説明

放射性ガスモニタ

【課題】 原子炉から出るオフガス中の希ガスを高精度に検出する。
【解決手段】 配管10には放射性ガスモニタが設けられ、その放射性ガスモニタは複数の検出器12によって構成される。各検出器12はシンチレータブロック14と光電子増倍管16とで構成される。配管10の周囲を取り囲むように複数の検出器12が設けられているため、13Nから出る陽電子の消滅により生ずる一対の511keVのγ線が配管10において散乱されてもそれをいずれかの検出器12によって検出することが可能である。その結果、当該γ線の同時計数を行って、それを検出結果から効果的に除外可能である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、原子力発電所等で利用される放射性ガスモニタに関する。
【0002】
【従来の技術及びその課題】エネルギー需要が年々増加する中で、核分裂によりエネルギーを取り出す原子力発電所は欠かせない存在となっている。原子力の平和利用を推進するためにより安全な設備が要望されている。
【0003】原子炉内には多数の燃料棒が挿入されており、その燃料棒内での核分裂によりそれを取り囲む冷却水に熱が伝達され、熱サイクルが形成される。燃料棒は核分裂生成物を封じ込める第1の要となっており、それが破損することがないように万全の設計がなされている。万が一にも燃料棒が破損した場合、それによる影響が外界に生じないように二重、三重の安全システムが完備されている。
【0004】上記のように燃料棒は重要な機能を果たしており、その健全性を常に監視しておくのが望ましい。このため原子炉内部から排気されるガス(以下、オフガス)のモニタリングが行われている。従来のガスモニタは、ガスが導入される配管の近傍に設けられ、ガスから出るγ線が電離箱の電流出力として検出されている。
【0005】ところが、原子炉内での中性子、陽子の作用により酸素原子が放射化され、放射性をもった13Nガスが大量に生成される。その13Nから出る陽電子の消滅により511keVのγ線が生ずるが、上記のガスモニタでの検出はそれが支配的になってしまう。更に当該γ線のコンプトン散乱などが観測をより困難にする。仮に燃料棒にリークが発生し、核分裂生成物としての希ガスが発生してもそれが微量であればそのγ線を検出するのは困難で、よって現状のガスモニタ単体でリーク検出を行うのは難しい。
【0006】なお、核分裂生成物としての希ガスとしては、例えば、Xe−138、Kr−87、Kr−85、Kr−88、Kr−85m、Xe−135、Xe−133、Xe−135m、Xe−137、Kr−89、Ar−41などがあげられる。オフガス中でそれらの希ガス成分は少なく、N−13が大部分を占めている。
【0007】本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、核分裂で生成された希ガスを13Nガスの存在下で精度良く測定することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】(1)上記目的を達成するために、本発明は、放射性ガスが導入される配管の近傍に設けられた放射性ガスモニタにおいて、前記配管の周囲を取り囲んで配列された複数の放射線検出器と、前記複数の放射線検出器でγ線の同時検出があった場合に、それを13Nから出る陽電子の消滅により生じる511keVのγ線とみなして検出結果から除外する信号処理部と、を含むことを特徴とする。
【0009】上記構成によれば、原子炉(特に軽水炉)内部において酸素原子の放射化により多量の13Nが生成されても、放射性ガスとしてのオフガスの検出に当たって、13Nから放出される陽電子の消滅により生ずる511keVのγ線を弁別して、検出結果から除外できる。すなわち、陽電子が消滅すると、2つの消滅γ線(511keV)が互いに反対方向に飛び出す。それを配管の周囲に配置された複数の放射線検出装置により検出してアンチコインシデンスを利用して511keVのγ線を特定し、かつ除去するものである。希ガスに関しては基本的にそのような消滅γ線は観測されないので、結果として希ガスの検出感度を向上できる。
【0010】配管の内部において、陽電子消滅により発生する2つの511eVのγ線は互いに完全に反対方向に進行する。よって、理論的には、配管を介して2つの放射線検出器を直線上に配置しそれらを対向させておけば、同時生成される2つの511keVのγ線を同時検出して、それを検出信号から除外することができる。しかし、実際には、配管でγ線は吸収または散乱され、配管の外側において、互いに180°正反対方向に放出される2つのγ線のみをとらえるだけでは不十分である。
【0011】これに対し、本発明では、複数の放射線検出器が配管の周囲を取り囲んで設けられているので、配管において511keVのγ線が散乱しても、同時生成された2つのγ線を有効に検出可能である。
【0012】望ましくは、前記複数の放射線検出器は1つのメイン検出器と複数のサブ検出器とで構成され、前記信号処理部は、前記メイン検出器の検出結果から、前記メイン検出器といずれかの前記サブ検出器との間での同時検出による成分を除外する。
【0013】望ましくは、前記信号処理部は、前記複数の放射線検出器の出力信号の中で単発信号だけを計数する。
【0014】望ましくは、前記配管の周囲にその軸方向に沿って積層された複数段の放射線検出器アレイを含み、各放射線検出器アレイは前記配管の周囲に環状配列された複数の放射線検出器からなる。
【0015】望ましくは、前記各放射線検出器は、前記配管に対向する内側面から外側面にかけて広がったシンチレータブロックと、前記シンチレータブロック内で放射線の入射により生じた光を受光する受光器と、で構成される。
【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】図1には、本発明に係る放射性ガスモニタの好適な実施形態が示されており、図1はその正面図である。
【0018】配管10は、原子炉からの放射性ガスを流通させるものである。配管10の所定箇所には本実施形態に係る放射性ガスモニタが設けられている。放射性ガスモニタの中央部には後に図2で示されるように貫通孔が形成され、その貫通孔内に配管10が挿通されている。ここで、その挿通部分が測定対象となるガスを収容するガスチェンバとして位置付けられる。なお、配管10内において放射性ガスは一定の流量をもって流通している。
【0019】図1に示されるように、放射性ガスモニタは、複数の検出器12によって構成される。図1に示す例では、複数段の検出器群によって放射性ガスモニタが構成されており、その段数は3であり、各段の検出器群は6つの検出器12によって構成されている。ここで中段の検出器群における特定の検出器12は必要に応じてメイン検出器12Aとして機能する。これについては後に説明する。
【0020】各検出器12は、シンチレータブロック14と光電子増倍管(PMT)16とで構成される。シンチレータブロック14は、図2に示されるように、配管10側に対向する面側から反対側にかけて略三角形状に広がった形態を有する。ちなみに、各シンチレータブロック14間においては光反射膜14Aによって相互への光の進入が阻止されている。シンチレータブロック14内に放射線が進入すると、それに起因して発光が生じ、その光が光電子増倍管16にて受光される。これによって電気的なパルスが外部に出力される。
【0021】図1及び図2に示したように、本実施形態においては、配管10の全周を取り囲むように複数の検出器を設け、しかもその複数の検出器の配列を配管10の軸方向にも広げて配置しているため、13Nから出る陽電子の消滅により生ずる一対の511keVのγ線が配管10で散乱しても、それをもれなく検出することが可能であり、結果として、そのような妨害γ線を計数結果から除外することが可能となる。具体的には、例えば、メイン検出器12Aとそれ以外のサブ検出器(アンチ検出器)12Bとの間において同時計数を行って上述の511keVの一対のγ線を特定する場合において、互いに完全に反対方向に出るγ線の一方をメイン検出器12Aで検出すると共に、他方をそのメイン検出器12Aの反対側の検出器で検出器し得ると共に、たとえ配管10上におけるγ線の散乱が生じたとしても、その散乱γ線を他の検出器12によって検出可能である。その結果、同時計数の精度を高めることが可能である。
【0022】図2において、上述したようにシンチレータブロック14は、配管10に対向する面14Cからそれと反対側の面14Bにかけて徐々に断面が増大された形態を有しているが、もちろん他の形態を採用することも可能である。また、図1及び図2に示したように、各段の検出器群が6つの検出器12によって構成されていたが、もちろんそれ以外の個数によって検出器群を構成してもよい。いずれにしても配管10の周囲全体を取り囲むように複数の検出器12を配設するのが望ましい。
【0023】図3及び図4には、本実施形態に係る放射性ガスモニタの信号処理部の構成が示されている。ちなみに、図3は放射性ガスモニタを第1モードで動作させる場合の回路構成例を示しており、図4は放射性ガスモニタを第2モードで動作させるための回路構成例を示している。
【0024】図3において、図1に示したメイン検出器12Aから出力される検出パルスは信号処理回路22に入力され、一定の信号処理を経た後の信号がメイン信号として減算器28に出力される。ここで、信号処理回路22は、増幅器などを有するものであり、さらに光電子増倍管16用の高電圧発生源を内蔵している。
【0025】一方、複数のサブ検出器12Bから出力される検出パルスは、各サブ検出器12Bごとに設けられた信号処理回路24に入力され、そこで一定の信号処理を受ける。ここで、各信号処理回路24は、増幅器及び波高弁別器などを有しており、検出パルスを増幅した後に、一定の波高値以上の検出パルスを後段のOR回路26に出力している。ちなみに、この信号処理回路24も上記の信号処理回路22と同様に、光電子増倍管16用の高電圧発生源を内蔵している。
【0026】OR回路26は、各サブ検出器12Bからの検出パルスS1〜Snに対して論理和をとる回路であり、すなわち加算回路に相当する。その加算後の信号Gはアンチ信号として減算器28に出力されている。
【0027】減算器28はメイン信号Mからアンチ信号Gを減算する機能をもった回路であり、本実施形態において、この減算器28はアナログ・デジタル・コンバータ(ADC)を含めて構成されている。すなわち、アンチ信号Gが入力される以外の期間においてメイン信号Mのサンプリングが実行されている。
【0028】すなわち、上記のような構成によれば、メイン検出器12Aといずれかのサブ検出器12Bとの間で同時計数が行われた場合に、それをアンチ信号Gとして特定してメイン信号Mからそのアンチ信号Gを除外することが可能となる。その結果、13Nから出る陽電子の消滅により生ずる一対の511keVのγ線を計数結果から除外して、目的とする希ガスを高精度に計測することが可能となる。
【0029】MCA(マルチチャンネルアナライザ)30は、減算器28から出力される検出パルスを各波高値ごとに計数する回路である。演算部32はMCA30の分析結果に基づいて、各希ガスの濃度などを演算する回路である。ちなみに、この演算部32に、希ガスの異常増加に基づく燃料棒の異常監視機能を付与するようにしてもよい。
【0030】図3に示す構成例によれば、1つのメイン検出器12Aに対して複数のサブ検出器12Bが独立して設けられているため、高い放射能量の場合であっても高計数率によるパイルアップを防止して計数精度を維持できるという利点がある。
【0031】次に、図4を用いて第2のモードにおける信号処理例について説明する。
【0032】この図4に示す構成は、図1に示した複数の検出器12をそれぞれサブ検出器12B及びメイン検出器12Aの兼用検出器として利用するものである。このような構成によれば、低い放射能量の場合に、特に感度を高めて測定精度を向上できるという利点がある。
【0033】図4において、複数の検出器12には信号処理回路34が設けられている。各信号処理回路34は、図3に示した信号処理回路22及び信号処理回路24をあわせた機能を有しており、具体的には、入力される検出パルスを増幅して出力する機能と、その検出パルスの増幅後に一定の波高値以上の検出パルスを出力する機能とを有している。ちなみに、各信号処理回路34は光電子増倍管16の電源としても機能している。
【0034】図4において、ロジック回路36には、各信号処理回路34からの増幅後の検出パルスN1〜Nnと増幅及び波高弁別後の検出パルスR1〜Rnとが入力されている。そして、ロジック回路36は、検出パルスN1〜Nnを全て加算してそれをメイン信号Mとして減算器28へ出力する。これは図3に示したOR回路26と同様の機能である。
【0035】一方、ロジック回路36は、複数の検出パルスR1〜Rnの中で2つ以上同時に検出パルスが得られた場合にアンチ信号Gを出力している。その出力条件が図4において(B)に示されている。
【0036】すなわち、この図4に示す構成例では、上述したように検出器12が機能分離されておらず、それら全体としてメイン検出器12A及びサブ検出器12Bとして機能している。
【0037】減算器28では、メイン信号Mからアンチ信号Gを減算する処理を実行し、具体的には、図3に示した減算器28と同様に、アンチ信号Gが入力されている期間外においてメイン信号Mのサンプリングを実行している。これにより、単発パルスのみがサンプリングされる。マルチチャンネルアナライザ(MCA)30と演算部32は、図3に示したものと同様の機能を有している。
【0038】上記の各構成例によれば、妨害核種である13Nに影響されずにオフガス中の希ガスから放出されるγ線を精度良く測定でき、例えば短半減期核種及び長半減期核種の比率を精度良く求めることが可能となる。さらに、原子炉内部における燃料棒の破損状態がピンホールであるか亀裂状態であるかなどを早期に確認できるなどの利点を得られる。
【0039】図1及び図2に示した構成例によれば、各検出器がそれぞれ比較的小さな体積によって分割されているため、パルス重畳による数え落としといった問題も解消可能である。さらに、上記構成によればメイン検出器12Aとサブ検出器12Bが全く同じ構成を有しているため、製造時におけるコストを低減できるという利点を得られる。
【0040】図5には、比較例の構成が示されている。この構成例において、配管10の一方側にはメイン検出器50が設けられ、他方側にはサブ検出器60が設けられている。ここで、メイン検出器50はシンチレータ52、光電子増倍管54及び鉛コリメータ56で構成されている。また、サブ検出器60は、シンチレータ62、光電子増倍管64及び鉛コリメータ66で構成されている。このような構成例では、陽電子の消滅(符号100参照)により反対方向に生ずる一対の511keVのγ線102,104を配管10の両側において検出するものであるが、上述したように、配管10においてγ線104の散乱などが生じ、その結果、理想的な同時計数が行われない可能性がある。
【0041】これに対し、上記の実施形態によれば、そのような散乱が生じても配管10の軸方向及びそれと直交する全周に沿って多数の検出器が配列されているため、そのような散乱γ線を効率的に検出できるという利点がある。
【0042】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、目的とする核種からの放射線を高精度に検出できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る放射性ガスモニタの検出部の正面図である。
【図2】 図1に示す検出部の上面図である。
【図3】 第1モードにおける信号処理部の構成例を示す図である。
【図4】 第2モードにおける信号処理部の構成例を示す図である。
【図5】 比較例の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
10 配管、12 検出器、12A メイン検出器、12B サブ検出器、14 シンチレータブロック、16 光電子増倍管(PMT)、22,24,34信号処理回路、26 OR回路、28 減算器、30 MCA(マルチチャンネルアナライザ)、32 演算部、36 ロジック回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 放射性ガスが導入される配管の近傍に設けられた放射性ガスモニタにおいて、前記配管の周囲を取り囲んで配列された複数の放射線検出器と、前記複数の放射線検出器でγ線の同時検出があった場合に、それを13Nから出る陽電子の消滅により生じる511keVのγ線とみなして検出結果から除外する信号処理部と、を含むことを特徴とする放射性ガスモニタ。
【請求項2】 請求項1記載の放射性ガスモニタにおいて、前記複数の放射線検出器は1つのメイン検出器と複数のサブ検出器とで構成され、前記信号処理部は、前記メイン検出器の検出結果から、前記メイン検出器といずれかの前記サブ検出器との間での同時検出による成分を除外することを特徴とする放射性ガスモニタ。
【請求項3】 請求項1記載の放射性ガスモニタにおいて、前記信号処理部は、前記複数の放射線検出器の出力信号の中で単発信号だけを計数することを特徴とする放射性ガスモニタ。
【請求項4】 請求項1記載の放射性ガスモニタにおいて、前記配管の軸方向に沿って積層された複数段の放射線検出器アレイを含み、各放射線検出器アレイは前記配管の周囲に環状配列された複数の放射線検出器からなることを特徴とする放射性ガスモニタ。
【請求項5】 請求項4記載の放射性ガスモニタにおいて、前記各放射線検出器は、前記配管に対向する内側面から外側面にかけて広がったシンチレータブロックと、前記シンチレータブロック内で放射線の入射により生じた光を受光する受光器と、で構成されることを特徴とする放射性ガスモニタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2001−42039(P2001−42039A)
【公開日】平成13年2月16日(2001.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−216528
【出願日】平成11年7月30日(1999.7.30)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】