説明

放射性物質収納容器

【課題】銅と炭素鋼,合金鋼との溶接性に優れ、炭素鋼,合金鋼への溶接熱による損傷を軽減し、溶接時の変形を極力抑えたMIG溶接またはMIGブレイジング法を提供することにある。
【解決手段】放射性物質を収納する収納容器本体と前記収納容器本体を同軸状に取り囲む外筒と前記収納容器本体及び外筒間に伝熱フィンが接続され、前記収納容器本体,外筒及び伝熱フィンにより区画された各空間に充填された中性子吸収材からなる放射性物質収納容器の製造に際し、前記収納容器本体及び外筒間にMIG溶接される一部波型構造を有する銅製伝熱フィンの先端部には、前記収納容器本体の外周面及び外筒の内周面とに添って平行部が形成され、その平行部長さは銅製伝熱フィンの板厚以上であり、銅製伝熱フィン平行先端部と銅合金ワイヤ間にアークを発生させ、MIG溶接またはMIGブレイジングによって収納容器本体及び外筒材と銅伝熱フィンが溶接される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所から発生する使用済み燃料を輸送し、または貯蔵する放射性物質収納容器及びその製造方法に係り、特に収納容器本体及び外筒に銅製の伝熱フィンを接続したものに関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の原子炉で一定期間使用された燃料は、原子炉から取り出され、使用済み燃料プールなどに一時保管される。所定期間冷却された使用済み燃料は、最終的に再処理工場に搬入され、ウランとプルトニウムが取り出され、再資源として利用される。
【0003】
現在、原子力発電所で発生する使用済み燃料は、電力需要の増加とともに増大している。使用済み燃料は、再処理工場が稼動しても処理能力を上回るため、再処理までの期間を適切に管理,保管しなければならない。
【0004】
使用済み燃料を適切に管理,貯蔵する方式として、乾式キャスク貯蔵,ボールト貯蔵,サイロ貯蔵,コンクリートキャスク貯蔵などの乾式貯蔵と水プールなどの湿式貯蔵がある。貯蔵コスト及び長期にわたる貯蔵安定性を考えた場合、乾式貯蔵方式が注目されており、実用化されている乾式キャスク貯蔵方式は、放射性物質収納容器である乾式キャスクの中に使用済み燃料を収納し、適切に管理,貯蔵する方法である。
【0005】
乾式キャスク貯蔵方式では、使用済み燃料から放出される中性子を吸収することと使用済み燃料集合体の温度が過度に上昇しないために十分な伝熱特性が必要である。このため、使用済み燃料を収納する収納容器本体を同軸状に取り囲む外筒が設けられ、収納容器本体及び外筒間に伝熱フィンが接続され、収納容器本体,外筒及び伝熱フィンにより区画された各空間に充填された中性子吸収材からなる構造が提案されている。
【0006】
収納容器本体及び外筒材は、炭素鋼,合金鋼,ステンレス鋼などからなり、伝熱フィンは銅からなるため異材接合である。このため、収納容器本体及び外筒間に伝熱フィンが接続する方法としては、特許文献1のように収納容器本体及び外筒材の一部に銅−ステンレスクラッド材を配し、クラッド材の銅と銅伝熱フィンを溶接している。特許文献2のように収納容器本体及び外筒材への熱影響を低減することを考慮し、収納容器本体及び外筒材を予熱,後熱しながらMIG溶接している。また収納容器本体及び外筒材にサーマルバッファ層を設けている。特許文献3のように収納容器本体及び外筒へ銅伝熱フィンを摩擦攪拌接合している。
【0007】
【特許文献1】特開平9−171094号公報
【特許文献2】特開2002−361469号公報
【特許文献3】特開2004−28940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
炭素鋼,合金鋼,ステンレス鋼などからなる収納容器本体及び外筒材に銅伝熱フィンを溶接するには異材接合となるため、接合状態,接合強度に問題がある。
【0009】
収納容器本体の使用済み燃料集合体の温度が過度に上昇しないために十分な伝熱特性が必要であり、収納容器本体及び外筒と銅製の伝熱フィンの溶接部の熱伝導率は、収納容器本体及び外筒の熱伝導率よりも大きくする必要があり、伝熱特性を高めることが必要である。炭素鋼,合金鋼,ステンレス鋼などからなる収納容器本体及び外筒と銅製の伝熱フィン溶接部は異材接合となるが、銅溶接部への鉄の混入を極力避けねばならない。
【0010】
炭素鋼,合金鋼,ステンレス鋼などからなる収納容器本体及び外筒材と銅伝熱フィンの溶接では、銅伝熱フィンの熱伝導率が高く、溶接熱が拡散しやすく、溶融部の形成が不安定であり、高品質の溶接部が得られにくい。また溶接熱が拡散し、銅伝熱フィンが軟化,変形するため、収納容器本体及び外筒材と銅伝熱フィンとのフィテングがいかないなど、作業性に問題がある。
【0011】
本発明の目的は、上記した従来技術の欠点を補い、接合強度が高く、溶接時の変形を極力抑えた銅伝熱フィンの溶接法の提供と、放熱性に優れ、高精度,高品質,高信頼の放射性物質収納容器及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、放射性物質を収納する収納容器本体と前記収納容器本体を同軸状に取り囲む外筒と前記収納容器本体及び外筒間に伝熱フィンが接続され、前記収納容器本体,外筒及び伝熱フィンにより区画された各空間に充填された中性子吸収材からなる放射性物質収納容器において、収納容器本体及び外筒間にMIG溶接される銅製伝熱フィンの一部が波型構造を有し、銅製伝熱フィンの先端部には、収納容器本体の外周面及び外筒の内周面とに添って平行部が形成され、その平行部長さは銅製伝熱フィンの板厚以上とし、好ましくはその平行部の長さは、銅製伝熱フィンの板厚より長くし、さらに好ましくは2倍とする。銅製伝熱フィン側から銅合金ワイヤを用いてMIG溶接またはMIGブレイジングによって収納容器本体及び外筒材と銅伝熱フィンが溶接されたことを特徴とするものである。
【0013】
また本発明では、銅製伝熱フィン側から銅合金ワイヤを用いて銅製伝熱フィン平行先端部と銅合金ワイヤ間にアークを発生させ、MIG溶接またはMIGブレイジングするに際し、MIG溶接またはMIGブレイジングの進行方向前方に銅製伝熱フィン平行先端部の温度を計測するセンサを設け、銅製伝熱フィン平行先端部の温度によりMIG溶接またはMIGブレイジングの溶接速度を制御することによって収納容器本体及び外筒材と銅伝熱フィンが溶接されたことを特徴とするものである。
【0014】
さらに本発明では、前記収納容器本体及び外筒間に銅製伝熱フィンを、MIG溶接またはMIGブレイジングによって溶接された銅合金溶接部は、炭素鋼の熱伝導率0.142
cal/cm・s・K より高い銅合金溶接部とすると、放熱特性が優れた放射性物質収納容器が製造できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、銅と炭素鋼,合金鋼との溶接性に優れ、炭素鋼,合金鋼への溶接熱による損傷を軽減し、溶接時の変形を極力抑えたMIG溶接またはMIGブレイジング法により、放熱特性が良好な高精度,高品質,高信頼の放射性物質収納容器の製造が容易にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の放射性物質収納容器及びその製造方法について説明する。特に、収納容器本体及び外筒と熱伝導性の高い銅製伝熱フィンの溶接法について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明による放射性物質収納容器の構造を示す水平断面図である。収納容器1がある筒状の収納容器本体2は低合金鋼製であって、収納容器本体2の外周側には、円筒状の外筒3が設けられ、多数の均等間隔に配置された銅製伝熱フィン4により接続されるとともに、収納容器本体2と外筒3間の空隙には、中性子吸収材として中性子吸収能力の高いホウ素を多量に含むレジン5を設けている。収納容器本体2及び外筒3と熱伝導性の高い銅製伝熱フィン4がMIG溶接またはMIGブレイジングで溶接されているため、機械的結合,接触と異なり、熱伝導性が良好で収納容器本体中央部の温度を低下させた放射性物質収納容器が得られる。
【0018】
本発明の収納容器本体2及び外筒3と熱伝導性の高い銅製伝熱フィン4の溶接法を説明する。
【0019】
図2は、本発明の銅製伝熱フィンの断面図である。図2に示すように、本発明の銅製伝熱フィンは、銅製伝熱フィン4には、フィン平行先端部6,7が設けられている。収納容器本体2及び外筒3と接するフィン平行先端部6,7は、MIG溶接またはMIGブレイジング時に熱平衡を安定させ、溶け込み不良,過溶融などの溶接不良を防止し、銅製伝熱フィンの長手方向の溶接部品質を安定にさせる効果がある。特に、銅製伝熱フィン4のフィン平行先端部6,7の長さを銅製伝熱フィンの板厚以上とするとさらに熱平衡を安定する。
【0020】
図3は、収納容器本体への銅製伝熱フィン溶接部の断面図である。図3に示すように、銅製伝熱フィン4はフィン平行先端部6,7が設けられており、フィン平行先端部6と収納容器本体2とがMIG溶接またはMIGブレイジングによって銅合金溶接部8が形成され、収納容器本体2と熱伝導性の高い銅製伝熱フィン4がMIG溶接されている。
【0021】
図4は、銅製伝熱フィンのMIG溶接法示す概略図である。図4に示すように、その収納容器本体2と熱伝導性の高い銅製伝熱フィン4の溶接法は、収納容器本体2に銅製伝熱フィン4のフィン平行先端部6を密着させ、銅製伝熱フィン4のフィン平行先端部6側から、銅製伝熱フィン4のフィン平行先端部6と銅合金ワイヤ10との間にアーク11を発生させ、収納容器本体2の長手方向に進行させ、MIG溶接またはMIGブレイジングを行い、銅合金溶接部8が形成され、収納容器本体2と熱伝導性の高い銅製伝熱フィン4をMIG溶接する方法である。
【0022】
本発明では、銅製伝熱フィン4のフィン平行先端部6と銅合金ワイヤ10との間にアーク11を発生させ、銅製伝熱フィン4のフィン平行先端部6と収納容器本体2を溶融させることにより、銅製伝熱フィン4と銅合金ワイヤ10及び収納容器本体2とが溶融し、均質な溶接部が形成されるとともに収納容器本体2への溶接熱での損傷を低減でき、収納容器材である合金鋼の銅合金溶接部8への混入も抑えられ、接合強度が高く、熱伝導性が良好な溶接部が得られる。
【0023】
特に本発明では、銅製伝熱フィン4とフィン平行先端部6への銅合金ワイヤ10の狙い位置が重要であり、銅合金ワイヤの狙い位置には適正領域がある。銅合金ワイヤの狙い位置が収納容器本体2である炭素鋼側になると、炭素鋼の溶融量が多くなり熱伝導度が低下するとともにフィン平行先端部6と銅合金ワイヤ10との接合が不安定になり、溶接性が損なわれ、熱伝導面積が少なく、接合強度も低下する。
【0024】
銅合金ワイヤの狙い位置が銅製伝熱フィン4とフィン平行先端部6側になると、炭素鋼の溶融量が少なくなり熱伝導度が銅合金ワイヤ10と同等となるとともにフィン平行先端部6と銅合金ワイヤ10との接合が安定し、熱伝導面積が多くなり、接合強度も母材(銅)並となり良好である。しかし、あまりにも銅合金ワイヤの狙い位置が銅製伝熱フィン4とフィン平行先端部6側(フィン板厚:T×0.6 )以上になると、銅製伝熱フィン4とフィン平行先端部6を溶融するための溶接入熱量が多くする必要が生じたり、銅製伝熱フィン4とフィン平行先端部6と収納容器本体2である炭素鋼との接合面積が低下し、熱伝導面積が少なく、接合強度も低下する。
【0025】
MIG溶接の入熱量にも関係するが、上記したことを考慮すると、MIG溶接の入熱量にも関係するが、銅製伝熱フィン4とフィン平行先端部6への銅合金ワイヤ10の狙い位置は、銅製伝熱フィン4のフィン平行先端部6側であり、好ましくは銅製伝熱フィン4のフィン平行先端からフィン平行先端部側へフィン板厚:T×0.6 以内とすることが望ましい。
【0026】
また、図4に示すように、MIG溶接トーチ9の進行方向前方に温度センサ12を設け、銅製伝熱フィン4の温度を温度センサ12によって計測し、銅製伝熱フィン4の温度が所定温度より高くなると、溶接速度を速くするなどしてMIG溶接の溶接速度を制御し、
MIG溶接の入熱量を制御することにより、さらに銅製伝熱フィンの長手方向の溶接部品質を安定にできる。
【0027】
図5は、本発明の波型構造を有する銅製伝熱フィン溶接部の断面図を示す。本発明の放射性物質収納容器の製造方法によれば、銅製伝熱フィン4の一部が波型構造13を設けることは、収納容器本体2及び外筒3と銅製伝熱フィン4をMIG溶接またはMIGブレイジングすると、溶接熱収縮や溶接熱によって銅製伝熱フィン4の熱影響部が軟化し、銅製伝熱フィン4が変形するため、銅製伝熱フィン4の波型構造13部分において変形を吸収し、放射性物質収納容器の製造が容易になるとともに高精度の放射性物質収納容器が得られる。
【0028】
また本発明の放射性物質収納容器の製造方法によれば、収納容器本体2と熱伝導性の高い銅製伝熱フィン4のMIG溶接を行った後、同様に外筒3に銅製伝熱フィン4のフィン平行先端部7を密着させ、銅製伝熱フィン4のフィン平行先端部7側から、銅製伝熱フィン4のフィン平行先端部7と銅合金ワイヤ10との間にアーク11を発生させ、外筒3の長手方向に進行させ、MIG溶接またはMIGブレイジングを行い、銅合金溶接部8が形成し、外筒3と熱伝導性の高い銅製伝熱フィン4をMIG溶接することにより、放射性物質収納容器が製造できる。
【0029】
本発明の収納容器本体2及び外筒3間に銅製伝熱フィン4を、MIG溶接またはMIGブレイジングによって溶接された銅合金溶接部8は、炭素鋼の熱伝導率0.142cal/cm・s・Kより高い銅合金溶接部8とすることにより、熱伝導性が良好な溶接部が得られるとともに放熱特性が優れた放射性物質収納容器が製造できる。好ましくは銅合金溶接部8の熱伝導率0.9cal/cm・s・Kより高い溶接部とすると良い。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、放射性物質収納容器に利用可能であり、原子力発電所から発生する使用済み燃料を有効に輸送し、または貯蔵することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明による放射性物質収納容器の構造を示す水平断面図である。
【図2】本発明の銅製伝熱フィンの断面図である。
【図3】本発明による収納容器本体への銅製伝熱フィン接続部の断面図である。
【図4】本発明による銅製伝熱フィンの接続法を示す概略図である。
【図5】本発明の波型構造を有する銅製伝熱フィン溶接部の断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 収納容器
2 収納容器本体
3 外筒
4 銅製伝熱フィン
5 レジン
6,7 フィン平行先端部
8 銅合金溶接部
9 MIG溶接トーチ
10 銅溶接ワイヤ
11 アーク
12 温度センサ
13 波型構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質を収納する収納容器本体と、前記収納容器本体を同軸状に取り囲む外筒と、前記収納容器本体と前記外筒との間に伝熱フィンが接続され、前記収納容器本体、前記外筒及び前記伝熱フィンにより区画された各空間に充填された中性子吸収材からなる放射性物質収納容器において、
前記収納容器本体と前記外筒との間に、MIG溶接される銅製の伝熱フィンの先端部には、前記収納容器本体の外周面及び前記外筒の内周面に添って平行部が形成され、前記平行部の長さは、前記銅製の伝熱フィンの板厚以上であることを特徴とする放射性物質収納容器。
【請求項2】
請求項1に記載の放射性物質収納容器の製造方法であって、
前記銅製の伝熱フィン側から銅合金ワイヤを用いて、前記銅製の伝熱フィンの平行先端部と銅合金ワイヤとの間にアークを発生させ、MIG溶接またはMIGブレイジングによって、前記収納容器本体及び前記外筒と銅製の伝熱フィンが溶接されたことを特徴とする放射性物質収納容器の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の放射性物質収納容器の製造方法であって、
前記銅製の伝熱フィン側から銅合金ワイヤを用いて、前記銅製の伝熱フィンの平行先端部と銅合金ワイヤとの間にアークを発生させ、MIG溶接またはMIGブレイジングするに際し、MIG溶接またはMIGブレイジングの進行方向の前方に、銅製の伝熱フィンの平行先端部の温度を計測するセンサを設け、銅製の伝熱フィンの平行先端部の温度により、MIG溶接またはMIGブレイジングの溶接速度を制御することを特徴とする放射性物質収納容器の製造方法。
【請求項4】
請求項1において、前記収納容器本体と前記外筒との間に、MIG溶接またはMIGブレイジングされる銅製の伝熱フィンの一部に波型構造を有することを特徴とする放射性物質収納容器。
【請求項5】
請求項1において、前記収納容器本体と前記外筒との間に、銅製の伝熱フィンを、MIG溶接またはMIGブレイジングによって溶接された銅合金溶接部は、炭素鋼の熱伝導率
0.142cal/cm・s・Kより高い銅合金溶接部とすることを特徴とする放射性物質収納容器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−82906(P2008−82906A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−263720(P2006−263720)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】