説明

放射性廃棄物の放射能測定方法及び放射能測定装置

【課題】低濃度の放射性廃棄物を測定した場合であっても、放射能強度の定量精度を向上することができる放射性廃棄物の放射能測定方法を提供すること。
【解決手段】被検体1と放射線検出器2を相対的に移動して走査しながら、放射線検出器2と前記被検体1との間に設置されたコリメータ3から入射される被検体1からの放射線を被検体全域で積算測定し、被検体の垂直方向及び半径方向の放射能強度を定量する放射能測定方法であって、被検体1及び該被検体1の上端および下端の外領域S8、S0を含めて垂直方向にほぼ等分割して、各分割領域の放射線をR1の範囲で測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラム缶などの放射性廃棄物貯蔵容器(以下、単に貯蔵容器という)内の放射能強度を非破壊的に測定する放射能測定技術に関するものである。本発明は特に低レベル放射性廃棄物固化体の放射能測定に適した放射能測定方法及び放射能測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
貯蔵容器から放出された放射線を測定して、貯蔵容器内の放射能強度を求める放射能測定方法としては特許文献1〜6が知られている。
【0003】
特許文献1記載の方式では、貯蔵容器内の密度と放射能分布が高さ方向に変化している場合を想定したものであり、検出器前面に設けた高さ方向のコリメータの開口幅を貯蔵容器の一断面を見込むように設定し、貯蔵容器を貯蔵容器の長軸方向に順次昇降しながら貯蔵容器の全断面を測定するものである。当該方式では、貯蔵容器内の放射性廃棄物が均一であり、その充填高さだけが異なる場合には、全断面での放射線測定値を加算して一つの放射線測定値として取り扱うことが可能である。しかし、そのような均一な放射性廃棄物を測定する場合には、放射線計数誤差を小さくするという観点から、高さ方向のコリメータの開口幅を大きくし、検出感度を高める方法が有効である。
【0004】
特許文献2においては、ガラス固化体に対してマーク検出光学系からレーザ光を照射し、反射光を検出して固化体の周方向の位置決めを行い、周方向の放射能分布を測定する技術を開示する。また、特許文献3は、核燃料物質の再処理等において発生する高レベル放射性ガラス固化体に含まれる放射性核種毎の放射能を非破壊的に測定する方法を開示し、放射能濃度既知のRI線源を備えた放射能校正用模擬試験体を用いて放出γ線の測定を行って放射能検出効率を求め、対象となる放射性廃棄物固化体のγ線の計測を行い、この計測結果を先に求めた検出効率によって補正することが示されている。
【0005】
特許文献4においては、放射性廃棄物固化体を仮想的にスライスし、固化体を上下移動し、かつ及び周方向に回転して、コリメータ付きγ線検出器により、複数核種の直接線の減衰率を求め、各スライスの放射能量を求め、各スライスの放射能量を加算して固化体の放射能量を求める方法が開示されている。
【0006】
特許文献5においては、放射線検出器の前面に設置したコリメータから入射される放射性廃棄体の放射線をエネルギースペクトルとして測定し、エネルギースペクトルから得られる前記放射線の散乱線強度と直接線強度に基づくスペクトル指標を求め、金属層とスラグ層の境界及び密度を求め、更に放射線の減衰値を求める方法を開示する。
【0007】
特許文献6は、水平コリメータ付き放射線検出器と垂直コリメータ付き放射線検出器を用いて、上下方向及び周方向に移動する放射性廃棄物固化体から放出される放射線をエネルギースペクトルとして測定し、散乱線強度と非散乱線強度に基づくスペクトル指標を求め、放射線減衰量と非散乱線強度から放射性廃棄体内の放射能量を定量する方法が開示されている。
【0008】
下記の特許文献のうち、特許文献2においては、放射性廃棄物固化体を上下に移動させて、その上端部及び下端部をコリメータのスリットを通過させることによって、上記固化体の上端部及び下端部を位置決めし、固化体の上下方向における放射能を検出するようにしている。しかし、特許文献2においては、垂直方向のスライス幅をどうするか開示がなく、また、固化体の上端部及び下端部の放射線検出をするかどうかについての記載が無い。従って、固化体全般の放射能強度を正確に計測することができないと言う懸念がある。
【0009】
【特許文献1】特公平07−11573号公報
【特許文献2】特開平07−49385号公報
【特許文献3】特開平05−27044号公報
【特許文献4】特開平08−220238号公報
【特許文献5】特開2001−264493号公報
【特許文献6】特開2000−56025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、高さ方向のコリメータの開口幅を大きくし、放射線検出器での検出視野を大きくした場合には、全断面だけの放射線測定値を加算しただけでは、貯蔵容器内の放射能強度測定誤差が大きくなってしまうという問題がある。この誤差は、各断面での放射線測定値の分布情報から計算により近似的に補正することが可能である。しかし、計算処理が介在するために、各断面での計数誤差が大きくなるような、特に低レベル放射性廃棄物である低濃度の放射性廃棄物の放射能を測定する場合には、その誤差を小さくすることは難しい。貯蔵容器の周囲で測定した放射線測定値から貯蔵容器内の放射能強度を定量する方法では、高さ方向のコリメータの開口幅を大きくし、放射線検出器での検出視野を大きくした場合には、求めようとする断面内放射能と同じ高さでの放射線測定値を加算しただけでは、貯蔵容器内の放射能強度測定誤差が大きくなってしまうという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、低濃度の放射性廃棄物を測定した場合であっても、放射能強度の定量精度を向上することができる放射性廃棄物の放射能測定方法及び放射能測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、放射性廃棄物固化体などの被検体の周囲で放射線検出器を走査しながら、放射線検出器の前面に設置されたコリメータから入射される被検体からの放射線を被検体全域で積算測定し、被検体の放射能強度を定量する放射能測定方法であって、被検体外領域での放射線も測定することを特徴とする放射性廃棄物の放射能測定方法が提供される。上記方法において、放射線検出器の周囲で被検体を移動しながら、放射線検出器の前面に設置されたコリメータから入射される被検体からの放射線を被検体全域で積算測定し、被検体の放射能強度を定量してもよい。上記測定方法において、被検体外の領域は、検出器全面のコリメータによる被検体に対する検出感度に依存して決定する事が望ましい。
【0013】
本発明は又、放射性固化体を載置するテーブル、該固化体に対して上下方向及び周方向に相対的に移動され、コリメータを介して放射線が入射される放射線検出器、検出された放射線を解析する分析手段、及び解析結果を出力する手段、上記放射線検出器を上記固化体に対して移動させる移動手段を備え、該移動手段は前記固化体をその垂直方向に所定の幅で仮想的にほぼ等分割して移動する放射能測定装置を提供する。上記装置において、前記移動手段は前記テーブルの移動及び/又は上記検出器の移動を制御することが好ましい。上記装置において、前記解析手段は、少なくとも波高分布積算装置、波高分析装置及び放射能演算装置を備えることが望ましい。
【0014】
固化体を仮想的に垂直方向にほぼ等分に分割(スライス)し、かつその分割幅で、固化体の下端部よりも下、ならびに固化体の上端部よりも上にS0及びS8という仮想スライスを設ける。この領域S0,S8の水平方向に位置した放射線検出器に入射する放射線量は、S1及びS7からの分の0.5に相当する値となる。これが加味されて、固化体全体の放射線量が計測される。この値を正確に測定するために、S1〜S7のスライス幅(垂直方向)と同じスライス幅の領域を設定することが必要である。
【0015】
本発明は低レベル放射性廃棄物の固化体の放射能量を測定するのに適しており、そのために放射線検出器と固化体の間に設置されるコリメータの開度は、当該仮想スライスの放射線だけでなく、その上下の隣接仮想スライスからの放射線が、入射する程度に開口している必要がある。例えば、コリメータの開口(スリット)の高さが3cm、幅11cm、奥行き10cmの金属鉛ブロックで構成することができる。
【0016】
これに対し、たとえば特許文献2、3に開示された高レベル放射性廃棄物固化体の放射線検出に用いられるコリメータは、放射線検出器を強い放射線から守るために、例えば開口の直径1cm、厚さ100cmのコンクリート壁が用いられる。このように小さい開口のピンホール又はスリットを用いた場合は、隣接する仮想スリットの放射線を取り込むことはできないので、固化体の上下方向における近傍の領域の放射線強度を測定することができない。
【0017】
以下本発明を具体例により説明する。測定対象である貯蔵容器とコリメータを有する放射線検出器の測定系が図1である場合を考える。貯蔵容器周囲で測定した放射線検出器の積算値は、式1で表すことができる。ここで、貯蔵容器内の放射性廃棄物が均一状態であり、コリメータを介しての放射線の高さ方向における視野としては、上下の断面からの放射線も検出していることを想定すると、式1は式2に展開することができる。以上のことから、本発明で用いられるコリメータは広視野角コリメータということができる。
【0018】
【数1】

【0019】
【数2】

したがって、貯蔵容器の下面よりも一つ下の仮想的な断面と、上面よりも一つ上の仮想的な断面での放射線をも測定することにより、積算した放射線測定値から貯蔵容器内の放射能強度を算出することが可能になる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、放射性廃棄物固化体などの被検体全体の放射線を正しく捕捉することができ、より正確に放射能を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(実施例1)
本発明に関わる、一実施例である放射性廃棄物の放射能測定方法を説明する。本実施例での測定体系を図1に示す。貯蔵容器は200リットルドラムであり、その中に均一な放射性廃棄物がある高さまで充填されている。貯蔵容器から放出された放射線は高さ方向のコリメータ3を通して放射線検出器3で検知される。放射線検出器3は、例えばGe半導体検出器である。高さ方向のコリメータ3の開度は、貯蔵容器1の一つの断面5とそれに隣接した上下の仮想スライスの断面からの放射線を検知できるように設定されている(高さ方向視野4)。
【0022】
また、貯蔵容器は、仮想的にS1からS7までの7つの断面に分けて測定と定量がなされることを想定している。貯蔵容器1は、図示されていない昇降装置によりステップ状に昇降し、貯蔵容器からの放射線を測定する。放射線検出器2で測定された波高分布は波高分布積算装置6で積算されて一つの測定波高分布として解析され(波高分析装置7)、核種が同定され、放射能演算装置8で貯蔵容器内の放射能強度が演算される。その結果は、CRTやプリンタ等の出力装置9に出力される。なお、被検体及びその外側領域のスライス幅を全て略均等とすることが必要である。
【0023】
図2は、従来の方法と同様に、S1からS7までの貯蔵容器1の範囲R1だけの測定をする場合の貯蔵容器と放射線検出器の測定位置関係を示したものである。この場合の測定値の例を表1に示す。
【0024】
【表1】

貯蔵容器1内の全ての放射性廃棄物が充填されている場合と、貯蔵容器の下段にだけ充填されている場合とでは、検出感度(=計数率積算値/総放射能)が異なるので、貯蔵容器内の放射能強度定量値の誤差が、貯蔵容器内の放射性廃棄物の充填割合に依存してしまう。
【0025】
図3は、本発明による測定方法を示す線図である。コリメータによる放射線検出器の視野は、放射線検出器と同じ高さ位置にある断面とそれに隣接する上下断面であるので、貯蔵容器の下面であるS0と上面であるS8でも放射線を測定する。この場合の測定例を表2に示す。
【0026】
【表2】

この場合には、貯蔵容器1内の全てに放射性廃棄物が充填されている場合と、貯蔵容器の下段にだけ充填されている場合は、検出感度(=計数率積算値/総放射能)が同じになるので、貯蔵容器内の放射能強度を精度良く測定できることになる。なお、図には示していないが、被検体である固化体の半径方向又は厚さ方向の放射線を検出するために、水平コリメータ付き放射線検出器を設置することができる。その構成例は、特許文献1の図1、図2及び特許文献6の図1、図2に示されている。
【0027】
以上のように、本発明においては、放射性廃棄物固化体を垂直方向に分割して仮想スライスを形成するとともに、固化体の上端部及び下端部にも同じ幅(厚さ又は高さ)の仮想スライスS0,S8を設定し、その領域の放射線を検出する。図2及び図3に示した放射線検出器を用いた場合、コリメータのスリット開度から、それぞれの仮想スライスについて、3つのスライス(S0,S8を含む)からの放射線を検出する。たとえば、放射線検出器がS4の高さに位置する場合、放射線はS4から入射するもの(相対強度1)と、S3及びS5から入射する放射線(相対強度0.5)のものが合計されて相対強度2の放射線が検出される。
【0028】
図2、図3表1、表2に説明した例によれば、各仮想スライスについて、それぞれ3つの仮想スライスからの放射線を測定するので、f2,1=f2,3=0.5.f2,2=1.0となる。表2の左側は、スライス1〜スライス7までの全てに均一に放射能が詰まっている場合を示し、右側はスライス1だけに放射能が詰まっている場合を示す。従って、S0での検出器はスライス1の放射能に感度があるので(f2,1=f2,3=0.5)、0.5の計数率になる。右側の例では、スライス8に放射能がないので、S8の計数率はゼロになる。
【0029】
計数率/総放射能で定義される検出感度が、測定対象物内の放射性物質の詰まり具合に依存しないと言うことは、計数率測定値から測定対象内の放射能を精度良く定量できると言うことを意味する。本実施例においては、検出器で3つのスライスに感度を示すような開度を持つコリメータを用いている。式2の応答が、f2,1=0.5、f2,2=1.0、f2,3=0.5であるから、f2,1+f2,2+f2,3=2が表1、表2の検出感度になる。従って、総放射能は、式3で示される。
【0030】
【数3】

表2の実施例では、測定対象内の放射能の真値を測定できる。表1の左側では、式4となり、測定値は真値よりも少し小さくなる。
【0031】
【数4】

表1の右側の例では、式5のようになり、測定値は真値よりも小さくなる。
【0032】
【数5】

S0,S8を測定対象に加えない場合、その合計の係数率は表1に示すように13、検出感度が1.86となり、実際の固化体における全体の放射線量を表すことにならない。これに対しS0,S8を加えると、その計数率は表2に示すように、14、検出感度は2.00となり、固化体全体の放射能量を検出することができる。
【0033】
本発明の実施例によれば、貯蔵容器内の放射能濃度が低い放射性廃棄物を測定するために高さ方向のコリメータの開口幅を大きくした測定装置であっても、貯蔵容器内の放射能濃度を精度良く定量できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施例を示す放射能測定装置の概略構成図。
【図2】従来技術における放射線測定器の走査方法の説明図。
【図3】本発明を適用するのに好適な放射線測定器の走査方法の一実施例の説明図。
【符号の説明】
【0035】
1…貯蔵容器(200リットルドラム缶)、2…放射線検出器、3…高さ方向コリメータ、4…高さ方向視野、5…貯蔵容器内の一断面、6…波高分布積算装置、7…波高分析装置、8…放射能演算装置、9…出力装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体と放射線検出器を相対的に移動して走査しながら、放射線検出器と前記被検体との間に設置されたコリメータから入射される被検体からの放射線を被検体全域で積算測定し、被検体の垂直方向及び半径方向の放射能強度を定量する放射能測定方法であって、被検体及び該被検体の上端および下端の外領域を含む全領域を仮想的に垂直方向にほぼ等分割して、各分割領域の放射能強度を測定することを特徴とする放射性廃棄物の放射能測定方法。
【請求項2】
被検体の周囲で放射線検出器を移動しながら、又は被検体を放射線検出器で走査しながら、被検体及びその領域外での放射能強度を測定することを特徴とする請求項1記載の放射性廃棄物の放射能測定方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の放射能測定方法において、被検体の外領域の大きさは、検出器前面に設置されたコリメータによる被検体に対する放射線検出器の検出感度により決定する放射性廃棄物の放射能測定方法。
【請求項4】
上記コリメータは広視野角であり、被検体の分割領域及びその上下領域からの放射線が通過可能な視野角を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の放射性廃棄物の放射能測定方法。
【請求項5】
放射性固化体を載置するテーブル、該放射性固化体に対して上下方向及び周方向に相対的に移動されるコリメータを介して放射線が入射される放射線検出器、検出された放射線を解析する分析手段、及び解析結果を出力する手段、上記放射線検出器を上記放射性固化体に対して移動させる移動手段を備え、該移動手段は前記放射性固化体をその垂直方向に所定の幅で仮想的にほぼ等分割して前記放射性固化体及び/又は放射線検出器を移動させることを特徴とする放射能測定装置。
【請求項6】
請求項5において、前記移動手段は前記テーブル及び/又は前記放射線検出器の移動を制御することを特徴とする放射能測定装置。
【請求項7】
請求項5において、前記解析手段は波高分布積算装置、波高分析装置及び放射能演算装置を備えることを特徴とする放射能測定装置。
【請求項8】
上記コリメータは広視野角であり、測定対象の分割領域及びその上下領域からの放射線が通過可能な視野角を有することを特徴とする請求項5ないし7のいずれかに記載の放射性廃棄物の放射能測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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