説明

放射性ガスを含む密封容器の開封装置

【課題】原子炉等で中性子照射により放射化した密封容器を開封する時に発生する放射性ガスを開封室の中に閉じこめ、この放射性ガスを簡素な方法で効率よく捕集し、回収することにより、密封容器の解体を安全且つ効率的に行う。
【解決手段】放射性ガスを含む密封容器の開封装置は、外部に対して気密にシールされ、密封容器1の一部が気密に挿入される開封室12と、この開封室12に気密に挿入され、前記密封容器1の一部を開封する開封工具3と、この開封工具3による密封容器1の開封により、同密封容器1から開封室12内に放出される放射性ガスを回収する放射性ガス回収手段として、放射性物質形態変換器8と放射性ガス回収器9を備えるガス循環系とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば原子炉等で照射された高度に放射化したあるいは高レベル放射能を含む密封容器をマニプレータ等で遠隔操作で開封する際に同密封容器から放出される放射性ガスを捕集・回収しながら同密封容器を開封することが出来る密封容器からの放射性ガスを含む密封容器の開封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
照射試験用原子炉等を利用した構造材料の試験片の照射試験では、一般的に構造材料の試験片を密封容器に封入して実施している。原子炉での照射試験を行った後、ホットセルに密封容器を収納し、同ホットセル内で遠隔操作により密封容器を切断し、放射性を帯びた照射試験片を取り出している。
【0003】
このような放射性を帯びた照射試験片の取り出しのために行われている従来の密封容器の切断は、ステンレス鋼などの低レベル放射能を含む密封容器の解体であるため、既存の旋盤等をホットセル内で遠隔で操作できるように改造した装置を用いて密封容器から照射試験片を取り出していた。
【0004】
従来の原子力発電用燃料等の放射性ガスを発生する密封容器の切断は、密封容器全体を包み込むような大きな容器を製作し、その中で切断を行っていた。しかしながら、大きな容器を使用するため、装置が大型かつ複雑な構造となり、その中での密封容器の切断操作も煩雑で困難であった。
【0005】
さらに、ウランやMOX(ウランやプルトニウムの混合)などの原子力発電用燃料や核融合炉用燃料材料(リチウムを含んだ化合物であるトリチウム増殖材や中性子を増倍させるベリリウムを含んだ化合物である中性子増倍材料)の照射試験では、中性子照射により高レベル放射能を含む放射性ガスを生成するため、密封容器を解体する際に放射性ガスがホットセル内に放出し、セル内を汚染させるという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開2006−207275号公報
【特許文献2】特開2006−162622号公報
【特許文献3】特開2005−292063号公報
【特許文献4】特開2001−259590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の密封容器の切断方法における前述の課題に鑑み、原子炉等で中性子照射により放射化した密封容器を開封する時に発生する放射性ガスを開封室の中に閉じこめ、この放射性ガスを簡素な方法で効率よく捕集し、回収することにより、密封容器の解体を安全且つ効率的に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、放射性ガスを含む密封容器1の一部を開封室12に気密に挿入し、この開封室12の中で前記密封容器1を開封すると共に、この開封室12からは、前記密封容器1から放出された放射性ガスを回収する機能を持たせるものである。
【0009】
すなわち、本発明による放射性ガスを含む密封容器の開封装置は、外部に対して気密にシールされ、密封容器1の一部が気密に挿入される開封室12と、この開封室12に気密に挿入され、前記密封容器1の一部を開封する開封工具3と、この開封工具3による密封容器1の開封により、同密封容器1から開封室12内に放出される放射性ガスを回収する放射性ガス回収手段とを有するものである。
【0010】
このような本発明による放射性ガスを含む密封容器の開封装置では、外部に対して気密にシールされた開封室12に気密に挿入された密封容器1の一部が開封工具3により開封される。このとき、前記密封容器1から放出された放射性ガスは、開封室12内に閉じこめられる。そして、開封室12内に閉じこめられた放射性ガスは、放射性ガス回収手段により回収されるため、大気には放出されない。
【0011】
前記密封容器1の一部を切削・開口した時に同密封容器1から前記開封室12内に放出される放射性ガスを回収する放射性ガス回収手段は、放射性物質形態変換器8と放射性ガス回収器9を備えるガス循環系からなる。これにより、開封室12から回収した放射性ガスに含まれる放射性物質の形態を変換しながら回収することが出来る。
【0012】
また、前記開封室12の中には、前記密封容器1の一部を切削・開口した時に同密封容器1から生じる放射性を帯びた切屑の飛散を防止する切屑飛散防止手段を設けると、前記放射性ガス回収手段は、放射性ガスのみを回収すればよく、固体である放射性を帯びた切屑は開封室12から完全に放射性ガスを回収した後、別途回収することが出来る。
【0013】
前記開封室12が異なる寸法の密封容器1の一部を気密に挿入出来る気密容器シール機構部2を有すると、異なる寸法の複数種類の密封容器1に対応出来るので、放射性ガスを含む密封容器の開封装置の汎用性を高くすることが出来ると共に、様々な寸法の密封容器を順次開封処理することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明した通り本発明によれば、原子炉等で中性子照射により放射化した密封容器1を開封する時に発生する放射性ガスを開封室12の中に閉じこめ、この放射性ガスを放射性ガス回収手段により回収することにより、密封容器の解体を安全且つ効率的に行えるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明では、放射性ガスを含む密封容器1の一部を開封室12に気密に挿入し、この開封室12の中で前記密封容器1を開封すると共に、この開封室12からは、前記密封容器1から放出された放射性ガスを回収する機能を持たせることにより、所期の目的を達成するものである。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、実施例をあげて詳細に説明する。
【0016】
本発明による放射性ガスを含む密封容器の開封装置は、放射性物質を扱うホットセル内において、ウランやMOXなどの原子力発電用燃料や核融合炉用燃料材料の照射試験後の密封容器を解体するときなどに適用可能である。以下の例においては、核融合炉用燃料材料の内、中性子増倍材料である金属ベリリウムの照射試験後の密封容器の解体を例にとって図面で詳しく説明する。
【0017】
図1に本発明による放射性ガスを含む密封容器の開封装置の一実施例の概略構成図を示し、図2にこの開封装置をホットセル内に設置したときの図を示す。
照射済みの密封容器1は、密封容器固定台11に載せられ、この密封容器1の一端が気密シール機構部12を通して開封室12の中に挿入される。この状態で密封容器1の他端に固定機構部7が当てられる。
【0018】
他方、開封室12の他端には、モータ5のスピンドルに取り付けた開封工具3が気密シール軸受4を通して前記開封室12に挿入されている。前記気密シール軸受は開封工具3の軸を円周方向及び中心軸方向にスライド自在に支持するラジアル・スラスト両用形であると共に、開封工具3の軸を気密にシールしている。開封工具3は、開封する密封容器1の材料、形状等で適宜のものが採用されるが、図1の例ではドリル(錐)が使用されてる。この開封工具3は前記モータ5により回転されると共に、送り機構6のよりその軸方向に移動される。
【0019】
さらに、開封室12には、密封容器1からその中に放出される放射性ガスを回収するための放射性ガス回収手段として、放射性物質形態変換器8、放射性ガス回収器9及び循環ポンプ10を備えるガス循環系が接続されている。金属ベリリウムの照射試験後の密封容器1を開封する場合、放射性物質形態変換器8は例えばトリチウム形態変換器であり、放射性ガス回収器9はトリチウム回収器である。
【0020】
開封室を含む装置全体Bは、図2に示すように放射性物質を取り扱うホットセルA内に設置し、ホットセルAの外側の操作室において、電源投入によるモータの駆動、放射性ガスの回収に用いるキャリアガスの供給、密封容器1をシールするためのガスの供給、マニプレータDによる開封工具の移動操作を遠隔にて操作できる構造となっている。
【0021】
このホットセルA内には、密封容器を固定し、支持する密封容器固定台Bが幾つか装備され、様々な形状の密封容器1に対応できる構造となっている。また、固定機構部もスライド方式により、長さの異なった密封容器1を固定できる。これらは、ホットセルA内に設けたマニプレータDで容易に遠隔操作ができる機構を有している。また、開封室には、放射性ガスの回収に用いるキャリアガスを供給するキャリアガス供給源Eと、密封容器を再封止するのに用いるガスの封止ガス供給源Fとが接続されている。
【0022】
図3に図1により前述した開封室12の詳細を示している。図1により前述したの密封容器1は図3では符合aで、この密封容器aをシールする開封室12の気密シール機構部2は、図3に符合bで示している。この気密シール機構部bにはガスを供給する構造とし、直径の異なる密封容器aにも対応できるようになっている。なお、この気密シール機構部bは、ガスのような機構に限らず、場合によっては、油圧方式によるシール方式とすることも可能である。
【0023】
開封室の側面部には、同開封室内での気密容器aの穿孔の様子が観察できるように観察窓fを取り付け、開封工具cが密封容器aの所定の位置を加工出来ることを確認できるようになっている。電源を投入後、送り機構をマニプレータにより操作し、密封容器aに放射性ガスを放出させるための穴を開ける。
【0024】
ドリルによる穴開け操作で生じる放射性の切屑は、図3に示すようなシール機構部bの隙間に散乱・残存しないようにシール機構部bの近傍に切屑落とし穴eを備えた密封容器押dを設けることにより、開封室内への切屑の飛散防止が可能となり、数個の密封容器を連続して解体が可能となる。
【0025】
開封工具による密封容器の開封が終了した後、放射性ガスの回収に用いるキャリアガスを開封室内に供給し、循環ポンプにて開封室内のガスを循環させる。循環するガスは、図1により前述した放射性物質形態変換器及び放射性ガス回収器を通過することにより、開封室内のトリチウム濃度を低下できる機構となっている。なお、この放射性物質形態変換器及び射性ガス回収器を核分裂性ガスを回収する装置等に変更することにより、原子力発電用燃料の密封容器の解体にも使用可能である。
【0026】
実際に図4に示すような長さ及び直径が異なる3種類の形状の密封容器A〜Cを用いた開封処理試験を行ったところ、シール機構部に導入するガス圧を約0.2MPaにすることにより、0.12MPaの加圧状態においても解体装置内の圧力降下は0.01MPa以下であり、かつ真空ポンプで0.01Torr以下の真空状態においても圧力の上昇はなく十分な密閉性を有していた。また、開封工具であるドリルによる穴開けが終了した後、酸素と水素が含まれるキャリアガスを導入し、解体装置内のガスを循環させ、水素転換効率を測定した結果、99.5%以上が水分に転換することができた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
以上のように、本発明では、原子炉等で照射された密封容器をマニュピレータ等で遠隔操作で解体する際に放出される放射性ガスを捕集しながら密封容器を解体できる機能を有する遠隔操作型解体装置の開発を確立することができ、その後の放射性ガスを含む照射された密封容器の解体作業を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の密封容器の開封装置の一実施例を示す概略図である。
【図2】本発明の密封容器の開封装置を使用する状態の例を示す概略図である。
【図3】本発明の密封容器の開封装置の要部を示す概略断面図である。
【図4】本発明の密封容器の開封装置により開封した密封容器を例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 照射済みの密封容器
2 気密シール機構部
3 開封工具
8 放射性物質形態変換器
9 放射性ガス回収器
10 循環ポンプ
e 切屑落とし穴付密封容器押さえ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性ガスを含む密封容器を開封すると共に、その開封時に同密封容器から放出される放射性ガスを抜き出して回収する放射性ガスを含む密封容器の開封装置であって、外部に対して気密にシールされ、密封容器(1)の一部が気密に挿入される開封室(12)と、この開封室(12)に気密に挿入され、前記密封容器(1)の一部を開封する開封工具(3)と、この開封工具(3)による密封容器(1)の開封により、同密封容器(1)から開封室(12)内に放出される放射性ガスを回収する放射性ガス回収手段とを有することを特徴とする放射性ガスを含む密封容器の開封装置。
【請求項2】
前記密封容器(1)の一部を切削・開口した時に同密封容器(1)から前記開封室(12)内に放出される放射性ガスを回収する放射性ガス回収手段が、放射性物質形態変換器(8)と放射性ガス回収器(9)を備えるガス循環系であることを特徴とする請求項1に記載の放射性ガスを含む密封容器の開封装置。
【請求項3】
前記開封室(12)の中には前記密封容器(1)の一部を切削・開口した時に同密封容器(1)から生じる放射性を帯びた切屑の飛散を防止する切屑飛散防止手段を有することを特徴とする請求項1または2に記載の密封容器からの放射性ガスを含む密封容器の開封装置。
【請求項4】
前記開封室(12)は、異なる寸法の密封容器(1)の一部を気密に挿入出来る気密容器シール機構部(2)を有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の密封容器からの放射性ガスを含む密封容器の開封装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−256434(P2008−256434A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97162(P2007−97162)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(000140627)株式会社化研 (27)