放射性ダストモニタ
【課題】バックグラウンド計数値を正確に把握し、測定対象核種を高感度に測定する。
【解決手段】サンプル空気に含まれるダストを捕集する濾紙3と、ダストから放射される放射線を検出して電気パルス信号に変換する放射線検出器7と、電気パルス信号から得られる波高データから波高スペクトルを測定するスペクトル測定部8と、波高スペクトルの測定対象領域についてα線の計数値を求め、混入するラドン・トロンの娘核種のα線によるバックグラウンド計数値を推定して、前記計数値からバックグラウンド計数値を除去した正味計数値に基づいて測定対象核種の放射能濃度を演算する演算部9を備えている。尚、演算部9は、波高スペクトルに基づいてラドン・トロンの娘核種のスペクトルピークについてテールを指数関数で近似して、当該指数関数に基づいて前記バックグラウンド計数値を演算する。
【解決手段】サンプル空気に含まれるダストを捕集する濾紙3と、ダストから放射される放射線を検出して電気パルス信号に変換する放射線検出器7と、電気パルス信号から得られる波高データから波高スペクトルを測定するスペクトル測定部8と、波高スペクトルの測定対象領域についてα線の計数値を求め、混入するラドン・トロンの娘核種のα線によるバックグラウンド計数値を推定して、前記計数値からバックグラウンド計数値を除去した正味計数値に基づいて測定対象核種の放射能濃度を演算する演算部9を備えている。尚、演算部9は、波高スペクトルに基づいてラドン・トロンの娘核種のスペクトルピークについてテールを指数関数で近似して、当該指数関数に基づいて前記バックグラウンド計数値を演算する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は放射性ダストモニタに関し、特に、測定点からサンプリングしたサンプル空気を濾紙に通してサンプル空気中に含まれるα線を放出する測定対象核種の放射能濃度を測定するための放射性ダストモニタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
核燃料再処理施設等において、α線を放射するウランやプルトニウムを測定対象とする放射性ダストモニタは、測定点の空気をサンプリングして濾紙に通して、そのサンプル空気に浮遊しているダストを濾紙に捕集し、そのダストから放出されるα線を放射線検出器で検出し、濾紙を通過したサンプル空気量と放射線検出器から出力される電気パルス信号の計数結果とによって、測定点の空気中に存在する測定対象の粒子状放射性物質の濃度を測定・監視する装置である。
【0003】
ウランやプルトニウムのα線を測定する場合は、天然放射性核種であるラドン・トロンの娘核種のα線がバックグラウンドとして混入する。このため、測定対象のα線を高感度で計測しようとする時には、その影響が無視できなくなり、ラドン・トロンの娘核種の影響を補償することが不可欠となる。
【0004】
ウランやプルトニウムを測定対象とする場合において、ラドン・トロンの娘核種から放射されるα線のエネルギーは、測定対象核種から放射されるα線のエネルギーより大きい。更に、ラドン・トロンの娘核種を含むダストはエアロゾル状で粒径が1μm以下のものを多く含み、濾紙を通過するものもあるが、濾紙の表面に捕集されるものと内部に捕集されるものがある。濾紙表面だけに捕集される場合であれば、計測の環境条件が決まれば、パルス波高スペクトルから測定対象領域に混入するバックグラウンド計数値を計算推定することができる。しかし、濾紙の内部に捕集されるものが増えてくると、ラドン・トロンの娘核種は低エネルギー側へ大きく尾(テール)を引く。このテール部がバックグラウンドとして測定対象領域に混入する様子を図7に示す。図7からわかるように、ラドン・トロンの娘核種のRaA&ThC、RaC’、ThC’のスペクトルピークのテール部がウランとプルトニウムの測定対象領域に重なってきている。一方、測定対象核種であるウラン・プルトニウムを含むダストは、通常、ラドン・トロンの娘核種のダストよりはその粒径が大きいので、濾紙の孔径を選択すれば、その大部分を濾紙表面で捕集することができる。したがって、そのパルス波高スペクトルは、サンプリングの環境条件、すなわち、濾紙と放射線検出器との相対位置関係、その間にある空気の温度と圧力と湿度、及びそれらの間に挿入されている保護膜などで一義的に決定するので、図7のようにU−238、U−234、Pu−239のスペクトルピークにはテールがなく、その幅は比較的狭い。しかし、濾紙に捕集されるラドン・トロンの娘核種ダストの位置が変化すると、そのダストから放出されるα線のエネルギーが濾紙に吸収される割合が変化するため、バックグラウンド計数が大きく変動する。したがって、測定対象領域の計数からバックグラウンド計数を推定して引き算する補償方法において、一義的な計算でバックグラウンドを推定すると補償誤差が大きくなる。
【0005】
従来の放射性ダストモニタは、この補償誤差を抑制するために、測定対象核種のパルス波高領域(第1領域)の他に、バックグラウンドとして第1領域に混入するラドン・トロンの娘核種の計数値を把握するため、ラドン・トロンの娘核種のパルス波高に対応した領域(第2領域)を設定し、第1領域に対応した第1計数手段及び第2領域に対応した第2計数手段を備えて、それぞれの領域における計数値を測定し、第2計数手段の計数値に、濾紙の厚さ方向の捕集位置を考慮した所定の係数を乗じ、その結果を第1計数手段に混入するバックグラウンド計数値とし、第1計数手段の計数値からバックグラウンド計数値を差し引いて正味計数値としている。前記所定の係数は、第2領域を低波高領域と高波高領域の2つに分けて、低波高領域計数値と高波高領域計数値の比に基づいて決定される。または、前記所定の係数は、捕集時間に基づいて決定されるものである。または、第2計数手段の積算計数値に基づいて決定されるものである。更に、できるだけ濾紙の表面でダストを捕集して補償誤差を小さくしようとする方法として、捕集開始から3日目までの補償誤差が特に大きいことに着目し、予備ダストを3日分捕集してから使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
【特許文献1】特許第3374600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の放射性ダストモニタは、以上のように濾紙の厚さ方向に関する捕集位置を大雑把に把握して、それに基づきバックグラウンド計数値推定の演算に反映しているが、ラドン・トロンの娘核種の代表核種を選定して捕集位置の評価を行っているため、それ以外の娘核種の影響が評価に反映されないという問題点があった。更に、その評価が注目している核種のパルス波高領域を2分割してその比を使用するという簡便な方法なために、バックグラウンド推定における誤差が大きいという問題点があった。これらの問題点が測定対象のα線を高感度で計測することの障害になっていた。また、バックグラウンド計数値推定の演算のパラメータに捕集時間を導入する方法、および、バックグラウンド積算計数値を導入する方法のいずれも、代表核種のみについての影響評価であることから、同様に補償誤差が大きいという問題点があった。更に、予備ダストで濾紙の厚み方向を予めクリーンなダストで埋めておき、対象ダストを濾紙表面で捕集させるようにする方法は、予備ダストのチェックおよび予備捕集という新たな作業を発生させ、コストの大幅な上昇になるという問題点があった。
【0008】
この発明はかかる問題点を解決するためになされたものであり、濾紙におけるダストの捕集位置により変動するバックグラウンド計数値を正確に把握し、ラドン・トロンの娘核種の影響を正確に補償することにより、測定対象核種を高感度に測定できる放射性ダストモニタを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、測定点からサンプリングしたサンプル空気に含まれるダストを捕集する濾紙と、そのダストから放射される放射線を検出して電気パルス信号に変換する放射線検出手段と、その電気パルス信号の波高を測定し、その波高データに基づいて波高スペクトルを測定するスペクトル測定手段と、その波高スペクトルの測定対象領域についてα線の計数値を求める測定対象領域計数値演算手段と、前記測定対象領域に混入するラドン・トロンの娘核種のα線によるバックグラウンド計数値を推定するバックグラウンド計数値推定手段と、前記測定対象領域計数値演算手段により求められた前記計数値から前記バックグラウンド計数値を除去した正味計数値に基づいて測定対象核種の放射能濃度を演算して測定値として出力する放射能測定手段とを備え、前記バックグラウンド計数値推定手段は、前記波高スペクトルに基づいて前記ラドン・トロンの娘核種のスペクトルピークについてテールを指数関数で近似して、近似した前記指数関数に基づいて前記測定対象領域に混入するバックグラウンド計数値を演算することを特徴とする放射性ダストモニタである。
【発明の効果】
【0010】
この発明は、測定点からサンプリングしたサンプル空気に含まれるダストを捕集する濾紙と、そのダストから放射される放射線を検出して電気パルス信号に変換する放射線検出手段と、その電気パルス信号の波高を測定し、その波高データに基づいて波高スペクトルを測定するスペクトル測定手段と、その波高スペクトルの測定対象領域についてα線の計数値を求める測定対象領域計数値演算手段と、前記測定対象領域に混入するラドン・トロンの娘核種のα線によるバックグラウンド計数値を推定するバックグラウンド計数値推定手段と、前記測定対象領域計数値演算手段により求められた前記計数値から前記バックグラウンド計数値を除去した正味計数値に基づいて測定対象核種の放射能濃度を演算して測定値として出力する放射能測定手段とを備え、前記バックグラウンド計数値推定手段は、前記波高スペクトルに基づいて前記ラドン・トロンの娘核種のスペクトルピークについてテールを指数関数で近似して、近似した前記指数関数に基づいて前記測定対象領域に混入するバックグラウンド計数値を演算することを特徴とする放射性ダストモニタであるので、濾紙におけるダストの捕集位置により変動するバックグラウンド計数値を正確に把握し、ラドン・トロンの娘核種の影響を正確に補償することにより、測定対象核種を高感度に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1に係る放射性ダストモニタを図に基づいて説明する。図1に示すように、サンプル空気が吸入される送気管1が、集塵部2に設けられている。集塵部2内には濾紙3が設置され、サンプル空気が濾紙3を通過することにより、ダスト4が捕集される。また、集塵部2の外部には、ダスト4が除去されたサンプル空気の流量を計測するための流量計5が接続されている。集塵部2から排出されて、流量計5で流量が計測されたサンプル空気は、ポンプ6から排気されて、サンプル空気をサンプリングした場所へ戻される。また、集塵部2には、濾紙3により捕集したダスト4に含まれる放射線粒子のα線を検出するための放射線検出器7が設けられている。放射線検出器7にはスペクトル測定部8が接続され、スペクトル測定部8には演算部9が接続されている。演算部9には、演算部9より求められる測定対象核種の放射能濃度を、測定値として表示するための表示部10が接続されている。
【0012】
次に、図1に示した本実施の形態1に係る放射性ダストモニタの動作について説明する。まず、送気管1から吸入されたサンプル空気は集塵部2に導入され、濾紙3によりサンプル空気に含まれるダスト4が捕集される。このとき、十分に粒子径が成長したラドン・トロンの娘核種は濾紙3の表面位置で捕集される。ダストを除去されたサンプル空気は、集塵部2から排出されて流量計5で流量が測定され、ポンプ6から排気される。
【0013】
放射線検出器7は、濾紙3上に捕集されたダスト4に含まれる放射性粒子のα線を検出して電気パルス信号に変換し、スペクトル測定部8に出力する。スペクトル測定部8は電気パルス信号の波高スペクトルを測定し、その波高スペクトルデータを演算部9に出力する。演算部9は、入力した波高スペクトルデータから測定対象領域(測定対象核種のパルス波高領域)の計数値を演算し、次に、ラドン・トロン領域(ラドン・トロンの娘核種のパルス波高に対応した領域)の計数値を演算して、それに基づき測定対象領域に混入するラドン・トロンの娘核種のα線によるバックグラウンド計数値を演算し、測定対象領域計数値からバックグラウンド計数値を引き算して正味計数値を演算し、その正味計数値に基づき測定対象核種の放射能濃度を演算して測定値として出力する。演算した測定値は表示部10に表示される。
【0014】
図2は、演算部9による測定値演算の手順を示すもので、ステップS1の「測定対象領域計数値演算」ステップでは、波高スペクトルデータから測定対象領域のチャンネル毎の計数を積算し、測定対象領域計数値とする。ステップS2の「テールの指数関数近似」ステップでは、波高スペクトルデータから、ラドン・トロンの娘核種のスペクトルピークについてテールを指数関数で近似する。ステップS3の「測定値演算ステップ」では、近似した指数関数に基づき測定対象領域に混入するバックグラウンド計数値を演算し、測定対象領域計数値からバックグラウンド計数値を引き算し、その正味計数値に基づき測定対象核種の放射能濃度を演算して測定値として出力する。
【0015】
図3は、ステップS2のテールの指数関数近似ステップの詳細手順を示すもので、ステップS21の「(x1,n1)、(x2,n2)を入力」のステップでは、ラドン・トロンの娘核種のスペクトルピークについてテールから2データの(x1,n1)、(x2,n2)を選択する。ステップS22の「y1=logn1,y2=logn2を演算」のステップでは、選択したデータの計数を対数に変換する。ステップS23の「y=kx+hのkとhを演算」のステップでは、計数の対数が波高すなわちチャンネル番号に対して直線であるとして直線の傾きと波高ゼロの接点を求める。ステップS24の「n=10kx+h展開」のステップでは、前記傾きと前記波高ゼロの接点に基づきテールの形状を指数関数に近似する。ここで、傾きと接点について、2点の複数の組み合わせから求めた値の平均値を用いれば、より精度の高い近似ができることは当然のことである。
【0016】
図4は、バックグラウンド計数値に影響する全てのラドン・トロンの娘核種についてテールの指数関数近似の演算を行い、それぞれの核種についてバックグラウンド補償を行う演算部9による手順を示すもので、ステップS2Aの「ThC’補償演算」ステップでは、ステップS21とS22と同様な手順でRaC’のテールの形状を指数関数に展開する。ステップS2Bの「RaC’補償演算」ステップでは、RaC’のテールの2点を選択し、その2点の計数に混入するThC’の計数を前記指数関数に基づいて、引き算してから、RaC’のテールの形状を指数関数に展開する。ステップS2Cの「RaA&ThC補償演」ステップでは、RaA&ThCのテールの2点を選択し、RaC’と同様にその2点の計数に混入するThC’及びRaC’の計数を引き算してからRaA&ThCのテールの形状を指数関数に展開する。なお、ステップS1およびステップS3は、図2の処理と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0017】
図5はラドン・トロンのスペクトルデータ事例を示すもので、横軸は波高値で比例して値付けされたチャンネル番号、縦軸はチャンネルに対応した計数を対数表示したものである。これからわかるように、スペクトルピークに近い2点(x1,y1)および(x2,y2)は概ね直線y=kx+hになっているのがわかる。また、測定時点が違うと、テールの傾きが大きく異なり、更に、測定時点が違うと、RaA&ThCのピーク計数値が同程度でも、ThC’のピーク位置が大きく異なることがあることがわかる。図6は、求めた一次関数y=kx+hに基づきテールを指数関数n=10kx+hに展開したものである。図7はこのテール部がバックグラウンドとして測定対象領域に混入する様子を示している。図7からわかるように、ラドン・トロンの娘核種のRaA&ThC、RaC’、ThC’のスペクトルピークのそれぞれについて、テール部がウランとプルトニウムの測定対象領域に重なってきている。このことは、従来のような一義的な補償では測定誤差が大きくなり、本実施の形態1のようなそれぞれのスペクトルピーク毎にきめ細かな補償が必要であることを示している。なお、本実施の形態1では、ラドン・トロンの娘核種のα線スペクトルピークから低エネルギー側に立ち下がるテールの形状を指数関数で近似し、その指数関数に基づきバックグラウンド計数値を推定するようにしたので、ラドン・トロンの娘核種の影響を正確に補償して測定対象核種を高感度で測定できる。
【0018】
以上のように、実施の形態1によれば、ラドン・トロンの娘核種のα線スペクトルピークから低エネルギー側に立ち下がるテール上の2点について、計数の対数が波高に対して直線であるとして直線の傾きと波高ゼロの接点を求め、その傾きと波高ゼロの接点に基づきテールの形状を指数関数で近似し、その指数関数に基づきバックグラウンド計数値を推定するようにしたので、ラドン・トロンの娘核種の影響を正確に補償して測定対象核種を高感度で測定することができる。
【0019】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、演算部9でラドン・トロンの娘核種のα線スペクトルピークから低エネルギー側に立ち下がるテール形状を指数関数で近似してバックグラウンドを補償する場合について述べたが、実施の形態2は、図8に示すように、送気管1の途中に、イオントラップ11を備えたものである。他の構成は、図1と同じであるため、同一符号を付して示し、ここでは説明を省略する。
【0020】
動作について説明する。本実施の形態においては、送気管1から吸引されたサンプル空気は、イオントラップ11を介して、集塵部2に導入される。イオントラップ11は、図9に示すように、サンプルガスを通す容器111と、容器111の中心に配置された中心電極112と、中心電極112を容器111に対して電気的に絶縁して固定する陽極絶縁物113と、容器111に接続される配管(図示せず)に対して容器111を絶縁する陰極絶縁物114と、容器111と中心電極112の間に高電圧を印加する高圧電源(直流電源)115とから構成されている。
【0021】
高圧電源115は、容器111がマイナスに、中心電極112がプラスになるように接続され、更に、容器111はアース(図示せず)に接続される。サンプル空気に含まれる帯電粒子は、高電圧による電界の作用で、プラス粒子は容器111側に、マイナス粒子は中心電極112側に、吸引され、収集される。容器111及び中心電極112に収集された帯電粒子は放電してそれぞれの表面に付着し、粒子径が成長して大きくなると離脱してサンプル空気に放出される。ラドン・トロンの娘核種は、崩壊直後はプラスに帯電して単独で存在しているため、効率よく収集するためには電界強度を大きくする必要がある。実験の結果、高圧電源115を1000V程度することにより良好の結果が得られている。ラドン・トロンの娘核種は容器111の内面に収集され、同様に収集されて付着した他の浮遊粒子により粒子径が成長するとサンプル空気に放出される。イオントラップ11から排出されたサンプル空気は、集塵部2に導入され、濾紙3にサンプル空気に含まれるダスト4が捕集される。このとき、十分に粒子径が成長したラドン・トロンの娘核種は濾紙3の表面位置に捕集される。他の動作については、実施の形態1と同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0022】
以上のように、本実施の形態2では、上記の実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに、集塵部2の上流に、ラドン・トロンのプラスに帯電した娘核種を電気的に集塵して粒子径を増大させるための粒子径増大手段であるイオントラップ11を備えて、粒子径の小さいラドン・トロンの娘核種の粒子径を成長させることにより、濾紙表面でそれらも捕集できるようにしたので、ラドン・トロンの娘核種の影響をより正確に補償し、測定対象核種を更に高感度で測定することができる。
【0023】
実施の形態3.
上記実施の形態2では、濾紙3の上流にイオントラップ11を設けて、粒子径の小さいラドン・トロンの娘核種の粒子径を成長させることにより、濾紙3の表面で捕集できるようにする場合について述べたが、本実施の形態においては、濾紙3として、図10に示すような活性炭素繊維31を使用することにより、粒子径の小さいラドン・トロンの娘核種を濾紙3の表面で捕集できるようにする。なお、他の構成については、図1と同じであるため、同一符号を付して示し、ここでは説明を省略する。
【0024】
本実施の形態においては、濾紙3を構成している活性炭素繊維31には、図10に示すように、繊維表面311に、1〜2nm程度の細孔312が複数個(無数に)形成されている。本実施の形態においては、粒子径の大きいラドン・トロンの娘核種は当然ながら濾紙3の表面位置で捕集され、さらに、濾紙3の表面に細孔312が無数に形成されているため、粒子径の小さいラドン・トロンの娘核種は、それらの細孔312の中に、はまりこんで捕集される。これにより、ラドン・トロンの娘核種をすべて濾紙3の表面で捕集できるので、上記の実施の形態2におけるイオントラップ11を備えることなく、ラドン・トロンの娘核種の影響をより正確に補償し、測定対象核種を高感度で測定することができる。また、図11に示すように、濾紙3を構成している活性炭素繊維31を集塵部2経由でアース線21に接続することにより表面捕集がより確実になる。
【0025】
以上のように、本実施の形態においては、上記の実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに、濾紙3に活性炭素繊維を使用して、粒子径の小さいラドン・トロンの娘核種も濾紙表面の繊維の細孔でトラップして捕集するようにしたので、装置の構成要素を増やさずにラドン・トロンの娘核種の影響をより正確に補償し、測定対象核種を高感度で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の実施の形態1に係わる放射性ダストモニタの構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係わる放射性ダストモニタにおける、1つのラドン・トロンの娘核種に注目したラドン・トロン補償演算手順を示す流れ図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係わる放射性ダストモニタにおける、ラドン・トロンの娘核種に関するスペクトルピークのテールの指数関数展開手順を示す流れ図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係わる放射性ダストモニタにおける、バックグラウンド計数に影響する全てのラドン・トロンの娘核種に関する補償演算手順を示す流れ図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係わる放射性ダストモニタにおける、ラドン・トロンの娘核種の波高スペクトルを対数表示した事例を示す説明図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係わる放射性ダストモニタにおける、ラドン・トロンの娘核種に関するスペクトルピークのテールを指数関数で近似した事例を示す説明図である。
【図7】この発明の実施の形態1に係わる放射性ダストモニタにおける、測定対象領域に重なるラドン・トロンの娘核種のスペクトルを示す説明図である。
【図8】この発明の実施の形態2に係わる放射性ダストモニタの構成を示すブロック図である。
【図9】この発明の実施の形態2に係わる放射性ダストモニタに設けられたイオントラップの構成を示す構成図である。
【図10】この発明の実施の形態3に係わる放射性ダストモニタに濾紙として設けられた活性炭素繊維の構造を示す説明図である。
【図11】この発明の実施の形態3に係わる放射性ダストモニタにおける、濾紙を構成している活性炭素繊維のアース接続を示す説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1 送気管、2 集塵部、3 濾紙、4 ダスト、5 流量計、6 ポンプ、7 放射線検出器、8 スペクトル測定部、9 演算部、10 表示部、11 イオントラップ、21 アース線、31 活性炭素繊維、111 容器(陰極)、112 中心電極(陽極)、113 陽極絶縁物、114 陰極絶縁物、115 高圧電源、311 繊維表面、312 細孔。
【技術分野】
【0001】
この発明は放射性ダストモニタに関し、特に、測定点からサンプリングしたサンプル空気を濾紙に通してサンプル空気中に含まれるα線を放出する測定対象核種の放射能濃度を測定するための放射性ダストモニタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
核燃料再処理施設等において、α線を放射するウランやプルトニウムを測定対象とする放射性ダストモニタは、測定点の空気をサンプリングして濾紙に通して、そのサンプル空気に浮遊しているダストを濾紙に捕集し、そのダストから放出されるα線を放射線検出器で検出し、濾紙を通過したサンプル空気量と放射線検出器から出力される電気パルス信号の計数結果とによって、測定点の空気中に存在する測定対象の粒子状放射性物質の濃度を測定・監視する装置である。
【0003】
ウランやプルトニウムのα線を測定する場合は、天然放射性核種であるラドン・トロンの娘核種のα線がバックグラウンドとして混入する。このため、測定対象のα線を高感度で計測しようとする時には、その影響が無視できなくなり、ラドン・トロンの娘核種の影響を補償することが不可欠となる。
【0004】
ウランやプルトニウムを測定対象とする場合において、ラドン・トロンの娘核種から放射されるα線のエネルギーは、測定対象核種から放射されるα線のエネルギーより大きい。更に、ラドン・トロンの娘核種を含むダストはエアロゾル状で粒径が1μm以下のものを多く含み、濾紙を通過するものもあるが、濾紙の表面に捕集されるものと内部に捕集されるものがある。濾紙表面だけに捕集される場合であれば、計測の環境条件が決まれば、パルス波高スペクトルから測定対象領域に混入するバックグラウンド計数値を計算推定することができる。しかし、濾紙の内部に捕集されるものが増えてくると、ラドン・トロンの娘核種は低エネルギー側へ大きく尾(テール)を引く。このテール部がバックグラウンドとして測定対象領域に混入する様子を図7に示す。図7からわかるように、ラドン・トロンの娘核種のRaA&ThC、RaC’、ThC’のスペクトルピークのテール部がウランとプルトニウムの測定対象領域に重なってきている。一方、測定対象核種であるウラン・プルトニウムを含むダストは、通常、ラドン・トロンの娘核種のダストよりはその粒径が大きいので、濾紙の孔径を選択すれば、その大部分を濾紙表面で捕集することができる。したがって、そのパルス波高スペクトルは、サンプリングの環境条件、すなわち、濾紙と放射線検出器との相対位置関係、その間にある空気の温度と圧力と湿度、及びそれらの間に挿入されている保護膜などで一義的に決定するので、図7のようにU−238、U−234、Pu−239のスペクトルピークにはテールがなく、その幅は比較的狭い。しかし、濾紙に捕集されるラドン・トロンの娘核種ダストの位置が変化すると、そのダストから放出されるα線のエネルギーが濾紙に吸収される割合が変化するため、バックグラウンド計数が大きく変動する。したがって、測定対象領域の計数からバックグラウンド計数を推定して引き算する補償方法において、一義的な計算でバックグラウンドを推定すると補償誤差が大きくなる。
【0005】
従来の放射性ダストモニタは、この補償誤差を抑制するために、測定対象核種のパルス波高領域(第1領域)の他に、バックグラウンドとして第1領域に混入するラドン・トロンの娘核種の計数値を把握するため、ラドン・トロンの娘核種のパルス波高に対応した領域(第2領域)を設定し、第1領域に対応した第1計数手段及び第2領域に対応した第2計数手段を備えて、それぞれの領域における計数値を測定し、第2計数手段の計数値に、濾紙の厚さ方向の捕集位置を考慮した所定の係数を乗じ、その結果を第1計数手段に混入するバックグラウンド計数値とし、第1計数手段の計数値からバックグラウンド計数値を差し引いて正味計数値としている。前記所定の係数は、第2領域を低波高領域と高波高領域の2つに分けて、低波高領域計数値と高波高領域計数値の比に基づいて決定される。または、前記所定の係数は、捕集時間に基づいて決定されるものである。または、第2計数手段の積算計数値に基づいて決定されるものである。更に、できるだけ濾紙の表面でダストを捕集して補償誤差を小さくしようとする方法として、捕集開始から3日目までの補償誤差が特に大きいことに着目し、予備ダストを3日分捕集してから使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
【特許文献1】特許第3374600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の放射性ダストモニタは、以上のように濾紙の厚さ方向に関する捕集位置を大雑把に把握して、それに基づきバックグラウンド計数値推定の演算に反映しているが、ラドン・トロンの娘核種の代表核種を選定して捕集位置の評価を行っているため、それ以外の娘核種の影響が評価に反映されないという問題点があった。更に、その評価が注目している核種のパルス波高領域を2分割してその比を使用するという簡便な方法なために、バックグラウンド推定における誤差が大きいという問題点があった。これらの問題点が測定対象のα線を高感度で計測することの障害になっていた。また、バックグラウンド計数値推定の演算のパラメータに捕集時間を導入する方法、および、バックグラウンド積算計数値を導入する方法のいずれも、代表核種のみについての影響評価であることから、同様に補償誤差が大きいという問題点があった。更に、予備ダストで濾紙の厚み方向を予めクリーンなダストで埋めておき、対象ダストを濾紙表面で捕集させるようにする方法は、予備ダストのチェックおよび予備捕集という新たな作業を発生させ、コストの大幅な上昇になるという問題点があった。
【0008】
この発明はかかる問題点を解決するためになされたものであり、濾紙におけるダストの捕集位置により変動するバックグラウンド計数値を正確に把握し、ラドン・トロンの娘核種の影響を正確に補償することにより、測定対象核種を高感度に測定できる放射性ダストモニタを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、測定点からサンプリングしたサンプル空気に含まれるダストを捕集する濾紙と、そのダストから放射される放射線を検出して電気パルス信号に変換する放射線検出手段と、その電気パルス信号の波高を測定し、その波高データに基づいて波高スペクトルを測定するスペクトル測定手段と、その波高スペクトルの測定対象領域についてα線の計数値を求める測定対象領域計数値演算手段と、前記測定対象領域に混入するラドン・トロンの娘核種のα線によるバックグラウンド計数値を推定するバックグラウンド計数値推定手段と、前記測定対象領域計数値演算手段により求められた前記計数値から前記バックグラウンド計数値を除去した正味計数値に基づいて測定対象核種の放射能濃度を演算して測定値として出力する放射能測定手段とを備え、前記バックグラウンド計数値推定手段は、前記波高スペクトルに基づいて前記ラドン・トロンの娘核種のスペクトルピークについてテールを指数関数で近似して、近似した前記指数関数に基づいて前記測定対象領域に混入するバックグラウンド計数値を演算することを特徴とする放射性ダストモニタである。
【発明の効果】
【0010】
この発明は、測定点からサンプリングしたサンプル空気に含まれるダストを捕集する濾紙と、そのダストから放射される放射線を検出して電気パルス信号に変換する放射線検出手段と、その電気パルス信号の波高を測定し、その波高データに基づいて波高スペクトルを測定するスペクトル測定手段と、その波高スペクトルの測定対象領域についてα線の計数値を求める測定対象領域計数値演算手段と、前記測定対象領域に混入するラドン・トロンの娘核種のα線によるバックグラウンド計数値を推定するバックグラウンド計数値推定手段と、前記測定対象領域計数値演算手段により求められた前記計数値から前記バックグラウンド計数値を除去した正味計数値に基づいて測定対象核種の放射能濃度を演算して測定値として出力する放射能測定手段とを備え、前記バックグラウンド計数値推定手段は、前記波高スペクトルに基づいて前記ラドン・トロンの娘核種のスペクトルピークについてテールを指数関数で近似して、近似した前記指数関数に基づいて前記測定対象領域に混入するバックグラウンド計数値を演算することを特徴とする放射性ダストモニタであるので、濾紙におけるダストの捕集位置により変動するバックグラウンド計数値を正確に把握し、ラドン・トロンの娘核種の影響を正確に補償することにより、測定対象核種を高感度に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1に係る放射性ダストモニタを図に基づいて説明する。図1に示すように、サンプル空気が吸入される送気管1が、集塵部2に設けられている。集塵部2内には濾紙3が設置され、サンプル空気が濾紙3を通過することにより、ダスト4が捕集される。また、集塵部2の外部には、ダスト4が除去されたサンプル空気の流量を計測するための流量計5が接続されている。集塵部2から排出されて、流量計5で流量が計測されたサンプル空気は、ポンプ6から排気されて、サンプル空気をサンプリングした場所へ戻される。また、集塵部2には、濾紙3により捕集したダスト4に含まれる放射線粒子のα線を検出するための放射線検出器7が設けられている。放射線検出器7にはスペクトル測定部8が接続され、スペクトル測定部8には演算部9が接続されている。演算部9には、演算部9より求められる測定対象核種の放射能濃度を、測定値として表示するための表示部10が接続されている。
【0012】
次に、図1に示した本実施の形態1に係る放射性ダストモニタの動作について説明する。まず、送気管1から吸入されたサンプル空気は集塵部2に導入され、濾紙3によりサンプル空気に含まれるダスト4が捕集される。このとき、十分に粒子径が成長したラドン・トロンの娘核種は濾紙3の表面位置で捕集される。ダストを除去されたサンプル空気は、集塵部2から排出されて流量計5で流量が測定され、ポンプ6から排気される。
【0013】
放射線検出器7は、濾紙3上に捕集されたダスト4に含まれる放射性粒子のα線を検出して電気パルス信号に変換し、スペクトル測定部8に出力する。スペクトル測定部8は電気パルス信号の波高スペクトルを測定し、その波高スペクトルデータを演算部9に出力する。演算部9は、入力した波高スペクトルデータから測定対象領域(測定対象核種のパルス波高領域)の計数値を演算し、次に、ラドン・トロン領域(ラドン・トロンの娘核種のパルス波高に対応した領域)の計数値を演算して、それに基づき測定対象領域に混入するラドン・トロンの娘核種のα線によるバックグラウンド計数値を演算し、測定対象領域計数値からバックグラウンド計数値を引き算して正味計数値を演算し、その正味計数値に基づき測定対象核種の放射能濃度を演算して測定値として出力する。演算した測定値は表示部10に表示される。
【0014】
図2は、演算部9による測定値演算の手順を示すもので、ステップS1の「測定対象領域計数値演算」ステップでは、波高スペクトルデータから測定対象領域のチャンネル毎の計数を積算し、測定対象領域計数値とする。ステップS2の「テールの指数関数近似」ステップでは、波高スペクトルデータから、ラドン・トロンの娘核種のスペクトルピークについてテールを指数関数で近似する。ステップS3の「測定値演算ステップ」では、近似した指数関数に基づき測定対象領域に混入するバックグラウンド計数値を演算し、測定対象領域計数値からバックグラウンド計数値を引き算し、その正味計数値に基づき測定対象核種の放射能濃度を演算して測定値として出力する。
【0015】
図3は、ステップS2のテールの指数関数近似ステップの詳細手順を示すもので、ステップS21の「(x1,n1)、(x2,n2)を入力」のステップでは、ラドン・トロンの娘核種のスペクトルピークについてテールから2データの(x1,n1)、(x2,n2)を選択する。ステップS22の「y1=logn1,y2=logn2を演算」のステップでは、選択したデータの計数を対数に変換する。ステップS23の「y=kx+hのkとhを演算」のステップでは、計数の対数が波高すなわちチャンネル番号に対して直線であるとして直線の傾きと波高ゼロの接点を求める。ステップS24の「n=10kx+h展開」のステップでは、前記傾きと前記波高ゼロの接点に基づきテールの形状を指数関数に近似する。ここで、傾きと接点について、2点の複数の組み合わせから求めた値の平均値を用いれば、より精度の高い近似ができることは当然のことである。
【0016】
図4は、バックグラウンド計数値に影響する全てのラドン・トロンの娘核種についてテールの指数関数近似の演算を行い、それぞれの核種についてバックグラウンド補償を行う演算部9による手順を示すもので、ステップS2Aの「ThC’補償演算」ステップでは、ステップS21とS22と同様な手順でRaC’のテールの形状を指数関数に展開する。ステップS2Bの「RaC’補償演算」ステップでは、RaC’のテールの2点を選択し、その2点の計数に混入するThC’の計数を前記指数関数に基づいて、引き算してから、RaC’のテールの形状を指数関数に展開する。ステップS2Cの「RaA&ThC補償演」ステップでは、RaA&ThCのテールの2点を選択し、RaC’と同様にその2点の計数に混入するThC’及びRaC’の計数を引き算してからRaA&ThCのテールの形状を指数関数に展開する。なお、ステップS1およびステップS3は、図2の処理と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0017】
図5はラドン・トロンのスペクトルデータ事例を示すもので、横軸は波高値で比例して値付けされたチャンネル番号、縦軸はチャンネルに対応した計数を対数表示したものである。これからわかるように、スペクトルピークに近い2点(x1,y1)および(x2,y2)は概ね直線y=kx+hになっているのがわかる。また、測定時点が違うと、テールの傾きが大きく異なり、更に、測定時点が違うと、RaA&ThCのピーク計数値が同程度でも、ThC’のピーク位置が大きく異なることがあることがわかる。図6は、求めた一次関数y=kx+hに基づきテールを指数関数n=10kx+hに展開したものである。図7はこのテール部がバックグラウンドとして測定対象領域に混入する様子を示している。図7からわかるように、ラドン・トロンの娘核種のRaA&ThC、RaC’、ThC’のスペクトルピークのそれぞれについて、テール部がウランとプルトニウムの測定対象領域に重なってきている。このことは、従来のような一義的な補償では測定誤差が大きくなり、本実施の形態1のようなそれぞれのスペクトルピーク毎にきめ細かな補償が必要であることを示している。なお、本実施の形態1では、ラドン・トロンの娘核種のα線スペクトルピークから低エネルギー側に立ち下がるテールの形状を指数関数で近似し、その指数関数に基づきバックグラウンド計数値を推定するようにしたので、ラドン・トロンの娘核種の影響を正確に補償して測定対象核種を高感度で測定できる。
【0018】
以上のように、実施の形態1によれば、ラドン・トロンの娘核種のα線スペクトルピークから低エネルギー側に立ち下がるテール上の2点について、計数の対数が波高に対して直線であるとして直線の傾きと波高ゼロの接点を求め、その傾きと波高ゼロの接点に基づきテールの形状を指数関数で近似し、その指数関数に基づきバックグラウンド計数値を推定するようにしたので、ラドン・トロンの娘核種の影響を正確に補償して測定対象核種を高感度で測定することができる。
【0019】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、演算部9でラドン・トロンの娘核種のα線スペクトルピークから低エネルギー側に立ち下がるテール形状を指数関数で近似してバックグラウンドを補償する場合について述べたが、実施の形態2は、図8に示すように、送気管1の途中に、イオントラップ11を備えたものである。他の構成は、図1と同じであるため、同一符号を付して示し、ここでは説明を省略する。
【0020】
動作について説明する。本実施の形態においては、送気管1から吸引されたサンプル空気は、イオントラップ11を介して、集塵部2に導入される。イオントラップ11は、図9に示すように、サンプルガスを通す容器111と、容器111の中心に配置された中心電極112と、中心電極112を容器111に対して電気的に絶縁して固定する陽極絶縁物113と、容器111に接続される配管(図示せず)に対して容器111を絶縁する陰極絶縁物114と、容器111と中心電極112の間に高電圧を印加する高圧電源(直流電源)115とから構成されている。
【0021】
高圧電源115は、容器111がマイナスに、中心電極112がプラスになるように接続され、更に、容器111はアース(図示せず)に接続される。サンプル空気に含まれる帯電粒子は、高電圧による電界の作用で、プラス粒子は容器111側に、マイナス粒子は中心電極112側に、吸引され、収集される。容器111及び中心電極112に収集された帯電粒子は放電してそれぞれの表面に付着し、粒子径が成長して大きくなると離脱してサンプル空気に放出される。ラドン・トロンの娘核種は、崩壊直後はプラスに帯電して単独で存在しているため、効率よく収集するためには電界強度を大きくする必要がある。実験の結果、高圧電源115を1000V程度することにより良好の結果が得られている。ラドン・トロンの娘核種は容器111の内面に収集され、同様に収集されて付着した他の浮遊粒子により粒子径が成長するとサンプル空気に放出される。イオントラップ11から排出されたサンプル空気は、集塵部2に導入され、濾紙3にサンプル空気に含まれるダスト4が捕集される。このとき、十分に粒子径が成長したラドン・トロンの娘核種は濾紙3の表面位置に捕集される。他の動作については、実施の形態1と同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0022】
以上のように、本実施の形態2では、上記の実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに、集塵部2の上流に、ラドン・トロンのプラスに帯電した娘核種を電気的に集塵して粒子径を増大させるための粒子径増大手段であるイオントラップ11を備えて、粒子径の小さいラドン・トロンの娘核種の粒子径を成長させることにより、濾紙表面でそれらも捕集できるようにしたので、ラドン・トロンの娘核種の影響をより正確に補償し、測定対象核種を更に高感度で測定することができる。
【0023】
実施の形態3.
上記実施の形態2では、濾紙3の上流にイオントラップ11を設けて、粒子径の小さいラドン・トロンの娘核種の粒子径を成長させることにより、濾紙3の表面で捕集できるようにする場合について述べたが、本実施の形態においては、濾紙3として、図10に示すような活性炭素繊維31を使用することにより、粒子径の小さいラドン・トロンの娘核種を濾紙3の表面で捕集できるようにする。なお、他の構成については、図1と同じであるため、同一符号を付して示し、ここでは説明を省略する。
【0024】
本実施の形態においては、濾紙3を構成している活性炭素繊維31には、図10に示すように、繊維表面311に、1〜2nm程度の細孔312が複数個(無数に)形成されている。本実施の形態においては、粒子径の大きいラドン・トロンの娘核種は当然ながら濾紙3の表面位置で捕集され、さらに、濾紙3の表面に細孔312が無数に形成されているため、粒子径の小さいラドン・トロンの娘核種は、それらの細孔312の中に、はまりこんで捕集される。これにより、ラドン・トロンの娘核種をすべて濾紙3の表面で捕集できるので、上記の実施の形態2におけるイオントラップ11を備えることなく、ラドン・トロンの娘核種の影響をより正確に補償し、測定対象核種を高感度で測定することができる。また、図11に示すように、濾紙3を構成している活性炭素繊維31を集塵部2経由でアース線21に接続することにより表面捕集がより確実になる。
【0025】
以上のように、本実施の形態においては、上記の実施の形態1と同様の効果が得られるとともに、さらに、濾紙3に活性炭素繊維を使用して、粒子径の小さいラドン・トロンの娘核種も濾紙表面の繊維の細孔でトラップして捕集するようにしたので、装置の構成要素を増やさずにラドン・トロンの娘核種の影響をより正確に補償し、測定対象核種を高感度で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の実施の形態1に係わる放射性ダストモニタの構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係わる放射性ダストモニタにおける、1つのラドン・トロンの娘核種に注目したラドン・トロン補償演算手順を示す流れ図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係わる放射性ダストモニタにおける、ラドン・トロンの娘核種に関するスペクトルピークのテールの指数関数展開手順を示す流れ図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係わる放射性ダストモニタにおける、バックグラウンド計数に影響する全てのラドン・トロンの娘核種に関する補償演算手順を示す流れ図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係わる放射性ダストモニタにおける、ラドン・トロンの娘核種の波高スペクトルを対数表示した事例を示す説明図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係わる放射性ダストモニタにおける、ラドン・トロンの娘核種に関するスペクトルピークのテールを指数関数で近似した事例を示す説明図である。
【図7】この発明の実施の形態1に係わる放射性ダストモニタにおける、測定対象領域に重なるラドン・トロンの娘核種のスペクトルを示す説明図である。
【図8】この発明の実施の形態2に係わる放射性ダストモニタの構成を示すブロック図である。
【図9】この発明の実施の形態2に係わる放射性ダストモニタに設けられたイオントラップの構成を示す構成図である。
【図10】この発明の実施の形態3に係わる放射性ダストモニタに濾紙として設けられた活性炭素繊維の構造を示す説明図である。
【図11】この発明の実施の形態3に係わる放射性ダストモニタにおける、濾紙を構成している活性炭素繊維のアース接続を示す説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1 送気管、2 集塵部、3 濾紙、4 ダスト、5 流量計、6 ポンプ、7 放射線検出器、8 スペクトル測定部、9 演算部、10 表示部、11 イオントラップ、21 アース線、31 活性炭素繊維、111 容器(陰極)、112 中心電極(陽極)、113 陽極絶縁物、114 陰極絶縁物、115 高圧電源、311 繊維表面、312 細孔。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定点からサンプリングしたサンプル空気に含まれるダストを捕集する濾紙と、
そのダストから放射される放射線を検出して電気パルス信号に変換する放射線検出手段と、
その電気パルス信号の波高を測定し、その波高データに基づいて波高スペクトルを測定するスペクトル測定手段と、
その波高スペクトルの測定対象領域についてα線の計数値を求める測定対象領域計数値演算手段と、
前記測定対象領域に混入するラドン・トロンの娘核種のα線によるバックグラウンド計数値を推定するバックグラウンド計数値推定手段と、
前記測定対象領域計数値演算手段により求められた前記計数値から前記バックグラウンド計数値を除去した正味計数値に基づいて測定対象核種の放射能濃度を演算して測定値として出力する放射能測定手段と
を備え、
前記バックグラウンド計数値推定手段は、前記波高スペクトルに基づいて前記ラドン・トロンの娘核種のスペクトルピークについてテールを指数関数で近似して、近似した前記指数関数に基づいて前記測定対象領域に混入するバックグラウンド計数値を演算する
ことを特徴とする放射性ダストモニタ。
【請求項2】
前記バックグランド計数値推定手段は、前記ラドン・トロンの娘核種のα線のスペクトルピークから低エネルギー側に立ち下がるテール上の2点について、その計数の対数が波高に対して直線であるとして直線の傾きと波高ゼロの接点を求め、その傾きと波高ゼロの接点に基づき前記テールの形状を指数関数で近似する
ことを特徴とする請求項1に記載の放射性ダストモニタ。
【請求項3】
前記濾紙の上流に設けられ、前記ラドン・トロンのプラスに帯電した娘核種を電気的に集塵して粒子径を増大させるための粒子径増大手段を
さらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の放射性ダストモニタ。
【請求項4】
前記濾紙は活性炭素繊維から構成され、前記活性炭素繊維はアースに接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載の放射性ダストモニタ。
【請求項1】
測定点からサンプリングしたサンプル空気に含まれるダストを捕集する濾紙と、
そのダストから放射される放射線を検出して電気パルス信号に変換する放射線検出手段と、
その電気パルス信号の波高を測定し、その波高データに基づいて波高スペクトルを測定するスペクトル測定手段と、
その波高スペクトルの測定対象領域についてα線の計数値を求める測定対象領域計数値演算手段と、
前記測定対象領域に混入するラドン・トロンの娘核種のα線によるバックグラウンド計数値を推定するバックグラウンド計数値推定手段と、
前記測定対象領域計数値演算手段により求められた前記計数値から前記バックグラウンド計数値を除去した正味計数値に基づいて測定対象核種の放射能濃度を演算して測定値として出力する放射能測定手段と
を備え、
前記バックグラウンド計数値推定手段は、前記波高スペクトルに基づいて前記ラドン・トロンの娘核種のスペクトルピークについてテールを指数関数で近似して、近似した前記指数関数に基づいて前記測定対象領域に混入するバックグラウンド計数値を演算する
ことを特徴とする放射性ダストモニタ。
【請求項2】
前記バックグランド計数値推定手段は、前記ラドン・トロンの娘核種のα線のスペクトルピークから低エネルギー側に立ち下がるテール上の2点について、その計数の対数が波高に対して直線であるとして直線の傾きと波高ゼロの接点を求め、その傾きと波高ゼロの接点に基づき前記テールの形状を指数関数で近似する
ことを特徴とする請求項1に記載の放射性ダストモニタ。
【請求項3】
前記濾紙の上流に設けられ、前記ラドン・トロンのプラスに帯電した娘核種を電気的に集塵して粒子径を増大させるための粒子径増大手段を
さらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の放射性ダストモニタ。
【請求項4】
前記濾紙は活性炭素繊維から構成され、前記活性炭素繊維はアースに接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載の放射性ダストモニタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−126124(P2006−126124A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−317958(P2004−317958)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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