説明

放射性物質及びTOCの除去方法並びに除去装置

【課題】放射性廃液から通常ないし既存の施設で再利用又は放流可能な蒸留液を効率的に得ることを可能にすると共に、放射性廃棄物を減容することができる放射性物質及びTOCの除去方法並びに除去装置を提供すること。
【解決手段】有機炭素物質を含む放射性廃液を、減圧蒸留して残渣と蒸留液とに分留し、前記残渣に前記有機炭素物質と共に放射性物質を含有させることにより、前記放射性物質が除去され及び前記有機炭素物質が減少した前記蒸留液を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質及びTOC(全有機炭素)の除去方法並びに除去装置に関し、特に、放射性汚染物を除染液で除染した放射性廃液から放射性物質及びTOCを除去する方法並びに装置に関し、中でも、原子力施設等の放射線管理区域で使用された放射性汚染工具等を除染液で除染した放射性廃液から放射性物質及びTOCを除去する方法並びに装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力施設からは、所内の放射線管理区域で用いられた工具、配管を洗浄した廃液などの低レベル放射性廃液が発生する。放射性廃液は、所定の基準まで放射能レベルが低下しなければ、発電所敷地内に保管したり、所定の場所に長期間保管したりしなければならず、通常の水処理施設で処理することができない規定になっている。また、近年、放射性物質の除去だけではなく、廃液中のTOCを法令等によって規定された基準まで低下させることが求められている。
【0003】
放射性物質の除去に関して、特許文献1には、放射性廃液を蒸留器により濃縮処理し、蒸留液を脱塩塔に送り浄化したのち系外へ放出する一方、濃縮液を固化処理する方法が開示されている。
【0004】
TOCの除去に関して、特許文献2には、原子力発電所から発生するフィルタースラッジ又はイオン交換樹脂膜からなる放射性有機廃棄物に、過酸化水素を作用して放射性有機廃棄物を湿式分解したものを触媒燃焼装置で処理し、TOCを含まない凝縮水と無害無臭の排ガスに分離する方法が開示されている。
【0005】
放射性物質とCODの除去に関して、特許文献3には、放射性排水を酸化・不溶化処理した後、ろ過、重力沈降、凝集沈殿、遠心分離又は浮上分離により固液分離し、放射性物質及びCOD原因物質を除去する方法が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平3−13897号公報
【特許文献2】特開2000−65986号公報
【特許文献3】特開2002−228795号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1には、TOCに関する記載はない。一方、上記特許文献2には、放射性物質の除去に関する記載はなく、加えて、同文献に係る発明の処理対象は、フィルタースラッジ又はイオン交換樹脂膜からなる放射性有機廃棄物であって、放射性廃液ではない。
【0008】
上記特許文献3には、ろ過、重力沈降等により、放射性物質及びCOD原因物質を除去する方法が記載されているが、このような固液分離手段では、TOC濃度が10,000ppmオーダーの廃液を、TOC濃度が10ppmオーダーの精製水にすることも困難である。また、放射性物質の除去に、ろ過フィルタを直ちに用いた場合、このろ過フィルタが放射能汚染され、却って、放射性廃棄物が増加するという問題が生じる。
【0009】
本発明の目的は、放射性廃液から、通常ないし既存の施設で再利用又は放流可能な蒸留液を効率的に得ることを可能にすると共に、放射性廃棄物を減容することができる放射性物質及びTOCの除去方法並びに除去装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、第1の視点において、有機炭素物質を含む放射性廃液を減圧蒸留して、残渣と蒸留液とに分留し、前記残渣に前記有機炭素物質と共に放射性物質を含有させることにより、前記放射性物質が除去され及び前記有機炭素物質が減少した前記蒸留液を生成する、放射性物質及びTOCの除去方法を提供する。
【0011】
本発明は、第2の視点において、有機炭素物質を含む放射性廃液から放射性物質及びTOCを除去する装置であって、前記放射性廃液を減圧蒸留して、残渣と蒸留液とに分留する減圧蒸留釜と、前記減圧蒸留釜内を所定温度に加熱する加熱手段と、前記減圧蒸留釜内を所定圧力に減圧する減圧手段と、前記減圧蒸留釜から、前記有機炭素物質と共に放射性物質を含有する前記残渣を回収する残渣回収手段と、前記減圧蒸留釜から、前記放射性物質が除去され及び前記有機炭素物質が減少して排出された前記蒸留液を回収する蒸留液回収手段と、を有する、放射性物質及びTOCの除去装置を提供する。
【0012】
一般的に、蒸留が生じる条件においては、温度と圧力の一方を定めれば、他方が定まる。すなわち、本発明において、減圧蒸留を発生させるには、放射性廃液の種類によって定まる蒸気圧曲線に基づき、圧力と温度を相互に対応して設定すればよい。基本的には、減圧蒸留において、圧力を比較的高く設定する場合は温度を比較的高温に設定し、圧力を比較的低くする場合は温度を比較的低温に設定すればよい。但し、本発明の減圧蒸留においては、減圧蒸留が工業的に有効に生じるよう、例えば、減圧蒸留処理時間を考慮して、圧力と温度を設定することが好ましい。さらに、放射性物質の蒸留液側への混入防止、減圧蒸留釜の耐圧及び減圧にするためのポンプ能力、を考慮して、減圧蒸留における圧力及び温度を定めることが好ましい。また、低温に設定すると火災等の事故が高度に防止され、高温にすると処理時間が短縮される観点に基づいて、蒸留条件を定めることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
(1)放射性廃液の減圧蒸留によって、該廃液を低温処理により残渣と蒸留液に分留することができるため、放射性物質の飛散が防止される。
(2)残渣に、放射性物質と有機炭素物質が互いに結合した状態で含有されるため、両者の効率的な除去が達成されて、蒸留液側の清浄度が向上される。
(3)放射性廃液を直接にろ過手段、例えば、ろ過フィルタにかける場合は、ろ過フィルタが放射性物質で大きく汚染されて、このろ過フィルタが放射性廃棄物となるため、却って、放射性廃棄物が増加するという問題がある。しかし、本発明によれば、放射性廃液をまず減圧蒸留して放射性物質を除去するため、このような問題の発生が防止される。
(4)放射性廃液の減圧蒸留によって、TOC濃度10ppm以下、好ましくは5ppm以下の蒸留液を得ることができるため、それから、1ppm以下のような検出限界値以下のTOC濃度を有する超純液、例えば、超純水を得ることが容易である。これによって、全国の湖沼、河川、海域等公共用水域にも放流することができる。なお、水道法に基づく水質基準(平成15年 厚生労働省令第101号)、基46によれば、有機物(TOC)は5mg/l(5ppm)以下と規定されている。
(5)放射性物質を含有する残渣からは液分が除去されるため、放射性廃棄物が減容され、一方、蒸留液からは、原子力施設等の構内水処理施設で再利用又は処理可能又は容易な水準まで、TOC及び放射性物質が除去される。また、得られた蒸留液は、放射性汚染物の洗浄液の希釈剤として再利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の好ましい実施の形態においては、放射性廃液が水性であり、得られる蒸留液が蒸留水である場合、減圧蒸留の温度を20〜85℃、好ましくは30〜80℃、さらに好ましくは40〜60℃の範囲に設定し、このときの圧力は、基本的に、水の蒸気圧曲線を参照して、上記温度範囲に対応して定める。例えば、減圧蒸留の圧力を、基本的には、0.0023〜0.057MPa、好ましくは、0.0041〜0.047MPa、さらに好ましくは0.0072〜0.02MPa、に設定する。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態において、前記放射性廃液は、水性或いは有機溶剤系である。例えば、有機溶剤としては、トリクロロエチレン又はパークロロエチレン等が例示される。減圧蒸留の温度及び圧力は、基本的に、その有機溶剤の蒸気圧曲線に基づいて定めればよい。
【0016】
本発明によって処理される前記放射性廃液は、例えば、放射性汚染物を水性或いは有機溶剤系の除染液で除染した後の廃液である。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記蒸留液のTOC濃度が少なくとも10ppm以下、好ましくは、5ppm以下となる。さらに好ましくは、前記蒸留液をろ過して、前記蒸留液のTOC濃度を1ppm以下とすることが容易である。
本発明の好ましい実施の形態においては、前記放射性物質が除去された前記蒸留液を生成する。なお、放射性物質が除去された蒸留液中の放射性物質濃度は3σ法による検出限界値未満となる。
【0018】
本発明の好ましい実施の形態において、前記残渣に含有される前記有機炭素は、放射性汚染物に付着した有機炭素物質、放射性汚染物を除染した除染液に含有される有機炭素物質、及び/又は前記減圧蒸留前に添加した添加物に含有される有機炭素物質が由来である。例えば、前記残渣に含有される前記有機炭素は、放射性汚染物に付着したスケールや錆に含有される有機物、除染液中の有機酸、又は油分洗浄剤等の添加物含有の有機物に由来するものであり、残渣中に、この有機炭素(TOC)と放射性物質が化学的又は物理的に吸着して存在する。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態に係る除去方法においては、前記減圧蒸留前、前記放射性廃液のpHに応じて中和剤を添加し、前記残渣に前記中和剤の成分を含有させる。これによって、得られる蒸留液が中性化され、処理又は放流容易となる。また、得られた残渣においては、中和剤中の有機炭素物質に放射性物質が化学的又は物理的に吸着して存在することになる。また、本発明の好ましい実施の形態に係る除去装置は、上記中和処理を行う中和手段、例えば、中和タンクを有する。
【0020】
例えば、前記放射性廃液が酸性である場合、前記中和剤として水酸化カルシウムを添加し、アルカリ性である場合には酸を添加すればよい。
【0021】
本発明の好ましい実施の形態においては、減圧蒸留の雰囲気ないし処理時間を、放射性廃液100%に対して、蒸留液95%以上、残渣5%以下となるよう、調整する。
【0022】
本発明の好ましい実施の形態においては、残渣の液分、例えば、水分含有量が30%以下、さらに好ましくは10%以下になるよう、減圧蒸留の温度及び圧力、並びに蒸留時間を設定する。なお、蒸留時間を長くすれば、残渣の液分含有率を減少させることができる。
【0023】
本発明の好ましい実施の形態に係る除去方法においては、前記蒸留液をろ過する。これによって、蒸留液からさらに有機炭素物質が除去され、TOC濃度がさらに低下する。本発明の好ましい実施の形態に係る除去装置においては、例えば、ろ過処理手段として、カーボンフィルタ、イオン交換樹脂を一段又は多段に配置する。
【0024】
本発明の好ましい実施の形態に係る除去装置においては、減圧蒸留釜の加熱手段ないし熱源としてヒータ又はスチーム、減圧蒸留釜の減圧手段としてポンプ又はエジェクタ、蒸留液回収手段として蒸留液タンク、残渣回収手段として残渣容器をそれぞれ用いる。
【0025】
本発明の好ましい実施の形態において、前記放射性廃液が、放射性汚染物を水性の除染液で除染した廃液である場合、この除染液は、有機酸を総量として、0.4〜50%、さらに好ましくは0.4〜30%、さらに好ましくは0.4〜20%、さらに好ましくは0.4〜10%、或いは1〜20%、さらに好ましくは1〜10%含む。
【0026】
好ましくは、前記除染液は、前記有機酸として、リンゴ酸、クエン酸、ギ酸、シュウ酸、グリセリン酸、酒石酸及びグリコール酸の一種又は二種以上を含む。このような有機酸は、取り扱いが容易であり、環境に与える負荷が小さい。
【0027】
また、好ましくは、前記除染液は、前記有機酸として、果実酸(果実由来の有機酸、例えば、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸など)を含む。例えば、この除染液は、果実酸単独、又は果実酸に加えて他の上記有機酸を、有機酸が総量で上記範囲となるよう含む。
【0028】
この除染液は、洗浄効果を高めるための添加物ないし助剤を許容する。例えば、この除染液は、アミドスルフォン酸、EDTA、NTA−3Na、界面活性剤及びアミドスルフォン酸などの添加物等を含んでもよい。
【0029】
この除染液で洗浄される放射性汚染物としては、放射能汚染されたもの全てを含むが、例えば、発電所等の放射線管理区域で使用された工具、配管、部品又は装置、或いは、廃材又は廃棄物である。
【実施例1】
【0030】
以下、図面を参照して本発明の一実施例を説明する。図1は、本発明の一実施例に係る放射性物質及びTOCの除去方法を説明するフローチャートである。図2は、本発明の一実施例に係る放射性物質及びTOCの除去装置を説明する構成図である。
【0031】
図1及び図2、特に、図2を参照すると、本発明の一実施例に係る放射性物質及びTOC除去装置は、有機炭素物質を含む放射性廃液から放射性物質及びTOCを除去する装置であって、放射性廃液を、所定の雰囲気で減圧蒸留して残渣と蒸留液とに分留する減圧蒸留釜4と、減圧蒸留釜4内を所定温度に加熱するヒータ(加熱手段)4dと、減圧蒸留釜4内を所定圧力に減圧する真空ポンプ(減圧手段)10と、減圧蒸留釜4から、有機炭素物質と共に放射性物質を含有する残渣を回収する残渣容器5(残渣回収手段)と、減圧蒸留釜4から、放射性物質が除去され及び有機炭素物質が減少して排出された蒸留液を回収する蒸留液タンク(蒸留液回収手段)6と、を有している。
【0032】
減圧蒸留釜4には、放射性廃液が投入される入口弁4aと、残渣容器5に接続される排出弁4bが付設されている。入口弁4aの上流は、図1に示す中和タンク(中和手段)3を介して又は介さずに放射性廃液タンク(放射性廃液供給手段)2に接続される。
【0033】
特に、図1を参照すると、中和タンク3の入口側は、添加剤タンク1a,1b,・・・と、放射性廃液タンク2とに接続される。添加剤タンク1a,1b,・・・からは、各種添加剤が必要に応じて、中和タンク3又は減圧蒸留釜4に供給される。例えば、放射性廃液が酸性又はアルカリ性である場合には、該放射性廃液は、中和タンク3に供給されて、
中和用添加剤が添加・混合され、pH調整が行われる。放射性廃液が中性である場合には、放射性廃液を、放射性廃液タンク2から直接、減圧蒸留釜4に投入してもよい。なお、減圧蒸留釜4に供給される放射性廃液は、原液でもよく、或いは、中和、油分除去などの前処理をしたものでもよい。
【0034】
減圧蒸留釜4内には、攪拌器4cが設けられている。攪拌器4cは、放射性廃液を攪拌し、残渣を排出弁4b側に向かって掻き出すことができる。
【0035】
減圧蒸留釜4と蒸留液タンク6の間には、熱交換器8、バッファタンク9及び真空ポンプ10が接続されている。熱交換器8は、減圧蒸留釜4から出る気化した蒸留液を液化する。バッファタンク9は、蒸留液を一時的に貯留し、突発等を防止する。真空ポンプ10は、蒸留釜4内を所定圧力に減圧すると共に、バッファタンク9内の圧力を大気圧程度に維持する。なお、バッファタンク9内の蒸留液を、減圧蒸留釜4に循環供給してもよい。
【0036】
続いて、図2に示した本発明の一実施例に係る放射性物質及びTOCの除去装置を用いた、図1に示した本発明の一実施例に係る放射性物質及びTOCの除去方法を説明する。
【0037】
放射性廃液のpHを調整する場合には、放射性廃液を放射性廃液タンク2から中和タンク3に注入し、合わせて、添加剤タンク1a,1b,・・・から添加剤を中和タンク3に投入し、pH調整された放射性廃液を、入口弁4aを介して、減圧蒸留釜4に投入する。放射性廃液のpHを調整しない場合には、放射性廃液を放射性廃液タンク2から直接、減圧蒸留釜4に投入すればよい。また、予め、放射性廃液に油分除去剤を投入し、油分除去処理した放射性廃液を中和タンク3又は減圧蒸留釜4に投入してもよい。
【0038】
減圧蒸留釜4内は、真空ポンプ10によって減圧されるため、放射性廃液は比較的低温で気化し、気化した蒸留液と、残渣に分留される。残渣中に、有機炭素物質と共に放射性物質が含有されることにより、気化した蒸留液からはこれらの物質が除去される。
【0039】
残渣は、攪拌器4cによって掻き出されて、排出弁4bを介して、残渣容器5内に回収される。残渣は、放射性物質を含有しているため廃棄処分される。例えば、残渣は、ドラム缶に詰められた後、所定の場所に保管される。
【0040】
一方、気化した蒸留液は、熱交換器8で液化され、バッファタンク9を介して、蒸留液タンク6に回収される。蒸留液からは、放射性物質が非検出レベルまで除去されていると共に、有機炭素物質もほとんど除去されているため、蒸留液を通常又は既存の施設で再利用することができる。さらに、蒸留液タンク6に図1のろ過フィルタ7を接続し、有機炭素物質を吸着させ、蒸留液のTOCを低下させれば、全国の湖沼、河川、海域等公共用水域にも放流することができる。なお、蒸留液中には、放射性物質が含有されていないため、ろ過フィルタ7は通常の廃棄物処理をすることができる。
【0041】
[試験]
以上説明した本発明の一実施例に係る放射性物質及びTOCの除去装置を用いて、本発明の一実施例に係る放射性物質及びTOCの除去方法に従って、まず試験1として[0042]に示す放射性廃液から放射性物質及びTOCを除去する試験を行い、得られた蒸留水中のTOC濃度及び放射能汚染濃度を測定した。
また試験2として、本処理方法が「ケミアクリーン」以外の洗浄剤に対して有効である否かを確認するため、中性洗剤を使用した廃液による放射性物質及びTOCの除去試験を実施した。
試験1及び2の試験条件は[0042]のとおりである。
【0042】
・放射性物質及びTOCの除去装置:本出願人である大和化学工業株式会社製
・減圧蒸留釜の処理能力:8〜10リットル/H
・減圧蒸留釜内の圧力:0.090〜0.096MPa(減圧度:約−4〜10%)
・減圧蒸留釜内の温度:40〜60℃
・付随するろ過手段:カーボンフィルタ及び多段イオン交換樹脂
・放射性廃液処理量:300リットル
・放射性廃液−
・・試験1:放射線管理区域で使用された工具を、本出願人である東電工業株式会社製の 除染剤「商品名:ケミアクリーン」で洗浄した後の廃液
「ケミアクリーン」:有機酸としてクエン酸、リンゴ酸、酒石酸及びギ酸 を総量で5%含有し残部水の水性除染剤
・・試験2:放射線管理区域で使用された工具を、一般的な洗濯用中性洗剤で洗浄した後 の廃液
・分析方法
・・TOC(全有機炭素量):JIS k0101 20
【0043】
[試験1]
上記試験1の放射性廃液(除染に使用した有機酸洗剤「ケミアクリーン」の廃液)に、本発明及び上記試験条件に従って、放射性物質及びTOCの除去処理を行い、得られた蒸留水中のTOC濃度及び放射能汚染濃度を測定した。本試験においては、減圧蒸留処理前に中和剤として水酸化カルシウムを添加した。ケース1では、減圧蒸留処理までを行い、ケース2では、ケース1に引き続いて、さらに、ろ過処理を行った。試験1の結果を下記の表1に示す。
【0044】
[表1]

(注):「<」は、3σ法による検出限界値未満を示す
【0045】
表1を参照して、本発明による減圧蒸留処理により、得られた蒸留水から、放射性物質が実質的に完全に除去されると共に、TOC濃度が10ppm以下となり、再利用可能なレベルまでTOCが除去された。また、この減圧蒸留処理に加えて、ろ過処理を行うことにより、得られた蒸留水中のTOC濃度は1ppm以下となり、超純水のレベルまで、TOCが除去された。また、本除去方法及び除去装置は完全な閉鎖系であり、蒸留水側の放射能汚染濃度が顕著に減少(実質的に完全に除去)していることから、放射性廃液中の放射性物質は、残渣側に留まっていることが分かる。
【0046】
[試験2]
[0042]に示す試験2の放射性廃液に、本発明及び[0042]の試験条件に従って、放射性物質及びTOCの除去処理を行い、得られた蒸留水中のTOC濃度及び放射能汚染濃度を測定した。
なお試験1では、有機酸洗剤「ケミアクリーン」を使用した廃液は酸性度が高いため、中和処理を施す必要があることから、中和剤として水酸化カルシウムを添加している。
したがって、試験2では、この水酸化カルシウムの添加が、減圧蒸留処理による放射性物質及びTOCの除去に影響しているのか否かを確認するため、水酸化カルシウムを添加した場合と添加しない場合の試験も行い、その影響も確認した。
このため、ケース1では、減圧蒸留処理まで行い、ケース2では、ケース1の減圧蒸留処理前に水酸化カルシウムを添加(中和剤として)した試験を行い、ケース3では、ケース1の減圧蒸留処理後にろ過処理を行い、ケース4ではケース3の減圧蒸留処理前に水酸化カルシウムを添加した試験を行った。試験結果は次の表2に示す。なお、減圧蒸留処理により、減圧蒸留処理前の廃液は、約95%の蒸留水と、約5%の残渣(含水率30%以下)に分留された。
【0047】
[表2]

(注):「<」は、3σ法による検出限界値未満を示す
【0048】
表2を参照して、試験1の場合と同様に、本発明による減圧蒸留処理により、得られた蒸留水から、放射性物質が実質的に完全に除去されると共に、TOC濃度が10ppm以下となり、再利用可能なレベルまでTOCが除去された。また、この減圧蒸留処理に加えて、ろ過処理を行うことにより、得られた蒸留水中のTOC濃度は1ppm以下となり、超純水のレベルまで、TOCが除去された。また、本除去方法及び除去装置は完全な閉鎖系であり、蒸留水側の放射能汚染濃度が顕著に減少(実質的に完全に除去)していることから、放射性廃液中の放射性物質は、残渣側に留まっていることが分かる。
なお、水酸化カルシウムの影響については、減圧蒸留処理後の状態及び更にろ過処理を施した状態のいずれも、水酸化カルシウムを添加した場合と、添加しない場合において、TOC濃度、放射能汚染濃度に実質的な差(若干、水酸化カルシウムを添加した方が高い)が認められなかった。これにより、水酸化カルシウムの添加が減圧蒸留処理による放射性物質及びTOCの除去に、またろ過処理によるTOCの除去に影響していないことも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、原子力施設等、例えば、原子力発電所、核燃料再処理施設、放射性廃棄物処分施設の放射線管理区域から発生する放射性廃液、特に、放射性汚染工具等を除染液で除染した放射性廃液の処理に適用される。また、本発明に従い得られた蒸留液は、放射線管理区域等での処理又は再利用が容易であり、例えば、蒸留液が水である場合、既存の水処理施設での処理又は再利用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施例に係る放射性物質及びTOC除去方法を説明するフローチャートである。
【図2】本発明の一実施例に係る放射性物質及びTOC除去装置を説明する構成図である。
【符号の説明】
【0051】
1a,1b,・・・添加剤タンク
2 放射性廃液タンク(放射性廃液供給手段)
3 中和タンク(中和手段)
4 減圧蒸留釜
4a 入口弁
4b 残渣排出弁
4c 攪拌器
4d ヒータ(加熱手段)
5 残渣容器(残渣回収手段)
6 蒸留液タンク(蒸留液回収手段)
7 ろ過フィルタ(ろ過手段)
8 熱交換器
9 バッファタンク
10 真空ポンプ(減圧手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機炭素物質を含む放射性廃液を減圧蒸留して、残渣と蒸留液とに分留し、前記残渣に前記有機炭素物質と共に放射性物質を含有させることにより、前記放射性物質が除去され及び前記有機炭素物質が減少した前記蒸留液を生成する、ことを特徴とする、放射性物質及びTOCの除去方法。
【請求項2】
前記蒸留液のTOC濃度が10ppm以下となることを特徴とする請求項1記載の放射性物質及びTOCの除去方法。
【請求項3】
前記放射性廃液が、放射性汚染物を除染液で除染した後の廃液である、ことを特徴とする請求項1又は2記載の放射性物質及びTOCの除去方法。
【請求項4】
前記残渣に含有される前記有機炭素物質が、放射性汚染物に付着した有機炭素物質、放射性汚染物を除染した除染液に含有される有機炭素物質、及び/又は前記減圧蒸留前に添加した添加物に含有される有機炭素物質、由来である、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一記載の放射性物質及びTOCの除去方法。
【請求項5】
前記減圧蒸留前、前記放射性廃液のpHに応じて中和剤を添加し、前記残渣に前記中和剤の成分を含有させる、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一記載の放射性物質及びTOCの除去方法。
【請求項6】
前記蒸留液をろ過して、前記蒸留液のTOC濃度を1ppm以下とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一記載の放射性物質及びTOC除去方法。
【請求項7】
有機炭素物質を含む放射性廃液から放射性物質及びTOCを除去する装置であって、
前記放射性廃液を減圧蒸留して、残渣と蒸留液とに分留する減圧蒸留釜と、
前記減圧蒸留釜内を所定温度に加熱する加熱手段と、
前記減圧蒸留釜内を所定圧力に減圧する減圧手段と、
前記減圧蒸留釜から、前記有機炭素物質と共に放射性物質を含有する前記残渣を回収する残渣回収手段と、
前記減圧蒸留釜から、前記放射性物質が除去され及び前記有機炭素物質が減少して排出された前記蒸留液を回収する蒸留液回収手段と、
を有する、ことを特徴とする放射性物質及びTOCの除去装置。
【請求項8】
前記減圧蒸留前、前記放射性廃液のpHに応じて中和剤を添加し、前記残渣に前記中和剤の成分を含有させる中和手段を有することを特徴とする請求項7記載の放射性物質及びTOCの除去装置。
【請求項9】
前記蒸留液をろ過して、前記蒸留液のTOC濃度を1ppm以下とするろ過手段を有することを特徴とする請求項7又は8記載の放射性物質及びTOCの除去装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−244089(P2009−244089A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90796(P2008−90796)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000221535)東電工業株式会社 (25)
【出願人】(501174697)フルエング株式会社 (3)
【出願人】(594007249)大和化学工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】