説明

放射性液体の分注方法及び分注装置

【課題】放射性液体の分注精度の向上を図る。
【解決手段】シリンジ26により原液バイアル12から分注シリンジ25に放射性液体を分注する方法である。この方法では、原液バイアル12から放射性液体の一部を抽出して保管バイアル22に保管し、原液バイアル12に残った放射性液体を希釈してから、希釈された放射性液体を分注シリンジ25に分注する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性液体の分注方法及び分注装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性核種(RI)で標識した化合物を含む放射性液体を体内に投与し、この標識化合物が体内の特定箇所に集まった様子を専用の装置で撮像することによって、疾病等を診断する核医学診断法が開発されている。この診断法では、比較的短寿命の放射性核種(例えば、ポジトロン放出核種として、15Oは2分、11Cは20分、18Fは110分の半減期を持つ)で標識された、15O−水や11C−メチオニンや18F−FDG(フルオロデオキシグルコース)等が放射性液体として用いられる。
【0003】
このような核医学診断法に用いられる放射性液体は、合成装置により合成され原容器に貯留される。そして、放射性液体を小分けにしたり、被験者に投与したりするときに、例えば特許文献1に開示されているように、シリンジを駆動制御して、原容器から所定量を分注する。
【特許文献1】特開2002−306609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、シリンジにより原容器から分注容器に放射性液体を単に分注する従来の方法では、放射性液体が高濃度のとき、極少量を分注する必要が生じる場合がある。しかしながら、シリンジのピストンの先端に設けられたパッキンにはあそび(ガタ)があるため、極少量を分注する場合にはあそびの影響が無視できなくなって、必ずしも正確な分注を行うことができない虞があった。
【0005】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、放射性液体の分注精度の向上を図ることが可能な放射性液体の分注方法及び分注装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る放射性液体の分注方法は、吸引吐出器により原容器から分注容器に放射性液体を分注する方法である。この方法は、原容器から放射性液体の一部を抽出して保管容器に保管し、原容器に残った放射性液体を希釈してから、希釈された放射性液体を分注容器に分注する、ことを特徴とする。
【0007】
この方法では、原容器から放射性液体の一部を抽出して保管容器に保管し、原容器に残った放射性液体を希釈しているため、希釈前の放射性液体が高濃度であっても、希釈することで同じ放射能量を得るために必要な液量を増やすことができる。従って、希釈前は極少量で吸引吐出器による高精度な分注が難しくなる虞がある場合であっても、同じ放射能量を得るために必要な液量が増えることで、放射性液体の分注精度の向上が図られる。
【0008】
このとき、原容器内の放射性液体の放射能量が所定値以下になったとき、保管容器に保管されている放射性液体の少なくとも一部を原容器に戻す、と好ましい。このようにすれば、分注に必要な放射性液体が補充され、継続して分注作業を行うことが可能となる。
【0009】
また、原容器からの最小取出放射能量をRとし、原容器に貯留された放射性液体の濃度をRとし、吸引吐出器の許容最小吐出液量をLとし、RとRとの比(R/R)をZとしたとき、Z<Lであるときに、原容器から放射性液体の一部を抽出して保管容器に保管する、と好ましい。このようにすれば、吸引吐出器による高精度な分注が難しくなる虞が極めて高い場合に、分注精度を確実に向上させることができる。
【0010】
また、原容器に残す放射性液体の希釈前の液量Lは、最小取出放射能量R、許容最小吐出液量L、放射性液体の濃度R、及び原容器に貯留された放射性液体の液量Lに基づいて定まる許容液量L以下とする、と好ましい。このようにすれば、希釈後に吸引吐出器による高精度な分注を行いうる液量の放射性液体を原容器に残すことができる。
【0011】
本発明に係る放射性液体の分注装置は、放射性液体を収容するための原容器と、原容器から放射性液体を分注するための分注容器と、原容器から抽出された放射性液体の一部を保管するための保管容器と、放射性液体の吸引及び吐出を行うための吸引吐出器と、放射性液体を希釈する希釈液を供給するための希釈液供給部と、原容器、分注容器、保管容器、吸引吐出器、及び希釈液供給部の間で流路を切替えるための流路切替手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
この装置では、原容器から放射性液体の一部を抽出して保管容器に保管し、原容器に残った放射性液体を希釈することができる。従って、希釈前の放射性液体が高濃度であっても、希釈することで同じ放射能量を得るために必要な液量を増やすことができる。その結果、希釈前は極少量で吸引吐出器による高精度な分注が難しくなる虞がある場合であっても、同じ放射能量を得るために必要な液量が増えることで、分注精度の向上が図られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、放射性液体の分注精度の向上を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明においては、同一の要素には同一の符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
(第1実施形態)
【0015】
図1は、本実施形態に係る放射性液体の分注装置10の構成を示す図である。図1に示すように、分注装置10は、放射性液体の原液を貯留する原液バイアル(原容器)12、この原液バイアル12を収容可能であると共に、放射線を検出可能である放射線検出器14を備えている。放射線検出器14としては、例えば筒型の電離箱を用いることができる。この放射線検出器14で検出したデータは、後述する制御装置16に送られ、予め作成した放射線量−放射能量特性曲線を用いて、検出した放射線量から原液バイアル12内の放射能量を推定することができる。
【0016】
また分注装置10は、重量計測器18及び撮像装置20を備えている。重量計測器18は、原液バイアル12を搭載可能であり、原液バイアル12に貯留された放射性液体の重量を計測する。この重量計測器18としては、例えばロードセルや電子天秤を用いることができる。撮像装置20は、原液バイアル12を撮像して、液面を検出する。この撮像装置20としては、例えばCCDカメラを用いることができる。なお、撮像装置20により原液バイアル12を撮像し易いように、放射線検出器14は軸方向に図示しないスリットが設けられていると好ましい。
【0017】
重量計測器18は、上記したように重量から原液バイアル12内の放射性液体の液量を検出可能であり、また撮像装置20は、上記したように体積(液面)から原液バイアル12内の放射性液体の液量を検出可能である。従って、これら重量計測器18及び撮像装置20は、それぞれ単独で液量検出装置を構成することができる。なお、重量計測器18及び撮像装置20の双方のデータを用いて液量を算出してもよく、その場合は重量計測器18及び撮像装置20の双方で液量検出装置が構成される。
【0018】
また分注装置10は、放射性液体の保管先である保管バイアル(保管容器)22、この保管バイアル22を収容する保管バイアル収容部24を備えている。保管バイアル収容部24は、上端が開口された井戸型の放射線遮蔽壁から構成されている。
【0019】
また分注装置10は、放射性液体の分注先である分注シリンジ(分注容器)25を備えている。また分注装置10は、放射性液体の吸引及び吐出を行うのに使用するシリンジ(吸引吐出器)26を備えている。シリンジ26は、シリンダとこのシリンダ内で摺動するピストンとを備えている。ピストンの先端には、ゴム等の弾性体から形成されたパッキンが設けられている。従って、ピストンをシリンダ内で押し引きすることで、先端口から放射性液体を吸入したり、吐出したりすることができる。また分注装置10は、放射性液体を希釈する希釈液を供給する希釈液供給部28を備えている。希釈液としては、蒸留水や生理食塩水が挙げられる。また分注装置10は、管路中の液体をパージするためのパージガス(例えば、エアやNガス)を供給するパージガス供給部30を備えている。
【0020】
また分注装置10は、シリンジ26を駆動するシリンジ駆動装置32を備えている。このシリンジ駆動装置32によりピストンが往復動されることで、放射性液体の吸引及び吐出がなされる。
【0021】
また分注装置10は、これら原液バイアル12、保管バイアル22、分注シリンジ25、シリンジ26、希釈液供給部28、及びパージガス供給部30を連通して流路を切り替える流路切替装置34を備えている。流路切替装置34は、第1から第5の5つの三方弁34a,34b,34c,34d,34eを有している。第1三方弁34aの一のポートは、チューブ36を介して原液バイアル12と接続されている。第1三方弁34aの他の一のポートは、チューブ38を介してパージガス供給部30と接続されている。第1三方弁34aの他の一のポートは、第2三方弁34bの一のポートと切れ目なく直接接続されている。
【0022】
第2三方弁34bの他の一のポートは、チューブ40を介して希釈液供給部28と接続されている。第2三方弁34bの他の一のポートは、第3三方弁34cの一のポートと切れ目なく直接接続されている。第3三方弁34cの他の一のポートは、シリンジ26と接続されている。第3三方弁34cの他の一のポートは、第4三方弁34dの一のポートと切れ目なく直接接続されている。第4三方弁34dの他の一のポートは、チューブ43を介して分注シリンジ25と接続されている。第4三方弁34dの他の一のポートは、第5三方弁34eの一のポートと切れ目なく直接接続されている。
【0023】
第5三方弁34eの他の一のポートは、図示しない品質検定部と接続されている。また第5三方弁34eの他の一のポートは、チューブ42を介して保管バイアル22と接続されている。
【0024】
また分注装置10は、放射性液体の分注動作を制御する制御装置16を備えている。この制御装置16は、放射線検出器14、重量計測器18、撮像装置20、各三方弁34a,34b,34c,34d,34e、及びシリンジ駆動装置32と接続されている。この制御装置16による具体的な制御は後述する。この制御装置16には、分注に必要なパラメータを入力するための入力部44が接続されている。
【0025】
次に、上記した分注装置10による放射性液体の分注方法について、図2及び図3のフローチャートを参照して説明する。なお、本実施形態では、放射性液体として18F−FDG(フルオロデオキシグルコース)を分注する場合について説明する。
【0026】
まず、分注装置10のセットアップを行う。具体的には、放射線検出器14内に原液バイアル12を収容し、重量計測器18上に搭載する。また、保管バイアル収容部24に保管バイアル22を収容する。また、分注シリンジ25を所定位置にセットし、先端にエアフィルタ27を取り付ける。そして、原液バイアル12と図示しない合成装置をチューブ46で接続する。また、原液バイアル12及びパージガス供給部30をそれぞれチューブ36,38を介して第1三方弁34aに接続する。また、希釈液供給部28をチューブ40を介して第2三方弁34bに接続する。また、シリンジ26を第3三方弁34cに接続すると共に、シリンジ26のピストンをシリンジ駆動装置32に接続する。更に、保管バイアル22をチューブ42を介して第5三方弁34eに接続する。また、分注シリンジ25を、チューブ43を介して第4三方弁34dに接続する。
【0027】
この分注装置10では、上記セットアップが完了したら、チューブ46を介して図示しない合成装置からFDGの原液を原液バイアル12に搬送して貯留する。次に、制御装置16により流路切替装置34を駆動して、パージガス供給部30と原液バイアル12とを連通させる。そして、パージガスを原液バイアル12内に吹き込むことで、原液バイアル12内のFDGを攪拌する。この状態から、分注シリンジ25へのFDGの分注が開始される。
【0028】
まず、図1及び図2を参照して、入力部44を介して、FDGの最小取出放射能量R(MBq)を制御装置16に入力する(ステップS10)。この最小取出放射能量Rは各施設で設定する値であり、原液バイアル12から分注のために取出される最小の放射能量である。ここでは、一具体例として最小取出放射能量Rを100(MBq)とする。
【0029】
次に、最小取出放射能量Rと原液バイアル12に貯留されたFDGの濃度Rとの比Z(=R/R)が、シリンジ26の許容最小吐出液量Lよりも小さいか否かが判定される(ステップS12)。ここで、図3に示すように、制御装置16は、放射線検出器14と重量計測器18又は/及び撮像装置20とを制御して、所定時間(例えば10ミリ秒)ごとに原液バイアル12内のFDGの放射能量R(MBq)と液量L(ml)とを測定し、FDGの放射能濃度Rを算出している(ステップS40,S42,S44)。従って、この算出された放射能濃度Rを利用してステップS12における判定を行う。なお、許容最小吐出液量Lは、シリンジ26によりガタ等の影響を受けることなく液量的に許容し得る精度で吸引して吐出することが可能な最小の液量である。ここでは、一具体例としてFDGの放射能量Rが10000(MBq)で液量Lが10(ml)と測定され、放射能濃度Rが1000(MBq/ml)であるとする。また、許容最小吐出液量Lを1(ml)とする。
【0030】
そして、ステップS12での判定結果がNOのときは、FDGを希釈しなくても精度良い分注を行い得るため、FDGの一部保管や希釈を行うことなく、ステップS32に進んで後述する分注作業に入る。一方、ステップS12での判定結果がYESのときは、ステップS14に進む。上記した一具体例では、比Z(=R/R)が0.1(ml)であり、許容最小吐出液量Lの1(ml)よりも小さいため、ステップS14に進むこととなる。
【0031】
ステップS14では、最小取出放射能量Rと許容最小吐出液量Lとに基づいて、許容放射能濃度R=R/Lを算出する。そして、ステップS16において、許容放射能濃度Rと原液バイアル12内のFDGの液量L及び濃度Rとに基づいて、許容液量L=L×R/Rを算出する。この許容液量Lが、保管バイアル22にFDGの一部を保管するときに原液バイアル12に残し得る最大の液量である。この許容液量LのFDGを希釈液により元の液量Lまで希釈したとき、シリンジ26の許容最小吐出液量Lで最小取出放射能量RのFDGを取出し得るようになる。上記した一具体例では、許容放射能濃度Rは100(MBq/ml)となり、許容液量Lは1(ml)となる。
【0032】
次に、制御装置16により流路切替装置34を駆動して、原液バイアル12とシリンジ26とを連通させる。次に、シリンジ駆動装置32によりシリンジ26を駆動し、FDGの吸引を開始する(ステップS18)。次に、シリンジ26の駆動後において原液バイアル12に残っているFDGの液量Lを取得し、液量Lが許容液量Lの許容誤差範囲内にあるか否か判定する(ステップS20)。すなわち、液量Lが許容液量L±α以内であるか否か判定する。この許容誤差範囲αは任意に設定でき、例えば3%程度に設定することができる。
【0033】
そして、ステップS20の判定結果がNOのときは、ステップS18に戻り、許容液量Lと実際の液量Lとの偏差が小さくなるように液量に基づいてシリンジ駆動装置32をフィードバック制御し、これによりシリンジ26を駆動してFDGを吸引又は吐出する。この動作を繰り返し、ステップS20の判定結果がYESになったとき、次のステップS22に進む。この作業により、許容液量Lの許容誤差範囲α内のFDGが原液バイアル12内に残るように、所定量L−LのFDGが原液バイアル12からシリンジ26に取出される。上記した一具体例では、1(ml)の許容誤差範囲α内のFDGが原液バイアル12内に残るように、9(ml)のFDGが原液バイアル12からシリンジ26に取出される。
【0034】
次に、制御装置16により流路切替装置34を駆動して、保管バイアル22とシリンジ26とを連通させる(ステップS22)。そして、制御装置16によりシリンジ駆動装置32を駆動してシリンジ26のピストンを押し戻し、保管バイアル22にFDGを吐出する(ステップS24)。更に、制御装置16により流路切替装置34を駆動して、パージガス供給部30とシリンジ26とを連通させる。次に、パージガス供給部30からパージガスをシリンジ26内に吸引することで、流路切替装置34内に残存するFDGをパージガスと共にシリンジ26内に吸引する。次に、制御装置16により流路切替装置34を駆動して、シリンジ26と保管バイアル26とを連通させる。そして、制御装置16によりシリンジ駆動装置32を駆動してシリンジ26のピストンを押し戻し、保管バイアル22にFDGをパージガスと共に吐出する。
【0035】
これにより、図4に示すように、原液バイアル12内には許容液量LのFDGが貯留され、保管バイアル22にはL−LのFDGが保管された状態となる。上記した一具体例では、原液バイアル12内には1(ml)のFDGが貯留され、保管バイアル22には9(ml)のFDGが保管された状態となる。
【0036】
次に、原液バイアル12内に残されたFDGを希釈するための希釈液の液量l=L−Lを算出する(ステップS26)。次に、制御装置16により流路切替装置34を駆動して、シリンジ26と希釈液供給部28とを連通させる。そして、ステップS26で算出した液量lの希釈液をシリンジ26に吸引する(ステップS28)。上記した一具体例では、9(ml)の希釈液をシリンジ26に吸引する。
【0037】
次に、制御装置16により流路切替装置34を駆動して、シリンジ26と原液バイアル12とを連通させる。そして、制御装置16によりシリンジ駆動装置32を駆動してシリンジ26のピストンを押し戻し、原液バイアル12に希釈液を吐出する(ステップS30)。更に、制御装置16により流路切替装置34を駆動して、パージガス供給部30とシリンジ26とを連通させる。次に、パージガス供給部からパージガスをシリンジ26内に吸引することで、流路切替装置34内に残存する希釈液をパージガスと共にシリンジ26内に吸引する。次に、制御装置16により流路切替装置34を駆動して、シリンジ26と原液バイアル12とを連通させる。そして、制御装置16によりシリンジ駆動装置32を駆動してシリンジ26のピストンを押し戻し、原液バイアル12に希釈液をパージガスと共に吐出する。
【0038】
これにより、図5に示すように、原液バイアル12内には液量Lの希釈されたFDGが貯留された状態となる。上記した一具体例では、原液バイアル12内には10(ml)の希釈されたFDGが貯留された状態となる。このときの放射能濃度は、100(MBq/ml)となる。
【0039】
この状態から、分注シリンジ25へのFDGの分注作業を開始する(ステップS32)。
【0040】
まず、制御装置16により流路切替装置34を駆動して、シリンジ26と原液バイアル12とを連通させる。そして、所望量のFDGを原液バイアル12からシリンジ26内に吸引する。ここで、本実施形態では、分注のためにシリンジ26に吸引されるFDGの液量は、常にシリンジ26の許容最小吐出液量L以上となる。
【0041】
次に、制御装置16により流路切替装置34を駆動して、シリンジ26と分注シリンジ25とを連通させる。そして、制御装置16によりシリンジ駆動装置32を駆動してシリンジ26のピストンを押し戻し、分注シリンジ25内にFDGを吐出する。これにより、図6に示すように、所定量のFDGが分注シリンジ25内に分注される。なお、シリンジ26から分注シリンジ25にFDGを吐出する前に、シリンジ26内に希釈液を吸引し、シリンジ26内で更に希釈してもよい。
【0042】
このようにして、分注シリンジ25へのFDGの分注作業が行われる。かかる分注作業が繰り返し行われ、原液バイアル12に貯留されたFDGの放射能量が所定量を下回ったとき、例えば、図7に示すように、次の分注作業を行うに必要な放射能量に満たないとき、保管バイアル22から原液バイアル12に待避させていたFDGの少なくとも一部を戻す。
【0043】
まず、制御装置16により流路切替装置34を駆動して、シリンジ26と保管バイアル22とを連通させる。そして、所望量のFDGを保管バイアル22からシリンジ26内に吸引する。次に、制御装置16により流路切替装置34を駆動して、シリンジ26と原液バイアル12とを連通させる。そして、制御装置16によりシリンジ駆動装置32を駆動してシリンジ26のピストンを押し戻し、図8に示すように、原液バイアル12内にFDGを吐出する。そして、上記と同様に原液バイアル12内でFDGを希釈し、分注シリンジ25への分注作業を継続する。
【0044】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0045】
本実施形態では、原液バイアル12からFDGの一部を抽出して保管バイアル22に保管し、原液バイアル12に残ったFDGを希釈しているため、希釈前のFDGが高濃度であっても、希釈することで同じ放射能量を得るために必要な液量を増やすことができる。従って、希釈前は極少量でシリンジ26による高精度な分注が難しくなる虞がある場合であっても、同じ放射能量を得るために必要な液量が増えることで、分注精度の向上を図ることが可能となる。
【0046】
特に、最小取出放射能量をRと原液バイアル12に貯留されたFDGの濃度Rとの比Z(=R/R)がシリンジ26の許容最小吐出液量Lより小さいときに、原液バイアル12からFDGの一部を抽出して保管バイアル22に保管しているため、シリンジ26による高精度な分注が難しくなる虞が極めて高い場合に、分注精度を確実に向上させることができる。それ以外の場合は、原液バイアル12内のFDGの希釈、及び保管バイアル22の保管を行わず、そのまま分注作業を行うことで、全ての場合に希釈するときと比べて、分注作業の効率化を図ることができる。
【0047】
また、原液バイアル12に残すFDGの希釈前の液量Lは、最小取出放射能量R、許容最小吐出液量L、FDGの濃度R、及び原液バイアル12に貯留されたFDGの液量Lに基づいて定まる許容液量Lとしているため、希釈後にシリンジ26による高精度な分注を行いうる液量のFDGを原液バイアル12に残すことができる。
【0048】
また、原液バイアル12内のFDGの放射能量が所定値以下になったとき、保管バイアル22に保管されているFDGの少なくとも一部を原液バイアル12に戻すことができるため、分注に必要なFDGが補充され、継続して分注作業を行うことが可能となる。
(第2実施形態)
【0049】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、上記した第1実施形態と同一の要素には同一の符号を附し、重複する説明を省略する。
【0050】
第2実施形態に係る分注装置10の構成は、上記した第1実施形態に係る分注装置10の構成とほぼ同一であり、分注方法が異なる。
【0051】
すなわち、上記した第1実施形態では、図2に示すように、最初に最小取出放射能量Rを入力し(ステップS10)、種々の計算を行って原液バイアル12に残す許容液量Lを算出していた(ステップS16)。しかしながら、各施設で最小取出放射能量Rやシリンジ26の許容最小吐出液量Lなどは一度設定されると変更されない場合があるため、その都度、最小取出放射能量Rの入力や種々の計算を行う必要がない場合がある。
【0052】
そこで、本実施形態では、最小取出放射能量R及びシリンジ26の許容最小吐出液量Lから、原液バイアル12内に貯留されているFDGの濃度Rと許容液量Lとの関係を算出し、これに基づいて原液バイアル12に残す液残量Lを予め求めておく。
【0053】
表1は、保管バイアル22へのFDGの保管前における放射能濃度Rと、許容液量L、及び液残量Lの関係の一例を示している。表1の計算においては、FDGの液量Lを18(ml)とし、シリンジ26により一度に取出す最小の放射能量である最小取出放射能量Rを150(MBq)とし、許容最小吐出液量Lを0.5(ml)とし、シリンジ26により一度に取出す最大の放射能量である最大取出放射能量を450(MBq)として、0〜3000(MBq/ml)の放射能濃度Rについて計算を行った。
【表1】

【0054】
表1の第1及び第2欄に示すように、FDGを保管バイアル22に保管する前における放射能濃度Rが許容放射能濃度Rである300(MBq/ml)を超えると、最小取出放射能量Rである150(MBq)のFDGを取出すには、最小吐出液量が許容最小吐出液量Lである0.5(ml)を下回ることが分かる。従って、この場合は保管バイアル22にFDGの一部を保管し、残りを希釈する必要がある。この場合、原液バイアル12に残すFDGの液残量Lは、許容液量L以下とする必要があるため、L=L×R/Rの関係式から、まず許容液量Lを算出する。このようにして算出された許容液量Lが、表1の第3欄に記載されている。
【0055】
そして、本実施形態では、表1の第4欄に示すように、放射能濃度Rが1800(MBq/ml)以上では液残量Lを1.5(ml)とし、放射能濃度Rが900(MBq/ml)以上で1800(MBq/ml)までは液残量Lを3.0(ml)とし、放射能濃度Rが300(MBq/ml)を超えて900(MBq/ml)までは液残量Lを6.0(ml)とし、放射能濃度Rが300(MBq/ml)以下では液残量Lを18(ml)とする。
【0056】
このようにして決められた液残量Lは、表1の第3及び第4欄に示すように、全て許容液量Lを下回っているため、元の液量18(ml)まで希釈して、最小取出放射能量Rである150(MBq)のFDGを取出す場合であっても、表1の第7欄に示すように、最小吐出液量がシリンジ26の許容最小吐出液量Lである0.5(ml)を下回ることはない。
【0057】
なお、表1の第5欄において希釈後濃度とは、液残量LのFDGを元の液量18(ml)まで希釈したときの放射能濃度である。また、表1の第6欄において最大吐出液量とは、最大取出放射能量である450(MBq)のFDGを取出すときに必要な吐出量である。
【0058】
上記した結果から、原液バイアル12内に貯留されているFDGの濃度Rと、保管バイアル12に待避させて保管する待避液量Lとの関係を表2に示す。本実施形態に係る分注装置10は、表2に示すようなテーブルを予め制御装置16のメモリに記憶している。
【表2】

【0059】
次に、図9及び図10のフローチャートを参照して、本実施形態の分注方法について説明する。
【0060】
まず、第1実施形態と同様に、分注装置10のセットアップを行う。上記セットアップが完了したら、チューブ46を介して図示しない合成装置からFDGの原液を原液バイアル12に搬送して貯留する。次に、制御装置16により流路切替装置34を駆動して、パージガス供給部30と原液バイアル12とを連通させる。そして、パージガスを原液バイアル12内に吹き込むことで、原液バイアル12内のFDGを攪拌する。この状態から、分注シリンジ25へのFDGの分注が開始される。
【0061】
まず、原液バイアル12に貯留されたFDGの濃度Rに基づいて、保管バイアル22に待避させて保管するFDGの待避液量Lを決定する(ステップS100)。ここで、図3を参照して説明したように、制御装置16は放射線検出器14と、重量計測器18又は/及び撮像装置20とを制御して所定時間(例えば10ミリ秒)ごとに原液バイアル12内のFDGの放射能量R(MBq)と液量L(ml)とを測定し、FDGの放射能濃度Rを算出しているため(図3のステップS40,S42,S44)、この算出された放射能濃度Rを利用する。また、待避液量Lの決定に当たっては、予め求めた濃度Rと待避液量Lとの関係を示す表2のテーブルを利用する。
【0062】
次に、原液バイアル12内のFDGの液量Lが待避液量Lよりも小さいか否かを判定する(ステップS102)。そして、ステップS102での判定結果がYESのときは、ステップS104に進んで液量不足の警告を発して、分注作業を終了する。この場合、作業者の判断で原液バイアル12内のFDGを希釈し、液量を増やした上で、最初から分注作業を開始する。一方、ステップS102での判定結果がNOのときは、ステップS106に進む。
【0063】
ステップS106では、保管バイアル22に待避された待避液量LのFDGの放射能濃度RtsをRとして記憶する。次に、ステップS108において、放射能濃度Rtsを記憶したときの時刻Ttsを記憶する。
【0064】
次に、上記ステップS100で決定した待避液量LのFDGを、保管バイアル22に待避させて保管する(ステップS110)。なお、待避動作においては、待避液量Lに基づいて、シリンジ駆動装置32によりシリンジ26を単に駆動制御してもよく、一方、第1実施形態と同様に、原液バイアル12に残すFDGの液残量Lを算出し、液残量Lが許容誤差範囲内に収まるように、液面に基づくフィードバック制御により、シリンジ26を駆動制御してもよい。
【0065】
そして、上記した第1実施形態と同様に、ステップS112において原液バイアル12内のFDGを元の液量まで希釈し、ステップS114において希釈されたFDGを分注シリンジ25に分注する。このようにして、分注シリンジ25へのFDGの分注作業が行われる。かかる分注作業が繰り返し行われ、原液バイアル12に貯留されたFDGの液量Lが所定量を下回ったとき、ここでは最小残量Lを下回ったとき、保管バイアル22から原液バイアル12へのFDGの戻し作業が行われる。この最小残量Lは、任意に設定することができる。
【0066】
ここで、図10を参照して、保管バイアル22から原液バイアル12へのFDGの戻し作業について説明する。
【0067】
まず、ステップS200において、原液バイアル12に貯留されたFDGの液量Lが最小残量Lよりも小さいか否かが判定される。ステップS200の判定結果がYESのときは、ステップS202に進んで、保管バイアル22内に貯留されたFDGの現在の放射能濃度Rtnを、次式に基づいて算出する。
【0068】
tn = Rts×exp[−0.693×ΔT/T
【0069】
ここで、Rtsは保管バイアル22に待避されたFDGの当初の放射能濃度であり、ΔTは放射能濃度Rtsを記憶したときの時刻Ttsから現時刻Ttnまでの経過時間であり、TはFDGの半減期(109.8)である。なお、放射線検出器などにより、保管バイアル22に保管されたFDGの濃度を直接計測可能であれば、かかるステップS202は省略することができる。
【0070】
そして、ステップS204において、算出した現在の放射能濃度Rtnに基づいて、原液バイアル12に戻すFDGの戻し液量Lを次式に基づいて算出する。
【0071】
= R×L/Rtn
【0072】
ここで、Rは原液バイアル12内の目標原液濃度であり、Lは原液バイアル12内の目標原液量である。例えば、Rは300(MBq/ml)であり、Lは25(ml)である。
【0073】
次に、ステップS206において、ステップS204において算出した戻し液量Lが、保管バイアル22に残っているFDGの待避液残量Lよりも小さいか否かが判定される。なお、このように保管バイアル22に残っているFDGの待避液残量Lを求める必要があるため、保管バイアル収容部24は、原液バイアル12に対して設けられているような、重量計測器や撮像装置などの液量検出装置を有すると好ましい。
【0074】
そして、ステップS206の判定結果がYESのときは、ステップS208に進んで、戻し液量LのFDGが原液バイアル12へ戻される。一方、ステップS206の判定結果がNOのときは、ステップS210に進んで、液量不足の警告がなされる。そして、ステップS212において、保管バイアル22に保管されているFDGの全量を戻すか否かの確認がなされる。そして、ステップS212の確認結果がYESのときは、ステップS208に進んで、待避液残量LのFDGが原液バイアル12へ戻される。一方、ステップS212の確認結果がNOのときは、FDGの戻し作業は行われない。
【0075】
そして、このようにして原液バイアル12に戻されたFDGを用いて、分注シリンジ25への分注作業を継続することができる。
【0076】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0077】
本実施形態でも、原液バイアル12からFDGの一部を抽出して保管バイアル22に保管し、原液バイアル12に残ったFDGを希釈しているため、希釈前のFDGが高濃度であっても、希釈することで同じ放射能量を得るために必要な液量を増やすことができる。従って、希釈前は極少量でシリンジ26による高精度な分注が難しくなる虞がある場合であっても、同じ放射能量を得るために必要な液量が増えることで、分注精度の向上を図ることが可能となる。
【0078】
特に、本実施形態では、原液バイアル12内に貯留されているFDGの濃度Rと、保管バイアル22に待避させて保管する待避液量Lとの関係を予め求めておくことで、その都度、最小取出放射能量Rの入力や種々の計算を行う必要がなく、より効率的な分注を行うことができる。
【0079】
また、原液バイアル12に残すFDGの希釈前の液量Lは、最小取出放射能量R、許容最小吐出液量L、FDGの濃度R、及び原液バイアル12に貯留されたFDGの液量Lに基づいて定まる許容液量L以下としているため、希釈後にシリンジ26による高精度な分注を行いうる液量のFDGを原液バイアル12に残すことができる。
【0080】
また、原液バイアル12内のFDGの液量(放射能量)が所定値以下になったとき、保管バイアル22に保管されているFDGの少なくとも一部を原液バイアル12に戻すことで、分注に必要なFDGが補充され、継続して分注作業を行うことが可能となる。
【0081】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されることなく、種々の変形が可能である。例えば、分注先はシリンジ25に限られず、バイアルであってもよい。
【0082】
また、放射性液体を吸引して吐出できれば、吸引吐出器としてシリンジ26以外のものを用いてもよい。但し、本発明はピストンにあそび(ガタ)があり、極少量の放射性液体の分注に難のある、ディスポーザブルタイプのシリンジの場合に特に効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】放射性液体の分注装置の構成を示す図である。
【図2】放射性液体の分注方法を示すフローチャートである。
【図3】原液バイアル内の放射能量と液量の検出の流れを示すフローチャートである。
【図4】保管バイアルに放射性液体の一部が保管された状態を示す図である。
【図5】原液バイアル内の放射性液体を希釈した状態を示す図である。
【図6】分注シリンジに希釈された放射性液体が分注された状態を示す図である。
【図7】原液バイアル内の放射性液体が不足している状態を示す図である。
【図8】保管バイアルから原液バイアルに放射性液体の一部を戻した状態を示す図である。
【図9】放射性液体の分注方法を示すフローチャートである。
【図10】放射性液体の戻し作業を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0084】
10…分注装置、12…原液バイアル、14…放射線検出器、16…制御装置、18…重量計測器、20…撮像装置、22…保管バイアル、25…分注シリンジ、26…シリンジ、28…希釈液供給部、32…シリンジ駆動装置、34…流量切替装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸引吐出器により原容器から分注容器に放射性液体を分注する方法であって、
前記原容器から前記放射性液体の一部を抽出して保管容器に保管し、
前記原容器に残った前記放射性液体を希釈してから、希釈された該放射性液体を前記分注容器に分注する、ことを特徴とする放射性液体の分注方法。
【請求項2】
前記原容器内の前記放射性液体の放射能量が所定値以下になったとき、前記保管容器に保管されている前記放射性液体の少なくとも一部を前記原容器に戻す、ことを特徴とする請求項1に記載の放射性液体の分注方法。
【請求項3】
前記原容器からの最小取出放射能量をRとし、前記原容器に貯留された前記放射性液体の濃度をRとし、前記吸引吐出器の許容最小吐出液量をLとし、前記Rと前記Rとの比(R/R)をZとしたとき、
Z<Lであるときに、前記原容器から前記放射性液体の一部を抽出して前記保管容器に保管する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の放射性液体の分注方法。
【請求項4】
前記原容器に残す前記放射性液体の希釈前の液量Lは、前記最小取出放射能量R、前記許容最小吐出液量L、前記放射性液体の濃度R、及び前記原容器に貯留された前記放射性液体の液量Lに基づいて定まる許容液量L以下とする、ことを特徴とする請求項3に記載の放射性液体の分注方法。
【請求項5】
放射性液体を収容するための原容器と、
前記原容器から前記放射性液体を分注するための分注容器と、
前記原容器から抽出された前記放射性液体の一部を保管するための保管容器と、
前記放射性液体の吸引及び吐出を行うための吸引吐出器と、
前記放射性液体を希釈する希釈液を供給するための希釈液供給部と、
前記原容器、前記分注容器、前記保管容器、前記吸引吐出器、及び前記希釈液供給部の間で流路を切替えるための流路切替手段と、
を備えることを特徴とする放射性液体の分注装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−133139(P2006−133139A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−324203(P2004−324203)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】