説明

放射性ヨウ素の除去方法及び放射性ヨウ素除去用の親水性樹脂

【課題】従来技術の問題点を解消し、簡単且つ低コストでさらには電力等のエネルギー源を必要としない新しい放射性ヨウ素の除去方法を提供すること。
【解決手段】放射性廃液及び/又は放射性固形物中の放射性ヨウ素を吸着する親水性樹脂を用いる放射性ヨウ素の除去方法であって、該親水性樹脂が、親水性セグメントを有し、且つ、構造中の主鎖及び/又は側鎖に第3級アミノ基を有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂、親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする放射性ヨウ素の除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラントや使用済核燃料施設から生ずる放射性廃液及び/又は放射性固形物中の放射性ヨウ素の除去方法、及び放射性ヨウ素除去用の親水性樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントにおいて、原子炉中での核分裂により放射性ヨウ素が生成するが、ヨウ素は184℃で気体になるため、燃料の検査や交換の際に、更には燃料取扱い時の事故や原子炉暴走事故等の不慮の事由によって、非常に放出されやすい、という危険性を有している。その対象となる放射性ヨウ素としては、長半減期のヨウ素129(半減期:1.57年×107)、短半減期のヨウ素131(半減期:8.05日)が主なものである。ここで、普通のヨウ素は、人体に必須の微量元素であり、咽喉の近くの甲状腺に集められ、成長ホルモンの成分になる。このため、呼吸や水・食物を通して放射性ヨウ素を取りこむと、普通のヨウ素と同じように甲状腺に集められ、内部放射能被曝を増大させるため、特に厳格な放出放射能量の低減対策が施されなければならない。
【0003】
このような事態に対し、生成された放射性ヨウ素の処理方法として、洗浄処理方式、繊維状の活性炭等を用いた固体吸着剤充填による物理・化学的処理方式(特許文献1、2参照)、イオン交換剤による処理(特許文献3参照)などが検討されており、放射性ヨウ素の放出対策がなされている。
【0004】
しかしながら、上記したいずれの方法も課題があり、これらの課題が解決された放射性ヨウ素の除去方法の開発が望まれている。まず、洗浄処理方式で実用化されているのはアルカリ洗浄法などがあるが、液体吸着剤による洗浄処理方式で処理し、これを液体のまま長期間貯蔵するのには、量的にも、また安全上も問題が多い。また、固体吸着剤充填による物理・化学的処理方式では、捕捉されたヨウ素は、他のガスとの交換の可能性に常に晒されており、また温度が上昇すると容易に吸着物を放出するという難点がある。更に、イオン交換剤による処理方式では、イオン交換剤の耐熱温度は100℃程度までであり、これより高温では十分な性能を発揮し得ないという課題がある。
【0005】
更に、上述の処理方法は、いずれも循環ポンプや浄化槽さらには各吸着剤を内蔵した充填槽などの大掛かりな設備を必要とし、そして、それらを稼働させるための多大なエネルギーを必要とする。さらには、2011年3月11日に発生した日本国の福島第一原発事故のように、電源が断たれたような場合にはこれらの設備は稼働できなくなるので、この場合は、放射性ヨウ素等による汚染の危険度が増大する。そして、電源が断たれた場合には特に、原子炉の暴走事故により周辺地域へ拡散した放射性ヨウ素に対しての除去方法は極めて困難な状況に陥り、放射能汚染を拡大しかねない状況となることが懸念される。したがって、このような事態が生じた場合においても対応が可能な放射性ヨウ素の除去技術の開発が急務である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭62−44239号公報
【特許文献2】特開2008−116280号公報
【特許文献3】特開2005−37133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、放射性ヨウ素を除去するにあたり従来技術の問題点を解決し、簡単且つ低コストで、更には電力等のエネルギー源を必要とせず、しかも、除去した放射性ヨウ素を固体内部に取り込んで安定的に固定化することができ、必要に応じて放射性廃棄物の減容化も可能な、新規な放射性ヨウ素の除去技術を提供することを目的とする。本発明は、特に、上記した放射性ヨウ素の除去を実現できる親水性樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、放射性廃液及び/又は放射性固形物中の放射性ヨウ素を吸着する親水性樹脂を用いる放射性ヨウ素の除去方法であって、該親水性樹脂が、親水性セグメントを有し、且つ、構造中の主鎖及び/又は側鎖に第3級アミノ基を有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂、親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする放射性ヨウ素の除去方法を提供する。
【0009】
本発明の好ましい形態としては、上記親水性セグメントが、ポリエチレンオキサイドセグメントである放射性ヨウ素の除去方法、上記親水性樹脂が、少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリオール又は少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリアミンを原料の一部として形成された樹脂である放射性ヨウ素の除去方法、が挙げられる。
【0010】
本発明では、別の実施形態として、放射性廃液及び/又は放射性固形物中の放射性ヨウ素を定着する機能を有する親水性樹脂であって、少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリオール又は少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリアミンを原料の一部として形成された、親水性セグメントと、分子鎖中に第3級アミノ基を有してなる、水及び温水に不溶解性の樹脂であることを特徴とする放射性ヨウ素除去用の親水性樹脂を提供する。
【0011】
本発明では、別の実施形態として、放射性廃液及び/又は放射性固形物中の放射性ヨウ素を定着する機能を有する親水性樹脂であって、有機ポリイソシアネートと、親水性成分である高分子量の親水性ポリオール及び/又はポリアミンと、少なくとも1個の活性水素含有基と少なくとも1個の第3級アミノ基とを同一分子内に有する化合物を反応させて得られた、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂又は親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂のいずれかであることを特徴とする放射性ヨウ素除去用の親水性樹脂を提供する。その好ましい形態としては、上記の親水性樹脂の親水性セグメントが、ポリエチレンオキサイドセグメントである放射性ヨウ素除去用の親水性樹脂が挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、放射性ヨウ素を除去するにあたり、簡便に且つ低コストで、更には電力等のエネルギー源を必要とせず、しかも、除去した放射性ヨウ素を固体内部に取り込んで安定的に固定化することができ、必要に応じて放射性廃棄物の減容化も可能である、新規な放射性ヨウ素の除去技術が提供される。本発明は、上記した放射性ヨウ素の除去を実現可能とする、その構造中に、親水性セグメントと、少なくとも1個の第3級アミノ基を分子鎖中に有している親水性樹脂と、これを用いた放射性ヨウ素の除去方法を提供する。より具体的には、本発明によれば、有機ポリイソシアネートと、高分子量の親水性ポリオール及び/又はポリアミン(以下「親水性成分」という)と、少なくとも1個の活性水素含有基と少なくとも1個の第3級アミノ基とを同一分子内に有する化合物とを反応させて得られた、放射性廃液及び/又は放射性固形物中の放射性ヨウ素を定着する機能を有する放射性ヨウ素の除去に極めて有用な、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂又は親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂から選ばれる親水性樹脂が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】水溶液中のヨウ素濃度と、実施例1〜3の親水性樹脂からなるフィルムの浸漬時間との関係を示す図である。
【図2】水溶液中のヨウ素濃度と、比較例1〜3のフィルムの浸漬時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明で使用する親水性樹脂は、親水性成分を構成単位とする親水性セグメントと、分子鎖中に少なくとも1個の第3級アミノ基を有していることを特徴とする。すなわち、本発明で使用する親水性樹脂は、その構造中に、親水性成分を構成単位とする親水性セグメントと、少なくとも1個の第3級アミノ基を有する成分を構成単位とする第3級アミノ基含有セグメントとを有しているものであればよい。これらのセグメントは、親水性樹脂の合成時に、鎖延長剤を使用しない場合は、それぞれランダムに、ウレタン結合、ウレア結合又はウレタン−ウレア結合等で結合されている。親水性樹脂の合成時に、鎖延長剤を使用する場合には、上記の結合とともに、これらの結合の間に鎖延長剤の残基である短鎖が存在するものになる。
【0015】
本発明における「親水性樹脂」とは、その分子中に親水性基を有しているが、水や温水等には不溶解性の樹脂を意味しており、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、セルロース誘導体等の水溶性樹脂とは区別されるものである。
【0016】
本発明の親水性樹脂を用いることで、放射性ヨウ素の簡便な除去ができた理由について、本発明者らは下記のように考えている。本発明で使用する親水性樹脂は、その構造中の親水性セグメントによって優れた吸水性を示し、更に、その構造中に第3級アミノ基が導入されていることによって、イオン化した放射性ヨウ素との間にイオン結合が形成され、この結果、樹脂中に放射性ヨウ素が定着されたものと考えられる。
【0017】
しかし、水分の存在下では、上記の如きイオン性結合は解離し易く、一定時間経過すれば再び放射性ヨウ素は樹脂から放出されると考えられ、本発明者らは、樹脂中における放射性ヨウ素の定着状態を固定化することは難しいものと予想していた。しかし、この予想に反し、実際には、イオン結合した放射性ヨウ素は長時間経っても樹脂中に定着されたままであることを見出した。この理由は定かではないが、本発明者らは、本発明において用いる特定の構造を有してなる親水性樹脂は、その分子内に疎水性部分も存在しており、該樹脂中の第3級アミノ基と放射性ヨウ素との間にイオン結合が形成された後、疎水性部分が親水性部分(親水性セグメント)及び第3級アミノ基によって形成されたイオン結合部分の周りを取り囲むようになるためではないかと推定している。
【0018】
上記したような顕著な効果が実現できる本発明の放射性ヨウ素の除去方法に必須の親水性樹脂は、例えば、有機ポリイソシアネートと、高分子量の親水性ポリオール及び/又はポリアミン(以下「親水性成分」という)と、少なくとも1個の活性水素含有基(反応性基)と少なくとも1個の第3級アミノ基とを同一分子内に有する化合物とを反応させて得られる、その構造中に、親水性セグメントと第3級アミノ基含有セグメントとを有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂或いは親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂が挙げられる。
【0019】
次に、本発明を特徴づける上記に列挙した親水性樹脂を形成するための原料について説明する。本発明の親水性樹脂は、その構造中に、親水性セグメントと第3級アミノ基とを有することを要するため、少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリオール又は少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリアミンを原料の一部として形成される。すなわち、本発明において使用する上記親水性樹脂の製造には、該樹脂の構造中に少なくとも第3級アミノ基を導入する必要があるため、下記に挙げるような第3級アミノ基含有化合物を用いることが好ましい。具体的には、分子中に少なくとも1個の活性水素含有基として、例えば、アミノ基、エポキシ基、水酸基、メルカプト基、酸ハライド基、カルボキシエステル基及び酸無水物基等の反応性基を有し、且つ、分子鎖中に第3級アミノ基を有する化合物を用いる。
【0020】
上記の如き反応性基を有する第3級アミノ基含有化合物の好ましい例の具体的なものとしては、例えば、下記一般式(1)〜(3)で表される化合物が挙げられる。

[式(1)中のR1は、炭素数20以下のアルキル基、脂環族基又は芳香族基(ハロゲン又はアルキル基で置換されていてもよい)であり、R2及びR3は、−O−、−CO−、−COO−、−NHCO−、−S−、−SO−、−SO2−等で連結されていてもよい低級アルキレン基であり、X及びYは、−OH、−COOH、−NH2、−NHR1(R1は上記と同じ定義である)、−SH等の反応性基であり、X及びYは、同一でも異なってもよい。また、X及びYは、上記の反応性基に誘導できるエポキシ基、アルコキシ基、酸ハライド基、酸無水物基、又はカルボキシルエステル基でもよい。]
【0021】

[式(2)中のR1、R2、R3、X及びYは、前記式(1)におけるものと同じ定義であるが、但し、2つのR1同士は環状構造を形成するものであってもよい。R4は−(CH2)n−(該nは0〜20の整数)である。]
【0022】

[式(3)中のX及びYは、前記式(1)におけるものの定義と同じであり、Wは、窒素含有複素環、窒素と酸素含有複素環、又は窒素と硫黄含有複素環のいずれかを表す。]
【0023】
上記の一般式(1)、(2)及び(3)で表される化合物の具体例としては以下のものが挙げられる。例えば、N−メチルジエタノールアミン、N,N−ジヒドロキシエチル−メチルアミン、N,N−ジヒドロキシエチル−エチルアミン、N,N−ジヒドロキシエチル−イソプロピルアミン、N,N−ジヒドロキシエチル−n−ブチルアミン、N,N−ジヒドロキシエチル−t−ブチルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチル−m−トルイジン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、N,N−ジヒドロキシエチル−m−クロロアニリン、N,N−ジヒドロキシエチルベンジルアミン、N,N−ジメチル−N’,N’−ジヒドロキシエチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N−ジエチル−N’,N’−ジヒドロキシエチル−1,3−ジアミノプロパン、N−ヒドロキシエチル−ピペラジン、N,N−ジヒドロキシエチル−ピペラジン、N−ヒドロキシエトキシエチル−ピペラジン、1,4−ビスアミノプロピル−ピペラジン、N−アミノプロピル−ピペラジン、ジピコリン酸、2,3−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノ−4−メチルピリジン、2,6−ジヒドロキシピリジン、2,6−ピリジン−ジメタノール、2−(4−ピリジル)−4,6−ジヒドロキシピリミジン、2,6−ジアミノトリアジン、2,5−ジアミノトリアゾール、2,5−ジアミノオキサゾールなどが挙げられる。
【0024】
また、これら第3級アミノ化合物のエチレンオキサイド付加物やプロピレンオキサイド付加物等も本発明に使用できる。その付加物としては、例えば、下記構造式で表される化合物が挙げられる。なお、下記式中のmは1〜60の整数を、nは1〜6の整数を表す。
【0025】

【0026】

【0027】

【0028】

【0029】

【0030】

【0031】

【0032】
本発明を特徴づける親水性樹脂の合成に用いられる有機ポリイソシアネートとしては、従来のポリウレタン樹脂の合成において用いられている公知のものをいずれも使用でき、特に制限されない。好ましいものとしては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、水素添加MDI、イソホロンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート等が挙げられる。或いは、これらの有機ポリイソシアネートと、低分子量のポリオールやポリアミンを末端イソシアネートとなるように反応させて得られるポリウレタンプレポリマー等も使用することができる。
【0033】
上記した有機ポリイソシアネートとともに、本発明を特徴づける親水性樹脂の合成に用いられる親水性成分としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基等を有する重量平均分子量が400〜8,000の範囲の親水性を有する化合物が好ましい。末端が水酸基で、親水性を有するポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール/ポリテトラメチレングリコール共重合ポリオール、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール共重合ポリオール、ポリエチレングリコールアジペートポリオール、ポリエチレングリコールサクシネートポリオール、ポリエチレングリコール/ポリε−ラクトン共重合ポリオール、ポリエチレングリコール/ポリバレロラクトン共重合ポリオール等が挙げられる。
【0034】
末端がアミノ基で、親水性を有するポリアミンとしては、例えば、ポリエチレンオキサイドジアミン、ポリエチレンオキサイドプロピレンオキサイドジアミン、ポリエチレンオキサイドトリアミン、ポリエチレンオキサイドプロピレンオキサイドトリアミン等が挙げられる。その他、カルボキシル基やビニル基を有するエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0035】
本発明においては、親水性樹脂に耐水性を付与するため、上記の親水性成分とともに、親水鎖を有しない他のポリオール、ポリアミン、ポリカルボン酸等を併用することも可能である。
【0036】
本発明を特徴づける親水性樹脂の合成の際に必要に応じて使用される鎖延長剤としては、例えば、低分子ジオールやジアミン等の従来公知の鎖延長剤がいずれも使用でき、特に限定されない。例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等を使用することができる。
【0037】
以上の原料成分を用いて得られる親水性セグメントと、第3級アミノ基を分子鎖中に有する親水性樹脂は、重量平均分子量(GPCで測定した標準ポリスチレン換算)が、3,000〜800,000の範囲のものであることが好ましい。更に好ましい重量平均分子量は、5,000〜500,000の範囲である。
【0038】
本発明の放射性ヨウ素の除去方法に特に好適な親水性樹脂中の第3級アミノ基の含有量は、0.1〜50eq(当量)/Kgの範囲が好ましく、更に好ましくは0.5〜20eq/Kgである。第3級アミノ基の含有量が0.1eq/Kg未満、すなわち分子量10,000当たり1個以下では、本発明の所期の目的である放射性ヨウ素の除去性の発現が不十分となりやすく、一方、第3級アミノ基の含有量が50eq/Kg以上、すなわち分子量10,000当たり500個以上では、樹脂中の親水性部分の減少による疎水性が強くなり、吸水性能に劣るようになるので好ましくない。
【0039】
また、本発明の放射性ヨウ素の除去方法に特に好適な親水性樹脂を構成する親水性セグメントの含有量は、30〜80質量%の範囲であることが好ましく、更に好ましくは、50〜75質量%の範囲である。親水性セグメントの含有量が30質量%未満では、吸水性能に劣り放射性ヨウ素の除去性が低下するので好ましくない。一方、80質量%を超えると、耐水性に劣るようになるので好ましくない。
【0040】
本発明の放射性ヨウ素の除去方法においては、上記した構成からなる特定の親水性樹脂を下記のような形態で使用することが好ましい。すなわち、親水性樹脂の使用に際し、先に説明した原料から得られる樹脂溶液を、離型紙や離型フィルム等に、乾燥後の厚みが5〜100μm、好ましくは10〜50μmとなるように塗布し、乾燥炉で乾燥させて得られるフィルム状のものが挙げられる。この場合は、使用時に、上記離型紙・フィルム等から剥離し、放射性ヨウ素の吸着用フィルムとして使用する。また、その他、各種基材に、先に説明した原料から得られる樹脂溶液を塗布又は含浸して使用してもよい。この場合の基材としては、金属、ガラス、木材、繊維、各種プラスチック等が使用できる。
【0041】
上記のようにして得られた、本発明を特徴づける親水性樹脂製フィルム又は各種基材に塗布したシートを、放射性廃液や、放射性固形物をあらかじめ水で除染した廃液などに浸漬することにより、液中の放射性ヨウ素を選択的に除去することができる。また、放射能で汚染された固形物などに対しては、本発明の親水性樹脂製のフィルムやシートで覆うことによって、放射性ヨウ素の拡散を防ぐことができる。
【0042】
本発明の親水性樹脂製のフィルムやシートは水には溶けないため、除染後に、容易にその廃液から取りだすことができる。このように、放射性ヨウ素を除去するのに特別な設備も電力も必要とせず簡単に且つ低コストで除染ができる。さらには、吸水した水分を乾燥させ100〜150℃に加熱すれば、樹脂が軟化して体積の収縮が起こり放射性廃棄物の減容化の効果も期待できる。
【実施例】
【0043】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、以下の各例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0044】
[実施例1](第3級アミノ基含有−親水性ポリウレタン樹脂)
撹拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、ポリエチレングリコール(分子量2,040)150部、N−メチルジエタノールアミン20部、ジエチレングリコール5部を、200部のメチルエチルケトンと150部のジメチルホルムアミドとの混合溶剤中に溶解し、60℃でよく撹拌した。そして、撹拌しながら、74部の水素添加MDIを112部のメチルエチルケトンに溶解した溶液を徐々に滴下した。滴下終了後、80℃で6時間反応させて、本実施例の親水性樹脂溶液を得た。この樹脂溶液は、固形分35%で530dPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この溶液から形成した本実施例の親水性樹脂フィルムは、破断強度24.5MPa、破断伸度が450%であり、熱軟化温度は115℃であった。
【0045】
[実施例2](第3級アミノ基含有−親水性ポリウレア樹脂)
実施例1で使用したと同様の反応容器に、ポリエチレンオキサイドジアミン(ハンツマン社製「ジェファーミンED」;分子量2,000)150部、メチルイミノビスプロピルアミン30部及び1,4−ジアミノブタン4部を、ジメチルホルムアミド200部に溶解し、内温を20〜30℃でよく撹拌した。そして、撹拌しながら、83部の水素添加MDIを100部のジメチルホルムアミドに溶解した溶液を徐々に滴下して、反応させた。滴下終了後、次第に内温を上昇させ、50℃に達したところで更に6時間反応させた後、195部のジメチルホルムアミドを加え、本実施例の親水性樹脂溶液を得た。この樹脂溶液は固形分35%で、230dPa・s(25℃)の粘度を有していた。この樹脂溶液から形成した本実施例の親水性樹脂フィルムは、破断強度が27.6MPa、破断伸度が310%であり、熱軟化温度は145℃であった。
【0046】
[実施例3](第3級アミノ基含有−親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂)
実施例1で使用したと同様の反応容器にポリエチレンオキサイドジアミン(ハンツマン社製「ジェファーミンED」;分子量2,000)150部、N,N−ジメチル−N’,N’−ジヒドロキシエチル−1,3−ジアミノプロパン30部及びトリエチレングリコール6部を、ジメチルホルムアミド140部に溶解した。そして、内温を20〜30℃でよく撹拌しながら、70部の水素添加MDIを200部のメチルエチルケトンに溶解した溶液を、徐々に滴下した。滴下終了後、80℃で6時間反応させた後、メチルエチルケトン135部を加え、本実施例の親水性樹脂溶液を得た。この樹脂溶液は固形分35%で、280dPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この樹脂溶液から形成した本実施例の親水性樹脂フィルムは、破断強度が14.7MPa、破断伸度が450%であり、熱軟化温度は107℃であった。
【0047】
[比較例1](第3級アミノ基非含有−親水性ポリウレタン樹脂)
N−メチルジエタノールアミンを使用しないこと以外は、実施例1と同じ原料成分と処方により、本比較例の、分子鎖に第3級アミノ基を有さない親水性ポリウレタン樹脂の溶液を得た。この樹脂溶液は固形分が35%で、500dPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この樹脂溶液から形成した本比較例の親水性樹脂フィルムは、破断強度が21.5MPa、破断伸度が400%であり、熱軟化温度は102℃であった。
【0048】
[比較例2](第3級アミノ基非含有−非親水性ポリウレタン樹脂)
実施例1と同様に、反応容器を窒素置換し、平均分子量約2,000のポリブチレンアジペート150部と1,4−ブタンジオール15部とを、250部のジメチルホルムアミド中に溶解し、60℃でよく撹拌した。そして、撹拌しながら、62部の水素添加MDIを171部のジメチルホルムアミドに溶解したものを徐々に滴下し、滴下終了後80℃で6時間反応させることによって、本比較例の、第3級アミノ基を有さない非親水性ポリウレタン樹脂の溶液を得た。この樹脂溶液は固形分35%で3.2MPa・s(25℃)の粘度を有していた。この溶液から得られた本比較例の非親水性樹脂フィルムは破断強度45MPaで破断伸度480%を有し、熱軟化温度は110℃であった。
【0049】
[比較例3](第3級アミノ基含有−非親水性ポリウレタン樹脂)
実施例1と同様に、反応容器を窒素置換し、平均分子量約2,000のポリブチレンアジペート150部及びN−メチルジエタノールアミン20部とジエチレングリコール5部を、200部のメチルエチルケトンと150部のジメチルホルムアミドとの混合溶剤中に溶解した。そして、60℃でよく撹拌しながら、74部の水素添加MDIを112部のメチルエチルケトンに溶解した溶液を徐々に滴下した。滴下終了後、80℃で6時間反応させ、本比較例の、第3級アミノ基含有の非親水性ポリウレタン樹脂の溶液を得た。この樹脂溶液は、固形分35%で510dPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この溶液から形成した本比較例の非親水性樹脂フィルムは破断強度23.5MPa、破断伸度が470%であり、熱軟化温度は110℃であった。
【0050】
上記で得られた実施例1〜3と比較例1〜3の各樹脂の重量平均分子量、及び重量平均分子量1,000当たりの第3級アミノ基の量は表1の通りであった。

【0051】
[評価]
上記で得られた実施例1〜3と比較例1〜3の各樹脂溶液をそれぞれに用い、離型紙上に塗布し、110℃で1分加熱乾燥して溶剤を乾燥させて、約20μmの厚さの透明樹脂フィルムをそれぞれ形成した。このようにして得た実施例1〜3と比較例1〜3の透明樹脂フィルムを用い、下記の方法で、ヨウ素イオンの除去に対する効果を評価した。評価試験に使用するヨウ素溶液には、イオン交換処理した純水に、ヨウ化カリウムを、ヨウ素イオン濃度が100mg/L(100ppm)となるよう溶解し、調製したものを用いた。なお、ヨウ素イオンが除去できれば、当然に放射性ヨウ素の除去ができる。
【0052】
<実施例1の樹脂についての評価結果>
実施例1の透明樹脂フィルム10gを、上記ヨウ素溶液100ml中に静置浸漬し(25℃)、経過時間毎に溶液中のヨウ素イオン濃度をイオンクロマトグラフ(東ソー製;IC2001)で測定することにより、ヨウ素イオンの除去率を測定した。その結果を、表2と図1に示した。
【0053】

【0054】
<実施例2の樹脂についての評価結果>
実施例2の透明樹脂フィルム10gを用いた以外は、実施例1の樹脂フィルムを用いたと同様にして、ヨウ素イオンの除去率を測定した。結果を表3と図1に示した。
【0055】

【0056】
<実施例3>
実施例3の透明樹脂フィルム10gを用いた以外は、実施例1の樹脂フィルムを用いたと同様にして、ヨウ素イオンの除去率を測定した。結果を表4と図1に示した。

【0057】
<比較例1>
比較例1の透明樹脂フィルム10gを用いた以外は、実施例1の樹脂フィルムを用いたと同様にして、ヨウ素イオンの除去率を測定した。結果を表5と図2に示した。

【0058】
<比較例2>
比較例2の透明樹脂フィルム10gを用いた以外は、実施例1の樹脂フィルムを用いたと同様にして、ヨウ素イオンの除去率を測定した。結果を表6と図2に示した。

【0059】
<比較例3>
比較例3の透明樹脂フィルム10gを用いた以外は、実施例1の樹脂フィルムを用いたと同様にして、ヨウ素イオンの除去率を測定した。結果を表7と図2に示した。

【0060】
図1、2及び表2〜7に示されている通り、本発明の実施例の親水性樹脂と、比較例の樹脂との比較において、実施例の親水性樹脂は、いずれもヨウ素イオンに対して高い定着性を示し、長時間経っても放出されないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の活用例としては、放射性廃液及び/又は放射性固形物中の放射性ヨウ素を、簡単且つ低コストで、さらには電力等のエネルギー源を必要としない新しい放射性ヨウ素の除去方法で除去が提供される。さらに、本発明では、特有の構造を有する親水性樹脂に、除去した放射性ヨウ素を取り込んで安定的に固定化することができ、また、樹脂であることから、必要に応じて放射性廃棄物の減容化も可能であるので、処理後に生じる放射性廃棄物における問題も軽減できるので、その利用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性廃液及び/又は放射性固形物中の放射性ヨウ素を吸着する親水性樹脂を用いる放射性ヨウ素の除去方法であって、該親水性樹脂が、親水性セグメントを有し、且つ、構造中の主鎖及び/又は側鎖に第3級アミノ基を有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂、親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする放射性ヨウ素の除去方法。
【請求項2】
前記親水性セグメントが、ポリエチレンオキサイドセグメントである請求項1に記載の放射性ヨウ素の除去方法。
【請求項3】
前記親水性樹脂が、少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリオール又は少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリアミンを原料の一部として形成された樹脂である請求項1又は2に記載の放射性ヨウ素の除去方法。
【請求項4】
放射性廃液及び/又は放射性固形物中の放射性ヨウ素を定着する機能を有する親水性樹脂であって、少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリオール又は少なくとも1個の第3級アミノ基を有するポリアミンを原料の一部として形成された、親水性セグメントと、分子鎖中に第3級アミノ基を有してなる、水及び温水に不溶解性の樹脂であることを特徴とする放射性ヨウ素除去用の親水性樹脂。
【請求項5】
放射性廃液及び/又は放射性固形物中の放射性ヨウ素を定着する機能を有する親水性樹脂であって、有機ポリイソシアネートと、親水性成分である高分子量の親水性ポリオール及び/又はポリアミンと、少なくとも1個の活性水素含有基と少なくとも1個の第3級アミノ基とを同一分子内に有する化合物を反応させて得られた、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂又は親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂のいずれかであることを特徴とする放射性ヨウ素除去用の親水性樹脂。
【請求項6】
前記親水性樹脂の親水性セグメントが、ポリエチレンオキサイドセグメントである請求項4又は5に記載の放射性ヨウ素除去用の親水性樹脂。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−92444(P2013−92444A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234739(P2011−234739)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【出願人】(000238256)浮間合成株式会社 (99)