si−固体高分解能核磁気共鳴(固体NMR)を用いて、各試料の構造解析を行った。結果を図3に示す。
【0026】
図3によれば、メチルハイドロジェンポリシロキサンの添加量が0.5倍の試験例5と1倍の試験例6とを比較すると、シリコーンポリマーの添加量が増える程シリカゲルのシラノール基(Q3)が減少し、架橋を示すピーク(T3)が増大している。このことから、シリコーンポリマー量の増加に伴い、シリカゲルとシリコーンポリマー間の架橋が促進されていることが認められた。
また、試験例6とメチルハイドロジェンポリシロキサンの添加量が5倍である試験例7とを比較すると、シリコーンポリマーの増加に伴ってSi−H基を示すピークが増大する一方で、架橋を示すピーク(T3)の増加率にはあまり変化が認められなかった。
以上のことから、アルカリ処理を施した基材へ添加するシリコーンポリマー量は、基材1重量部に対して1〜5重量部が好適である。
【実施例3】
【0027】
シリコーン化合物の架橋を促進するため、アルカリ処理後の粉体の好適な水分含量を検討した。
本発明の改質粉体について、シリコーンポリマーの架橋促進が基材のアルカリ処理に起因するものであることを示すため、次のような試験を行った。
試料は実施例1の方法に準じて作成した。但し、シリカゲルの表面pHは10とし、pHを調整したシリカゲルは濾過後に105℃下にて水分含有量がそれぞれ0.1、1、7、20質量%となるように乾燥を行った。作成した試料は、実施例1と同様にSi−H基量及び炭素含有量を測定し、重量モル濃度としてシリカゲル1gあたりのメチルハイドロジェンポリシロキサンのモル数を求めた。結果を表2に示す。
【0028】
(表2)
試験例8 試験例9 試験例10 試験例11
水分含有量(質量%) 0.1 1 7 10
Si−H基量(mmol/g) 1.38 0.68 0.72 0.95
炭素含有量(C%) 2.10 2.25 2.18 2.33
重量モル濃度(mmol/g) 1.75 1.88 1.82 1.94
Si−H基含有率(%) 78.9 36.2 39.6 49.0
【0029】
表2によれば、ほぼ完全に粉体を乾燥させた試験8においては、他の試験例に比してシリコーン化合物の重合が進まず、Si−H基の残存が多かった。一方、水分を残存させた試験例9及び10の粉体においてはシリコーン化合物の重合が著しく進み、シリコーンポリマーが網状構造を形成し、また粉体とシリコーンポリマーの結合が認められた。しかしながら、さらに水分含有量の多い試験例11においては、さほどのSi−H基の重合促進は認められなかった。
以上より、本発明におけるSi−H基の重合は、粉体のアルカリ処理に加え、粉体に特定量の水分を含有させることによりさらに促進されることが認められた。また、粉体のアルカリ処理後の水分含有量は1〜7質量%が好適であることが分かった。
【実施例4】
【0030】
以下に本発明の改質粉体の製造例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
(製造例)
シリカゲル5.0gを50mlの水へ分散させ、攪拌しながら10%水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、シリカゲルの表面pHを10に調整した。
pHを調整したシリカゲルは15分の攪拌後濾過し、105℃で3時間乾燥して水分含量を4%とした。乾燥したシリカゲル5gをろ紙に取り、メチルハイドロジェンポリシロキサン0.60gが入ったビーカーと共にデシケーターへ入れた。続いて、前記デシケーター内を窒素ガスで十分置換し、100℃で18時間放置した。その後、デシケーター内から粉体をろ紙ごと取り出し、120℃下で4時間乾燥させ、改質粉体を得た。
この4.0gを100mL三口フラスコにとり、1−オクタデセン40mLを加え、白金触媒を加えた後、120℃で6時間反応させた。反応後、1−オクタデセンをろ過し、クロロホルム200mL、メタノール200mLで洗浄し、80℃で2時間乾燥させた。
乾燥後、3.0gをろ紙に取り、25%アンモニア水10mL及び水90mLが入ったデシケーターへ入れた。続いて、前記デシケーター内を窒素ガスで十分置換し、60℃で16時間放置した。放置後、粉体を取り出し、メタノール200mL、クロロホルム200mL、メタノール200mLで洗浄し、100℃で16時間乾燥させた。さらに、この粉体2.0gをステンレス製の容器に入れ、120℃で4時間減圧乾燥した後、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)0.48gを加え、容器内を窒素で置換した蓋をし、240℃で16時間反応させた。反応後、容器から粉体を取り出し、クロロホルム200mL、メタノール200mLで洗浄し、100℃で16時間乾燥し、本発明の粉体を得た。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1のガスビュレット法を示した図である。
【図2】実施例1の試料に関する29Si−固体高分解能核磁気共鳴のスペクトルを示した図である。
【図3】実施例2の試料に関する29Si−固体高分解能核磁気共鳴のスペクトルを示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(B)工程を含むことを特徴とする改質粉体の製造方法。
(A)基材となる粉体をアルカリ溶液に接触させ、粉体表面のpHを7〜10に調整する工程、
(B)(A)工程後、前記粉体の水分含量を1〜7質量%とする工程、
(C)(B)工程後、前記粉体表面をシリコーン化合物で被覆する工程。
【請求項2】
請求項1に記載の改質粉体の製造方法において、(C)工程におけるシリコーン化合物の添加量が基材1重量部に対して1〜10重量部であることを特徴とする改質粉体の製造方法。
【請求項3】
請求項1及び2に記載の改質粉体の製造方法において、(C)工程が気相処理であることを特徴とする改質粉体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−239703(P2008−239703A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79544(P2007−79544)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】