説明

放射性医療インプラントおよびその製造方法

【課題】非常に優れたX線可視化性能を有し、コンピュータトモグラフィ(CT)画像に生じるアーチファクトを低減し、磁気共鳴トモグラフィ(MRT)画像における優れた被写性を保証する新型放射性医療インプラント(小線源、「シード」とも呼ばれる)およびその製造方法を提供する。
【解決手段】放射性医療インプラントは、放射線透過性、放射線抵抗性、人体適合性を有し放射性同位元素が付加された金属性担体を有し、該担体が強磁性金属で被覆された、またはこれを合金したモリブデンからなり、該担体の最外層が銀被膜からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常に優れたX線可視化性能、コンピュータトモグラフィ(CT)画像に生じるアーチファクトの低減、および磁気共鳴トモグラフィ(MRT)画像における優れた被写性を保証する、新型放射性医療インプラント(小線源、「シード」とも呼ばれる)に関する。この新型インプラントは、強磁性金属で被覆された、またはこれを合金した、活性担体としても、またX線マーカとしても利用されるモリブデン担体を有している。この新型インプラントの製造方法もまた、本発明の対象である。
【背景技術】
【0002】
従来、放射性医療インプラントは、例えば前立腺や脳等の局部的な腫瘍の治療の目的で導入されている。優先的な方法として検討されているのが、放射体を治療対象組織に移植して、腫瘍にショートレンジの放射線を一定時間にわたり照射することにより、腫瘍細胞を破壊する、組織内療法である。このインプラントは、一時的または永久的に患者の体内に留置される。そのような治療のために一般に用いられる放射性同位元素は、例えばI−125、Pd−103、Cs−131、またはP−32である。
【0003】
これらのインプラントは、活性担体、X線マーカ、および、放射性同位元素が患者の体内に漏れ出るのを防ぐようになっている包被により構成されている。
【0004】
X線マーカは、X線照射による透視検査において、体内のインプラントを可視化することによって、インプラントの正確な位置を保証できるようにするものである。これは、患者を透過する放射線がマーカに吸収されることにより実現される。それには、可能な限り質量数の高い、傑出したX線吸収特性を示す、例えば金、銀、白金、またはイリジウム等の材料が適している。X線マーカは、放射性担体の構成形状および寸法、ならびに作成される画像に対する要求内容に応じて、様々な形状および寸法を取ることが可能であり、例えば球、小管、あるいは線として構成することができる。
【0005】
しかしながら、治療後および治癒期後にインプラントの位置を検査するためのコンピュータトモグラフィ(CT)検査は、X線マーカ材料の選択幅を制限する要因となっている。なぜならこの材料は、CT画像にアーチファクトを生じさせる原因となることが多いからである。
【0006】
磁気共鳴トモグラフィ(MRT)検査は、今日益々その重要性を高めている。そのような検査にとっても、一般に使用されている従来のX線マーカは、写真に写し出すことができないか、できたとしても写りが非常に悪いために、理想的なものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明の目的は、組織内療法の要件をことごとく充足すると同時に、製造容易性と並び、非常に優れたX線可視化性能、CT画像に生じるアーチファクトの低減、およびMRT画像における優れた可視化性能により確実な位置検出を保証する、放射性医療インプラントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、本出願明細書の特許請求の範囲に記載の各特徴により解決される。驚くべきことに、本発明に従ったモリブデン/強磁性金属/銀の(多層)構造により、上述の全ての画像診断法において、非常に優れた可視化性能/被写性が保証されることが判明した。それ以外にも本発明に従ったインプラントは、特別な構成部品としてのX線マーカを一切不要とする。X線マーカは、同時に活性担体としても利用され、また強磁性金属は同時に銀皮膜の定着剤として利用されるようになっている。
【0009】
すなわち本発明の対象は、放出放射線に対する透過性および放射線抵抗性をあわせ持ち人体適合性を有する耐食性材料により取り囲まれた、放射性同位元素が付加された金属性担体を有する放射性医療インプラントにおいて、担体が、強磁性金属で被覆された、またはこれを合金したモリブデンから成り、さらに担体の外側層が放射性同位元素を担持した銀皮膜であることを特徴とする、インプラントである。担体の被覆に使用される強磁性金属は、鉄、ニッケル、クロム、もしくはコバルト、またはこれらの金属の内の二つまたは三つの合金であるとよいが、ニッケルが使用されることが好ましい。これは同時に、その表面に付着される銀皮膜用の定着剤としても利用されるようになっている。
【0010】
あるいはその代わりに、担体はモリブデンと強磁性金属との合金から製造されてもよく、この場合、強磁性金属は、この合金中に重量分率で最大1%、好適には0.5%、含有される。
【0011】
本発明の好ましい実施形態の一例において、モリブデン担体は、線、棒、または管の形状を有しているが、線材であると非常に好適である。
【0012】
本発明の非常に好ましい実施形態の一例において、モリブデン線は0.2〜0.8mm、好ましくは0.5mmの直径を有している。さらに別の好ましい実施形態において、強磁性金属皮膜は、1〜10μm、特に好ましくは2.5μmの厚さを有している。銀皮膜の厚さは10〜50μmであると好適であり、特に30μmであると非常に好適である。
【0013】
担体に付加される放射性同位元素は、I−125、Pd−103、またはCs−131であることが望ましい。しかし本発明に従った設計は、近接照射療法において一般に使用されている、例えばP−32等の他の放射性同位元素にも適したものである。
【0014】
生理学的適合性を有する放射性担体の被包に適した材料は、当業者にはよく知られている。これは、抵抗性を有し、人体組織に適合し、さらにはX線遮蔽を最小限化するために低原子量を有する金属、例えばチタン、またはその他の金属の耐食合金、例えば特殊鋼等から構成されるとよい。
【0015】
本発明の好ましい実施形態の一例において、放射性母材はチタンカプセルに封入されるようになっている。
【0016】
さらに別の実施形態においては、担体の被包または被覆材料がプラスチックから成るが、このプラスチックは、放射線抵抗性と放出放射線透過性をあわせ持ち、しかも例えば2μmから15μm迄の極薄の皮膜においても安定性を有するものでなければならない。そのような材料は当業者には知られており、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリウレタン、ポリフェニレンオキシド混合物、ポリフェニールスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、フェニールエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、および液晶ポリマが挙げられる。
【0017】
本発明の好ましい実施形態の一例においては、パリレン(登録商標:Parylen、ポリ−p−キシリレン)を、被包または被覆材料として使用できるようになっている。
【0018】
以上で説明した放射性医療インプラントの製造方法も、本発明の対象である。本発明に従った製造方法においては、モリブデン製の金属性担体に強磁性金属が被覆され、または強磁性金属を合金したモリブデン担体が使用され、その表面に銀皮膜が付着され、担体に放射性同位元素、好ましくはI−125、Pd−103、またはCs−131が付加され、最後に放射性同位元素が付加された担体が、人体適合性を有する耐食性材料により取り囲まれるようになっている。その際に強磁性金属皮膜は、従来の一般的なめっき法により、例えばバレルめっき、電気めっき、または無電解ニッケルめっき等により、モリブデン担体表面に施されるようになっている。銀皮膜の付着も同様に、例えば電界めっきまたはバレルめっき等、当業者によく知られた一般的なめっき法により行われる。
【0019】
担体への放射性同位元素の付加は、従来の一般的な化学的または電気化学的方法により実施されるとよい。
【0020】
本発明にしたがってI125−シードを製造するとした場合、好ましい実施形態の一例においては、強磁性金属および銀で被覆したモリブデン担体が、最初にヨウ素元素のエタノール溶液を用い、望ましくは1〜2時間かけて処理された後、最長で3時間、200〜250℃で調質されるようになっている。それに続いて、Na125I−アルカリ溶液中で、ヨウ化物125による不活性ヨウ素の交換が行われる。この交換は、活性濃度100〜200mCi/mlで1〜24時間以内、望ましくは2〜3時間以内で行われる。
【0021】
本発明にしたがってPd103−シードを製造するとした場合は、強磁性金属および銀で被覆した活性担体に、望ましくは電気化学的に、例えばバレルめっきまたは電気めっきにより、放射性Pd−103が被覆される。非常に好ましい実施形態の一例においては、銀で被覆したモリブデン担体が、103PdClを解離した塩として含有する酸性水溶液中でバレルめっきされるようになっている。
【0022】
他にも本発明にしたがって、モリブデン担体の代わりに、Au−Ag−Cu合金(望ましくは重量分率で33.3%のAuおよび7.5%のAg、残部がCu)製の担体を使用することも可能である。同じくAg−Cu合金(望ましくは重量分率で80%のAgおよび20%のCu)も、本発明にしたがって使用できることが判明している。既述のように、線材であることが望ましいこれらの担体もまた、強磁性金属および銀で被覆された後、所望の放射性同位元素が付加されるようになっている。
【発明の効果】
【0023】
本発明に従ったモリブデン/強磁性金属/銀の(多層)構造により、上述の全ての画像診断法において、非常に優れた可視化性能/被写性が保証される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下では本発明を分かり易いように実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
本発明の実施例1:モリブデン−I125−インプラント
ニッケルの薄膜(例:厚さ1〜10μm)で被覆したモリブデン線(例えば、純度:99.9%、長さ:3.4mm、直径:0.5mm)を使用する。これに銀皮膜(厚さ:10〜50μm)を付着させる(例:電気めっき、バレルめっき)。その後、活性担体を、試験管内で、ヨウ素元素とエタノールから成る溶液を用いて予備処理する。1〜2時間の予備処理後、予備処理した下地を炉内で10分〜3時間、200〜500℃で調質する。その後、このように前処理を施した下地に、試薬タンク内で放射性ヨウ素125を付加する。そのために、活性ヨウ素と水酸化ナトリウムから成る溶液を調製する。下地をこの溶液中に1〜24時間、滞留させる。この滞留時間の間に交換反応が生じ、不活性ヨウ素が活性ヨウ素と交換される。このように付加された担体を、引き続き乾燥した後、チタンカプセルに入れ溶接して密封する。
【実施例2】
【0026】
本発明の実施例2:モリブデン−Pd103−インプラント
ニッケルの薄膜(例:厚さ1〜10μm)で被覆したモリブデン線(例えば、純度:99.9%、長さ:3.4mm、直径:0.5mm)を使用する。これに銀皮膜(厚さ:10〜50μm)を付着させる(例:電気めっき、バレルめっき)。その後、バレルめっき法を用いてPd−103の電解付着を行う。そのために、バレル内で103PdClおよびHClから成る酸性電解液が下地に添加される。下地の被覆は、電流密度0.05〜2A/dmで約1〜10時間、行われる。このように付加された担体を、引き続き乾燥した後、チタンカプセルに入れ溶接して密封する。
【実施例3】
【0027】
本発明の実施例3:Au−Ag−Cu合金−I125−インプラント
ニッケルの薄膜(例:厚さ1〜10μm)で被覆したAu−Ag−Cu合金(例えば、Au:33.3重量%、Ag:7.5重量%、残部:Cu、長さ:3.4mm、直径:0.5mm)製の線材を使用する。これに銀皮膜(厚さ:10〜50μm)を付着させる(例:電気めっき、バレルめっき)。その後、活性担体を、試験管内でヨウ素元素とエタノールから成る溶液を用いて予備処理する。1〜2時間の予備処理後、予備処理した下地を炉内で10分〜3時間、200〜500℃で調質する。その後、このように前処理を施した下地に、試薬タンク内で放射性ヨウ素125を付加する。そのために、水酸化ナトリウムとI−125から成る溶液を調製する。下地をこの溶液中に1〜24時間、滞留させる。この滞留時間の間に交換反応が生じ、不活性ヨウ素が活性ヨウ素と交換される。このように付加された担体を、引き続き乾燥した後、チタンカプセルに入れ溶接して密封する。
【実施例4】
【0028】
本発明の実施例4:Ag−Cu合金−I125−インプラント
ニッケルの薄膜(例:厚さ1〜10μm)で被覆したAg−Cu合金(例えば、Ag:80重量%、Cu:20重量%、長さ:3.4mm、直径:0.5mm)製の線材を使用する。これに銀皮膜(厚さ:10〜50μm)を付着させる(例:電気めっき、バレルめっき)。その後活性担体を、試験管内でヨウ素元素とエタノールから成る溶液を用いて予備処理する。1〜2時間の予備処理後、予備処理した下地を、炉内で10分〜3時間、200〜500℃で調質する。その後、このように前処理を施した下地に、試薬タンク内で放射性ヨウ素125を付加する。そのために、水酸化ナトリウムとI−125から成る溶液を調製する。下地をこの溶液中に1〜24時間、滞留させる。この滞留時間の間に交換反応が生じ、不活性ヨウ素が活性ヨウ素と交換される。このように付加された担体を、引き続き乾燥した後、チタンカプセルに入れ溶接して密封する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放出放射線に対する透過性および放射線抵抗性をあわせ持ち人体適合性を有する耐食性材料により取り囲まれた、放射性同位元素が付加された金属性担体を有する放射性医療インプラントにおいて、
前記担体が、強磁性金属で被覆された、またはこれを合金したモリブデンから成り、さらに前記担体の外側層が、放射性同位元素を担持した銀皮膜であることを特徴とする、インプラント。
【請求項2】
前記強磁性金属が、鉄、ニッケル、クロム、コバルト、またはそれらの合金の中から選ばれ、好ましくはニッケルであることを特徴とする、請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
前記放射性同位元素が、I−125、Pd−103、またはCs−131であることを特徴とする、請求項1に記載のインプラント。
【請求項4】
前記金属性担体が、線、棒、または管の形状、好ましくは線の形状を有することを特徴とする、請求項1に記載のインプラント。
【請求項5】
モリブデン製の金属性担体を強磁性金属で被覆し、または、強磁性金属を合金したモリブデン担体を使用し、その表面に銀皮膜を付着し、前記担体に放射性同位元素、好ましくはI−125、Pd−103、またはCs−131を付加し、最後に前記放射性同位元素が付加された担体を、人体適合性を有する耐食材料で取り囲む工程から成ることを特徴とする、請求項1に記載の放射性医療インプラントの製造方法。
【請求項6】
金属性担体として、モリブデン線、または、モリブデンと強磁性金属との合金から成る線材が使用されること、またその際に前記合金は、最大で1%の強磁性金属を含有することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記モリブデン担体を強磁性金属で被覆するために、鉄、コバルト、クロム、またはニッケル、好ましくはニッケルを使用して、厚さ1〜10μmの皮膜を付着する工程を特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記銀皮膜を、厚さ10〜50μmに付着する工程を特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記強磁性金属および銀皮膜で被覆したモリブデン担体を、これにI−125を付加するために、最初にヨウ素元素のエタノール溶液を用いて処理した後、200〜500℃で調質し、最後にNa125I−アルカリ溶液中で不活性アニオンの交換を行う工程を特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記強磁性金属および銀皮膜で被覆したモリブデン担体を、これにPd−103を付加するために、103PdClを解離した塩として含有する酸性水溶液中でバレルめっきする工程を特徴とする、請求項5に記載の方法。

【公開番号】特開2006−326311(P2006−326311A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−144537(P2006−144537)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(599149005)エッケルト ウント ツィーグラー ユーロトープ ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】