説明

放射性セシウムの除去方法、及び、焼成物の製造方法

【課題】放射性セシウムで汚染された廃棄物から放射性セシウムを、容易にかつ効率的に除去する方法を提供する。
【解決手段】放射性セシウムで汚染された廃棄物、及び、CaO源及び/又はMgO源を、1250〜1550℃で加熱して、上記廃棄物中の放射性セシウムを揮発させる加熱工程を含む放射性セシウムの除去方法であって、上記加熱工程において、CaO、MgO、及びSiOの各々の質量が、((CaO+1.39×MgO)/SiO)>2.2(式中、CaO、MgO、SiOは、各々、カルシウムの酸化物換算の質量、マグネシウムの酸化物換算の質量、珪素の酸化物換算の質量を表す。)の式を満たすように、上記廃棄物、CaO源及びMgO源の各々の種類及び配合割合を定める、放射性セシウムの除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性セシウムで汚染された廃棄物から放射性セシウムを除去するための方法、及び、放射性セシウムで汚染された廃棄物を原料として用いて、無害な焼成物(例えば、セメントクリンカー)を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の大きな事故によって外部の環境中に放出された放射性セシウムが廃棄物又は土壌中に含まれている場合があるという問題が起きている。放射性セシウム(セシウム137)は、半減期が30年であり、長期間に亘って人体に悪影響を与えうるため、廃棄物等からの放射性セシウムの除去を求められる場合が多い。
放射性セシウムを除去する方法として、例えば、硝酸塩の形態で存在する放射性廃棄物を、外部に周回する通電コイルを備えたスリットを有する冷却された容器内で電磁誘導加熱により溶解し、硝酸塩が分解して生成した金属酸化物を容器周囲に、還元された白金属元素を電磁ピンチ力によって容器中央部に集積させ、次いで冷却・凝結後に、生成した固化体を回収することからなる、放射性廃棄物の処理方法において、電磁誘導加熱中に放射性廃棄物から揮発したセシウム等の長寿命核種を分離・回収する方法が記載されている(特許文献1)。
しかしながら、特許文献1の方法は、事故によって外部の環境中に放出された放射性セシウムを対象とするものではなく、原子力発電所等の限定された区域内で発生する放射性廃棄物を対象とするものであるため、膨大な量の汚染土壌等の処理に適したものではなく、また、装置が複雑で高価であり、高コストであるという問題があった。
一方、セメント産業では、産業廃棄物や一般廃棄物をセメント原料として再資源化している。例えば、(A)塩素含有廃棄物を原料として製造したセメントクリンカーであって、フッ素の含有量が400〜2000mg/kg、SO含有量が0.5〜2.5質量%、塩素の含有量が50〜250mg/kgであるセメントクリンカーの粉砕物と、(B)塩素含有物と、(C)石膏を含有することを特徴とするセメント組成物が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−157897号公報
【特許文献2】特開2009−161412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、放射性セシウムで汚染された廃棄物から、放射性セシウムを容易にかつ効率的に除去することができる方法を提供することを目的とする。本発明は、また、放射性セシウムで汚染された廃棄物を原料として用いて、無害な焼成物(例えば、セメントクリンカー)を製造するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、放射性セシウムで汚染された廃棄物、及び、CaO源及び/又はMgO源を、特定の配合割合で加熱することによって、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[5]を提供するものである。
[1] 放射性セシウムで汚染された廃棄物、及び、CaO源及び/又はMgO源を加熱して、上記廃棄物中の放射性セシウムを揮発させる加熱工程を含む放射性セシウムの除去方法であって、上記加熱工程において、CaO、MgO、及びSiOの各々の質量が、下記式(1)を満たすように、上記廃棄物、CaO源及びMgO源の各々の種類及び配合割合を定めることを特徴とする放射性セシウムの除去方法。
((CaO+1.39×MgO)/SiO)>2.2 ・・・(1)
(式中、CaO、MgO、SiOは、各々、カルシウムの酸化物換算の質量、マグネシウムの酸化物換算の質量、珪素の酸化物換算の質量を表す。)
[2] 上記加熱工程における加熱温度が1250〜1550℃である上記[1]に記載の放射性セシウムの除去方法。
[3] 放射性セシウムで汚染された廃棄物、及び、CaO源及び/又はMgO源を加熱して、上記廃棄物中の放射性セシウムを揮発させ、焼成物を得る加熱工程を含む焼成物の製造方法であって、上記加熱工程において、CaO、MgO、及びSiOの各々の質量が、下記式(1)を満たすように、上記廃棄物、CaO源及びMgO源の各々の種類及び配合割合を定めることを特徴とする焼成物の製造方法。
((CaO+1.39×MgO)/SiO)>2.2 ・・・(1)
(式中、CaO、MgO、SiOは、各々、カルシウムの酸化物換算の質量、マグネシウムの酸化物換算の質量、珪素の酸化物換算の質量を表す。)
[4] 上記[3]に記載の焼成物の製造方法によって得られた焼成物からなる、放射性セシウムの含有率が100Bq/kg以下であるセメントクリンカー。
[5] 上記[4]に記載のセメントクリンカーの粉砕物、及び石膏を含むセメント。
【発明の効果】
【0006】
本発明の放射性セシウムの除去方法によれば、放射性セシウムで汚染された廃棄物から、放射性セシウムを容易にかつ効率的に除去することができる。
また、本発明の焼成物の製造方法によれば、放射性セシウムが除去された無害な焼成物を得ることができる。この焼成物は、セメントクリンカーとして使用することができる。この場合、この焼成物の粉砕物と石膏の混合物であるセメントを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の放射性セシウムの除去方法は、放射性セシウムで汚染された廃棄物、及び、CaO源及び/又はMgO源を加熱して、上記廃棄物中の放射性セシウムを揮発させる加熱工程を含む放射性セシウムの除去方法であって、上記加熱工程において、CaO、MgO、及びSiOの各々の質量が、下記式(1)を満たすように、上記廃棄物、CaO源及びMgO源の各々の種類及び配合割合を定めることを特徴とする。
((CaO+1.39×MgO)/SiO)>2.2 ・・・(1)
(式中、CaO、MgO、SiOは、各々、カルシウムの酸化物換算の質量、マグネシウムの酸化物換算の質量、珪素の酸化物換算の質量を表す。)
【0008】
本発明の処理対象物は、放射性セシウムで汚染された廃棄物である。
ここで、放射性セシウムで汚染された廃棄物とは、例えば、土壌や、下水汚泥乾粉、都市ごみ焼却灰、ごみ由来の溶融スラグ、貝殻、草木等の一般廃棄物や、下水汚泥、下水スラグ、浄水汚泥、建設汚泥等の産業廃棄物や、がれき等の災害廃棄物であって、放射性セシウムを含むものである。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、放射性セシウムをほとんど含まない部分(例えば、土壌の場合、砂、石)を予め取り除いて得られる、放射性セシウムが濃縮されたもの(中間処理物)も、本発明における「放射性セシウムで汚染された廃棄物」の概念に含まれるものとする。
また、CaO源としては、例えば炭酸カルシウム、石灰石、生石灰、消石灰、石灰石、ドロマイト、高炉スラグ等が挙げられる。MgO源としては、例えば炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、ドロマイト、蛇紋岩、フェロニッケル合金スラグ等が挙げられる。これらの例示物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明において、CaO源及びMgO源は、これら両方を用いてもよいし、いずれか一方のみを用いてもよいが、セメントとして利用する観点から、CaO源のみを用いることが好ましい。
また、CaO源及びMgO源は、粉砕された粉状物を使用することが好ましい。
【0009】
本発明において、放射性セシウムとは、セシウムの放射性同位体であるセシウム134及びセシウム137を意味する。これらの放射性セシウムは、原子力発電所の事故によって外部の環境中に放出される放射性物質であり、半減期がそれぞれ約2年と約30年のものである。
本発明において、除去対象物である放射性セシウムは、事故を起こした原子力発電所から、ヨウ化セシウム等の形態で放射性ヨウ素と共に外部の環境中に放出され、上空から地表面に降下したものである。ヨウ化セシウムは、沸点が1200℃以上であり、沸点が700℃程度であるセシウム単体に比べて、揮発し難い性質を有する。そのうえ、地表面に降下した放射性セシウムは、土壌に含まれる粘土鉱物中に閉じ込められて、土壌から離れにくい状態となり、また、形態が変化する場合もある。また、がれき等の災害廃棄物に付着したり、地表面に降下した放射性セシウムが雨によって流され、下水処理の過程で濃縮されることによって、高濃度の放射性セシウムを含む下水汚泥等が生じることがある。さらに、土壌に含まれる放射性セシウムを吸収することによって、草木が放射能に汚染され、これら放射能に汚染された草木を含むものを焼却して生じた焼却灰においては、ガラスなどに放射性セシウムが閉じ込められていることもある。本発明では、これらの処理し難い状態になっている放射性セシウム化合物を分離し回収しようとするものである。
【0010】
上記放射性セシウムで汚染された廃棄物とCaO源及び/又はMgO源は、得られる混合物中の酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、及び二酸化珪素(SiO)の各々の質量が、下記式(1)を満たすように、前記廃棄物とCaO源及び/又はMgO源の種類及び配合割合を定めたうえで混合される。
((CaO+1.39×MgO)/SiO)>2.2 ・・・(1)
(式中、CaO、MgO、SiOは、各々、カルシウムの酸化物換算の質量、マグネシウムの酸化物換算の質量、珪素の酸化物換算の質量を表す。)
なお、CaOの1モルの質量は、MgOの1.39モルの質量に相当することから、上記式(1)において、MgOの質量に1.39を乗じている。
該質量比が2.2を超えると、得られた焼成物をセメントクリンカーとして利用することができる。該質量比の上限は、特に限定されないが、得られた焼成物をセメントクリンカーとして利用する場合のセメントクリンカーの物性の観点から、好ましくは3.7以下である。
なお、得られた焼成物をセメントクリンカーとして利用する場合、上述した廃棄物及びCaO源及び/又はMgO源以外にも、一般のポルトランドセメントクリンカー原料、例えば、珪石、粘土等のSiO原料、;粘土等のAl原料;鉄滓、鉄ケーキ等のFe原料を、上述した廃棄物等と共に加熱してもよい。
【0011】
上記の廃棄物とCaO源及び/又はMgO源との混合に際し、必要に応じて、混合を兼ねて解砕、粉砕等を行ったり、あるいは、解砕機もしくは粉砕機と、混合機を組み合わせて、2段階の処理を行ってもよい。後述するロータリーキルンを用いて焼成する場合は、ロータリーキルン内で各材料が回転混合されるので、上述のポルトランドセメントクリンカー原料、廃棄物等の一部をそのままキルンの窯尻に投入してもよい。
【0012】
放射性セシウムで汚染された廃棄物とCaO源及び/又はMgO源との混合物の加熱温度は、好ましくは1250〜1550℃、より好ましくは1270〜1500℃、さらに好ましくは1290〜1450℃、特に好ましくは1300〜1400℃である。
上記温度範囲内で加熱することで、廃棄物に含まれる放射性セシウムを効率的に揮発させることができる。加熱温度が1250℃未満では、未反応のCaOが多量に生成してしまい、セメントクリンカーとしての品質が悪化すると共に、放射性セシウムの揮発量が少なくなる。加熱温度が1550℃を超えると、液相が形成されることで放射性セシウムがこの液相中に取り込まれて揮発しにくくなることに加え、焼成物が溶融して硬くなり、粉砕し難くなるので、セメントクリンカーとして利用し難くなる。
混合物の加熱時間は、放射性セシウムの十分な揮発量を得る観点から、好ましくは15分間以上、より好ましくは30分間以上である。ロータリーキルン等を用いて原料を転動させる場合には、ガスと放射性セシウムの接触率が上がり、熱伝導率も良くなるため、原料を静置させる場合に比べて、短い焼成時間で、高い揮発率を得ることができる。
加熱手段としては、連続式とバッチ式のいずれも用いることができる。
連続式の加熱手段の例としては、ロータリーキルン等が挙げられる。
バッチ式の加熱手段の例としては、焼却炉、電気炉、マイクロ波加熱装置等が挙げられる。
中でも、連続式の加熱手段は、処理の効率を高める観点から、本発明で好ましく用いられる。特に、ロータリーキルンは、放射性セシウムの揮発に適する加熱温度及び廃棄物の滞留時間を容易に与えることができるので好ましい。また、ロータリーキルンは、加熱後に得られる焼成物をセメントクリンカーとして用いる観点からも好ましい。
【0013】
次に、ロータリーキルンを用いた、セメントクリンカーの製造方法について説明する。
上記の廃棄物、CaO源及び/又はMgO源等の、セメントクリンカーの原料を、各種セメントクリンカーが得られるような組成で混合した後、ロータリーキルンを用いて焼成し、揮発した放射性セシウムを排ガスとして回収すると共に、焼成物を冷却することによって、セメントクリンカーを製造することができる。
各原料を混合する方法は特に限定されず、慣用の装置等を用いて行うことができる。
焼成に用いられる燃料は、主原料である石炭のほか、燃料代替廃棄物、例えば、廃油、廃タイヤ、廃プラスチック、木屑、ゴミ固形化燃料等を使用することができる。
焼成温度は、上述のとおり、好ましくは1250〜1550℃、より好ましくは1270〜1500℃、さらに好ましくは1290〜1450℃、特に好ましくは1300〜1400℃である。
焼成時間は、15分間以上、好ましくは30〜120分間、より好ましくは40〜60分間である。
また、セメントクリンカーを冷却する方法は、特に制限されず、慣用の装置(例えば、ロータリーキルンに付属するクーラー)等を用いて行うことができる。
【0014】
排ガス中の揮発した放射性セシウムは、冷却されて固体になった後、集塵機またはスクラバー等で回収することができる。また、キルンにプレヒーターが取り付けられている場合は、揮発した放射性セシウムを高濃度で含む排ガスの一部を抽気して、冷却することによって、固体となった放射性セシウムを回収することもできる。回収した放射性セシウムは、必要に応じて水洗、吸着、ブリケットマシン等の造粒機、プレス機等の加圧成型機による圧縮などによるさらなる減容化処理を行った後、コンクリート製の容器などに密閉して保管することができる。これにより、放射性物質を含む廃棄物を外部に漏出させずに、減容化した状態で保管することができる。
【0015】
加熱後に得られる焼成物は、セメントクリンカー、コンクリート・アスファルト用骨材、埋土材などの建設資材として用いることができる。得られるセメントクリンカーの具体例としては、各種ポルトランドセメントクリンカーのほか、水硬率(H.M.)を1.8〜2.3、ケイ酸率(S.M.)を1.3〜3.0、鉄率(I.M.)を1.3〜2.8に調整したセメントクリンカー等が挙げられる。具体的には、例えば普通ポルトランドセメントクリンカー、早強ポルトランドセメントクリンカー、中庸熱ポルトランドセメントクリンカー、低熱ポルトランドセメントクリンカー、耐硫酸塩セメントクリンカー、エコセメントクリンカー等が挙げられる。
【0016】
また、上記セメントクリンカーと、石膏と、必要に応じて配合される他の材料(以下、混合材ともいう。)を混合して粉砕することなどによって、セメントを得ることができる。
石膏としては、二水石膏、α型又はβ型半水石膏、無水石膏等が挙げられる。これらの石膏は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
石膏のブレーン比表面積は、セメント組成物(例えば、モルタル、コンクリート等)の流動性、強度発現性、及びコスト等の観点から、好ましくは2000〜10000cm2/g、より好ましくは2500〜8000cm2/gである。
石膏の量は、セメントのブレーン比表面積やセメントクリンカー中のC3A量に応じて調整することが好ましく、例えばセメントのブレーン比表面積が3000〜3500cm2/gの場合には、全SO換算で好ましくは1〜4質量%、より好ましくは1.5〜3.5質量%、特に好ましくは1.8〜3質量%となる量に定めるのが、セメント組成物の水和熱、凝結、流動性、耐久性、及び強度発現性等の観点から好ましい。一方、セメントのブレーン比表面積が3500〜4500cm2/gの場合には、全SO換算で好ましくは2〜6質量%、より好ましくは2.5〜5質量%、特に好ましくは3〜4.5質量%となる量に定めるのが、セメント組成物の水和熱、凝結、流動性、耐久性、及び強度発現性等の観点から好ましい。
【0017】
本発明において、セメントは、セメントクリンカー粉砕物と他の材料(石膏、混合材)を混合し粉砕することによっても製造することができる。この場合、セメントクリンカー粉砕物のブレーン比表面積は、セメント組成物の流動性、強度発現性、及びコスト等の観点から、好ましくは2500〜4500cm/g、より好ましくは3000〜4200cm/gである。
なお、セメントクリンカーと他の材料(石膏、混合材)を同時に粉砕する場合は、セメントのブレーン比表面積は、流動性、強度発現性、及びコスト等の観点から、好ましくは2500〜5000cm/g、より好ましくは3000〜4500cm/gである。
【0018】
セメントの材料として必要に応じて配合される混合材の例としては、高炉スラグ粉末、フライアッシュ、石灰石粉末、珪石粉末及びシリカフュームから選ばれる1種以上の無機粉末や、2CaO・SiO(「CS」と略記される。)及び2CaO・Al・SiO(「CAS」と略記される。)を含み、CS100質量部当たりのCASと4CaO・Al・Fe(「CAF」と略記される。)の合計量が10〜100質量部であり、かつ、3CaO・Al(「CA」と略記される。)の含有量が20質量部以下である焼成物の粉砕物等が挙げられる。
なお、ここでの無機粉末及び焼成物の粉砕物は、これら両方を用いてもよいし、いずれか一方のみを用いてもよい。
【0019】
上記の無機粉末(高炉スラグ粉末等)を用いることによって、水和熱の低減、流動性の向上、耐久性及び長期強度発現性の向上等を図ることができる。上記の焼成物の粉砕物を用いることによって、水和熱の低減、及び流動性の向上を図ることができる。また、上記の焼成物の粉砕物は、産業廃棄物等を原料としているため、廃棄物の有効利用の促進を図ることができる。
【0020】
上記の無機粉末のうち、高炉スラグ粉末、フライアッシュ、石灰石粉末、及び珪石粉末のブレーン比表面積は、セメント組成物の流動性、強度発現性等の観点から、好ましくは2500〜10000cm/gであり、特に強度発現性の観点から、より好ましくは3000〜10000cm/g、さらに好ましくは4000〜9000cm/gである。
また、高炉スラグ粉末の配合量は、セメント組成物の水和熱、流動性、耐久性、及び強度発現性等の観点から、セメント組成物中、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下となる量である。フライアッシュ、石灰石粉末、及び珪石粉末の配合量(これらの2種以上を併用する場合は合計量)は、セメント組成物の水和熱、流動性、耐久性、及び強度発現性等の観点から、セメント組成物中、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下となる量である。
なお、この場合のセメント中の石膏量は、全SO換算で好ましくは1〜5質量%、より好ましくは1.5〜4質量%、特に好ましくは1.8〜3質量%となる量とするのが、セメント組成物の水和熱、凝結、流動性、耐久性、及び強度発現性等の観点から好ましい。
【0021】
上記の無機粉末のうち、シリカフュームのBET比表面積は、入手のし易さや、セメント組成物の流動性、強度発現性等の観点から、好ましくは5〜20m/g、より好ましくは6〜18m/g、特に好ましくは7〜15m/gである。また、シリカフュームの配合量は、セメント組成物の水和熱、流動性、耐久性、及び強度発現性等の観点から、セメント組成物中、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下となる量である。
なお、この場合のセメント中の石膏量は、セメント組成物の水和熱、凝結、流動性、耐久性、及び強度発現性等の観点から、全SO換算で好ましくは1〜5質量%、より好ましくは1.5〜4質量%、特に好ましくは1.8〜3質量%である。
【0022】
混合材である上記の焼成物の粉砕物は、CS及びCASを必須成分とするもので、CS100質量部に対して、CASを好ましくは10〜100質量部、より好ましくは20〜90質量部含有するものである。CASの含有量が10質量部未満では、セメント組成物の流動性が悪くなる。また、焼成時に焼成温度を上げてもフリーライム量が低下しにくく、焼成が困難になる。さらに、生成するCSも水和活性のないγ型CSである可能性が高くなり、セメント組成物の強度発現性を大きく低下させることがある。一方、CASの含有量が100質量部を超えると、セメント組成物の強度発現性が低下することがある。
また、混合材である上記の焼成物の粉砕物は、CS100質量部当たりのCAの含有量が20質量部以下、好ましくは10質量部以下のものである。CAの含有量が20質量部を超えると、セメント組成物の水和熱が大きくなり、流動性も悪くなる。
【0023】
鉱物組成は、使用原料中のCaO、SiO、Al、Feの各含有量(質量%)から、次式により求めることができる。
AF=3.04×Fe
A=1.61×CaO−3.00×SiO−2.26×Fe
AS=−1.63×CaO+3.04×SiO+2.69×Al+0.57×Fe
S=1.02×CaO+0.95×SiO−1.69×Al−0.36×Fe
【0024】
混合材である上記の焼成物の粉砕物のブレーン比表面積は、セメント組成物の水和熱、流動性、及び強度発現性等の観点から、好ましくは2500〜5000cm/gである。粉砕方法は特に制限されず、例えばボールミル等を用い、通常の方法で粉砕することができる。
該粉砕物の配合量は、セメント組成物の水和熱、流動性、耐久性、及び強度発現性等の観点から、セメント組成物中、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下となる量である。
なお、該粉砕物を含むセメント中の石膏量は、セメント組成物の水和熱、凝結、流動性、耐久性、及び強度発現性等の観点から、全SO換算で好ましくは1〜5質量%、より好ましくは1.5〜4質量%、特に好ましくは1.8〜3質量%である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[合成例1;セシウム吸着粘土の作製]
ベントナイト500gを、セシウムを250mg/リットルの濃度で含む水溶液2リットル中に1日間浸漬した後、遠心分離によって固形分を回収し、さらに該固形分を水洗して、再度遠心分離を行った。これにより、セシウムを1060mg/kgの濃度で含むセシウム吸着粘土を得た。
【0026】
[実施例1]
合成例1で得られたセシウム吸着粘土23gと、石灰石粉末77gを混合した。得られた混合物を、管状電気炉を用いて、60℃の水中に通過させてバブリングして得られた空気(水分量:7%)の存在下で、1300℃で60分間加熱し、焼成物を得た。加熱前の混合物、及び加熱して得られた焼成物(セメントクリンカー)の各々のセシウム(Cs)の含有量を、湿式法を用いて測定し、Csの揮発率(質量%)を求めた。また、NaO及びKOの各量を、蛍光X線分析法(XRF)で測定し、Na及びKの揮発率(質量%)を求めた。結果を表1に示す。
[実施例2]
1300℃で60分間の加熱に代えて、1350℃で60分間の加熱を行った以外は実施例1と同様にして実験した。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
[実施例3]
放射性廃棄物としての都市ごみ処理焼却灰51質量%、石灰石46質量%、及び、鉄原料3質量%(以上の合計100質量%)を、それぞれ粉砕した後、((CaO+1.39MgO)/SiO)の質量比が3.55になるように混合した。得られた混合物をセメントキルンに100kg/時間(hr)の供給速度で投入し、1450℃で約30分間加熱した。加熱前の混合物、及び加熱後の焼成物(セメントクリンカー)の各々の放射性セシウムの量を、ガンマ線スペクトロメトリーを用いて測定した。また、これらの主要な化学組成を、蛍光X線分析法(XRF)で測定した。その結果、加熱前の混合物中の放射性セシウムの量は、2500Bq/kgであった。焼成物中の放射性セシウムの量は、未検出(10Bq/kg以下)であった。また、焼成物は、水硬率(H.M.)が2.06、ケイ酸率(S.M.)が1.68、鉄率(I.M.)が1.70の各値を有していた。
上記焼成物(セメントクリンカー)に二水石膏を、焼成物と二水石膏の混合物中のSO3の含有率が3.8質量%となるように混合粉砕して、ブレーン比表面積が4000cm/gのセメントを製造した。このセメントは、凝結が始発2時間45分、終結4時間25分、モルタル強さが3日で27.6N/mm、7日で41.0N/mm、28日で55.3N/mmの各物性値を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性セシウムで汚染された廃棄物、及び、CaO源及び/又はMgO源を加熱して、上記廃棄物中の放射性セシウムを揮発させる加熱工程を含む放射性セシウムの除去方法であって、
上記加熱工程において、CaO、MgO、及びSiOの各々の質量が、下記式(1)を満たすように、上記廃棄物、CaO源及びMgO源の各々の種類及び配合割合を定めることを特徴とする放射性セシウムの除去方法。
((CaO+1.39×MgO)/SiO)>2.2 ・・・(1)
(式中、CaO、MgO、SiOは、各々、カルシウムの酸化物換算の質量、マグネシウムの酸化物換算の質量、珪素の酸化物換算の質量を表す。)
【請求項2】
上記加熱工程における加熱温度が1250〜1550℃である請求項1に記載の放射性セシウムの除去方法。
【請求項3】
放射性セシウムで汚染された廃棄物、及び、CaO源及び/又はMgO源を加熱して、上記廃棄物中の放射性セシウムを揮発させ、焼成物を得る加熱工程を含む焼成物の製造方法であって、
上記加熱工程において、CaO、MgO、及びSiOの各々の質量が、下記式(1)を満たすように、上記廃棄物、CaO源及びMgO源の各々の種類及び配合割合を定めることを特徴とする焼成物の製造方法。
((CaO+1.39×MgO)/SiO)>2.2 ・・・(1)
(式中、CaO、MgO、SiOは、各々、カルシウムの酸化物換算の質量、マグネシウムの酸化物換算の質量、珪素の酸化物換算の質量を表す。)
【請求項4】
請求項3に記載の焼成物の製造方法によって得られた焼成物からなる、放射性セシウムの含有率が100Bq/kg以下であるセメントクリンカー。
【請求項5】
請求項4に記載のセメントクリンカーの粉砕物、及び石膏を含むセメント。