説明

放射性廃棄物処理用ターゲット及び放射性廃棄物処理システム

【課題】種類の異なる核種からなる超長寿命の放射性廃棄物を、効率良く短寿命の核種や安定核に変換すること。
【解決手段】円柱形状の放射性廃棄物処理用ターゲット1の中心軸の軸心部から第一ターゲット2、第二ターゲット3、モデレート層4、及び第三ターゲット5を前記中心軸の径方向外側に順次形成する。第一ターゲット2にはヨウ素129Iを、第二ターゲット3にはネプツニウム237Np、アメリシウム241Am、及びキュリウム245Cmを、第三ターゲット5にはヨウ素129I、テクネチウム99Tc、及びセシウム135Csをそれぞれ収納し、モデレート層4には水を満たす。第一ターゲット2にガンマ線を照射し、中性子を発生させる。さらに、この中性子を第二ターゲット3に照射し、中性子の数及びエネルギーの増倍を行う。増倍した中性子のエネルギーをモデレート層4で熱化しつつ、熱化した中性子を第三ターゲット5に照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、原子力発電所の稼働に伴って発生する長寿命の放射性廃棄物に、ガンマ線を照射して短寿命化する際に用いる放射性廃棄物処理用ターゲット、及び、このターゲットを適用した放射性廃棄物処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の稼働に伴って、核分裂生成物(FP)や超ウラン元素(TRU)等の放射性廃棄物が排出される。これらの放射性廃棄物は、一般的に地層深くに埋設され、人の生活圏から隔離して処分される。この地層は、通常、100万年程度は安定的に存続するため、これよりも半減期が短い放射性廃棄物は、この埋設処分によって、長期に亘る安全性が確保できると考えられている。
【0003】
ところが、この放射性廃棄物の中には、FPのヨウ素129Iのように半減期が1600万年にも及ぶ超長寿命のものがある。この超長寿命の放射性廃棄物は、地層の安定性を考慮すると、そのまま埋設処分することは適切ではない。ヨウ素129I以外にも、FPのテクネチウム99Tc、セシウム135Cs、TRUのネプツニウム237Np等も、100万年を超える長寿命を有している。また、TRUのアメリシウム241Amは、それ自体の寿命は長くないが、α崩壊してネプツニウム237Npとなるので、長寿命の放射性廃棄物と同様に扱う必要がある。
【0004】
前記放射性廃棄物は、半減期の短い、又は、安定な原子核種に変換された後に、地層埋設処分される。この核変換手法の一つとして、下記特許文献1に示すように、ガンマ線を放射性廃棄物に照射する方法がある。この方法では、FPのヨウ素129I、パラジウムPd、亜鉛Zn、セシウム135Cs等を変換のターゲットとして用いている(同文献の段落0026を参照)。このガンマ線照射による核種の変換に伴って中性子が発生し、この中性子は原子燃料に照射されて、原子炉の核分裂反応に利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−57392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
放射性廃棄物には、ヨウ素129I等のように、ガンマ線によって効率的に核変換を行うことができるものがある一方で、TRUのネプツニウム237Npやアメリシウム241Amのように、中性子吸収断面積が大きく、ガンマ線を直接照射するよりも、ヨウ素129I等の核変換に伴って発生した中性子を照射する方が核変換の効率が高いものもある。すなわち、種類の異なる核種が混在した放射性廃棄物に一様にガンマ線を照射するのは、核変換の効率面において必ずしも最適でない。
【0007】
そこで、本願発明は、種類の異なる核種からなる超長寿命の放射性廃棄物を、効率良く短寿命の核種や安定核に変換することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、この発明は、第一の放射性廃棄物を収納する第一ターゲットと、第二の放射性廃棄物を収納する第二ターゲットとを備え、前記第一ターゲットにガンマ線を照射して、この第一ターゲット中の放射性廃棄物を半減期のより短い核種に変換するとともに、この核種の変換に伴って発生した中性子を前記第二ターゲットに照射し、前記第二ターゲット中の第二の放射性廃棄物を核変換するとともに、この第二ターゲットに照射した中性子を増倍するように放射性廃棄物処理用ターゲットを構成した。
【0009】
放射性廃棄物をグループ分けし、第一の放射性廃棄物として、ガンマ線の照射によって効率的に核変換を行うことができ、かつ、この核変換に際して中性子を発生するもの((γ、n)反応)を選択する。そして、第二の放射性廃棄物として、前記第一の放射性廃棄物から発生した中性子の照射によって効率的に核変換し得るもの(中性子吸収断面積が大きいもの)を選択する。このように、第一の放射性廃棄物と、第二の放射性廃棄物の核変換を連続的に行うようにすることで、放射性廃棄物の全体に一様にガンマ線を照射する場合と比較して、核変換効率の向上を図ることができる。
【0010】
しかも、前記第二の放射性廃棄物により中性子が増倍(中性子数及びそれらのもつエネルギーの増加)されるため、この増倍した中性子をさらに他の核変換に用いたり、中性子の持つ高いエネルギーを熱エネルギーとして回収して、リサイクル利用したりすることができる。
【0011】
前記ガンマ線源として、高速に加速した電子線とレーザー光によるコンプトン散乱(レーザーコンプトン散乱)を利用するのが特に好ましい。このレーザーコンプトン散乱によって得られたガンマ線は、電子線の制動放射によって得られたガンマ線と比較して、エネルギー分布が高エネルギー側(ピークが10〜20MeV)に位置し、この高エネルギーのガンマ線によって、容易に放射性廃棄物の核変換を行うことができる。
【0012】
また、このガンマ線の照射に伴って、陽電子と電子の対創成が生じる。この陽電子と電子のもつエネルギーを熱エネルギーに変換し、この熱エネルギーをさらに電気エネルギーに変換して再利用することで、処理コストの低減を図ることができる。
【0013】
前記構成においては、前記第一の放射性廃棄物をヨウ素129Iとするのが好ましい。
【0014】
このヨウ素129Iは、原子炉から排出される数種類の放射性廃棄物の中から、比較的容易に単離することができる。そして、単離したヨウ素129Iに一様にガンマ線を照射することによって、このヨウ素129Iを中性子発生源として作用させる。特に、ガンマ線源として、上述したレーザーコンプトン散乱を利用する場合、このガンマ線のエネルギー分布は、高エネルギー側の比較的狭い領域に位置しており、この領域とヨウ素129Iが核変換を生じるのに適したエネルギー領域の重なり合いが大きい。このため、効率的にヨウ素129Iの核変換を行うことができる。
【0015】
また、単離したヨウ素129Iに、エネルギー分布の狭いガンマ線を照射するため、核変換に伴って発生する中性子のエネルギーのばらつきが小さい。このため、このヨウ素129Iを良質な中性子源として機能させることができる。
【0016】
このヨウ素129I自体は、ガンマ線の照射によって、ヨウ素128Iを経由して、安定核であるキセノン128Xeとなる。
【0017】
前記各構成においては、前記第一ターゲットが、前記ガンマ線の入射光軸上に配置されるとともに、前記第二ターゲットが、前記第一ターゲットの前記入射光軸の径方向外側に配置されるようにするのが好ましい。
【0018】
このように第二ターゲットを配置すると、第二の放射性廃棄物が、第一の放射性廃棄物から発生した中性子を効率的に捕獲することができるため、第二の放射性廃棄物の良好な核変換効率を得ることができる。
【0019】
また、第二ターゲットを第一ターゲットの径方向外側に配置する構成においては、第三の放射性廃棄物を収納する第三ターゲットが、前記第二ターゲットの前記入射光軸の径方向外側に配置される構成とするのが好ましい。
【0020】
このように第三ターゲットを配置すると、第二の放射性廃棄物からの増倍した中性子を効率的に捕獲することができ、第三の放射性廃棄物の良好な核変換効率を得ることができる。
【0021】
この増倍した中性子は高いエネルギー状態にあり、このままでは第三の放射性廃棄物との核反応性が低い。そこで、第二及び第三ターゲットの間にモデレート層を設け、このモデレート層で第二のターゲットから放出された中性子のエネルギーを緩和する(熱化する)。このようにすることによって、第三の放射性廃棄物に対する中性子吸収断面積が大きくなり、核変換効率の更なる向上が期待できる。このモデレート層は、中性子の熱化に伴って加熱され、この熱エネルギーを回収して電気エネルギーとして再利用することで、処理コストの一層の低減を図ることができる。
【0022】
また前記各構成においては、前記第一ターゲット内に前記第一の放射性廃棄物が循環する流路を形成し、その流路に、ガンマ線を通す窓部と、分離装置と、放射性廃棄物供給装置を設け、前記窓部を通して前記第一の放射性廃棄物にガンマ線を照射するとともに、この照射の際に、前記放射性廃棄物供給装置から前記流路に、前記第一の放射性廃棄物を補充しつつ循環させ、前記分離装置で、前記ガンマ線の照射によって生じた前記核種を分離除去するようにするのが好ましい。
【0023】
このように第一の放射性廃棄物を循環させることにより、核変換がまだ行われていない放射性廃棄物をガンマ線の照射領域(窓部の近傍)に送り込むことができる。すると、その核変換を効率良く行うことができ、中性子の発生が安定的になされるため、この中性子を用いた第二の放射性廃棄物の核変換を安定的に行うことができる。しかも、照射によって生じた核種を処理系外に分離除去することにより、流路には未処理の放射性廃棄物のみが流れるため、核変換における高い変換効率を維持することができる。
【0024】
また、電子線加速装置と、レーザー光源と、加速された電子とレーザー光を相互作用させてガンマ線を発生させるキャビティを備え、このキャビティから発生したガンマ線を、上記の放射性廃棄物処理用ターゲットに照射し、この照射によって放射性廃棄物の核変換を行うとともに、この核変換に伴って発生した中性子、陽電子及び電子のもつエネルギーをエネルギー吸収手段に吸収させてこれを加熱し、この加熱によって発電を行い、この発電で得られた電力を前記ガンマ線の発生に用いた放射性廃棄物処理システムを構成することもできる。
【0025】
このシステムは、電子線加速装置やレーザー光源に多くの電力を必要とするが、この電力を熱エネルギーの回収によって得られた電力で補うようにすることで、処理コストの低減に寄与することができる。
【発明の効果】
【0026】
この発明は、種類の異なる超長寿命の放射性廃棄物を、その種類に応じて複数のグループに分類し、そのグループのうち一つのグループ(第一の放射性廃棄物)にガンマ線を照射し、この照射によって発生した中性子を他のグループ(第二の放射性廃棄物)に照射し、これらの放射性廃棄物の核変換を行うようにした。前記第一の放射性廃棄物として、ガンマ線照射に適したもの(ガンマ線のエネルギーを効率的に吸収し、かつ、その際に中性子を発生するもの)を選択し、第二の放射性廃棄物として、中性子照射に適したもの(大きな中性子吸収断面積を有するもの)を選択することによって、この放射性廃棄物の処理を効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本願発明に係る放射性廃棄物処理用ターゲットを示す断面図
【図2】第一ターゲットの要部を示す断面図
【図3】第一ターゲットの要部を示す断面図
【図4】本願発明に係る放射性廃棄物処理システムの全体構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0028】
この発明に係る放射性廃棄物処理用ターゲットを図1に、このターゲットの要部を図2及び3に、このターゲットを用いた放射性廃棄物処理システムを図4に示す。なお、図1から3に記載の放射性廃棄物処理用ターゲット1は中心軸の周りに回転対称の円柱形状をしており、各図では、中心軸の上半分の断面図を示している。
【0029】
この放射性廃棄物処理用ターゲット1の中心軸の軸心部には、第一の放射性廃棄物を収納した第一ターゲット2が設けられている。さらに、この第一ターゲット2を囲むように、第二の放射性廃棄物を収納した第二ターゲット3、水を満たしたモデレート層4、第三の放射性廃棄物を収納した第三ターゲット5が、前記中心軸の径方向外側に順次設けられている。このモデレート層4には、水以外に、中性子のエネルギーを弱める(熱化する)媒質を適宜選択して入れることができる。
【0030】
この第一ターゲット2と第二ターゲット3の間、及び、第二ターゲット3とモデレート層4の間は、それぞれカーボン層6で仕切られていて、カーボン層6の両側の放射性廃棄物同士、又は、前記放射性廃棄物と前記水が互いに混じり合わないようにしている。
【0031】
第一の放射性廃棄物として、原子力発電所の稼働に伴って排出される放射性廃棄物(FP、TRU)から分離されたヨウ素129Iが選択される。この第一ターゲット2は、前記中心軸方向に約20cmの長さを有し、その直径は数cm程度である。この第一ターゲット2には、図2に示すように流路7が形成されており、この流路7内を第一の放射性廃棄物が循環するようになっている。この流路7の前方折り返し側には窓部8が形成されており、この窓部8を通して、第一の放射性廃棄物へのガンマ線照射(後述)がなされる。
【0032】
図3に示すように、この流路7の途中には、キセノン分離装置9と、ヨウ素供給装置10が設けられている。このキセノン分離装置9において、ヨウ素129Iへのガンマ線照射によって生じたキセノン128Xeの除去を行っている。また、ヨウ素供給装置10から、ガンマ線照射によって核変換されたヨウ素129Iの量に対応する量のヨウ素129Iが新たに供給される。
【0033】
原子力発電所から排出される放射性廃棄物中に含まれるヨウ素129Iのうち、約30%が第一ターゲット2に、残りの約70%が第三ターゲット5に振り分けられる。この割合は、適宜変更することができる。また、この第一の放射性廃棄物として、例えば、テクネチウム99Tcを用いる場合は、放射性廃棄物中に含まれるヨウ素129Iの全量を第三ターゲット5に収納しても良い。
【0034】
第二の放射性廃棄物として、ネプツニウム237Np、アメリシウム241Am、及びキュリウム245Cmが、第三の放射性廃棄物として、ヨウ素129I、テクネチウム99Tc、及びセシウム135Csがそれぞれ選択される。なお、キュリウム245Cmの寿命はそれほど長くないため、必ずしも第二の放射性廃棄物に含める必要はないが、原子炉からの放射性廃棄物の分離時に必然的にTRU中に含まれるため、ネプツニウム237Np等とともに処理するのが便宜である。また、この放射性廃棄物の中には核反応によって生じたプルトニウムPuが含まれているが、このプルトニウムPuは核燃料として再利用できるため、ターゲットに入れる前に予め除去しておく。
【0035】
各ターゲットを径方向外側に順次同心円状に配置すると、軸心側のターゲットから発生した中性子が、効率良く外側のターゲットに順次照射されるので好ましいが、この照射が効率的になされるのであれば、勿論、同心円状以外の配置としても良い。
【0036】
これらの放射性廃棄物は、下記(1)〜(4)に示す工程を経て、順次核変換がなされ、地層に埋設処理することができる程度に短寿命の、又は、安定な原子核種に変換される。
【0037】
(1)ガンマ線の発生
ガンマ線の発生には、スーパーキャビティ11によるレーザーコンプトン散乱が利用される。このスーパーキャビティ11は、例えば、円柱状のガラス媒体中に、その円柱軸と同軸にレーザーキャビティが形成されるとともに、このレーザーキャビティに対して所定角度傾斜した電子線入射路が、レーザーキャビティと交差するように形成されたものである。前記レーザーキャビティの両端には高反射率のミラーが設けられており、レーザー光源12からのレーザー光が、このキャビティ内に蓄積できるようになっている。そして、この蓄積されたレーザー光に、高速に加速した電子線を入射すると、この入射方向と同じ方向にガンマ線が誘起される。
【0038】
この電子線のエネルギーを800MeV〜1GeVとし、レーザー光として波長約1μm、出力3WのNd:YAGレーザー光を用いた場合、10〜20MeVにピークを有するガンマ線が得られる。
【0039】
(2)第一の放射性廃棄物(第一ターゲット2)へのガンマ線の照射
ガンマ線はターゲットの中心軸と同軸に、窓部8を通過して第一ターゲット2に入射される。このガンマ線には、ヨウ素129Iの核変換を行うのに必要なエネルギー閾値(約17MeV)を越えるエネルギー成分を多く含み、ヨウ素129Iからヨウ素126Iへの核変換がスムーズになされる。このヨウ素126Iは、短時間のうちにさらに核変換して、安定なキセノン126Xe又はテルル126Teとなる。
【0040】
このガンマ線の照射に伴って、中性子が発生するとともに(ガンマ線結合率0.03)、電子と陽電子の対創成が生じる(ガンマ線結合率を差し引いた0.97)。この電子及び陽電子がもつエネルギーは熱エネルギーとして回収され、これが電気エネルギーに変換されて、ガンマ線の発生装置の駆動等に再利用される。
【0041】
(3)第二の放射性廃棄物(第二ターゲット3)への中性子の照射
ガンマ線の照射によって発生した中性子は、第一ターゲット2と第二ターゲット3を仕切るカーボン層6をそのまま貫通して、第二ターゲット3に入射する。第二ターゲット3中のネプツニウム237Np、アメリシウム241Am、及びキュリウム245Cmは、1MeV以上のエネルギーをもつ中性子により核反応を起こす。
【0042】
上記(1)の発生条件によるガンマ線を第一ターゲット2に入射した場合、この第一ターゲットから発生する中性子のもつエネルギーは、2〜3MeV程度である。すなわち、この中性子のもつエネルギーの大きさは、第二ターゲット3の核反応を起こすのに十分な大きさである。この核反応により、ネプツニウム237Np等は核分裂して、例えばヨウ素129I等のFPに核変換される。このFPは、さらに第一ターゲット等に利用されて、最終的にキセノン126Xe等の安定核に変換される。
【0043】
この第二ターゲット3での核反応においては、ガンマ線照射によってヨウ素129Iから発生した中性子の7〜8倍程度の数の中性子が発生し(中性子の増倍)、この中性子のもつエネルギーは、元の中性子のもつエネルギーよりも高い。このエネルギーの高い状態では、中性子吸収断面積が小さく、後述する第三の放射性廃棄物に照射した際の反応性が低い。そこで、この増倍された中性子はカーボン層6を貫通した後にモデレート層4に送られ、このモデレート層4でそのエネルギーを弱められる(熱化する)。このとき、中性子の有するエネルギーが、モデレート層4中の水に与えられ、加熱された水によって発電がなされる。得られた電力は、ガンマ線を発生させるための装置の駆動等に再利用される。
【0044】
(4)第三の放射性廃棄物(第三ターゲット5)への中性子の照射
モデレート層4を貫通した中性子は、そのエネルギーが弱められており、第三ターゲット5中のヨウ素129I、テクネチウム99Tc、セシウム135Csの核変換がスムーズになされる。
【0045】
上記の(1)〜(4)の工程により、放射性廃棄物の全量が、半減期の短い短寿命の、あるいは安定な原子核種に核変換されるため、安全に地層に埋設処理することができる。
【0046】
この放射性廃棄物処理用ターゲットを用いた放射性廃棄物処理システムを図4に示す。このシステムでは、電源としてサイクル型のクライストロン13が用いられ、電子はエネルギー回収型ライナック14によって加速される。ガンマ線の発生、第一ターゲット2へのガンマ線の照射、第二及び第三ターゲット3、5への中性子の照射、第一ターゲット2における陽電子/電子の対創成と熱エネルギーの回収、及び、第二ターゲットで発生した中性子からの熱エネルギーの回収については既に説明したので、重複する説明は省略する。
【0047】
クライストロン13、ライナック14、スーパーキャビティ11における入射エネルギーに対する出力エネルギーの効率は、それぞれ0.8、0.95、0.9であって、いずれにおいても高い出力効率が得られている。
【0048】
このように、放射性廃棄物処理用ターゲット1において生じた熱エネルギーを回収して発電を行い、この電気をガンマ線の発生に利用することにより、主電源15からの電気供給を減らして、低コストの下に放射性廃棄物の処理を行うことができる。
【符号の説明】
【0049】
1 放射性廃棄物処理用ターゲット
2 第一ターゲット
3 第二ターゲット
4 モデレート層
5 第三ターゲット
6 カーボン層
7 流路
8 窓部
9 キセノン分離装置(分離装置)
10 ヨウ素供給装置(放射性廃棄物供給装置)
11 スーパーキャビティ(キャビティ)
12 レーザー光源
13 クライストロン
14 ライナック(電子線加速装置)
15 主電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の放射性廃棄物を収納する第一ターゲット(2)と、第二の放射性廃棄物を収納する第二ターゲット(3)とを備え、前記第一ターゲット(2)にガンマ線を照射して、この第一ターゲット(2)中の放射性廃棄物を半減期のより短い核種に変換するとともに、この核種の変換に伴って発生した中性子を前記第二ターゲット(3)に照射し、前記第二ターゲット(3)中の第二の放射性廃棄物を核変換するとともに、この第二ターゲット(3)に照射した中性子を増倍するようにした放射性廃棄物処理用ターゲット。
【請求項2】
前記第一の放射性廃棄物がヨウ素129Iである請求項1に記載の放射性廃棄物処理用ターゲット。
【請求項3】
前記第一ターゲット(2)が、前記ガンマ線の入射光軸上に配置されるとともに、前記第二ターゲット(3)が、前記第一ターゲット(2)の前記入射光軸の径方向外側に配置されている請求項1又は2に記載の放射性廃棄物処理用ターゲット。
【請求項4】
第三の放射性廃棄物を収納する第三ターゲット(5)が、前記第二ターゲット(3)の前記入射光軸の径方向外側に配置されている請求項3に記載の放射性廃棄物処理用ターゲット。
【請求項5】
前記第一ターゲット(2)内に前記第一の放射性廃棄物が循環する流路(7)を形成し、その流路(7)に、ガンマ線を通す窓部(8)と、分離装置(9)と、放射性廃棄物供給装置(10)を設け、前記窓部(8)を通して前記第一の放射性廃棄物にガンマ線を照射するとともに、この照射の際に、前記放射性廃棄物供給装置(10)から前記流路(7)に、前記第一の放射性廃棄物を補充しつつ循環させ、前記分離装置(9)で、前記ガンマ線の照射によって生じた前記核種を分離除去するようにした請求項1から4のいずれか一つに記載の放射性廃棄物処理用ターゲット。
【請求項6】
電子線加速装置(14)と、レーザー光源(12)と、加速された電子とレーザー光を相互作用させてガンマ線を発生させるキャビティ(11)を備え、このキャビティ(11)から発生したガンマ線を、請求項1から5のいずれか一つに記載の放射性廃棄物処理用ターゲット(1)に照射し、この照射によって放射性廃棄物の核変換を行うとともに、この核変換に伴って発生した中性子、陽電子及び電子のもつエネルギーをエネルギー吸収手段に吸収させてこれを加熱し、この加熱によって発電を行い、この発電で得られた電力を前記ガンマ線の発生に用いた放射性廃棄物処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−242164(P2012−242164A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110386(P2011−110386)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【出願人】(591114803)公益財団法人レーザー技術総合研究所 (36)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)