説明

放射性元素検出用化合物及びこれを利用する放射性元素検出用器具並びに放射性元素検出方法

【課題】廃液の発生量を大幅に抑制できるようにする。
【解決手段】下記の一般式(1)で表される放射性元素検出用化合物を表面に反応させて結合させた保持部12を有する金属の基板11からなる放射性元素検出用器具10に試料を滴下した後、赤外光を照射して反射した赤外光を計測することにより、UやPuを検出する。ただし、式(1)において、A1〜A3のうちの少なくとも一つは、−SH,−PH2,−NH2のうちのいずれかの連結基であり、残りは、−Hであり、R1〜R4は、連結基が結合しているとき、炭素数4〜18のアルキレンであり、連結基が結合していないとき、炭素数0〜18のアルキレンである。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水等に含まれている放射性元素を検出する放射性元素検出用化合物及びこれを利用する放射性元素検出用器具並びに放射性元素検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所で使用された燃料を再処理する再処理工場においては、廃水中に含まれているウラン(U)やプルトニウム(Pu)等の放射性元素の濃度を確認するようにしている。
【0003】
例えば、廃水中のPu(III)の濃度を分析する場合には、廃水をサンプリングし、この試料に硝酸等の酸及びリン酸トリブチル等の適切な配位子を加えて錯体を形成させ、キシレン等の有機溶剤で洗浄してPu(IV)を除去し、水相を乾燥処理及び赤熱処理して有機溶媒等を完全に除去した後、残留物をα−スペクトロメトリで測定することにより、Pu(III)の濃度を分析している。
【0004】
また、廃水中の全Puの濃度を分析する場合には、廃水をサンプリングし、この試料にヒドラジン等の還元剤を加えてPu(IV)及びPu(VI)を一旦Pu(III)にした後、二酸化窒素等の酸化剤を加えてPu(III)をPu(IV)にして、キシレン等の有機溶剤でPu(IV)を抽出して、有機相を乾燥処理及び赤熱処理して有機溶媒等を完全に除去した後、残留物をα−スペクトロメトリで測定することにより、Pu(IV)の濃度、すなわち、全Puの濃度を分析している。
【0005】
また、廃水からサンプリングした試料に硝酸等の酸を加えてから過酸化銀等の酸化剤を加えてPu(III)及びPu(IV)をPu(VI)にしたら、アミド硫酸等を加えて上記酸化剤を分解除去した後、定容して紫外−可視光吸光光度計で測定することにより、Pu(VI)の濃度、すなわち、全Puの濃度を分析している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−226066号公報
【特許文献2】特開2008−122136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したような従来の分析方法においては、1回の測定に数十〜数百ミリリットル程度の廃液を生じてしまうため、廃水中の放射性元素の濃度を頻繁に確認すると、大量の廃液を生じてしまい、後処理に難点を生じてしまっていた。このため、廃液の発生量を大幅に抑制できるようにすることが強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するためになされた第一番目の発明は、放射性元素を検出するために利用される化合物であって、下記の一般式(1)〜(6)のうちのいずれかで表されるものであることを特徴とする放射性元素検出用化合物である。
【0009】
ただし、A1〜A4のうちの少なくとも一つは、−SH,−PH2,−NH2,−COOH,−OH,−Si(CH32OH,−COCl,−SiCl3,−Si(CH32Clのうちのいずれかの連結基であり、残りは、−Hであり、R1〜R4は、前記連結基が結合しているとき、炭素数4〜18のアルキレンであり、前記連結基が結合していないとき、炭素数0〜18のアルキレンである。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
【化3】

【0013】
【化4】

【0014】
【化5】

【0015】
【化6】

【0016】
また、前述した課題を解決するためになされた第二番目の発明は、前記連結基が、−SH,−PH2,−NH2のうちのいずれかである第一番目の発明の放射性元素検出用化合物の当該連結基を金属と反応させることにより、当該放射性元素検出用化合物を表面に結合させた基板からなることを特徴とする放射性元素検出用器具である。
【0017】
また、前述した課題を解決するためになされた第三番目の発明は、前記連結基が、−NH2,−COOH,−OHのうちのいずれかである第一番目の発明の放射性元素検出用化合物の当該連結基をフェノール樹脂,エポキシ樹脂,メラミン樹脂,ユリア樹脂,ウレタン樹脂のうちのいずれかの樹脂と反応させることにより、当該放射性元素検出用化合物を表面に結合させた基板からなることを特徴とする放射性元素検出用器具である。
【0018】
また、前述した課題を解決するためになされた第四番目の発明は、前記連結基が、−Si(CH32OH,−COCl,−SiCl3,−Si(CH32Clのうちのいずれかである第一番目の発明の放射性元素検出用化合物の当該連結基をケイ酸と反応させることにより、当該放射性元素検出用化合物を表面に結合させた基板からなることを特徴とする放射性元素検出用器具である。
【0019】
また、前述した課題を解決するためになされた第五番目の発明は、前記連結基が、−Si(CH32OH,−COCl,−SiCl3,−Si(CH32Clのうちのいずれかである第一番目の発明の放射性元素検出用化合物の当該連結基をケイ酸と反応させることにより、当該放射性元素検出用化合物を内面に結合させた基管からなることを特徴とする放射性元素検出用器具である。
【0020】
また、前述した課題を解決するためになされた第六番目の発明は、放射性元素を含有する液状の試料を、第二番目から第四番目のいずれかの放射性元素検出用器具の表面に滴下した後、当該放射性元素検出用器具の表面に赤外光を照射して反射又は透過した赤外光を計測することを特徴とする放射性元素検出方法である。
【0021】
また、前述した課題を解決するためになされた第七番目の発明は、放射性元素を含有する液状の試料を、第二番目から第四番目のいずれかの放射性元素検出用器具の表面に滴下した後、当該放射性元素検出用器具の表面をマトリックス支援レーザ脱離イオン化飛行時間型質量分析法で計測することを特徴とする放射性元素検出方法である。
【0022】
また、前述した課題を解決するためになされた第八番目の発明は、放射性元素を含有する液状の試料を、第二番目の発明の放射性元素検出用器具の表面に滴下した後、当該放射性元素検出用器具を作用極としてサイクリックボルタンメトリ法により酸化還元電位を計測することを特徴とする放射性元素検出方法である。
【0023】
また、前述した課題を解決するためになされた第九番目の発明は、放射性元素を含有する液状の試料を、第五番目の発明の放射性元素検出用器具の内部を流通させた後、当該放射性元素検出用器具に紫外−可視光を照射して、透過した紫外−可視光の吸光度又は発光した蛍光強度を計測することを特徴とする放射性元素検出方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、放射性元素検出用化合物を基板や基管に結合させた放射性元素検出用器具を得て、1〜2滴の試料で放射性元素の濃度を検出することができることから、1回の測定で生じる廃液を数〜数十ミリリットル程度に済ますことができるので、発生する廃液量を大幅に抑制することができると共に、各種試薬の使用量を大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る放射性元素検出用化合物を利用する放射性元素検出用器具の第一番目の実施形態の概略構造図である。
【図2】図1の放射性元素検出用器具を利用した第一番目の実施形態の放射性元素検出方法の概略説明図である。
【図3】図2の放射性元素検出方法で使用される検量線の一例である。
【図4】図3の検量線を用いた濃度算出方法の説明図である。
【図5】本発明に係る放射性元素検出用化合物を利用する放射性元素検出用器具の第二番目の実施形態の概略構造図である。
【図6】図5の放射性元素検出用器具を利用した第二番目の実施形態の放射性元素検出方法の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る放射性元素検出用化合物及びこれを利用する放射性元素検出用器具並びに放射性元素検出方法の実施形態を図面に基づいて以下に説明するが、本発明は図面に基づいて説明する以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0027】
[第一番目の実施形態]
本発明に係る放射性元素検出用化合物及びこれを利用する放射性元素検出用器具並びに放射性元素検出方法の第一番目の実施形態を図1〜4に基づいて説明する。
【0028】
本実施形態に係る放射性元素検出用化合物は、放射性元素を検出するために利用される化合物であって、下記の一般式(1)〜(6)のうちのいずれかで表されるものである。
【0029】
ただし、A1〜A4のうちの少なくとも一つは、−SH,−PH2,−NH2,−COOH,−OH,−Si(CH32OH,−COCl,−SiCl3,−Si(CH32Clのうちのいずれかの連結基であり、残りは、−Hであり、R1〜R4は、前記連結基が結合しているとき、炭素数4〜18(好ましくは6〜12)のアルキレンであり、前記連結基が結合していないとき、炭素数0〜18のアルキレンである。
【0030】
【化7】

【0031】
【化8】

【0032】
【化9】

【0033】
【化10】

【0034】
【化11】

【0035】
【化12】

【0036】
このような放射性元素検出用化合物において、上記(1)に係る化合物は、例えば、ジアルキルアミン(例えば、ジラウリルアミン)に対して、公知の合成方法を利用することにより、上記連結基等を導入することにより得ることができ、上記(2)に係る化合物は、例えば、N,N−ジアルキルアミド(例えば、N,N−ジラウリルアミド)に対して、公知の合成方法を利用することにより、上記連結基等を導入して得ることができ、上記(3),(4)に係る化合物は、ラクタム類(例えば、γ−ブチロラクタム(2−ピロリドン),δ−バレロラクタム(2−ピペリドン))に対して、公知の合成方法を利用することにより、上記連結基等を導入して得ることができ、上記式(5)に係る化合物は、例えば、リン酸トリアルキル(例えば、リン酸トリブチル)に対して、公知の合成方法を利用することにより、上記連結基等を導入して得ることができ、上記式(6)に係る化合物は、例えば、テノイル−n−トリフルオロアセトンに対して、公知の合成方法を利用することにより、上記連結基等を導入して得ることができる。
【0037】
具体的には、例えば、以下のような種々の公知方法を組み合わせることにより各種合成することができる。なお、マスキングは必要に応じて適宜行う。
【0038】
1225NH2 + C1225Br → (C12252NH2+Br-

(C12252NH2+Br- + boc−NHC1224Br + pyridine
→ (C12252NC1224NH−boc

(C12252NC1224NH−boc + tfa
→(C12252NC1224NH2

*boc:t−ブトキシカルボニル
tfa:トリフルオロ酢酸
【0039】
1225NH2 + C1225Br → (C12252NH2+Br-

(C12252NH2+Br- + boc−PHC1224Br + pyridine
→ (C12252NC1224PH−boc

(C12252NC1224PH−boc + tfa
→(C12252NC1224PH2

*boc:t−ブトキシカルボニル
tfa:トリフルオロ酢酸
【0040】
BrC1224COOH + CH3OH + SOCl2
→ BrC1224COOCH3

BrC1224COOCH3 + C1225NH2
→ C1225NHC1224COOCH3

1225COOH + SOCl2 → C1225COCl

1225NHC1224COOCH3 + C1225COCl
→ C1225CON(C1225)C1224COOCH3

1225CON(C1225)C1224COOCH3 + NaOH
→ C1225CON(C1225)C1224COOH
【0041】
CH3CON(C1021)C1020OH + CH3COS−φ−COOH
→ CH3CON(C1021)C1020OCO−φ−SCOCH3

CH3CON(C1021)C1020OCO−φ−SCOCH3 + NH3・H2
→ CH3CON(C1021)C1020OCO−φ−SH

*φ:ベンゼン環
【0042】
2NC35(C612OH)COOH + dcc → lactam−C612OH

lactam−C612OH + CH3COS−φ−COOH
→ lactam−C612OCO−φ−SCOCH3

lactam−C612OCO−φ−SCOCH3 + NH3・H2
→ lactam−C612OCO−φ−SH

*φ:ベンゼン環
dcc:ジシクロヘキシルカルボジイミド
【0043】
1225NH2 + C1225Br → (C12252NH2+Br-

(C12252NH2+Br- + HOOCNHC1224Br + pyridine
→ (C12252NC1224NHCOOH

(C12252NC1224NHCOOH + SOCl2
→ (C12252NC1224COCl
【0044】
このようにして得られた上記放射性元素検出用化合物の上記連結基を、対応する材料からなる基板と反応させることにより、図1に示すように、当該基板11の表面に当該放射性元素検出用化合物からなる保持部12を設けた放射性元素検出用器具10を得ることができる。
【0045】
具体的には、前記連結基が、−SH,−PH2,−NH2のうちのいずれかであるときは、例えば、前記放射性元素検出用化合物を溶媒(例えば、エタノール等のアルコールや、クロロホルムやトリクロロロエチレン等のハロゲン系溶媒等)に加えた溶液と、金等の金属からなる基板11とを接触させて、当該溶液中の上記放射性元素検出用化合物の上記連結基を当該基板11の表面と反応させて結合させることにより、当該基板11の表面に層状をなす前記保持部12を形成した放射性元素検出用器具10を得ることができる。
【0046】
また、前記連結基が、−NH2,−COOH,−OHのうちのいずれかであるときは、例えば、前記放射性元素検出用化合物及び縮合剤(例えば、O−(ベンゾトリアゾル−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HATU)等)を溶媒(例えば、ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシド等)に加えた溶液と、フェノール樹脂,エポキシ樹脂,メラミン樹脂,ユリア樹脂,ウレタン樹脂のうちのいずれかの樹脂からなる基板11とを接触させて、当該溶液中の上記放射性元素検出用化合物の上記連結基を当該基板11の表面と反応させて結合させることにより、当該基板11の表面に層状をなす前記保持部12を形成した放射性元素検出用器具10を得ることができる。
【0047】
また、前記連結基が、−Si(CH32OH,−COCl,−SiCl3,−Si(CH32Clのうちのいずれかであるときは、例えば、前記放射性元素検出用化合物を溶媒(エタノール等のアルコール(−Si(CH32OHのときのみ)や、クロロホルムやトリクロロロエチレン等のハロゲン系溶媒等)加えた溶液と、Si−OHを表面に有する石英等のケイ酸からなる基板11とを接触させて加熱し、当該溶液中の上記放射性元素検出用化合物の上記連結基を当該基板11の表面と反応させて結合させることにより、当該基板11の表面に層状をなす前記保持部12を形成した放射性元素検出用器具10を得ることができる。
【0048】
このようにして得られた上記放射性元素検出用器具10を利用して、例えば、原子力発電所で使用された燃料を再処理する再処理工場の廃水中のウラン(U)の濃度を確認する場合には、上記廃水をサンプリングし、この試料を上記放射性元素検出用器具10の表面に規定量で滴下(1〜2滴)すると、当該試料中のUが当該放射性元素検出用器具10の前記保持層12と錯体を形成して当該保持層12に取り込まれるようになる。
【0049】
次に、上記放射性元素検出用器具10の表面を水洗した後、前記基板11が前記金属又は前記樹脂からなる場合には、赤外反射吸収分光(IRRAS)法により、図2Aに示すように、当該放射性元素検出用器具10の表面に光源111から赤外光101を照射して、当該放射性元素検出用器具10の表面から反射した赤外光101を検出器112で計測する。
【0050】
他方、前記基板11が前記ケイ酸からなる場合には、赤外吸収分光(IRAS)法により、図2Bに示すように、当該放射性元素検出用器具10の表面に光源121から赤外光101を照射して、当該放射性元素検出用器具10を透過した赤外光101を検出器122で計測する。
【0051】
このようにして赤外光101のスペクトルを計測すると、前記放射性元素検出用器具10のブランクでの赤外光101のスペクトルのピークに対して、Uと錯体を形成している前記保持層12(放射性元素検出用化合物)のスペクトルのピークがシフトしているため、当該放射性元素検出用器具10のブランクでの赤外光101のスペクトルのピーク面積に対するシフトピーク面積の割合を求めることにより、図3に示すように、予め求められた検量線に基づいて、試料中のUの濃度を求めることができる。
【0052】
また、例えば、廃水中の全プルトニウム(Pu)の濃度を確認する場合には、上記廃水をサンプリングし、例えば、従来と同様に、ヒドラジン等の還元剤を加えてPu(IV)及びPu(VI)を一旦Pu(III)にした後、二酸化窒素等の酸化剤を加えてPu(III)をPu(IV)にして、キシレン等の有機溶剤でPu(IV)を抽出し、この試料を上記放射性元素検出用器具10の表面に規定量で滴下(1〜2滴)すると、当該試料中のPu(IV)が当該放射性元素検出用器具10の前記保持層12と錯体を形成して当該保持層12に取り込まれるようになる。
【0053】
次に、上記放射性元素検出用器具10の表面を水洗したら、上述したUの場合と同様に操作することにより、赤外光101のスペクトルを計測して、図3に示したような予め求められた検量線に基づいて、試料中のPu(IV)の濃度、すなわち、全Puの濃度を求めることができる。
【0054】
さらに、例えば、廃水中にPu(VI)がないときに、Pu(III)及びPu(IV)の濃度を確認する場合には、上記廃水をサンプリングして二分し、一方を上記放射性元素検出用器具10の表面の一方の箇所に規定量で滴下(1〜2滴)する(スポット1)と共に、他方に、従来と同様にして、ヒドラジン等の還元剤を加えてPu(IV)を一旦Pu(III)にしてから、二酸化窒素等の酸化剤を加えてPu(III)をPu(IV)にして、キシレン等の有機溶剤でPu(IV)を抽出し、これを上記放射性元素検出用器具10の表面の他方の箇所に規定量で滴下(1〜2滴)した(スポット2)後、当該放射性元素検出用器具10の表面を水洗し、上述と同様に操作することにより、スポット1及びスポット2の赤外光101のスペクトルをそれぞれ計測する。
【0055】
そして、前記検量線に基づくことにより、スポット1のスペクトルのシフトピーク面積割合から、スポット1のPu(IV)の濃度、すなわち、当初のPu(IV)の濃度を求めることができ、スポット2の赤外光101のスペクトルのシフトピーク面積割合から、スポット2のPu(IV)の濃度、すなわち、当初のPu(III)及びPu(IV)の合計濃度を求めることができ、スポット1のスペクトルのシフトピーク面積割合とスポット2のスペクトルのシフトピーク面積割合との差分から、酸化処理によって生じたPu(IV)の濃度、すなわち、当初のPu(III)の濃度を求めることができる(図4参照)。
【0056】
つまり、本実施形態においては、1〜2滴の試料で測定を行うことができるのである。
【0057】
このため、本実施形態では、1回の測定で生じる廃液を数〜数十ミリリットル程度に済ますことができる。
【0058】
したがって、本実施形態によれば、廃水中の放射性元素の濃度を頻繁に確認しても、発生する廃液量を大幅に抑制することができると共に、各種試薬の使用量を大幅に削減することができる。
【0059】
また、一枚の放射性元素検出用器具10に複数のスポットを形成することができるので、一枚の放射性元素検出用器具10で複数の試料を計測することができ、計測作業を効率よく行うことができると共に、使用する各種実験器具の必要数を減らすことができる。
【0060】
[第二番目の実施形態]
本発明に係る放射性元素検出用化合物及びこれを利用する放射性元素検出用器具並びに放射性元素検出方法の第二番目の実施形態を図5,6に基づいて説明する。なお、前述した第一番目の実施形態の説明と重複する説明は省略する。
【0061】
本実施形態に係る放射性元素検出用化合物は、前述した第一番目の実施形態で説明した一般式(1)〜(6)のうちのいずれかで表される化合物において、A1〜A4のうちの少なくとも一つが、−Si(CH32OH,−COCl,−SiCl3,−Si(CH32Clのうちのいずれかの連結基であり、残りが、−Hである化合物である。なお、R1〜R4は、前述した第一番目の実施形態の場合と同様に、前記連結基が結合しているとき、炭素数4〜18(好ましくは6〜12)のアルキレンであり、前記連結基が結合していないとき、炭素数0〜18のアルキレンである。
【0062】
そして、本実施形態に係る放射性元素検出用器具は、Si−OHを表面に有する石英等のケイ酸からなる角筒型の基管の内面と反応させることにより、図5に示すように、当該基管21の内面に当該放射性元素検出用化合物からなる保持部22を設けた放射性元素検出用器具20を得ることができる。
【0063】
具体的には、例えば、前記放射性元素検出用化合物を溶媒(エタノール等のアルコール(−Si(CH32OHのときのみ)や、クロロホルムやトリクロロロエチレン等のハロゲン系溶媒等)加えた溶液を、前記基管21の内部に入れて加熱し、当該溶液中の上記放射性元素検出用化合物の上記連結基を当該基管21の表面と反応させて結合させることにより、当該基管21の内面に層状をなす前記保持部22を形成した放射性元素検出用器具20を得ることができる。
【0064】
このようにして得られた上記放射性元素検出用器具20を利用して、例えば、原子力発電所で使用された燃料を再処理する再処理工場の廃水中の全Puの濃度を確認する場合には、上記廃水をサンプリングし、例えば、従来と同様に、硝酸等の酸を加えてから過酸化銀等の酸化剤を加えてPu(III)及びPu(IV)をPu(VI)にしたら、アミド硫酸等を加えて上記酸化剤を分解除去した後、この試料を上記放射性元素検出用器具20の内部に規定量で注入(1〜2滴)すると、前述した実施形態の場合と同様に、当該試料中のPu(VI)が当該放射性元素検出用器具20の前記保持層22と錯体を形成して当該保持層22に取り込まれるようになる。
【0065】
次に、上記放射性元素検出用器具20の内部を水洗した後、紫外−可視光(UV−Vis)吸光光度法により、図6に示すように、当該放射性元素検出用器具20に光源211から紫外−可視光201を照射して、当該放射性元素検出用器具20を透過した紫外−可視光201を検出器212で計測する。
【0066】
そして、前述した実施形態の場合と同様にして、計測された紫外−可視光201のスペクトルの吸光度から、予め求められた検量線に基づいて、試料中のPu(VI)の濃度、すなわち、全Puの濃度を求めることができる。
【0067】
つまり、前述した実施形態は、基板11の表面に層状をなす保持部12を形成した放射性元素検出用器具10を利用する場合であったが、本実施形態は、筒型の基管21の内面に層状をなす保持部22を形成した放射性元素検出用器具20を利用する場合なのである。
【0068】
このため、本実施形態においては、放射性元素検出用器具20の内部に試料を流通させるだけでPu(VI)を前記保持層22に取り込むことができる。
【0069】
したがって、本実施形態によれば、前述した実施形態の場合と同様な効果を得ることができるのはもちろんのこと、計測作業の自動化を容易に図ることができ、計測作業の効率化を向上させることができる。
【0070】
[他の実施形態]
なお、前述した第一番目の実施形態では、赤外反射吸収分光(IRRAS)法や赤外吸収分光(IRAS)法を適用した場合について説明し、前述した第二番目の実施形態では、紫外−可視光(UV−Vis)吸光光度法を適用した場合について説明したが、他の実施形態として、例えば、紫外−可視光(UV−Vis)を照射して、発光した蛍光強度を計測する蛍光分析法を適用することも可能である。
【0071】
さらに、放射性元素検出用器具10の表面に試料を滴下した後、当該放射性元素検出用器具10を作用極としてサイクリックボルタンメトリ法により酸化還元電位を計測することにより、試料中のPuやUの濃度を計測することや、放射性元素検出用器具10の表面に試料を滴下した後、当該放射性元素検出用器具10の表面をマトリックス支援レーザ脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI−TOF/MS)法で計測することにより、試料中のPu及びUの濃度を同時に計測することも可能である。
【0072】
また、前述した実施形態においては、UやPuの濃度を計測する場合について説明したが、他の実施形態として、例えば、ネプツニウム(Np)やアメリシウム(Am)やプラセオジム(Pr)等の濃度を計測する場合も前述した実施形態の場合と同様にして適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係る放射性元素検出用化合物及びこれを利用する放射性元素検出用器具並びに放射性元素検出方法は、1回の測定で生じる廃液を数〜数十ミリリットル程度に済ますことができるので、発生する廃液量を大幅に抑制することができると共に、各種試薬の使用量を大幅に削減することができることから、産業上、極めて有益に利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
10 放射性元素検出用器具
11 基板
12 保持部
20 放射性元素検出用器具
21 基管
22 保持部
101 赤外光
111 光源
112 検出器
113 レンズ
201 紫外−可視光
211 光源
212 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性元素を検出するために利用される化合物であって、
下記の一般式(1)〜(6)のうちのいずれかで表されるものである
ことを特徴とする放射性元素検出用化合物。
ただし、A1〜A4のうちの少なくとも一つは、−SH,−PH2,−NH2,−COOH,−OH,−Si(CH32OH,−COCl,−SiCl3,−Si(CH32Clのうちのいずれかの連結基であり、残りは、−Hであり、R1〜R4は、前記連結基が結合しているとき、炭素数4〜18のアルキレンであり、前記連結基が結合していないとき、炭素数0〜18のアルキレンである。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【請求項2】
前記連結基が、−SH,−PH2,−NH2のうちのいずれかである請求項1に記載の放射性元素検出用化合物の当該連結基を金属と反応させることにより、当該放射性元素検出用化合物を表面に結合させた基板からなる
ことを特徴とする放射性元素検出用器具。
【請求項3】
前記連結基が、−NH2,−COOH,−OHのうちのいずれかである請求項1に記載の放射性元素検出用化合物の当該連結基をフェノール樹脂,エポキシ樹脂,メラミン樹脂,ユリア樹脂,ウレタン樹脂のうちのいずれかの樹脂と反応させることにより、当該放射性元素検出用化合物を表面に結合させた基板からなる
ことを特徴とする放射性元素検出用器具。
【請求項4】
前記連結基が、−Si(CH32OH,−COCl,−SiCl3,−Si(CH32Clのうちのいずれかである請求項1に記載の放射性元素検出用化合物の当該連結基をケイ酸と反応させることにより、当該放射性元素検出用化合物を表面に結合させた基板からなる
ことを特徴とする放射性元素検出用器具。
【請求項5】
前記連結基が、−Si(CH32OH,−COCl,−SiCl3,−Si(CH32Clのうちのいずれかである請求項1に記載の放射性元素検出用化合物の当該連結基をケイ酸と反応させることにより、当該放射性元素検出用化合物を内面に結合させた基管からなる
ことを特徴とする放射性元素検出用器具。
【請求項6】
放射性元素を含有する液状の試料を、請求項2から請求項4のいずれか一項に記載された放射性元素検出用器具の表面に滴下した後、当該放射性元素検出用器具の表面に赤外光を照射して反射又は透過した赤外光を計測する
ことを特徴とする放射性元素検出方法。
【請求項7】
放射性元素を含有する液状の試料を、請求項2から請求項4のいずれか一項に記載された放射性元素検出用器具の表面に滴下した後、当該放射性元素検出用器具の表面をマトリックス支援レーザ脱離イオン化飛行時間型質量分析法で計測する
ことを特徴とする放射性元素検出方法。
【請求項8】
放射性元素を含有する液状の試料を、請求項2に記載された放射性元素検出用器具の表面に滴下した後、当該放射性元素検出用器具を作用極としてサイクリックボルタンメトリ法により酸化還元電位を計測する
ことを特徴とする放射性元素検出方法。
【請求項9】
放射性元素を含有する液状の試料を、請求項5に記載された放射性元素検出用器具の内部を流通させた後、当該放射性元素検出用器具に紫外−可視光を照射して、透過した紫外−可視光の吸光度又は発光した蛍光強度を計測する
ことを特徴とする放射性元素検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−145186(P2011−145186A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6461(P2010−6461)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】