説明

放射性物質を含有する汚染水の浄化方法及び浄化装置

【課題】 本発明は、産業コスト面を含め浄化方法として最適な放射性物質汚染水の浄化設備及び該設備を用いた汚染除去水の提供を目的とする。
【解決手段】 放射性物質を含有する汚染水の浄化方法において、放射性物質の吸着材としてハスクレイを用いる汚染水の浄化方法であり、ハスクレイを用いた汚染水の浄化方法に用いる浄化装置、及び、当該汚染水の浄化方法によって浄化された飲料水、畜産用飲料水、農業用水並びに工業用水である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質に汚染された水より放射性物質を安価に、安全に、容易な処理で、短時間にて除去する浄化方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所等のように放射性物質を扱う施設から、事故等により放射性物質が施設外に漏洩することの可能性は否定できず、現に既に起きた原子力発電所の事故において想定以上の放射性物質量が飛散している。
【0003】
また、今後、新興国を中心に原子力発電所が増加する傾向を考慮すると、確率論で考えられていた原子力発電所の事故率の低さは原子力発電所増加に伴い急激に増大しうる懸念すべき問題である。
【0004】
既に起きた原子力発電所の事故のみならず、今後仮に事故が起きた際に大きな問題となるのは、放射性物質により汚染されうる水、及びその水からの連鎖による、家畜や農作物の汚染の広がりである。
【0005】
その連鎖の頂点にある放射性物質で汚染された水をいかに容易に、手早く、安価に、安全に、処理するかにこれら問題の全ての解決口がある。
【0006】
しかしながら、これを根本的に解決する処理法はいまだない。
【0007】
また別に、放射性物質は純度の高い水を作るのに用いられるRO膜では完全に除去できず、わずかにRO膜に吸着するのみである。この僅かな放射性物質の吸着は安全性とコストの面で大きな問題となる。即ち、吸着結合状態が弱いため水側に再度混入する可能性があるため安全性に難があること、結果、高価なRO膜を頻繁に交換せざる終えなくなり、ランニングコストが係ることにより採算が取りづらくなってしまう。
【0008】
つまり、放射性物質で汚染された水を容易に、手早く、安価に、安全に、処理する方法は、世界レベルで原子力発電所が増加していく中、今後のグローバル経済発展のためのリスク回避であり、安心につながるものである。
【0009】
放射性物質に汚染された水処理に用いる浄化剤として各種化合物が知られている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平4−34049700号公報
【特許文献2】特開平5−34497号公報
【特許文献3】特開2005−91116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1では、ゼオライトを用いてセシウムを分離することが記載されている。特許文献2では、アルミノシリケートを主成分とする無機物を用いることが記載されている。特許文献3ではイモゴライトまたはアロフェンなどの非晶質アルミニウムケイ酸塩を用いることが記載されている。
【0012】
しかしながら、これらの技術では、短時間での処理、あるいは、吸着材のケーキフィルター状態での通水処理という点で、十分に放射性物質を吸着・除去することができなかった。
【0013】
そこで、本発明では、放射性物質に汚染された水より放射性物質を安価に、安全に、容易な処理で、短時間にて除去する手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以下の本発明によって解決することができる。
【0015】
即ち、本発明は、放射性物質を含有する汚染水の浄化方法において、放射性物質の吸着材としてハスクレイを用いることを特徴とする汚染水の浄化方法である(本発明1)。
【0016】
また、本発明は、放射性物質を含有する汚染水の浄化方法において、吸着材としてハスクレイを用いて放射性物質を除去した後、RO膜に通水する汚染水の浄化方法である(本発明2)。
【0017】
また、本発明は、本発明1又は2記載の汚染水の浄化方法に用いる浄化装置である(本発明3)。
【0018】
また、本発明は、本発明1又は2記載の汚染水の浄化方法に用いる下水処理装置である(本発明4)。
【0019】
また、本発明は、本発明1又は2記載の汚染水の浄化方法によって浄化された飲料水である(本発明5)。
【0020】
また、本発明は、本発明1又は2記載の汚染水の浄化方法によって浄化された畜産用飲料水である(本発明6)。
【0021】
また、本発明は、本発明1又は2記載の汚染水の浄化方法によって浄化された農業用水である(本発明7)。
【0022】
また、本発明は、本発明1又は2記載の汚染水の浄化方法によって浄化された工業用水である(本発明8)。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る汚染水の浄化方法は、放射性物質に汚染された水から放射性物質を安全、且つ、容易な処理で、しかも、短時間に除去することができるので、放射性物質を含有する汚染水の浄化方法として好適である。
【0024】
本発明に係る汚染水の浄化装置は、放射性物質に汚染された水から放射性物質を安価で、安全に、且つ、容易な処理で、しかも、短時間に除去することができるので、放射性物質を含有する汚染水の浄化装置として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明における放射性物質の吸着材にはハスクレイを用いる。ハスクレイは、ケイ素(Si)とアルミニウム(Al)に加え、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素から構成される含水非晶質性酸化・水酸化物である。アルカリ金属元素としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)が、アルカリ土類金属元素としては、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)が選択される。アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素の含有量は1〜10wt%が好ましい。
【0026】
ハスクレイに含まれる水酸化物量、酸素量、含まれる水の量に関しては特に限定されない。これら量は、ハスクレイ粉末を得るための乾燥の工程の条件により決定され、この条件により放射性物質の吸着量を制御することが可能となる。
【0027】
ハスクレイのSi/Alモル比は特に限定されることはないが、その化合物性質を示す0.5〜15、好ましくは0.7〜15、より好ましくは0.9〜13である。
【0028】
ハスクレイに含まれるアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の量や元素種は特に限定されず、1種類以上の組み合わせであってもよい。これらアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の元素種や量は、種々条件下での放射性物質吸着に最適な処理範囲を想定して選択すればよい。
【0029】
本発明におけるハスクレイの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、水溶性ケイ素原料と水溶性アルミニウム原料及びアルカリ原料とを混合し、反応溶液のpHを6.0〜8.0に制御して加熱熟成反応を行って得ることができる。
【0030】
本発明においては、放射性物質を含有する汚染水と吸着材であるハスクレイとを接触させることができればよく、接触させる方法は、特に限定されるものではない。吸着材及び/又は吸着材の顆粒物が充填されたカラムや濾過槽に汚染水を流通させる方法、粉末状の吸着材を用いた攪拌槽と沈殿槽を組み合わせた方法などが利用できる。
【0031】
なお、本発明における吸着材は、ビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、ポリビニルアセタール樹脂等の樹脂成分と複合化して成型体の状態として用いてもよい。
【0032】
吸着材を接触させる時の液温については、特に制限はなく、経済概念を含め通常使用される温度範囲の5〜90℃で、好ましくは10〜70℃である。
【0033】
浄化する際の水溶液のpHは、対象となるイオンによって異なるが、概ね酸性から中性域であることが好ましい。
【0034】
本発明においては、放射性物質として、セシウム、ストロンチウム、ヨウ素各イオンを吸着・除去することができる。
【0035】
本発明に係る浄化装置において、ハスクレイを設置した装置は、RO膜の前工程に設置される。RO膜は高価であり、放射性物質を僅かに吸着した場合には安全面より交換せざるを得ず、ランニングコストが掛かることより採算割れの懸念がでる。これを防ぐために、RO膜の前工程にハスクレイによる浄化工程を設置する。
【0036】
RO膜前工程に配したハスクレイによる浄化工程には、通常は、処理水を流通させなくてよい。放射性物質が混在する可能性がある場合にのみ流通させることで、通常の設備固定コスト(Fc)に多大な影響を与えることはない。
【0037】
本発明に係る浄化装置は、放射性物質を含有する汚染水の浄化装置として、種々の用途に用いることが可能である。
【0038】
例えば、本発明に係る浄化装置は、人間の飲料水の製造プラントとして使用できる。該飲料水製造プラントによって得られる飲料水は放射性物質を完全除去されている。設置工程箇所は特に限定されないが、例えば濾過池工程と塩素混和池工程の間が最適である。
【0039】
また、本発明に係る浄化装置は、下水処理設備に追設することができる。放射性物質が上水や下水に含まれた場合、最終的に処理をする下水処理施設において、該浄化装置を通すことにより放射性物質を河川等に流出することなく、河川及びその流域、あるいは、海及びその流域の生態系への放射性物質による汚染を広げることはなくなる。設置工程箇所は特に限定されないが、各種の浄化処理前、又は、河川等への排水前の工程が最適である。
【0040】
また、本発明に係る浄化装置は、畜産用の飲料水の製造プラントとして使用できる。該飲料水製造プラントによって得られる畜産用飲料水は放射性物質を完全除去されている。該浄化装置への水の供給源は特に限定されないが、池、河川、地下水などが挙げられる。設置工程箇所は特に限定されないが、各種の浄化処理前、又は、飲料水は排出する最終工程が最適である。
【0041】
また、本発明に係る浄化装置は農業用水の製造プラントとして使用できる。該製造プラントによって得られる農業用水は放射性物質を完全除去されている。該浄化装置への水の供給源は特に限定されないが、池、河川、地下水などが挙げられる。設置工程箇所は特に限定されないが、各種の浄化処理前、又は、農地に流入させる最終工程、河川等からの引き込み口工程が最適である。
【0042】
農耕地が既に放射性物質によって汚染されている場合、農地からの排水溝や、農地内での循環水工程として設けることもできる。
【0043】
本発明に係る浄化装置は工業用水の製造プラントとして使用できる。該浄化装置への水の供給源は特に限定されないが、池、河川、地下水などが挙げられる。設置工程としては特に限定されないが、セラミックフィルターや、砂濾過、活性炭濾過などの工程の前後が最適である。特にRO膜など高価な工程前に設置することがよい。
【0044】
なお、放射性物質を吸着・除去した後は、吸着材であるハスクレイをガラスフリットと混合し、溶融してガラス固化することで、安全に放射性物質を閉じ込め、保管することができる。
【0045】
<作用>
本発明に係る放射性物質汚染水の浄化設備は産業コスト面を含め方法として最適である。また、無毒性元素より構成されている点で安心、且つ、イオン交換反応により放射性物質が半永久的に閉じ込められるため安全である。
【実施例】
【0046】
本発明に係るハスクレイによる放射性物質除去能の検討を以下のように行った。
【0047】
水溶液中のセシウムイオンは、原子吸光分光光度計(株式会社島津製作所、AA−7000)にて、またストロンチウムイオンは、プラズマ発光分光分析装置(セイコー電子工業株式会社、SPS4000)を用いて定量分析した。
【0048】
(ハスクレイの合成)
内容積100lの反応容器中に、Siとして1.0mol/lの3号オルトケイ酸ナトリウム溶液28lを投入した後、Al3+ 0.5mol/lの塩化アルミニウム溶液40lを添加・混合し、次に、3NのNaOH水溶液をpH7.2になるまで滴下して、さらに水を加えて、溶液量を95l、反応液の温度を40℃に調整した。
【0049】
上記懸濁液を温度40℃で30分間保持して熟成した後、当該懸濁液の温度を95℃とし、20時間熟成撹拌反応を行った。得られた白色懸濁液の温度を50℃まで冷却したところ、溶液のpHは6.1であった。さらに撹拌しながら1.0MのNaOH溶液を滴下してpHを8.5に調整し、1時間保持した。次に濾別、水洗、乾燥、粉砕した。
【0050】
得られた白色粒子粉末は、X線回折の結果、非晶質であり、BET比表面積が472m/gの粒状を呈した粒子からなり、組成分析の結果、Si/Alモル比が1.42であり、Na/(Si+Al)モル比が0.164であり、カーボン・サルファーアナライザー:EMIA−2200(HORIBA製)により測定した硫黄含有量が0.01wt%であって炭素含有量が0.07wt%であった。
【0051】
(擬似放射性物質水溶液の準備)
簡易的な評価として、放射性同位体を含まないセシウム(Cs)及びストロンチウム(Sr)各イオンを含む水溶液を準備した。Cs源としては塩化セシウム(試薬:米山薬品工業株式会社製)、Sr源としては塩化ストロンチウム6水和物(試薬:米山薬品工業株式会社製)を用いた。各イオン濃度が、Cs 10mg/L、Sr2+ 7.6mg/Lとなるよう秤量し、同一の純水に溶解させてCs及びSrの混合溶液を調製した。
【0052】
(擬似放射性物質の除去能評価)
上記にて調製したCs及びSrの混合溶液100mlを室温にて撹拌し、そこにハスクレイ粉末を1.002g投入した。10分間撹拌の後、5A濾紙を用いて濾過した。分離した濾液中のセシウムイオン及びストロンチウムイオン濃度を分析したところ、それぞれ0.8mg/L及び2.1mg/Lであった。Kd値は各々11500及び2619と大きい値であった。
【0053】
比較例
実施例同様にして、北海道産天然ゼオライト(とかち)を粉砕し粉状にして検討した。実施例と同じCs及びSr各イオン濃度の混合水溶液100mlにゼオライト粉末を1.003g投入した。10分間撹拌の後、5A濾紙にて濾過した。分離した濾液中のセシウムイオン及びストロンチウムイオン濃度はそれぞれ7.6mg/L及び7.4mg/Lであった。Kd値は各々31.5及び14.2であった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質を含有する汚染水の浄化方法において、放射性物質の吸着材としてハスクレイを用いることを特徴とする汚染水の浄化方法。
【請求項2】
放射性物質を含有する汚染水の浄化方法において、吸着材としてハスクレイを用いて放射性物質を除去した後、RO膜に通水する汚染水の浄化方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の汚染水の浄化方法に用いる浄化装置。
【請求項4】
請求項1又は2記載の汚染水の浄化方法に用いる下水処理装置。
【請求項5】
請求項1又は2記載の汚染水の浄化方法によって浄化された飲料水。
【請求項6】
請求項1又は2記載の汚染水の浄化方法によって浄化された畜産用飲料水。
【請求項7】
請求項1又は2記載の汚染水の浄化方法によって浄化された農業用水。
【請求項8】
請求項1又は2記載の汚染水の浄化方法によって浄化された工業用水。


【公開番号】特開2013−61195(P2013−61195A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198902(P2011−198902)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【出願人】(305023779)株式会社トーエル (1)