説明

放射性セシウム含有飛灰のセメント固化物の製造方法

【課題】焼却灰のなかでも放射性セシウム含有量の多い飛灰や溶融飛灰を放射性セシウムを溶出させずに長期にわたって埋立処理できる手段を開発する。
【解決手段】上記課題は、放射性セシウムを含有する飛灰に、水不溶性で粉粒体状の陽イオン交換体を混合するとともに水を添加してスラリー状にし、次いでセメントを添加して固化することを特徴とする、放射性セシウム含有飛灰のセメント固化物の製造方法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性セシウムを含有する飛灰や溶融飛灰のセメント固化物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所等の放射性物質を取扱う施設から排出される廃棄物のうち可燃性のものは焼却処理されるが、その焼却の際に発生する焼却灰には放射性物質が含まれており、そのなかで放射性セシウムは半減期が134Csで約2年、137Csで約30年と長いので、その保管には細心の注意を払う必要がある。特に、最近では福島県の原子力発電所の事故により多量の放射性物質が放出されて広範囲にわたって汚染を引起し、その汚染地域から出される可燃物の焼却灰の処理も問題になっている。
【0003】
そこで、環境省では、放射性セシウム濃度が8,000Bq/kgを超え100,000Bq/kg以下の焼却灰については、セメントを加えて固化物とし、セメント固化物の周囲を覆って埋立処分する指針を示している(非特許文献1)。そして、セメントの固化物の強度について、1mあたり150/kg以上で、埋立処分を行う際の一軸圧縮強度が0.98メガパスカルの場合とそうでない場合の埋立方法を別に規定している。
【0004】
一方、有害物を含む焼却灰のセメント固化方法として配合比率を変えて一軸圧縮強度を求めた報告もある(非特許文献2)。
【0005】
また、放射性廃棄物の焼却灰をセメントで固化する際に、焼却処理によって生じた塩化鉛等の重金属塩化物を水への溶解性が低い状態に変換する方法も開示されている(特許文献1)。この変換には、アルカリ金属水酸化物やアルカリ土類金属水酸化物などが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−256660号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】環境省環廃対発第110831001号、環廃産発第110831001号、平成23年8月31日
【非特許文献2】川戸ら、「焼却灰のセメント固化試験I−模擬焼却灰の基本的固化特性−」、JAEA−Technology2010−013、2010年7月、p1〜38
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
焼却灰のセメント固化物には亀裂が入っていることがあり、その場合、雨水が浸透するとこの亀裂から放射性セシウムが溶出してくる。そこで、従来の埋立方法では、埋立処分場の構造を変えて、隔壁層を設けたり、コンクリート容器に入れたり、処分場からの廃水を処理する方法などが挙げられている。しかしながら、放射性セシウムは漏出しないよう細心の注意を払う必要があり、これらの方法でも、運搬中のトラブルや地震などによる処分場の地割れや廃水処理設備のトラブルなどの不測の事態が起これば放射性セシウムが漏出する懸念がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討の結果、焼却灰の内、炉底灰である主灰には放射性セシウムの含有量が少なく、また、セシウムが主に水に難溶性の酸化物の形で存在しているのに対し、煙道から捕集される飛灰には放射性セシウムの含有量が大きく、しかも多くが水溶性の塩化セシウムなどの形で含まれていることが知られている。そして、この飛灰に予め水に難不溶性で半分、粒体状の陽イオン交換体を混合し、水を加えてスラリー状にしておけば、そこに含まれている塩化セシウムなどの水溶性の放射性セシウムが溶けだして、放射性セシウムが陽イオン交換体に吸着され、この状態でセメント固化物にしておけば、雨水が浸透してきても放射性セシウムは陽イオン交換体に吸着されていて溶出の問題がなく、放射性セシウムをセメント固化物に封じ込めておくことが出来ることを見出した。
【0010】
本発明は、このような知見に基いてなされたものであり、放射性セシウムを含有する飛灰に、水不溶性で粉粒体状の陽イオン交換体を混合するとともに水を添加してスラリー状にし、次いでセメントを添加して固化することを特徴とする、放射性セシウム含有飛灰のセメント固化物の製造方法を提供するものである。
【0011】
本発明の方法の概略を図1に示す。同図に示すように、汚染飛灰に、微粉化陽イオン交換体と水を加えて混合することによって放射性セシウムを陽イオン交換体に吸着させ、これにセメントを加えて固化物とすることにより、埋立てても放射性セシウムの溶出しない安定固化物を得ることができる。
【0012】
一方、従来の方法では、図3に示すように、水溶性の放射性セシウムがそのままセメントで固化されているので、雨水が割れ目等から浸透すると放射性セシウムが溶出してくる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、放射性セシウムを含有する飛灰を安定してセメント固化物に封じ込めて、埋立て処分場からの溶出を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の方法を説明する図である。
【図2】本発明の方法を説明する処理フローである。
【図3】従来の方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
放射性セシウムを含有する可燃物を焼却した焼却灰には、焼却炉の炉底に溜まる炉底灰である主灰と、燃焼排ガスに含まれてバグフィルター等の集塵機で捕集される飛灰がある。また、この主灰を溶融炉で加熱溶融してスラグ化する際に発生してバグフィルター等の集塵機で捕集される溶融飛灰もある。本発明では、焼却炉から発生する飛灰と溶融炉から発生する飛灰のいずれにも適用できる。これらの飛灰のセシウムの含有量は通常0.1〜10ppm程度であり、そのうち、放射性セシウムの含有量は、放射能濃度により異なるが、初期の灰の放射線濃度を134Csと137Csが等しく、たとえば、それぞれ500Bq/kg(すなわち、合計で1,000Bq/kg)とすると、134Csは約10pg/kg、137Csは約155pg/kgと極微量である。
【0016】
この飛灰に添加する陽イオン交換体は、放射性セシウムを効率よく吸着できるものが良い。また、放射性セシウムを吸着後も雨水等で溶出しないために水に難不溶性、特に不溶性のものがよく、均一に混合させる観点から粉粒体であることが好ましい。
【0017】
このような陽イオン交換体の好ましいものの例としては、無機の陽イオン交換体では、ゼオライト、ベントナイト、ヘテロボリ酸塩であるモリブドリン酸アンモニウム、タングストリン酸アンモニウム、およびNi系もしくはFe系フェロシアン化物等、有機の陽イオン交換体ではイオン交換樹脂、破砕したイオン交換膜等を挙げることができる。イオン交換樹脂やイオン交換膜は、イオン交換基が酸基のものであり、強酸性、弱酸性のいずれであってもよい。陽イオン交換容量は大きいほうが好ましく、50meq/100g以上、好ましくは、100meq/100g以上のものがよい。上限は特に制限されないが、実用上120meq/100g程度まで、特に200meq/100g程度である。粒径は、均一分散という観点からは細かい方がよいが、あまり細かいと凝集しやすい等の取り扱い上の問題があり、大きすぎると吸着能力上好ましくない。そこで、平均粒径で0.01〜200μm程度、好ましくは0.1〜50μm程度のものがよい。粒形は問わないが、球形、破砕形などを例示することができる。
【0018】
特に、陽イオン交換体にシアン化鉄を担持しておくことが好ましい。好ましいシアン化鉄の例として、プルシアンブルー、フェロシアン化カリウム、フェリシアン化カリウム等のヘキサシアノ鉄塩等を挙げることができる。担持方法としては、Ni(NO、KFe(CN)塩溶液を順次含浸させ、不溶性フェロシアン化物を細孔内に沈殿生成させることが好ましい。
【0019】
陽イオン交換体の添加量としては、飛灰100g当り1〜100g程度、好ましくは20〜50g程度でよい。シアン化鉄を担持させた場合には、1〜2割程度添加量を減少させることができる。
【0020】
飛灰中の放射性セシウムをスラリー状にして陽イオン交換体に吸着させるためには水を存在させる必要がある。この水の添加量は少なすぎると放射性セシウムの陽イオン交換体への吸着が不充分になり、多すぎるとその後のセメント固化の障害になるためその対策が必要になる。そこで、飛灰と陽イオン交換体の混合物をスラリー状に存在させるための水の量は、飛灰に対して10〜90重量%、好ましくは20〜70重量%である。飛灰に対して水の添加量が10重量%未満の場合、飛灰と陽イオン交換体の混合物はスラリー状にならず陽イオン交換体への吸着が不充分となる。さらに、飛灰に対して水の添加量が90重量%を超えると、セメントが固化するまで長時間を要する。
【0021】
飛灰への陽イオン交換体と水の添加時期は、要は、飛灰中の放射性セシウムが陽イオン交換体に充分に吸着できればよく、陽イオン交換体と水のいずれを先に加えても、両者を同時に加えてもよい。飛灰への陽イオン交換体の混合性を高める点で、集塵機前の煙道に陽イオン交換体を吹込むことは好ましい。飛灰に陽イオン交換体と水を加えた後は、撹拌混合して、放射性セシウムが陽イオン交換体に充分吸着するようにする。そのためには、水溶性の放射性セシウムの飛灰からの溶出と、溶出した放射性セシウムの陽イオン交換体への移動が必要であり、混合後10〜20分程度おくことが好ましい。セメントは、この撹拌混合時に加えてもよいが、放射性セシウムの陽イオン交換体へ吸着させた後に加えるほうが、吸着を充分に行わせる点で好ましい。
【0022】
このようにして生成したスラリーに、鉛、カドニウムなどの溶出を防止する重金属の安定剤を水とともに添加してもよい。重金属溶出安定剤としては、ジチオカルバミン酸ソーダのようなキレート薬剤やリン酸化合物を用いることができる。
【0023】
セメントの種類は、特に限定されず、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメント、高炉セメント、低アルカリ性セメント、水砕スラグ系セメントなどを使用することができる。セメントの配合量は、非特許文献1の別添資料に示された、セメント固化物1m当り150kg以上、かつ埋立処分を行う際における一軸圧縮強度が0.98メガパスカルの強度が得られるように定められ、セメントの種類等にもよるが、通常飛灰に対する重量比で10〜50重量%程度である。セメントには砂利、砂、その他の各種骨材を配合することもできる。セメント混合物には、水分が不足している場合には、不足分の水を追加して混練し、型に流し込んで設定強度が得られるまで養生し、非特許文献1の指針に従い、所定の構造で埋立てを行う。
【実施例】
【0024】
図2に示した処理フローに基いて飛灰と陽イオン交換体を混合した。
【0025】
ここで、用いた飛灰の成分は、Si:10重量%、Al:2重量%、Ca:20重量%、Na:4重量%、K:4重量%、Cl:10重量%、Pb:0.3重量%であり、放射性セシウムの濃度(134Csと137Csの合計)は10,000Bq/kgである。
【0026】
また、陽イオン交換体は、以下の性質を有する天然ゼオライト(新東北化学工業製)を用いた。
【0027】
・ 酸化ケイ素(SiO):70重量%
・ 酸化アルミニウム(Al):10重量%
・ 酸化カルシウム(CaO):2重量%
・ 平均粒径:30μm
・ 交換容量:110meq/100g陽イオン
焼却炉の煙道に、飛灰100gあたり30gの陽イオン交換体を吹込み混合した。
煙道では、HClやSOを除去するために、消石灰などの酸性ガス除去薬剤を吹き込んでいるが、酸性ガス除去薬剤と煤塵量とを合計した量を飛灰量とした。
【0028】
さらに、飛灰100gに対して、水50mLを添加して、撹拌機にて約10分間混合してスラリー状にした。混合撹拌中、重金属溶出安定剤として、ジチオカルバミン酸ソーダからなるキレート薬剤を飛灰100gに対して1g添加した。
【0029】
このスラリー状の混合物に、セメントを飛灰100gに対して30g添加し、約20分間混練した後、約1日間養生してセメント固化物を製造した。
【0030】
環境庁告示46号法に基いて上記のセメント固化物の溶出試験を実施した結果、放射性セシウムの溶出濃度は100Bq/Lであった。一方、陽イオン交換体を用いないで飛灰のみでセメント固化物を製造した場合、放射性セシウムの溶出濃度は1,000Bq/Lであった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明により、放射性セシウムを漏出させずに埋立処分できるので、放射性セシウム含有飛灰の埋立処理に広く利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性セシウムを含有する飛灰に、水不溶性で粉粒体状の陽イオン交換体を混合するとともに水を添加してスラリー状にし、次いでセメントを添加して固化することを特徴とする、放射性セシウム含有飛灰のセメント固化物の製造方法。
【請求項2】
陽イオン交換体を集塵機前の煙道に吹込むことを特徴とする請求項1記載の放射性セシウム含有飛灰のセメント固化物の製造方法。
【請求項3】
陽イオン交換体の平均粒径が0.1〜50μmであることを特徴とする請求項1又は2記載の放射性セシウム含有飛灰のセメント固化物の製造方法。
【請求項4】
陽イオン交換体の陽イオン交換容量が100〜200meq/100g陽イオンであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の放射性セシウム含有飛灰のセメント固化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−96781(P2013−96781A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238462(P2011−238462)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)