放射性物質を含む下水汚泥の仮置き施設
【課題】 放射性物質を含む下水汚泥を、その放射線を遮蔽して安全に仮置きすることができ、短工期で構築することができる施設を提供する。
【解決手段】 下水汚泥仮置き施設は、背面同士を対向させて全体で仰向けコ字状をなすように2列に設置面に設置されて長さ方向に連結されたプレキャストコンクリート製のL型擁壁用ブロック1,2と、2列のL型擁壁用ブロック1,2の連結方向の両端に生じた端面開口を塞ぐプレキャストコンクリート製の端パネル3,4と、2列のL型擁壁用ブロック1,2の上端間に生じた上面開口を塞ぐプレキャストコンクリート製の蓋パネル5と、L型擁壁用ブロック1,2、端パネル3,4及び蓋パネル5の内面に沿って敷設された遮水シート7とからなる。
【解決手段】 下水汚泥仮置き施設は、背面同士を対向させて全体で仰向けコ字状をなすように2列に設置面に設置されて長さ方向に連結されたプレキャストコンクリート製のL型擁壁用ブロック1,2と、2列のL型擁壁用ブロック1,2の連結方向の両端に生じた端面開口を塞ぐプレキャストコンクリート製の端パネル3,4と、2列のL型擁壁用ブロック1,2の上端間に生じた上面開口を塞ぐプレキャストコンクリート製の蓋パネル5と、L型擁壁用ブロック1,2、端パネル3,4及び蓋パネル5の内面に沿って敷設された遮水シート7とからなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質を含む下水汚泥の仮置き施設に関するものである。
【背景技術】
【0002】
平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震及びそれに伴う津波により、福島第1原子力発電所の原子力発電設備が損傷し、その後に起きた同設備の水素爆発等により、放射性物質が建家外に放出されて各地に飛散した。以来、雨水の流れ込む各地の下水処理施設の汚泥から、相次いで放射性物質が検出されている。
【0003】
一般に、下水汚泥は、焼却灰を廃棄したり、高温での焼却で生じた溶融スラグをコンクリート骨材として利用したり(特許文献1)、乾燥させた有機物をコンポストや燃料として利用したり(特許文献2,3)して処理されている。しかし、放射性物質を含む下水汚泥は、健康被害の問題があるため、上記のような一般的な処理は困難である。そのため、現状では、放射性物質を含む下水汚泥の処理方法が明確になっておらず、シート養生等の簡易な養生方法のみで一時的に保管されている。しかし、シート養生等では放射線の遮蔽効果をほとんど見込めず、保管時のみならず運搬作業時にも注意が必要である。
【0004】
平成23年6月16日に原子力災害対策本部が公表した「上下水処理等副次産物(註)の当面の取り扱いに関する考え方」(註:脱水汚泥及び脱水汚泥を焼却、溶融等したものや、それを再利用して生産するもの)では、次のような考え方が示されたが、まだ、引き続き検討しなければならない事項が多い。
・放射性セシウム濃度が10万Bq/kgを超える汚泥等は、県内の適切に放射線を遮蔽できる施設に保管する。具体的な処分の在り方について、引き続き検討する。
・放射性セシウム濃度が8千Bq/kg超〜10万Bq/kg以下の汚泥等は、住宅地等と適切な距離を保った上で、管理型処分場に仮置きができる。個別の安全性評価及び長期的な管理の方法の検討の後、埋立処分できる。
・放射性セシウム濃度が8千Bq/kg以下の汚泥等は、住宅地等と適切な距離を保った上で、管理型処分場に仮置きができる。跡地を居住等に利用しない前提で、埋立処分できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−279084号公報
【特許文献2】特開平5−155678号公報
【特許文献3】特開平9−248600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
放射線を遮蔽できるように下水汚泥を保管する方法としては、土中への埋設が考えられる。しかし、この方法では、埋設深さの管理が難しいとか、長期の保管に不安があるとかという問題がある。また、下水汚泥の最終処理方法や搬出先が決まった段階で移設させる際に、掘り起こしが必要なため、手間がかかるという問題もある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、放射性物質を含む下水汚泥を、その放射線を遮蔽して安全に仮置きすることができ、また必要に応じて長期に保管することもできる施設を提供することにある。また、必要な容量の施設を短工期で構築できるようにすることにある。さらに、下水汚泥の最終処理方法や搬出先が決まった段階での移設を容易に行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る放射性物質を含む下水汚泥の仮置き施設は、背面同士を対向させて全体で仰向けコ字状をなすように2列に設置面に設置されて長さ方向に連結(接合)されたプレキャストコンクリート製のL型擁壁用ブロックと、2列のL型擁壁用ブロックの連結方向の両端に生じた端面開口を塞ぐプレキャストコンクリート製の端パネルと、2列のL型擁壁用ブロックの上端間に生じた上面開口を塞ぐプレキャストコンクリート製の蓋パネルと、L型擁壁用ブロック、端パネル及び蓋パネルの内面に沿って敷設された遮水シートとからなることを特徴とする。
【0009】
(2)本発明に係る放射性物質を含む下水汚泥の仮置き施設の構築方法は、プレキャストコンクリート製のL型擁壁用ブロックをその背面同士を対向させて全体で仰向けコ字状をなすように2列に設置面に設置して長さ方向に連結するとともに、2列のL型擁壁用ブロックの連結方向の一端に生じた端面開口をプレキャストコンクリート製の端パネルで塞ぎ、L型擁壁用ブロック及び端パネルの内面に沿って遮水シートを敷設する第1ステップと、
2列のL型擁壁用ブロックの間に生じた内部空間に、容器に入れられた放射性物質を含む下水汚泥を搬入する第2ステップと、
2列のL型擁壁用ブロックの上端間に生じた上面開口に遮水シートを敷設してから、該上面開口をプレキャストコンクリート製の蓋パネルで塞ぐ第3ステップと、
2列のL型擁壁用ブロックの連結方向の他端に生じた端面開口に遮水シートを敷設してから、該端面開口をプレキャストコンクリート製の端パネルで塞ぐ第4ステップと
を含むことを特徴とする。
【0010】
上記の各手段において、L型擁壁用ブロックの寸法は、仮置き量、移動・運搬設備等により、適宜選択することができる。但し、仮置き目的からして高さの大きいものが好ましく、具体的には高さ3〜5mのものが好ましい。
【0011】
2列のL型擁壁用ブロックの底版部は、背端面どうしが突き合わされてもよいし、離間されてもよい。この離間距離を変えることにより、2列のL型擁壁用ブロックの縦壁部の背面同士の間隔を自在に設定することができる。この離間箇所を埋めるには、次の3通りのいずれも可能である。
(1)現場打ちコンクリートで底版を形成する。コンクリートの打設及び養生に時間を要するが、放射線遮蔽の点で好ましい。
(2)プレキャストコンクリート製の底版部材を連結する。間隔の変更には対応しにくいが、迅速に施工できる点と放射線遮蔽の点で好ましい。
(3)現場の地面材(土石)とする。放射線遮蔽の点では劣るが、迅速に施工できる点とコスト削減の点で好ましい。
【0012】
また、L型擁壁用ブロック、端パネル及び蓋パネルのコンクリート厚さ(以下、単に「部材厚」)は、放射線量の減衰性能と現実の移動運搬設備で移動運搬するのに適したブロック重量とのバランスからすると、10〜50cmとすることが好ましい。10cm未満では放射線量の減衰性能が低くなり、50cmを超えると放射線量の減衰性能はそれ以上あまり高くならないのに重くなる。例えば、厚さ12cmの場合には放射線量を75%程度減衰させることができ、厚さ15cmの場合には放射線量を80%程度減衰させることができ、厚さ20cmの場合には放射線量を90%程度減衰させることができ、厚さ40cmの場合には放射線量を99%程度減衰させることができる。
【0013】
前記プレキャストコンクリート製の各部材の接合にあたって互いに近接(当接を含む。部材精度の限界上、当接であっても空隙はできる。以下同じ。)した近接面(例えば、2列のL型擁壁用ブロックの底版部の背端面どうし、長さ方向に連結されたL型擁壁用ブロックとL型擁壁用ブロックとの近接面、L型擁壁用ブロックと端パネルとの接合面、L型擁壁用ブロックと蓋パネルとの近接面、端パネルと蓋パネルとの近接面)の間にできる空隙は、全て、部材の内面から外面まで一直線とならないように、部材の内面から外面までの途中で曲がっていることが好ましい。下水汚泥の放射性物質から放射される放射線は、直進する性質があり、該空隙が内面から外面まで一直線となっていると、該空隙を通って外部に漏出するおそれがあるが、該空隙が内面から外面まで一直線とならないようになっていると、必ずコンクリート部分を通過して減衰するからである。
【0014】
遮水シートとしては、特に限定されないが、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル等の樹脂よりなるシート、ポリエチレン系エラストマー等のエラストマーよりなるシートを例示できる。また、遮水シートとして、防水性能及び吸着性能を持つ粘土鉱物(ベントナイト)をシート状に形成したものを用いることもできる。
【0015】
L型擁壁用ブロック及び端パネルの内壁に、表面に熱溶着材を備えたシート固定具を取り付け、遮水シートを、該熱溶着材に溶着固定して敷設することが好ましい。遮水シートのずれや剥離が防止されるからである。
【0016】
本発明の下水汚泥仮置き施設で保管する放射性物質を含む汚水汚泥の状態は、特に限定されず、脱水した下水汚泥、焼却した下水汚泥の焼却灰、焼却した下水汚泥の溶融スラグのいずれでもよい。また、汚水汚泥は、裸の状態でもよいが、移設の容易性の点からは、容器に入れられたものであることが好ましい。下水汚泥を入れる容器としては、特に限定されないが、袋(トンバッグ、土嚢袋等)、箱(木箱、樹脂箱、プレキャストコンクリート製ボックス等)を例示できる。
【0017】
L型擁壁用ブロックを設置する設置面は、保管現場の地面(該地面に現場打ちした基礎コンクリートの上面を含む。)でもよいし、地面下にL型擁壁用ブロックを収納できるように、地面に掘った凹所の底面でもよい。後者の場合、下水汚泥仮置き施設の上方を現場の地面の一部として利用することができる。
【0018】
上記(2)の手段において、第2ステップでは、前記内部空間のうちの前記連結方向の一端から他端に向けての一部空間の上方をテントで覆った状態で、該一部空間に容器に入れられた下水汚泥を搬入し、第3ステップでは、前記一部空間の上方から前記連結方向の他端に向けてテントを移動させ、前記上面開口のうちの前記一部空間の上方の一部開口に遮水シートを敷設してから、該一部開口をプレキャストコンクリート製の蓋パネルで塞ぎ、この第2ステップと第3ステップとを交互に順次行うことができる。これにより、搬入した下水汚泥に雨がかからないようにでき、もって雨水による汚染物質の流出を防ぐことができる。
【0019】
前記内部空間に、容器に入れられた放射性物質を含む下水汚泥を搬入する際に、内部空間のうちの下部であって且つ2列のL型擁壁用ブロックの縦壁部間の中央寄りに、容器に入れられた放射性物質を含む下水汚泥を配置し、この放射性物質を含む下水汚泥を取り囲むように、内部空間のうちの上部及びL型擁壁用ブロックの縦壁部寄りに、容器に入れた放射性物質を含まない土を配置することができる。この配置により、高濃度の放射性物質を含む下水汚泥であっても、それを取り囲む土によって放射線を遮蔽することができので、L型擁壁用ブロックによる遮蔽と相俟って、より高い放射線減衰性能を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、放射性物質を含む下水汚泥を、その放射線を遮蔽して安全に仮置きすることができ、また必要に応じて長期に保管することもできる。また、必要な容量の施設を短工期で構築することができる。さらに、下水汚泥の最終処理方法や搬出先が決まった段階での移設を容易に行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例において溝を掘削した仮置き現場の地面を示す斜視図である。
【図2】同実施例においてL型擁壁用ブロック及び一方の端パネルの設置ステップを示す斜視図である。
【図3】同実施例においてL型擁壁用ブロックの設置完了を示す斜視図である。
【図4】同実施例において遮水シートを敷設するステップを示し、(a)は同遮水シートの溶着固定の仕方を示す斜視図、(b)は同じく断面図である。
【図5】同実施例においてL型擁壁用ブロックの内部に汚水汚泥を搬入する途中を示す斜視図である。
【図6】同実施例においてL型擁壁用ブロックの内部に汚水汚泥を搬入し終えた状態を示す斜視図である。
【図7】同実施例において、(a)は汚水汚泥の配置例を示す正面図、(b)(c)は接合部の断面図である。
【図8】同実施例において他方の端パネルの設置ステップを示す斜視図である。
【図9】同実施例において完成した下水汚泥仮置き施設を示す斜視図である。
【図10】別実施例の下水汚泥仮置き施設と汚水汚泥の配置例とを示す正面図である。
【図11】別実施例で配置した下水汚泥入りのプレキャストコンクリート製のボックスを示す、(a)一部破断した斜視図、(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
放射性物質を含む下水汚泥の仮置き施設は、背面同士を対向させて全体で仰向けコ字状をなすように2列に設置面に設置されて長さ方向に連結されたプレキャストコンクリート製のL型擁壁用ブロックと、2列のL型擁壁用ブロックの連結方向の両端に生じた端面開口を塞ぐプレキャストコンクリート製の端パネルと、2列のL型擁壁用ブロックの上端間に生じた上面開口を塞ぐプレキャストコンクリート製の蓋パネルと、L型擁壁用ブロック、端パネル及び蓋パネルの内面に沿って敷設された遮水シートとからなる。
【0023】
放射性物質を含む下水汚泥仮置き施設の構築方法は、プレキャストコンクリート製のL型擁壁用ブロックをその背面同士を対向させて全体で仰向けコ字状をなすように2列に設置面に設置して長さ方向に連結するとともに、2列のL型擁壁用ブロックの連結方向の一端に生じた端面開口をプレキャストコンクリート製の端パネルで塞ぎ、L型擁壁用ブロック及び端パネルの内面に沿って遮水シートを敷設する第1ステップと、
2列のL型擁壁用ブロックの間に生じた内部空間に、容器に入れられた放射性物質を含む下水汚泥を搬入する第2ステップと、
2列のL型擁壁用ブロックの上端間に生じた上面開口に遮水シートを敷設してから、該上面開口をプレキャストコンクリート製の蓋パネルで塞ぐ第3ステップと、
2列のL型擁壁用ブロックの連結方向の他端に生じた端面開口に遮水シートを敷設してから、該端面開口をプレキャストコンクリート製の端パネルで塞ぐ第4ステップと
を含むことを特徴とする。
【実施例】
【0024】
本発明を具体化した下水汚泥仮置き施設及びその構築方法の実施例を、図1〜図9を参照して説明する。
【0025】
本実施例の下水汚泥仮置き施設は、背面同士を対向させて全体で仰向けコ字状をなすように2列に設置面に設置されて長さ方向に連結されたプレキャストコンクリート製のL型擁壁用ブロック1,2と、2列のL型擁壁用ブロック1,2の連結方向の両端に生じた端面開口を塞ぐプレキャストコンクリート製の端パネル3,4と、2列のL型擁壁用ブロック1,2の上端間に生じた上面開口を塞ぐプレキャストコンクリート製の蓋パネル5と、L型擁壁用ブロック1,2、端パネル3,4及び蓋パネル5の内面に沿って敷設された遮水シート7とからなる。
【0026】
本実施例に用いるプレキャストコンクリート製のL型擁壁用ブロック1,2は、図2等に示すように、水平の底版部1a,2aと垂直の縦壁部1b,2bとからなる。底版部1a,2aと縦壁部1b,2bには補強鉄筋(図示略)が埋設されている。L型擁壁用ブロック1の寸法を例示すると、高さ5m、前後長3.25m、連結方向の長さ1m、底版部1a,2aの厚さは前端側の35cmから漸減して背端側で16cm、縦壁部1b,2bの厚さは下端側の35cmから漸減して上端側で12cmである。よって、L型擁壁用ブロック1,2の最小厚さは12cmであり、その箇所で放射線量を75%程度減衰させることができる。
【0027】
本実施例では、2列のL型擁壁用ブロック1,2の底版部1a,2aは、背端面どうしが突き合わされている。
【0028】
本実施例に用いる端パネル3,4は、図2、図8、図9等に示すように、L型擁壁用ブロック1,2の両端の開口を塞ぐことができる大きさの矩形状を上下に複数に分割(例えば5分割)した横倒し短冊形状をなすものであり、厚さはL型擁壁用ブロック1,2の最小厚さと同一(12cm)である。この端パネル3,4を、端のL型擁壁用ブロック1,2に連結しつつ、下から上に積むことにより、開口を塞いでいる。
【0029】
本実施例に用いる蓋パネル5は、図5、図7、図8等に示すように、L型擁壁用ブロック1,2の幅と同じ横長と上面開口を塞ぎうるわたし長をもつ短冊形状をなすものであり、厚さはL型擁壁用ブロック1,2の最小厚さと同一(12cm)である。
【0030】
図7(b)(c)に示すように、前記プレキャストコンクリート製の各部材の接合にあたって互いに近接した近接面F(具体的には、2列のL型擁壁用ブロック1,2の底版部1a,2aの背端面どうし、長さ方向に連結されたL型擁壁用ブロック1,2とL型擁壁用ブロック1,2との近接面、L型擁壁用ブロック1,2と端パネル3,4との近接面、L型擁壁用ブロック1,2と蓋パネル5との近接面、端パネル3,4と蓋パネル5との近接面)の間にできる空隙Gは、全て、部材の内面から外面まで一直線とならないように、部材の内面から外面までの途中で、例えば凹凸の嵌め合いにより曲がっている。これにより、前記のとおり、放射線Rが空隙Gにかかっても必ずコンクリート部分Cを通過して減衰するようなっている。
【0031】
本実施例の遮水シート7は、図3、図4等に示すように、シート固定具10を用いて張られている。すなわち、L型擁壁用ブロック1,2の内面の要所に埋設された、例えば雌ネジよりなるアンカー13には、金属円盤11とその表面に付着された熱溶着材12とを備えたシート固定具10が、例えばボルト14により固定されている。シート固定具10としては、例えばアーキヤマデ社製の商品名「IHディスク」を用いることができる。そして、遮水シート7は、熱溶着材12に溶着固定されている。
【0032】
本実施例の下水汚泥仮置き施設は、次のステップからなる方法で構築される。
【0033】
(1)図1に示すように、保管現場の地面20を浅く掘削して基礎コンクリート21を現場打ちし、後で設置するL型擁壁用ブロック1,2のすぐ外側にあたる基礎コンクリート21上に2列のレール22を敷く。
【0034】
(2)図2に示すように、設置面である基礎コンクリート21上に、L型擁壁用ブロック1,2をその背面同士を対向させて全体で仰向けコ字状をなすように2列に設置して、底版部1a,2aの背端面どうしを突き合わせ、公知の連結具(図示略)で連結する。さらに、L型擁壁用ブロック1,2を設置してゆき、公知の連結具(図示略)で長さ方向に連結(接合)する。
2列のL型擁壁用ブロック1,2の連結方向の一端に生じた端面開口を端パネル3で塞ぐ。
【0035】
(3)図3及び図4に示すように、遮水シート7を、遮水シート7を介して高周波電磁誘導加熱器15を所定時間押し当てて行う電磁誘導加熱により溶融させたシート固定具10の熱溶着材12に溶着固定して、L型擁壁用ブロック1及び端パネル3の内面に沿って敷設する。遮水シート7同士は重ね合わせ部分を溶着して水密に敷設する。
【0036】
(4)レール22にテント23の車輪(図示略)を載せ、テント23を前記連結方向に移動可能にする。
図3に示すように、2列のL型擁壁用ブロック1,2の間に生じた内部空間のうちの前記連結方向の一端から他端に向けての一部空間の上方をテント23で覆った状態で、該一部空間にトンバッグ等の容器に入れられた下水汚泥25をフォークリフト等の運搬機器28を用いて搬入し、並べるとともに積み上げる。
図5に示すように、前記一部空間の上方から前連結方向の他端に向けてテント23を移動させ、2列のL型擁壁用ブロック1,2の上端間に生じた上面開口のうちの前記一部空間の上方の一部開口に遮水シート7を敷設してから、該一部開口をプレキャストコンクリート製の蓋パネル5で塞ぐ。
この図3のステップと図5のステップとを交互に順次行うことにより、図6に示すように、内部空間のうちの前記連結方向の他端にまで下水汚泥25を搬入することができる。この手順により、搬入した下水汚泥25に雨がかからないようにでき、もって雨水による汚染物質の流出を防ぐことができる。
【0037】
(5)図7に示すように、レール22及びテント23を撤去し、図8及び図9に示すように、L型擁壁用ブロック1,2の他端に生じた端面開口に遮水シート7を敷設するとともに該端面を端パネル4で塞ぐ。
【0038】
以上説明した本実施例によれば、次の作用効果が得られる。
(a)L型擁壁用ブロック1,2、端パネル3,4及び蓋パネル5を用い、現場打ちは基礎コンクリート21だけで済むため、設備や手間がかからず、短工期での施工が可能であり、コストが低い。
(b)高さの大きいL型擁壁用ブロック1,2を用いることにより、内部容量を十分に確保することができる。
(c)L型擁壁用ブロック1,2、端パネル3,4及び蓋パネル5により、前述のとおり厚さに応じた減衰性能で放射線量を減衰させることができるため、放射性物質を含む下水汚泥を、その放射線を遮蔽して安全に保管することができる。前述のとおり接合にあたって近接する箇所においても、空隙が曲がっているため、放射線を確実に遮蔽することができる。また、L型擁壁用ブロック1,2、端パネル3,4及び蓋パネル5は堅牢であるため、必要に応じて放射性物質を含む下水汚泥を長期に保管することもできる。
(d)遮水シート7により、外部環境と水密に隔てることができ、汚水の漏出を防止できる。
(e)L型擁壁用ブロック1,2、端パネル3,4及び蓋パネル5が遮水シート7を保護するため、地震等があっても遮水シート7に亀裂が入りにくく、遮水性が維持される。
(f)遮水シート7が、シート固定具10の熱溶着材12に溶着固定されるので、地震等があっても遮水シート7のずれや剥離が起こらず、信頼性が高い。
(g)下水汚泥の最終処理方法や搬出先が決まった段階での、移設を容易に行うこともできる。
【0039】
なお、本発明は前記実施例の構成に限定されず、例えば以下のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
(1)図10に示すように、2列のL型擁壁用ブロック1,2の底版部1a,2aの背端面同士を離間させ、この離間箇所に現場打ちコンクリートで底版9を形成すること。
【0040】
(2)図10に示すように、前記内部空間に、トンバッグ等の容器に入れられた下水汚泥25を搬入する際に、内部空間のうちの下部であって且つ2列のL型擁壁用ブロック1,2の縦壁部間の中央寄りに、放射性物質を含む下水汚泥25を配置し、この放射性物質を含む下水汚泥25を取り囲むように、内部空間のうちの上部及びL型擁壁用ブロックの縦壁部寄りに、袋に入れた放射性物質を含まない土26を配置することができる。さらに、図10及び図11に示すように、内部空間のうちの下部であって且つ2列のL型擁壁用ブロック1,2の縦壁部間の中央に、プレキャストコンクリート製のボックス30に入れられた高濃度の放射性物質を含む下水汚泥27を配置し、この下水汚泥27を取り囲むように、前記下水汚泥25を配置することもできる。これらの配置の仕方により、前述したとおり、より高い放射線減衰性能を得ることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 L型擁壁用ブロック
1a 底版部
1b 縦壁部
2 L型擁壁用ブロック
2a 底版部
2b 縦壁部
3 端パネル
4 端パネル
5 蓋パネル
7 遮水シート
9 底版
10 シート固定具
20 地面
21 基礎コンクリート
22 レール
23 テント
24 地面材
25 下水汚泥
26 放射性物質を含まない土
27 下水汚泥
30 ボックス
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質を含む下水汚泥の仮置き施設に関するものである。
【背景技術】
【0002】
平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震及びそれに伴う津波により、福島第1原子力発電所の原子力発電設備が損傷し、その後に起きた同設備の水素爆発等により、放射性物質が建家外に放出されて各地に飛散した。以来、雨水の流れ込む各地の下水処理施設の汚泥から、相次いで放射性物質が検出されている。
【0003】
一般に、下水汚泥は、焼却灰を廃棄したり、高温での焼却で生じた溶融スラグをコンクリート骨材として利用したり(特許文献1)、乾燥させた有機物をコンポストや燃料として利用したり(特許文献2,3)して処理されている。しかし、放射性物質を含む下水汚泥は、健康被害の問題があるため、上記のような一般的な処理は困難である。そのため、現状では、放射性物質を含む下水汚泥の処理方法が明確になっておらず、シート養生等の簡易な養生方法のみで一時的に保管されている。しかし、シート養生等では放射線の遮蔽効果をほとんど見込めず、保管時のみならず運搬作業時にも注意が必要である。
【0004】
平成23年6月16日に原子力災害対策本部が公表した「上下水処理等副次産物(註)の当面の取り扱いに関する考え方」(註:脱水汚泥及び脱水汚泥を焼却、溶融等したものや、それを再利用して生産するもの)では、次のような考え方が示されたが、まだ、引き続き検討しなければならない事項が多い。
・放射性セシウム濃度が10万Bq/kgを超える汚泥等は、県内の適切に放射線を遮蔽できる施設に保管する。具体的な処分の在り方について、引き続き検討する。
・放射性セシウム濃度が8千Bq/kg超〜10万Bq/kg以下の汚泥等は、住宅地等と適切な距離を保った上で、管理型処分場に仮置きができる。個別の安全性評価及び長期的な管理の方法の検討の後、埋立処分できる。
・放射性セシウム濃度が8千Bq/kg以下の汚泥等は、住宅地等と適切な距離を保った上で、管理型処分場に仮置きができる。跡地を居住等に利用しない前提で、埋立処分できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−279084号公報
【特許文献2】特開平5−155678号公報
【特許文献3】特開平9−248600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
放射線を遮蔽できるように下水汚泥を保管する方法としては、土中への埋設が考えられる。しかし、この方法では、埋設深さの管理が難しいとか、長期の保管に不安があるとかという問題がある。また、下水汚泥の最終処理方法や搬出先が決まった段階で移設させる際に、掘り起こしが必要なため、手間がかかるという問題もある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、放射性物質を含む下水汚泥を、その放射線を遮蔽して安全に仮置きすることができ、また必要に応じて長期に保管することもできる施設を提供することにある。また、必要な容量の施設を短工期で構築できるようにすることにある。さらに、下水汚泥の最終処理方法や搬出先が決まった段階での移設を容易に行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る放射性物質を含む下水汚泥の仮置き施設は、背面同士を対向させて全体で仰向けコ字状をなすように2列に設置面に設置されて長さ方向に連結(接合)されたプレキャストコンクリート製のL型擁壁用ブロックと、2列のL型擁壁用ブロックの連結方向の両端に生じた端面開口を塞ぐプレキャストコンクリート製の端パネルと、2列のL型擁壁用ブロックの上端間に生じた上面開口を塞ぐプレキャストコンクリート製の蓋パネルと、L型擁壁用ブロック、端パネル及び蓋パネルの内面に沿って敷設された遮水シートとからなることを特徴とする。
【0009】
(2)本発明に係る放射性物質を含む下水汚泥の仮置き施設の構築方法は、プレキャストコンクリート製のL型擁壁用ブロックをその背面同士を対向させて全体で仰向けコ字状をなすように2列に設置面に設置して長さ方向に連結するとともに、2列のL型擁壁用ブロックの連結方向の一端に生じた端面開口をプレキャストコンクリート製の端パネルで塞ぎ、L型擁壁用ブロック及び端パネルの内面に沿って遮水シートを敷設する第1ステップと、
2列のL型擁壁用ブロックの間に生じた内部空間に、容器に入れられた放射性物質を含む下水汚泥を搬入する第2ステップと、
2列のL型擁壁用ブロックの上端間に生じた上面開口に遮水シートを敷設してから、該上面開口をプレキャストコンクリート製の蓋パネルで塞ぐ第3ステップと、
2列のL型擁壁用ブロックの連結方向の他端に生じた端面開口に遮水シートを敷設してから、該端面開口をプレキャストコンクリート製の端パネルで塞ぐ第4ステップと
を含むことを特徴とする。
【0010】
上記の各手段において、L型擁壁用ブロックの寸法は、仮置き量、移動・運搬設備等により、適宜選択することができる。但し、仮置き目的からして高さの大きいものが好ましく、具体的には高さ3〜5mのものが好ましい。
【0011】
2列のL型擁壁用ブロックの底版部は、背端面どうしが突き合わされてもよいし、離間されてもよい。この離間距離を変えることにより、2列のL型擁壁用ブロックの縦壁部の背面同士の間隔を自在に設定することができる。この離間箇所を埋めるには、次の3通りのいずれも可能である。
(1)現場打ちコンクリートで底版を形成する。コンクリートの打設及び養生に時間を要するが、放射線遮蔽の点で好ましい。
(2)プレキャストコンクリート製の底版部材を連結する。間隔の変更には対応しにくいが、迅速に施工できる点と放射線遮蔽の点で好ましい。
(3)現場の地面材(土石)とする。放射線遮蔽の点では劣るが、迅速に施工できる点とコスト削減の点で好ましい。
【0012】
また、L型擁壁用ブロック、端パネル及び蓋パネルのコンクリート厚さ(以下、単に「部材厚」)は、放射線量の減衰性能と現実の移動運搬設備で移動運搬するのに適したブロック重量とのバランスからすると、10〜50cmとすることが好ましい。10cm未満では放射線量の減衰性能が低くなり、50cmを超えると放射線量の減衰性能はそれ以上あまり高くならないのに重くなる。例えば、厚さ12cmの場合には放射線量を75%程度減衰させることができ、厚さ15cmの場合には放射線量を80%程度減衰させることができ、厚さ20cmの場合には放射線量を90%程度減衰させることができ、厚さ40cmの場合には放射線量を99%程度減衰させることができる。
【0013】
前記プレキャストコンクリート製の各部材の接合にあたって互いに近接(当接を含む。部材精度の限界上、当接であっても空隙はできる。以下同じ。)した近接面(例えば、2列のL型擁壁用ブロックの底版部の背端面どうし、長さ方向に連結されたL型擁壁用ブロックとL型擁壁用ブロックとの近接面、L型擁壁用ブロックと端パネルとの接合面、L型擁壁用ブロックと蓋パネルとの近接面、端パネルと蓋パネルとの近接面)の間にできる空隙は、全て、部材の内面から外面まで一直線とならないように、部材の内面から外面までの途中で曲がっていることが好ましい。下水汚泥の放射性物質から放射される放射線は、直進する性質があり、該空隙が内面から外面まで一直線となっていると、該空隙を通って外部に漏出するおそれがあるが、該空隙が内面から外面まで一直線とならないようになっていると、必ずコンクリート部分を通過して減衰するからである。
【0014】
遮水シートとしては、特に限定されないが、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル等の樹脂よりなるシート、ポリエチレン系エラストマー等のエラストマーよりなるシートを例示できる。また、遮水シートとして、防水性能及び吸着性能を持つ粘土鉱物(ベントナイト)をシート状に形成したものを用いることもできる。
【0015】
L型擁壁用ブロック及び端パネルの内壁に、表面に熱溶着材を備えたシート固定具を取り付け、遮水シートを、該熱溶着材に溶着固定して敷設することが好ましい。遮水シートのずれや剥離が防止されるからである。
【0016】
本発明の下水汚泥仮置き施設で保管する放射性物質を含む汚水汚泥の状態は、特に限定されず、脱水した下水汚泥、焼却した下水汚泥の焼却灰、焼却した下水汚泥の溶融スラグのいずれでもよい。また、汚水汚泥は、裸の状態でもよいが、移設の容易性の点からは、容器に入れられたものであることが好ましい。下水汚泥を入れる容器としては、特に限定されないが、袋(トンバッグ、土嚢袋等)、箱(木箱、樹脂箱、プレキャストコンクリート製ボックス等)を例示できる。
【0017】
L型擁壁用ブロックを設置する設置面は、保管現場の地面(該地面に現場打ちした基礎コンクリートの上面を含む。)でもよいし、地面下にL型擁壁用ブロックを収納できるように、地面に掘った凹所の底面でもよい。後者の場合、下水汚泥仮置き施設の上方を現場の地面の一部として利用することができる。
【0018】
上記(2)の手段において、第2ステップでは、前記内部空間のうちの前記連結方向の一端から他端に向けての一部空間の上方をテントで覆った状態で、該一部空間に容器に入れられた下水汚泥を搬入し、第3ステップでは、前記一部空間の上方から前記連結方向の他端に向けてテントを移動させ、前記上面開口のうちの前記一部空間の上方の一部開口に遮水シートを敷設してから、該一部開口をプレキャストコンクリート製の蓋パネルで塞ぎ、この第2ステップと第3ステップとを交互に順次行うことができる。これにより、搬入した下水汚泥に雨がかからないようにでき、もって雨水による汚染物質の流出を防ぐことができる。
【0019】
前記内部空間に、容器に入れられた放射性物質を含む下水汚泥を搬入する際に、内部空間のうちの下部であって且つ2列のL型擁壁用ブロックの縦壁部間の中央寄りに、容器に入れられた放射性物質を含む下水汚泥を配置し、この放射性物質を含む下水汚泥を取り囲むように、内部空間のうちの上部及びL型擁壁用ブロックの縦壁部寄りに、容器に入れた放射性物質を含まない土を配置することができる。この配置により、高濃度の放射性物質を含む下水汚泥であっても、それを取り囲む土によって放射線を遮蔽することができので、L型擁壁用ブロックによる遮蔽と相俟って、より高い放射線減衰性能を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、放射性物質を含む下水汚泥を、その放射線を遮蔽して安全に仮置きすることができ、また必要に応じて長期に保管することもできる。また、必要な容量の施設を短工期で構築することができる。さらに、下水汚泥の最終処理方法や搬出先が決まった段階での移設を容易に行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例において溝を掘削した仮置き現場の地面を示す斜視図である。
【図2】同実施例においてL型擁壁用ブロック及び一方の端パネルの設置ステップを示す斜視図である。
【図3】同実施例においてL型擁壁用ブロックの設置完了を示す斜視図である。
【図4】同実施例において遮水シートを敷設するステップを示し、(a)は同遮水シートの溶着固定の仕方を示す斜視図、(b)は同じく断面図である。
【図5】同実施例においてL型擁壁用ブロックの内部に汚水汚泥を搬入する途中を示す斜視図である。
【図6】同実施例においてL型擁壁用ブロックの内部に汚水汚泥を搬入し終えた状態を示す斜視図である。
【図7】同実施例において、(a)は汚水汚泥の配置例を示す正面図、(b)(c)は接合部の断面図である。
【図8】同実施例において他方の端パネルの設置ステップを示す斜視図である。
【図9】同実施例において完成した下水汚泥仮置き施設を示す斜視図である。
【図10】別実施例の下水汚泥仮置き施設と汚水汚泥の配置例とを示す正面図である。
【図11】別実施例で配置した下水汚泥入りのプレキャストコンクリート製のボックスを示す、(a)一部破断した斜視図、(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
放射性物質を含む下水汚泥の仮置き施設は、背面同士を対向させて全体で仰向けコ字状をなすように2列に設置面に設置されて長さ方向に連結されたプレキャストコンクリート製のL型擁壁用ブロックと、2列のL型擁壁用ブロックの連結方向の両端に生じた端面開口を塞ぐプレキャストコンクリート製の端パネルと、2列のL型擁壁用ブロックの上端間に生じた上面開口を塞ぐプレキャストコンクリート製の蓋パネルと、L型擁壁用ブロック、端パネル及び蓋パネルの内面に沿って敷設された遮水シートとからなる。
【0023】
放射性物質を含む下水汚泥仮置き施設の構築方法は、プレキャストコンクリート製のL型擁壁用ブロックをその背面同士を対向させて全体で仰向けコ字状をなすように2列に設置面に設置して長さ方向に連結するとともに、2列のL型擁壁用ブロックの連結方向の一端に生じた端面開口をプレキャストコンクリート製の端パネルで塞ぎ、L型擁壁用ブロック及び端パネルの内面に沿って遮水シートを敷設する第1ステップと、
2列のL型擁壁用ブロックの間に生じた内部空間に、容器に入れられた放射性物質を含む下水汚泥を搬入する第2ステップと、
2列のL型擁壁用ブロックの上端間に生じた上面開口に遮水シートを敷設してから、該上面開口をプレキャストコンクリート製の蓋パネルで塞ぐ第3ステップと、
2列のL型擁壁用ブロックの連結方向の他端に生じた端面開口に遮水シートを敷設してから、該端面開口をプレキャストコンクリート製の端パネルで塞ぐ第4ステップと
を含むことを特徴とする。
【実施例】
【0024】
本発明を具体化した下水汚泥仮置き施設及びその構築方法の実施例を、図1〜図9を参照して説明する。
【0025】
本実施例の下水汚泥仮置き施設は、背面同士を対向させて全体で仰向けコ字状をなすように2列に設置面に設置されて長さ方向に連結されたプレキャストコンクリート製のL型擁壁用ブロック1,2と、2列のL型擁壁用ブロック1,2の連結方向の両端に生じた端面開口を塞ぐプレキャストコンクリート製の端パネル3,4と、2列のL型擁壁用ブロック1,2の上端間に生じた上面開口を塞ぐプレキャストコンクリート製の蓋パネル5と、L型擁壁用ブロック1,2、端パネル3,4及び蓋パネル5の内面に沿って敷設された遮水シート7とからなる。
【0026】
本実施例に用いるプレキャストコンクリート製のL型擁壁用ブロック1,2は、図2等に示すように、水平の底版部1a,2aと垂直の縦壁部1b,2bとからなる。底版部1a,2aと縦壁部1b,2bには補強鉄筋(図示略)が埋設されている。L型擁壁用ブロック1の寸法を例示すると、高さ5m、前後長3.25m、連結方向の長さ1m、底版部1a,2aの厚さは前端側の35cmから漸減して背端側で16cm、縦壁部1b,2bの厚さは下端側の35cmから漸減して上端側で12cmである。よって、L型擁壁用ブロック1,2の最小厚さは12cmであり、その箇所で放射線量を75%程度減衰させることができる。
【0027】
本実施例では、2列のL型擁壁用ブロック1,2の底版部1a,2aは、背端面どうしが突き合わされている。
【0028】
本実施例に用いる端パネル3,4は、図2、図8、図9等に示すように、L型擁壁用ブロック1,2の両端の開口を塞ぐことができる大きさの矩形状を上下に複数に分割(例えば5分割)した横倒し短冊形状をなすものであり、厚さはL型擁壁用ブロック1,2の最小厚さと同一(12cm)である。この端パネル3,4を、端のL型擁壁用ブロック1,2に連結しつつ、下から上に積むことにより、開口を塞いでいる。
【0029】
本実施例に用いる蓋パネル5は、図5、図7、図8等に示すように、L型擁壁用ブロック1,2の幅と同じ横長と上面開口を塞ぎうるわたし長をもつ短冊形状をなすものであり、厚さはL型擁壁用ブロック1,2の最小厚さと同一(12cm)である。
【0030】
図7(b)(c)に示すように、前記プレキャストコンクリート製の各部材の接合にあたって互いに近接した近接面F(具体的には、2列のL型擁壁用ブロック1,2の底版部1a,2aの背端面どうし、長さ方向に連結されたL型擁壁用ブロック1,2とL型擁壁用ブロック1,2との近接面、L型擁壁用ブロック1,2と端パネル3,4との近接面、L型擁壁用ブロック1,2と蓋パネル5との近接面、端パネル3,4と蓋パネル5との近接面)の間にできる空隙Gは、全て、部材の内面から外面まで一直線とならないように、部材の内面から外面までの途中で、例えば凹凸の嵌め合いにより曲がっている。これにより、前記のとおり、放射線Rが空隙Gにかかっても必ずコンクリート部分Cを通過して減衰するようなっている。
【0031】
本実施例の遮水シート7は、図3、図4等に示すように、シート固定具10を用いて張られている。すなわち、L型擁壁用ブロック1,2の内面の要所に埋設された、例えば雌ネジよりなるアンカー13には、金属円盤11とその表面に付着された熱溶着材12とを備えたシート固定具10が、例えばボルト14により固定されている。シート固定具10としては、例えばアーキヤマデ社製の商品名「IHディスク」を用いることができる。そして、遮水シート7は、熱溶着材12に溶着固定されている。
【0032】
本実施例の下水汚泥仮置き施設は、次のステップからなる方法で構築される。
【0033】
(1)図1に示すように、保管現場の地面20を浅く掘削して基礎コンクリート21を現場打ちし、後で設置するL型擁壁用ブロック1,2のすぐ外側にあたる基礎コンクリート21上に2列のレール22を敷く。
【0034】
(2)図2に示すように、設置面である基礎コンクリート21上に、L型擁壁用ブロック1,2をその背面同士を対向させて全体で仰向けコ字状をなすように2列に設置して、底版部1a,2aの背端面どうしを突き合わせ、公知の連結具(図示略)で連結する。さらに、L型擁壁用ブロック1,2を設置してゆき、公知の連結具(図示略)で長さ方向に連結(接合)する。
2列のL型擁壁用ブロック1,2の連結方向の一端に生じた端面開口を端パネル3で塞ぐ。
【0035】
(3)図3及び図4に示すように、遮水シート7を、遮水シート7を介して高周波電磁誘導加熱器15を所定時間押し当てて行う電磁誘導加熱により溶融させたシート固定具10の熱溶着材12に溶着固定して、L型擁壁用ブロック1及び端パネル3の内面に沿って敷設する。遮水シート7同士は重ね合わせ部分を溶着して水密に敷設する。
【0036】
(4)レール22にテント23の車輪(図示略)を載せ、テント23を前記連結方向に移動可能にする。
図3に示すように、2列のL型擁壁用ブロック1,2の間に生じた内部空間のうちの前記連結方向の一端から他端に向けての一部空間の上方をテント23で覆った状態で、該一部空間にトンバッグ等の容器に入れられた下水汚泥25をフォークリフト等の運搬機器28を用いて搬入し、並べるとともに積み上げる。
図5に示すように、前記一部空間の上方から前連結方向の他端に向けてテント23を移動させ、2列のL型擁壁用ブロック1,2の上端間に生じた上面開口のうちの前記一部空間の上方の一部開口に遮水シート7を敷設してから、該一部開口をプレキャストコンクリート製の蓋パネル5で塞ぐ。
この図3のステップと図5のステップとを交互に順次行うことにより、図6に示すように、内部空間のうちの前記連結方向の他端にまで下水汚泥25を搬入することができる。この手順により、搬入した下水汚泥25に雨がかからないようにでき、もって雨水による汚染物質の流出を防ぐことができる。
【0037】
(5)図7に示すように、レール22及びテント23を撤去し、図8及び図9に示すように、L型擁壁用ブロック1,2の他端に生じた端面開口に遮水シート7を敷設するとともに該端面を端パネル4で塞ぐ。
【0038】
以上説明した本実施例によれば、次の作用効果が得られる。
(a)L型擁壁用ブロック1,2、端パネル3,4及び蓋パネル5を用い、現場打ちは基礎コンクリート21だけで済むため、設備や手間がかからず、短工期での施工が可能であり、コストが低い。
(b)高さの大きいL型擁壁用ブロック1,2を用いることにより、内部容量を十分に確保することができる。
(c)L型擁壁用ブロック1,2、端パネル3,4及び蓋パネル5により、前述のとおり厚さに応じた減衰性能で放射線量を減衰させることができるため、放射性物質を含む下水汚泥を、その放射線を遮蔽して安全に保管することができる。前述のとおり接合にあたって近接する箇所においても、空隙が曲がっているため、放射線を確実に遮蔽することができる。また、L型擁壁用ブロック1,2、端パネル3,4及び蓋パネル5は堅牢であるため、必要に応じて放射性物質を含む下水汚泥を長期に保管することもできる。
(d)遮水シート7により、外部環境と水密に隔てることができ、汚水の漏出を防止できる。
(e)L型擁壁用ブロック1,2、端パネル3,4及び蓋パネル5が遮水シート7を保護するため、地震等があっても遮水シート7に亀裂が入りにくく、遮水性が維持される。
(f)遮水シート7が、シート固定具10の熱溶着材12に溶着固定されるので、地震等があっても遮水シート7のずれや剥離が起こらず、信頼性が高い。
(g)下水汚泥の最終処理方法や搬出先が決まった段階での、移設を容易に行うこともできる。
【0039】
なお、本発明は前記実施例の構成に限定されず、例えば以下のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
(1)図10に示すように、2列のL型擁壁用ブロック1,2の底版部1a,2aの背端面同士を離間させ、この離間箇所に現場打ちコンクリートで底版9を形成すること。
【0040】
(2)図10に示すように、前記内部空間に、トンバッグ等の容器に入れられた下水汚泥25を搬入する際に、内部空間のうちの下部であって且つ2列のL型擁壁用ブロック1,2の縦壁部間の中央寄りに、放射性物質を含む下水汚泥25を配置し、この放射性物質を含む下水汚泥25を取り囲むように、内部空間のうちの上部及びL型擁壁用ブロックの縦壁部寄りに、袋に入れた放射性物質を含まない土26を配置することができる。さらに、図10及び図11に示すように、内部空間のうちの下部であって且つ2列のL型擁壁用ブロック1,2の縦壁部間の中央に、プレキャストコンクリート製のボックス30に入れられた高濃度の放射性物質を含む下水汚泥27を配置し、この下水汚泥27を取り囲むように、前記下水汚泥25を配置することもできる。これらの配置の仕方により、前述したとおり、より高い放射線減衰性能を得ることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 L型擁壁用ブロック
1a 底版部
1b 縦壁部
2 L型擁壁用ブロック
2a 底版部
2b 縦壁部
3 端パネル
4 端パネル
5 蓋パネル
7 遮水シート
9 底版
10 シート固定具
20 地面
21 基礎コンクリート
22 レール
23 テント
24 地面材
25 下水汚泥
26 放射性物質を含まない土
27 下水汚泥
30 ボックス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
背面同士を対向させて全体で仰向けコ字状をなすように2列に設置面に設置されて長さ方向に連結されたプレキャストコンクリート製のL型擁壁用ブロックと、2列のL型擁壁用ブロックの連結方向の両端に生じた端面開口を塞ぐプレキャストコンクリート製の端パネルと、2列のL型擁壁用ブロックの上端間に生じた上面開口を塞ぐプレキャストコンクリート製の蓋パネルと、L型擁壁用ブロック、端パネル及び蓋パネルの内面に沿って敷設された遮水シートとからなる放射性物質を含む下水汚泥の仮置き施設。
【請求項1】
背面同士を対向させて全体で仰向けコ字状をなすように2列に設置面に設置されて長さ方向に連結されたプレキャストコンクリート製のL型擁壁用ブロックと、2列のL型擁壁用ブロックの連結方向の両端に生じた端面開口を塞ぐプレキャストコンクリート製の端パネルと、2列のL型擁壁用ブロックの上端間に生じた上面開口を塞ぐプレキャストコンクリート製の蓋パネルと、L型擁壁用ブロック、端パネル及び蓋パネルの内面に沿って敷設された遮水シートとからなる放射性物質を含む下水汚泥の仮置き施設。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−57557(P2013−57557A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195097(P2011−195097)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000186898)昭和コンクリート工業株式会社 (13)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000186898)昭和コンクリート工業株式会社 (13)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
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