説明

放射性同位体の製造およびターゲット物質を含む溶液の処理

本発明は、放射性同位体を製造または核廃棄物を処理する方法を提供する。本発明の方法では、重水と未臨界量の核分裂性物質を含むターゲット物質からなる溶液が、遮蔽照射容器に供給される。制動放射光子は、溶液中に導入されるとともに、重水中に存在する重陽子の核と相互作用して、光中性子を生成するのに十分なエネルギーを有しており、得られた光中性子によって、核分裂性物質が順次核分裂される。電子線37とX線変換素子32を用いて、制動放射光子を生成できる。本発明の装置は、小型にでき、医療施設および工業施設などの現場で放射性同位体を生成できる。製品の回収後に引き続き使用するために、溶液をリサイクルできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野には、光中性子および放射性同位体の生成が含まれる。本発明の適用事例には、医療用、研究用および工業用の光中性子および放射性同位体の製造が含まれる。
【背景技術】
【0002】
中性子および放射性同位体には、多くの医療、工業および研究用途がある。工業用途には、即発ガンマ線分析(「PGNAA」)、中性子ラジオグラフィおよび放射性ガスのリークテストが含まれる。医療用途には、近接照射療法、放射性医薬品、放射性ステント、ホウ素中性子捕捉療法(「BNCT」)および医用画像が含まれる。
【0003】
有用な放射性同位体の製造には、多くの場合、十分に高い中性子束(中性子/cm秒)を発生する中性子源が必要である。中性子束は、1平方センチメートルのターゲットを1秒間に通過する中性子の個数として測定される。一般に、原子炉では、十分な中性子束が維持される。原子炉は、建設・維持するのに費用がかかり、安全性や法規制が懸念されるので、都市環境にそぐわない。有用な放射性同位体の多くは原子炉で製造されているが、医療用同位体は、世界中の限られた場所で、臨床上妥当な量だけ製造されている。医療分野において需要が高い幾つかの同位体の内の1つとして、モリブデン99(Mo−99)などが挙げられる。さらに、崩壊速度が速く、処理や輸送に許される時間の余裕がないので、有用な放射性同位体の多くは、遠隔製造できない。
【0004】
原子炉に用いられない中性子源、例えば、中性子を放出して崩壊する同位体は、高額でなく使い勝手が良い。しかしながら、プルトニウム−ベリリウム源などの中性子源と慣性静電閉じ込め核融合装置を用いた場合、実用例の多くで要求される高い中性子束を継続して発生できない。
【0005】
一般に使用される医療用同位体は、軽水炉内に、ウラン235などの核分裂性物質が臨界量供給されて生成される。典型的には、ターゲット物質が、炉心内で一定期間照射された後、該ターゲット物質は取り除かれて、遠隔化学処理用の重厚な遮蔽施設に輸送される。他の種類の炉、例えば、「流体燃料炉」または「溶液炉」としても知られる「水溶液均質」炉の設計が、医療用同位体の製造用に提案されてきた。
【0006】
例えば、特許文献1には、核分裂性物質が、循環経路を経由し、反応領域あるいは炉心を通って連続的に流れる原子炉システムが開示されている。特許文献2には、ウラン物質に放射線を照射する工程と、そのウラン物質を溶解する工程と、α−ベンゾインオキシムと接触させてモリブデンを沈殿させた後、吸着剤を含む溶液と接触させる工程を有するモリブデン−99の回収方法が開示されている。特許文献3には、同位体の1つと環状ポリエーテルとの複合体を優先的に形成した後に、フィード溶液から、複合体を形成した同位体を含む環状ポリエーテルを分離することによって、同位体を分離する方法が開示されている。
【0007】
特許文献4には、約0.1〜約10%未満の水分を含む有機溶媒、または炭素原子を1〜6個有する脂肪族アルコールからなる群から選ばれる溶媒を約1〜約70%含む有機溶媒からなる中性溶媒システムを用いて、モリブデン−99とテクネチウム−99mを含む吸着クロマトグラフィー物質を溶離し、テクネチウム−99mを含み、乾燥残留物、つまり粒状残留物が得られる溶離液から溶媒システムを分離して、乾燥状態、つまり粒子状態のテクネチウム−99mを製造する精製方法が開示されている。モリブデン−99は、残留物中に実質的に含まれていない。特許文献5には、原子炉で生成される核分裂生成物を、無機または有機物質と相互作用させて処理して、医療用同位体を取り出す方法が開示されている。特許文献5では、医療用同位体を製造する専用の小型原子炉を提供することを試みている。この小型の炉は、100〜300キロワットの範囲の出力レベルとなっていて、93%濃縮ウラン中にU−235を約1000グラム含む20リットルの硝酸ウラニル溶液、または20%濃縮ウランにU−235を約1000グラム含む100リットルの硝酸ウラニル溶液を用いている。特許文献6には、ポリマー吸着剤を用いて、均質溶液炉の硫酸ウラニル核燃料からMo−99を取り出す方法が開示されている。
【0008】
このように、原子炉は、有用な同位体の製造において、依然として重要な要素である。医療用同位体とは、主に、モリブデン−99の崩壊生成物であるテクネチウム−99mである。モリブデン−99がテクネチウム−99mに崩壊する半減期は、約65時間である。小型の鉛製のジェネレータを使用して、モリブデン−99とテクネチウム−99mが医療設備に運搬され、該医療設備において、テクネチウム−99mが、多様な病気を調べるように設計された種々の製剤検査キットに添加される。モリブデン−99の4つの主要な供給源は、カナダ、オランダ、ベルギーおよび南アフリカである。アメリカ合衆国では、癌、心臓病および骨または腎臓の疾患のボディスキャンや、心臓負荷試験を行ったりするために、一週間当たり150,000程度の線量が使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第3050454号明細書
【特許文献2】米国特許第3799883号明細書
【特許文献3】米国特許第3914373号明細書
【特許文献4】米国特許第4158700号明細書
【特許文献5】米国特許第5596611号明細書
【特許文献6】米国特許第5910971号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
(モリブデン99を製造することによって)テクネチウム−99mを製造できる炉は、数カ国で稼働しているだけなので、重要な医療用同位体の製造は、他の国におけるウランの輸出と信頼性の高い炉の稼働に左右される。製造、輸出および輸入過程において、安全性と供給に対する懸念が高まっている。
【0011】
原子炉施設は老朽化しており、信頼性の高い製造の維持は期待できず、新たな炉も建造されていない。一例として、2007年に、カナダのNRU炉が一ヶ月に渡って閉鎖されて、テクネチウム−99m/モリブデン99が世界的に不足した。オランダにあるテクネチウム−99m/モリブデン99を製造する炉は、2008年に長期間閉鎖されている。他の炉は、フランス、南アフリカおよび他の国で、ここ数年間で閉鎖されてきた。放射性同位体を製造する原子炉が不要になれば、大きな恩恵を得ることができるが、原子炉は、必要なレベルの高い中性子束を継続して生成するので、一般に、放射性同位体は原子炉で製造される。稼働中の炉は老朽化しているのに、新たな炉は建造されていない。アメリカ合衆国を含む多くの国では、医療上重要な同位体を製造する設備を欠いている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、放射性同位体を製造または核廃棄物を処理する方法が提供される。本発明の方法では、重水と核分裂性物質を含むターゲット材料との溶液が、遮蔽照射容器内に供給される。制動放射光子は、溶液中に導入されるとともに、重水素中に存在する重陽子の核と相互作用して、核分裂物質を順次核分裂させる光中性子を生成するのに十分なエネルギーを有している。制動放射光子は、電子線とX線変換素子を用いて生成することもできる。本発明の装置は小型にでき、医療施設や工業施設などの現場において放射性同位体を生成できる。生成物を回収した後に、引き続き使用するために、溶液をリサイクルできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の好適な方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明の方法を実行する本発明の好適な装置で起こる事象を示す概略図である。
【図3】本発明の好適な装置で用いられる照射容器を示す概略断面図である。
【図4】本発明の好適な実施形態のシステムを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明によれば、放射性同位体を製造する方法が提供される。本発明の方法では、重水と核分裂性物質の溶液が、遮蔽照射容器中に収容されている。制動放射光子は、該溶液中に入射されるとともに、重陽子の核に存在する中性子を核から放出させるのに十分なエネルギーを有している。光中性子が得られると、該光中性子によって、核分裂性物質が核分裂される。また、該溶液中に添加された物質は、核分裂したり、あるいは中性子を捕獲したりできる。制動放射光子は、電子線とX線変換素子を用いて生成できる。本発明の装置は小型にでき、医療施設や工業施設などの現場において放射性同位体を生成できる。生成物を回収した後に、引き続き使用するために、重水、つまり核分裂性溶液をリサイクルできる。
【0015】
本発明によれば、核分裂性物質の核分裂および/またはターゲット物質での中性子捕獲によって、放射性同位体を製造する方法が提供される。本発明の方法では、重水(酸化重水素)と核分裂性物質との溶液は、遮蔽照射容器内に収容されている。「熱」エネルギー(〜0.025Mev)を有する中性子が捕獲されると、核分裂性物質(典型的には、ウラン235、ウラン233あるいはプルトニウム239)は、核分裂するようになる。核分裂性物質は、核分裂可能な物質を含んでいるので(例えば、ウラン235は、濃縮後、ウランに238に対して20/80までの材料比で得ることができる)、溶液には、核分裂可能な物質も含まれるようになる。核分裂可能な物質の一部は、核分裂する。核分裂可能な物質とは、「熱外」または「高速」エネルギーを有する中性子を捕獲して核分裂する物質である。中性子捕獲物質が溶液中に含まれてもよい。中性子捕獲物質とは、中性子を捕獲して、有用な同位体に変換され得る物質である。
【0016】
本発明では、制動放射光子は、重水と核分裂性物質とからなる溶液中に入射されて、重陽子と相互作用して、重陽子核の中性子を放出するのに十分なエネルギーを有している。重水素核への光子照射によって生成する中性子は光中性子と呼ばれて、核分裂過程で生成される核分裂中性子と呼ばれる中性子と区別される。十分なエネルギーを有する光子と重水が相互作用して、光中性子場が溶液中に発生すると、核分裂性および核分裂可能な物質の核分裂および/または他のターゲット物質による中性子捕獲を介して、有用な放射性同位体が中性子場に生成する。
【0017】
制動放射光子を発生する好適な方法では、電子線がX線変換素子に照射される。小型の電子加速器を使用できるので、本発明の装置は小型にでき、医療施設や工業施設などの現場で放射性同位体を生成できる。生成物を回収した後に、引き続き使用するために、重水、つまり核分裂性溶液をリサイクルできる。
【0018】
本発明の好適な方法およびシステムでは、光中性子の照射(例えば、ウラン235の核分裂生成物としてのモリブデン−99の製造)を介して、あるいは、核分裂性の重水溶液中に含まれる他のターゲット物質による光中性子捕獲(イットリウム89による中性子捕獲を介したイットリウム90の製造など)によって、未臨界量のターゲット物質が核分裂されて、放射性同位体が生成する。本発明の方法は、原子炉を用いずに実行でき、本発明の好適なシステムでは、現場で使用できて、放射性同位体を発生するシステムを小型化できる電子線を用いている。
【0019】
本発明の好適な方法およびシステムでは、電子線は、X線変換素子を介して制動放射光子に変換され、制動放射光子は、未臨界量の核放射性物質を含む遮蔽照射容器内の重水中に導入される。制動放射光子は、重水素(H)から中性子を分離して、光中性子を生成するのに十分なエネルギーを有する。重水にはターゲット物質が含まれ、中性子は、該重水によって、熱エネルギーまで減速される。
【0020】
本発明によれば、核廃棄物を処理する方法とシステムも提供される。使用済みの核燃料または他の核廃棄物を、重水と核分裂性物質との溶液中に導入して、ターゲット物質と重水との溶液を生成することができる。十分なエネルギーを有する光中性子がシステム内で生成され、ターゲット物質によって中性子捕獲または核分裂が起こって、この廃棄物は、管理が容易な、あるいは安定性の高い同位体に変換され得る。
【0021】
核分裂生成物である放射性同位体を製造するために、適切な核分裂性または核分裂可能な物質が、追加のターゲット物質として溶液中に含まれる。光中性子がターゲット物質に照射されると、ターゲット物質に核分裂反応が起こって、核分裂生成物として有用な放射性同位体が製造される。核分裂性でない生成物を製造するために、放射性同位体を生成する中性子を捕獲する適切な物質が、追加のターゲット物質として溶液中に含まれる。このため、本発明の方法およびシステムを用いて、核分裂生成物である放射性同位体、および、核分裂生成物として得られない放射性同位体、例えば、サマリウム−153またはリン−33を製造できる。
【0022】
本発明の好適な実施形態の方法およびシステムでは、電子線は、約5〜30MeV、最適には、約5〜15MeVの範囲のエネルギーを有する。本発明の好適な方法およびシステムでは、X線変換素子は、少なくとも原子番号26の元素から、最適には、少なくとの原子番号71の元素から構成される。
【0023】
本発明の好適な実施形態では、放射性同位体生成物は、重水溶液を濾過するか、溶媒と相互作用させることによって照射容器から回収される。ターゲット物質が残存する溶液は、リサイクルされて、再びターゲット物質を含む減速体や媒体として機能できる。リサイクルには、pH調整のような化学処理や、重水または追加のターゲット物質の添加が含まれてもよい。
【0024】
本発明の好適なシステムでは、照射容器は、システムから移動自在であってもよく、本発明の別のシステムでは、重水とターゲット物質は、入口と出口から照射容器内に出入りして循環されてもよい。移動自在な照射容器を、処理ステーションまで移動して、重水、放射性同位体と残存するターゲット物質とを含む処理溶液を取り出すこともできる。固定式の照射容器の場合、溶液は、循環システムによって処理ステーションまで送られてもよい。本発明のシステムに、容器内で光中性子と核分裂中性子の照射を受ける重水から独立して、ターゲット物質を配置するサンプルステーションを含むこともできる。
【0025】
本発明の好適な実施形態は、本明細書中において、図面を参照して説明されるであろう。該図面は、模式的に表現されたものであり、このことは、本技術分野における技術常識と以下の記載から当業者に理解されるであろう。特徴部分は、強調するために図中で誇張されているので、実寸ではない。特に定義されていない限り、本明細書で使用される全ての専門および学術用語は、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解しているのと同一の意味である。
【0026】
図1は、放射性同位体の製造または核廃棄物の処理に適した本発明の方法を示している。図1の方法では、光子環境が生成される(ステップ10)。該光子環境に適した光子を生成する好ましいステップでは、電子線が生成され(ステップ12)、この電子線がX線変換素子に照射される(ステップ12)。光子環境10は、重水とターゲット物質とを含む照射容器内に存在する。制動放射光子が、X線変換素子から、遮蔽照射容器内の重水に照射される。この照射容器には、未臨界量の核分裂性物質が収容されている。この照射容器に、核分裂可能なターゲット物質または中性子捕獲用のターゲット物質をさらに含むこともできる。光中性子は、光子によって、重水中に存在する重水素から放出される。光中性子は、重水によって、熱エネルギーまで減速される。重水に、ターゲット物質が含まる場合、光中性子は、より低いエネルギーまで減速される。これには、ターゲット物質に起因して、核分裂または中性子捕獲がより高速になることが考慮されている。
【0027】
ターゲット物質によって、核分裂反応または中性子捕獲が起こる(ステップ20)。核分裂生成物である放射性同位体を製造するために、適切な核分裂性または核分裂可能な物質がターゲット物質として選ばれる。ターゲット物質への照射が起こると、ターゲット物質に核分裂反応が起こって、有用な放射性同位体が、核分裂生成物として製造される。核分裂生成物でない放射性同位体を製造するために、放射性同位体を生成する中性子を捕獲できる、さらに別の物質が、追加のターゲット物質として溶液中に含まれる。このため、本発明の方法およびシステムを用いて、核分裂生成物である放射性同位体および核分裂生成物として得ることができない放射性同位体を製造できる。核廃棄物を処理する好適な方法では、追加のターゲット物質は核廃棄物であってもよく、この追加のターゲット物質によって、核分裂または中性子捕獲が起こって、核廃棄物が、管理が容易な、あるいは安定性の高い同位体に変換される。
【0028】
製造された放射性同位体は回収される(ステップ21)。回収は、重水溶液を濾過して行うことができる。未臨界量の核分裂性物質は、光子環境下で利用される。
【0029】
重水、核分裂性物質と何らかの追加のターゲット物質との溶液は、循環システムを用いて、または移動自在な照射容器を用いて導入できる(ステップ22)。移動自在な照射容器を処理ステーションまで移動させて、重水、放射性同位体および残存するターゲット物質を含む処理溶液を取り出すこともできる。照射容器が固定式の場合、循環システムによって、処理ステーションに溶液を送ることもできる。溶液は、pHレベルを調節する化学処理や重水および/またはターゲット物質の添加などによってリサイクルできる(ステップ24)。リサイクル(ステップ24)は、回収ステップ(ステップ21)後に実施され、循環システムまたは移動自在な照射容器のいずれかを用いて容易に実現される。
【0030】
図2は、本発明の好適な装置で生じる事象の概略を示している。電子線30は、好ましくは約5〜30MeVの範囲、最適には約5〜10MeVの範囲のエネルギーを有しており、X線変換素子(タンタルまたはタングステンなど)に投射されて、制御放射光子34を生成する。制動放射光子34は、H源を供給する重水38を含む照射容器36内に照射される。中性子40(光中性子と呼ばれ、この光中性子は、重陽子核と光子との相互作用によって生じる)は、光中性子反応によって生成する。光中性子反応は、原子核内において、光子が中性子の結合エネルギーを上回る十分なエネルギーを有したときに生じる。原子核内では、光子が核に吸収されて、中性子が放射される。重水素Hは、2.23MeVの閾エネルギーを有する。制動放射光子は、重水中で光中性子反応を起こすのに十分なエネルギーを有する。
【0031】
ターゲット物質が核分裂性または核分裂可能である場合、中性子40がターゲット物質42によって捕獲されると、ターゲット物質で核分裂反応が起こる。核分裂反応の間に、核分裂中性子46に加えて、所望の放射性同位体が、核分裂生成物44として生成される。電子線30をX線変換素子32に当て、重水で光核反応を起こして、光中性子を連続的に生成すれば、核分裂反応は継続する。核分裂中性子46を照射容器に「入射」しても、核分裂反応は、ある程度まで継続するが、未臨界量のターゲット物質が使用されている限り、核分裂中性子のみでは、核分裂反応を継続させ続けることはできない。前述のように、ターゲット物質は、中性子捕獲を介して、放射性同位体を生成するように選ばれてもよい。
【0032】
図3は、照射容器36とX線変換素子32の断面を示している。X線変換素子32は、電子線発生装置37から電子線を受ける。適切な光子生成物質を備えて、陽子線発生装置を使用することもできるが、陽子線と光子生成物質は、光子生成にはそれほど有効ではない。照射容器36は反射材48で遮蔽されている。反射材48が照射容器36を完全に取り囲むと好ましい。プレナム49は、核分裂生成物として放出されるガス、または放射線分解に起因するガスを捕集する。照射容器36は、これに限られる訳ではないが、種々のジルコニウム合金または一部のステンレス鋼などの照射損傷や腐食に耐性がある材料から構成される。反射材48は、これらに限られる訳ではないが、軽水、重水、ベリリウム、ニッケルまたは低密度ポリエチレンなどの、中性子を照射容器36内に効率的に反射する材料から構成されたり、該材料を含んだりしている。前述のように、ターゲット物質を含む照射容器36内の重水50は、光中性子源として有用であるばかりでなく、光中性子と核分裂中性子の減速材としても有用である。照射容器36に混合機または攪拌機を備えたり、照射容器36をそれらに取り付けたりすれば、ターゲット物質の沈降を防いで、重水とターゲット物質との溶液を望ましい状態に保てる。
【0033】
図4は、放射性同位体の製造・取り出しシステムを示している。循環ループ52は、適切な配管から形成されており、遮蔽されていると好ましい。循環ループ52によって、照射容器36から溶液を導入・排出する循環経路が明示されている。放射性同位体の製造後、その放射性同位体生成物を含む溶液は、バルブ56を経由して、放射性同位体回収ステーション54に流れ込む。ステーション54内の吸着剤充填カラムまたは濾過システムによって、放射性同位体が採取されると、溶液は、バルブ56を経由して、再び循環ループ52に流入する。
【0034】
典型的には、放射性同位体は、回収ステーションで、約12〜36時間濾過されたり、溶液と吸着剤とを相互作用させた後に回収される。次に、バルブ64を経由して、洗浄・溶離ステーション62を用いて、吸着剤充填カラムまたは濾過システム全体に渡って、化学物質を水などで洗浄すれば、精製された放射性同位体を取り出しステーション66まで運ぶ溶離液が洗浄される。目的とする別の同位体が、放射性同位体取り出しステーションまで送られて、この放射性同位体に適した化学処理が施されてもよい。放射性同位体が採取された残液は、循環ループ52を経由して、リサイクルステーション68に送られる。リサイクルには、化学処理、重水の添加、またはターゲット物質の添加が含まれてもよい。さらに、必要に応じて、溶液中に軽水を導入すれば、いずれかの化学処理を促進したり、システムにおける中性子の挙動を変更したりできる。
【0035】
本発明の特定の実施形態が説明および記載されてきたが、他の修正、代用および代替が、当業者に明白であることが理解されるべきである。添付の特許請求の範囲から規定される本発明の精神から逸脱することなく、このような修正、代用および代替が可能である。
【0036】
本発明の種々の特徴は、添付の特許請求の範囲に開示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性同位体を製造または核廃棄物を処理する方法であって、
重水と、核分裂性物質を含むターゲット物質とからなる溶液を、遮蔽照射容器内に供給するステップと、
前記重水中に存在する重陽子の核と相互作用して、前記核分裂性物質を順次核分裂させる光中性子を生成するのに十分なエネルギーを有する制動放射光子を、前記溶液中に導入するステップと、を含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
さらに、電子線を発生するステップと、
X線変換素子に前記電子線を照射して、制動放射光子を生成するステップと、を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電子線のエネルギーは、約5〜30MeVの範囲にある、
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記電子線のエネルギーは、約5〜約15MeVの範囲にある、
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記X線変換素子は、少なくとも原子番号26の元素から構成される、
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記X線変換素子は、少なくとも原子番号71の元素から構成される、
ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記溶液には、未臨界量の核分裂性物質が含まれる、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記溶液には、核分裂可能な物質が、追加のターゲット物質として含まれる。
ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記溶液には、中性子捕獲物質が、追加のターゲット物質として含まれる、
ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記核分裂性物質には、ウラン235が含まれる、
ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記核分裂性物質には、ウラン233が含まれる、
ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記核分裂性物質には、プルトニウム239が含まれる、
ことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項13】
さらに、前記溶液から前記放射性同位体を回収するステップを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記回収ステップには、濾過工程が含まれる、
ことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記回収ステップには、前記溶媒と吸着剤とを相互作用させる工程が含まれる、
ことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
さらに、前記吸着剤を洗浄する工程が含まれる、
ことを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
さらに、前記溶液をリサイクルする工程が含まれる、
ことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記リサイクルステップには、前記溶液の化学物質を用いた処理、重水の添加、またはターゲット物質の添加が含まれる、
ことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
放射性同位体を製造または核廃棄物を処理する装置であって、
約5MeVから30MeVの範囲のエネルギーを有する電子線を発生する電子線発生装置(37)と、
前記電子線発生装置から、電子線を受けるように配置されるX線変換素子(32)と、
前記X線変換素子から、制動放射光子を受けるように配置されて、重水と核分裂性物質との溶液を含む遮蔽照射容器(36)と、から構成される、
ことを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−527001(P2011−527001A)
【公表日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−545265(P2010−545265)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【国際出願番号】PCT/US2009/032957
【国際公開番号】WO2009/100063
【国際公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(504238378)ザ キュレイターズ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミズーリ (3)
【Fターム(参考)】