説明

放射性物質により汚染された土壌の除染方法

【課題】本発明は、セシウム又はストロンチウム、特に人工放射性核種のセシウム137やストロンチウム90などの放射性物質によって汚染された大量の放射能汚染土壌を低コストで迅速に処理して、汚染土壌中の放射性物質濃度を低減する。
【解決手段】
放射性物質を含む放射能汚染土壌と、電解質と、水とを容器に収容して混合・撹拌させた混合溶液と、多孔質体に放射性物質イオンの吸着材を充填してナノカーボンを分散・固定した複合体を吸水性の固着材によりブロック状に形成した捕集体とを、接触させることにより、前記混合溶液中の放射性物質を前記捕集体に吸着・捕集する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セシウム又はストロンチウム、特に人工放射性核種のセシウム137やストロンチウム90などの放射性物質によって汚染された汚染土壌中の前記物質の濃度を低減して浄化するために用いる放射能汚染土壌の除染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従前よりセシウムあるいはストロンチウムなど、特にセシウム137、ストロンチウム90などの放射性物質によって汚染された土壌を浄化する手段として、例えばこれら人工放射性核種の粒子を取り込むように設計されたゼオライトを用いる技術(特表2007−526110号)が知られている。
【0003】
しかしながら、これらのゼオライトを用いて、汚染土壌を処理する場合には、目詰まりしたゼオライトを頻繁に交換しなければならず、作業性と除去効率が悪くなるとともに、交換すべきゼオライトの表面には高濃度の放射性物質(粒子)が付着しているので交換作業は容易でないという問題点がある。
【0004】
また、プルシアンブルーはセシウムイオンに対して高い選択性を持ち、セシウムの選択的除去に期待されているが、粒子はナノサイズで且つ親水性が高く、水に溶け出してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−526110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、大量の放射能汚染土壌を低コストで迅速に処理して、放射性物質により汚染された土壌の除染方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためになされた本発明は、放射性物質を含む放射能汚染土壌と、電解質と、水とを容器に収容して混合・撹拌させた混合溶液と、多孔質体に放射性物質イオンの吸着材を充填してナノカーボンを分散・固定した複合体を吸水性の固着材によりブロック状に形成した捕集体とを、接触させることにより、前記混合溶液中の放射性物質を前記捕集体に吸着・捕集することを特徴とする。
【0008】
本発明において、放射性物質イオンとしてセシウムイオンを対象とした場合には、吸着材としてナノ単位の粒径を有するプルシアンブルーのようなフェロシアン化第二鉄組成物が有効であり、多孔質体としてゼオライトよりも大径の珪藻土を用いることにより、交換機能を向上を図ることができ、更に、吸着材を充填した多孔質体にナノカーボンを分散・固定することにより密のネットワークを形成して吸着剤の水への流出を防止するので有効に除染をすることができる。
【0009】
また、本発明では、吸着材を充填した多孔質体を焼石膏などの吸水性の固着剤により固めることによって、使い勝手を向上させている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、放射性物質によって汚染された土壌を加熱したり、特殊なフィルタを使用することなく短時間で除染することができるので作業効率に優れいばかりか経済的にも廉価に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。
【0012】
<捕集体>
本発明に用いられるブロック状の捕集体は、界面活性剤及びリグニンスルホン酸塩によって分散されたナノカーボン、特にカーボンナノチューブ分散物とプルシアンブルーなどのフェロシアン化第二鉄組成物と珪藻土などの微細な孔を有する多孔質体と焼石膏などの固着材から形成されると効率よくセシウムを除染することが可能であるが、除染対象の放射性物質に応じて吸着材などは適宜選択することも可能である。
【0013】
本発明における捕集体は、前記プルシアンブルー0.01micro-mol〜200milli-molに対して、珪藻土0.01〜50.0wt%、前記ナノカーボン分散物0.001〜20w
t%を、適当な媒体中、好ましくは水中で混合することで調製することで、プルシアンブルー/珪藻土/ナノカーボンの複合体(コロイド)を調製することができる。混合は特別な条件を必要とはせず、例えば混合物全量が10リットルのときは、15℃〜45℃で、30〜120分間の範囲で適宜調整すればよい。この様にして調整される複合体は、プルシアンブルーと珪藻土とナノカーボンとのコロイド溶液として表すこともできる。次に、上述で調製したプルシアンブルーと珪藻土とナノカーボンとのコロイド溶液に対して、焼石膏を20〜200wt%で添加・混合することにより、放射性物質を吸着する吸着ブロックを
作成することができる。
【0014】
<捕集体に用いられるナノカーボン>
本発明における捕集剤に含まれる分散ナノカーボン物とは、低分子量〜高分子量の界面活性剤及びリグニンスルホン酸塩を分散剤として用いて、凝集したナノカーボン凝集体を分散処理したものである。
本発明で利用可能なナノカーボンは、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン、グラフェン、酸化グラフェン、カーボンブラック、活性炭又はそれらの混合物を挙げることができる。
【0015】
ナノカーボンを分散するための低分子量及び高分子量界面活性剤としては、前記ナノカーボンを単分子状態で分散し得ることができるものであれば特に限定されないが、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、胆汁酸塩、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパンスルホネート、ポリビニルアルコール、アルキルベンジルアンモニウム塩などを用いることができる。ナノカーボン、特にカーボンナノチューブの界面活性物質による分散は、例えば国際公開特許公報WO2005/110594号パンフレットに開示されている技術を参照して行なうこともできる。
【0016】
また、リグニンスルホン酸塩は、亜硫酸法によるパルプ製造工程で木材中のリグニンから生成される、リグニン分解物の一部がスルホン化された化合物(リグノスルホン酸とも呼ばれる、CAS登録番号の塩である。リグニンスルホン酸塩は陰イオン系界面活性剤となるので、例えば特開2005−263608号に開示された方法によってカーボンナノチューブの分散剤として利用することができる。
【0017】
本発明におけるナノカーボン分散物は、例えばナノカーボン1gに対して低分子量及び
高分子量界面活性剤を0.01〜20.0wt%、及びリグニンスルホン酸塩を0.01〜20.0wt%の量比でナノカーボンとともに分散媒体である水に加え、マグネティックスターラー、超音波処理、アトライター、ボールミル、サンドミル、ビーズミル等を用いて混合することによって調製することができる。なお、分散媒体は水以外の成分、例えばメタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の親水性溶媒を含んでもよい。
【0018】
本発明で利用するプルシアンブルーは、ヘキサシアノ鉄(II)酸鉄(III)、フェロシ
アン化鉄(III)あるいはフェロシアン化鉄(II)とも呼ばれるシアノ錯体と鉄イオンや
コバルトイオン、ニッケルイオン等を代表とする遷移金属イオンを結合したものである。プルシアンブルーは、ナトリウムイオンやマグネシウムイオンよりもセシウムイオンに対して数億倍高い結合定数を有し、セシウムイオンと錯体を形成することができる。本発明で使用可能なプルシアンブルーは、この様な性質を有するかぎり、錯体の特定の配位状態や配位数を持つシアノ錯体には限定されない。
【0019】
<固着材>
本発明で使用可能な固着材としては吸水性を有するとともに放射性物質イオンを通過させることが可能なものであり、石膏、セメントあるいはスポンジなどの使用が好ましいが、カーボンナノチューブ/プルシアンブルーを充填した珪藻土などの多孔質体を固定化で
きる性質を有するものであればよく、例えば樹脂や接着材、等人工並びに自然のものを用いることができる。
【0020】
<汚染土壌の処理>
本発明は、捕集体を汚染土壌の表面に並設し、或いは埋め込むことにより土壌中の放射性物質を吸着して除染することも可能であるが、汚染土壌を採取可能な場合には、アンモニウム塩やキレート剤を含む溶液とともに水に加え撹拌した後、汚染土壌を加え、激しく撹拌して土壌中の汚染物質である放射性物質イオンと土壌成分とを分離してから、プルシアンブルーのような吸着材と珪藻土のような多孔質体とナノカーボンと焼石膏のような固着剤からなる吸着ブロックを投入することにより効率よく吸着を行うことができる。尚、大量の水を使い、水と土壌が分離された場合は、吸着ブロックを水相層に置くことでも良い。
【実施例1】
【0021】
次に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0022】
(1)分散ナノカーボン液の調製
1リットルの蒸留水に、10gのリグニンスルホン酸ナトリウムと5グラムのポリビニルアルコールを加え、撹拌した後、50gのCNT粉末を加え、更に20分間撹拌した。ビーズミルを使い、60分間分散処理し、ナノカーボン分散液を得た。
【0023】
(2)プルシアンブルーの調製
1リットル0.3Mヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム水溶液に、300グラム珪藻土を
加え、10〜20分間撹拌した後、1リットル0.3M塩化鉄(III)水溶液を上述の液に加え、更に60〜180分間撹拌した。濃度150mMのプルシアンブルーを充填したプルシアンブルー/珪藻土からなる複合体 (コロイド)を作成した。
【0024】
(3)捕集体の調製
上述(2)で作成したプルシアンブルー/珪藻土複合コロイド1000mLに、1)で作
成したナノカーボン分散液200mLを加えて10〜20分間撹拌した後、1000グラム焼石膏粉末を加え、十分に素早く撹拌した後、型に注ぎ、室温で1〜12時間放置するこ
とで、プルシアンブルー/珪藻土/ナノカーボン/約石膏からなるブロック状の捕集体を調
製した。
【0025】
(4)汚染物質の除去
福島県浪江町で土壌から約1kgの汚染土壌(8マイクロシーベルトの放射性セシウムを含む)を容器(バケツ)に取り入れ、約2リットルの水を加え、更に0.3Mのリン酸アンモニ
ウムと0.1MのNa-EDTAを含む水溶液を約10mLを加えた後、約5分間撹拌した。約10分間
静置した後、上澄みの水を別の容器(バケツ)に移した。これを2回洗浄処理した土壌サンプルの線量は4マイクロシーベルトの放射性セシウムを含む。
そして、洗浄水サンプル「2.7マイクロシーベル放射性セシウムを含む」に、プルシアンブルー/珪藻土/ナノカーボン/焼石膏複合ブロック1個「約100グラム」を加えた
。ブロックを投入した30分後、洗浄水サンプルの放射性セシウムによる放射線量は0.5マイクロシーベルトまでに下がった。40分間経過後、洗浄水サンプルの線量はバックグランドレベル「0.24マイクロシーベルト」までに下がった。
【実施例2】
【0026】
前記実施例1で作成したプルシアンブルー/珪藻土複合コロイド1000mLに、前記
実施例(1)で作成したナノカーボン分散液200mLを加えて10〜20分間撹拌し、
これらを各種スポンジの原料と混合し、所定の手順により発泡成形してブロック状の捕集体を調製した。
【実施例3】
【0027】
前記実施例1の(2)で作成したプルシアンブルー/珪藻土複合コロイド1000mL
に、1)で作成したナノカーボン分散液200mLを加えて10〜20分間撹拌した後、
セメント材を加えて混練し、乾燥させてブロック状の捕集体を調製した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質を含む放射能汚染土壌と、電解質と、水とを容器に収容して混合・撹拌させた混合溶液と、多孔質体に放射性物質イオンの吸着材を充填してナノカーボンを分散・固定した複合体を吸水性の固着材によりブロック状に形成した捕集体とを、接触させることにより、前記混合溶液中の放射性物質を前記捕集体に吸着・捕集することを特徴とする放射性物質により汚染された土壌の除染方法。
【請求項2】
多孔質体に放射性物質イオンの吸着材を充填してナノカーボンを分散・固定した複合体を吸水性の固着材を用いてブロック状に形成した捕集体を放射能汚染土壌に埋設させて土壌中に含まれる放射性イオンを吸着・捕集することを特徴とする放射性物質により汚染された土壌の除染方法。
【請求項3】
前記複合体を形成する多孔質体が珪藻土であることを特徴とする請求項1または2に記載の放射性物質により汚染された土壌の除染方法。
【請求項4】
前記放射性物質イオンの吸着材がフェロシアン化第二鉄組成物であることを特徴とする請求項1,2または3に記載の放射性物質により汚染された土壌の除染方法。
【請求項5】
前記フェロシアン化第二鉄組成物がプルシアンブルーであることを特徴とする請求項4に記載の放射性物質により汚染された土壌の除染方法。

【公開番号】特開2013−57575(P2013−57575A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195495(P2011−195495)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(511218574)共栄エンジニアリング株式会社 (1)
【出願人】(511163735)ナノサミット株式会社 (3)
【Fターム(参考)】