放射性ヨウ素化方法
本発明は、先行技術の方法に比べて有利な放射性ヨウ素化化合物の合成方法を提供する。間接放射性ヨウ素化のため、第一アミンの代わりにヒドラジン又はアミノキシを使用することははるかに迅速な反応を容易にし、したがって反応時間の短縮及び収率の増加をもたらす。加えて、ペプチド又はリシン残基のN末端のように、放射性ヨウ素化すべき分子中に第一アミンが存在する場合には、ヒドラジン又はアミノキシの位置における反応が大いに有利となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射性ヨウ素化化合物の合成法に関し、特に間接放射性ヨウ素化方法に関する。本発明の方法は、現在知られている間接放射性ヨウ素化方法に比べて利点を与える。
【背景技術】
【0002】
放射性ヨウ素化は、放射性ヨウ素を適当な前駆体化合物と反応させる直接放射性ヨウ素化によって最も容易に実施される。例えば、前駆体化合物は、(放射性ヨウ素交換を可能にするための)アリールヨージド又はブロミド、活性化前駆体化合物アリール環(例えば、フェノール基)、有機金属前駆体化合物(例えば、トリアルキルスズ、トリアルキルシリル又は有機ホウ素化合物)、或いはトリアゼンのような有機前駆体化合物又は求核置換のための良好な脱離基(例えば、ヨードニウム塩)からなり得る。
【0003】
実施するのは簡単であるが、直接放射性ヨウ素化は、特にタンパク質のような生体分子の放射性ヨウ素化に適用する場合に欠点を有している。例えば、チロシン残基上のヒドロキシル基の直接求電子置換によるタンパク質の放射性ヨウ素化は、チロシン残基を欠くタンパク質には適用できない。さらに、求電子方法によって放射性ヨウ素化されたタンパク質は、酸化条件への直接暴露から生じる生物学的機能の低下を示すことが多い。直接放射性ヨウ素化に関する別の問題としては、このようにして標識されたタンパク質は、ヨードチロシン残基と甲状腺ホルモンとの構造的類似性のためにインビボ脱ヨウ素化を受けることが多い。これらの問題を処理するため、間接放射性ヨウ素化方法が開発されてきた。既知の間接放射性ヨウ素化方法は、放射性ヨウ素化シントンの形成を含み、次いでこれをリシンのε−アミノ基の修飾によって温和な条件下でタンパク質にコンジュゲートする(総説に関しては、Wilbur 1992 Bioconj Chem;3:433−70を参照されたい)。現在最も常用されている間接放射性ヨウ素化方法は、下記のスキーム1に示すように、ヨードBolton−Hunter試薬又はさらに典型的にはN−スクシンイミジル−3−ヨードベンゾエート(SIB)をベクター中の第一アミンにコンジュゲートすることを含んでいる。
【0004】
【化1】
典型的なかかる反応は、リン酸ナトリウム緩衝液中において37℃、pH7.5〜8、50mMで30分を要する。反応は一般に高いpHでは一層速く進行する。しかし、pHが高くなるに従い、NHSエステルの加水分解が増加し、その段階に関する以後の収率が低下することがある。収率はまた、ベクター、その溶解度、アミン官能基の位置、及びコンジュゲーションのために選択される系に応じても変化する。
【0005】
ケトン又はアルデヒドに対するヒドラジンの作用によってヒドラゾンが形成されることが知られており(March's Advanced Organic Chemistry 5th Edition,2001,by Smith and March;Chapter 16 pp 1192−4)、これはヒドラジン官能化化合物に対するカルボニル官能基の化学選択的カップリングのために使用できる。放射化学の分野では、ヒドラジン官能化化合物である6−ヒドラジノニコチン酸(HYNIC)が、生体分子の99mTc標識用のよく知られた二官能性リガンドである(例えば、Abrams et al 1990 J Nuc Med;31:2022−8を参照されたい)。さらに最近になって、HYNICは生体分子を18Fで標識するための魅力的な経路としても報告されている。Chang et al(2005 Bioconj Chem;16:1329−33)は、ヒドラゾン形成を介して[18F]フルオロベンズアルデヒド([18F]FBA)をHYNIC−HSAとコンジュゲートすることによる18F標識ヒト血清アルブミン(HSA)の製造を記載している。同じグループはまた、18F標識RGDペプチドの製造におけるこの方法の応用を報告している(Lee et al 2006 Nuc Med Biol;33:677−83)。Bruus−Jensen et al(2006 Nuc Med Biol;33:173−83)は、様々な他の18F標識ペプチドの形成においてこの方法を検討し、それが温和な酸性条件下で高い収率をもたらす迅速で直截な放射性標識方法であることを報告した。これらの報告では、ヒドラゾン形成のための最適温度は50〜70℃の範囲内にあることが判明した。この温度範囲は生体分子を含む反応のためには最も理想的とは言えず、かかる反応は生理的温度に近い温度で実施するのが理想的である。
【0006】
生体分子の放射性ヨウ素化方法には改良の余地が存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
米国特許第4279887号明細書
【発明の概要】
【0008】
本発明は、現在知られている方法に比べて有利な放射性ヨウ素化生体分子の合成方法を提供する。ヒドラジン又はアミノキシ誘導体と活性エステルとの反応を使用することは、アミンと活性エステルとの公知反応に比べてはるかに迅速な反応を容易にし、したがって反応時間の短縮及び収率の増加をもたらす。加えて、ペプチド又はリシン残基のN末端のように、放射性ヨウ素化すべき分子中に第一アミンが存在する場合には、ヒドラジン基又はアミノキシ基の位置における反応が大いに有利となる。さらに、本発明の方法は生体分子の天然状態の温度を模倣する温度で良好な収率を与える。これは、生体分子の構造及び機能が最適に保存されるという利点を与える。
【発明を実施するための形態】
【0009】
放射性ヨウ素化化合物の合成方法
一態様では、本発明は、下記の式Iの放射性ヨウ素化化合物又はその塩若しくは溶媒和物の合成方法であって、下記の式IIの化合物を下記の式IIIの化合物と反応させる段階を含んでなる方法に関する。
【0010】
【化2】
式中、
A1はNH又はOであり、
R1及びR2の一方は−L1−Ar1基であり、
(式中、
L1は化学結合又は1〜3のL*リンカー単位(式中、L*は−CO−、−CR'2−、−CR'=CR'−、−C≡C−、−CR'2CO2−、−CO2CR'2−、−NR'−、−NR'CO−、−CONR'−、−NR'−、−(C=O)NR'−、−NR'(C=S)NR'−、−SO2NR'−、−NR'SO2−、−CR'2OCR'2−、−CR'2SCR'2−、−CR'2NR'CR'2−、C5-12アリーレン基及びC3-12ヘテロアリーレン基から選択され、R'は水素又はC1-3アルキルである。)を含む二価リンカーであり、
Ar1は、放射性ヨウ素で置換され、かつC1-3アルキル、ハロ、アミノ、カルボキシル、ヒドロキシル及びこれらの保護バージョンから選択される0〜3の他の置換基で置換された六員のC3-6アリール基であり、前記アリール基はN、S及びOから選択される0〜3のヘテロ原子を有する。)
R1及びR2の他方は−L2−R*基であり、
(式中、
L2は化学結合又は1〜6のL*リンカー単位(式中、L*はL1に関して定義した通りである。)を含む二価リンカーであり、
R*は生体分子である。)
R1及びR2は任意には好適な保護基を含み、
Xは活性エステル基を表す。
【0011】
本発明の方法に関する定義
「放射性ヨウ素化化合物」という用語は、放射性ヨウ素(即ち、1以上の放射性ヨウ素原子)を含む化合物、特に本発明に関して言えばラジオヨードアリール基を含む化合物を意味する。「ラジオヨードアリール基」とは、本明細書中で定義されるように、放射性ヨウ素原子を含むアリール基である。「放射性ヨウ素原子」は、ヨウ素の任意の放射性同位体、好ましくは123I、124I、125I又は131I、最も好ましくは123I、124I又は131Iであり得る。
【0012】
本発明で使用される「その塩又は溶媒和物」という語句に係る好適な塩には、(i)鉱酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、リン酸、メタリン酸、硝酸及び硫酸)から導かれるもの並びに有機酸(例えば、酒石酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、安息香酸、グリコール酸、グルコン酸、コハク酸、メタンスルホン酸及びp−トルエンスルホン酸)から導かれるもののような生理学的に許容される酸付加塩、並びに(ii)アンモニウム塩、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩及びカリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩及びマグネシウム塩)、有機塩基(例えば、トリエタノールアミン、N−メチル−D−グルカミン、ピペリジン、ピリジン、ピペラジン及びモルホリン)との塩、及びアミノ酸(例えば、アルギニン及びリシン)との塩のような生理学的に許容される塩基塩がある。
【0013】
最も広い意味では、「反応させる」という用語は、式IIの化合物の溶液を式IIIの化合物の溶液と混合することをいう。溶液は水溶液又は有機溶液であり得る。「水溶液」とは、溶媒が水を含むような溶液である。「有機」という用語は、溶液について述べる場合、溶媒がテトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタン(DCM)及びジメチルホルムアミド(DMF)をはじめとする炭素含有溶媒であるような溶液をいう。通例、式IIの化合物の溶液と式IIIの化合物の溶液との混合は、所定の温度で所定の時間にわたって実施される。本発明の方法は、50℃より低いが、室温より顕著には低くない温度で実施することが好ましい。したがって、本発明の方法を実施するための好ましい温度は15〜45℃、最も好ましくは20〜40℃、特に好ましくは35〜40℃の範囲内にある。先行技術の方法に比べての本発明の利点は、それが37℃で成功裡に実施できることである。
【0014】
「活性エステル」とは、その構造がアミンのような求核試薬で容易に置換されて安定な結合を形成するアルコールを用いて生成されたエステルである。好ましい実施形態では、活性エステルはN−ヒドロキシスクシンイミジル(NHS)エステル、ペンタフルオロフェニルエステル及びヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)エステルから選択される。最も好ましい活性エステルはNHSエステルである。
【0015】
単独で又は別の基の一部として使用される「アルキル」という用語は、本明細書中では、任意の直鎖又は枝分れした飽和若しくは不飽和CnH2n+1基(式中、特記しない限りnは1〜10の整数である。)として定義される。アルキル基には、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、1−メチルプロピル、ペンチル、イソペンチル、sec−ペンチル、ヘキシル、ヘプチル及びオクチルがある。
【0016】
「シクロアルキル」という用語は、本明細書中では、環状である任意のアルキル基として定義される。
【0017】
「アリール」という用語は、本明細書中では、1以上の芳香環を含むと共に、好ましくは各環中に5〜6の環構成員を有する任意の単環式、二環式又は三環式C5-14分子断片又は基として定義される。アリールという用語は、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダン及びビフェニルのような純粋な芳香族基、並びに1以上のシクロアルキル環又はヘテロシクロアルキル環と縮合した1以上の芳香環を含む基を包含する。
【0018】
「アミノ」という用語は−NH2基を意味する。
【0019】
「ヒドロキシル」という用語は−OH基を意味する。
【0020】
「ニトロ」という用語は−NO2基を意味する。
【0021】
「ハロ」という用語は、ヨウ素、フッ素、臭素及び塩素から選択されるハロゲン原子に関する。
【0022】
「カルボキシル」という用語は−COOH基を意味する。
【0023】
「ヘテロ原子」という用語は、炭化水素部分中の炭素又は水素でない任意の原子をいう。本発明に関しては、ヘテロ原子は窒素、酸素及び硫黄から選択される。
【0024】
本明細書中で使用する「生体分子」という用語は、ペプチド、タンパク質、抗体、炭水化物、脂質又は核酸のような細胞の成分又は生成物或いはこれらの合成バージョンを意味する。生体分子は例えば高温或いは強酸性又は塩基性条件の存在下では変性を受けやすいので、生体分子の放射性ヨウ素化はできるだけ生理的温度に近い間接的に行うのが有利である。
【0025】
「生理的温度」という用語は、本明細書中では、最も具体的には20〜40℃、好ましくは35〜40℃の範囲内の温度をいうものと解される。
【0026】
単独で又は組み合わせて使用される「アルキレン」という用語は、規定された数の炭素原子を有する直鎖又は枝分れ鎖又は環状の二価脂肪族基をいう。本発明で使用されるアルキレンの例には、特に限定されないが、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレンなどがある。
【0027】
「シクロアルキレン」という用語は、環状の二価脂肪族基をいう。
【0028】
単独で又は組み合わせて使用される「アリーレン」という用語は、フェニレンのように単一の環を有し、或いはナフチレン又はアントリレンのように複数の縮合環を有する二価の不飽和芳香族カルボキシル基をいう。本発明で使用されるアリーレンの例には、特に限定されないが、ベンゼン−1,2−ジイル、ベンゼン−1,3−ジイル、ベンゼン−1,4−ジイル、ナフタレン−1,8−ジイルなどがある。
【0029】
「ヘテロアリーレン」という用語は、N、S及びOから選択される1以上のヘテロ原子を含むアリーレン基をいう。
【0030】
「好適な保護基」とは、望ましくない化学反応を阻止又は抑制するが、分子の残部を変質させない十分に温和な条件下で問題の官能基から脱離させ得るのに十分な反応性を有するように設計された基である。脱保護後には所望の生成物が得られる。保護基は当業者にとって公知であり、アミン基に関してはBoc(ここでBocはtert−ブチルオキシカルボニルである。)、Fmoc(ここでFmocはフルオレニルメトキシカルボニルである。)、トリフルオロアセチル、アリルオキシカルボニル、Dde[即ち、1−(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソシクロヘキシリデン)エチル]及びNpys(即ち、3−ニトロ−2−ピリジンスルフェニル)から適宜に選択され、カルボキシル基に関してはメチルエステル、tert−ブチルエステル及びベンジルエステルから適宜に選択される。ヒドロキシル基に関しては、好適な保護基は、メチル、エチル又はtert−ブチル、アルコキシメチル又はアルコキシエチル、ベンジル、アセチル、ベンゾイル、トリチル(Trt)、又はテトラブチルジメチルシリルのようなトリアルキルシリルである。チオール基に関しては、好適な保護基はトリチル及び4−メトキシベンジルである。さらに他の保護基の使用は、‘Protective Groups in Organic Synthesis’,Theorodora W.Greene and Peter G.M.Wuts(Fourth Edition,John Wiley & Sons Inc.,2007)に記載されている。
【0031】
式II及び式IIIの化合物を得る方法
式II及び式IIIの化合物は、当業者にとって公知の方法で得ることができる。
【0032】
−L1−Ar1基を含む(即ち、ラジオヨードアリール基を含む)式II又は式IIIの化合物を得るためには、好ましい前駆体化合物は、求電子又は求核放射性ヨウ素化を受ける誘導体或いは標識アルデヒド又はケトンとの縮合を受ける誘導体を含む出発化合物が使用できる。第1のカテゴリーの例は下記の(a)及び(b)である。
(a)トリアルキルスタンナン(例えば、トリメチルスタンニル又はトリブチルスタンニル)、トリアルキルシラン(例えば、トリメチルシリル)或いは有機ホウ素化合物(例えば、ボロネートエステル又はオルガノトリフルオロボレート)のような有機金属誘導体。
(b)求電子ヨウ素化に向けて活性化された芳香環(例えば、フェノール類)及び求核ヨウ素化に向けて活性化された芳香環(例えば、アリールヨードニウム塩、アリールジアゾニウム塩、アリールトリアルキルアンモニウム塩又はニトロアリール誘導体)。
【0033】
出発化合物は、好ましくは、(放射性ヨウ素交換を可能にするための)アリールヨージド又はブロミド、活性化前駆体化合物アリール環(例えば、フェノール基)、有機金属前駆体化合物(例えば、トリアルキルスズ、トリアルキルシリル又は有機ホウ素化合物)、或いはトリアゼンのような有機前駆体化合物又は求核置換のための良好な脱離基(例えば、ヨードニウム塩)からなる。放射性ヨウ素を有機分子中に導入するための前駆体化合物及び方法は、Bolton(J Lab Comp Radiopharm 2002;45:485−528)によって記載されている。放射性ヨウ素をタンパク質中に導入するための前駆体化合物及び方法は、Wilbur(Bioconj Chem 1992;3(6):433−470)によって記載されている。好適なボロネートエステル有機ホウ素化合物及びその製法は、Kabalaka et al(Nucl Med Biol 2002;29:841−843及び2003;30:369−373)によって記載されている。好適なオルガノトリフルオロボレート及びその製法は、Kabalaka et al(Nucl Med Biol 2004;31:935−938)によって記載されている。放射性ヨウ素化用の好ましい出発化合物は有機金属前駆体化合物からなり、最も好ましくはトリアルキルスズからなる。
【0034】
放射性ヨウ素を結合できるアリール基の例を下記に示す。
【0035】
【化3】
いずれの基も、芳香環上への容易な放射性ヨウ素置換によってAr1基を形成し得る置換基を含んでいる。放射性ヨウ素を含むAr1置換基は、例えば次式のように、放射性ハロゲン交換による直接ヨウ素化で合成することができる。
【0036】
【化4】
一実施形態では、式IIのA1がNHである結果、式IIの化合物はヒドラジンである。有機化学の標準的な方法を用いてA1がNHである式IIの化合物に転化できる多種多様のヒドラジン化合物が商業的に容易に入手できる。例えば、ヨードフェニルヒドラジンは商業的に入手できるが、これは放射性ヨウ素交換により、A1がNHでありかつR1がラジオヨードフェニルである式IIの化合物に転化できる。また、商業的に入手できるヒドラジノ安息香酸は、例えば次式のように、式IIのヒドラジン化合物に容易に転化できる。
【0037】
【化5】
式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル保護基であり、R1は本明細書中で定義した通りである。
【0038】
R1が−L2−R*である場合、式IIの化合物を得るための経路は、生体分子の機能喪失なしに官能化に適するためには十分に温和でなければならない。ヒドラジンによる生体分子の官能化のためには、上記に示した経路に類似する経路であって、出発ヒドラジン含有化合物がHYNICである経路が放射化学分野でよく知られている。ヒドラジン官能基を導入するためのHYNIC部分の利点は、それが温和な条件下で比較的容易に生体分子にコンジュゲートできることである。例えば、N−ヒドロキシスクシンイミジル−HYNICはペプチド又はタンパク質中のリシン残基を処理するために使用でき(Rennen et al 2000 Nuc Med Biol;27:599−604)、或いはHYNIC−マレイミドはマレイミド基をシステイン残基と反応させることで使用できる(Banerjee et al 2005 Dalton Trans;24:3886−97)。
【0039】
生体分子の99mTc標識のためにHYNIC部分を使用した初期の報告(Abrams et al 1990 J Nuc Med;31:12)は、HYNICをIgGとコンジュゲートすることでIgG中にヒドラジン基を組み込む方法を記載している。得られたニコチニルヒドラジン修飾IgGは99mTc−グルコヘプトネートとコンジュゲートできる結果、ヒドラジンの末端窒素は99mTcの配位を完成するように作用する。他の研究者達も類似の方法を他のタンパク質及びペプチドの99mTc標識のために適用し、このアプローチの多用性を実証した。Blankenberg et al(1998 PNAS;95(11)6349−54)はアネキシンVの99mTc標識を記載しており、Rennen et al(2004 Chest;126(6):1954−61)はインターロイキン8の99mTc標識を記載しており、Oyen et al(2000 Eur J NucMed;27:392−9)は糖タンパク質IIa/IIIbレセプター拮抗剤DMP444の99mTc標識を記載しており、Faintuch et al(2005 Synthesis and Reactivity in Inorganic,Metal−Organic,and Nano−Metal Chemistry;35(1):43−51)はボンベシン7-14のNH2の99mTc標識を記載している。
【0040】
HYNIC基は、保護されたペプチドを固相上に固定化し、HYNICをカップリングし、ペプチドを脱保護し、次いで脱保護されたペプチドを固相支持体から切断することで、ペプチドと部位特異的にコンジュゲートできる(Surfraz et al 2007 J Med Chem;50:1418−22)。
【0041】
HYNICはまた、生体分子の18F標識のための経路においても報告されてきた。例えば、Lee et al(2006 Nuc Med Biol;33:677−83)、及びBruus−Jensen et al(2006 Nuc Med Biol;33:173−83)を参照されたい。これらの刊行物は、HYNICによる生体分子の官能化を開示している。HYNIC官能化生体分子のヒドラジン基は18F−フルオロベンズアルデヒドのアルデヒドと反応して安定なヒドラゾン結合を形成し、それによって18F標識生体分子を与える。
【0042】
本発明の方法の好ましい実施形態では、式IIの化合物中のA1がNHであり、R1が−L2−R*である。本発明に関連した好ましい生体分子は、ペプチド、タンパク質又は抗体である。「ペプチド」、「タンパク質」及び「抗体」という用語は、次に簡単に記載するように、当技術分野における通常の意味を有する。ペプチドは、規定された順序でアミノ酸が結合することで形成された短いポリマーであって、1つのアミノ酸残基はアミド結合によって次のものに結合している。通常、ペプチドは50以下のアミノ酸残基を含むものと見なされる。タンパク質はポリペプチド分子であるか、或いは複数のポリペプチドサブユニットからなる。免疫グロブリンとしても知られる抗体は、脊椎動物の免疫系によって使用されるγグロブリン分子である。
【0043】
別の実施形態では、式IIのA1がOである結果、式IIの化合物はアミノキシ化合物である。ヒドラジンと同じく、アミノキシ化合物は超求核試薬であり、アミノ化合物に比べて反応性が一層高いという利点を与える。A1がOである式IIの各種化合物を得るための出発点として役立ち得る若干のアミノキシ化合物が商業的に入手でき、例えば、L−α−アミノキシ−βフェニルプロピオン酸臭化水素酸塩(Apollo Scientific Ltd.)及びアミノキシイソ酪酸塩酸塩(Fine and Performance Chemicals Ltd.)がある。
【0044】
先行技術には、アミノ基をアミノキシで置換することでペプチド化合物のアミノキシ類似体を得る方法が記載されている(例えば、Briggs and Morely 1979 JCS Perkin I:2138−43、Yang et al 2001 J Org Chem;66(22):7303−12、及びYang et al 1999 J Am Chem Soc;121(3):589−590を参照されたい)。アミノキシ官能化脂質が、Perouzel et al(2003 Bioconj Chem;14:884−98)によって報告されている。
【0045】
式IIIの化合物は活性エステルである。R2が−L1−Ar1である場合、式IIIの化合物は活性エステルで官能化されたラジオヨードアリールである。R2が−L2−R*である場合、式IIIの化合物は活性エステルで官能化された生体分子である。
【0046】
数多くの活性エステルが商業的に容易に入手できる。カルボン酸から活性エステルへの転化は、カルボジイミド/フェノール或いはエステル交換試薬(例えば、ペンタフルオロフェニルトリフルオロアセテート又はp−ニトロフェニルトリフルオロアセテート)との反応によって実施できる。ペプチド化合物の合成において活性エステルを使用することは当技術分野でよく知られている(例えば、Grant“Synthetic Peptides”2002;Oxford University Press:137−139、及びAnderson et al 1963 J Am Chem Soc;85:3039を参照されたい)。本発明の好ましい活性エステルはN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルである。
【0047】
好ましい実施形態では、式IIIの化合物は−L1−Ar1を含み、かかる化合物は間接放射性ヨウ素化の分野で知られている。好ましくは、L1は化学結合又はC1-3アルキレンリンカーである。Ar1は、好ましくはラジオヨードフェニル又はラジオヨードフェノール、即ち放射性ヨウ素で置換されかつ任意にはヒドロキシルで置換されたフェニルである。
【0048】
間接放射性ヨウ素化方法は、通例、NHSエステルで官能化されたヨウ素部分を第一アミンとコンジュゲートすることを含んでいる。例えば、Bolton and Hunter(1973 Biochem J;133:529−39)は、125Iヨウ素化3−(4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸NHSエステル(下記に示す)をタンパク質分子中の遊離アミノ基と反応させることによるタンパク質の125I標識を記載している。
【0049】
【化6】
Koziorowski et al(1998 Appl Radiat Isot;49(8):955−9)は、常用される間接放射性ヨウ素化剤である放射性ヨウ素化3−及び4−ヨード安息香酸NHS(下記に示す、式中の*Iは放射性ヨウ素である)を得る方法を教示している。
【0050】
【化7】
別のプロトコル(Vaidyanathan & Zalutsky 2007 Nature Protocols;2:282−6)は、タンパク質の遊離アミノ基をN−スクシンイミジル4−グアニジノメチル−3−[125I]ヨードベンゾエート(下記に示す)と反応させることを含んでいる。
【0051】
【化8】
上述した放射性ヨウ素化NHSエステル化合物は、R2が−L−Ar1である式IIIの化合物として本発明の方法で使用するために好ましい。
【0052】
好ましい実施形態では、L1及びL2は独立に化学結合又はC1-3アルキレンリンカーである。
【0053】
好ましい化合物
好ましい実施形態では、式Iの化合物は下記の式Iaの化合物であり、式IIの化合物は下記の式IIaの化合物であり、式IIIの化合物は下記の式IIIaの化合物である。
【0054】
【化9】
式中、A3はN又はCHであり、R*は上記に定義した通りであり、R4及びR5の一方は放射性ヨウ素であり、R4及びR5の他方は水素又はヒドロキシルであり、Xは上記に定義した活性エステルである。
【0055】
好ましくは、A3はCHであり、これはアリール環上にヘテロ原子が存在しないので反応が一層特異的にA1−NH2の位置で進行し得るという利点を与える。その理由は、窒素ヘテロ原子がヒドラジンNH2から電子を求引し、これの活性エステルに対する反応性を低下させるからである。A3がCHである場合、即ち環がフェニル環である場合、電子求引効果は生じない。
【0056】
好ましい実施形態では、本発明の方法は(本発明の独立した態様として下記に記載される)放射性医薬組成物を得るために使用される。この場合、本発明の方法はさらに下記の段階の1以上を含む。
(i)式Iの放射性ヨウ素化化合物から任意の保護基を除去する段階、及び/又は
(ii)式Iの放射性ヨウ素化化合物を生体適合性キャリヤーと混合して放射性医薬組成物を調製する段階、及び/又は
(iii)段階(ii)の放射性医薬組成物を滅菌する段階、及び/又は
(iv)段階(ii)の放射性医薬組成物から発熱物質を除去する段階。
【0057】
保護基の除去は、当業者にとって公知の方法(Greene and Wuts、上記)によって実施できる。
【0058】
滅菌及び発熱物質除去のための方法も当業者にとって公知である。
【0059】
「滅菌」とは、表面、装置、食品又は医薬品、或いは生物学的培地から伝染性作用因子(例えば、真菌、細菌、ウイルス、胞子など)を効果的に殺し又は排除する任意の方法をいう。滅菌は、加熱、化学薬品、放射線照射、高圧或いは濾過によって達成できる。
【0060】
「発熱物質除去」とは、溶液、最も普通には注射用医薬品からの発熱物質の除去をいう。「発熱物質」は、発熱を引き起こすことがある任意の物質として定義される。例えば、ある種の細菌の細胞壁中に存在する細菌性物質であるリポ多糖(LPS)は発熱物質である。発熱物質除去は、濾過、蒸留、クロマトグラフィー又は不活化によって達成できる。
【0061】
自動化合成
好ましい態様では、本明細書中に好適なもの及び好ましいものとして定義される本発明の方法は自動化される。自動化プロセスは、オペレーターの放射線被曝が減少するので、放射性化合物の合成において特に有用である。現在、特にPETラジオトレーサーはしばしば自動化放射合成装置で簡便に製造されている。かかる装置には、TRACERlab(商標)及びFASTlab(商標)(いずれもGE Healthcare社製)をはじめとするいくつかの市販例が存在している。かかる装置は通常、放射化学を実施するための(しばしば使い捨ての)「カセット」を含んでいて、これは放射合成を実施するため装置に取り付けられる。このカセットは、普通、流体通路、反応器、及び試薬バイアルを受け入れるためのポート並びに放射合成後の清掃段階で使用される任意の固相抽出カートリッジを含んでいる。
【0062】
放射性ヨウ素化化合物
本発明の方法に関して本明細書中に好適なもの及び好ましいものとして定義される式Iの放射性ヨウ素化化合物は、Ar1の放射性ヨウ素置換基が123I、124I又は131Iからなるインビボイメージング剤である。「インビボイメージング剤」という用語は、哺乳動物における特定の生理学的又は病態生理学的状態を標的化するように設計され、哺乳動物体へのインビボ投与後に検出できる化合物を意味する。本発明の方法によって得られる放射性ヨウ素含有化合物がインビボイメージング剤である場合、ラジオヨードアリール部分中のヨウ素原子は123I、124I及び131Iから選択される。同位体123I及び131Iはγ線を放出し、これは単光子放出断層撮影法(SPECT)を用いて検出できる。同位体124Iは陽電子を放出し、これは陽電子放出断層撮影法(PET)を用いて検出できる。本発明のインビボイメージング剤にとって好ましいヨウ素同位体は123I及び124Iであり、最も好ましくは123Iである。
【0063】
放射性医薬組成物
本発明の方法によって得られる放射性ヨウ素化化合物は、本明細書中に定義された式Iの放射性ヨウ素化化合物を、哺乳動物への投与に適した生体適合性キャリヤーと共に含んでなる放射性医薬組成物を製造するために使用できる。
【0064】
「放射性医薬組成物」は、本発明の放射性ヨウ素化化合物を、哺乳動物への投与(好ましくはヒトへの投与)に適した形態の生体適合性キャリヤーと共に含む配合物として定義される。
【0065】
「生体適合性キャリヤー」とは、放射性医薬組成物が生理学的に認容され得るようにして(即ち、毒性又は過度の不快感なしに哺乳動物体に投与できるようにして)本明細書中に定義された放射性ヨウ素含有化合物を懸濁又は溶解するための流体(特に液体)である。生体適合性キャリヤー媒質は、好適には、無菌のパイロジェンフリー注射用水、(有利には注射用の最終生成物が等張性又は非低張性になるように平衡させ得る)食塩水のような水溶液、或いは1種以上の張度調整物質(例えば、血漿陽イオンと生体適合性対イオンとの塩)、糖(例えば、グルコース又はスクロース)、糖アルコール(例えば、ソルビトール又はマンニトール)、グリコール(例えば、グリセロール)又は他の非イオン性ポリオール物質(例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなど)の水溶液のような注射可能なキャリヤー液体である。生体適合性キャリヤー媒質はまた、エタノールのような生体適合性有機溶媒を含んでいてもよい。かかる有機溶媒は、親油性の高い化合物又は配合物を可溶化するために有用である。好ましくは、生体適合性キャリヤー媒質はパイロジェンフリー注射用水、等張食塩水又はエタノール水溶液である。静脈内注射用生体適合性キャリヤー媒質のpHは、好適には4.0〜10.5の範囲内にある。
【0066】
かかる放射性医薬組成物は非経口的に(即ち、注射によって)投与でき、最も好ましくは水溶液である。かかる組成物は、緩衝剤、薬学的に許容される可溶化剤(例えば、シクロデキストリン或いはPluronic、Tween又はリン脂質のような界面活性剤)、薬学的に許容される安定剤又は酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸、ゲンチシン酸又はパラアミノ安息香酸)のような追加成分を任意に含み得る。
【0067】
キット及びカセット
本発明の方法はキットによって簡便に実施できる。したがって、別の態様では、本発明は本明細書中に好適なもの及び好ましいものとして定義される本発明の方法を実施するためのキットを提供する。前記キットは、
(i)本明細書中に定義される式IIの化合物又は本明細書中に定義される式IIaの化合物を含む第1の容器、及び
(ii)本明細書中に定義される式IIIの化合物又は本明細書中に定義される式IIIaの化合物を含む第2の容器
を含んでなる。
【0068】
本発明の方法が自動化される場合、キットの第1及び第2の容器は、自動化合成装置と共に使用するように設計されたかかる使い捨て又は着脱自在のカセット内に収容できる。したがって、別の態様では、本発明はさらに、本発明のキットに関して上記に定義した構成要素を含む自動化合成装置用のカセットも提供する。
【0069】
本発明の放射性医薬組成物を製造するためには、上述したようなキット又はカセットを使用することが特に好都合である。したがって、好ましい実施形態では、本明細書中に記載した本発明の放射性医薬組成物を製造する際に本発明のキット又はカセットが使用される。
【0070】
さらに別の態様では、本発明は、本明細書中に記載した本発明の方法を実施するための本発明のキット又はカセットの使用を提供する。
【0071】
キット及びその使用並びにカセット及びその使用に関しては、式I〜III及び式Ia〜IIIa並びにこれらの好ましい実施形態は、本発明の方法に関して上記に記載した通りである。
【実施例】
【0072】
実施例の簡単な説明
特記しない限り、下記実施例中に記載されるすべての試薬はSigma−Aldrich社又はBDH社から入手した。
【0073】
50mM pH7.4リン酸塩緩衝液は、40.5mlの0.2M Na2HPO4及び9.5mlの0.2M NaH2PO4を水で200mlにすることで調製した。
【0074】
0.2M pH4酢酸アンモニウム緩衝液は、18mlの0.2M NH4OAc及び82mlの0.2M HOAcを水で1リットルにすることで調製した。
【0075】
例1は、HYNIC官能化生体分子と18F−フルオロベンズアルデヒドとのコンジュゲーションによる18F標識に関する先行技術の教示に基づく間接ヨウ素化経路を記載する比較例である。放射性ヨウ素化段階を70℃で実施した場合、放射化学純度(RCP)は15%であった。
【0076】
例2は、HYNIC型ヒドラジンである2−ヒドラジノピリジンをN−スクシンイミジル−3−ヨード安息香酸と反応させることを含む本発明の間接放射性ヨウ素化方法を記載している。この例の方法は、例1に記載した先行技術の方法に比べ、生体分子の構造及び機能の保存にとって最適な温度である生理的温度で実施されるという利点を有している。加えて、例2の方法は例1の先行技術の方法に比べて向上した収率も実証した。
【0077】
例3は、例2の方法で使用する中間体である3−トリメチルスタンニル安息香酸2,5−ジオキソピロリジン−1−イルエステルの合成法を記載している。
【0078】
例4は、NHSエステルがアミノ基よりヒドラジン基と容易に反応することを実証している。
【0079】
実施例中で使用される略語のリスト
Ac アセチル
DCC ジシクロヘキシルカルボジイミド
DMF ジメチルホルムアミド
h 時間
HPLC 高速液体クロマトグラフィー
LCMS 液体クロマトグラフィー質量分析法
Lys リシン
MeOH メタノール
min 分
MS 質量分析法
m/z 質量/電荷比
NHS N−ヒドロキシスクシンイミド
NMR 核磁気共鳴
RCP 放射化学純度
TFA トリフルオロ酢酸
THF テトラヒドロフラン
Thr トレオニン
TLC 薄層クロマトグラフィー
tR 保持時間
UV 紫外
比較例1:N−[1−(4−ヨードフェニル)メチ−(E)−イリデン]−N’−ピリジン−2−イル−ヒドラジンの合成
【0080】
【化10】
1(i) 127Iを用いて実施した反応
生成物を精製し、質量分析法で分析してその正体を確認するため、4−ヨードベンズアルデヒド及び2−ヒドラジノピリジンの127Iコンジュゲーションを実施した。
【0081】
2−ヒドラジノピリジン及び4−ヨードベンズアルデヒドをエタノールに溶解して9.2mM及び4.3mMの溶液を得た。
【0082】
10mlのシラン化密封ガラスバイアルに、下記のものを記載の順序で添加した。
10μlの2−ヒドラジノピリジン(9.2×10-8モル)。
170μlの50mM pH7.4リン酸塩緩衝液。
21μlの4−ヨードベンズアルデヒド(9.1×10-8モル)。
【0083】
調製物を37℃で20分間加熱した後、HPLCで分析した。
カラム−Phenomenex Luna C18(2) 5μ 4.6×150mm
流量−1ml/分
検出−UV254nm及びBioscan放射線検出器
溶媒A−水中0.1%TFA
溶媒B−アセトニトリル中0.1%TFA
勾配−
0分0%B
20分70%B
25分90%B
27分90%B
28分0%B
35分0%B
N−[1−(4−ヨードフェニル)メチ−(E)−イリデン]−N’−ピリジン−2−イル−ヒドラジンのピークをHPLCで精製した。質量分析法は324の位置にピークを示したが、これは予想される生成物の補正質量である。
【0084】
1(ii) 123Iを用いて実施した反応
2−ヒドラジノピリジンをエタノールに溶解して9.2mM溶液を得た。5μlの過酢酸を5mlの水で希釈して5mM溶液を得た。
【0085】
シントンの製造
(Sessler et al,J Am Chem Soc 1995;117(2):704−14の方法で製造した)4−トリ−n−ブチルスズベンズアルデヒドの2.8mMエタノール溶液37μl(1.0×10-7モル)を1.5mlのシラン化密封V形バイアルに添加した。200μlの0.2M pH4酢酸アンモニウム緩衝液及び10μlの0.05M NaOH中1mM Na127I(1.0×10-8モル)を123Iバイアルに添加した。10μlの5mM過酢酸を123Iバイアルに添加した。123Iバイアルの内容物を1.5mlのシラン化V形バイアルに移した。
【0086】
コンジュゲーション
4.4μlの2−ヒドラジノピリジン(4.0×10-8モル)、100μlの粗4−ヨードベンズアルデヒド及び100μlの50mM pH7.4リン酸塩緩衝液を10mlのシラン化密封ガラスバイアルに添加し、調製物を70℃で10分間加熱した。
【0087】
例1と同様にして実施したHPLCは、14.1分のTRで15%のコンジュゲートを示した。38%のヨウ化物及び47%のシントンが残留していた。
【0088】
例2:3−ヨード安息香酸N’−ピリジン−2−イル−ヒドラジドの合成
【0089】
【化11】
2(i) 127Iを用いて実施した反応
3−ヨード安息香酸(1g、4mmol)、N−ヒドロキシスクシンイミド(464mg、4mmol)及びジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(4mlの1Mジクロロメタン溶液、4mmol)の反応によって3−ヨード安息香酸2,5−ジオキソピロリジン−1−イルエステルを製造した。反応混合物を10mlのDMF中において室温で6時間撹拌した。得られた白色沈殿を濾別して廃棄し、得られた濾液を真空中で減容し、カラムクロマトグラフィーで精製したところ、29%の収率が得られた。
【0090】
生成物を精製し、質量分析法で分析してその正体を確認するため、3−ヨード安息香酸2,5−ジオキソピロリジン−1−イルエステル及び2−ヒドラジノピリジンの127Iコンジュゲーションを実施した。
【0091】
2−ヒドラジノピリジンをエタノールに溶解して9.2mM溶液を得た。
【0092】
10mlの密封シラン化ガラスバイアルに、下記のものを記載の順序で添加した。
20μlの2−ヒドラジノピリジン(1.8×10-7モル)。
180μlの50mM pH7.4リン酸塩緩衝液。
63μlの2.9mM 3−ヨード安息香酸2,5−ジオキソピロリジン−1−イルエステル(1.8×10-7モル)。
【0093】
調製物を37℃で30分間加熱した後、例1に関して上述したようにしてHPLCで分析した。3−ヨード安息香酸N’−ピリジン−2−イル−ヒドラジドのピークをHPLCで精製し、質量分析法で分析した。質量分析法は340の位置にピークを示したが、これは予想される生成物の補正質量である。
【0094】
2(ii) 123Iを用いて実施した反応
2(ii)(a) シントンの製造
2−ヒドラジノピリジンをエタノールに溶解して17mM溶液を得た。10μlの過酢酸を5mlの水で希釈し、次いで100μlのこの溶液を水で1mlに基質して1mM溶液を得た。(下記例3に記載するようにして合成した)3−トリメチルスタンニル安息香酸2,5−ジオキソピロリジン−1−イルエステルをメタノール中1%酢酸に溶解して0.26mM溶液を得た。C18 SepPakを5mlのアセトニトリルでコンディショニングし、次いで10mlの水でコンディショニングした。
【0095】
38μlの3−トリメチルスタンニル安息香酸2,5−ジオキソピロリジン−1−イルエステル溶液(1.0×10-8モル)を1.5mlのシラン化密封V形バイアルに添加した。
【0096】
200μlの0.2M pH4酢酸アンモニウム緩衝液及び10μlの0.05M NaOH中1mM Na127I(1.0×10-8モル)を123Iバイアルに添加した。
【0097】
123Iバイアルの内容物を1.5mlのシラン化V形バイアルに移した。
【0098】
粗シントンを前処理したC18 Sep−Pak上に装填した。ヨウ化物を5mlの水で溶出した。シントンを2.5mlのアセトニトリルでシラン化バイアル中に溶出した。アセトニトリルを高真空下で除去した。
【0099】
2(ii)(c) コンジュゲーション
6μlの2−ヒドラジノピリジン(1.0×10-7モル)及び194μlの50mM pH7.4リン酸塩緩衝液を乾燥したシントンに添加し、調製物を37℃で30分間加熱した。
【0100】
HPLCは11.3分のTRで21%の生成物を示した。粗反応物中には8%のシントンが残留していた。
【0101】
例3:3−トリメチルスタンニル安息香酸2,5−ジオキソピロリジン−1−イルエステルの合成
3(i) 3−ヨード安息香酸メチル(2)
【0102】
【化12】
塩化チオニル(20ml)中における3−ヨード安息香酸(1.0g、4.03mmol)の撹拌懸濁液に1滴のジメチルホルムアミドを添加した。次いで、混合物を80℃で18時間加熱した。周囲温度に冷却した後、溶媒を完全に蒸発させ、次いでメタノール(20ml)をゆっくりと添加し、混合物を周囲温度で30分間撹拌した。メタノールを蒸発させたところ、粗生成物が油状物として得られ、これは周囲温度で静置することで凝固した。酢酸エチル/ヘキサン(1:1)を用いるフラッシュクロマトグラフィーによって粗生成物を精製し、純生成物をわずかに黄色の結晶(824mg、78.4%)として得た。
【0103】
1H NMR(500MHz,CDCl3,δ3.95(s,3H,CH3)、7.20(t,1H)、7.9(d,1H)、8.0(d,1H)、8.20(s,1H)。
【0104】
3(ii) 3−トリメチルスタンニル安息香酸メチルエステル(3)
【0105】
【化13】
トルエン(8ml)中における3−ヨード安息香酸メチル(200mg、0.76mmol)及びヘキサメチル二スズ(643μl、3.1mmol)の混合物に、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(180mg、0.155mmol、10モル%)を添加した。反応管をアルゴンでフラッシュし、キャップを付け、マイクロ波中において120℃で15分間加熱した。冷却後、TLC(酢酸エチル/ヘキサン、1:1)は生成物への完全な転化を示した。次いで、黒色の懸濁液を(濾紙で)濾過し、得られた暗色の溶液を蒸発乾固した。残留物を酢酸エチル(15ml)に溶解し、水(6×10ml)で抽出した。
【0106】
次いで、有機相を(MgSO4で)乾燥し、濾過し、減圧下で蒸発させることで、粗生成物を暗色の油状物(463mg)として得、これをフラッシュクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン、1:1)で精製してわずかに黄色の油状物を得た。収量:344mg(74%)。
【0107】
注記:マイクロ波照射は、Personal Chemistry Emrys合成装置内で実施した。
【0108】
1H NMR(500MHz,CDCl3,δ0.32(s,9H,Sn(CH3)3、3.95(s,3H,CH3)、7.40(t,1H)、7.69(d,1H)、8.0(d.1H)、8.20(s,1H)。
【0109】
3(iii) 3−トリメチルスタンニル安息香酸(4)
【0110】
【化14】
3−トリメチルスタンニル安息香酸メチルエステル(148mg、0.50mmol)をメタノール(3ml)に溶解し、周囲温度で撹拌しながら2N水酸化ナトリウム水溶液(1ml、2mmol)をゆっくりと添加した後、混合物をこの温度で3時間撹拌した。HPLCでモニターしたところ、加水分解が完了したことが示された。次いで、混合物を蒸発乾固し、残留物を水(4ml)に再溶解し、1M塩酸をゆっくりと添加して酸性化したところ、生成物の沈殿が生じた。混合物をジクロロメタン(3×10ml)で抽出し、合わせたジクロロメタン相を(Na2SO4で)乾燥し、濾過し、蒸発させることで、粗生成物を白色の固体物質として得た。これをそれ以上精製せずに次の段階で使用した。収量:107mg(76%)。
【0111】
1H NMR(500MHz,CDCl3,δ0.39(s,9H,Sn(CH3)3、7.42(t,1H)、7.72(d,1H)、8.02(d.1H)、8.15(s,1H)。
【0112】
3(iv) 3−トリメチルスタンニル安息香酸2,5−ジオキソピロリジン−1−イルエステル(6)
【0113】
【化15】
3−トリメチルスタンニル安息香酸(101mg、0.35mmol)のジクロロメタン(3ml)溶液に、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、72mg、0.35mmol)、次いでN−ヒドロキシスクシンイミド(40.28mg、0.35mmol)を添加した。無色透明の混合物を周囲温度で撹拌したところ、約15分後に白色の沈殿が現れ始めた。TLC(酢酸エチル/ヘキサン、1:1)が出発原料の完全な消失を示した1時間後に反応を停止した。混合物を濾過し、溶媒の蒸発後に回収された残留物を、酢酸エチル/ヘキサン(1:1)を用いるフラッシュクロマトグラフィーで精製した。純生成物を無色の油状物として得た。収量:90mg(67%)。
【0114】
1H NMR(500MHz,CDCl3,δ0.25(s,9H,Sn(CH3)3、2.88(broad s,4H,(CH2)2)、7.42(t,1H)、7.74(d,1H)、8.03(d.1H)、8.20(s,1H)。
【0115】
例4:3−(4−ヒドロキシ−3−ヨードフェニル)プロピオン酸ヒドラジドの合成
【0116】
【化16】
5mgのAc−Thr(マンノース−6−ホスフェート−マンノース)−Lys−Thr(マンノース−6−ホスフェート−マンノース)−NH2(「グリコペプチド」、Christensen et al,J Chem Soc Perkin Trans 1994;10:1299−1310によって開示された方法に従って合成した)、1.7mgのヨウ素化Bolton−Hunter NHSエステル(「BH」、和光純薬工業199−09341)及びsym−コリジン(1.1μL、Fluka 27690)を1mlのDMF(Rathburn PTS6020)中で混合し、混合物(濁った溶液)を35℃で2時間加熱した。すべてのBHが消費され、BH−ヒドラジンコンジュゲートに対応する新しいピークが唯一の生成物として認められた。追加のBH(0.5mg)及びsym−コリジン(1.1μL)を添加し、35℃での撹拌を2時間続けた。大部分のBHが消費され、BH−ヒドラジンに対応するピークが増加した。残留するヒドラジンと反応させるためにアセトン(100μL)を添加し、混合物を室温で一晩撹拌した。次いで、追加のBH(2.0mg)を添加し、35℃で90分間撹拌を続けた。BHの消費は認められず、全てのヒドラジンが消失したことが示された。追加のsym−コリジン(2.2μL)を添加し、35℃で2時間撹拌を続けた。いかなる生成物も生じなかった。出発原料を一層よく溶解するために水(500μL)を添加し、35℃で一晩撹拌を続けた。少量の生成物が生じた。追加の水(2mL)及びBH(1.8mg)を添加し、BHを一層よく溶解するためにTHF(2mL)を添加し、撹拌を一晩続けた。さらに多くの生成物が加水分解BHと共に生じた。溶媒を真空中で部分的に除去し、残留物を水/0.1%TFA(8mL)で希釈し、HPLC精製に付した。
【0117】
上述した反応のモニタリングは、Phenomenex Luna 3μ C18(2) 20×2mmカラムを214nmでの検出と共に用いるLCMSによって実施した。溶媒A:H2O/0.1%TFA、溶媒B:CH3CN/0.1%TFA、流量:0.6mL/分、勾配:5分で0〜30%B、tR:3.11分(生成物);3.40分(BH−ヒドラジン)、実測m/z:1471.9(生成物);306.9(BH−ヒドラジン)、予想MH+:1472.3(P);307(BH−ヒドラジン)。
【0118】
精製は、Phenomenex Luna 5μ C18(2) 250×21.20mmカラムを214nmでの検出と共に用いるHPLCによって実施した。溶媒A:H2O/0.1%TFA、溶媒B:CH3CN/0.1%TFA、流量:10mL/分、勾配:40分で0〜30%B、tR:36〜40分。
【0119】
精製した生成物の分析は、Phenomenex Luna 3μ C18(2) 20×2mmカラムを214nmでの検出と共に用いるLCMSによって実施した。溶媒A:H2O/0.1%TFA、溶媒B:CH3CN/0.1%TFA、流量:0.6mL/分、勾配:5分で0〜30%B、tR:3.13分(P)。実測m/z:1471.9、予想MH+:1472.3。収量0.9mg(15%)。
【技術分野】
【0001】
本発明は放射性ヨウ素化化合物の合成法に関し、特に間接放射性ヨウ素化方法に関する。本発明の方法は、現在知られている間接放射性ヨウ素化方法に比べて利点を与える。
【背景技術】
【0002】
放射性ヨウ素化は、放射性ヨウ素を適当な前駆体化合物と反応させる直接放射性ヨウ素化によって最も容易に実施される。例えば、前駆体化合物は、(放射性ヨウ素交換を可能にするための)アリールヨージド又はブロミド、活性化前駆体化合物アリール環(例えば、フェノール基)、有機金属前駆体化合物(例えば、トリアルキルスズ、トリアルキルシリル又は有機ホウ素化合物)、或いはトリアゼンのような有機前駆体化合物又は求核置換のための良好な脱離基(例えば、ヨードニウム塩)からなり得る。
【0003】
実施するのは簡単であるが、直接放射性ヨウ素化は、特にタンパク質のような生体分子の放射性ヨウ素化に適用する場合に欠点を有している。例えば、チロシン残基上のヒドロキシル基の直接求電子置換によるタンパク質の放射性ヨウ素化は、チロシン残基を欠くタンパク質には適用できない。さらに、求電子方法によって放射性ヨウ素化されたタンパク質は、酸化条件への直接暴露から生じる生物学的機能の低下を示すことが多い。直接放射性ヨウ素化に関する別の問題としては、このようにして標識されたタンパク質は、ヨードチロシン残基と甲状腺ホルモンとの構造的類似性のためにインビボ脱ヨウ素化を受けることが多い。これらの問題を処理するため、間接放射性ヨウ素化方法が開発されてきた。既知の間接放射性ヨウ素化方法は、放射性ヨウ素化シントンの形成を含み、次いでこれをリシンのε−アミノ基の修飾によって温和な条件下でタンパク質にコンジュゲートする(総説に関しては、Wilbur 1992 Bioconj Chem;3:433−70を参照されたい)。現在最も常用されている間接放射性ヨウ素化方法は、下記のスキーム1に示すように、ヨードBolton−Hunter試薬又はさらに典型的にはN−スクシンイミジル−3−ヨードベンゾエート(SIB)をベクター中の第一アミンにコンジュゲートすることを含んでいる。
【0004】
【化1】
典型的なかかる反応は、リン酸ナトリウム緩衝液中において37℃、pH7.5〜8、50mMで30分を要する。反応は一般に高いpHでは一層速く進行する。しかし、pHが高くなるに従い、NHSエステルの加水分解が増加し、その段階に関する以後の収率が低下することがある。収率はまた、ベクター、その溶解度、アミン官能基の位置、及びコンジュゲーションのために選択される系に応じても変化する。
【0005】
ケトン又はアルデヒドに対するヒドラジンの作用によってヒドラゾンが形成されることが知られており(March's Advanced Organic Chemistry 5th Edition,2001,by Smith and March;Chapter 16 pp 1192−4)、これはヒドラジン官能化化合物に対するカルボニル官能基の化学選択的カップリングのために使用できる。放射化学の分野では、ヒドラジン官能化化合物である6−ヒドラジノニコチン酸(HYNIC)が、生体分子の99mTc標識用のよく知られた二官能性リガンドである(例えば、Abrams et al 1990 J Nuc Med;31:2022−8を参照されたい)。さらに最近になって、HYNICは生体分子を18Fで標識するための魅力的な経路としても報告されている。Chang et al(2005 Bioconj Chem;16:1329−33)は、ヒドラゾン形成を介して[18F]フルオロベンズアルデヒド([18F]FBA)をHYNIC−HSAとコンジュゲートすることによる18F標識ヒト血清アルブミン(HSA)の製造を記載している。同じグループはまた、18F標識RGDペプチドの製造におけるこの方法の応用を報告している(Lee et al 2006 Nuc Med Biol;33:677−83)。Bruus−Jensen et al(2006 Nuc Med Biol;33:173−83)は、様々な他の18F標識ペプチドの形成においてこの方法を検討し、それが温和な酸性条件下で高い収率をもたらす迅速で直截な放射性標識方法であることを報告した。これらの報告では、ヒドラゾン形成のための最適温度は50〜70℃の範囲内にあることが判明した。この温度範囲は生体分子を含む反応のためには最も理想的とは言えず、かかる反応は生理的温度に近い温度で実施するのが理想的である。
【0006】
生体分子の放射性ヨウ素化方法には改良の余地が存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
米国特許第4279887号明細書
【発明の概要】
【0008】
本発明は、現在知られている方法に比べて有利な放射性ヨウ素化生体分子の合成方法を提供する。ヒドラジン又はアミノキシ誘導体と活性エステルとの反応を使用することは、アミンと活性エステルとの公知反応に比べてはるかに迅速な反応を容易にし、したがって反応時間の短縮及び収率の増加をもたらす。加えて、ペプチド又はリシン残基のN末端のように、放射性ヨウ素化すべき分子中に第一アミンが存在する場合には、ヒドラジン基又はアミノキシ基の位置における反応が大いに有利となる。さらに、本発明の方法は生体分子の天然状態の温度を模倣する温度で良好な収率を与える。これは、生体分子の構造及び機能が最適に保存されるという利点を与える。
【発明を実施するための形態】
【0009】
放射性ヨウ素化化合物の合成方法
一態様では、本発明は、下記の式Iの放射性ヨウ素化化合物又はその塩若しくは溶媒和物の合成方法であって、下記の式IIの化合物を下記の式IIIの化合物と反応させる段階を含んでなる方法に関する。
【0010】
【化2】
式中、
A1はNH又はOであり、
R1及びR2の一方は−L1−Ar1基であり、
(式中、
L1は化学結合又は1〜3のL*リンカー単位(式中、L*は−CO−、−CR'2−、−CR'=CR'−、−C≡C−、−CR'2CO2−、−CO2CR'2−、−NR'−、−NR'CO−、−CONR'−、−NR'−、−(C=O)NR'−、−NR'(C=S)NR'−、−SO2NR'−、−NR'SO2−、−CR'2OCR'2−、−CR'2SCR'2−、−CR'2NR'CR'2−、C5-12アリーレン基及びC3-12ヘテロアリーレン基から選択され、R'は水素又はC1-3アルキルである。)を含む二価リンカーであり、
Ar1は、放射性ヨウ素で置換され、かつC1-3アルキル、ハロ、アミノ、カルボキシル、ヒドロキシル及びこれらの保護バージョンから選択される0〜3の他の置換基で置換された六員のC3-6アリール基であり、前記アリール基はN、S及びOから選択される0〜3のヘテロ原子を有する。)
R1及びR2の他方は−L2−R*基であり、
(式中、
L2は化学結合又は1〜6のL*リンカー単位(式中、L*はL1に関して定義した通りである。)を含む二価リンカーであり、
R*は生体分子である。)
R1及びR2は任意には好適な保護基を含み、
Xは活性エステル基を表す。
【0011】
本発明の方法に関する定義
「放射性ヨウ素化化合物」という用語は、放射性ヨウ素(即ち、1以上の放射性ヨウ素原子)を含む化合物、特に本発明に関して言えばラジオヨードアリール基を含む化合物を意味する。「ラジオヨードアリール基」とは、本明細書中で定義されるように、放射性ヨウ素原子を含むアリール基である。「放射性ヨウ素原子」は、ヨウ素の任意の放射性同位体、好ましくは123I、124I、125I又は131I、最も好ましくは123I、124I又は131Iであり得る。
【0012】
本発明で使用される「その塩又は溶媒和物」という語句に係る好適な塩には、(i)鉱酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、リン酸、メタリン酸、硝酸及び硫酸)から導かれるもの並びに有機酸(例えば、酒石酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、安息香酸、グリコール酸、グルコン酸、コハク酸、メタンスルホン酸及びp−トルエンスルホン酸)から導かれるもののような生理学的に許容される酸付加塩、並びに(ii)アンモニウム塩、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩及びカリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩及びマグネシウム塩)、有機塩基(例えば、トリエタノールアミン、N−メチル−D−グルカミン、ピペリジン、ピリジン、ピペラジン及びモルホリン)との塩、及びアミノ酸(例えば、アルギニン及びリシン)との塩のような生理学的に許容される塩基塩がある。
【0013】
最も広い意味では、「反応させる」という用語は、式IIの化合物の溶液を式IIIの化合物の溶液と混合することをいう。溶液は水溶液又は有機溶液であり得る。「水溶液」とは、溶媒が水を含むような溶液である。「有機」という用語は、溶液について述べる場合、溶媒がテトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタン(DCM)及びジメチルホルムアミド(DMF)をはじめとする炭素含有溶媒であるような溶液をいう。通例、式IIの化合物の溶液と式IIIの化合物の溶液との混合は、所定の温度で所定の時間にわたって実施される。本発明の方法は、50℃より低いが、室温より顕著には低くない温度で実施することが好ましい。したがって、本発明の方法を実施するための好ましい温度は15〜45℃、最も好ましくは20〜40℃、特に好ましくは35〜40℃の範囲内にある。先行技術の方法に比べての本発明の利点は、それが37℃で成功裡に実施できることである。
【0014】
「活性エステル」とは、その構造がアミンのような求核試薬で容易に置換されて安定な結合を形成するアルコールを用いて生成されたエステルである。好ましい実施形態では、活性エステルはN−ヒドロキシスクシンイミジル(NHS)エステル、ペンタフルオロフェニルエステル及びヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)エステルから選択される。最も好ましい活性エステルはNHSエステルである。
【0015】
単独で又は別の基の一部として使用される「アルキル」という用語は、本明細書中では、任意の直鎖又は枝分れした飽和若しくは不飽和CnH2n+1基(式中、特記しない限りnは1〜10の整数である。)として定義される。アルキル基には、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、1−メチルプロピル、ペンチル、イソペンチル、sec−ペンチル、ヘキシル、ヘプチル及びオクチルがある。
【0016】
「シクロアルキル」という用語は、本明細書中では、環状である任意のアルキル基として定義される。
【0017】
「アリール」という用語は、本明細書中では、1以上の芳香環を含むと共に、好ましくは各環中に5〜6の環構成員を有する任意の単環式、二環式又は三環式C5-14分子断片又は基として定義される。アリールという用語は、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダン及びビフェニルのような純粋な芳香族基、並びに1以上のシクロアルキル環又はヘテロシクロアルキル環と縮合した1以上の芳香環を含む基を包含する。
【0018】
「アミノ」という用語は−NH2基を意味する。
【0019】
「ヒドロキシル」という用語は−OH基を意味する。
【0020】
「ニトロ」という用語は−NO2基を意味する。
【0021】
「ハロ」という用語は、ヨウ素、フッ素、臭素及び塩素から選択されるハロゲン原子に関する。
【0022】
「カルボキシル」という用語は−COOH基を意味する。
【0023】
「ヘテロ原子」という用語は、炭化水素部分中の炭素又は水素でない任意の原子をいう。本発明に関しては、ヘテロ原子は窒素、酸素及び硫黄から選択される。
【0024】
本明細書中で使用する「生体分子」という用語は、ペプチド、タンパク質、抗体、炭水化物、脂質又は核酸のような細胞の成分又は生成物或いはこれらの合成バージョンを意味する。生体分子は例えば高温或いは強酸性又は塩基性条件の存在下では変性を受けやすいので、生体分子の放射性ヨウ素化はできるだけ生理的温度に近い間接的に行うのが有利である。
【0025】
「生理的温度」という用語は、本明細書中では、最も具体的には20〜40℃、好ましくは35〜40℃の範囲内の温度をいうものと解される。
【0026】
単独で又は組み合わせて使用される「アルキレン」という用語は、規定された数の炭素原子を有する直鎖又は枝分れ鎖又は環状の二価脂肪族基をいう。本発明で使用されるアルキレンの例には、特に限定されないが、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレンなどがある。
【0027】
「シクロアルキレン」という用語は、環状の二価脂肪族基をいう。
【0028】
単独で又は組み合わせて使用される「アリーレン」という用語は、フェニレンのように単一の環を有し、或いはナフチレン又はアントリレンのように複数の縮合環を有する二価の不飽和芳香族カルボキシル基をいう。本発明で使用されるアリーレンの例には、特に限定されないが、ベンゼン−1,2−ジイル、ベンゼン−1,3−ジイル、ベンゼン−1,4−ジイル、ナフタレン−1,8−ジイルなどがある。
【0029】
「ヘテロアリーレン」という用語は、N、S及びOから選択される1以上のヘテロ原子を含むアリーレン基をいう。
【0030】
「好適な保護基」とは、望ましくない化学反応を阻止又は抑制するが、分子の残部を変質させない十分に温和な条件下で問題の官能基から脱離させ得るのに十分な反応性を有するように設計された基である。脱保護後には所望の生成物が得られる。保護基は当業者にとって公知であり、アミン基に関してはBoc(ここでBocはtert−ブチルオキシカルボニルである。)、Fmoc(ここでFmocはフルオレニルメトキシカルボニルである。)、トリフルオロアセチル、アリルオキシカルボニル、Dde[即ち、1−(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソシクロヘキシリデン)エチル]及びNpys(即ち、3−ニトロ−2−ピリジンスルフェニル)から適宜に選択され、カルボキシル基に関してはメチルエステル、tert−ブチルエステル及びベンジルエステルから適宜に選択される。ヒドロキシル基に関しては、好適な保護基は、メチル、エチル又はtert−ブチル、アルコキシメチル又はアルコキシエチル、ベンジル、アセチル、ベンゾイル、トリチル(Trt)、又はテトラブチルジメチルシリルのようなトリアルキルシリルである。チオール基に関しては、好適な保護基はトリチル及び4−メトキシベンジルである。さらに他の保護基の使用は、‘Protective Groups in Organic Synthesis’,Theorodora W.Greene and Peter G.M.Wuts(Fourth Edition,John Wiley & Sons Inc.,2007)に記載されている。
【0031】
式II及び式IIIの化合物を得る方法
式II及び式IIIの化合物は、当業者にとって公知の方法で得ることができる。
【0032】
−L1−Ar1基を含む(即ち、ラジオヨードアリール基を含む)式II又は式IIIの化合物を得るためには、好ましい前駆体化合物は、求電子又は求核放射性ヨウ素化を受ける誘導体或いは標識アルデヒド又はケトンとの縮合を受ける誘導体を含む出発化合物が使用できる。第1のカテゴリーの例は下記の(a)及び(b)である。
(a)トリアルキルスタンナン(例えば、トリメチルスタンニル又はトリブチルスタンニル)、トリアルキルシラン(例えば、トリメチルシリル)或いは有機ホウ素化合物(例えば、ボロネートエステル又はオルガノトリフルオロボレート)のような有機金属誘導体。
(b)求電子ヨウ素化に向けて活性化された芳香環(例えば、フェノール類)及び求核ヨウ素化に向けて活性化された芳香環(例えば、アリールヨードニウム塩、アリールジアゾニウム塩、アリールトリアルキルアンモニウム塩又はニトロアリール誘導体)。
【0033】
出発化合物は、好ましくは、(放射性ヨウ素交換を可能にするための)アリールヨージド又はブロミド、活性化前駆体化合物アリール環(例えば、フェノール基)、有機金属前駆体化合物(例えば、トリアルキルスズ、トリアルキルシリル又は有機ホウ素化合物)、或いはトリアゼンのような有機前駆体化合物又は求核置換のための良好な脱離基(例えば、ヨードニウム塩)からなる。放射性ヨウ素を有機分子中に導入するための前駆体化合物及び方法は、Bolton(J Lab Comp Radiopharm 2002;45:485−528)によって記載されている。放射性ヨウ素をタンパク質中に導入するための前駆体化合物及び方法は、Wilbur(Bioconj Chem 1992;3(6):433−470)によって記載されている。好適なボロネートエステル有機ホウ素化合物及びその製法は、Kabalaka et al(Nucl Med Biol 2002;29:841−843及び2003;30:369−373)によって記載されている。好適なオルガノトリフルオロボレート及びその製法は、Kabalaka et al(Nucl Med Biol 2004;31:935−938)によって記載されている。放射性ヨウ素化用の好ましい出発化合物は有機金属前駆体化合物からなり、最も好ましくはトリアルキルスズからなる。
【0034】
放射性ヨウ素を結合できるアリール基の例を下記に示す。
【0035】
【化3】
いずれの基も、芳香環上への容易な放射性ヨウ素置換によってAr1基を形成し得る置換基を含んでいる。放射性ヨウ素を含むAr1置換基は、例えば次式のように、放射性ハロゲン交換による直接ヨウ素化で合成することができる。
【0036】
【化4】
一実施形態では、式IIのA1がNHである結果、式IIの化合物はヒドラジンである。有機化学の標準的な方法を用いてA1がNHである式IIの化合物に転化できる多種多様のヒドラジン化合物が商業的に容易に入手できる。例えば、ヨードフェニルヒドラジンは商業的に入手できるが、これは放射性ヨウ素交換により、A1がNHでありかつR1がラジオヨードフェニルである式IIの化合物に転化できる。また、商業的に入手できるヒドラジノ安息香酸は、例えば次式のように、式IIのヒドラジン化合物に容易に転化できる。
【0037】
【化5】
式中、Bocはtert−ブトキシカルボニル保護基であり、R1は本明細書中で定義した通りである。
【0038】
R1が−L2−R*である場合、式IIの化合物を得るための経路は、生体分子の機能喪失なしに官能化に適するためには十分に温和でなければならない。ヒドラジンによる生体分子の官能化のためには、上記に示した経路に類似する経路であって、出発ヒドラジン含有化合物がHYNICである経路が放射化学分野でよく知られている。ヒドラジン官能基を導入するためのHYNIC部分の利点は、それが温和な条件下で比較的容易に生体分子にコンジュゲートできることである。例えば、N−ヒドロキシスクシンイミジル−HYNICはペプチド又はタンパク質中のリシン残基を処理するために使用でき(Rennen et al 2000 Nuc Med Biol;27:599−604)、或いはHYNIC−マレイミドはマレイミド基をシステイン残基と反応させることで使用できる(Banerjee et al 2005 Dalton Trans;24:3886−97)。
【0039】
生体分子の99mTc標識のためにHYNIC部分を使用した初期の報告(Abrams et al 1990 J Nuc Med;31:12)は、HYNICをIgGとコンジュゲートすることでIgG中にヒドラジン基を組み込む方法を記載している。得られたニコチニルヒドラジン修飾IgGは99mTc−グルコヘプトネートとコンジュゲートできる結果、ヒドラジンの末端窒素は99mTcの配位を完成するように作用する。他の研究者達も類似の方法を他のタンパク質及びペプチドの99mTc標識のために適用し、このアプローチの多用性を実証した。Blankenberg et al(1998 PNAS;95(11)6349−54)はアネキシンVの99mTc標識を記載しており、Rennen et al(2004 Chest;126(6):1954−61)はインターロイキン8の99mTc標識を記載しており、Oyen et al(2000 Eur J NucMed;27:392−9)は糖タンパク質IIa/IIIbレセプター拮抗剤DMP444の99mTc標識を記載しており、Faintuch et al(2005 Synthesis and Reactivity in Inorganic,Metal−Organic,and Nano−Metal Chemistry;35(1):43−51)はボンベシン7-14のNH2の99mTc標識を記載している。
【0040】
HYNIC基は、保護されたペプチドを固相上に固定化し、HYNICをカップリングし、ペプチドを脱保護し、次いで脱保護されたペプチドを固相支持体から切断することで、ペプチドと部位特異的にコンジュゲートできる(Surfraz et al 2007 J Med Chem;50:1418−22)。
【0041】
HYNICはまた、生体分子の18F標識のための経路においても報告されてきた。例えば、Lee et al(2006 Nuc Med Biol;33:677−83)、及びBruus−Jensen et al(2006 Nuc Med Biol;33:173−83)を参照されたい。これらの刊行物は、HYNICによる生体分子の官能化を開示している。HYNIC官能化生体分子のヒドラジン基は18F−フルオロベンズアルデヒドのアルデヒドと反応して安定なヒドラゾン結合を形成し、それによって18F標識生体分子を与える。
【0042】
本発明の方法の好ましい実施形態では、式IIの化合物中のA1がNHであり、R1が−L2−R*である。本発明に関連した好ましい生体分子は、ペプチド、タンパク質又は抗体である。「ペプチド」、「タンパク質」及び「抗体」という用語は、次に簡単に記載するように、当技術分野における通常の意味を有する。ペプチドは、規定された順序でアミノ酸が結合することで形成された短いポリマーであって、1つのアミノ酸残基はアミド結合によって次のものに結合している。通常、ペプチドは50以下のアミノ酸残基を含むものと見なされる。タンパク質はポリペプチド分子であるか、或いは複数のポリペプチドサブユニットからなる。免疫グロブリンとしても知られる抗体は、脊椎動物の免疫系によって使用されるγグロブリン分子である。
【0043】
別の実施形態では、式IIのA1がOである結果、式IIの化合物はアミノキシ化合物である。ヒドラジンと同じく、アミノキシ化合物は超求核試薬であり、アミノ化合物に比べて反応性が一層高いという利点を与える。A1がOである式IIの各種化合物を得るための出発点として役立ち得る若干のアミノキシ化合物が商業的に入手でき、例えば、L−α−アミノキシ−βフェニルプロピオン酸臭化水素酸塩(Apollo Scientific Ltd.)及びアミノキシイソ酪酸塩酸塩(Fine and Performance Chemicals Ltd.)がある。
【0044】
先行技術には、アミノ基をアミノキシで置換することでペプチド化合物のアミノキシ類似体を得る方法が記載されている(例えば、Briggs and Morely 1979 JCS Perkin I:2138−43、Yang et al 2001 J Org Chem;66(22):7303−12、及びYang et al 1999 J Am Chem Soc;121(3):589−590を参照されたい)。アミノキシ官能化脂質が、Perouzel et al(2003 Bioconj Chem;14:884−98)によって報告されている。
【0045】
式IIIの化合物は活性エステルである。R2が−L1−Ar1である場合、式IIIの化合物は活性エステルで官能化されたラジオヨードアリールである。R2が−L2−R*である場合、式IIIの化合物は活性エステルで官能化された生体分子である。
【0046】
数多くの活性エステルが商業的に容易に入手できる。カルボン酸から活性エステルへの転化は、カルボジイミド/フェノール或いはエステル交換試薬(例えば、ペンタフルオロフェニルトリフルオロアセテート又はp−ニトロフェニルトリフルオロアセテート)との反応によって実施できる。ペプチド化合物の合成において活性エステルを使用することは当技術分野でよく知られている(例えば、Grant“Synthetic Peptides”2002;Oxford University Press:137−139、及びAnderson et al 1963 J Am Chem Soc;85:3039を参照されたい)。本発明の好ましい活性エステルはN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルである。
【0047】
好ましい実施形態では、式IIIの化合物は−L1−Ar1を含み、かかる化合物は間接放射性ヨウ素化の分野で知られている。好ましくは、L1は化学結合又はC1-3アルキレンリンカーである。Ar1は、好ましくはラジオヨードフェニル又はラジオヨードフェノール、即ち放射性ヨウ素で置換されかつ任意にはヒドロキシルで置換されたフェニルである。
【0048】
間接放射性ヨウ素化方法は、通例、NHSエステルで官能化されたヨウ素部分を第一アミンとコンジュゲートすることを含んでいる。例えば、Bolton and Hunter(1973 Biochem J;133:529−39)は、125Iヨウ素化3−(4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸NHSエステル(下記に示す)をタンパク質分子中の遊離アミノ基と反応させることによるタンパク質の125I標識を記載している。
【0049】
【化6】
Koziorowski et al(1998 Appl Radiat Isot;49(8):955−9)は、常用される間接放射性ヨウ素化剤である放射性ヨウ素化3−及び4−ヨード安息香酸NHS(下記に示す、式中の*Iは放射性ヨウ素である)を得る方法を教示している。
【0050】
【化7】
別のプロトコル(Vaidyanathan & Zalutsky 2007 Nature Protocols;2:282−6)は、タンパク質の遊離アミノ基をN−スクシンイミジル4−グアニジノメチル−3−[125I]ヨードベンゾエート(下記に示す)と反応させることを含んでいる。
【0051】
【化8】
上述した放射性ヨウ素化NHSエステル化合物は、R2が−L−Ar1である式IIIの化合物として本発明の方法で使用するために好ましい。
【0052】
好ましい実施形態では、L1及びL2は独立に化学結合又はC1-3アルキレンリンカーである。
【0053】
好ましい化合物
好ましい実施形態では、式Iの化合物は下記の式Iaの化合物であり、式IIの化合物は下記の式IIaの化合物であり、式IIIの化合物は下記の式IIIaの化合物である。
【0054】
【化9】
式中、A3はN又はCHであり、R*は上記に定義した通りであり、R4及びR5の一方は放射性ヨウ素であり、R4及びR5の他方は水素又はヒドロキシルであり、Xは上記に定義した活性エステルである。
【0055】
好ましくは、A3はCHであり、これはアリール環上にヘテロ原子が存在しないので反応が一層特異的にA1−NH2の位置で進行し得るという利点を与える。その理由は、窒素ヘテロ原子がヒドラジンNH2から電子を求引し、これの活性エステルに対する反応性を低下させるからである。A3がCHである場合、即ち環がフェニル環である場合、電子求引効果は生じない。
【0056】
好ましい実施形態では、本発明の方法は(本発明の独立した態様として下記に記載される)放射性医薬組成物を得るために使用される。この場合、本発明の方法はさらに下記の段階の1以上を含む。
(i)式Iの放射性ヨウ素化化合物から任意の保護基を除去する段階、及び/又は
(ii)式Iの放射性ヨウ素化化合物を生体適合性キャリヤーと混合して放射性医薬組成物を調製する段階、及び/又は
(iii)段階(ii)の放射性医薬組成物を滅菌する段階、及び/又は
(iv)段階(ii)の放射性医薬組成物から発熱物質を除去する段階。
【0057】
保護基の除去は、当業者にとって公知の方法(Greene and Wuts、上記)によって実施できる。
【0058】
滅菌及び発熱物質除去のための方法も当業者にとって公知である。
【0059】
「滅菌」とは、表面、装置、食品又は医薬品、或いは生物学的培地から伝染性作用因子(例えば、真菌、細菌、ウイルス、胞子など)を効果的に殺し又は排除する任意の方法をいう。滅菌は、加熱、化学薬品、放射線照射、高圧或いは濾過によって達成できる。
【0060】
「発熱物質除去」とは、溶液、最も普通には注射用医薬品からの発熱物質の除去をいう。「発熱物質」は、発熱を引き起こすことがある任意の物質として定義される。例えば、ある種の細菌の細胞壁中に存在する細菌性物質であるリポ多糖(LPS)は発熱物質である。発熱物質除去は、濾過、蒸留、クロマトグラフィー又は不活化によって達成できる。
【0061】
自動化合成
好ましい態様では、本明細書中に好適なもの及び好ましいものとして定義される本発明の方法は自動化される。自動化プロセスは、オペレーターの放射線被曝が減少するので、放射性化合物の合成において特に有用である。現在、特にPETラジオトレーサーはしばしば自動化放射合成装置で簡便に製造されている。かかる装置には、TRACERlab(商標)及びFASTlab(商標)(いずれもGE Healthcare社製)をはじめとするいくつかの市販例が存在している。かかる装置は通常、放射化学を実施するための(しばしば使い捨ての)「カセット」を含んでいて、これは放射合成を実施するため装置に取り付けられる。このカセットは、普通、流体通路、反応器、及び試薬バイアルを受け入れるためのポート並びに放射合成後の清掃段階で使用される任意の固相抽出カートリッジを含んでいる。
【0062】
放射性ヨウ素化化合物
本発明の方法に関して本明細書中に好適なもの及び好ましいものとして定義される式Iの放射性ヨウ素化化合物は、Ar1の放射性ヨウ素置換基が123I、124I又は131Iからなるインビボイメージング剤である。「インビボイメージング剤」という用語は、哺乳動物における特定の生理学的又は病態生理学的状態を標的化するように設計され、哺乳動物体へのインビボ投与後に検出できる化合物を意味する。本発明の方法によって得られる放射性ヨウ素含有化合物がインビボイメージング剤である場合、ラジオヨードアリール部分中のヨウ素原子は123I、124I及び131Iから選択される。同位体123I及び131Iはγ線を放出し、これは単光子放出断層撮影法(SPECT)を用いて検出できる。同位体124Iは陽電子を放出し、これは陽電子放出断層撮影法(PET)を用いて検出できる。本発明のインビボイメージング剤にとって好ましいヨウ素同位体は123I及び124Iであり、最も好ましくは123Iである。
【0063】
放射性医薬組成物
本発明の方法によって得られる放射性ヨウ素化化合物は、本明細書中に定義された式Iの放射性ヨウ素化化合物を、哺乳動物への投与に適した生体適合性キャリヤーと共に含んでなる放射性医薬組成物を製造するために使用できる。
【0064】
「放射性医薬組成物」は、本発明の放射性ヨウ素化化合物を、哺乳動物への投与(好ましくはヒトへの投与)に適した形態の生体適合性キャリヤーと共に含む配合物として定義される。
【0065】
「生体適合性キャリヤー」とは、放射性医薬組成物が生理学的に認容され得るようにして(即ち、毒性又は過度の不快感なしに哺乳動物体に投与できるようにして)本明細書中に定義された放射性ヨウ素含有化合物を懸濁又は溶解するための流体(特に液体)である。生体適合性キャリヤー媒質は、好適には、無菌のパイロジェンフリー注射用水、(有利には注射用の最終生成物が等張性又は非低張性になるように平衡させ得る)食塩水のような水溶液、或いは1種以上の張度調整物質(例えば、血漿陽イオンと生体適合性対イオンとの塩)、糖(例えば、グルコース又はスクロース)、糖アルコール(例えば、ソルビトール又はマンニトール)、グリコール(例えば、グリセロール)又は他の非イオン性ポリオール物質(例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなど)の水溶液のような注射可能なキャリヤー液体である。生体適合性キャリヤー媒質はまた、エタノールのような生体適合性有機溶媒を含んでいてもよい。かかる有機溶媒は、親油性の高い化合物又は配合物を可溶化するために有用である。好ましくは、生体適合性キャリヤー媒質はパイロジェンフリー注射用水、等張食塩水又はエタノール水溶液である。静脈内注射用生体適合性キャリヤー媒質のpHは、好適には4.0〜10.5の範囲内にある。
【0066】
かかる放射性医薬組成物は非経口的に(即ち、注射によって)投与でき、最も好ましくは水溶液である。かかる組成物は、緩衝剤、薬学的に許容される可溶化剤(例えば、シクロデキストリン或いはPluronic、Tween又はリン脂質のような界面活性剤)、薬学的に許容される安定剤又は酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸、ゲンチシン酸又はパラアミノ安息香酸)のような追加成分を任意に含み得る。
【0067】
キット及びカセット
本発明の方法はキットによって簡便に実施できる。したがって、別の態様では、本発明は本明細書中に好適なもの及び好ましいものとして定義される本発明の方法を実施するためのキットを提供する。前記キットは、
(i)本明細書中に定義される式IIの化合物又は本明細書中に定義される式IIaの化合物を含む第1の容器、及び
(ii)本明細書中に定義される式IIIの化合物又は本明細書中に定義される式IIIaの化合物を含む第2の容器
を含んでなる。
【0068】
本発明の方法が自動化される場合、キットの第1及び第2の容器は、自動化合成装置と共に使用するように設計されたかかる使い捨て又は着脱自在のカセット内に収容できる。したがって、別の態様では、本発明はさらに、本発明のキットに関して上記に定義した構成要素を含む自動化合成装置用のカセットも提供する。
【0069】
本発明の放射性医薬組成物を製造するためには、上述したようなキット又はカセットを使用することが特に好都合である。したがって、好ましい実施形態では、本明細書中に記載した本発明の放射性医薬組成物を製造する際に本発明のキット又はカセットが使用される。
【0070】
さらに別の態様では、本発明は、本明細書中に記載した本発明の方法を実施するための本発明のキット又はカセットの使用を提供する。
【0071】
キット及びその使用並びにカセット及びその使用に関しては、式I〜III及び式Ia〜IIIa並びにこれらの好ましい実施形態は、本発明の方法に関して上記に記載した通りである。
【実施例】
【0072】
実施例の簡単な説明
特記しない限り、下記実施例中に記載されるすべての試薬はSigma−Aldrich社又はBDH社から入手した。
【0073】
50mM pH7.4リン酸塩緩衝液は、40.5mlの0.2M Na2HPO4及び9.5mlの0.2M NaH2PO4を水で200mlにすることで調製した。
【0074】
0.2M pH4酢酸アンモニウム緩衝液は、18mlの0.2M NH4OAc及び82mlの0.2M HOAcを水で1リットルにすることで調製した。
【0075】
例1は、HYNIC官能化生体分子と18F−フルオロベンズアルデヒドとのコンジュゲーションによる18F標識に関する先行技術の教示に基づく間接ヨウ素化経路を記載する比較例である。放射性ヨウ素化段階を70℃で実施した場合、放射化学純度(RCP)は15%であった。
【0076】
例2は、HYNIC型ヒドラジンである2−ヒドラジノピリジンをN−スクシンイミジル−3−ヨード安息香酸と反応させることを含む本発明の間接放射性ヨウ素化方法を記載している。この例の方法は、例1に記載した先行技術の方法に比べ、生体分子の構造及び機能の保存にとって最適な温度である生理的温度で実施されるという利点を有している。加えて、例2の方法は例1の先行技術の方法に比べて向上した収率も実証した。
【0077】
例3は、例2の方法で使用する中間体である3−トリメチルスタンニル安息香酸2,5−ジオキソピロリジン−1−イルエステルの合成法を記載している。
【0078】
例4は、NHSエステルがアミノ基よりヒドラジン基と容易に反応することを実証している。
【0079】
実施例中で使用される略語のリスト
Ac アセチル
DCC ジシクロヘキシルカルボジイミド
DMF ジメチルホルムアミド
h 時間
HPLC 高速液体クロマトグラフィー
LCMS 液体クロマトグラフィー質量分析法
Lys リシン
MeOH メタノール
min 分
MS 質量分析法
m/z 質量/電荷比
NHS N−ヒドロキシスクシンイミド
NMR 核磁気共鳴
RCP 放射化学純度
TFA トリフルオロ酢酸
THF テトラヒドロフラン
Thr トレオニン
TLC 薄層クロマトグラフィー
tR 保持時間
UV 紫外
比較例1:N−[1−(4−ヨードフェニル)メチ−(E)−イリデン]−N’−ピリジン−2−イル−ヒドラジンの合成
【0080】
【化10】
1(i) 127Iを用いて実施した反応
生成物を精製し、質量分析法で分析してその正体を確認するため、4−ヨードベンズアルデヒド及び2−ヒドラジノピリジンの127Iコンジュゲーションを実施した。
【0081】
2−ヒドラジノピリジン及び4−ヨードベンズアルデヒドをエタノールに溶解して9.2mM及び4.3mMの溶液を得た。
【0082】
10mlのシラン化密封ガラスバイアルに、下記のものを記載の順序で添加した。
10μlの2−ヒドラジノピリジン(9.2×10-8モル)。
170μlの50mM pH7.4リン酸塩緩衝液。
21μlの4−ヨードベンズアルデヒド(9.1×10-8モル)。
【0083】
調製物を37℃で20分間加熱した後、HPLCで分析した。
カラム−Phenomenex Luna C18(2) 5μ 4.6×150mm
流量−1ml/分
検出−UV254nm及びBioscan放射線検出器
溶媒A−水中0.1%TFA
溶媒B−アセトニトリル中0.1%TFA
勾配−
0分0%B
20分70%B
25分90%B
27分90%B
28分0%B
35分0%B
N−[1−(4−ヨードフェニル)メチ−(E)−イリデン]−N’−ピリジン−2−イル−ヒドラジンのピークをHPLCで精製した。質量分析法は324の位置にピークを示したが、これは予想される生成物の補正質量である。
【0084】
1(ii) 123Iを用いて実施した反応
2−ヒドラジノピリジンをエタノールに溶解して9.2mM溶液を得た。5μlの過酢酸を5mlの水で希釈して5mM溶液を得た。
【0085】
シントンの製造
(Sessler et al,J Am Chem Soc 1995;117(2):704−14の方法で製造した)4−トリ−n−ブチルスズベンズアルデヒドの2.8mMエタノール溶液37μl(1.0×10-7モル)を1.5mlのシラン化密封V形バイアルに添加した。200μlの0.2M pH4酢酸アンモニウム緩衝液及び10μlの0.05M NaOH中1mM Na127I(1.0×10-8モル)を123Iバイアルに添加した。10μlの5mM過酢酸を123Iバイアルに添加した。123Iバイアルの内容物を1.5mlのシラン化V形バイアルに移した。
【0086】
コンジュゲーション
4.4μlの2−ヒドラジノピリジン(4.0×10-8モル)、100μlの粗4−ヨードベンズアルデヒド及び100μlの50mM pH7.4リン酸塩緩衝液を10mlのシラン化密封ガラスバイアルに添加し、調製物を70℃で10分間加熱した。
【0087】
例1と同様にして実施したHPLCは、14.1分のTRで15%のコンジュゲートを示した。38%のヨウ化物及び47%のシントンが残留していた。
【0088】
例2:3−ヨード安息香酸N’−ピリジン−2−イル−ヒドラジドの合成
【0089】
【化11】
2(i) 127Iを用いて実施した反応
3−ヨード安息香酸(1g、4mmol)、N−ヒドロキシスクシンイミド(464mg、4mmol)及びジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(4mlの1Mジクロロメタン溶液、4mmol)の反応によって3−ヨード安息香酸2,5−ジオキソピロリジン−1−イルエステルを製造した。反応混合物を10mlのDMF中において室温で6時間撹拌した。得られた白色沈殿を濾別して廃棄し、得られた濾液を真空中で減容し、カラムクロマトグラフィーで精製したところ、29%の収率が得られた。
【0090】
生成物を精製し、質量分析法で分析してその正体を確認するため、3−ヨード安息香酸2,5−ジオキソピロリジン−1−イルエステル及び2−ヒドラジノピリジンの127Iコンジュゲーションを実施した。
【0091】
2−ヒドラジノピリジンをエタノールに溶解して9.2mM溶液を得た。
【0092】
10mlの密封シラン化ガラスバイアルに、下記のものを記載の順序で添加した。
20μlの2−ヒドラジノピリジン(1.8×10-7モル)。
180μlの50mM pH7.4リン酸塩緩衝液。
63μlの2.9mM 3−ヨード安息香酸2,5−ジオキソピロリジン−1−イルエステル(1.8×10-7モル)。
【0093】
調製物を37℃で30分間加熱した後、例1に関して上述したようにしてHPLCで分析した。3−ヨード安息香酸N’−ピリジン−2−イル−ヒドラジドのピークをHPLCで精製し、質量分析法で分析した。質量分析法は340の位置にピークを示したが、これは予想される生成物の補正質量である。
【0094】
2(ii) 123Iを用いて実施した反応
2(ii)(a) シントンの製造
2−ヒドラジノピリジンをエタノールに溶解して17mM溶液を得た。10μlの過酢酸を5mlの水で希釈し、次いで100μlのこの溶液を水で1mlに基質して1mM溶液を得た。(下記例3に記載するようにして合成した)3−トリメチルスタンニル安息香酸2,5−ジオキソピロリジン−1−イルエステルをメタノール中1%酢酸に溶解して0.26mM溶液を得た。C18 SepPakを5mlのアセトニトリルでコンディショニングし、次いで10mlの水でコンディショニングした。
【0095】
38μlの3−トリメチルスタンニル安息香酸2,5−ジオキソピロリジン−1−イルエステル溶液(1.0×10-8モル)を1.5mlのシラン化密封V形バイアルに添加した。
【0096】
200μlの0.2M pH4酢酸アンモニウム緩衝液及び10μlの0.05M NaOH中1mM Na127I(1.0×10-8モル)を123Iバイアルに添加した。
【0097】
123Iバイアルの内容物を1.5mlのシラン化V形バイアルに移した。
【0098】
粗シントンを前処理したC18 Sep−Pak上に装填した。ヨウ化物を5mlの水で溶出した。シントンを2.5mlのアセトニトリルでシラン化バイアル中に溶出した。アセトニトリルを高真空下で除去した。
【0099】
2(ii)(c) コンジュゲーション
6μlの2−ヒドラジノピリジン(1.0×10-7モル)及び194μlの50mM pH7.4リン酸塩緩衝液を乾燥したシントンに添加し、調製物を37℃で30分間加熱した。
【0100】
HPLCは11.3分のTRで21%の生成物を示した。粗反応物中には8%のシントンが残留していた。
【0101】
例3:3−トリメチルスタンニル安息香酸2,5−ジオキソピロリジン−1−イルエステルの合成
3(i) 3−ヨード安息香酸メチル(2)
【0102】
【化12】
塩化チオニル(20ml)中における3−ヨード安息香酸(1.0g、4.03mmol)の撹拌懸濁液に1滴のジメチルホルムアミドを添加した。次いで、混合物を80℃で18時間加熱した。周囲温度に冷却した後、溶媒を完全に蒸発させ、次いでメタノール(20ml)をゆっくりと添加し、混合物を周囲温度で30分間撹拌した。メタノールを蒸発させたところ、粗生成物が油状物として得られ、これは周囲温度で静置することで凝固した。酢酸エチル/ヘキサン(1:1)を用いるフラッシュクロマトグラフィーによって粗生成物を精製し、純生成物をわずかに黄色の結晶(824mg、78.4%)として得た。
【0103】
1H NMR(500MHz,CDCl3,δ3.95(s,3H,CH3)、7.20(t,1H)、7.9(d,1H)、8.0(d,1H)、8.20(s,1H)。
【0104】
3(ii) 3−トリメチルスタンニル安息香酸メチルエステル(3)
【0105】
【化13】
トルエン(8ml)中における3−ヨード安息香酸メチル(200mg、0.76mmol)及びヘキサメチル二スズ(643μl、3.1mmol)の混合物に、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(180mg、0.155mmol、10モル%)を添加した。反応管をアルゴンでフラッシュし、キャップを付け、マイクロ波中において120℃で15分間加熱した。冷却後、TLC(酢酸エチル/ヘキサン、1:1)は生成物への完全な転化を示した。次いで、黒色の懸濁液を(濾紙で)濾過し、得られた暗色の溶液を蒸発乾固した。残留物を酢酸エチル(15ml)に溶解し、水(6×10ml)で抽出した。
【0106】
次いで、有機相を(MgSO4で)乾燥し、濾過し、減圧下で蒸発させることで、粗生成物を暗色の油状物(463mg)として得、これをフラッシュクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン、1:1)で精製してわずかに黄色の油状物を得た。収量:344mg(74%)。
【0107】
注記:マイクロ波照射は、Personal Chemistry Emrys合成装置内で実施した。
【0108】
1H NMR(500MHz,CDCl3,δ0.32(s,9H,Sn(CH3)3、3.95(s,3H,CH3)、7.40(t,1H)、7.69(d,1H)、8.0(d.1H)、8.20(s,1H)。
【0109】
3(iii) 3−トリメチルスタンニル安息香酸(4)
【0110】
【化14】
3−トリメチルスタンニル安息香酸メチルエステル(148mg、0.50mmol)をメタノール(3ml)に溶解し、周囲温度で撹拌しながら2N水酸化ナトリウム水溶液(1ml、2mmol)をゆっくりと添加した後、混合物をこの温度で3時間撹拌した。HPLCでモニターしたところ、加水分解が完了したことが示された。次いで、混合物を蒸発乾固し、残留物を水(4ml)に再溶解し、1M塩酸をゆっくりと添加して酸性化したところ、生成物の沈殿が生じた。混合物をジクロロメタン(3×10ml)で抽出し、合わせたジクロロメタン相を(Na2SO4で)乾燥し、濾過し、蒸発させることで、粗生成物を白色の固体物質として得た。これをそれ以上精製せずに次の段階で使用した。収量:107mg(76%)。
【0111】
1H NMR(500MHz,CDCl3,δ0.39(s,9H,Sn(CH3)3、7.42(t,1H)、7.72(d,1H)、8.02(d.1H)、8.15(s,1H)。
【0112】
3(iv) 3−トリメチルスタンニル安息香酸2,5−ジオキソピロリジン−1−イルエステル(6)
【0113】
【化15】
3−トリメチルスタンニル安息香酸(101mg、0.35mmol)のジクロロメタン(3ml)溶液に、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、72mg、0.35mmol)、次いでN−ヒドロキシスクシンイミド(40.28mg、0.35mmol)を添加した。無色透明の混合物を周囲温度で撹拌したところ、約15分後に白色の沈殿が現れ始めた。TLC(酢酸エチル/ヘキサン、1:1)が出発原料の完全な消失を示した1時間後に反応を停止した。混合物を濾過し、溶媒の蒸発後に回収された残留物を、酢酸エチル/ヘキサン(1:1)を用いるフラッシュクロマトグラフィーで精製した。純生成物を無色の油状物として得た。収量:90mg(67%)。
【0114】
1H NMR(500MHz,CDCl3,δ0.25(s,9H,Sn(CH3)3、2.88(broad s,4H,(CH2)2)、7.42(t,1H)、7.74(d,1H)、8.03(d.1H)、8.20(s,1H)。
【0115】
例4:3−(4−ヒドロキシ−3−ヨードフェニル)プロピオン酸ヒドラジドの合成
【0116】
【化16】
5mgのAc−Thr(マンノース−6−ホスフェート−マンノース)−Lys−Thr(マンノース−6−ホスフェート−マンノース)−NH2(「グリコペプチド」、Christensen et al,J Chem Soc Perkin Trans 1994;10:1299−1310によって開示された方法に従って合成した)、1.7mgのヨウ素化Bolton−Hunter NHSエステル(「BH」、和光純薬工業199−09341)及びsym−コリジン(1.1μL、Fluka 27690)を1mlのDMF(Rathburn PTS6020)中で混合し、混合物(濁った溶液)を35℃で2時間加熱した。すべてのBHが消費され、BH−ヒドラジンコンジュゲートに対応する新しいピークが唯一の生成物として認められた。追加のBH(0.5mg)及びsym−コリジン(1.1μL)を添加し、35℃での撹拌を2時間続けた。大部分のBHが消費され、BH−ヒドラジンに対応するピークが増加した。残留するヒドラジンと反応させるためにアセトン(100μL)を添加し、混合物を室温で一晩撹拌した。次いで、追加のBH(2.0mg)を添加し、35℃で90分間撹拌を続けた。BHの消費は認められず、全てのヒドラジンが消失したことが示された。追加のsym−コリジン(2.2μL)を添加し、35℃で2時間撹拌を続けた。いかなる生成物も生じなかった。出発原料を一層よく溶解するために水(500μL)を添加し、35℃で一晩撹拌を続けた。少量の生成物が生じた。追加の水(2mL)及びBH(1.8mg)を添加し、BHを一層よく溶解するためにTHF(2mL)を添加し、撹拌を一晩続けた。さらに多くの生成物が加水分解BHと共に生じた。溶媒を真空中で部分的に除去し、残留物を水/0.1%TFA(8mL)で希釈し、HPLC精製に付した。
【0117】
上述した反応のモニタリングは、Phenomenex Luna 3μ C18(2) 20×2mmカラムを214nmでの検出と共に用いるLCMSによって実施した。溶媒A:H2O/0.1%TFA、溶媒B:CH3CN/0.1%TFA、流量:0.6mL/分、勾配:5分で0〜30%B、tR:3.11分(生成物);3.40分(BH−ヒドラジン)、実測m/z:1471.9(生成物);306.9(BH−ヒドラジン)、予想MH+:1472.3(P);307(BH−ヒドラジン)。
【0118】
精製は、Phenomenex Luna 5μ C18(2) 250×21.20mmカラムを214nmでの検出と共に用いるHPLCによって実施した。溶媒A:H2O/0.1%TFA、溶媒B:CH3CN/0.1%TFA、流量:10mL/分、勾配:40分で0〜30%B、tR:36〜40分。
【0119】
精製した生成物の分析は、Phenomenex Luna 3μ C18(2) 20×2mmカラムを214nmでの検出と共に用いるLCMSによって実施した。溶媒A:H2O/0.1%TFA、溶媒B:CH3CN/0.1%TFA、流量:0.6mL/分、勾配:5分で0〜30%B、tR:3.13分(P)。実測m/z:1471.9、予想MH+:1472.3。収量0.9mg(15%)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式Iの放射性ヨウ素化化合物又はその塩若しくは溶媒和物の合成方法であって、下記の式IIの化合物を下記の式IIIの化合物と反応させる段階を含んでなる方法。
【化1】
式中、
A1はNH又はOであり、
R1及びR2の一方は−L1−Ar1基であり、
(式中、
L1は化学結合又は1〜3のL*リンカー単位(式中、L*は−CO−、−CR'2−、−CR'=CR'−、−C≡C−、−CR'2CO2−、−CO2CR'2−、−NR'−、−NR'CO−、−CONR'−、−NR'−、−(C=O)NR'−、−NR'(C=S)NR'−、−SO2NR'−、−NR'SO2−、−CR'2OCR'2−、−CR'2SCR'2−、−CR'2NR'CR'2−、C5-12アリーレン基及びC3-12ヘテロアリーレン基から選択され、R'は水素又はC1-3アルキルである。)を含む二価リンカーであり、
Ar1は、放射性ヨウ素で置換され、かつC1-3アルキル、ハロ、アミノ、カルボキシル、ヒドロキシル及びこれらの保護バージョンから選択される0〜3の他の置換基で置換された六員のC3-6アリール基であり、前記アリール基はN、S及びOから選択される0〜3のヘテロ原子を有する。)
R1及びR2の他方は−L2−R*基であり、
(式中、
L2は化学結合又は1〜6のL*リンカー単位(式中、L*はL1に関して定義した通りである。)を含む二価リンカーであり、
R*は生体分子である。)
R1及びR2は任意には適当な保護基を含み、
Xは活性エステル基を表す。
【請求項2】
A1がNHである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
A1がOである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
L1が化学結合又はC1-3アルキレンリンカーである、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
L2が化学結合又はC1-3アルキレンリンカーである、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
R1が−L2−R*基であり、R2が−L1−Ar1基である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
Ar1が、放射性ヨウ素で置換されかつ任意にはヒドロキシル又はグアニジンで置換されたフェニルである、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
R*が、抗体、ペプチド又はタンパク質である生体分子である、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
式Iの化合物が下記の式Iaの化合物であり、式IIの化合物が下記の式IIaの化合物であり、式IIIの化合物が下記の式IIIaの化合物である、請求項1記載の方法。
【化2】
式中、A3はN又はCHであり、R*は請求項1又は請求項8のいずれか1項で定義した通りであり、R4及びR5の一方は放射性ヨウ素であり、R4及びR5の他方は水素又はヒドロキシルであり、Xは請求項1で定義した通りである。
【請求項10】
A1がNHである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
A1がOである、請求項9記載の方法。
【請求項12】
A3がCHである、請求項9乃至請求項11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
R4及びR5の一方が放射性ヨウ素であり、他方が水素である、請求項9乃至請求項12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記放射性ヨウ素化化合物がインビボイメージング剤であり、Ar1の放射性ヨウ素置換基が123I、124I又は131Iからなる、請求項1乃至請求項13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
さらに下記の段階の1以上を任意の順序で含む、請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の方法。
(i)式Iの放射性ヨウ素化化合物から任意の保護基を除去する段階、及び/又は
(ii)式Iの放射性ヨウ素化化合物を生体適合性キャリヤーと混合して放射性医薬組成物を調製する段階、及び/又は
(iii)段階(ii)の放射性医薬組成物を滅菌する段階、及び/又は
(iv)段階(ii)の放射性医薬組成物から発熱物質を除去する段階。
【請求項16】
自動化される、請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
自動合成装置で実施される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の方法で定義した式Iの放射性ヨウ素化化合物を、哺乳動物への投与に適した形態の生体適合性キャリヤーと共に含んでなる放射性医薬組成物。
【請求項19】
請求項1乃至請求項17のいずれか1項記載の方法を実施するためのキットであって、
(i)請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の方法で定義した式IIの化合物、又は請求項9乃至請求項12のいずれか1項記載の方法で定義した式IIaの化合物を含む第1の容器、及び
(ii)請求項1及び請求項4乃至請求項8のいずれか1項記載の方法で定義した式IIIの化合物、又は請求項9又は請求項13記載の方法で定義した式IIIaの化合物を含む第2の容器
を含んでなるキット。
【請求項20】
請求項17記載の方法を実施するためのカセットであって、請求項19記載のキットに関して定義した第1及び第2の容器を含んでなるカセット。
【請求項21】
請求項1乃至請求項17のいずれか1項記載の方法を実施するための、請求項19記載のキットの使用。
【請求項22】
請求項17記載の方法を実施するための、請求項20記載のカセットの使用。
【請求項1】
下記の式Iの放射性ヨウ素化化合物又はその塩若しくは溶媒和物の合成方法であって、下記の式IIの化合物を下記の式IIIの化合物と反応させる段階を含んでなる方法。
【化1】
式中、
A1はNH又はOであり、
R1及びR2の一方は−L1−Ar1基であり、
(式中、
L1は化学結合又は1〜3のL*リンカー単位(式中、L*は−CO−、−CR'2−、−CR'=CR'−、−C≡C−、−CR'2CO2−、−CO2CR'2−、−NR'−、−NR'CO−、−CONR'−、−NR'−、−(C=O)NR'−、−NR'(C=S)NR'−、−SO2NR'−、−NR'SO2−、−CR'2OCR'2−、−CR'2SCR'2−、−CR'2NR'CR'2−、C5-12アリーレン基及びC3-12ヘテロアリーレン基から選択され、R'は水素又はC1-3アルキルである。)を含む二価リンカーであり、
Ar1は、放射性ヨウ素で置換され、かつC1-3アルキル、ハロ、アミノ、カルボキシル、ヒドロキシル及びこれらの保護バージョンから選択される0〜3の他の置換基で置換された六員のC3-6アリール基であり、前記アリール基はN、S及びOから選択される0〜3のヘテロ原子を有する。)
R1及びR2の他方は−L2−R*基であり、
(式中、
L2は化学結合又は1〜6のL*リンカー単位(式中、L*はL1に関して定義した通りである。)を含む二価リンカーであり、
R*は生体分子である。)
R1及びR2は任意には適当な保護基を含み、
Xは活性エステル基を表す。
【請求項2】
A1がNHである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
A1がOである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
L1が化学結合又はC1-3アルキレンリンカーである、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
L2が化学結合又はC1-3アルキレンリンカーである、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
R1が−L2−R*基であり、R2が−L1−Ar1基である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
Ar1が、放射性ヨウ素で置換されかつ任意にはヒドロキシル又はグアニジンで置換されたフェニルである、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
R*が、抗体、ペプチド又はタンパク質である生体分子である、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
式Iの化合物が下記の式Iaの化合物であり、式IIの化合物が下記の式IIaの化合物であり、式IIIの化合物が下記の式IIIaの化合物である、請求項1記載の方法。
【化2】
式中、A3はN又はCHであり、R*は請求項1又は請求項8のいずれか1項で定義した通りであり、R4及びR5の一方は放射性ヨウ素であり、R4及びR5の他方は水素又はヒドロキシルであり、Xは請求項1で定義した通りである。
【請求項10】
A1がNHである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
A1がOである、請求項9記載の方法。
【請求項12】
A3がCHである、請求項9乃至請求項11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
R4及びR5の一方が放射性ヨウ素であり、他方が水素である、請求項9乃至請求項12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記放射性ヨウ素化化合物がインビボイメージング剤であり、Ar1の放射性ヨウ素置換基が123I、124I又は131Iからなる、請求項1乃至請求項13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
さらに下記の段階の1以上を任意の順序で含む、請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の方法。
(i)式Iの放射性ヨウ素化化合物から任意の保護基を除去する段階、及び/又は
(ii)式Iの放射性ヨウ素化化合物を生体適合性キャリヤーと混合して放射性医薬組成物を調製する段階、及び/又は
(iii)段階(ii)の放射性医薬組成物を滅菌する段階、及び/又は
(iv)段階(ii)の放射性医薬組成物から発熱物質を除去する段階。
【請求項16】
自動化される、請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
自動合成装置で実施される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の方法で定義した式Iの放射性ヨウ素化化合物を、哺乳動物への投与に適した形態の生体適合性キャリヤーと共に含んでなる放射性医薬組成物。
【請求項19】
請求項1乃至請求項17のいずれか1項記載の方法を実施するためのキットであって、
(i)請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の方法で定義した式IIの化合物、又は請求項9乃至請求項12のいずれか1項記載の方法で定義した式IIaの化合物を含む第1の容器、及び
(ii)請求項1及び請求項4乃至請求項8のいずれか1項記載の方法で定義した式IIIの化合物、又は請求項9又は請求項13記載の方法で定義した式IIIaの化合物を含む第2の容器
を含んでなるキット。
【請求項20】
請求項17記載の方法を実施するためのカセットであって、請求項19記載のキットに関して定義した第1及び第2の容器を含んでなるカセット。
【請求項21】
請求項1乃至請求項17のいずれか1項記載の方法を実施するための、請求項19記載のキットの使用。
【請求項22】
請求項17記載の方法を実施するための、請求項20記載のカセットの使用。
【公表番号】特表2012−516308(P2012−516308A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546852(P2011−546852)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051053
【国際公開番号】WO2010/086398
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(305040710)ジーイー・ヘルスケア・リミテッド (99)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051053
【国際公開番号】WO2010/086398
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(305040710)ジーイー・ヘルスケア・リミテッド (99)
【Fターム(参考)】
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