説明

放射性微小球注入方法

【課題】 中心の内腔61に放射性微小球が収容され両端に内腔61へ向う注射針誘導孔65、66を有するカプセル60を、それぞれ誘導孔65、66へ挿通される注射針57、59を有する防護筒48に収容し、注射針57に輸液ポンプから管路51を経て輸液を供給し、注射針59を患部へ挿入されたカテーテル69に接続して、放射性微小球を輸液と共に管部に注入する際に、内部の空気がカテーテル69へ流れないように排除する。
【解決手段】 放射性微小球を収容した正規のカプセルの他に、これと同形状の放射性微小球を収容していないダミー・カプセルを用意し、先ず防護筒48にダミー・カプセルを収容して注射針59側より内部の空気を完全に排出させた後、防護筒48内のカプセルを正規のカプセルと交換し、注射針59に患部に挿入されたカテーテルを接続して微小球の注入を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として癌の治療の目的で患部に放射性微小球を注入する方法。
【背景技術】
【0002】
主として肝臓癌の治療で、肝臓動脈に放射性微小球を注入し、これを癌組織の毛細血管内に停滞させて、癌組織への栄養を遮断すると同時に、放射線により癌組織を死滅させる治療法が試みられている。この治療に用いる放射性微小球としては、患部の手前の太い血管で停滞して周囲の健全な組織に損傷を与えることがなく、かつ静脈を経て別の臓器に移動して副作用を生じることがないように直径が20〜30μmであること、長時間にわたり化学的に安定で毒性を示さないこと、健康な組織への影響を及ぼさないようにベータ線のみを発し、半減期が短いことが必要である。そのために放射生物質としては半減期が64時間の90Yや半減期14.3日の32Pなどを含有するガラス質またはセラミック質の材料を用い、これを球形の粉末にし、正確に計量してカプセルに充填し、原子炉内で中性子線を照射して微小球に放射能を与え、これを医療現場に運んで患者の体内に注入する。
【0003】
図3はこの注入のために従来使用されている装置を示す管路図である。放射性微小球1は薬瓶2に収容され、その外側をアクリル容器3及び鉛容器4が包囲している。アクリル容器3には、注射針誘導孔5a、5bが形成されたガイド6を有するアクリル製の蓋7が施されている。8はポンプユニットで、シリンダ9及びそのピストン10を移動する駆動装置11を有し、シリンダ9には圧力計12が設けられている。シリンダ9は、管路13、三方コック14、管路15を経て、薬瓶2へ挿入された注射針16に接続されている。
【0004】
三方コック14は、管路17を経て輸液18を収容した容器19にも接続されている。薬瓶2へ挿入されたもう一本の注射針20は、管路21及び三方コック22に至り、三方コック22はカテーテル23と排液瓶24に至る管路25とに接続されている。この排液瓶24も鉛容器26に収容されている。なお、薬瓶2の背後及びカテーテル23の基端には、それぞれ放射線量を示す線量計が設けられている。
【0005】
上述の注入装置の場合、放射性微小球の1回の注入量が50〜100mg程度であるのに対し、管路13、15、21、三方コック14、22、薬瓶2等の内部に存在する空気の量が非常に多いので、注入に先立ってこの空気を排除する必要がある。そのために、三方コック14により管路13と17とを連通させてシリンダ9に輸液18を吸入させる操作と、三方コック14により管路13と15とを連通させると共に、三方コック22により管路21と25とを連通させて、シリンダ9内の輸液を排液瓶24内へ排出させる操作とをくり返して行い、管路13、15、21の内部に空気が存在しないことを確認してから、三方コック22により管路21をカテーテル23側に切換えて注入を開始する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の装置においては、空気排除の際に輸液が薬瓶2内を流れるために、放射性微小球1の一部が輸液と共に排液瓶24へ排出されるのを避けられず、かつ誤って多量の放射性微小球が排出される可能性も大きい。また、三方コック22内では、輸液の流れの乱れによって放射性微小球の付着が起こり、その注入損失量が増すばかりでなく、注入終了後にはその洗浄が面倒であり、排液瓶24に溜った放射性微小球については厳重な管理が必要となる。従って本発明は、空気排除の操作が簡易で、放射性微小球の損失も少ない注入方法を実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、中心に放射性微小球を収容した筒状のカプセル本体の両端に、それぞれ中心に注射針誘導孔を有する蓋を有する透明高分子材料製のカプセルを使用し、一端に刺入した注射針より輸液をカプセル内に導入し、他端に刺入した注射針より排出される輸液及び放射性微小球を患部に挿入されたカテーテルに供給する。注入時には、放射線による周囲への影響を防ぐためにカプセルは防護用の透明高分子材料製の防護筒に収容され、防護筒の一端は輸液供給管路接続部を有する蓋によって閉塞され、防護筒の他端はカテーテル接続部を有する蓋によって閉塞され、これらの接続部はそれぞれ上記カプセル内への刺入される注射針を保持している。
【0008】
本発明の特徴として上記カプセルと同寸法で内部に放射性微小球が収容されていないダミーカプセルを予め用意し、これを上記防護筒に収容し、上記輸液供給管路に接続されている輸液ポンプを運転して、輸液供給管路内の空気を上記防護筒のカテーテル接続部より完全に排出させる。その後で、上記防護筒内のカプセルを上記ダミーカプセルから輸液及び放射性微小球が収容されている正規のカプセルと交換すると共に、上記カテーテルに患部へ挿入されているカテーテルを接続し、輸液ポンプを再運転し、上記カテーテルを経由してカプセル内の放射性微小球を輸液と共に患部へ注入する。
【発明の効果】
【0009】
上述のように、本発明においては、放射性微小球の注入に先立って空気を排除しなければならない範囲が、輸液ポンプと、これからカプセルに刺入される注射針へ至る管路だけであり、その中に放射性微小球は含まれていないので、空気排除の作業は簡単である。そして、放射性微小球は、途中に管路やコック類を経由せず、カプセルに刺入された注射針から直接にカテーテルへ供給されるので、放射性微小球を極めて少ない損失で注入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上記カプセル並びにこれを収容する防護筒は、内部の空気の停滞状況や放射性微小球の残存状況を外部から目視できるように透明な材料で形成し、特に防護筒は微小球が発する放射能を遮断できるように十分な厚さが必要で加工性及び放射能遮断性の面からアクリル樹脂が適している。ダミーカプセルは、放射性微小球を収容した正規のカプセルと区別し易いように、着色した材料を用いるのが望ましい。治療現場へは、予めダミーカプセルを防護筒内に収容した状態の注入装置に、放射性微小球及び輸液を充たした正規のカプセルを添えて提供することが望ましい。なお輸液としては生理食塩水や造影剤が適当である。
【実施例】
【0011】
図2において、30はキャスタ31、31……を有する治療用コンソールで、その上面にはポンプユニットを含む制御盤32が存在し、制御盤32の後方に起立する後壁33の頂部には表示器34が設けられている。コンソール30の上部側面にはブラケット35により脱着可能にヒンジ36が支持され、そのヒンジは矢印37方向に回転する回転部36aを有する。この回転部36aには矢印38方向に回転できる腕39が軸40によって取付けられている。腕39の先端には軸41によりユニバーサル・ジョイント42が矢印43方向に回転できるように支持されている。
【0012】
ユニバーサル・ジョイント42の他側は軸44によって矢印45方向に回転する回転駆動体46に取付けられ、この回転駆動体46には支持台47が設けられている。支持台47は、後述する放射能防護筒48と放射線検出器49とを支持し、防護筒48の一端に設けたカテーテル接続部50に放射線検出器49が対面し、防護筒48の他端から伸延する管路51は制御盤32内のポンプユニットに至っている。なお、回転駆動体46及び放射線検出器49は、ケーブル52によりコンソール30内の制御回路に接続されている。
【0013】
防護筒48は、図1に示すように内部にカプセル60を収容した円筒体53と、その両端に螺合した蓋54、55とよりなり、これらは厚いアクリル樹脂で形成されている。蓋54はポンプユニットへ向う管路51を接続するための接続部56を有し、この管路接続部56には筒内へ向かう注射針57が取付けられている。また、蓋55は筒外へ伸延するカテーテル接続部50を有し、このカテーテル接続部50には筒内に向かう注射針59が取付けられている。
【0014】
カプセル60は、内部に放射性微小球を収容する内腔61を有する本体62と、その両端に螺合された蓋63、64とを有し、これらはアクリル樹脂で形成されている。そして、これらの蓋はそれぞれ注射針誘導孔65、66を有し、内腔61と各注射針誘導孔65、66との間にはゴム・パッキング67、68がそれぞれ介在している。
【0015】
従って、カプセル60を防護筒48に収容し、その両端に蓋54、55を施すときは、注射針57、58はそれぞれ誘導孔65、66を経て内腔61内に到達し、管路接続部56から注射針57、内腔61、注射針58を順に経て、カテーテル接続部50へ至る一連の通路が形成される。
【0016】
放射性微小球の注入治療に際しては、まず防護筒48内に輸液のみが収容され放射性微小球が収容されていないカプセル60(ダミーカプセル)を装填し、カテーテル接続部50が開放された状態でポンプユニットを運転し、カプセル60内を目視しながら空気をカテーテル接続部50から完全に排出させる。これと併行して、患者の患部にはX線造影等を実施しながらカテーテル69を挿入しておく。
【0017】
輸液の管路51内の空気が完全に排除されたならば、防護筒48内のカプセル60を内腔61内に放射性微小球及び輸液が充たされているもの(正規のカプセル)と交換し、コンソール30のブラケット35から腕39のヒンジ36を外して、これを患者を載せた治療用ベッドの側面に設けられたブラケットに取付ける。そして防護筒48のカテーテル接続部50に、患部に挿入されているカテーテル69の基部を接続する。
【0018】
そして、図2における回転駆動体46の中心軸が水平になるようにその姿勢を調節した上で、ポンプユニットを運転し、カプセル60内の放射性微小球を輸液と共にカテーテル69を経由して患部へ注入する。
【0019】
この際の放射性微小球の注入量及び注入速度は、防護筒48の外部から目視できるが、放射線検出器49の検出信号を処理して表示器34に表示される。また、その注入速度はポンプユニットにおける輸液の送出速度の調節並びに回転駆動体46の制御による防護筒48の傾きの調節によって行うことができ、注入速度を一定値に維持する制御も可能であり、これらの状況も表示器に表示させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例における放射性微小球を収容するカプセル及びこれを包囲する防護筒の断面図である。
【図2】本発明の実施に使用する放射性微小球注入装置の実施例の正面図である。
【図3】従来の放射性微小球注入装置の注入径路を示す管路図である。
【符号の説明】
【0021】
48 防護筒
50 カテーテル接続部
51 輸液供給管路
53 円筒体
54、55 蓋
56 管路接続部
57 注射針
59 注射針
60 カプセル
61 内腔
62 カプセル本体
63、64 蓋
65、66 注射針誘導孔
67、68 パッキング
69 カテーテル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性微小球を収容した内腔を中心に有する筒状のカプセル本体と、その両端にそれぞれ結合されていて中心に注射針誘導孔を有する蓋とよりなる透明な高分子材料製のカプセルを、透明な高分子材料製の防護筒内に収容し、この防護筒の一端を上記カプセル内へ伸延する注射針を取付けた輸液供給管路接続部を有する蓋によって閉塞すると共に、上記防護筒の他端を上記カプセル内へ伸延する注射針を取付けたカテーテル接続部を有する蓋によって閉塞し、輸液ポンプより上記輸液供給管路接続部へ輸液を供給することにより上記内腔に収容されている放射性微小球を輸液と共に上記カテーテル接続部に接続したカテーテルより排出させる放射性微小球注入方法において、放射性微小球の注入に先行して上記内腔に放射性微小球が収容されていないダミーカプセルを上記防護筒に収容し、上記輸液ポンプを運転して輸液供給経路内の空気を上記カテーテル接続部より完全に排出させた後、上記ダミーカプセルを放射性微小球及び湯液で上記内腔が充たされている正規のカプセルと交換すると共に、患部に挿入されているカテーテルを上記カテーテル接続部に接続して上記輸液ポンプを再運転することを特徴とする放射性微小球注入方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−14940(P2006−14940A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−195746(P2004−195746)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(599034066)株式会社シミズテック (3)
【Fターム(参考)】