説明

改質繊維

【課題】簡易な加工作業により十分な耐毛羽立ち、耐ピリングという改質効果が均一に得られ、この改質効果に永続性がある改質繊維を提供する
【解決手段】蛋白質繊維、セルロース繊維、またはポリビニルアルコール繊維のための改質処理剤であって、二以上の活性ビニル基を有するビニルスルホン化合物を含む。これらの繊維と繊維改質処理剤の溶液とを混合処理して、当該繊維の高分子の少なくとも一部を架橋することで改質繊維が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木綿等のセルロース繊維、絹、羊毛等の蛋白質繊維、或いはポリビニルアルコール繊維を改質する繊維改質処理剤、その処理剤を使用する繊維改質加工方法、並びにその改質加工方法により改質された繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主として衣類に使用される木綿等の繊維は、摩擦や屈伸の繰返しにより、繊維の表面が裂開いて、いわゆる毛羽立ちやピリングが発生し、繊維製品として品質の低下や、製品寿命が短くなる事態を招来する。これを防止するため、例えば特許文献1に示すように架橋剤により繊維の高分子を架橋する加工方法が採用されている。架橋剤としては、N−メチロール化合物、アルデヒド類、ポリカルボン酸、イミダゾリドン類、スルホン化合物などが使用されている。
【0003】
一方、銀塩写真のフィルムは、基材上の銀塩感光乳剤を固めるため、ゼラチンに硬膜剤を作用させて硬化している。硬膜剤として特許文献2には、2つの活性ビニル基を有するスルホン化合物であるN,N’-methylenebis[2-(vinylsulfonyl)acetamide]
(CH=CH・SOCHCONH)CHを挙げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−070930号公報
【特許文献2】特開昭60−80838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示す繊維加工方法によると、加工時に触媒を必要とするなどの手間がかかるうえ、触媒の分布に不均一となりやすく、その結果、改質にムラが生じ、均一に改質された繊維が得られ難い。本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、簡易な加工作業により十分な耐毛羽立ち、耐ピリングという改質効果が均一に得られ、この改質効果に永続性がある改質繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載の繊維改質処理剤は、蛋白質繊維、セルロース繊維、またはポリビニルアルコール繊維の改質処理剤であって、二以上の活性ビニル基を有するビニルスルホン化合物を含むことを特徴とする。
【0007】
同じく請求項2に記載の繊維改質処理剤は、請求項1の処理剤であって、前記二以上の活性ビニル基を有するビニルスルホン化合物が、両末端にビニル基を有するスルホン酸アセトアミド化合物であることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の繊維改質処理剤は、請求項2の処理剤であって、前記両末端にビニル基を有するスルホン酸アセトアミド化合物が、N,N’−アルキレンビス[2-(ビニルスルフォニル)アセトアミド]であることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の繊維改質処理剤は、請求項3の処理剤であって、前記N,N’−アルキレンビス[2-(ビニルスルフォニル)アセトアミド]が、
CH=CHSOCHCONHC2nNHCOCHSOCH=CH
(−C2n−は非分岐または分岐のアルキレンであってnが1〜12の自然数)であることを特徴とする。
【0010】
また、前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項5に記載の繊維改質加工方法は、蛋白質繊維、セルロース繊維、またはポリビニルアルコール繊維を、請求項1から4のいずれかに記載の繊維改質処理剤の溶液に混合処理して、当該繊維の高分子の少なくとも一部を架橋することを特徴とする。
【0011】
さらに前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項6に記載の改質繊維は、蛋白質繊維、セルロース繊維、またはポリビニルアルコール繊維が、請求項1から4のいずれかに記載の繊維改質処理剤で処理されて、当該繊維の高分子の少なくとも一部が架橋されていることを特徴とする。
【0012】
同じく請求項7に記載の改質繊維は、請求項6の改質繊維であって、前記蛋白質繊維が、羊毛、モヘア、アンゴラ、アルパカ、カシミア、獣毛、羽毛及びシルクから選ばれる繊維であることを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の改質繊維は、請求項6の改質繊維であって、前記セルロース繊維が、木綿、麻、ビスコースレーヨン、キュプラレーヨン、リヨセル及び酢酸セルロースから選ばれる繊維であることを特徴とする。
【0014】
請求項9に記載の改質繊維は、請求項6の改質繊維であって、前記ポリビニルアルコール繊維が、部分ホルマール化ポリビニルアルコール繊維または未ホルマール化ポリビニルアルコール繊維であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明による改質繊維は、繊維の高分子の一部が均一な分布で架橋されるため適度に保護され、素材繊維の特性、例えば吸水性や感触等を変えることなく、毛羽立ち、ピリングの防止等の改質がムラなくなされる。この改質効果は、洗濯による劣化や使用による経時劣化がなく永続性がある。そのため、この改質繊維による衣類等は、新しさを長期間保ったまま使用出来る。
【0016】
また本発明による繊維改質加工方法は、素材繊維を、繊維改質処理剤の室温溶液に混合するという簡易な処理で改質繊維が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】改質繊維のダメージ処理50回後における電子顕微鏡による図面代用写真。
【図2】未改質繊維のダメージ処理50回後における電子顕微鏡による図面代用写真。
【図3】改質繊維のダメージ処理100回後における電子顕微鏡による図面代用写真。
【図4】未改質繊維のダメージ処理100回後における電子顕微鏡による図面代用写真。
【図5】改質繊維のダメージ処理50回後における電子顕微鏡による図面代用写真。
【図6】未改質繊維のダメージ処理50回後における電子顕微鏡による図面代用写真。
【図7】改質繊維のダメージ処理100回後における電子顕微鏡による図面代用写真。
【図8】未改質繊維のダメージ処理100回後における電子顕微鏡による図面代用写真。
【図9】改質繊維のダメージ処理50回後における電子顕微鏡による図面代用写真。
【図10】改質繊維のダメージ処理100回後における電子顕微鏡による図面代用写真。
【図11】改質繊維のダメージ処理50回後における電子顕微鏡による図面代用写真。
【図12】改質繊維のダメージ処理100回後における電子顕微鏡による図面代用写真。
【図13】改質繊維のダメージ処理100回後における電子顕微鏡による図面代用写真。
【図14】改質繊維のダメージ処理100回後における電子顕微鏡による図面代用写真。
【図15】改質繊維のダメージ処理100回後における電子顕微鏡による図面代用写真。
【図16】改質繊維のダメージ処理100回後における電子顕微鏡による図面代用写真。
【図17】改質繊維のダメージ処理100回後における電子顕微鏡による図面代用写真。
【図18】改質繊維のダメージ処理100回後における電子顕微鏡による図面代用写真。
【図19】未改質繊維のダメージ処理100回後における電子顕微鏡による図面代用写真。
【図20】未改質繊維のダメージ処理100回後における電子顕微鏡による図面代用写真。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための好ましい形態を以下に説明する。
改質すべき繊維を繊維改質処理剤の溶液に混合することで、繊維の高分子にあるアミド基、水酸基に、繊維改質処理剤の活性ビニル基が反応して高分子間で架橋されネットワークを形成する。このネットワークにより改質繊維は表面が保護された状態となっている。
【0019】
改質すべき繊維の素材は、繊維の高分子に繊維改質処理剤と反応しうるアミド基、水酸基を有する蛋白質繊維、セルロース繊維、またはポリビニルアルコール繊維である。蛋白質繊維としては、羊毛、モヘア、アンゴラ、アルパカ、カシミア、獣毛、シルクが挙げられる。セルロース繊維としては、木綿、麻、ビスコースレーヨン、キュプラレーヨン、リヨセル、酢酸セルロースなど、天然繊維、再生繊維、半合成繊維が挙げられる。ポリビニルアルコール繊維としては、部分ホルマール化ポリビニルアルコール繊維または未ホルマール化ポリビニルアルコール繊維がある。
【0020】
繊維改質処理剤である二以上の活性ビニル基を有するビニルスルホン化合物には、両末端にビニル基を有するスルホン酸アセトアミド化合物がある。具体的には
N,N’−アルキレンビス[2-(ビニルスルフォニル)アセトアミド]
N,N’-alkylenebis[2-(vinylsulfonyl)acetamide]
CH=CHSOCHCONHC2nNHCOCHSOCH=CHが好ましい。なかでもアルキレンの炭素数nが2から12のものが特に好ましい。
【0021】
このような二以上の活性ビニル基を有するビニルスルホン化合物は、以下の反応手順で合成される。
【0022】
【化1】

【0023】
またこのような二以上の活性ビニル基を有するビニルスルホン化合物の繊維素材に対して使用する薬剤量(対繊維薬剤量:%owf)は5〜20%owfが適切であり、5%owf以下であると架橋が不十分となり、20%owf以上であると架橋が多すぎて繊維素材の風合いが損なわれてしまう。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例、及び比較例を詳細に記載するが、本発明の範囲はこれらの記載に限定されるものではない。
【0025】
(実施例1)
太さ66デニール(=74dtex)の長繊維シルク3gを素材繊維とする。この繊維素材を、精練したもの、精練しないもの、洗濯したもの、洗濯しないものについてサンプルとした。
【0026】
精練は、湯浴に4Lの水を入れ温度を60℃に保ち精練剤(非イオン活性剤、明成化学社製イントールMAC)を20gを入れた精練浴に、サンプルを投入し10分間撹拌後取り出し、流水で精練剤を流し乾燥した。洗濯乾燥は洗濯機で洗剤なしで水洗した。
【0027】
これらのサンプルにつき、下記により調製した繊維改質処理剤溶液で架橋して改質処理をおこなった。
【0028】
富士フィルム社製特殊架橋剤の商品番号VS−C
N,N’−trimethylenbis[2-(vinylsulfonyl)acetamide]2.5gを50mリットルのイオン交換水に溶解して5%繊維改質処理剤溶液とした。また、0.5gを50mリットルのイオン交換水に溶解して1%繊維改質処理剤溶液とした。これらの繊維改質処理剤溶液の温度を20℃の室温、または60℃とし、pHを7〜8に維持してサンプルを浸して1時間放置した後、水洗乾燥して、加工済みサンプルを得た。
【0029】
これらの加工済みサンプルを、安田精機製作所社製の学振型染色摩擦堅牢度試験機によりダメージ処理(50回/100回)を行い、フィブリル化を発現させた。
【0030】
比較例1は、実施例1と同一のサンプルを使い、架橋剤を使用しないこと以外は同じ処理を施した。実施例1、及び比較例1の詳細な実験条件を表1に示してある。
【0031】
ダメージ処理後の繊維表面を走査電子顕微鏡(SEM)で撮影しフィブリル構造の状況を観察した。各実施例毎のSEM写真を図面代用写真として番号を付して図1から図12に示してある。写真の倍率は500×、左下部に見えるスケール線は20μmである。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例1および比較例1の実験結果により、溶液温度60℃、架橋剤VS−Cの溶液濃度5%にして架橋を行ったサンプルでは架橋を行っていないサンプルに比べ大幅にフィブリル化を抑制することができた。
【0034】
架橋構造については、溶液温度60℃、溶液濃度5%にて、30時間、シルク繊維のサンプルを架橋し、赤外線分光スペクトルを採取した。波数3300cm−1付近のOH基の伸縮に由来するピークが減少し、新たに波数2930cm−1付近にピークが観察でき、シルク繊維が架橋されていることを確認できた。
【0035】
(実施例2)
シルクサテン(50cm×30cm)を素材繊維とする。
【0036】
対繊維薬剤量20%owfの調製及び架橋:富士フィルム社製特殊架橋剤VS−C0.6gを150mlのイオン交換水に溶解した繊維改質処理剤溶液(g/l換算:4.0/l)をPH7または8に調整し、60℃に温め、素材繊維3gを投入して24時間撹拌した。
【0037】
対繊維薬剤量10%owfの調製及び架橋:同一の架橋剤0.3gを150mlのイオン交換水に溶解した繊維改質処理剤溶液(g/l換算:2.0g/l)をPH7または8に調整し、素材繊維3gを投入して時間撹拌した。
【0038】
対繊維薬剤量5%owfの調製及び架橋:同一の架橋剤0.15gを150mlのイオン交換水に溶解した繊維改質処理剤溶液(g/l換算:1.0g/l)をPH7または8に調整し、素材繊維3gを投入して24時間撹拌した。
【0039】
対繊維薬剤量0%owfの調製及び処理:イオン交換水をPH7または8に調整し、素材繊維を投入して24時間撹拌した。
【0040】
上記により架橋処理を行ったサンプルを良く洗浄し、学振型摩擦堅牢度試験機によりダメージ処理(50回、100回)を行い、フィブリル化を発現させた。
【0041】
ダメージ処理を100回行った後の繊維表面を走査電子顕微鏡(SEM)で撮影しフィブリル構造の状況を観察した。各実施例毎のSEM写真を図面代用写真として番号を付して図13から図20に示してある。写真の倍率は500×、左下部に見えるスケール線は20μmである。
【0042】
肉眼により毛羽立の状況を観察するとともに手触りにより風合いの変化を調べた。毛羽立は、3段階分類とし0級は毛羽立が無い状態を表し、3級は比較例2−1の状態とし目視判定にて0.5刻みにて評価した。風合は、触感ハンドリングにて0.5刻みの3段階表示とする。比較例2−1を標準資料とし、標準に対し風合いの粗硬判定を3段階で表示し比較例2−1を0.0級とし実施例2−2の粗硬判定を3.0級とする。
【0043】
実施例2、比較例2の詳細な実験条件、および結果を表2に示してある。
【0044】
【表2】

【0045】
実施例2および比較例2の実験結果により、架橋剤VS−Cの対繊維薬剤量20%owfにして架橋を行ったサンプルでは大幅にフィブリル化を抑制することができた。対繊維薬剤量5%owfにし架橋を行ったサンプルでは、風合いを維持しつつある程度フィブリル化を抑制していることがわかった。
【0046】
また、架橋処理を行い良く洗浄した各シルクサテンのサンプルにつき赤外線分光スペクトルを採取した。その結果、ペプチド結合(-NHCO-)に由来するピーク(1680nm付近)を観察できた。すなわち、ペプチド結合による架橋が成立していることを確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質繊維、セルロース繊維、またはポリビニルアルコール繊維の改質処理剤であって、二以上の活性ビニル基を有するビニルスルホン化合物を含むことを特徴とする繊維改質処理剤。
【請求項2】
前記二以上の活性ビニル基を有するビニルスルホン化合物が、両末端にビニル基を有するスルホン酸アセトアミド化合物であることを特徴とする請求項1に記載の繊維改質処理剤。
【請求項3】
前記両末端にビニル基を有するスルホン酸アセトアミド化合物が、N,N’−アルキレンビス[2-(ビニルスルフォニル)アセトアミド]であることを特徴とする請求項2に記載の繊維改質処理剤。
【請求項4】
前記N,N’−アルキレンビス[2-(ビニルスルフォニル)アセトアミド]が、
CH=CHSOCHCONHC2nNHCOCHSOCH=CH
(−C2n−は非分岐または分岐のアルキレンであってnが1〜12の自然数)であることを特徴とする請求項3に記載の繊維改質処理剤。
【請求項5】
蛋白質繊維、セルロース繊維、またはポリビニルアルコール繊維を、請求項1から4のいずれかに記載の繊維改質処理剤の溶液に混合処理して、当該繊維の高分子の少なくとも一部を架橋することを特徴とする繊維改質加工方法。
【請求項6】
蛋白質繊維、セルロース繊維、またはポリビニルアルコール繊維が、請求項1から4のいずれかに記載の繊維改質処理剤で処理されて、当該繊維の高分子の少なくとも一部が架橋されていることを特徴とする改質繊維。
【請求項7】
前記蛋白質繊維が、羊毛、モヘア、アンゴラ、アルパカ、カシミア、獣毛、羽毛及びシルクから選ばれる繊維であることを特徴とする請求項6に記載の改質繊維。
【請求項8】
前記セルロース繊維が、木綿、麻、ビスコースレーヨン、キュプラレーヨン、リヨセル及び酢酸セルロースから選ばれる繊維であることを特徴とする請求項6に記載の改質繊維。
【請求項9】
前記ポリビニルアルコール繊維が、部分ホルマール化ポリビニルアルコール繊維または未ホルマール化ポリビニルアルコール繊維であることを特徴とする請求項6に記載の改質繊維。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−44060(P2013−44060A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181300(P2011−181300)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(500147805)株式会社 きものブレイン (13)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】